説明

飲食品組成物

【課題】 鉄、ポリフェノール類及びラクトフェリン類を含有し、鉄とポリフェノール類の共存に起因する着色を効果的に防止することができる飲食品組成物を提供すること。
【解決手段】 本発明の飲食品組成物は、次の成分(A)、(B)、(C)及び(D)を含有することを特徴とするものである。
(A)鉄
(B)ポリフェノール類
(C)ラクトフェリン類
(D)鉄1重量部に対し18重量部以上のタンパク質(但しラクトフェリン類を除く)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄、ポリフェノール類及びラクトフェリン類を含有し、鉄とポリフェノール類の共存に起因する着色を効果的に防止することができる飲食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄は、人間が活動を行う上で不可欠な必須ミネラルとして分類され、成人の場合、1日あたり10〜12mgを摂取する必要があるとされている(第6次改定日本人の栄養所要量)。しかしながら平成15年国民健康・栄養調査によると、鉄の平均摂取量は男性で8.9mg、女性で7.9mgであり、男女とも特に若年層において鉄分不足の傾向がみられる。生体内において鉄が不足すると、赤血球数やヘモグロビン濃度が減少する等の変化が生じて貧血状態を呈し、それに伴い自覚症状として、疲労感、倦怠感、立ちくらみ、めまい、動悸・息切れ、手足の冷え、集中力低下等の不定愁訴が生じることが知られている。このような場合、鉄を十分に補給することにより、赤血球数やヘモグロビン濃度等の血液所見に改善が見られることが非特許文献1に報告されている。従って、1日あたりの鉄の栄養所要量を充足させることは大変重要であり、このような背景から、鉄の含量を強化した鉄分強化飲食品の開発が進められている。
一方、茶等に含まれているポリフェノール類の生理効果については、コレステロール上昇抑制作用、α−アミラーゼ活性阻害作用、血圧上昇抑制作用、歯垢合成酵素阻害作用、インフルエンザウイルス不活化作用、整腸作用等が報告されており(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献2参照)、茶飲料の市場はますます拡大が期待されている。
このような背景から、鉄分不足を解消でき、さらにポリフェノール類の生理効果が期待できる、鉄及びポリフェノール類配合飲食品の開発が望まれてきた。
しかしながら、飲料等の液状飲食品中に鉄及びポリフェノール類が共存すると、これらの成分が反応することで飲食品の外観が着色して黒紫色を呈したり、沈殿及び浮遊物が生じたりする等、品質の点で好ましくないという問題があった。
この問題を解決する方法として、例えば、特許文献3には、鉄とラクトフェリン類とを含む鉄剤を配合することを特徴とするタンニン類含有飲食品が開示されている。この飲食品は、好適には鉄とラクトフェリン類との複合体を用いることで鉄を未遊離状態にすることにより、鉄とタンニン類との反応を制御したものであり、その結果、茶やコーヒー等のタンニン類を含有する飲食品であっても鉄の配合による着色、濁り、沈殿等を生じない旨が記載されている。しかしながら、本文献に記載の方法は、鉄及びタンニン類の含有比率によって着色防止効果に大きな差異が生じる等、効果の面において必ずしも十分なものとはいえず、さらなる改善が必要であった。
【特許文献1】特開昭60−156614号公報
【特許文献2】特開平3−133928号公報
【特許文献3】特開平8−266249号公報
【非特許文献1】八幡義人、臨床検査、Vol.34,No.11,p.1311−1321,1990
【非特許文献2】原征彦、臨床栄養、Vol.91,No.1,p.1−8,1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、鉄、ポリフェノール類及びラクトフェリン類を含有し、鉄とポリフェノール類の共存に起因する着色を効果的に防止することができる飲食品組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、鉄、ポリフェノール類及びラクトフェリン類を含有する液状組成物に、さらにラクトフェリン類以外のタンパク質を特定の割合で配合することで、特許文献3に記載の方法では効果が不十分であった鉄及びポリフェノール類が共存することによる着色の問題を、効果的に解消することができることを見出した。
【0005】
上記の知見に基づいてなされた本発明の飲食品組成物は、請求項1記載の通り、次の成分(A)、(B)、(C)及び(D)を含有することを特徴とする。
(A)鉄
(B)ポリフェノール類
(C)ラクトフェリン類
(D)鉄1重量部に対し18重量部以上のタンパク質(但しラクトフェリン類を除く)
また、請求項2記載の飲食品組成物は、請求項1記載の飲食品組成物において、鉄とラクトフェリン類を両者の複合体として含有することを特徴とする。
また、請求項3記載の飲食品組成物は、請求項1又は2記載の飲食品組成物において、ポリフェノール類が茶又はその加工物由来であることを特徴とする。
また、請求項4記載の飲食品組成物は、請求項1乃至3のいずれかに記載の飲食品組成物において、タンパク質が鶏卵タンパク質、ホエータンパク質、大豆タンパク質、小麦タンパク質、魚タンパク質、カゼイン又はそのアルカリ金属塩、ゼラチンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
また、請求項5記載の飲食品組成物は、請求項4記載の飲食品組成物において、タンパク質がカゼイン又はそのアルカリ金属塩であることを特徴とする。
また、請求項6記載の飲食品組成物は、請求項5記載の飲食品組成物において、カゼインのアルカリ金属塩がカゼインナトリウムであることを特徴とする。
また、請求項7記載の飲食品組成物は、請求項1乃至6のいずれかに記載の飲食品組成物において、その形態が液状であることを特徴とする。
また、請求項8記載の飲食品組成物は、請求項7記載の飲食品組成物において、鉄を0.01mg/100mL以上含有し、ポリフェノール類を5mg/100mL以上含有することを特徴とする。
また、請求項9記載の飲食品組成物は、請求項1乃至6のいずれかに記載の飲食品組成物において、その形態が水性媒体に溶解乃至分散が可能な粉末状、顆粒状、固形状のいずれかであることを特徴とする。
