説明

高流動モルタル製品の製造方法

【課題】高流動モルタルは、2種類以上のモルタルを、間を置かずに打ち継ぐと、先に打設した生材に後から打設した生材が食い込み、所定の深さ方向の厚み精度が保持できなかった。厚み精度を保持するためには、先の生材の硬化を待って、後の生材を打設する必要があるが、時間がかかって、製造効率が落ち、両生材の接着性能が悪く、完成品の強度不足の原因となっていた。さらに、先の生材が、繊維補強のない薄層もので、後の生材が繊維補強モルタルの場合、後の生材中の繊維が分離して、先の生材を貫通して、型枠の底面に到達して、表面に露出し、美観を損ね、表面粗度をおおきくする問題も生じていた。
【解決手段】流し込み成形型枠にフロー値が18〜32cmの高流動モルタルを打設したあと,その上面に目開き寸法が、1.5mm〜7.5mm、開口率が、50%〜75%の網シートを敷設したうえ,別の前記フロー値の高流動モルタルを,前記網シートを埋設するように前記モルタルの上面に打ち継いで打設し、硬化後、脱型することを特徴とするモルタル製品の製造方法、を提供する。
【代表図】図3

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,高流動モルタル製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高流動モルタル製品がその用途を拡大している。スランプフロー値が25cm程度以上の比較的高流動性の複合モルタルが、流し込み成形によるモルタル製品に使用されている(特許文献1)。セメント、細骨材に、比較的高い単位水量で,分散剤(例えば高性能AE減水剤)と適量の増粘剤を配合することによって,材料分離を抑えながら流動性を確保するものである。
【0003】
この高流動モルタルは,スランプ8〜12cmの通常のコンクリートに比べると流動性に富み,複雑な型枠に密実に流し込むことができ,さらに、繊維複合化して、堅牢性をもたせ繊維複合高流動モルタル製品とすることも可能である。さらに、2種類以上の高流動モルタルを打ち継いで、複雑形状品、大型製品の製造が開始されつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−327867
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、高流動モルタルは、比較的流動性に富み、まだ固まらないモルタル(以下、生材)は軟らかいため、2種類以上のモルタルを、間を置かずに打ち継ぐと、先に打設した生材に後から打設した生材が食い込み、所定の深さ方向の厚み精度が保持できなかった。厚み精度を保持するためには、先の生材の硬化を待って、後の生材を打設する必要があるが、時間がかかって、製造効率が落ち、両生材の接着性能が悪く、完成品の強度不足の原因となっていた。
【0006】
さらに、先の生材が、繊維補強のない薄層もので、後の生材が繊維補強モルタルの場合は、後の生材中の繊維が分離して、先の生材を貫通して、型枠の底面に到達して、表面に露出し、美観を損ね、表面粗度が大きくなる問題も生じていた。
【0007】
本発明はこのような問題を解決し,高流動モルタルの打ち継ぎを効率的にしながら、製品の寸法精度を向上させ、美観に優れた表面を形成させた大型又は複雑形状の高流動モルタル製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば,[1]流し込み成形型枠にフロー値が18〜32cmの高流動モルタルを打設したあと,その上面に目開き寸法が、1.5mm〜7.5mm、開口率が、50%〜75%の網シートを、網シート上面がモルタル上面に沈みこまずに、網シート下面がモルタル上面に密着するように、敷設したうえ,別の前記フロー値の高流動モルタルを,前記網シートを埋設するように前記モルタルの上面に打ち継いで、打設し、両モルタルを接着させ、硬化後、脱型することを特徴とするモルタル製品の製造方法、を提供する。
【0009】
[2]前記網シートの目開き部が、略円または略正多角形の形状であることを特徴とする前記モルタル製品の製造方法、を提供する。
【0010】
[3]前記高流動モルタルの細骨材の平均直径が、0.3mm〜5mmであることを特徴とする前記[1]、[2]記載のモルタル製品の製造方法、を提供する。
【0011】
高流動性モルタルは、打設して、静止すると、容易に水平面を形成する。このとき、前記網シートを、上面がモルタル(先打ち生材)上面に沈みこまずに、網シート下面がモルタル(先打ち生材)上面に密着するように、敷設すると、先打ち生材の水平面が、網シートを、水平に支持し、さらに網シートの水平面が、後打ち生材を水平に支持する土台を形成することとなる。
