説明

高分子凝集剤包装体および廃液処理方法

【課題】人手により小規模の廃液処理を行う際、高分子凝集剤の予備希釈液調製の作業を省力化して労働負荷を軽減することができ、希釈液の調製が容易であり、長期間保存しても所期の凝集効果が得られ、しかも一定量の高分子凝集剤および溶媒が包装されているため、廃液に対して所定濃度の予備希釈液を調製して定量的に添加することが可能な高分子凝集剤包装体を提供する。
【解決手段】易破壊性の区画部6により区画された複数の分室7、8を有し、外的な圧力により区画部6が破壊可能に構成された包装袋5の少なくとも1つの分室7に高分子凝集剤9を充填し、他の分室8に溶媒10を充填した高分子凝集剤包装体1に外的な圧力を加え、区画部6を破壊して高分子凝集剤9と溶媒10を混合して高分子凝集剤溶液を調製し、廃液に加えて凝集させて廃液処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装袋に高分子凝集剤および溶媒を充填した高分子凝集剤包装体、ならびにこの高分子凝集剤包装体を用いて廃液処理を行う廃液処理方法、特に農薬活性成分を含有する廃液の現場処理に適した廃液処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、工場廃液等の廃液は適切な処理が行われ、浄化された後処分されてきた。廃液処理は種々の方法があるが、コロイド状となって水中に浮遊する成分を除去するには、凝集剤を用いて浮遊成分を凝集させ、濾過や沈澱により凝集物を分離する方法が一般的である。凝集剤は無機系凝集剤と有機系凝集剤に大別されるが、硫酸アルミニウムやポリ塩化アルミニウム等の無機系凝集剤だけでは凝集力が弱く、有機系凝集剤である高分子凝集剤と併用されることが多い。
【0003】
農薬活性成分を含有する廃液として、例えば一般農家が調製した農薬散布液の余剰分や、水稲等の種子消毒液の廃液などがあるが、農薬活性成分含有廃液の処理においても、非特許文献1に記載されているように、高分子凝集剤のみ、あるいは高分子凝集剤と無機系凝集剤を併用して凝集物を生成後、濾過することにより廃液が処理されている。
【0004】
工場廃液や下水等、1日当たり数十〜数百立方メートル以上の規模で廃液処理を行う場合は、専用の廃液処理設備が用いられ、そこに高分子凝集剤が設置されて機械的に添加されるが、一般農家で発生する農薬廃液の発生量は少なく、このため農薬廃液を処理する場合の1回当たりの処理量は数十リットルから数立方メートルと少ないので、廃液処理の操作は人手により行われる場合が多い。
【0005】
高分子凝集剤は非常に低濃度で凝集効果を発揮し、廃液への添加量は極微量であるため、人手により廃液処理を行う場合、所定量を精度よく秤取ることは実質的に困難であり、予備的に水で希釈した液を多めに調製し、そこから所定量加えるのが実情である。凝集物生成には、高分子凝集剤が廃液全体に均一に作用する必要があり、高分子凝集剤を直接廃液に添加する場合、全体を均一な状態とするには十分な攪拌操作を必要とする。この場合、過度の攪拌操作は生成した凝集物を壊すことになるので、水に分散しやすい状態とするためにも、高分子凝集剤は一旦水に溶解し、予備希釈してから添加される。
【0006】
ところが高分子凝集剤は水中では分解し易く、水で予備的に希釈した高分子凝集剤の水溶液は数日で失活するため、希釈液の作り置きができない。このため廃液処理を行う都度、高分子凝集剤の希釈液を調製する必要があり、労働的な負荷が大きい。また廃液に農薬活性成分を含有する場合、特に一般農家が調製した農薬散布液の余剰分、水稲種子消毒液などの廃液は、処理が困難であり、最適濃度、最適量の高分子凝集剤の希釈液を調製するのも困難である。
【非特許文献1】平成14年1月JA全農肥料農薬部発行「水稲種子消毒廃液処理方法−改定第II版」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、人手により小規模の廃液処理を行う際、高分子凝集剤の予備希釈液調製の作業を省力化して労働負荷を軽減することができ、希釈液の調製が容易であり、長期間保存しても所期の凝集効果が得られ、しかも一定量の高分子凝集剤および溶媒が包装されているため、廃液に対して所定濃度の予備希釈液を調製して定量的に添加することが可能な高分子凝集剤包装体を提供することである。
