説明

飛灰処理方法

【課題】飛灰をスラリーとし、重金属成分の溶出を抑制しつつ、塩素分だけを溶出させて除去する飛灰処理方法において、スラリーのpH調整のために使用する酸性物質の使用量を低減するとともに、pHの許容範囲を拡大して処理の安定性を向上させること。
【解決手段】アルカリ性で塩素分及び重金属成分を含有する飛灰に無機塩類と水を加えてpH9〜13のスラリーとし、飛灰中に含有されていた塩素分を水に溶出させた後に、このスラリーを脱水して脱水ケーキとする。必要に応じ、酸性物質を加えてスラリーのpHを調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物焼却炉で発生する焼却飛灰や廃棄物溶融炉で発生する溶融飛灰などの飛灰の処理方法に関し、とくにアルカリ性で塩素分及び重金属成分を含有する飛灰から塩素分を除去する飛灰処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、廃棄物焼却炉で発生する焼却飛灰や廃棄物溶融炉で発生する溶融飛灰などの飛灰は、pH11〜13程度のアルカリ性で、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等の塩素分を多く含有している。この飛灰中の塩素分は、飛灰の処分や再利用に悪影響を及ぼすので、除去する必要があり、通常、飛灰を水洗浄処理することにより除去している。
【0003】
ただし、飛灰は塩素分のほかにPbなどの重金属成分を含有しているため、水洗浄処理により重金属成分が水に溶出すると、その後の排水処理が面倒になる。したがって、水洗浄処理により塩素分を除去するにあたっては、重金属成分の溶出を抑制しつつ、塩素分だけを溶出させて除去することが求められる。
【0004】
このような飛灰処理方法として、特許文献1には、飛灰を酸性物質と混合してpH7〜9のスラリーとし、このスラリーを脱水して脱水ケーキとする方法が開示されている。すなわち、この特許文献1の方法は、飛灰のスラリーのpHを7〜9に調整することで、重金属成分の溶出を抑制しつつ、塩素分だけを溶出させて除去するようにしたものである。
【0005】
しかし、この特許文献1の方法では、例えばpH13程度の強アルカリ飛灰のスラリーのpHを7〜9にするには、pH調整剤として塩酸等の酸性物質を多量に加える必要があり、処理コストが増大する。また、スラリーのpHを7〜9に調整するには酸性物質の添加量を高精度に制御する必要があり、酸性物質の過不足が生じるとすぐにスラリーのpHが7〜9の範囲外となり、重金属成分が溶出する危険性が高くなるなど、処理の安定性に欠ける。
【特許文献1】特許第3735789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、飛灰をスラリーとし、重金属成分の溶出を抑制しつつ、塩素分だけを溶出させて除去する飛灰処理方法において、スラリーのpH調整のために使用する酸性物質の使用量を低減するとともに、pHの許容範囲を拡大して処理の安定性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行い、その結果、飛灰にFeSO、NaS、FeCl、Fe(SO)等の重金属成分溶出を抑制する効果のある無機塩類を加えてスラリーとすることにより、上記特許文献1のようにpH7〜9の中性に近い領域までpHを下げることなく、pH9〜13のアルカリ領域であっても重金属成分の溶出を抑制しつつ、塩素分だけを溶出させて除去できることを知見し、本発明を想到するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の飛灰処理方法は、アルカリ性で塩素分及び重金属成分を含有する飛灰に無機塩類と水を加えてpH9〜13のスラリーとし、飛灰中に含有されていた塩素分を水に溶出させた後に、このスラリーを脱水して脱水ケーキとすることを特徴とするものである。
【0009】
本発明において、スラリーのpH調整はスラリーに酸性物質を加えることによって行うことができる。
【0010】
このように、本発明では、スラリーのpH許容範囲がpH9〜13と飛灰のpH範囲に近いので、pH調整剤として酸性物質を全く使用しないで済むか、使用するとしてもその使用量を大幅に低減できる。しかも、スラリーのpH許容範囲がpH9〜13と広範囲であるので、pH調整が容易であり、処理の安定性が向上する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スラリーのpH調整のために使用する酸性物質の使用量を大幅に低減することができ、処理コストを削減できる。また、スラリーのpH許容範囲がpH9〜13と広範囲であるので、pH調整が容易であり、処理の安定性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明の飛灰処理方法の工程フローを示す。
【0013】
本発明では、まず、アルカリ性で塩素分及び重金属成分を含有する飛灰に無機塩類と水を加えてpH9〜13のスラリーを得る。このとき必要に応じて酸性物質を加えてスラリーのpHを上記範囲に調整する。
【0014】
無機塩類の添加量を多くすれば、より高いpH領域でも重金属成分は溶出し難くなるが、薬剤使用量(処理コスト)が多くなるので、pH調整剤(酸性物質)を併用し無機塩類とpH調整剤のトータルの薬剤使用量が極力少なくなる条件が好ましい。
【0015】
薬剤使用量の適正値は飛灰中に含まれる重金属成分の量や種類によって異なるため、一律に規定することはできないが、後述する実施例の飛灰においては、NaS:1〜3g/kg(飛灰)、FeSO:8〜24g/kg(飛灰)程度が好ましい。また、水の添加量は、飛灰に無機塩類を加えたものがスラリー状となるような量であればとくに制限はないが、1〜10倍(kg/kg(飛灰))程度が好ましい。スラリーのpHを調整するために使用する酸性物質の種類もとくに制限されないが、代表的には、硫酸、塩酸が挙げられる。
【0016】
次に、飛灰中に含有されていた塩素分をスラリーの水に溶出させた後、このスラリーを固液分離装置等により脱水して脱水ケーキとする。これによって、飛灰中に含有されていた塩素分が脱水工程の排水として除去され、塩素分の除去された脱水ケーキ、すなわち飛灰残渣が得られる。この脱水工程では必要に応じて洗浄水を使用してもよい。また、得られた脱水ケーキ中の塩素分をさらに低減する場合には、脱水ケーキを水で洗浄して脱水することにより塩素分を除去する。
【実施例】
【0017】
図1の工程フローにしたがい、一例としてバイオマス焼却ボイラーの飛灰を処理した。
【0018】
実施例1では、バイオマス焼却ボイラーの飛灰100gに、無機塩類としてNaS0.3gと水100gを加えてスラリーを得た。実施例2では、バイオマス焼却ボイラーの飛灰100gに、無機塩類としてNaS0.14g及びFeSO1.1gと水100gを加えてスラリーを得た。また、比較例としてバイオマス焼却ボイラーの飛灰100gに水100gのみを加えてスラリーを得た。
【0019】
これらのスラリーを1h攪拌混合した後、酸性物質として98%HSO溶液を加えてpHを調整し、表1に示すとおり、各pHのスラリーを得た。
【表1】