また、請求項10記載の飲食品組成物は、請求項9記載の飲食品組成物において、鉄を0.00001%(w/w)以上含有し、ポリフェノール類を0.01%(w/w)以上含有することを特徴とする。
また、本発明の鉄、ポリフェノール類及びラクトフェリン類を含有する飲食品組成物の着色防止剤は、請求項11記載の通り、タンパク質(但しラクトフェリン類を除く)を有効成分とすることを特徴とする。
また、本発明の鉄、ポリフェノール類及びラクトフェリン類を含有する飲食品組成物の着色防止方法は、請求項12記載の通り、飲食品組成物にタンパク質(但しラクトフェリン類を除く)を鉄1重量部に対し18重量部以上の割合で配合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、鉄、ポリフェノール類及びラクトフェリン類を含有し、鉄とポリフェノール類の共存に起因する着色を効果的に防止することができる飲食品組成物を提供することができる。本発明の飲食品組成物は、鉄、ポリフェノール類及びラクトフェリン類を含有する組成物に、タンパク質(但しラクトフェリン類を除く)が鉄1重量部に対し18重量部以上配合されていることにより、その形態が液体飲料等の液状の場合はそれ自体の着色が効果的に防止されたものである。また、その形態がインスタント飲料等の水性媒体に溶解や分散して飲用される粉末状や顆粒状や固形状の場合はそれを水性媒体に溶解や分散した後の着色が効果的に防止されるものである。さらに、本発明の飲食品組成物は、タンパク質(但しラクトフェリン類を除く)が配合されていることによってポリフェノール類由来の苦味や渋味が緩和されているため長期間の摂取に適している。従って、ポリフェノール類による優れた生理効果を得るために効果的なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の飲食品組成物は、次の成分(A)、(B)、(C)及び(D)を含有することを特徴とするものである。
(A)鉄
(B)ポリフェノール類
(C)ラクトフェリン類
(D)鉄1重量部に対し18重量部以上のタンパク質(但しラクトフェリン類を除く)
以下、本発明の飲食品組成物を詳しく説明する。
【0008】
(A)鉄について
本発明の飲食品組成物の構成成分である鉄としては、硫酸第一鉄、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄、クエン酸鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸第一鉄アンモニウム、ピロリン酸第一鉄、ピロリン酸第二鉄、塩化第二鉄、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄等の一般的に用いられる鉄剤を例示することができるが、鉄はラクトフェリン類との複合体として配合することが好ましい。鉄−ラクトフェリン類複合体は、液状組成物中でも両者が遊離の状態で存在しない鉄剤で、鉄の収斂味や金属味を呈さない特徴を有する。さらに鉄−ラクトフェリン類複合体を鉄剤として用いれば、pH2.1〜9.0の幅広いpH領域で、鉄と本発明の飲食品組成物の他の構成成分との結合による沈殿が生じず、高い耐熱性も消失しない等の効果が得られるので、より幅広い飲食品組成物を調製することができる。鉄−ラクトフェリン類複合体の具体例としては、特許文献3に記載の鉄剤、具体的には、ラクトフェリン類に炭酸及び/又は重炭酸と鉄が結合した鉄−ラクトフェリン結合体(特開平6−239900号公報)、ラクトフェリン溶液に鉄塩を添加した後アルカリでpHを調整することにより製造される鉄−ラクトフェリン粉末(特開平7‐17875号公報)等を挙げることができる。
【0009】
(B)ポリフェノール類について
本発明の飲食品組成物の構成成分であるポリフェノール類とは、植物もしくはその加工物由来のポリフェノールを意味する。ここで、ポリフェノールは、一般に多価フェノールとも呼ばれ、広義には同一ベンゼン環上に2個以上の水酸基を持つ化合物の総称(化学大辞典、(株)東京化学同人発行)と定義されている。上記ポリフェノールを構成する代表的な化合物群としては、フラボン類、フラボノール類、イソフラボン類、フラバン類、フラバノール類、フラバノン類、フラバノノール類、カルコン類、アントシアニジン類等のフラボノイド系化合物を挙げることができる。
【0010】
ポリフェノールを含有する植物やその加工物の具体例としては、茶(ツバキ科)、その加工物として緑茶、紅茶、ウーロン茶、ほうじ茶、プアール茶等;ブドウ(ブドウ科)、その加工物としてワイン;カカオ(アオギリ科)、その加工物としてチョコレート、ココア;黄杞(クルミ科)、その加工物として黄杞茶;その他にコーヒー(アカネ科)、リンゴ(バラ科)、ホップ(クワ科)、カンキツ(ミカン科)、ローズマリー(シソ科)、ダイズ(マメ科)、ブルーベリー(ツツジ科)等の植物やその加工物を挙げることができるが、好ましいものは茶やその加工物である。
【0011】
茶やその加工物由来のポリフェノールは、主にツバキ科に属する茶樹(Camellia sinensis)から得られる葉、茎、木部、樹皮、根、実、種子のいずれか、あるいはこれらの2種類以上の混合物もしくはそれらの粉砕物から、水、熱水、有機溶媒、含水有機溶媒あるいはこれらの混合物等を用いて自体公知の抽出操作を行うことにより得ることができる。本発明の飲食品組成物において用いるポリフェノール類は、茶生葉あるいはその乾燥物から抽出されたものが好ましい。得られた抽出物は、特公平1−44234号公報、特公平2−12474号公報、特公平2−22755号公報、特開平4−20589号公報、特開平5−260907号公報、特開平8−109178号公報等に記載された方法、例えば、有機溶媒分画を行ったり吸着樹脂を用いた分画を行ったりする方法により、所望の程度に精製することができる。
【0012】
茶やその加工物由来のポリフェノールの具体例としては、フラバン−3−オール類及びその関連化合物として、(±)−カテキン(C)、(±)−ガロカテキン(GC)、(−)−カテキンガレート(Cg)、(−)−ガロカテキンガレート(GCg)、(−)−エピカテキン(EC)、(−)−エピガロカテキン(EGC)、(−)−エピカテキンガレート(ECg)及び(−)−エピガロカテキンガレート(EGCg)等のカテキン類を挙げることができる。これらは一般的には高速液体クロマトグラフィーで定量分析することができる。
