説明

食品成分抽出方法及び食品検査方法並びに食品検査キット

【課題】安価であり、且つ、温和な還元作用を有する還元剤を用いて食品から食品中の成分を抽出する技術を提供する。
【解決手段】食品と、亜硫酸塩を含有する抽出液とを混合し、前記食品中の成分を抽出する。また、得られた食品抽出液を、検査目的とされる特定原材料に含まれる物質を特異的に認識する抗体に接触させ、免疫学的測定方法を利用して食品中の特定原材料の存在の有無及び/又はその量を検査する。更に、食品中の特定原材料の存在の有無及び/又はその量を検査するための食品検査キットであって、(1)抽出液及び該抽出液に添加するための亜硫酸塩、又は、亜硫酸塩が添加された抽出液、及び(2)検査目的とされる特定原材料に含まれる物質を特異的に認識する抗体とを含む食品検査キットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品中の特定原材料の存在の有無及び/又はその量を検査するための食品成分抽出方法及び食品検査方法並びに食品検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の食物アレルギーの問題への関心の高まりから、食品のパッケージなどに食物アレルギーを引き起こす原材料を含む旨の表示を付することが推奨されている。特に、アレルギーの発症数、重篤度から表示する必要性が高いとされる小麦、そば、卵、乳及び落花生の5品目については、食品衛生法によっても、それら原材料を含む旨の表示をすることが製造者に義務付けられている。
【0003】
また、「特定の原材料を含む」又は「特定の原材料を含まない」などの表示をすることによって、消費者に安心感を持って自己の製品を受け入れられるようにすることができるので、このような表示は製造者にとっても利益がある。
【0004】
種々の原材料を混合して製造される加工食品においては、個々の原材料についての履歴をたどることは煩雑であり、得られた製品を直接検査できることが望ましい。また、原材料としては使用していないにも関わらず、製造ラインで混入(コンタミネーション)してしまう場合もある。そこで、製品の維持管理や、突発的な事故の予防の観点からは、特定原材料が食品に含まれるかどうかを、製造の現場であっても迅速かつ簡便に利用することができ、しかも精度よく検出できる食品検査方法の提供が望まれている。
【0005】
加工食品の場合、同じ原材料から由来する成分であっても、その製造条件によっては、検査目的とされる特定原材料に含まれている物質が不溶化し抽出されにくいという問題がある。焼成菓子等の加熱によりタンパク質が変性しチオール基がS-S結合を形成して抽出されにくくなっている。また、加工食品に配合される他の成分との相互作用により検査目的とされる特定原材料に含まれている物質が不溶化され、抽出効率が悪くなるということも考えられる。
【0006】
食品からの抽出液を調製する際の抽出効率の悪さは、検査目的とされる特定原材料を精度よく検出したいという要請からは好ましいこととはいえない。また、抽出効率の悪さに起因して検査結果にばらつきがでてしまうことも考えられる。
【0007】
このような問題に対して、例えば、下記特許文献1には、還元剤及び可溶化剤を含有することを特徴とする食品成分抽出液の発明が開示されている。そして、抽出液に蛋白構造を変化させる還元剤、及び界面活性剤、尿素等などからなる可溶化剤を含有させることにより、変性及び/又は未変性の蛋白質を従来より高い効率で抽出することが可能となることが記載されている。
【特許文献1】特開2006−71509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1では、還元剤として、2−メルカプトエタノール、ジチオスレイトール、又はトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(Tris(2-carboxyethyl)phosphine)などが例示されているが、2−メルカプトエタノールやジチオスレイトールは、その刺激臭から、加工食品の製造現場では使用しづらいものであった。また、トリス(2−カルボキシエチル)フォスフィン(Tris(2-carboxyethyl)phosphine)、或いはその類縁還元剤であるトリス(3−ヒドロキシプロピル)フォスフィン(Tris(3-hydroxyprgpyl)phosphine)などは、比較的高価な試薬であるためコスト面で不利であった。