説明

【課題】
能動的作用を奏することで、走行時や歩行時のエネルギーロスを減少させる靴を提供することを課題とする。
【解決手段】
靴1の靴底3が主部材4と補強部材5とを有するようにし、主部材4の接地側表面の中足指節関節部分8を渡るようにして補強部材5を取り付ける。補強部材5を主部材4の材料よりも大きな弾性エネルギーを蓄積することができる材料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランニングやウォーキング等の運動に適した靴に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ランニングやウォーキング等の運動に適した靴として、特許文献1では、靴底の前方部分及び後方部分に切り欠き溝が形成されたものが提案されている。この切り欠き溝は、歩行方向とほぼ直交に形成されており、歩行の際、靴底が屈曲しやすい構造になっている。かかる構成によれば、踵着地時においては、後方部分の切り欠き溝が屈曲することで衝撃力を分散し緩和することができる。また、蹴り出し作業時においては、前方部分の切り欠き溝が屈曲することで舟状骨の上下移動が減るため、筋活動に伴うエネルギーの伝達ロスを減少させることができる。このように、特許文献1に記載の靴は、靴底を屈曲しやすくし、足がなめらかに動くようにすることで、エネルギーロスを減少させるものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態にかかる靴の斜め下方から見た分解斜視図である。
【図2】本実施形態にかかる靴の接地側表面側から見た図である。
【図3】図2のA―A線断面図である。
【図4】図2のB―B線断面図である。
【図5】補強部材を有する靴と有しない靴を履いた場合の走行力積を比較した図である。
【図6】補強部材を有する靴と有しない靴を履いた場合の中足指節関節の最大屈曲角を比較した図である。
【図7】他の実施形態を示した図である。
【図8】足部の骨格を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本願発明にかかる靴を実施するための最良の形態について、図1〜6を参照しつつ以下に説明する。
【0016】
まず、本実施形態にかかる靴1の構成について説明する。図1は本実施形態にかかる靴1の斜め下方から見た斜視図である。図1に示すように、靴1はアッパー2と靴底3とを備えており、靴底3は主部材4と補強部材5とブロック6とから主に構成されている。主部材4の接地側表面には補強部材5の形状に合わせた溝が形成されており(図示せず)、この溝に補強部材5がはめ込まれている。また、主部材4と補強部材5の接地側表面には、前方、中央、及び後方の3つの部分に各ブロック6の形状に合わせた溝が形成されており(図示せず)、この溝に3つのブロック6がはめ込まれている。また、各構成部材4〜6は、接着剤によって接着されている。ブロック6は、補強部材5の上から接着されるため、補強部材5を主部材4に固定する役割も果たしている。
【0017】
主部材4の材料は、運動靴の靴底等に広く使用される発泡樹脂である。発泡樹脂は、力を吸収するクッションの役割を果たすことができる材料である。そのため発泡樹脂は、反発弾性が低く、変形しても反発力をほとんど発生しない。一方、補強部材5の材料は、未発泡樹脂であって、発泡樹脂よりも硬く、反発弾性が高い。そのため、変形量が同じであれば、補強部材5の方が主部材4よりも弾性エネルギーを蓄積することができる。また、ブロック6は、滑りを防止する役割を有しており、また、ブロック6の材料は硬質のゴムである。
【0018】
図2は、靴1の接地側表面側から見た平面図である。図2に示すように、補強部材5は主部材4の接地側表面において、足根中足関節部分7より後の部分から中足指節関節部分8より前の部分まで伸延している。このように、補強部材5は、中足指節関節部分8を渡って取り付けられているため、ランニング等の運動の際には、補強部材5の中足指節関節部分8が屈曲する。補強部材5は屈曲状態からもとの状態に戻ろうと反発するため、反発する瞬間に走者が床を蹴り上げれば、走者は床面を強く蹴り上げることができる。つまり、屈曲することで補強部材5に蓄積された弾性エネルギーを推進力に変換することができる。上述したように、補強部材5は、主部材4よりも大きな弾性エネルギーを蓄積することができるため、反発力も大きくなる。
【0019】
また、本実施形態にかかる靴1は、補強部材5が中足指節関節部分8の周辺のみならず、靴底3に広く取り付けられているため、広い範囲から力を受けることができ、その力を中足指節関節部分8に作用させることができる。よって、踏み込む力が弱い場合であっても、比較的大きな力が中足指節関節部分8に作用する。さらに、補強部材5は、足根中足関節部分7から左右に分岐して前方に向かって伸延しており、靴底3の左右方向にも大きく広がっている。よって、左右の両側から反発力が発生することで、反発力が作用する方向を安定させることができる。
【0020】
図3は、図2のA−A線断面図である。図3に示すように、補強部材5の中足指節関節部分8は凹凸部分を有しており、たるんだような形状の弛緩部9を形成している。弛緩部9においても、補強部材5は足根中足関節部分7から中足指節関節部分8に向かう方向に伸延している。ただし、水平方向に直線的に伸延しているのではなく、上下に方向を変えながら伸延している。このように弛緩部9が図3のようにたるんだような形状をしていることから、弛緩部9の中央付近は、力が集中しやすく、曲がりやすくなっている。また、ブロック6は、左右の弛緩部9をつなぐ部分を避けて貼り付けられている。これにより、ブロック6は弛緩部9の屈曲を妨げないようにしており、また、弛緩部9の前後でしっかりと補強部材5を固定している。靴底3の中足指節関節部分8は、以上のような構成を有していることから、補強部材5の中足指節関節部分8に集中的に弾性エネルギーを蓄積することができ、この弾性エネルギーを中足指節関節部分8で大きな反発力に変換することができる。
