説明

香味の改善された醤油の製造法

【課題】 熟成感の強い香り、塩味ときつさの少ないなめらかな口当たりの醤油を提供する。
【解決手段】醤油を洋酒樽に入れ、放置(貯蔵)すること特徴とする、香味の改善された醤油の製造法を提供する。また、本発明は、醤油を洋酒樽に入れ、放置(貯蔵)し熟成させること特徴とする、醤油の香味改善法を提供する。
このような本発明方法により、従来の醤油よりも未熟臭が少なく、熟成感のある香りを有し、きつさと塩味が低減化され嗜好性の向上した醤油を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香味の改善された醤油、より具体的には熟成感のある香りを有し、塩味ときつさの少ないなめらかな口当たりの醤油の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
醤油などの伝統古来の調味料においても、消費者の嗜好の多様化や醤油の使用用途の拡大に伴い、多種多様な香味を有する醤油が求められている。
【0003】
従来、醤油の香味改善に関する研究は、麹菌の改良や醸造法の改良の方面からなされ、数多くの報告もなされている。たとえば、諸味で醤油を熟成させた場合、原料の違いや温度管理、熟成期間の違い等により様々な香味を有する醤油を得ることができるものの、それはある一定の範囲の香味の変化であり、香味の大幅な改質とはなっていない。
【0004】
一方、江戸時代から昭和の初めまで、醤油の容器として杉材で製作された樽が汎用されていたが、現在ではビン、カン、ペットボトル等に取って代わられている。その理由としては、経済的な理由が最も大きいものの、品質面では、杉製の樽で醤油を長期間保管した場合、(1)色が濃くなり、香味的も著しく劣化する、(2)新樽の場合には、杉の香りが付き好ましくない、(3)杉材の中に醤油がしみ込み、目減りしてしまう、等の問題点が挙げられている(最新醤油醸造論、635−636頁、大正10年発行)。
【0005】
また、戦前、地方の小さな業者においては、杉製の新樽の代わりに、日本酒、焼酎などで使用された杉製の古樽を醤油の容器として使用していた。日本酒、焼酎などで使用された古樽は、杉材に日本酒や焼酎がしみ込んでいるため、このような樽で醤油を保管すると、醤油に日本酒や焼酎由来の佳快の芳香を付加できるとされている(醤油醸造法、223頁、昭和10年発行)。
【0006】
【非特許文献1】最新醤油醸造論、635−636頁、大正10年発行
【非特許文献2】醤油醸造法、223頁、昭和10年発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、日本酒、焼酎などで使用された古樽に醤油を保管したとしても、杉材にしみ込んだ日本酒や焼酎が小量移行し、香りが多少改善されるものの、香味豊かな醤油とは言い難く、また1ヶ月以上の長期間の保管では香味が劣化してしまうといった問題点もあった。
【0008】
したがって、本発明は、醤油諸味の圧搾・オリ引き後の後処理で、穏やかで落ち着いた香りを有し、かつきつさがなく穏やかで塩味の抑えられた醤油の製造法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、従来、醤油の容器としては全く使用されたことがなかった洋酒樽で醤油の保存を試みるたところ、全く意外なことに、1ヶ月以上の長期保存によって、未熟臭が少なく、熟成感のある香りを有し、かつきつさと塩味が低減化され、嗜好性の向上した醤油を得ることができることを見出した。
【0010】
通常、圧搾・オリ引き後あるいは火入れ後の醤油は、エポキシ樹脂コーティングされた金属製の貯蔵タンクなどに入れられ、出荷まで保管されているが、長期間の保管は酸化等により香味の劣化をもたらすため好ましくないと考えられている。また、上述したように杉樽での醤油の保存には様々な問題点があるため、洋酒樽で醤油を保管したとしても、程度の違いこそあれ、嗜好性が向上するとは到底考えられなかった。
【0011】
本発明者は、上記知見を基にさらに検討を重ね、洋酒樽を用いた醤油の香味改善法を見出し、本発明を完成させた。したがって、本発明は以下の通りである。
【0012】
(1)醤油を洋酒樽に入れ、放置(貯蔵)する特徴とする、香味の改善された醤油の製造法。
(2)醤油が火入醤油又は生醤油である、(1)記載の製造法。
(3)洋酒樽がウィスキーの熟成に使用された古樽である、(1)記載の製造法。
(4)1ヶ月以上放置(貯蔵)する、(1)記載の製造法。
【0013】
(5)醤油を洋酒樽に入れ、放置(貯蔵)し熟成させること特徴とする、醤油の香味改善法。
(6)醤油が火入醤油又は生醤油である、(5)記載の方法。
(7)洋酒樽がウィスキーの熟成に使用された古樽である、(5)記載の方法。
(8)1ヶ月以上熟成させる、(5)記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
