食感の生理学的評価装置
【課題】 本発明は,複雑な食品の官能評価を適切かつ客観的に行うことができる食感の生理学的評価装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は,基本的には,被験者の左右両側の咬筋及び舌骨上筋群の筋電図を測定することで,下顎運動及び舌運動を把握することができ,さらに,食品が嚥下されるタイミングを計測し,上記の筋電図により得られるデータと合わせて解析を行うことで,複雑な食感を客観的かつ生理学的に評価できるという知見に基づく。この装置は,基本的には,被験者の咬筋部位に取り付けられる第1の筋電計11と,被験者の舌骨上筋群部位に取り付けられる第2の筋電計12と,被験者ののど部に取り付けられる嚥下計測計13と,第1の筋電計11,第2の筋電計12及び嚥下計測計13と接続された制御装置14とを含む。
【解決手段】 本発明は,基本的には,被験者の左右両側の咬筋及び舌骨上筋群の筋電図を測定することで,下顎運動及び舌運動を把握することができ,さらに,食品が嚥下されるタイミングを計測し,上記の筋電図により得られるデータと合わせて解析を行うことで,複雑な食感を客観的かつ生理学的に評価できるという知見に基づく。この装置は,基本的には,被験者の咬筋部位に取り付けられる第1の筋電計11と,被験者の舌骨上筋群部位に取り付けられる第2の筋電計12と,被験者ののど部に取り付けられる嚥下計測計13と,第1の筋電計11,第2の筋電計12及び嚥下計測計13と接続された制御装置14とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,食感を生理学的に評価するための装置及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば,「食べ易さ」,「飲み込みやすさ」,「口溶け」,「食べ応え」,及び「食感の単調さ・複雑さ」は,口に含んだ瞬間から飲み込むまでの一連の全ての活動を評価することでもたらされる感覚である。こうした感覚の視覚化・数値化は,食品試料の力学的特性や官能評価では困難であり,例えば筋電位計測を用いた生理学的評価が有用と考えられている。
【0003】
特開2009−39516号公報(下記,特許文献1)には,飲食品の嚥下時におけるヒト咽頭部の筋肉の表面筋電位の波形データを周波数で解析することで,嚥下感覚(のどごし感)を評価する方法が開示されている。この文献で「のどごし感」を評価する主な対象は,飲料である。このため,咀嚼について測定されていない。また,この方法は,ヒト咽頭部の筋肉の表面筋電位の波形データを周波数解析するものであるため,まさに液体の「のどごし感」しか評価できない。
【0004】
特開2001−218769号公報(下記,特許文献2)には,食品が嚥下される際の咽頭部における物性を,超音波を用いたドップラー法によって測定する装置が開示されている。この方法は,食品を飲み込んだ時の流速を,ドップラー効果を利用して測定することで,液体の「のどごし感」を評価するものである。
【0005】
特開2005−34343号公報(下記,特許文献3)には,咬合力を測定することにより,食感を再現するための装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−39516号公報
【特許文献2】特開2001−218769号公報
【特許文献3】特開2005−34343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1及び2は,主に液体(たとえば,ビール)の「のどごし感」を評価するものである。このため,これらの文献では,関心となる部位が「のど」の部位であり,咀嚼段階については検討されていない。このため,食品の官能評価を適切かつ客観的に行うことはできない。
【0008】
上記の特許文献3は,単に咬合力を再現する装置である。このため,この文献に開示された装置では,食品の官能評価を適切かつ客観的に行うことはできない。
【0009】
そこで,本発明は,複雑な食品の官能評価を適切かつ客観的に行うことができる食感の生理学的評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は,基本的には,被験者の左右両側の咬筋及び舌骨上筋群の筋電図を測定することで,下顎運動及び舌運動を把握することができ,これにより食感を客観的かつ生理学的に評価できるという知見に基づく。さらに,例えば,嚥下音を採取して,食品が嚥下されるタイミングを計測し,上記の筋電図により得られるデータと合わせて解析を行うことで,複雑な食感を客観的かつ生理学的に評価できるという知見に基づく。
【0011】
本発明の第1の側面は食感の生理学的評価装置に関する。この装置は,基本的には,被験者の咬筋部位に取り付けられる第1の筋電計11と,被験者の舌骨上筋群部位に取り付けられる第2の筋電計12と,被験者ののど部に取り付けられる嚥下計測計13と,第1の筋電計11,第2の筋電計12及び嚥下計測計13と接続された制御装置14とを含む。
【0012】
第1の筋電計11は,被験者の咬筋部位に取り付けられ,被験者の咬筋の筋電情報を制御装置14へ伝えるための装置である。第1の筋電計11は,被験者の左右の咬筋部位にそれぞれ取り付けられてもよい。第2の筋電計12は,被験者の舌骨上筋群部位に取り付けられ,被験者の舌骨上筋群の筋電情報を制御装置14へ伝えるための装置である。嚥下計測計13は,被験者ののど部に取り付けられ,被験者の口腔内に入った食品(飲料や固形物)が,のみ込まれるタイミングを測定するための装置である。嚥下計測計13の例は,被験者ののど(たとえば,のど仏部分)に取り付けられたマイクロフォンである。嚥下計測計13の別の例は,特許文献1に開示されたヒト咽頭部の筋肉の表面筋電計や,特許文献2に開示されたドップラー計測計である。
【0013】
制御装置14は,第1の筋電計11,第2の筋電計12及び嚥下計測計13が計測した計測情報を受け取り,各種演算を行うための装置である。制御装置14は,摂食開始時間計測部21と,嚥下時間演算部22と,筋活動量演算部23と,筋活動量演算部24と,を有する。摂食開始時間計測部21は,第1の筋電計11及び第2の筋電計12のいずれかから受け取った計測情報に基づき,食品が口腔内に入れられる時間を計測するための装置である。嚥下時間演算部22は,嚥下計測計13が計測した計測情報及び摂食開始時間計測部21が計測した時間に基づき,食品が嚥下されるのに要した時間を求めるための装置である。咬筋の筋活動量演算部23は,第1の筋電計11の計測情報に基づいて,咬筋の筋活動量を求めるための装置である。舌骨上筋群の筋活動量演算部24は,第2の筋電計12の計測情報に基づいて,舌骨上筋群の筋活動量を求めるための装置である。
【0014】
