説明

高親和性抗ハプテンポリクローナル抗体の作製法

【課題】簡便に親和性の高い抗ハプテンポリクローナル抗体を得ることのできる製造方法を提供する。
【解決手段】前記製造方法では、動物にハプテンを免役して産生されたポリクローナル抗体から、前記ハプテンの類似構造体に結合するポリクローナル抗体を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハプテンと称される低分子に対するポリクローナル抗体の製造方法において、簡便に親和性の高い抗体を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単独で動物に免疫を施しても抗体産生を惹起しないが、タンパク質等の高分子に結合させると抗原として働き、抗体産生が可能となるような低分子物質をハプテンと称する。特に臨床検査の分野では、低分子ホルモンや血中薬物等、様々な項目でハプテンに該当する分子の測定法が利用されており、自動化装置を使用すれば迅速でコストのかからない免疫化学的測定法も依然としてハプテンの測定法として広く実施されている。ハプテンを精度良く測定することは、様々な疾患や健康状態を診断する上で望まれている。
【0003】
従来より、ハプテンを免疫学的に測定する試みが行われており、それに使用するモノクローナル抗体やポリクローナル抗体が報告されている(特許文献1)。一方、ハプテンは低分子であり、特異性や親和性の高い抗体を作製することが難しいことが知られている。特に、エストラジオールなどのステロイドホルモンはその血液診断においては高感度であることが望まれており、pg/mL程度の検出感度が必要である。しかし、ステロイドホルモンは一般的に種差のない物質であることから、免疫原としての使用した場合、抗体の力価が上がりにくいことが問題であった。
【0004】
また、一般的にハプテンに対して特異性や親和性の高いモノクローナル抗体を得ることは難しいため、実用的には、比較的容易に作製できるポリクローナル抗体が多く使用されている。しかし、ポリクローナル抗体においても多くの問題点がある。例えば、ステロイドホルモン測定系においてポリクローナル抗体はよく使用されているが、特異性や親和性の問題に加え、それらを安定して作製することも難しく、ロット差等の問題は依然改善されていないことがある。そのため、より高感度にハプテンを検出するために、ポリクローナル抗体の低分子に対する特異性や親和性を向上させる手段が検討されている。
【0005】
一般的にポリクローナル抗体の力価や特異性を向上させるためには、例えば抗原をカラムに固定化し、該抗原を動物に免疫して得られたイムノグロブリン画分をカラムにアプライし、特異的にカラムに結合した抗体のみを抽出するアフィニティカラムクロマトグラフィーを利用した作製法が行われてきた(非特許文献1)。この方法は免疫原が比較的大きなタンパク質などの場合には非常に有効な手段となるが、免疫原が非常に小さいハプテンでは抗体の結合効率が悪く、有効な手段とならないケースが多く、未だ、期待される特異性や親和性を満足する抗体は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO96/27800号公報(特表平11−501397号公報)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「ハンドブック 初めてのリガンドカップリング」,2005年改訂版,GEヘルスケアジャパン,p25(コード番号:72−HB12−02)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、簡便に親和性の高い抗ハプテンポリクローナル抗体を得ることのできる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記のような現状に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、簡便に親和性の高い抗ハプテンポリクローナル抗体を製造する方法を見出した。すなわち、後述の実施例で示す具体的な実験データと共に、以下、詳細に説明するが、ハプテン測定系に使用するポリクローナル抗体の親和性を向上あるいは調節するために、免疫原と同一な抗原ではなく、その構造が免疫原と近接した類似構造体(アナログ体)を用い、これを固定化したカラムを使用する。通常のアフィニティカラム操作とは異なり、対象抗体を前記アナログ体を固定したカラムにアプライした後、カラムに結合しなかったスルー画分を取得する。ポリクローナル抗体全体を構成する抗体の中で、このわずかな構造体の違いを特有に認識する抗体が除かれるため、結果として標的抗原により強い親和性を有した抗ハプテン抗体集団が残存する。また、このアナログ体のバリエーションをいくつか用意することでその親和性の調節が可能となり、製造条件では必須となるロット差のない抗ハプテンポリクローナル抗体を調製することができる。
