骨再生システム
【課題】骨芽細胞分化の機序を遺伝子レベルで解明し、短期間で細胞種を問わず直接的に骨芽細胞分化を誘導する必要十分条件を満たした骨再生システムを提供する。
【解決手段】骨欠損部へ供給されるマトリックスからなる人工骨であって、自家骨の再生方向に対峙する前記マトリックスの面に、骨再生活性手段が含有されている骨再生用構造体である。骨欠損部における骨が露出した面に対向する、前記マトリックスの面のみに前記骨再生活性手段が含有されている。前記骨化再生手段が、骨芽細胞の増殖と分化を誘導する生理活性物質であって、骨再生誘導経路であるBMPシグナル経路を刺激するファクターとRunx2シグナル経路を刺激するファクターとが含有された骨再生活性物質からなる。
【解決手段】骨欠損部へ供給されるマトリックスからなる人工骨であって、自家骨の再生方向に対峙する前記マトリックスの面に、骨再生活性手段が含有されている骨再生用構造体である。骨欠損部における骨が露出した面に対向する、前記マトリックスの面のみに前記骨再生活性手段が含有されている。前記骨化再生手段が、骨芽細胞の増殖と分化を誘導する生理活性物質であって、骨再生誘導経路であるBMPシグナル経路を刺激するファクターとRunx2シグナル経路を刺激するファクターとが含有された骨再生活性物質からなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は骨再生システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
骨格系は、外界の変化を受容しそれに対応して行動する動物的機能の根幹をなすものである。中でも骨組織は中枢神経系を保護し軟組織を機械的に支持することで動物的機能の中心的な役割を果たすだけでなく、血清カルシウムレベルの調節や造血という、植物的機能つまりホメオスタシスの維持にも関与している。従って、骨組織の不可逆的な喪失は動物的機能、しいては生命活動の減弱、喪失をもたらす。
【0003】
急速に進行する高齢化社会は、骨粗鬆症や歯周病といった骨喪失性疾患に対する治療への強い社会的要請をもたらした。現在、国内の骨粗鬆症患者は1000万人いるとされ、骨粗鬆症は骨折の危険性を高める最も大きな要因の1つである。寝たきりの原因のうち、転倒などによる骨折が脳血管疾患についで第2位、欧米では第1位となっている。骨折による活動レベルの低下や生活範囲の狭小化が痴呆につながるともいわれている。
【0004】
歯周病は歯槽骨の吸収により歯牙の喪失を来す疾患であるが、罹患率は年代とともに増加し、55-64歳では82.5%にものぼる。そして40歳以降に歯を失う原因の90%はこの歯周病によるとされている。高齢者の歯牙喪失による咀嚼機能の低下は、栄養摂取に影響を与えるばかりでなく、痴呆との関連も示唆されている。
【0005】
現在の治療法では、非病的状態まで喪失骨を取り戻すことができず、実際はその進行を食い止めているに過ぎない。このほか、炎症性疾患、腫瘍、先天奇形による骨欠損、損傷も患者のQOLを著しく低下させ、身体的のみならず精神的にも苦痛を与える。これまで、組織欠損に対する治療法として再建外科医療と移植医療が果たした功績は非常に大きい。
【0006】
しかし、人工臓器は耐久性と機能に制限を有し、臓器・組織移植はドナー不足と免疫抑制に課題を残すため、共に限界が見え始めていることも事実である。これらに取って代わる治療法として、自己のもつ再生能を最大限に引き出すことで組織を復元する再生医療が近年脚光を浴びている。
【0007】
骨欠損に対しても、その実現を目指し多くの施設で研究されているが、実現というには程遠いのが現状である。1993年にViacantiらが骨軟骨再生医療の3つの要素は、1)幹細胞、2)増殖、分化、延命のためのシグナル分子、3)足場(担体−scaffold)と指摘している。
【0008】
骨の再生は、骨芽細胞の増殖と分化による基質形成と石灰化、そして最終的に骨の再生という一連の細胞生物学的反応を経ることが知られている。この過程は、骨再生の誘導因子シグナルが関与するネットワークとカスケードの発現によって制御されている。個々のシグナルがどのように関連しあって複雑な再生や分化の過程に向かうかについては、必ずしも明確ではない。しかしながら、骨の再生システムは、第1として、細胞が増殖・分化し、骨が形成するための足場となるマトリックス、第2として、骨芽細胞の増殖と分化を誘導する生理活性物質、第3として、骨原性前駆細胞、以上の実現を目的としている。
【0009】
第1のマトリックスは、骨欠損部へ埋め込まれて足場の役割を発揮し、宿主からの骨芽細胞の増殖を促し、骨形成を導くものである。マトリックスとしては、コラーゲンなどの天然材料の他、ハイドロキシアパタイトなどの無機化合物が知られている。これらのマトリックスには骨の侵入を容易にするための連続気孔が設けられている。
【0010】
第2の生理活性物質は、骨欠損部へ直接導入されて骨生成を図るための骨誘導性タンパク質である。この骨誘導性タンパク質からなるシグナルが骨再生のための刺激に関与する経路には、複数あることが知られており、かつ、それぞれのシグナル刺激経路に、骨済世の促進又はその抑制因子として関与するシグナルが複数知られている。すなわち、BMPシグナル(caALK6とSmad6)、Hhシグナル(caSmoとhGLI3Δ)、Runx2シグナル(Runx2とdn Runx2)、Wntシグナル(caTCFとdnTCF)、Insulinシグナル(IRS-1とdnlRS-1)の5種が良く知られている。これらを臨床に用いるためには、生理活性物質を局所に留め、必要な量を除放する担体が必要である。これらの担体としては、乳酸-グリコール酸共重合体、多孔質アパタイトなどがある。
【0011】
前記第3の手段としての骨原性前駆細胞は、骨の増量を必要とする部位に直接供給されるか、細胞やマトリックスを増やして移植組織を形成した後、骨欠損分に移植される。
【0012】
骨の再生システムに関する従来例として、例えば、特表2003−513682号公報に記載のものが知られている。このものは、骨 組織復元システムであって、骨 格および、骨 形成の増進を促進させるために上記骨 格に固定させた生物学的活性分子からなる第1成分、ならびに骨 再吸収の低減を促進させるための第2成分を含むシステムであることを特徴とするものである。
【0013】
また、特表2004−536818号公報には、医薬品もしくは装置がBMP 結合タンパク 質を含む、例えば骨 および/または軟骨 組織の組織再生 のための医薬品または装置からなるシステムが記載されている。
【0014】
さらに、特表2000−502336号公報には、哺乳動物における組織形成を誘導するための組成物であって、以下を含み: a)該哺乳動物において始原細胞に接近し得る場合に組織形成を誘導し得る、形態形成タンパク質;b)該始原細胞からの組織形成を誘導する該形態形成タンパク質の能力を刺激し得る、形態形成タンパク質刺激因子;および c)薬学的に受容可能なキャリア;ここで、該形態形成タンパク質刺激因子は、ホルモン、サイトカイン、ペプチド、および増殖因子からなる群から選択され、そして以下の過程;該始原細胞が骨を形成するように刺激された骨芽細胞であり、かつ該形態形成タンパク質がBMPホモダイマー、TGF-β、またはアクチビンである場合、該MPSFはエストロゲンまたはカルシトニンでなくてもよく;該始原細胞が骨を形成するように刺激された骨芽細胞であり、かつ該形態形成タンパク質がBMPホモダイマーまたはTGF-βである場合、該MPSFはFGF、GF-IIPDGF、またはビタミンDでなくてもよく;そして 該始原細胞が骨を形成するように刺激された骨芽細胞であり、かつ該形態形成タンパク 質がBMP -2またはBMP -3のホモダイマーである場合、該MPSFは副甲状腺ホルモンでなくてもよい;が成立する、組成物が記載されている。
【特許文献1】特表2003−513682号公報
【特許文献2】特表2004−536818号公報
【特許文献3】特表2000−502336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
骨再生医療の実現のためには、以下のような問題が解決されねばならないと考えられる。第1に、骨の要素である豊富な基質と骨芽細胞の両方が十分量確保され、欠損部にあわせた成形が達成されねばならない。現在の主要な細胞源である体性幹細胞は継代を重ねることでその分化能が失われていく。そのため実際の臨床で必要とされる細胞数を患者自身から採取した幹細胞からex vivoで確保するのは非常に困難である。
【0016】
また、従来の細胞培養法では、細胞と基質を培養皿から一塊に取り出すことは不可能である。細胞及び基質の確保と成形の問題を解決する方法として担体を併用した3次元培養法が考えられるが、特殊な装置を必要とすることや効率の点などで未だ実現には程遠い。
【0017】
第2に、安全性が確保されねばさらない。上記のような人工物の併用あるいは幹細胞、再生骨の同種、異種移植に際しては常に感染症、レシピエントの拒絶反応が問題となる。
【0018】