【0008】
本発明の他の課題は、環境負荷が大きな農薬活性成分を含有する廃液に対し、高分子凝集剤の予備希釈液の調製、および添加の操作を簡便化し、一般農家が容易に廃液を処理することのできる廃液処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は次の高分子凝集剤包装体および廃液処理方法である。
(1) 易破壊性の区画部により区画された複数の分室を有し、外的な圧力により区画部が破壊可能に構成された包装袋と、
包装袋の少なくとも1つの分室に充填された所定量の高分子凝集剤と、
包装袋の他の分室に充填された溶媒と
を含む高分子凝集剤包装体。
(2) 高分子凝集剤がポリアクリルアミド系凝集剤である上記(1)記載の高分子凝集剤包装体。
(3) 高分子凝集剤がポリアクリルアミド系凝集剤のエマルションである上記(1)または(2)記載の高分子凝集剤包装体。
(4)溶媒が、水または水に任意の割合で溶解する溶剤を含むものである上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の高分子凝集剤包装体。
(5) 易破壊性の区画部により区画された複数の分室を有し、外的な圧力により区画部が破壊可能に構成された包装袋の少なくとも1つの分室に高分子凝集剤を充填し、他の分室に溶媒を充填して高分子凝集剤包装体を形成し、
高分子凝集剤包装体に外的な圧力を加え、区画部を破壊して高分子凝集剤と溶媒を混合して高分子凝集剤溶液を調製し、
高分子凝集剤溶液を廃液に加えて凝集させることを特徴とする廃液処理方法。
(6) 無機系凝集剤を加えて予備凝集させた廃液に、高分子凝集剤溶液を加えて凝集させる上記(5)記載の廃液処理方法。
(7) 廃液が農薬活性成分を含有する廃液である上記(5)または(6)記載の廃液処理方法。
【0010】
本発明の高分子凝集剤包装体は、易破壊性の区画部により区画された複数の分室を有し、外的な圧力により区画部が破壊可能に構成された包装袋の少なくとも1つの分室に所定量の高分子凝集剤を充填し、他の分室に溶媒を充填した包装体である。包装袋はポリエチレン、ポリエチレンラミネートアルミニウムのような軟質プラスチックフィルム、プラスチックラミネートアルミニウム等の可撓性フィルムにより、外的な圧力で変形する密閉の袋状に形成される。易破壊性の区画部は、可剥性ヒートシールのような外的な圧力により区画部が破壊して隣接する分室が連通するように形成される。分室は2室でもよいが、他の成分を包装するときは3室以上でもよい。
【0011】
本発明に用いる高分子凝集剤はコロイド溶液中の微細粒子を凝集させる効果を有する物質であり、コロイド粒子の表面の荷電を中和するか、あるいは構造上の官能基がコロイド粒子に吸着し粒子同士を架橋する作用により凝集効果が得られる高分子凝集剤である。このような物質としては、例えば、アクリルアミドモノマーを重合により高分子量化したポリアクリルアミド、あるいはこれをアルカリの存在下で部分的に加水分解するか、アクリルアミドモノマーとアクリル酸ナトリウムモノマーを共重合することにより得られるポリアクリルアミド系高分子凝集剤、アクリルアミドモノマーとN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートモノマーを共重合することにより得られるジメチルアミノエチルメタクリレート系高分子凝集剤、アクリルアミドモノマーとN,N−ジメチルアミノエチルアクリレートモノマーを共重合することにより得られるジメチルアミノエチルアクリレート系高分子凝集剤、N−ビニルホルムアミドとアクリロニトリルを共重合し、さらに酸加水分解することにより得られるアミジン系高分子凝集剤、アクリル酸を共重合することにより得られるポリアクリル酸系高分子凝集剤、アクリルアミドモノマーとN,N−ジメチルアミノエチルアクリレートモノマー(あるいはN, N −ジメチルアミノエチルメタクリレートモノマーおよび両者)、およびアクリル酸を共重合することにより得られる両性系高分子凝集剤など、分子量が数百万から数千万のアニオン性、ノニオン性、カチオン性、両性高分子凝集剤が挙げられる。
【0012】