制御装置14は,時間分節部25と,単位時間の筋活動量演算部26とをさらに有してもよい。時間分節部25は,嚥下時間演算部22が求めた食品が嚥下されるのに要した時間に基づいて,食品が口腔内に入れられる時間から食品が嚥下されるまでの時間を複数の時期に分けるための装置である。筋活動量演算部26は,時間分節部25が分節した,複数の時期のそれぞれについて,単位時間あたりの咬筋の筋活動量及び単位時間あたりの舌骨上筋群の筋活動量を求める単位時間の装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の食感の生理学的評価装置は,被験者の左右両側の咬筋及び舌骨上筋群の筋電図を測定することで,下顎運動及び舌運動を把握し,嚥下計測計により食品が嚥下される時間を計測するので,食品の官能評価を適切かつ客観的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は,本発明の食感の生理学的評価装置のブロック図である。
【図2】図2は,制御装置の基本構成を示すブロック図である。
【図3】図3は,実施例1において,各種センサを取り付けた様子を示す図面代用写真である。
【図4】図4は,実施例1における測定試料を口腔内に入れてから完全に嚥下するまでの処理時間(秒)を示すグラフである。白丸は対照プロセスチーズを,黒丸は新規開発品(スマートチーズ)を示す。
【図5】図5は,実施例1における左右咬筋の筋活動量の合算値(%Vrms)を示すグラフである。白丸は対照プロセスチーズを,黒丸は新規開発品(スマートチーズ)を示す。
【図6】図6は,実施例1における舌骨上筋群の筋活動量(%Vrms)を示すグラフである。白丸は対照プロセスチーズを,黒丸は新規開発品(スマートチーズ)を示す。
【図7(a)】図7(a)は,実施例1における前期,中期,及び後期の左右咬筋の筋活動量の変化を示すグラフである。白丸は対照プロセスチーズを,黒丸は新規開発品(スマートチーズ)を示す。
【図7(b)】図7(b)は,実施例1における前期,中期,及び後期の舌骨上筋群の筋活動量の変化を示すグラフである。白丸は対照プロセスチーズを,黒丸は新規開発品(スマートチーズ)を示す。
【図8】図8は,実施例1における舌骨上筋群の,単位時間あたりの筋活動量の変化を時間軸に沿って解析した結果を示すグラフである。白丸は対照プロセスチーズを,黒丸は新規開発品(スマートチーズ)を示す。
【図9】図9は,咬筋について,舌骨上筋群と同様の解析を行なった結果を示すグラフである。白丸は対照プロセスチーズを,黒丸は新規開発品(スマートチーズ)を示す。
【図10】図10は,実施例2における各試料における喫食量と処理時間の関係を示すグラフである。白丸は明治Bigプリン,黒丸はなめらかプリン,黒三角は焼プリンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下,図面を参照しつつ本発明を具体的に説明する。本発明は,以下に説明する実施の形態に限定されない。本発明は,以下に説明する実施の形態に適宜修正を加えたものも含む。図1は,本発明の食感の生理学的評価装置のブロック図である。図1に示される通り,この装置は,基本的には,被験者の咬筋部位に取り付けられる第1の筋電計11と,被験者の舌骨上筋群部位に取り付けられる第2の筋電計12と,被験者ののど部に取り付けられる嚥下計測計13と,第1の筋電計11,第2の筋電計12及び嚥下計測計13と接続された制御装置14とを含む。
【0018】
第1の筋電計11は,被験者の咬筋部位に取り付けられ,被験者の咬筋の筋電情報を制御装置14へ伝えるための装置である。第1の筋電計11は,被験者の左右の咬筋部位にそれぞれ取り付けられてもよい。被験者の咬筋の筋電情報を計測する装置は,これらの筋電図をとるための装置として,すでに知られている。このため,本発明では,すでに知られた咬筋の筋電計を適宜用いることができる。
【0019】
第2の筋電計12は,被験者の舌骨上筋群部位に取り付けられ,被験者の舌骨上筋群の筋電情報を制御装置14へ伝えるための装置である。被験者の舌骨上筋群の筋電情報を計測する装置は,これらの筋電図をとるための装置として,すでに知られている。このため,本発明では,すでに知られた舌骨上筋群の筋電計を適宜用いることができる。
【0020】
嚥下計測計13は,被験者ののど部に取り付けられ,被験者の口腔内に入った食品(飲料や固形物)が,のみ込まれるタイミングを測定するための装置である。嚥下計測計13の例は,被験者ののど(たとえば,のど仏部分)に取り付けられたマイクロフォンである。嚥下計測計13の別の例は,特許文献1に開示されたヒト咽頭部の筋肉の表面筋電計や,特許文献2に開示されたドップラー計測計である。
【0021】
図2は,制御装置14の基本構成を示すブロック図である。制御装置14は,第1の筋電計11,第2の筋電計12及び嚥下計測計13が計測した計測情報を受け取り,各種演算を行うための装置である。図2に示される通り,制御装置14の例は,入力部31,出力部32,演算部33,制御部34,及び記憶部35を有する。そして,それぞれの要素はバスにより接続されており,情報の授受を行うことができるようにされている。また,記憶部35のメインメモリには制御プログラムが格納されている。制御部34は,入力部31からの入力情報を解析するとともに,制御プログラムからの制御指令に基づいて,適宜記憶部35から必要な情報を読み出し,演算部34により必要な演算処理を行わせ,記憶部35に記憶する。そして,演算処理された情報を適宜出力部32から出力する。制御装置14は,例えば,インターネット,LAN,又は無線LANにより他のクライアント又はサーバと情報の授受を行うことができるように接続されてもよい。
【0022】
制御装置14は,摂食開始時間計測部21と,嚥下時間演算部22と,咬筋の筋活動量演算部23と,舌骨上筋群の筋活動量演算部24と,を有する。こられの各要素は,ハードウェアにより実現されてもよいし,ハードウェアとソフトウェアの協働により実現されてもよい。摂食開始時間計測部21は,第1の筋電計11及び第2の筋電計12のいずれかから受け取った計測情報に基づき,食品が口腔内に入れられる時間を計測するための装置である。嚥下時間演算部22は,嚥下計測計13が計測した計測情報及び摂食開始時間計測部21が計測した時間に基づき,食品が嚥下されるのに要した時間を求めるための装置である。咬筋の筋活動量演算部23は,第1の筋電計11の計測情報に基づいて,咬筋の筋活動量を求めるための装置である。舌骨上筋群の筋活動量演算部24は,第2の筋電計12の計測情報に基づいて,舌骨上筋群の筋活動量を求めるための装置である。
【0023】
以下,本発明の食感の生理学的評価装置の動作例を説明する。食品が,被験者により摂取される。すると,被験者による咀嚼運動が開始される。咀嚼運動が開始されると,被験者の咬筋及び舌骨上筋群の活動が盛んになる。
【0024】
