説明

音声IP電話装置

【課題】既存ネットワークに変更を加えることなく、品質の高い音声通話を可能にする音声IP電話装置を提供する。
【解決手段】本発明の音声IP電話装置は、表示部および操作部を含む入出力デバイス10と、構内LANや家庭内LANなどを介してIP網経由で相手装置と通信するためのLANインターフェース1と、送信する音声信号を符号化圧縮するコーデック部2と、受信した音声データを復号するデコード部3と、LANインターフェース経由の通信を監視する通信監視部4と、通信状態の監視結果に応じて最適な通信方式を選択する通信方式選択部5と、前記選択された通信方式で通信を実行する通信部6とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は音声IP電話装置に係り、特に、IP網の状態に応じて通信方式を適応的に切り替える音声IP電話装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電話用通信回線(アナログ、ISDNなど)では使用帯域が確保されていたため、帯域使用量に関わらず同一の通信制御が固定的に行われていた。これに対して、IP網を利用した音声通信では使用帯域の確保が難しいために、十分な通話品質を維持しようとすれば、IP網の状態、特に使用帯域に応じて、通信方式を適応的に制御することが望ましい。
【0003】
IP網を利用した音声通信において、使用帯域を検知したり、あるいは使用帯域を確保して十分な通話品質を確保したりするために、VPN (Virtual Private Network)やRSVP(Resource reSerVation Protocol : リソース予約プロトコル)を採用する技術が特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2001−285354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したVPNやRSVPにより帯域を確保するためには、VPNやRSVPに対応した特別なルータ装置などをネットワークに追加する必要があり、既存ネットワークの変更や大きなコスト負担が必要であった。
【0005】
本発明の目的は、上記した従来技術の課題を解決し、既存ネットワークに変更を加えることなく、品質の高い音声通話を可能にする音声IP電話装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた点に特徴がある。
(1)IP網と接続されたLAN経由で相手装置と通信するLANインターフェースと、IP網の状態を監視する監視手段と、IP網の状態に応じて通信方式を選択する通信方式選択手段と、選択された通信方式による通信を実行する通信手段とを含むことを特徴とする。
(2)PSTN経由で相手装置と通信するPSTNインターフェースを更に設け、通信方式選択手段は、ネットワークの状態が所定の基準状態よりも劣化すると、通信経路を、LANインターフェース経由のIP網からPSTNインターフェース経由のPSTNに切り替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、以下のような効果が達成される。
(1)音声IP電話装置が自らIP網の状態を監視し、IP網の帯域が低下していると、コーデック方式を符号化効率の高い方式に切り替えたり、あるいは通信を規制したりする通信制御が実行されるので、既存ネットワークに変更を加えることなく、品質の高い音声通話が可能になる。
(2)PSTN経由で相手装置と通信するPSTNインターフェースを更に設け、IP網の帯域が低下していると、IP網経由の通信がPSTN経由に切り替えられるので、IP網の帯域が低下していても品質の高い通信を確保できるようになる。
(3)発信呼制御信号の再送や着信呼制御信号の再送の履歴を記録して次の発信時や着信時に参照し、発信呼制御信号の再送や着信呼制御信号の再送の発生が予期されるような場合には、コーデック方式を符号化効率の高い方式に切り替えたり、IP網経由の通信をPSTN経由に切り替えたり、あるいは通信を規制したりする通信制御が直ちに実行されるので、素早い対応が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の最良の実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明に係る音声IP電話装置の主要部の構成を示した機能ブロック図であり、ここでは、本発明の説明に不要な構成は図示が省略されている。
【0009】
