説明

【課題】ヒールによって踵が高く持ち上げられる靴に関し、足下が小さく見えるように創作されたデザインを極力崩すことなく足の痛みを軽減し、長時間安定して歩行することができる。
【解決手段】本底40は、相対的に硬い先端部分40tが、この靴1を履いた人の中足骨910と中足骨910よりも前側になる趾骨90の基節骨901との関節前端9401からつま先90tまで拡がる蹴上領域Sの真下になる部位に位置し、関節前端9401から中足骨骨頭部9101にかけて拡がる荷重領域Sの真下になる部位に相対的にやわらかい衝撃吸収部材47を有するものであり、衝撃吸収部材47は、本底40の上面40aに開口した凹部45に嵌め込まれたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒールによって踵が高く持ち上げられる靴に関する。
【背景技術】
【0002】
人が歩行するときに足裏にかかる体重は、主として足裏の3箇所にかかる。
【0003】
図1は、人が歩行するときに足裏のどの部分に体重がかかるかを説明するための図である。
【0004】
図1(a)には、足裏が接地している状態の人の足を内足側(第1趾91側)から見た側面図が示されており、その下の図1(b)には、足裏の骨格を表す平面図が示されている。
【0005】
本来、歩行している人の足裏全体が接地すると、体重は主として、踵骨920付近と、第1趾中足骨911の骨頭部9111付近と、第5趾中足骨915の骨頭部9151付近との3箇所にかかる。図1(b)には、それら3箇所それぞれを丸で囲んで示している。ここで、第2趾から第4趾92〜94それぞれの中足骨骨頭部9121,9131,9141付近に体重がかからないのは、正常な人の足の中足骨はアーチ状になっているからである。
【0006】
図2は、正常な人の足をつま先側から見たときの模式図である。
【0007】
図2に示す足9の中足骨910の部分は、趾91〜95の並ぶ方向(図2における左右方向)Wにアーチ状(弧状)になっており、第2趾92から第4趾94にかけての中足骨の部分では、地面Gとの間に隙間Sができている。
【0008】
図1に示す足裏の3箇所に体重がかかった後、前進を続けようとすると、体重は一旦、踵骨920付近の1箇所にだけかかり、その後、第1趾91と第2趾92によって地面を蹴り上げることで前進する。
【0009】
ところが、ヒールによって踵が高く持ち上げられる婦人靴では、足裏全体が接地しても、ヒールが高ければ高いほど、体重が踵骨920付近にはかかりにくくなり、体重の大部分が、第1趾中足骨骨頭部9111付近と、第5趾中足骨骨頭部9151付近との2箇所にかかるようになってくる。体重の大部分が、これら2箇所にかかるようになってくると、歩行を繰り返すうちに足の骨格が変形してくる。
【0010】
図3は、ヒールによって踵が高く持ち上げられた婦人靴を履き続けた結果、足の骨格が変形した様子を模式的に示した図である。
【0011】
体重の大部分が、第1趾中足骨骨頭部9111付近と、第5趾中足骨骨頭部9151付近との2箇所にかかるようになった状態で歩行を続けると、図2に示す中足骨910のアーチ形状がつぶれ、図3(a)に示すように中足骨910’は扁平形状になってくる。すなわち、図2に示す隙間Sがなくなり、第1趾中足骨骨頭部9111付近や第5趾中足骨骨頭部9151付近よりも、むしろ第2趾92から第4趾94にかけての中足骨骨頭部9121,9131,9141(図1参照)付近に体重の大半がかかるようになってくる。こうなると、これらの中足骨骨頭部9121,9131,9141それぞれをつなぐ靱帯が拡がった状態になり、この状態で歩行すると、歩くたびに加わる衝撃によって、これらの靱帯がさらに伸ばされたり、あるいはこれらの靱帯に負荷がかかって痛みを伴うようになり、長時間歩行することが困難になる。また、本来体重がかかることがなかった第2趾92から第4趾94にかけての中足骨骨頭部9121,9131,9141を守るために、図3(b)に示すように、これらの中足骨骨頭部9121,9131,9141を下側から覆う足裏の皮膚に胼胝や角質層99が形成され、この胼胝や角質層99が割れたりすると、これらもまた歩くたびに痛みを伴うようになり長時間歩行することが困難になる。
【0012】
