説明

魚肉落とし身の製造方法及び魚肉落とし身

【課題】 資源の有効利用にもつながる、品質の高い冷凍落とし身を提供する。
【解決手段】 魚肉の落とし身の製造において、頭部、内臓及びメフン(腎臓)を除去した後に採肉することを特徴とするゲル強度を低下させない落とし身の製造方法である。具体的には、魚体の洗浄工程、頭部,内臓及びメフンの除去工程、洗浄工程、採肉工程を必須工程とする製造方法である。フェノール試液によるペプチド定量法により測定したプロテアーゼ比活性が0.001以下の魚肉落とし身である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、品質の改善された魚肉落とし身の製造方法に関する。詳細には色調及びゲル形成能の改善された練製品の原料に適した魚肉落とし身の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚肉を利用したすり身製造は全世界で行われるグローバルな産業となっている。一方、近年は漁獲規制や資源の有効利用の観点から、従来経験のなかった原料を利用したすり身の製造も行われるようになってきた。漁獲時期が限られる多獲性の魚種の場合は、ほとんどが冷凍すり身として利用されている。
すり身製造の基本は以下の通りである。原料魚から頭、内臓を取り外した上で、蝶開きフィレ、もしくは、三枚卸フィレを作製する。次にフィレを採肉機にかけミンチ状となった魚肉を回収する。この魚肉のタンパク質からゲル形成の阻害となる水溶性タンパク質を水晒しで除き、皮、スジ、骨をリファイナーで除去後、脱水しゲル形成性の主要タンパク質の筋原繊維タンパク質を濃縮する。この脱水肉に冷凍変性防止剤の糖、糖アルコール及び重合リン酸塩を添加混合して冷凍するというものである。
冷凍すり身は、製造工程中、水晒し工程、脱水工程において、本来栄養や旨みの元となるべき、水溶性タンパク質が多く除去されてしまう。資源の有効利用、廃棄物量の低減という観点からは、水晒ししないで落とし身のまま利用できればより好ましいのはいうまでもないが、すり身にすることにより冷凍保存性も高く、汎用性が高いので、冷凍落とし身の利用は限られている。本発明において落とし身とは、魚から採肉された魚肉であって、すり身のように水溶性タンパク質を除去するための水晒しをせず、皮、スジ、骨などを除去しただけの魚肉である。
【0003】
すり身原料となる魚種はスケトウダラ、パシフィックホワイティング、ホッケ、イワシ、アジ、ミナミダラ、ノーザンブルーホワイティング、タチウオ、エソ、グチ、イトヨリ、キンメダイなどがよく利用される魚種として例示される。
これらのうち、ホッケのすり身はゲル強度が弱く、練り製品の原料としては不適当なため、ゲル強度を有する魚で練り製品を製造するときに、その一部を代替するというような利用がされていた。
魚のメフンは中骨の下側に付着した血液を含む組織であり、魚肉の利用目的によっては除去する必要があり、メフンを除去する装置が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-61040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、資源の有効利用につながる、品質の高い冷凍落とし身を提供することを課題とする。特に冷凍保存性が高く、練り製品の原料として好ましい物性を有する落とし身を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、より高いゲル形成能、各種魚肉を原料とする冷凍落とし身について検討する中で、魚肉、特にホッケの落とし身を製造するときに、製造方法を工夫することにより、従来にない品質の落とし身を製造することに成功し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明は、以下の(1)〜(3)の魚肉落とし身の製造方法、及び(4)〜(7)の魚肉落とし身を要旨とする。
(1)魚肉の落とし身の製造において、頭部、内臓及びメフン(腎臓)を除去した後に採肉することを特徴とするゲル強度を低下させない落とし身の製造方法。
(2)魚体の洗浄工程、頭部,内臓及びメフンの除去工程、洗浄工程、採肉工程を必須工程とする(1)の製造方法。
(3)魚肉がホッケ属(Pleurogrammus)又はタラ目(Gadiformes)に属する魚の魚肉である(1)又は(2)の製造方法。
(4)(1)ないし(3)いずれかの製造方法で製造した魚肉の落とし身。
(5)フェノール試液によるペプチド定量法により測定したプロテアーゼ活性の比活性が0.001以下である(4)の魚肉落とし身。
(6)フェノール試液によるペプチド定量法により測定したプロテアーゼ活性の比活性が0.0005以下である(5)の魚肉落とし身。
