説明

高吸収性薬剤組成物およびその製造方法

【課題】フルルビプロフェンまたはプロブコールから選ばれる難水溶性薬剤の吸収性をより向上させる薬剤組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】酵素処理ヘスペリジン、ステビア抽出物または酵素処理ステビアから選ばれる1種または2種以上の水溶性化合物(A)と、フルルビプロフェンまたはプロブコールから選ばれる難水溶性薬剤(B)とを含んでなることを特徴とする高吸収性薬剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高吸収性薬剤組成物およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、酵素処理ヘスペリジン、ステビア抽出物または酵素処理ステビアから選ばれる水溶性化合物(A)と、フルルビプロフェンまたはプロブコールから選ばれる難水溶性薬剤(B)とを含んでなる高吸収性薬剤組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの有用な薬理効果を持った新薬が開発されているが、それらの多くの新薬は吸収性が低いという難点を有する。このような薬剤の薬効を十分発現させるために、吸収性の低い薬剤を過剰に投与することは、副作用、コストの面から望ましくない。また、一定の吸収性を有する薬剤であっても、さらに吸収性を向上させて投与量を低減することができれば、より副作用を抑制し、コストを軽減できる可能性があるため好都合である。
【0003】
例えば、フルルビプロフェンは、NSAIDと呼ばれる非ステロイド系の薬剤であって、解熱鎮痛作用を有するが、胃潰瘍などの副作用も有する。また、プロブコールは、高脂血症薬として用いられている薬物であるが、横紋筋融解症などの副作用も有する。このような薬剤の吸収性を向上させ、少ない投与量で十分な薬効を示すような薬剤組成物が求められていた。
【0004】
本願出願人は、特許文献1において、ナリンジン(毛細血管の強化等の生理活性作用を有するフラボノイド)、α − グルコシルヘスペリジンおよびβ − モノグルコシルヘスペレチンを含有する水溶性ナリンジン組成物を用い、ナリンジンの水に対する溶解性、体内での吸収性を向上することができた旨を開示している。しかしながら、特許文献1には、ナリンジン以外の化合物(薬剤)について、溶解性または吸収性を向上させることについては何ら記載も示唆もされていない。
【0005】
また、特許文献2には、平均粒子径が0.01〜2.0μmの難吸収性薬物、および水溶性賦形剤を含有する平均粒子径が0.5〜50μmである複合粒子を噴霧乾燥装置等を用いて、難吸収性薬物のナノ粒子を水溶性の賦形剤中に分散させた固体の複合粒子を調製することにより、難吸収性薬物の吸収性を改善できることを見出した旨開示され、水溶性賦形剤としては、マンニトールなどの糖アルコールが記載され、難吸収性薬物としてフルルビプロフェンが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−39419号公報
【特許文献2】特開2007−63230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、フルルビプロフェンまたはプロブコールから選ばれる難水溶性薬剤の吸収性をより向上させる薬剤組成物およびその製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、フルルビプロフェンおよびプロブコールそれぞれに、酵素処理ヘスペリジン、ステビア抽出物、酵素処理ステビアなどを添加することにより、フルルビプロフェンおよびプロブコールそれぞれを単独で用いる場合に比べて、水に対する溶解性が向上するとともに、体内への吸収性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の高吸収性薬剤組成物は、酵素処理ヘスペリジン、ステビア抽出物または酵素処理ステビアから選ばれる水溶性化合物(A)と、フルルビプロフェンまたはプロブコールから選ばれる難水溶性薬剤(B)とを含んでなることを特徴とする。
【0010】
本発明の高吸収性薬剤組成物は、上記難水溶性薬剤(B)をエタノールに溶解させたエタノール溶液と、上記水溶性化合物(A)を水に溶解させた水溶液とを混合し、該混合液を噴霧乾燥することによって得られる組成物であることが好ましい。