ところで、運動靴では、主としてスポーツ競技を行うにあたり、そのスポーツ競技に適した荷重がかかりやすいように、あるいは反発力を高めること等の目的で、下面側が地面に接する本底よりも上方に、かなり厚みをもった発泡体を設けたものが知られている(例えば、特許文献1等参照)。
【特許文献1】特開2007−159597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載された運動靴では、スポーツ競技に適した荷重はかかりやすいかもしれないが、前進する際に地面を蹴り上げる第1趾91と第2趾92の下まで発泡体が入り込んでおり、人が前進しようとして蹴り上げる力がその発泡体によって減衰されてしまい、歩行する際に不安定になる。しかも、ヒールによって踵が高く持ち上げられる婦人靴等の靴では、運動靴に比べただでさえ不安定であるため、このように発泡体によってさらに不安定になることは非常に問題である。
【0014】
さらに、ヒールによって踵が高く持ち上げられる靴の多くは、そもそも本底よりも上方に十分なスペースがなく、また、このような靴では、足下をいかにしてエレガントに見せるかが重要になり、足下が小さく見えるようにデザインされることが多い。そのため、ヒールによって踵が高く持ち上げられる靴に、特許文献1に記載された運動靴のようにして発泡体を設けることは不可能である。
【0015】
本発明は上記事情に鑑み、ヒールによって踵が高く持ち上げられる靴に関し、足下が小さく見えるように創作されたデザインを極力崩すことなく足の痛みを軽減し、長時間安定して歩行することができることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を解決する本発明の靴は、下面側が地面に接し、中足骨骨頭部の高さ位置から踵骨を30mm以上持ち上げるヒールを有する本底を備えた靴において、
上記本底は、相対的に硬い先端部分が、この靴を履いた人の中足骨とその中足骨よりも前側になる趾骨の基節骨との関節前端からつま先まで拡がる蹴上領域の真下になる部位に位置し、その関節前端から中足骨骨頭部にかけて拡がる荷重領域の真下になる部位に相対的にやわらかい衝撃吸収部材を有するものであり、
上記衝撃吸収部材は、上記本底の上面に開口した凹部に嵌め込まれたものであることを特徴とする。
【0017】
本発明の靴によれば、上記衝撃吸収部材が上記本底に設けられた凹部に嵌め込まれたものであるため、靴の底部を薄くすることができ、足下が小さく見えるように創作されたデザインを極力崩すことなく上記衝撃吸収部材を設けることができる。この衝撃吸収部材は、中足骨骨頭部付近にかかる衝撃を分散かつ吸収し、その結果、本発明の靴では足の痛みが軽減され、長時間歩行することができる。また、この衝撃吸収部材は、前進する際に地面を蹴り上げる第1趾と第2趾の真下には存在せず、第1趾と第2趾による蹴り上げ力は、上記本底の先端部分によって地面にしっかりと伝わる。そのため、本発明の靴では安定して歩行することができる。
【0018】
また、本発明の靴において、上記本底は、この靴を履いた人の踵骨の下に、この本底よりも反発力が高い高反発部材を有するものであり、
上記高反発部材は、上記本底の上面に開口した第2の凹部に嵌め込まれたものであることが好ましい。
【0019】
上記高反発部材は、第1趾と第2趾によって地面を蹴り上げて前進する前に踵骨付近の1箇所にだけかかる体重によって、一旦押しつぶされるように変形するが、こうして変形した高反発部材には元の形に戻ろうとする復元力が強く働き、この復元力が第1趾と第2趾による地面の蹴り出しをアシストし、足がさらに疲れにくくなる。
【0020】
さらに、本発明の靴において、この靴を履いた人の足を覆うアッパー素材と、
この靴を履いた人の足裏が接する中敷と
上記中敷と上記本底の間に設けられ、上記アッパー素材が裏面に貼り付けられたシート状の中底とを備え、
上記中底は、上記衝撃吸収部材の真上に位置する切抜孔と、その切抜孔を塞ぐ、この中底よりもやわらかいシート部材とを有するものである態様も好ましい。
【0021】