(7)(4)ないし(6)いずれかの魚肉落とし身の冷凍品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法により製造された魚肉落とし身は、冷凍保存性、ゲル形成能を有し、練り製品の原料として適した物性を有するので、冷凍すり身と同様に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1で製造した各種サンプルのプロテアーゼ活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の原料の魚肉としては、すり身原料となる魚肉であれば何でも使用することができる。具体的には、スケトウダラ、パシフィックホワイティング、ホッケ、イワシ、アジ、ミナミダラ、ノーザンブルーホワイティング、タチウオ、エソ、グチ、イトヨリ、キンメダイなどのが例示される。
本発明の好ましい一態様として、ホッケを原料とした落とし身が例示される。ホッケとは、学名Pleurogrammus azonus、カサゴ目アイナメ科ホッケ亜科に属する魚である。北海道近海で多く漁獲される。ホッケ属には、ホッケの他、シマホッケ(Pleurogrammus monopterygius)が属する。また、タラ目(Gadiformes)に属する魚にも適している。タラ目に属する魚としては、スケトウダラ、タイセイヨウダラ、マダラなどが例示される。
骨付きの魚体からすり身や落とし身を製造する場合、原料魚から頭、内臓を取り外した上で、ドレスを作製する。このとき、内臓を除去しても背骨の下側に付着して存在する腎臓(メフンと呼ばれる)が残存してしまう。メフンを除去するのは手数がかかるため、多くの場合、付着したままで採肉されている。
本発明は、このメフンに強いプロテアーゼ活性があることを見出し、それを除去して落とし身を製造することにより、そのゲル形成能を高めることができることを見出した。メフンを除去して製造したホッケ落とし身は冷凍保存性も高く、ゲル形成能も上がり、色調もより白く仕上げることができる。
フィレを除去した後の中骨から採肉する場合も、同様にメフンを除去してから採肉する。
【0011】
本発明者は、各種魚肉について検討するなかで、魚の腎臓には高いプロテアーゼ活性があることを見出した。従来、胃腸などの消化器官は消化酵素としてプロテアーゼが含まれることが考えられていたが、腎臓にそのような高いプロテアーゼ活性があることは知られていなかった。この腎臓のプロテアーゼ活性は、高いレベルにあり、すり身の品質低下原因となることは本発明者らによってはじめて確認されたものである。
【0012】
本明細書中、プロテアーゼ活性は、フェノール試液によるペプチド定量法により測定した。落とし身に4倍量のバッファー(0.1M NaCl 20mM Tris-HCl,
pH7.5)を添加し、ホモジナイズ後、60℃で1時間反応、TCA処理を行い、TCA可溶性画分のペプチド量(タンパク質分解物)をフェノール試薬により比色・定量することで、タンパク質濃度当たりの比活性として算出した値を用いている。
実施例に示したように、頭・内臓のみ除去してメフンを除去していないすり身や落とし身のプロテアーゼ活性は比活性0.0015〜0.002程度である。一方、フィレを原料としたすり身の比活性は0.001以下であった。きちんとメフンを除去することにより、0.0005以下、ほぼゼロにすることができた。
【0013】
すり身のゲル形成能の指標、すなわち、練り製品の弾力を表す一つの指標としては、ゲル強度が用いられる。通常、練り製品の破断強度(W値、g)と破断までの距離(L値、cm)の積(W値×L値)で表示される。本発明においてもゲル強度の指標としてこのJ.S.(Jerry Strength)を用いている。
【0014】
本発明の落とし身の製造方法をホッケを例に説明する。
漁獲したホッケをよく洗浄する。ホッケは底魚であり砂地に生息しているので、体表の粘液に細かい砂が付着しているため、よく洗浄しないと落とし身中にその砂が混入してしまう。続いて、頭部と内臓を除くドレス処理する。このとき、内臓を除去するだけでなく、腎臓(メフン)も取り除く。メフンの除去は機械を用いても良いし、手作業で除去してもよい、メフンの付着した部分を骨ごと除去してもよいし、メフン部分をこそげとるのでもよい。続いて、血液などの汚れを除去するための洗浄工程に付す。洗浄工程は流水で流すのでも、氷水などの中に漬けて洗浄するのでもよい。洗浄後、水を切った魚体を採肉機にかけミンチ状の魚肉を回収して落とし身となる。この落とし身から皮、スジ、骨を裏ごし機で除去後、冷凍変性防止剤の糖、糖アルコール及び/又は重合リン酸塩などを添加混合して冷凍し、冷凍落とし身となる。
【0015】
本発明の落とし身は、カマボコ、ちくわ、さつま揚げ、カニカマ、魚肉ソーセージ等の、魚肉を主成分とする魚肉練り製品の原料として用いることができる。魚肉練り製品は魚肉に副原料、例えば澱粉、グルテン、食塩、糖類、糖アルコール、調味料、香辛料、着色料等を添加して製造される。練り製品はすり身又は落とし身などに副原料を添加し、擂潰、調味、成形、加熱、冷却等の工程を経て製造される。坐り工程は、通常成型後、15〜50℃、好ましくは20〜40℃の温度下に10分〜20時間、置く工程をいい、この工程により魚肉の弾力が高まる。魚肉練り製品の製造において、本発明の落とし身は従来のすり身の代替品として用いることができる。従来のすり身よりも水晒ししていない分、旨み成分などを多く含む特徴を有する。
【0016】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
