説明

靴底、履物、及びパッド

【課題】外反母趾、関節リウマチ等の変形疾患を有する人であっても、足Fの中足趾節関節Faの背屈角度を小さくして、歩行に伴う疼痛を低減しつつ、スムーズな歩行を確保すること。
【解決手段】
踏み返し部分13が靴底横方向に亘って下向きに凸状に形成され、踏み返し部分13よりも爪先側の部分15が靴底母趾方向に沿って徐々に薄くなるように形成され、踏み返し部分13に滑り止め処理が施されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば婦人用パンプス靴、紳士靴等の履物、履物に用いられる靴底、及び既製の履物における靴底に後付け可能なパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば婦人用パンプス靴、紳士靴等の履物には、靴底が用いられており(特許文献1から特許文献3参照)、この靴底は、全体に亘って略同じ厚さになっている。また、一般に、スムーズな歩行を確保するためには、靴底の踏み返し部分の屈曲性を高めることが必要である。
【特許文献1】特開2002−282012号公報
【特許文献2】特開2005−111072号公報
【特許文献3】特開2003−210207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、外反母趾、関節リウマチ等の変形疾患を有する人にとっては、靴底の踏み返し部分の屈曲性を高めると、中足趾節関節の背屈角度が大きくなって、歩行に伴う疼痛が増大するという問題がある。
【0004】
そこで、本発明は、前述の問題を解決するため、踏み返し部分の剛性を高めつつ、転がり性及び歩行運動エネルギー効率を高めることができる新規な構成の靴底、新規な構成の靴底を具備した履物、及び新規な構成の靴底と主要部を共通にする新規な構成のパッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の特徴(請求項1に記載の発明の特徴)は、踏み返し部分が靴底横方向に亘って下向きに凸状に形成され、前記踏み返し部分よりも爪先側の部分が靴底母趾方向に沿って徐々に薄くなるように形成されたことである。
【0006】
第1の特徴によると、前記靴底の前記踏み返し部分が靴底横方向に亘って下向きに凸状に形成されているため、前記靴底の前記踏み返し部分の剛性を高めつつ、トゥスプリングを設定して、前記靴底の転がり性を高めることができる。
【0007】
また、前記靴底における前記踏み返し部分よりも爪先側の部分が靴底母趾方向に沿って徐々に薄くなるように形成されているため、歩行サイクル中の立脚期における足の荷重中心点軌跡は、踵部から足外側部上を足裏縦方向に延び、続いて足外側部から母趾部の先端に向かって延びるようになる。これにより、歩行サイクル中の立脚期における荷重中心点軌跡の軌跡長を短くして、歩行運動エネルギー効率を高めることができる。
【0008】
本発明の第2の特徴(請求項2に記載の発明の特徴)は、第1の特徴に加えて、前記踏み返し部分に滑り止め処理が施されていることである。
【0009】
第2の特徴によると、前記靴底の前記踏み返し部分に滑り止め処理が施されているため、前記踏み返し部分と地面との滑りを抑えることができる。
【0010】
本発明の第3の特徴(請求項3に記載の発明の特徴)は、履物において、第1の手段又は第2の手段からなる靴底を具備したことである。
【0011】
本発明の第4の特徴(請求項4に記載の発明の特徴)は、既製の履物における靴底に後付け可能なパッドにおいて、前記踏み返し部分がパッド横方向に亘って下向きに凸状に形成され、前記踏み返し部分よりも爪先側の部分がパッド母趾方向に沿って徐々に薄くなるように形成されたことである。
【0012】
第4の特徴によると、前記パッドの前記踏み返し部分がパッド横方向に亘って下向きに凸状に形成されているため、前記パッドの前記踏み返し部分の剛性を高めつつ、トゥスプリングを設定して、前記パッドの転がり性、換言すれば、前記靴底の転がり性を高めることができる。
【0013】
また、前記パッドにおける前記踏み返し部分よりも爪先側の部分がパッド母趾方向に沿って徐々に薄くなるように形成されているため、歩行サイクル中の立脚期における足の荷重中心点軌跡は、踵部から足外側部上を足裏縦方向に延び、続いて足外側部から母趾部の先端に向かって延びるようになる。これにより、歩行サイクル中の立脚期における荷重中心点軌跡を短して、歩行運動エネルギー効率を高めることができる。
【0014】
