説明

齲蝕治療用キット

【課題】C1期またはC2期の齲蝕および根面齲蝕を治療するためのキットおよび組成物を提供すること。
【解決手段】齲蝕治療用キットおよび組成物であって、該キットおよび組成物は、(1)ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物および(2)リン酸化糖カルシウム含有組成物を備えており、該齲蝕がC1期またはC2期の齲蝕および根面齲蝕であり、該リン酸化糖カルシウムが、糖部分とリン酸基のカルシウム塩とからなり、該糖部分が重合度2〜8のグルカンであり、該リン酸基の数が1〜2個である、キットおよび組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C1期またはC2期の齲蝕および根面齲蝕を治療するためのキットおよび組成物に関する。本発明はまた、エナメル質ケア用のキットおよび組成物に関する。本発明はまた、歯の露出根面のエナメル質化のためのキットおよび組成物に関する。本発明はまた、象牙細管が露出することによる知覚過敏の治療用のキットおよび組成物に関する。本発明はまた、齲蝕治療用の歯磨剤に関する。
【背景技術】
【0002】
齲蝕とは、歯面に存在する口腔内細菌によって産生された有機酸によって歯質が脱灰されて起こる実質欠損のことであり、一般にむし歯として知られる。近年、齲蝕が起こる前に初期齲蝕または表層下脱灰といわれる現象が生じることがわかった。初期齲蝕とは、歯質の実質欠損は生じておらず、歯面表層は保持されているが、歯面の表層下からカルシウムが失われている状態をいう。初期齲蝕、すなわち、表層下脱灰になった牛歯の断面写真を図1に示す。この写真において、エナメル質最表層に石灰化度の高い白い層があり、その下に黒い層がある。この黒い層が脱灰部である。初期齲蝕になるとカルシウムが失われたことにより、結晶構造が変化して歯面が白く見える。齲蝕は実質欠損であるため自然修復が不可能であり、歯科医による治療を受けなければ欠損部を埋めることができない。それに対し、初期齲蝕は、時間はかかるが、自然修復が可能である。これは、口腔内で通常、歯質の脱灰と再石灰化という事象が起こることによる。
【0003】
初期齲蝕に関しては、従来種々の治療が試みられてきた。例えば、フッ素は歯質を強くするとして、歯の治療によく使用されている。しかし、フッ素を高濃度で塗布すると、表層下の脱灰された層が再石灰化されないまま、表層のみが強固に再石灰化されるため、歯面が白斑として残存してしまう。また、表層ががっちりかたまったことにより、その下の層にリン酸イオン、カルシウムなどが届かなくなるので、その後、その部分は、口腔内で自然に起こる再石灰化を受けることができず、表層下の脱灰部は治癒せず、自然な色に戻ることができない。初期齲蝕に対し高濃度フッ素を長期間継続して塗布されていた症例を図2に示す。図2において、歯茎に近い部分の歯面に、フッ素塗布によって表層のみが高度に再石灰化し内部に白く変色した部分が帯状に残存した状態が見られる。そのため、脱灰深部から再石灰化を促すことができる他の方法が模索されている。
【0004】
初期齲蝕に関するエナメル質改質剤として研究が進められてきた研磨剤無配合ナノ粒子ハイドロキシアパタイト含有ペーストは、初期脱灰病変、ホワイトニング後、ディボンディング後、あるいは日常的なPMTCによってダメージを受けたエナメル質の回復に有効であると期待されている。非特許文献1は、研磨剤無配合ナノ粒子ハイドロキシアパタイト含有ペースト(エナメル質補給型歯磨剤)である歯科専用アパガードリナメルを開示している。また、特許文献1はハイドロキシアパタイトを含むチューインガムを記載する。
【0005】
しかし実際の臨床においてその効果を最大限に発揮させるには、バイオフィルム、ペリクルやステイン等の有機系阻害物質の存在を考慮する必要があった。そこで、本発明者らは、エナメル質の傷や脱灰部の微細構造をターゲットにナノサイズのHAPを確実に到達させるため、有機質溶解剤を応用したあらたな歯面修復ケアを考案し臨床的有効性を検討してきた。これは、D.D.S.(Drug Delivery System)の考え方に基づく。D.D.S.の基本要素は、1.ターゲット、2.サイズ、3.吸着、4.時間(徐放)である。ターゲットはここでは、初期齲蝕部位である。エナメル質は、多数のエナメル小柱からできており、小柱の間隔は約50nmである。また、エナメル質の表面には約200m程度の凹部が形成されていることもわかっている。そこで、エナメル質の微細な傷を埋めるための材料のサイズを考えると、イオン性の充填材、結晶性の充填材、粒子性の充填材などが考えられる。
【0006】
齲蝕については、これまでは、レジンなどの人工の充填材を用いなければ、齲蝕による欠損を埋めることができなかった。齲蝕は進行度により、C1〜C4に分けられる。C1期の齲蝕は、エナメル質に限局した齲蝕であり、エナメル質齲蝕とも呼ばれる。C2期の齲蝕は象牙質に達した齲蝕であり、象牙質齲蝕とも呼ばれる。C3期の齲蝕は歯髄に達した齲蝕であり、そしてC4期の齲蝕は歯冠部が崩壊し残根状態の齲蝕である。本発明の対象となるC1期およびC2期の齲蝕の治療は従来、齲蝕部分を回転式切削器具やレーザーなどを使って除去した後、コンポジットレジン系材料を直接充填するかセラミック系材料や金属材料を用いて模型上で間接的に詰め物を製作してから装着することにより行われる。根面齲蝕についても同様に対応されるが、発生部位によってはこのような詰め物による治療が困難となる場合も多い。
【0007】
これらの従来の治療において使われるのはいずれも人工的な材料であり、本来生体内に存在しない物質である。例えば、レジンはプラスチック材料であり、汚れがつきやすく、劣化したり、目減りしたり、削れたりしてメンテナンスが難しい。金属材料を使用すると、アレルギーを起こす場合があり、審美的にもよくない。
【0008】
通常の健全な歯においては、象牙質の中に歯髄がとおっており、歯冠部の象牙質の上をエナメル質が覆っている。象牙質とエナメル質とは、組成、構造、臨界pH、硬度などが異なる。エナメル質はハイドロキシアパタイト[Ca10(PO(OH)]の含有量が約96%と高く、その他は有機質、水などで構成されている。ハイドロキシアパタイトによって構成されており、ハイドロキシアパタイトはカルシウムとリン酸との結晶構造物である。エナメル質は歯の中で最も硬い部分であり、歯垢中の細菌が作り出す有機酸、食品に含まれる酸などの作用によってエナメル質の内側から大切なカルシウムおよびリン酸が溶け出す(脱灰)のを防いでいる。
【0009】
それに対して象牙質のハイドロキシアパタイト含有量は約70%と低く、多量の有機質を含むため、齲蝕に弱い。エナメル質はpH5.5程度までは耐えるのに対して、象牙質はpH6.2程度で溶解する。象牙質の中には、象牙細管と呼ばれる多数の穴が開いており、その密度は、1mm平方中に約2〜5万本である。象牙細管の直径は通常、約1〜3μmである。象牙細管の直径は、細菌の直径よりも大きいため、象牙細管が露出すると、細菌は象牙細管中に入っていき、そこで繁殖することができる。一方、通常、身体で細菌防御に作用する白血球のサイズは象牙細管のサイズよりもずっと大きい。好中球の直径は約13μmであり、好酸球の直径は約15μmであり、好塩基球の直径は約13μmであり、単球の直径は約16μmであり、リンパ球の直径は約13μmである。そのため、白血球は象牙細管に入ることができず、細菌と戦うことができない。それゆえ、象牙細管が露出すると細菌が入って容易に繁殖し、齲蝕の進行が早まる。
【0010】
通常、歯冠部の象牙質はエナメル質によって覆われ、歯根部の象牙質は歯肉によって覆われているので、口腔内に露出しておらず、齲蝕は容易には起こらない。しかし、齲蝕が進行して象牙質まで達したり、歯周治療、加齢、咬合、歯磨きのしすぎなどにより歯茎が退縮すると、根面の象牙質が露出する、すなわち、象牙細管が露出する場合がある。また、知覚過敏についても象牙細管の開口が現象として確認されている。上記の理由から、象牙質の露出を防ぎ、象牙細管の開口部を埋めることが好ましいと考えられる。しかし、このような露出根面に対する予防法は確立されておらず、臨床においてエナメル質との組織的な違いを強く実感する部分である。従来の歯科材料である接着性レジンを用いて象牙細管の開口部を埋めると、レジンに汚れがつきやすく、劣化したり、目減りしたり、削れたりしてメンテナンスが難しい。そのため、レジンではない方法で開口部を埋めることが好ましい。
【0011】
他方、リン酸化オリゴ糖を含む製品が初期う触の治療に効果があることが知られている(例えば、特許文献2および3)。しかし、リン酸化オリゴ糖が処置できるのは初期う触に限られ、エナメル質の実質欠損が生じたC1以降のう触はリン酸化オリゴ糖によっては処置できなかった。
【非特許文献1】Oral Care社カタログ「ナノ粒子薬用ハイロドキシアパタイト」
【特許文献1】特開2005−34127号公報
【特許文献2】特開2002−325557号公報
【特許文献3】特開2006−62993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、C1期またはC2期の齲蝕および根面齲蝕を治療するためのキットおよび組成物を提供することを目的とする。本発明はまた、エナメル質ケア用のキットおよび組成物を提供することを目的とする。本発明はまた、歯の露出根面のエナメル質化のためのキットおよび組成物を提供することを目的とする。本発明はまた、知覚過敏治療用のキットおよび組成物を提供することを目的とする。本発明はまた、齲蝕治療用の歯磨剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ハイドロキシアパタイト粒子を歯の欠損部に充填し、その後リン酸化糖カルシウムを作用させることにより、C1期およびC2期の齲蝕および根面齲蝕を治療できることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0014】
より詳細には、ハイドロキシアパタイトによる再結晶化を再石灰化へと導くことを目的にPOs−Caを併用したところ、臨床的効果が確認された。さらに、表層下脱灰部が進展して実質欠損を生じたケースにもHAPとPOs−Caを応用することで修復効果が認められた。
【0015】
これは以下のような理論に基づくと考えられる。初期齲蝕、知覚過敏、歯面荒れなどに対してハイドロキシアパタイト粒子を使用すると、充填効果が得られてハイドロキシアパタイト粒子の再結晶化が起こる。この充填された部分に対してリン酸化糖カルシウムを供給するとリン酸化糖カルシウムがハイドロキシアパタイト粒子間に浸透し、これらのハイドロキシアパタイト粒子を相互に結合させる。その上、再石灰化が起きて歯面が修復される。
【0016】
象牙質の根面齲蝕は、象牙細管の存在がその進行を早める一因となっている。また、知覚過敏についても象牙細管の開口が現象として確認されている。従って、露出象牙質表層の象牙細管を封鎖してアパタイトリッチな表層に改質すること(すなわち、エナメル質化)を行うことは臨床的意義が大きい。ハイドロキシアパタイト粒子およびPOs−Caを象牙質に応用したところ、根面齲蝕の進行が停止し、知覚過敏症例にも有効であることがわかった。
【0017】
一方、予防行為においても従来は、プロフェッショナルメカニカルトゥースクリーニング(Professional Mechanical Tooth Cleaning、PMTC)やスケーリング(歯石除去)を行うことにより、歯面への付着物を除去するという、事後の処置が主であった。これに対し、本発明によれば、歯面の状態を改質することで齲蝕や歯周病の原因となるバイオフィルム、プラーク、歯石等の付着物をつきにくくするという、事前の処置が可能になる。つまり、単なる歯面清掃、歯面研磨としてのPMTCからアクティブなケアへと発想の転換を図ることも可能である。本発明を用いることにより、歯面を削るのではなく、歯面を再生させて修復することが可能になったからである。つまり、歯面研磨から歯面修復へと発想を転換することができる。
【0018】
上記目的を達成するために、本発明は、例えば、以下の手段を提供する:
(項目1)
齲蝕治療用キットであって、該キットは、
(1)ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物および
(2)リン酸化糖カルシウム含有組成物
を備えており、該齲蝕がC1期またはC2期の齲蝕および根面齲蝕であり、該リン酸化糖カルシウムが、糖部分とリン酸基のカルシウム塩とからなり、該糖部分が重合度2〜8のグルカンであり、該リン酸基の数が1〜2個である、キット。
【0019】
(項目2)
(i)歯の齲蝕による欠損部分に前記ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を充填し、その後、前記リン酸化糖カルシウム含有組成物を該充填部に適用するか、または(ii)歯の齲蝕による欠損部分に前記ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物と前記リン酸化糖カルシウム含有組成物との混合物を充填することを特徴とする、項目1に記載のキット。
【0020】
(項目3)
(3)有機質溶解剤をさらに備える、項目1に記載のキット。
【0021】
(項目4)
歯の齲蝕による欠損部分に前記有機質溶解剤を適用して該欠損部分の有機質を除去することにより歯の欠損部分表面を露出させ、その後、(i)該露出した欠損部分に前記ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を充填し、その後、前記リン酸化糖カルシウム含有組成物を該充填部に適用するか、または(ii)該露出した欠損部分に前記ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物と前記リン酸化糖カルシウム含有組成物との混合物を充填することを特徴とする、項目1に記載のキット。
【0022】
(項目5)
ハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムを含む、齲蝕治療用組成物であって、該齲蝕がC1期またはC2期の齲蝕および根面齲蝕であり、該リン酸化糖カルシウムが、糖部分とリン酸基のカルシウム塩とからなり、該糖部分が重合度2〜8のグルカンであり、該リン酸基の数が1〜2個である、組成物。
【0023】
(項目6)
前記組成物が粉末状である、項目5に記載の組成物。
【0024】
(項目7)
歯のエナメル質が損傷を受けた場合のエナメル質ケア用キットであって、該キットは、
(1)ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物および
(2)リン酸化糖カルシウム含有組成物
を備えており、該リン酸化糖カルシウムが、糖部分とリン酸基のカルシウム塩とからなり、該糖部分が重合度2〜8のグルカンであり、該リン酸基の数が1〜2個であり、
(i)該ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を該損傷を受けた部分に適用し、その後、該部分に該リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用するか、または、
(ii)該ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物と該リン酸化糖カルシウム含有組成物との混合物を該損傷を受けた部分に適用する、キット。
【0025】
(項目8)
前記損傷が、ディボンディング、ホワイトニング、プロフェッショナルメカニカルトゥースクリーニング、ポリッシングまたは矯正治療によって引き起こされる、項目7に記載のキット。
【0026】
(項目9)
歯のエナメル質が損傷を受けた場合のエナメル質ケア用組成物であって、該組成物は、ハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムを含み、該リン酸化糖カルシウムが、糖部分とリン酸基のカルシウム塩とからなり、該糖部分が重合度2〜8のグルカンであり、該リン酸基の数が1〜2個である、組成物。
【0027】
(項目10)
前記損傷が、ディボンディング、ホワイトニング、プロフェッショナルメカニカルトゥースクリーニング、ポリッシングまたは矯正治療によって引き起こされる、項目9に記載の組成物。
【0028】
(項目11)
歯の露出根面のエナメル質化のためのキットであって、該キットは、
(1)ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物および
(2)リン酸化糖カルシウム含有組成物
を備えており、該リン酸化糖カルシウムが、糖部分とリン酸基のカルシウム塩とからなり、該糖部分が重合度2〜8のグルカンであり、該リン酸基の数が1〜2個であり、
(i)該ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を歯の露出根面に適用し、その後、該根面に該リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用するか、または、
(ii)該ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物と該リン酸化糖カルシウム含有組成物との混合物を歯の露出根面に適用する、キット。
【0029】
(項目12)
歯の露出根面のエナメル質化のための組成物であって、該組成物は、ハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムを含み、該リン酸化糖カルシウムが、糖部分とリン酸基のカルシウム塩とからなり、該糖部分が重合度2〜8のグルカンであり、該リン酸基の数が1〜2個である、組成物。