【0011】
本発明の高吸収性薬剤組成物は、上記酵素処理ヘスペリジンが、ヘスペリジンまたはヘスペレチン-7−グルコシドまたはヘスペレチンに糖供与体を加え、グルコース転移酵素を作用させて糖供与体から糖(グルコース)を転移させることにより得られる、酵素処理ヘスペリジンであることが好ましい。
【0012】
本発明の、高吸収性薬剤組成物は、上記ステビア抽出物が、ステビアの葉から抽出して得られ、ステビオサイド、レバウディオサイドA、レバウディオサイドC、ズルコサイドA、ルブソサイド、ステビオールビオサイドまたはレバウディオサイドBから選ばれる1種または2種以上のステビオール配糖体を主成分とするステビア抽出物であることが好ましい。
【0013】
本発明の高吸収性薬剤組成物は、上記酵素処理ステビアが、ステビオサイド、レバウディオサイドA、レバウディオサイドC、ズルコサイドA、ルブソサイド、ステビオールビオサイドまたはレバウディオサイドBから選ばれる1種または2種以上のステビオール配糖体に糖供与体を加え、グルコース転移酵素を作用させて糖供与体からステビオール配糖体に糖(グルコース)を転移させることにより得られる、酵素処理ステビアであることが好ましい。
【0014】
本発明の高吸収性薬剤組成物の製造方法は、フルルビプロフェンまたはプロブコールから選ばれる難水溶性薬剤(B)をエタノールに溶解させたエタノール溶液と、酵素処理ヘスペリジン、ステビア抽出物または酵素処理ステビアから選ばれる水溶性化合物(A)を水に溶解させた水溶液とを混合し、該混合液を噴霧乾燥することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、難水溶性薬物であるフルルビプロフェンとプロブコールの吸収性が著しく向上した高吸収性薬剤組成物を簡便な方法で製造することが可能となる。このような高吸収性薬剤組成物を用いれば、微量の難水溶性薬剤によって十分な薬効の発現が可能となるため、副作用を有する難水溶性薬剤を用いたとしてもその副作用を軽減することができる。
【0016】
また、本発明によれば、難水溶性薬物の吸収速度が速く、即効性を従来より向上させることができるため、速やかな薬効発現を必要とする薬物にも適用可能である。
さらに、本発明の高吸収性薬剤組成物は、難水溶性薬剤の有する呈味を改善することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、Untreated FP、FP(PM,αG−H)[酵素処理ヘスペリジン(αG−H)とFPを物理混合した薬剤組成物]、FP(SD,αG−H)[噴霧乾燥法で調製したαG−HとFPとからなる薬剤組成物] をラットに経口投与した場合のフルルビプロフェン(FP)の血漿中濃度−時間曲線を示す図である。
【図2】図2は、図1のUntreated FP、FP(PM,αG−H)、FP(SD,αG−H)をラットに経口投与した場合のフルルビプロフェン(FP)の血漿中濃度−時間曲線下面積(AUC)を示す図である。
【図3】図3は、Untreated FP、FP(PM,αG−Sweet)[酵素処理ステビア(αG−Sweet)とFPを物理混合した薬剤組成物]、FP(SD,αG−Sweet)[噴霧乾燥法で調製したαG−SweetとFPとからなる薬剤組成物] をラットに経口投与した場合のフルルビプロフェン(FP)の血漿中濃度−時間曲線を示す図である。
【図4】図4は、図3のUntreated FP、FP(PM,αG−Sweet)、FP(SD,αG−Sweet)をラットに経口投与した場合のフルルビプロフェン(FP)の血漿中濃度−時間曲線下面積(AUC)を示す図である。
【図5】図5は、Untreated PRO、PRO(SD,αG−H)[噴霧乾燥法で調製したαG−HとPROとからなる薬剤組成物]、PRO(SD,αG−Sweet)[噴霧乾燥法で調製したαG−SweetとPROとからなる薬剤組成物] をラットに経口投与した場合のプロブコール(PRO)の血漿中濃度−時間曲線を示す図である。
【図6】図6は、図5のUntreated PRO、PRO(SD,αG−H)、PRO(SD,αG−Sweet)をラットに経口投与した場合のプロブコール(PRO)の血漿中濃度−時間曲線下面積(AUC)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について具体的に説明する。
