説明

【課題】アッパーが疲労して形状を保ちにくくなったとしても、靴の履き脱ぎに支障が生じにくい靴の提供を課題とするものであり、特に救急隊員の使用に適した靴の提供すること。
【解決手段】踵周囲を覆う後部壁5と、後部壁5から連続して足の外側を覆う外側壁6および内側を覆う内側壁7と、外側壁6および内側壁7と連続して足先部分を覆う甲被8を有した靴であって、甲被8の中間に屈曲部を設けるとともに、屈曲部を中心として回動可能な舌片部を設け、外側壁6の前方上部および内側壁7の前方上部に、互いの間隔を拡大縮小可能に対向させた端縁を形成し、回動可能な舌片部に芯材として剛性の高い剛性板を内するとともに、芯材を内蔵した舌片部によって対向させた外側壁6および内側壁7の端縁を覆うように構成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴に関するものである。特に、靴の履き脱ぎを頻繁に行う必要がある靴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
靴には靴紐を有するものと靴紐を用いないものがある。靴紐のある靴は足に対するフィット性を調節でき運動や各種の作業を行う上で適しているが、迅速に履いたり脱いだりすることができないものである。これに対して、スリッポンタイプといわれる特許文献1〜3記載の靴が知られている。
上記スリッポンタイプの靴は、いずれも迅速に履いたり脱いだりするのには適しているが、着用者によるアッパー部分の踏み付けなどが頻繁に行われると素材の疲労が進行してアッパー部分が潰れ甲被の舌状部が履き口を塞いだり靴を履く際に足と一緒に巻き込むなどの支障を生じるようになる。
上記のように靴を履いたり脱いだりする頻度が多い職業に従事する者に救急隊員がある。救急隊員は、救急患者を搬送するために家屋内に出入りする場合が多く、その都度靴を脱いだり履いたりしなければならない。そして、ストレッチャーで患者を搬送しながら靴を履くという場合もあり靴を踏み付けながら足で履き口を探り、靴を履くということがよく行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−122202号公報
【特許文献2】特開平6−133803号公報
【特許文献3】特開2003−310301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように頻繁に靴の踏み付けが行われると、アッパーが疲労して形状を保ちにくくなり、潰れた形状が復元しにくくなる。その結果、履き口の形状が崩れて靴が履きにくくなってしまう。
本発明は当該事情に鑑み発明されたものであって、アッパーが疲労して形状を保ちにくくなったとしても、靴の履き脱ぎに支障が生じにくい靴の提供を課題とするものである。
【0005】
上記課題を解決するために本願請求項1記載の発明は以下の構成を有する。すなわち、
踵周囲を覆う後部壁と、
当該後部壁から連続して足の外側を覆う外側壁および内側を覆う内側壁と、
当該外側壁および内側壁と連続して足先部分を覆う甲被を有した靴であって、
前記甲被の中間に屈曲部を設けるとともに、当該屈曲部を中心として回動可能な舌片部を設け、
前記外側壁の前方上部および内側壁の前方上部に、互いの間隔を拡大縮小可能に対向させた端縁を形成し、
前記回動可能な舌片部に芯材として剛性の高い剛性板を内蔵するとともに、当該芯材を内蔵した舌片部によって前記対向させた外側壁および内側壁の端縁を覆うように構成したことを特徴とする靴。
【0006】
また、本願請求項2記載の発明は、請求項1記載の靴であって靴先に硬質の先芯を内蔵したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、履き口の前方部に外側壁および内側壁の先端部を互いに対向する自由端として設け、当該対向する自由端を甲被後端の舌片部によって覆うように構成した靴に関するものである。舌片部は、靴の左右方向の幅と同程度かやや小さい程度の幅を有する略矩形の板状部であって、甲被の一部に形成した屈曲部を中心に回動しやすいように設けたものである。
当該舌片部は、降伏しにくい剛性板を内蔵することで外力によって変形した後も形状を復元できるようになっている。このため、踏みつけの繰り返えしによる疲労によって履き口が塞がれやすい状態になっても、舌片部は剛性を保っているので履き口を完全に塞ぐことがないという効果を有している。特に、足入れに伴う舌片部の巻き込みによって、舌片部が靴内に入り込んで履き直しが必要になることはきわめて少ない。