更に、これらの還元剤は、比較的強い還元作用を有するので、高濃度溶液が皮膚粘膜に付着すると炎症や火傷の原因となるため、作業者の安全の面でも加工食品の製造現場では使用しづらいものであった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、安価であり、且つ、温和な還元作用を有する還元剤を用いて食品から食品中の成分を抽出する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、食品からの成分抽出のための還元剤として、食品添加物として慣用されている亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩を用いることに着眼し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の食品成分抽出方法は、食品と、亜硫酸塩を含有する抽出液とを混合し、前記食品中の成分を抽出することを特徴とする。より具体的には、抗体を利用したELISA法により食品中の特定原材料の存在の有無及び/又はその量を検査する食品検査方法のための食品成分抽出方法であって、食品と、亜硫酸塩を含有する抽出液とを混合し、前記食品中の成分を抽出することを特徴とする。
【0012】
本発明の食品成分抽出方法によれば、焼成などにより変性してS-S結合を形成したタンパク質等からなる食品中の成分であっても、亜硫酸塩がその可溶性を高めて抽出効率を向上させることができる。また、液状や乳化液状の形態の食品の場合には、その固形分の可溶化を促進させることができる。更に、無臭であり、加工食品の製造現場でも使用しやすい。
【0013】
本発明の食品成分抽出方法においては、前記抽出液に界面活性剤を含有していることが好ましく、その場合、前記界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウムであることが好ましい。この態様によれば、抽出液に界面活性剤を含有するので、食品中の成分の抽出効率を相乗的に上昇させることができる。
【0014】
一方、本発明の食品検査方法は、食品中の特定原材料の存在の有無及び/又はその量を検査する食品検査方法であって、食品に亜硫酸塩を含有する抽出液を接触させて該食品中の成分を抽出した食品抽出液を調製した後、前記食品抽出液を検査目的とされている特定原材料に含まれている物質を特異的に認識する特異抗体に接触させ、免疫学的測定方法を利用して食品中の特定原材料の存在の有無及び/又はその量を検査することを特徴とする。より具体的には、食品中の特定原材料の存在の有無及び/又はその量を検査する食品検査方法であって、食品に亜硫酸塩を含有する抽出液を接触させて該食品中の成分を抽出した食品抽出液を調製した後、前記食品抽出液を検査目的とされている特定原材料に含まれている物質を特異的に認識する抗体に接触させ、ELISA法により食品中の特定原材料の存在の有無及び/又はその量を検査することを特徴とする。
【0015】
本発明の食品検査方法によれば、抽出液中に亜硫酸塩を含有するので、焼成などにより変性してS-S結合を形成したタンパク質等からなる食品中の成分であっても、その可溶性を高めて抽出効率を向上させることができる。また、液状や乳化液状の形態の食品の場合には、その固形分の可溶化を促進させることができる。更に、無臭であり、加工食品の製造現場でも使用しやすい。
【0016】
本発明の食品検査方法においては、前記抽出液に界面活性剤を含有していることが好ましく、その場合、前記界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウムであることが好ましい。
【0017】
一方、本発明の食品検査キットは、食品中の特定原材料の存在の有無及び/又はその量を検査するための食品検査キットであって、(1)抽出液及び該抽出液に添加するための亜硫酸塩、又は、亜硫酸塩が添加された抽出液、及び(2)検査目的とされる特定原材料に含まれる物質を特異的に認識する抗体とを含むことを特徴とする。より具体的には、抗体を利用したELISA法により食品中の特定原材料の存在の有無及び/又はその量を検査するための食品検査キットであって、(1)抽出液及び該抽出液に添加するための亜硫酸塩、又は、亜硫酸塩が添加された抽出液、及び(2)検査目的とされる特定原材料に含まれる物質を特異的に認識する抗体とを含むことを特徴とする。
【0018】
本発明の食品検査キットによれば、還元剤として食品添加物である亜硫酸塩を用いることにより、コスト安く食品検査をすることができる。
【0019】