第3に治療期間の短縮化を図る為、安定した再生骨組織の誘導法が確立されねばならない。近年、発生工学や分子生物学の発展は、骨形成に関与する多くの分化因子、増殖因子を明らかにしてきた。それに伴ってこうした因子を応用し、より効率的に骨再生、骨形成を進めようとする試みが多くの施設より報告されている。報告の多くが単独の因子による骨形成の促進を図ったものや、機序が不明なものであり、劇的に治療効果を高め、治療期間を短縮しているとはいえない。生体内では単独ではなく複数の因子が、時間的空間的に協調して作用し、効率的に骨形成を進めていくと考えられる。しかし、そういった協調作用つまり骨形成の必要十分条件とその機序は明らかになっておらず、安定した再生骨組織の直接的な誘導法が確立されているとはいえない。
【0019】
本発明は、これら問題点の克服と、それによる骨再生医療の実現に資する骨再生システムを提供する事を目的とするものである。本発明の他の目的は、より安全で治療効果の高い骨再生医療のために、患者自身より豊富に採取可能で旺盛な増殖力を有する細胞を用い、ex vivoで短期間のうちに再生骨様組織を作製でき、骨組織において中心的な役割を担う基質を最大限に利用し、簡便で治療効果の高い移植法に適した骨再生システムを提供することである。本発明の他の目的は、骨芽細胞分化の機序を遺伝子レベルで解明し、短期間で細胞種を問わず直接的に骨芽細胞分化を誘導する必要十分条件を満たした骨再生システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者が鋭意検討の結果、BMPシグナルがRunx2に何らかの修飾を加えることで、骨芽細胞分化が誘導されると考えた。NIH3T3細胞にRunx2を過剰発現させると、Runx2のmRNA及び蛋白は著しい発現上昇を示し、Runx2蛋白のほとんどは核に集積した。しかし、BMPシグナルを共導入しても、Runx2の蛋白量及びその細胞内局在は変化しなかった(図1)。
【0021】
次に、BMPシグナルとRunx2の協調作用に介在し、Runx2の機能を修飾する分子としてCbfbに注目した。NIH3T3細胞において内因性CbfbのmRNAは中等度に発現が認められ、BMPシグナルあるいはRunx2を導入しても大きく変化しなかった。一方Cbfbの蛋白量については、Runx2の単独導入により著しく発現が上昇し、ほとんどが核へ集積していた。BMPシグナルとRunx2を共導入してもCbfbの細胞内局在は変化しなかった。興味深いことに、Runx2とCbfbの細胞内局在パターンは一致しており、核内においてヘテロダイマーを形成していると示唆された。
【0022】
さらにオステオカルシンプロモーターに対するDNA結合能をクロマチン免疫沈降により検討した。BMPシグナルの導入によりRunx2のDNA結合能は大きく変化しないが、BMPシグナルとRunx2の共導入により、そこへはCbfbがリクルートされていた(図2)。CbfbはDNA結合能を有しないため、このDNA上のCbfbはRunx2とヘテロダイマーを形成していると考えられた。つまり、BMPシグナルの導入は、Runx2およびCbfbの蛋白量、細胞内局在を変化させないが、Runx2-Cbfb複合体をDNA上に誘導した。 したがって、BMPシグナルとRunx2の骨芽細胞分化における協調作用には、Runx2-Cbfb複合体の制御が関与することが示唆された。
【0023】
以上より、BMPシグナルとRunx2による協調作用に関して、図2のようなモデルが考えられた。まず、過剰発現されたRunx2はホモダイマーとして、あるいは、cbfbとのヘテロダイマーとして速やかに核内へ移行する。BMPシグナルが活性化されていない状態では、主にRunx2ホモダイマーあるいはモノマーがDNAに結合し低レベルで転写を活性化する。しかし、BMPシグナルが活性化された状態では、Runx2-Cbfbヘテロダイマーが主にDNAに結合し高レベルで転写を活性化し、骨芽細胞分化が促進する。
【0024】
以上の知見に基づいて、本発明は以下の特徴を備える。本発明骨再生活性物質は、骨芽細胞の増殖と分化を誘導するものであり、少なくとも骨再生誘導経路であるBMPシグナル経路を刺激するファクターとRunx2シグナル経路を刺激するファクターとが含有されていることを特徴とする。本発明は、さらに、骨芽細胞の増殖と分化を誘導する生理活性物質である、骨再生誘導経路であるBMPシグナル経路を刺激するファクターとRunx2シグナル経路を刺激するファクターとを、それぞれコードする遺伝子が導入されたベクターであることを特徴とするものである。
【0025】
本発明は、さらに、骨芽細胞の増殖と分化を誘導する生理活性物質である、骨再生誘導経路であるBMPシグナル経路を刺激するファクターとRunx2シグナル経路を刺激するファクターとをそれぞれコードする遺伝子が導入されたヒト又は動物の幹細胞又は骨芽細胞前駆細胞又は骨芽細胞である事を特徴とするものである。本発明は、また、骨再生誘導経路であるBMPシグナル経路を刺激するファクターとRunx2シグナル経路を刺激するファクターとを、それぞれコードする遺伝子が導入されたヒト又は動物の、繊維芽細胞などの非骨芽細胞である事を特徴とする。
【0026】
本発明は、また、幹細胞又は骨芽細胞前駆細胞又は骨芽細胞又は非骨芽細胞を体外に取り出し、これらの細胞に、骨再生誘導経路であるBMPシグナル経路を刺激するファクターとRunx2シグナル経路を刺激するファクターとを、それぞれコードする遺伝子を導入した後、当該細胞を培養する方法であることを特徴とするものである。
【0027】
さらにまた、本発明は、骨欠損部へ供給されるマトリックスを備え、このマトリックスに既述の骨再生活性物質が含有されてなる骨再生用構造体であることを特徴とする。さらにまた、本発明は、骨欠損部へ供給されるマトリックスを備え、このマトリックスに既述のベクターが含有されてなる骨再生用構造体であることを特徴とする。さらにまた、本発明は、骨欠損部へ供給されるマトリックスを備え、このマトリックスに前記細胞が含有されていることを特徴とする。
【0028】
さらにまた、本発明は、骨欠損部へ供給されるマトリックスからなる人工骨であって、自家骨の再生方向に対峙する前記マトリックスの面(特にその面のみ)に、骨再生活性手段が含有されていることを特徴とする。さらにまた、本発明は、人工骨材料成分のペースト粉末と骨再生活性手段とが混合されている人工骨形成用組成物であることを特徴とするものである。さらにまた、本発明は、前記マトリックスが、輪切り状に画像化した骨の断面図を複数枚用意し、粉末の人工骨材料を薄く敷いたシートに、インクジェットプリンターを前記画像通りに固化剤を噴霧して製造されるものであることを特徴とするものである。
【0029】
本発明において骨活性手段が導入されるウイルスとしては、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、アルファウィルス、単純ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レンチウイルスがある。ウイルスの量は、4mm径の骨欠損部に対して、108 infectious forming unitである。
【0030】
骨誘導能をもつ担体に関する担体としてのマトリックス材料としては、合成高分子吸収性ではポリエステル系高分子が対象となる。例えば、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプトラクトン、ポリジオキサノン、これら成分の複合体である。天然高分子では、タンパク質、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、ペプチドである。多糖類では、植物由来のものとして、カルボキシメチルセルロース、アルギンサン、フコース、アガロースである。動物由来のものとしては、ヒアルロン酸、キトサンがある。無機系材料としては、燐酸カルシウム、炭酸カルシウム、ハイドロオキシアパタイト、ガラスがある。好適には、生分解性ポリマーである、poly(DL-lactide-co-glycolide)、Poly(DL-lactide)、Poly(L-lactide)、Poly(glycolide)、Poly(ε-caprolactone)、又は、Poly(DL-lactide-co-ε-caprolactone)である。また、β-リン酸3カルシウム(β−TCP)、Hydroxyapatite、或いはアテラコラーゲン(atelocollagen)である。
【0031】
骨誘導物質としては、骨誘導シグナルであるBMPシグナル経路及びRunx2シグナル経路をそれぞれ刺激する刺激因子である、例えば、caALK6及びRunx2をエンコードするDNAプラスミドそのもの、又は、アデノウイルスにパッケージしたDNAプラスミドがある。これらシグナルを刺激する薬物としては、FK506(藤沢薬品)がある。
【0032】
骨再生のシグナル経路であるBMPシグナル(caALK6とSmad6)、Hhシグナル(caSmoとhGLI3Δ)、Runx2シグナル(Runx2とdn Runx2)、及びWntシグナル(caTCFとdnTCF)、Insulinシグナル(IRS-1とdnlRS-1)は、それぞれ、NATURE VOL 423 15 MAY 2003,332-336pp, The New England Journal of Medicine Vol 346,No20,May 16,2002 1572-1574pp,The Journal of Clinical Investigation April 2000 Vol 105,No7,935-943ppに詳しく記載されている。
【0033】