【0030】
(項目13)
知覚過敏治療用キットであって、該キットは、
(1)ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物および
(2)リン酸化糖カルシウム含有組成物
を備えており、該リン酸化糖カルシウムが、糖部分とリン酸基のカルシウム塩とからなり、該糖部分が重合度2〜8のグルカンであり、該リン酸基の数が1〜2個であり、
(i)該ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を歯の知覚過敏面に適用し、その後、該面に該リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用するか、または、
(ii)該ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物と該リン酸化糖カルシウム含有組成物との混合物を歯の知覚過敏面に適用する、キット。
【0031】
(項目14)
知覚過敏治療用組成物であって、該組成物は、ハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムを含み、該リン酸化糖カルシウムが、糖部分とリン酸基のカルシウム塩とからなり、該糖部分が重合度2〜8のグルカンであり、該リン酸基の数が1〜2個である、組成物。
【0032】
(項目15)
齲蝕治療用歯磨き剤であって、該歯磨き剤は、ハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムを含み、該齲蝕がC1期またはC2期の齲蝕および根面齲蝕であり、該リン酸化糖カルシウムが、糖部分とリン酸基のカルシウム塩とからなり、該糖部分が重合度2〜8のグルカンであり、該リン酸基の数が1〜2個である、歯磨き剤。
【発明の効果】
【0033】
ハイドロキシアパタイト粒子による充填効果とリン酸化オリゴ糖カルシウムによる浸透効果により、再石灰化が効率的に促進された。さらに、従来からの課題であった歯面への停滞時間の確保が、リン酸化オリゴ糖カルシウム溶液を使用することにより大いに改善された。これは、リン酸化オリゴ糖カルシウム溶液が固有に粘性を有しており、そのため、リン酸化オリゴ糖カルシウム溶液を用いることによりパック効果が得られるためであると考えられる。本発明により、C1期の実質欠損部の修復効果が得られる。本発明によってまた、初期脱灰病変の再石灰化促進;白濁部の消失;ステイン、バイオフィルム付着抑制効果;象牙細管の封鎖;根面齲蝕抑制効果;知覚過敏抑制効果などの効果が得られる。ハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化オリゴ糖カルシウムは生体安全性が高く、継続使用に適していると考えられることから、実際の臨床では、オフィスケアとセルフケアとを併用する手法が有望である。本発明は、確実で速効性のある予防法としても利用され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0035】
(1.本発明で使用される材料)
本発明においては、ハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムが使用される。また、必要に応じて他の材料もまた使用され得る。
【0036】
(1a.ハイドロキシアパタイト粒子)
ハイドロキシアパタイトとは、Ca10(PO(OH)によって表される化合物をいう。ハイドロキシアパタイトは結晶構造をとる。本発明で用いられるハイドロキシアパタイトは、粒子状である。本発明で用いられるハイドロキシアパタイト粒子の平均粒子径は、好ましくは約10nm以上である。ハイドロキシアパタイト粒子の平均粒子径はまた、約15nm以上、約20nm以上、約25nm以上、約30nm以上、約35nm以上、約40nm以上、約45nm以上、約50nm以上などであってもよい。本発明で用いられるハイドロキシアパタイト粒子の平均粒子径は、好ましくは約400nm以下であり、さらに好ましくは約100nm以下であり、特に好ましくは約80nm以下であり、最も好ましくは約70nm以下である。なお、本明細書中でハイドロキシアパタイト粒子について言及する場合、平均粒子径とは、体積基準のメジアン径のことをいう。ハイドロキシアパタイト粒子の大きさは、光散乱タイプ粒度分布測定装置およびレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(例えば、株式会社堀場製作所製 レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920)によって測定され得る。
【0037】
1つの実施形態では、ハイドロキシアパタイト粒子の大きさはばらつきがなく、ほぼ均質であることが好ましい。
【0038】
1つの実施形態では、ハイドロキシアパタイト粒子は、種々の大きさのハイドロキシアパタイト粒子の混合物であり得る。例えば、直径約1μm〜3μmの比較的大きなハイドロキシアパタイト粒子と直径約20nm〜30nmの比較的小さなハイドロキシアパタイトとの混合物であり得る。従来の歯の充填材として代表的なコンポジットレジンは、種々の大きさの粒子(フィラー)の混合物が用いられてきたので、このような種々の大きさのハイドロキシアパタイトの混合物は、従来の充填材と同様に使用するのに適している。
【0039】
ハイドロキシアパタイト粒子は、当該分野で公知の方法によって製造され得、市販されている。例えば、平均粒径50nm(50〜100nmで粉体体積の約90%を占める)のハイドロキシアパタイトナノ粒子が配合された歯磨剤(商品名:歯科専用リナメルPMTC最終仕上げペースト)が株式会社サンギによって製造され株式会社オーラルケアから販売されている。本明細書中では、歯科専用リナメルPMTC最終仕上げペーストを単にリナメルともいう。リナメルは、白色のペースト状であり、研磨剤無配合である。
【0040】
(1b.リン酸化糖カルシウム)
本発明において使用されるリン酸化糖カルシウムは、糖部分とリン酸基のカルシウム塩とからなっている。本明細書で用いる場合、用語「リン酸化糖」とは、分子内に少なくとも1個のリン酸基を有する糖をいう。本明細書で用いる場合、用語「リン酸化糖カルシウム」とは、リン酸化糖のカルシウム塩をいう。本発明において使用されるリン酸化糖カルシウムにおいては、糖部分が重合度2〜8のグルカンであり、リン酸基の数が1〜2個である。リン酸化糖カルシウム中のカルシウムイオンの数は、1〜2個であり、好ましくはリン酸化糖カルシウム中のリン酸基の数とリン酸イオンの数とは等しい。
【0041】
本発明で用いられるリン酸化糖カルシウムは、純粋な1種類の化合物として用いられてもよく、複数種の混合物として用いられてもよい。本発明で用いられるリン酸化糖カルシウムは、好ましくは、特開平8−104696号公報に記載されるリン酸化糖カルシウムである。特開平8−104696号公報に記載される方法に従って製造すると複数種類のリン酸化糖カルシウムの混合物が得られる。その混合物をそのまま用いてもよく、純粋な化合物に分離した後に、1種類の化合物のみを選択して用いてもよい。リン酸化糖カルシウムは、1種類で用いた場合も、混合物として用いた場合も、優れた性能を発揮する。
【0042】
リン酸化糖カルシウムは、例えば、公知の糖類をリン酸化してリン酸化糖を得て、その後、リン酸化糖をカルシウム塩とすることにより製造され得る。リン酸化糖の製造方法は、特開平8−104696号公報に記載される。リン酸化糖カルシウムの粉末はまた、江崎グリコ株式会社からリン酸化オリゴ糖カルシウムとして販売されている。
【0043】
(1c.他の材料)
本発明のキット、組成物および歯磨剤においては、ハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムによる作用を妨害しない限り、目的とするキットにおいて通常用いられる任意の材料が用いられ得る。
【0044】
このような材料の一例として、カゼインホスホペプタイト−アモルファスホスフェート(CPP−ACP;MIペースト)が挙げられる。これは、3桁ナノ粒子(平均粒径200nm〜300nm)としてハイドロキシアパタイト粒子と混合され得る。
【0045】
次亜塩素酸ナトリウムもまた、有機質溶解剤として使用され得る。10%次亜塩素酸ナトリウムが配合された有機質溶解剤は、ADゲルとしてクラレメディカル株式会社によって製造され、株式会社モリタによって販売されている。
【0046】
このような材料の別の一例として、無機リン酸が挙げられる。歯のエナメル質の主成分であるハイドロキシアパタイト(これは、Ca10(PO(OH)で表される)のCa/PO比は約1.67であり、歯のエナメル質を構成する組成物においては、Ca/PO比は1.0〜1.67(PO/Ca比=0.6〜1.0)である。従って、Ca/PO比を1.0〜1.67(PO/Ca比=0.6〜1.0)、好ましくは1.67(PO/Ca比=0.6)に近づけるように、リン酸イオンおよびカルシウムイオンを供給することにより、エナメル質の再石灰化を促進できる。本発明においてリン酸化糖カルシウムのみを用いると、カルシウムイオンのみが供給され、そのままでは、より効率の高い再石灰化のためには、リン酸イオンが不足する。
【0047】
そのため、本発明のキット、組成物および歯磨剤においては、リン酸イオンの供給源として無機リン酸もまた同時に用いることが好ましい。本明細書では、リン酸イオンの供給源をリン酸源化合物という。リン酸源化合物とは、リン酸化合物を意味する。
【0048】
本発明において用いられ得るリン酸源化合物は、水に溶けることによってリン酸イオンを放出する化合物であれば任意の化合物であり得る。リン酸源化合物は好ましくは水溶性のリン酸塩または無機リン酸である。このようなリン酸源化合物の例としては、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ポリリン酸およびその塩、環状リン酸およびその塩などが挙げられる。リン酸ナトリウムの例としては、メタリン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸水素ナトリウムなどが挙げられる。リン酸カリウムの例としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウムなどが挙げられる。ポリリン酸は、2以上のリン酸が縮合して形成される化合物である。ポリリン酸中の重合度は2以上であれば任意であり、例えば、2以上であり、10以下である。ポリリン酸の例としては、ピロリン酸、トリリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸などが挙げられる。これらのポリリン酸の塩もまた使用され得、好ましくは、ナトリウム塩またはカリウム塩である。環状リン酸の例としては、ヘキサメタリン酸などが挙げられる。これらの環状リン酸の塩もまた使用され得、好ましくは、ナトリウム塩またはカリウム塩である。
【0049】
このリン酸源化合物は、Ca/PO比を1.0〜1.67(PO/Ca比=0.6〜1.0)、好ましくは1.67(PO/Ca比=0.6)に近づけるように、単独で、または組み合わせて、本発明のキット、組成物および歯磨剤中に添加され得る。
【0050】
(3.本発明のキット)
本明細書においては、「キット」とは、2以上の構成要素を組み合わせて1組としたものをいう。本発明のキットは、齲蝕を治療するため、エナメル質をケアするため、歯の露出根面のエナメル質化のため、または知覚過敏の治療のために用いられる。本明細書においては、「治療」とは、既に存在する齲蝕を完全に治癒させるかまたは部分的に改善することだけでなく、齲蝕を予防すること、ならびに知覚過敏を完全に治癒させるかまたは部分的に改善することおよび知覚過敏を予防することをも包含する。
【0051】
1つの実施形態において、本発明のキットは、齲蝕治療用キットである。
【0052】
1つの実施形態において、本発明のキットは、エナメル質ケア用キットである。
【0053】
1つの実施形態において、本発明のキットは、歯の露出根面のエナメル質化のためのキットである。
【0054】
1つの実施形態において、本発明のキットは、知覚過敏の治療のためのキットである。
【0055】
本発明のキットは、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物およびリン酸化糖カルシウム含有組成物を備える。本発明のキットにおいては、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物とは別々の組成物である。ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物は、粉末状、顆粒状、ペースト状、クリーム状、ゲル状または懸濁液状であり得る。ハイドロキシアパタイト粒子は粉末の状態では凝集して大きな塊となりやすいので、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物は、ペースト状であることが好ましい。
【0056】
ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物中のハイドロキシアパタイト粒子の含有量は、任意に設定され得る。例えば、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物中のハイドロキシアパタイト粒子の含有量は、好ましくは約1重量%以上であり、より好ましくは約2重量%以上であり、さらに好ましくは約3重量%以上であり、特に好ましくは約4重量%以上であり、最も好ましくは約5重量%以上である。例えば、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物中のハイドロキシアパタイト粒子の含有量は、例えば、約90重量%以下、約80重量%以下、約70重量%以下、約60重量%以下、約50重量%以下、約40重量%以下、約30重量%以下、約20重量%以下、約10重量%以下などであり得る。
【0057】
ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物中に含まれ得る他の材料の例としては、リン酸源化合物、溶媒、基材、殺菌剤、湿潤剤、甘味料、可溶化剤、香料、防腐剤などが挙げられる。溶媒は水であり得る。基材の例としては、無水ケイ酸、結晶セルロースなどが挙げられる。ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物は、これらの材料を使用して、当該分野で公知の任意の方法によって製造され得る。
【0058】
ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物中にリン酸源化合物を含む場合、この組成物中のリン酸源化合物の含有量は、任意に設定され得る。例えば、この組成物中のリン酸源化合物の含有量は、好ましくは約1重量%以上であり、より好ましくは約5重量%以上であり、さらに好ましくは約10重量%以上であり、特に好ましくは約15重量%以上であり、最も好ましくは約20重量%以上である。例えば、この組成物中のリン酸源化合物の含有量は、好ましくは約50重量%以下であり、より好ましくは約40重量%以下であり、さらに好ましくは約35重量%以下であり、特に好ましくは約30重量%以下であり、最も好ましくは約25重量%以下である。
【0059】
リン酸化糖カルシウム含有組成物は、粉末状、顆粒状、ペースト状、クリーム状、ゲル状または溶液状であり得る。リン酸化糖カルシウム含有組成物は、粉末状であることが好ましい。
【0060】
リン酸化糖カルシウム含有組成物中のリン酸化糖カルシウムの含有量は、任意に設定され得る。例えば、リン酸化糖カルシウム含有組成物中のリン酸化糖カルシウムの含有量は、好ましくは約0.1重量%以上であり、より好ましくは約1重量%以上であり、さらに好ましくは約3重量%以上であり、特に好ましくは約4重量%以上であり、最も好ましくは約5重量%以上である。例えば、リン酸化糖カルシウム含有組成物中のリン酸化糖カルシウムの含有量は、例えば、約90重量%以下、約80重量%以下、約70重量%以下、約60重量%以下、約50重量%以下、約40重量%以下、約30重量%以下、約20重量%以下、約10重量%以下などであり得る。
【0061】
リン酸化糖カルシウム含有組成物中に含まれ得る他の材料としては、リン酸源化合物が挙げられる。リン酸化糖カルシウム含有組成物は、これらの材料を使用して、当該分野で公知の任意の方法によって製造され得る。
【0062】
本発明のキットの1つの実施形態では、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物とは別々の容器に入れられ、これらを組み合わせて1つのキットとして包装され得る。
【0063】
リン酸化糖カルシウム含有組成物中にリン酸源化合物を含む場合、この組成物中のリン酸源化合物の含有量は、任意に設定され得る。例えば、この組成物中のリン酸源化合物の含有量は、好ましくは約0.1重量%以上であり、より好ましくは約1重量%以上であり、さらに好ましくは約10重量%以上であり、特に好ましくは約15重量%以上であり、最も好ましくは約20重量%以上である。例えば、この組成物中のリン酸源化合物の含有量は、好ましくは約50重量%以下であり、より好ましくは約40重量%以下であり、さらに好ましくは約35重量%以下であり、特に好ましくは約30重量%以下であり、最も好ましくは約25重量%以下である。