【0012】
網シート上面が、モルタル(先打ち生材)上面に沈み込むと、モルタル(先打ち生材)の高流動性で得られた水平面が保てなくなってしまう虞がある。また、網シート下面が、モルタル(先打ち生材)上面に密着していないと、網シートの水平が確保できず、打ち継ぎモルタル(後打ち生材)の水平が保てなくなる。その結果、打設方向の寸法の安定性が得られなくなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る高流動モルタルは、型枠の形状に沿って、型枠空間の隅々までモルタルが流動し、打ち継ぎによるモルタルの寸法精度の悪化がない。打ち継ぎモルタルが繊維複合モルタル組成であっても、繊維が、打ち継がれたモルタル中に移動することなく、その型枠に接した表面に到達することがないので、その流動性を反映した美観に優れた表面を現すことができる。
【0014】
先打ち生材と後打ち生材は、両材の移動を防ぐ網シートを包合するように、接合して硬化するので、複合された繊維部分の移動はなく、一方、マトリックス部分の接合は、まだ固まらない状態で打継ぐので、打ち継ぎ時間の短縮も図れ、接合部での強度低下も少なく、製品全体の強度が保持できる。
【0015】
本発明で使用する網シートが、後打生材の先打ち生材への食い込みを防止し、型枠の深さ方向の寸法精度の向上と、打設方向の均質性を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に従う高流動モルタルの流し込み成形法を説明するための打設初期の状態を示す略断面図である。
【図2】本発明に従う高流動モルタルの流し込み成形法で、網シートの設置を説明するため断面からの略斜視図である。
【図3】本発明に従う高流動モルタルの流し込み成形法を説明するための打設終期の状態を示す略断面図である。
【図4】本発明に使用する網シートを説明するための網シートの平面投影図である。
【図5】本発明に使用する網シートの構造を説明するための平面図である。
【図6】本発明によらない高流動モルタルの流し込み成形体を説明するための打設終期の状態を示す略断面図である。
【図7】本発明によらない別の高流動モルタルの流し込み成形体を説明するための打設終期の状態を示す略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示したように,製品形状を決定する型枠10の流入空間に高流動モルタル(先打ち生材)20を打設管40にて打設する。この打設は締め固めを要することなく行われる。ついで,打設されたモルタル20の上面に網シート30を敷設する。
【0018】
フロー値:「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)11.フロー試験」に記載される方法において、15回の落下運動を行わないで測定した。
高流動モルタル:前記測定方法で、フロー値、18〜32cmをもつモルタルである。
目開き寸法:円の直径、又は正多角形の対角線の最長のもので測定した寸法である。
開口率:網シートの平面投影図で、網シートの目開き部でない実体部(網シート部)の占める面積割合である。
網シートの目開き部:網シートの空部を指す。
略円または略正多角形の形状:網シート部の網目の幅の変化で目開き部の形状が、若干、円または、正多角形から歪んだ形状を指す。
【0019】
図4は、本発明に使用する網シートを説明するための網シートの平面投影図である。図4(a)は、正方形の目開き部をもつ網シートであり、図4(b)は、正六角形の目開き部をもつ網シートである。開口率は、目開き31の面積/網シート部32の平面投影面積で定義できる。開口率は、50%〜75%が好ましい。開口率が、75%を超えると、網シート部の材質によっては、水平面に載置しても、シート自体が、略水平を保持できない。また、後打ち生材が、網シートを掻い潜って食い込む虞がある。例えば、鳥よけネット、寒冷紗、蚊帳用シートは、開口率が高く、不適といえる。また、50%に満たないと、両生材の接合が十分に行われず、全体の強度発現、接合面の強度に不利となる虞がある。開口率は、網目形成の網シート部32を構成する、例えば、繊維状部材で網シートを構成するときその直径と関係し、直径によって調整することができる。目開きが同じであると、直径によって、食い込みに差が生ずる。直径が大きくなると、先打ち生材への食い込みに対する抵抗力がおおきくなる。ある程度の網シートの剛性が確保できれば、直径を小さくして、目開きを1.5mm〜7.5mmとすることによって、適切な打ち継ぎが実現できる。
【0020】
