1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミン誘導体の新規な塩
【課題】N-(4-フルオロフェニル)- N'-フェニル-N''- (ピリミジン-2-イルメチル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン(化合物A)及び/又はN, N'-ビス(4-フルオロフェニル)-N''- (ピリミジン-2-イルメチル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン(化合物B)を、医薬品又は医薬品の原体として使用するための、安定的に単一の結晶が得られ、安定性に優れた化合物A及び/又は化合物Bのフマル塩及びその新規結晶が提供される。
【解決手段】化合物A及び/又は化合物Bのフマル酸との塩は、安定的に単一の結晶が得られ、安定性に優れた医薬品又は医薬品原体としてきわめて有用な化合物である。
【解決手段】化合物A及び/又は化合物Bのフマル酸との塩は、安定的に単一の結晶が得られ、安定性に優れた医薬品又は医薬品原体としてきわめて有用な化合物である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、特に特定のカリウムチャネル阻害剤として有用な、N-(4-フルオロフェニル)- N'-フェニル-N''- (ピリミジン-2-イルメチル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン(以下、化合物Aと言う。)及び/又はN, N'-ビス(4-フルオロフェニル)-N''- (ピリミジン-2-イルメチル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン(以下、化合物Bと言う。)の新規な塩に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物A及び/又は化合物Bは、以下の化学構造を有し、特定のカリウムチャネル(BEC1カリウムチャネル)を阻害する作用と抗うつ作用を有すること及び認知症の治療に有用であることが知られている(米国特許第7375222号)。
【0003】
【化1】
【0004】
化合物Aは、具体的に、化合物A・2HCl・0.3H2O・0.1酢酸エチルの組成物として単離されており(米国特許第7375222号)、他の製薬学的に許容される酸付加塩の具体的な報告はない。また、化合物Bは架空実施例として記載されているのみである(米国特許第7375222号)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
化合物AのpKa値は3.9であり塩基性が弱いことから、一般的には強酸との塩が好ましい。代表的な強酸の1つである塩酸を対イオンとした公知化合物である化合物Aの2塩酸塩は、付着溶媒のない無水物の結晶として得られるものの、DSCを測定すると複数の吸熱ピークが得られることから、複数の結晶が存在する可能性があった。構造式が同一の化合物であっても、結晶形が異なれば、化合物の溶解性や安定性が異なることはよく知られた事実である。医薬品の品質の同一性や安定性を確保するためには、同一の結晶形が安定的に得られる化合物及びその製造法を選択することが好ましい。
化合物Bについては、具体的な化合物が得られているわけではない。しかし、医薬品の品質の同一性や安定性を確保するためには、同一の結晶形が安定的に得られる化合物(フリー体又は特定の酸付加塩)及びその製造法を選択することが好ましい点、更に、溶媒和物が得られる場合には、製薬学的に許容できる溶媒和物であることが好ましい点は、化合物Aと同様である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、化合物A及び/又はBについて、それらのフリー体やそれらの酸付加塩について検討を行った結果、化合物A及び/又はBの特定の不揮発性の酸付加塩が、単一の結晶として安定的に得られること、及び、当該結晶が優れた安定性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明の目的は、式(I)
【化2】
(ここでR1:H又はF)
の化合物とフマル酸からなる塩を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、式(I)の化合物の結晶を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、式(I)の化合物を有効量を含有し、更に製薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供することである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の、化合物A(式IにおいてR1がHである化合物)のフマル酸塩は、公知化合物である化合物A・2塩酸塩と比較して、安定的に単一の結晶が得られる点で有利であり、優れた安定性を有する医薬品又は活性医薬成分としてきわめて有用な化合物である。また、化合物B(式IにおいてR1がFである化合物)のフマル酸塩も、安定的に単一の結晶が得られ、安定性に優れた医薬品又は活性医薬成分としてきわめて有用な化合物である。
特に、安定的に単一の結晶が得られるという点においては、公知化合物である化合物A・2塩酸塩は単一の結晶形が得られていないことが明らかとなっており、開発品として選択する場合には、一定の規格の範囲の溶解性や安定性を有する結晶を安定的に製造しなければならない点で不利である。化合物A及び/又はBのフマル酸塩は、単一の結晶として安定的に得られること、及び、当該結晶が優れた安定性を示すことから優れた医薬品の提供に資するものである。
化合物A及び/又は化合物Bは、統合失調症の動物モデルにおいて、メタンフェタミン誘発運動亢進を抑制した。すなわち、これら2化合物は認知症の改善効果のみならず、統合失調症の症状を改善する作用があることが見出された。
【図面の簡単な説明】
【0011】
例により、及び、明細書の記載をより明確にするため、図に従って説明する。
【図1】化合物Aとフマル酸の比が2:1の塩の無水物の結晶(I型結晶)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図2】化合物Aとフマル酸の比が2:1の塩であって、化合物Aと水の比が2:1である水和物の結晶(II型結晶)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図3】化合物Aとフマル酸の比が1:1の塩(化合物Aと付着溶媒であるメチルエチルケトン、EtOH及び水の比=1:0.1:0.007:0.3)の結晶(III型結晶)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図4】化合物Aと塩酸の比が1:2の塩の無水物の結晶の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図5】化合物Bとフマル酸の比が1:1の塩の結晶(I型結晶)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図6】化合物Bと塩酸の比が1:2の塩の結晶(I型結晶)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図7】化合物Aとフマル酸の比が2:1の塩の無水物の結晶(I型結晶)のDSC曲線を示す図である。
【図8】化合物Aとフマル酸の比が2:1の塩であって、化合物Aと水の比が2:1である水和物の結晶(II型結晶)のDSC曲線を示す図である。
【図9】化合物Aとフマル酸の比が1:1の塩(化合物Aと付着溶媒であるメチルエチルケトン、EtOH及び水の比=1:0.1:0.007:0.3)の結晶(III型結晶)のDSC曲線を示す図である。
【図10】化合物Aと塩酸の比が1:2の塩の無水物の結晶のDSC曲線を示す図である。
【図11】化合物Bとフマル酸の比が1:1の塩の結晶(I型結晶)のDSC曲線を示す図である。
【図12】化合物Bと塩酸の比が1:2の塩の結晶(I型結晶)のDSC曲線を示す図である。
【図13】化合物Aのフリー体の結晶の粉末X線回折パターンを示す図である。この結晶は、線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、7.7付近,19.5付近,21.8付近,及び28.6付近にピークを示すことを特徴とする。
【図14】化合物Aのフリー体の結晶のDSC曲線を示す図である。DSCにおける吸熱オンセット温度が約185℃である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の化合物Aのフマル酸塩及び/又は化合物Bのフマル酸塩は、単一の結晶として安定的に得られ、当該結晶は優れた安定性を示す。従って、本発明のいずれの塩又はそれらの結晶も医薬品又は活性医薬成分として好適であるが、特に好ましくは、化合物A とフマル酸の比が2:1である塩及び/又は化合物Bとフマル酸の比が1:1である塩又はそれらの結晶である。
【0013】
本発明の好ましい態様を以下に示す。
(1)化合物A とフマル酸の比が2:1の塩の無水物。
(2)化合物A とフマル酸の比が2:1の塩の無水物の結晶。
(3)DSCにおける吸熱オンセット温度が190℃付近である(2)に記載の結晶。
(4)線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、5.3付近,8.2付近,10.5付近,及び16.4付近にピークを示すことを特徴とする(2)に記載の結晶。