本発明では上記の内、いずれの高分子凝集剤も使用することができるが、特にポリアクリルアミド系高分子凝集剤が好ましい。これらの高分子凝集剤は粉末状とエマルション状のものがあり、本発明にはいずれの形状のものも使用することができるが、作業性の点からは、水に溶解し易いエマルション状のものが好ましい。なお、長期にわたって保存するときは、より安定な粉末状のものを用いることができる。これらの高分子凝集剤としては市販品を使用することができる。
【0013】
溶媒は上記の高分子凝集剤を溶解、希釈して希釈液を調製するのに適した溶媒であり、水または水に任意の割合で溶解する溶剤を含むものが使用でき、水、有機溶剤、これらの混合物、あるいはこれらにさらに他の成分が含まれる溶媒などがあげられるが、特に水が好ましい。本発明に用いる水は特に限定されないが、包装袋の中に充填されて長期間保存されることから、腐敗しにくい状態にするのが好ましく、例えば蒸留水、高度に濾過された水、滅菌された水、防腐剤を添加した水等を用いるのが望ましい。上記の有機溶剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルキレングリコール;N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤;N-メチル-2-ピロリドン等のアルキルピロリドン;ならびにγ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、グリセリンなどが挙げられる。
【0014】
高分子凝集剤の廃液への添加量は、廃液の種類、即ち、廃液中の粒子の量及び種類によって最適値を求められるが、通常、廃液に対して0.1ppmから500ppmの範囲であり、例えば1回の廃液処理に使用する高分子凝集剤の量、またはその等分割量とし、1回の廃液処理に1個または数個の包装体を使用して廃液処理できるようにするのが好ましい。
【0015】
包装袋の他方の分室に充填する溶媒の充填量は、分室に充填された高分子凝集剤の希釈液の濃度等により決まる所定量とすることができる。希釈液の濃度が高いと、添加量の制御および操作が困難になるので、これらが容易になる濃度(重量%)として0.05%から1%、好ましくは0.1%から0.4%の範囲となる量とすることができる。分室を3室以上とする場合、他の成分としてpH調整剤、可溶化剤などを包装することができる。これらの他の成分は高分子凝集剤と溶媒の希釈液に混合するように包装してもよく、また廃液に直接添加するように包装してもよい。
【0016】
本発明の高分子凝集剤包装体の大きさは特に限定されず、高分子凝集剤、溶媒、および必要により充填する他の成分を充填して密閉可能であればよいが、人手による廃液処理に用いる際の取扱が容易であるように、全体の重量が10gから1000g、好ましくは100gから500gとなるように調製するのが好ましい。このような包装体の各成分の充填量として、高分子凝集剤10mgから10gに対し、溶媒としての水10mlから1000mlとすることができる。
【0017】
本発明の高分子凝集剤包装体は、易破壊性の区画部により複数の分室を区画した包装袋の各分室に、高分子凝集剤、溶媒、および必要により充填する他の成分を充填し、包装袋の各分室の開口部をヒートシール等により密封する。易破壊性の区画部は、ヒートシール温度を低くし、あるいは非相溶性のフィルムをヒートシールして易剥離性の癒着隔壁とすることにより形成することができ、開口部のヒートシールは高温でヒートシール強度を高くすることができる。本包装袋を構成するポリエチレン製、又はポリエチレンラミネートアルミニウム製等のフィルムは、通常20μmから300μmの厚みとすることができる。
【0018】
本発明の高分子凝集剤包装体は、上記の包装状態で運搬、保管し、被処理廃液の発生する場所で、人手により包装体に外的な圧力を加え、区画部を破壊して高分子凝集剤と溶媒を混合して高分子凝集剤溶液(希釈液)を調製し、高分子凝集剤溶液を廃液に加えて凝集させることにより廃液処理を行う。この場合、溶媒を充填した分室を人の手で押すことによる圧力で区画部が壊れ、高分子凝集剤を充填した分室と、溶媒を充填した分室が導通し、その後さらに包装袋全体を揉むことにより高分子凝集剤と溶媒を混合し、所定濃度の高分子凝集剤の希釈液を容易に調製することができる。包装袋を厚さ20μmから300μmのポリエチレン、ポリエチレンラミネートアルミニウム等のフィルムで構成すると、人の手で揉むことのできる軟らかさとすることができ、これにより希釈液の調製を容易にすることができる。