さらに、網シートは、0.5〜1.0mmの厚さのシート状が好ましい。0.5mm未満であると、後から打設した生材が食い込み、厚み方向の精度が保てない虞がある。1.0mmを越えると、後から打設した生材と先に打設した生材の接合を妨げる虞がある。網シートは、有機物でも、無機物でも構成することができるが、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、PET等の合成樹脂製が好ましい。ある程度の柔軟性があって、先打ち生材の水平面に沿って、水平面を形成するからである。繊維を織ってもよく、金型押出成形等で製造する不織物によってもよい。また、網目形状は、円形でも、ひし形等の多角形でも良いが、正方形、正六角形等の正多角形が特に好ましい。六角形では、シートの水平方向のせん断力に対するひずみを小さくすることができ、とくに、圧縮力に対するひずみが小さくできる。台形の底辺部を連ねた波状線(図5(a))を敷詰めた形状の不織網シート(図5(b))では、波状線の長さ方向(図上で上下方向)の伸びはある程度許容し、台形の高さ方向の伸びを抑えることもできる。
【0021】
更に、目開きは、1.5mm〜7.5mmであることが好ましい。目開きが、7.5mmを超えると、後打ち生材が、目開き部分から、素通りして、先打ち生材に食い込む虞がある。また、1.5mmに満たないと、両生材の接合が十分に行われず、硬化後の製品の全体の強度発現、接合面の強度に不利となる虞がある。このようにして、厚み方向と水平方向の剛性を確保することが望ましい。
【0022】
さらに、網シートの網シート部は、厚みの1/10〜1/50程度の深さの凹凸を任意の形状(例えば、縄目模様)を有することが好ましい。この凹凸部が、先打ちモルタル及び後打ちモルタルと接触を密にして、剥離と強度低下を防止する。網シートの周囲は、網シート部が切断された端部であることが好ましい。
【0023】
このとき、打ち生材高流動モルタル(先打ち生材)20は、フロー値が18〜32cmの高流動モルタルであることが好ましい。フロー値が18cm未満であると、高流動モルタルの流し込み成形が困難となる。また、網シートの適度な沈み込みが得られず、後打ち生材との接合強度が十分に得られない虞がある。フロー値が32cmを超えると、後打ち生材が、上記条件を満たす網シートを使用しても、先打ち生材に食い込んで所定の寸法精度が得られない虞がある。
【0024】
更に、前記高流動モルタルの細骨材の平均直径が、0.3mm〜5mmであることが好ましい。平均直径が、0.3mm未満であると、適切な流動性が得られない虞がある。平均直径が5mmを超えると、網シートの変形による不都合が生ずる。
【0025】
図2に示したように,先打ち生材20の上面に,前記網シートを載せる。このとき、平滑なコテ等で、網シートを軽く先打ち生材上面に押しつけて、網シート全面が付着するように敷設した。引き続いて、後打ち生材21を打設することができる。後打ち生材は、適度な流動性があれば、特に特定な条件は必要としない。これが、繊維複合材で、繊維の分離があるような性状であっても、網シートで被覆された先打ち生材に、分離した繊維が、侵入することは見られなかった。
【0026】
図3に、網シート30敷設後の生材に、後打ち生材21を、流し込み成形した、略断面図を示した。図3は、打設管を用いた例である。図示するように、流し込みに用いる打設管40は、打込み場所を移動しながら、均等に打込むことが好ましい。型枠周囲から手投入で流し込みをおこない、必要に応じて、ヘラ又は、コテ押さえで均一にしながら、打込むこともできる。
【0027】
使用する高流動モルタルの配合例を挙げると次のとおりである。
【0028】
以下に示す材料を使用した。
1)セメント ;低熱ポルトランドセメント(太平洋セメント(株)製)
2)ポゾラン質微粉末;シリカフューム(平均粒径0.7μm)
3)細骨材 ;珪砂6号と珪砂3号の2:1(重量比)混合品
4)高性能AE減水剤;ポリカルボン酸系高性能AE減水剤
5)水 ;水道水
6)無機粉末 ;石灰石粉末(平均粒径7μm)、ウォラストナイト(平均長さ0.3mm、長さ/直径の比4)
7)有機繊維 ;ビニロン有機繊維(平均長さ6mm、直径0.2mm)
【0029】
実施例
ポルトランドセメント100重量部、シリカフューム22重量部、細骨材230重量部、高性能AE減水剤4.0重量部(セメントに対する固形分)、水22重量部を二軸練りミキサーに投入し、混練した。
該配合物のフロー値を、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)11.フロー試験」に記載される方法において、15回の落下運動を行わないで測定した。その結果、フロー値は265mmであった。