第1の筋電計11は,被験者の左右の咬筋の筋電情報を計測し,制御装置14へ伝える。一方,第2の筋電計12は,被験者の舌骨上筋群の筋電情報を制御装置14へ伝える。制御装置14は,適宜記憶部35に第1の筋電計11及び第2の筋電計12の計測情報を記憶する。摂食開始時間計測部21は,記憶部35に記憶される第1の筋電計11及び第2の筋電計12の計測情報を比較して,咬筋の筋電情報又は舌骨上筋群の筋電情報が著しく増加した場合に,摂食開始と判断する。たとえば,摂食開始時間計測部21は,第1の筋電計11及び第2の筋電計12の計測情報の1秒又は数秒の平均値を求め,この平均値が平常時の所定倍以上(たとえば2倍以上,又は3倍以上)となった場合に,摂食が開始されたと判断してもよい。また,第1の筋電計11及び第2の筋電計12の計測情報から解析された咬筋の筋活動量又は舌骨上筋群の筋活動量が所定値以上となった場合に,摂食が開始されたと判断してもよい。この場合,所定値を記憶部35に記憶しておき,摂食開始時間計測部21は,求められた咬筋の筋活動量又は舌骨上筋群の筋活動量と,記憶部から読みだされた所定値とを比較することで,摂食開始時間を求めればよい。
【0025】
嚥下時間演算部22が,嚥下計測計13が計測した計測情報及び摂食開始時間計測部21が計測した時間に基づき,食品が嚥下されるのに要した時間を求める。たとえば,嚥下計測計13がマイクロフォンの場合,記憶部34は嚥下されたことを判断するための閾値を記憶する。制御装置14は,入力部31を介して,嚥下計測計13が計測した計測情報が入力されると,記憶部34が記憶した閾値を読み出し,演算部に計測値と閾値とを比較する演算を行わせる。そして,計測値が閾値をこえた場合に,食品が嚥下されたと判断する。そして,摂食開始時間計測部21は,食品が嚥下された時間を記憶部34に記憶する。そして,摂食開始時間計測部21は,記憶部34から,摂食開始時間と食品が嚥下された時間とを読み出して,演算部33に食品が嚥下されるのに要した時間を求めさせる。このようにして,嚥下時間演算部22が,食品が嚥下されるのに要した時間を求める。
【0026】
咬筋の筋活動量演算部23は,第1の筋電計11の計測情報に基づいて,咬筋の筋活動量を求める。この咬筋の筋活動量は,左右の咬筋の合計筋活動量であってもよい。舌骨上筋群の筋活動量演算部24は,第2の筋電計12の計測情報に基づいて,舌骨上筋群の筋活動量を求める。制御装置14は,筋電図を求めるのと同様の方法で,計測情報に基づいて筋電を示す波形を求める。そして,たとえば,最大筋電位を100%として,計測中における筋電位を交流電圧の実効値(Vrms)により正規化する。そして,各サイクルの波形の面積を求めることで,仕事量に関する相対値を得る。
【0027】
上記のようにすることで,本発明の装置は,咬筋の筋活動量,舌骨上筋群の筋活動量,及び食品が嚥下されるのに要した時間を求めることができる。そして,複数の食品について,こられのデータを比較することで,のどごしのみならす,口腔内及び咽頭を含む様々な筋肉の運動を考慮した食感評価を達成できる。
【0028】
本発明の好ましい態様は,制御装置14が,時間分節部25と,単位時間の筋活動量演算部26とをさらに有するものである。時間分節部25は,嚥下時間演算部22が求めた食品が嚥下されるのに要した時間に基づいて,食品が口腔内に入れられる時間から食品が嚥下されるまでの時間を複数の時期に分けるための装置である。筋活動量演算部26は,時間分節部25が分節した,複数の時期のそれぞれについて,単位時間あたりの咬筋の筋活動量及び単位時間あたりの舌骨上筋群の筋活動量を求めるための装置である。
【0029】
時間分節部25は,嚥下時間演算部22が求めた食品が嚥下されるのに要した時間に基づいて,食品が口腔内に入れられる時間から食品が嚥下されるまでの時間を複数の時期に分ける。たとえば,食品が嚥下されるまでの時間が15秒であれば,5秒ずつ前期,中期及び後期のように分けてもよい。この処理は,たとえば,記憶部に記憶された食品が嚥下されるまでの時間,期間の分割数,及び分割割合に関する情報を読み出す。そのうえで,期間の分割数,及び分割割合に関する情報に基づいて,食品が嚥下されるまでの時間を分節すればよい。たとえば,食品が嚥下されるまでの時間が15秒であり,期間の分割数が3で,分割割合が1:1:1の場合,5秒ずつ前期,中期及び後期のように分ければよい。そして,この5秒ずつという情報を記憶部34に標準分節時間として記憶してもよい。そのうえで,他の食品についても,5秒ずつ前期,中期及び後期に合わせて分節して評価してもよい。
【0030】
単位時間の筋活動量演算部26は,複数の時期のそれぞれについて,単位時間あたりの咬筋の筋活動量及び単位時間あたりの舌骨上筋群の筋活動量を求める。たとえば,先の例では,前期,中期及び後期の平均値(1秒当たり)を求めてもよい。単位時間の筋活動量演算部26は,記憶部から筋活動量を読み出すとともに,時間分節部25による分節時間を読み出して,単位時間当たりの筋活動量を求める演算を行えばよい。
【0031】
本発明は,コンピュータを,摂食開始時間計測手段と,嚥下時間演算手段と,咬筋の筋活動量演算手段と,舌骨上筋群の筋活動量演算手段とを含む手段を実現する装置として機能させるためのプログラムをも提供する。摂食開始時間計測手段,嚥下時間演算手段,咬筋の筋活動量演算手段,舌骨上筋群の筋活動量演算手段は,それぞれ,摂食開始時間計測部21,嚥下時間演算部22,咬筋の筋活動量演算部23,舌骨上筋群の筋活動量演算部24に対応する手段である。また,本発明は,コンピュータを上記の手段のみならず,時間分節手段及び嚥下時間演算手段を含む手段として機能させるためのプログラムをも提供する。
【0032】
本発明は,さらに上記のプログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な情報記録媒体をも提供する。このような情報記録媒体の例は,DVD,CD,FD,メモリーカード,メモリースティック及びHDである。
【実施例1】
【0033】
プロセスチーズの食感に関する筋電図学的評価
実施例1は,年齢22〜42歳の健常成人7名を被験者とした実験に関する。試料として,対照プロセスチーズ(従来の一般的なプロセスチーズ),および新規開発品(スマートチーズ)を2.1×2.8×8 mmの一口大の大きさにカットしたものを使用した。被験者の左右両側の咬筋及び舌骨上筋群に筋電計を取り付けた。また,被験者の喉頭部にマイクロフォンを取り付けた。左右両側の咬筋は下顎運動を反映する。また,舌骨上筋群は舌運動を反映する。嚥下音を採取することで,嚥下のタイミングを計測できる。図3は,実施例1において,各種センサを取り付けた様子を示す図面代用写真である。被験者に各々のプロセスチーズを6回ずつ摂食してもらい,試料を口腔内に入れてから完全に嚥下するまでの筋電図を測定した。測定した筋活動を生体電器アンプに導出し,BIOPACシステムズ社製MP150システムを用いてパソコンにデータを取り込んだ。
