説明

鶏舎群

【課題】直線状に配置した1列の飼育室および1列の運動場を有する鶏舎を複数列並べて配置した場合に、風下側の飼育室であっても風上側と同様の冷却効果を得ることが可能な鶏舎群の提供。
【解決手段】直線状に配置され上部が屋根部で覆われた1列の飼育室3a,3b,3cおよび上部が開口された1列の運動場4a,4b,4cをそれぞれ有する鶏舎1a,1b,1cを複数列並べて配置した鶏舎群1において、隣り合う鶏舎1a,1b,1cの運動場4a,4bと飼育室3b,3cとの間に樹木30b,30cを配置する。この鶏舎群1では、飼育室3a,3b内で鶏の体温により暖められた空気が、運動場4a,4bを介して隣の鶏舎1b,1cの飼育室3b,3cへ伝わる際、隣り合う鶏舎1a,1b,1cの運動場1a,1bと飼育室3b,3cとの間に配置された樹木30b,30cの葉からの蒸散効果によって冷却される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の鶏舎から構成される平飼い方式の鶏舎群に関する。
【背景技術】
【0002】
養鶏方法は、大きく「ケージ飼い」と「平飼い」の2つに区分することができる。
ケージ飼いは、英語のcage(鳥かご)が語源で、現在の養鶏場のほとんどがこの方式を採っている。この方式では、数万羽の鶏を鶏舎内に設置しているケージに1〜数羽ずつ仕切って飼い、ケージには、飼料(エサ)を自動搬送する装置が設置してあるものや、産まれた卵を自動的に集めるコンベヤを設置したもの等があり、大量生産に適した方法である。
【0003】
一方、「平飼い」は、鶏をケージに入れず、鶏舎内を自由に動き回れるようにして飼う方法であり、鶏は産卵用巣箱の中で卵を産む。平飼い方式はケージ飼いに比べ、一般的に良質の卵が得られるため、近年のグルメブーム、健康食指向で注目されており、平飼いを宣伝文句とした商品も多い。この方法は、ケージ飼いに比べて、産まれた卵をすぐに隔離することができるので、汚れや傷が付く前に人手により卵を集めることができる。食用に供される鶏卵に要求される品質として、味は無論のこと、腐敗しにくいこと、コレステロールが低いこと、さらにアレルゲンが少ないこと等があげられる。
【0004】
上記した2つの方式のうち、平飼い方式は、ケージ飼いに比べより自然に近い形で飼育されるため、卵の味の点などにおいて数段に優れている。しかしながら平飼い方式においては、鶏が自由に動き回れるため、産卵用巣箱の外で卵を産む巣外卵が発生する。巣外卵には、雑菌がつきやすく、また、汚れを落とすための洗浄作業が必要になる。このため、管理者は、巣箱以外の鶏舎内を点検して、巣外卵を回収する必要があるが、鶏が邪魔になるため回収に時間がかかるという問題がある。また、鶏にも大きなストレスが発生し、このストレスのため、産卵用巣箱での産卵が減り、さらに巣外卵が増えるという問題がある。また、鶏舎内の清掃時も同様の問題が発生し、床部の清掃を怠るとコクシジウム病等が発生する。
【0005】
そこで、本発明者は、特許文献1に記載のように、鶏の飼育環境と、作業者の作業環境とをともに向上させ、高品質の卵を生産できる鶏舎およびこれを用いた養鶏方法を提案している。図5は特許文献1に記載の鶏舎群の平断面図である。図5に示すように、各鶏舎100a,100bは、直線上の通路101と、これに隣接して直線状に配置された複数の飼育室102と、各飼育室102に隣接して通路101の逆側に設けられた複数の運動場103とを備える。各飼育室102は、網状壁104,105,106により囲まれ、上部を屋根部で覆われている。また、運動場103は、上部を開口し、各飼育室102の外側の網状壁105に形成された開閉可能な扉部を介して飼育室102に出入り可能としている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−57033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このような鶏舎100a,100bは、通常、図5に示すように、複数列並べて配置(図示例では2列)し、敷地を有効活用するようにしている。ところが、このように飼育室102および運動場103を何列も並べて配置していくと、鶏の体温により暖められた鶏舎100aの飼育室102内の熱が充分に抜けきれず、運動場103を介して隣の鶏舎100bの飼育室102へ伝わるようになる。そのため、最も風下側の飼育室102がかなりの高温になり、この高温の影響により鶏が産卵しなくなってしまう。
【0008】