本発明の音声IP電話装置は、液晶ディスプレイヤやLEDインジケータなどの表示部、およびキースイッチやオンフック/オフフック用スイッチなどの操作部を含む入出力デバイス10と、構内LANや家庭内LANなどを介してIP網経由で相手装置と通信するためのLANインターフェース1と、送信する音声信号を符号化圧縮するコーデック部2と、受信した音声データを復号するデコード部3と、LANインターフェース経由の通信を監視することでIP網の状態を予測する通信監視部4と、通信状態の監視結果に応じて最適な通信方式を選択する通信方式選択部5と、前記選択された通信方式で通信を実行する通信部6とを含む。前記コーデック部2、デコード部3、通信監視部4、通信方式選択部5、および通信部6はソフトウエアで構成することができる。
【0010】
次いで、フローチャートを参照して本発明の各実施形態について詳細に説明する。図2は、本発明の第1実施形態の動作を示したフローチャートであり、図3は、そのシーケンスフローである。ここでは、IP電話装置AからIP電話装置Bに発信する場合の動作を、主に発信側のIP電話装置Aの動作に着目して説明する。
【0011】
IP電話装置Aの入出力デバイス10に対して発信操作がなされ、これがステップS11で検知されると、ステップS12では、通信監視部4により管理されている発信呼制御信号の再送回数Nsがリセットされる。ステップS13では、通信部6により発信動作が実行され、LANインターフェース経由でIP電話装置Bを宛先とする発信メッセージが送信される。このとき、通信方式選択部5では標準の通信方式が選択されており、これに応答して、コーデック部2ではコーデック方式としてG711が選択されている。
【0012】
通信相手のIP電話装置Bから応答パケットが返信され、これがステップS14で検知されれば、所定のセッション確立手順へ進む。これに対して、応答が検知される前にタイムアウトすると、ステップS15へ進んで発信呼制御信号の再送回数Nsがインクリメントされる。ステップS16では、前記通信方式選択部5において、前記発信呼制御信号の再送回数Nsが基準値Nref1と比較される。最初は、発信呼制御信号の再送回数Nsが基準値Nref1よりも小さいと判定されるのでステップS13へ戻り、通信部6から発信呼制御信号が再送される。ステップS14以降では前記と同様の処理が繰り返され、応答が無ければステップS15で発信呼制御信号の再送回数Nsがインクリメントされ続ける。
【0013】
その後、ステップS16でNs>Nref1と判定されるとステップS17へ進み、通信方式選択部5から通信部6を介してコーデック部2へコーデックの変更が指示される。ステップS18では、通信部6から入出力デバイス10へコーデック変更が通知され、入出力デバイス10の表示部には、コーデック変更を知らせるメッセージが表示される。ステップS19では、コーデック部2が前記コーデック変更指令に応答して、コーデック方式を現在のG711から、より圧縮率の高いG729へ変更する。ステップS20では、変更後のコーデック方式を採用してIP電話装置Bが改めて発信される。
【0014】
本実施形態によれば、IP網の帯域不足が予測される場合には、コーデック方式が、より符号化効率の高い方式に切り替えられるので、少ない帯域での通話が可能になる。
【0015】
図4は、本発明の第2実施形態の動作を示したフローチャートであり、図5は、そのシーケンスフローである。ここでも、IP電話装置AからIP電話装置Bに発信する場合の動作を、主に発信側のIP電話装置Aの動作に着目して説明する。
【0016】
IP電話装置Aの入出力デバイス10に対して発信操作がなされ、これがステップS21で検知されると、ステップS22では、通信監視部4により管理されている発信呼制御信号の再送回数Nsがリセットされる。ステップS23では、通信部6により発信動作が実行され、LANインターフェース経由でIP電話装置Bを宛先とする発信メッセージが送信される。
【0017】
通信相手のIP電話装置Bから応答パケットが返信され、これがステップS24で検知されれば、所定のセッション確立手順へ進む。これに対して、応答が検知される前にタイムアウトすると、ステップS25へ進んで発信呼制御信号の再送回数Nsがインクリメントされる。ステップS26では、前記通信方式選択部5において、前記発信呼制御信号の再送回数Nsが基準値Nref2と比較される。最初は、発信呼制御信号の再送回数Nsが基準値Nref2よりも小さいと判定されるのでステップS23へ戻り、通信部6から発信呼制御信号が再送される。ステップS24以降では前記と同様の処理が繰り返され、応答が無ければステップS25で発信呼制御信号の再送回数Nsがインクリメントされ続ける。
【0018】
その後、ステップS26でNs>Nref2と判定されるとステップS27へ進み、通信方式選択部5から通信部6へ発信規制が指示される。ステップS28では、通信部6から入出力デバイス10へ発信規制が通知され、入出力デバイス10の表示部には、発信規制を知らせるメッセージが表示される。ステップS29では、通信部6が前記発信規制に応答して発信規制処理を実行することで発信が規制される。