ベクターへの遺伝子導入方法としては、次のものがある。
【0034】
1.ウイルスベクターによる導入法(参考TREND in Biotechnology 21:117-122,2003)
ウイルスに望みの遺伝子を組み込んで行う。
【0035】
2.裸の遺伝子の直接投与(参考文献Human Gene Therapy12 861-870,2001)
DNAの量は、4ミリメートルの骨欠損に対して0.4μg。
【0036】
3.遺伝子銃:金の粒子に遺伝子を付着させて、高速で細胞内に打ち込む方法(参考文献Human Gene Therapy12 861-870,2001)。
DNAの量は、4ミリメートルの骨欠損に対して0.4μg。
【0037】
4.エレクトロポレーション:電気的衝撃波により細胞膜の透過性を亢進させて遺伝子を導入する方法(参考文献Human Gene Therapy12 861-870,2001)。
DNAの量は、4ミリメートルの骨欠損に対して0.4μg。
【0038】
5.光化学法:光感受性のある化合物を利用した遺伝子導入法(参考文献AdvancedDrugDeliveryReviews56:95-115,2004)。
DNAの量は、4ミリメートルの骨欠損に対して0.4μg。
【0039】
6.リボフェクション:陽性荷電を持つ脂質とDNAの複合体を形成し、細胞に取り込ませて遺伝子導入する方法(参考文献Human Gene Therapy12 861-870,2001)。
DNAの量は、4ミリメートルの骨欠損に対して0.4μg。
【0040】
7.ポリマーによる方法:陽性荷電を持つポリマーとDNAの複合体を形成し、細胞にとりこませて遺伝子導入する(参考文献Human Gene Therapy12 861-870,2001)。ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリオルニチン、キトサン、スターバーストデンドリマーなどがある。DNAの量は、4ミリメートルの骨欠損に対して0.4μg。
【0041】
8.高分子ナノ構造体による遺伝子導入:親水性の部分と疎水性の部分をもつブロック共重合体のミセル形成を利用した遺伝子導入法
(参考文献AdvanoedDrugDeIiveryReviews47:113-131,2001)。ブロック共重合体には、ポリエチレングリコールーポリカチオンなどがある。DNAの量は、4ミリメートルの骨欠損に対して0.4μg。
【0042】
[クローニング]
マウス野生型ALK6cDNA(Genbank accession number:NM_007560)をテンプレートに用い、全長を含むプライマーにて増幅して発現ベクター(pcDNA3.1,米国インビトロジェン社)に組み込み、マウス野生型ALK6をクローニングした。ALK6遺伝子は203番目のグルタミンをアスパラギン酸に変異させることで恒常活性型caALK6となることが報告されている。そこで、BDT Transformer Site・Directed Mutagenesis Kit(米国クロンテック社)を用い、変異を含むプライマーにて増幅することによりマウス由来恒常活性型caALK6遺伝子を作製し発現ベクターに組み込んだ。マウス野生型Runx2(Genbank accession Number:NM_009820)も同様に、全長を含むプライマーにて増幅することによリクロ一ニングし、発現ベクター(pcDNA3.1)に組み込んだ。
【0043】
[アデノウイルスベクターの作製]
AdenoX Expression System(米国クロンテック社)を用い、in vitroライゲーション法にて作製した。まず目的遺伝子を発現ベクターから制限酵素により切り出し、シャトルベクターに組み込んだ。次に、シャトルベクターから目的遺伝子を制限酵素で切り出しアデノウイルスDNAとライゲーションさせた。目的遺伝子を含むアデノウイルスDNAをパッケーンジング細胞であるHEK293細胞に感染させ、目的遺伝子発現用アデノウイルスを作成した。ウィルス液の精製には米国クロンテック社製のAdenoX Virus Purification Kitを用いた。
【0044】
[アデノウイルス除放性ハイドロキシアパタイト足場の作成]
三菱ウェルファーマ社製のリン酸カルシウペーストとアデノウイルス含有溶液を体外で混和・硬化させて作製した。標準粉液比規定液量と同量以下のアデノウイルス含有溶液をペーストに加え、ペースト粉末と混和させた。1欠損あたりアデノウイルスを
108infectious forming unit相当量含有させた。足場であるマトリックスに対するベクターの供給は、マトリックス全体にベクター含有液を混合する他、マトリックスの一面、骨欠損部の開放端に対向する面にのみベクター含有液を適用することがより好適である。マトリックス全体にベクターが混在すると、マトリックスがもっている3次元形状全体に渡って骨が再生してしまい、骨欠損部における骨欠損部が大きく隆起してしまうおそれがある。これに対して、骨欠損部の開放端面にのみ対向する面にのみウィルスの含有液の適用部分を局在させることにより、マトリックスの形態にあった形態で骨の再生が達成される。マトリックスに対する骨再生活性化手段の適用は、骨再生活性物質を直接マトリックスへ混合するパターン、骨再生活性物質を生成する遺伝子を導入したベクターを混合するパターン、骨再生活性物質を生成する遺伝子が導入されたベクターで形質転換された細胞(幹細胞又は骨芽細胞前駆細胞又は骨芽細胞)をマトリックスに適用しても良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
本発明者は、骨芽細胞分化に必須、重要とされているシグナルを活性化する、あるいは抑制する遺伝子をコードしたアデノウイルスベクターを数種の細胞に網羅的に組み合わせて導入し必要十分条件の検索を行った。BMPシグナル経路刺激因子(caALK6とSmad6)、Hhシグナル経路刺激因子(caSmoとhGLI3Δ)、Runx2シグナル経路刺激因子(Runx2とdlRunx2)、Wntシグナル経路刺激因子(caTCFとdnTCF)、Insulinシグナル経路刺激因子(IRS-1とdnlRS-1)の5種をそれぞれコードしたアデノウイルスベクターを用いた(図3)。
【0046】
検索をより簡便かつ正確に行うためにCol1GFP一胚性幹(ES)細胞を用いた。Col1GFPとは、骨芽細胞特異的に発現する1型コラーゲンプロモーター断片の下流にGFPを組み込んだ遺伝子で、この遺伝子が導入された細胞は骨芽細胞に分化したときにのみGFPの蛍光を発する(図4)。
【0047】
CollGFP-ES細胞においてBMPシグナル経路刺激因子とRunx2シグナル経路刺激因子を刺激する組み合わせがGFPの蛍光を発する最小の組み合わせであった。この組み合わせは10日目までに石灰化を誘導し、リアルタイムPCRによる分化マーカー発現の検討では、骨芽細胞分化マーカーの発現を著しく上昇させた。特に、骨芽細胞特異的な分化マーカーであるオステオカルシンの発現は、マウス頭蓋骨骨芽細胞における発現量の10倍以上であった。これらの現象はBMPシグナル経路刺激因子やRunx2シグナル経路刺激単独の導入では認められなかった(図5)。
【0048】
CollGFP-tgマウスより採取したMSCにおける同様の検討では、BMPシグナル経路刺激とRunx2シグナル経路刺激因子の組み合わせが、GFPの蛍光、石灰化領域の拡大、分化マーカーの発現上昇を誘導する最小の組み合わせであった。マウス幹細胞の結果よりin vitro骨芽細胞分化の必要十分条件はBMPシグナル経路刺激因子+Runx2シグナル経路刺激因子であると考えられた。しかし、幹細胞に限られた結果であるという可能性は否定できず、また臨床への応用を考えると豊富に採取できる成体細胞を骨芽細胞へ分化させる必要十分条件を明らかにすることが必要であると考えられた。そのため、これらの組み合わせを正常ヒト線維芽細胞(DFB)へ導入し、その分化誘導能を検討した。
【0049】
ヒト線維芽細胞においても、10日目までに骨芽細胞特異的分化マーカーの発現上昇と著しい石灰化を誘導した(図6〜9)。マウスES細胞と同様に、これらの現象はBMPシグナル経路刺激因子、Runx2シグナル経路刺激因子の単独導入では認められなかった。さらには、ヒト上皮系細胞株であるHeLa(図10)、マウス線維芽細胞株NIH3T3(図11)においても、これらの組み合わせば骨芽細胞分化マーカーの発現を上昇させた。以上より、細胞種を問わず約1週間でin vitro骨芽細胞分化を誘導する必要十分条件はBMPシグナル経路刺激因子+Runx2シグナル経路刺激因子であると判明した。
【0050】
次に、必要十分条件(BMPシグナル経路刺激因子+Runx2シグナル経路刺激因子)の導入により、in vitorで作製した骨様組織、および細胞シート工学を利用したその移植が治療効果を有するか検討した(図12)。自家移植を想定しドナー、レシピエント共に8週令の雄C57BL/6Nマウスを用いた。背部より採取した皮膚線維芽細胞にBMPシグナル+Runx2シグナルをアデノウイルスベクターにより導入しアテロコラーゲン膜上で1週間培養し石灰化を誘導した。これを、マウス頭頂骨直径4mm円形骨欠損部ヘアテロコラーゲン膜と共に移植したのち、組織切片、X線写真によりその治療効果を判定した。4週から6週にかけて、骨髄腔を有する再生骨組織が骨欠損部を満たし、治癒を認めた(図13)。