上記中底は、上記アッパー素材が裏面に貼り付けられて固定されることから、それなりに硬いものであり、上記本底に衝撃吸収部材をせっかく設けても、足を接地した際の衝撃がこの中底によって跳ね返され、結局は歩くたびに痛みを伴うようになってしまう。しかしながら上記態様によれば、足を接地した際の衝撃が、上記本底に設けた衝撃吸収部材に、上記中底に設けたシート部材によって伝わり、足の痛みが軽減される。しかも、上記シート部材は、上記衝撃吸収部材と協働して、足を接地した際の衝撃を分散かつ吸収する働きも担う。そのため、このシート部材の厚み分、上記本底に設ける衝撃吸収部材の厚みを薄くすれば、その本底も薄くすることができ、足下が小さく見えるように創作されたデザインに与える影響がより小さくなる。なお、上記シート部材も、第1趾と第2趾の真下には存在しないため、第1趾と第2趾による蹴り上げ力が地面にしっかりと伝わる。
【0022】
またさらに、本発明の靴において、上記荷重領域の下に、趾の並び方向中央に向けて両端から漸次上方へ盛り上がった横アーチサポート部材を有することも好ましい。
【0023】
図3(a)に示すような扁平形状になった中足骨が、この横アーチサポート部材によって、図2に示すようなアーチ形状に戻され、中足骨骨頭部をつなぐ靱帯の拡がりが解消されて足の痛みがさらに軽減される。また、アーチ形状に戻されたことにより足の両側(趾の並び方向両側)が靴に擦れて痛くなることも抑えられる。
【0024】
ここで、上記本底が、上記ヒールの前側に地面と15mm以上の高さ空間を有するものであることが、足下をより小さくエレガントに見せるデザインにつながり、このようなデザインには本発明が特に有効である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、踵が高く持ち上げられる靴に関し、足下が小さく見えるように創作されたデザインを極力崩すことなく足の痛みを軽減し、長時間安定して歩行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0027】
図4は、本発明の一実施形態である婦人靴を示す外足側(第5趾側)の側面図である。
【0028】
図4に示す婦人靴1は、アッパー素材10、中敷20、中底30、および本底40を備えている。中敷20は、足裏全体の形にあわせてカットされたシート状のものであり、足裏の、つま先から踵にかけての全体が接する。図4では、この中敷20が見えるように、また本底40の内部構造がわかるように透視図的に示している。
【0029】
アッパー素材10は、足を覆う革製のものであるが、図4に示す婦人靴1では、甲の部分が広くあき、エレガントなデザインを演出している。このアッパー素材10には、足首にかけるベルト部材11が設けられている。また、図4に示す婦人靴1では、いわゆるセメント方式が採用されており、アッパー素材10は、中底30の裏面に貼り付けられて固定されている。
【0030】
図5は、図4に示す中底の裏面を示す底面図である。
【0031】
図5に示すように、中底30も、中敷20と同じように足裏全体の形にあわせてカットされたものである。アッパー素材10は、この中底30の裏面30aにおける外縁全周にわたって貼り付けられている。中底30は、図4に示す本底40に貼り付けられ、また、中底30の上には、後述するスポンジシートを介して中敷20が貼り付けられ、中敷20、中底30、および本底40は一体化される。
【0032】
図6は、中敷、中底、および本底が一体化される前の分解斜視図である。
【0033】
図6に示すように、中底30はシート状のものである。より具体的にいえば、ここに示す中底30は、厚さが0.8mm以上5mm以下のボール紙製のものであるが、これに限定されるものではない。この中底30の硬度は、JIS K6301−1975に規定されたスプリング式硬さ計(JIS−A形)を用いて測定すると45以上の値である。なお、以下、硬度については上記スプリング式硬さ計を用いて測定したときの値をいう。
【0034】