前記配合物を、図1の型枠に流し込み、先打ち生材とした。次いで、ナイロン製網シート(目開き3.5mm、開口率70%、網シートを構成する網シート部の断面を円に近似してその直径φ0.7mm)を、先打ち生材に静かに載置し敷設し先打ち生材に密着させた。網シートは、巻き取って保管してあったので、載置まえに、水平面上において、巻癖を除去しておいた。網シート上面が先打ち生材上面に沈みこまずに、網シート下面が先打ち生材上面に密着するように、敷設した。
【0030】
網シート上面が、先打ち生材上面に沈み込むと、先打ち生材の高流動性で得られた水平面が保てなくなり、網シート下面が、先打ち生材上面に密着していないと、打ち継ぎモルタル(後打ち生材)の水平が保てなくなる。こうして、更に、先打ち生材と同材を混練し後打ち生材とした。これを、網シートの上から流し込み、表面平滑とした。20℃で48時間前置き後、80℃で48時間蒸気養生した。本硬化体の型枠に接触した表面の表面粗さ(Rmax)を「JIS B 0651」に基づいて表面粗さ計を使用して測定した。その結果、表面粗さ(Rmax)は5.0μmの緻密質硬化体であった。
【0031】
実施例のPC製品は、型枠空間の隅々までモルタルが流動し、打ち継ぎによるモルタル成形体の寸法精度は、8mm厚さ設計部材で厚みの寸法精度が±2mm以下であり、良好であった。さらに、先打ち材の厚さが打設時と変化していない。打設速度、打設管の移動の方法を一定にすれば、厚みの再現性が確保できた。また、打ち継ぎモルタルが繊維複合モルタル組成であっても、繊維が、打ち継がれたモルタル中に移動することなく、その型枠に接した表面に到達することがないので、その流動性を反映した美観に優れた表面を現すことができた。
【0032】
一方、上記ナイロン製網シートの敷設をせず、他の製造条件は実施例と同一とした比較例では、8mm厚さ設計部材の厚み精度が、±5mm程度となった。また、全体として、厚みのバラツキの小さな部材ができても、後打ち材が、先打ち材に食い込み、先打ち材の厚みが、打設時と大幅に変化してしまい、厚さ方向の均一性が著しく低下していた。図6は、後打ち材を素早く打設したときで、破線は、後打ち材設後の先打ち材と後打ち材の打設形成面の型枠面との交線及び後打ち材打設面と型枠面との交線を模式的に示している。図7は、後打ち材をゆっくり打設したときで、セルフレベル効果で、後打ち材の表面は、比較的平滑な状態となるものの、全体として厚み精度がとれず、先打ち材への食い込みも大きかった。本願発明に係る網シートを用いないと、後打ち材の打設速度、打設管の移動等の打設条件が、そのまま敏感に厚み精度に影響して、同一打設条件でも、厚み精度の再現性が確保できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
比較的流動性に富む高流動モルタル製品において、2種類以上のモルタルを、間を置かずに打ち継いで、所定の深さ方向の厚み精度が保持でき、製造効率を高め、両生材の接着性能を高め、完成品の強度を安定化できる。
【0034】
さらに、先の生材が、繊維補強のない薄層もので、後の生材が繊維補強モルタルの場合でも繊維が表面に露出し、美観を損ね、表面粗度をおおきくする問題も解決した。
【符号の説明】
【0035】
10: 型枠
20: 打設した高流動モルタル(先打ち生材)
21: 打設した高流動モルタル(後打ち生材)
30: 網シート
31: 目開き部
32: 網シート部
33: 網シート端部
40: 打設管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流し込み成形型枠にフロー値が18〜32cmの高流動モルタルを打設したあと,その上面に目開き寸法が、1.5mm〜7.5mm、開口率が、50%〜75%の網シートを、網シート上面がモルタル上面に沈みこまずに、網シート下面がモルタル上面に密着するように、敷設したうえ,別の前記フロー値の高流動モルタルを,前記網シートを埋設するように前記モルタルの上面に打ち継いで、打設し、両モルタルを接着させ、硬化後、脱型することを特徴とするモルタル製品の製造方法。
【請求項2】
前記網シートの目開き部が、略円または略正多角形の形状であることを特徴とする前記モルタル製品の製造方法。
【請求項3】
前記高流動モルタルの細骨材の平均直径が、0.3mm〜5mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のモルタル製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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