〔高吸収性薬剤組成物〕
本発明に係る高吸収性薬剤組成物は、後述するような酵素処理ヘスペリジン、ステビア抽出物または酵素処理ステビアから選ばれる水溶性化合物(A)とフルルビプロフェンまたはプロブコールから選ばれる難水溶性薬剤(B)とを含んでなることを特徴とする。
【0019】
本発明において、高吸収性薬剤組成物は、用いられる水溶性化合物(A)および難水溶性薬剤(B)の特性に応じて調節することができるが、例えば、上記水溶性化合物(A)100重量部に対して、難水溶性薬剤(B)を5〜20重量部で含有してなることが好ましい。
【0020】
本発明の高吸収性薬剤組成物は、上記難水溶性薬剤(B)をエタノールに溶解させたエタノール溶液と、上記水溶性化合物(A)を水に溶解させた水溶液とを混合し、該混合液を噴霧乾燥することによって得られる組成物であることが好ましい。
【0021】
本発明において、高吸収性薬剤組成物とは、該組成物に含まれる難水溶性薬剤(B)単独よりも高い吸収性を有する薬剤組成物のことを言う。ここで、吸収性とは、薬剤または薬剤組成物を投与後、所定の時間内に体内に取り込まれた薬剤の総量のことをいう。体内に取り込まれた薬剤の総量は、薬剤血中濃度−時間曲線下面積(AUC)に比例するため、本発明(後記実施例)では、薬剤血中濃度−時間曲線下面積(AUC)を吸収性を表す指標として用いている。
【0022】
また、本発明において、高吸収性薬剤組成物の吸収において即効性を有するとは薬剤血中濃度が所定の値に達するまでの時間が短いことをいう。なお、基準となる薬剤血中濃度は薬剤の種類によって変動するが、フルルビプロフェンであればたとえば3.5μg/mL以上を基準とすることができ、プロブコールであればたとえば0.1μg/mL以上を基準とすることができる。
【0023】
<水溶性化合物(A)>
本発明の水溶性化合物は、酵素処理ヘスペリジン、ステビア抽出物または酵素処理ステビアから選ばれる。
【0024】
・酵素処理ヘスペリジン(α−グルコシルヘスペリジン)
本発明における酵素処理ヘスペリジン(α−グルコシルヘスペリジン)は、下記式(I)に示すように、ヘスペリジンのルチノース単位中のグルコシル基に、α1→4結合により1個以上のグルコースが結合した化合物であり、常温で中性の水に対し、10g/水100g以上、好ましくは50g/水100g以上の溶解度を有する。このうち、グルコースが1個だけ結合したもの(下記式(I)中のnが0のもの)を、モノグルコシルヘスペリジンと呼ぶ。
【0025】
【化1】

(上記式(I)中nは、0または1以上の整数である。)
なお、上記式(I)において、ヘスペレチンがアグリコンであり、ヘスペリジンが難水溶性フラボノイド配糖体である。
【0026】
酵素処理ヘスペリジンは、ヘスペリジンまたはヘスペレチン-7−グルコシドまたはヘスペレチンに糖供与体を加え、グルコース転移酵素を作用させて糖供与体から糖(グルコース)を転移させることにより得られる酵素処理ヘスペリジンであることが好ましい。
【0027】
例えば、α−グルコシル糖化合物(サイクロデキストリン、澱粉部分分解物など)の共存下で、ヘスペリジンに糖転移酵素、たとえばサイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase, EC 2.4.1.19)やその他同様の作用を有する酵素を反応させることにより製造される。この酵素処理により、ヘスペリジン1分子あたり、1または複数(2〜20程度)のグルコースが結合する。
【0028】
また、モノグルコシルヘスペリジンは、2以上のグルコースが結合したα−グルコシルヘスペリジンに糖加水分解酵素、たとえばグルコアミラーゼ(EC 3.2.1.3)やその他同様の作用を有する酵素を反応させ、ルチノース単位中のグルコシル基に直接結合したグルコースを1個だけ残し、それ以外のα1→4結合したグルコースを切断することにより製造することもできる。
【0029】
なお、酵素処理ヘスペリジンは、通常は、結合したグルコースの個数が異なるもの、すなわちモノグルコシルヘスペリジンおよびそれ以外の酵素処理ヘスペリジンの集合体であり、また、一般的には上述のような酵素処理によって製造されるため、未反応のヘスペリジンやその他の誘導体との混合物として存在するものである。
【0030】
