説明

高周波電源装置

【課題】プラズマ負荷等に高周波電力を供給する高周波電源装置の負荷に低周波数の変動が生じたときに、出力制御にゆらぎが生じて高周波出力が変動するのを防止する。
【解決手段】高周波電力発生部4の出力側で検出される進行波電力又は反射波電力から電力の変動周期を検出する電力変動周期検出部10と、制御周期と電力変動周期との差に起因して高周波電力発生部の出力の平均値にゆらぎが生じるのを防ぐために適した制御周期の適正値を検出された電力変動周期に応じて設定する制御周期設定手段11と、制御周期を制御周期設定手段により設定された周期とするように高周波電力検出部が高周波電力を検出するタイミング及び高周波電力発生部に制御信号を与えるタイミングを制御するタイミングコントローラ12とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体や液晶等に対して、プラズマを用いて、薄膜の形成や表面の改質、或いは薄膜の除去(エッチングやアッシング)等の処理を行なうプラズマ処理装置等のプラズマ負荷に高周波電力を供給するのに好適な高周波電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラズマ負荷等に高周波電力を供給する高周波電源装置は、例えば特許文献1に示されているように、所定の操作量(例えばDC/DCコンバータで行うPWM制御のデューティ比)により出力を制御することができる直流電源部と、この直流電源部の出力電圧を電源電圧として負荷に供給する高周波電力を発生する高周波電力増幅部とを備えた高周波電力発生部と、高周波電力発生部を制御する制御部とを備えている。
【0003】
直流電源部は例えば、商用電源の出力を直流出力に変換する整流回路(コンバータ)と、整流回路の出力を交流電圧に変換するインバータと、インバータの出力を整流・平滑する整流・平滑回路とを備えたDC/DCコンバータにより構成される。
【0004】
また高周波電力増幅部は、直流電源部の出力電圧を電源電圧として、高周波信号を増幅する電力増幅器や、直流電源部の出力を高周波出力に変換するインバータにより構成される。直流電源部と高周波電力増幅部とからなる高周波電力発生部から得られる高周波電力は、必要に応じてインピーダンス整合器を通してプラズマ負荷などの負荷に供給される。
【0005】
高周波電力発生部を制御する制御部は、設定された制御周期毎に到来するタイミングを検出タイミングとして、制御周期毎に制御対象とする高周波電力を求めるために各検出タイミングで高周波電力のレベルを高周波電力発生部の出力側で検出するとともに、直近のn個(nは2以上の整数)の検出タイミングでそれぞれ検出されたn個の検出データから演算した移動平均値を制御対象とする高周波電力の平均値として検出する高周波電力検出部と、高周波電力発生部が出力する高周波電力のレベルを決定する変数の大きさを高周波電力発生部の操作量として、高周波電力検出部により検出された制御対象とする高周波電力の平均値を設定値に保つために必要な操作量を演算する操作量演算部と、高周波電力発生部の操作量を操作量演算部により演算された操作量とするために高周波電力発生部に与える制御信号を制御周期毎に出力する制御信号出力部とを備えることにより構成される。
【0006】
上記高周波電力発生部の操作量は、直流電源部の出力を決定する変量や、高周波電力増幅部3を構成する電力増幅器のゲイン等である。例えば直流電源部が、前述のような構成を有するDC/DCコンバータからなっている場合には、整流回路の出力を交流電圧に変換するインバータのPWM制御のデューティ比を操作量とすることができる。
【0007】
高周波電源装置の出力を設定値に保つ制御を行う場合には、制御周期毎に検出される高周波電力のレベル(瞬時値)を制御対象として設定値に保つ制御を行なうのではなく、高周波電源装置の出力レベルの平均値を検出して、その平均値を設定値に保つ制御を行っている。そのための手法として、制御対象とする高周波電力のレベルを制御周期毎に検出して、直近の複数の検出データから求めた高周波電力のレベルの移動平均値を制御対象とする高周波電力の平均値として、この平均値を設定値に保つように高周波電力発生部を制御する手法が用いられている。
【0008】
半導体や液晶等の被加工物にプラズマを用いて各種の加工を施すプラズマ処理装置においては、プロセスチャンバ内に設けられた電極間に高周波電力を印加することによりプラズマを発生させているが、加工の微細化や高速化等を図ることの必要性から、プラズマ発生用の高周波電源の他に、イオンエネルギの制御等の各種の制御を行なうために、プラズマにバイアスパワーを与える高周波電源装置が必要とされるようになっている。プラズマ発生用の高周波電力を供給する高周波電源装置及びバイアス用の高周波電力を供給する高周波電源装置はそれぞれの周波数を異にしている。プラズマ発生用の高周波電力を発生する高周波電源の出力周波数は、例えば十数MHzないし数100MHz近傍の周波数範囲にあり、バイアス用の高周波電力を発生する高周波電源の出力周波数は、例えば数十kHzないし数MHz等の比較的低い周波数範囲にある。特許文献1には、図7に示したように、出力周波数が異なる第1及び第2の高周波電源装置A及びBからプラズマ負荷Cに電力を供給する電力供給システムについて記載されている。
【0009】
プラズマ負荷C等の負荷に高周波電力を供給する電力供給システムにおいては、負荷側の要求により、電圧波形が無変調の連続波形を呈する高周波電力を負荷Cに供給する場合と、電圧波形がパルス波形等により変調された波形を呈する高周波電力を負荷Cに供給する場合とがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−238516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図7に示したように、第1の高周波電源装置Aと第2の高周波電源装置Bとを設けて、これらの高周波電源装置からプラズマ負荷Cに同時に電力を供給するシステムにおいては、図8(A)に示したように、出力周波数がf1(例えばf1=3.2MHz)で、電圧V1が連続波形(無変調の波形)を呈するほぼ一定レベルの高周波電力を第1の高周波電源装置Aからプラズマ負荷Cに供給し、図8(B)に示すように、出力周波数がf2(例えばf2=60MHz)で、周波数f3(例えばf3=10kHz〜90kHz)のパルス波形で変調されているために、電圧V2のレベルが周期T3(=1/f3)毎に変化する高周波電力を第2の高周波電源装置Bからプラズマ負荷Cに供給した場合に、連続波形の高周波電力を出力する第1の高周波電源装置Aの出力の平均値にゆらぎ(低周波数のゆっくりとしたレベル変動)が生じることがあった。
【0012】
また図7に示された電力供給システムにおいて、第1の高周波電源装置Aから連続波形(無変調の波形)の高周波電力をプラズマ負荷Cに供給し、第2の高周波電源装置Bからパルス変調された高周波電力をプラズマ負荷Cに供給する場合に、第2の高周波電源装置Bからプラズマ負荷Cに与える高周波電力の変調周波数が変更されると、第1の高周波電源装置Aの出力の平均値を設定値に保つ出力制御の精度が低下することがあった。
【0013】
半導体等の微細な加工を高精度で行うためには、プラズマ負荷に供給する高周波電力の平均値を設定値に保つ制御を高精度で行わせることが必要であり、負荷に供給される高周波電力(平均値)が変動したり、出力制御の精度が低下したりすることは極力避ける必要がある。
【0014】
本発明が対象とする高周波電源装置は、図7に示されたように、負荷Cに同時に高周波電力を供給する複数の高周波電源装置のうち、連続波形(無変調の波形)の高周波電力を発生する高周波電源装置である。
【0015】
本発明の目的は、出力側で検出される高周波電力を制御対象として、制御対象とする高周波電力の平均値を一定に保つ出力制御を行うことにより、平均値が一定な連続波形の高周波電力を負荷に供給する高周波電源装置において、他の高周波電源装置から負荷にパルス波形等により変調された高周波電力が供給されている場合に、制御対象とする高周波電力の平均値にゆらぎが生じたり、出力制御の精度が低下したりするのを防ぐことにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、負荷に供給する高周波電力を出力する高周波電力発生部と、高周波電力発生部の出力側で制御対象とする高周波電力の平均値を検出して、検出した高周波電力の平均値を設定値に保つ制御を行う制御部とを備えた高周波電源装置を対象とする。
【0017】