【0020】
これらのスラリーを1h攪拌混合して飛灰中に含有されていた塩素分をスラリーの水に溶出させた後に、固液分離装置等により脱水して脱水ケーキを得た。さらに脱水ケーキ中を洗浄水で洗浄し、ケーキ中の塩素分を洗い流して脱塩・脱水ケーキを得た。得られた脱塩・脱水ケーキの塩素分の含有量を測定したところ、いずれも500ppm以下(塩素分の除去率95%程度)で、十分に塩素分が除去されていた。
【0021】
また、各スラリーの脱水工程で発生した排水中の重金属成分としてPbの含有量を測定した。その結果を図2に示す。
【0022】
図2に示すとおり、飛灰に無機塩類を加えた実施例では、無機塩類を加えていない比較例に比べ、高いpH領域であってもPbの溶出が抑制されている。すなわち、実施例では、スラリーのpHを13以下にすれば、Pb溶出量は燃え殻等の埋立基準値(0.3mg/L以下)をほぼ満足し、スラリーのpHを12.5以下にすれば排水基準値(0.1mg/L以下)を満足する。これに対して比較例では、燃え殻等の埋立基準値を満足するにはスラリーのpHを11以下にする必要があり、排水基準値を安定的に満足するにはスラリーのpHを9以下とする必要があった。
【0023】
このように、本発明ではpH9〜13の高いpH領域であってもPb(重金属成分)の溶出を抑制しつつ、塩素分の除去が可能であるので、スラリーのpH調整のために使用する酸性物質の使用量を大幅に低減することができるとともに、pHの許容範囲が拡大するので処理の安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の飛灰処理方法の工程フローを示す。
【図2】スラリーのpHとPb溶出量の関係を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ性で塩素分及び重金属成分を含有する飛灰に無機塩類と水を加えてpH9〜13のスラリーとし、飛灰中に含有されていた塩素分を水に溶出させた後に、このスラリーを脱水して脱水ケーキとする飛灰処理方法。
【請求項2】
酸性物質を加えてスラリーのpHを調整する請求項1に記載の飛灰処理方法。

【図1】
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【図2】
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