【0034】
採取した筋電図は,原波形のマイナスの部分をプラスに折り返し,積分波形に変換し,全ての被験作業の中で各々の筋についての最大筋電位を100%としてその他の筋電位を%Vrms(交流電圧の実効値)として正規化することで筋活動量を求めた。さらに,波形の面積を解析ソフト(BIOPACシステムズ社製Acqknowledge
Ver. 3.9.0)を用いて筋活動量を解析した。なお,波形の面積は交流の1サイクルの間の2乗の平均の平方根(root mean square)とよばれ,筋肉の仕事量と相関するといわれているものである。解析項目は,試料を口腔内に入れてから完全に嚥下するまでの処理時間,左右咬筋の筋活動量を合算したもの及び舌骨上筋群の筋活動量とした。
さらに,経時的な筋活動量の変化を検討するために,処理時間を前期,中期,後期に3分割し,各セクションでの咬筋および舌骨上筋群の筋活動量,および,単位時間当たりの筋活動量を求めた。得られたそれぞれの結果を分析項目ごとに比較検討した。
【0035】
図4は,実施例1における測定試料を口腔内に入れてから完全に嚥下するまでの処理時間(秒)を示すグラフである。図4から,対照プロセスチーズと比較して新規開発品は,処理時間を有意に短縮したことがわかる。図5は,実施例1における左右咬筋の筋活動量の合算値(%Vrms)を示すグラフである。図5から,対照プロセスチーズと比較して新規開発品は,筋活動量が有意に少なく,下顎運動が少ないことが示された。図6は,実施例1における舌骨上筋群の筋活動量(%Vrms)を示すグラフである。図6から,新規開発品は,対照プロセスチーズと比較して,筋活動量が有意に少なく,舌運動も少ないことが示された。
【0036】
図7(a)は,実施例1における前期,中期,及び後期の左右咬筋の筋活動量の変化を示すグラフである。図7(b)は,実施例1における前期,中期,及び後期の舌骨上筋群の筋活動量の変化を示すグラフである。実施例1における筋活動量は仕事量と相関している。図7(a)及び図7(b)に示されるように,すべてのセクションにおいて,対照プロセスチーズと比較して新規開発品の方が小さな仕事量で処理できることが示された。
【0037】
図8は,実施例1における舌骨上筋群の,単位時間あたりの筋活動量の変化を時間軸に沿って解析した結果を示すグラフである。各プロットは各試料の前中後セクションの時間の中央に相当する位置に配置している。前期では,対照プロセスチーズと比較して新規開発品の方が高値を示したが,その後は,対照プロセスチーズと新規開発品の相違は認められなかった。しかしながら,新規開発品は処理時間が短いことから,各セクションおよび全体の仕事量が小さいことが推察された。
【0038】
図9は,咬筋について,舌骨上筋群と同様の解析を行なった結果を示すグラフである。図9に示される通り,新規開発品のほうが前期,中期で高い値を示したが,処理終了直前には従来品と同様の単位時間あたりの筋活動量で処理していることが示された。よって,新規開発品は,始めは大きな仕事量を必要とするが,その後急激に小さな仕事量で処理できることが明らかとなった。
【0039】
以上の結果より,新規開発品であるスマートチーズの食感を客観的に評価できることが明らかとなった。また,これらの結果は,官能評価,物性測定の結果と同等の結果が得られることも明らかとなり,本評価方法は,官能評価や物性測定の結果を的確に定量的に示すことができる。
【実施例2】
【0040】
喫食量と処理時間による食感の評価
実施例2では,年齢22〜42歳の健常成人3名を被験者として実験を行った。試料として,明治Bigプリン,なめらかプリン,及び焼プリンの3種を使用した。各々の試料を,3g,7g,15g,及び30gになるように規定のスプーンにのせ,試料が被験者の口腔内に入れられてから完全に嚥下されるまでの処理時間を測定した。処理時間の測定方法は実施例1と同様の方法で行った。
【0041】
図10は,実施例2における各試料における喫食量と処理時間の関係を示すグラフである。図10から,明治Bigプリン(白丸)では,喫食量と処理時間に明確な量依存性が認められた。このことは,口腔内で処理されたものを順次嚥下するという単調な食感を表現しているといえる。また,なめらかプリン(黒丸)については,喫食量が少量(3g, 及び7g)の場合は,処理時間に変化が無かった。一方,7g以上の喫食量では,喫食量と処理時間に明確な量依存性が認められた。一方,焼プリン(黒三角)では,15g以上の喫食量で処理時間が大きく変化し,処理するのに口腔内で精緻な調整が必要であることが客観的に評価できた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は,食品用評価機器の分野で好ましく利用されうる。
【技術分野】
【0001】
本発明は,食感を生理学的に評価するための装置及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば,「食べ易さ」,「飲み込みやすさ」,「口溶け」,「食べ応え」,及び「食感の単調さ・複雑さ」は,口に含んだ瞬間から飲み込むまでの一連の全ての活動を評価することでもたらされる感覚である。こうした感覚の視覚化・数値化は,食品試料の力学的特性や官能評価では困難であり,例えば筋電位計測を用いた生理学的評価が有用と考えられている。
【0003】
特開2009−39516号公報(下記,特許文献1)には,飲食品の嚥下時におけるヒト咽頭部の筋肉の表面筋電位の波形データを周波数で解析することで,嚥下感覚(のどごし感)を評価する方法が開示されている。この文献で「のどごし感」を評価する主な対象は,飲料である。このため,咀嚼について測定されていない。また,この方法は,ヒト咽頭部の筋肉の表面筋電位の波形データを周波数解析するものであるため,まさに液体の「のどごし感」しか評価できない。
【0004】
特開2001−218769号公報(下記,特許文献2)には,食品が嚥下される際の咽頭部における物性を,超音波を用いたドップラー法によって測定する装置が開示されている。この方法は,食品を飲み込んだ時の流速を,ドップラー効果を利用して測定することで,液体の「のどごし感」を評価するものである。
【0005】
特開2005−34343号公報(下記,特許文献3)には,咬合力を測定することにより,食感を再現するための装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−39516号公報
【特許文献2】特開2001−218769号公報
【特許文献3】特開2005−34343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1及び2は,主に液体(たとえば,ビール)の「のどごし感」を評価するものである。このため,これらの文献では,関心となる部位が「のど」の部位であり,咀嚼段階については検討されていない。このため,食品の官能評価を適切かつ客観的に行うことはできない。