【0019】
本実施形態によれば、IP網の帯域不足が予測される場合には、通信を規制することでさらなる帯域不足が未然に防止されるので、確立済みのセッションにおける通話品質の低下を防止できるようになる。
【0020】
図6は、本発明の第3実施形態の動作を示したフローチャートであり、図7は、そのシーケンスフローである。ここでは、IP電話装置AがIP電話装置Bから着信する場合の動作を、主に着信側のIP電話装置Aの動作に着目して説明する。
【0021】
ステップS31において、通信部6により着信が検知されると、ステップS32では、通信監視部4により管理されている着信呼制御信号の再送回数Nrがリセットされる。ステップS33において、オフフック等による応答が検知されると、ステップS34では、セッション確立に備えて待機する。
【0022】
その後、ステップS35で着信呼制御信号の再送が検知されると、ステップS36へ進んで着信呼制御信号の再送回数Nrがインクリメントされる。ステップS37では、前記通信方式選択部5において、前記着信呼制御信号の再送回数Nrが基準値Nref3と比較される。最初は、着信呼制御信号の再送回数Nrが基準値Nref3よりも小さいと判定されるのでステップS33へ戻る。
【0023】
その後、ステップS35で着信呼制御信号の再送が検知されるごとに、ステップS36では着信呼制御信号の再送回数Nrがインクリメントされ続け、ステップS37でNr>Nref3と判定されるとステップS38へ進む。ステップS38では、通信方式選択部5から通信部6を介してコーデック部2へコーデックの変更が指示される。ステップS39では、通信部6から入出力デバイス10へコーデック変更が通知され、入出力デバイス10の表示部には、コーデック変更を知らせるメッセージが表示される。ステップS40では、コーデック部2が前記コーデック変更指令に応答して、コーデック方式を現在のG711から、より圧縮率の高いG729へ変更する。ステップS41では、変更後のコーデック方式がIP電話装置Bへ通知され、IP電話装置Bでも同様にコーデック方式が変更される。
【0024】
本実施形態によれば、IP網の帯域不足が予測される場合には、コーデック方式が、より符号化効率の高い方式に切り替えられるので、少ない帯域での通話が可能になる。
【0025】
図8は、本発明の第4実施形態の動作を示したフローチャートであり、図9は、そのシーケンスフローである。ここでは、IP電話装置AがIP電話装置Bから着信する場合の動作を、主に着信側のIP電話装置Aの動作に着目して説明する。
【0026】
ステップS51において、通信部6により着信が検知されると、ステップS52では、通信監視部4により管理されている着信呼制御信号の再送回数Nrがリセットされる。ステップS53において、オフフック等による応答が検知されると、ステップS54では、セッション確立に備えて待機する。
【0027】
その後、ステップS55で着信呼制御信号の再送が検知されると、ステップS56へ進んで着信呼制御信号の再送回数Nrがインクリメントされる。ステップS57では、前記通信方式選択部5において、前記着信呼制御信号の再送回数Nrが基準値Nref4と比較される。最初は、着信呼制御信号の再送回数Nrが基準値Nref4よりも小さいと判定されるのでステップS53へ戻る。
【0028】
その後、ステップS55で着信呼制御信号の再送が検知されるごとに、ステップS56では着信呼制御信号の再送回数Nrがインクリメントされ続け、ステップS57でNr>Nref4と判定されるとステップS58へ進む。ステップS58では、通信方式選択部5から通信部6へ通話規制が指示される。ステップS59では、通信部6から入出力デバイス10へ通話規制が通知され、入出力デバイス10の表示部には、通話規制を知らせるメッセージが表示される。ステップS60では、通信部6が前記通話規制指令に応答して通話規制を実施する。ステップS61では、相手端末へビジー応答が返信される。
【0029】
本実施形態によれば、IP網の帯域不足が予測される場合には、通信を規制することでさらなる帯域不足が未然に防止されるので、確立済みのセッションにおける通話品質の低下を防止できるようになる。
【0030】
図10は、本発明の第5実施形態の動作を示したフローチャートであり、ここでは、IP電話装置AからIP電話装置Bに発信する場合の動作を、主に発信側のIP電話装置Aの動作に着目して説明する。
【0031】
IP電話装置Aの入出力デバイス10に対して発信操作がなされ、これがステップS70で検知されると、ステップS71では発信履歴が参照され、同一の発信先への前回の発信時に発信呼制御信号の再送が行われたか否かが判定される。発信呼制御信号の再送が行われていればステップS81へ進み、前回の発信時からの経過時間が所定時間以上であるか否かが判定される。所定時間以上でなければステップS77へ進み、通信方式選択部5から通信部6を介してコーデック部2へコーデックの変更が指示される。