【0013】
本発明の飲食品組成物において用いるポリフェノール類は、上記のカテキン類の他、カテキン類の重合体であるテアシネンシン類、テアフラビン類、テアルビジン類等のような紅茶に多く含まれているポリフェノール(以下、「紅茶ポリフェノール」と略す)であってもよい。紅茶ポリフェノールは、フォーリン−デニス法(出典:Official method of AOAC International)により定量分析することができる。
【0014】
本発明の飲食品組成物へのポリフェノール類の配合方法は、特に制限されるものではなく、例えば、抽出操作によって得られた茶抽出液をそのまま配合してもよいし、この抽出液をスプレードライや凍結乾燥することで粉末化した茶エキスパウダーの形態で配合してもよい。また、茶抽出物やその精製物が固形である場合、それを粉末化したり液状化したりして配合してもよい。さらに、単離精製された個々の化合物を単独あるいは複数種類を所定の割合で混合して配合してもよい。茶の抽出残渣である茶殻や抹茶等の粉末茶もポリフェノールを含有しているので、これら自体を利用することも可能である。なお、ポリフェノール類の市販品としては、例えば、三井農林社製「ポリフェノン」、太陽化学社製「サンフェノン」、伊藤園社製「テアフラン」等を挙げることができ、これらを配合してもよい。
【0015】
(C)ラクトフェリン類について
本発明の飲食品組成物の構成成分であるラクトフェリン類としては、ウシ、山羊、羊、ヒト等の哺乳動物の乳等の分泌液から分離されるラクトフェリンを挙げることができるが、その酵素加水分解物や、哺乳動物の血液や臓器等から分離されるトランスフェリンや卵等から分離されるオボトランスフェリン等であってもよい。これらは高度に分離や精製されている必要は必ずしもなく、他の成分が含まれていてもよい。また、本発明の飲食品組成物において用いるラクトフェリン類は、遺伝子操作により、微生物、動物細胞、あるいはトランスジェニック動物に生産させたものでもよい。ラクトフェリン類は鉄との複合体として配合することが好ましい。その理由は前述の通りである。
【0016】
(D)タンパク質(但しラクトフェリン類を除く)について
本発明の飲食品組成物の構成成分であるタンパク質(但しラクトフェリン類を除く)としては、鶏卵タンパク質、ホエー(乳清及びラクトアルブミン)タンパク質、大豆タンパク質、小麦タンパク質、魚タンパク質、カゼイン又はそのアルカリ金属塩、ゼラチンやこれらの分解物等を挙げることができる。これらは単独で配合してもよいし、複数種類を所定の割合で混合して配合してもよい。また、クリーミングパウダー等に混合して配合してもよい。ホエータンパク質、大豆タンパク質、カゼイン又はそのアルカリ金属塩、ゼラチンは、液状組成物における鉄及びポリフェノール類が共存することによる着色を顕著に防止する効果を有する点において好ましく、カゼイン又はそのアルカリ金属塩がより好ましい。中でも、カゼインのアルカリ金属塩は、溶解性に優れることからとりわけ好適である。カゼインのアルカリ金属塩としては、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、カゼインナトリウムカルシウム等の一般に飲食品成分として用いられるものが挙げられるが、カゼインナトリウムは配合することで飲食品組成物の苦味や渋味をマイルドにする作用があるため特に好ましい。
【0017】
本発明の飲食品組成物は、鉄、ポリフェノール類、ラクトフェリン類及びタンパク質(但しラクトフェリン類を除く)を含有するものであればどのような形態でもよく、水溶液や混濁液や乳化液等の液状でもよいし、ゲル状やペースト状の半固形状でもよいし、粉末状や顆粒状でもよいし、タブレット等の固形状でもよい。しかしながら、本発明の飲食品組成物がその特徴を発揮するのは、それ自体が着色が防止された液状である場合と、水性媒体に溶解や分散した後の着色が効果的に防止される水性媒体に溶解や分散が可能な粉末状や顆粒状や固形状である場合である。
【0018】
液状の飲食品組成物としては、液体飲料を好適に挙げることができ、具体的に例示すると、炭酸飲料、柑橘類(グレープフルーツ、オレンジ、レモン等)等の果汁飲料・果肉飲料・果粒入り果実飲料、トマト、ピーマン、セロリ、ウリ、ニンジン、ジャガイモ、アスパラガス等の野菜を含む野菜系飲料、豆乳・豆乳飲料、コーヒー飲料、緑茶飲料・烏龍茶飲料・紅茶飲料等の茶系飲料、スポーツ飲料、ドリンク剤等の栄養飲料、アルコール飲料等を挙げることができる。本発明における液体飲料は、液体飲料を濃縮した濃縮飲料を含む概念である。
【0019】
水性媒体に溶解や分散が可能な粉末状や顆粒状や固形状の飲食品組成物としては、インスタント飲料を好適に挙げることができる。本発明においてインスタント飲料とは、用時に水、湯、牛乳、果汁入りエキス及び水溶性エキス等の水性媒体に溶解や分散することで液状にして飲用するものであって、液状にする前のものを意味する。
【0020】
本発明の飲食品組成物は、水性媒体への溶解や分散を意図していない粉末状組成物等であってもよい。この場合、タンパク質(但しラクトフェリン類を除く)が配合されていることによる着色防止効果が発揮されることはないが、タンパク質(但しラクトフェリン類を除く)が配合されていることで、飲食品組成物のポリフェノール類由来の苦味や渋味が緩和されるといった効果を得ることができる。このような組成物は、クッキー、クラッカー、ビスケット、ドーナツ、ガム、チョコレート、キャンディー、グミ、キャラメル、饅頭、大福、羊羹、せんべい、ゼリー、プリン、アイス、ソフトクリーム、ケーキ、ヨーグルト等の菓子・デザート類の他、パン、シリアル、ショートブレッド、ジャム、スプレッドクリーム、チョコレートコーティング剤等に配合することができる他、錠剤や顆粒等のサプリメント、老人用流動食、病人用流動食、離乳食、嚥下補助食品等の流動食、各種栄養剤等に配合することもできる。また、本発明の飲食品組成物は、液体飲料をスプレードライや凍結乾燥することで粉末化した粉末飲料の形態であってもよい。
【0021】