本発明における水溶性の向上などの効果は、酵素処理ヘスペリジンがモノグルコシルヘスペリジンかそれ以外のものであるかにかかわらず発揮される。なお、α−グルコシルヘスペリジン中のモノグルコシルヘスペリジンの割合は、前述のグルコアミラーゼによる酵素処理の条件(反応時間等)など、当業者にとって公知の手法により調節することが可能である。
【0031】
本発明で用いることができる酵素処理ヘスペリジンとしては、「αGヘスペリジンH」、「αGヘスペリジンPA」(江崎グリコ(株)販売、東洋精糖(株)製造)等が挙げられる。
【0032】
・ステビア抽出物
本発明におけるステビア抽出物は、ステビア(Stevia rebaudiana Bertoni)の葉から抽出して得られた、ステビオール配糖体を主成分とする。このステビア抽出物は、その乾燥物中に、ステビオール配糖体を80%以上含む。ここで、ステビオール配糖体とは、ステビオサイド、レバウディオサイドA、レバウディオサイドC、ズルコサイドA、ルブソサイド、ステビオールビオサイドまたはレバウディオサイドBから選ばれる1種または2種以上の配糖体のことをいう。
【0033】
このステビア抽出物としては、ステビア抽出物単独または、ステビア抽出物と共に希釈剤、賦形剤等を用いてなる液体、粉末、顆粒品等を使用できる。
本発明で用いることができるステビア抽出物としては、市販品を用いてもよく、例えば、「ステビロース90」、「ステビロース90A」、「ステビロース50」(東洋精糖(株)製)等が挙げられる。
【0034】
・酵素処理ステビア
本発明における酵素処理ステビアは、ステビオサイド、レバウディオサイドA、レバウディオサイドC、ズルコサイドA、ルブソサイド、ステビオールビオサイドまたはレバウディオサイドBから選ばれる1種または2種以上のステビオール配糖体に糖供与体を加え、グルコース転移酵素を作用させて糖供与体からステビオール配糖体に糖(グルコース)を転移させることにより得られる酵素処理ステビアであることが好ましく、例えば、ステビア抽出物にα−グルコシルトランスフェラーゼ等を用いてグルコースを付加して得られる。このような酵素処理ステビアは、常温で中性の水に対し、2000g/水L以上の溶解度を有する。この酵素処理ステビアは、その乾燥物中に、α−グルコシルステビオール配糖体及び未反応のステビオール配糖体の総量として80.0%(重量%)以上を含み、α−グルコシルステビオ−ル配糖体65.0%以上を含む。なお、通常酵素処理ステビアには未反応のステビアが含まれるため、酵素処理ステビアとは、ステビア抽出物とステビア抽出物にグルコースが付加した物質の混合物である。
【0035】
この酵素処理ステビアとしては、酵素処理ステビア単独または、酵素処理ステビアと共に希釈剤、賦形剤等を用いてなる希釈品である液体、粉末、顆粒品等を使用できる。
本発明で用いることができる酵素処理ステビアとしては、市販品を用いてもよく、例えば、「αGスイートPX」、「αGスイートP」、「αGスイートPA」、「αGスイートH」(東洋精糖(株)製)等が挙げられる。
【0036】
<難水溶性薬剤(B)>
本発明において、難水溶性薬剤(B)は、フルルビプロフェンまたはプロブコールである。
【0037】
フルルビプロフェン (以下「FP」とも言う) は、鎮痛・消炎、慢性関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、歯髄炎、歯根膜炎に対し効能を有する薬剤であり、副作用として胃潰瘍など消化性潰瘍を引き起こす。また、プロブコール (以下、「PRO」とも言う)は、高脂血症薬であり、副作用として不整脈や、横紋筋融解症を引き起こす。
【0038】
フルルビプロフェン(FP)はThe Biopharmaceutics Classification System (BCS)というアメリカで定められているシステムの中でClass IIに分類されている薬物であり、溶けにくいが吸収性は高い薬物とされている(37℃における中性の水に対する溶解度は、25μg/水mL)。そのため、FPのさらなる吸収性を向上させるためには、FPの溶解速度および溶解度を高めることで吸収性が向上すると考えられる。このように、FPの吸収性を向上させることで、投与量を少なくしても十分な薬効を発揮することができるため、胃潰瘍などの副作用を軽減することができると考えられる。
【0039】