【0032】
ステップS78では、通信部6から入出力デバイス10へコーデック変更が通知され、入出力デバイス10の表示部には、コーデック変更を知らせるメッセージが表示される。ステップS79では、コーデック部2が前記コーデック変更指令に応答して、コーデック方式を現在のG711から、より圧縮率の高いG729へ変更する。ステップS80では、変更後のコーデック方式を採用してIP電話装置Bが改めて発信される。そして、変更後のコーデック方式による発信動作で再送が生じなければ、前記発信呼制御信号の再送履歴がリセットされるので、次の発信時にはコーデック方式がG711に戻される。
【0033】
これに対して、前記ステップS71において、前回の発信時に発信呼制御信号の再送が行われていないと判定されるか、あるいは前記ステップS81において、前回の発信時から所定時間以上経過していると判定されればステップS72へ進み、前記第1実施形態と同様に、最初は標準の通信方式で発信操作が繰り返され、発信呼制御信号の再送回数Nsが基準値Nref5を超えると、ステップS77以降へ進んでコーデック方式が同様に変更される。
【0034】
本実施形態によれば、発信呼制御信号の再送履歴を記録して次の発信時に参照し、発信呼制御信号の再送の発生が予期されるような場合には、コーデック方式が、より符号化効率の高い方式に切り替えられるので、使用帯域の少ないコーデック方式への素早い対応が可能になる。
【0035】
また、本実施形態によれば、前回の発信時に発信呼制御信号の再送が行われていても、その後、所定時間以上が経過しており、状況が改善されている可能性が高ければ通常の発信動作が行われるので、適切な符号化方式による符号化が可能になる。
【0036】
図11は、本発明の第6実施形態の動作を示したフローチャートであり、ここでは、IP電話装置AからIP電話装置Bに発信する場合の動作を、主に発信側のIP電話装置Aの動作に着目して説明する。
【0037】
IP電話装置Aの入出力デバイス10に対して発信操作がなされ、これがステップS90で検知されると、ステップS91では発信履歴が参照され、同一発信先への前回の発信時に発信呼制御信号の再送が行われたか否かが判定される。発信呼制御信号の再送が行われていればステップS89へ進み、前回の発信時からの経過時間が所定時間以上であるか否かが判定される。所定時間以上でなければステップS97へ進み、通信方式選択部5から通信部6へ発信規制が指示される。ステップS98では、通信部6から入出力デバイス10へ発信規制が通知され、入出力デバイス10の表示部には、発信規制を知らせるメッセージが表示される。ステップS99では、通信部6が前記発信規制に応答して発信規制処理を実行することで発信が規制される。
【0038】
これに対して、前記ステップS91において、前回の発信時に発信呼制御信号の再送が行われていないと判定されされるか、あるいは前記ステップS89において、前回の発信時から所定時間以上経過していると判定されればステップS92へ進み、前記第2実施形態と同様に、最初は標準の通信方式で発信操作が繰り返され、発信呼制御信号の再送回数Nsが基準値Nref6を超えると、ステップS97以降へ進んで発信規制が同様に行われる。
【0039】
本実施形態によれば、発信呼制御信号の再送履歴を記録して次の発信時に参照し、発信呼制御信号の再送の発生が予期されるような場合には発信規制が実施されるので、さらなる帯域不足の防止への素早い対応が可能になる。
【0040】
また、本実施形態によれば、前回の発信時に発信呼制御信号の再送が行われていても、その後、所定時間以上が経過しており、状況が改善されている可能性が高ければ通常の発信動作が行われるので、適切な発信規制が可能になる。
【0041】
図12は、本発明の第7実施形態の動作を示したフローチャートであり、ここでは、IP電話装置AがIP電話装置Bから着信する場合の動作を、主に着信側のIP電話装置Aの動作に着目して説明する。
【0042】
ステップS100において、通信部6により着信が検知されると、ステップS101では着信履歴が参照され、同一発信元からの前回の着信時に着信呼制御信号の再送が行われたか否かが判定される。着信呼制御信号の再送が行われていればステップS112へ進み、前回の着信時からの経過時間が所定時間以上であるか否かが判定される。所定時間以上でなければステップS108へ進み、通信方式選択部5から通信部6を介してコーデック部2へコーデックの変更が指示される。ステップS109では、通信部6から入出力デバイス10へコーデック変更が通知され、入出力デバイス10の表示部には、コーデック変更を知らせるメッセージが表示される。ステップS110では、コーデック部2が前記コーデック変更指令に応答して、コーデック方式を現在のG711から、より圧縮率の高いG729へ変更する。ステップS111では、変更後のコーデック方式がIP電話装置Bへ通知され、IP電話装置Bでも同様にコーデック方式が変更される。
