説明

高分子電解質

【課題】高いイオン伝導度と、高強度、低溶媒含有率を満足するリチウム二次電池用高分子電解質の提供。
【解決手段】少なくとも非水溶媒とイオン性高分子とを含有するリチウム二次電池用高分子電解質であって、該イオン性高分子が、下記式(1):
−(CF−CFRf)−{Rfはフッ素原子又は炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基}又は下記式(2):−(CH−CHRh)−{Rhは水素原子又は炭素数1〜4の炭化水素系アルキル基}で表される繰り返し単位と、下記式(3):−SONLiSORg{Rgはフッ素原子又は炭素数1〜8のフルオロアルキル基又はアルキル基}で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位とを含有する共重合体であり、かつ、該高分子電解質中の該イオン性高分子の含有量が、25質量%以上95質量%以下であることを特徴とする前記リチウム二次電池用高分子電解質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用電解質として有用な高分子電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウムイオン二次電池は小型で高容量であることから、携帯機器の充電池等に用いられているが、近年、環境負荷低減の要請により、電力貯蔵や電気自動車用電池への展開が期待されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池には、有機溶媒に電解質塩を溶解させた有機電解液が用いられているが、電解液の漏洩、発熱・発火、破裂等の多くの危険性をはらんでおり、電池の安全性や信頼性の向上のため、更なる改善が大きな課題となっている。特に、近い将来に展開が期待されている電気自動車用途では、これまで以上に高い電池安全性(非漏洩、難燃、デンドライト抑制等)が求められる。
【0004】
電池の安全性や信頼性の向上に寄与する技術として、ポリマーゲル電解質など高分子を用いた電解質のゲル化、固体化の検討がなされている。
以下の特許文献1には、フッ化ビニリデン(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体と、リチウム塩を溶解した非水溶媒とからなるポリマーゲル電解質が開示されている。VDFユニットが多量の非水溶媒を保持することによりゲル状となり、保持した非水溶媒によりイオン伝導度が発現するものである。しかしながら、VDFユニット自体は多量の非水溶媒を保持するもののイオン伝導度に寄与しないため、十分なイオン伝導度を発現するためには、該共重合体の含有量を10〜20質量%に抑える必要がある。その結果、機械的強度が不十分であり、セパレータと組み合わせて使用する必要がある。
【0005】
以下の特許文献2には、VDFとスルホンイミド基含有モノマーとの共重合体と非水溶媒とからなる高分子電解質が開示されている。この高分子電解質は良好なイオン伝導度を発現するが、非水溶媒の含有量が該共重合体に対して755質量%(該共重合体は、該電解質全体質量の11.7質量%に相当する)と、非水溶媒の含有量が高いという問題がある。これはVDFユニットが多量の非水溶媒を保持してしまうためと考えられる。
【0006】
以下の特許文献3には、スルホン酸基を含有するパーフルオロポリマーと非水溶媒とからなる高分子電解質及びその製造方法が開示されている。スルホン酸基を含有するパーフルオロポリマーは非水溶媒を容易に保持しないため、非水溶媒を含有させるために、水溶液からの溶媒置換による特殊な操作を必要とし、その製造方法は非常に繁雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5296318号明細書
【特許文献2】特表2002−505356号公報
【特許文献3】特許第4430324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近い将来に展開が期待されている自動車用途において、リチウムイオン二次電池には、これまで以上に高い電池安全性(非漏洩、難燃、デンドライト抑制等)と出力特性が求められる。出力特性に資する高いイオン伝導度と、電池安全性に資する高強度、低溶媒含有率とを同時に満足する高分子電解質が求められている。
かかる事情を鑑みて、本発明が解決しようとする課題は、高いイオン伝導度と、高強度、低溶媒含有率とを同時に満足するリチウム二次電池用高分子電解質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記した従来技術の高分子電解質に伴う問題を解決すべく、また前記した要求を満たすべく、鋭意検討し、実験を重ねた結果として完成されたものである。
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
【0010】
[1]少なくとも非水溶媒とイオン性高分子とを含有するリチウム二次電池用高分子電解質であって、該イオン性高分子が、下記式(1):
−(CF−CFRf)− ・・・(1)
{式中、Rfは、フッ素原子又は炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基である。}又は下記式(2):
−(CH−CHRh)− ・・・(2)
{式中、Rhは、水素原子又は炭素数1〜4の炭化水素系アルキル基である。}で表される繰り返し単位と、下記式(3):
−SONLiSORg ・・・(3)
{式中、Rgは、フッ素原子又は炭素数1〜8のフルオロアルキル基又はアルキル基である。}で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位とを含有する共重合体であり、かつ、該高分子電解質中の該イオン性高分子の含有量が、25質量%以上95質量%以下であることを特徴とする前記リチウム二次電池用高分子電解質。
【0011】
[2]前記イオン性高分子が、下記式(1):
−(CF−CFRf)− ・・・(1)
{式中、Rfは、フッ素原子又は炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基である。}で表される繰り返し単位と、下記式(3):
−SONLiSORg ・・・(3)
{式中、Rgは、フッ素原子又は炭素数1〜8のフルオロアルキル基又はアルキル基である。}で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位とを含有する共重合体である、前記[1]に記載のリチウム二次電池用高分子電解質。
【0012】
[3]前記イオン性高分子が下記式(4):
−(CF−CF)− ・・・(4)
