説明

高温潤滑剤を塗布する方法

本発明は、六方晶窒化ホウ素を粗面上に塗布する方法に関し、ここで、この窒化ホウ素は、高温耐性を有する潤滑剤として、表面に使用可能であるべきである。本発明によれば、六方晶窒化ホウ素からなるペンシルが、圧力を掛けられて粗表面を介してこすられ、その結果、こすり落とされた窒化ホウ素が表面上に固着され続ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空コーティング源の構成部品の表面上に、高温の潤滑剤を塗布する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
互いにこすりあう部品の機械的な磨耗を軽減するために潤滑剤を用いることは、広く行われている方策である。この際に、潤滑剤を周囲の条件に適合させるべきであることも公知である。真空コーティングチャンバ中で採用される潤滑剤は、真空での使用に適していなければならない。例えば、MoSが考慮の対象になる。高温環境で適用される潤滑剤は、この温度に耐性を有さねばならない。しかし、MoSは、450℃までの温度でのみ採用可能である。これより高い1200℃までの温度には、六方晶窒化ホウ素(hBN)が適しているが、これは無機黒鉛または白い黒鉛(ホワイトグラファイト)としても知られている物質である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
通常、処理されるべき表面へ塗布される潤滑剤は、噴霧される、または刷毛などで塗られる。噴霧の場合には、初期材料として液体(例えば、アルコール)が使用され、この中に潤滑剤粒子が懸濁されている。刷毛で塗られる場合には、潤滑剤粒子からなる微粉末が用いられる。この双方とも、容易で安価な公知の方法である。MoSには、これらの方法が良好に機能するが、その理由は、この材料が十分柔らかく、粗面に固着するからである。しかし、この点は、hBNには該当しない。hBNが、粗面上に噴霧されるまたは刷毛で塗布されると、hBNは実質的に表面上に緩く載置されるのみで、容易にぬぐいとられうる。したがって、互いに摩擦しあう部分が迅速に磨耗し破損する危険性を冒したくなければ、噴霧または刷毛で塗られた窒化ホウ素層を、頻繁に新しくせねばならない。
【0004】
したがって、容易に六方晶窒化ホウ素(hBN)を粗面に固着させるように塗布し、塗布された窒化ホウ素層の実質的な構成成分が容易にぬぐい取られないようにできる方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の方法では、実質的に押圧されたhBN粉体を含む固体が、粗面を介してこすられ、hBNがこの固体からこすり落とされるようにする。これは、固体が圧力をかけられて粗表面を介して動き、処理されるべき表面に留まり続けることにより達成される。hBNが緩い粉体形態で存在するのではなく、多数の粉体粒子が機械的に互いに固着し、すなわち集塊を形成し、この集塊がおそらくは粗面と噛み合うことにより、もはやhBNをこの表面から容易にこすり落とすことができなくなる。
【0006】
好ましくは、この固体は焼結過程により得られたものである。これに関して、粉体が結合するように、例えば、hBNの粉塊を選択しかつ予め押圧する。続いて、このようにして得られたいわゆる予め押圧された素地を、溶融温度未満の温度で硬化させ、圧縮する。
【0007】
好ましくは、hBN固体の形状を、ペンシル(鉛筆)の形状および/またはペンシルの芯の形状とする。本明細書の枠内では、ペンシルとは、その長さが、その幅を少なくとも一桁上回り、その高さがその幅と同じ桁であるような物体として理解され、ここで、幅は8mm未満である。このペンシルは円筒形状を有するのが良いことがわかっており、その芯の直径は1mm〜5mmである。好ましくは、2〜4mmの直径が用いられる。この種類の芯は、シャープペンシルがとりわけ良く取り扱うことができる(この芯は、いわゆるシャーペンの芯に相当する)。ここで、細芯シャープペンシルより太芯シャープペンシルが好ましいが、その理由は、標準的な太芯ペンシルは、より大きい径の芯を取り扱いうるからである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明を、実施例を用いておよび図面を参照して詳細に説明する。
本実施例は、真空下で加工物をコーティングするために採用されうるスパーク蒸発源(ARC源)に関する。ARC源は、電気的に絶縁して掛けられた閉じ込めリングを必要とし、このリングは、稼動中スパークを目標表面に留まらせるのに役立つ。このリングは、稼働中にコーティングされ、700℃まで熱せられる。本実施例では、リングがステンレススチールで製造される。
【0010】
ARC源の信頼性のある稼動のためには、このコーティングが、定期的に閉じ込めリングから取り除かれねばならない。これは、通常、閉じ込めリングをサンドブラストすることにより行われる。このために、リングを定期的に分解せねばならない。すなわち、700℃までの温度に耐え、リングを単純に構成することができ、かつ電気的に絶縁性を有し、真空に適するように閉じ込めリングを保持する保持部が必要である。これは、ここで、閉じ込めリングの側方に切削された3つの差込スリット3、3’(図1中には、2つしか見えてない)により達成され、このスリット中に、電気的に絶縁性を有するまたは絶縁されて掛けられたリング保持部のピンが噛合する。リング保持部およびピンは、図2に概略図示している。