本発明の食品検査キットにおいては、亜硫酸塩として亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウム及び亜硫酸鉄から選ばれた少なくとも1種を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、食品添加物として慣用されている亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩を、食品からの成分抽出のための還元剤として用いるので、加工食品の製造現場でも安全で使用しやすい。また、安価な還元剤であるため安く食品検査のための抽出を行うことができる。更に、抗体による免疫複合体の形成を測定する際に抽出液中に含有する亜硫酸塩がそのまま持ち込まれて存在していても、かかる免疫複合体の形成を測定する際の該測定に悪影響を及ぼすことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の食品成分抽出方法においては、食品と、亜硫酸塩を含有する抽出液とを混合し、前記食品中の成分を抽出する。その抽出液中には、特定原材料に含まれている物質(以下、「検査目的物質」とする。)が、他の成分と共に、移行する。被検査物の食品の形態は、固形状、半固形状、ゼリー状、液状、乳化液状のいずれの形態のものであってもよい。抽出液中の亜硫酸塩は、タンパク質等のS-S結合を還元してSH基を遊離させることができるので、食品中の成分の可溶性を高めて抽出効率を向上させることができる。また、液状や乳化液状の形態の食品の場合には、その固形分の可溶化を促進することができる。
【0022】
本発明の食品成分抽出方法において用いられる亜硫酸塩としては、食品添加物として慣用されている亜硫酸ナトリウムを好ましく例示できる。亜硫酸塩は2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明の食品成分抽出方法において用いられる亜硫酸塩の、抽出液中の濃度は、被検査物である食品又は「検査目的物質」の特性に応じて適宜調整することができる。例えば、還元剤として亜硫酸ナトリウムを使用した場合には、0.0001〜1M、好ましくは0.005〜0.5M、より好ましくは0.05〜0.2M程度に調整すればよい。
【0024】
また、上記抽出液には、食品中の成分の可溶化を補助するための可溶化補助剤を添加してもよい。可溶化補助剤としては、例えばドデシル硫酸ナトリウム(以下、SDSという)、尿素、ノニオン性界面活性剤など、通常慣用されている可溶化補助剤を使用することができる。可溶化補助剤は2種以上を併用してもよい。
【0025】
上記可溶化補助剤の、抽出液中の濃度は、被検査物である食品又は「検査目的物質」の特性に応じて適宜調整することができる。例えば、可溶化補助剤としてSDSを使用した場合には、0.01〜10w/v%、好ましくは0.03〜5w/v%、より好ましくは0.1〜1w/v%程度に調整すればよい。
【0026】
本発明の食品成分抽出方法において、上記抽出液は、上記亜硫酸塩あるいは上記亜硫酸塩及び上記可溶化補助剤が水性溶媒に溶解されることにより調製される。水性媒体としては、例えば、水、又は通常慣用されているリン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液などを使用することができる。また、抽出以後の操作を容易にすることを考慮に入れれば、上記抽出液のpHは通常pH6〜8.5に調整することが好ましい。
【0027】
抽出のためには、例えば、攪拌、混合、遠心分離、濾過等の周知の手段を適宜に用いて食品抽出液を調製することができる。その際、食品を粉砕し又は、ペースト状にして抽出液との接触面積を増やして、接触混合することが望ましい。これにより、抽出効率を上げることができる。またこのとき、食品と抽出液の質量比は、食品1に対して抽出液10〜100であることが好ましく、これにより、高濃度の食品抽出液を調製することができる。このように抽出した食品抽出液には、食品中の「検査目的物質」が、他の成分と共に、抽出液中に移行する。ここで、本発明において検査目的物質は、特定原材料1つに対して必ずしも1つだけである必要はなく、2つ以上であっても差し支えない。
【0028】
一方、本発明の食品検査方法は、「検査目的物質」を特異的に認識する抗体を用いて、食品中の特定原材料の存在の有無及び/又はその量を検査する食品検査方法である。
【0029】
本発明の食品検査方法においては、まず、上述した方法で、食品から食品中の成分を抽出し、食品抽出液を調製する。そして、後述するように、「検査目的物質」とそれを特異的に認識する抗体との免疫複合体を形成させる必要がある。したがって、上記食品抽出液調製の際の塩濃度、pH、温度、時間等の諸条件は、「検査目的物質」が、その抗体に対する抗原性を失わない範囲である必要がある。
