説明

高周波増幅装置

【課題】極めて簡単な構成で、広帯域な高周波増幅装置の歪特性の改善を実現でき、しかも、発熱量が少なく信頼性の高い装置を実現する。
【解決手段】入力端子101への入力信号は、トランス102により不平衡から平衡状態に変換され、トランジスタ103〜106でプッシュプル増幅される。トランジスタ103と105の間には、非直線素子107と遅延線路109を直列接続した回路、及び減衰素子111と遅延線路113を直列に接続した回路、を並列接続した歪み発生回路が設けられる。また、プッシュプル動作をするための逆相側の増幅を行なうトランジスタ104と106の間にも、同様に歪み発生回路が接続される。この歪み発生回路により振幅変調の混変調と、位相変調の混変調が打ち消される。そして、トランジスタ103〜106によって増幅された信号は、トランス118により不平衡状態に戻され、出力端子119より出力される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ケーブルテレビジョン(CATV)等、広帯域な高周波信号を扱う伝送路に使用される高周波増幅装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】CATV等、同軸線路を用いた伝送路では、信号に対する線路の減衰を補償するため適当な間隔で増幅装置を設け、減衰と増幅を繰り返しながら伝送してゆく。信号としては例えば周波数帯域が70MHzから450MHzで、テレビジョン信号の数として60チャンネル分程度が代表的な仕様である。増幅は周波数を帯域分割することなく、1系統の広帯域増幅によって行なうのが一般的である。増幅装置の設置間隔は通常減衰量にして20dB程度、距離にして約500mの程度であり、大規模な施設では増幅器の縦続段数は30段前後に及ぶ。その様な場合にも施設の信号伝送方向の最下流において雑音対信号比、歪成分対信号比等の所要の信号の品質を確保する必要がある。従って各増幅装置の性能はその施設の可能なサービスエリアを決定する重要な要素となり、その雑音指数や歪特性はできるだけ良いものが望まれる。
【0003】歪特性のうち特に障害となるのは、各チャンネルに振幅変調されている変調内容が相互に乗り移る様に干渉し合う混変調歪と、各チャンネルの搬送波が周波数軸上に等間隔に配列されているために、複数の搬送波の周波数を加減算した歪成分が各搬送波の近傍に発生し、ビデオ信号上の低域妨害として観測されるCTB(コンポジット・トリプル・ビート:混合3次歪)と呼ばれる歪である。チャンネル数の増大にともないCTBの方がより問題視される傾向にある。それは、混変調歪が単にチャンネル数に比例して増大するのに対し、CTBはチャンネル数nから3を採る組合せの数、nC3 にほぼ比例して増大するためである。
【0004】増幅装置の歪のうち2次歪を始めとする偶数次の歪については、プッシュプル回路を用いることにより抑圧することが可能である。しかしながら、前述の混変調歪やCTBの原因となる、3次歪を始めとする奇数次の歪は完全に除去しがたく、増幅装置の性能とCATV施設の規模を制限する要因となっている。
【0005】更に、近年のチャンネル数の増大と周波数帯域の上限の拡大に伴い、混変調歪は振幅変調内容が相互に干渉する古典的な意味だけでなく、位相変調(PM)成分をも伴うものであることが明らかになってきた。
【0006】混変調は、増幅回路の入力レベルと出力レベルが完全に比例せず、より高い入力レベルに対しては出力レベルが抑圧されることにより発生する。言い換えると入力レベルが高い方で利得が減少する様な非直線性を有するためである。つまり、あるチャンネルの振幅が変調によって増大すると、その結果、増幅回路の利得が減少し、他のチャンネルの振幅を減少させることになり、変調信号が逆転した形で転移されて混変調になるものと説明できる。ちなみに、複数チャンネルを同時に増幅する増幅器において発生する混変調が、妨害波の画像を陰画の様に明暗反転した妨害となって観測されるのはこの理由によるものである。
