説明

麦芽の加工方法及び発酵麦芽飲料の製造方法

【課題】ビール香味安定性の低下を招く、麦芽T2N−P及びLOX活性を著しく低減させた魅力のある麦芽を製造する技術を提供すること。
【解決手段】本発明は、麦芽を40℃以上で加熱することを含む麦芽の加工方法を提供する。さらに、本発明は、麦芽を10〜100℃の水で洗浄し、乾燥させることを含む麦芽の加工方法を提供する。さらに、本発明は、前記麦芽の加工方法によって加工された麦芽を提供する。さらに、本発明は、前記麦芽の加工方法によって加工された麦芽を原料とする発酵麦芽飲料の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は通常の麦芽と同様にビールや発泡酒あるいはウィスキー等の酒類醸造に用いる原料として使用できる麦芽の加工方法に関し、更に詳しくは効果的に麦芽のT2N−PおよびLOXを低減させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールを一定期間保存すると、ブランドによって程度の差はあるものの、劣化した特有の香味が感じられる。劣化ビールの香味の一つにカードボード臭があり、その指標成分はトランス−2−ノネナール(T2N)であることが知られている。また、製麦工程又はビール醸造の主に仕込工程において、LOXの働き又は自動酸化によって脂質は脂質ヒドロペルオキシドに、又は脂肪酸は脂肪酸ヒドロペルオキシドとなり、それら過酸化物がT2Nの前駆体物質であり、更に泡持ちを悪化させる物質であるといわれている。つまり、麦芽アルコール飲料の香味安定性及び泡品質を向上させる上で、製麦及び仕込工程中のLOX活性は、重要な一要因であると考えられている(非特許文献1)。
【0003】
長年ビール研究者及び技術者は、ビール保存時のT2N生成量が低い香味安定性に優れたビールを製造するため、仕込工程を中心とした醸造工程の研究がなされ、その成果が現業のビール工場において実用化されてきた。
しかし、仕込工程でのT2N低減策については多数報告されているものの、製麦工程に関する報告は少ない(特許文献1及び2)。また、一般的な淡色麦芽の製造方法の範囲内においては、LOXを著しく(例えば2〜3U/g程度まで)低減させることは難しい。よって、ビールの仕込工程前に麦芽を処理し、香味安定性を高める技術が望まれている。
なお、近年麦芽品質がビール香味安定性に及ぼす影響が注目されており、これを評価する為の指標として麦芽ノネナールポテンシャル(以下、麦芽T2N−Pと記す)分析法が開発され、この分析値の低い麦芽を使用すれば香味安定性の優れたビールが製造可能となることが明らかとなった(特許文献3)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−102690号公報
【特許文献2】特開平5−137555号公報
【特許文献3】特開2002−253196号公報
【非特許文献1】N. Kobayashi H.Kaneda Y.Kano and S. Koshino Proceeding of theEuropean Brewry Congress 1993 405-420
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ビール香味安定性の低下を招く、麦芽T2N−P及びLOX活性を著しく低減させた魅力のある麦芽を製造する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
製麦後の麦芽が吸湿すると、カビ等が発生しやすくなり、ビール醸造等に利用できない麦芽となってしまう場合がある。そのため、製麦後の麦芽の保存安定性ならびにハンドリングの観点からは麦芽を吸湿させないことは常識である。しかしながら、麦芽T2N−P及びLOX活性を低減させるためには、大麦を浸麦、発芽、焙燥工程を経て製麦した麦芽を水で洗浄及び/又は加熱乾燥することが非常に有効であることを見出した。