本発明が対象とする高周波電源装置においては、上記制御部が、設定された制御周期Tc毎に到来するタイミングを検出タイミングとして前記制御対象とする高周波電力を求めるために検出対象とする必要がある高周波電力のレベルの検出データを得るとともに、直近のn個(nは2以上の整数)の検出タイミングでそれぞれ得られたn個の検出データから検出対象とする高周波電力の移動平均値を求めて、該移動平均値を検出対象とする高周波電力の平均値として制御対象とする高周波電力の平均値を検出する高周波電力検出部と、高周波電力発生部が出力する高周波電力のレベルを決定する変数の大きさを高周波電力発生部の操作量とし、高周波電力検出部により検出された制御対象とする高周波電力の平均値を設定値に保つために必要な操作量を演算する操作量演算部と、高周波電力発生部の操作量を操作量演算部により演算された操作量とするために高周波電力発生部に与える制御信号を制御周期毎に出力する制御信号出力部とを備えている。
【0018】
本発明においては、負荷に他の高周波電源装置から与えられている高周波電力のレベルの周期的な変化に起因して高周波電力発生部の出力側で検出される高周波電力のレベル変動の周期を電力変動周期Tzとして検出する電力変動周期検出部と、電力変動周期検出部により検出された電力変動周期Tzに応じて制御周期Tcを適正値に設定する制御周期設定手段とが設けられる。
【0019】
本発明において、制御対象とする高周波電力は、進行波電力でもよく、進行波電力から反射波電力を減算して求めた有効電力であってもよい。検出対象とする高周波電力は、制御対象とする高周波電力の如何により決まる。有効電力を制御対象とする場合には、進行波電力及び反射波電力の双方を検出対象とし、進行波電力を制御対象とする場合には、進行波電力のみを検出対象とすればよい。
【0020】
高周波電源装置から連続波形を有する高周波電力を負荷に供給する場合に、パルス波形などにより変調されているためにレベルが周期的に変化する高周波電力が他の高周波電源装置から負荷に印加されていると、連続波形を有する高周波電力を出力する高周波電源装置の出力側で検出される高周波電力に周期的なレベル変動が生じる。このように、高周波電源装置の出力側で検出される高周波電力に周期的なレベル変動が生じているときには、そのレベル変動の周期(電力変動周期)に対して制御周期が適正な値を有していないと、連続波形(無変調の波形)を有する高周波電力を出力する高周波電力発生装置の出力にゆらぎが生じることがある。このような状態は、制御周期と電力変動周期との間の差が微差であるときに起こる。従来の高周波電源装置では、制御周期が一定に設定されていたため、他の高周波電源装置から負荷に供給される高周波電力の変調周波数が変更になって、高周波電力発生部の出力側で検出される高周波電力に生じるレベル変動の周期Tzが変わったときにたまたま制御周期Tcの値と電力変動周期Tzの値とが接近すると、高周波電力発生部の出力にゆらぎが生じることがあった。
【0021】
本発明のように、他の高周波電源装置から負荷に与えられている高周波電力のレベルの周期的な変化に起因して高周波電力発生部の出力側で検出される高周波電力のレベル変動の周期を電力変動周期Tzとして検出する電力変動周期検出部と、検出された電力変動周期Tzに応じて制御周期Tcを適正値に設定する制御周期設定手段とを設けておくと、制御周期Tcを電力変動周期Tzに対して適正値に設定して、制御周期と電力変動周期とが接近しないようにすることができるため、連続波形を有する高周波電力を出力する高周波電力発生装置の出力にゆらぎが生じるのを防ぐことができる。また高周波電力検出部が検出する高周波電力の移動平均値と真の平均値との誤差を小さくするように制御周期を設定することができるため、出力制御の精度が低下するのを防ぐことができる。なお本明細書において、制御周期の「適正値」は、唯一の値を意味するのではなく、高周波電力の移動平均値と真の平均値との誤差を許容範囲内に収めることができる適正範囲に含まれる値を意味する。
【0022】
制御周期Tcの適正値は、電力変動周期Tzでレベルが変動している高周波電力のレベルを制御周期毎に検出して得た検出データを用いて高周波電力の平均値を求める場合に、その算術平均値を演算するために必要なデータの数(必要データ数)nsと、移動平均値の演算に用いる検出データの数nとの関係に着目するか、または算術平均値を演算するために必要なデータ数nsに等しい数の検出データを得るために必要な時間ns×Tcと、移動平均値の演算に用いるn個の検出データを取得するのに要する時間n×Tcとの関係に着目することにより的確に設定することができる。
【0023】
電力変動周期Tzでレベルが変動している高周波電力のレベルを制御周期Tc毎に検出して、高周波電力のレベル変動のkサイクルに亘って算術平均値を演算するために必要なデータ数(必要データ数)nsは、式ns =k×{Tz/|m・Tz−Tc|}(但しmは1以上の整数で、mTz≠Tcであるとする。)により求めることができる。
【0024】
出力制御を精度よく行うためには,高周波電力検出部が検出する高周波電力の移動平均値と真の平均値(算術平均値)との差をできるだけ小さくすることが必要である。電力変動周期Tzでレベルが変動している高周波電力のレベルを制御周期Tc毎に検出して、検出したn個の検出データから高周波電力の移動平均値を演算する場合に、移動平均値と真の平均値との誤差を少なくするためには、上記の式により演算した必要データ数nsが、移動平均値の演算に用いる検出データの数nに一致している(n=nsである)か、またはnとnsとの差が小さいことが好ましい。また移動平均値と真の平均値との誤差を小さくするためには、移動平均値を演算するのに要する時間n×Tcと、必要なデータ数ns個の検出データを得るために必要な時間ns×Tcとの差が小さいことが好ましい。
【0025】
上記の式から明らかなように、高周波電力のkサイクルのレベル変動の算術平均値を正しく演算するために、高周波電力のレベル変動のkサイクルの波形に対して(電圧変動周期Tzの期間に)取得する必要がある検出データの数nsは、制御周期Tcと電力変動周期Tzとの関数になるため、n×Tc=ns×Tcの式を満足する制御周期Tcの値は電力変動周期Tzの値の変化に応じて変化する。従って、移動平均値と真の平均値との誤差を小さくするためには、制御周期Tcの値を電力変動周期Tzの値に応じて適正な値に設定する必要がある。また制御周期Tcは、高周波電力発生部の出力の平均値を設定値に保つ出力制御の制御特性に影響を与えるため、出力制御において許容される範囲内の値に設定する必要がある。
【0026】
そこで本発明の好ましい態様では、制御周期設定手段が、n個の検出データを用いて演算される高周波電力の移動平均値と該高周波電力の真の平均値との間に生じる誤差を許容範囲内に収めることができ、かつn個の検出データを得るために必要な時間を高周波電力発生部の制御において許容される上限時間以下に収めることができる範囲の値に制御周期の適正値を設定する。
【0027】
本発明の他の態様では、制御周期設定手段が、高周波電力検出部が移動平均値の演算に用いる直近のn個の検出データを得るために要する時間(n×Tc)を、n個の検出データを用いて演算される高周波電力の移動平均値と該高周波電力の真の平均値との間に生じる誤差を許容範囲内に収めることができる時間とするように、電力変動周期検出部により検出された電力変動周期に応じて制御周期の適正値を設定する。
【0028】
本発明の更に他の態様では、制御周期設定手段が、高周波電力検出部が移動平均値の演算に用いる直近のn個の検出データを得るために要する時間(n×Tc)と、電力変動周期Tz(但しm・Tz≠Tc、mは1以上の整数)でレベルが変動している高周波電力のレベルを制御周期Tc毎に検出して得た検出データを用いて該高周波電力のk(kは1以上の整数)サイクルのレベル変動の算術平均値を演算するために必要なデータ数ns個の検出データを得るのに要する時間(ns×Tc)との時間差ΔT(=Tc×|n−ns|)を、n個の検出データを用いて演算される高周波電力の移動平均値と該高周波電力の真の平均値との間に生じる誤差を許容範囲内に収めることができる範囲の時間差とするように、制御周期の適正値を設定する。
【0029】
本発明の更に他の態様では、制御周期設定手段が、高周波電力検出部が移動平均値の演算に用いる直近のn個の検出データを得るために要する時間(n×Tc)と、電力変動周期Tz(但しTz≠Tc)でレベルが変動している高周波電力のレベルを前記制御周期Tc毎に検出して得た検出データを用いて該高周波電力のkサイクル(kは1以上の整数)のレベル変動の算術平均値を演算するために必要なデータ数ns個の検出データを得るために必要な時間(ns×Tc)との時間差ΔT(=Tc×|n−ns|)を許容範囲内に収めるように、制御周期の適正値を設定する。
【0030】
本発明の更に他の態様では、制御周期設定手段が、高周波電力検出部が移動平均値の演算に用いる直近のn個の検出データを得るために要する時間(n×Tc)と、電力変動周期Tz(但しTz≠Tc)でレベルが変動している高周波電力のレベルを前記制御周期Tc毎に検出して得た検出データを用いて該高周波電力のkサイクル(kは1以上の整数)のレベル変動の算術平均値を演算するために必要なデータ数ns個の検出データを得るために必要な時間(ns×Tc)との時間差ΔT(=Tc×|n−ns|)を最小とするように、制御周期Tcの適正値を設定する。