本発明の飲食品組成物の製造は、その形態ごとに採用される通常の方法に従って行えばよい。その構成成分である鉄、ポリフェノール類、ラクトフェリン類及びタンパク質(但しラクトフェリン類を除く)は、製造工程のいずれかの段階で、例えば、個々の構成成分を別々に配合してもよいし、複数成分を均一に混合してから配合してもよい。飲食品組成物が液状である場合、製造された液状組成物の着色を効果的に防止するためには、ポリフェノール類及びタンパク質(但しラクトフェリン類を除く)をまず配合し、その後で鉄及びラクトフェリン類を配合することが好ましい。
【0022】
本発明の飲食品組成物に含有される鉄の量は、特に制限されるものではないが、液状組成物の場合、組成物中の鉄濃度の下限値が、好ましくは0.01mg/100mL、より好ましくは0.05mg/100mL、さらに好ましくは0.08mg/100mL、最も好ましくは0.1mg/100mLとなる量がよい。鉄を補給する目的で本発明の飲食品組成物を摂取する場合、鉄の含量が少なすぎると効果が得られにくくなるからである。一方、鉄の含量が多すぎると、これを一度に摂取した場合、嘔吐や下痢を起こし、腸が損傷する等の鉄過剰症を発症する恐れがある。従って、本発明の飲食品組成物に含有される鉄の量は、液状組成物の場合、組成物中の鉄濃度の上限値が、好ましくは30mg/100mL、より好ましくは20mg/100mL、さらに好ましくは10mg/100mL、最も好ましくは2.0mg/100mLとなる量がよい。なお、液状組成物中の鉄濃度が0.01mg/100mLを下回ると、鉄及びポリフェノール類が共存することによる着色がそもそも起こりにくくなるので、タンパク質(但しラクトフェリン類を除く)を配合することの効果は薄くなる(つまり当該効果は鉄分を強化した飲食品組成物において好適に発揮される)。
【0023】
一方、本発明の飲食品組成物がインスタント飲料として用いられる水性媒体に溶解や分散が可能な粉末状や顆粒状や固形状の組成物の場合、組成物に含有される鉄の量は、好ましくは0.00001〜7%(w/w)、より好ましくは0.0001〜5%(w/w)、さらに好ましくは0.001〜2%(w/w)、よりさらに好ましくは0.003〜1%(w/w)、最も好ましくは0.005〜0.6%(w/w)となる量がよい。このような組成物の水性媒体に対する溶解量は、好ましくは0.01〜80g/100mL、より好ましくは0.05〜50g/100mL、さらに好ましくは0.1〜10g/100mLの範囲内で適宜設定し、液状化後にそこに含有される鉄の量が前述の量になるようにするのがよい。
【0024】
本発明の飲食品組成物に含有されるポリフェノール類の量は、特に制限されるものではないが、液状組成物の場合、組成物中のポリフェノール類濃度の下限値が、好ましくは5.0mg/100mL、より好ましくは10mg/100mL、さらに好ましくは50mg/100mL、よりさらに好ましくは70mg/100mL、最も好ましくは100mg/100mLとなる量がよい。ポリフェノール類による優れた生理効果を得る目的で本発明の飲食品組成物を摂取する場合、ポリフェノール類の含量が少なすぎると効果が得られにくくなるからである。一方、ポリフェノール類の含量が多すぎると、ポリフェノール類由来の苦味や渋味が無視できなくなる恐れがある。従って、本発明の飲食品組成物に含有されるポリフェノール類の量は、液状組成物の場合、組成物中のポリフェノール類濃度の上限値が、好ましくは1500mg/100mL、より好ましくは1000mg/100mL、さらに好ましくは700mg/100mL、よりさらに好ましくは500mg/100mL、最も好ましくは300mg/100mLとなる量がよい。
【0025】
一方、本発明の飲食品組成物がインスタント飲料として用いられる粉末状や顆粒状や固形状の組成物の場合、組成物に含有されるポリフェノール類の量は、好ましくは0.01〜100%(w/w)、より好ましくは0.05〜90%(w/w)、さらに好ましくは0.1〜80%(w/w)、よりさらに好ましくは0.3〜60%(w/w)、最も好ましくは0.5〜50%(w/w)となる量がよい。このような組成物の水性媒体に対する溶解量は、特に制限されるものではないが、液状化後にそこに含有されるポリフェノールの量が前述の量になるようにするのがよい。
【0026】
本発明の飲食品組成物に含有されるラクトフェリン類の量は、特に制限されるものではないが、液状組成物の場合、組成物中のラクトフェリン類濃度が、好ましくは0.01〜3000mg/100mL、より好ましくは0.05〜2000mg/100mL、さらに好ましくは0.1〜1000mg/100mL、よりさらに好ましくは0.15〜200mg/100mLとなる量がよい。ラクトフェリン類の含量が少なすぎると、遊離状態の鉄が多くなることで着色の防止が困難になる方向に働く。一方、ラクトフェリン類の含量が多すぎると、沈殿や浮遊物が多くなるため好ましくない。本発明の飲食品組成物がインスタント飲料として用いられる粉末状や顆粒状や固形状の組成物の場合、組成物に含有されるラクトフェリン類の量は、液状化後にそこに含有されるラクトフェリン類の量が前述の量となるようにすることができる量がよい。
【0027】
本発明の飲食品組成物に含有されるタンパク質(但しラクトフェリン類を除く)の量は、鉄1重量部に対し18重量部以上である。鉄に対してこのような重量比でタンパク質(但しラクトフェリン類を除く)を配合することにより、液状組成物における鉄及びポリフェノール類が共存することによる着色を効果的に防止することができる。タンパク質(但しラクトフェリン類を除く)の含量は、鉄1重量部に対し好ましくは20〜4000重量部、より好ましくは40〜2000重量部、さらに好ましくは100〜1000重量部である。タンパク質(但しラクトフェリン類を除く)の含量が少ないと、十分な着色防止効果が得られず、また、飲食品組成物がポリフェノール類を多量に含有する場合、ポリフェノール類由来の苦味や渋味が顕著となり、飲料として摂取した際に喉にざらつきを感じてしまう方向に働く。一方、タンパク質(但しラクトフェリン類を除く)の含量が多すぎると、水性媒体への溶解や分散が十分に行うことができなくなり、含量の割には着色防止効果の向上が見られないため経済的に不利となる。また、水性媒体に溶解や分散した際、沈殿や浮遊物が多くなるため好ましくない。
【0028】