本発明の第5の特徴(請求項5に記載の発明の特徴)は、第4の特徴に加えて、前記踏み返し部分に滑り止め処理が施されていることである。
【0015】
第5の特徴によると、前記パッドの前記踏み返し部分に滑り止め処理が施されているため、前記パッドの前記踏み返し部分と地面との滑りを抑えることができる。
【発明の効果】
【0016】
請求項1から請求項3のうちのいずれかの請求項に記載の発明によれば、前記靴底の前記踏み返し部分の剛性を高めつつ、前記靴底の転がり性及び歩行運動エネルギー効率を高めることができるため、外反母趾、関節リウマチ等の変形疾患を有する人であっても、足の中足趾節関節の背屈角度を小さくして、歩行に伴う疼痛を低減しつつ、スムーズな歩行を確保することができる。
【0017】
請求項2又は請求項3に記載の発明によれば、前記靴底の前記踏み返し部分と地面との滑りを抑えることができるため、歩行推進力の伝達効率を高めて、よりスムーズな歩行を十分に確保することができる。
【0018】
請求項4又は請求項5に記載の発明によれば、前記パッドの前記踏み返し部分の剛性を高めつつ、前記靴底の転がり性及び歩行運動エネルギー効率を高めることができるため、外反母趾、関節リウマチ等の変形疾患を有する人であっても、足の中足趾節関節の背屈角度を小さくして、歩行に伴う疼痛を低減しつつ、スムーズな歩行を確保することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、前記パッドの前記踏み返し部分と地面との滑りを抑えることができるため、歩行推進力の伝達効率を高めて、よりスムーズな歩行を十分に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について図1から図4を参照して説明する。
【0021】
ここで、図1(a)は、図1(b)を左から見た図、図1(b)は、第1実施形態に係る靴底の平面図、図1(a)は、図1(b)を右から見た図、図2は、第1実施形態に係る婦人用パンプス靴を下から見た斜視図、図3は、歩行サイクル中の立脚期における足の接地状態を示す図、図4は、歩行サイクル中の立脚期における足の荷重中心点軌跡を示す図である。
【0022】
まず、第1実施形態に係る婦人用パンプス靴及び靴底について説明する前に、人の歩行サイクル、及び歩行サイクル中の立脚期における足の荷重中心点軌跡について説明する。
【0023】
人の歩行サイクルは、立脚期と遊脚期とに大別され、立脚期と遊脚期とを交互に繰り返すことによって歩行が行われる。また、図3に示すように、立脚期は、踵接地と、足底接地と、踵離地と、足指離地と、爪先離地とに小別される。そして、歩行サイクル中の立脚期において、踵離地から足指離地にかけて、足Fの中足趾節関節Faの背屈角度が大きくなる。
【0024】
図4に示すように、歩行速度が遅いと、歩行サイクル中の立脚期における足Fの荷重中心点軌跡は、踵部Fbから足外側部Fc上を足裏縦方向(図4において上下方向)に延び、続いて足外側部Fcから中足趾節関節Fa上を足裏横方向(図4において左右方向)に沿って延びてあって、最後に中足趾節関節Faから母趾部Fdの先端に向かって延びている。また、歩行速度がかなり速くなると、歩行サイクル中の立脚期における足Fの荷重中心点軌跡は、踵部Fbから母趾部Fdの先端に向かって延びている。即ち、歩行速度が速くなって、歩行運動エネルギー効率が高くなると、歩行サイクル中の立脚期における足Fの荷重中心点軌跡の軌跡長が短くなる。
【0025】
図2に示すように、第1実施形態に係る婦人用パンプス1は、履物の一例であって、甲皮3を具備しており、この甲皮3は、牛革等からなるものである。また、甲皮3の周縁部には、中底5が接合されている。更に、中底5の裏面(下面)の後部(図2において右部)には、ヒール7が設けられており、このヒール7の先端には、ヒールトップ9が設けられている。
【0026】
中底の裏面からヒール7の前部(図2において左部)にかけて、靴底11が設けられており、この靴底11例えばゴム,EAV,プラスチック等の材料からなるものである。そして、婦人用パンプス1に用いられる靴底11の具体的な構成は、次のようになる。
【0027】
即ち、図1(a)(b)(c)に示すように、靴底11の踏み返し部分13は、足Fの中足趾節関節Faを受圧可能であって、靴底横方向(図1(a)(c)において紙面に向かって表裏方向、図1(b)において左右方向)に亘って下向き(図1(a)において左向き、図1(b)において紙面に向かって表向き、図1(c)において右向き)に亘って凸弧状に形成されている。なお、靴底11の踏み返し部分13が靴底横方向に亘って凸弧状に形成される代わりに、凸弧状以外の凸状に形成されるようにしても構わない。