(5)線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、5.3付近,8.2付近,9.8付近,10.5付近,11.7付近,16.4付近,18.6付近及び,26.6付近にピークを示すことを特徴とする(2)に記載の結晶。
(6)DSCにおける吸熱オンセット温度が180-200℃であり、粉末X線解析において線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、5.3付近,8.2付近,10.5付近,及び16.4付近にピークを示すことを特徴とする(2)に記載の結晶。
(7)DSCにおける吸熱オンセット温度が180-200℃であり、粉末X線解析において線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、5.3付近,8.2付近,9.8付近,10.5付近,11.7付近,16.4付近,18.6付近及び,26.6付近にピークを示すことを特徴とする(2)に記載の結晶。
(8)(2)〜(7)に記載された結晶がI型結晶である結晶。
(9)化合物Aとフマル酸から成る塩を有効成分として含有し、さらに製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
(10)有効成分が化合物A とフマル酸の比が2:1の塩である(9)に記載の医薬組成物。
(11)有効成分が化合物A とフマル酸の比が2:1の塩の無水物である(9)に記載の医薬組成物。
(12)(2)〜(7)に記載の結晶を有効成分として含有し、さらに製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
(13)化合物A とフマル酸の比が2:1の塩であって、化合物Aと水の比が2:1である水和物。
(14)(13)に記載の化合物の結晶。
(15)DSCにおける吸熱オンセット温度が150℃付近である(14)に記載の結晶。
(16)線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.7付近,7.8付近,20.1付近,及び20.5付近にピークを示すことを特徴とする(14)に記載の結晶。
(17)線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.7付近,7.8付近,8.1付近,10.5付近,13.9付近,20.1付近,20.5付近及び,21.6付近にピークを示すことを特徴とする(14)に記載の結晶。
(18)DSCにおける吸熱オンセット温度が140-160℃であり、粉末X線解析において線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.7付近,7.8付近,20.1付近,及び20.5付近にピークを示すことを特徴とする(14)に記載の結晶。
(19)DSCにおける吸熱オンセット温度が140-160℃であり、粉末X線解析において線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.7付近,7.8付近,8.1付近,10.5付近,13.9付近,20.1付近,20.5付近及び,21.6付近にピークを示すことを特徴とする(14)に記載の結晶。
(20)(14)〜(19)から選択される結晶がII型結晶である結晶。
(21)(13)に記載の塩化合物を有効成分として含有し、さらに製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
(22)(14)〜(20)に記載の結晶から選択された結晶を有効成分として含有し、さらに製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
(23)化合物A とフマル酸の比が1:1の塩。
(24)化合物A とフマル酸の比が1:1の塩の無水物。
(25)(23)又は(24)に記載の化合物の結晶。
(26)DSCにおける吸熱オンセット温度が160℃付近である(25)に記載の結晶。
(27)線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.7付近,17.7付近,22.3付近,及び26.3付近にピークを示すことを特徴とする(25)に記載の結晶。
(28)線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.7付近,9.5付近,11.5付近,13.4付近,16.4付近,17.7付近,22.3付近及び,26.3付近にピークを示すことを特徴とする(25)に記載の結晶。
(29)DSCにおける吸熱オンセット温度が150-170℃であり、粉末X線解析において線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.7付近,17.7付近,22.3付近,及び26.3付近にピークを示すことを特徴とする(25)に記載の結晶。
(30)DSCにおける吸熱オンセット温度が150-170℃であり、粉末X線解析において線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.7付近,9.5付近,11.5付近,13.4付近,16.4付近,17.7付近,22.3付近及び,26.3付近にピークを示すことを特徴とする(25)に記載の結晶。
(31)(25)〜(30)に記載される結晶がIII型結晶である結晶。
(32)(23)に記載の化合物を有効成分として含有し、さらに製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
(33)(24)に記載の化合物を有効成分として含有し、さらに製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
(34)(25)〜(31)に記載の結晶から選択された結晶を有効成分として含有し、さらに製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
(35)化合物B とフマル酸の比が1:1の塩の無水物。
(36)(35)に記載の化合物の結晶。
(37)DSCにおける吸熱オンセット温度が215℃付近である(36)に記載の結晶。
(38)線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.6付近,8.2付近,15.7付近,及び26.5付近にピークを示すことを特徴とする(36)に記載の結晶。
(39)線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.6付近,8.2付近,9.2付近,10.9付近,13.6付近,15.7付近,20.5付近及び,26.5付近にピークを示すことを特徴とする(36)に記載の結晶。
(40)DSCにおける吸熱オンセット温度が200-220℃であり、粉末X線解析において線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.6付近,8.2付近,15.7付近,及び26.5付近にピークを示すことを特徴とする(36)に記載の結晶。
(41)DSCにおける吸熱オンセット温度が205-225℃であり、粉末X線解析において線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.6付近,8.2付近,9.2付近,10.9付近,13.6付近,15.7付近,20.5付近及び,26.5付近にピークを示すことを特徴とする(36)に記載の結晶。
(42)(36)〜(41)から選択される結晶がI型結晶である結晶。
(43)化合物Bとフマル酸から成る塩を有効成分として含有し、さらに製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
(44)化合物A とフマル酸の比が1:1の塩を有効成分として含有し、さらに製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
(45)(35)に記載の化合物を有効成分として含有し、さらに製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
(46)(36)〜(42)に記載の結晶から選択された結晶を有効成分として含有し、さらに製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
【0014】
式(I)の化合物のフマル酸塩は溶媒和物を形成し得る。従って、本明細書では、便宜上、特定の溶媒と溶媒和物を形成しない塩をその塩の無水物と記載する。
【0015】
式(I)の化合物とフマル酸は、種々の比率で酸付加塩を形成し得、種々の比率の酸付加塩の結晶が得られる場合がある。元素分析や粉末X線回折パターン、DSCなどの分析結果から総合的に判断されるべきでないから、塩及び結晶における同一性の認定においては、式(I)の化合物とフマル酸との比率は、厳密に解されるべきではない。これらの溶媒和物についても同様である。
【0016】
尚、粉末X線回折パターンは、データの性質上、結晶の同一性認定においては、回折角や全体的なパターンが重要であり、相対強度は結晶成長の方向、粒子の大きさ、測定条件によって多少変動し得るものであるから、厳密に解されるべきではない。また、本発明には、純粋な化合物A フマル酸塩のI型結晶、II型結晶及び、III型結晶、化合物Aの結晶、化合物B フマル酸塩のI型結晶、化合物B 2塩酸塩のI型結晶に関するものが含まれるが、これらの純粋な結晶と本質的に同一視される混合物もまた、本発明に含まれる。
【0017】