【0043】
これに対して、前記ステップS101において、前回の着信時に着信呼制御信号の再送が行われていないと判定されるか、あるいは前記ステップS112において、前回の着信時から所定時間以上経過していると判定されればステップS102へ進み、前記第3実施形態と同様に、最初は標準の通信方式で着信動作が繰り返され、着信呼制御信号の再送回数Nrが基準値Nref3を超えた場合のみ、ステップS108以降へ進んでコーデック方式が同様に変更される。
【0044】
本実施形態によれば、着信呼制御信号の再送履歴を記録して次の着信時に参照し、着信呼制御信号の再送の発生が予期されるような場合には、コーデック方式が、より符号化効率の高い方式に切り替えられるので、使用帯域の少ないコーデック方式への素早い対応が可能になる。
【0045】
図13は、本発明の第8実施形態の動作を示したフローチャートであり、ここでは、IP電話装置AがIP電話装置Bから着信する場合の動作を、主に着信側のIP電話装置Aの動作に着目して説明する。
【0046】
ステップS113において、通信部6により着信が検知されると、ステップS114では着信履歴が参照され、同一発信元からの前回の着信時に着信呼制御信号の再送が行われたか否かが判定される。着信呼制御信号の再送が行われていればステップS125へ進み、前回の着信時からの経過時間が所定時間以上であるか否かが判定される。所定時間以上でなければステップS121へ進み、通信方式選択部5から通信部6へ通話規制が指示される。ステップS122では、通信部6から入出力デバイス10へ通話規制が通知され、入出力デバイス10の表示部には、通話規制を知らせるメッセージが表示される。ステップS123では、通信部6が前記通話規制指令に応答して通話規制を実施する。ステップS124では、相手端末へビジー応答が返信される。
【0047】
これに対して、前記ステップS114において、前回の着信時に着信呼制御信号の再送が行われていないと判定されるか、あるいは前記ステップS125において、前回の着信時から所定時間以上経過していると判定されればステップS115へ進み、前記第4実施形態と同様に、最初は標準の通信方式で着信動作が繰り返され、着信呼制御信号の再送回数Nrが基準値Nref4を超えた場合のみ、ステップS121以降へ進んで発信規制が同様に行われる。
【0048】
本実施形態によれば、着信呼制御信号の再送の履歴を記録して次の着信時に参照し、着信呼制御信号の再送の発生が予期されるような場合には発信規制が実施されるので、さらなる帯域不足の防止への素早い対応が可能になる。
【0049】
図14は、本発明の第9実施形態の動作を示したフローチャートであり、図15は、そのシーケンスフローである。ここでは、IP電話装置AとIP電話装置Bが通信中の状態から、IP電話装置Aの動作に着目して説明を進める。
【0050】
ステップS131では、前記通信監視部4において、受信パケットの揺らぎが所定の基準値以上であるか否かが判定され、基準値以上であれば、帯域が不十分と判断されてステップS133へ進む。これに対して、揺らぎが所定の基準値未満であればステップS132へ進み、前記通信監視部4において、受信パケットのロスが所定の基準値以上であるか否かが判定される。基準値以上であれば、帯域が不十分と判断されてステップS133へ進む。
【0051】
ステップS133では、通信方式選択部5から通信部6を介してコーデック部2へコーデックの変更が指示される。ステップS134では、通信部6から入出力デバイス10へコーデック変更が通知され、入出力デバイス10の表示部には、コーデック変更を知らせるメッセージが表示される。ステップS135では、コーデック部2が前記コーデック変更指令に応答して、コーデック方式を現在のG711から、より圧縮率の高いG729へ変更する。ステップS136では、変更後のコーデックがIP電話装置Bへ通知され、IP電話装置Bでも同様にコーデック方式が変更される。
【0052】
本実施形態によれば、IP網の帯域不足が予測される場合には、コーデック方式が、より符号化効率の高い方式に切り替えられるので、少ない帯域での通話が可能になる。
【0053】
次いで、本発明の第10ないし第12実施形態について説明する。図16は、本発明の第10ないし第12実施形態が適用される音声IP電話装置の主要部の構成を示した機能ブロック図であり、図1と同一の符号は同一または同等部分を表している。これらの実施形態では、PSTN(Public Switched Telephone Networks)経由で相手装置と通信するPSTNインターフェース7を設け、IP網の帯域に応じて、IP網およびPSTNのいずれかで選択的に通信を行えるようにした点に特徴がある。