【0030】
そして得られた食品抽出液と、「検査目的物質」を特異的に認識する抗体とを接触させる。これにより、周知の抗原−抗体反応の結合メカニズムにより、免疫複合体が形成される。ここで、上記食品抽出液とは、免疫複合体の形成や後述する免疫学的測定方法のための至適条件となるように、適宜に、希釈、濃縮、pH調製等の処理を施した調製物を含む概念である。かかる免疫複合体の形成を測定する免疫測定方法により、「検査目的物質」の存在を検知することができ、ひいては、食品中の特定原材料の存在の有無及び/又はその量を検査することができる。
【0031】
特定の物質を特異的に認識する特異抗体の調製は当業者に周知である。例えば、上記特許文献1(特開2003−294737号公報)には、「そばの70〜500kDに相当するタンパク質画分を主体とする抗原により免疫化した哺乳動物の血清から得られる当該血清のIgG画分又はポリクローナル抗体」が開示されている、上記記特許文献2(特開2003−294738号公報)には、「落花生の30〜100kDに相当するタンパク質画分を主体とする抗原により免疫化した哺乳動物の血清から得られる当該血清のIgG画分又はポリクローナル抗体」が開示されている、上記記特許文献3(特開2003−294748号公報)には、「卵白由来のタンパク質により免疫化した哺乳動物の血清から得られた抗体」が開示されている。このような周知技術により、「検査目的物質」を特異的に認識する特異抗体の調製をすることができる。
【0032】
本発明の食品検査方法においては、特異抗体による免疫複合体の形成を、周知の免疫学的測定方法によって測定することができる。免疫学的測定方法としてはELISA法やイムノクロマトグラフィーが知られているが、このうち、イムノクロマトグラフィーは、測定機器を用いる必要がなく、目視で簡便に免疫学的測定の結果を判断でき、迅速で感度も高いので好ましく用いられる。イムノクロマトグラフィーの原理は、特開平5−5743号公報や特開2002−202307号公報にも記載されているとおり、当業者には周知である。
【0033】
しかしながら念のために簡単にその原理の一例を説明すると、セルロースメンブレンなどの薄膜状支持体の特定領域(テストライン位置)には第1の特異抗体がバンド状に固定され、その別領域の試料滴下部又はその近傍下流付近には標識された第2の特異抗体が移動可能に保持されている。以下、本発明において、このように構成された抗体担持担体を「イムノクロマトグラフ」という。
【0034】
分析対象物をその溶媒と共に試料滴下部に滴下すると、分析対象物と標識された第2特異抗体が毛細管現象により薄膜状支持体中に展開される。分析対象物に「検査目的物質」が含まれていれば、分析対象物が薄膜状支持体中に展開される間に同じように展開されている第2特異抗体は、「検査目的物質」と結合する。ここで、第2特異抗体は予め標識となる着色又は発色物質が結合されているので、「検査目的物質」に標識が結合することになる。その後、「検査目的物質」がテストライン位置に固定されている第1特異抗体と結合し、「検査目的物質」を挟んで第1特異抗体と第2特異抗体がまるでサンドイッチのように結合する。そうすると、テストライン位置に標識が集合するのでテストライン位置にあたかもバンドが出現するように見える。このバンドの出現によって、分析対象物中に「検査目的物質」が存在していると判断される。一方、分析対象物に「検査目的物質」が含まれていないか、また検出限界以下しか含まれていない場合には、テストライン位置でのバンドは出現しない。このイムノクロマトグラフィーは、分析対象物を試料滴下部に滴下した後、約5〜10分間程度で迅速且つ簡便な方法である。
【0035】
上記標識としては、例えば、金属コロイド、酵素標識、着色ラテックス粒子、炭素粒子などを使用することができるが、金コロイドが抗体を標識しやすいので好ましい。
【0036】
一方、本発明の食品検査キットは、食品中の特定原材料の存在の有無及び/又はその量を検査する方法に好適に用いることができる。特に、上述した本発明の食品検査方法に好ましく用いることができる。
【0037】
本発明の食品検査キットにおいて用いられる亜硫酸塩としては、食品添加物として慣用されている亜硫酸ナトリウムが好ましい。亜硫酸塩は2種以上を併用してもよい。
【0038】