【0064】
本発明のキットはまた、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物およびリン酸化糖カルシウム含有組成物以外の構成要素を備えていてもよい。このような構成要素の例としては、有機質溶解剤、ドラッグリテーナー、リン酸源化合物含有組成物が挙げられる。
【0065】
有機質溶解剤の例としては、次亜塩素酸ナトリウムが挙げられる。有機質溶解剤もまた、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物とは別々の容器に入れられ、これらとともに組み合わせて1つのキットとして包装され得る。次亜塩素酸ナトリウムを含む有機質溶解剤は、商品名ADゲルとしてクラレメディカル株式会社によって製造され、株式会社モリタによって販売されている。ADゲルは、10%次亜塩素酸ナトリウムが配合された乳白色のゲルであり、増粘剤としてアルミナ系マイクロフィラーを含む。
【0066】
(4.本発明のキットの使用方法)
本発明のキットは、例えば、以下のように使用されるが、このような使用方法に限定されない。
【0067】
(4a.齲蝕治療用キットの使用方法)
本発明の齲蝕治療用キットを使用して齲蝕を治療する際には、以下の2つの使用方法のいずれを採用してもよい:
(i)まず、歯の齲蝕による欠損部分にハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を充填し、その後、リン酸化糖カルシウム含有組成物をこの充填部に適用する使用方法;および
(ii)歯の齲蝕による欠損部分にハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物との混合物を充填する使用方法。
【0068】
すなわち、予めハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を作用させてその後リン酸化糖カルシウム含有組成物をさせてもよく、あるいは、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物とを同時に作用させてもよい。ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を予め作用させることが好ましい。
【0069】
ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を作用させてその後リン酸化糖カルシウム含有組成物を作用させる実施形態では、まず、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物が所望の歯面(例えば、齲蝕部分)に適用される。ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物は、ラバーカップを装着したPMTC専用コントラや手用ブラシなどの器具を用いて歯面に塗りこまれることが好ましい。ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を適用している間およびその後、唾液と接触してもよいが、適用されたハイドロキシアパタイト粒子が流出しないように、唾液との接触を減らすための手段を講じることが好ましい。例えば、唾液を除去することが好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間は、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を適用しはじめてから約1分間以上続けることが好ましく、約2分間以上続けることがより好ましく、約3分間以上続けることが最も好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間に特に上限はないが、例えば、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を適用しはじめてから約1時間以下、約45分間以下、約30分間以下、約25分間以下、約20分間以下などであり得る。
【0070】
次に、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を洗い流さずに、またはすすぐ場合は充填したハイドロキシアパタイトの全てが流れ落ちることのないように軽くすすいでから、リン酸化糖カルシウム含有組成物が、同じ部分に適用される。リン酸化糖カルシウム含有組成物もまた、ラバーカップを装着したPMTC専用コントラや手用ブラシなどの器具を用いて歯面に塗りこまれることが好ましい。リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用している間およびその後、唾液と接触してもよいが、適用されたリン酸化糖カルシウムが流出しないように、唾液との接触を減らすための手段を講じることが好ましい。例えば、唾液を除去することが好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間は、リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用しはじめてから約5分間以上続けることが好ましく、約10分間以上続けることがより好ましく、約15分間以上続けることが最も好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間に特に上限はないが、例えば、リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用しはじめてから約1時間以下、約45分間以下、約30分間以下、約25分間以下、約20分間以下などであり得る。ハイドロキシアパタイトの粒子を充填した後でリン酸化糖カルシウムが浸透すると、再石灰化が顕著に促進される。
【0071】
ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物とを同時に作用させる実施形態では、本発明のキットは以下のように使用され得る。まず、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物とがほぼ同時に所望の歯面(例えば、齲蝕部分)に適用される。これらの組成物は、歯面への適用直前に予め混合されてもよく、歯面に別々に適用されてそこで混合されてもよい。これらの組成物は、ラバーカップを装着したPMTC専用コントラや手用ブラシなどの器具を用いて歯面に塗りこまれることが好ましい。これらの組成物を適用している間およびその後、唾液と接触してもよいが、適用されたハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムが流出しないように、唾液との接触を減らすための手段を講じることが好ましい。例えば、唾液を除去することが好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間は、これらの組成物を適用しはじめてから約5分間以上続けることが好ましく、約10分間以上続けることがより好ましく、約15分間以上続けることが最も好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間に特に上限はないが、例えば、これらの組成物を適用しはじめてから約1時間以下、約45分間以下、約30分間以下、約25分間以下、約20分間以下などであり得る。ハイドロキシアパタイトの粒子を充填した後でリン酸化糖カルシウムが浸透すると、再石灰化が顕著に促進される。
【0072】
歯の表面にはバイオフィルム、ペリクルやステインなどの有機質が沈着しているので、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を作用させる前にこれらの有機質を除去することが好ましい。例えば、手用ブラシで歯の表面を清掃したり、専用の器具で歯石または歯垢を除去した後に、有機質溶解剤を適用して有機質を除去することが好ましい。このような場合、および本発明のキットが有機質溶解剤を備える場合、まず、歯の齲蝕による欠損部分に有機質溶解剤を適用してこの部分の有機質を除去することにより欠損部分を露出させる。有機質溶解剤がキットに備わっていなくても、別途入手可能な有機質溶解剤を代わりに使用してもよい。有機質溶解剤を適用している間およびその後、唾液との接触を回避することが望ましく、歯の表面に有機質が再度付着することを防ぐために、唾液との接触を減らすための手段を講じることが好ましい。例えば、唾液を除去することが好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間は、有機質溶解剤を適用しはじめてから約5分間以上続けることが好ましく、約10分間以上続けることがより好ましく、約15分間以上続けることが最も好ましい。次の工程を行う前に水などで歯面をすすぐことが好ましい。この後の工程は、上記のハイドロキシアパタイト粒子含有組成物およびリン酸化糖カルシウム含有組成物の使用に関する2つの実施形態と同様に行われ得る。すなわち、(i)この露出した表面にハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を充填し、その後、リン酸化糖カルシウム含有組成物を充填部に適用するか、または(ii)この露出した表面にハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物との混合物を適用することが好ましい。
【0073】
さらに、必要に応じて有機質を除去した後に、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を歯面に適用し、その後、リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用した後で、レーザー機器を用いてその適用部位を照射すると再石灰化効果が促進される。ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物の適用とリン酸化糖カルシウム含有組成物の適用とを繰り返す場合、すなわち、歯面にハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物とを積層する場合にも、リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用するごとにレーザー機器を用いてその適用部位を照射すると再石灰化効果が一層促進される。本発明において使用され得るレーザー機器は、CO2レーザーに代表される当該分野で公知の歯科用レーザーである。
【0074】
(4b.エナメル質ケア用キットの使用方法)
本発明のエナメル質ケア用キットを使用してエナメル質をケアする際には、以下の2つの使用方法のいずれを採用してもよい:
(i)まず、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を、損傷を受けた部分に適用し、その後、この部分にリン酸化糖カルシウム含有組成物を適用する使用方法;および
(ii)ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物との混合物を損傷を受けた部分に適用する使用方法。
【0075】
すなわち、予めハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を作用させてその後リン酸化糖カルシウム含有組成物をさせてもよく、あるいは、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物とを同時に作用させてもよい。ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を予め作用させることが好ましい。
【0076】
エナメル質の損傷は、種々の原因によって起こり得る。このような損傷の原因の例としては、ディボンディング、ホワイトニング、プロフェッショナルメカニカルトゥースクリーニング、ポリッシングおよび矯正治療が挙げられる。
【0077】
ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を作用させてその後リン酸化糖カルシウム含有組成物を作用させる実施形態では、まず、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物が、損傷を受けた歯面に適用される。ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物は、ラバーカップを装着したPMTC専用コントラや手用ブラシなどの器具を用いて歯面に塗りこまれることが好ましい。ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を適用している間およびその後、唾液と接触してもよいが、適用されたハイドロキシアパタイト粒子が流出しないように、唾液との接触を減らすための手段を講じることが好ましい。例えば、唾液を除去することが好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間は、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を適用しはじめてから約1分間以上続けることが好ましく、約2分間以上続けることがより好ましく、約3分間以上続けることが最も好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間に特に上限はないが、例えば、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を適用しはじめてから約1時間以下、約45分間以下、約30分間以下、約25分間以下、約20分間以下などであり得る。
【0078】
次に、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を洗い流さずに、またはすすぐ場合は充填したハイドロキシアパタイトの全てが流れ落ちることのないように軽くすすいでから、リン酸化糖カルシウム含有組成物が、同じ部分に適用される。リン酸化糖カルシウム含有組成物もまた、ラバーカップを装着したPMTC専用コントラや手用ブラシなどの器具を用いて歯面に塗りこまれることが好ましい。リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用している間およびその後、唾液と接触してもよいが、適用されたリン酸化糖カルシウムが流出しないように、唾液との接触を減らすための手段を講じることが好ましい。例えば、唾液を除去することが好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間は、リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用しはじめてから約5分間以上続けることが好ましく、約10分間以上続けることがより好ましく、約15分間以上続けることが最も好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間に特に上限はないが、例えば、リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用しはじめてから約1時間以下、約45分間以下、約30分間以下、約25分間以下、約20分間以下などであり得る。ハイドロキシアパタイトの粒子を充填した後でリン酸化糖カルシウムが浸透すると、再石灰化が顕著に促進される。
【0079】
ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物とを同時に作用させる実施形態では、本発明のキットは以下のように使用され得る。まず、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物とがほぼ同時に、損傷を受けた歯面に適用される。これらの組成物は、歯面への適用直前に予め混合されてもよく、歯面に別々に適用されてそこで混合されてもよい。これらの組成物は、ラバーカップを装着したPMTC専用コントラや手用ブラシなどの器具を用いて歯面に塗りこまれることが好ましい。これらの組成物を適用している間およびその後、唾液と接触してもよいが、適用されたハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムが流出しないように、唾液との接触を減らすための手段を講じることが好ましい。例えば、唾液を除去することが好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間は、これらの組成物を適用しはじめてから約5分間以上続けることが好ましく、約10分間以上続けることがより好ましく、約15分間以上続けることが最も好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間に特に上限はないが、例えば、これらの組成物を適用しはじめてから約1時間以下、約45分間以下、約30分間以下、約25分間以下、約20分間以下などであり得る。ハイドロキシアパタイトの粒子を充填した後でリン酸化糖カルシウムが浸透すると、再石灰化が顕著に促進される。
【0080】