【0031】
上記の各態様に示されたように制御周期設定手段を構成して、電力変動周期に対して制御周期の適正値を設定するようにすると、高周波電力検出部が検出する高周波電力の移動平均値と真の平均値との間の誤差を少なくすることができるため、検出される高周波電力の移動平均値が真の平均値の上側又は下側に偏った変化を示す状態が生じて高周波電力発生部の出力にゆらぎが生じたり、高周波電力検出部が検出する移動平均値と真の平均値との誤差が大きくなって出力制御の精度が低下したりするのを防ぐことができる。
【0032】
本発明の更に他の態様では、制御周期設定手段が、検出された電力変動周期と制御周期との関係を与えるマップを用いて前記制御周期の適正値を演算するように構成される。
【0033】
本発明の更に他の態様では、制御周期設定手段が、高周波電力発生部の出力制御において制御周期がとり得る値の範囲内で制御周期の適正値を設定するように構成される。
【0034】
本発明の更に他の態様では、制御周期がとり得る値の範囲内に制御周期の適正値が存在しないときに、制御周期がとり得る値の範囲内で制御周期を時間の経過に伴って変化させるように制御周期設定手段が構成される。
【0035】
上記のように、設定された範囲内に制御周期の適正値が存在しないときに、設定された範囲内で制御周期を時間の経過に伴って変化させるようにすると、高周波電力検出部が移動平均値の演算に用いるn個の検出データが高周波電力のkサイクルのレベル変動波形の一部のレベルのみを検出したデータ群からなる状態が生じるのを防ぐことができ、kサイクルのレベル変動波形の各部のレベルを満遍なく検出した検出データを得ることができるため、高周波電力検出部が検出する移動平均値と真の平均値との誤差を少なくすることができる。
【0036】
本発明の更に他の態様では、高周波電力のkサイクル(kは1以上の整数)のレベル変動の算術平均値を演算するために必要なデータ数nsを、式ns =k×{Tz/|m・Tz−Tc|}(但しmは1以上の整数で、Tc≠Tzとする。)により演算する。
【発明の効果】
【0037】
以上のように、本発明においては、他の高周波電源装置から負荷に与えられている高周波電力の周期的なレベル変化に起因して、連続波形の高周波電力を出力する高周波電力発生部の出力端で検出される高周波電力に生じるレベル変動の周期を電力変動周期として検出して、検出された電力変動周期に対して制御周期Tcの適正値を設定するようにしたので、出力制御を行うために高周波電力検出部により検出される移動平均値が真の平均値の上側に偏った値を示す状態と真の平均値の下側に偏った値を示す状態とが交互に繰り返される状態が生じることがないように制御周期の値を設定して、連続波形を有する高周波電力を出力する高周波電力発生装置の出力にゆらぎが生じるのを防ぐことができる。また本発明によれば、高周波電力検出部により検出される移動平均値と真の平均値との誤差を小さくするように制御周期を設定することができるため、出力制御の精度が低下するのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係わる高周波電源装置の一実施形態の構成を概略的に示したブロック図である。
【図2】図1に示した高周波電源装置に他の高周波電源装置の影響が及ぶ状態をシミュレーションするために模擬信号を注入している状態を示したブロック図である。
【図3】図1に示した高周波電源装置の高周波電力発生部に設ける直流電源部の構成例を示した回路図である。
【図4】高周波電源装置に他の高周波電源装置の出力のレベル変動の影響が及ぶ場合に出力の平均値にゆらぎが生じる現象を説明するために用いる波形図である。
【図5】(A)ないし(C)は、従来の高周波電源装置において、他の高周波電源装置から負荷に与えられているパルス変調された高周波電力のレベル変動の影響が及ぶ状態を模擬するために、周波数が異なる模擬信号を高周波電源装置の出力側に注入した場合に観測された出力レベルの時間の経過に伴う変化を示したグラフである。
【図6】(A)ないし(C)は、本実施形態に係わる高周波電源装置において、他の高周波電源装置から負荷に与えられているパルス変調された高周波電力のレベル変動の影響が及ぶ状態を模擬するために、周波数が異なる模擬信号を高周波電源装置の出力側に注入した場合に観測された出力レベルの時間の経過に伴う変化を示したグラフである。
【図7】プラズマ負荷に出力周波数及び電圧波形が異なる2つの高周波電源装置から高周波電力を供給している状態を示したブロック図である。
【図8】制御の対象とする高周波電源装置が出力する無変調の高周波電力の波形と、他の高周波電源装置から負荷に与えれている変調された高周波電力の波形の一例とを模式的に示した波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は本発明に係わる高周波電源装置の一実施形態の構成を概略的に示したものである。同図において、1は商用電源、2は商用電源1の出力を直流出力に変換する出力レベルが可変な直流電源部、3は直流電源部2から得られる直流電圧を電源電圧として、負荷に供給する高周波電力の周波数に等しい周波数を有する高周波信号を増幅することにより高周波電力を出力する高周波電力増幅部である。直流電源部2と高周波電力増幅部3とにより、負荷に供給する高周波電力を発生する高周波電力発生部4が構成されている。
【0040】
図示の直流電源部2は、商用電源1から得られる交流電圧を整流する整流回路201と、整流回路201の出力を交流出力に変換するインバータ202と、インバータ202の出力を整流・平滑する整流平滑回路203とを備えたDC/DCコンバータにより構成されている。
【0041】
インバータ202は、例えば図3に示されているように、一端が共通接続されたオンオフ制御が可能な半導体スイッチ素子Su及びSvと、スイッチ素子Su及びSvにそれぞれ逆並列接続された帰還ダイオードDu及びDvとによりブリッジの上段を構成し、スイッチ素子Su及びSvの他端にそれぞれ一端が接続されるとともに他端が共通接続されたスイッチ素子Sx及びSyと、これらのスイッチ素子Sx及びSyにそれぞれ逆並列接続された帰還ダイオードDx及びDyとによりブリッジの下段を構成したフルブリッジ型のスイッチ回路と、スイッチ素子SuとSxとの接続点及びスイッチ素子SvとSyとの接続点からそれぞれ導出されたスイッチ回路の交流出力端2u,2v間に一次コイルが接続された出力トランスTRとを備えている。図示のインバータにおいては、スイッチ素子Su,Svの共通接続点及びスイッチ素子Sx,Syの共通接続点からそれぞれ入力端子2a及び2bが導出され、これらの入力端子間に整流回路201から出力される直流電圧Vdcが入力されている。
【0042】
図3に示されたインバータ202は、対角位置にあるスイッチ素子Su,Sy及びSv,Sxを交互にオン状態にすることにより、直流電圧Vdcを交流電圧に変換する。また同インバータのブリッジの上段を構成するスイッチ素子Su,Sv及びブリッジの下段を構成するスイッチ素子Sx,Syを所定のデューティ比でオンオフ制御することにより、インバータ202の出力をPWM制御する。このPWM制御のデューティ比を操作量として変化させることにより、インバータ202の出力を適宜に変化させることができる。
【0043】
整流・平滑回路203は、例えば図3に示されているように、トランスTRの二次側に得られるインバータの交流出力を整流する整流器Recと、整流器Recの出力端子間にチョークコイルLcを通して接続された平滑用コンデンサCsとからなっていて、平滑用コンデンサCsの両端に直流電圧Vdcvを出力する。この直流電圧Vdcvは、インバータ202をPWM制御する際のデューティ比を操作量として変化させることにより適宜に調整することができる。
【0044】
高周波電力増幅部3は、パワーMOSFETや、バイポーラ型のパワートランジスタを増幅素子とした増幅回路からなっていて、負荷に供給する高周波電力の周波数に等しい高周波信号を発生する図示しない高周波信号源から得られる高周波信号を増幅して所定の周波数を有する高周波電力を出力する。本実施形態では、インバータ202のPWM制御のデューティ比を操作量として変化させて直流電源部2の出力電圧(高周波電力増幅部3の電源電圧)を調節することにより、高周波電力発生部4から出力する高周波電力の出力値を変化させるようにしている。
【0045】
高周波電力発生部4から出力される高周波電力は、高周波電力の基本周波数成分のみを通過させる図示しないローパスフィルタと、方向性結合器5と、インピーダンス整合器6と、50Ωの特性インピーダンスを有する伝送線路とを通してプラズマ負荷等の負荷7に供給される。方向性結合器5は、高周波電力発生部4から負荷7に供給される進行波電力の一部Pf′と、インピーダンス整合器6でインピーダンスの整合をとりきれないときに負荷7で反射して戻ってくる反射波電力の一部Pr′とを分岐して出力する。
【0046】