本発明の食品検査キットにおいては、検査目的とされる特定原材料に含まれる物質を特異的に認識する抗体がイムノクロマトグラフに附合していることが望ましい。ここで「附合」とは、二以上の物が結合して、毀損するかまたは過分の費用を費やさなければ分離できない状態にあることを意味する。すなわち、検査目的とされる特定原材料に含まれる物質を特異的に認識する抗体がイムノクロマトグラフに担持、保持、固定等されていることを意味する。そして、上記抗体がイムノクロマトグラフに附合される際には、イムノクロマトグラフを構成するセルロースメンブレンなどの薄膜状支持体に保持又は直接固定される場合のほか、薄膜状支持体に結合しているろ紙等の多孔質性の小片に保持されている場合を例示することができる。
【実施例】
【0039】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0040】
<試験例1> (小麦グリアジンの検出)
下記表1に記載の各加工食品をミキサーにかけて均質化し、均質化したもの1gに、下記表2に示す抽出液19mlを加えて約100rpmのサイクルで12〜16時間振とうした。振とうしたものを3000×gで20分間遠心分離して、上清を濾紙(アドバンテックNo.5A)で濾過し、食品抽出液を調製した。
【0041】
この食品抽出液をモリナガFASPEK小麦測定キット(グリアジン)(株式会社森永生科学研究所製)で測定した。前記食品抽出液は、キットの検体希釈液Iで20倍に希釈された。なお、希釈された食品抽出液中の小麦総たんぱく質濃度が50ng/mlを超えるときは、更に希釈して希釈された食品抽出液中の小麦総たんぱく質濃度が1〜50ng/mlになるように調製した。その後、希釈された食品抽出液は、1次抗体が固定されたプラスチックウェルに100μl注ぎいれられ、1時間インキュベーションされた。プラスチックウェルを調製済み洗浄液で洗浄した後、酵素標識抗体を30分間反応させた。その後、調製済み洗浄液で洗浄し、酵素基質溶液を添加して10分間反応させ、反応停止液で反応を停止させた。反応停止後、30分以内に主波長450nm、副波長620nmで吸光度を測定した。測定した吸光度は、同時に測定して作成した検量線に当てはめて、検体希釈液中の小麦総たんぱく質濃度を求め、さらに、希釈倍率を乗じて試料中小麦総たんぱく質濃度を求めた。ここで、小麦総たんぱく質の測定は各条件下で2回行い、下記表1の値は、その平均値である(以下この明細書で説明する試験例の結果はすべて2重測定の平均値で示している。)
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
表1に示すように、亜硫酸ナトリウムとSDSを含む抽出液は、両者を含まない抽出液と比較して高い抽出効率があることが判明した。また、亜硫酸ナトリウムとSDSを含む抽出液による抽出効率は、2−メルカプトエタノールとSDSを含む抽出液とほぼ同等の値であった。
【0045】
<試験例2> (そば可溶性タンパク質の検出)
下記表3に記載の各加工食品を用いて、試験例1と同じ操作により、それら加工食品からの食品抽出液を調製した。抽出液は表2の組成のものを使用した。
【0046】
この食品抽出液をモリナガFASPEKそば測定キット(株式会社森永生科学研究所製)で測定し、試験例1と同様にして、そばたんぱく質の濃度を求めた。
【0047】
【表3】

【0048】
表3に示すように、亜硫酸ナトリウムとSDSを含む抽出液は、両者を含まない抽出液と比較して高い抽出効率があることが判明した。また、亜硫酸ナトリウムとSDSを含む抽出液による抽出効率は、2−メルカプトエタノールとSDSを含む抽出液とほぼ同等の値であった。
【0049】
<試験例3>(イムノクロマトグラフィーによる牛乳カゼインの検出)
下記に示す加工食品の原材料に牛乳を凍結乾燥したものを1g当り10μg配合して、牛乳カゼインを含有するモデル加工食品を調製した。各加工食品の調製は常法に従い行なった。
・イチゴジャム:いちご58部、糖類41部、ペクチン0.8部、クエン酸0.2部
・ジュース:オレンジ濃縮果汁9部、砂糖9部、クエン酸0.16部、アスコルビン酸0.02部、水81.8部
・ビスケット:小麦粉67部、ショートニング6.7部、砂糖13.4部、食塩0.5部、膨剤0.9部、酸剤0.1部、乳化剤0.07部、プロテアーゼ0.01部
【0050】
上記牛乳カゼイン含有モデル加工食品から、試験例1と同様にして、上記実施例1又は比較例1の抽出液で各試料抽出液を調製した。その抽出液中の牛乳カゼインを、イムノクロマトグラフィーにより検出した。イムノクロマトグラフィーによる測定は、小麦グリアジン検出用キットである「食品アレルゲン検査キット ナノトラップ小麦(グリアジン)」(商品名、ロート製薬株式会社製)及び牛乳カゼイン用キットである「食品アレルゲン検査キット ナノトラップ牛乳(カゼイン)」(商品名、ロート製薬株式会社製)を用いて行った。具体的には、各試料抽出液を20倍希釈したもの200μlを、イムノクロマトテストプレートの試料滴下部に滴下し、15分後にグリアジン又はカゼインに対する特異抗体が担持されたテストライン位置でのバンドの出現の有無、又はその濃淡を観察した。この結果を表4に示す。