歯の表面にはバイオフィルム、ペリクルやステインなどの有機質が沈着しているので、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を作用させる前にこれらの有機質を除去することが好ましい。例えば、手用ブラシで歯の表面を清掃したり、専用の器具で歯石または歯垢を除去した後に、有機質溶解剤を適用して有機質を除去することが好ましい。このような場合、および本発明のキットが有機質溶解剤を備える場合、まず、損傷を受けた歯面に有機質溶解剤を適用してこの部分の有機質を除去することにより歯表面を露出させる。有機質溶解剤がキットに備わっていなくても、別途入手可能な有機質溶解剤を代わりに使用してもよい。有機質溶解剤を適用している間およびその後、唾液との接触を回避することが望ましく、歯の表面に有機質が再度付着することを防ぐために、唾液との接触を減らすための手段を講じることが好ましい。例えば、唾液を除去することが好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間は、有機質溶解剤を適用しはじめてから約5分間以上続けることが好ましく、約10分間以上続けることがより好ましく、約15分間以上続けることが最も好ましい。次の工程を行う前に水などで歯面をすすぐことが好ましい。この後の工程は、上記のハイドロキシアパタイト粒子含有組成物およびリン酸化糖カルシウム含有組成物の使用に関する2つの実施形態と同様に行われ得る。すなわち、(i)この露出した表面にハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を充填し、その後、リン酸化糖カルシウム含有組成物を充填部に適用するか、または(ii)この露出した表面にハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物との混合物を適用することが好ましい。
【0081】
さらに、必要に応じて有機質を除去した後に、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を歯面に適用し、その後、リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用した後で、レーザー機器を用いてその適用部位を照射すると再石灰化効果が促進される。ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物の適用とリン酸化糖カルシウム含有組成物の適用とを繰り返す場合、すなわち、歯面にハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物とを積層する場合にも、リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用するごとにレーザー機器を用いてその適用部位を照射すると再石灰化効果が一層促進される。本発明において使用され得るレーザー機器は、CO2レーザーに代表される当該分野で公知の歯科用レーザーである。
【0082】
(4c.歯の露出根面のエナメル質化のためのキットの使用方法)
本発明の歯の露出根面のエナメル質化のためのキットを使用して歯の露出根面をエナメル質化させる際には、以下の2つの使用方法のいずれを採用してもよい:
(i)まず、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を歯の露出根面に適用し、その後、この根面に該リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用する使用方法;および
(ii)ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物との混合物を歯の露出根面に適用する使用方法。
【0083】
すなわち、予めハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を作用させてその後リン酸化糖カルシウム含有組成物をさせてもよく、あるいは、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物とを同時に作用させてもよい。ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を予め作用させることが好ましい。
【0084】
歯の根面は、種々の原因によって露出し得る。このような露出の原因の例としては、歯周治療、加齢、咬合および歯磨きのしすぎが挙げられる。
【0085】
ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を作用させてその後リン酸化糖カルシウム含有組成物を作用させる実施形態では、まず、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物が、歯の露出根面に適用される。ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物は、ラバーカップを装着したPMTC専用コントラや手用ブラシなどの器具を用いて露出根面に塗りこまれることが好ましい。通常の器具を用いて露出根面に塗ることが困難な場合、および露出根面に対する作用時間を長期化させるためには、歯の歯根部まで浸漬させることができるドラッグリテーナーを用いて薬剤を処置部位に効率よく到達させることが好ましい。歯の形状は一人一人異なるので、ドラッグリテーナーは各人の歯型に合わせて作製されることが好ましい。ドラッグリテーナーを用いると、唾液との接触も抑制されて好都合である。ドラッグリテーナーを用いる場合には、ドラッグリテーナー内にハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を充填し、それを歯にかぶせることによってハイドロキシアパタイト粒子含有組成物が適用される。ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を適用している間およびその後、唾液と接触してもよいが、適用されたハイドロキシアパタイト粒子が流出しないように、唾液との接触を減らすための手段を講じることが好ましい。例えば、唾液を除去することが好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間は、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を適用しはじめてから約1分間以上続けることが好ましく、約2分間以上続けることがより好ましく、約3分間以上続けることが最も好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間に特に上限はないが、例えば、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を適用しはじめてから約1時間以下、約45分間以下、約30分間以下、約25分間以下、約20分間以下などであり得る。
【0086】
次に、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を洗い流さずに、またはすすぐ場合は充填したハイドロキシアパタイトの全てが流れ落ちることのないように軽くすすいでから、リン酸化糖カルシウム含有組成物が、同じ部分に適用される。リン酸化糖カルシウム含有組成物もまた、ラバーカップを装着したPMTC専用コントラや手用ブラシなどの器具を用いて歯面に塗りこまれることが好ましい。通常の器具を用いて露出根面に塗ることが困難な場合、および露出根面に対する作用時間を長期化させるためには、歯の歯根部まで浸漬させることができるドラッグリテーナーを用いることが好ましい。ドラッグリテーナーを用いる場合には、ドラッグリテーナー内にリン酸化糖カルシウム含有組成物を充填し、それを歯にかぶせることによってリン酸化糖カルシウム含有組成物が適用される。リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用している間およびその後、唾液と接触してもよいが、適用されたリン酸化糖カルシウムが流出しないように、唾液との接触を減らすための手段を講じることが好ましい。例えば、唾液を除去することが好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間は、リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用しはじめてから約5分間以上続けることが好ましく、約10分間以上続けることがより好ましく、約15分間以上続けることが最も好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間に特に上限はないが、例えば、リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用しはじめてから約1時間以下、約45分間以下、約30分間以下、約25分間以下、約20分間以下などであり得る。ハイドロキシアパタイトの粒子を充填した後でリン酸化糖カルシウムが浸透すると、再石灰化が顕著に促進される。
【0087】
ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物とを同時に作用させる実施形態では、本発明のキットは以下のように使用され得る。まず、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物とがほぼ同時に、露出した根面に適用される。これらの組成物は、根面への適用直前に予め混合されてもよく、歯面に別々に適用されてそこで混合されてもよい。これらの組成物は、ラバーカップを装着したPMTC専用コントラや手用ブラシなどの器具を用いて歯面に塗りこまれることが好ましい。通常の器具を用いて露出根面に塗ることが困難な場合、および露出根面に対する作用時間を長期化させるためには、歯の歯根部まで浸漬させることができるドラッグリテーナーを用いることが好ましい。ドラッグリテーナーを用いる場合には、ドラッグリテーナー内にハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物との混合物を充填し、それを歯にかぶせることによってこれらの組成物が適用される。これらの組成物を適用している間およびその後、唾液と接触してもよいが、適用されたハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムが流出しないように、唾液との接触を減らすための手段を講じることが好ましい。例えば、唾液を除去することが好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間は、これらの組成物を適用しはじめてから約5分間以上続けることが好ましく、約10分間以上続けることがより好ましく、約15分間以上続けることが最も好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間に特に上限はないが、例えば、これらの組成物を適用しはじめてから約1時間以下、約45分間以下、約30分間以下、約25分間以下、約20分間以下などであり得る。ハイドロキシアパタイトの粒子を充填した後でリン酸化糖カルシウムが浸透すると、再石灰化が顕著に促進される。
【0088】
歯の表面にはバイオフィルム、ペリクルやステインなどの有機質が沈着しているので、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を作用させる前にこれらの有機質を除去することが好ましい。例えば、手用ブラシで歯の表面を清掃したり、専用の器具で歯石または歯垢を除去した後に、有機質溶解剤を適用して有機質を除去することが好ましい。このような場合、および本発明のキットが有機質溶解剤を備える場合、まず、露出根面に有機質溶解剤を適用してこの部分の有機質を除去することにより露出根面を露出させるとともに殺菌する。有機質溶解剤がキットに備わっていなくても、別途入手可能な有機質溶解剤を代わりに使用してもよい。有機質溶解剤を適用している間およびその後、唾液との接触を回避することが望ましく、歯の表面に有機質が再度付着することを防ぐために、唾液との接触を減らすための手段を講じることが好ましい。例えば、唾液を除去することが好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間は、有機質溶解剤を適用しはじめてから約5分間以上続けることが好ましく、約10分間以上続けることがより好ましく、約15分間以上続けることが最も好ましい。次の工程を行う前に水などで歯面をすすぐことが好ましい。この後の工程は、上記のハイドロキシアパタイト粒子含有組成物およびリン酸化糖カルシウム含有組成物の使用に関する2つの実施形態と同様に行われ得る。すなわち、(i)この露出した表面にハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を充填し、その後、リン酸化糖カルシウム含有組成物を充填部に適用するか、または(ii)この露出した表面にハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物との混合物を適用することが好ましい。
【0089】
さらに、必要に応じて有機質を除去した後に、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を歯面に適用し、その後、リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用した後で、レーザー機器を用いてその適用部位を照射すると再石灰化効果が促進される。ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物の適用とリン酸化糖カルシウム含有組成物の適用とを繰り返す場合、すなわち、歯面にハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物とを積層する場合にも、リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用するごとにレーザー機器を用いてその適用部位を照射すると再石灰化効果が一層促進される。本発明において使用され得るレーザー機器は、CO2レーザーに代表される当該分野で公知の歯科用レーザーである。
【0090】
(4d.知覚過敏の治療のためのキットの使用方法)
本発明の知覚過敏の治療のためのキットを使用して知覚過敏を治療する際には、以下の2つの使用方法のいずれを採用してもよい:
(i)まず、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を歯の知覚過敏面に適用し、その後、この面にリン酸化糖カルシウム含有組成物を適用する使用方法;および
(ii)ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物との混合物を歯の知覚過敏面に適用する使用方法。
【0091】
すなわち、予めハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を作用させてその後リン酸化糖カルシウム含有組成物をさせてもよく、あるいは、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物とを同時に作用させてもよい。ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を予め作用させることが好ましい。
【0092】
知覚過敏においては、象牙細管の開口が現象として確認されている。
【0093】
ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を作用させてその後リン酸化糖カルシウム含有組成物を作用させる実施形態では、まず、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物が、歯の知覚過敏面に適用される。ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物は、ラバーカップを装着したPMTC専用コントラや手用ブラシなどの器具を用いて歯面に塗りこまれることが好ましい。ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を適用している間およびその後、唾液と接触してもよいが、適用されたハイドロキシアパタイト粒子が流出しないように、唾液との接触を減らすための手段を講じることが好ましい。例えば、唾液を除去することが好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間は、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を適用しはじめてから約1分間以上続けることが好ましく、約2分間以上続けることがより好ましく、約3分間以上続けることが最も好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間に特に上限はないが、例えば、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を適用しはじめてから約1時間以下、約45分間以下、約30分間以下、約25分間以下、約20分間以下などであり得る。
【0094】