【0008】
上記の特許文献3は,単に咬合力を再現する装置である。このため,この文献に開示された装置では,食品の官能評価を適切かつ客観的に行うことはできない。
【0009】
そこで,本発明は,複雑な食品の官能評価を適切かつ客観的に行うことができる食感の生理学的評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は,基本的には,被験者の左右両側の咬筋及び舌骨上筋群の筋電図を測定することで,下顎運動及び舌運動を把握することができ,これにより食感を客観的かつ生理学的に評価できるという知見に基づく。さらに,例えば,嚥下音を採取して,食品が嚥下されるタイミングを計測し,上記の筋電図により得られるデータと合わせて解析を行うことで,複雑な食感を客観的かつ生理学的に評価できるという知見に基づく。
【0011】
本発明の第1の側面は食感の生理学的評価装置に関する。この装置は,基本的には,被験者の咬筋部位に取り付けられる第1の筋電計11と,被験者の舌骨上筋群部位に取り付けられる第2の筋電計12と,被験者ののど部に取り付けられる嚥下計測計13と,第1の筋電計11,第2の筋電計12及び嚥下計測計13と接続された制御装置14とを含む。
【0012】
第1の筋電計11は,被験者の咬筋部位に取り付けられ,被験者の咬筋の筋電情報を制御装置14へ伝えるための装置である。第1の筋電計11は,被験者の左右の咬筋部位にそれぞれ取り付けられてもよい。第2の筋電計12は,被験者の舌骨上筋群部位に取り付けられ,被験者の舌骨上筋群の筋電情報を制御装置14へ伝えるための装置である。嚥下計測計13は,被験者ののど部に取り付けられ,被験者の口腔内に入った食品(飲料や固形物)が,のみ込まれるタイミングを測定するための装置である。嚥下計測計13の例は,被験者ののど(たとえば,のど仏部分)に取り付けられたマイクロフォンである。嚥下計測計13の別の例は,特許文献1に開示されたヒト咽頭部の筋肉の表面筋電計や,特許文献2に開示されたドップラー計測計である。
【0013】
制御装置14は,第1の筋電計11,第2の筋電計12及び嚥下計測計13が計測した計測情報を受け取り,各種演算を行うための装置である。制御装置14は,摂食開始時間計測部21と,嚥下時間演算部22と,筋活動量演算部23と,筋活動量演算部24と,を有する。摂食開始時間計測部21は,第1の筋電計11及び第2の筋電計12のいずれかから受け取った計測情報に基づき,食品が口腔内に入れられる時間を計測するための装置である。嚥下時間演算部22は,嚥下計測計13が計測した計測情報及び摂食開始時間計測部21が計測した時間に基づき,食品が嚥下されるのに要した時間を求めるための装置である。咬筋の筋活動量演算部23は,第1の筋電計11の計測情報に基づいて,咬筋の筋活動量を求めるための装置である。舌骨上筋群の筋活動量演算部24は,第2の筋電計12の計測情報に基づいて,舌骨上筋群の筋活動量を求めるための装置である。
【0014】
制御装置14は,時間分節部25と,単位時間の筋活動量演算部26とをさらに有してもよい。時間分節部25は,嚥下時間演算部22が求めた食品が嚥下されるのに要した時間に基づいて,食品が口腔内に入れられる時間から食品が嚥下されるまでの時間を複数の時期に分けるための装置である。筋活動量演算部26は,時間分節部25が分節した,複数の時期のそれぞれについて,単位時間あたりの咬筋の筋活動量及び単位時間あたりの舌骨上筋群の筋活動量を求める単位時間の装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の食感の生理学的評価装置は,被験者の左右両側の咬筋及び舌骨上筋群の筋電図を測定することで,下顎運動及び舌運動を把握し,嚥下計測計により食品が嚥下される時間を計測するので,食品の官能評価を適切かつ客観的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は,本発明の食感の生理学的評価装置のブロック図である。
【図2】図2は,制御装置の基本構成を示すブロック図である。
【図3】図3は,実施例1において,各種センサを取り付けた様子を示す図面代用写真である。
【図4】図4は,実施例1における測定試料を口腔内に入れてから完全に嚥下するまでの処理時間(秒)を示すグラフである。白丸は対照プロセスチーズを,黒丸は新規開発品(スマートチーズ)を示す。
【図5】図5は,実施例1における左右咬筋の筋活動量の合算値(%Vrms)を示すグラフである。白丸は対照プロセスチーズを,黒丸は新規開発品(スマートチーズ)を示す。
【図6】図6は,実施例1における舌骨上筋群の筋活動量(%Vrms)を示すグラフである。白丸は対照プロセスチーズを,黒丸は新規開発品(スマートチーズ)を示す。
【図7(a)】図7(a)は,実施例1における前期,中期,及び後期の左右咬筋の筋活動量の変化を示すグラフである。白丸は対照プロセスチーズを,黒丸は新規開発品(スマートチーズ)を示す。
【図7(b)】図7(b)は,実施例1における前期,中期,及び後期の舌骨上筋群の筋活動量の変化を示すグラフである。白丸は対照プロセスチーズを,黒丸は新規開発品(スマートチーズ)を示す。
【図8】図8は,実施例1における舌骨上筋群の,単位時間あたりの筋活動量の変化を時間軸に沿って解析した結果を示すグラフである。白丸は対照プロセスチーズを,黒丸は新規開発品(スマートチーズ)を示す。
【図9】図9は,咬筋について,舌骨上筋群と同様の解析を行なった結果を示すグラフである。白丸は対照プロセスチーズを,黒丸は新規開発品(スマートチーズ)を示す。
【図10】図10は,実施例2における各試料における喫食量と処理時間の関係を示すグラフである。白丸は明治Bigプリン,黒丸はなめらかプリン,黒三角は焼プリンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下,図面を参照しつつ本発明を具体的に説明する。本発明は,以下に説明する実施の形態に限定されない。本発明は,以下に説明する実施の形態に適宜修正を加えたものも含む。図1は,本発明の食感の生理学的評価装置のブロック図である。図1に示される通り,この装置は,基本的には,被験者の咬筋部位に取り付けられる第1の筋電計11と,被験者の舌骨上筋群部位に取り付けられる第2の筋電計12と,被験者ののど部に取り付けられる嚥下計測計13と,第1の筋電計11,第2の筋電計12及び嚥下計測計13と接続された制御装置14とを含む。
【0018】
第1の筋電計11は,被験者の咬筋部位に取り付けられ,被験者の咬筋の筋電情報を制御装置14へ伝えるための装置である。第1の筋電計11は,被験者の左右の咬筋部位にそれぞれ取り付けられてもよい。被験者の咬筋の筋電情報を計測する装置は,これらの筋電図をとるための装置として,すでに知られている。このため,本発明では,すでに知られた咬筋の筋電計を適宜用いることができる。