また、本底40は、足裏全体の形にあわせて成形されたウレタン製のものであり、その硬度は45以上の値である。この本底40は、下面400側が地面に接する。ここに示す本底40では、ヒール41が、その下側400側の、踵骨の下になる部分に一体的に設けられているが、このヒールを交換自在に別体として設けてもよい。図4に示すように、このヒール41は、この靴を履いた人の中足骨骨頭部の高さ位置から踵骨を30mm以上持ち上げるものである。また、本底40は、このヒール41の前側(つま先側)に地面と15mm以上の高さ空間を有するものである。図4に示す婦人靴1では、このようなヒール41が設けられていることによって踵が高く持ち上げられ、中足骨骨頭部の下になる部分401は接地するが、その後ろの土踏まずの下になる部分402には地面との間に大きな空間が設けられ、足下が小さく見えるデザインになっている。また、ヒール41は接地部に、滑り止め用のゴム4111が底部に嵌め込まれたウレタンリフト411を有する。なお、中足骨骨頭部の下になる部分401にも滑り止め用のゴム42が嵌め込まれている。さらに、ヒール41の内部には、強度を高めるためABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂製の芯材412が設けられており、この芯材412から前方に向かって金属製のシャンク43が延びている。
【0035】
図6に示すように、本底40の、中底30が貼り合わされる上面40aには、中底30の厚み分立ち上がったリブ44が全周にわたって設けられている。そのリブ44で囲まれた領域の形状は、中底30の形状に合致しており、中底30は、そのリブ44で囲まれた領域に嵌め込まれ、本底40の上面40aに接着される。
【0036】
図7は、足裏の骨格を表す平面図である。
【0037】
この図7には、人の足裏における蹴上領域Sや荷重領域Sが示されている。蹴上領域Sは、中足骨910と、その中足骨910よりも前側になる趾骨90の基節骨901との関節940の前端9401からつま先90tまで拡がる領域であり、図7では左下がりの斜線で示した領域である。一方、荷重領域Sは、その関節前端9401から中足骨骨頭部9101にかけて拡がる領域であり、図7では右下がりの斜線で示した領域である。
【0038】
図6に示す本底40には、その上面40aに開口した2つの凹部が設けられている。すなわち、図7に示す荷重領域Sの真下になる位置に、上方に向かって開口した凹部45が設けられ、踵骨920の真下になる位置にも同じく上方に向かって開口した第2の凹部46が設けられている。荷重領域S真下の凹部45には、本発明にいう衝撃吸収部材の一例に相当する衝撃吸収スポンジ47が嵌め込まれる。この衝撃吸収スポンジ47は、本底40よりもやわらかいものであり、その硬度は10以上30以下の値である。衝撃吸収スポンジ47としては、例えば、ウレタンやゴム等の合成樹脂の発泡体からなるものを用いることができる。なお、本発明にいう衝撃吸収部材は必ずしもスポンジ状である必要はない。図7には、衝撃吸収スポンジ47が、この婦人靴1を履いた人の足裏のどの位置にくるかを1点鎖線で示している。衝撃吸収スポンジ47は、荷重領域Sの真下から後方に向かって拡がるように存在し、蹴上領域Sの真下には存在しない。蹴上領域Sの真下には、衝撃吸収スポンジ47よりも硬い本底40の先端部分40tが存在する。
【0039】
また、踵骨920真下の第2の凹部46には、本発明にいう高反発部材の一例に相当する高反発スポンジ48が嵌め込まれる。この高反発スポンジ48は、本底40よりも反発力が高く、硬度が10以上30以下のものである。高反発スポンジ48の材料としては、高反発弾性を有する合成樹脂の発泡体を用いることができる。なお、本発明にいう高反発部材は必ずしもスポンジ状である必要はない。
【0040】
ここで、衝撃吸収スポンジ47と高反発スポンジ48を比べると、これらのスポンジ47,48の上に小さな鉛玉を落としてみればわかるように、衝撃吸収スポンジ47では鉛玉はほとんど跳ね返らない。一方、高反発スポンジ48では鉛玉はしっかりと跳ね返る。両スポンジ47,48とも鉛玉が落ちた所は一旦陥没しその後、元の形状に復元する。一般的には、高反発スポンジ48の方が衝撃吸収スポンジ47よりも復元スピードが速いが、衝撃吸収スポンジ47を、衝撃吸収特性を優先しつつも、復元スピードが比較的速いものにしてもよく、あるいは、復元スピードが相対的に速いものと復元スピードが相対的に遅いものを貼り合わせて積層構造にし、下側に復元スピードが相対的に速いものがくるように凹部45に嵌め込んでもよい。さらには、衝撃吸収スポンジ47の下に、高反発スポンジ48と同じスポンジを配置してもよい。
【0041】