各種スペクトルから得られる数値は、その結晶成長の方向、粒子の大きさ、測定条件によって、多少の誤差が生じる場合がある。従って、本明細書中、粉末X線回折スペクトルにおける回折角(2θ)の値に用いられる「付近」の語は、おおよその値であることを意味し、好ましくはその値の前後0.2(°)の範囲にあればよいことを意味する。更に好ましくは、その値の前後0.1(°)の範囲にあればよいことを意味する。
【0018】
また、DSCにおける吸熱オンセット温度の値に用いられる「付近」の語は、おおよそその吸熱オンセット(補外開始)の温度の値であることを意味し、好ましくはその値の前後2℃の範囲にあればよいことを意味し、さらに好ましくはその値の前後1℃の範囲にあればよいことを意味する。
【0019】
本発明の「化合物A とフマル酸の比が2:1の塩の無水物の結晶」は、1)化合物Aに対して0.9-1.1mol等量のフマル酸を用いて再結晶を行なうことによって化合物A 1フマル酸塩結晶を単離する工程、2)得られた「化合物A とフマル酸の比が1:1の塩」を、溶媒中の水分量を0.5%以下に制御しながら溶媒中で加熱懸濁する工程、から成る製造方法によって得ることができる。
【0020】
1)化合物Aに対して等mol量のフマル酸を用いて再結晶を行なうことによって「化合物A とフマル酸の比が2:1の塩の無水物の結晶」を単離する工程で用いられる再結晶用溶媒としては、例えば、エタノール-メチルエチルケトンの混合溶媒、メチルエチルケトン,アセトン-DMSOの混合溶媒,アセトン-DMSO-エタノールの混合溶媒が好ましい。再結晶用の溶媒量としては、エタノール-メチルエチルケトン混合溶媒の場合、用いる化合物Aに対して21-30重量部を用いればよい。エタノールとメチルエチルケトンの量の比率は、1:1.7-4.3が好ましい。メチルエチルケトンを単独で用いる場合には、用いる化合物Aに対して16-35重量部を用いればよい。アセトン-DMSO混合溶媒の場合、用いる化合物Aに対して約50重量部を用いればよい。アセトンとDMSOの比率は、50:1程度が好ましい。アセトン-DMSO-エタノールの混合溶媒の場合、用いる化合物Aに対して32-33重量部を用いればよい。DMSOに対して、アセトンは約10倍量、エタノールは約11倍量用いるのが好ましい。再結晶は、公知の方法により行なうことができる。
【0021】
2)得られた「化合物A とフマル酸の比が1:1の塩」を、溶媒中の水分量を0.5%以下に制御しながら溶媒中で加熱懸濁する工程で用いられる加熱懸濁用の溶媒としては、例えば、エタノールが好ましい。加熱懸濁用の溶媒量としては、エタノールの場合、用いる化合物Aに対して10-20重量部を用いればよく、加熱温度としては50℃−75℃が好ましい。
【0022】
本発明の「化合物A とフマル酸の比が2:1の塩の無水物の結晶」は、化合物Aに対して0.9-1.1mol等量のフマル酸と共に、溶媒中の水分量を0.5%以下に制御しながら溶媒中で加熱懸濁する製造方法によっても得ることができる。加熱懸濁用の溶媒としては、例えば、エタノールが好ましい。溶媒量としては、エタノールの場合、用いる化合物Aに対して20重量部程度を用いればよく、加熱温度としては60℃−70℃が好ましい。
【0023】
本発明の「化合物A とフマル酸の比が2:1の塩であって、化合物Aと水の比が2:1である水和物の結晶」は、1)化合物Aに対して0.9-1.1mol等量のフマル酸を用いて再結晶を行なうことによって「化合物A とフマル酸の比が1:1の塩の結晶」を単離する工程、2)得られた「化合物A とフマル酸の比が1:1の塩の結晶」を、溶媒中の水分量を5%以上に制御しながら溶媒中で加熱懸濁する工程、から成る製造方法によって得ることができる。
【0024】
1)化合物Aに対して等mol量のフマル酸を用いて再結晶を行なうことによって「化合物A とフマル酸の比が1:1の塩の結晶」を単離する工程において用いられる溶媒などの条件は、上述の通りである。
【0025】
2)得られた「化合物A とフマル酸の比が1:1の塩の結晶」を、溶媒中の水分量を5%以上に制御しながら溶媒中で加熱懸濁する工程で用いられる加熱懸濁用の溶媒としては、例えば、エタノールが好ましい。加熱懸濁用の溶媒量としては、エタノールの場合、用いる化合物A とフマル酸の比が1:1の塩の結晶に対して10重量部程度を用いればよく、加熱温度としては55℃−65℃が好ましい。
【0026】
本発明の「化合物A とフマル酸の比が2:1の塩であって、化合物Aと水の比が2:1である水和物の結晶」は、化合物A の結晶を、化合物Aに対して0.5-0.6mol等量のフマル酸と共に、溶媒中の水分量を1%以上に制御しながら再結晶を行う工程によっても得ることができる。再結晶は、公知の方法により行なうことができる。
【0027】
化合物Aに対して0.5-0.6mol等量のフマル酸を用いて再結晶を行なうことによって「化合物A とフマル酸の比が2:1の塩であって、化合物Aと水の比が2:1である水和物の結晶」を単離する工程で用いられる再結晶用溶媒としては、例えば、エタノール、DMSO-水の混合溶媒、DMSO-アセトン-水の混合溶媒、DMSO-アセトニトリル-水の混合溶媒が好ましい。再結晶用の溶媒量としては、水分量1%のエタノールの場合、用いる化合物Aに対して55重量部程度を用いるのが好ましい。再結晶用の溶媒量としては、DMSO-水の混合溶媒の場合、用いる化合物Aに対して8重量部程度を用いればよい。DMSOと水の量の比率は、3:1程度が好ましい。DMSO-アセトン-水の混合溶媒の場合、用いる化合物Aに対して23重量部程度を用いればよい。DMSOとアセトンと水の量の比率は、1:2.5:2.3程度が好ましい。DMSO-アセトニトリル-水の混合溶媒の混合溶媒の場合、用いる化合物Aに対して15重量部程度を用いればよい。DMSOとアセトニトリルと水の量の比率は、1:2.5:0.25程度が好ましい。
【0028】
本発明の化合物Aのフマル酸塩及び/又は化合物Bのフマル酸塩は、医薬品の活性成分として用いることができ、即ち、本発明の化合物Aのフマル酸塩又は化合物Bのフマル酸塩含む配合は、医製薬学的に許容される担体、賦形剤等と組み合わせて、医薬品の製造に使用することができる。医薬品の製造は、当分野にて通常使用されている方法によって行うことができる。
本発明の化合物Aのフマル酸塩及び/又は化合物Bのフマル酸塩を含有する医薬品としては、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与製剤、又は、関節内、静脈内、筋肉内等の注射剤、坐剤、経皮用液剤、軟膏剤、経皮用貼付剤、経粘膜液剤、経粘膜貼付剤、吸入剤等の非経口投与製剤のいずれの形態であってもよい。特に、化合物Aの酸付加塩の結晶を製造原体とする、経口投与用の錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤は、安定な固形製剤として有利である。
【0029】
経口投与のための本発明の固体組成物においては、1種以上の活性物質が、少なくとも1種の不活性な希釈剤、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等と混合される。組成物は、常法に従って、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えばステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、繊維素グリコール酸カルシウム等の崩壊剤、安定化剤、溶解補助剤等を含有していてもよい。錠剤又は丸剤は必要によりショ糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等の糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性のフィルムで被覆してもよい。
【0030】
経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水、エタノールを含む。この組成物は不活性な希釈剤以外に湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有していてもよい。
非経口投与のための注射剤としては、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤、乳濁剤を含有する。水性の溶液剤、懸濁剤としては、例えば注射用蒸留水及び生理食塩水が含まれる。非水性の溶液剤、懸濁剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類、ポリソルベート80等がある。このような組成物は、さらに防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定剤、溶解補助剤等の補助剤を含んでいてもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。これらはまた無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解して使用することもできる。
【0031】
本発明の医薬組成物は、その有効成分としてBEC1カリウムチャネル阻害剤である本発明の化合物Aのフマル酸塩及び/又は化合物Bのフマル酸塩を含有しているため、BEC1カリウムチャネル阻害剤が用いられる種々の疾患の治療や予防に供することができる。即ち、本発明の医薬組成物は、具体的には例えば、認知症の治療剤若しくは予防剤として有用である。
【0032】
本発明に用いられる薬剤は、認知症を有する患者に対し投与され、1日の投与量は、通常経口投与の場合、体重当たり約0.001乃至100mg/kgが適当であり、一日1回で、あるいは2乃至4回に分けて投与する。静脈内投与される場合は、1日の投与量は、体重当たり約0.0001乃至10mg/kgが適当で、1日1回乃至複数回に分けて投与する。また、経粘膜剤としては、体重当たり約0.001乃至100mg/kgを1日1回乃至複数回に分けて投与する。投与量は症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではなく、本発明の範囲を限定するものでもない。