本発明の飲食品組成物が飲料の場合、そのpHは2.1〜9.0であることが好ましい。pHが2.1より低いと酸味や刺激臭が強く、飲用に耐えない恐れがあるからである。一方、pHが9.0より高いと風味の調和がとれなくなり、苦味や渋味が強調されたりすることで嗜好性が低下する恐れがあるからである。本発明の飲食品組成物がインスタント飲料の場合、液状化後のpHが2.1〜9.0となるように調製することができるものが好ましい。
【0029】
なお、本発明の飲食品組成物には、必要に応じて、甘味料、乳成分、果汁エキス類、野菜エキス類、花蜜エキス類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、酸味料、調味料、香料、色素類、保存料等の自体公知の食品添加剤を単独であるいは複数種類を併用して配合してもよい。
【0030】
なお、鉄の1日あたりの許容上限摂取量は成人男性で45〜55mg、成人女性で40〜45mgであるため(「日本人の食事摂取基準2005年度版」より)、本発明の飲食品組成物を摂取する際にはこの量を考慮することが好ましい。
【実施例】
【0031】
以下に試験例及び処方例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。なお、以下の試験例及び処方例における鉄の量、ポリフェノール類(カテキン類及び紅茶ポリフェノール)の量、ラクトフェリン類の量及びタンパク質(但しラクトフェリン類を除く)の量の測定は次の方法で行った。
【0032】
(1)鉄の量の測定
誘導結合プラズマ発光分光分析法により以下の条件で測定した。
・装置 :ICP−AES CIROS CCD−M(リガク社製)
・プラズマ電力 :1400W
・ポンプ流量 :1mL/min
・プラズマガス流量 :Ar,13.0L/min
・補助ガス流量 :Ar,1.0L/min
・ネブライザーガス流量 :Ar,1.0L/min
・分析線 :238.204nm
・標準液 :関東化学社製の化学分析用標準液を使用
【0033】
(2)カテキン類の量の測定
高速液体クロマトグラフィーにより下記の条件で測定した。測定試料が粉末状の場合はこれを蒸留水で希釈したものを測定に用いた。
・カラム :Mightysil(関東化学社製)
・移動相A液 :アセトニトリル:リン酸水溶液=10:400の溶液
・移動相B液 :メタノール:アセトニトリル:リン酸水溶液=200:10:400の溶液
・検出 :UV230nm
・カラム温度 :40℃
・サンプル温度 :室温
・サンプル量 :10μL
・流速 :1mL/min
【0034】
(3)紅茶ポリフェノールの量の測定
1.試料溶液の調製
粉体試料を秤量後、メスフラスコに移して超純水に溶解し(溶解しない場合には超音波洗浄機中で超音波をかけながら溶解するか少量のメタノールを加えて溶解した)、1MのHCl水溶液を溶液100mLに対して400μLの比率で添加後、超純水で定容して調製した。
2.標準溶液の調製
タンニン酸(関東化学社製)を秤量後、超純水で溶解し、定容した。これを0.5,1.0,1.5,2.0mg/100mLの各濃度になるように希釈して調製した。
3.フォーリン−デニス試薬の調製
タングステン酸ナトリウム25g、リンモリブデン酸5g、リン酸12.5mLに水180mLを加えて2時間煮沸還流し、冷却後、水を添加して1Lとして調製した。
4.測定手順
3mLの試料溶液(標準溶液も同様)を15〜20mL容の試験管に移し、フォーリン−デニス試薬3mLを加え、撹拌後3分間放置した。放置した溶液に10%のNaCO水溶液3mLを加えた後、撹拌し、室温で1時間放置後、3000rpmで5分間遠心して得た上清の760nmでの吸光度を測定し、標準溶液を用いて作成した検量線から計算して求めた。
【0035】
(4)ラクトフェリン類の量の測定
高速液体クロマトグラフィーにより下記の条件で測定した。
・カラム :Shodex Asahipak C4P−50 4D(長さ150mm×内径4.6mm(昭和電工社製))
・移動相A液 :アセトニトリル:0.5M塩化ナトリウム水溶液=1:9の溶液
・移動相B液 :アセトニトリル:0.5M塩化ナトリウム水溶液=1:1の溶液
(A液、B液にそれぞれトリフルオロ酢酸を0.03%になるよう添加した)
・グラジェント条件 :A液とB液の体積比がA液/B液=50/50でスタートさせ、25分後にA液とB液の体積比がA液/B液=0/100になるように直線的にB液の比率を上げた。次に、25.1分後にA液とB液の体積比がA液/B液=50/50になるように戻し、その条件で35分まで保持した。
・検出 :紫外分光検出器(280nm)
・カラム温度 :30℃
・サンプル量 :25μL
・流速 :0.8mL/min
【0036】
(5)タンパク質(但しラクトフェリン類を除く)の量の測定
標準試料(EMLV;DMV International社製のカゼインナトリウム92.5%含有組成物)及び測定試料を、超純水で適宜希釈・定容し、それぞれ標準溶液及び試料溶液とした。タンパク質定量用キットとして、BIO−RAD社製のQuick StartTM Bradford Dye Reagent,1×(Dye)を用い、標準溶液又は試料溶液20μLとDye1mLを試験管に入れてよく撹拌し、室温で5分間以上静置し、1時間以内に595nmの吸光度を測定した。標準溶液のカゼインナトリウム濃度に対する吸光度をプロットして検量線を作成し、試料溶液の吸光度からタンパク質の量を算出し、測定試料に対する希釈・定容倍率等から求めた。
【0037】
試験例1:鉄−ラクトフェリン複合体とカテキン類との反応による着色に対するタンパク質(カゼインナトリウム)の防止効果試験(その1)
(試験方法)