【0007】混変調歪の観測は、あるチャンネルを無変調状態とし、それ以外の全チャンネルを変調状態として増幅装置を通過させ、その出力側において無変調であったチャンネルにどの程度の変調が発生するかを観測・評価することにより行なわれる。この変調の程度を検出する手段は2通りある。一つは包絡線検波して変調波形の振幅を調べる方法、もう一つはスペクトラムアナライザによって搬送波と側波帯を周波数軸上で分離し、両者のレベル関係を調べる方法である。
【0008】ここで、もし発生している混変調が純粋に振幅変調のみであるならば、2通りの測定方法の結果は一致するものである。しかしながら、現実には一致せず周波数が高くなる程差が拡大する。即ち、特に高い測定周波数において、スペクトラムアナライザで測定した側波帯のレベルから算出した振幅変調よりも、包絡線検波により測定した変調の方が少なく観測される傾向がある。
【0009】このことから、発生している側波帯は振幅変調によるものだけではなく、位相変調によるものが含まれると推測される。位相変調は前述の入力レベルに対する利得の非直線性ではなく、入力レベルに対して増幅回路の入出力間の遅延時間が一定ではなく変化することにより発生する。例えば、450MHzにおいて搬送波のレベルに対して−80dBの側波帯が発生しているものとして、これが純粋に位相変調による成分であると仮定すると、入力レベルの変化によって生ずる遅延時間の変動は0.07ピコ秒の程度であると計算される。これは通常の群遅延測定装置等で測定できる分解能を越えており、直接測定して認識できる変化量ではない。
【0010】ここで、純粋な振幅変調により発生する側波帯は、上下の側波帯のベクトルを合成したものが搬送波のベクトルに一致し、振幅が変化するのみで位相が変化することはない。そして、純粋な位相変調では上下の側波帯のベクトルを合成したものは搬送波のベクトルに直交し、搬送波の位相を変化させるのみで振幅は変化しない。現実に増幅回路の中で発生している混変調は両方の変調が同時に発生していると考えられ、ある一定の遅延時間の変動の元に発生する位相変調は、周波数が高くなるほど大きくなる結果、前述の測定法による差が拡大するのである。スペクトラムアナライザによる測定は側波帯のレベル関係を捉えるのみであって、位相関係は識別できないからである。
【0011】この様に振幅変調と位相変調が同時に発生している混変調であっても、CATVで扱っている信号が現行標準のテレビジョン信号である限り、振幅の変化によってのみ情報を運んでいるので、振幅成分のみに着目し、位相変調成分は無視して差支えないと考えられる。しかしながら、実用化の段階を迎えつつあるデジタル信号によるテレビジョンの伝送では、振幅と共に位相も重要な要素となる変調方式が使用される見通しであり、しかも、現行のアナログのテレビジョン信号と周波数帯域を分割したうえで混在する可能性が高いことから、混変調の位相変調成分が障害となる事態も考えられる。また、CATVをテレビジョン信号の伝送のみならず、電話やデータ通信の伝送路として利用しようとする動向もあり、その変調方式によってはやはり位相変調成分が問題となる可能性がある。
【0012】ここで、増幅装置を構成する従来の増幅回路の代表例について図6によって説明する。入力端子11に入力される信号は、入力側不平衡−平衡変換トランス12によって不平衡から平衡状態に変換され、トランジスタ13,14,15,16によってプッシュプル増幅を受けたあと、出力側平衡−不平衡変換トランス20によって再び不平衡状態に戻され、出力端子21より出力される。抵抗17,18,19は負帰還回路であって、周波数に対して平坦な利得特性を得る役目をする。実際にはこれ等の他にトランジスタ13,14,15,16にバイアス電位を与える回路や周波数特性を調整するための容量性あるいは誘導性の素子が必要であるが、ここでは省略する。この回路の利得は通常10数dBである。