なお、熱分析及び粉末X線回折は以下の方法により行った。
【0034】
(1)熱分析
(DSC)
試料およそ3 mgを専用のアルミニウム製サンプルパンに充填し、窒素雰囲気下(50 mL/min)において、測定範囲を室温〜300 ℃とし、昇温速度10 ℃/minで試料とリファレンス(空のアルミニウム製サンプルパン)との間に発生する熱量変化を連続的に測定し記録した。なお、データ処理を含む装置の取り扱いは、各装置で指示された方法及び手順に従った。(装置:TA Instrument製 Hi-Res DSC 2910,DSC Q20)
(TG)
試料およそ5 mgを専用の白金製サンプルパンに充填し、窒素雰囲気下(50 mL/min)において、測定範囲を室温〜300 ℃とし、昇温速度10 ℃/minで試料の重量変化を連続的に測定し記録した。なお、データ処理を含む装置の取り扱いは、各装置で指示された方法及び手順に従った。(装置:TA Instrument製 Hi-Res TGA 2950,TGA Q50)
(2)粉末X線回折
試料およそ10 mgを専用のサンプルホルダー(横5 mm、縦18 mm、深さ0.2 mm)に充填し、以下の条件下で試料の粉末X線回折を測定し記録した。なお、データ処理を含む装置の取り扱いは、各装置で指示された方法及び手順に従った。(装置:MAC Science(現Bruker)製 MXP18TAHF22)
(条件)
図3及び13
線源:Cu、波長:1.54056 Å、測定範囲:2.50 〜 40.00 °、サンプリング間隔:0.02 °、スキャン速度:4.00 °/min、管電圧:40 kV、管電流:200 mA、発散スリット:可変 (照射幅5.00 mm)、散乱スリット:可変 (照射幅 5.00 mm)、受光スリット:0.15 mm
図1,2,4,5,及び6
線源:Cu、波長:1.54056 Å、測定範囲:3.02 〜 40.00 °、サンプリング間隔:0.02 °、スキャン速度:3.00 °/min、管電圧:40 kV、管電流:200 mA、発散スリット:可変 (照射幅1.00 mm)、散乱スリット:可変 (照射幅 1.00 mm)、受光スリット:0.15 mm
なお、回折角および回折強度は、その結晶成長の方向、粒子の大きさ、測定条件等によって多少の変動がある場合がある。従って、それらの数値は厳密に解されるべきではない。
【0035】
また、参考例、実施例、及び後記表中以下の略号を用いる。
mp:融点、FAB+:FAB-MS(M+H)+、EI:EI-MS(M)+、ESI+:ESI-MS(M+H)+、NMR-DMSOd6:DMSO-d6中の1H NMRにおけるピークのδ(ppm))、DMF:N,N-ジメチルホルムアミド、DMSO:ジメチルスルホキシド、THF:テトラヒドロフラン、4M 塩化水素/ジオキサン溶液:4mol / l 塩化水素ジオキサン溶液、MeCN:アセトニトリル、MeOH:メタノール、EtOH:エタノール。
【0036】
参考例1 実施例1及び2の原料化合物である、化合物Aの製造
2Lフラスコにシアヌル酸クロリド75.0g、THF680mLを加え、攪拌しながら-19℃にて炭酸カリウム51.10gを加えた。-12.4℃以下にてTHF75mLで希釈したp-フルオロアニリン41.08g、THF75mLを加えた。-12.8〜-14.4℃にて1時間反応を行い、水450mLを加えた。室温にて分液を行い、水層を分離後に水300mLを加え再度分液を行い水層を分離した。有機層に、1)THF600mL、及び、2)炭酸カリウム1.1gを水308mLに加えて調製した水溶液、を加えた後に分液を行い、水層を分離した。有機層に水150mLを加えて分液を行い、水層を分離し、有機層を溶液残量280mLになるまで減圧にて濃縮した。濃縮液にMeCN750mLを加えて減圧にて溶液残量280mLになるまで濃縮する操作を3回行った。続いてMeCN600mLを加えて冷却後、アニリン34.43g、MeCN75mLを-5.9℃以下で加え、N,N-ジイソプロピルエチルアミン47.79g、MeCN38mLを-9.2℃にて加えた。その後室温まで昇温し,12時間攪拌後に2-アミノメチルピリミジン48.42g、MeCN75mLを室温にて加えた後、N,N-ジイソプロピルエチルアミン57.35g、MeCN38mLを室温にて加えた。内温82.4℃に昇温し4.5時間撹拌後、内温70℃以上で水560mLを加えた後冷却した。内温65.8℃にて結晶析出を確認後、室温にて終夜攪拌し濾過を行った。得られた結晶をMeCN:水=2:1の混合溶液にて洗浄し、続いて水300mLで洗浄した。得られた結晶を50℃にて1日減圧乾燥を行い、108.54gの化合物Aのフリー体の結晶を得た。
NMR-DMSOd6
4.71-4.73 (2H,m), 6.91-7.26 (5H,m), 7.37 (1H,dd, J=5.2Hz, 4.8Hz), 7.44-7.80 (5H,m), 8.78 (2H,d, J=4.8Hz), 9.01-9.05 (2H,m).
FAB+:389
Elemental Analysis. Calcd for C20H17FN8 : C, 61.85; H, 4,41; N, 28.85; F, 4.89; Cl, 0.00. Found: C, 61.78; H, 4.43; N, 28.81; F, 4.95; Cl, 0.00.
【0037】
実施例1 「化合物Aとフマル酸の比が2:1の塩の無水物」の製造
メチルエチルケトン414L、化合物Aの結晶23.00kgを反応容器1へ加え、内温65.0℃にて溶解させた。濾過を行い、反応容器2へ移送後、再度加熱した。別に、反応容器1にフマル酸6.90kg、EtOH 115Lを加え内温58.3℃にて溶解させ、反応容器2へと移送した。冷却後、内温54.2℃にて結晶析出を確認後、0℃にて終夜攪拌した。濾過を行った後、EtOH 46Lにて結晶を洗浄後、得られた「化合物A とフマル酸の比が1:1の塩の結晶」(III型結晶:wet)30.34kgとEtOH 460Lを反応容器2に加えた。内温52.4〜69.2℃にて懸濁状態で42時間攪拌し、冷却し室温にて終夜攪拌した。濾過を行いEtOH 46Lで結晶を洗浄後、60℃にて4日間減圧乾燥を行い「化合物Aとフマル酸の比が2:1の塩の無水物の結晶」(I型)20.97kgを得た。
化合物Aとフマル酸の比が2:1の塩の無水物の結晶(I型結晶)
NMR-DMSOd6
4.71-4.73 (2H,m), 6.64 (1H,s), 6.91-7.23 (5H,m), 7.37 (1H,dd, J=5.2Hz, 4.8Hz), 7.44-7.80 (5H,m), 8.78 (2H,d, J=4.8Hz), 9.01-9.06 (2H,m),13.06 (1H,br)
FAB+:389
Elemental Analysis. Calcd for C20H17FN8・0.5C4H4O4: C, 59.19; H, 4,29; N, 25.10; F, 4.26; O, 7.17. Found: C, 59.09; H, 4.36; N, 25.19; F, 4.31.
DSCにおける吸熱オンセット温度: 約190℃
実施例1の化合物(I型結晶)の粉末X線回折パターンを図1に示す。
化合物Aとフマル酸の比が1:1の塩(化合物Aと付着溶媒であるメチルエチルケトン、EtOH及び水の比=1:0.1:0.007:0.3)の結晶(III型結晶)
NMR-DMSOd6
4.71 (2H,m), 6.64 (2H,s), 6.90-7.29 (5H,m), 7.38 (1H, dd, J=4.8Hz, 4.8Hz), 7.57-7.81 (5H,m), 8.79 (2H,d, J=4.8Hz), 9.05-9.11 (2H,m), 13.09 (2H,br)
ESI+:389
Elemental Analysis. Calcd for C20H17FN8・C4H4O4・0.1 C4H8O・0.007 C2H6O・0.3 H2O : C, 56.67; H, 4,37; N, 21.66; F, 3.67; O, 13.63. Found: C, 56.56; H, 4.47; N, 21.68; F, 3.63.
DSCにおける吸熱オンセット温度: 約160℃
実施例1の化合物(III型結晶)の粉末X線回折パターンを図3に示す。
【0038】
実施例2 「化合物Aとフマル酸の比が2:1の塩であって、化合物Aと水の比が2:1である水和物」の製造(II型結晶)
200mLフラスコに化合物A 結晶3.0g、エタノール120mL、水30mLを加え、内温を76℃に加熱し溶解させた。続いてフマル酸448mgを加え、内温80℃にて溶解を確認した。冷却し、室温にて終夜攪拌を行った。濾過を行い40℃にて乾燥を行い、「化合物Aとフマル酸の比が2:1の塩であって、化合物Aと水の比が2:1である水和物の結晶」3.2g(II型結晶)を得た。
NMR-DMSOd6
4.72-4.74 (2H,m), 6.65 (1H,s), 6.91-7.27 (5H,m), 7.37 (1H,dd, J=4.8Hz, 4.8Hz), 7.45-7.81 (5H,m), 8.78 (2H,d, J=4.8Hz), 9.02-9.06 (2H,m), 13.06 (1H,br)
FAB+:389
Elemental Analysis. Calcd for C20H17FN8・0.5C4H4O4・0.5H2O : C, 58.02; H, 4,43; N, 24.60; F, 4.17; O, 8.78. Found: C, 58.20; H, 4.46; N, 24.77; F, 4.33.