鉄−ラクトフェリン複合体(鉄4.75%含有;雪印乳業社製)、ポリフェノン70A(カテキン類80%含有茶抽出物;三井農林社製)、EMLV(カゼインナトリウム92.5%含有組成物;DMV International社製)を用いて、表1に示す割合で各成分を均一に混合してインスタント粉末飲料を調製した(実施例1〜7及び比較例1〜3:比較例1はEMLV無配合)。このようにして得られた実施例1〜7及び比較例1〜3のインスタント粉末飲料を100mLの温水(50〜60℃)に溶解し、得られた液体飲料の540nmの吸光度を測定した。なお、すべての試験区(実施例1〜7及び比較例1〜3)について、鉄−ラクトフェリン複合体を除いたインスタント粉末飲料を同様に調製した。これを100mLの温水に溶解して得られた液体飲料の540nmの吸光度を測定し、それぞれに対応する実施例1〜7及び比較例1〜3のインスタント粉末飲料から調製した液体飲料の540nmの吸光度との差を吸光度測定値として表し、EMLVを配合した実施例1〜7及び比較例2,3のインスタント粉末飲料については、吸光度測定値が0.100よりも小さければ着色防止効果が発揮されたと評価し、小さければ小さいほど着色防止効果が優れると評価した。また、吸光度測定値による着色評価は必ずしも目視による着色評価と同じにならないので、本試験では目視による着色評価を、評価基準を、◎:着色が顕著に抑えられていた、○:着色が抑えられていた、△:着色があまり抑えられていない、×:着色がまったく抑えられていない、の4段階として行った。そして、吸光度測定値による着色評価及び目視による着色評価をあわせ着色度総合評価とし、「良い」「やや良い」「やや悪い」「悪い」の4段階で表した。また、パネラー10名に実施例1〜7及び比較例1〜3のインスタント粉末飲料から調製した液体飲料を飲用してもらい、味覚(苦味・渋味)及び喉越しについて官能試験を行った。試験は3点満点の評価(3点:良い、2点:やや良い、1点:やや悪い、0点:悪い)で行い、10名の平均点を◎:2.6〜3.0点、○:2.0〜2.5点、△:1.0〜1.9点、×:0〜0.9点、で表した。さらに、実施例1〜7及び比較例1〜3のインスタント粉末飲料の温水への溶解性についても目視により評価し、○:沈殿及び浮遊物が確認されなかった、×:沈殿及び/又は浮遊物が確認された、で表した。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
(試験結果)
表1から明らかなように、実施例1〜7のインスタント粉末飲料は、カゼインナトリウムが鉄1重量部に対し18重量部以上配合されていることで、温水に溶解して得られる液体飲料の着色が効果的に防止されており、特に、カゼインナトリウムを鉄1重量部に対し40〜4000重量部配合した実施例3〜7のインスタント粉末飲料においてその効果が顕著であった。また、実施例1〜7のインスタント粉末飲料から調製した液体飲料は、苦味・渋味が感じられず喉越しも良好であり、特に、実施例2〜7のインスタント粉末飲料から調製した液体飲料は、嫌味がまったく感じられず大変飲用しやすいものであった。なお、実施例7のインスタント粉末飲料は、温水に溶解して得られる液体飲料の着色が効果的に防止されているものの、カゼインナトリウムが完全に溶解せず、沈殿を生じた(従ってその吸光度は未測定)。カゼインナトリウムが配合されていない比較例1のインスタント粉末飲料から調製した液体飲料は着色が顕著であり、官能試験においても劣っていた。カゼインナトリウムの配合量が鉄1重量部に対し18重量部未満の比較例2,3のインスタント粉末飲料から調製した液体飲料は、実施例1〜7のインスタント粉末飲料から調製した液体飲料に比較して着色防止効果が発揮されておらず、官能試験においても劣っていた。
【0040】
試験例2:鉄−ラクトフェリン複合体とカテキン類との反応による着色に対するタンパク質(カゼインナトリウム)の防止効果試験(その2)
(試験方法)
鉄−ラクトフェリン複合体(鉄4.75%含有;雪印乳業社製)、ポリフェノン70A(カテキン類80%含有茶抽出物;三井農林社製)、EMLV(カゼインナトリウム92.5%含有組成物;DMV International社製)を用いて、表2に示す割合で各成分を均一に混合してインスタント粉末飲料を調製し(実施例8,9及びEMLV無配合の比較例4,5)、試験例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
(試験結果)
表2から明らかなように、実施例8と比較例4、実施例9と比較例5をそれぞれ比較することで、カゼインナトリウムを配合することによる着色防止効果と官能性向上効果を確認することができた。比較例4のインスタント粉末飲料は鉄の含量がもともと少ないため、温水に溶解して得られる液体飲料の着色はわずかであったが(従って吸光度測定値は小さい)、カゼインナトリウムを配合することで、着色を完全に防止することができた。
【0043】
試験例3:鉄−ラクトフェリン複合体とカテキン類との反応による着色に対するタンパク質(カゼインナトリウム)の防止効果試験(その3)
(試験方法)
鉄−ラクトフェリン複合体(鉄4.75%含有;雪印乳業社製)、ポリフェノン70A(カテキン類80%含有茶抽出物;三井農林社製)、EMLV(カゼインナトリウム92.5%含有組成物;DMV International社製)を用いて、表3に示す割合で各成分を均一に混合してインスタント粉末飲料を調製し(実施例10〜14及びEMLV無配合の比較例6〜10)、試験例1と同様の評価を行った。結果を表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
(試験結果)
表3から明らかなように、実施例10〜14のインスタント粉末飲料は、カゼインナトリウムが配合されていることで、温水に溶解して得られる液体飲料の着色が効果的に防止されており、得られた液体飲料は、苦味・渋味が感じられず喉越しも良好であった。比較例6のインスタント粉末飲料はカテキン類の含量がもともと少ないため、温水に溶解して得られる液体飲料の着色はわずかであったが(従って吸光度測定値は小さい)、カゼインナトリウムを配合することで、着色を完全に防止することができた。カテキン類を多量に含有する比較例8〜10のインスタント粉末飲料から調製した液体飲料は、苦味・渋味が強く感じらた。しかしながら、カゼインナトリウムを配合することで、得られる液体飲料は苦味・渋味がまったく感じられず喉越しも良好であった(実施例12〜14)。また、比較例9,10のインスタント粉末飲料の温水に対する溶解性は、カテキン類を非常に多量に含有するため劣っているが、カゼインナトリウムを配合することで、温水に対する溶解性を改善することができた(実施例13,14)。
【0046】
試験例4:鉄−ラクトフェリン複合体とカテキン類との反応による着色に対する各種のタンパク質(但しラクトフェリン類を除く)の防止効果試験
(試験方法)