で表される繰り返し単位と下記式(5):
−(CF−CF(−(OCFCFX)−O−(CF−SONLiSORg))− ・・・(5)
{式中、Xは、フッ素原子又は−CF基を示し、nは、0〜5の整数であり、mは、1〜12の整数であり、そしてRgは、フッ素原子又は炭素数1〜8のフルオロアルキル基又はアルキル基である。}で表される繰り返し単位とを含有する共重合体である、前記[1]又は[2]に記載のリチウム二次電池用高分子電解質。
【0013】
[4]前記イオン性高分子のイオン交換容量が、0.5ミリ当量/g以上3.0ミリ当量/g以下である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載のリチウム二次電池用高分子電解質。
【0014】
[5]前記イオン性高分子以外のリチウム塩をさらに含有する、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のリチウム二次電池用高分子電解質。
【0015】
[6]前記非水溶媒が、2種類以上の溶媒の混合溶媒である、前記[1]〜[5]のいずれかに記載のリチウム二次電池用高分子電解質。
【0016】
[7]少なくとも非水溶媒とイオン性高分子とを含有するリチウム二次電池用高分子電解質であって、該イオン性高分子が、下記式(1):
−(CF−CFRf)− ・・・(1)
{式中、Rfは、フッ素原子又は炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基である。}又は下記式(2):
−(CH−CHRh)− ・・・(2)
{式中、Rhは、水素原子又は炭素数1〜4の炭化水素系アルキル基である。}で表される繰り返し単位と、下記式(3):
−SONLiSORg ・・・(3)
{式中、Rgは、フッ素原子又は炭素数1〜8のフルオロアルキル基又はアルキル基である。}で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位とを含有する共重合体であり、かつ、該高分子電解質中の該イオン性高分子の含有量が、25質量%以上95質量%以下である前記高分子電解質を、リチウム二次電池用電解質として使用する方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、高いイオン伝導性を有すると同時に高い電池安全性(高強度、低非水溶媒量)をも実現するリチウム二次電池用高分子電解質が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の高分子電解質は、少なくとも非水溶媒とイオン性高分子を含有する。
「高分子電解質」は、いわゆる「ドライポリマー電解質」とは異なり、高分子中に非水溶媒を含有してもよく、また必要に応じて他のリチウム塩を含有してもよい。本明細書中、「高分子電解質」とは、高分子、非水溶媒、及びその他の必要な添加剤の複合体をいう。
【0019】
非水溶媒としては、非プロトン性溶媒が挙げられ、非プロトン性極性溶媒が好ましい。非水溶媒の具体例としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、トランス−2,3−ブチレンカーボネート、シス−2,3−ブチレンカーボネート、1,2−ペンチレンカーボネート、トランス−2,3−ペンチレンカーボネート、シス−2,3−ペンチレンカーボネート、トリフルオロメチルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、1,2−ジフルオロエチレンカーボネート等に代表される環状カーボネート類、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等に代表されるラクトン類、スルホラン等に代表される環状スルホン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等に代表される環状エーテル類、メチルエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルトリフルオロエチルカーボネート等に代表される鎖状カーボネート類、アセトニトリル、プロピオニトリル等に代表されるニトリル類、ジメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリグライム、テトラグライム等に代表されるエーテル類、プロピオン酸メチルに代表される鎖状カルボン酸エステル類が、挙げられる。
【0020】
上記非水溶媒は単独で又は2種以上を組み合わせて用いられるが、特にイオン伝導度の向上の観点から、非水溶媒としては環状の非プロトン性極性溶媒を1種以上含むことが好ましく、環状カーボネート類を1種以上含むことがより好ましい。また、非水溶媒は、イオン伝導度の向上の観点から、2種以上の溶媒の混合溶媒であることが好ましい。この混合溶媒における非水溶媒としては、上記と同様のものを例示できる。
【0021】
本発明の高分子電解質は、後述するイオン性高分子以外にリチウム塩を含有することが好ましい。ここで、リチウム塩は通常の非水電解質として用いられているものであれば特に限定されず、いずれのものであってもよい。そのようなリチウム塩の具体例としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSiF、LiOSO2k+1{式中、kは、1〜8の整数である}、LiN(SO2k+1)(SO2l+1){式中、k、及びlは、1〜8の整数である。}、LiPF(C2k+16−j{式中、jは、1〜5の整数であり、そしてkは、1〜8の整数である。}、LiBF(C2k+14−j{式中、jは、1〜3の整数であり、そしてkは、1〜8の整数である。}、LiB(Cで表されるリチウムビスオキサリルボレート、LiBF(C)で表されるリチウムジフルオロオキサリルボレート、LiPF(C)で表されるリチウムトリフルオロオキサリルフォスフェートが、挙げられる。
【0022】
また、LiC(SO11)(SO12)(SO13){式中、R11、R12、及びR13は、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を示す。}、LiN(SOOR14)(SOOR15){式中、R14、及びR15は、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を示す。}、LiN(SO16)(SOOR17){式中、R16、及びR17は、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を示す。}で表されるリチウム塩を用いることもできる。
これらのリチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのリチウム塩のうち、特に、LiPF、LiBF、LiN(SO2k+1)(SO2l+1){式中、k、及びlは、1〜8の整数である。}が好ましく、より好ましくは、LiPF、LiBF、LiN(SOCFである。
リチウム塩は、非水溶媒中の含有濃度として、好ましくは0.01〜3モル/リットル、より好ましくは0.1〜2モル/リットルの濃度で含有させることができる。
【0023】
本発明の高分子電解質に用いられる「イオン性高分子」とは、高分子中に解離しうるイオン構造を有する高分子をいう。イオン性高分子は、下記式(1):
−(CF−CFRf)− ・・・(1)
{式中、Rfは、フッ素原子又は炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基である。}又は下記式(2):
−(CH−CHRh)− ・・・(2)
{式中、Rhは、水素原子又は炭素数1〜4の炭化水素系アルキル基である。}で表される繰り返し単位と、下記式(3):
−SONLiSORg ・・・(3)
{式中、Rgは、フッ素原子又は炭素数1〜8のフルオロアルキル基又はアルキル基である。}で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位とを含有する共重合体である。
【0024】
ここで、上記式(1)又は上記式(2)で表される繰り返し単位は、非水溶媒により膨潤し難く、非水溶媒を保持し難い性質を有する。そして上記式(3)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位は、非水溶媒との親和性が高く、非水溶媒を保持し易い性質を有する。このように高分子中に非水溶媒で膨潤し難い上記式(1)又は上記式(2)で表される繰り返し単位と、非水溶媒を保持し易く、リチウムイオンを解離しうる上記式(3)で表されるスルホンイミド基を有するユニットを有することにより、少量の非水溶媒が効果的に上記式(3)のスルホンイミド基近傍に存在し、親溶媒部と疎溶媒部の海島構造が形成されると考えられる。それにより、少量の非水溶媒の含有で高いイオン伝導性を発現することができると考えられる。
【0025】
イオン性高分子は、上記式(1)又は上記式(2)で表される繰り返し単位を含有するが、上記式(1)で表される繰り返し単位は全フッ素の炭化フッ素系ユニットであり、好ましい例としては、テトラフルオロエチレンユニット、ヘキサフルオロプロピレンユニット、パーフルオロブチレンユニット、パーフルオロペンテンユニット、パーフルオロヘキセンユニットが挙げられる。また、上記式(2)で表される繰り返し単位は炭化水素系ユニットであり、好ましい例としては、エチレンユニット、プロピレンユニット、ブチレンユニット、ペンテンユニット、ヘキセンユニットが挙げられる。これら上記式(1)又は上記式(2)で表される繰り返し単位は、非水溶媒により膨潤し難く、非水溶媒を保持し難い性質を有し、少量の非水溶媒が効率的に上記式(3)のスルホンイミド基近傍に存在し、効果的なイオン伝導性発現に貢献する。
【0026】
イオン性高分子は、製造技術上の観点から、上記式(1)で表される繰り返し単位を含有することが好ましい。上記式(1)で表される繰り返し単位は、上述のとおり、好ましい例として、テトラフルオロエチレンユニット、ヘキサフルオロプロピレンユニット、パーフルオロブチレンユニット、パーフルオロペンテンユニット、パーフルオロヘキセンユニットが挙げられるが、より好ましくは、下記式(4):
−(CF−CF)− ・・・(4)
で表されるテトラフルオロエチレンユニットである。
【0027】
また、イオン性高分子は、上記式(2)で表される繰り返し単位を含有することもできる。上記式(2)で表される繰り返し単位の例として、上述のとおり、エチレンユニット、プロピレンユニット、ブチレンユニット、ペンテンユニット、ヘキセンユニットが挙げられ、少なくとも1種類がイオン性高分子に含有される必要があるが、2種以上を組合せてイオン性高分子に含有させてもよい。上記式(2)で表される脂肪族炭化水素系ユニットは還元により強い傾向があり、負極として金属リチウムをより好適に使用することができる。上記式(2)で表される繰り返し単位は、好ましくは、エチレンユニット、プロピレンユニット、ブチレンユニットであり、より好ましくは、これらのユニットのうち、2種類以上からなる共重合体ユニットである。
【0028】
イオン性高分子は、上記式(1)又は上記式(2)で表される繰り返し単位を含有する。ここで、上記式(1)又は上記式(2)で表される繰り返し単位の少なくとも1種類はイオン性高分子に含有される必要があるが、2種以上を組合せてイオン性高分子に含有させてもよい。2種以上をイオン性高分子に含有させる場合、例えば、テトラフルオロエチレンユニットとヘキサフルオロプロピレンユニットの両方を含有させることや、テトラフルオロエチレンユニットとエチレンユニットの両方を含有させることも可能である。上記式(1)又は上記式(2)で表される繰り返し単位は、すべて非水溶媒により膨潤し難く、非水溶媒を保持し難い性質を有し、2種以上を組合せても上記効果を保持することができる。
【0029】
イオン性高分子は、下記式(3):
−SONLiSORg ・・・(3)
{式中、Rgは、フッ素原子又は炭素数1〜8のフルオロアルキル基又はアルキル基を示す。}で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位を含有することを特徴とする。式(3)で表されるスルホンイミド基近傍に非水溶媒が局所的に存在する結果、高いイオン伝導性が発現できたものと考えられる。イオン性高分子中の式(3)で表されるスルホンイミド基の存在位置は特には限定されないが、効果的なイオン伝導性の観点から、式(3)で表されるスルホンイミド基はイオン性高分子の側鎖に存在することが好ましい。
【0030】
式(3)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位の構造は、特には限定されないが、ビニルスルホンイミドユニット、アリルスルホンイミドユニット、スチレンスルホンイミドユニット、フルオロカーボンスルホンイミドユニットが好ましく挙げられる。式(3)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位の構造としては、イオン伝導性の観点から、下記式(5):
−(CF−CF(−(OCFCFX)−O−(CF−SONLiSORg))− ・・・(5)
{式中、Xは、フッ素原子又は−CF基を示し、nは、0〜5の整数であり、mは、1〜12の整数であり、そしてRgは、フッ素原子又は炭素数1〜8のフルオロアルキル基又はアルキル基を示す。}で表されるフルオロカーボンスルホンイミドユニットが好ましく、下記式(6):