DSCにおける吸熱オンセット温度: 約150℃
実施例2の化合物(II型結晶)の粉末X線回折パターンを図2に示す。
【0039】
実施例3 化合物Bと塩酸の比が1:2の塩の製造
6-クロロ-N,N'-ビス(4-フルオロフェニル)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン 10.0g のMeCN 100mL 懸濁液に、1-ピリミジン-2-イルメチルアミン酢酸塩6.0g 及び N,N-ジイソプロピルエチルアミン 11.5mL を加えて、85℃で12時間攪拌した。反応液を室温まで冷却した後、溶媒を留去して得られた残渣に酢酸エチルを加えて、有機層を5%クエン酸水溶液及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:MeOH=100:0〜95:5)で精製して 10.8g の微黄色アモルファスを得た。このものをEtOH 200mL に溶解し、活性炭2gを加えて10分間加熱還流した後、活性炭をセライトを用いた濾過により除去し、溶媒を留去して得られた残渣を80%含水EtOH 400mL を用いて固体化させて固体を濾取し、7.5g の無色固体を得た。このものを70%含水MeCN 150mlに加熱して溶解し、室温まで放冷しながら攪拌した後、析出している固体を濾取し、化合物B 7.08g を得た。
得られた化合物B 7.05g をMeOH 200mL、THF 200mL に溶解し、4M 塩化水素/ジオキサン溶液 10mL を加えた後、溶媒を留去して、得られた残渣にEtOHを加えて30分間撹拌して固体を析出させた。固体を濾取して減圧乾燥させた後、MeCNに懸濁させて10分間加熱還流させ、反応液を室温に戻して固体を濾取し、減圧乾燥を行なって、「化合物Bと塩酸の比が1:2の塩」7.25g を無色結晶(I型結晶)として得た。
化合物Bと塩酸の比が1:2の塩の結晶
NMR-DMSOd6
4.78 (2H, m), 7.10 (2H, brs), 7.25 (2H, t, J=8.7Hz), 7.3-7.8 (6H, m), 8.85 (2H, d, J=4.9Hz), 8.9-9.4 (1H, m), 10.45 (1H, brs), 10.88 (1H, brs)
Elemental Analysis. Calcd for C20H16F2N8・2HCl: C, 50.12; H, 3,79; N, 23.38; F, 7.93; Cl, 14.79. Found: C, 50.03; H, 3.92; N, 23.33; F, 7.94; Cl, 14.84.
DSCにおける吸熱オンセット温度: 約160及び約190℃
実施例3の化合物((I型結晶))の粉末X線回折パターンを図6に示す。
化合物B(フリー体)
NMR-DMSOd6
4.70 (2H, d, J=5.8Hz), 7.00 (2H, m), 7.10 (2H, t, J=8.7Hz), 7.38 (1H, t, J=4.9Hz), 7.57 (3H, brs), 7.80 (2H, brs), 8.79 (2H, d, J=4.9Hz), 9.0-9.2 (2H, m).
FAB+: 407
【0040】
実施例4 化合物Bとフマル酸の比が1:1の塩の製造
化合物B 1.0g のエタノール50mL溶液に、フマル酸 285.6mgのエタノール5mL 溶液を加えた。直ぐに固体の析出が始まった。この反応液を加熱還流して固体を完全に溶解させた後、放冷しながら攪拌した。内温が60℃まで下がったところで、化合物Bとフマル酸の比が1:1の塩の結晶を極少量添加し、室温まで放冷しながら12時間攪拌した。析出している結晶を濾取し、エタノールで洗浄した後、60℃で2日間減圧乾燥を行なって、「化合物Bとフマル酸の比が1:1の塩」970mg を無色結晶(I型結晶)として得た。
NMR-DMSOd6
4.70 (2H, d, J=5.7Hz), 6.64 (2H, s), 7.00 (2H, m), 7.10 (2H, t, J=8.7Hz), 7.38 (1H, t, J=4.9Hz), 7.57 (3H, brs), 7.80 (2H, brs), 8.80 (2H, d, J=4.9Hz), 9.0-9.2 (2H, m), 13.13 (2H, brs).
Elemental Analysis. Calcd for C20H16F2N8・C4H4O4: C, 55.17; H, 3.86; N, 21.45; F, 7.27. Found: C, 55.29; H, 4.05; N, 21.64; F, 7.32.
DSCにおける吸熱オンセット温度: 約215℃
実施例4の化合物(I型結晶)の粉末X線回折パターンを図5に示す。
【0041】
本発明の化合物Aの酸付加塩の効果は、以下の試験例によって確認された。
【0042】
試験例1 安定性の評価
保存中の分解物の評価:試料およそ5 mgを10 mLのガラス製メスフラスコに量り取り、以下の保存条件で試験を行った。
条件1:70 ℃−相対湿度75%−開放−2週間
条件2:70 ℃−遮光−密栓−2週間
条件3:25 ℃−D65(3600 lux)−密栓−2週間
保存後の試料の入ったメスフラスコの標線まで溶解溶媒で満たし、溶解したものを試料溶液とし、試料溶液中の化合物Aを定量した。なお、化合物Aと化合物Bの検出は266nmと254nmのUVでそれぞれ行い、データ処理を含む装置の取り扱いは、各装置で指示された方法及び手順に従った。(装置:Agilent 製LC-1100シリーズ)
これらの試験結果を表1に示す。なお定量値とは,試験前の化合物Aに対する試験後の化合物Aの残存率を示している。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すとおり、化合物Aのフマル酸塩及び/または化合物Bのフマル酸塩は、高温高湿度条件、高温遮光条件、及び光に対する安定性が高いことが明らかとなった(条件1乃至3)。
【0045】
試験例3 化合物A及び/又はBの統合失調症に対する治療効果
統合失調症に対する治療効果の検証は、メタンフェタミン誘発運動亢進モデルを用いて行った。メタンフェタミンは覚せい剤であり、ドパミン神経系の伝達を亢進することで、統合失調症に類似した症状を引き起こすことが知られており、メタンフェタミンを動物に投与した際に生じる異常行動は、統合失調症治療薬のスクリーニンング方法として汎用されている(Oka et al., 1993, J. Pharmacol. Exp. Ther., 264:158-165)。すなわち、雄性ddyマウスを運動量測定装置に入れ、30分後にメタンフェタミンを投与した。メタンフェタミン投与後直ちに測定装置に戻し、直後から1時間の運動量を測定した。運動量の測定には、室町機械株式会社のスーパーメックスセンサーを使用した。溶媒、又は、試験化合物をそれぞれ溶媒で複数の濃度に希釈した希釈液を、各群のマウスに経口投与した。溶媒は、0.5%メチルセルロース水溶液を用いた。有意差検定は、Dunnett検定を用い、溶媒投与群と薬物投与群との間で行った。
【0046】
試験化合物
化合物(1):化合物Aとフマル酸の比が2:1の塩の無水物の結晶
化合物(2):化合物Bと塩酸の比が1:2の塩の結晶
【0047】
(結果)
メタンフェタミン誘発運動亢進抑制作用の結果を表2に示す。表中の数値は、各化合物投与群の最小有効用量(溶媒投与群の運動量に対して、運動量が有意に少なかった最も小さい用量)を表す.化合物A及びBははいずれもメタンフェタミン誘発運動亢進を抑制した。すなわち、これら2化合物は統合失調症の症状を改善する作用があることが示された。
【0048】
【表2】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明してきたが、当業者にとってその発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更および修正を行うことができることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0049】
N-(4-フルオロフェニル)- N'-フェニル-N''- (ピリミジン-2-イルメチル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン(化合物A)のフマル酸塩及び/又はN, N'-ビス(4-フルオロフェニル)-N''- (ピリミジン-2-イルメチル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン(化合物B)のフマル酸塩及びそれらの新規結晶は、優れた安定性を有する医薬品又は原料として提供されるものとして有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、特に特定のカリウムチャネル阻害剤として有用な、N-(4-フルオロフェニル)- N'-フェニル-N''- (ピリミジン-2-イルメチル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン(以下、化合物Aと言う。)及び/又はN, N'-ビス(4-フルオロフェニル)-N''- (ピリミジン-2-イルメチル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン(以下、化合物Bと言う。)の新規な塩に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物A及び/又は化合物Bは、以下の化学構造を有し、特定のカリウムチャネル(BEC1カリウムチャネル)を阻害する作用と抗うつ作用を有すること及び認知症の治療に有用であることが知られている(米国特許第7375222号)。
【0003】
【化1】
【0004】
化合物Aは、具体的に、化合物A・2HCl・0.3H2O・0.1酢酸エチルの組成物として単離されており(米国特許第7375222号)、他の製薬学的に許容される酸付加塩の具体的な報告はない。また、化合物Bは架空実施例として記載されているのみである(米国特許第7375222号)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