【0019】
本発明の高分子凝集剤包装体は、廃液処理する日から遡って7日以内、好ましくは3日以内、さらに好ましくは廃液処理当日、上記の如く高分子凝集剤の希釈液を包装袋の中で調製することができる。調製された高分子凝集剤の希釈液は、包装袋を破り廃液に添加して攪拌することにより、廃液中のコロイド粒子を凝集させることができる。生成した凝集物は適当な濾布、例えばサラシ布、ネル布、タオル地の布等を用いて濾過するか、あるいは攪拌操作を止めて沈澱が沈降するのを待って上澄みだけを流去する等の操作で分別することができる。
【0020】
高分子凝集剤の添加のみでは凝集し難い廃液の場合、高分子凝集剤で凝集させる前に、無機系凝集剤を添加して予備的に凝集させることができる。用いることのできる無機系凝集剤としては、例えば硫酸アルミニウムあるいはポリ塩化アルミニウム等のアルミニウム塩が挙げられる。これらの凝集剤の効果は、廃液のpHに依存するため、pH5から8、望ましくはpH6から7になるよう、適当なpH調整剤、例えば炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、消石灰、硫酸等を用いて廃液のpHを調整して凝集を行うことができる。無機系凝集剤は溶媒(水)とともに、上記と同様の包装体に包装し、易破壊性の区画部を破壊して無機系凝集剤溶液を調製して添加してもよいが、大型の袋に貯留したものを計量して添加するようにしてもよい。
【0021】
凝集剤は廃液中のコロイド粒子を凝集させることが可能であるが、水に溶解した成分を凝集させることはできないため、廃液に溶解した成分を除去するために吸着剤を用いることができる。用いることのできる吸着剤としては活性炭、石炭灰の燃え殼、合成ゼオライト等が挙げられる。吸着剤の添加量は廃液の種類により異なるが、一般に廃液100リットル当たり100gから10kg、望ましくは1kgから5kgとすることができる。これらの吸着剤を用いて廃液処理を行う場合、廃液に吸着剤を添加して攪拌した後、硫酸アルミニウムあるいはポリ塩化アルミニウム等の無機系凝集剤を加え、必要に応じて廃液のpHを調整後、高分子凝集剤の希釈液を加えて凝集物を生成させ、適当な濾布、例えばサラシ布、ネル布、タオル地の布等を用いて濾過するか、あるいは攪拌操作を止めて沈澱が沈降するのを待って上澄みだけを流去する等の操作で分別することができる。
【0022】
廃液が農薬活性成分を含有する場合、本発明の高分子凝集剤包装体による廃液処理は特に好適である。通常、農薬製剤を水に希釈して散布する際、数リットルから数百リットルの容器で農薬製剤が希釈されるが、多めに農薬散布液が調製された場合、余剰の散布液が残ることとなる。又、水稲種子処理においては、数リットルから数千リットルの規模で農薬製剤が水に希釈され、そこに水稲種子を浸漬して消毒されるが、農薬の希釈液は散布されるわけではないため、種子処理を行った後の農薬製剤の希釈液はほとんど廃液となる。以上のように、農薬散布液の余剰分、水稲種子処理後の廃液は、数リットルから数千リットルと、工場廃液や下水等よりも小規模で廃液処理することができる。
【0023】
より具体的には、農薬活性成分を含有する廃液に必要に応じて吸着剤を添加して攪拌した後、硫酸アルミニウムあるいはポリ塩化アルミニウム等の無機系凝集剤を加え、必要に応じて廃液のpHを調整後、高分子凝集剤の希釈液を加えて凝集物を生成させ、適当な濾布、例えばサラシ布、ネル布、タオル地の布等を用いて濾過するか、あるいは攪拌操作を止めて沈澱が沈降するのを待って上澄みだけを流去する等の操作で分別することができる。廃水に含まれる農薬活性成分が微生物の場合、水に溶解する成分はないため、吸着剤の添加は省略してもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の高分子凝集剤包装体によれば、易破壊性の区画部により区画された複数の分室を有し、外的な圧力により区画部が破壊可能に構成された包装袋の少なくとも1つの分室に所定量の高分子凝集剤を充填し、他の分室に溶媒を充填したので、人手により廃液処理を行う際、手間と労力を要する高分子凝集剤の希釈液を調製する操作において、外圧により両者を隔てる区画部を破壊させ、高分子凝集剤の希釈液を容易に調製することが可能となり、また長期間保存しても高分子凝集剤が有する所期の効果を維持することが可能となるため、特に、環境負荷が大きな農薬活性成分を含有する廃液の処理において、一般農家が使い易い形態の高分子凝集剤包装体を得ることができる。