また、舌片部は履き口の前方部を覆う略矩形の板状部であるから、靴内への汚物そのたの汚染物質の進入を防ぎやすいという効果を有している。
さらに、舌片部には前述したように剛性板が内蔵されているので、剛性板の強度に応じて落下物からの防護、足に対する衝突物から足を防護する効果も有している。併せて、靴先に先心を内蔵しているので、舌片部の防護効果ともあわせて足甲部の防護力を高めている。また、先心は甲被を潰さないという保型効果も有しているので、舌片部の作用と併せてアッパーの潰れや履き口の塞ぎ防止に効果を有するものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】(a)は本発明にかかる靴を上方から見た平面図であり、(b)は側方から見た側面図である。
【図2】本発明にかかる靴のアッパーの構成図である。
【図3】(a)舌片部を屈曲させた状態を上方から見た平面図であり、(b)は同状態を側方から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態を図を用いて説明する。
本実施の形態に係る靴1は、図1に示すように靴紐の無い靴であって、履き口2から足を差し込むことによって足が固定され、そのまま着用することができる靴である。このような靴をスリッポンタイプの靴という。なお、本実施の形態では左足用の靴を例に構造の説明をしているが、当然ながら右足用の靴にも適用されるものであり、その場合説明に用いた左右、内外の各部位の名称は適宜読み替えて用いるものである。
靴1は、靴底3と当該靴底3上に設けたアッパー4を有している。本実施の形態におけるアッパー4は、くるぶしから下の部分の踵および足先を覆うように形成されており、踵周囲を覆う後部壁5と、当該後部壁5から連続して足首付近の左右を覆う外側壁6および内側壁7と、当該外側壁6および内側壁7の下半部に連続して足先部分を覆う甲被8を有している。
【0010】
後部壁5は、所謂月型と言われる板状の芯材を内包した踵の外周囲を覆う部位である。 後部壁5の外皮は、天然皮革または合成皮革により形成されており、前記月型およびクッション材等を内包し、柔軟な織り布または不織布をインナーとして内側に配置した積層構造を有する部位である。月型は、外皮と接着することによって、後部壁5の形状を保持しつつ起立させ、着用時における踏みつけが行われても容易に後部壁5が屈曲しないようにする補強部材となっている。
【0011】
外側壁6および内側壁7は、外皮を天然皮革または合成皮革によるシートによって形成し、その内面に柔軟な織り布または不織布等をインナーとして貼り付けた構造を有している。
甲被8は、前記両側壁6、7と同様に外皮を天然皮革または合成皮革によるシートによって形成し、その内面に柔軟な織り布または不織布をインナーとして貼り付けたものによって構成している。また、本実施の形態に係る靴1は、靴の先端に強度の高い硬質の先芯11を内蔵している。
【0012】
前記後部壁5、両側壁6、7、甲被8の下端は、ともに足裏形状の中底シート(図示せず)の外周に縫い付けられ、もしくは下面に貼り付けられることによって袋状の足入れ部を構成している。このように形成された袋状の足入れ部の下面に射出成形若しくは貼り付けによって靴底3を設け靴1を形成している。
外側壁6および内側壁7は、その前方部の略下半部分で甲被8の外周壁後部のウイング30、31と縫合されている。
また、外側壁6および内側壁7先端部の略上半部は、ウイング30、31との結合部位の上方において互いに近接または離間が可能な自由端として形成されており、離間の距離を制限するために平ゴムによる伸縮部材9を設けている。当該伸縮部材9を設けた外側壁6および内側壁7の自由端は、足を入れる際の開口10の一部を形成するものであり、足入れ等にともなって自由端の間隔が可変するように構成されている。この自由端は間隔が足の大きさによって変化するので、着用後は足に靴をフィットさせて脱げにくくする作用を有し、靴を履く際に拡幅して靴を履きやすくする効果を有している。
【0013】
図2は、甲被8の構成部材を表している。
本実施の形態に用いる甲被8は、主な構成として上面用外皮20と外周用外皮21およびインナーシート22を有している。上面用外皮20と外周用外皮21は、ともに天然皮革または合成皮革により形成された肉厚が1〜2mm程度のシート体であり、表面は光沢を有するように加工されたものである。