また、プロブコール(PRO)はBCSにおける分類はないが、人でのバイオアベイラビリティーが約 5 %と非常に低い薬物であり、そのため一回250 mgを一日二回服用する必要がある摂取量の多い薬物である。このようにバイオアベイラビリティーが低い要因はプロブコールの37℃の中性の水に対する溶解度が3-5 ng/水mLと非常に低いことが考えられる。よってプロブコールの溶解度を上昇させることで、バイオアベイラビリティーを向上させることができ、投与量の減少、それに伴う副作用の軽減が期待できる。
【0040】
これらの難水溶性薬剤(B)は、共に、苦みの強い薬剤であり、これらに本発明の水溶性化合物(A)を添加することで苦みがマスキングされ、不快感を低減できると考えられる。
【0041】
また、鎮痛剤である、インドメタシン、ケトプロフェン、ピロキシカムや、高脂血症薬である、スタチンも、水溶性化合物(A)と混合することにより、その吸収性を向上することができると考えられる。
【0042】
[高吸収性薬剤組成物の製造方法]
本発明の高吸収性薬剤組成物の製造方法は、酵素処理ヘスペリジン、ステビア抽出物または酵素処理ステビアから選ばれる1種または2種以上の水溶性化合物(A)と、フルルビプロフェンまたはプロブコールから選ばれる難水溶性薬剤(B)とを混合することで製造することができる。
【0043】
このような製造方法として、たとえば、水溶性化合物(A)の水溶液と難水溶性薬剤(B)のエタノール溶液との混合液をノズルからチャンバー内に噴霧し、チャンバー内で熱風と接触させ瞬間的に乾燥させることにより、粒子状(球形)の高吸収性薬剤組成物を製造することができる噴霧乾燥法(スプレードライ法)が、好ましい製造方法として挙げられる。このような噴霧乾燥法により得られる高吸収性薬剤組成物は、1〜10μm、好ましくは2〜5μmの平均粒子径を有すると、難水溶性薬剤の水に対する溶解性および体内での吸収性に優れる。また、噴霧乾燥法は、乾燥時間が短いため、比較的熱に弱い薬剤を用いる場合にも適しており、連続的に大量生産できるため安いコストで高吸収性薬剤組成物を製造することができるという利点も有する。
【0044】
また、高吸収性薬剤組成物の他の製造方法として、物理混合を挙げることもできる。
上記の噴霧乾燥法によって高吸収性薬剤組成物を製造する場合、一般的なスプレードライヤー(例えば、ヤマト科学(株)製、「GS31」)を用いることができる。噴霧乾燥法のための各種条件は、得られる粒子の粒子径等を考慮しながら、適宜調整することができる。例えば、水溶性化合物(A)の水溶液の濃度、難水溶性薬剤(B)の溶液(エタノール溶液とすることが好ましい)の濃度、およびこれら2つの溶液の混合比は、水溶性化合物(A)および難水溶性薬剤(B)の溶解性や、製造しようとする高吸収性薬剤組成物中の水溶性化合物(A)および難水溶性薬剤(B)の割合などに応じて適切に調節すれば良い。なお、噴霧乾燥法に用いられる混合液のエタノール濃度(後述する実施例では約60%または80%)は、一般的な噴霧乾燥法に用いられる溶液のエタノール濃度(20%)よりも比較的高い範囲で調節される。また、スプレードライヤーのノズル孔径は通常0.2〜1.3mm、混合溶液のチャンバー内への噴霧速度は通常5〜20ml/min、チャンバー内の熱風の入り口温度および出口温度はそれぞれ通常100〜160℃および40〜80℃、圧力は0.1〜0.15MPaである。
【0045】
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明の好適態様についてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
[試料の調製]
・調製例1(薬剤組成物A、Bの調製方法)
酵素処理ヘスペリジン(αGヘスペリジンPA-T、販売元 江崎グリコ(株)、製造元 東洋精糖(株))5gを蒸留水40mlに溶解し、水溶液を調製した。一方、難水溶性薬剤(フルルビプロフェン(FP)またはプロブコール(PRO))0.5gをエタノール160mlに溶解し、エタノール溶液を調製した。該水溶液とエタノール溶液を混合し、スプレードラーヤー(ヤマト科学(株)製、「GS31」、入口温度120度、出口温度50〜60℃、送液速度10ml/min、 圧力0.13MPa)にて噴霧乾燥し、フルルビプロフェンを含有する薬剤組成物A、および、プロブコールを含有する薬剤組成物Bを得た。