鉄−ラクトフェリン複合体(鉄4.75%含有;雪印乳業社製)及びポリフェノン70A(カテキン類80%含有茶抽出物;三井農林社製)とともに、タンパク質(但しラクトフェリン類を除く)として、EMLV(カゼインナトリウム92.5%含有組成物;DMV International社製)の他に、市販の、乳清タンパク質含有素材(タンパク質75.0%含有)、ラクトアルブミンタンパク質含有素材(タンパク質80.0%含有)、カゼインホスホペプチド含有素材(タンパク質85.0%含有)、牛乳(タンパク質3.5%含有)、豆乳飲料(タンパク質4.5%含有)、乾燥卵白(タンパク質86.5%含有)、ゼラチン(酸性)(タンパク質87.6%含有)、ゼラチン(アルカリ性)(タンパク質87.6%含有)のいずれかを用いて、表4に示す割合で各成分を均一に混合してインスタント粉末飲料を調製し(実施例15〜23及びタンパク質(但しラクトフェリン類を除く)無配合の比較例11)、試験例1と同様の評価を行った。結果を表4に示す。
【0047】
【表4】

【0048】
(試験結果)
表4から明らかなように、各種のタンパク質(但しラクトフェリン類を除く)を配合した実施例15〜23のインスタント粉末飲料は、温水に溶解して得られる液体飲料の着色が効果的に防止されており、特に、実施例15〜20のインスタント粉末飲料においてその効果が顕著であった(実施例21のインスタント粉末飲料については温水に溶解して得られた液体飲料中に乾燥卵白が微粒子状になって分散したためその吸光度は未測定)。また、実施例15〜23のインスタント粉末飲料から調製した液体飲料は、苦味・渋味が感じられず喉越しも良好であり、特に、カゼインナトリウムを配合した実施例15のインスタント粉末飲料から調製した液体飲料は、嫌味がまったく感じられず大変飲用しやすいものであった。
【0049】
試験例5:鉄−ラクトフェリン複合体と紅茶ポリフェノールとの反応による着色に対するタンパク質(カゼインナトリウム)の防止効果試験
(試験方法)
鉄−ラクトフェリン複合体(鉄4.75%含有;雪印乳業社製)、ポリフェノンPF(紅茶ポリフェノール24%含有紅茶抽出物:三井農林社製)、EMLV(カゼインナトリウム92.5%含有組成物;DMV International社製)を用いて、表5に示す割合で各成分を均一に混合してインスタント粉末飲料を調製し(実施例24〜28及びEMLV無配合の比較例12)、試験例1と同様の評価を行った。結果を表5に示す。
【0050】
【表5】

【0051】
(試験結果)
表5から明らかなように、実施例24〜28のインスタント粉末飲料は、カゼインナトリウムが配合されていることで、温水に溶解して得られる液体飲料の着色が効果的に防止されており、特に、カゼインナトリウムを鉄1重量部に対し100重量部以上配合した実施例26〜28のインスタント粉末飲料においてその効果が顕著であった。また、カゼインナトリウムを鉄1重量部に対し50重量部以上配合することで、官能性を向上することができた(実施例25〜28)。
【0052】
処方例1:鉄分強化インスタントミルクティー(その1)
砂糖 60.0g
脱脂粉乳(タンパク質34%含有) 15.0g
クリーミングパウダー(カゼインナトリウム3.4%含有) 20.0g
鉄−ラクトフェリン複合体(鉄4.75%含有) 0.2g
ポリフェノン70A(カテキン類80%含有) 0.8g
紅茶パウダー(紅茶ポリフェノール20%含有) 3.0g
香料 1.0g
全量 100.0g
上記の各成分を均一に混合し、本発明の飲食品組成物として粉末状鉄分強化インスタントミルクティーを製造した。得られたインスタントミルクティーは13gを温水120mLに溶解して飲用するものとした。
【0053】
処方例2:鉄分強化インスタントミルクティー(その2)
砂糖 60.0g
脱脂粉乳(タンパク質34%含有) 15.0g
クリーミングパウダー(カゼインナトリウム3.4%含有) 20.0g
鉄−ラクトフェリン複合体(鉄4.75%含有) 0.2g
ポリフェノンPF(紅茶ポリフェノール24%含有) 1.8g
紅茶パウダー(紅茶ポリフェノール20%含有) 2.0g
香料 1.0g
全量 100.0g
上記の各成分を均一に混合し、本発明の飲食品組成物として粉末状鉄分強化インスタントミルクティーを製造した。得られたインスタントミルクティーは13gを温水120mLに溶解して飲用するものとした。
【0054】
処方例3:鉄分強化インスタント抹茶ミルク
砂糖 52.0g
脱脂粉乳(タンパク質34%含有) 21.0g
クリーミングパウダー(カゼインナトリウム3.4%含有) 18.0g
EMLV(カゼインナトリウム92.5%含有) 1.0g
鉄−ラクトフェリン複合体(鉄4.75%含有) 0.2g
ポリフェノンG(カテキン類35%含有茶抽出物:三井農林社製) 1.8g
抹茶(カテキン類10%含有) 5.0g
香料 1.0g
全量 100.0g
上記の各成分を均一に混合し、本発明の飲食品組成物として粉末状鉄分強化インスタント抹茶ミルクを製造した。得られたインスタント抹茶ミルクは13gを温水120mLに溶解して飲用するものとした。
【0055】
処方例4:鉄分強化インスタントグリーンティー
デキストリン 45.0g
ポリフェノンG(カテキン類35%含有) 37.5g
EMLV(カゼインナトリウム92.5%含有) 10.0g
鉄−ラクトフェリン複合体(鉄4.75%含有) 1.0g
L−アスコルビン酸ナトリウム 5.0g
香料 1.5g
全量 100.0g
上記の各成分を均一に混合し、本発明の飲食品組成物として粉末状鉄分強化インスタントグリーンティーを製造した。得られたインスタントグリーンティーは3gを温水120mLに溶解して飲用するものとした。
【0056】
処方例5:鉄分強化ポリフェノール類配合経口栄養剤
デキストリン 44.34g
砂糖 17.74g
粉末油脂 15.02g
分離大豆タンパク質(タンパク質34%含有) 2.35g
パルミチン酸レチノール 670.00μg
コレカルシフェロール 7.30μg
酢酸トコフェロール 15.00mg
フィトナジオン 40.70μg
アスコルビン酸 75.00mg
塩酸チアミン 1.50mg
リボフラビン 1.50mg
塩酸ピリドキシン 1.30mg
シアノコバラミン 15.00μg
塩化コリン 0.27g
葉酸 127.00μg
ニコチン酸アミド 13.00mg
パントテン酸カルシウム 4.00mg
ビオチン 140.00μg
塩化マグネシウム 0.74g
クエン酸カリウム 0.83g
第三リン酸カルシウム 0.54g