本発明はこの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
[1]動物にハプテンを免役して産生されたポリクローナル抗体から、前記ハプテンの類似構造体に結合するポリクローナル抗体を除去することを特徴とする、高親和性抗ハプテンポリクローナル抗体の製造方法。
[2]動物にハプテンを免役して産生されたポリクローナル抗体と、前記ハプテンの類似構造体を担持させた不溶性担体とを接触させ、B/F分離を行うことによって高親和性抗ハプテンポリクローナル抗体を取得する、[1]の製造方法。
[3]動物にハプテンを免疫して産生されたイムノグロブリン画分を、前記ハプテンの類似構造体を固定したカラムに反応させ、前記カラムに結合しない画分を収集する、[1]又は[2]の製造方法。
[4]前記ハプテンがエストラジオールである、[1]〜[3]のいずれかの製造方法。
[5]前記ハプテンの類似構造体がエストリオール又はテストステロンである、[4]の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明における高親和性抗ハプテンポリクローナル抗体の製造方法によれば、安定して容易に親和性の高い抗体を作製することができる。これにより、ハプテン測定用の試薬製造に関わる原料(検出用抗体)を安定的に供給することが可能となり、また、測定系自体の性能向上効果も得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の高親和抗エストラジオール抗体を用いたエストラジオール測定試薬のエストラジオールに対する標準曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を更に詳細に説明するが、以下の構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、本発明はこれらの内容のみに特定されるものではない。
本発明の製造方法は、免疫原と異なる抗原であり、その構造が免疫原と近接した類似構造体(アナログ体)を固定化した不溶性担体、特には不溶性担体カラムを作製し、公知の方法に従って作製されたポリクローナル抗体を、前記アナログ体を固定した不溶性担体と接触(カラムの場合にはアプライ)した後、不溶性担体に結合しなかった画分を取得することで高親和性の抗ハプテンポリクローナル抗体を作製する。
【0014】
本発明の製造方法の出発材料として使用される抗体は、使用可能である限り、限定されないが、公知の方法に準じて作製された抗ハプテンポリクローナル抗体を使用することができる。すなわち、例えば、抗原を動物に免疫して産生された抗体を含む抗血清から精製されたイムノグロブリン画分などを使用することができる。高親和性の抗ハプテン抗体が含まれている限り、作製方法は限定されない。
また、調製されたイムノグロブリン画分などを、本発明の製造方法に使用しても良いし、保存後、あるいは、市販品を購入して、それらの親和性を向上させるために、本発明の製造方法を実施しても良い。
本発明に使用可能なポリクローナル抗体を産生する動物としては、特に限定されないが、ウサギ、ヤギ、ウシ、ヒツジ、ラット、ブタなどが挙げられる。
【0015】
本発明の類似構造体(アナログ体)を不溶性担体に化学的に担持させる方法としては、例えば、不溶性担体の表面に存在するアミノ基、カルボキシル基、メルカプト基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、エポキシ基、チオール基などの官能基を利用して、直接担体上に固定化する方法、担体とアナログ体の間にスペーサー分子を化学結合で導入して固定化する方法、アルブミン、IgGなどの他のタンパク質を担体に前記の方法で結合させた後、アナログ体をその上から更に結合させる方法、又はアルブミンなどの他のタンパク質とアナログ体を化学結合させた後、その複合タンパク質を担体に化学結合させる方法が挙げられる。一般的に担持されるタンパク質あるいはアナログ体の量は、用いる不溶性担体の表面積、官能基量等により適宜決定することができる。
【0016】