醤油を洋酒樽に入れ、放置(貯蔵)するという極めて簡単な方法で、熟成香が強く、塩味ときつさの少ないなめらかな口当たりの醤油を製造することができる。
【0015】
また、醤油を洋酒樽に入れ、放置(貯蔵)し熟成させる本発明の方法により、従来の醤油よりも未熟臭が少なく、熟成感のある香りを有し、きつさと塩味が低減化され嗜好性の向上した醤油を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に用いる醤油としては、生醤油、火入醤油のいずれであってもよく、例えば濃口醤油、淡口醤油、再仕込醤油、溜醤油などの通常の醤油、これらの醤油を限外濾過、精密濾過などの膜処理をおこなったもの、電気透析などにより脱塩処理されたもの、脱色処理をおこなったもの等が例示される。
【0017】
また、本発明で使用する洋酒樽としては、ワイン、シェリー酒、ウィスキー等の洋酒の貯蔵・熟成に使用する木製の樽であればよく、好ましくはウィスキーの熟成に使用されているホワイトオーク製の樽を例示することができる。なお、ウィスキー樽は新樽でもかまわないが、好ましくはウイスキーの熟成に数回使用された古樽が好適である。
【0018】
このような洋酒樽を用いて醤油を熟成させる方法としては、洋酒樽に醤油を充填し、これを放置(貯蔵)することで実施することができる。
【0019】
洋酒樽への醤油の充填量は、特に制限されないが、満容量の20%以下の空隙を設けて醤油を樽に充填すればよい。
【0020】
樽に醤油を充填後、必要により栓をし、ある程度の湿気(例えば30%以上)のある場所、たとえば倉庫などの暗所で、少なくとも1ヶ月以上、好ましくは2ヶ月以上、3年位の期間、5〜35℃の室温条件下で放置(貯蔵)することで、醤油を熟成させることができる。
【0021】
放置(貯蔵)期間が1ヶ月未満では、熟成が十分ではなく、目的とする醤油を得られないが、6ヶ月以上で充分な熟成感は得られる。さらに、室温は、上記範囲内であれば調節する必要はなく、上記範囲を外れた場合のみ、冷却又は加温すればよい。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明が実施例に限定されないことは明らかである。
【0023】
実施例1
諸味圧搾後の生醤油をモルトウィスキーの熟成に使用した古樽およびグレーンウィスキーの熟成に使用した古樽に充填し、密栓後、室温(平均25℃)にて1ヶ月と6ヶ月間、放置・熟成させた。
【0024】
放置・熟成後の生醤油を火入れ後、同条件で貯蔵した瓶詰の生醤油を火入れしたものを対照として、ベテランのパネラー10名にて官能試験を行った。官能評価は、対照の醤油の評価を3とし、香味の強いものを4あるいは5とし、弱いものを2あるいは1とし、10名の平均を比較することで行った。
【0025】
その結果、下記表1及び2に示すように、1ヶ月間の熟成においては熟成感が充分でないが、きつさと塩味がモルトウィスキー樽およびグレーンウィスキー樽において約10%低減される。また、6ヶ月間の貯蔵では熟成効果が増し、未熟臭およびきつさ、塩味もモルトウィスキー樽およびグレーンウィスキー樽のいずれの樽においても約20%程度低減されることが明らかとなった。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
実施例2
諸味圧搾後の生醤油をモルトウィスキーの熟成に使用した古樽およびグレーンウィスキーの熟成に使用した古樽に充填し、密栓後、室温(平均25℃)にて15ヶ月間、放置・熟成させた。
【0029】
放置・熟成後の生醤油を火入れ後、同条件で貯蔵した瓶詰の生醤油を火入れしたものを対照として、ベテランのパネラー10名にて官能試験を行った。官能評価は、対照の醤油の評価を3とし、香味の強いものを4あるいは5とし、弱いものを2あるいは1とし、10名の平均を比較することで行った。
【0030】
その結果、下記表3に示すように、15ヶ月間の貯蔵することで、モルトウィスキー樽およびグレーンウィスキー樽のいずれの樽においても、香り及び味の評価が対照のものを上回ることが明らかとなった。
【0031】
【表3】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
醤油を洋酒樽に入れ、放置(貯蔵)すること特徴とする、香味の改善された醤油の製造法。
【請求項2】
醤油が火入醤油又は生醤油である、請求項1記載の製造法。
【請求項3】
洋酒樽がウィスキーの熟成に使用された古樽である、請求項1記載の製造法。
【請求項4】
1ヶ月以上放置(貯蔵)する、請求項1記載の製造法。
【請求項5】
醤油を洋酒樽に入れ、放置(貯蔵)し熟成させること特徴とする、醤油の香味改善法。
【請求項6】
醤油が火入醤油又は生醤油である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
洋酒樽がウィスキーの熟成に使用された古樽である、請求項5記載の方法。
【請求項8】
1ヶ月以上熟成させる、請求項5記載の方法。