説明

顕微鏡装置

【課題】照明光の標本への集光性能を変化させることなく照明光を2次元的に走査する。
【解決手段】光源2からの照明光の波面を変調する空間光変調素子14と、非平行な2つの軸線回りにそれぞれ揺動する第1のミラー5aおよび第2のミラー5bを有し、空間光変調素子14により波面が変調された照明光を2次元的に走査するスキャナ5と、該スキャナ5の第1のミラー5a上から第2のミラー5b上に像をリレーする第1のリレー光学系9と、第2のミラー5b上から対物光学系6の瞳位置に像をリレーする第2のリレー光学系10とを備える顕微鏡装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、デフォーマブルミラーによって波面を変形させたレーザ光をガルバノミラーユニットを経由して対物レンズに入射させる走査型共焦点顕微鏡装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この装置は、デフォーマブルミラーの反射面を変化させることにより、レーザ光の集光点が深さ方向に変化するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−165212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている走査型共焦点顕微鏡装置では、レンズと結像レンズとにより対物レンズの瞳面へリレーされる変調波面が、ガルバノミラーの揺動によって瞳面上において光軸と直交する方向にシフトされてしまう。このようなシフトが発生すると、偏心と同様のコマ収差が増大するという不都合がある。このようなシフトは撮像領域の中央では少ないが周辺になるに従って増大し、光学性能が著しく低下してしまうことになる。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、光源から導かれてきた照明光の標本への集光性能を変化させることなく、標本上において照明光を2次元的に走査することができる顕微鏡装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、光源からの照明光の波面を変調する空間光変調素子と、非平行な2つの軸線回りにそれぞれ揺動する第1のミラーおよび第2のミラーを有し、前記空間光変調素子により波面が変調された照明光を2次元的に走査するスキャナと、該スキャナの前記第1のミラー上から前記第2のミラー上に像をリレーする第1のリレー光学系と、前記第2のミラー上から対物光学系の瞳位置に像をリレーする第2のリレー光学系とを備える顕微鏡装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、空間光変調素子により波面が変調された光源からの照明光は、第1のミラーに入射されて該第1のミラーの揺動角度に応じた方向に偏向された後、第1のリレー光学系によってリレーされて第2のミラーに入射されて該第2のミラーの揺動角度に応じた方向に偏向される。第1のミラーと第2のミラーは非平行な軸線回りにそれぞれ揺動させられるので、2つのミラーの揺動角度をそれぞれ変化させることによって、照明光を2次元的に走査することができる。そして、2次元的に走査された照明光は第2のリレー光学系によってリレーされて対物光学系に入射され、標本に照射される。
【0008】
この場合において、スキャナを構成する2枚のミラーの間に第1のリレー光学系を配置することによって、2枚のミラーを共に対物光学系の瞳位置と光学的に共役な位置に配置することができる。その結果、2枚のミラーがそれぞれ揺動させられても、対物光学系の瞳位置にリレーされる像が光軸に交差する方向に移動しないので、照明光の標本への集光性能が変化せず、標本上において照明光を2次元的に走査させることができる。
【0009】
上記発明においては、前記空間光変調素子上の像を前記スキャナの前記第1のミラー上にリレーする第3のリレー光学系を備えていてもよい。
このようにすることで、第1、第2のリレー光学系により対物光学系の瞳位置と光学的に共役関係にある第1のミラー上の位置と、空間光変調素子上の位置との間で発生する波面の変形を、第3のリレー光学系によってリレーすることにより防止でき、より正確に対物光学系の瞳位置での波面補正を行うことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光源から導かれてきた照明光の標本への集光性能を変化させることなく、標本上において照明光を2次元的に走査することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る顕微鏡装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の顕微鏡装置のスキャナおよび第1のリレー光学系を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る顕微鏡装置1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る顕微鏡装置1は、図1に示されるように、レーザ光(照明光)を発生する光源2と、光源2から発せられたレーザ光の波面を略平面波に変換するコリメータレンズ3と、略平面波に変換されたレーザ光の波面を変調する波面変調部4と、該波面変調部4によって波面が変調されたレーザ光を2次元的に走査するスキャナ5と、該スキャナ5により走査されたレーザ光を標本Aに集光する対物光学系6と、スキャナ5および波面変調部4を制御する制御部7と、対物光学系6により集光された標本Aからの蛍光を検出する光検出器8とを備えている。