−(CF−CF(−(OCFCF(CF))−O−(CF−SONLiSORg))− ・・・(6)
{式中、nは、0〜5の整数であり、mは、1〜12の整数であり、そしてRgは、フッ素原子又は炭素数1〜8のフルオロアルキル基又はアルキル基を示す。}で表される繰り返し単位であることがより好ましく、そして下記式(7):
−(CF−CF(−(OCFCF(CF))−O−(CF−SONLiSOCF))− ・・・(7)
{式中、nは、0〜5の整数であり、そしてmは、1〜12の整数を示す。}で表される繰り返し単位であることがさらに好ましい。
【0031】
上記式(1)又は上記式(2)で表される繰り返し単位と、上記式(3)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位の割合は特に限定されないが、「上記式(1)又は上記式(2)で表される繰り返し単位」/「上記式(3)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位」は、製造の観点から、モル比で1以上であることが好ましく、イオン伝導性の観点から、モル比で20以下であることが好ましく、より好ましくはモル比で2以上15以下である。
【0032】
イオン性高分子は、上記式(1)又は上記式(2)で表される繰り返し単位、及び上記式(3)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位以外の構造を有する繰り返し単位を含有してもよい。特に、下記式(8):
−SOLi ・・・(8)
で表されるスルホン酸基を有する繰り返し単位は、イオン性高分子の作製、精製上の制約からイオン性高分子中に含有されうるものであり、イオン性高分子中に含有されてもよい。式(8)で表されるスルホン酸基を有する繰り返し単位の含有率は、モル比で上記式(3)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位の60モル%以下で含有されることが、イオン伝導性の観点から好ましく、より好ましくは50モル%以下であり、さらに好ましくは40モル%以下である。
なお、式(8)で表されるスルホン酸基を有する繰り返し単位がイオン性高分子中に含有される場合、後述するイオン交換容量は、式(8)で表されるスルホン酸基に由来するイオン交換容量を含むものとなる。
【0033】
特に、上記式(3)で表されるスルホンイミドを有する繰り返し単位として、上記式(5)で表される繰り返し単位を含有させる場合、製造上及び精製上の制約から、下記式(9):
−(CF−CF(−(OCFCFX)−O−(CF−SOLi))− ・・・(9)
{式中、Xは、フッ素原子又は−CF基を示し、nは、0〜5の整数であり、そしてmは、1〜12の整数である。}で表される繰り返し単位がイオン性高分子中に含有され得るため、式(9)で表される繰り返し単位がイオン性高分子中に含有されていてもよい。
【0034】
また、イオン性高分子には、上記式(1)又は上記式(2)で表される繰り返し単位、及び上記式(3)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位を含有していることが必要であり、上記式(8)で表されるスルホン酸基を有する繰り返し単位、及びそれ以外の構造を有する繰り返し単位を含有してもよい。特に、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、モノクロルトリフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシエチレン等のモノマーユニットや、スチレン誘導体、アクリル誘導体、アクリルアミド誘導体、アクリロニトリルなど必要に応じて含有させることができる。
【0035】
イオン性高分子は、上記式(1)又は上記式(2)で表される繰り返し単位、及び上記式(3)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位を含有する共重合体であるが、共重合体の構成は、ランダム構造、ブロック構造、マルチブロック構造、グラディエント構造いずれの構造であってもよい。
【0036】
イオン性高分子は、そのイオン交換容量が0.5ミリ当量/g以上3.0ミリ当量/g以下であることが好ましい。該イオン交換容量が0.5ミリ当量/g以上であれば、十分なイオン伝導性を担保することができ、3.0ミリ当量/g以下であれば非水溶媒を含有させた際に良好な強度を担保することができる。イオン交換容量は、より好ましくは0.6ミリ当量/g以上2.0ミリ当量/g以下、さらに好ましくは、0.6ミリ当量/g以上1.7ミリ当量/g以下である。
【0037】
なお、本実施形態におけるイオン性高分子のイオン交換容量は、以下のようにして測定される。
まず、イオン性高分子を10%硫酸水溶液に浸漬して、イオン交換基のLi塩をプロトンの状態にする。プロトンの状態としたイオン性高分子を、25℃の飽和NaCl水溶液に浸漬し、その水溶液を十分な時間攪拌する。次いで、その飽和NaCl水溶液中のプロトンを、0.01N水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定する。中和後に得られたイオン交換基の対イオンがナトリウムイオンの状態となっているイオン性高分子を、純水で濯ぎ、更に真空乾燥した後、秤量する。中和に要した水酸化ナトリウムの物質量をM(mmol)、イオン交換基の対イオンがナトリウムイオンであるイオン性高分子の質量をW(mg)とし、下記式:
EW=(W/M)−23+7
により当量質量EW(g/当量)を求める。
更に、得られたEW値の逆数をとって1000倍することにより、イオン交換容量(ミリ当量/g)が算出される。このイオン交換容量は、イオン性高分子1g中に存在するイオン交換基数を調整することで上記数値範囲内に入るよう調整される。
【0038】
イオン性高分子の製造方法は、特に限定されないが、以下の3つの方法(A)、(B)及び(C)が例示できる:
(A)下記式(10):
CF=CFRf ・・・(10)
{式中、Rfは、フッ素原子又は炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を示す}又は下記式(11):
CH=CHRh ・・・(11)
{式中、Rhは、水素原子又は炭素数1〜4の炭化水素系アルキル基を示す。}で表されるモノマーと、下記式(12):
−SOY ・・・(12)
{式中、Yは、フッ素原子、又は塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を示す。}で表されるスルホニルハライド基を有するモノマーとを共重合した後、得られた前駆体高分子のスルホンイミド化を行い、その後水酸化リチウム水溶液に浸漬してLi塩とする、