すなわち、本発明は、麦芽を40℃以上で加熱することを含む麦芽の加工方法を提供する。
さらに、本発明は、麦芽を10〜100℃の水で洗浄し、乾燥させることを含む麦芽の加工方法を提供する。
さらに、本発明は、前記麦芽の加工方法によって加工された麦芽を提供する。
さらに、本発明は、前記麦芽の加工方法によって加工された麦芽を原料とする発酵麦芽飲料の製造方法を提供する。
なお、それぞれの施策の最適条件を検討することにより、麦芽T2N−P及びLOX活性は低減したが、香味劣化のほとんどない麦芽を調製できることが実用スケールにおいて確認された。また、これらの麦芽は水洗浄後十分に乾燥しているため、保存性、輸送適合性も高く、通常の麦芽と同等の取扱いが可能である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により麦芽に存在する麦芽T2N−P及びLOX活性を著しく低減することが可能であり、ビール醸造工程ならびにビール製品品質に悪影響を及ぼさずに、通常の麦芽と同様に取り扱うことが出来る。その結果、ビールの香味安定性を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の麦芽の加工方法は、麦芽を加熱することを含む。
麦芽の加熱は、好ましくは40℃以上で行い、より好ましくは50〜80℃で行なう。また、麦芽の加熱は、好ましくは1時間以上行い、より好ましくは4〜10時間行なう。これらの条件を満たすことにより、より効率よく麦芽T2N−P及びLOX活性を低減することができる。加熱手段としては、高温蒸気、熱風処理などが挙げられる。
麦芽を加熱する際には、麦芽を水で湿潤させ、麦芽に対して、好ましくは1〜10倍量(重量)の水を麦芽に加えて加熱し、より好ましくは2〜4倍量(重量)の水を麦芽に加えて加熱する。これらの条件を満たすことにより、より効率よく麦芽T2N−P及びLOX活性を低減することができる。なお、麦芽に水を加えて加熱する際に、例えば振盪し、攪拌し、又はエアレーションすることによって、麦芽T2N−P及びLOX活性の低減をさらに効率よく行なうことができる。
【0009】
また、別の態様として、本発明の麦芽の加工方法は、麦芽を水で洗浄し、乾燥させることを含む。
麦芽を水に浸漬する時間は、好ましくは1時間以上であり、より好ましくは1〜2時間である。麦芽を洗浄する水の量は、麦芽に対して、好ましくは1〜10倍量(重量)であり、より好ましくは2〜4倍量(重量)である。また、微生物の繁殖による香味の劣化を防ぐためには、水温はできるだけ低い方がよいが、洗浄効率や洗浄設備等を考えると、麦芽を水で洗浄する際の温度は、好ましくは10〜100℃であり、より好ましくは50〜80℃である。さらに、麦芽を水で洗浄する工程において、好ましくは水を1回以上交換し、より好ましくは2〜3回交換する。これらの条件を満たすことにより、より効率よく麦芽T2N−P及びLOX活性を低減することができる。
【0010】
次に、麦芽の乾燥は、従来公知の任意の方法により行なうことができる。例えば、凍結乾燥や、20〜100℃に調温された熱風を送風供給して行なう乾燥処理などが挙げられる。乾燥後の麦芽の水分含量は、好ましくは13重量%であり、より好ましくは3〜6重量%である。乾燥が不十分なときには、カビ等が発生しやすくなり、ビール醸造等に利用できない麦芽となってしまう場合がある。
【0011】
以下に好ましい実施態様として、具体的な麦芽の加工方法を説明するが、本発明は以下の方法に限定されるものではない。