次に、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を洗い流さずに、またはすすぐ場合は充填したハイドロキシアパタイトの全てが流れ落ちることのないように軽くすすいでから、リン酸化糖カルシウム含有組成物が、同じ部分に適用される。リン酸化糖カルシウム含有組成物もまた、ラバーカップを装着したPMTC専用コントラや手用ブラシなどの器具を用いて歯面に塗りこまれることが好ましい。リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用している間およびその後、唾液と接触してもよいが、適用されたリン酸化糖カルシウムが流出しないように、唾液との接触を減らすための手段を講じることが好ましい。例えば、唾液を除去することが好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間は、リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用しはじめてから約5分間以上続けることが好ましく、約10分間以上続けることがより好ましく、約15分間以上続けることが最も好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間に特に上限はないが、例えば、リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用しはじめてから約1時間以下、約45分間以下、約30分間以下、約25分間以下、約20分間以下などであり得る。ハイドロキシアパタイトの粒子を充填した後でリン酸化糖カルシウムが浸透すると、再石灰化が顕著に促進される。
【0095】
ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物とを同時に作用させる実施形態では、本発明のキットは以下のように使用され得る。まず、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物とがほぼ同時に、歯の知覚過敏面に適用される。これらの組成物は、歯面への適用直前に予め混合されてもよく、歯面に別々に適用されてそこで混合されてもよい。これらの組成物は、ラバーカップを装着したPMTC専用コントラや手用ブラシなどの器具を用いて歯面に塗りこまれることが好ましい。これらの組成物を適用している間およびその後、唾液と接触してもよいが、適用されたハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムが流出しないように、唾液との接触を減らすための手段を講じることが好ましい。例えば、唾液を除去することが好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間は、これらの組成物を適用しはじめてから約5分間以上続けることが好ましく、約10分間以上続けることがより好ましく、約15分間以上続けることが最も好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間に特に上限はないが、例えば、これらの組成物を適用しはじめてから約1時間以下、約45分間以下、約30分間以下、約25分間以下、約20分間以下などであり得る。ハイドロキシアパタイトの粒子を充填した後でリン酸化糖カルシウムが浸透すると、再石灰化が顕著に促進される。
【0096】
歯の表面にはバイオフィルム、ペリクルやステインなどの有機質が沈着しているので、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を作用させる前にこれらの有機質を除去することが好ましい。例えば、手用ブラシで歯の表面を清掃したり、専用の器具で歯石または歯垢を除去した後に、有機質溶解剤を適用して有機質を除去することが好ましい。このような場合、および本発明のキットが有機質溶解剤を備える場合、まず、歯の知覚過敏面に有機質溶解剤を適用してこの部分の有機質を除去することにより歯表面を露出させる。有機質溶解剤がキットに備わっていなくても、別途入手可能な有機質溶解剤を代わりに使用してもよい。有機質溶解剤を適用している間およびその後、唾液との接触を回避することが望ましく、歯の表面に有機質が再度付着することを防ぐために、唾液との接触を減らすための手段を講じることが好ましい。例えば、唾液を除去することが好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間は、有機質溶解剤を適用しはじめてから約5分間以上続けることが好ましく、約10分間以上続けることがより好ましく、約15分間以上続けることが最も好ましい。次の工程を行う前に水などで歯面をすすぐことが好ましい。この後の工程は、上記のハイドロキシアパタイト粒子含有組成物およびリン酸化糖カルシウム含有組成物の使用に関する2つの実施形態と同様に行われ得る。すなわち、(i)この露出した表面にハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を充填し、その後、リン酸化糖カルシウム含有組成物を充填部に適用するか、または(ii)この露出した表面にハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物との混合物を適用することが好ましい。
【0097】
さらに、必要に応じて有機質を除去した後に、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を歯面に適用し、その後、リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用した後で、レーザー機器を用いてその適用部位を照射すると再石灰化効果が促進される。ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物の適用とリン酸化糖カルシウム含有組成物の適用とを繰り返す場合、すなわち、歯面にハイドロキシアパタイト粒子含有組成物とリン酸化糖カルシウム含有組成物とを積層する場合にも、リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用するごとにレーザー機器を用いてその適用部位を照射すると再石灰化効果が一層促進される。本発明において使用され得るレーザー機器は、CO2レーザーに代表される当該分野で公知の歯科用レーザーである。
【0098】
(5.本発明の組成物)
齲蝕治療用組成物、エナメル質ケア用組成物、歯の露出根面のエナメル質化のための組成物、または知覚過敏の治療のための組成物として使用される本発明の組成物は、ハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムを含む。本発明の組成物は、粉末状、顆粒状、ペースト状、クリーム状、ゲル状または懸濁液状であり得る。
【0099】
1つの実施形態において、本発明の組成物は、齲蝕治療用組成物である。
【0100】
1つの実施形態において、本発明の組成物は、エナメル質ケア用組成物である。
【0101】
1つの実施形態において、本発明の組成物は、歯の露出根面のエナメル質化のための組成物である。
【0102】
1つの実施形態において、本発明の組成物は、知覚過敏の治療のための組成物である。
【0103】
本発明の組成物は、ハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムのみからなっていてもよいが、他の材料を含んでもよい。
【0104】
本発明の組成物は、ハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムなどの材料を従来公知の方法によって混合することによって製造され得る。
【0105】
本発明の組成物中のハイドロキシアパタイト粒子の含有量は、任意に設定され得る。例えば、本発明の組成物中のハイドロキシアパタイト粒子の含有量は、好ましくは約1重量%以上であり、より好ましくは約5重量%以上であり、さらに好ましくは約10重量%以上であり、特に好ましくは約15重量%以上であり、最も好ましくは約20重量%以上である。例えば、本発明の組成物中のハイドロキシアパタイト粒子の含有量は、好ましくは約50重量%以下であり、より好ましくは約40重量%以下であり、さらに好ましくは約35重量%以下であり、特に好ましくは約30重量%以下であり、最も好ましくは約25重量%以下である。
【0106】
本発明の組成物中のリン酸化糖カルシウムの含有量は、任意に設定され得る。例えば、本発明の組成物中のリン酸化糖カルシウムの含有量は、好ましくは約0.1重量%以上であり、より好ましくは約1重量%以上であり、さらに好ましくは約10重量%以上であり、特に好ましくは約15重量%以上であり、最も好ましくは約20重量%以上である。例えば、本発明の組成物中のリン酸化糖カルシウムの含有量は、好ましくは約50重量%以下であり、より好ましくは約40重量%以下であり、さらに好ましくは約35重量%以下であり、特に好ましくは約30重量%以下であり、最も好ましくは約25重量%以下である。
【0107】
本発明の組成物はまた、リン酸源化合物を含み得る。本発明の組成物中にリン酸源化合物を含む場合、この組成物中のリン酸源化合物の含有量は、任意に設定され得る。例えば、この組成物中のリン酸源化合物の含有量は、好ましくは約0.1重量%以上であり、より好ましくは約1重量%以上であり、さらに好ましくは約10重量%以上であり、特に好ましくは約15重量%以上であり、最も好ましくは約20重量%以上である。例えば、この組成物中のリン酸源化合物の含有量は、好ましくは約50重量%以下であり、より好ましくは約40重量%以下であり、さらに好ましくは約35重量%以下であり、特に好ましくは約30重量%以下であり、最も好ましくは約25重量%以下である。
【0108】
(5.本発明の組成物の使用方法)
本発明の組成物は、例えば、以下のように使用されるが、このような使用方法に限定されない。
【0109】
(5a.齲蝕治療用組成物の使用方法)
本発明の齲蝕治療用組成物を使用して齲蝕を治療する際には、以下のようにして使用され得る。
【0110】
まず、本発明の齲蝕治療用組成物が齲蝕の部分に適用される。この組成物は、ラバーカップを装着したPMTC専用コントラや手用ブラシなどの器具を用いて歯面に塗りこまれることが好ましい。この組成物を適用している間およびその後、唾液と接触してもよいが、適用されたハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムが流出しないように、唾液との接触を減らすための手段を講じることが好ましい。例えば、唾液を除去することが好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間は、これらの組成物を適用しはじめてから約5分間以上続けることが好ましく、約10分間以上続けることがより好ましく、約15分間以上続けることが最も好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間に特に上限はないが、例えば、これらの組成物を適用しはじめてから約1時間以下、約45分間以下、約30分間以下、約25分間以下、約20分間以下などであり得る。本発明の齲蝕治療用組成物を歯面に適用する前に、本発明のキットの使用方法で述べたような有機質溶解剤を使用することが好ましい。
【0111】
さらに、必要に応じて有機質を除去した後に、本発明の齲蝕治療用組成物を歯面に適用した後、レーザー機器を用いてその適用部位を照射すると再石灰化効果が促進される。齲蝕治療用組成物の適用を繰り返す場合、すなわち、歯面に齲蝕治療用組成物を積層する場合にも、齲蝕治療用組成物を適用するごとにレーザー機器を用いてその適用部位を照射すると再石灰化効果が一層促進される。本発明において使用され得るレーザー機器は、CO2レーザーに代表される当該分野で公知の歯科用レーザーである。
【0112】
(5b.エナメル質ケア用組成物の使用方法)
本発明のエナメル質ケア用組成物を使用してエナメル質をケアする際には、以下のようにして使用され得る。
【0113】
まず、本発明のエナメル質ケア用組成物が、損傷を受けた歯面に適用される。この組成物は、ラバーカップを装着したPMTC専用コントラや手用ブラシなどの器具を用いて歯面に塗りこまれることが好ましい。この組成物を適用している間およびその後、唾液と接触してもよいが、適用されたハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムが流出しないように、唾液との接触を減らすための手段を講じることが好ましい。例えば、唾液を除去することが好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間は、これらの組成物を適用しはじめてから約5分間以上続けることが好ましく、約10分間以上続けることがより好ましく、約15分間以上続けることが最も好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間に特に上限はないが、例えば、これらの組成物を適用しはじめてから約1時間以下、約45分間以下、約30分間以下、約25分間以下、約20分間以下などであり得る。本発明のエナメル質ケア用組成物を歯面に適用する前に、本発明のキットの使用方法で述べたような有機質溶解剤を使用することが好ましい。
【0114】
さらに、必要に応じて有機質を除去した後に、本発明のエナメル質ケア用組成物を歯面に適用した後、レーザー機器を用いてその適用部位を照射すると再石灰化効果が促進される。エナメル質ケア用組成物の適用を繰り返す場合、すなわち、歯面にエナメル質ケア用組成物を積層する場合にも、エナメル質ケア用組成物を適用するごとにレーザー機器を用いてその適用部位を照射すると再石灰化効果が一層促進される。本発明において使用され得るレーザー機器は、CO2レーザーに代表される当該分野で公知の歯科用レーザーである。
【0115】
(5c.歯の露出根面のエナメル質化のための組成物の使用方法)
本発明の歯の露出根面のエナメル質化のための組成物を使用して歯の露出根面をエナメル質化させる際には、以下のようにして使用され得る。
【0116】
まず、本発明の歯の露出根面のエナメル質化のための組成物が露出根面に適用される。この組成物は、ラバーカップを装着したPMTC専用コントラや手用ブラシなどの器具を用いて露出根面に塗りこまれることが好ましい。通常の器具を用いて露出根面に塗ることが困難な場合、および露出根面に対する作用時間を長期化させるためには、歯の歯根部まで浸漬させることができるドラッグリテーナーを用いることが好ましい。歯の形状は一人一人異なるので、ドラッグリテーナーは各人の歯型に合わせて作製されることが好ましい。ドラッグリテーナーを用いると、唾液との接触も抑制されて好都合である。ドラッグリテーナーを用いる場合には、ドラッグリテーナー内に本発明の歯の露出根面のエナメル質化のための組成物を充填し、それを歯にかぶせることによって本発明の組成物が適用される。この組成物を適用している間およびその後、唾液と接触してもよいが、適用されたハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムが流出しないように、唾液との接触を減らすための手段を講じることが好ましい。例えば、唾液を除去することが好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間は、これらの組成物を適用しはじめてから約5分間以上続けることが好ましく、約10分間以上続けることがより好ましく、約15分間以上続けることが最も好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間に特に上限はないが、例えば、これらの組成物を適用しはじめてから約1時間以下、約45分間以下、約30分間以下、約25分間以下、約20分間以下などであり得る。本発明の歯の露出根面のエナメル質化のための組成物を歯面に適用する前に、本発明のキットの使用方法で述べたような有機質溶解剤を使用することが好ましい。
【0117】
さらに、必要に応じて有機質を除去した後に、本発明の歯の露出根面のエナメル質化のための組成物を歯面に適用した後、レーザー機器を用いてその適用部位を照射すると再石灰化効果が促進される。齲蝕治療用組成物の適用を繰り返す場合、すなわち、歯面に歯の露出根面のエナメル質化のための組成物を積層する場合にも、エナメル質化のための組成物を適用するごとにレーザー機器を用いてその適用部位を照射すると再石灰化効果が一層促進される。本発明において使用され得るレーザー機器は、CO2レーザーに代表される当該分野で公知の歯科用レーザーである。
【0118】
(5d.知覚過敏の治療のための組成物の使用方法)
本発明の知覚過敏の治療のための組成物を使用して知覚過敏を治療する際には、以下のようにして使用され得る。
【0119】
まず、本発明の知覚過敏の治療のための組成物が知覚過敏の歯面に適用される。この組成物は、ラバーカップを装着したPMTC専用コントラや手用ブラシなどの器具を用いて歯面に塗りこまれることが好ましい。この組成物を適用している間およびその後、唾液と接触してもよいが、適用されたハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムが流出しないように、唾液との接触を減らすための手段を講じることが好ましい。例えば、唾液を除去することが好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間は、これらの組成物を適用しはじめてから約5分間以上続けることが好ましく、約10分間以上続けることがより好ましく、約15分間以上続けることが最も好ましい。唾液との接触を減らすための手段を講じる時間に特に上限はないが、例えば、これらの組成物を適用しはじめてから約1時間以下、約45分間以下、約30分間以下、約25分間以下、約20分間以下などであり得る。本発明の知覚過敏の治療のための組成物を歯面に適用する前に、本発明のキットの使用方法で述べたような有機質溶解剤を使用することが好ましい。