そこで、本発明においては、直線状に配置した1列の飼育室および1列の運動場を有する鶏舎を複数列並べて配置した場合に、風下側の飼育室であっても風上側と同様の冷却効果を得ることが可能な鶏舎群を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の鶏舎群は、直線状に配置され上部が屋根部で覆われた1列の飼育室および上部が開口された1列の運動場を有する鶏舎を複数列並べて配置した鶏舎群において、隣り合う鶏舎の運動場と飼育室との間に樹木を配置したことを特徴とする。
【0010】
本発明の鶏舎群によれば、直線状に配置された1列の飼育室および1列の運動場を有する鶏舎を複数列並べて配置した鶏舎群において、飼育室内で鶏の体温により暖められた空気が、運動場を介して隣の鶏舎の飼育室へ伝わる際、隣り合う鶏舎の運動場と飼育室との間に配置された樹木の葉からの蒸散効果によって冷却される。
【0011】
ここで、樹木は、運動場の隣り合う鶏舎の飼育室側に最も近い位置に配置されることが望ましい。これにより、飼育室内で鶏の体温により暖められた空気が、運動場を介して隣の鶏舎の飼育室へ伝わる際、飼育室の直前で冷却されることになり、空気が上部を開口させて直射日光を浴びる運動場で暖められた場合であっても飼育室の直前で冷却され、この冷却された空気が飼育室へ流れ込むようになる。
【発明の効果】
【0012】
(1)隣り合う鶏舎の運動場と飼育室との間に樹木を配置したことにより、飼育室内で鶏の体温により暖められた空気が、運動場を介して隣の鶏舎の飼育室へ伝わる際、隣り合う鶏舎の運動場と飼育室との間に配置された樹木の葉からの蒸散効果によって冷却される。これにより、隣の鶏舎の飼育室内の気温が上昇するのを防止することができ、風下側の飼育室であっても風上側と同様の冷却効果を得ることができる。
【0013】
(2)樹木が、運動場の隣り合う鶏舎の飼育室側に最も近い位置に配置されることにより、飼育室内で鶏の体温により暖められた空気が、運動場を介して隣の鶏舎の飼育室へ伝わる際、飼育室の直前で冷却される。これにより、空気が上部を開口させて直射日光を浴びる運動場で暖められた場合であっても飼育室の直前で冷却され、この冷却された空気が飼育室へ流れ込むようになるので、隣の鶏舎の飼育室内の気温の上昇を安定的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は本発明の実施の形態における鶏舎群の平断面図、図2は図1の鶏舎群の1鶏舎を示す斜視図、図3は図1の鶏舎群の1鶏舎を示す側断面図である。
【0015】
図1から図3に示すように、本発明の実施の形態における鶏舎群1は、直線状の通路2aと、これに隣接して直線状に配置された複数の飼育室3aと、各飼育室3aに隣接して、通路2aの逆側に設けられた複数の運動場4aとから構成される鶏舎1aと、同様に通路2b、複数の飼育室3bおよび複数の運動場4bから構成される鶏舎1bと、同様に通路2c、複数の飼育室3cおよび複数の運動場4cから構成される鶏舎1cとを並べて配置したものである。なお、以下では、各鶏舎1a,1b,1cについて鶏舎1aの通路2a、飼育室3a、運動場4aを例にとって説明するが、鶏舎1b,1cの通路2b,2c、飼育室3b,3c、運動場4b,4cについても同様である。
【0016】
飼育室3aは、矩形の土間の周囲を囲んで設けられた網状壁5,6,7を備えている。網状壁5,6は通路2a側および運動場4a側にそれぞれ設けられ、網状壁7は運動場4a側を向いて左右両側にそれぞれ対向配置されている。また、飼育室3aの通路2a側の網状壁5には、産卵用巣箱9が設けられている。産卵用巣箱9は、金属製で、上下に開口部を備えている。鶏が産んだ卵は上開口部から投入され、この卵は、通路2a側に開口した下開口部から作業者が飼育室3a内に入らずに回収することができる。なお、通路2a側の網状壁5にも扉部25が設けられており、作業者が出入りすることができる。
【0017】
飼育室3aの土間の上には、籾殻を厚み5〜10cmに敷き詰めた籾殻床11が形成されている。鶏は、籾殻床11上を移動して、上部に排泄された鶏糞を籾殻とともにかき混ぜる。鶏糞は、土間の上層部に棲息している好気性菌の働きによって水と二酸化炭素に分解されるので、飼育室内の空気が清浄に保たれ、悪臭の発生が防止される。
【0018】