麦芽を洗浄用タンク内に入れた後、タンク下部より15〜20℃の水を麦芽の2〜3倍量供給し、洗浄を行なう。また、途中でタンク下部より排水して再び供給することを繰り返し、水の交換を実施する。なお、微生物の繁殖による香味の劣化を防ぐためには、水温はできるだけ低い方が良い。また、洗浄効果を高めるためには水の量や交換回数をできるだけ増やすことや、常時水を供給することでタンク上部からオーバーフローさせることも有効である。なお、洗浄用タンク下部にはエアレーション用ノズルが付設しており、洗浄中にエアレーションを行なうことで麦芽が均一に撹拌され、より高い洗浄効果が得られる。このエアレーションを長時間行なうほど高いLOXの低減効果が得られるが、過剰な洗浄は麦芽の破損や後工程である乾燥の効率を低下させることから、エアレーションを10〜60分程度実施すれば適切な状態での洗浄が行なえる。なお、洗浄工程の総時間は1〜10時間であり、洗浄後の麦芽水分は10〜50%となる。
洗浄が終了した麦芽を乾燥設備内に入れ、外部より20〜100℃に調温された熱風を送風供給して、洗浄後の麦芽を乾燥処理した。なお、乾燥設備の床面は網目状の構造をしており、下部から熱風を供給すれば熱風が麦層を通過して上部へ抜けるため、均一な乾燥状態が得られる。乾燥の程度は麦芽水分が2〜10%に低下するまでであるが、この乾燥時間が長期化した場合、微生物が繁殖し香味の劣化を招く。よって、短時間、たとえば8〜10時間程度でこの乾燥工程が終了すれば、好ましい淡色麦芽が得られる。また、加熱による麦芽分析値への影響を出来る限り抑えるためには、低温、たとえば75℃の熱風を供給すれば、好ましい状態での乾燥が行なえる。
【0012】
また、別の実施態様として、以下の方法がある。
麦芽を洗浄用タンク内に入れた後、タンク下部より15〜20℃の水を麦芽の2〜3倍量供給し、洗浄を行なう。また、途中でタンク下部より排水して再び供給することを繰り返し、水の交換を実施する。なお、微生物の繁殖による香味の劣化を防ぐためには、水温はできるだけ低い方がよい。また、洗浄効果を高めるためには、水の量や交換回数をできるだけ増やすことや、常時水を供給することでタンク上部からオーバーフローさせることも有効である。さらに、洗浄用タンク下部にエアレーション用ノズルを付設すれば、洗浄中にエアレーションを行なうことで麦芽が均一に撹拌され、より高い洗浄効果が得られる。なお、後工程であるロースト工程においてカラメル化を好ましい状態まで進めるためには、焙煎開始前の麦芽水分は30〜50%程度必要であり、ここまで吸水を進めるためには、例えば12〜24時間程度の洗浄時間が必要となる。洗浄工程が終了した麦芽は、タンク下部から排水を行い、2〜24時間程度の水切り工程を行なう。この工程により、穀粒内部の吸水が均一化することでカラメル化が均一に進行するとともに、表面の過剰な水分が除去されることでロースト設備内部への焦げ付きを防止することが出来る。
水切り工程が終了した麦芽をロースト設備内に入れ、外部より20〜200℃程度に調温された熱風を送風供給して乾燥処理した。なお、ロースト設備はドラム状であり、回転することで麦芽は撹拌され、均一に処理される。また、ドラム内部への送風を止め、50〜80℃程度の温度に10〜60分程度保つ蒸らし工程をロースト初期に行い、糖化を進める必要がある。
ローストの程度は麦汁色度が50〜300°EBCまで上昇し、また麦芽水分が1〜10%に低下するまでであるが、150℃の熱風を120〜180分程度送風すれば、好ましい状態まで焙煎が行なえる。
【0013】
上述の本発明の麦芽はビールや発泡酒あるいはウィスキー等の発酵麦芽飲料の製造に用いる原料として使用できる。また、上述の通り加工した麦芽や水に浸漬した麦芽は、通常の麦芽と同様に、通常の発酵麦芽飲料の製造方法に用いる原料として使用できる。
発酵麦芽飲料の製造工程は、通常行われている製造工程であれば、いずれの工程であってもよい。以下に好ましい実施態様として、具体的な製造工程を図1を参照して説明するが、本発明は以下の工程に限定されるものではない。