高周波電力発生部4の出力を制御するため、制御部8が設けられている。図示の制御部8は、高周波電力検出部801と、デューティ比演算部(操作量演算部)802と、制御信号出力部803と、高周波電力検出部801が検出動作を行うタイミング及び制御信号出力部803が制御信号を出力するタイミングを制御するタイミングコントローラ804とを備えている。
【0047】
高周波電力検出部801は、設定された制御周期毎に到来するタイミングを検出タイミングとして、高周波電力発生部4の出力側で、方向性結合器5の出力から検出対象とする高周波電力のレベルを検出して、今回の検出タイミングを含む直近のn個(nは2以上の整数)の検出タイミングでそれぞれ検出されたn個の検出データから演算した移動平均値を検出対象とする高周波電力の平均値として求め、該検出対象とする高周波電力の平均値から制御対象とする高周波電力の平均値を検出する。高周波電力検出部801が移動平均値の演算に用いる検出データの数nは2以上の整数で、出力制御の制御性を考慮して予め適当な値に設定されている。制御周期Tc毎に検出データを得る場合、設定された数nの検出データを得るためには、n×Tcの時間を必要とする。
【0048】
デューティ比演算部(操作量演算部)802は、高周波電力発生部が出力する高周波電力のレベルを決定する変数の大きさを高周波電力発生部の操作量として、高周波電力検出部により検出された制御対象とする高周波電力の平均値を設定値に保つために必要な操作量を演算する。
【0049】
制御信号出力部803は、高周波電力発生部4の操作量を操作量演算部802により演算された操作量とするために高周波電力発生部4に与える制御信号を設定された制御周期毎に出力する。
【0050】
上記高周波電力発生部4の操作量は、高周波電力発生部4が出力する高周波電力の大きさを決定する変数や変量であればよい。高周波電力発生部4が直流電源部2と高周波電力増幅部3とからなる場合、高周波電力直流電源部の出力を決定する変量や、高周波電力増幅部3のゲイン等を高周波電力発生部の操作量とすることができる。例えば本実施形態のように、直流電源部2が、商用電源の交流出力を直流出力に変換する整流回路201と、整流回路201の出力を交流電圧に変換するインバータ202と、インバータ202の出力を整流・平滑する整流・平滑回路203とにより構成されていて、インバータ202をPWM制御することにより直流出力電圧を調整して高周波電力増幅部3の出力を調整し得るように構成される場合には、該PWM制御のデューティ比を高周波電力発生部4の操作量とすることができる。
【0051】
この場合、操作量演算部802は、高周波電力検出部801により検出された制御対象とする高周波電力の平均値を設定値に保つために必要なインバータ202のPWM制御のデューティ比を操作量として演算し、制御信号出力部803は、演算されたデューティ比でインバータ202をPWM制御するためにインバータ202に与える制御信号(インバータを構成するスイッチ素子をオンオフさせるための信号)を、設定された制御周期毎に出力する。
【0052】
本実施形態では、直流電源部2の出力電圧を決定するインバータ202のPWM制御のデューティ比を高周波電力発生部の操作量とし、進行波電力Pfから反射波電力Prを減じることにより求めた有効電力を制御対象とする高周波電力としている。従って、高周波電力検出部801は、進行波電力Pfと反射波電力Prとの双方を検出対象として、制御周期毎にそれぞれの移動平均値を検出し、進行波電力Pfの移動平均値から反射波電力の移動平均値を減算することにより、制御対象とする有効電力の移動平均値を求める。
【0053】
制御信号出力部803は、直流電源部2のインバータ202の出力を、演算されたデューティ比でPWM制御するべく、演算されたデューティ比で断続する制御信号をインバータ202のブリッジの上段のスイッチ素子Su,Sv及び下段のスイッチ素子Sx,Syの制御端子に与える。これにより、直流電源部2の出力電圧を調節して、高周波電力増幅部3から設定値に等しい平均値を有する高周波電力を出力させる。
【0054】
なお高周波電力発生部4から負荷に与えられる進行波電力Pfを制御の対象とする場合には、高周波電力検出部801で反射波電力Prの検出を行う必要はない。
【0055】
タイミングコントローラ804は、制御周期を設定された周期とするように、高周波電力検出部801が検出動作を行うタイミング及び制御信号出力部803が制御信号を出力するタイミングを制御する。
【0056】
本発明者は、図7に示したように、第1の高周波電源装置Aと第2の高周波電源装置Bとを設けて、これらの高周波電源装置からプラズマ負荷Cに同時に電力を供給する電力供給システムについて種々の分析を行った結果、下記の点を明らかにした。
(a)第1の高周波電源装置Aから負荷Cに平均値がほぼ一定な連続波形の高周波電力を供給するに際して、第2の高周波電源装置Bから負荷Cにパルス波形等により変調されているためにレベルが周期的に変化する高周波電力が供給されていると、第2の高周波電源装置Bから負荷Cに与えられている高周波電力のレベルの周期的な変化に起因して、第1の高周波電源装置Aの高周波電力検出部で検出される進行波電力及び反射波電力に周期的なレベル変動が生じること。
(b)このレベル変動の周期と第1の高周波電源装置Aの出力制御の制御周期との差が微差であると、電力変動周期Tzでレベルが変動している高周波電力のレベルを制御周期Tc毎に検出して得た検出データから高周波電力の平均値を演算する場合に、第1の高周波電源装置Aの出力側で検出される高周波電力の1サイクルのレベル変動の算術平均値(真の平均値)を正しく演算するために必要とされる検出データの個数nsが、第1の高周波電源装置Aの高周波電力検出部で移動平均値の演算に用いる検出データの個数n(このnは予め設定されている。)に比べて極端に多くなるため、当該高周波電力検出部で移動平均値の演算に用いるn個の検出データに、高周波電力のレベル変動の1周期の波形の一部についての検出データしか含ませることができない状態が生じて、高周波電力検出部が制御周期毎に検出する高周波電力の移動平均値が真の平均値の上側に偏った状態と、下側に偏った状態とが低い周波数で繰り返されること。
(c)上記のように,第1の高周波電源装置Aの高周波電力検出部が制御周期毎に検出する高周波電力の移動平均値が真の平均値の上側に偏った状態と、下側に偏った状態とが低い周波数で繰り返されると、第1の高周波電源装置Aの高周波電力発生部の出力の平均値に低い周波数のレベル変動(ゆらぎ)が生じること。
(d)上記のように、第2の高周波電源装置Bが負荷Cに与える高周波電力の変調周波数が変更されて、第1の高周波電源装置Aの高周波電力発生部の出力側で検出される高周波電力のレベル変動の周期が変化すると、第1の高周波電源装置Aの高周波電力検出部が検出する高周波電力の移動平均値と真の平均値との間の誤差が大きくなって、その出力制御の精度が低下することがあること。
【0057】
本発明者は、上記の知見を基にして種々実験を行った結果、電力制御に影響を与えない範囲で制御周期を適宜に変更することとして、第1の高周波電源装置Aの高周波電力発生部の出力側で検出される高周波電力の周期的なレベル変動の周期(電力変動周期)に対して制御周期を適正な値に設定すると、制御周期と電力変動周期との間の差を適正な大きさにすることができるため、高周波電力検出部が検出する高周波電力の移動平均値が真の平均値の上側又は下側に偏った変化を示す現象が生じて出力にゆらぎが生じたり、高周波電力検出部が検出する移動平均値と真の平均値との誤差が大きくなって出力制御の精度が低下したりするのを防ぐことができることを見出した。
【0058】
図7に示された電力供給システムにおいて、第2の高周波電源装置Bから、図8(B)に示されているように電圧波形がパルス変調された波形を呈する高周波電力が供給されているプラズマ負荷Cに、図8(A)に示されているように、電圧波形が無変調の連続波形を呈していて、平均値が一定な高周波電力を同時に供給するものとする。この場合、第2の高周波電源装置Bが負荷Cに印加する高周波電圧は、図8(B)に示すように、High期間とLow期間とを交互に繰り返す波形を有し、高周波電圧のHigh期間とLow期間とでは、高周波電力のレベルが相違する。このように、パルス変調された高周波電力をプラズマ負荷等の負荷Cに供給した場合、負荷Cのインピーダンスは、変調された高周波電力のレベル変化に伴って周期的に変化する。そのため、平均値が一定である無変調の高周波電力を発生する高周波電源装置Aの出力端から見た負荷のインピーダンスが周期的に変化し、高周波電源装置Aの出力端で検出される進行波電力Pf及び反射波電力Prのレベルは、平均値の上下に周期的に変化することになる。この場合、特に反射波電力Prが顕著なレベル変動を示す。
【0059】