【0051】
以上から、in vitroで誘導した骨様組織が、既述の十分条件によって骨再生のための治療効果を受けたことが判明した。3次元培養装置など特殊な装置を必要とすることなく、従来の培養法に細胞シート工学を応用して細胞と基質を一塊に移植する本発明は、簡便でかつ高い治療効果を有する再生骨移植システムである事が確認された。
【0052】
[骨再生を目的にした、アデノウィルスによる人工骨(リン酸カルシウム骨ペースト)併用遺伝子治療]
野生型C57BL/6Nマウス(オス8週令)の頭頂骨に直径4mmの自然治癒しない臨界骨欠損を作成。caALK6+Runx2、LacZアデノウィルス溶液各5 ml(約107 infectious forming units)を練和液に加えたリン酸カルシウムペーストを固形化。固形化後、欠損部に充填。2週間後に動物を屠殺して、頭蓋骨を分離し、脱灰ののちに5 mmの切片を作成してヘマトキシリン−エオジン染色した。
【0053】
その結果、LacZアデノウイルスで処理したコントロール群では全く骨の形成が見られていないが、caALK6+Runx2で処理した群では切除した骨との境界部(最上段)のみならず、そこから離れた中心部(中段および下段)にも旺盛な再生骨の形成が見られた。従って、細胞成分なしに、人工担体と、シグナル刺激をする遺伝子のみで、骨再生を誘導することができた。
【0054】
次に、骨再生の足場となるマトリックスの製造について説明する。このマトリックスは、粉末積層造形法によって作成される。
【0055】
次に、骨再生の足場となるマトリックスの製造について説明する。このマトリックスは、粉末積層造形法によって作成される。
【0056】
(実施例1)
造形エリアに撒いた粉末をノズルから吐出し(インクジェット粉末積層法)、接着剤で選択的に固め、積層するタイプの装置(Z−Corporation製Z406−3D−Printer)を使用し、粉末にはハイドロキシアパタイトを選択した。同時に骨誘導物質5[μl]( 約107 infectious forming units)と血管誘導物質5[μl] ( 約107 infectious forming units)とをそれぞれ本装置の別のヘッド部で、前記粉末の噴射ノズルとはベルのヘッド部のインクスペースに装填し、インクジェット方式で噴射を行なった。CADデータはビーグル犬の頭蓋骨をX線CTで撮影した画像により20mm×20mmを切り出した形状である。成形用のCADデータを図17に示す。
【0057】
図14(a)は、頭蓋骨欠損部に挿入される、頭蓋欠損を補填する形状(切り出し形状)を持ったマトリックスの斜視図である。マトリックスには円柱状の空洞部があり、この空洞部は、再生骨組織や再生血管組織が侵入する空間を提供し、再生の方向性を制御するために設けられている。
【0058】
(b)は(a)の矢視A方向から見た端面であり、四角柱となる点線部分が骨誘導活性物質を噴射しながらハイドロキシアパタイト粉末を積層して得た領域である。(c)は(a)の矢視B方向から見た端面である。(b)と同様に点線で囲んだ部分が、骨誘導活性物質が混合された部分である。
【0059】
(d)は、(a)のA方向の矢視端面であり、点線で囲まれた、空洞部を囲む円柱領域((f)参照)に血管誘導物質である線維芽細胞増殖因子2(FGF-2)の10-8M溶液が噴射されている。(e)は(a)のB方向の矢視端面図である。(d)と同様な範囲に血管誘導物質が噴射されている。(f)は、円柱層からなる血管誘導物質噴射範囲の斜視図である。
【0060】
(実施例2)
図造形エリアに撒いた粉末をレーザーで溶融焼結により選択的に固め、積層するタイプの装置(レーザー溶融焼結法)(EOS製EOSINT P)を使用し、粉末にはハイドロキシアパタイトとポリ乳酸の混合物を選択した。図15に示す、CADデータはビーグル犬の頭蓋骨をX線CTで撮影した画像により15mm×15mmを切り出したものに対応している。成形後、骨誘導物質と血管誘導物質を混ぜたものに、マトリックスのA方向矢視端面とB方向矢視端面を含浸させ、乾燥を行なった。
【0061】
以上説明した実施形態は例示であり、本発明は既述の実施形態に拘わらず適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】骨芽細胞分化シグナルの検索結果を示す表。
【図2】骨芽細胞分化シグナルの検索結果を示すモデル図。
【図3】ES細胞におけるGFPの発光状態を示す顕微鏡写真。
【図4】ES細胞の石灰化を示す顕微鏡写真。
【図5】ES細胞における骨芽細胞マーカ遺伝子の発現誘導を示す特性図。
【図6】ヒトMSCにおける骨芽細胞マーカー遺伝子の誘導結果を示す特性図。
【図7】ヒトMSC細胞の石灰化誘導結果を示す写真(顕微鏡による拡大写真)。
【図8】ヒトDFB細胞における骨芽細胞マーカー遺伝子の誘導結果を示す特性図。
【図9】ヒトDFB細胞の石灰か誘導結果を示す写真。
【図10】HeLa細胞における骨芽細胞マーカー遺伝子の誘導結果を示す特性図。
【図11】NIH3T3細胞における骨芽細胞分化マーカー遺伝子の誘導と石灰化の特性図及び顕微鏡写真。
【図12】骨再生機能を持った細胞が担持されたシートの移植例の平面図。
【図13】骨芽分化誘導した皮膚繊維芽細胞の移植による骨欠損修復鑑定を示す顕微鏡写真。
【図14】骨再生機能を持ったマトリックスの構成を示す図である。
【図15】骨再生機能を持ったマトリックスに対応する、成形用のCADイメージで ある。
【技術分野】
【0001】
本発明は骨再生システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
骨格系は、外界の変化を受容しそれに対応して行動する動物的機能の根幹をなすものである。中でも骨組織は中枢神経系を保護し軟組織を機械的に支持することで動物的機能の中心的な役割を果たすだけでなく、血清カルシウムレベルの調節や造血という、植物的機能つまりホメオスタシスの維持にも関与している。従って、骨組織の不可逆的な喪失は動物的機能、しいては生命活動の減弱、喪失をもたらす。
【0003】
急速に進行する高齢化社会は、骨粗鬆症や歯周病といった骨喪失性疾患に対する治療への強い社会的要請をもたらした。現在、国内の骨粗鬆症患者は1000万人いるとされ、骨粗鬆症は骨折の危険性を高める最も大きな要因の1つである。寝たきりの原因のうち、転倒などによる骨折が脳血管疾患についで第2位、欧米では第1位となっている。骨折による活動レベルの低下や生活範囲の狭小化が痴呆につながるともいわれている。
【0004】
歯周病は歯槽骨の吸収により歯牙の喪失を来す疾患であるが、罹患率は年代とともに増加し、55-64歳では82.5%にものぼる。そして40歳以降に歯を失う原因の90%はこの歯周病によるとされている。高齢者の歯牙喪失による咀嚼機能の低下は、栄養摂取に影響を与えるばかりでなく、痴呆との関連も示唆されている。
【0005】
現在の治療法では、非病的状態まで喪失骨を取り戻すことができず、実際はその進行を食い止めているに過ぎない。このほか、炎症性疾患、腫瘍、先天奇形による骨欠損、損傷も患者のQOLを著しく低下させ、身体的のみならず精神的にも苦痛を与える。これまで、組織欠損に対する治療法として再建外科医療と移植医療が果たした功績は非常に大きい。
【0006】
しかし、人工臓器は耐久性と機能に制限を有し、臓器・組織移植はドナー不足と免疫抑制に課題を残すため、共に限界が見え始めていることも事実である。これらに取って代わる治療法として、自己のもつ再生能を最大限に引き出すことで組織を復元する再生医療が近年脚光を浴びている。
【0007】
骨欠損に対しても、その実現を目指し多くの施設で研究されているが、実現というには程遠いのが現状である。1993年にViacantiらが骨軟骨再生医療の3つの要素は、1)幹細胞、2)増殖、分化、延命のためのシグナル分子、3)足場(担体−scaffold)と指摘している。
【0008】
骨の再生は、骨芽細胞の増殖と分化による基質形成と石灰化、そして最終的に骨の再生という一連の細胞生物学的反応を経ることが知られている。この過程は、骨再生の誘導因子シグナルが関与するネットワークとカスケードの発現によって制御されている。個々のシグナルがどのように関連しあって複雑な再生や分化の過程に向かうかについては、必ずしも明確ではない。しかしながら、骨の再生システムは、第1として、細胞が増殖・分化し、骨が形成するための足場となるマトリックス、第2として、骨芽細胞の増殖と分化を誘導する生理活性物質、第3として、骨原性前駆細胞、以上の実現を目的としている。
【0009】
第1のマトリックスは、骨欠損部へ埋め込まれて足場の役割を発揮し、宿主からの骨芽細胞の増殖を促し、骨形成を導くものである。マトリックスとしては、コラーゲンなどの天然材料の他、ハイドロキシアパタイトなどの無機化合物が知られている。これらのマトリックスには骨の侵入を容易にするための連続気孔が設けられている。
【0010】
第2の生理活性物質は、骨欠損部へ直接導入されて骨生成を図るための骨誘導性タンパク質である。この骨誘導性タンパク質からなるシグナルが骨再生のための刺激に関与する経路には、複数あることが知られており、かつ、それぞれのシグナル刺激経路に、骨済世の促進又はその抑制因子として関与するシグナルが複数知られている。すなわち、BMPシグナル(caALK6とSmad6)、Hhシグナル(caSmoとhGLI3Δ)、Runx2シグナル(Runx2とdn Runx2)、Wntシグナル(caTCFとdnTCF)、Insulinシグナル(IRS-1とdnlRS-1)の5種が良く知られている。これらを臨床に用いるためには、生理活性物質を局所に留め、必要な量を除放する担体が必要である。これらの担体としては、乳酸-グリコール酸共重合体、多孔質アパタイトなどがある。