(B)式(12)で表されるスルホニルハライド基を有するモノマーのスルホンイミド化反応を行い、スルホンイミド基を有するモノマーを合成し、式(10)又は式(11)で表されるモノマーとスルホンイミド基を有するモノマーを共重合した後、水酸化リチウム水溶液に浸漬してLi塩とする、
(C)上記式(1)又は上記式(2)で表される繰り返し単位と、下記式(13)
−SOZ ・・・(13)
{式中、Zは、水素原子、又はリチウム、ナトリウム、カリウムを示す。}で表されるスルホン酸基を有する繰り返し単位とを含有する共重合体のスルホニルハライド化により、スルホン酸基を上記式(12)で表されるスルホニルハライド基に変換した後、得られた前駆体高分子のスルホンイミド化を行い、その後水酸化リチウム水溶液に浸漬してLi塩とする。
【0039】
以下、上記式(4)で表される繰り返し単位と上記式(5)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位を含有するイオン性高分子の合成方法を例示する。
<上記(A)法による製造方法>
テトラフルオロエチレンと下記式(14):
CF=CF−(OCFCFX)−O−(CF−SOF ・・・(14)
{式中、Xは、フッ素原子又は-CF基を示し、nは、0〜5の整数を示し、そしてmは、1〜12の整数を示す。}のモノマーとの共重合は、公知の共重合法を用いることができる。また、必要に応じて、テトラフルオロエチレン、式(14)のモノマー以外のモノマーを共重合させてもよい。このような共重合の手法は、特に限定されるものではないが、(i)含フッ素炭化水素などの重合溶媒を用い、この重合溶媒に充填溶解した状態で式(6)のモノマー及び式(7)のモノマーを反応させて重合が行われる溶液重合法、(ii)含フッ素炭化水素などの溶媒を用いず、式(7)のモノマーそのものを重合溶剤として用いて、式(6)のモノマーと式(7)のモノマーとを反応させて重合が行われる塊状重合法、(iii)界面活性剤の水溶液を重合溶媒として用い、この重合溶媒に充填溶解した状態で式(6)のモノマーと式(7)のモノマーとを反応させて重合が行われる乳化重合法、(iv)界面活性剤及びアルコールなどの助乳化剤の水溶液を用い、この水溶液に充填乳化した状態で式(6)のモノマーと式(7)のモノマーとを反応させて重合が行われるミニエマルジョン重合法、マイクロエマルジョン重合法、(v)懸濁安定剤の水溶液を用い、この水溶液に充填懸濁した状態で式(6)のモノマーと式(7)のモノマーとを反応させて重合が行われる懸濁重合法といった公知の重合法を挙げることができる。
【0040】
テトラフルオロエチレンと式(14)のモノマーとを上述のとおり共重合させることにより、テトラフルオロエチレンユニットからなる繰り返し単位と、スルホニルフルオライド基を有する繰り返し単位とを含有する前駆体高分子が得られる。得られた前駆体高分子は、そのまま後述のスルホンイミド化反応に用いてもよく、また、プレス成膜、押出し成膜等の成膜方法により、高分子膜形状としてからスルホンイミド化反応を行ってもよい。
【0041】
上記前駆体高分子のスルホンイミド化は、どのような条件で行ってもよいが、一例としては、非プロトン性溶媒中で、アミン存在下、RgSONHと反応させことでスルホンイミド化を行うことができる。なお、上記スルホンイミド化の際、反応系中の残存水分の影響等により、得られたイオン性高分子が、式(9)で表されるスルホン酸リチウム塩単位を含有することとなる場合があるが、スルホン酸リチウム塩の単位がイオン性高分子中に存在していてもよい。式(9)で表される繰り返し単位の含有率は、モル比で式(5)で表される繰り返し単位の60モル%以下であることが、イオン伝導性の観点から好ましく、より好ましくは50モル%以下であり、さらに好ましくは40モル%以下である。
【0042】
得られた高分子は、必要に応じて水洗、温水洗浄、酸洗浄を行い、その後、水酸化リチウム水溶液に浸漬し、スルホンイミドリチウム塩とすることで、式(4)と式(5)の繰り返し単位を含有するイオン性高分子を得ることができる。また、水洗、温水洗浄、酸洗浄の後に、塩基性反応液体中で加水分解処理を施すことにより、未反応のSOF基をSOLi基に変えることができるため、本加水分解処理を行うことも好ましい。
【0043】
<上記(B)法による製造方法>
上記式(14)のモノマーのスルホンイミド化反応に際して、式(14)のモノマーのビニル基を保護するため予めに臭素を付加させ、その後、非プロトン性溶媒中、アミン触媒存在下、RfSONH等と反応させることでスルホンイミド化を行うことができる。スルホンイミド化の後、亜鉛を作用させることで、脱臭素化させ、スルホンイミド基を有するモノマーを得ることができる。
得られたスルホンイミド基を有するモノマーとテトラフルオロエチレンを公知の共重合の手法により、共重合を行うことで、式(4)と式(5)の繰り返し単位を含有するイオン性高分子を得ることができる。
【0044】
以下、上記式(2)で表される繰り返し単位と上記式(3)で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位を含有するイオン性高分子の合成方法を例示する。
<上記(C)法による製造方法>
下記式(15):
【化1】

で表される繰り返し単位と、下記式(16):
【化2】

で表されるスルホン酸基を有する繰り返し単位とを含有する共重合体のスルホニルハライド化としては、公知の手法を用いることができる。スルホニルハライド化の手法は特に限定されるものではないが、塩化チオニル、五塩化リン、オキシ塩化リンに代表されるクロロ化剤を用いて、スルホン酸基をスルホニルクロライド基に変換する手法を挙げることができる。クロロ化剤としては、ハンドリング等の観点から塩化チオニルを用いることが好ましい。なお、これらのハロゲン化剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0045】
上述のスルホニルハライド化により、上記式(15)で表される繰り返し単位とスルホニルクロライド基を有する繰り返し単位を含有する前駆体高分子が得られる。得られた前駆体高分子は、前述のスルホンイミド化反応後、必要に応じて水洗、温水洗浄、酸洗浄を行い、その後、水酸化リチウム水溶液に浸漬し、スルホンイミドリチウム塩とすることで、上記式(15)と下記式(17):
【化3】

{式中、Rgは、上記式(3)と同じ定義である}で表される繰り返し単位を含有するイオン性高分子を得ることができる。
【0046】
本発明の高分子電解質は、イオン性高分子の含有量が25重量%以上95重量%以下であることを特徴とする。