【0013】増幅装置は、通常はこの様な増幅回路を基本単位とし、これを装置の入力側と出力側に各1個づつ配置する。両増幅回路の間には温度によって変動するケーブルの損失を補償するための自動利得制御(AGC)用の可変減衰回路、周波数に対する利得の傾きを補償するための自動スロープ制御(ASC)用の可変等化回路等が配置されている。即ち、増幅−減衰−増幅、の順で信号を処理し、装置としての所要の利得で動作させるものである。増幅回路のバイアス条件はA級動作であり、消費電力は通常1増幅回路あたり4ワットから12ワット程度である。増幅装置の出力レベルは、テレビジョン信号の1チャンネルあたり32ミリボルト、即ち、75オームの伝送路インピーダンスに対して13マイクロワットの程度であり、60チャンネル分の総電力でも1ミリワットを越えない程度である。この様な条件下で得られる増幅装置単体の歪性能は混変調、並びにCTBが−85dB程度が代表的な値であり、これを例えば10段縦続接続すると、これらの3次歪は電圧加算するので20dB劣化して−65dB、30段接続すると約30dB劣化して−55dB程度となる。
【0014】この様な歪特性については、CATV施設の全域にわたって、例えば、有線テレビジョン放送法の技術基準によって規定される条件である混変調−42dB以下等を少なくとも満足する必要がある。更に近年の受像機の大型化等により歪妨害はより検知され易い傾向にあり、法的条件以上の信号の質が要求される方向にある。即ち、増幅装置の性能としてはますます低歪性能が要求される様になってきている。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】歪特性を改善するために増幅装置において、従来一般に実施されている手段としては並列動作法とフィードフォワード法がある。前者の並列動作法は、単に同じ増幅回路を並列動作させることにより各々の扱う信号電力を半分にして歪を軽減するものであって、3次歪を約6dB改善するのに2倍の消費電力を要するものである。後者のフィードフォワード法は、主増幅回路の入力信号の一部と出力信号の一部の差をとって歪成分のみを抽出し、これを補助増幅回路で適宜に増幅してから前述の主増幅回路の出力の歪成分と打ち消す関係で合成して装置の出力とすることにより改善を図るものであって、改善度は一般に並列動作法よりも大きいが、補助増幅回路は主増幅回路にほぼ匹敵する消費電力を必要とするうえに、回路が複雑・大規模でコストがかさむという欠点がある。
【0016】本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、CATV用増幅装置における前述のCTBならびに混変調特性をその振幅変調成分及び位相変調成分の両者について改善し、現行のアナログのテレビジョン信号のみならず将来のデジタル信号の伝送についても信号の品質の改善を可能にすると共に、並列動作法やフィードフォワード法等の他の歪改善手段にみられる消費電力の増大を伴うことの少ない高周波増幅装置を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】本発明に係る高周波増幅装置は、非直線素子と第1の遅延線路を直列に接続した回路、及び減衰素子と第2の遅延線路を直列に接続した回路、を並列に接続してなる歪み発生回路を、高周波増幅段の入力側及び出力側の少なくとも一方に、信号の通過方向に直列に接続し、前記第1及び第2の遅延線路の遅延時間の差によって生じる信号入力レベルに対する遅延時間の変化を、前記高周波増幅段の信号入力レベルに対する入出力間の遅延時間の変化の逆特性に設定したことを特徴とする。また本発明は、上記歪み発生回路を高周波増幅段を構成する増幅素子群の中間に配置したことを特徴とする。
【0018】即ち、本発明は従来の増幅回路が示す、入力レベルの増大に対して利得が減少する、飽和特性の非直線性により発生する振幅変調の混変調と、入力レベルの変化に対して入出力間の遅延時間が変化することにより発生する位相変調の混変調を、増幅回路の外側あるいは内側に配置した回路、つまり、増幅回路の出力側または入力側ないしは入出力の両側、あるいは増幅回路の増幅素子の段間に配置した回路、によって打ち消すものである。
【0019】
【作用】上記のように構成した本発明の動作原理は、増幅の前または後、あるいは中間過程で増幅回路の発生する歪成分と振幅が等しく、位相が反転した歪を発生させ、増幅回路の出力において歪を相殺することによって特性の改善を図るものである。