化合物AのpKa値は3.9であり塩基性が弱いことから、一般的には強酸との塩が好ましい。代表的な強酸の1つである塩酸を対イオンとした公知化合物である化合物Aの2塩酸塩は、付着溶媒のない無水物の結晶として得られるものの、DSCを測定すると複数の吸熱ピークが得られることから、複数の結晶が存在する可能性があった。構造式が同一の化合物であっても、結晶形が異なれば、化合物の溶解性や安定性が異なることはよく知られた事実である。医薬品の品質の同一性や安定性を確保するためには、同一の結晶形が安定的に得られる化合物及びその製造法を選択することが好ましい。
化合物Bについては、具体的な化合物が得られているわけではない。しかし、医薬品の品質の同一性や安定性を確保するためには、同一の結晶形が安定的に得られる化合物(フリー体又は特定の酸付加塩)及びその製造法を選択することが好ましい点、更に、溶媒和物が得られる場合には、製薬学的に許容できる溶媒和物であることが好ましい点は、化合物Aと同様である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、化合物A及び/又はBについて、それらのフリー体やそれらの酸付加塩について検討を行った結果、化合物A及び/又はBの特定の不揮発性の酸付加塩が、単一の結晶として安定的に得られること、及び、当該結晶が優れた安定性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明の目的は、式(I)
【化2】
(ここでR1:H又はF)
の化合物とフマル酸からなる塩を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、式(I)の化合物の結晶を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、式(I)の化合物を有効量を含有し、更に製薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供することである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の、化合物A(式IにおいてR1がHである化合物)のフマル酸塩は、公知化合物である化合物A・2塩酸塩と比較して、安定的に単一の結晶が得られる点で有利であり、優れた安定性を有する医薬品又は活性医薬成分としてきわめて有用な化合物である。また、化合物B(式IにおいてR1がFである化合物)のフマル酸塩も、安定的に単一の結晶が得られ、安定性に優れた医薬品又は活性医薬成分としてきわめて有用な化合物である。
特に、安定的に単一の結晶が得られるという点においては、公知化合物である化合物A・2塩酸塩は単一の結晶形が得られていないことが明らかとなっており、開発品として選択する場合には、一定の規格の範囲の溶解性や安定性を有する結晶を安定的に製造しなければならない点で不利である。化合物A及び/又はBのフマル酸塩は、単一の結晶として安定的に得られること、及び、当該結晶が優れた安定性を示すことから優れた医薬品の提供に資するものである。
化合物A及び/又は化合物Bは、統合失調症の動物モデルにおいて、メタンフェタミン誘発運動亢進を抑制した。すなわち、これら2化合物は認知症の改善効果のみならず、統合失調症の症状を改善する作用があることが見出された。
【図面の簡単な説明】
【0011】
例により、及び、明細書の記載をより明確にするため、図に従って説明する。
【図1】化合物Aとフマル酸の比が2:1の塩の無水物の結晶(I型結晶)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図2】化合物Aとフマル酸の比が2:1の塩であって、化合物Aと水の比が2:1である水和物の結晶(II型結晶)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図3】化合物Aとフマル酸の比が1:1の塩(化合物Aと付着溶媒であるメチルエチルケトン、EtOH及び水の比=1:0.1:0.007:0.3)の結晶(III型結晶)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図4】化合物Aと塩酸の比が1:2の塩の無水物の結晶の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図5】化合物Bとフマル酸の比が1:1の塩の結晶(I型結晶)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図6】化合物Bと塩酸の比が1:2の塩の結晶(I型結晶)の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図7】化合物Aとフマル酸の比が2:1の塩の無水物の結晶(I型結晶)のDSC曲線を示す図である。
【図8】化合物Aとフマル酸の比が2:1の塩であって、化合物Aと水の比が2:1である水和物の結晶(II型結晶)のDSC曲線を示す図である。
【図9】化合物Aとフマル酸の比が1:1の塩(化合物Aと付着溶媒であるメチルエチルケトン、EtOH及び水の比=1:0.1:0.007:0.3)の結晶(III型結晶)のDSC曲線を示す図である。
【図10】化合物Aと塩酸の比が1:2の塩の無水物の結晶のDSC曲線を示す図である。
【図11】化合物Bとフマル酸の比が1:1の塩の結晶(I型結晶)のDSC曲線を示す図である。
【図12】化合物Bと塩酸の比が1:2の塩の結晶(I型結晶)のDSC曲線を示す図である。
【図13】化合物Aのフリー体の結晶の粉末X線回折パターンを示す図である。この結晶は、線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、7.7付近,19.5付近,21.8付近,及び28.6付近にピークを示すことを特徴とする。
【図14】化合物Aのフリー体の結晶のDSC曲線を示す図である。DSCにおける吸熱オンセット温度が約185℃である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の化合物Aのフマル酸塩及び/又は化合物Bのフマル酸塩は、単一の結晶として安定的に得られ、当該結晶は優れた安定性を示す。従って、本発明のいずれの塩又はそれらの結晶も医薬品又は活性医薬成分として好適であるが、特に好ましくは、化合物A とフマル酸の比が2:1である塩及び/又は化合物Bとフマル酸の比が1:1である塩又はそれらの結晶である。
【0013】
本発明の好ましい態様を以下に示す。
(1)化合物A とフマル酸の比が2:1の塩の無水物。
(2)化合物A とフマル酸の比が2:1の塩の無水物の結晶。
(3)DSCにおける吸熱オンセット温度が190℃付近である(2)に記載の結晶。
(4)線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、5.3付近,8.2付近,10.5付近,及び16.4付近にピークを示すことを特徴とする(2)に記載の結晶。
(5)線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、5.3付近,8.2付近,9.8付近,10.5付近,11.7付近,16.4付近,18.6付近及び,26.6付近にピークを示すことを特徴とする(2)に記載の結晶。
(6)DSCにおける吸熱オンセット温度が180-200℃であり、粉末X線解析において線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、5.3付近,8.2付近,10.5付近,及び16.4付近にピークを示すことを特徴とする(2)に記載の結晶。
(7)DSCにおける吸熱オンセット温度が180-200℃であり、粉末X線解析において線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、5.3付近,8.2付近,9.8付近,10.5付近,11.7付近,16.4付近,18.6付近及び,26.6付近にピークを示すことを特徴とする(2)に記載の結晶。
(8)(2)〜(7)に記載された結晶がI型結晶である結晶。
(9)化合物Aとフマル酸から成る塩を有効成分として含有し、さらに製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
(10)有効成分が化合物A とフマル酸の比が2:1の塩である(9)に記載の医薬組成物。
(11)有効成分が化合物A とフマル酸の比が2:1の塩の無水物である(9)に記載の医薬組成物。
(12)(2)〜(7)に記載の結晶を有効成分として含有し、さらに製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
(13)化合物A とフマル酸の比が2:1の塩であって、化合物Aと水の比が2:1である水和物。
(14)(13)に記載の化合物の結晶。
(15)DSCにおける吸熱オンセット温度が150℃付近である(14)に記載の結晶。
(16)線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.7付近,7.8付近,20.1付近,及び20.5付近にピークを示すことを特徴とする(14)に記載の結晶。
(17)線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.7付近,7.8付近,8.1付近,10.5付近,13.9付近,20.1付近,20.5付近及び,21.6付近にピークを示すことを特徴とする(14)に記載の結晶。
(18)DSCにおける吸熱オンセット温度が140-160℃であり、粉末X線解析において線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.7付近,7.8付近,20.1付近,及び20.5付近にピークを示すことを特徴とする(14)に記載の結晶。
(19)DSCにおける吸熱オンセット温度が140-160℃であり、粉末X線解析において線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.7付近,7.8付近,8.1付近,10.5付近,13.9付近,20.1付近,20.5付近及び,21.6付近にピークを示すことを特徴とする(14)に記載の結晶。
(20)(14)〜(19)から選択される結晶がII型結晶である結晶。
(21)(13)に記載の塩化合物を有効成分として含有し、さらに製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