また、各飼育室3a内には、上下動可能な給水器14が3カ所に設けられている。給水は必要な量だけが上部から行われるので、排水は必要なく、鶏舎1aの外部の排水溝を汚すこともなくなる。また、飼育室3aの上部には、霧状の水滴を噴出するノズルが設けられている。噴出された水滴は、蒸発して飼育室3a内の熱を奪って温度を下げる。ノズルへの水の供給は、給水器14と同じ供給源から行うことができる。また、鶏の体温が上昇し、熱死の危険性がある場合には、鶏の居住面まで水滴を落として、鶏の体表を濡らし、この水分を蒸発させることにより鶏の体温を直接下げるという緊急避難的な使い方も可能である。また、飼育室3a内の中央部には、図示しない給餌用樋が設けられ、鶏は、必要量の餌を摂取することができる。
【0019】
飼育室3aの運動場4a側には、上下位置を調整可能な止まり木15が設けられている。止まり木15は、複数の水平棒16および各水平棒16の両端部を接続した2本の支持棒17を備え、幅広のはしご状に形成されている。2本の支持棒17の上端部は、運動場4a側の網状壁6の上部の梁材に回動可能に支持されている。最下部に配置された水平棒16aに、図示しないひも状部材を取付け、このひも状部材を上方に引張った状態で固定することにより、止まり木15を任意の高さに配置することができる。
【0020】
また、各飼育室3aは、上部が屋根部8により覆われている。屋根部8は、大屋根18および小屋根19を備えている。大屋根18は、飼育室3aの全体および通路2aの上部を覆い、運動場4a側に上端を配置して傾斜配置されている。大屋根18の裏側には、断熱材20が設けられ、飼育室3a内の温度変化が小さくなるようにしている。小屋根19は、大屋根18とは逆側に傾斜して、大屋根18の上端部の下方位置にその基端部を上から見て重なるように配置し、先端部を運動場4a側下方に張り出して設けられている。
【0021】
飼育室3a内の空気は暖められて上昇し、小屋根19と大屋根18の間の隙間から外側に排出される。雨が降った場合は、雨水を大屋根18から通路2a側に排出し、また、小屋根19から運動場4aに排出する。雨が降っているとともに風が吹いているときには、通路2aが濡れる場合があるが、大屋根18の下端部が通路2aを覆っているので、飼育室3a内は濡れないようになっている。また、小屋根19が設けられているので、運動場4a側から雨が降り込むことも防止される。さらに、小屋根19によって、真夏日に飼育室3a内に直射日光が当たることも防止され、飼育室3a内の温度が上がり過ぎて、鶏の生育状態が悪くなることが防止される。
【0022】
また、運動場4a側の各網状壁6の外側であって、小屋根19の下部には、1つの巻き上げ式のカーテン部材22が固定されている。また、通路2a側の各網状壁5の外側であって、大屋根18の下部には、1つの巻き上げ式のカーテン部材21が固定されている。カーテン部材21,22は、複数の飼育室3aを同時に覆って風を遮ることができる。通常は、換気をよくするためカーテン部材21,22を巻き上げ、運動場4a側と通路2a側を開放しているが、風が強い日は、鶏に与えるストレスを軽減するため、カーテン部材21,22を下げる。
【0023】
運動場4aは、飼育室3aよりも広く形成され、飼育室3a側に設けられた網状壁6に対向する側には網状壁12が設けられ、飼育室3a側を向いて左右両側に網状壁13がそれぞれ対向配置されている。運動場4a側の網状壁6には、開閉可能な扉部10が形成されており、鶏は、扉部10を介して飼育室3aと運動場4aとの間を移動することができる。運動場4aの上部は開口しており、運動場4a内の鶏は、日光を直接浴びることができる。また、鶏舎1a,1b間の運動場4aおよび鶏舎1b,1c間の運動場4b内には、それぞれ隣り合う鶏舎1b,1cの飼育室3b,3c側に最も近い位置に複数の樹木30b,30cが一列に植えられている。なお、最も端の鶏舎1aの通路2aの飼育室3aとは反対側にも、複数の樹木30aが一列に植えられている。
【0024】
運動場4aと、これに隣接する運動場4aとの間の網状壁13には、図示しない車両が通行可能で開閉可能な扉部23がそれぞれ設けられている。トラック等の作業用車両は、各扉部23を開放することにより、所定の飼育室3aに隣接する位置に移動できる。かかる構成によって、大型の鶏舎群1を建設した場合でも、補修用の資材等の搬入や各飼育室3a内から排出された鶏糞等の搬出を迅速に行うことができる。
【0025】
次に、この鶏舎群1の冷却作用について説明する。図4は図1の鶏舎群の風の流れを示す側断面図である。
【0026】