インナーシート22は、織り布または不織布によって構成した表層シートに薄いスポンジ層と引っ張りに強い織り布を積層させた肉厚が1mm程度の柔軟なシートとして形成されている。表層シートは摩擦に強い性質を有しているので、靴の内面に表出させて着用者の足と接するように設けられている。
当該インナーシート22をベースとして、上面用外皮20、外周用外皮21および他の部材が積層され、接着剤および縫着によって結合される。すなわち、インナーシート22上に外周用外皮21および上面用外皮20を積層し、上面用外皮20の先端外周である凸状の前縁22と、外周用外皮21中央のU字状の内縁23をインナーシート22とともに縫着することによって甲被8を構成する主要部品が形成される。
【0014】
甲被8を構成する上面用外皮20の前部26は、外周用外皮21とともに先心を含む足先を覆う部位として形成され、上面用外皮20の後部は前後に傾動可能な舌片部24として形成されている。
上面用外皮20の中間位置からやや後方の部分には、前方に向かって湾曲した内縁形状の抜き孔25が横方向に亘って設けられている。これにより、上面用外皮20の前部26と舌片部24は、抜き孔25の長手方向の両側に残された細幅の接続部27で結合され、抜き孔25を中心として屈曲しやすい形状になっている。
抜き孔25は、足の甲部から脛部分に向かって上方に屈曲を開始する位置の近傍に設けられている。屈曲する部位には様々な歪みが生じるが、この歪みや部材の弾性が上面用外皮20の屈曲抵抗になる。このような屈曲抵抗を低減し、かつ甲被8の他の部位で生じた歪みを遮断して舌片部24に影響を与えないことを目的として抜き孔25を設けている。
また、当該抜き孔25に対応するインナーシート22の表面には、外形を抜き孔25よりもやや大きく形成した柔軟な屈曲シート28を、抜き孔25から表出するように配置している。屈曲シート28は、キルティングのように縫い目を形成した皮革素材とスポンジで形成した長手方向に亘る薄肉の積層材であり、抜き孔25を塞ぐことで不足したインナーシート22の強度を補う部材となっている。上面用外皮20は、抜き孔25の周囲において屈曲シート28およびインナーシート22に縫い付けられている。
上記抜き孔25と屈曲シート28によって、当該抜き孔25部分を中心とした舌片部24の屈曲を可能にするとともに、抜き孔25からの異物の侵入を防止し強度の向上も図っている。
【0015】
舌片部24は、平面視が四角形若しくは四角形に近似した形状の板状体として形成されている。舌片部24の内部には、舌片部24の外形よりも一回り外形が小さい矩形の剛性板29と、当該剛性板29の外周上半部を覆うコ字形状のクッション32が設けられ、舌片部24の裏面にはインナーシート22の四角形状の対応部がその外周部分において縫着されている。
剛性板29は、肉厚が略0.5〜1mm程度の軟質合成樹脂シートによって形成されたものであり、外力によって湾曲しても自立的に形状を復元する弾性を有した折り曲げにも強い降伏強度を有した素材が用いられている。
剛性板29は、上面用外皮20とインナーシート22の縫い付けの際に、その間に挟まれた状態で一緒に縫い付けられている。これにより、舌片部24とも一体化し、舌片部24にも同様の剛性を付与している。
【0016】
アッパー4は前述した後部壁5、外側壁6、内側壁7および甲被8によって構成されている。そして後部壁5、外側壁6、内側壁7の上縁が足の踝を表出させる程度の高さに形成され、その前方部に甲被8の舌片部24を配置することで足入れ用の履き口2となる開口10を形成したものである。
上記構成の靴1は、一例として救急患者の搬送業務を行う救急隊員に最適な靴であることを考慮して形成したものである。救急隊は、患者の自宅内に入って患者を搬出する場合が多い。このため、靴の脱ぎ・履きの回数が多く、患者を搬送するために両手がふさがったまま靴を履く場合も多い。また、ストレッチャーの死角となって見えなくなった靴を踏み付ける場合も多く、足先で靴の在処を探りながら履くような場合も多い。
このように、両手が使えず所在が見えない靴を足先で探りながら迅速に履けるようにするには、履き口となる開口10が広いことが必要であり、かつ踏み付けても開口10が潰れて塞がったりしないことが重要となっている。このような観点から、靴1は、靴紐の無いスリッポンタイプの靴として、アッパー4内に足を入れやすく脱げにくい靴として形成されている。
【0017】
従来のスリッポンタイプの靴は、舌片部が無いあるいは舌片部が実質的に外側壁6および内側壁7と一体化しており、外側壁6および内側壁7が踏み付けられて内側に倒れると、引きずられて舌片部も倒れてしまい、外側壁6および内側壁7が立ち上がるまで舌片部によって履き口が潰れて靴を履くことが出来ないことが多い。