イオン性高分子の含有量を25重量%以上とすることで、十分な機械的強度を有するとともに、高い難燃性、非漏液性を有することができる。イオン性液体の含有量を95重量%以下とすることで、十分な非水溶媒を含有でき、良好なイオン伝導性を有することができる。イオン性高分子の含有量は、好ましくは30重量%以上93重量%以下、より好ましくは33重量%以上90重量%以下、さらに好ましくは35重量%以上85重量%以下、特に好ましくは38重量%以上85重量%以下である。
【0047】
ここで、高分子電解質中のイオン性高分子の含有量は、イオン性高分子、非水溶媒、必要なリチウム塩、その他添加剤等を全てを含んだ高分子電解質の全重量で、イオン性高分子の重量を、割ることで算出することができる。イオン性高分子の含有量は、高分子電解質を非水溶媒で洗浄し、乾燥させることで容易に求めることができる。
本発明の高分子電解質は、イオン性高分子の含有量が25重量%以上95重量%以下であり、イオン性高分子の含有量が高く、すなわち少ない非水溶媒の存在により、良好なイオン伝導性を発現することができる。これは、非水溶媒により膨潤し難い性質を有する上記式(1)又は上記式(2)で表される繰り返し単位を含有することにより、高分子電解質中の非水溶媒は上記式(3)で表されるスルホンイミド基近傍に高濃度で存在することになり、これにより、イオン伝導性の高いスルホンイミドリチウム塩と非水溶媒の共存する親溶媒部と、上記式(1)又は上記式(2)で表される繰り返し単位に由来する疎溶媒部の海島構造を形成するからであると考えられる。それにより、少量の非水溶媒が効果的にスルホンイミドリチウム塩近傍に高濃度で存在でき、結果高いイオン伝導性の発現が可能になったと考えられる。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
以下の実施例等において、各種物性の測定方法及び評価方法として以下のものを用いた。
(1)イオン交換容量
イオン性高分子のイオン交換容量を、以下の手法により測定した。
10重量%硫酸水溶液にイオン性高分子を浸漬し、イオン性高分子中のイオン交換基の対イオンをリチウム塩からプロトンの状態とした。プロトンの状態としたイオン性高分子を25℃の飽和NaCl水溶液30mLに浸漬し、攪拌しながら30分間放置した。次いで、その飽和水溶液中のプロトンを、フェノールフタレインを指示薬として0.01N水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定した。中和後にろ過して得られたイオン交換基の対イオンがナトリウムイオンの状態となっているイオン性高分子を、純水で濯ぎ、更に真空乾燥して秤量した。中和に要した水酸化ナトリウムの物質量をM(mmol)、イオン交換基の対イオンがナトリウムイオンのイオン性高分子の質量をW(mg)とし、下記式:
EW=(W/M)−22+7
により、対イオンがリチウムイオンであるイオン性高分子の当量質量EW(g/当量)を求めた。
更に、得られたEW値の逆数をとって1000倍することにより、イオン交換容量(ミリ当量/g)を算出した。
【0049】
(2)膜厚(μm)
高分子電解質の膜厚を、アルゴングローブボックス中で、ミツトヨ社製デジマチックシックネスゲージ547−401を用いて測定した。
【0050】
(3)高分子電解質中のイオン性高分子の含有量(%)
高分子電解質中のイオン性高分子の含有量を、120℃で15時間乾燥後のイオン性高分子の重量と、当該イオン性高分子を用いて得られた高分子電解質の重量との比から求めた。
【0051】
(4)引張強度(N/cm
高分子電解質の膜を10mm×40mmに切り出し、万能試験機(ミネベア社製、MNB−TG1kN型)にセットし、チャック間20mm、引張速度100mm/minの条件で引張試験を行った。引張強度は、破断時の応力を断面積(10mm×膜厚)で割ることで算出した。
【0052】
(5)イオン伝導度(S/cm)
アルゴングローブボックス中で、高分子電解質を、Auを蒸着したステンレス鋼で挟み込み、アルミラミネートフィルムで密閉することにより、Au/固体電解質/Auの対称セルを作製した。ここで、Au電極は2cm角で電極面積は4cmであった。作製した対称セルを電気化学測定装置(Solartron社製、1280B)を用い、20kHz〜0.1Hzの周波数範囲で、25℃恒温雰囲気下、インピーダンス測定を行い、実軸R′の抵抗値(Ω)から下記式:
σ= L/(R′×A)
{式中、σは、イオン伝導度(S/cm)であり、Lは、電極間距離(cm)であり、そしてAは、電極面積(cm)である。}
によりイオン伝導度を算出した。なお、電極間距離として、高分子電解質の厚みを用いた。
【0053】
[実施例1]
下記式(18):
CF=CF ・・・(18)
で表されるテトラフルオロエチレンモノマー、及び下記式(19):
CF=CF−OCFCF(CF)−O−(CF−SOF ・・・(19)
で表されるモノマーを共重合して、下記式(19):
−(CF−CF−(CF−CF(−OCFCF(CF)−O−(CF−SOF))− ・・・(19)
で表される前駆体高分子を得た。
【0054】
得られた前駆体高分子を37tプレス機を用いて、260℃でプレス成膜を行い、厚み96μmの前駆体高分子膜を作製した。得られた前駆体高分子膜17gを、CFSONHを1.0mol/kg、(i−Pr)EtNを1.5mol/kg溶解させたジエチレングリコールジメチルエーテル溶液600g中に浸漬し、130℃で20時間スルホンイミド化反応を行った。次いで、得られた高分子を水洗し、10重量%硫酸水溶液で洗浄し、その後、15重量%水酸化カリウム水溶液に90℃で2時間浸漬し、残存SOF基の加水分解を行った。得られた高分子を水洗、酸洗浄、水洗し、1N水酸化リチウム水溶液に浸漬して対イオンがリチウム塩であるイオン性高分子を得た。得られたイオン性高分子のイオン交換容量を測定したところ、イオン交換容量は、0.94ミリ当量/gであった。また、固体19FNMR解析より、スルホンイミド基が生成していることを確認した。また、副反応により少量のスルホン酸基が存在していることも確認された。イオン交換容量及び固体19FNMR解析の結果より、[テトラフルオロエチレンユニット]:[スルホンイミド基を有するユニット]:[スルホン酸基を有するユニット]=31:5:1のmol比で存在していることが分かった。また、得られたイオン性高分子を120℃で15時間真空乾燥し、膜厚を測定したところ、膜厚は130μmであった。
【0055】
上記真空乾燥したイオン性高分子を、アルゴングローブボックス中で4cm角に切り出し、LiN(SOCFを1mol/kg含有するプロピレンカーボネート溶液中に室温で24時間浸漬しイオン性高分子中に溶液を含有させた。その後、イオン性高分子を取り出し、ろ紙でイオン性高分子表面に残留した溶液を拭き取り、除去することで高分子電解質を得た。得られた高分子電解質の膜厚は182μmであり、高分子電解質中のイオン性高分子の含有量は44重量%であり、イオン伝導度は、7.4×10−4S/cmであった。また、引張強度は330N/cmであった。