【0013】
また、本実施形態に係る顕微鏡装置1は、スキャナ5の内部に設けられた第1のリレー光学系9と、スキャナ5と対物光学系6との間に配置された第2のリレー光学系10と、波面変調部4とスキャナ5との間に配置された第3のリレー光学系11とを備えている。
図中、符号12は、スライドガラス上に載置された標本Aを搭載するステージである。
【0014】
波面変調部4は、コリメータレンズ3によって略平面波に変換されたレーザ光を反射するプリズム13と、該プリズム13により反射されたレーザ光を反射し、その際に、その表面形状に従う形態にレーザ光の波面を変調してプリズム13に戻す反射型の空間光変調素子14とを備えている。
【0015】
プリズム13により反射されたレーザ光は空間光変調素子14によって同じプリズム13に戻るように光路が折り返され、プリズム13によって光源2からのレーザ光と同軸の光路に戻されるようになっている。
空間光変調素子14は、制御部7からの形状指令信号によって、その表面形状を任意に変化させることができるセグメントタイプのMEMSによって構成されている。空間光変調素子14と対物光学系6の入射瞳位置とは光学的に共役な位置関係に配置されている。
【0016】
スキャナ5は、図2に示されるように、捻れの位置に配置される2つの揺動軸線S,S回りにそれぞれ揺動可能に設けられた第1のミラー5aと第2のミラー5bとを備えている。一方の揺動軸線Sは、他方の揺動軸線Sに直交する平面内に配置されている。これにより、上記平面に沿う一方向から見ると、2つの揺動軸線S,Sは相互に直交して配置されている。
【0017】
なお、図1においては、図示を容易にするために、2つの揺動軸線S,Sは便宜的に相互に平行に示されているが、実際には、図2に示されるように、相互に非平行な位置関係に配置されている。
【0018】
第1のミラー5aの揺動速度は、第2のミラー5bの揺動速度に対して十分に速く設定されている。高速側の第1のミラー5aはレーザ光の標本A上における走査のために使用され、低速側の第2のミラー5bはレーザ光の標本A上における走査位置を送るために使用される。図中、符号5c,5dは各ミラー5a,5bを揺動動作させるためのモータである。
【0019】
第1のミラー5aと第2のミラー5bとの間には、第1のミラー5a上の像を第2のミラー5b上にリレーする第1のリレー光学系9が配置されている。
また、第2のリレー光学系10は、スキャナ5と対物光学系6との間に配置され、スキャナの第2のミラー5b上の像を対物光学系6の瞳位置にリレーするようになっている。
【0020】
さらに、第3のリレー光学系11は、波面変調部4とスキャナ5との間に配置され、波面変調部4の空間光変調素子14上の像をスキャナ5の第1のミラー5a上にリレーするようになっている。
第1のリレー光学系9、第2のリレー光学系10および第3のリレー光学系11は、いずれも、複数のレンズにより構成されている。
【0021】
その結果、空間光変調素子14の表面位置、スキャナ5の第1のミラー5aの表面位置、第2のミラー5bの表面位置は、いずれも、対物光学系の入射瞳位置と光学的に共役な位置に配置されている。図2におけるハッチングは、第1のミラー5aおよび第2のミラー5bの表面が、いずれも対物光学系6の入射瞳位置と光学的に共役な位置に配置されていることを示している。
【0022】
図1において、符号15はレーザ光を反射し蛍光を透過するダイクロイックミラー、符号16は集光レンズである。ダイクロイックミラー15を透過した蛍光は集光レンズ16によって集光され、光検出器8によって検出されるようになっている。光検出器8によって検出された蛍光の強度と、その検出時のスキャナ5によるレーザ光の走査位置情報とを対応づけて記憶しておくことにより、2次元的な蛍光画像を取得することができるようになっている。
【0023】
制御部7は、空間光変調素子14の変調領域における表面形状が予め設定された形状となるように、空間光変調素子14に対して形状指令信号を出力するようになっている。空間光変調素子14の変調領域の表面形状は、該変調領域に入射された平面波の波面を変調して、対物光学系6の焦点位置において1点に集光させることができるような表面形状であり、各種光学系の収差や標本Aにおける屈折率分布等を考慮して、予め算出あるいは測定しておくことができる。