【0047】
・調製例2(薬剤組成物Cの調製方法)
酵素処理ヘスペリジン(αGヘスペリジンPA-T)5gと難水溶性薬剤(フルルビプロフェン)0.5gを乳鉢で混合(物理混合)し、フルルビプロフェンを含有する薬剤組成物Cを得た。
【0048】
・調製例3(薬剤組成物D、E)
酵素処理ステビア(αGスイートPX、販売・製造元 東洋精糖(株))5gを蒸留水80mlに溶解し、水溶液を調製した。一方、難水溶性薬剤(フルルビプロフェンまたはプロブコール)0.5gをエタノール120mlに溶解し、エタノール溶液を調製した。該水溶液とエタノール溶液を混合し、スプレードラーヤー(ヤマト科学(株)製、「GS31」、入口温度140℃、出口温度60〜70℃、送液速度10ml/min、圧力0.13MPa)にて噴霧乾燥し、フルルビプロフェンを含有する薬剤組成物D、および、プロブコールを含有する薬剤組成物Eを得た。
【0049】
・調製例4(薬剤組成物F)
酵素処理ステビア(αGスイートPX)5gと難水溶性薬剤(フルルビプロフェン)0.5gを物理混合し、フルルビプロフェンを含有する薬剤組成物Gを得た。
【0050】
[調製した薬剤の投与]
試験動物として、9週齢の雄のclean wistar rat(薬剤組成物A〜Fそれぞれについて5匹ずつ)を用いた。
【0051】
前記調製した薬剤組成物A〜Fを、薬剤組成物A、C、D、Fではそれぞれ薬剤組成物の濃度が0.5mg/mLとなるように、薬剤組成物B、Eではそれぞれ薬剤組成物の濃度が50 mg/mLとなるように蒸留水に懸濁した。
【0052】
これらの懸濁液を薬剤組成物A、C、D、F含有懸濁液では2mg/kg, 薬剤組成物B、E含有懸濁液では200 mg/kgとなるように経口ゾンデ (フチガミ器械) を用いて各clean wistar ratの胃内に投与した。
投与後、一定時間ごとに各clean wistar ratの頚静脈から血液を採取し、遠心分離 (10,000 rpm, 5 min) により血漿を得た。
【0053】
[血中薬物濃度の定量]
得られた血漿100 μLにメタノールを400 μL加え、1分間ボルテックスミキサーにより混合し、遠心分離 (10,000 rpm、5 min) を行った。その後、上清を300 μL 採取し減圧乾燥を半日行った。この乾燥物にエタノール100 μLを加えHPLC (JASCO PU-980) のUV 検出器(JASCO PU-970) を用いて血中薬物濃度の測定を行った。
【0054】
HPLCの定量条件は薬剤組成物A、C、D、Fを投与したclean wistar ratに吸収された薬剤量を測定する場合には、吸光波長254 nm, 流速0.7 min, カラム温度40 C°, カラム5C18-MSII (4.6×150 mm), 移動相は、Methanol/ Water/ 1M acetic acid = 80/ 20/ 1を用いた。また、薬剤組成物B、Eを投与したclean wistar ratに吸収された薬剤量を測定する場合には、吸光波長242 nm, 流速1.0 min, カラム温度50 C°, カラム5C18-MSII (4.6×150 mm), 移動相は、Acetonitrile/ Water = 90/ 10を用いた。
【0055】
[結果]
上記のようにして測定した各薬剤組成物の血中薬物濃度に基づき、その経時変化および薬物血中濃度-時間曲線下面積 (AUC) を調べた。薬剤組成物A、Cに関する結果を表1、図1,2に示し、薬剤組成物D、Fに関する結果を表1、図3,4に示し、薬剤組成物B、Eに関する結果を表1、図5,6に示す。
【0056】
なお、表1、図1〜6のAUCおよび血中薬物濃度の値は、薬剤組成物A〜Fそれぞれを投与した5匹のclean wistar ratの平均値であり、SEは標準誤差である。
また、「Unterated FP」は、対照としてFP単独で(αG-HまたはαG-Sweetと混合せずに)使用した以外は上記と同様にして測定した結果を示し、「Unterated PRO」は、対照としてPRO単独で(αG-HまたはαG-Sweetと混合せずに)使用した以外は上記と同様にして測定した結果を示す。
【0057】