【0011】
前記第3の手段としての骨原性前駆細胞は、骨の増量を必要とする部位に直接供給されるか、細胞やマトリックスを増やして移植組織を形成した後、骨欠損分に移植される。
【0012】
骨の再生システムに関する従来例として、例えば、特表2003−513682号公報に記載のものが知られている。このものは、骨 組織復元システムであって、骨 格および、骨 形成の増進を促進させるために上記骨 格に固定させた生物学的活性分子からなる第1成分、ならびに骨 再吸収の低減を促進させるための第2成分を含むシステムであることを特徴とするものである。
【0013】
また、特表2004−536818号公報には、医薬品もしくは装置がBMP 結合タンパク 質を含む、例えば骨 および/または軟骨 組織の組織再生 のための医薬品または装置からなるシステムが記載されている。
【0014】
さらに、特表2000−502336号公報には、哺乳動物における組織形成を誘導するための組成物であって、以下を含み: a)該哺乳動物において始原細胞に接近し得る場合に組織形成を誘導し得る、形態形成タンパク質;b)該始原細胞からの組織形成を誘導する該形態形成タンパク質の能力を刺激し得る、形態形成タンパク質刺激因子;および c)薬学的に受容可能なキャリア;ここで、該形態形成タンパク質刺激因子は、ホルモン、サイトカイン、ペプチド、および増殖因子からなる群から選択され、そして以下の過程;該始原細胞が骨を形成するように刺激された骨芽細胞であり、かつ該形態形成タンパク質がBMPホモダイマー、TGF-β、またはアクチビンである場合、該MPSFはエストロゲンまたはカルシトニンでなくてもよく;該始原細胞が骨を形成するように刺激された骨芽細胞であり、かつ該形態形成タンパク質がBMPホモダイマーまたはTGF-βである場合、該MPSFはFGF、GF-IIPDGF、またはビタミンDでなくてもよく;そして 該始原細胞が骨を形成するように刺激された骨芽細胞であり、かつ該形態形成タンパク 質がBMP -2またはBMP -3のホモダイマーである場合、該MPSFは副甲状腺ホルモンでなくてもよい;が成立する、組成物が記載されている。
【特許文献1】特表2003−513682号公報
【特許文献2】特表2004−536818号公報
【特許文献3】特表2000−502336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
骨再生医療の実現のためには、以下のような問題が解決されねばならないと考えられる。第1に、骨の要素である豊富な基質と骨芽細胞の両方が十分量確保され、欠損部にあわせた成形が達成されねばならない。現在の主要な細胞源である体性幹細胞は継代を重ねることでその分化能が失われていく。そのため実際の臨床で必要とされる細胞数を患者自身から採取した幹細胞からex vivoで確保するのは非常に困難である。
【0016】
また、従来の細胞培養法では、細胞と基質を培養皿から一塊に取り出すことは不可能である。細胞及び基質の確保と成形の問題を解決する方法として担体を併用した3次元培養法が考えられるが、特殊な装置を必要とすることや効率の点などで未だ実現には程遠い。
【0017】
第2に、安全性が確保されねばさらない。上記のような人工物の併用あるいは幹細胞、再生骨の同種、異種移植に際しては常に感染症、レシピエントの拒絶反応が問題となる。
【0018】
第3に治療期間の短縮化を図る為、安定した再生骨組織の誘導法が確立されねばならない。近年、発生工学や分子生物学の発展は、骨形成に関与する多くの分化因子、増殖因子を明らかにしてきた。それに伴ってこうした因子を応用し、より効率的に骨再生、骨形成を進めようとする試みが多くの施設より報告されている。報告の多くが単独の因子による骨形成の促進を図ったものや、機序が不明なものであり、劇的に治療効果を高め、治療期間を短縮しているとはいえない。生体内では単独ではなく複数の因子が、時間的空間的に協調して作用し、効率的に骨形成を進めていくと考えられる。しかし、そういった協調作用つまり骨形成の必要十分条件とその機序は明らかになっておらず、安定した再生骨組織の直接的な誘導法が確立されているとはいえない。
【0019】
本発明は、これら問題点の克服と、それによる骨再生医療の実現に資する骨再生システムを提供する事を目的とするものである。本発明の他の目的は、より安全で治療効果の高い骨再生医療のために、患者自身より豊富に採取可能で旺盛な増殖力を有する細胞を用い、ex vivoで短期間のうちに再生骨様組織を作製でき、骨組織において中心的な役割を担う基質を最大限に利用し、簡便で治療効果の高い移植法に適した骨再生システムを提供することである。本発明の他の目的は、骨芽細胞分化の機序を遺伝子レベルで解明し、短期間で細胞種を問わず直接的に骨芽細胞分化を誘導する必要十分条件を満たした骨再生システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者が鋭意検討の結果、BMPシグナルがRunx2に何らかの修飾を加えることで、骨芽細胞分化が誘導されると考えた。NIH3T3細胞にRunx2を過剰発現させると、Runx2のmRNA及び蛋白は著しい発現上昇を示し、Runx2蛋白のほとんどは核に集積した。しかし、BMPシグナルを共導入しても、Runx2の蛋白量及びその細胞内局在は変化しなかった(図1)。
【0021】
次に、BMPシグナルとRunx2の協調作用に介在し、Runx2の機能を修飾する分子としてCbfbに注目した。NIH3T3細胞において内因性CbfbのmRNAは中等度に発現が認められ、BMPシグナルあるいはRunx2を導入しても大きく変化しなかった。一方Cbfbの蛋白量については、Runx2の単独導入により著しく発現が上昇し、ほとんどが核へ集積していた。BMPシグナルとRunx2を共導入してもCbfbの細胞内局在は変化しなかった。興味深いことに、Runx2とCbfbの細胞内局在パターンは一致しており、核内においてヘテロダイマーを形成していると示唆された。
【0022】
さらにオステオカルシンプロモーターに対するDNA結合能をクロマチン免疫沈降により検討した。BMPシグナルの導入によりRunx2のDNA結合能は大きく変化しないが、BMPシグナルとRunx2の共導入により、そこへはCbfbがリクルートされていた(図2)。CbfbはDNA結合能を有しないため、このDNA上のCbfbはRunx2とヘテロダイマーを形成していると考えられた。つまり、BMPシグナルの導入は、Runx2およびCbfbの蛋白量、細胞内局在を変化させないが、Runx2-Cbfb複合体をDNA上に誘導した。 したがって、BMPシグナルとRunx2の骨芽細胞分化における協調作用には、Runx2-Cbfb複合体の制御が関与することが示唆された。
【0023】
以上より、BMPシグナルとRunx2による協調作用に関して、図2のようなモデルが考えられた。まず、過剰発現されたRunx2はホモダイマーとして、あるいは、cbfbとのヘテロダイマーとして速やかに核内へ移行する。BMPシグナルが活性化されていない状態では、主にRunx2ホモダイマーあるいはモノマーがDNAに結合し低レベルで転写を活性化する。しかし、BMPシグナルが活性化された状態では、Runx2-Cbfbヘテロダイマーが主にDNAに結合し高レベルで転写を活性化し、骨芽細胞分化が促進する。
【0024】
以上の知見に基づいて、本発明は以下の特徴を備える。本発明骨再生活性物質は、骨芽細胞の増殖と分化を誘導するものであり、少なくとも骨再生誘導経路であるBMPシグナル経路を刺激するファクターとRunx2シグナル経路を刺激するファクターとが含有されていることを特徴とする。本発明は、さらに、骨芽細胞の増殖と分化を誘導する生理活性物質である、骨再生誘導経路であるBMPシグナル経路を刺激するファクターとRunx2シグナル経路を刺激するファクターとを、それぞれコードする遺伝子が導入されたベクターであることを特徴とするものである。
【0025】
本発明は、さらに、骨芽細胞の増殖と分化を誘導する生理活性物質である、骨再生誘導経路であるBMPシグナル経路を刺激するファクターとRunx2シグナル経路を刺激するファクターとをそれぞれコードする遺伝子が導入されたヒト又は動物の幹細胞又は骨芽細胞前駆細胞又は骨芽細胞である事を特徴とするものである。本発明は、また、骨再生誘導経路であるBMPシグナル経路を刺激するファクターとRunx2シグナル経路を刺激するファクターとを、それぞれコードする遺伝子が導入されたヒト又は動物の、繊維芽細胞などの非骨芽細胞である事を特徴とする。
【0026】
本発明は、また、幹細胞又は骨芽細胞前駆細胞又は骨芽細胞又は非骨芽細胞を体外に取り出し、これらの細胞に、骨再生誘導経路であるBMPシグナル経路を刺激するファクターとRunx2シグナル経路を刺激するファクターとを、それぞれコードする遺伝子を導入した後、当該細胞を培養する方法であることを特徴とするものである。
【0027】