本実施の形態に係る靴は、図3に表しているように、履き口となる開口10を形成する外側壁6、内側壁7の先端は伸縮部材9によって結合されている。伸縮部材9は、外側壁6、内側壁7の先端が押し広げられた場合には伸びて履き口が広がるのを許容し、着用後は履き口を縮めて外側壁6、内側壁7を足にフィットさせる作用を有している。
【0018】
舌片部24は、内部に剛性板29として軟質合成樹脂シートが内蔵した肉厚の積層構造を有しているので、上方から繰り返し踏み付けても舌片部24の形状はほぼ変化しない。
また、甲被8の前部26が踏み付けによって潰れたり、あるいは外側壁6、内側壁7が倒れても、抜き孔25の作用によって舌片部24には力が作用しにくいものとなっている。このため、甲被8の前部26の影響が遮断若しくは緩和され、靴1の履き口2を塞ぐような変形を起こさないようになっている。
【0019】
日本工業規格(JIS)規格の「JIS T 8101」は靴先に先芯を内蔵した安全靴について、その作業区分に基づきH種:重作業用、S種:普通作業用、L種:軽作業用の3種類を定義している。本発明に係る靴には当該JIS規格で定めたH種または当該H種に準じた強度を有する合成樹脂製の先芯を内蔵している。救急隊は患者を搬送するストレッチャーを操作する際に車輪を足にぶつける場合があるし、危険物のある場所で作業をしなくてはならない場合もある。このような事情により、靴1にはH種の先芯を内蔵している。
また、舌片部24の上縁(後端縁)付近は、上面用外皮20の前後に亘るなかで最も幅の広い部分であり、舌片部24は当該上縁を一辺とする略四角形を成している。このため、上方から見た場合に、靴の甲部を広範囲に覆うようになっているので、落下物やその他のものとの衝突から足を保護できるようになっている。
また、救急隊が着用する靴は様々な状況で用いられるものであり、いろいろな汚物を浴びる場合もあり得る。面積の広い舌片部24は、靴内への汚れの進入経路をガードする傘のような作用も有している。
【0020】
また、靴1は、甲被8を上方から踏み付けても内蔵した先芯11によって甲被8が潰れにくいので、甲被8の後部に設けた舌片部24が履き口となる開口10を塞ぐことを防止する効果がある。甲被8が潰れにくいということは甲被8と結合している外側壁6および内側壁7も倒れにくいということであるから、履き口の形状が維持されやすくなるので、先芯を内蔵することによって靴の脱ぎ・履きに支障が生じないようにすることができるという効果を有している。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、一般的な作業靴および救急隊員が着用する靴に利用可能である。
【符号の説明】
【0022】
1 靴
2 履き口
3 靴底
4 アッパー
5 後部壁
6 外側壁
7 内側壁
8 甲被
9 伸縮部材
10 開口
20 上面用外皮
21 外周用外皮
22 インナーシート
24 舌片部
25 抜き孔
26 前部
27 接続部
28 屈曲シート
29 剛性板
30、31 ウイング
32 クッション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
踵周囲を覆う後部壁と、
当該後部壁から連続して足の外側を覆う外側壁および内側を覆う内側壁と、
当該外側壁および内側壁と連続して足先部分を覆う甲被を有した靴であって、
前記甲被の中間に屈曲部を設けるとともに、当該屈曲部を中心として回動可能な舌片部を設け、
前記外側壁の前方上部および内側壁の前方上部に、互いの間隔を拡大縮小可能に対向させた端縁を形成し、
前記回動可能な舌片部に芯材として剛性の高い剛性板を内蔵するとともに、当該芯材を内蔵した舌片部によって前記対向させた外側壁および内側壁の端縁を覆うように構成したことを特徴とする靴。
【請求項2】
靴先に硬質の先芯を内蔵したことを特徴とする請求項1記載の靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−34625(P2013−34625A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172386(P2011−172386)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(391009372)ミドリ安全株式会社 (201)
【Fターム(参考)】