【0120】
さらに、必要に応じて有機質を除去した後に、本発明の知覚過敏の治療のための組成物を歯面に適用した後、レーザー機器を用いてその適用部位を照射すると再石灰化効果が促進される。齲蝕治療用組成物の適用を繰り返す場合、すなわち、歯面に知覚過敏の治療のための組成物を積層する場合にも、知覚過敏の治療のための組成物を適用するごとにレーザー機器を用いてその適用部位を照射すると再石灰化効果が一層促進される。本発明において使用され得るレーザー機器は、CO2レーザーに代表される当該分野で公知の歯科用レーザーである。
【0121】
(6.本発明の歯磨剤)
本発明の齲蝕治療用歯磨き剤は、ハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムを含む。
【0122】
本発明の齲蝕治療用歯磨き剤中のハイドロキシアパタイト粒子の含有量は、任意に設定され得る。例えば、本発明の齲蝕治療用歯磨き剤中のハイドロキシアパタイト粒子の含有量は、好ましくは約1重量%以上であり、より好ましくは約2重量%以上であり、さらに好ましくは約3重量%以上であり、特に好ましくは約4重量%以上であり、最も好ましくは約5重量%以上である。例えば、ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物中のハイドロキシアパタイト粒子の含有量は、例えば、約90重量%以下、約80重量%以下、約70重量%以下、約60重量%以下、約50重量%以下、約40重量%以下、約30重量%以下、約20重量%以下、約10重量%以下などであり得る。
【0123】
本発明の齲蝕治療用歯磨き剤中のハイドロキシアパタイト粒子の含有量は、任意に設定され得る。例えば、本発明の齲蝕治療用歯磨き剤中のリン酸化糖カルシウムの含有量は、好ましくは約0.1重量%以上であり、より好ましくは約1重量%以上であり、さらに好ましくは約3重量%以上であり、特に好ましくは約4重量%以上であり、最も好ましくは約5重量%以上である。例えば、リン酸化糖カルシウム含有組成物中のリン酸化糖カルシウムの含有量は、例えば、約90重量%以下、約80重量%以下、約70重量%以下、約60重量%以下、約50重量%以下、約40重量%以下、約30重量%以下、約20重量%以下、約10重量%以下などであり得る。
【0124】
本発明の齲蝕治療用歯磨き剤は、ハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウム以外にも、歯磨き剤として通常含まれる成分を含み得る。本発明の齲蝕治療用歯磨き剤は、リン酸源化合物を含み得る。齲蝕治療用歯磨き剤中にリン酸源化合物を含む場合、この組成物中のリン酸源化合物の含有量は、任意に設定され得る。例えば、この歯磨き剤中のリン酸源化合物の含有量は、好ましくは約0.1重量%以上であり、より好ましくは約1重量%以上であり、さらに好ましくは約10重量%以上であり、特に好ましくは約15重量%以上であり、最も好ましくは約20重量%以上である。例えば、この歯磨き剤中のリン酸源化合物の含有量は、好ましくは約50重量%以下であり、より好ましくは約40重量%以下であり、さらに好ましくは約35重量%以下であり、特に好ましくは約30重量%以下であり、最も好ましくは約25重量%以下である。
【0125】
本発明の齲蝕治療用歯磨き剤は、通常の歯磨剤と同様の方法で使用され得る。
【0126】
(7.ホームケア)
本発明のキットおよび組成物は、歯科医師、歯科衛生士、看護士、看護助手などのプロが使用してもよく、また家庭で一般人が使用してもよい。
【0127】
口腔内では、脱灰と再石灰化とのサイクルが絶えず起きているため、プロによるケアだけでなく、家庭でもケアすることが好ましい。
【0128】
ホームケアは、例えば、毎食後、毎日行うことが好ましい。
【0129】
ホームケアを行うために、例えば、通院バッグの中に歯ブラシ、手鏡、リン酸化オリゴ糖カルシウム入りガム、ハイドロキシアパタイト入り歯磨き粉をセットして使用させることもできる。
【実施例】
【0130】
(リン酸化糖カルシウム)
以下の実施例および参考例に用いたリン酸化糖カルシウムは、特開平8−104696号の実施例1の手順で、塩化ナトリウムの代わりに塩化カルシウムを用いて、馬鈴薯澱粉より調製したリン酸化糖カルシウムを指す。つまり、α−1,4結合した2から8個のグルコースからなるオリゴ糖に分子内に1個から2個のリン酸基が結合し、これらのリン酸化糖にそれぞれカルシウムが結合したリン酸化糖カルシウムの混合物である。このリン酸化糖カルシウムは、3、4または5個のグルコースからなるオリゴ糖に分子内で1個のリン酸基が結合し、このリン酸基にカルシウムが結合しているものと5、6、7または8個のグルコースからなるオリゴ糖に分子内で2個のリン酸基が結合し、このリン酸基にカルシウムが結合しているものとの混合物である。ここで、1個のリン酸基が結合しているものと2個のリン酸基が結合しているものとのモル比は約8:2である。以下の実施例および試験例では、このようにして調製した塩を用いた。イオン交換樹脂を用いる本方法以外にも、一般的な電気透析によって、脱塩後、各金属塩を添加することで容易に各種金属塩のリン酸化糖が調製できる。なお、リン酸化糖のカルシウム塩については、江崎グリコ株式会社からリン酸化オリゴ糖カルシウムとして販売されているものも好適に用いることができる。リン酸化オリゴ糖カルシウムは、粉末または溶液として用いている。
【0131】
以下の実施例および参考例に用いた有機質溶解剤は、商品名ADゲルとしてクラレメディカル株式会社によって製造され、株式会社モリタによって販売されている。ADゲルは、10%次亜塩素酸ナトリウムが配合された乳白色のゲルであり、増粘剤としてアルミナ系マイクロフィラーを含む。
【0132】
以下の実施例および参考例に用いたハイドロキシアパタイト粒子としては、平均粒径50nm(50〜100nmで粉体体積の約90%を占める)ハイドロキシアパタイトナノ粒子が配合された歯磨剤(商品名:歯科専用リナメルPMTC最終仕上げペースト)(株式会社サンギおよび株式会社オーラルケア)を使用した。
【0133】
また、以下の実施例および参考例において口腔内での処置の際には、特に断りのない限り、歯科治療の際に通常行われる開口器具による開口、唾液の除去および防湿処理を施している。
【0134】
(参考例1:バイオフィルムの除去後のハイドロキシアパタイト粒子の塗布)
歯の表面には、バイオフィルム、ペリクル等の有機系阻害物質が存在する。バイオフィルムは、齲蝕の原因となるミュータンス菌などの細菌が集合体を作って歯の表面に形成された膜である。バイオフィルムなどの有機系阻害物質があると、ハイドロキシアパタイトなどを塗布しても歯の内側に入ることができず、その効果は低い。そのため、エナメル質の傷や脱灰部の微細構造をターゲットにナノサイズのハイドロキシアパタイトを確実に到達させてハイドロキシアパタイトの効果を最大限に発揮させるためには、歯の表面の有機系阻害物質を溶解することが重要である。本発明者らはまず、歯の表面の有機系阻害物質を溶解してからハイドロキシアパタイトを塗布することについて検討を行った。
【0135】
歯の歯冠部に有機質溶解剤(商品名:ADゲル;クラレメディカル)を塗布し、蒸留水で洗浄後、ナノハイドロキシアパタイト粒子含有ペースト(商品名:歯科専用リナメルPMTC最終仕上げペースト;株式会社サンギおよび株式会社オーラルケア)を塗布し、蒸留水で洗浄した。処理前、有機質溶解剤処理後、ハイドロキシアパタイト粒子処理後のエナメル質の表面を顕微鏡によって観察した。その結果、有機質溶解剤で処理する前にはエナメル質の表面の凹凸はあまり明確ではないが、有機質溶解剤で処理することにより、エナメル質の表面の凹凸がはっきりした。そして、ハイドロキシアパタイト粒子で処理することにより、表面の凹凸が埋まることがわかった。
【0136】
また、バイオフィルム付着部位およびバイオフィルム非付着部位の処理前、有機質溶解剤処理後、ハイドロキシアパタイト粒子処理後のエナメル質の表面を、走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope;SPM)によっても観察した。バイオフィルム付着部位では、有機質溶解剤で処理する前にはエナメル質の表面の凹凸はあまり明確ではないが、ある程度の凹凸があることがわかった。有機質溶解剤で処理した後には、エナメル質表面に直径5〜10μm程度の多数の穴があいていることがわかった。ハイドロキシアパタイト粒子で処理した後には、表面の凹凸が埋まることが確認された。有機質溶解剤で処理する前の平均表面粗さ(Ra)は133.1nmであり、有機質溶解剤で処理した後の平均表面粗さ(Ra)は220.3nmであり、ハイドロキシアパタイト粒子で処理した後の平均表面粗さ(Ra)は103.3nmであった。
【0137】
バイオフィルム非付着部位では、有機質溶解剤で処理する前には、肉眼ではバイオフィルムが付着していないように見えるが、SPMで観察すると、バイオフィルムの付着量は、肉眼で観察されるバイオフィルム付着部位よりも少ないものの、表面の凹凸が露出しているわけではなく、ある程度の量が付着していることがわかった。有機質溶解剤で処理した後には、エナメル質表面に直径5〜10μm程度の多数の穴があいていることがわかった。ハイドロキシアパタイト粒子で処理した後には、表面の凹凸が埋まることが確認された。有機質溶解剤で処理する前の平均表面粗さ(Ra)は107.6nmであり、有機質溶解剤で処理した後の平均表面粗さ(Ra)は171.8であり、ハイドロキシアパタイト粒子で処理した後の平均表面粗さ(Ra)は81.94nmであった。
【0138】
これらの結果、歯面上の有機質を分解し、歯質を露出させた後でハイドロキシアパタイトを塗布することにより、ハイドロキシアパタイトが効率よく歯面に充填されることが確認された。
【0139】
(参考例2:萌出期におけるエナメル質白濁部の修復)
萌出期および萌出後数年の間のエナメル質表面は歯の発生に由来する微細な凹凸が残っており石灰化度が低いので齲蝕になりやすい。そのため、萌出期および萌出後数年の間の歯の管理が極めて重要である。本参考例は、有機質溶解剤を応用したHAPによる歯面修復に関する臨床研究である。
【0140】
臨床の場においてエナメル質の微小欠損や傷あるいは脱灰部の微細構造に対してナノ粒子ハイドロキシアパタイトを確実に到達させるためには、バイオフィルム、ペリクルやステイン等の有機系阻害物質の存在を考慮する必要がある。本発明者らは、有機質溶解剤を応用した新たな歯面修復ケアを考案し臨床的有効性を検討してきた。本参考例においては、新鮮抜去歯を用いたSPM観察について記載する。
【0141】
エナメル質白斑部のある新鮮抜去歯の歯面に有機質溶解剤(ADゲル)を塗布して2分間放置し、蒸留水で洗浄した後、コントラにラバーカップをつけて750rpmにてハイドロキシアパタイト(歯科専用リナメルPMTC最終仕上げペースト)を約30秒間塗布し、次いで超音波洗浄を約1分間行った。
【0142】
処理前、有機質溶解剤処理後、およびハイドロキシアパタイト処理後に、白斑部のエナメル質の表面を、走査型プローブ顕微鏡(SPM)によって観察した。
【0143】
その結果、有機質溶解剤で処理する前の白斑部のエナメル質表面は、凸凹の幅(山と山との間の距離)が非常に大きく、ある程度の凹凸があることがわかった。有機質溶解剤で処理した後には、エナメル質表面に直径5〜10μm程度の多数の穴があいていることがわかった。ハイドロキシアパタイト粒子で処理した後には、表面の凹凸が埋まることが確認された。有機質溶解剤で処理する前の平均表面粗さ(Ra)は173.3nmであり、有機質溶解剤で処理した後の平均表面粗さ(Ra)は219.5nmであり、ハイドロキシアパタイト粒子で処理した後の平均表面粗さ(Ra)は140.7nmであった(加藤正治,相澤真奈美:有機質溶解剤を応用したHAPによる歯面修復に関する研究 −第1報 萌出期におけるエナメル質白濁部の臨床経過− 日本歯科保存学会誌 49春季特別号,102,2006)。
【0144】
この参考例の結果を以下にまとめる。有機質溶解処理前のエナメル質白濁部表層には、汚染物質が堆積している(Ra=173.3)。有機質溶解剤(ADゲル)で2分間処理することにより、有機系汚染物質が溶解除去され、エナメル質構造体が露出した(Ra=219.5)。コントラにラバーカップをつけて750rpmにてハイドロキシアパタイト(歯科専用リナメルPMTC最終仕上げペースト)を約30秒間塗布し、約1分間超音波洗浄後に確認したところ、エナメル表層の微小構造がHAPにより修復され、表面粗さが改善されたことがわかった(Ra=140.7)。
【0145】
(参考例3:初期齲蝕マネジメント1)
本参考例においては、萌出期のエナメル質白濁部(すなわち、初期脱灰病変)に適用した症例の臨床経過について記載する。萌出期の6歳男性の前歯(上顎の左右の中切歯)にエナメル質白濁部が見られた。術前の歯を正面から撮影した写真を図3左に示す。上顎の左右の中切歯(前歯)2本を手用ブラシにて清掃後、有機質溶解剤(ADゲル)を歯面全面にほぼ均等に塗布したまま1〜2分間放置し、精製水で洗浄した。精製水で洗浄した後の歯を正面から撮影した写真を図3の右に示す。精製水で洗浄した後にコントラにラバーカップをつけて750rpmにてハイドロキシアパタイト(歯科専用リナメルPMTC最終仕上げペースト)を約30秒間塗布した。その後、チェアサイドでリン酸化オリゴ糖カルシウム入りのガム(江崎グリコ製;poscam)を2粒、約20分間噛むように指導した。また、この患者に、リン酸化オリゴ糖カルシウム入りのガム(poscam;江崎グリコ製)を処方し、ホームケアとして、毎日食事後および随時気の向いたときにこのガムを噛むように指導した。
【0146】
手用ブラシでの清掃、有機質溶解剤の塗布、精製水での洗浄、ハイドロキシアパタイト塗布を約1ヶ月に1回繰り返した。この間も、この患者に、リン酸化オリゴ糖カルシウム入りのガム(poscam;江崎グリコ製)を処方し、ホームケアとして、毎日食事後および随時気の向いたときにこのガムを2粒ずつ噛むことを継続させた。初期脱灰病変部の最初の処置から2ヶ月後に歯を噛み合わせた状態で正面から撮影した写真を図4の左上に示す。初期脱灰病変部の最初の処置から3ヶ月後に歯を噛み合わせた状態で正面から撮影した写真を図4の右下に示す。図4からわかるように、処置3ヵ月後には歯面の脱灰部(すなわち、白くなった部分)の面積が顕著に減少した。このことから、ハイドロキシアパタイトでの処置およびリン酸化オリゴ糖カルシウムでの処置が萌出期の初期齲蝕マネジメントに非常に有効であり、初期脱灰病変の再石灰化促進および白濁物の消失に効果的であることがわかった。
【0147】
(参考例4:初期齲蝕マネジメント2)
本参考例においても、萌出期のエナメル質白濁部に適用した症例の臨床経過について記載する。萌出期においては、非常に歯質が弱いために、一旦治療によって白濁部を治療しても、その後また、脱灰が起こることがよくある。この参考例はそのような場合についての臨床例であり、参考例3と同じ男性についての、参考例3の9ヵ月後の時点からの臨床結果である。この男性の前歯(上顎の左右の中切歯)にエナメル質白濁部が見られた。術前(プロケア前)の上顎の左右の中切歯および下顎の左右の中切歯および側切歯の写真を図5の上段左に示す。
【0148】
上顎の左右の中切歯(前歯)2本を手用ブラシにて清掃後、有機質溶解剤(ADゲル)を歯面全面にほぼ均等に塗布したまま1〜2分間放置し、精製水で洗浄した後の歯面を撮影した写真を図5の上段右に示す。この写真から、有機質が除去されてエナメル質が露出したことにより、有機質によって隠れていたエナメル質の脱灰の進行具合が良くわかる。
【0149】
精製水で洗浄した後にコントラにラバーカップをつけて750rpmにてハイドロキシアパタイト(歯科専用リナメルPMTC最終仕上げペースト)を約30秒間塗布した。その後、チェアサイドでリン酸化オリゴ糖カルシウム入りのガム(江崎グリコ製;Poscam)を2粒、約20分間噛むように指導した。ガムを噛んだ後に歯を正面から撮影した写真を図5の下段中央に示す。この写真を見ると、歯につやが出て、しかも、白濁部の面積が減少したことがわかる。このことから、ハイドロキシアパタイトおよびリン酸化オリゴ糖カルシウムで再石灰化処置をすることにより、歯面が滑らかになり、かつ脱灰部の再石灰化が起きることがわかる。
【0150】
このことから、ハイドロキシアパタイトおよびリン酸化オリゴ糖カルシウムでの処置が萌出期の初期齲蝕マネジメントに非常に有効であり、初期脱灰病変の再石灰化促進および白濁物の消失に効果的であることがわかった。
【0151】
(実施例1:表層下脱灰部の陥没部の修復)
参考例からもわかるように、有機質溶解剤である次亜塩素酸ナトリウムを使用することにより、歯面上の有機質が分解され、歯質が露出する。歯面を露出させることにより阻害因子が除去され、各操作の効果が向上すると考えた。さらに、ナノサイズのハイドロキシアパタイトのペーストおよび粉末により微小欠損(すなわち、歯面の凹凸)を埋め立て、さらにリン酸化オリゴ糖を作用させることにより、このハイドロキシアパタイトの再石灰化を促進させることを考えた。
【0152】
31歳男性の右上中切歯前面の表層下脱灰部の陥没の写真を図6の左上に示す。右上中切歯の歯茎付近に歪んだ円状の陥没部が見られる。これは病巣がエナメル層に限局されているので、C1期の齲蝕である。この歯の前面のほぼ上半分に有機質溶解剤(ADゲル)を塗布し、1分間ワンタフトブラシを用いて作用させた。有機質溶解剤を塗布した状態の歯面を撮影した写真を図6の右上に示す。ワンタフトブラシを用いて有機質溶解剤を作用させている状態を撮影した写真を図6の左下に示す。その後、精製水で洗浄して有機質溶解剤を洗い流した。精製水での洗浄後の歯面を撮影した写真を図6の右下に示す。