【0054】
図17は、本発明の第10実施形態の動作を示したフローチャートであり、図18は、そのシーケンスフローである。ここでは、IP電話装置AからIP電話装置Bに発信する場合の動作を、主に発信側のIP電話装置Aの動作に着目して説明する。
【0055】
IP電話装置Aの入出力デバイス10に対して発信操作がなされ、これがステップS141で検知されると、ステップS142では、通信監視部4により管理されている発信呼制御信号の再送回数Nsがリセットされる。ステップS143では、通信部6により発信動作が実行され、LANインターフェース経由でIP電話装置Bを宛先とする発信メッセージが送信される。
【0056】
通信相手のIP電話装置Bから応答パケットが返信され、これがステップS144で検知されれば、所定のセッション確立手順へ進む。これに対して、応答が検知される前にタイムアウトすると、ステップS145へ進んで発信呼制御信号の再送回数Nsがインクリメントされる。ステップS146では、前記通信方式選択部5において、前記発信呼制御信号の再送回数Nsが基準値Nref8と比較される。最初は、発信呼制御信号の再送回数Nsが基準値Nref8よりも小さいと判定されるのでステップS143へ戻り、通信部6から発信呼制御信号が再送される。ステップS144以降では前記と同様の処理が繰り返され、応答が無ければステップS145で発信呼制御信号の再送回数Nsがインクリメントされ続ける。
【0057】
その後、ステップS146でNs>Nref8と判定されるとステップS147へ進み、通信方式選択部5から通信部6へ経路切替が指示される。ステップS148では、通信部6から入出力デバイス10へ経路切替が通知され、入出力デバイス10の表示部には、経路をPSTNに切り替える旨のメッセージが表示される。ステップS149では、通信部6が前記経路切替指示に応答して、経路をLANインターフェース経由のパケット交換網からPSTNインターフェース経由の回線交換網へ切り替える経路切替処理が実行される。ステップS150では、PSTNインターフェース7を介してPSTN経由でIP電話装置Bが改めて発信される。
【0058】
本実施形態によれば、IP網の帯域不足が予測される場合には、IP網経由の通信がPSTN経由に切り替えられるので、IP網の帯域が低下していても品質の高い通信を確保できるようになる。
【0059】
図19は、本発明の第11実施形態の動作を示したフローチャートであり、ここでは、IP電話装置AがIP電話装置Bから着信する場合の動作を、主に着信側のIP電話装置Aの動作に着目して説明する。
【0060】
IP電話装置Aの入出力デバイス10に対して発信操作がなされ、これがステップS153で検知されると、ステップS154では発信履歴が参照され、前回の発信時に発信呼制御信号の再送が行われたか否かが判定される。発信呼制御信号の再送が行われていればステップS160へ進み、通信方式選択部5から通信部6へ経路切替が指示される。
【0061】
ステップS161では、通信部6から入出力デバイス10へ経路切替が通知され、入出力デバイス10の表示部には、経路切替を知らせるメッセージが表示される。ステップS162では、通信部6が前記経路切替指令に応答して、経路をLANインターフェース経由のパケット交換網からPSTNインターフェース経由の回線交換網へ切り替える経路切替処理が実行される。ステップS163では、切替後の経路でIP電話装置Bが改めて発信される。
【0062】
これに対して、前記ステップS154において、前回の発信時に発信呼制御信号の再送が行われていないと判定されればステップS155へ進み、前記第5実施形態と同様に、最初は標準の通信方式で発信操作が繰り返され、発信呼制御信号の再送回数Nsが基準値Nref9を超えると、ステップS160以降へ進んで同様に経路切替が行われる。
【0063】
本実施形態によれば、発信呼制御信号の再送履歴を記録して次の発信時に参照し、発信呼制御信号の再送の発生が予期されるような場合には、IP網経由の通信がPSTN経由に切り替えられるので、IP網の帯域が低下していても、品質の高い通信確保への素早い対応が可能になる。
【0064】
なお、上記した各実施形態では、ネットワークの状態を代表する発信呼制御信号の再送回数Ns、着信呼制御信号の再送回数Nr、受信パケットの揺らぎ、あるいは受信パケットのロスト数が、それぞれ所定の基準値を上回っていると、唯一の通信制御が実行されるものとして説明したが、本発明はこれのみに限定されるものではなく、ネットワークの状態に応じて各通信制御が段階的に実行されるようにしても良い。
【0065】
図20は、本発明の第12実施形態の動作を示したフローチャートであり、ここでは、ネットワークの状態に応じて各通信制御を段階的に実行する制御手順を、IP電話装置AからIP電話装置Bに発信する場合を例にして、主に発信側のIP電話装置Aの動作に着目して説明する。