【0011】
ピンの材料としては、機械的な安定性と、必要な温度安定性とを有し、電気的に絶縁性を有する材料を選択せねばならない。このためには、セラミックス(例えば、ZO、SiNまたはAl)が考慮される。ここで、Alは、最も安価であるが最も壊れやすい材料であり、SiNは最も壊れにくいが、最も高価な材料である。ZOが、コストおよび安定性の点から良い妥協点となる。
【0012】
閉じ込めリングを定期的に取り出して組み立てることにより、定期的にペンシルを機械的に激しく酷使するという点で、破損性は大きな役割を果たす。これに加えて、サンドブラストにより、閉じ込めリングの表面、とりわけ側方の差込スリットの表面を非常に粗面化されている。したがって、差込シャッター部を緩める方向にまたは締める方向に回転させる際に、摩擦力が著しく生じ、この摩擦力により、潤滑剤がない場合には、ピンが容易に破損する可能性がある。
【0013】
本発明によれば、焼結されたhBNからなる円筒状のペンシルを用いて、圧力を掛けながら、差込スリットの表面を介してこすることにより、差込スリットがhBNで「化粧」される。円筒状のペンシルの直径は、差込スリットの幅より小さく、その結果、ペンシルをスリット中に挿入が可能である。例えば、差込スリットの幅は5mmであり、円筒状のhBNペンシルの直径は4mmである。表面を介してこする際の圧力は、hBN材料を確実にあらましこすり落とすために、十分大きくすべきである。しかし、hBNペンシルが壊れるほど、この圧力を大きくすべきではない。実際のところでは、5バール〜50バールの圧力が有効であると実証されている。好ましくは、10バール〜40バールの間の圧力が利用される。特に好ましくは、この圧力は30バールである。本実施例では、4mmのペンシル直径において、約30Nの力がかけられた。表面においてhBNをこすり落とし、それを固着させるために、この場合、表面を予めサンドブラストで粗面化させておいるので有用である。
【0014】
すでに述べたように、hBNペンシルを、直接保持することもできるが、芯ホルダ中好ましくは太芯ホルダ中に保持することもできる。この種の芯ホルダは、図3に概略図示されている。このホルダにより、取り扱いを容易にすることができる。標準的に、現在直径が3.8mmまでのこの種のペンシルの芯ホルダが入手可能である。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤として六方晶窒化ホウ素を表面上に塗布する方法において、固体の形態での六方晶窒化ホウ素を調製して、該固体を、塗布すべき表面を介してこすり、窒化ホウ素成分が前記固体から切り離され、こすり落とされて前記表面に固着して維持されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記固体は、実質的に、六方晶窒化ホウ素の焼結により得られることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記こすり落とされた物質は、少なくとも5バール、好ましくは10バール〜40バールの間、特に好ましくは、30バールの圧力でこするにより得られることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ARC源の閉じ込めリングの差込スリットに、上記請求項のいずれか1項に記載の前記方法を利用すること。
【請求項5】
差込スリットを備えたARC源の閉じ込めリングであって、前記閉じ込めリングの表面に、前記差込スリットの領域において、少なくとも部分的に六方晶窒化ホウ素が潤滑剤として設けられている閉じ込めリングにおいて、前記六方晶窒化ホウ素は集塊の形態で前記表面に固着し、前記集塊の大部分は、それぞれ、多数の互いに密着している粉体粒子から構成されていて、前記粉体粒子の密着は、焼結プロセスにより達成されたことを特徴とする閉じ込めリング。
【請求項6】
六方晶窒化ホウ素からなる固体において、前記固体がペンシルとして存在し、これにより、前記固体が複数のスリット中に挿入されることができ、前記スリットの壁部において、前記個体がこすり落とされうることを特徴とする固体。
【請求項7】
前記ペンシルが少なくとも円筒状の端部を有することを特徴とする請求項6に記載の固体。
【請求項8】
請求項6および7のいずれか1項に記載の固体からなる芯を有するシャープペンシル。

【公表番号】特表2012−528206(P2012−528206A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512220(P2012−512220)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001061
【国際公開番号】WO2010/136088
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(598051691)エリコン・トレーディング・アクチェンゲゼルシャフト,トリュープバッハ (44)
【氏名又は名称原語表記】Oerlikon Trading AG,Truebbach
【Fターム(参考)】