【0025】
本発明の廃液処理方法によれば、易破壊性の区画部により区画された複数の分室を有し、外的な圧力により区画部が破壊可能に構成された包装袋の少なくとも1つの分室に高分子凝集剤を充填し、他の分室に溶媒を充填して高分子凝集剤包装体を形成し、高分子凝集剤包装体に外的な圧力を加え、区画部を破壊して高分子凝集剤と溶媒を混合して高分子凝集剤溶液を調製し、高分子凝集剤溶液を廃液に加えて凝集させるようにしたので、環境負荷が大きな農薬活性成分を含有する廃液に対し、高分子凝集剤の予備希釈液の調製、および添加の操作を簡便化し、一般農家が容易に廃液を処理することのできる廃液処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面によって説明する。図1(a)は実施形態の高分子凝集剤包装体の平面図、(b)はそのA−A断面図、図2(a)は密封前の状態を示す平面図である。
図1において、1は高分子凝集剤包装体で、2枚のポリエチレン製やポリエチレンラミネートアルミニウム製等のプラスチックフィルム2、3が溶着部4で溶着された包装袋5が、中間部の低温ヒートシールによる易剥離性の癒着隔壁からなる易破壊性区画部6により第1分室7、および第2分室8に区画され、第1分室7に高分子凝集剤9が開口部11から充填され、第2分室8に溶媒(水)10が開口部12から充填され、開口部11、12がヒートシール部13、14により密封されて、密封袋状に形成されている。
【0027】
上記の高分子凝集剤包装体1は、図2(a)に示すように、両端の開口部11、12が開口した包装袋5を作成し、この包装袋5の第1分室7に高分子凝集剤9を充填し、第2分室8に溶媒(水)10を充填し、図1(a)、(b)に示すように、開口部11、12をヒートシール部13、14により密封して製造する。こうして製造された高分子凝集剤包装体1は、第2分室8側を強く握り、あるいは手で叩くことにより、溶媒(水)10が易破壊性区画部6を破壊して第1分室7に流入する。包装袋5の全体を手でよく揉むことにより、溶媒(水)10に高分子凝集剤9が溶解して高分子凝集剤希釈液を調製する。こうして調製された高分子凝集剤希釈液を廃水に添加し、攪拌して凝集を行う。
【0028】
図2(b)は別の実施形態の高分子凝集剤包装体の密封前の状態を示す平面図、(c)は密封後の状態を示す平面図である。図1(a)、(b)および図2(a)の高分子凝集剤包装体1は、包装袋5の両端に開口部11、12を形成したが、図2(b)に示すように、包装袋5の他の辺、例えば側辺に開口部11、12を形成した包装袋5を作成し、この包装袋5の第1分室7に高分子凝集剤9を充填し、第2分室8に溶媒(水)10を充填し、図2(c)に示すように、開口部11、12をヒートシール部13により密封して高分子凝集剤包装体1を製造することもできる。こうして製造された高分子凝集剤包装体1は、図1(a)、(b)および図2(a)のものと同様に、第2分室8側を強く握り、あるいは手で叩くことにより、高分子凝集剤希釈液を調製することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例および試験例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。
【0030】
実施例1:
剥離可能な癒着隔壁で2室に分割されたポリエチレン製の包装袋の1室にエマルション状のポリアクリルアミド系高分子凝集剤(栗田工業株式会社製:クリフロックEA)0.4gを充填し、もう1室には蒸留水200mlを充填してヒートシールにより密閉し、本発明の高分子凝集剤包装体を得た。得られた高分子凝集剤包装体は、蒸留水が包装されている側を手で強く握ることにより2室に分割している癒着隔壁が壊れて導通し、高分子凝集剤と水が混合可能な状態となり、手でよく揉み解し混合溶解して高分子凝集剤希釈液を調製する。
【0031】
実施例2:
剥離可能な癒着隔壁で2室に分割されたポリエチレン製の袋の1室にエマルション状のポリアクリルアミド系高分子凝集剤(栗田工業株式会社製:クリフロックEA)0.2gを充填し、もう1室には蒸留水50mlを充填してヒートシールにより密閉し、本発明の高分子凝集剤包装体を得た。得られた高分子凝集剤包装体は、蒸留水が包装されている側を手で強く握ることにより2室に分割している癒着隔壁が壊れて導通し、高分子凝集剤と水が混合可能な状態となり、手でよく揉み解し混合溶解して高分子凝集剤希釈液を調製する。
【0032】
実施例3:
剥離可能な癒着隔壁で2室に分割されたポリエチレン製の袋の1室にエマルション状のポリアクリルアミド系高分子凝集剤(栗田工業株式会社製:クリフロックEA)1.0gを充填し、もう1室には蒸留水500mlを充填してヒートシールにより密閉し、本発明の高分子凝集剤包装体を得た。得られた高分子凝集剤包装体は、蒸留水が包装されている側を手で強く握ることにより2室に分割している癒着隔壁が壊れて導通し、高分子凝集剤と水が混合可能な状態となり、手でよく揉み解し混合溶解して高分子凝集剤希釈液を調製する。
【0033】
実施例4:
剥離可能な癒着隔壁で2室に分割されたポリエチレン製の袋の1室に粉末伏のポリアクリル酸系高分子凝集剤(栗田工業株式会社製:クリフィックスCP)0.4gを充填し、もう1室には蒸留水200mlを充填してヒートシールにより密閉し、本発明の高分子凝集剤包装体を得た。得られた高分子凝集剤包装体は、蒸留水が包装されている側を手で強く握ることにより2室に分割している癒着隔壁が壊れて導通し、高分子凝集剤と水が混合可能な状態となり、手でよく揉み解し使用混合溶解して高分子凝集剤希釈液を調製する。
【0034】
比較例1:
実施例1で用いたポリアクリルアミド系高分子凝集剤0.4gを蒸留水200mlに混合溶解し、高分子凝集剤希釈液を調製した。
【0035】
比較例2:
実施例4で用いたポリアクリル酸系高分子凝集剤0.4gを蒸留水200mlに混合溶解し、高分子凝集剤希釈液を調製した。
【0036】
試験例1(高分子凝集剤希釈液調製試験):
10人の人間に実施例1の高分子凝集剤の包装袋を手渡し、高分子凝集剤希釈液を調製する時間、およびその作業に関わる手間について調査した。同様に、比較例1の高分子凝集剤希釈液を調製する時間、およびその作業に関わる手間の感想について調査した。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

註)
希釈液調製の手間の基準
○:容易である
△:どちらとも言えない
×:大変である
【0038】
表1において、実施例1は、希釈液調製に要する時間は10人とも1分以内であり、手間が掛からず容易であるとの評価であったが、比較例1では、希釈液調製に要する時間は6〜19分であり、何れも手間が掛かり大変であるとの評価であった。
【0039】
試験例2(農薬の廃液処理試験−1):
クミアイ化学製微生物農薬(商品名:エコホープドライ)の200倍希釈液に水稲籾を24時間浸漬した後の廃液200Lに対し、実施例1の高分子凝集剤の包装袋を用いて高分子凝集剤希釈液を調製し、1袋分を廃液に添加して攪拌した。生成した凝集物をネル布で濾過した時の濾液中の微生物数を測定した結果、元の廃液に対して0.1%以下であり、本操作により適切に農薬の廃液処理を行うことができた。
【0040】
試験例3(農薬の廃液処理試験−2):
クミアイ化学製微生物農薬(商品名:エコホープ)の200倍希釈液に水稲籾を24時間浸漬した後の廃液200Lに対し、ポリ塩化アルミニウム10重量%水溶液50mlを加え、さらに炭酸ナトリウム15gを加えて攪拌した後、実施例1の高分子凝集剤の包装袋を用いて調製した高分子凝集剤希釈液1袋分をそこに添加して攪拌した。生成した凝集物は試験例2の場合よりも大きいため、目の粗いタオル地の布で濾過した。濾液中の微生物数を測定した結果、元の廃液に対して0.1%以下であり、本操作により適切に農薬の廃液処理を行うことができた。
【0041】
試験例4(農薬の廃液処理試験−3):
クミアイ化学製水稲種子消毒剤(商品名:テクリードCフロアブル)の200倍希釈液に水稲籾を24時間浸漬した後の廃液100Lに対し、活性炭3kgを加えて攪拌後、ポリ塩化アルミニウム10重量%水溶液250mlを加え、さらに炭酸ナトリウム75gを加えて攪拌した後、実施例3の高分子凝集剤の包装袋を用いて調製した高分子凝集剤希釈液1袋分をそこに添加して攪拌した。生成した凝集物をタオル地の布で濾過し、濾液中の農薬有効成分量を測定した結果、テクリードCフロアブル中の農薬有効成分であるイプコナゾールは0.1ppm以下、銅は3ppm以下であり、本操作により適切に農薬の廃液処理を行うことができた。