また、制御部7は、スキャナ5の各ミラー5a,5bを揺動させるモータ5c,5dに対して、揺動角度を指令する角度指令信号を出力する。
【0024】
このように構成された本実施形態に係る顕微鏡装置1の作用について、以下に説明する。
本実施形態に係る顕微鏡装置1を用いて標本Aの蛍光観察を行うには、制御部7から空間光変調素子14に対して表面形状を指令する形状指令信号を出力した状態で、光源2において発生させたレーザ光をコリメータレンズ3を介して略平面波として、波面変調部4に入射させる。
【0025】
波面変調部4に入射されたレーザ光は、プリズム13によって反射されて空間光変調素子14に入射される。空間光変調素子14においては、変調領域に入射されたレーザ光が波面を変調されて反射され、プリズム13によって反射されて第3のリレー光学系11に入射される。
【0026】
第3のリレー光学系11は、空間光変調素子14の変調領域の像を、これと光学的に共役な位置に配置されたスキャナ5の第1のミラー5a面上にリレーする。スキャナ5においては、高速側の第1のミラー5aが揺動させられることにより、反射されたレーザ光が走査方向に揺動させられ、低速側の第2のミラー5bが揺動させられることにより、反射されたレーザ光が送り方向に揺動させられる。これにより、レーザ光が2次元的に走査される。
【0027】
スキャナ5の第1のミラー5aにより一方向に走査されたレーザ光は、第1のリレー光学系9を透過した後、第2のミラー5bにより他の方向に走査される。これにより、第1のミラー5aの表面上の像が、第1のリレー光学系9によって第2のミラー5bの表面上にリレーされる。
【0028】
スキャナ5により2次元的に走査されたレーザ光は、第2のリレー光学系10に入射される。第2のリレー光学系10は、第2のミラー5bの表面上に形成されたレーザ光の像を、これと光学的に共役な位置に配置されている対物光学系6の入射瞳位置にリレーする。
【0029】
このようにすることで、空間光変調素子14の変調領域の像が、対物光学系6の入射瞳位置にリレーされる。
すなわち、本実施形態に係る顕微鏡装置1によれば、スキャナ5の2つのミラー5a,5bの揺動に拘わらず、対物光学系6の入射瞳位置にリレーされるレーザ光の像を静止させた状態に維持することができる。
【0030】
入射瞳位置に入射するレーザ光が光軸に交差する方向に変動しないので、入射瞳全体にわたるようにレーザ光を入射させることができ、最大限に明るい照明を行うことができる。
また、この場合において、スキャナ5のミラー5a,5bの揺動によっても、対物光学系6の入射瞳位置における像が移動しないので、空間光変調素子14で変調した波面を対物光学系6の入射瞳位置に正確にリレーし、集光性能の低下を防止することができる。
【0031】
これにより、各種光学系の収差や、標本A内の屈折率分布等によって発生する収差が補償され、対物光学系6によって標本A内の所望の1点にレーザ光を精度良く集光させることができるという利点がある。光源2から発生されるレーザ光を極短パルスレーザ光とすれば、対物光学系6の焦点位置のみにおいて多光子励起効果によって蛍光を発生させ、鮮明な蛍光画像を取得することが可能となる。
【0032】
また、本実施形態においては、空間光変調素子14として、その表面形状を変化させるセグメントタイプのMEMSミラーを例示したが、これに代えて、他の任意の空間光変調素子14、例えば、液晶素子、デフォーマブルミラー等でもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 顕微鏡装置
2 光源
5 スキャナ
5a 第1のミラー
5b 第2のミラー
6 対物光学系
9 第1のリレー光学系
10 第2のリレー光学系
11 第3のリレー光学系
14 空間光変調素子
,S 揺動軸線(軸線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの照明光の波面を変調する空間光変調素子と、
非平行な2つの軸線回りにそれぞれ揺動する第1のミラーおよび第2のミラーを有し、前記空間光変調素子により波面が変調された照明光を2次元的に走査するスキャナと、
該スキャナの前記第1のミラー上から前記第2のミラー上に像をリレーする第1のリレー光学系と、
前記第2のミラー上から対物光学系の瞳位置に像をリレーする第2のリレー光学系とを備える顕微鏡装置。
【請求項2】
前記空間光変調素子上の像を前記スキャナの前記第1のミラー上にリレーする第3のリレー光学系を備える請求項1に記載の顕微鏡装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−150238(P2012−150238A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8249(P2011−8249)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】