さらにまた、本発明は、骨欠損部へ供給されるマトリックスを備え、このマトリックスに既述の骨再生活性物質が含有されてなる骨再生用構造体であることを特徴とする。さらにまた、本発明は、骨欠損部へ供給されるマトリックスを備え、このマトリックスに既述のベクターが含有されてなる骨再生用構造体であることを特徴とする。さらにまた、本発明は、骨欠損部へ供給されるマトリックスを備え、このマトリックスに前記細胞が含有されていることを特徴とする。
【0028】
さらにまた、本発明は、骨欠損部へ供給されるマトリックスからなる人工骨であって、自家骨の再生方向に対峙する前記マトリックスの面(特にその面のみ)に、骨再生活性手段が含有されていることを特徴とする。さらにまた、本発明は、人工骨材料成分のペースト粉末と骨再生活性手段とが混合されている人工骨形成用組成物であることを特徴とするものである。さらにまた、本発明は、前記マトリックスが、輪切り状に画像化した骨の断面図を複数枚用意し、粉末の人工骨材料を薄く敷いたシートに、インクジェットプリンターを前記画像通りに固化剤を噴霧して製造されるものであることを特徴とするものである。
【0029】
本発明において骨活性手段が導入されるウイルスとしては、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、アルファウィルス、単純ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レンチウイルスがある。ウイルスの量は、4mm径の骨欠損部に対して、108 infectious forming unitである。
【0030】
骨誘導能をもつ担体に関する担体としてのマトリックス材料としては、合成高分子吸収性ではポリエステル系高分子が対象となる。例えば、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプトラクトン、ポリジオキサノン、これら成分の複合体である。天然高分子では、タンパク質、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、ペプチドである。多糖類では、植物由来のものとして、カルボキシメチルセルロース、アルギンサン、フコース、アガロースである。動物由来のものとしては、ヒアルロン酸、キトサンがある。無機系材料としては、燐酸カルシウム、炭酸カルシウム、ハイドロオキシアパタイト、ガラスがある。好適には、生分解性ポリマーである、poly(DL-lactide-co-glycolide)、Poly(DL-lactide)、Poly(L-lactide)、Poly(glycolide)、Poly(ε-caprolactone)、又は、Poly(DL-lactide-co-ε-caprolactone)である。また、β-リン酸3カルシウム(β−TCP)、Hydroxyapatite、或いはアテラコラーゲン(atelocollagen)である。
【0031】
骨誘導物質としては、骨誘導シグナルであるBMPシグナル経路及びRunx2シグナル経路をそれぞれ刺激する刺激因子である、例えば、caALK6及びRunx2をエンコードするDNAプラスミドそのもの、又は、アデノウイルスにパッケージしたDNAプラスミドがある。これらシグナルを刺激する薬物としては、FK506(藤沢薬品)がある。
【0032】
骨再生のシグナル経路であるBMPシグナル(caALK6とSmad6)、Hhシグナル(caSmoとhGLI3Δ)、Runx2シグナル(Runx2とdn Runx2)、及びWntシグナル(caTCFとdnTCF)、Insulinシグナル(IRS-1とdnlRS-1)は、それぞれ、NATURE VOL 423 15 MAY 2003,332-336pp, The New England Journal of Medicine Vol 346,No20,May 16,2002 1572-1574pp,The Journal of Clinical Investigation April 2000 Vol 105,No7,935-943ppに詳しく記載されている。
【0033】
ベクターへの遺伝子導入方法としては、次のものがある。
【0034】
1.ウイルスベクターによる導入法(参考TREND in Biotechnology 21:117-122,2003)
ウイルスに望みの遺伝子を組み込んで行う。
【0035】
2.裸の遺伝子の直接投与(参考文献Human Gene Therapy12 861-870,2001)
DNAの量は、4ミリメートルの骨欠損に対して0.4μg。
【0036】
3.遺伝子銃:金の粒子に遺伝子を付着させて、高速で細胞内に打ち込む方法(参考文献Human Gene Therapy12 861-870,2001)。
DNAの量は、4ミリメートルの骨欠損に対して0.4μg。
【0037】
4.エレクトロポレーション:電気的衝撃波により細胞膜の透過性を亢進させて遺伝子を導入する方法(参考文献Human Gene Therapy12 861-870,2001)。
DNAの量は、4ミリメートルの骨欠損に対して0.4μg。
【0038】
5.光化学法:光感受性のある化合物を利用した遺伝子導入法(参考文献AdvancedDrugDeliveryReviews56:95-115,2004)。
DNAの量は、4ミリメートルの骨欠損に対して0.4μg。
【0039】
6.リボフェクション:陽性荷電を持つ脂質とDNAの複合体を形成し、細胞に取り込ませて遺伝子導入する方法(参考文献Human Gene Therapy12 861-870,2001)。
DNAの量は、4ミリメートルの骨欠損に対して0.4μg。
【0040】
7.ポリマーによる方法:陽性荷電を持つポリマーとDNAの複合体を形成し、細胞にとりこませて遺伝子導入する(参考文献Human Gene Therapy12 861-870,2001)。ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリオルニチン、キトサン、スターバーストデンドリマーなどがある。DNAの量は、4ミリメートルの骨欠損に対して0.4μg。
【0041】
8.高分子ナノ構造体による遺伝子導入:親水性の部分と疎水性の部分をもつブロック共重合体のミセル形成を利用した遺伝子導入法
(参考文献AdvanoedDrugDeIiveryReviews47:113-131,2001)。ブロック共重合体には、ポリエチレングリコールーポリカチオンなどがある。DNAの量は、4ミリメートルの骨欠損に対して0.4μg。
【0042】
[クローニング]
マウス野生型ALK6cDNA(Genbank accession number:NM_007560)をテンプレートに用い、全長を含むプライマーにて増幅して発現ベクター(pcDNA3.1,米国インビトロジェン社)に組み込み、マウス野生型ALK6をクローニングした。ALK6遺伝子は203番目のグルタミンをアスパラギン酸に変異させることで恒常活性型caALK6となることが報告されている。そこで、BDT Transformer Site・Directed Mutagenesis Kit(米国クロンテック社)を用い、変異を含むプライマーにて増幅することによりマウス由来恒常活性型caALK6遺伝子を作製し発現ベクターに組み込んだ。マウス野生型Runx2(Genbank accession Number:NM_009820)も同様に、全長を含むプライマーにて増幅することによリクロ一ニングし、発現ベクター(pcDNA3.1)に組み込んだ。
【0043】
[アデノウイルスベクターの作製]
AdenoX Expression System(米国クロンテック社)を用い、in vitroライゲーション法にて作製した。まず目的遺伝子を発現ベクターから制限酵素により切り出し、シャトルベクターに組み込んだ。次に、シャトルベクターから目的遺伝子を制限酵素で切り出しアデノウイルスDNAとライゲーションさせた。目的遺伝子を含むアデノウイルスDNAをパッケーンジング細胞であるHEK293細胞に感染させ、目的遺伝子発現用アデノウイルスを作成した。ウィルス液の精製には米国クロンテック社製のAdenoX Virus Purification Kitを用いた。
【0044】
[アデノウイルス除放性ハイドロキシアパタイト足場の作成]
三菱ウェルファーマ社製のリン酸カルシウペーストとアデノウイルス含有溶液を体外で混和・硬化させて作製した。標準粉液比規定液量と同量以下のアデノウイルス含有溶液をペーストに加え、ペースト粉末と混和させた。1欠損あたりアデノウイルスを
108infectious forming unit相当量含有させた。足場であるマトリックスに対するベクターの供給は、マトリックス全体にベクター含有液を混合する他、マトリックスの一面、骨欠損部の開放端に対向する面にのみベクター含有液を適用することがより好適である。マトリックス全体にベクターが混在すると、マトリックスがもっている3次元形状全体に渡って骨が再生してしまい、骨欠損部における骨欠損部が大きく隆起してしまうおそれがある。これに対して、骨欠損部の開放端面にのみ対向する面にのみウィルスの含有液の適用部分を局在させることにより、マトリックスの形態にあった形態で骨の再生が達成される。マトリックスに対する骨再生活性化手段の適用は、骨再生活性物質を直接マトリックスへ混合するパターン、骨再生活性物質を生成する遺伝子を導入したベクターを混合するパターン、骨再生活性物質を生成する遺伝子が導入されたベクターで形質転換された細胞(幹細胞又は骨芽細胞前駆細胞又は骨芽細胞)をマトリックスに適用しても良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