【0056】
[実施例2]
実施例1で得たイオン性高分子を真空乾燥した後、アルゴングローブボックス中で4cm角に切り出し、LiN(SOCFを1mol/kg含有するジエチルカーボネート溶液中に室温で24時間浸漬しイオン性高分子中に溶液を含有させた。その後、イオン性高分子を取り出し、ろ紙でイオン性高分子表面に残留した溶液を拭き取り、除去することで高分子電解質を得た。得られた高分子電解質の膜厚は165μmであり、高分子電解質中のイオン性高分子の含有量は48重量%であり、イオン伝導度は、4.4×10−4S/cmであった。また、引張強度は240N/cmであった。
【0057】
[実施例3]
実施例1で得たイオン性高分子を真空乾燥した後、アルゴングローブボックス中で4cm角に切り出し、LiN(SOCFを1mol/kg含有するジエチレングリコールジメチルエーテル溶液中に室温で24時間浸漬しイオン性高分子中に溶液を含有させた。その後、イオン性高分子を取り出し、ろ紙でイオン性高分子表面に残留した溶液を拭き取り、除去することで高分子電解質を得た。得られた高分子電解質の膜厚は153μmであり、高分子電解質中のイオン性高分子の含有量は45重量%であり、イオン伝導度は、1.3×10−3S/cmであった。
【0058】
[実施例4]
実施例1で得たイオン性高分子を真空乾燥した後、アルゴングローブボックス中で4cm角に切り出し、リチウム塩を含有しないジエチレングリコールジメチルエーテル溶媒中に室温で24時間浸漬しイオン性高分子中に溶媒を含有させた。その後、イオン性高分子を取り出し、ろ紙でイオン性高分子表面に残留した溶媒を拭き取り、除去することで高分子電解質を得た。得られた高分子電解質の膜厚は152μmであり、高分子電解質中のイオン性高分子の含有量は67重量%であり、イオン伝導度は、1.4×10−4S/cmであった。
【0059】
[実施例5]
下記式(21):
【化4】

で表されるポリスチレンスルホン酸-block-ポリ(エチレン-ran-ブチレン)-block-ポリスチレンスルホン酸高分子の5%溶液(スチレン含有率29重量%、Aldrich社製、商品番号448885)を、高分子の含有量が9重量%になるようにエバポレーターで濃縮した。得られた溶液をシャーレに入れ、真空乾燥で溶媒を除去し、さらに80℃で1時間真空乾燥し、その後シャーレからはがすことにより、膜厚135μmの高分子膜を作製した。得られたイオン性高分子のイオン交換容量は1.62ミリ当量/gであった。イオン交換容量の結果より、[脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位]:[スチレンからなる繰り返し単位]:[スルホン酸基を有する繰り返し単位]=6.5:0.5:1のmol比で存在していることが分かった。
【0060】
上記で得られた高分子膜8gを、塩化チオニル140gを溶解させたN,N−ジメチルホルムアミド溶液400mL中に室温で20時間浸漬し、スルホン酸基をSOCl基に変換した。反応終了後、得られた高分子膜を洗浄液が中性になるまで水洗した後、さらにエタノールで洗浄し、60℃で20時間、真空乾燥し、褐色の高分子膜が得られた。
【0061】
上記で得られたSOCl基を有する高分子膜を、CFSONHを1.0mol/kg、(i−Pr)EtNを1.5mol/kg溶解させたジエチレングリコールジメチルエーテル溶液600g中に浸漬し、130℃で20時間スルホンイミド化反応を行った。次いで、得られた高分子を水洗し、10重量%硫酸水溶液で洗浄し、その後、15重量%水酸化カリウム水溶液に90℃で2時間浸漬し、残存SOCl基の加水分解を行った。得られた高分子を水洗、酸洗浄、水洗した後、1N水酸化リチウム水溶液に浸漬し、水洗、乾燥処理を行い、対イオンがリチウム塩である下記式(22):
【化5】

で表されるイオン性高分子を得た。イオン交換容量を測定したところ、1.34ミリ当量/gであった。イオン交換容量より、[脂肪族炭化水素からなる繰り返し単位]:[スチレンからなる繰り返し単位]:[スルホン酸基を有する繰り返し単位]:[スルホンイミド基を有する繰り返し単位]=6.5:0.5:0.1:1のmol比で存在していることが分かった。また、得られたイオン性高分子を120℃で15時間真空乾燥し、膜厚を測定したところ、膜厚は135μmであった。
【0062】
真空乾燥した上記式(20)で表されるイオン性高分子を、アルゴングローブボックス中で4cm角に切り出し、LiN(SOCFを1mol/kg含有するジエチレングリコールジメチルエーテル溶液中に室温で24間浸漬しイオン性高分子中に溶液を含有させた。その後、イオン性高分子を取り出し、ろ紙でイオン性高分子表面に残留した溶液を拭き取り、除去することで高分子電解質を得た。得られた高分子電解質の膜厚は160μmであり、高分子電解質中のイオン性高分子の含有量は51重量%であり、イオン伝導度は、1.4×10−4S/cmであった。
【0063】
[比較例1]
実施例1で得られた上記式(16)の前駆体高分子を37tプレス機を用いて、260℃でプレス成膜を行い、厚み96μmの前駆体高分子膜を作製した。得られた前駆体高分子膜17gを、15重量%水酸化カリウム水溶液に90℃で2時間浸漬し、前駆体高分子のSOF基の加水分解を行った。得られた高分子を水洗し、10重量%硫酸水溶液で洗浄し、水洗し、1N水酸化リチウム水溶液に浸漬して対イオンがリチウム塩であるイオン性高分子を得た。得られたイオン性高分子のイオン交換容量を測定したところ、イオン交換容量は、1.05ミリ当量/gであった。また、固体19FNMR解析より、イオン交換基の全量がスルホン酸基であることを確認した。得られたイオン性高分子を120℃で15時間真空乾燥し、膜厚を測定したところ、膜厚は118μmであった。
上記真空乾燥したイオン性高分子をアルゴングローブボックス中で4cm角に切り出し、LiN(SOCFを1mol/kg含有するプロピレンカーボネート溶液中に室温で24時間浸漬しイオン性高分子中に溶液を含有させた。その後、イオン性高分子を取り出し、ろ紙でイオン性高分子表面に残留した溶液を拭き取り、除去することで高分子電解質を得た。得られた高分子電解質の膜厚は119μmであり、高分子電解質中のイオン性高分子の含有量は96重量%であり、本イオン性高分子は、上記溶液をほとんど含有できないことが分かる。イオン伝導度は、3.5×10−7S/cmと低かった。
【0064】
[比較例2]