本発明方法において使用することのできる不溶性担体としては、アナログ体あるいはアナログ体が結合したタンパク質等が化学的に結合できるものであればいかなる形態の不溶性担体でも利用可能であり、例えば、化学結合で担持させうる適当な官能基を有する材質、例えば、各種プラスチック(例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、又はポリテトラフルオロエチレン)からなるビーズ、ガラス粒子、シリカ粒子、アガロースビーズ、磁性粒子、ラテックス粒子等があり、粒子マトリックスの成分としてはアガロースやデキストラン、カルボキシメチルセルロース等の多糖類、ゼラチン、重合化アルブミン等のタンパク質及びタンパク質誘導体あるいはスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物、もしくはメタクリル酸エステル誘導体等の重合によって得られる合成高分子などでもよい。より好ましくはいわゆるカラムクロマトグラフィーに使用する充填剤に相当するゲル状ビーズなどを利用することができる。
【0017】
本発明の類似構造体(アナログ体)が固定された不溶性担体の使用方法は、一般的なアフィニティクロマトグラフィーと同様の手法をとることができる。目的とする画分はカラムに結合しなかったスルー画分である。アナログ体を前記の方法で担体に固定化し、分離すべきポリクローナル抗体を含有した溶液を流し込むという方法をとる。担体に強く結合した抗体をカラム内にとどめて、結合しなかった抗体画分を取得する(カラム法)。
【0018】
また、カラムクロマトグラフィーの手法をとらずに、例えばアナログ体を固定化した不溶性担体(ビーズあるいは粒子状のもの)とポリクローナル抗体を含有した溶液を混合し、その後、遠心分離あるいは磁性粒子なら磁気分離により不溶性担体を分離、回収しこれらに結合しなかった抗体画分を取得することができる(バッチ法)。
【0019】
本発明における目的画分の回収は通常実施されるリガンドへ結合した画分を回収する手法とは異なり、あえて結合しないフロースルー画分を採用している。これはリガンドがハプテンであるため、そのエピトープの大きさ故、不溶性担体への結合保持力が弱く、通常法だと特異抗体の回収率が悪いため特に低分子ハプテンへの抗体親和性を調節する上で好適と考えられた。
【0020】
本明細書におけるハプテンとは、分子量1万以下の低分子のうち、単独ではヒトあるいは動物に対し抗体産生を惹起させるのは困難だが、タンパク質等の高分子物質と結合することにより抗体産生を惹起しうる物質を指す。さらに、高分子に結合した状態における構造的に該当する部位を指す場合もある。臨床検査でハプテンとして測定されるものの例を挙げると甲状腺ホルモン、ステロイド、アドレナリン等の低分子ホルモン、ガストリン、バソプレシン、アンジオテンシン等の小ペプチドホルモン、各種合成薬剤等がある。上記の高分子とはハプテンと異なり、単独で抗体産生を惹起できる抗原性を有する分子量5000以上の物質で、分子内にハプテン分子を含有するか、或いは化学的にハプテン分子を結合しうる官能基を有する必要がある。通常ウシ血清アルブミン、ウマフェリチンのようなタンパク質あるいはポリリジンのような、分子量数万から数十万で水溶性に優れ、官能基に富む物質が用いられる。
【0021】
本発明で用いることのできるハプテンに対する類似構造体(アナログ体)とは、例えば、ステロイドに対しては、ステロイド骨格を有する該ステロイドの類似構造体であればよく、例えば、エストラジオールに対しては、アルドステロン、アンドロステンジオン、コルチゾール、コルチゾン、DHEA−S、17α−エストラジオール、17β−エストラジオール−3−グルクロニド−17−硫酸塩、17β−エストラジオール−3β−D−グルクロニド、17β−エストラジオール−17β−D−グルクロニド、17β−エストラジオール−3−硫酸塩、5−アンドロステン−3β,17β−ジオール、17β−エストラジオール−17−プロピオン酸塩、17β−エストラジオール−3−硫酸−17−グルクロニド、17β−エストラジオール−17−吉草酸塩、エストリオール、エストリオール−3−硫酸塩、エストリオール−3−グルクロニド、エチステロン、ノルエチンドロン酢酸塩、17α−エチニル−エストラジオール、エストロン、エストロン−β−D−グルクロニド、エストロン−3−硫酸塩、エストロン−3β−グルクロニド、エストロン−3−硫酸塩、プレグネノロン、2−メトキシ−エストラジオール、クロミフェン、プレドニゾロン、ダナゾール、メステロロン、d−エキレニン、エキリン、ノルゲストレル、プロゲステロン、塩酸ラロキシフェン、タモキシフェンクエン酸塩、テストステロン、5α−ジヒドロテストステロン、5−アンドロステン−3β,17β−ジオールなどが挙げられる。上記で挙げた以外でも、当業者であれば該ステロイドの類似構造体を合成したり購入することで入手することができる。
【0022】