また、蹴上領域S真下の凹部45にしても、踵骨920真下の第2の凹部46にしても、これらの凹部45,46を画定する壁のうち前側の壁451,461と後側の壁452,462はいずれも、下方へ行くほど開口面積が小さくなるように傾斜している。すなわち、前側の壁451,461は後側に向かって傾斜しており、後側の壁452,462は前側に向かって傾斜している。また、これらの凹部45,46に嵌め込まれる衝撃吸収スポンジ47も高反発スポンジ48も、前側の端面471,481は、前側の壁451、461の傾斜に合致するように後側に傾斜しており、後側の端面472,482は、後側の壁452,462に合致するように前側に傾斜している。このため、衝撃吸収スポンジ47も高反発スポンジ48も、前端部では前側に向かうほど厚みが薄くなり、後端部では後側に向かうほど厚みが薄くなる。これは、この婦人靴1を履いた人が、これらの凹部45,46に嵌め込まれた衝撃吸収スポンジ47や高反発スポンジ48の硬さと本底40の硬さとの違いを感じにくくするためである。すなわち、これらの凹部45,46の前側の縁と後側の縁を境にして硬さが急に変わることを防止し、この本底40における前側の壁451,461の部分では、前側に向かうほど徐々に硬くなり、後側の壁452,462の部分では、後側に向かうほど徐々に硬くなるようにするためである。
【0042】
また、図5や図6に示すように、中底30には、切抜孔31と第2の切抜孔32との2つの切抜孔が設けられている。図6に示す切抜孔31は、衝撃吸収スポンジ47の真上に位置し、本発明にいう衝撃吸収部材の一例に相当する衝撃吸収シート33によって塞がれる。この衝撃吸収シート33は、中底30よりもやわらかいものであり、その硬度は10以上30以下の値である。衝撃吸収シート33としては、例えば、ウレタンやゴム等の合成樹脂からなるものを用いることができる。また、衝撃吸収シート33の厚みは、中底30の厚みと等しい厚みである。切抜孔31は、蹴上領域S真下の凹部45の開口縁451に沿って切抜かれた孔である。したがって、中底30が本底上面40aに接着されると、中底30の切抜孔31の縁31aは、本底40の凹部45の開口縁45aに一致し、この衝撃吸収シート33も、衝撃吸収スポンジ47と同じく図7に示す蹴上領域Sの真下には存在せず、その蹴上領域Sの真下には中底30の先端部分30tが存在する。また、本実施形態のように、硬度が45以上の値である中底30を有する靴であっても、この衝撃吸収シート33によって、足を接地した際の衝撃が本底40に設けた衝撃吸収スポンジ47に確実に伝わる。なお、切抜孔31は、衝撃吸収スポンジ47の真上に位置するものであればよく、中底30の先端部分30tに入り込まず、かつ足を接地した際の衝撃が衝撃吸収スポンジ47に伝われば、その切抜孔の大きさは、凹部45よりも大きくても小さくてもよい。一方、第2の切抜孔32は、高反発スポンジ48の真上に位置し、高反発シート34によって塞がれる。この高反発シート34も、中底30よりもやわらかいものであり、その硬度は10以上30以下の値である。高反発シート34としては、例えば、高反発弾性を有する合成樹脂からなるものを用いることができる。また、高反発シート34の厚みは衝撃吸収シート33と同じく、中底30の厚みと等しい厚みである。
【0043】
さらに、図6に示すように、中敷20と中底30の間には、図4では図示省略したスポンジシート35が介在する。このスポンジシート35には、図7に示す中足骨910の下になる部位に横アーチサポート部材351が設けられ、踵骨920の下になる部位にラテックスパット352が設けられている。中足骨910の下に設けられた横アーチサポート部材351は、中足骨910と趾骨90の基節骨901との関節前端9401から中足骨骨頭部9101にかけて拡がる荷重領域Sの下に設けられた衝撃吸収シート33や衝撃吸収スポンジ47に比べ、いく分後側に位置する。横アーチサポート部材351もラテックスパット352も弾力性に富むものであり、いずれも、趾の並び方向W(図2参照)中央に向けて両端から漸次上方へ盛り上がった形状のものである。横アーチサポート部材351は、中央の最も厚い部分では両端の厚みよりも2割〜3割程度厚い。さらに、横アーチサポート部材351は、前後方向中央に向けて前側(つま先側)からも後側(踵側)からも漸次上方へ盛り上がった形状でもある。
【0044】
図8は、図4に示す本底を真上から見た平面図であり、図9は、図10のA−A’断面図を含む断面図である。
【0045】