【0153】
次いで、精製水での洗浄後のこの歯面に、コントラにラバーカップをつけて750rpmにてハイドロキシアパタイト(歯科専用リナメルPMTC最終仕上げペースト)を約30秒間塗布した。ハイドロキシアパタイトをコントラにラバーカップをつけて塗りこんでいる状態を撮影した写真を図7の左上に示す。その後、ハイドロキシアパタイトを精製水で軽く洗い流した後、リン酸化オリゴ糖カルシウム含有粉末(特開平8−104696号の実施例1に従って調製;糖質約80%、Ca含量約5%)約0.5gを陥没部を含むこの歯の前面全体に振りかけて精製水で軽く濡らした状態で約15分間放置した。リン酸化オリゴ糖カルシウム含有粉末が少量の水に溶けると粘性のある液体になるので、これにより、歯面がパックされたような状態になった。リン酸化オリゴ糖カルシウム含有粉末および精製水をハイドロキシアパタイト塗布面上に使用すると、リン酸化オリゴ糖カルシウム溶液特有の粘性が発揮され、ハイドロキシアパタイトが脱離して流出しにくくなる。さらに、リン酸化オリゴ糖カルシウムからカルシウムイオンが徐放されてハイドロキシアパタイトとともに石灰化する。
【0154】
この有機質溶解剤での処置からリン酸化オリゴ糖カルシウム含有粉末での処置までの一連の処置を、約2週間に1度行った。この患者に、リン酸化オリゴ糖カルシウム入りのガム(poscam;江崎グリコ製)を処方し、ホームケアとして、毎日食事後および随時気の向いたときにこのガムを2粒ずつ噛むことを継続させた。図7右上の写真は、この有機質溶解剤での処置からリン酸化オリゴ糖カルシウム含有粉末での処置までの一連の処置の2回目の処置前、図7左下の写真は3回目の処置後、図7右下の写真は4回目の処置後の状態である。
【0155】
初回処置前の歯面を撮影した写真を図8の左上に示し、最初の処置の約2週間後(2回目の処置前)に歯面を撮影した写真を図8の右上に示し、最初の処置の約4週間後(3回目の処置を行った直後)に歯面を撮影した写真を図8の左下に示し、最初の処置の約6週間後(4回目の処置を行った直後)に歯面を撮影した写真を図8の右下に示す。なお、これらの写真は、陥没部を見えやすくするためにカラー(白黒)(すなわち、図6左上、図7右上、図7左下および図7右下の写真)を反転させた写真である。図8の左上の写真と図8の右下の写真とを比較するとわかるように、約6週間後には陥没部がほとんど目立たなくなった。すなわち、C1期のエナメル質実質欠損部が修復された。これは、歯学の観点からみて非常に驚くべきことである。なぜなら、歯学の従来の常識では、実質欠損を伴う齲蝕は、レジンなどの人工的な材料を用いて埋めなければ治療することができなかったからである。ハイドロキシアパタイトは人間の歯の組成とほぼ同じ材料であるため、本発明により治療されて陥没が埋まった部分は、もともとの歯と一体化して区別できなくなり、アレルギーを引き起こすこともない。このことは健康上非常に有益である。
【0156】
このように、ハイドロキシアパタイトおよびリン酸化オリゴ糖カルシウムでの処置が軽度の実質欠損部の修復効果に効果的であることがわかった。
【0157】
さらに、この同じ患者の左上中切歯の白濁部に対して、この歯面の修復を行った。このケースは、左上中切歯の歯面表層が高度に再石灰化して表層下脱灰部へのアプローチが困難であったため、最表層のみの最小限の切削およびリン酸エッチングを行ったケースである。陥没部の処置後、左上中切歯の処置前の写真を図9の左上に示す。まず、研磨により、左上中切歯の最表層を削除した。最表層削除後の歯面の写真を図9の右上に示す。次いで、左上中切歯に40%の正リン酸水溶液を塗布して約5秒間放置することによりリン酸エッチングを行った。その結果、エナメル表面は脱灰され切削片(スメア層)が除去されて凹凸粗造となった。リン酸エッチング後の歯面の写真を図9の左下に示す。次いで、有機質溶解剤(ADゲル)を左右の上中切歯の前面全体に塗布し、1分間ワンタフトブラシを用いて作用させた。有機質溶解剤を塗布した歯面の写真を図9の右下に示す。
【0158】
その後、精製水で洗浄して有機質溶解剤を洗い流し、歯面を乾かすことにより防湿した。防湿した歯面の写真を図10の左上に示す。次いで、左右の上中切歯の唇面全体にコントラにラバーカップをつけて750rpmにてハイドロキシアパタイト粒子のペースト(歯科専用リナメルPMTC最終仕上げペースト)を約30秒間塗布した。ハイドロキシアパタイト粒子のペーストを左上中切歯の唇面にコントラにラバーカップをつけて塗りこんでいる状態で撮影した写真を図10の右上に示す。その後、余剰なハイドロキシアパタイト粒子のペーストを拭き取り、その上にリン酸化オリゴ糖カルシウム含有粉末(特開平8−104696号の実施例1に従って調製;糖質約80%、Ca含量約5%)約0.5gを振りかけて精製水で軽く濡らした状態で約15分間放置した。リン酸化オリゴ糖カルシウム含有粉末は少量の水に溶けると粘性のある液体になるので、これにより、歯面がパックされたような状態になった。このリン酸化オリゴ糖カルシウムを作用させている状態の歯面を撮影した写真を図10の左下に示す。その後、この歯面を精製水で洗い流した。この患者に、リン酸化オリゴ糖カルシウム入りのガム(poscam;江崎グリコ製)を処方し、ホームケアとして、毎日食事後および随時気の向いたときにこのガムを2粒ずつ噛むことを継続させた。2週間後、この有機質溶解剤での処置からリン酸化オリゴ糖カルシウム含有粉末での処置までの一連の処置を繰り返した。この2週間後の一連の処置の終了後の歯面の写真を図10の右下に示す。
【0159】
これらの処置のまとめとして、右上中切歯の陥没部および左上中切歯の白化部の処置前の歯面の写真を図11の左上に示し、右上中切歯の陥没部の処置および左上中切歯の表層処置後の歯面の写真を図11の右下に示す。これらの写真を見比べると、右上中切歯の陥没部は、どこに陥没があったのかわからないほどきれいに埋め立てられ、周りの部分と一体化した平滑な表面となっていることがわかる。左上中切歯の白斑部分はうっすらと周縁に白い部分が認められるだけとなり、ほぼ正常な歯面となった。また、左上中切歯の着色部分がなくなり、つやのある歯面となった。このように、ハイドロキシアパタイトおよびリン酸化オリゴ糖カルシウムでの処置が、生体材料による実質欠損部の修復効果に効果的であることがわかった。
【0160】
(実施例2:トータルケアの相乗効果)
歯の健康のためには、歯科医師によるケアと家庭でのホームケアの両方が重要である。口腔内で絶えず起こっている脱灰と再石灰化とのサイクルを再石灰化側に傾けることが重要であり、それにより、健康を増進する方向のケアが行われる。
【0161】
歯科医師による処置前に歯を噛み合せた状態で38歳女性の歯を正面から撮影した写真を図12の右上に示す。歯面への色素沈着が見られる。この歯面に対して、有機質溶解剤(ADゲル)を歯面全面にほぼ均等に塗布したまま1〜2分間ワンタフトブラシを用いて充分に作用させ、精製水で洗浄し、その後、精製水での洗浄後にコントラにラバーカップをつけて750rpmにてハイドロキシアパタイトペースト(歯科専用リナメルPMTC最終仕上げペースト)を約30秒間塗布した。その後精製水で洗浄し、リン酸化オリゴ糖カルシウム入りのガム(poscam;江崎グリコ製)を2粒20分間チェアサイドで噛むことを指示した。
【0162】
プロフェッショナルケアとしては、プロフェッショナルメカニカルトゥースクリーニング、有機質溶解剤の塗布、精製水での洗浄、ハイドロキシアパタイトペーストの塗布、リン酸化オリゴ糖カルシウム入りのガム(poscam;江崎グリコ製)の摂取を約1ヶ月に1回繰り返した。また、セルフケアとしては研磨剤無配合ナノ粒子ハイドロキシアパタイト配合歯磨剤の使用を基本とした。さらに、リン酸化オリゴ糖カルシウム入りのガム(poscam;江崎グリコ製)を処方し、毎日食事後および随時気の向いたときにこのガムを2粒ずつ20分間噛むことを継続させた。
【0163】
初回ADゲル処理後の状態で正面から撮影した写真を図12の左下に示し、最初の処置から3ヶ月後の来院時処置前に歯を噛み合せた状態で正面から撮影した写真を図12の右下に示す。
【0164】
同じく最初の処置から3ヶ月後の来院時処置前に歯を噛み合せた状態で正面から撮影した写真を拡大したもの図13に示す。脱灰部は見られず、歯面もつるつるに輝いていた。もともとの主訴であった歯面の着色は見られず、研磨剤を用いなくても汚染物質が付着しにくい歯面が獲得維持できていることを示している。すなわちこれは、歯の健康状態が保たれたことを示す。
【0165】
(参考例5:露出した象牙質表層のin vitroでの「エナメル質化(Enamelization)」)
歯周治療や加齢、咬合によって生じる歯肉退縮に伴い発生する根面齲蝕は、象牙細管の存在がその進行を早める一因となっている。また、知覚過敏についても象牙細管の開口が現象として確認されている。このような露出根面に対する予防法は確立されておらず、臨床においてエナメル質との組織的な違いを強く実感する部分である。したがって、露出象牙質表層の象牙細管を封鎖してアパタイトリッチな表層に改質すること(エナメル質化)は臨床的意義が大きい。これまで本発明者らは、エナメル質の脱灰抑制と再石灰化促進を目的として、有機質溶解剤を応用したナノ粒子ハイドロキシアパタイト(nanoHAP)含有ペーストによる歯面修復ケアを考案し、臨床的有効性について検討してきた。有機質溶解剤を応用したナノ粒子ハイドロキシアパタイト(nanoHAP)含有ペーストによる歯面修復ケアを象牙質に応用すれば、根面齲蝕に対する耐性の獲得および知覚過敏抑制効果も期待できることから、本実施例では、その可能性についてヒト抜去歯を用いた試験により検討を行った。
【0166】
生理食塩水に保存したヒト抜去歯を用いて、試料が平行になるようにマイクロカッター(ISOMET ビューラー)にて象牙質最表層を切除した。有機質溶解剤を応用したナノ粒子ハイドロキシアパタイト(nanoHAP)含有ペーストによる歯面修復ケアでは有機質溶解剤「ADゲル」(クラレメディカル)を塗布し、ワンタフトブラシを用いて2分間作用させた後、蒸留水で洗浄した。さらにADゲル処理した象牙質面にナノHAP含有ペースト「歯科専用リナメルPMTC最終仕上げペースト」(サンギ)を塗布し、PMTC専用コントラにラバーカップを付けて低速回転(1000回転)で20秒間作用させた後、蒸留水で洗浄した。未処理、ADゲル処理、リナメル処理の各試料の表面をSPM(セイコーインスツルメント)を用いて経時的に観察し、象牙質の形状(平面像、三次元像、断面プロファイル)および平均表面粗さを測定した。また常法に従ってSEM観察用試料を作製し、FE−SEM(HITACHI)を用いて各処理による表面状態の違いを観察した。
【0167】
抜去歯試料のSPM観察の結果、平均表面粗さはADゲル処理により一時的に増大するが、リナメル処理後は未処理時よりも改善されていた。SEM観察では、未処理試料において象牙細管の開口が認められたが、リナメル処理により象牙細管が均一に封鎖された像が確認できた。
【0168】
以上の結果から、ADゲル処理はコラーゲンをはじめとする象牙細管内および表層の有機質を溶解し、ナノハイドロキシアパタイトを作用させることで象牙細管を封鎖してアパタイトリッチな表層に改質することが示された。
【0169】
(参考例6:in situでの象牙細管のエナメル化処置)
本法を象牙質に臨床応用すれば、根面齲蝕に対する耐性の獲得および知覚過敏抑制効果も期待できることから、本実施例では、その可能性についてin situ試験で検討を行った(加藤正治,相澤真奈美:露出した象牙質表層の「エナメル質化」に関する研究,日本歯科保存学会誌 50秋季特別号,173,2007)。
【0170】
in situ試験では、抜歯予定の下顎智歯(生活歯)を用い、浸潤麻酔下にて歯冠部をエアタービンにて平滑に切削した。露出した象牙質に対して40%リン酸を10秒間作用させてスメア層を除去し、精製水にて洗浄した。引き続き防湿下にて同様にADゲルとリナメルを作用させた後、直ちに抜歯し、生理食塩水に保存した。その後試料のSEM観察を表面ならびに割断面について行った。
【0171】
in situでの実験を説明する。浸潤麻酔下にて歯冠部をエアタービンにて平滑に切削した。切削によって生じた切削片が象牙細管に詰まってスメア層が形成されたので、露出した象牙質に対して40%リン酸を10秒間作用させてスメア層を除去し、精製水にて洗浄した。引き続き防湿下にて同様に歯面修復ケアとして有機質溶解剤(「ADゲル」、クラレメディカル製)を塗布し、ワンタフトブラシを用いて2分間作用させた後、精製水で洗浄した。次いで、ナノハイドロキシアパタイト含有ペースト(「歯科専用リナメルPMTC最終仕上げペースト」、サンギ製)をこの露出した象牙質に塗布し、PMTC専用コントラにラバーカップを付けて低速回転(1000回転)で20秒間作用させた後、精製水で洗浄した。リナメルを作用させて精製水で洗浄した後、直ちに抜歯し、この歯を生理食塩水に保存した。
【0172】
このin situで処置した後に抜歯した歯についてSEM観察を行った。SEM観察を、表面および割断面について行った。多くの象牙細管にハイドロキシアパタイトが詰まっていることが確認された。
【0173】
この結果、in situ試験を行った試料表面のSEM観察においても象牙細管が封鎖され、表面がナノハイドロキシアパタイトにより一層コーティングされる傾向が認められた。割断面の観察では象牙細管内にナノハイドロキシアパタイトが数μm侵入している様子も観察された。
【0174】
従って、in situ試験においても同様に、歯面修復ケアはコラーゲンをはじめとする象牙細管内および表層の有機質を溶解し、ナノハイドロキシアパタイトを作用させることで象牙細管を封鎖してアパタイトリッチな表層に改質することが示されたことから、これまで困難であった根面齲蝕予防や知覚過敏抑制における本法の臨床的有用性も示唆された。ナノハイドロキシアパタイトは生体安全性が高く継続使用にも適していると考えられることから、実際の臨床では、オフィスケアとしての歯面修復ケアとドラッグリテーナーにアパタイト製剤を使用するセルフケアを併用する手法が有望であると考えている。
【0175】
(実施例3:根面齲蝕の抑制1)
臨床における歯面修復ケアの有効性を実証するために、根面齲蝕へのアプローチを行った。41歳男性の歯を噛み合せた状態で正面から撮影した写真を図14の上段左に示す。右下の第1大臼歯および第2大臼歯の根面に齲蝕が形成されている。右下の第1大臼歯および第2大臼歯を横から撮影した写真を図14の上段真ん中に示す。根面が変色しており、齲蝕が形成されているのがわかる。根面部分に有機質溶解剤(「ADゲル」、クラレメディカル製)を塗布し、ワンタフトブラシを用いて2分間作用させた後、精製水で洗浄した。有機質溶解剤を作用させている状態の歯の写真を図14の上段右に示す。精製水で除去後、ナノハイドロキシアパタイト含有ペースト(「歯科専用リナメルPMTC最終仕上げペースト」、サンギ製)をこの根面に塗布し、PMTC専用コントラにラバーカップを付けて低速回転(1000回転)で20秒間作用させた後、精製水で洗浄した。ハイドロキシアパタイト含有ペーストを作用させている状態の歯の写真を図14の下段左に示し、ハイドロキシアパタイト含有ペーストを作用させてから精製水で洗浄した後、チェアサイドでリン酸化オリゴ糖カルシウム入りのガム(poscam;江崎グリコ製)を2粒20分間噛むように指示した。セルフケアではリン酸化オリゴ糖カルシウム入りのガム(poscam;江崎グリコ製)を毎食後および随時摂取するように処方した。歯面修復ケアを計4回行い、初回ケアから9ヶ月経過時の状態の歯の写真を図14の下段右に示す。根面齲蝕により脱灰軟化していた当該部位表面の硬度は触診でエナメル質と差異が感じられないほどまでに改善し、非常に滑沢な表面性状が獲得できた。このことから、ハイドロキシアパタイトおよびリン酸化オリゴ糖カルシウムでの処置が根面齲蝕の抑制に効果的であることがわかった。
【0176】
(実施例4:根面齲蝕の抑制3)
以下、実際の臨床例を説明する。50歳の女性の歯周病を治療した。歯周病処置前に、歯をかみ合わせた状態で歯および歯茎を正面から撮影した写真を図15の左上に示す。歯茎が赤く腫れ、後退しているのがわかる。歯周治療後に、歯および歯茎を正面から撮影した写真を図15の右下および図16の左上に示す。腫れがひいたことにより、歯茎の後退が激しくなっている。
【0177】
歯周治療後に、有機質溶解剤(「ADゲル」、クラレメディカル製)を歯の根面に塗布し、ワンタフトブラシを用いて2分間作用させた後、精製水で洗浄した。有機質溶解剤を作用させている状態の歯の写真を図16の右上に示し、有機質溶解剤を作用させた後に歯を精製水で洗浄している様子を撮影した写真を図16の左下に示す。精製水での洗浄後に防湿した歯の写真を図16の右下に示す。次いで、ナノハイドロキシアパタイト含有ペースト(「歯科専用リナメルPMTC最終仕上げペースト」、サンギ製)をこの露出した象牙質に塗布し、PMTC専用コントラにラバーカップを付けて低速回転(1000回転)で20秒間作用させた後、精製水で洗浄した。ハイドロキシアパタイト含有ペーストを作用させている状態の写真を図17の左上および図17の右上に示す。図17の左上の写真では、ラバーカップで歯面にハイドロキシアパタイトを塗りこんでおり、図17の右上の写真ではラバーコーンで歯の間の隙間部分にハイドロキシアパタイトを塗りこんでいる。ハイドロキシアパタイトを精製水で洗浄している後の状態を示す写真を図17の左下に示す。この後、ハイドロキシアパタイト含有ペーストを充填したドラッグリテーナーを歯にかぶせて5分間放置した。ドラッグリテーナーを歯にかぶせた状態を正面から撮影した写真を図17の右下に示す。この後、精製水で洗浄し、次いでリン酸化オリゴ糖カルシウム30%水溶液をそれぞれの歯根部に充分に行き渡るように作用させた。リン酸化オリゴ糖カルシウム30%水溶液は粘性のある液体なので、これにより、歯面がパックされたような状態になった。このリン酸化オリゴ糖カルシウム30%水溶液を作用させているところの写真を図18の左に示す。処置後の歯を正面から撮影した写真を図18の右に示す。これらの処置により、根面の象牙細管が封鎖された結果、根面齲蝕予防と同時に知覚過敏抑制効果が認められた。このことから、ハイドロキシアパタイトおよびリン酸化オリゴ糖カルシウムでの処置が根面齲蝕の抑制に効果的であることがわかった。