本発明の製造方法による、抗ハプテンポリクローナル抗体の親和性の向上あるいは調節は、該当するポリクローナル抗体を使用した免疫学的手法(例えば、酵素免疫測定法、ラテックス凝集免疫測定法、化学発光免疫測定法、蛍光抗体法、放射免疫測定法)を用い、ポリクローナル抗体に存在する目的抗原以外の物質に対する交差反応性を算出し、その程度が大きいものを前記手法にて不溶性担体に結合させて、目的抗体の該不溶性担体に結合しなかった画分を取得する。ここにおいて免疫測定法は目的抗原の絶対量を定量することができる測定であることが望ましいが、交差反応性(目的抗原に対しての割合)の程度が大きいアナログ体ほど不溶性担体に固定した場合に前記の手法においてより親和性の高い抗体を取得することが見出せた。
【0023】
本手法においては、通常、特異性の高いポリクローナル抗体を使用した免疫測定法においてはアナログ体への交差反応性は0〜50%であり、このうち0.0001〜2%が好ましい。特に親和性の高い抗体を得るには0.5〜2%程度の交差反応性を示すものが好ましい。交差反応性の程度を当該免疫測定法で把握し、目的とする免疫測定法での性能に合わせた親和性を有する抗体をアナログ体との交差反応性から選別できる。
【0024】
免疫測定法で用いる標識物質としては、公知の各種標識物質を用いることができ、例えば、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、西洋わさびペルオキシターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ、ルシフェラーゼなど)、蛍光物質(例えば、フルオレッセイン誘導体、ローダミン誘導体など)、時間分解蛍光測定が可能な希土類若しくは希土類錯体(例えば、ユーロピウム、ユーロピウム錯体など)、化学発光物質(例えば、アクリジニウムエステル等)、ラジオアイソトープ(例えば、125I、H、14C、32Pなど)、発色物質[例えば、パラニトロアニリン(pNA)]を用いることができる。すなわち、発色、蛍光、時間分解蛍光、化学発光、電気化学発光、放射活性等を測定する方法を用いることができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0026】
《実施例1:本発明の製造方法に使用するための抗エストラジオール抗体の作製》
エストラジオールに対するポリクローナル抗体を取得するために、β-Estradiol 6-(O-carboxymethyl)oxime:BSA(シグマ社)100μgを含む溶液を、同容量のフロイント完全アジュバントもしくはフロイント不完全アジュバントを等量ずつ混合したものを抗原として、ウサギ皮下へ2週間間隔で7回投与した。血清中に抗体が産生していることを確認後、さらに10μgの抗原を脈内に投与し、5日後に抗血清を取得した。さらに硫安沈殿操作後、プロテインAカラムを使用した精製操作により、抗エストラジオール抗体を取得した。
【0027】
《実施例2:アナログ体固定カラムの作製》
(1)E3−BSAの作製方法
E3(Estriol 3-carboxymethylether)(シグマ社)のカルボキシル基を、NHS(N-hydroxysuccinimide)/EDC[1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride]混合液とそれぞれが35mmol/Lになるように、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)中により活性化させた。一方で0.1mol/Lリン酸緩衝液中にBSA(Bovine serum albumin)が4mg/mLになるように懸濁したものを用意した。上記でカルボキシル基を活性化させたE3と、BSAをさらに終濃度0.06mmol/Lになるように混合し、BSA中のアミノ基と結合させるアミンカップリング法を行った。superdex200(GEヘルスケアサイエンス社)を使用したゲルろ過クロマトグラフィーにより、未反応物の除去を行い、E3−BSAを作製した。
【0028】
(2)E3−BSAのカラムへの固定化