【0020】CATV用増幅装置以外の増幅器、例えばマイクロ波帯の進行波管増幅器、あるいは光通信用の電気−光変換に用いるレーザダイオード等の非直線歪を補償・改善するための手段の一つとして先行歪法(プリディストーション)と呼ばれる方法が一般に知られている。その動作は、予め歪ませた信号を進行波管やレーザダイオードに供給することによって装置の出力において歪の打ち消しを行なうものである。この方法は先行歪を発生させる回路の損失が過大なことが隘路となってCATV用の増幅装置に応用されることはなかった。
【0021】本発明は増幅の前段のみならず、その後段、あるいは増幅過程の中間において逆相歪成分の生成を行なうものであって、上記の先行歪法とは異なる方式である。
【0022】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
(第1実施形態)図1は本発明の第1実施形態に係る高周波増幅装置の回路構成図である。入力端子101に入力される信号は、入力側不平衡−平衡変換トランス102によって不平衡から平衡状態に変換され、トランジスタ103,104,105,106によってプッシュプル増幅される。この場合、増幅動作をなすトランジスタ103と105の間には、非直線素子107と遅延線路109を直列接続した回路、及び減衰素子111と遅延線路113を直列に接続した回路、が並列に接続されている。また、プッシュプル動作をするための逆相側の増幅を行なうトランジスタ104と106の間にも、同様に非直線素子108と遅延線路110を直列接続した回路、及び減衰素子112と遅延線路114を直列に接続した回路、が並列に接続されている。
【0023】また、トランジスタ103の入力側(ベース)とトランジスタ105の出力側(コレクタ)との間には、負帰還回路を構成する抵抗115が接続される。同様にトランジスタ104の入力側(ベース)とトランジスタ106の出力側(コレクタ)との間にも、負帰還回路を構成する抵抗116が接続される。そして、トランジスタ103,104,105,106によってプッシュプル増幅された信号は、出力側平衡−不平衡変換トランス118によって再び不平衡状態に戻され、出力端子119より出力される。
【0024】なお、図では非直線素子としてダイオードを用いた例を示したが、ダイオードの他に素子、例えばトランジスタを用いることも可能である。また、減衰素子として抵抗3個を用いた、いわゆるπ型の減衰回路を示したが、インピーダンス整合を厳密に要しない場合には接地に接続された2個を省略し、信号の通過方向に挿入した1個の抵抗で置換することも可能である。更に、ダイオードは一つの記号で描いてあるが、必要とされる歪の程度によって複数個を直列に接続する場合もある。また、ダイオードは、流れる直流バイアス電流の大きさによって歪の発生量が変化するので最適条件に設定する必要がある。ダイオードにバイアスを与える回路は図示していないが、チョークによる高周波の遮断と容量による直流の遮断を適宜に組み合わせて容易に行なえるものである。各トランジスタ103,104,105,106にバイアス電位を与える回路も図6の従来例と同様省略し、図示していない。
【0025】この様に構成された回路の動作を図2によって説明する。図2(a)は上記のダイオード、減衰素子及び2つの遅延線路で構成された回路を流れる高周波電流のベクトルを表わしたものである。図2(b)に示すようにダイオード107とそれに続く遅延線路109を通過して合流点に達する電流をIdとし、減衰素子111とそれに続く遅延線路113を通過して合流点に続く電流をIaとして、遅延線路113の遅延時間を遅延線路109よりも大きくすると電流Idは電流Iaよりも進相することになる。ここで入力電圧を等しい間隔で3段階に変化させたとすると、減衰素子111を経て流れる電流Iaのベクトルは等間隔に、OA、OB、OCと変化する。一方、ダイオード107を通って流れる電流Idのベクトルは電流Iaに対して進相した角度を一定に保ちながら、ダイオード107の順方向電流対電圧の非直線性によってほぼ指数関数的に、OL、OM、ONの様に変化する。この変化は飽和特性の逆であって、より高い入力レベルに対しては出力電流が伸長される動作となる。