「αG−H」は酵素処理ヘスペリジン(αGヘスペリジンPA-T)を示し、「αG−Sweet」は酵素処理ステビア(αGスイートPX)を示す。「PM」は物理混合によって製造した薬剤組成物を示し、「SD」は噴霧乾燥法によって製造した薬剤組成物を示す。つまり、FP(PM, αG-H)とは、酵素処理ヘスペリジンとフルルビプロフェンを物理混合することで、調製した薬剤組成物を示し、FP(SD, αG-H) とは、噴霧乾燥法によって調製した、酵素処理ヘスペリジンとフルルビプロフェンとからなる薬剤組成物を示す。
【0058】
対照のAUCに対する各薬剤組成物のAUCの倍率(表1)から、どの薬剤組成物についてもFPおよびPROの吸収性が向上しており、FPについての結果から、PM(薬剤組成物C,F)よりもSD(薬剤組成物A,D)で吸収性向上の効果が高いことが分かる。また、FP(図1,3)およびPRO(図5)の血中薬物濃度のピークの値も対照より著しく向上している。薬剤組成物A,C,D,FのFPの薬剤血中濃度が3.5μg/mLとなるまでの時間、および薬剤組成物B,EのPROの薬剤血中濃度が0.1μg/mLとなるまでの時間は、それぞれ対象に比べ短くなっている(図1,3,5)。つまり、本発明の薬剤組成物は、難水溶性薬剤の吸収において難水溶性薬剤単独に対して即効性を有する。
【0059】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素処理ヘスペリジン、ステビア抽出物または酵素処理ステビアから選ばれる水溶性化合物(A)と、フルルビプロフェンまたはプロブコールから選ばれる難水溶性薬剤(B)とを含んでなることを特徴とする高吸収性薬剤組成物。
【請求項2】
上記難水溶性薬剤(B)をエタノールに溶解させたエタノール溶液と、上記水溶性化合物(A)を水に溶解させた水溶液とを混合し、該混合液を噴霧乾燥することによって得られる組成物であることを特徴とする請求項1に記載の高吸収性薬剤組成物。
【請求項3】
上記酵素処理ヘスペリジンが、ヘスペリジンまたはヘスペレチン-7−グルコシドまたはヘスペレチンに糖供与体を加え、グルコース転移酵素を作用させて糖供与体から糖(グルコース)を転移させることにより得られる、酵素処理ヘスペリジンであることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の高吸収性薬剤組成物。
【請求項4】
上記ステビア抽出物が、ステビアの葉から抽出して得られ、ステビオサイド、レバウディオサイドA、レバウディオサイドC、ズルコサイドA、ルブソサイド、ステビオールビオサイドまたはレバウディオサイドBから選ばれる1種または2種以上のステビオール配糖体を主成分とするステビア抽出物であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の高吸収性薬剤組成物。
【請求項5】
上記酵素処理ステビアが、ステビオサイド、レバウディオサイドA、レバウディオサイドC、ズルコサイドA、ルブソサイド、ステビオールビオサイドまたはレバウディオサイドBから選ばれる1種または2種以上のステビオール配糖体に糖供与体を加え、グルコース転移酵素を作用させて糖供与体からステビオール配糖体に糖(グルコース)を転移させることにより得られる、酵素処理ステビアであることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の高吸収性薬剤組成物。
【請求項6】
フルルビプロフェンまたはプロブコールから選ばれる難水溶性薬剤(B)をエタノールに溶解させたエタノール溶液と、
酵素処理ヘスペリジン、ステビア抽出物または酵素処理ステビアから選ばれる水溶性化合物(A)を水に溶解させた水溶液とを混合し、
該混合液を噴霧乾燥することを特徴とする高吸収性薬剤組成物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−51938(P2011−51938A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202898(P2009−202898)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年5月21日〜23日 社団法人日本薬剤学会主催の「日本薬剤学会第24年会 講演要旨集」において文書をもって発表
【出願人】(591061068)東洋精糖株式会社 (17)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】