第2の高周波電源装置Bからプラズマ負荷Cに与えられている高周波電力がパルス波形で変調されている場合、第2の高周波電源装置Bから負荷Cに印加される高周波電圧V2の波形は、図8(B)に示したように、包絡線が矩形波状を呈する波形となる。しかし、実際の高周波電圧の包絡線の波形は応答遅れ等の関係で完全な矩形波にはならず、正弦波形に近い波形となる。その影響で、第1の高周波電源装置Aの高周波電力発生部4の出力端で検出される進行波電力Pf及び反射波電力Prの電圧レベルV1の変動波形も正弦波形に近い波形となる。従って、本実施形態では、他の高周波電源装置Bから負荷Cに与えられている変調された高周波電力の影響により、高周波電力発生部4の出力端で検出される進行波電力Pf及び反射波電力Prのレベルが、図4に示したように、真の平均値Poの上下に正弦波状に変化する波形を呈するものとする。
【0060】
前述のように、高周波電力検出部801は、設定された制御周期Tc毎に到来するタイミングを検出タイミングとして、各検出タイミングで検出対象とする高周波電力のレベルを検出し、直近のn個(nは2以上の整数)の検出タイミングでそれぞれ検出されたn個の検出データから移動平均値を求めて、この移動平均値を検出対象とする高周波電力の平均値として検出する。
【0061】
本実施形態で用いる高周波電力検出部801はまた、上記のようにして検出した進行波電力Pfの検出値から反射波電力Prの平均値を差し引くことにより、制御対象とする高周波電力の有効電力の平均値を算出して、算出した有効電力の平均値をデューティ比演算部802に与える。
【0062】
デューティ比演算部802は、制御周期Tc毎に高周波電力検出部801により検出される制御対象とする高周波電力の平均値と電力設定値との偏差を零にするように、高周波電力発生部4のインバータ202のPWM制御のデューティ比を操作量として演算する。制御信号出力部803は、各制御周期Tc毎に、高周波電力発生部4の操作量を、デューティ比演算部802により演算された操作量とするように高周波電力発生部4に制御信号を与える。これにより、制御の対象とする高周波電力(今の例では進行波電力Pfから反射波電力Prを差し引いて求めた有効電力)の出力値(各制御周期Tcの間に検出された複数の瞬時値の平均値)を設定値に保つ制御を行う。
【0063】
本発明者は、図2に示したように、方向性結合器5の進行波電力Pf′を出力する出力ポートと反射波電力Pr′を出力するポートとに疑似信号発生器30を接続して、方向性結合器5により検出される進行波電力Pf′及び反射波電力Pr′に、他の高周波電源装置Bから負荷Cに与えられる高周波電力のパルス変調波形の周波数と同じ周波数の正弦波形の疑似信号を重畳することにより、他の高周波電源装置Bからパルス変調された高周波電力が負荷に供給されている状態をシュミレーションする実験を行った。この実験において、制御周期を細かく変化させて種々の検討を行った結果、特に制御周期Tcと電力レベルの変動周期Tzとの差が僅かである場合に、高周波電力発生部4の出力の平均値にゆらぎが生じることが明らかになった。以下この検討の結果について詳細に説明する。
【0064】
図4において、制御周期Tcが経過する毎に到来する各タイミングを検出タイミングとして、各検出タイミングで検出対象とする高周波電力(本実施形態では進行波電力Pf′及び反射波電力Pr′)のレベルを検出し、最新の検出データを含む直近のn個(nは2以上の整数)の検出タイミングの平均値(移動平均値)を検出対象とする高周波電力の平均値として検出するものとする。なお通常は、各検出タイミングで検出された検出データを最新の検出データとするが、移動平均値の演算に用いる検出データ数n及び移動平均の演算を行うサイクル数kを十分に大きく設定する場合には、例えば一つ前の検出タイミングで検出された検出データを最新の検出データとしてもよい。
【0065】
ここで、図4に示したように、制御周期Tcが電力レベルの変動周期Tz(前述した周波数f3の変調信号の周期T3と同じ周期)よりも僅かに長く設定されていた(TcとTzとの差が微差である)とすると、検出回数を重ねる毎に検出タイミングが図4において右の方に僅かずつずれていき、これに伴って、高周波電力検出部801が各検出タイミングで検出する高周波電力のレベルPxと平均値Poとの差分ΔPx(=Px−Po,x=1,2,3,…,n)が、検出回数を重ねる毎に僅かずつ平均値Poの上側に偏って変化していく。この場合1サイクルのレベル変動を検出するために必要な検出データの数nsは、非常に大きい値になり、ns>>nとなるため、高周波電力の移動平均値を演算するために用いるn個の検出データの中に、レベル変動している高周波電力の平均値を正しく演算するために必要な検出データが含まれないことになる。
【0066】
図4に示した例では、高周波電力の移動平均値が(P1+P2+…+Pn)/nで与えられるが、検出データP1,P2,…が、真の平均値Poの上側に偏っているため、演算される移動平均値Po′は、真の平均値Poよりも大きい値を示す。移動平均値の演算に用いるn個の検出データを得る位相は、時間の経過に伴って図4において右方向にゆっくりとずれていくため、移動平均値Po′の値も時間の経過に伴って変化していき、あるところまで変化すると、移動平均値Po′が真の平均値Poの下側に偏った値を示すようになる。
【0067】
また逆に制御周期Tcが電力レベルの変動周期Tzよりも僅かに短い場合には、高周波電力検出部801が各検出タイミングで検出する高周波電力のレベルPxと平均値Poとの差分が、検出回数を重ねる毎に平均値Poに対して下側に偏って変化していく。この場合は、検出される高周波電力の平均値Po′が、真の平均値Poよりも小さい値を示す。この場合も、実際に検出される平均値Po′は、検出タイミングと検出対象とする高周波電力との位相関係の変化に伴ってゆっくりと増減する。
【0068】
このように、制御周期Tcと電力変動周期Tzとの差が微差であると、演算される移動平均値Po′の値が真の平均値Poを中心にして上下にゆっくりと変動するため、移動平均値Po′に基づいて制御される高周波電力発生部4の出力もゆっくりと変動することになり、出力にゆらぎが生じることになる。
【0069】
また移動平均値の演算に用いる検出データの数nと、電力変動周期Tzでレベルが変動している高周波電力のレベルを制御周期毎に検出する場合に高周波電力の算術平均値を求めるために必要なデータ数nsとの差が大きくなると、移動平均値と真の平均値Poとの誤差が大きくなるため、高周波電力発生部4の出力の平均値を設定値に保つ出力制御の精度が低下する。一般に制御周期Tcとm・Tz(mは1以上の整数)との差が微差である場合に同様の問題が生じる。従って、制御周期Tcと電力変動周期m・Tzとの差が微差になる状態を生じさせることは避ける必要がある。
【0070】
制御周期Tcが変動周期Tzに等しい場合、またはTc=m・Tzである場合には、高周波電力検出部801が制御周期Tc毎に検出する高周波電力のレベルの移動平均値Po′がほぼ一定の値を示すため、高周波電力発生部4の出力にゆらぎが生じることはないが、この場合は、ある検出タイミングで検出されたレベルが真の平均値Poに対して誤差を有していると、その後の検出タイミングでも同じ誤差を含む検出データが得られるため、演算される移動平均値も誤差を含むことになり、その誤差が大きいと高周波電力発生部4の出力の制御精度が悪くなる。従って、Tc=m・Tzに設定することも避ける必要がある。
【0071】
本発明においては、上記のような問題が生じるのを防ぐため、制御に影響を与えない範囲で(制御の安定性を損なわない範囲で)制御周期Tcを適宜に変更することとし、高周波電力発生部4の出力側で検出される高周波電力のレベル変動の周期(電力変動周期)Tzに対して制御周期Tcを適当な値に設定することにより、高周波電力発生部4の出力端で検出される高周波電力の真の平均値Poが一定であるにも拘わらず、高周波電力検出部801が制御周期毎に検出する高周波電力の移動平均値Po′が真の平均値Poの上側又は下側に偏った変化を示す現象が起るのを防いで、高周波電力発生部801の出力にゆらぎが生じるのを防止する。
【0072】
そのため本実施形態では、他の高周波電源装置Bから負荷Cに与えられている高周波電力の周期的な変化に起因して高周波電力発生部4の出力側で検出される進行波電力及び(又は)反射波電力のレベルの変動の周期を電力変動周期Tzとして、高周波電力発生部4の出力側で検出された進行波電力Pf′及び(又は)反射波電力Pr′から検出する電力変動周期検出部10と、電力変動周期検出部10により検出された電力変動周期Tzに応じて制御周期Tcを適正値に設定する制御周期設定手段11とを設けた。タイミングコントローラ804は、制御周期Tcを制御周期設定手段11により設定された周期とするように高周波電力検出部801が高周波電力を検出するタイミング及び制御信号出力部803から高周波電力発生部4に制御信号を与えるタイミングを制御する。
【0073】
なお、高周波電源装置Aの出力端で検出される進行波電力Pf及び反射波電力Prの内、負荷のインピーダンスの変化の影響をより大きく受けるのは、反射波電力Prの方である。そのため、電力変動周期検出部10は、主に方向性結合器5を通して検出される反射波電力Pr′に基づいてレベル変動の周期Tzを検出するように構成することが好ましい。