図8にも、本底40の上面40aに設けられた、荷重領域S真下の凹部45と踵骨920真下の第2の凹部46が示されている。また、図9には、衝撃吸収スポンジ47が荷重領域S真下の凹部45の上方に示されている。さらに、その衝撃吸収スポンジ47の上方には、中底30とスポンジシート35も示されている。なお、この図9は断面図であるが、ハッチングは省略している。
【0046】
図9に特にわかりやすく示されるように、荷重領域S真下の凹部45を画定する壁のうち、内足側(第1趾側)の壁453は、断面逆“く”の字状になっており、その凹部45には、開口縁45aよりも内足側に張り出した張出空間Rが設けられている。一方、外足側の壁454は、垂直な壁である。また、衝撃吸収スポンジ47の内足側の端面473も外足側の端面474も垂直な面である。この婦人靴1を履いた人の体重は、内足側と外足側とを比べると内足側の方にかかりやすく、内足側では特に、衝撃吸収スポンジ47の硬さと本底40の硬さとの違いを感じやすい。図9に示すように、凹部45の、内足側の縁の部分45iは、衝撃吸収スポンジ47が収容される収容空間45rに近づくほど厚みが薄くなる。このため、内足側の縁の部分45iでは、衝撃吸収スポンジ47に近づくほど硬さがやわらかくなり、さらには、その内足側の縁の部分45iが張出空間R側へ撓むことも可能である。したがって、凹部45の内足側の縁を境にして硬さが急に変わることが防止され、この婦人靴1を履いた人は、衝撃吸収スポンジ47の硬さと本底40の硬さとの違いを内足側でも感じにくい。なお、断面逆“く”の字状になっている内足側の壁453を、図9に2点鎖線で示すように、下方へ行くほど開口面積が小さくなるように外足側に向かって傾斜させ、衝撃吸収スポンジ47の内足側の端面473を、同じく2点鎖線で示すように、その傾斜に合致するように傾斜させてもよい。さらに、加工の容易性を重要視するのなら、断面逆“く”の字状になっている内足側の壁453を、外足側の壁454と同じように垂直な壁にしてもよい。
【0047】
また、荷重領域S真下の凹部45の深さD(図9参照)は5mm以上9mm以下であり、衝撃吸収スポンジ47も、その凹部45の深さD分の厚みを有するものである。
【0048】
図4に示す婦人靴1は、アッパー素材10が裏面30a貼り付けられ、切欠孔31が衝撃吸収シート33で塞がれるとともに第2の切抜孔32も高反発シート34で塞がれた中底30と、衝撃吸収スポンジ47が凹部45に嵌め込まれるとともに高反発スポンジ48が第2の凹部46に嵌め込まれた本底40が貼り合わされ、さらに、その中底30の上に、スポンジシート35を介して中敷20が貼り付けられることで完成する。こうして完成した婦人靴1では、ヒール41によって踵が高く持ち上げられるため、この婦人靴1を履いた人の体重の大部分が、第1趾中足骨骨頭部付近と、第5趾中足骨骨頭部付近との2箇所にかかるようになる。しかしながら、この婦人靴1によれば、足を接地した際の衝撃が、中底30に設けた衝撃吸収シート33を介して衝撃吸収スポンジ47に確実に伝わる。衝撃吸収スポンジ47は、中足骨骨頭部910付近にかかる衝撃を、衝撃吸収シート33と協働して分散かつ吸収し、足の痛みが軽減され長時間歩行することができる。その上、衝撃吸収スポンジ47は、本底40に設けられた凹部45に嵌め込まれたものであるため、靴の底部を薄くすることができ、足下が小さく見えるように創作されたデザインに与える影響は小さい。また、衝撃吸収スポンジ47にしても衝撃吸収シート33にしても、前進する際に地面を蹴り上げる第1趾と第2趾の真下には存在せず、第1趾と第2趾による蹴り上げ力は、中底30の先端部分30tおよび本底40の先端部分40tによって地面にしっかりと伝わる。そのため、この婦人靴1では安定して歩行することができる。
【0049】
加えて、第1趾と第2趾によって地面を蹴り上げて前進する前に踵骨920付近の1箇所にだけかかる体重によって、踵骨920真下の高反発シート34および高反発スポンジ48は一旦押しつぶされるように変形するが、こうして変形した高反発シート34および高反発スポンジ48には元の形に戻ろうとする復元力が強く働き、この復元力が第1趾と第2趾による地面の蹴り出しをアシストし、図4に示す婦人靴1では足が疲れにくくなる。しかも、踵骨920付近の1箇所にかかる衝撃は、スポンジシート35に設けられたラテックスパッド352によって吸収される。
【0050】