(22)(14)〜(20)に記載の結晶から選択された結晶を有効成分として含有し、さらに製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
(23)化合物A とフマル酸の比が1:1の塩。
(24)化合物A とフマル酸の比が1:1の塩の無水物。
(25)(23)又は(24)に記載の化合物の結晶。
(26)DSCにおける吸熱オンセット温度が160℃付近である(25)に記載の結晶。
(27)線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.7付近,17.7付近,22.3付近,及び26.3付近にピークを示すことを特徴とする(25)に記載の結晶。
(28)線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.7付近,9.5付近,11.5付近,13.4付近,16.4付近,17.7付近,22.3付近及び,26.3付近にピークを示すことを特徴とする(25)に記載の結晶。
(29)DSCにおける吸熱オンセット温度が150-170℃であり、粉末X線解析において線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.7付近,17.7付近,22.3付近,及び26.3付近にピークを示すことを特徴とする(25)に記載の結晶。
(30)DSCにおける吸熱オンセット温度が150-170℃であり、粉末X線解析において線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.7付近,9.5付近,11.5付近,13.4付近,16.4付近,17.7付近,22.3付近及び,26.3付近にピークを示すことを特徴とする(25)に記載の結晶。
(31)(25)〜(30)に記載される結晶がIII型結晶である結晶。
(32)(23)に記載の化合物を有効成分として含有し、さらに製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
(33)(24)に記載の化合物を有効成分として含有し、さらに製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
(34)(25)〜(31)に記載の結晶から選択された結晶を有効成分として含有し、さらに製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
(35)化合物B とフマル酸の比が1:1の塩の無水物。
(36)(35)に記載の化合物の結晶。
(37)DSCにおける吸熱オンセット温度が215℃付近である(36)に記載の結晶。
(38)線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.6付近,8.2付近,15.7付近,及び26.5付近にピークを示すことを特徴とする(36)に記載の結晶。
(39)線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.6付近,8.2付近,9.2付近,10.9付近,13.6付近,15.7付近,20.5付近及び,26.5付近にピークを示すことを特徴とする(36)に記載の結晶。
(40)DSCにおける吸熱オンセット温度が200-220℃であり、粉末X線解析において線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.6付近,8.2付近,15.7付近,及び26.5付近にピークを示すことを特徴とする(36)に記載の結晶。
(41)DSCにおける吸熱オンセット温度が205-225℃であり、粉末X線解析において線源としてCuを用いた粉末X線解析において、2θ(°)が、6.6付近,8.2付近,9.2付近,10.9付近,13.6付近,15.7付近,20.5付近及び,26.5付近にピークを示すことを特徴とする(36)に記載の結晶。
(42)(36)〜(41)から選択される結晶がI型結晶である結晶。
(43)化合物Bとフマル酸から成る塩を有効成分として含有し、さらに製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
(44)化合物A とフマル酸の比が1:1の塩を有効成分として含有し、さらに製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
(45)(35)に記載の化合物を有効成分として含有し、さらに製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
(46)(36)〜(42)に記載の結晶から選択された結晶を有効成分として含有し、さらに製薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
【0014】
式(I)の化合物のフマル酸塩は溶媒和物を形成し得る。従って、本明細書では、便宜上、特定の溶媒と溶媒和物を形成しない塩をその塩の無水物と記載する。
【0015】
式(I)の化合物とフマル酸は、種々の比率で酸付加塩を形成し得、種々の比率の酸付加塩の結晶が得られる場合がある。元素分析や粉末X線回折パターン、DSCなどの分析結果から総合的に判断されるべきでないから、塩及び結晶における同一性の認定においては、式(I)の化合物とフマル酸との比率は、厳密に解されるべきではない。これらの溶媒和物についても同様である。
【0016】
尚、粉末X線回折パターンは、データの性質上、結晶の同一性認定においては、回折角や全体的なパターンが重要であり、相対強度は結晶成長の方向、粒子の大きさ、測定条件によって多少変動し得るものであるから、厳密に解されるべきではない。また、本発明には、純粋な化合物A フマル酸塩のI型結晶、II型結晶及び、III型結晶、化合物Aの結晶、化合物B フマル酸塩のI型結晶、化合物B 2塩酸塩のI型結晶に関するものが含まれるが、これらの純粋な結晶と本質的に同一視される混合物もまた、本発明に含まれる。
【0017】
各種スペクトルから得られる数値は、その結晶成長の方向、粒子の大きさ、測定条件によって、多少の誤差が生じる場合がある。従って、本明細書中、粉末X線回折スペクトルにおける回折角(2θ)の値に用いられる「付近」の語は、おおよその値であることを意味し、好ましくはその値の前後0.2(°)の範囲にあればよいことを意味する。更に好ましくは、その値の前後0.1(°)の範囲にあればよいことを意味する。
【0018】
また、DSCにおける吸熱オンセット温度の値に用いられる「付近」の語は、おおよそその吸熱オンセット(補外開始)の温度の値であることを意味し、好ましくはその値の前後2℃の範囲にあればよいことを意味し、さらに好ましくはその値の前後1℃の範囲にあればよいことを意味する。
【0019】
本発明の「化合物A とフマル酸の比が2:1の塩の無水物の結晶」は、1)化合物Aに対して0.9-1.1mol等量のフマル酸を用いて再結晶を行なうことによって化合物A 1フマル酸塩結晶を単離する工程、2)得られた「化合物A とフマル酸の比が1:1の塩」を、溶媒中の水分量を0.5%以下に制御しながら溶媒中で加熱懸濁する工程、から成る製造方法によって得ることができる。
【0020】
1)化合物Aに対して等mol量のフマル酸を用いて再結晶を行なうことによって「化合物A とフマル酸の比が2:1の塩の無水物の結晶」を単離する工程で用いられる再結晶用溶媒としては、例えば、エタノール-メチルエチルケトンの混合溶媒、メチルエチルケトン,アセトン-DMSOの混合溶媒,アセトン-DMSO-エタノールの混合溶媒が好ましい。再結晶用の溶媒量としては、エタノール-メチルエチルケトン混合溶媒の場合、用いる化合物Aに対して21-30重量部を用いればよい。エタノールとメチルエチルケトンの量の比率は、1:1.7-4.3が好ましい。メチルエチルケトンを単独で用いる場合には、用いる化合物Aに対して16-35重量部を用いればよい。アセトン-DMSO混合溶媒の場合、用いる化合物Aに対して約50重量部を用いればよい。アセトンとDMSOの比率は、50:1程度が好ましい。アセトン-DMSO-エタノールの混合溶媒の場合、用いる化合物Aに対して32-33重量部を用いればよい。DMSOに対して、アセトンは約10倍量、エタノールは約11倍量用いるのが好ましい。再結晶は、公知の方法により行なうことができる。
【0021】
2)得られた「化合物A とフマル酸の比が1:1の塩」を、溶媒中の水分量を0.5%以下に制御しながら溶媒中で加熱懸濁する工程で用いられる加熱懸濁用の溶媒としては、例えば、エタノールが好ましい。加熱懸濁用の溶媒量としては、エタノールの場合、用いる化合物Aに対して10-20重量部を用いればよく、加熱温度としては50℃−75℃が好ましい。
【0022】
本発明の「化合物A とフマル酸の比が2:1の塩の無水物の結晶」は、化合物Aに対して0.9-1.1mol等量のフマル酸と共に、溶媒中の水分量を0.5%以下に制御しながら溶媒中で加熱懸濁する製造方法によっても得ることができる。加熱懸濁用の溶媒としては、例えば、エタノールが好ましい。溶媒量としては、エタノールの場合、用いる化合物Aに対して20重量部程度を用いればよく、加熱温度としては60℃−70℃が好ましい。
【0023】
本発明の「化合物A とフマル酸の比が2:1の塩であって、化合物Aと水の比が2:1である水和物の結晶」は、1)化合物Aに対して0.9-1.1mol等量のフマル酸を用いて再結晶を行なうことによって「化合物A とフマル酸の比が1:1の塩の結晶」を単離する工程、2)得られた「化合物A とフマル酸の比が1:1の塩の結晶」を、溶媒中の水分量を5%以上に制御しながら溶媒中で加熱懸濁する工程、から成る製造方法によって得ることができる。
【0024】
1)化合物Aに対して等mol量のフマル酸を用いて再結晶を行なうことによって「化合物A とフマル酸の比が1:1の塩の結晶」を単離する工程において用いられる溶媒などの条件は、上述の通りである。
【0025】
2)得られた「化合物A とフマル酸の比が1:1の塩の結晶」を、溶媒中の水分量を5%以上に制御しながら溶媒中で加熱懸濁する工程で用いられる加熱懸濁用の溶媒としては、例えば、エタノールが好ましい。加熱懸濁用の溶媒量としては、エタノールの場合、用いる化合物A とフマル酸の比が1:1の塩の結晶に対して10重量部程度を用いればよく、加熱温度としては55℃−65℃が好ましい。