【0074】
制御周期Tcをむやみに変化させると、高周波電力発生部の出力の制御を安定に行わせることができなくなるため、制御周期設定手段11は、高周波電力発生部4の出力制御において制御周期Tcがとり得る値の範囲内で制御周期Tcの適正値を設定するように構成することが好ましい。
【0075】
本実施形態では、高周波電力発生部4と、方向性結合器5と、制御部8と、電力変動周期検出部10と、制御周期設定手段11とにより、高周波電源装置が構成されている。
【0076】
上記のように電力変動周期Tzに対して制御周期Tcの値を適正値に設定できるようにしておくと、検出される移動平均値が真の平均値の上側に偏った値を示す状態と真の平均値の下側に偏った値を示す状態とが繰り返されることがないように制御周期の値を設定できるため、連続波形(無変調の波形)を有する高周波電力を出力する高周波電力発生部4の出力にゆらぎが生じるのを防ぐことができる。また移動平均値Po′と真の平均値Poとの誤差を小さくするように制御周期Tcを設定することができるため、出力制御の精度が低下するのを防ぐことができる。
【0077】
前述のように、制御周期Tcと電力変動周期Tzとの差が微差であると、高周波電力検出部801が検出する移動平均値と真の平均値との差が大きくなるだけでなく、移動平均値が真の平均値を中心にして上下にゆっくりと変化する状態が生じるため、出力にゆらぎが生じる。しかし、制御周期Tcと電力変動周期Tzとの差をある程度大きく設定すれば、移動平均値を真の平均値に近い形で演算することができる。
【0078】
一例として、電力変動周期Tzの1周期を0〜100%で表して、電力変動周期Tzに対して制御周期Tcを10%長くした場合を考える。この場合、1回目の制御周期で検出されるレベルP1は、ある電力変動周期Tzを10%だけ越えた時点(1回目の制御周期Tcの終了時刻)で検出されたレベルである。そして、2回目に検出されるレベルP2は、次の電力変動周期Tzを20%だけ越えた時点で検出されたレベルである。以降、同様に電力変動周期Tzを30%,…,80%,90%,100%越えた時点でそれぞれレベルP3,…,P8,P9,P10を検出することになる。この場合、各検出タイミングで演算される電力の移動平均値は、真の平均値Poに対して上側の値をとるときもあるし、下側の値をとるときもあるので、検出される移動平均値が真の平均値Poを中心にしてゆっくりと変動する状態が生じることはない。この場合、高周波電力のレベルPxを10回検出すれば、電力変動周期Tz中の全域に亘ってレベルPxを検出することになるので、各検出タイミングで演算される高周波電力の移動平均値は、真の平均値Poに近づくことになる。
【0079】
上記と逆に、電力変動周期Tzに対して制御周期Tcを10%短くした場合は、1回目に検出されるレベルP1は、ある電力変動周期Tz中の90%の時点で検出されたレベルである。そして、2回目に検出されるレベルP2は、次の電力変動周期Tz中の80%の時点で検出されるレベルである。以下同様に、電力変動周期Tz中の70%,…,30%,10%,0%の時点でレベルPxを検出することになるので、電力変動周期Tzに対して制御周期Tcを10%長くした場合と同様に、検出されるレベルが真の平均値Poを中心にして上下に変化することはない。この例でも、検出対象とする高周波電力のレベルPxを10回検出すれば、電力変動周期Tz中の全域に亘ってレベルPxを検出することになるので、高周波電力の移動平均値は、真の平均値Poに近づくことになる。
【0080】
上記のように、高周波電力に周期的なレベル変動が生じている場合でも、制御周期Tcと電力変動周期Tzとの差をある程度大きくすれば、高周波電力の移動平均値を真の平均値に近づけることができる。従って、高周波電力発生部4の出力制御を行う上で許容される範囲内で、制御周期Tcと電力変動周期Tzとの差を大きくするように、電力変動周期Tzに応じて制御周期Tcの値を設定することにより、高周波電力発生部4の出力にゆらぎが生じたり、出力制御の精度が低下したりするのを防ぐことができる。制御周期Tcの適正値は、電力変動周期Tzと制御周期Tcの適正値との関係を与える制御周期演算用マップを用いて演算することができる。このマップは、実験結果に基づいて作成することができる。
【0081】
また以下に示すように、制御周期Tcの適正値は、電力変動周期Tzでレベルが変動している高周波電力のレベルを制御周期毎に検出して得た検出データを用いて高周波電力の平均値を求める場合に、高周波電力の算術平均値を正しく演算するために必要とされる検出データの数(必要データ数)nsと、移動平均値の演算に用いる検出データの数n(予め設定された数)との関係に着目するか、または必要データ数nsに等しい数の検出データを得るために必要な時間ns×Tcと、移動平均値の演算に用いるn個の検出データを取得するのに要する時間n×Tcとの関係に着目することによっても設定することができる。
【0082】
高周波電力のレベルが周期的に変動している場合に、高周波電力のレベルを一定の時間間隔で検出して、その検出値から高周波電力の平均値を求める場合に算術平均によりその真の平均値を演算するためには、レベル変動のk(kは1以上の整数)サイクルの変動波形の全体をむら無く検出した検出データを平均することが必要である。高周波電力の移動平均値を演算する場合も、その移動平均値を真の平均値に近い値として演算するためには、演算に用いるn個の検出データが、検出しようとする高周波電力のレベル変動のkサイクルの波形の各部のレベルをむら無く検出したデータであることが必要である。移動平均値の演算に用いるn個の検出データがレベル変動波形の1サイクルの波形の一部の検出データしか含んでいない場合には、移動平均値と真の平均値との間に何らかの誤差が生じることになる。
【0083】
電力変動周期Tzでレベルが変動している高周波電力のレベルを制御周期Tc毎に検出して高周波電力の平均値を演算する場合に、その平均値を算術平均により演算するためにレベル変動波形のkサイクルの波形に対して取得する必要がある検出データの数(必要データ数)nsは、下記の式により演算することができる。
ns ={Tz/|m・Tz−Tc|} …(1)
但しmは1以上の整数であり、TzとTcとの間に下記の関係が成立しているものとする。
mTz≠Tc …(2)
なお、式(1)の演算結果が整数でない場合は、四捨五入、切り上げ、切り捨て等の適宜の端数処理を行う。
(1)式において、分母の電力変動周期Tzにmを乗じているのは、一般に制御周期Tcとm・Tzとの差が微差である場合に同様の問題が生じるからである。
【0084】
電力変動周期Tzでレベルが変動している高周波電力のレベルを制御周期Tc毎に検出して高周波電力の移動平均値を演算する場合に、移動平均値と真の平均値との誤差を少なくするためには、(1)式により演算した必要データ数nsが移動平均値の演算に用いる検出データ数nに一致している(n=nsである)か、またはnとnsとの差ができるだけ小さいことが好ましい。また移動平均値を演算するのに要する時間はn×Tcであり、必要データ数ns個の検出データを得るために必要な時間はns×Tcであるので、移動平均値と真の平均値との誤差を小さくするためには、n×Tc=ns×Tcとなるか、またはn×Tcとns×Tcとの差ができるだけ小さくなるように制御周期が設定されていることが好ましい。
【0085】
ns>n(ns×Tc>n×Tc)であると、移動平均値に用いるn個の検出データに、高周波電力のレベル変動の1サイクルの波形のレベル情報をむら無く検出したデータを含ませることができないため、移動平均値と真の平均値との誤差が大きくなる。またns<n(ns×Tc<n×Tc)であると、移動平均値に用いるn個の検出データの中に、高周波電力の平均値を正しく演算する上では余分なデータが含まれることになるため、同様に、移動平均値と真の平均値との誤差が大きくなる。
【0086】
(1)式から明らかなように、高周波電力の平均値を正しく演算するために、高周波電力のレベル変動の1サイクルの波形に対して(電圧変動周期Tzの期間に)取得する必要がある必要データ数nsは制御周期Tcと電力変動周期Tzとの関数であるため、n×Tc=ns×Tcの式を満足する制御周期の値は、電力変動周期Tzの値の変化に応じて変化する。従って、移動平均値と真の平均値との誤差を小さくするためには、制御周期Tcの値を電力変動周期Tzの値に応じて適正値(適正な範囲の値)に設定する必要がある。また制御周期Tcは、高周波電力発生部の出力の平均値を設定値に保つ出力制御の制御特性に影響を与えるので、出力制御において許容される範囲内の値に設定する必要がある。
【0087】
上記のことから、制御周期設定手段11は、以下の考え方で制御周期Tcを設定するように構成することができる。
(A)n個の検出データを用いて演算される高周波電力の移動平均値と該高周波電力の真の平均値との間に生じる誤差を許容範囲内に収めることができ、かつn個の検出データを得るために必要な時間を高周波電力発生部の制御において許容される上限時間以下に収めることができる範囲の値に制御周期の適正値を設定する。