図4に示すように、この鶏舎群1では、まず最も端の飼育室3aの風上側に配置された樹木30aの葉からの蒸散効果によって冷却された空気が、通路2aを介して端の鶏舎1aの飼育室3aに流入する。飼育室3a内の空気は鶏の体温により暖められて上昇し、小屋根19と大屋根18の間の隙間から外側に排出されるとともに、風下側の運動場4aおよび通路2bを介して隣の鶏舎1bの飼育室3bへ伝わる。このとき、この空気は、運動場4aと隣り合う鶏舎1bの飼育室3bとの間に配置された樹木30bの葉からの蒸散効果によって再び冷却され、通路2bおよび飼育室3bへ流入する。その後も同様に、飼育室3bで暖められた空気は、運動場4bから隣の鶏舎1cの飼育室3cへ伝わる際、運動場4bと飼育室3cとの間に配置された樹木30cの葉からの蒸散効果によって冷却され、通路2cおよび飼育室3cへ流入する。
【0027】
したがって、鶏舎1a,1bの飼育室3a,3b内で鶏の体温により暖められた空気が、運動場4a,4bを介して隣の鶏舎1b,1cの飼育室3b,3cへ伝わる際に冷却されることにより、隣の鶏舎1b,1cの飼育室3b,3c内の気温が上昇するのを防止することができ、風下側の飼育室3b,3cであっても風上側と同様の冷却効果を得ることができる。なお、このような冷却効果は、3鶏舎1a,1b,1c以上並べて配置される場合に特に有効であり、通常であれば風下の飼育室3cまで届かないような風の状態であっても飼育室3c内の気温を適温に保つことが可能である。
【0028】
また、本実施形態における鶏舎群1では樹木30b,30cが、それぞれ運動場4a,4bの隣り合う鶏舎1b,1cの飼育室3b,3c側に最も近い位置に配置されているので、飼育室3a,3b内で鶏の体温により暖められた空気が、運動場4a,4bを介して隣の鶏舎1b,1cの飼育室3b,3cへ伝わる際、飼育室3b,3cの直前で冷却される。これにより、空気が上部を開口させて直射日光を浴びる運動場4a,4bで暖められた場合であっても飼育室3b,3cの直前で冷却され、この冷却された空気が飼育室3b,3cへ流れ込むようになるので、隣の鶏舎1b,1cの飼育室3b,3c内の気温の上昇を安定的に防止することができる。
【0029】
また、このような鶏舎群1では、無風状態であっても、樹木30a,30b,30cによって通路2a,2b,2c側の空気が冷却され、飼育室3a,3b,3c側の空気が鶏の体温により暖められることにより、この気温差による対流を生じ、樹木30a,30b,30cにより冷却された空気が飼育室3a,3b,3cへ流入するようになる。すなわち、鶏舎群1の周囲が無風状態であってもこの鶏舎1内には風が通ることになり、各飼育室3a,3b,3c内の気温を適温に保つことができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、鶏をケージに入れず、鶏舎内を自由に動き回れるようにして飼う平飼い方式の鶏舎群として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態における鶏舎群の平断面図である。
【図2】図1の鶏舎群の1鶏舎を示す斜視図である。
【図3】図1の鶏舎群の1鶏舎を示す側断面図である。
【図4】図1の鶏舎群の風の流れを示す側断面図である。
【図5】従来の鶏舎群の平断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 鶏舎群
1a,1b,1c 鶏舎
2a,2b,2c 通路
3a,3b,3c 飼育室
4a,4b,4c 運動場
5,6,7 網状壁
8 屋根部
9 産卵用巣箱
10 扉部
11 籾殻床
12,13 網状壁
14 給水器
15 止まり木
16,16a 水平棒
17 支持棒
18 大屋根
19 小屋根
20 断熱材
21,22 カーテン部材
23 扉部
24 側壁
25 扉部
30a,30b,30c 樹木

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状に配置され上部が屋根部で覆われた1列の飼育室および上部が開口された1列の運動場を有する鶏舎を複数列並べて配置した鶏舎群において、隣り合う鶏舎の運動場と飼育室との間に樹木を配置したことを特徴とする鶏舎群。
【請求項2】
前記樹木が、前記運動場の隣り合う鶏舎の飼育室側に最も近い位置に配置された請求項1記載の鶏舎群。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−117011(P2007−117011A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315034(P2005−315034)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(501260255)有限会社緑の農園 (1)
【Fターム(参考)】