【0028】
また、靴底11の踏み返し部分13よりも爪先側の部分15は、靴底母趾方向に沿って徐々に薄くなるように形成されている。なお、爪先側の部分15には、足Fの母趾部Fdを受圧可能な母趾受圧部17も含まれており、靴底母趾方向とは、踏み返し部分13の外端から母趾受圧部17の先端に向かう方向のことをいう。
【0029】
更に、踏み返し部分13及び母趾受圧部17には、エンボス加工によって滑り止め処理が施されている。なお、エンボス加工によって滑り止め処理を施す代わりに、踏み返し部分13及び母趾受圧部17に滑り止め素材を用いて滑り止め処理を施しても構わない。
【0030】
次に、第1実施形態の作用及び効果について説明する。
【0031】
靴底11の踏み返し部分13が靴底横方向に亘って下向きに凸状に形成されているため、靴底11の踏み返し部分13の剛性を高めつつ、トゥスプリングを設定して、靴底11の転がり性を高めることができる。
【0032】
また、靴底11における踏み返し部分13よりも爪先側の部分15が靴底母趾方向に沿って徐々に薄くなるように形成されているため、図4に示すように、歩行サイクル中の立脚期における足Fの荷重中心点軌跡は、踵部Fbから足外側部Fc上を足裏縦方向に延び、続いて足外側部Fcから母趾部Fdの先端に向かって延びるようになる。これにより、歩行サイクル中の立脚期における荷重中心点軌跡の軌跡長を短くして、歩行運動エネルギー効率を高めることができる。
【0033】
更に、靴底11の踏み返し部分13及び母趾受圧部17に滑り止め処理が施されているため、靴底11の踏み返し部分13及び母趾受圧部17と地面との滑りを抑えることができる。
【0034】
従って、第1実施形態によれば、靴底11の踏み返し部分13の剛性を高めつつ、靴底11の転がり性及び歩行運動エネルギー効率を高めることができるため、外反母趾、関節リウマチ等の変形疾患を有する人であっても、足Fの中足趾節関節Faの背屈角度を小さくして、歩行に伴う疼痛を低減しつつ、スムーズな歩行を確保することができる。特に、靴底11の踏み返し部分13及び母趾受圧部17と地面との滑りを抑えることができるため、歩行推進力の伝達効率を高めて、よりスムーズな歩行を十分に確保することができる。
【0035】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について図4、図5、及び図6を参照して説明する。
【0036】
ここで、図5(a)は、図5(b)を左から見た図、図5(b)は、第2実施形態に係るパッドの平面図、図5(a)は、図5(b)を右から見た図、図6は、第2実施形態に係るパッドが既製の婦人用パンプス靴における靴底の踏み返し部分に後付けされた状態を示す斜視図である。
【0037】
図6に示すように、第2実施形態に係るパッド19は、既製の婦人用パンプス21における靴底23に後付け可能であって、このパッド19は、例えばゴム,EAV等の材料からなるものである。そして、パッド19の具体的な構成は、次のようになる。
【0038】
即ち、図5(a)(b)(c)に示すように、パッド19の踏み返し部分25は、足Fの中足趾節関節Faを受圧可能であって、パッド横方向(図5(a)(c)において紙面に向かって表裏方向、図5(b)において左右方向)に亘って下向き(図5(a)において左向き、図5(b)において紙面に向かって表向き、図5(c)において右向き)に亘って凸弧状に形成されている。なお、パッド19の踏み返し部分25がパッド横方向に亘って凸弧状に形成される代わりに、凸弧状以外の凸状に形成されるようにしても構わない。
【0039】
また、パッド19の踏み返し部分25よりも爪先側の部分27は、パッド母趾方向に沿って徐々に薄くなるように形成されている。なお、パッド19の爪先側の部分27には、足Fの母趾部Fdを受圧可能な母趾受圧部29も含まれており、パッド母趾方向とは、踏み返し部分25の外端から母趾受圧部29の先端に向かう方向のことをいう。
【0040】
更に、パッド19の踏み返し部分25及び母趾受圧部29には、エンボス加工によって滑り止め処理が施されている。なお、エンボス加工によって滑り止め処理を施す代わりに、パッド19の踏み返し部分25及び母趾受圧部29に滑り止め素材を用いて滑り止め処理を施しても構わない。
【0041】