固定化用カラムとしてHitrap NHS-activated(GEヘルスケアサイエンス社)1mLを使用した。E3−BSAをカップリング用緩衝液(100mmol/L NaHCO3, 0.5mol/L NaCl, pH8.3)に終濃度3mg/mLに懸濁し、固定化用カラムにアプライした。室温で30分間静置させた後に、カラム6容積分のブロッキング用緩衝液(200mmol/L Glycine, 0.5mol/L NaCl, pH8.3)をロードした。さらにカラム6容積分の洗浄用緩衝液(100mmol/L CH3COONa, 0.5mol/L NaCl, pH4.0)をロードした後に、カラム6容積分のブロッキング用緩衝液をロードし、室温で30分間静置させ未反応のNHS活性化カルボキシル基をグリシンによりブロッキングした。その後、カラム6容積分の洗浄用緩衝液をロードした後に、カラム6容積分のブロッキング用緩衝液をロードし、最後にカラム6容積分の洗浄用緩衝液をロードすることにより、未反応物及び非特異吸着成分を除去することによってE3−BSA固定化カラムを作製した。
【0029】
《実施例3:本発明の製造方法による高親和性抗エストラジオール抗体の作製》
PBS(ダルベッコPBS(-))に実施例1で作製した抗エストラジオール抗体を24mg/mLになるように溶解させた。この溶液をカラム容量の1/4である250μL分、E3−BSA固定化カラムにアプライし、室温で30分間静置させた。その後、PBSをカラム容量の2倍添加し、押し出された画分を高親和性抗エストラジオール抗体とした。
【0030】
《実施例4:高親和抗エストラジオール抗体を使用したエストラジオール測定試薬の作製》
(1)ビオチン化抗体の作製
上記で調製した高親和性抗エストラジオール抗体を50mmol/Lリン酸緩衝液中でビオチン(Biotin-(AC5)2Sulfo-Osu, 同仁堂社)と反応させた。反応液中の抗体の濃度は1mg/mLであり、これに対し、ビオチンを10当量添加し室温で30分間反応させた。未反応のビオチンは脱塩カラム(NAP-10 GE ヘルスケアサイエンス社)にて除去した。
【0031】
(2)標識エストラジオールの作製
標識エストラジオールの作製は上記、E3−BSAの作製方法と同様の方法で実施した。E2−6CMO(SIGMA社)のカルボキシル基を、NHS/EDC混合液とそれぞれが35mmol/Lになるように、DMF中により活性化させた。一方で0.1mol/Lリン酸緩衝液中にALP(アルカリフォスファターゼ)が2mg/mLになるように懸濁したものを用意した。上記でカルボキシル基を活性化させたE2−6CMOとALPをさらに終濃度0.009mmol/Lになるように混合し、ALP中のアミノ基と結合させるアミンカップリング法を行った。superdex200(GEヘルスケアサイエンス社)を使用したゲルろ過クロマトグラフィーにより、未反応物の除去を行い標識エストラジオールを作製した。
【0032】
《実施例5:高親和抗エストラジオール抗体を使用したエストラジオール測定試薬によるエストラジオールの検出》
小型自動免疫測定装置(PATHFAST;三菱化学メディエンス社製)を用いて測定を行った。詳細には、エストラジオール添加サンプル25μLと、ビオチン化抗エストラジオール抗体を0.1μg/mLを含む緩衝液[0.1mol/L MES (pH6), 0.05% Tween20, 0.5% BSA(シグマ社)]25μLを37℃で8分間反応させた。この混合溶液50μLに更にストレプトアビジン結合磁性粒子(Dynal社)がゼラチンを含む緩衝液[0.1mol/L MES (pH6), 0.6mol/L NaCl]に0.05%懸濁された溶液50μL及び標識エストラジオール0.05mAbsを含む緩衝液[0.01mol/L MES (pH5), 0.3mol/L NaCl, 0.1% BSA(シグマ社)]50μLを加え、37℃で5分間反応させた。0.01mol/L MOPS(pH7.5)、1mol/L NaCl、0.05%アジ化ナトリウム、0.05% TritonX−100で磁性粒子を洗浄した後、ケミルミネッセンス基質溶液[2−クロロ−5−(4−メトキシスピロ{1,2−ジオキセタン−3,2’−(5’−クロロ)−トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}−4−イル)−1−フェニルホスフェート・二ナトリウム:CDP−Star溶液]100μLを混合し、37℃で1分間反応させ、発光量をカウントした。
【0033】
結果を図1に示す。この態様においては、サンプル中のエストラジオール量が多いほどビオチン化抗体に結合するエストラジオールの量が増加し、結果洗浄後の最終的な分析に持ち込まれる標識エストラジオールが減少することとなる。エストラジオールの濃度依存的な標準曲線が得られた。
【0034】
《実施例6:エストラジオール測定試薬による交差反応性の確認》