【0066】
IP電話装置Aの入出力デバイス10に対して発信操作がなされ、これがステップS171で検知されると、ステップS172では、通信監視部4により管理されている発信呼制御信号の再送回数Nsがリセットされる。ステップS173では、通信部6により発信動作が実行され、LANインターフェース経由でIP電話装置Bを宛先とする発信メッセージが送信される。このとき、通信方式選択部5では標準の通信方式が選択されており、これに応答して、コーデック部2ではコーデック方式としてG711が選択されている。
【0067】
通信相手のIP電話装置Bから応答パケットが返信され、これがステップS174で検知されれば、所定のセッション確立手順へ進む。これに対して、応答が検知される前にタイムアウトすると、ステップS175へ進んで発信呼制御信号の再送回数Nsがインクリメントされる。ステップS176,S180,S184では、前記通信方式選択部5において、前記発信呼制御信号の再送回数Nsが、それぞれ基準値Nref2,Nref8,Nref1と比較される。本実施形態では、各基準値の大小関係がNref2>Nref8>Nref1に設定されている。
【0068】
最初は、発信呼制御信号の再送回数Nsが基準値Nref1よりも小さいと判定されるのでステップS173へ戻り、通信部6から発信呼制御信号が再送される。ステップS174以降では前記と同様の処理が繰り返され、応答が無ければステップS175で発信呼制御信号の再送回数Nsがインクリメントされ続ける。
【0069】
その後、ステップS184でNs>Nref1と判定されるとステップS185へ進み、通信方式選択部5から通信部6を介してコーデック部2へコーデックの変更が指示される。ステップS186では、通信部6から入出力デバイス10へコーデック変更が通知され、入出力デバイス10の表示部には、コーデック変更を知らせるメッセージが表示される。ステップS187では、コーデック部2が前記コーデック変更指令に応答して、コーデック方式を現在のG711から、より圧縮率の高いG729へ変更する。
【0070】
その後はステップS173へ戻り、通信部6から新たなコーデック方式(G729)で発信呼制御信号が再送される。ステップS174以降では前記と同様の処理が繰り返され、応答が無ければステップS175で発信呼制御信号の再送回数Nsがインクリメントされ続ける。
【0071】
発信呼制御信号の再送回数NsがNref8を超え、これがステップS180で検知されるとステップS181へ進み、通信方式選択部5から通信部6へ経路切替が指示される。ステップS182では、通信部6から入出力デバイス10へ経路切替が通知され、入出力デバイス10の表示部には、経路をPSTNに切り替える旨のメッセージが表示される。ステップS183では、通信部6が前記経路切替指示に応答して、経路をLANインターフェース経由のパケット交換網からPSTNインターフェース経由の回線交換網へ切り替える経路切替処理が実行される。
【0072】
その後はステップS173へ戻り、通信部6において、PSTNインターフェース7を介してPSTN経由でIP電話装置Bが改めて発信される。ステップS174以降では前記と同様の処理が繰り返され、応答が無ければステップS175で発信呼制御信号の再送回数Nsがインクリメントされ続ける。
【0073】
発信呼制御信号の再送回数NsがNref2を超え、これがステップS176で検知されるとステップS177へ進み、通信方式選択部5から通信部6へ発信規制が指示される。ステップS178では、通信部6から入出力デバイス10へ発信規制が通知され、入出力デバイス10の表示部には、発信規制を知らせるメッセージが表示される。ステップS179では、通信部6が前記発信規制に応答して発信規制処理を実行することで発信が規制される。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る音声IP電話装置の構成を示した機能ブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態の動作を示したフローチャートである。
【図3】本発明の第1実施形態の動作を示したシーケンスフローである。
【図4】本発明の第2実施形態の動作を示したフローチャートである。
【図5】本発明の第2実施形態の動作を示したシーケンスフローである。
【図6】本発明の第3実施形態の動作を示したフローチャートである。
【図7】本発明の第3実施形態の動作を示したシーケンスフローである。
【図8】本発明の第4実施形態の動作を示したフローチャートである。
【図9】本発明の第4実施形態の動作を示したシーケンスフローである。
【図10】本発明の第5実施形態の動作を示したフローチャートである。
【図11】本発明の第6実施形態の動作を示したフローチャートである。
【図12】本発明の第7実施形態の動作を示したフローチャートである。