本発明者は、骨芽細胞分化に必須、重要とされているシグナルを活性化する、あるいは抑制する遺伝子をコードしたアデノウイルスベクターを数種の細胞に網羅的に組み合わせて導入し必要十分条件の検索を行った。BMPシグナル経路刺激因子(caALK6とSmad6)、Hhシグナル経路刺激因子(caSmoとhGLI3Δ)、Runx2シグナル経路刺激因子(Runx2とdlRunx2)、Wntシグナル経路刺激因子(caTCFとdnTCF)、Insulinシグナル経路刺激因子(IRS-1とdnlRS-1)の5種をそれぞれコードしたアデノウイルスベクターを用いた(図3)。
【0046】
検索をより簡便かつ正確に行うためにCol1GFP一胚性幹(ES)細胞を用いた。Col1GFPとは、骨芽細胞特異的に発現する1型コラーゲンプロモーター断片の下流にGFPを組み込んだ遺伝子で、この遺伝子が導入された細胞は骨芽細胞に分化したときにのみGFPの蛍光を発する(図4)。
【0047】
CollGFP-ES細胞においてBMPシグナル経路刺激因子とRunx2シグナル経路刺激因子を刺激する組み合わせがGFPの蛍光を発する最小の組み合わせであった。この組み合わせは10日目までに石灰化を誘導し、リアルタイムPCRによる分化マーカー発現の検討では、骨芽細胞分化マーカーの発現を著しく上昇させた。特に、骨芽細胞特異的な分化マーカーであるオステオカルシンの発現は、マウス頭蓋骨骨芽細胞における発現量の10倍以上であった。これらの現象はBMPシグナル経路刺激因子やRunx2シグナル経路刺激単独の導入では認められなかった(図5)。
【0048】
CollGFP-tgマウスより採取したMSCにおける同様の検討では、BMPシグナル経路刺激とRunx2シグナル経路刺激因子の組み合わせが、GFPの蛍光、石灰化領域の拡大、分化マーカーの発現上昇を誘導する最小の組み合わせであった。マウス幹細胞の結果よりin vitro骨芽細胞分化の必要十分条件はBMPシグナル経路刺激因子+Runx2シグナル経路刺激因子であると考えられた。しかし、幹細胞に限られた結果であるという可能性は否定できず、また臨床への応用を考えると豊富に採取できる成体細胞を骨芽細胞へ分化させる必要十分条件を明らかにすることが必要であると考えられた。そのため、これらの組み合わせを正常ヒト線維芽細胞(DFB)へ導入し、その分化誘導能を検討した。
【0049】
ヒト線維芽細胞においても、10日目までに骨芽細胞特異的分化マーカーの発現上昇と著しい石灰化を誘導した(図6〜9)。マウスES細胞と同様に、これらの現象はBMPシグナル経路刺激因子、Runx2シグナル経路刺激因子の単独導入では認められなかった。さらには、ヒト上皮系細胞株であるHeLa(図10)、マウス線維芽細胞株NIH3T3(図11)においても、これらの組み合わせば骨芽細胞分化マーカーの発現を上昇させた。以上より、細胞種を問わず約1週間でin vitro骨芽細胞分化を誘導する必要十分条件はBMPシグナル経路刺激因子+Runx2シグナル経路刺激因子であると判明した。
【0050】
次に、必要十分条件(BMPシグナル経路刺激因子+Runx2シグナル経路刺激因子)の導入により、in vitorで作製した骨様組織、および細胞シート工学を利用したその移植が治療効果を有するか検討した(図12)。自家移植を想定しドナー、レシピエント共に8週令の雄C57BL/6Nマウスを用いた。背部より採取した皮膚線維芽細胞にBMPシグナル+Runx2シグナルをアデノウイルスベクターにより導入しアテロコラーゲン膜上で1週間培養し石灰化を誘導した。これを、マウス頭頂骨直径4mm円形骨欠損部ヘアテロコラーゲン膜と共に移植したのち、組織切片、X線写真によりその治療効果を判定した。4週から6週にかけて、骨髄腔を有する再生骨組織が骨欠損部を満たし、治癒を認めた(図13)。
【0051】
以上から、in vitroで誘導した骨様組織が、既述の十分条件によって骨再生のための治療効果を受けたことが判明した。3次元培養装置など特殊な装置を必要とすることなく、従来の培養法に細胞シート工学を応用して細胞と基質を一塊に移植する本発明は、簡便でかつ高い治療効果を有する再生骨移植システムである事が確認された。
【0052】
[骨再生を目的にした、アデノウィルスによる人工骨(リン酸カルシウム骨ペースト)併用遺伝子治療]
野生型C57BL/6Nマウス(オス8週令)の頭頂骨に直径4mmの自然治癒しない臨界骨欠損を作成。caALK6+Runx2、LacZアデノウィルス溶液各5 ml(約107 infectious forming units)を練和液に加えたリン酸カルシウムペーストを固形化。固形化後、欠損部に充填。2週間後に動物を屠殺して、頭蓋骨を分離し、脱灰ののちに5 mmの切片を作成してヘマトキシリン−エオジン染色した。
【0053】
その結果、LacZアデノウイルスで処理したコントロール群では全く骨の形成が見られていないが、caALK6+Runx2で処理した群では切除した骨との境界部(最上段)のみならず、そこから離れた中心部(中段および下段)にも旺盛な再生骨の形成が見られた。従って、細胞成分なしに、人工担体と、シグナル刺激をする遺伝子のみで、骨再生を誘導することができた。
【0054】
次に、骨再生の足場となるマトリックスの製造について説明する。このマトリックスは、粉末積層造形法によって作成される。
【0055】
次に、骨再生の足場となるマトリックスの製造について説明する。このマトリックスは、粉末積層造形法によって作成される。
【0056】
(実施例1)
造形エリアに撒いた粉末をノズルから吐出し(インクジェット粉末積層法)、接着剤で選択的に固め、積層するタイプの装置(Z−Corporation製Z406−3D−Printer)を使用し、粉末にはハイドロキシアパタイトを選択した。同時に骨誘導物質5[μl]( 約107 infectious forming units)と血管誘導物質5[μl] ( 約107 infectious forming units)とをそれぞれ本装置の別のヘッド部で、前記粉末の噴射ノズルとはベルのヘッド部のインクスペースに装填し、インクジェット方式で噴射を行なった。CADデータはビーグル犬の頭蓋骨をX線CTで撮影した画像により20mm×20mmを切り出した形状である。成形用のCADデータを図17に示す。
【0057】
図14(a)は、頭蓋骨欠損部に挿入される、頭蓋欠損を補填する形状(切り出し形状)を持ったマトリックスの斜視図である。マトリックスには円柱状の空洞部があり、この空洞部は、再生骨組織や再生血管組織が侵入する空間を提供し、再生の方向性を制御するために設けられている。
【0058】
(b)は(a)の矢視A方向から見た端面であり、四角柱となる点線部分が骨誘導活性物質を噴射しながらハイドロキシアパタイト粉末を積層して得た領域である。(c)は(a)の矢視B方向から見た端面である。(b)と同様に点線で囲んだ部分が、骨誘導活性物質が混合された部分である。
【0059】
(d)は、(a)のA方向の矢視端面であり、点線で囲まれた、空洞部を囲む円柱領域((f)参照)に血管誘導物質である線維芽細胞増殖因子2(FGF-2)の10-8M溶液が噴射されている。(e)は(a)のB方向の矢視端面図である。(d)と同様な範囲に血管誘導物質が噴射されている。(f)は、円柱層からなる血管誘導物質噴射範囲の斜視図である。
【0060】
(実施例2)
図造形エリアに撒いた粉末をレーザーで溶融焼結により選択的に固め、積層するタイプの装置(レーザー溶融焼結法)(EOS製EOSINT P)を使用し、粉末にはハイドロキシアパタイトとポリ乳酸の混合物を選択した。図15に示す、CADデータはビーグル犬の頭蓋骨をX線CTで撮影した画像により15mm×15mmを切り出したものに対応している。成形後、骨誘導物質と血管誘導物質を混ぜたものに、マトリックスのA方向矢視端面とB方向矢視端面を含浸させ、乾燥を行なった。
【0061】
以上説明した実施形態は例示であり、本発明は既述の実施形態に拘わらず適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】骨芽細胞分化シグナルの検索結果を示す表。
【図2】骨芽細胞分化シグナルの検索結果を示すモデル図。
【図3】ES細胞におけるGFPの発光状態を示す顕微鏡写真。
【図4】ES細胞の石灰化を示す顕微鏡写真。
【図5】ES細胞における骨芽細胞マーカ遺伝子の発現誘導を示す特性図。
【図6】ヒトMSCにおける骨芽細胞マーカー遺伝子の誘導結果を示す特性図。
【図7】ヒトMSC細胞の石灰化誘導結果を示す写真(顕微鏡による拡大写真)。
【図8】ヒトDFB細胞における骨芽細胞マーカー遺伝子の誘導結果を示す特性図。
【図9】ヒトDFB細胞の石灰か誘導結果を示す写真。
【図10】HeLa細胞における骨芽細胞マーカー遺伝子の誘導結果を示す特性図。
【図11】NIH3T3細胞における骨芽細胞分化マーカー遺伝子の誘導と石灰化の特性図及び顕微鏡写真。
【図12】骨再生機能を持った細胞が担持されたシートの移植例の平面図。
【図13】骨芽分化誘導した皮膚繊維芽細胞の移植による骨欠損修復鑑定を示す顕微鏡写真。