【0019】
第2の筋電計12は,被験者の舌骨上筋群部位に取り付けられ,被験者の舌骨上筋群の筋電情報を制御装置14へ伝えるための装置である。被験者の舌骨上筋群の筋電情報を計測する装置は,これらの筋電図をとるための装置として,すでに知られている。このため,本発明では,すでに知られた舌骨上筋群の筋電計を適宜用いることができる。
【0020】
嚥下計測計13は,被験者ののど部に取り付けられ,被験者の口腔内に入った食品(飲料や固形物)が,のみ込まれるタイミングを測定するための装置である。嚥下計測計13の例は,被験者ののど(たとえば,のど仏部分)に取り付けられたマイクロフォンである。嚥下計測計13の別の例は,特許文献1に開示されたヒト咽頭部の筋肉の表面筋電計や,特許文献2に開示されたドップラー計測計である。
【0021】
図2は,制御装置14の基本構成を示すブロック図である。制御装置14は,第1の筋電計11,第2の筋電計12及び嚥下計測計13が計測した計測情報を受け取り,各種演算を行うための装置である。図2に示される通り,制御装置14の例は,入力部31,出力部32,演算部33,制御部34,及び記憶部35を有する。そして,それぞれの要素はバスにより接続されており,情報の授受を行うことができるようにされている。また,記憶部35のメインメモリには制御プログラムが格納されている。制御部34は,入力部31からの入力情報を解析するとともに,制御プログラムからの制御指令に基づいて,適宜記憶部35から必要な情報を読み出し,演算部34により必要な演算処理を行わせ,記憶部35に記憶する。そして,演算処理された情報を適宜出力部32から出力する。制御装置14は,例えば,インターネット,LAN,又は無線LANにより他のクライアント又はサーバと情報の授受を行うことができるように接続されてもよい。
【0022】
制御装置14は,摂食開始時間計測部21と,嚥下時間演算部22と,咬筋の筋活動量演算部23と,舌骨上筋群の筋活動量演算部24と,を有する。こられの各要素は,ハードウェアにより実現されてもよいし,ハードウェアとソフトウェアの協働により実現されてもよい。摂食開始時間計測部21は,第1の筋電計11及び第2の筋電計12のいずれかから受け取った計測情報に基づき,食品が口腔内に入れられる時間を計測するための装置である。嚥下時間演算部22は,嚥下計測計13が計測した計測情報及び摂食開始時間計測部21が計測した時間に基づき,食品が嚥下されるのに要した時間を求めるための装置である。咬筋の筋活動量演算部23は,第1の筋電計11の計測情報に基づいて,咬筋の筋活動量を求めるための装置である。舌骨上筋群の筋活動量演算部24は,第2の筋電計12の計測情報に基づいて,舌骨上筋群の筋活動量を求めるための装置である。
【0023】
以下,本発明の食感の生理学的評価装置の動作例を説明する。食品が,被験者により摂取される。すると,被験者による咀嚼運動が開始される。咀嚼運動が開始されると,被験者の咬筋及び舌骨上筋群の活動が盛んになる。
【0024】
第1の筋電計11は,被験者の左右の咬筋の筋電情報を計測し,制御装置14へ伝える。一方,第2の筋電計12は,被験者の舌骨上筋群の筋電情報を制御装置14へ伝える。制御装置14は,適宜記憶部35に第1の筋電計11及び第2の筋電計12の計測情報を記憶する。摂食開始時間計測部21は,記憶部35に記憶される第1の筋電計11及び第2の筋電計12の計測情報を比較して,咬筋の筋電情報又は舌骨上筋群の筋電情報が著しく増加した場合に,摂食開始と判断する。たとえば,摂食開始時間計測部21は,第1の筋電計11及び第2の筋電計12の計測情報の1秒又は数秒の平均値を求め,この平均値が平常時の所定倍以上(たとえば2倍以上,又は3倍以上)となった場合に,摂食が開始されたと判断してもよい。また,第1の筋電計11及び第2の筋電計12の計測情報から解析された咬筋の筋活動量又は舌骨上筋群の筋活動量が所定値以上となった場合に,摂食が開始されたと判断してもよい。この場合,所定値を記憶部35に記憶しておき,摂食開始時間計測部21は,求められた咬筋の筋活動量又は舌骨上筋群の筋活動量と,記憶部から読みだされた所定値とを比較することで,摂食開始時間を求めればよい。
【0025】
嚥下時間演算部22が,嚥下計測計13が計測した計測情報及び摂食開始時間計測部21が計測した時間に基づき,食品が嚥下されるのに要した時間を求める。たとえば,嚥下計測計13がマイクロフォンの場合,記憶部34は嚥下されたことを判断するための閾値を記憶する。制御装置14は,入力部31を介して,嚥下計測計13が計測した計測情報が入力されると,記憶部34が記憶した閾値を読み出し,演算部に計測値と閾値とを比較する演算を行わせる。そして,計測値が閾値をこえた場合に,食品が嚥下されたと判断する。そして,摂食開始時間計測部21は,食品が嚥下された時間を記憶部34に記憶する。そして,摂食開始時間計測部21は,記憶部34から,摂食開始時間と食品が嚥下された時間とを読み出して,演算部33に食品が嚥下されるのに要した時間を求めさせる。このようにして,嚥下時間演算部22が,食品が嚥下されるのに要した時間を求める。
【0026】
咬筋の筋活動量演算部23は,第1の筋電計11の計測情報に基づいて,咬筋の筋活動量を求める。この咬筋の筋活動量は,左右の咬筋の合計筋活動量であってもよい。舌骨上筋群の筋活動量演算部24は,第2の筋電計12の計測情報に基づいて,舌骨上筋群の筋活動量を求める。制御装置14は,筋電図を求めるのと同様の方法で,計測情報に基づいて筋電を示す波形を求める。そして,たとえば,最大筋電位を100%として,計測中における筋電位を交流電圧の実効値(Vrms)により正規化する。そして,各サイクルの波形の面積を求めることで,仕事量に関する相対値を得る。
【0027】
上記のようにすることで,本発明の装置は,咬筋の筋活動量,舌骨上筋群の筋活動量,及び食品が嚥下されるのに要した時間を求めることができる。そして,複数の食品について,こられのデータを比較することで,のどごしのみならす,口腔内及び咽頭を含む様々な筋肉の運動を考慮した食感評価を達成できる。
【0028】
本発明の好ましい態様は,制御装置14が,時間分節部25と,単位時間の筋活動量演算部26とをさらに有するものである。時間分節部25は,嚥下時間演算部22が求めた食品が嚥下されるのに要した時間に基づいて,食品が口腔内に入れられる時間から食品が嚥下されるまでの時間を複数の時期に分けるための装置である。筋活動量演算部26は,時間分節部25が分節した,複数の時期のそれぞれについて,単位時間あたりの咬筋の筋活動量及び単位時間あたりの舌骨上筋群の筋活動量を求めるための装置である。
【0029】
