説明

高純度1,2,3,4,6−ペンタ−O−ガロイル−β−D−グルコピラノースの製造方法

【課題】 課題は、タンニン酸を出発物質として、安全で高純度の1,2,3,4,6−ペンタ−O−ガロイル−β−D−グルコピラノース(PGG)を簡便でかつ安価に製造する方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、タンニン酸を緩衝液中で加溶媒分解した後、溶媒抽出することなくカラムクロマトグラフィーにより精製することを特徴とする1,2,3,4,6−ペンタ−O−ガロイル−β−D−グルコピラノースの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンニン酸を出発物質として高純度の1,2,3,4,6−ペンタ−O−ガロイル−β−D−グルコピラノース(以下、PGGという)を製造する方法に関する。詳しくは、タンニン酸を加溶媒分解したのち、逆相分配クロマトグラフィー用担体、合成吸着剤等のカラムクロマトグラフィーによりPGGを分離精製し、高純度のPGGを得る工業的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PGGを得る方法としては、例えば、植物を溶媒抽出して得たエキス分を各種クロマトグラフィーにより分離精製する方法(非特許文献1)が開示されている。しかしながら、この方法では得られるPGGは少量であり、工業的製造は困難であった。
【0003】
また、別の方法として、タンニン酸をメタノール分解し、酢酸エチル抽出した後、ODSカラムクロマトグラフィー精製によりPGGを得る方法(特許文献1)や同じくメタノール分解、酢酸エチル抽出後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー精製により得る方法(特許文献2)が知られている。しかしながら、これらの方法は、PGGを酢酸エチルで抽出する工程を含んでおり、工程が煩雑となると共に、抽出溶媒がPGGに混入する危険性がある。また、特許文献2で使用するシリカゲルは、繰り返し使用することが困難であるという問題もあった。
【非特許文献1】Planta Medica,1995,61(4),365
【特許文献1】特開平3−72490公報
【特許文献2】特開平4−275223公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、安全で高純度のPGGを簡便で安価に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、タンニン酸をメタノールなどのアルコール系溶媒を含む緩衝液中で加溶媒分解した後、溶媒抽出することなく、逆相分配クロマトグラフィー用担体又は合成吸着剤を用いたカラムクロマトグラフィーに供し、分離精製することにより、高純度のPGGが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、タンニン酸を緩衝液中で加溶媒分解した後、溶媒抽出することなくカラムクロマトグラフィー法により精製することを特徴とする1,2,3,4,6−ペンタ−O−ガロイル−β−D−グルコピラノースの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によれば、抽出用有機溶媒を使用しないため得られるPGGに有機溶剤が混入せず安全性の高いPGGの提供が可能となる。又、カラムクロマトグラフィーの充填剤として繰り返し使用が可能な逆相分配クロマトグラフィー用担体又は合成吸着剤を用いるため、工業的に非常に有用である。即ち、本発明によれば、タンニン酸を出発物質として、簡便に高純度のPGGを工業的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
タンニン酸は、植物起源のタンニンであり、日本薬局方には、その来歴、製法、構造などが記載されている。また日本では日本薬局方品以外にも種々のタンニン酸が市販されているが、本発明においてタンニン酸としては、五倍子タンニンが望ましい。
【0009】
加溶媒分解は、アルコールの存在又は非存在下で緩衝溶液中にて加熱により行われる。
アルコールが存在せずとも、緩衝溶液中で加溶媒分解反応、即ち加水分解反応は進行するが、タンニン酸が溶解しづらいため、反応の進行が遅く、アルコールを共存させることが望ましい。
アルコールとしては、直鎖または分枝アルコールが挙げられるが、メタノール、エタノール、プロパノール及びイソプロパノールからなる少なくとも1種のアルコールが望ましく、反応を早期に完了するためにはメタノールがさらに望ましい。
緩衝溶液としては、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、フタル酸緩衝液、グリシン緩衝液、コハク酸緩衝液及びトリス緩衝液が挙げられるが、酢酸緩衝液が望ましい。緩衝液のpHは、pH1から7の範囲の酸性が望ましく、pH4から7の範囲の弱酸性が更に望ましい。
反応温度は、0〜100℃、望ましくは20〜70℃の範囲で実施される。
【0010】
加溶媒分解反応後の反応液は、有機溶媒で抽出することなく常圧下または減圧下で濃縮し、そのまま次のカラムクロマトグラフィーに供する。
【0011】