主原料である麦芽の粉砕物の一部及び澱粉質の副原料の全部又は一部を仕込釜に入れ、温水を加えてこれらの原料を混合して液化を行い、マイシェを作る。この操作は通常、開始時の液温を50℃程度とし、徐々に昇温して所定温度(通常は65〜68℃)とした後、該温度に所定時間(通常は10分間程度)保持し、更に昇温して段階的に所定の温度(通常は90〜100℃)まで液温を高め、この温度に20分程度保持する。一方、仕込槽では、残りの麦芽粉砕物に温水を加えて混合し、所定温度(通常は35〜50℃)で所定時間(通常は20〜90分間程度)保持してマイシェを作った後、これに前記仕込釜のマイシェを仕込槽中のマイシェに加えて合一する。次に、このマイシェを仕込槽中において所定温度(通常は60〜68℃)で所定時間(通常は30〜90分間程度)保持して麦芽中に含まれる酵素あるいは添加した酵素の作用による糖化を行う。糖化工程終了後、麦汁濾過槽で濾過を行い、濾液としての透明な麦汁を得る。
次いで、この麦汁を煮沸釜に移し、ホップ(ホップペレット、ホップエキス等)を加えて煮沸する。煮沸した麦汁をワールプールと称する槽に入れて、沈殿により生じた蛋白質等の粕を除去する。次いで、プレートクーラーにより適切な発酵温度(通常は8〜10℃)まで冷却してから発酵タンクに移す。
発酵タンクに移す麦汁は、5〜15質量%のエキス、33〜45EBC BUの苦味価、9〜15°EBCの色度、及び4.5〜6のpHを有するように調整される。
【0014】
ここで、「エキス」とは、麦汁の蒸発残留固形分であり、主に糖分からなる。このエキスは、発酵の際に酵母により利用されてアルコールや炭酸ガス等に変わる。エキスの含有量は、好ましくは8〜13質量%である。エキスの含有量は、原料である麦芽や各種澱粉、糖類の仕込み量を変えることにより調整することができる。エキスの含有量は、例えばEBC法(ビール酒造組合:「ビール分析法」7.21990年)により測定することができる。
また、「苦味価」とは、イソフムロンを主成分とするホップ由来物質群により与えられる苦味の指標である。苦味価は、好ましくは35〜45EBC BUである。苦味価は、ホップエキス等のホップの添加量を変えることによって調整することができる。苦味価は、例えばEBC法(ビール酒造組合:「ビール分析法」8.15 1990年)により測定することができる。
さらに、「色度」とは、メイラード反応によって生じるメライノイジンを主成分とする色素によって与えられる色の濃淡である。色度は、好ましくは10〜15°EBCである。色度は、主原料である麦芽に濃色麦芽、黒麦芽及びカラメル麦芽等の色麦芽を添加することによって変えることができる。色度は、例えばEBC法(ビール酒造組合:「ビール分析法」8.8.2 1990年)により測定することができる。
発酵タンクに前記麦汁を入れ、該麦汁に酵母を接種して発酵を行う。次いで、得られた発酵液を熟成(後発酵)させた後、濾過により酵母及び蛋白質を除去して目的の発酵麦芽飲料を得ることができる。
【実施例】
【0015】
(麦芽のLOXの測定方法)
ディスク型粉砕機を用いてディスク間隔0.2mmで粉砕した麦芽を5g計量し、pH5.0の酢酸バッファー50mlを用いて0℃にて15分間抽出後、遠心処理して得られた上清を粗酵素液とした。基質にはリノール酸を用い、リポキシゲナーゼによって生じるヒドロペルオキシリノール酸が示すOD234nmにおける1分後から4分後までの吸光度の増加を測定した。リポキシゲナーゼ(LOX)活性は、1.34mMのリノール酸(0.04%ツイーン20(WAKO社製:ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウラート)を含む)を基質とした反応溶液(pH6.8、25℃)においてOD234nmが1分間に1増加する酵素量を1ユニットとした。その酵素量と試料の乾燥重量との商を測定値(U/g)とした。
【0016】
実施例1:麦芽乾燥温度がLOXの低減に及ぼす効果
(麦芽の調整)
麦芽50gを室温、40℃、60℃に12時間放置した麦芽を調整した。さらに麦芽50gに対して、25℃の水を50ml加え、これを40℃または60℃で12時間放置した(表1)。
【0017】
【表1】