(B)高周波電力検出部が移動平均値の演算に用いる直近のn個の検出データを得るために要する時間(n×Tc)を、n個の検出データを用いて演算される高周波電力の移動平均値と該高周波電力の真の平均値との間に生じる誤差を許容範囲内に収めることができる時間とするように、電力変動周期検出部により検出された電力変動周期に応じて制御周期の適正値を設定する。
(C)高周波電力検出部が移動平均値の演算に用いる直近のn個の検出データを得るために要する時間(n×Tc)と、電力変動周期Tz(但しTz≠Tc)でレベルが変動している高周波電力のレベルを制御周期Tc毎に検出して得た検出データを用いて該高周波電力のk(kは1以上の整数)サイクルのレベル変動の算術平均値を演算するために必要なデータ数ns個の検出データを得るのに要する時間(ns×Tc)との時間差ΔT(=Tc×|n−ns|)を、n個の検出データを用いて演算される高周波電力の移動平均値と該高周波電力の真の平均値との間に生じる誤差を許容範囲内に収めることができる範囲の時間差とするように、制御周期の適正値を設定する。
(D)高周波電力検出部が移動平均値の演算に用いる直近のn個の検出データを得るために要する時間(n×Tc)と、電力変動周期Tz(但しTz≠Tc)でレベルが変動している高周波電力のレベルを前記制御周期Tc毎に検出して得た検出データを用いて該高周波電力のkサイクル(kは1以上の整数)のレベル変動の算術平均値を演算するために必要なデータ数ns個の検出データを得るために必要な時間(ns×Tc)との時間差ΔT(=Tc×|n−ns|)を許容範囲内に収めるように、制御周期の適正値を設定する。
(E)高周波電力検出部が移動平均値の演算に用いる直近のn個の検出データを得るために要する時間(n×Tc)と、電力変動周期Tz(但しTz≠Tc)でレベルが変動している高周波電力のレベルを制御周期Tc毎に検出して得た検出データを用いて該高周波電力のkサイクル(kは1以上の整数)のレベル変動の算術平均値を演算するために必要なデータ数ns個の検出データを得るために必要な時間(ns×Tc)との時間差ΔT(=Tc×|n−ns|)を最小とするように、制御周期Tcの適正値を設定する。
【0088】
上記の各態様で電力変動周期Tzに対して制御周期Tcの適正値を設定するようにすると、高周波電力検出部801が検出する高周波電力の移動平均値と真の平均値との間の誤差を少なくすることができるため、検出される高周波電力の移動平均値が真の平均値の上側又は下側に偏った変化を示す状態が生じて高周波電力発生部の出力にゆらぎが生じたり、高周波電力検出部が検出する移動平均値と真の平均値との誤差が大きくなって出力制御の精度が低下したりするのを防ぐことができる。
【0089】
なお制御周期Tcの適正値は、高周波電力の制御に支障を来さないように予め設定された範囲で、高周波電力検出部801が制御周期毎に検出する高周波電力のレベルPxと該高周波電力の真の平均値Poとの差分ΔPxの時間積分値の絶対値を最小とする値に設定するようにしてもよい。ここで、差分ΔPxの時間積分値は、一定の時間Tの間に検出される一連の検出データP1,P2,…,Pnと高周波電力の真の平均値Poとの差分ΔP1,ΔP2,…,ΔPnの合計値である。各差分は、検出される高周波電力のレベルPxが真の平均値Poよりも高いか低いかを正負の符号により区別して演算するものとする。
【0090】
上記のように制御周期Tcを設定すると、高周波電力検出部801が検出する高周波電力の移動平均値が、他の高周波電源装置Bから負荷Cに供給されている高周波電力のレベル変動の影響を受け難くなり、高周波電力発生部4の出力端で検出される高周波電力の真の平均値Poにほぼ等しくなるため、高周波電力検出部801が検出する高周波電力の移動平均値が、他の高周波電源装置から負荷に共有される高周波電力のレベル変動の影響を受けて変動するのを抑制することができる。
【0091】
上記制御周期設定手段11は、電力変動周期検出部10により検出された負荷変動周期Tzと制御周期Tcの適正値との関係を与える制御周期演算用マップを用いて、高周波電力の制御に支障を来さないように予め設定された範囲の値をとる制御周期の適正値を演算するように構成することが好ましい。この場合に用いる制御周期演算用マップは、他の高周波電源装置が出力する高周波電力の各変調周波数に対して、出力制御の制御周期を種々変更しながら、高周波電力発生部の出力の変動量を測定する実験の結果に基づいて作成することができる。
【0092】
他の高周波電源装置からパルス変調された高周波電力が負荷に供給されている状態は、高周波電力発生部4の出力側で、高周波電力にパルス変調波形の周波数と同じ周波数の疑似信号を重畳することによりシュミレーションすることができる。例えば、図2に示すように、方向性結合器5の進行波電力Pf′を出力する出力ポートと反射波電力Pr′を出力するポートとに疑似信号発生器30を接続して、方向性結合器5により検出される進行波電力Pf′及び反射波電力Pr′に、他の高周波電源装置から負荷に与えられている高周波電力のパルス変調波形の周波数と同じ周波数の疑似信号を重畳することにより模擬することができる。
【0093】
一例として、他の高周波電源装置Bからパルス変調された60MHzの高周波電力が与えられているプラズマ負荷Cに、3.2MHzの連続波形の高周波電力を供給する場合を例にとって、他の高周波電源装置から負荷に与えられる高周波電力のパルス変調波形の周波数に等しい周波数を有する正弦波形の疑似信号を方向性結合器5から出力される進行波電力Pf′及び反射波電力Pr′に重畳して制御特性を調べる実験を行った。
【0094】
プラズマ負荷Cにプラズマを発生させるために他の高周波電源装置Bから負荷Cに供給する60MHzの高周波電力をパルス変調する場合、パルス変調波形の周波数は例えば10kHzないし90kHzの範囲で変化させられる。今回行った実験においては、他の高周波電源装置から負荷に与えられる60MHzの高周波電力のパルス変調波形の周波数を10kHz,40kHz及び70kHzとする場合を想定して、これらの周波数を有する疑似信号を疑似信号発生器30から方向性結合器5の進行波電力Pf′を出力するポートと反射波電力Pr′を出力するポートとに注入し、直流電源部2のインバータ202の出力をPWM制御する際のデューティ比を最大50%まで変化させることにより、高周波電力発生部4から出力する高周波電力のレベルを設定値に保つ制御を行った。
【0095】
上記の実験において、疑似信号の周波数を10kHz,40kHz及び70kHzとした場合に測定された高周波電力発生部4の出力レベルの時間的な変化をそれぞれ図5の(A)ないし(C)に示した。これらの図において、縦軸は電力値[W]を示し、横軸は時間[msec]を示している。これらの図から明らかなように、従来の高周波電源装置においては、他の高周波電源装置から負荷にパルス変調された高周波電力が供給されていると、そのパルス変調波形の影響を受けて、出力レベルが低い周波数で変動する。
【0096】
また本発明の実施形態において、高周波電力発生部4の出力側で検出される高周波電力のレベル変動を高周波電力検出部801により検出する際に、制御周期Tc毎に検出される高周波電力のレベル(瞬時値)Pxと真の平均値Poとの差分が、真の平均値Poの上側または下側に偏らないように、制御周期Tcを許容される範囲で電力レベルの電力変動周期Tzに対して十分に長く設定して、上記と同様の実験を行ったところ、疑似信号の周波数を10kHz,40kHz及び70kHzとした場合に観測された高周波電力発生部4の出力レベルの時間的な変化はそれぞれ図6の(A)ないし(C)に示す通りであった。
【0097】
これらの結果から明らかなように、本発明によれば、他の高周波電源装置から負荷にパルス波形等により変調された高周波電力が供給されている場合であっても、その変調波形のレベル変化の影響を受けることなく、高周波電力発生部4から出力する高周波電力の平均値を一定に保つように制御することができ、他の高周波電源装置Bから負荷Cに与えられている高周波電力のレベル変化の影響を受けて出力の平均値に低周波数の変動が生じるのを防ぐことができる。
【0098】
なお制御上許容される範囲内に制御周期Tcの適正値が存在しない場合には、設定された範囲内で制御周期Tcを時間の経過に伴って変化させるように、制御周期設定手段11を構成することにより、他の高周波電源装置Bの出力の変動に起因する出力変動を抑制することができる。
【0099】
設定された範囲内に制御周期の適正値が存在しないときに、設定された範囲内で制御周期を時間の経過に伴って変化させるようにすると、高周波電力検出部801が高周波電力を検出する位相を適宜に変化させて、高周波電力検出部801が移動平均値の演算に用いるn個の検出データが高周波電力のkサイクルのレベル変動波形の特定の部分のレベルのみを検出したデータ群からなる状態が生じるのを防ぐことができるため、高周波電力検出部が検出する移動平均値と真の平均値との誤差を少なくすることができる。