また、図3(a)に示すような扁平形状になった中足骨が、スポンジシート35に設けられた横アーチサポート部材351によって、図2に示すようなアーチ形状に戻され、中足骨骨頭部をつなぐ靱帯の拡がりが解消されて足の痛みがさらに軽減される。また、扁平形状になった中足骨では足の幅(趾の並び方向Wの長さ)が拡がり、図1(b)に示す第1趾中足骨骨頭部9111の外側と第5趾中足骨骨頭部9151の外側となる足の両側部分96,97(図7参照)がアッパー素材10と擦れて痛くなるが、アーチ形状に戻されることにより足の幅が狭くなり、足の両側部分96,97がアッパー素材10と擦れて痛くなることも抑えられる。
【0051】
以上説明したように、本実施形態によれば、踵が高く持ち上げられる婦人靴1において、足下が小さく見えるように創作されたデザインを極力崩すことなく足の痛みを軽減し、長時間安定して歩行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】人が歩行するときに足裏のどの部分に体重がかかるかを説明するための図である。
【図2】正常な人の足を趾側から見たときの模式図である。
【図3】ヒールによって踵が高く持ち上げられた婦人靴を履き続けた結果、足の骨格が変形した様子を模式的に示した図である。
【図4】本発明の一実施形態である婦人靴を示す外足側(第5趾側)の側面図である。
【図5】図4に示す中底の裏面を示す底面図である。
【図6】中敷、中底、および本底が一体化される前の分解斜視図である。
【図7】足裏の骨格を表す平面図である。
【図8】図4に示す本底を真上から見た平面図である。
【図9】図8のA−A’断面図を含む断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 婦人靴
10 アッパー素材
20 中敷
30 中底
31 切抜孔
33 衝撃吸収シート
32 第2の切抜孔
34 高反発シート
35 スポンジシート
351 横アーチサポート部材
352 ラテックスパッド
40 本底
40t 先端部分
41 ヒール
45 凹部
46 第2の凹部
47 衝撃吸収スポンジ
48 高反発スポンジ
910 中足骨
90 趾骨
901 基節骨
9101 中足骨骨頭部
9401 関節前端
90t つま先
蹴上領域
荷重領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下面側が地面に接し、中足骨骨頭部の高さ位置から踵骨を30mm以上持ち上げるヒールを有する本底を備えた靴において、
前記本底は、相対的に硬い先端部分が、この靴を履いた人の中足骨と該中足骨よりも前側になる趾骨の基節骨との関節前端からつま先まで拡がる蹴上領域の真下になる部位に位置し、該関節前端から中足骨骨頭部にかけて拡がる荷重領域の真下になる部位に相対的にやわらかい衝撃吸収部材を有するものであり、
前記衝撃吸収部材は、前記本底の上面に開口した凹部に嵌め込まれたものであることを特徴とする靴。
【請求項2】
前記本底は、この靴を履いた人の踵骨の下に、この本底よりも反発力が高い高反発部材を有するものであり、
前記高反発部材は、前記本底の上面に開口した第2の凹部に嵌め込まれたものであることを特徴とする請求項1記載の靴。
【請求項3】
この靴を履いた人の足を覆うアッパー素材と、
この靴を履いた人の足裏が接する中敷と
前記中敷と前記本底の間に設けられ、前記アッパー素材が裏面に貼り付けられたシート状の中底とを備え、
前記中底は、前記衝撃吸収部材の真上に位置する切抜孔と、該切抜孔を塞ぐ、この中底よりもやわらかいシート部材とを有するものであることを特徴とする請求項1記載の靴。
【請求項4】
前記荷重領域の下に、趾の並び方向中央に向けて両端から漸次上方へ盛り上がった横アーチサポート部材を有することを特徴とする請求項1記載の靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−50636(P2009−50636A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222670(P2007−222670)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(507082932)
【Fターム(参考)】