【0018】
(麦芽のLOXの測定)
加水後、各温度で乾燥させた麦芽について、LOXを測定した結果を表2に示す。「NO. 1>NO.2>NO.3」より、未加水状態では高温となるほど、LOXが低減することを確認した。また、「NO.4>NO.5」より、加水状態でも高温となるほどLOXが低減した。
さらに、「NO.2>NO.4」および「NO.3>NO.5」の結果から、同じ乾燥温度であれば加水状態の方がLOXが低減する傾向が認められた。
【0019】
【表2】

【0020】
実施例2:麦芽乾燥時水分がLOXの低減に及ぼす効果
(麦芽の調整)
麦芽50gに対して、25℃の水を14mlまたは50ml加え、これを60℃で12時間加熱乾燥した。なお、加水14mlの水準は霧吹きを使用して水を吹き付けることにより、麦芽表面を過不足無く湿らせたものである。さらに、未加水で60℃に12時間放置した麦芽も調整した(表3)。
【0021】
【表3】

【0022】
(麦芽のLOXの測定)
加水後、各温度で乾燥させた麦芽について、LOXを測定した結果を表4に示す。「NO.6>NO.7>NO.8」より、加水量が多くなるほど、明らかにLOXが低減することを確認した。
【0023】
【表4】

【0024】
実施例3:麦芽洗浄温度がT2N−Pの低減に及ぼす効果
(麦芽の調製)
麦芽に対して2倍量の温度の異なる水を添加し、それぞれに加えた水と同じ温度において振盪しながら麦芽の洗浄を行った。洗浄条件は表5に示すとおりとし、麦芽を2時間洗浄した後に加熱乾燥のかわりに凍結乾燥した麦芽を調製した。
【0025】
【表5】

【0026】
(麦汁の調製)
従来から麦芽の評価に幅広く用いられているコングレス麦汁(改訂BCOJ分析法(財)日本醸造協会発行4.3コングレス麦汁、European Brewery Convention. Analytica-EBC (4th ed.), Method 4.4, p. E59 Brauerei-und Getrauke-Rundschau, CH-8047. Zurich, Switzerland(1987))を活用する。麦芽50gを微粉砕し、蒸留水200mlを加え45℃で30分保持後、25分かけて1℃/分の割で70℃に昇温させ、さらに同温度の蒸留水100mlを加えて1時間酵素反応をすすませ、最終的に全体量が450gとなる麦汁(コングレス麦汁)を調製した。
【0027】
(麦芽のT2N−Pの測定方法)
麦芽のT2N−Pは、特開2002−253196号公報に記載の方法に従って測定した。
ディスク型粉砕機を用いてディスク間隔0.2mmで粉砕した麦芽を60g計量し、マイシェアパラートにて温水(50℃、10°dH)300mlと攪拌混合し、50℃で60分保温後、10分間で65℃に昇温し、65℃で40分間保温後、11分間で76℃(1℃/1分)まで昇温した。76℃で5分間保温後、冷却してマイシェを得た。次に、このマイシェを遠心処理(7500rpm、15分)した後、その上清をNo.2濾紙にてろ過して得た麦汁のノネナールポテンシャルを以下に記載したように測定した。
麦汁をリン酸にてpH4.0に調整後、アルゴン雰囲気下100℃で2時間加熱した。清澄な麦汁10mlに内部標準化合物を添加し、PFBHA(o−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンジル)ヒドロキシルアミン・HCl)により誘導体化した。Sep−Pak C18 Lightを用いて固相抽出したトランス−2−ノネナールを質量計付きガスクロマトグラフィーにて定量した。固相抽出には、多数のサンプルを自動的に処理できる自動固相抽出装置(MORITEX社製、EXMULTI)を用いた。蒸留水25mlにより流量10ml/minでカラムを洗浄した後、誘導体化処理済みの麦汁10mlを流量5ml/minで注入しカラムに吸着させた。25mlの蒸留水により流量7ml/minでカラム内に残存した水溶性の不要物質を除去した後、5分間窒素を注入してカラム内の水を蒸発させた。その後、1mlのヘキサンを用いて、流量1ml/minでカラムに吸着している物質を溶出した。
【0028】
(麦芽のT2N−Pの測定)
各温度で洗浄後、凍結乾燥した麦芽からコングレス麦汁を調製し、麦芽のT2N−Pを測定した結果を表6に示す。麦芽を洗浄する温度が高いほど麦芽のT2N−Pが低下することを確認した。
【0029】
【表6】

【0030】
実施例4:麦芽洗浄時間がLOXの低減に及ぼす効果
(麦芽の調整)
麦芽に対して2倍量の25℃の水を添加し、室温において振盪しながら時間を変えて麦芽の洗浄を行った。洗浄条件は表7に示すとおりとし、それぞれ洗浄した後に水を切り、60℃で12時間加熱乾燥した。
【0031】
【表7】