【0100】
上記の実施形態では、直流電源部2の出力電圧を制御することにより、高周波電力発生部4から出力される高周波電力のレベルを設定値に保つ制御を行わせるようにしたが、直流電源部2の出力電圧を一定として、高周波電力増幅部3を制御することにより、高周波電力発生部4から出力される高周波電力のレベルを設定値に保つ制御を行わせる場合、例えば、高周波電力増幅部3のゲインを操作量として、高周波電力発生部4から出力される高周波電力のレベルを設定値に保つ制御を行わせる場合にも本発明を適用することができる。また高周波電力発生部4を、周波数指令及び振幅指令により指令された通りの周波数及び振幅とを有する高周波信号を発生するDDS(Direct Digital Synthesizer)と、このDDSの出力を増幅する増幅器とにより構成する場合には、DDSに与える振幅指令を操作量として高周波電力発生部4の出力を制御することができる。
【0101】
上記の説明では、他の高周波電源装置Bから負荷Cに、周期的にレベル変動が生じる高周波電力が供給されている状態を模擬するために、方向性結合器5の進行波電力Pf′を出力するポートと反射波電力Pr′を出力するポートとの双方に疑似信号を注入するとしたが、方向性結合器5の進行波電力Pf′を出力するポート及び反射波電力Pr′を出力するポートの何れか一方、例えば反射波電力Pr′を出力するポートのみに疑似信号を注入するようにしてもよい。
【0102】
上記の実施形態では、制御部8が制御の対象とする高周波電力(進行波電力又は有効電力)の平均値を設定値に保つ制御のみを行うようにしたが、更に他の制御、例えば電力増幅部を構成する半導体素子を保護するために、進行波電力と反射波電力との合計値を許容上限値以下に制限する制御や、電力増幅部3で生じる損失を最小にするように直流電源部2の出力を制御する損失低減制御等を行う場合にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0103】
1 商用電源
2 直流電源部
201 整流回路
202 インバータ
203 整流・平滑回路
3 高周波電力増幅部
4 高周波電力発生部
5 方向性結合器
6 インピーダンス整合器
7 負荷
8 制御部
801 高周波電力検出部
802 デューティ比演算部(操作量演算部)
803 制御信号出力部
10 電力変動周期検出部
11 制御周期設定手段
12 タイミングコントローラ
20 他の高周波電源装置
30 模擬信号発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷に供給する高周波電力を出力する高周波電力発生部と、前記高周波電力発生部の出力側で制御対象とする高周波電力の平均値を検出して、検出した高周波電力の平均値を設定値に保つように前記高周波電力発生部を制御する制御部とを備え、前記制御部は、設定された制御周期Tc毎に到来するタイミングを検出タイミングとして前記制御対象とする高周波電力を求めるために検出対象とする必要がある高周波電力のレベルの検出データを得るとともに、直近のn個(nは2以上の整数)の検出タイミングでそれぞれ得られたn個の検出データから検出対象とする高周波電力の移動平均値を求めて、該移動平均値を検出対象とする高周波電力の平均値として前記制御対象とする高周波電力の平均値を検出する高周波電力検出部と、前記高周波電力発生部が出力する高周波電力のレベルを決定する変数の大きさを前記高周波電力発生部の操作量とし、前記高周波電力検出部により検出された制御対象とする高周波電力の平均値を設定値に保つために必要な前記操作量を演算する操作量演算部と、前記高周波電力発生部の操作量を前記操作量演算部により演算された操作量とするために前記高周波電力発生部に与える制御信号を前記制御周期毎に出力する制御信号出力部とを備えている高周波電源装置であって、
前記負荷に他の高周波電源装置から与えられている高周波電力のレベルの周期的な変化に起因して前記高周波電力発生部の出力側で検出される高周波電力のレベル変動の周期を電力変動周期Tzとして検出する電力変動周期検出部と、
前記電力変動周期検出部により検出された電力変動周期Tzに応じて前記制御周期Tcを適正値に設定する制御周期設定手段と、
を具備している高周波電源装置。
【請求項2】
前記制御周期設定手段は、前記n個の検出データを用いて演算される高周波電力の移動平均値と該高周波電力の真の平均値との間に生じる誤差を許容範囲内に収めることができ、かつ前記n個の検出データを得るために必要な時間を前記高周波電力発生部の制御において許容される上限時間以下に収めることができる範囲の値に前記制御周期の適正値を設定するように構成されている請求項1に記載の高周波電源装置。
【請求項3】
前記制御周期設定手段は、前記高周波電力検出部が前記移動平均値の演算に用いる直近のn個の検出データを得るために要する時間(n×Tc)を、前記n個の検出データを用いて演算される高周波電力の移動平均値と該高周波電力の真の平均値との間に生じる誤差を許容範囲内に収めることができる時間とするように、前記電力変動周期検出部により検出された電力変動周期に応じて前記制御周期の適正値を設定することを特徴とする請求項1に記載の高周波電源装置。
【請求項4】
前記制御周期設定手段は、前記高周波電力検出部が前記移動平均値の演算に用いる直近のn個の検出データを得るために要する時間(n×Tc)と、前記電力変動周期Tz(但しm・Tz≠Tc、mは1以上の整数)でレベルが変動している高周波電力のレベルを前記制御周期Tc毎に検出して得た検出データを用いて該高周波電力のk(kは1以上の整数)サイクルのレベル変動の算術平均値を求めるために必要なデータ数ns個の検出データを得るのに要する時間(ns×Tc)との時間差ΔT(=Tc×|n−ns|)を、前記n個の検出データを用いて演算される高周波電力の移動平均値と該高周波電力の真の平均値との間に生じる誤差を許容範囲内に収めることができる範囲の時間差とするように、前記制御周期の適正値を設定することを特徴とする請求項1に記載の高周波電源装置。
【請求項5】
前記制御周期設定手段は、前記高周波電力検出部が前記移動平均値の演算に用いる直近のn個の検出データを得るために要する時間(n×Tc)と、前記電力変動周期Tz(但しm・Tz≠Tc、mは1以上の整数)でレベルが変動している高周波電力のレベルを前記制御周期Tc毎に検出して得た検出データを用いて該高周波電力のkサイクル(kは1以上の整数)のレベル変動の算術平均値を演算するために必要なデータ数ns個の検出データを得るために必要な時間(ns×Tc)との時間差ΔT(=Tc×|n−ns|)を許容範囲内に収めるように、前記制御周期の適正値を設定することを特徴とする請求項1に記載の高周波電源装置。
【請求項6】
前記制御周期設定手段は、前記高周波電力検出部が前記移動平均値の演算に用いる直近のn個の検出データを得るために要する時間(n×Tc)と、前記電力変動周期Tz(但しm・Tz≠Tc、mは1以上の整数)でレベルが変動している高周波電力のレベルを前記制御周期Tc毎に検出して得た検出データを用いて該高周波電力のkサイクル(kは1以上の整数)のレベル変動の算術平均値を演算するために必要なデータ数ns個の検出データを得るために必要な時間(ns×Tc)との時間差ΔT(=Tc×|n−ns|)を最小とするように、前記制御周期の適正値を設定することを特徴とする請求項1に記載の高周波電源装置。
【請求項7】
前記制御周期設定手段は、検出された電力変動周期と制御周期との関係を与えるマップを用いて前記制御周期の適正値を演算するように構成されていることを特徴とする請求項1ないし6の何れかに記載の高周波電源装置。
【請求項8】
前記制御周期設定手段は、前記高周波電力発生部の出力制御において前記制御周期がとり得る値の範囲内で前記制御周期の適正値を設定することを特徴とする請求項1ないし7の何れかに記載の高周波電源装置。
【請求項9】
前記制御周期設定手段は、前記制御周期がとり得る値の範囲内に前記制御周期の適正値が存在しないときに、前記制御周期がとり得る値の範囲内で前記制御周期を時間の経過に伴って変化させるように構成されている請求項1ないし6の何れかに記載の高周波電源装置。
【請求項10】
前記kサイクル(kは1以上の整数)のレベル変動波形に対して取得する必要がある検出データの数nsは、式ns =k×{Tz/|m・Tz−Tc|}(但しmは1以上の整数で、m・Tz≠Tcとする。)により演算されることを特徴とする請求項4,5又は6に記載の高周波電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−77505(P2013−77505A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217628(P2011−217628)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】