比較例1で得たイオン性高分子を真空乾燥した後、アルゴングローブボックス中で4cm角に切り出し、リチウム塩を含有しないプロピレンカーボネート溶媒中に室温で24時間浸漬しイオン性高分子中に溶媒を含有させた。その後、イオン性高分子を取り出し、ろ紙でイオン性高分子表面に残留した溶媒を拭き取り、除去することで高分子電解質を得た。得られた高分子電解質の膜厚は132μmであり、高分子電解質中のイオン性高分子の含有量は70重量%であり、イオン伝導度は、2.7×10−6S/cmと低かった。
【0065】
[比較例3]
実施例1で得たイオン性高分子を真空乾燥した後、アルゴングローブボックス中で4cm角に切り出し、リチウム塩を含有しないプロピレンカーボネート溶媒中に40℃で96時間浸漬しイオン性高分子中に溶媒を含有させた。その後、イオン性高分子を取り出し、ろ紙でイオン性高分子表面に残留した溶媒を拭き取り、除去することで高分子電解質を得た。得られた高分子電解質の膜厚は245μmであり、高分子電解質中のイオン性高分子の含有量は18重量%と低く、多量の溶液を含有していることが分かった。イオン伝導度は、8.3×10−4S/cmであった。また、引張強度は19N/cmと低かった。
【0066】
[比較例4]
実施例1で得られたイオン性高分子を真空乾燥し、非水溶媒を含有させず、そのまま高分子電解質として性能を確認した。高分子電解質中のイオン性高分子の含有量は100重量%となり、イオン伝導度は2.5×10−6S/cmと低かった。
【0067】
[比較例5]
比較例1で得られたイオン性高分子を真空乾燥し、非水溶媒を含有させず、そのまま高分子電解質として性能を確認した。高分子電解質中のイオン性高分子の含有量は100重量%となり、イオン伝導度は8.7×10−6S/cmと低かった。
【0068】
実施例1〜5の結果を以下の表1に、比較例1〜5の結果を以下の表2にそれぞれ示す。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
表1中の結果から、本発明の高分子電解質は、高いイオン伝導性と十分な強度を両立し、リチウム二次電池用の高分子電解質として優れた性能を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係るリチウム二次電池用高分子電解質は、高いイオン伝導性を有すると同時に高い電池安全性(高強度、低非水溶媒量)をも実現するので、リチウム二次電池に好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも非水溶媒とイオン性高分子とを含有するリチウム二次電池用高分子電解質であって、該イオン性高分子が、下記式(1):
−(CF−CFRf)− ・・・(1)
{式中、Rfは、フッ素原子又は炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基である。}又は下記式(2):
−(CH−CHRh)− ・・・(2)
{式中、Rhは、水素原子又は炭素数1〜4の炭化水素系アルキル基である。}で表される繰り返し単位と、下記式(3):
−SONLiSORg ・・・(3)
{式中、Rgは、フッ素原子又は炭素数1〜8のフルオロアルキル基又はアルキル基である。}で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位とを含有する共重合体であり、かつ、該高分子電解質中の該イオン性高分子の含有量が、25質量%以上95質量%以下であることを特徴とする前記リチウム二次電池用高分子電解質。
【請求項2】
前記イオン性高分子が、下記式(1):
−(CF−CFRf)− ・・・(1)
{式中、Rfは、フッ素原子又は炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基である。}で表される繰り返し単位と、下記式(3):
−SONLiSORg ・・・(3)
{式中、Rgは、フッ素原子又は炭素数1〜8のフルオロアルキル基又はアルキル基である。}で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位とを含有する共重合体である、請求項1に記載のリチウム二次電池用高分子電解質。
【請求項3】
前記イオン性高分子が下記式(4):
−(CF−CF)− ・・・(4)
で表される繰り返し単位と下記式(5):
−(CF−CF(−(OCFCFX)−O−(CF−SONLiSORg))− ・・・(5)
{式中、Xは、フッ素原子又は−CF基を示し、nは、0〜5の整数であり、mは、1〜12の整数であり、そしてRgは、フッ素原子又は炭素数1〜8のフルオロアルキル基又はアルキル基である。}で表される繰り返し単位とを含有する共重合体である、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用高分子電解質。
【請求項4】
前記イオン性高分子のイオン交換容量が、0.5ミリ当量/g以上3.0ミリ当量/g以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用高分子電解質。
【請求項5】
前記イオン性高分子以外のリチウム塩をさらに含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用高分子電解質。
【請求項6】
前記非水溶媒が、2種類以上の溶媒の混合溶媒である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用高分子電解質。
【請求項7】
少なくとも非水溶媒とイオン性高分子とを含有するリチウム二次電池用高分子電解質であって、該イオン性高分子が、下記式(1):
−(CF−CFRf)− ・・・(1)
{式中、Rfは、フッ素原子又は炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基である。}又は下記式(2):
−(CH−CHRh)− ・・・(2)
{式中、Rhは、水素原子又は炭素数1〜4の炭化水素系アルキル基である。}で表される繰り返し単位と、下記式(3):
−SONLiSORg ・・・(3)
{式中、Rgは、フッ素原子又は炭素数1〜8のフルオロアルキル基又はアルキル基である。}で表されるスルホンイミド基を有する繰り返し単位とを含有する共重合体であり、かつ、該高分子電解質中の該イオン性高分子の含有量が、25質量%以上95質量%以下である前記高分子電解質を、リチウム二次電池用電解質として使用する方法。

【公開番号】特開2012−109217(P2012−109217A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191436(P2011−191436)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】