時間分節部25は,嚥下時間演算部22が求めた食品が嚥下されるのに要した時間に基づいて,食品が口腔内に入れられる時間から食品が嚥下されるまでの時間を複数の時期に分ける。たとえば,食品が嚥下されるまでの時間が15秒であれば,5秒ずつ前期,中期及び後期のように分けてもよい。この処理は,たとえば,記憶部に記憶された食品が嚥下されるまでの時間,期間の分割数,及び分割割合に関する情報を読み出す。そのうえで,期間の分割数,及び分割割合に関する情報に基づいて,食品が嚥下されるまでの時間を分節すればよい。たとえば,食品が嚥下されるまでの時間が15秒であり,期間の分割数が3で,分割割合が1:1:1の場合,5秒ずつ前期,中期及び後期のように分ければよい。そして,この5秒ずつという情報を記憶部34に標準分節時間として記憶してもよい。そのうえで,他の食品についても,5秒ずつ前期,中期及び後期に合わせて分節して評価してもよい。
【0030】
単位時間の筋活動量演算部26は,複数の時期のそれぞれについて,単位時間あたりの咬筋の筋活動量及び単位時間あたりの舌骨上筋群の筋活動量を求める。たとえば,先の例では,前期,中期及び後期の平均値(1秒当たり)を求めてもよい。単位時間の筋活動量演算部26は,記憶部から筋活動量を読み出すとともに,時間分節部25による分節時間を読み出して,単位時間当たりの筋活動量を求める演算を行えばよい。
【0031】
本発明は,コンピュータを,摂食開始時間計測手段と,嚥下時間演算手段と,咬筋の筋活動量演算手段と,舌骨上筋群の筋活動量演算手段とを含む手段を実現する装置として機能させるためのプログラムをも提供する。摂食開始時間計測手段,嚥下時間演算手段,咬筋の筋活動量演算手段,舌骨上筋群の筋活動量演算手段は,それぞれ,摂食開始時間計測部21,嚥下時間演算部22,咬筋の筋活動量演算部23,舌骨上筋群の筋活動量演算部24に対応する手段である。また,本発明は,コンピュータを上記の手段のみならず,時間分節手段及び嚥下時間演算手段を含む手段として機能させるためのプログラムをも提供する。
【0032】
本発明は,さらに上記のプログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な情報記録媒体をも提供する。このような情報記録媒体の例は,DVD,CD,FD,メモリーカード,メモリースティック及びHDである。
【実施例1】
【0033】
プロセスチーズの食感に関する筋電図学的評価
実施例1は,年齢22〜42歳の健常成人7名を被験者とした実験に関する。試料として,対照プロセスチーズ(従来の一般的なプロセスチーズ),および新規開発品(スマートチーズ)を2.1×2.8×8 mmの一口大の大きさにカットしたものを使用した。被験者の左右両側の咬筋及び舌骨上筋群に筋電計を取り付けた。また,被験者の喉頭部にマイクロフォンを取り付けた。左右両側の咬筋は下顎運動を反映する。また,舌骨上筋群は舌運動を反映する。嚥下音を採取することで,嚥下のタイミングを計測できる。図3は,実施例1において,各種センサを取り付けた様子を示す図面代用写真である。被験者に各々のプロセスチーズを6回ずつ摂食してもらい,試料を口腔内に入れてから完全に嚥下するまでの筋電図を測定した。測定した筋活動を生体電器アンプに導出し,BIOPACシステムズ社製MP150システムを用いてパソコンにデータを取り込んだ。
【0034】
採取した筋電図は,原波形のマイナスの部分をプラスに折り返し,積分波形に変換し,全ての被験作業の中で各々の筋についての最大筋電位を100%としてその他の筋電位を%Vrms(交流電圧の実効値)として正規化することで筋活動量を求めた。さらに,波形の面積を解析ソフト(BIOPACシステムズ社製Acqknowledge
Ver. 3.9.0)を用いて筋活動量を解析した。なお,波形の面積は交流の1サイクルの間の2乗の平均の平方根(root mean square)とよばれ,筋肉の仕事量と相関するといわれているものである。解析項目は,試料を口腔内に入れてから完全に嚥下するまでの処理時間,左右咬筋の筋活動量を合算したもの及び舌骨上筋群の筋活動量とした。
さらに,経時的な筋活動量の変化を検討するために,処理時間を前期,中期,後期に3分割し,各セクションでの咬筋および舌骨上筋群の筋活動量,および,単位時間当たりの筋活動量を求めた。得られたそれぞれの結果を分析項目ごとに比較検討した。
【0035】
図4は,実施例1における測定試料を口腔内に入れてから完全に嚥下するまでの処理時間(秒)を示すグラフである。図4から,対照プロセスチーズと比較して新規開発品は,処理時間を有意に短縮したことがわかる。図5は,実施例1における左右咬筋の筋活動量の合算値(%Vrms)を示すグラフである。図5から,対照プロセスチーズと比較して新規開発品は,筋活動量が有意に少なく,下顎運動が少ないことが示された。図6は,実施例1における舌骨上筋群の筋活動量(%Vrms)を示すグラフである。図6から,新規開発品は,対照プロセスチーズと比較して,筋活動量が有意に少なく,舌運動も少ないことが示された。
【0036】
図7(a)は,実施例1における前期,中期,及び後期の左右咬筋の筋活動量の変化を示すグラフである。図7(b)は,実施例1における前期,中期,及び後期の舌骨上筋群の筋活動量の変化を示すグラフである。実施例1における筋活動量は仕事量と相関している。図7(a)及び図7(b)に示されるように,すべてのセクションにおいて,対照プロセスチーズと比較して新規開発品の方が小さな仕事量で処理できることが示された。
【0037】
図8は,実施例1における舌骨上筋群の,単位時間あたりの筋活動量の変化を時間軸に沿って解析した結果を示すグラフである。各プロットは各試料の前中後セクションの時間の中央に相当する位置に配置している。前期では,対照プロセスチーズと比較して新規開発品の方が高値を示したが,その後は,対照プロセスチーズと新規開発品の相違は認められなかった。しかしながら,新規開発品は処理時間が短いことから,各セクションおよび全体の仕事量が小さいことが推察された。
【0038】
図9は,咬筋について,舌骨上筋群と同様の解析を行なった結果を示すグラフである。図9に示される通り,新規開発品のほうが前期,中期で高い値を示したが,処理終了直前には従来品と同様の単位時間あたりの筋活動量で処理していることが示された。よって,新規開発品は,始めは大きな仕事量を必要とするが,その後急激に小さな仕事量で処理できることが明らかとなった。
【0039】
以上の結果より,新規開発品であるスマートチーズの食感を客観的に評価できることが明らかとなった。また,これらの結果は,官能評価,物性測定の結果と同等の結果が得られることも明らかとなり,本評価方法は,官能評価や物性測定の結果を的確に定量的に示すことができる。
【実施例2】
【0040】
喫食量と処理時間による食感の評価