【0026】次に、電流Iaと電流Idを出力側で合流させた合計の電流のベクトルは、OP、OQ、ORとなり、その振幅、即ちベクトルの長さが非直線に変化すると共に、入力レベルに応じた位相角度の変化を発生する。ここで合流点における振幅の非直線歪成分の量は減衰素子111の減衰量とダイオード107のバイアス条件によって自由に選択でき、増幅素子であるトランジスタの飽和特性の歪と打ち消しが可能となる。また、入力レベルに対する位相角度の変化は2つの遅延線路109,113の遅延時間の差、つまり電流Idと電流Iaのなす角度を選択することによって操作可能であって、増幅回路の有する入力レベルに対する遅延時間の変化と逆特性となる様にできる。つまり、前述の混変調における振幅変調成分と位相変調成分を同時に打ち消すことが可能となる。また、混変調と同じく3次歪が原因となって発生する前述のCTBも打ち消すことができる。
【0027】ここで、図2では遅延線路をダイオード107側と減衰素子111側の2つで構成している。前述の通り、電流Idと電流Iaの間に遅延時間の差を作るのが目的であるので、これ等のうちの一方は省略しても目的は達せられる筈である。しかしながら、打ち消しの対象である遅延時間の変動分は、前述の通り100分の数ピコ秒、電気長にして10ミクロンの程度であり、部品の寸法自体が影響する。どの様な部品を使用するにせよ、その電気長が零ということは有り得ないので、図面上省略することなく、部品のパッケージ及び回路基板上の接続に要する余白部分の電気長等をも遅延線路に含むものとして記述したものである。
【0028】(第2実施形態)図3は、本発明の第2実施形態に係る高周波増幅装置の構成を示す回路図である。この実施形態では、歪発生回路を入力側不平衡−平衡変換トランス102とトランジスタ103、104との中間に配置したものである。歪発生の動作は図1の回路と同様である。この図3に示す高周波増幅装置は、図1R>1の回路と比較すると、歪発生回路がトランジスタ103〜106及びこれに付随する負帰還回路の抵抗115,116,117の外側にあるので、歪発生回路自体の遅延時間が負帰還の動作に影響せず、より広い周波数帯域で動作できる。但し、歪発生回路の損失分だけ雑音指数は劣化する。
【0029】(第3実施形態)図4は、本発明の第3実施形態に係る高周波増幅装置の構成を示す回路図である。この実施形態では、図1、図3と同様の歪発生回路をトランジスタ105、106と出力側平衡−不平衡変換トランス118との間に配置したものである。つまり、増幅段の歪に対し、その後段で逆相の歪を発生させることにより打ち消すものである。
【0030】一般にCATV用増幅器が動作している程度の歪率の範囲では奇数次歪では3次歪が主であり、5次以上の歪は無視する。従って、この範囲ではあるdB値だけ出力レベルを上昇すると、その2倍のdB値だけ信号に帯域する混変調とCTBの値が劣化する。つまり、図4の回路では歪発生回路の損失分だけ増幅段からの出力を上げる必要があるので増幅段の発生する歪は劣化する。しかしながら、歪発生回路の損失は1dB程度に押さえることが可能であり、また、歪の打ち消しによって容易に10dB以上の改善が得られるので、総合特性として改善効果が得られるものである。当然ながらこの回路は雑音指数の劣化は殆ど生じないので、増幅装置の入力段に用いるのに適している。
【0031】ここに図示しないその他の構成として、図3R>3と図4の回路を合成し、増幅段の入力側及び出力側に歪発生回路を配置して、増幅段の両側で歪の打ち消しを行なうようにしてもよい。
【0032】なお、図1、図3、図4の各回路は、歪発生回路の扱う信号レベルが各々異なるので、ダイオードの直列接続個数、ダイオードに流すバイアス電流の大きさ等は異なったものとなる。