【0032】
(麦芽のLOXの測定)
洗浄後、60℃で乾燥させた麦芽について、LOXを測定した結果を表8に示す。「NO.15>NO.16」より、洗浄時間が長くなるほど、LOXが低減することを確認した。
【0033】
【表8】

【0034】
実施例5: T2N−P、LOX低減麦芽の製造
洗浄設備および乾燥設備を使用して、低LOX麦芽の製造を行なう方法を以下に示す。
(麦芽の調製)
麦芽を洗浄用タンク内に入れた後、タンク下部より20℃の水を麦芽の3倍量供給し、洗浄を行なった。また、途中でタンク下部より排水して再び供給することを繰り返し、水の交換を2回実施した。途中でエアレーションを40分程度実施した。なお、洗浄工程の総時間は4時間及び5時間であり、洗浄後の麦芽水分はそれぞれ36.5%と41.1%であった。
洗浄が終了した麦芽を乾燥設備内に入れ、外部より75℃に調温された熱風を送風供給して、洗浄後の麦芽を乾燥処理した。なお、乾燥設備の床面は網目状の構造をしており、下部から熱風を供給すれば熱風が麦層を通過して上部へ抜けるため、均一な乾燥状態が得られる。乾燥時間は10時間であった。
調製した麦芽の洗浄条件を表9に示す。
【0035】
【表9】

【0036】
(洗浄麦芽の成分分析)
洗浄加工前麦芽ならびに4時間洗浄した麦芽と5時間洗浄した麦芽について、それぞれの麦芽の成分分析および香味評価を行った。麦芽分析値および香味評価結果を表10に示すが、分析値に対する乾燥・加熱の影響(色度の上昇、ジアスターゼ力の低下等)および洗浄の影響(可溶性窒素の低下等)が若干認められるものの、一般的な淡色麦芽と遜色ない値であった。また、香味評価では、香ばしさが付与された。
一方、麦芽を再洗浄・乾燥することにより、麦芽中のLOXの活性が有意に低下し、T2N−Pも有意に低下している。
このことにより、麦芽を再洗浄・乾燥することにより、ビール醸造に必要な麦芽成分はそのまま残存しつつ、ビールの香味安定性を低下させるLOX活性も低減させることができた。調製した麦芽の評価結果を表10に示す。
【0037】
【表10】

【0038】
実施例6:ビールの製造
麦芽(実施例5No.19で加工した麦芽を30重量含む)2700g、米500g、コーンスターチ260g、コーングリッツ260gに水を20リットル加え、常法により仕込みを行い、ホップペレット10gを添加し、常法により麦汁を製造した。この麦汁を冷却し5℃まで冷却し、麦汁中のエキス分(原麦汁エキス)を12%に調整した麦汁にビール酵母(Sacarromyces cerevisiae)を15〜20×106個/mlの割合で添加し、約12℃で7日間、発酵させた。発酵後、約1ヶ月間の後発酵の後に濾過してビールとした。
【0039】
実施例7:発泡酒の製造方法
麦芽(実施例5No.19で加工した麦芽を70重量含む)800g、米900g、コーンスターチ1270g、コーングリッツ1200gに水を20リットル加え、常法により仕込みを行い、ホップペレット10gを添加し、常法により麦汁を製造した。この麦汁を冷却し5℃まで冷却し、麦汁中のエキス分(原麦汁エキス)を12%に調整した麦汁にビール酵母(Sacarromyces cerevisiae)を15〜25×106個/mlの割合で添加し、約12℃で7日間、発酵させた。発酵後、約1ヶ月間の後発酵の後に濾過して発泡酒とした。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】ビールの製造例の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦芽を40℃以上で加熱することを含む麦芽の加工方法。
【請求項2】
前記加熱工程が、麦芽を湿潤後、加熱することを含む請求項1記載の麦芽の加工方法。
【請求項3】
麦芽を10〜100℃の水で洗浄し、乾燥させることを含む麦芽の加工方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の麦芽の加工方法によって加工された麦芽。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載の麦芽の加工方法によって加工された麦芽を原料とする発酵麦芽飲料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−17759(P2008−17759A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191913(P2006−191913)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【出願人】(597104396)アサヒビールモルト株式会社 (8)