ホッケを原料とした落とし身の製造
ホッケを原料として、頭のみ除去、頭及び内臓の除去、または、頭、内臓及びメフンの除去の3通りの処理方法で落とし身を製造した。ホッケをラウンド状態で洗浄した上で、包丁を用い、1.頭のみ除去した魚、2.頭及び内臓を除去した魚、3.頭、内臓及びメフンを除去した魚を作製する。次にそれぞれを洗浄した上で採肉機にかけ、ミンチ状の魚肉を回収する。得られた落とし身を裏ごし機かけ、皮、スジ、骨を除去後した上で冷凍変性防止剤の糖、糖アルコール及び重合リン酸塩を添加混合して冷凍する(冷凍落とし身)。
これら3通りの落とし身と別途製造したホッケすり身について、ゲル強度とプロテアーゼ活性、色調、ヘム含量を測定した。
【0018】
ゲル強度測定は、落とし身又はすり身に対し食塩を3重量%添加した後、塩ずりを行うことで練り肉を作製し、これをポリ塩化ビニリデンチューブに充填した後、加熱したものを冷却してかまぼこを作製した上で、かまぼこの物性を5mm径のプランジャーを用いたフードチェッカーにより測定し、かまぼこが破断する際の強度(W値、g)と破断までの距離(L値、cm)で表されるゲル強度(JS=W値×L値)で算出した。
加熱条件は、C単品では90℃で40分間加熱、S単品では30℃で60分間加熱後、90℃で40分間加熱、M単品では60℃で30分間加熱後、90℃で40分間加熱である。S単品は坐り工程を強く反映する試験系であり、M単品は戻り工程を反映する試験系である。
【0019】
結果を表1に示す。ホッケのすり身を対照品とした。頭、内臓を除去したものに比較して、メフンも除去したものはC単品、S単品、M単品のいずれにおいても、ゲル強度の増強が認められ、すり身よりも高い結果が得られた。M単品の測定不能とは、ゲルが形成されなかったものである。
【0020】
【表1】

【0021】
プロテアーゼ活性の測定は、落とし身又はすり身に4倍量のバッファー(0.1M NaCl 20mM Tris-HCl,
pH7.5)を添加し、ホモジナイズ後、60℃で1時間反応、TCA処理を行い、TCA可溶性画分のペプチド量(タンパク質分解物)をフェノール試薬により比色・定量することで、タンパク質濃度当たりの比活性として算出した。
【0022】
結果を図1に示す。頭だけを除去して製造した落とし身のプロテアーゼ活性は高かったが、頭と内臓を除去して製造した落とし身のプロテアーゼ活性はすり身と同程度であった。さらにメフンを除去することでプロテアーゼ活性をほぼゼロにすることができた。内臓とメフンを除去することによりプロテアーゼ活性が低下したことが、ゲル強度の向上に貢献していると考えられる。
【0023】
色調についてはゲル強度測定用に作製したかまぼこ25mmに切断し、切断面の色調を色彩色差計によりL*、a*、b*で測定した。測定は各試験区10回行い、その平均値を表示した。L*が高いほど白い色調、a*が高いほど赤い色調、b*が高いほど黄色い色調となる。
ヘム含量(血液の混入の程度の指標)の測定は以下の通り行なった。落とし身に対して10倍量のアセトン(1%塩酸入り)を添加し、攪拌、ろ過することで抽出液を作製する。得られた抽出液にクロロフォルム-メタノール液を添加し、振とう、静置の上クロロフォルム層を回収する。回収液の吸光度(385nm)を測定し、ヘム含量とした。吸光値が高い方が、ヘム含量が高いことになる。
【0024】
結果を表2に示す。内臓とメフンを除去することにより、すり身と比較するとやや赤み、黄色みがあるものの、頭、内臓のみを除去したものより白い色調になった。また、血液の混入の程度を示すヘム含量も大幅に低下した。
【0025】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の方法により、すり身と同様に利用できる汎用性の高い魚肉の冷凍落とし身を製造することができる。特にホッケの落とし身は、冷凍保存性、ゲル形成能、色調にすぐれ、かつ、水溶性タンパク質を多く含有するものであり、各種練り製品等の原料として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚肉の落とし身の製造において、頭部、内臓及びメフン(腎臓)を除去した後に採肉することを特徴とするゲル強度を低下させない落とし身の製造方法。
【請求項2】
魚体の洗浄工程、頭部,内臓及びメフンの除去工程、洗浄工程、採肉工程を必須工程とする請求項1の製造方法。
【請求項3】
魚肉がホッケ属(Pleurogrammus)又はタラ目(Gadiformes)に属する魚の魚肉である請求項1又は2の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれかの製造方法で製造した魚肉の落とし身。
【請求項5】
フェノール試液によるペプチド定量法により測定したプロテアーゼ活性の比活性が0.001以下である請求項4の魚肉落とし身。
【請求項6】
フェノール試液によるペプチド定量法により測定したプロテアーゼ活性の比活性が0.0005以下である請求項5の魚肉落とし身。
【請求項7】
請求項4ないし6いずれかの魚肉落とし身の冷凍品。

【図1】
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