カラムクロマトグラフィーに使用する担体としては、水系溶離液が使用できる逆相分配クロマトグラフィー用担体、合成吸着剤及びゲルろ過担体が挙げられるが、逆相分配クロマトグラフィー用担体及び合成吸着剤が望ましい。逆相分配クロマトグラフィー用担体としては、オクチル基、オクタデシル基、フェネチル基、ジイソプロピルオクチル基、ブチル基、t―ブチル基、アミノプロピル基、シアノプロピル基、フェニル基等の脂肪族又は芳香族官能基でシリカ表面を修飾した担体が使用できるが、シリカ表面をオクタデシル基で修飾した担体であるODSが望ましい。本発明で使用できるODSの担体として、ODS−A、ODS−AQ(以上、YMC社商品名)、ダイソーゲルSP-120-40/60-ODS-A、ダイソーゲルSP-120-40/60-ODS-B(以上、ダイソー(株)商品名)、COSMOSIL40(75)C18-OPN(PREP)(以上、ナカライテスク(株)商品名)等を例示することができる。合成吸着剤としては、芳香族系合成吸着剤またはメタクリル系合成吸着剤が使用できるが、芳香族系合成吸着剤が望ましい。本発明で用いられる芳香族系合成吸着剤としては、ダイヤイオンHP20、ダイヤイオンHP21、セパビーズSP825、セパビーズSP850、セパビーズSP700、セパビーズSP270(以上、三菱化学(株)商品名)やアンバーライトXAD4、アンバーライトXAD16HP、アンバーライトXAD1180、アンバーライトXAD2000(以上、ロームアンドハース社商品名)等を例示することができる。
使用するカラムの溶離液として、アルコール、アセトニトリル、アセトンの親水性溶媒及び/又は水が使用できるが、アルコール及び/又は水が望ましい。アルコールとしては、経済性からメタノールが望ましい。カラムクロマトグラフィーは常圧下または加圧下で溶離液を送液することにより実施される。通常、反応液を送液した後、10〜50%濃度のアルコールを送液して反応副生物を溶出し、50〜100%濃度のアルコールを送液することによりPGGを含む分画を得る。
【0012】
PGGを含む分画は、常圧下または減圧下で濃縮する。
【0013】
濃縮液は、必要に応じてアルコールを添加して濃度調整を行った後、水を加え、PGGを析出させる。アルコールとしては、メタノール、エタノールが使用できる。
析出したPGGをろ取し、乾燥して高純度のPGGを得る。また、乾燥前の湿PGGはアルコールと水の混合溶液で溶媒洗浄することにより、さらに純度を向上させることができる。
PGGの乾燥は、温風乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥など公知の任意の方法で実施できるが、PGGの熱安定性を考慮して、減圧乾燥や凍結乾燥が望ましい。
【0014】
着色成分、不溶物等を除去するために、加溶媒分解後の反応溶液並びにカラムクロマトグラフィー後のPGG分画液に適宜活性炭を添加することができる。活性炭としては、粉末状または粒状のものが使用でき、その種類は問わない。
PGGの変質を防止するために、各操作を、必要に応じて窒素やアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うことができる。
【実施例】
【0015】
次に本発明に係わる実施例を記載するが、本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0016】
製造例1
タンニン酸(大日本住友製薬製)100gをメタノール1.8Lおよび0.2M酢酸緩衝溶液(酢酸ナトリウム−酢酸、pH6)0.2Lの混合溶媒中に加え、39〜47℃で約47時間攪拌した。反応終了後、室温に戻し、粉末活性炭5gを加え、約1時間攪拌した。不溶物をろ過で除去した後、減圧下でメタノールを留去して濃縮液を得た。
濃縮液の10分の1量をODSカラム(20φ×1000mm、充填剤:YMC製、ODS−AQ)に流速8mL/分で送液した。続いて、20%メタノール(0.1%リン酸含有)約1.2L、50%メタノール約0.6Lを流速8mL/分で順次送液し、PGGを含む分画100mLを分取した。この分画のPGG純度は約93%であった。
【0017】
製造例2
タンニン酸(大日本住友製薬製)10gをメタノール180mLおよび0.2M酢酸緩衝溶液(酢酸ナトリウム−酢酸、pH6)20mLの混合溶媒中に加え、窒素雰囲気下、約40℃で約78時間攪拌した。反応終了後、室温に戻し、粉末活性炭0.5gを加え、約1時間攪拌した。不溶物をろ過で除去した後、減圧下でメタノールを留去して濃縮液を得た。
濃縮液を合成吸着剤カラム(20φ×1000mm、充填剤:三菱化学製、セパビーズ SP207)に流速5.3mL/分で送液した。続いて、35%メタノール約2.4L(流速5.3mL/分)、メタノール約0.4L(流速8mL/分)を順次送液し、PGGを含む分画260mLを分取した。この分画のPGG純度は約94%であった。
【0018】
製造例3
製造例2で得たPGG分画に粉末活性炭0.4gを加え、約1時間攪拌した後、不溶物をろ過で除去し、減圧下で濃縮した。
濃縮物に5mLのメタノールを添加した後、攪拌しながら50mLの水を滴下して加えた。氷冷温度で約1時間攪拌した後、析出した固形物を減圧下でろ取し、冷水で掛け洗浄して湿PGGを得た。
湿PGGの半分量を減圧乾燥し、2.2gのPGG(純度約97%)を得た。
【0019】
製造例4
製造例3で得た湿PGGの半分量を25mLの10%メタノールに加え、氷冷温度で約1時間攪拌した後、不溶物を減圧下でろ取し、冷水で掛け洗浄した。ろ過物を減圧下で乾燥し、2.0gのPGG(純度約99%)を得た。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンニン酸を緩衝液中で加溶媒分解した後、溶媒抽出することなくカラムクロマトグラフィーにより精製することを特徴とする1,2,3,4,6−ペンタ−O−ガロイル−β−D−グルコピラノースの製造方法。
【請求項2】
カラムクロマトグラフィーが逆相分配クロマトグラフィー用担体又は、合成吸着剤を担体とするカラムクロマトグラフィーである請求項1の製造方法。
【請求項3】
カラムクロマトグラフィーが合成吸着剤を担体とするカラムクロマトグラフィーである請求項1の製造方法。
【請求項4】
加溶媒分解に用いる溶媒が水及び/又はアルコールである請求項1の製造方法。
【請求項5】
アルコールがメタノールである請求項4の製造方法。