【図14】骨再生機能を持ったマトリックスの構成を示す図である。
【図15】骨再生機能を持ったマトリックスに対応する、成形用のCADイメージで ある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨芽細胞の増殖と分化を誘導する生理活性物質であって、骨再生誘導経路であるBMPシグナル経路を刺激するファクターとRunx2シグナル経路を刺激するファクターとが含有された骨再生活性物質。
【請求項2】
BMPシグナル経路を刺激するファクターがcaALK6であり、Runx2シグナル経路を刺激するファクターがRunx2である請求項1記載の骨再生活性物質。
【請求項3】
骨芽細胞の増殖と分化を誘導する生理活性物質であって、骨再生誘導経路であるBMPシグナル経路を刺激するファクターとRunx2シグナル経路を刺激するファクターとを、それぞれコードする遺伝子が導入されたベクター。
【請求項4】
前記ベクターがアデノウィルスである請求項3記載のベクター。
【請求項5】
骨芽細胞の増殖と分化を誘導する生理活性物質であって、骨再生誘導経路であるBMPシグナル経路を刺激するファクターとRunx2シグナル経路を刺激するファクターとをそれぞれコードする遺伝子が導入されたヒト又は動物の幹細胞又は骨芽細胞前駆細胞又は骨芽細胞。
【請求項6】
骨芽細胞の増殖と分化を誘導する生理活性物質であって、骨再生誘導経路であるBMPシグナル経路を刺激するファクターとRunx2シグナル経路を刺激するファクターとを、それぞれコードする遺伝子が導入されたヒト又は動物の非骨芽細胞。
【請求項7】
前記非骨芽細胞が線維芽細胞からなる請求項6記載の細胞。
【請求項8】
幹細胞又は骨芽細胞前駆細胞又は骨芽細胞又は非骨芽細胞を体外に取り出し、これらの細胞に請求項3記載の遺伝子を導入した後、当該細胞を培養する方法。
【請求項9】
骨欠損部へ供給されるマトリックスを備え、このマトリックスに請求項1記載の骨再生活性物質が含有されてなる骨再生用構造体。
【請求項10】
骨欠損部へ供給されるマトリックスを備え、このマトリックスに請求項3記載のベクターが含有されてなる骨再生用構造体。
【請求項11】
骨欠損部へ供給されるマトリックスを備え、このマトリックスに前記細胞が含有されている請求項5乃至7のいずれか1項記載の骨再生用構造体。
【請求項12】
骨欠損部へ供給されるマトリックスからなる人工骨であって、自家骨の再生方向に対峙する前記マトリックスの面に、骨再生活性手段が含有されている骨再生用構造体。
【請求項13】
骨欠損部における骨が露出した面に対向する、前記マトリックスの面のみに前記骨再生活性手段が含有されている請求項12記載の構造体。
【請求項14】
前記骨化再生手段が、請求項1記載の骨再生活性剤を含む請求項12又は13記載の構造体。
【請求項15】
前記骨再生活性手段が、請求項3記載のベクターを含む請求項12又は13記載の構造体。
【請求項16】
前記骨再生活性剤が、請求項5乃至7のいずれか1項記載の細胞を含む組成物である請求項12又は13記載の構造体。
【請求項17】
人工骨材料成分のペースト粉末と請求項14乃至16のいずれか1項記載の骨再生活性手段とが混合されている人工骨形成用組成物。
【請求項18】
前記マトリックスが、輪切り状に画像化した骨の断面図を複数枚用意し、粉末の人工骨材料を薄く敷いたシートに、インクジェットプリンターを前記画像通りに固化剤を噴霧して製造されるものである請求項9乃至16のいずれか1項記載の構造体。
【請求項19】
前記骨再生活性手段を含有する溶液をインクジェットプリンターから噴射して、前記マトリックスの特定の位置に前記骨再生活性手段を設けた請求項18記載の構造体。
【請求項20】
請求項9記載の骨再生用構造体の素材を骨が欠損した形状に合わせて切り出し、切り出した面に前記骨再生用活性手段を適用するようにした骨再生用構造体の製造方法。
【請求項21】
骨が欠損した形状に合わせた人工骨のマトリックスを骨欠損部へ挿入し、当該マトリックスと骨欠部との隙間に請求項17記載の人工骨形成用組成物を充填している人工骨の使用方法。
【請求項22】
前記ベクターがプラスミドである請求項3記載のベクター。
【請求項23】
骨欠損部へ、請求項1記載の活性物質を移植してなる骨の再生方法。
【請求項1】
骨芽細胞の増殖と分化を誘導する生理活性物質であって、骨再生誘導経路であるBMPシグナル経路を刺激するファクターとRunx2シグナル経路を刺激するファクターとが含有された骨再生活性物質。
【請求項2】
BMPシグナル経路を刺激するファクターがcaALK6であり、Runx2シグナル経路を刺激するファクターがRunx2である請求項1記載の骨再生活性物質。
【請求項3】
骨芽細胞の増殖と分化を誘導する生理活性物質であって、骨再生誘導経路であるBMPシグナル経路を刺激するファクターとRunx2シグナル経路を刺激するファクターとを、それぞれコードする遺伝子が導入されたベクター。
【請求項4】
前記ベクターがアデノウィルスである請求項3記載のベクター。
【請求項5】
骨芽細胞の増殖と分化を誘導する生理活性物質であって、骨再生誘導経路であるBMPシグナル経路を刺激するファクターとRunx2シグナル経路を刺激するファクターとをそれぞれコードする遺伝子が導入されたヒト又は動物の幹細胞又は骨芽細胞前駆細胞又は骨芽細胞。
【請求項6】
骨芽細胞の増殖と分化を誘導する生理活性物質であって、骨再生誘導経路であるBMPシグナル経路を刺激するファクターとRunx2シグナル経路を刺激するファクターとを、それぞれコードする遺伝子が導入されたヒト又は動物の非骨芽細胞。
【請求項7】
前記非骨芽細胞が線維芽細胞からなる請求項6記載の細胞。
【請求項8】
幹細胞又は骨芽細胞前駆細胞又は骨芽細胞又は非骨芽細胞を体外に取り出し、これらの細胞に請求項3記載の遺伝子を導入した後、当該細胞を培養する方法。
【請求項9】
骨欠損部へ供給されるマトリックスを備え、このマトリックスに請求項1記載の骨再生活性物質が含有されてなる骨再生用構造体。
【請求項10】
骨欠損部へ供給されるマトリックスを備え、このマトリックスに請求項3記載のベクターが含有されてなる骨再生用構造体。
【請求項11】
骨欠損部へ供給されるマトリックスを備え、このマトリックスに前記細胞が含有されている請求項5乃至7のいずれか1項記載の骨再生用構造体。
【請求項12】
骨欠損部へ供給されるマトリックスからなる人工骨であって、自家骨の再生方向に対峙する前記マトリックスの面に、骨再生活性手段が含有されている骨再生用構造体。
【請求項13】
骨欠損部における骨が露出した面に対向する、前記マトリックスの面のみに前記骨再生活性手段が含有されている請求項12記載の構造体。
【請求項14】
前記骨化再生手段が、請求項1記載の骨再生活性剤を含む請求項12又は13記載の構造体。
【請求項15】
前記骨再生活性手段が、請求項3記載のベクターを含む請求項12又は13記載の構造体。
【請求項16】
前記骨再生活性剤が、請求項5乃至7のいずれか1項記載の細胞を含む組成物である請求項12又は13記載の構造体。
【請求項17】
人工骨材料成分のペースト粉末と請求項14乃至16のいずれか1項記載の骨再生活性手段とが混合されている人工骨形成用組成物。
【請求項18】
前記マトリックスが、輪切り状に画像化した骨の断面図を複数枚用意し、粉末の人工骨材料を薄く敷いたシートに、インクジェットプリンターを前記画像通りに固化剤を噴霧して製造されるものである請求項9乃至16のいずれか1項記載の構造体。
【請求項19】
前記骨再生活性手段を含有する溶液をインクジェットプリンターから噴射して、前記マトリックスの特定の位置に前記骨再生活性手段を設けた請求項18記載の構造体。
【請求項20】
請求項9記載の骨再生用構造体の素材を骨が欠損した形状に合わせて切り出し、切り出した面に前記骨再生用活性手段を適用するようにした骨再生用構造体の製造方法。
【請求項21】
骨が欠損した形状に合わせた人工骨のマトリックスを骨欠損部へ挿入し、当該マトリックスと骨欠部との隙間に請求項17記載の人工骨形成用組成物を充填している人工骨の使用方法。
【請求項22】
前記ベクターがプラスミドである請求項3記載のベクター。
【請求項23】
骨欠損部へ、請求項1記載の活性物質を移植してなる骨の再生方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−204501(P2006−204501A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19812(P2005−19812)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年8月5日から7日 日本骨代謝学会主催の「第22回 日本骨代謝学会学術集会」において文書をもって発表
【出願人】(505034050)
【出願人】(301032160)株式会社ネクスト (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年8月5日から7日 日本骨代謝学会主催の「第22回 日本骨代謝学会学術集会」において文書をもって発表
【出願人】(505034050)
【出願人】(301032160)株式会社ネクスト (3)
【Fターム(参考)】
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