【0178】
(実施例5:知覚過敏の抑制)
知覚過敏への応用についても検討した。知覚過敏は、歯根部の象牙質が露出し、歯の外の刺激が歯髄に到達することによって起こる。知覚過敏の28歳の女性患者の噛み合わせた状態で右側の歯を撮影した写真を図19に示す。右上第1小臼歯の歯茎が後退して、歯根部のエナメル質が存在しない部分が露出しているのがわかる。この患者に対して、有機質溶解剤(「ADゲル」、クラレメディカル製)を塗布し、ワンタフトブラシを用いて2分間作用させた後、精製水で洗浄した。次いで、ナノハイドロキシアパタイト含有ペースト(「歯科専用リナメルPMTC最終仕上げペースト」、サンギ製)をこの露出した象牙質に塗布し、PMTC専用コントラにラバーカップを付けて低速回転(1000回転)で20秒間作用させた後、精製水で洗浄した。この後、精製水で洗浄し、次いでリン酸化オリゴ糖カルシウム30%水溶液歯根部に充分に行き渡るように作用させた。リン酸化オリゴ糖カルシウム30%水溶液は粘性のある液体なので、これにより、歯面がパックされたような状態になった。セルフケアではリン酸化オリゴ糖カルシウム入りのガム(poscam;江崎グリコ製)を毎食後および随時摂取するように処方した。歯磨剤はナノ粒子ハイドロキシアパタイト配合のものだけを使用するように指導した。2週後の来院時には患者は知覚過敏を感じなくなった。このことから、ハイドロキシアパタイトおよびリン酸化オリゴ糖カルシウムでの処置が知覚過敏抑制効果に効果的であることがわかった。
【0179】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本発明は、歯科材料として応用され得る。このような歯科材料の例としては、仮封材;裏層材;根充材;知覚過敏抑制材;サージカルパック;洗口剤などに利用され得る。仮封材は、例えば、歯を切削した際に仮に穴を埋めるために用いられる。裏層材は、例えば、薄くなった歯の内側に中から詰めるために用いられる。根充材は、例えば、歯の強度低下を防ぐために、神経をとった後に根っこを埋める材料として用いられる。サージカルパックは、例えば、歯周病の手術の後、術部をガムのようなもので保護するために用いられる。本発明はまた、知覚過敏抑制剤;pHコントロール(薬剤の);介護現場でのケア用品としても用いられ得る。本発明により、コンポジットレジン以外の実質欠損の充填効果が得られる。本発明のキットを用いれば、歯科医院だけでなく、家庭においても、歯のケアを行って軽度の齲蝕を修復および予防することができ、歯根部象牙質に対してもエナメル質化を図ることで根面齲蝕予防や知覚過敏抑制のためケアを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0181】
【図1】図1は、表層下脱灰になった牛歯の断面写真を示す。
【図2】図2は、高濃度フッ素塗布の功罪を示す写真である。図2の左は、歯を噛み合わせた状態で正面から撮影した写真であり、図2の右は、上の左右の犬歯までの拡大写真である。これらの写真において、上の左右中切歯の歯茎に近い部分の歯面などに、フッ素塗布によって表層のみが高度に再石灰化し内部に白く変色した部分が帯状に残存した状態が見られる。
【図3】萌出期の6歳男性の前歯(上顎の左右の中切歯)の写真である。図3の左の写真は、術前の写真であり、図3の右の写真は、手用ブラシにて清掃後、有機質溶解剤を1〜2分塗布し、精製水で洗浄した後の歯面の写真である。
【図4】図4の左上の写真は、参考例3と同じ男性についての、初期脱灰病変部の最初の処置から2ヶ月後に歯を噛み合わせた状態で正面から撮影した写真であり、図4の右下の写真は、初期脱灰病変部の最初の処置から3ヶ月後に歯を噛み合わせた状態で正面から撮影した写真である。
【図5】図5の上段左は、参考例3と同じ男性についての、参考例3の9ヵ月後の前歯(上顎の左右の中切歯および下顎の左右中切歯から側切歯)の術前(プロケア前)の写真である。図5の上段右は、有機質溶解剤で処理することによって有機質を除去した後の上顎左右中切歯の写真である。図5の下段中央は、ハイドロキシアパタイト処理後にリン酸化オリゴ糖カルシウム入りのガムを噛んだ後に歯を正面から撮影した写真である。
【図6】図6の左上の写真は、31歳男性の右上中切歯前面の表層下脱灰部の陥没を示す写真である。図6の右上の写真は、有機質溶解剤を塗布した状態の歯面を撮影した写真である。図6の左下の写真は、ワンタフトブラシを用いて有機質溶解剤を作用させている状態を撮影した写真である。図6の右下の写真は、精製水で洗浄して有機質溶解剤を洗い流した後の歯面を撮影した写真である。
【図7】図7の左上の写真は、ハイドロキシアパタイトをコントラにラバーカップをつけてブラシで塗りこんでいる状態を撮影した写真である。図7右上の写真は2回目実施前、図7左下の写真は3回目実施後、図7右下の写真は4回目実施後の状態である。
【図8】図8の左上の写真は、31歳男性の右上中切歯前面の表層下脱灰部の陥没の処置前の歯面を撮影した写真である。図8の右上の写真は、最初の処置の約2週間後(2回目の処置前)に歯面を撮影した写真である。図8の左下の写真は、最初の処置の約4週間後(3回目の処置を行った直後)に歯面を撮影した写真である。図8の右下の写真は、最初の処置の約6週間後(4回目の処置を行った直後)に歯面を撮影した写真である。なお、これらの写真は、陥没部を見えやすくするためにカラー(白黒)を反転させた写真である。
【図9】図9の左上の写真は、31歳男性の陥没部の処置後、左上中切歯を処置前に撮影した写真である。図9の右上の写真は、最表層削除後の歯面を撮影した写真である。図9の左下の写真は、リン酸エッチング後の歯面を撮影した写真である。図9の右下の写真は、有機質溶解剤を塗布した歯面を撮影した写真である。
【図10】図10の左上の写真は、有機質除去剤を洗い流した後に防湿した歯面を撮影した写真である。図10の右上の写真は、ハイドロキシアパタイト粒子のペーストを左上中切歯の唇面にコントラにラバーカップをつけてブラシで塗りこんでいる状態で撮影した写真である。図10の左下の写真は、リン酸化オリゴ糖カルシウムを作用させている状態の歯面を撮影した写真である。図10の右下の写真は、2週間後の一連の処置の終了後の歯面を撮影した写真である。
【図11】図11の左上の写真は、31歳男性の右上中切歯の陥没部および左上中切歯の白化部の処置前の歯面を撮影した写真である。図11の右下の写真は、右上中切歯の陥没部の処置および左上中切歯の表層処置後の歯面を撮影した写真である。
【図12】図12の右上の写真は、歯科医師による処置前に歯を噛み合せた状態で38歳女性の歯を正面から撮影した写真である。図12の左下の写真は、初回ADゲル処理後の状態で正面から撮影した写真である。図12の右下の写真は、最初の処置から3ヶ月後の来院時処置前に歯を噛み合せた状態で正面から撮影した写真である。
【図13】図13は、最初の処置から3ヶ月後の来院時処置前に歯を噛み合せた状態で正面から撮影した写真である。
【図14】図14の上段左の写真は、41歳男性の歯を噛み合せた状態で正面から撮影した写真である。図14の上段真ん中の写真は、右下の第1大臼歯および第2大臼歯を横から撮影した写真である。図14の上段右の写真は、有機質溶解剤を作用させている状態の歯の写真である。図14の下段左の写真は、ハイドロキシアパタイト含有ペーストを作用させている状態の歯の写真である。図14の下段右の写真は、歯面修復ケアを計4回行い、初回ケアから9ヶ月経過時の状態の歯の写真である。
【図15】図15の左上の写真は、歯周病処置前に、歯および歯茎を正面から撮影した写真である。図15の右下の写真は、歯周治療後に、歯をかみ合わせた状態で歯および歯茎を正面から撮影した写真である。
【図16】図16の左上の写真は、歯周治療後に、歯および歯茎を正面から撮影した写真である。図16の右上の写真は、有機質溶解剤を作用させている状態の歯の写真である。図16の左下の写真は、有機質溶解剤を作用させた後に歯を精製水で洗浄している様子を撮影した写真である。図16の右下の写真は、洗浄後に防湿した歯の写真である。
【図17】図17の左上および右上の写真は、ハイドロキシアパタイト含有ペーストを作用させている状態の写真である。図17の左上の写真では、大き目のラバーカップで歯面にハイドロキシアパタイトを塗りこんでおり、図17の右上の写真では小さ目のラバーカップで歯の間の隙間部分にハイドロキシアパタイトを塗りこんでいる。図17の左下の写真は、ハイドロキシアパタイトを精製水で洗浄している後の状態を示す写真である。図17の右下の写真は、ドラッグリテーナーを歯にかぶせた状態を正面から撮影した写真である。
【図18】図18の左の写真は、リン酸化オリゴ糖カルシウム30%水溶液を作用させているところを示す写真である。図18の右の写真は、処置後の歯を正面から撮影した写真である。
【図19】図19は、知覚過敏の28歳の女性患者の噛み合わせた状態で右側の歯を撮影した写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
齲蝕治療用キットであって、該キットは、
(1)ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物および
(2)リン酸化糖カルシウム含有組成物
を備えており、該齲蝕がC1期またはC2期の齲蝕および根面齲蝕であり、該リン酸化糖カルシウムが、糖部分とリン酸基のカルシウム塩とからなり、該糖部分が重合度2〜8のグルカンであり、該リン酸基の数が1〜2個である、キット。
【請求項2】
(i)歯の齲蝕による欠損部分に前記ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を充填し、その後、前記リン酸化糖カルシウム含有組成物を該充填部に適用するか、または(ii)歯の齲蝕による欠損部分に前記ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物と前記リン酸化糖カルシウム含有組成物との混合物を充填することを特徴とする、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
(3)有機質溶解剤をさらに備える、請求項1に記載のキット。
【請求項4】
歯の齲蝕による欠損部分に前記有機質溶解剤を適用して該欠損部分の有機質を除去することにより歯の欠損部分表面を露出させ、その後、(i)該露出した欠損部分に前記ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を充填し、その後、前記リン酸化糖カルシウム含有組成物を該充填部に適用するか、または(ii)該露出した欠損部分に前記ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物と前記リン酸化糖カルシウム含有組成物との混合物を充填することを特徴とする、請求項1に記載のキット。
【請求項5】
ハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムを含む、齲蝕治療用組成物であって、該齲蝕がC1期またはC2期の齲蝕および根面齲蝕であり、該リン酸化糖カルシウムが、糖部分とリン酸基のカルシウム塩とからなり、該糖部分が重合度2〜8のグルカンであり、該リン酸基の数が1〜2個である、組成物。
【請求項6】
前記組成物が粉末状である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
歯のエナメル質が損傷を受けた場合のエナメル質ケア用キットであって、該キットは、
(1)ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物および
(2)リン酸化糖カルシウム含有組成物
を備えており、該リン酸化糖カルシウムが、糖部分とリン酸基のカルシウム塩とからなり、該糖部分が重合度2〜8のグルカンであり、該リン酸基の数が1〜2個であり、
(i)該ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を該損傷を受けた部分に適用し、その後、該部分に該リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用するか、または、
(ii)該ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物と該リン酸化糖カルシウム含有組成物との混合物を該損傷を受けた部分に適用する、キット。
【請求項8】
前記損傷が、ディボンディング、ホワイトニング、プロフェッショナルメカニカルトゥースクリーニング、ポリッシングまたは矯正治療によって引き起こされる、請求項7に記載のキット。
【請求項9】
歯のエナメル質が損傷を受けた場合のエナメル質ケア用組成物であって、該組成物は、ハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムを含み、該リン酸化糖カルシウムが、糖部分とリン酸基のカルシウム塩とからなり、該糖部分が重合度2〜8のグルカンであり、該リン酸基の数が1〜2個である、組成物。
【請求項10】
前記損傷が、ディボンディング、ホワイトニング、プロフェッショナルメカニカルトゥースクリーニング、ポリッシングまたは矯正治療によって引き起こされる、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
歯の露出根面のエナメル質化のためのキットであって、該キットは、
(1)ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物および
(2)リン酸化糖カルシウム含有組成物
を備えており、該リン酸化糖カルシウムが、糖部分とリン酸基のカルシウム塩とからなり、該糖部分が重合度2〜8のグルカンであり、該リン酸基の数が1〜2個であり、
(i)該ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を歯の露出根面に適用し、その後、該根面に該リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用するか、または、
(ii)該ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物と該リン酸化糖カルシウム含有組成物との混合物を歯の露出根面に適用する、キット。
【請求項12】
歯の露出根面のエナメル質化のための組成物であって、該組成物は、ハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムを含み、該リン酸化糖カルシウムが、糖部分とリン酸基のカルシウム塩とからなり、該糖部分が重合度2〜8のグルカンであり、該リン酸基の数が1〜2個である、組成物。
【請求項13】
知覚過敏治療用キットであって、該キットは、
(1)ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物および
(2)リン酸化糖カルシウム含有組成物
を備えており、該リン酸化糖カルシウムが、糖部分とリン酸基のカルシウム塩とからなり、該糖部分が重合度2〜8のグルカンであり、該リン酸基の数が1〜2個であり、
(i)該ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物を歯の知覚過敏面に適用し、その後、該面に該リン酸化糖カルシウム含有組成物を適用するか、または、
(ii)該ハイドロキシアパタイト粒子含有組成物と該リン酸化糖カルシウム含有組成物との混合物を歯の知覚過敏面に適用する、キット。
【請求項14】
知覚過敏治療用組成物であって、該組成物は、ハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムを含み、該リン酸化糖カルシウムが、糖部分とリン酸基のカルシウム塩とからなり、該糖部分が重合度2〜8のグルカンであり、該リン酸基の数が1〜2個である、組成物。
【請求項15】
齲蝕治療用歯磨き剤であって、該歯磨き剤は、ハイドロキシアパタイト粒子およびリン酸化糖カルシウムを含み、該齲蝕がC1期またはC2期の齲蝕および根面齲蝕であり、該リン酸化糖カルシウムが、糖部分とリン酸基のカルシウム塩とからなり、該糖部分が重合度2〜8のグルカンであり、該リン酸基の数が1〜2個である、歯磨き剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−167135(P2009−167135A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8471(P2008−8471)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(508017926)
【出願人】(508017937)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】