【0033】(第4実施形態)図5は、本発明の第4実施形態に係る高周波増幅装置の構成を示す回路図である。この実施形態では、歪発生回路は不平衡側、即ち入力端子101と不平衡−平衡変換トランス102の間に配置される。これまでの実施形態と異なるのは2つのダイオード107,108が信号の通過する方向に対して互いに逆向きに接続されている点である。この様に配置することによってダイオード107,108は、入力信号の正負各半サイクルに対して対称な動作となり、偶数次の歪を発生させることはない。つまり、後続する増幅部のプッシュプル動作による偶数次歪の打ち消しに影響することはない。歪発生の動作は図2による前述の説明と同様である。
【0034】なお、図5と同様な歪発生回路を出力側、即ち、平衡−不平衡変換トランス118と出力端子119との間に配置する構成としても良く、更に、入出力の両側に配置する構成も可能である。
【0035】これまでに述べた何れの実施形態であっても、CATV用増幅装置の、例えば−80dB前後の歪を打ち消すのに要する逆相の歪は同様に微少なものである。図2では説明を容易にするために電流Idのベクトルを大きく描いてあるが、実際は電流Iaの大きさに比較して数百分の1程度の振幅である。従って、入力信号の電力の大部分は出力側へ送出することができる。つまり、減衰素子の減衰量は小さなものであり、歪発生回路全体の減衰量として容易に1dB以下とすることができる。この程度の減衰量は増幅装置を構成するうえで何等障害になるものではない。
【0036】また、歪発生回路を付加したことによる装置全体の消費電力の増加は、回路を構成するダイオードに流すバイアス電流のみであって、高々数ミリアンペアの程度であり、通常150から500ミリアンペアの電流を消費する増幅回路を並列動作させる方法や、同程度の電流を必要とする補助増幅回路を用いるフィードフォワード法に比較して消費電力の増大を伴わない歪改善が可能となる。
【0037】
【発明の効果】以上述べた様に本発明によれば、極めて簡単な構成で、CATV用増幅装置等、広帯域な高周波増幅装置の歪特性の改善を実現でき、しかも他の歪改善法に比べて消費電力の増大は僅かなものであるため、発熱量が少なく信頼性の高い装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る高周波増幅装置の構成を示す回路図。
【図2】同実施形態における歪発生回路の動作を説明するための図。
【図3】本発明の第2実施形態を示す回路図。
【図4】本発明の第3実施形態を示す回路図。
【図5】本発明の第4実施形態を示す回路図。
【図6】従来の高周波増幅装置の構成を示す回路図。
【符号の説明】
101 入力端子
102 不平衡−平衡変換トランス
103〜106 トランジスタ
107,108 非直線素子
109,110,113,114 遅延線路
111,112 減衰素子
115,116,117 負帰還回路を構成する抵抗
118 平衡−不平衡変換トランス
119 出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】 非直線素子と第1の遅延線路を直列に接続した回路、及び減衰素子と第2の遅延線路を直列に接続した回路、を並列に接続してなる歪み発生回路を、高周波増幅段の入力側及び出力側の少なくとも一方に、信号の通過方向に直列に接続し、前記第1及び第2の遅延線路の遅延時間の差によって生じる信号入力レベルに対する遅延時間の変化を、前記高周波増幅段の信号入力レベルに対する入出力間の遅延時間の変化の逆特性に設定したことを特徴とする高周波増幅装置。
【請求項2】 非直線素子と第1の遅延線路を直列に接続した回路、及び減衰素子と第2の遅延線路を直列に接続した回路、を並列に接続してなる歪み発生回路を、高周波増幅段を構成する増幅素子群の中間に、信号の通過方向に直列に接続し、前記第1及び第2の遅延線路の遅延時間の差によって生じる信号入力レベルに対する遅延時間の変化を、前記増幅段の信号入力レベルに対する入出力間の遅延時間の変化の逆特性に設定したことを特徴とする高周波増幅装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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