【0021】
図4は、図2のB−B線断面図である。補強部材5には、足根中足関節部分7において足根中足関節部分7から中足指節関節部分8に向かう方向に伸延する複数のリブ10が形成されている。図4に示すように、リブ10は断面が山形の形状を有しており、リブ10の伸延方向と直交する曲げに対しては強くなる。これにより、中足指節関節部分8から遠い位置から受ける力も分散せずに中足指節関節部分8へ力を伝えることができ、補強部材5の中足指節関節部分8を曲げることができる。また、リブ10の部分では靴底3の強度が高く、靴1の歪みも防止することができる。以上、本実施形態にかかる靴1の構成について説明した。
【0022】
次に、本実施形態にかかる靴1の効果を示した試験結果について説明する。試験は、3人の被験者が補強部材5を有する靴1と補強部材5を有しない靴をそれぞれ履いてフォースプレート上を走り、そのときの床を蹴る力を計測し、得られた計測結果から走行力積を算出した。ここで、走行力積とは、床を前後方向に蹴る力を時間で積分したもの(前後方向に蹴る力と時間の積)である。同一走行速度で比べた場合、走行力積が少ない方が、走りが効率的であるといえる。
【0023】
図5は、補強部材5を有する靴1を履いた場合と補強部材5を有しない靴を履いた場合の同一走行速度における走行力積を示した図である。縦軸は、走行力積を表わしている。なお、それぞれの値は、3人の平均値である。図5に示すように補強部材5を有する本実施形態にかかる靴1を履いた場合は、5.53N・sであるのに対し、補強部材5を有していない靴を履いた場合は6.60N・sである。つまり、同じ走行速度で走るためには、補強部材5を有していない靴の場合は、補強部材5を有する本実施形態にかかる靴1の場合よりも16.2%多くの走行力積が必要であることになる。よって、補強部材5を有する本実施形態にかかる靴1を履く場合は、補強部材5を有しない靴を履く場合に比べて効率よく走ることができるといえる。
【0024】
また、靴にポインタを取り付けて靴の各部分の軌跡を観測し、中足指節関節部分8の最大屈曲角を測定した。図6は、補強部材5を有する靴1と補強部材5を有しない靴の走行時における中足指節関節部分8の最大屈曲角を示した図である。縦軸は角度を示している。図6に示すように、補強部材5を有する靴1は最大屈曲角が15.34度であるのに対し、補強部材5を有しない靴は20.10度であり、本実施形態にかかる靴1は、補強部材5を有しない靴よりも最大角が小さくなっている。これは、補強部材5が主部材4に比べ硬く、曲がりにくくなっているためである。ただし、補強部材5が主部材4よりも反発弾性が高く、わずかな変化量でも大きな弾性エネルギーを蓄積することができることから、図5に示したように、補強部材5を有する靴1を履くことで効率のよい走行が可能となっている。
【0025】
以上、本実施形態にかかる靴1の効果を示す試験結果について説明した。この結果から、本実施形態にかかる補強部材5を靴底3に施すことによって効率良く走れることが立証され、それは反発弾性が高いからであることがわかった。よって本実施形態にかかる靴1によれば、補強部材5が能動的な作用を奏し、効率的な走行や歩行を実現することができる。
【0026】
以上、本願発明にかかる靴1を実施するための最良の形態について、図1〜6を参照しつつ説明した。以上では、補強部材5の形状が足根中足関節部分7から左右に分岐して前方に向かって伸延する場合について説明したが、これに代えて、図7に示すように、補強部材5Aの形状を前方に向かって分岐せず、前方に向かって全体が膨らむテニスラケット型としてもよい。かかる構成によれば、中足指節関節部分8の全体に補強部材5が広がるため、反発力がはたらく方向をより安定させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によれば、能動的作用を奏することで、走行時や歩行時のエネルギーロスを減少させる靴を提供することができる。よって、靴の技術分野において有益である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴底を備えた靴であって、
該靴底は主部材と補強部材とを有し、
該補強部材が該主部材の接地側表面に設けられており、
該補強部材は該主部材の接地側表面において、少なくとも足根中足関節部分から中足指節関節部分まで伸延し、
該補強部材の材料の反発弾性は該主部材の材料の反発弾性よりも高い靴。
【請求項2】
該補強部材は、足根中足関節部分より後の部分から中足指節関節部分より前の部分まで伸延する、請求項1記載の靴。
【請求項3】
該補強部材は、足根中足関節部分から左右に広がりつつ前方に向かって伸延する、請求項1又は2記載の靴。
【請求項4】
該補強部材には、中足指節関節部分又はその近傍において、弛緩部が形成されている、請求項1乃至3のうちいずれか一の項に記載の靴。
【請求項5】
該補強部材には、足根中足関節部分において足根中足関節部分から中足指節関節部分に向かう方向に伸延する一又は複数のリブが形成されている、請求項1乃至4のうちいずれか一の項に記載の靴。
【請求項6】
該主部材の材料が発泡樹脂であって、該補強部材の材料が未発泡樹脂である、請求項1乃至5のうちいずれか一の項に記載の靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−131698(P2009−131698A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69764(P2009−69764)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【分割の表示】特願2006−227982(P2006−227982)の分割
【原出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(594066545)アシックス商事株式会社 (7)
【Fターム(参考)】