実施例3に示されるような高親和性抗エストラジオール抗体の作製処理を施さない(E3−BSA固定化カラムにアプライしない)抗エストラジオール抗体を使用して、前記実施例4、5に示される同様のエストラジオール測定試薬を作製した。この測定系を使用し、元来ポリクローナル抗体に存在する交差反応性を定量した。サンプルは活性炭処理が施され、血清中に含有されるステロイドが除去されたHuman serum double charcoal stripped(Golden West Biologicals, Inc.)を使用し、これにエストラジオール類似構造体である各種ステロイドを添加したものを使用した。本系において得られた標準曲線を使用し、類似構造体の本系における免疫活性から見積もられる量を算出した。ここにおいてサンプル中に実際に添加された類似構造体の量と免疫活性から得られる量の比率より、類似構造体の本系における交差反応性を算出した(表1)。
【0035】
【表1】

【0036】
《比較例1:各種アナログ体固定化カラムによる抗エストラジオール抗体の作製と測定系における親和性の比較》
交差反応性と本製造法での親和性向上効果の関連性を評価するため、実施例6に示された交差反応性を示したテストステロンでの本態様での比較検証を行った。実施例2、3と同様の手法においてTestosterone 3-(O-carboxymethyl)oxime(シグマ社)を固定化させたカラムを使用し、実施例1で作製した抗エストラジオール抗体に処理を施した。未処理抗体、テストステロン固定化カラム、エストリオール固定化カラム各々において処理した3種類の抗体を使用した実施例5に示される測定系でエストラジオールに対する反応性を比較評価した。結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
表2では、エストラジオールを添加したときに得られたカウントを、添加しないサンプルを測定したときに得られるカウントのレシオ(%で表記)で示した。このレシオ値が小さければ小さいほど同一のエストラジオール添加濃度において、よりサンプル中のエストラジオールと効率的に反応した、すなわちより親和性の高い抗体を使用した結果が反映される。本結果において未処理抗体と比較し、テストステロン、あるいはエストリオール固定化カラムで処理した抗体を使用した測定系において親和性向上効果が伺えた。さらに、テストステロンとエストリオール固定化カラムで処理した抗体を使用した測定系の比較から、それぞれ先の実験結果を受けてより交差反応性の高い類似構造体を使用すればするほど、その親和性向上効果が顕在化することを発見した。
これらの結果から類似構造体のバリエーションを幾つか用意することにより、その親和性の調節が可能となり厳密さが要求される製造原料の抗体規格水準を常に満たすであろう製造法を確立することができると推定される。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、免疫学的にハプテンを測定する方法において、安定して容易に親和性の高い抗体を作製することができることから、測定試薬の安定供給や測定精度を向上することができ、ハプテンを測定する必要がある疾患等への診断に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物にハプテンを免役して産生されたポリクローナル抗体から、前記ハプテンの類似構造体に結合するポリクローナル抗体を除去することを特徴とする、高親和性抗ハプテンポリクローナル抗体の製造方法。
【請求項2】
動物にハプテンを免役して産生されたポリクローナル抗体と、前記ハプテンの類似構造体を担持させた不溶性担体とを接触させ、B/F分離を行うことによって高親和性抗ハプテンポリクローナル抗体を取得する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
動物にハプテンを免疫して産生されたイムノグロブリン画分を、前記ハプテンの類似構造体を固定したカラムに反応させ、前記カラムに結合しない画分を収集する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ハプテンがエストラジオールである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ハプテンの類似構造体がエストリオール又はテストステロンである、請求項4に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−219088(P2012−219088A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89740(P2011−89740)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(591122956)三菱化学メディエンス株式会社 (45)
【Fターム(参考)】