【図13】本発明の第8実施形態の動作を示したフローチャートである。
【図14】本発明の第9実施形態の動作を示したフローチャートである。
【図15】本発明の第9実施形態の動作を示したシーケンスフローである。
【図16】本発明に係る音声IP電話装置の他の構成を示した機能ブロック図である。
【図17】本発明の第10実施形態の動作を示したフローチャートである。
【図18】本発明の第10実施形態の動作を示したシーケンスフローである。
【図19】本発明の第11実施形態の動作を示したフローチャートである。
【図20】本発明の第12実施形態の動作を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0075】
1…LANインターフェース,2…コーデック部,3…デコード部,4…通信監視部,5…通信方式選択部,6…通信部,7…PSTNインターフェース,10…入出力デバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IP網と接続されたLAN経由で相手装置と通信するLANインターフェースと、
IP網の状態を監視する監視手段と、
IP網の状態に応じて通信方式を選択する通信方式選択手段と、
前記選択された通信方式による通信を実行する通信手段とを含むことを特徴とする音声IP電話装置。
【請求項2】
音声信号を符号化圧縮する複数のコーデック方式を備え、
前記通信方式選択手段は、ネットワークの状態が所定の基準状態よりも劣化すると、コーデック方式を符号化効率の高い方式を切り替えることを特徴とする請求項1に記載の音声IP電話装置。
【請求項3】
前記通信方式選択手段は、ネットワークの状態が所定の基準状態よりも劣化すると、通信を規制することを特徴とする請求項1に記載の音声IP電話装置。
【請求項4】
PSTN経由で相手装置と通信するPSTNインターフェースを更に含み、
前記通信方式選択手段は、ネットワークの状態が所定の基準状態よりも劣化すると、通信経路を、LANインターフェース経由のIP網からPSTNインターフェース経由のPSTNに切り替えることを特徴とする請求項1に記載の音声IP電話装置。
【請求項5】
前記監視手段は発信呼制御信号の再送を監視し、前記通信方式選択手段は、当該発信呼制御信号の再送回数でIP網の状態を代表することを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の音声IP電話装置。
【請求項6】
前記監視手段は着信呼制御信号の再送を監視し、前記通信方式選択手段は、当該着信呼制御信号の再送回数でIP網の状態を代表することを特徴とする請求項2または3に記載の音声IP電話装置。
【請求項7】
前記監視手段は受信パケットの揺らぎを監視し、前記通信方式選択手段は、当該揺らぎでIP網の状態を代表することを特徴とする請求項2に記載の音声IP電話装置。
【請求項8】
前記監視手段は受信パケットのロスト数を監視し、前記通信方式選択手段は、当該ロスト数でIP網の状態を代表することを特徴とする請求項2に記載の音声IP電話装置。
【請求項9】
通信履歴を記憶する手段を含み、前記通信方式選択手段は、発信呼制御信号の再送履歴があると、ネットワークの状態にかかわらず符号化効率の高いコーデック方式に切り替えることを特徴とする請求項2に記載の音声IP電話装置。
【請求項10】
通信履歴を記憶する手段を含み、前記通信方式選択手段は、発信呼制御信号の再送履歴があると、ネットワークの状態にかかわらず通信を規制することを特徴とする請求項3に記載の音声IP電話装置。
【請求項11】
通信履歴を記憶する手段を含み、前記通信方式選択手段は、発信呼制御信号の再送履歴があると、ネットワークの状態にかかわらず通信経路をPSTNインターフェース経由のPSTNに切り替えることを特徴とする請求項4に記載の音声IP電話装置。
【請求項12】
通信履歴を記憶する手段を含み、前記通信方式選択手段は、着信呼制御信号の再送履歴があると、ネットワークの状態にかかわらず符号化効率の高いコーデック方式に切り替えることを特徴とする請求項2に記載の音声IP電話装置。
【請求項13】
通信履歴を記憶する手段を含み、前記通信方式選択手段は、着信呼制御信号の再送履歴があると、ネットワークの状態にかかわらず通信を規制することを特徴とする請求項3に記載の音声IP電話装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−98509(P2010−98509A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267412(P2008−267412)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000000181)岩崎通信機株式会社 (133)
【Fターム(参考)】