塩化カリウム 0.54g
クエン酸ナトリウム 0.71g
硫酸亜鉛 28.00mg
塩化マンガン 3.00mg
硫酸銅 1.70mg
鉄−ラクトフェリン複合体(鉄4.75%含有) 85.00mg
ポリフェノン70A(カテキン類80%含有) 1.13g
EMLV(カゼインナトリウム92.5%含有) 15.56g
全量 100.0g
上記の各成分を均一に混合し、本発明の飲食品組成物として粉末状鉄分強化ポリフェノール類配合経口栄養剤を製造した。得られた経口栄養剤は55gを温水120mLに溶解して投与するものとした。
【0057】
処方例6:鉄分強化ポリフェノール類配合液状流動食
EMLV(カゼインナトリウム92.5%含有) 5.0g
デキストリン 10.0g
ポリフェノン70A(カテキン類80%含有) 5.0g
調整脂肪 2.0g
ミネラル混合物(鉄12.5%含有) 400.0mg
ビタミン混合物 20.0mg
グリセリン脂肪酸エステル 30.0g
ラクトフェリン 1.0g
上記の各成分をイオン交換水(60℃)に添加して全量が100gとなるように調整し、これをホモミキサーを用いて予備乳化した。得られた予備乳化物を高圧ホモジナイザーを用いて2回均質化し、本発明の飲食品組成物として鉄分強化ポリフェノール類配合液状流動食を製造した。
【0058】
処方例7:鉄分強化ポリフェノール類配合育児用調製粉乳
乳清タンパク質含有素材(タンパク質75.0%含有) 15g
カゼイン含有素材(カゼイン86.2%含有) 10g
ミネラル混合物(鉄12.5%含有) 550mg
調整脂肪 20g
デキストリン 40g
ポリフェノン70A(カテキン類80.0%含有) 0.5g
ショ糖 5g
乳糖 10g
ビタミン混合物 23mg
ラクトフェリン 1g
上記の各成分を200mlのイオン交換水(60℃)に添加して均質化した。これを120℃で2秒間殺菌した後、濃縮し、噴霧乾燥することで、本発明の飲食品組成物として鉄分強化ポリフェノール類配合育児用調製粉乳(約97g)を製造した。
【0059】
処方例8:鉄分強化ポリフェノール類配合グレープフルーツゼリー
果糖ブドウ糖液糖 7g
1/5グレープフルーツ濃縮果汁 6g
クエン酸 0.1g
クエン酸ナトリウム 0.1g
グレープフルーツフレーバー 0.1g
ポリフェノン70A(カテキン類80%含有) 0.5g
鉄−ラクトフェリン複合体(鉄4.75%含有) 2g
ゼラチン含有素材(ゼラチン87.6%含有) 3g
上記の各成分をイオン交換水に加温しながら完全に溶解し、全量を100gとした。これをカップ容器に注ぎ、ヒートシールで蓋をして冷却し、本発明の飲食品組成物として鉄分強化ポリフェノール類配合グレープフルーツゼリーを製造した。
【0060】
処方例9:鉄分強化ポリフェノール類配合牛乳
市販の牛乳(タンパク質3.5%含有)100mLに、ポリフェノン70A(カテキン類80%含有)50mgと鉄−ラクトフェリン複合体(鉄4.75%含有)10mgを配合し、本発明の飲食品組成物として鉄分強化ポリフェノール類配合牛乳を製造した。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、鉄、ポリフェノール類及びラクトフェリン類を含有し、鉄とポリフェノール類の共存に起因する着色を効果的に防止することができる飲食品組成物を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)、(C)及び(D)を含有することを特徴とする飲食品組成物。
(A)鉄
(B)ポリフェノール類
(C)ラクトフェリン類
(D)鉄1重量部に対し18重量部以上のタンパク質(但しラクトフェリン類を除く)
【請求項2】
鉄とラクトフェリン類を両者の複合体として含有することを特徴とする請求項1記載の飲食品組成物。
【請求項3】
ポリフェノール類が茶又はその加工物由来であることを特徴とする請求項1又は2記載の飲食品組成物。
【請求項4】
タンパク質が鶏卵タンパク質、ホエータンパク質、大豆タンパク質、小麦タンパク質、魚タンパク質、カゼイン又はそのアルカリ金属塩、ゼラチンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の飲食品組成物。
【請求項5】
タンパク質がカゼイン又はそのアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項4記載の飲食品組成物。
【請求項6】
カゼインのアルカリ金属塩がカゼインナトリウムであることを特徴とする請求項5記載の飲食品組成物。
【請求項7】
その形態が液状であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の飲食品組成物。
【請求項8】
鉄を0.01mg/100mL以上含有し、ポリフェノール類を5mg/100mL以上含有することを特徴とする請求項7記載の飲食品組成物。
【請求項9】
その形態が水性媒体に溶解乃至分散が可能な粉末状、顆粒状、固形状のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の飲食品組成物。
【請求項10】
鉄を0.00001%(w/w)以上含有し、ポリフェノール類を0.01%(w/w)以上含有することを特徴とする請求項9記載の飲食品組成物。
【請求項11】
鉄、ポリフェノール類及びラクトフェリン類を含有する飲食品組成物の着色防止剤であって、タンパク質(但しラクトフェリン類を除く)を有効成分とすることを特徴とする着色防止剤。
【請求項12】
鉄、ポリフェノール類及びラクトフェリン類を含有する飲食品組成物の着色防止方法であって、飲食品組成物にタンパク質(但しラクトフェリン類を除く)を鉄1重量部に対し18重量部以上の割合で配合することを特徴とする着色防止方法。

【公開番号】特開2008−182934(P2008−182934A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18443(P2007−18443)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(303044712)三井農林株式会社 (72)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】