実施例2では,年齢22〜42歳の健常成人3名を被験者として実験を行った。試料として,明治Bigプリン,なめらかプリン,及び焼プリンの3種を使用した。各々の試料を,3g,7g,15g,及び30gになるように規定のスプーンにのせ,試料が被験者の口腔内に入れられてから完全に嚥下されるまでの処理時間を測定した。処理時間の測定方法は実施例1と同様の方法で行った。
【0041】
図10は,実施例2における各試料における喫食量と処理時間の関係を示すグラフである。図10から,明治Bigプリン(白丸)では,喫食量と処理時間に明確な量依存性が認められた。このことは,口腔内で処理されたものを順次嚥下するという単調な食感を表現しているといえる。また,なめらかプリン(黒丸)については,喫食量が少量(3g, 及び7g)の場合は,処理時間に変化が無かった。一方,7g以上の喫食量では,喫食量と処理時間に明確な量依存性が認められた。一方,焼プリン(黒三角)では,15g以上の喫食量で処理時間が大きく変化し,処理するのに口腔内で精緻な調整が必要であることが客観的に評価できた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は,食品用評価機器の分野で好ましく利用されうる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の咬筋部位に取り付けられる第1の筋電計(11)と,
被験者の舌骨上筋群部位に取り付けられる第2の筋電計(12)と,
被験者ののど部に取り付けられ,食物が嚥下されるタイミングを計測する嚥下計測計(13)と,
前記第1の筋電計(11),前記第2の筋電計(12)及び前記嚥下計測計(13)から計測情報を受領できるように接続された制御装置(14)と,を含み,
前記制御装置(14)は,
前記第1の筋電計(11)及び前記第2の筋電計(12)のいずれかから受け取った計測情報に基づき,食品が口腔内に入れられる時間を計測するための摂食開始時間計測部(21)と,
前記嚥下計測計(13)が計測した計測情報,及び前記摂食開始時間計測部(21)が計測した食品が口腔内に入れられる時間に基づき,食品が嚥下されるのに要した時間を求めるための嚥下時間演算部(22)と,
前記第1の筋電計(11)の計測情報に基づいて,咬筋の筋活動量を求める咬筋の筋活動量演算部(23)と,
前記第2の筋電計(12)の計測情報に基づいて,舌骨上筋群の筋活動量を求める舌骨上筋群の筋活動量演算部(24)と,を有する,
食感の生理学的評価装置。
【請求項2】
前記第1の筋電計(11)は,被験者の左右の咬筋部位に取り付けられる,請求項1に記載の食感の生理学的評価装置。
【請求項3】
前記嚥下計測計(13)は,マイクロフォンである,請求項1に記載の食感の生理学的評価装置。
【請求項4】
前記制御装置(14)は,
前記嚥下時間演算部(22)が求めた食品が嚥下されるのに要した時間に基づいて,食品が口腔内に入れられる時間から前記食品が嚥下されるまでの時間を複数の時期に分ける時間分節部(25)と,
前記時間分節部(25)が分節した,複数の時期のそれぞれについて,単位時間あたりの咬筋の筋活動量及び単位時間あたりの舌骨上筋群の筋活動量を求める単位時間の筋活動量演算部(26)と,
をさらに有する,請求項1に記載の食感の生理学的評価装置。
【請求項1】
被験者の咬筋部位に取り付けられる第1の筋電計(11)と,
被験者の舌骨上筋群部位に取り付けられる第2の筋電計(12)と,
被験者ののど部に取り付けられ,食物が嚥下されるタイミングを計測する嚥下計測計(13)と,
前記第1の筋電計(11),前記第2の筋電計(12)及び前記嚥下計測計(13)から計測情報を受領できるように接続された制御装置(14)と,を含み,
前記制御装置(14)は,
前記第1の筋電計(11)及び前記第2の筋電計(12)のいずれかから受け取った計測情報に基づき,食品が口腔内に入れられる時間を計測するための摂食開始時間計測部(21)と,
前記嚥下計測計(13)が計測した計測情報,及び前記摂食開始時間計測部(21)が計測した食品が口腔内に入れられる時間に基づき,食品が嚥下されるのに要した時間を求めるための嚥下時間演算部(22)と,
前記第1の筋電計(11)の計測情報に基づいて,咬筋の筋活動量を求める咬筋の筋活動量演算部(23)と,
前記第2の筋電計(12)の計測情報に基づいて,舌骨上筋群の筋活動量を求める舌骨上筋群の筋活動量演算部(24)と,を有する,
食感の生理学的評価装置。
【請求項2】
前記第1の筋電計(11)は,被験者の左右の咬筋部位に取り付けられる,請求項1に記載の食感の生理学的評価装置。
【請求項3】
前記嚥下計測計(13)は,マイクロフォンである,請求項1に記載の食感の生理学的評価装置。
【請求項4】
前記制御装置(14)は,
前記嚥下時間演算部(22)が求めた食品が嚥下されるのに要した時間に基づいて,食品が口腔内に入れられる時間から前記食品が嚥下されるまでの時間を複数の時期に分ける時間分節部(25)と,
前記時間分節部(25)が分節した,複数の時期のそれぞれについて,単位時間あたりの咬筋の筋活動量及び単位時間あたりの舌骨上筋群の筋活動量を求める単位時間の筋活動量演算部(26)と,
をさらに有する,請求項1に記載の食感の生理学的評価装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7(a)】
【図7(b)】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7(a)】
【図7(b)】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−139442(P2012−139442A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−290(P2011−290)
【出願日】平成23年1月4日(2011.1.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本食品科学工学会 第57回大会講演集 発表スライド「新規に開発したプロセスチーズの物性,食感と咀嚼筋活動」
【出願人】(000006138)株式会社明治 (265)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月4日(2011.1.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本食品科学工学会 第57回大会講演集 発表スライド「新規に開発したプロセスチーズの物性,食感と咀嚼筋活動」
【出願人】(000006138)株式会社明治 (265)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
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