【0051】
【表4】

【0052】
表4に示すとおり、還元剤として2−メルカプトエタノール(2−ME)を含有する抽出液(比較例1)で調製した各試料抽出液についてのイムノクロマトグラフィーからは、テストライン出現位置にグリアジンに対する特異抗体が担持されたテストプレート、及びテストライン出現位置にカゼインに対する特異抗体を担持されたテストプレートの両方で、そのテストライン出現位置に濃いバンドが観察された。このバンドは、2−メルカプトエタノール(2−ME)を含有する抽出液のみを試料滴下部に滴下して測定した場合にも観察されたことから、偽陽性反応によるものであることが明らかとなった。
【0053】
一方、還元剤として亜硫酸ナトリウム(Na2SO)を含有する抽出液(実施例1)を用いた場合には、テストライン出現位置にカゼインに対する特異抗体を担持されたテストプレートのみから、テストライン出現位置に陽性バンドが観察され、偽陽性反応を示さなかった。
【0054】
したがって、抗体に金コロイドを結合させて利用するイムノクロマトグラフィー(ラテラルフロー)による測定法においては、チオール基を有する還元剤(2−メルカプトエタノール)が抗体に標識した金コロイドやラテックスなどの粒子を凝集させて偽陽性反応の原因になることが考えられた。そして、亜硫酸ナトリウム(Na2SO)を用いることにより、その偽陽性反応を回避でき、正確な検出ができることが明らかとなった。
【0055】
以上の試験例1〜3の結果から、食品からの成分抽出のための還元剤として、安価であり、且つ、温和な還元作用を有する亜硫酸塩が有用であることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体を利用したELISA法により食品中の特定原材料の存在の有無及び/又はその量を検査する食品検査方法のための食品成分抽出方法であって、食品と、亜硫酸塩を含有する抽出液とを混合し、前記食品中の成分を抽出することを特徴とする食品成分抽出方法。
【請求項2】
前記抽出液に界面活性剤を含有していることを特徴とする請求項1記載の食品成分抽出方法。
【請求項3】
前記界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウムである請求項2記載の食品成分抽出方法。
【請求項4】
食品中の特定原材料の存在の有無及び/又はその量を検査する食品検査方法であって、食品に亜硫酸塩を含有する抽出液を接触させて該食品中の成分を抽出した食品抽出液を調製した後、前記食品抽出液を検査目的とされている特定原材料に含まれている物質を特異的に認識する抗体に接触させ、ELISA法により食品中の特定原材料の存在の有無及び/又はその量を検査することを特徴とする食品検査方法。
【請求項5】
前記抽出液に界面活性剤を含有している請求項4に記載の食品検査方法。
【請求項6】
前記界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウムである請求項5に記載の食品検査方法。
【請求項7】
抗体を利用したELISA法により食品中の特定原材料の存在の有無及び/又はその量を検査するための食品検査キットであって、(1)抽出液及び該抽出液に添加するための亜硫酸塩、又は、亜硫酸塩が添加された抽出液、及び(2)検査目的とされる特定原材料に含まれる物質を特異的に認識する抗体とを含むことを特徴とする食品検査キット。
【請求項8】
亜硫酸塩として亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウム及び亜硫酸鉄から選ばれた少なくとも1種を含有する請求項7記載の食品検査キット。

【公開番号】特開2013−33062(P2013−33062A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−239066(P2012−239066)
【出願日】平成24年10月30日(2012.10.30)
【分割の表示】特願2007−309930(P2007−309930)の分割
【原出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000006116)森永製菓株式会社 (130)