次に、第2実施形態の作用及び効果について説明する。
【0042】
パッド19の踏み返し部分25がパッド横方向に亘って下向きに凸状に形成されているため、パッド19の踏み返し部分の剛性を高めつつ、トゥスプリングを設定して、パッド19の転がり性、換言すれば、靴底23の転がり性を高めることができる。
【0043】
また、パッド19における踏み返し部分25よりも爪先側の部分27がパッド母趾方向に沿って徐々に薄くなるように形成されているため、歩行サイクル中の立脚期における荷重中心点軌跡は、図3に示すように、踵部Fbから足外側部Fc上を足裏縦方向に延び、続いて足外側部Fcから母趾部Fdの先端に向かって延びるようになる。これにより、歩行サイクル中の立脚期における荷重中心点軌跡の軌跡長を短くして、歩行運動エネルギー効率を高めることができる。
【0044】
更に、パッド19の踏み返し部分25及び母趾受圧部29に滑り止め処理が施されているため、パッド19の踏み返し部分25及び母趾受圧部29と地面との滑りを抑えることができる。
【0045】
従って、第2実施形態によれば、パッド19の踏み返し部分25の剛性を高めつつ、靴底23の転がり性及び歩行運動エネルギー効率を高めることができるため、外反母趾、関節リウマチ等の変形疾患を有する人であっても、足Fの中足趾節関節Faの背屈角度を小さくして、歩行に伴う疼痛を低減しつつ、スムーズな歩行を確保することができる。特に、パッド19の踏み返し部分25及び母趾受圧部29と地面との滑りを抑えることができるため、歩行推進力の伝達効率を高めて、よりスムーズな歩行を十分に確保することができる。
【0046】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限られるものではなく、その他、種々の態様で実施可能である。また、本発明に包含される権利範囲は、これらの実施形態に限定されないものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1(a)は、図1(b)を左から見た図、図1(b)は、第1実施形態に係る靴底の平面図、図1(a)は、図1(b)を右から見た図である。
【図2】第1実施形態に係る婦人用パンプス靴を下から見た斜視図である。
【図3】歩行サイクル中の立脚期における足の接地状態を示す図である。
【図4】歩行サイクル中の立脚期における足の荷重中心点軌跡を示す図である。
【図5】図5(a)は、図5(b)を左から見た図、図5(b)は、第2実施形態に係るパッドの平面図、図5(a)は、図5(b)を右から見た図である。
【図6】第2実施形態に係るパッドが既製の婦人用パンプス靴における靴底の踏み返し部分に後付けされた状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0048】
1 婦人用パンプス
11 靴底
13 踏み返し部分
15 爪先側の部分
17 母趾受圧部
19 パッド
21 婦人用パンプス
23 靴底
25 踏み返し部分
27 爪先側の部分
29 母趾受圧部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
履物に用いられる靴底において、
踏み返し部分が靴底横方向に亘って下向きに凸状に形成され、前記踏み返し部分よりも爪先側の部分が靴底母趾方向に沿って徐々に薄くなるように形成されたことを特徴とする靴底。
【請求項2】
前記踏み返し部分に滑り止め処理が施されていることを特徴とする請求項1に記載の靴底。
【請求項3】
履物において、
請求項1又は請求項2に記載の靴底を具備したことを特徴とする履物。
【請求項4】
既製の履物における靴底に後付け可能なパッドにおいて、
前記踏み返し部分がパッド横方向に亘って下向きに凸状に形成され、前記踏み返し部分よりも爪先側の部分がパッド母趾方向に沿って徐々に薄くなるように形成されたことを特徴とするパッド。
【請求項5】
前記踏み返し部分に滑り止め処理が施されていることを特徴とする請求項4に記載のパッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−244(P2008−244A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−170989(P2006−170989)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(591025901)株式会社村井 (18)
【Fターム(参考)】