【0042】
試験例5(保存安定性試験):
実施例1の高分子凝集剤の包装袋及び比較例1の高分子凝集剤希釈液を40℃の加湿条件下で1ケ月間放置した後、試験例3に準じて農薬の廃液処理試験を行った。なお、実施例1の高分子凝集剤の包装袋は、廃液処理直前に蒸留水が包装されている側を手で強く握り、2室に分割している癒着隔壁を壊して高分子凝集剤と水を混合溶解して使用した。その結果、実施例1の高分子凝集剤の包装袋を用いた場合の凝集物の生成は試験例3と同様良好であり、濾液中の微生物数は元の廃液に対して0.1%以下と適切に農薬の廃液処理を行うことができた。一方、比較例1の高分子凝集剤希釈液を用いた場合、凝集物は生成するものの、凝集物の大きさは小さく、且つ脆い状態であり、一部はタオル地の布を通過した。濾液中の微生物数は元の廃液に対して50%であり、適切な廃液処理をすることはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、廃液処理方法、特に農薬活性成分を含有する廃液の処理に使用するための高分子凝集剤および溶媒を充填した高分子凝集剤包装体、ならびにこの高分子凝集剤包装体を用いて廃液処理を行う廃液処理方法、特に農薬活性成分を含有する廃液の現場処理に適した廃液処理方法に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】(a)は実施形態の高分子凝集剤包装体の平面図、(b)はそのA−A断面図である。
【図2】(a)は図1の高分子凝集剤包装体の密封前の状態を示す平面図、(b)は別の実施形態の高分子凝集剤包装体の密封前の状態を示す平面図、(c)は密封後の状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 高分子凝集剤包装体、 2、3 プラスチックフィルム、
4 溶着部、 5 包装袋、 6 易破壊性区画部、 7 第1分室、
8 第2分室、 9 高分子凝集剤、 10 溶媒、 11、12 開口部
13、14 ヒートシール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
易破壊性の区画部により区画された複数の分室を有し、外的な圧力により区画部が破壊可能に構成された包装袋と、
包装袋の少なくとも1つの分室に充填された所定量の高分子凝集剤と、
包装袋の他の分室に充填された溶媒と
を含む高分子凝集剤包装体。
【請求項2】
高分子凝集剤がポリアクリルアミド系凝集剤である請求項1記載の高分子凝集剤包装体。
【請求項3】
高分子凝集剤がポリアクリルアミド系凝集剤のエマルションである請求項1または2記載の高分子凝集剤包装体。
【請求項4】
溶媒が、水または水に任意の割合で溶解する溶剤を含むものである請求項1ないし3のいずれかに記載の高分子凝集剤包装体。
【請求項5】
易破壊性の区画部により区画された複数の分室を有し、外的な圧力により区画部が破壊可能に構成された包装袋の少なくとも1つの分室に高分子凝集剤を充填し、他の分室に溶媒を充填して高分子凝集剤包装体を形成し、
高分子凝集剤包装体に外的な圧力を加え、区画部を破壊して高分子凝集剤と溶媒を混合して高分子凝集剤溶液を調製し、
高分子凝集剤溶液を廃液に加えて凝集させることを特徴とする廃液処理方法。
【請求項6】
無機系凝集剤を加えて予備凝集させた廃液に、高分子凝集剤溶液を加えて凝集させる請求項5記載の廃液処理方法。
【請求項7】
廃液が農薬活性成分を含有する廃液である請求項5または6記載の廃液処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−320868(P2006−320868A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148284(P2005−148284)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000000169)クミアイ化学工業株式会社 (86)
【Fターム(参考)】