【0026】
本発明の「化合物A とフマル酸の比が2:1の塩であって、化合物Aと水の比が2:1である水和物の結晶」は、化合物A の結晶を、化合物Aに対して0.5-0.6mol等量のフマル酸と共に、溶媒中の水分量を1%以上に制御しながら再結晶を行う工程によっても得ることができる。再結晶は、公知の方法により行なうことができる。
【0027】
化合物Aに対して0.5-0.6mol等量のフマル酸を用いて再結晶を行なうことによって「化合物A とフマル酸の比が2:1の塩であって、化合物Aと水の比が2:1である水和物の結晶」を単離する工程で用いられる再結晶用溶媒としては、例えば、エタノール、DMSO-水の混合溶媒、DMSO-アセトン-水の混合溶媒、DMSO-アセトニトリル-水の混合溶媒が好ましい。再結晶用の溶媒量としては、水分量1%のエタノールの場合、用いる化合物Aに対して55重量部程度を用いるのが好ましい。再結晶用の溶媒量としては、DMSO-水の混合溶媒の場合、用いる化合物Aに対して8重量部程度を用いればよい。DMSOと水の量の比率は、3:1程度が好ましい。DMSO-アセトン-水の混合溶媒の場合、用いる化合物Aに対して23重量部程度を用いればよい。DMSOとアセトンと水の量の比率は、1:2.5:2.3程度が好ましい。DMSO-アセトニトリル-水の混合溶媒の混合溶媒の場合、用いる化合物Aに対して15重量部程度を用いればよい。DMSOとアセトニトリルと水の量の比率は、1:2.5:0.25程度が好ましい。
【0028】
本発明の化合物Aのフマル酸塩及び/又は化合物Bのフマル酸塩は、医薬品の活性成分として用いることができ、即ち、本発明の化合物Aのフマル酸塩又は化合物Bのフマル酸塩含む配合は、医製薬学的に許容される担体、賦形剤等と組み合わせて、医薬品の製造に使用することができる。医薬品の製造は、当分野にて通常使用されている方法によって行うことができる。
本発明の化合物Aのフマル酸塩及び/又は化合物Bのフマル酸塩を含有する医薬品としては、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与製剤、又は、関節内、静脈内、筋肉内等の注射剤、坐剤、経皮用液剤、軟膏剤、経皮用貼付剤、経粘膜液剤、経粘膜貼付剤、吸入剤等の非経口投与製剤のいずれの形態であってもよい。特に、化合物Aの酸付加塩の結晶を製造原体とする、経口投与用の錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤は、安定な固形製剤として有利である。
【0029】
経口投与のための本発明の固体組成物においては、1種以上の活性物質が、少なくとも1種の不活性な希釈剤、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等と混合される。組成物は、常法に従って、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えばステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、繊維素グリコール酸カルシウム等の崩壊剤、安定化剤、溶解補助剤等を含有していてもよい。錠剤又は丸剤は必要によりショ糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等の糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性のフィルムで被覆してもよい。
【0030】
経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水、エタノールを含む。この組成物は不活性な希釈剤以外に湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有していてもよい。
非経口投与のための注射剤としては、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤、乳濁剤を含有する。水性の溶液剤、懸濁剤としては、例えば注射用蒸留水及び生理食塩水が含まれる。非水性の溶液剤、懸濁剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類、ポリソルベート80等がある。このような組成物は、さらに防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定剤、溶解補助剤等の補助剤を含んでいてもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。これらはまた無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解して使用することもできる。
【0031】
本発明の医薬組成物は、その有効成分としてBEC1カリウムチャネル阻害剤である本発明の化合物Aのフマル酸塩及び/又は化合物Bのフマル酸塩を含有しているため、BEC1カリウムチャネル阻害剤が用いられる種々の疾患の治療や予防に供することができる。即ち、本発明の医薬組成物は、具体的には例えば、認知症の治療剤若しくは予防剤として有用である。
【0032】
本発明に用いられる薬剤は、認知症を有する患者に対し投与され、1日の投与量は、通常経口投与の場合、体重当たり約0.001乃至100mg/kgが適当であり、一日1回で、あるいは2乃至4回に分けて投与する。静脈内投与される場合は、1日の投与量は、体重当たり約0.0001乃至10mg/kgが適当で、1日1回乃至複数回に分けて投与する。また、経粘膜剤としては、体重当たり約0.001乃至100mg/kgを1日1回乃至複数回に分けて投与する。投与量は症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではなく、本発明の範囲を限定するものでもない。
なお、熱分析及び粉末X線回折は以下の方法により行った。
【0034】
(1)熱分析
(DSC)
試料およそ3 mgを専用のアルミニウム製サンプルパンに充填し、窒素雰囲気下(50 mL/min)において、測定範囲を室温〜300 ℃とし、昇温速度10 ℃/minで試料とリファレンス(空のアルミニウム製サンプルパン)との間に発生する熱量変化を連続的に測定し記録した。なお、データ処理を含む装置の取り扱いは、各装置で指示された方法及び手順に従った。(装置:TA Instrument製 Hi-Res DSC 2910,DSC Q20)
(TG)
試料およそ5 mgを専用の白金製サンプルパンに充填し、窒素雰囲気下(50 mL/min)において、測定範囲を室温〜300 ℃とし、昇温速度10 ℃/minで試料の重量変化を連続的に測定し記録した。なお、データ処理を含む装置の取り扱いは、各装置で指示された方法及び手順に従った。(装置:TA Instrument製 Hi-Res TGA 2950,TGA Q50)
(2)粉末X線回折
試料およそ10 mgを専用のサンプルホルダー(横5 mm、縦18 mm、深さ0.2 mm)に充填し、以下の条件下で試料の粉末X線回折を測定し記録した。なお、データ処理を含む装置の取り扱いは、各装置で指示された方法及び手順に従った。(装置:MAC Science(現Bruker)製 MXP18TAHF22)
(条件)
図3及び13
線源:Cu、波長:1.54056 Å、測定範囲:2.50 〜 40.00 °、サンプリング間隔:0.02 °、スキャン速度:4.00 °/min、管電圧:40 kV、管電流:200 mA、発散スリット:可変 (照射幅5.00 mm)、散乱スリット:可変 (照射幅 5.00 mm)、受光スリット:0.15 mm
図1,2,4,5,及び6
線源:Cu、波長:1.54056 Å、測定範囲:3.02 〜 40.00 °、サンプリング間隔:0.02 °、スキャン速度:3.00 °/min、管電圧:40 kV、管電流:200 mA、発散スリット:可変 (照射幅1.00 mm)、散乱スリット:可変 (照射幅 1.00 mm)、受光スリット:0.15 mm
なお、回折角および回折強度は、その結晶成長の方向、粒子の大きさ、測定条件等によって多少の変動がある場合がある。従って、それらの数値は厳密に解されるべきではない。
【0035】
また、参考例、実施例、及び後記表中以下の略号を用いる。
mp:融点、FAB+:FAB-MS(M+H)+、EI:EI-MS(M)+、ESI+:ESI-MS(M+H)+、NMR-DMSOd6:DMSO-d6中の1H NMRにおけるピークのδ(ppm))、DMF:N,N-ジメチルホルムアミド、DMSO:ジメチルスルホキシド、THF:テトラヒドロフラン、4M 塩化水素/ジオキサン溶液:4mol / l 塩化水素ジオキサン溶液、MeCN:アセトニトリル、MeOH:メタノール、EtOH:エタノール。
【0036】
参考例1 実施例1及び2の原料化合物である、化合物Aの製造
2Lフラスコにシアヌル酸クロリド75.0g、THF680mLを加え、攪拌しながら-19℃にて炭酸カリウム51.10gを加えた。-12.4℃以下にてTHF75mLで希釈したp-フルオロアニリン41.08g、THF75mLを加えた。-12.8〜-14.4℃にて1時間反応を行い、水450mLを加えた。室温にて分液を行い、水層を分離後に水300mLを加え再度分液を行い水層を分離した。有機層に、1)THF600mL、及び、2)炭酸カリウム1.1gを水308mLに加えて調製した水溶液、を加えた後に分液を行い、水層を分離した。有機層に水150mLを加えて分液を行い、水層を分離し、有機層を溶液残量280mLになるまで減圧にて濃縮した。濃縮液にMeCN750mLを加えて減圧にて溶液残量280mLになるまで濃縮する操作を3回行った。続いてMeCN600mLを加えて冷却後、アニリン34.43g、MeCN75mLを-5.9℃以下で加え、N,N-ジイソプロピルエチルアミン47.79g、MeCN38mLを-9.2℃にて加えた。その後室温まで昇温し,12時間攪拌後に2-アミノメチルピリミジン48.42g、MeCN75mLを室温にて加えた後、N,N-ジイソプロピルエチルアミン57.35g、MeCN38mLを室温にて加えた。内温82.4℃に昇温し4.5時間撹拌後、内温70℃以上で水560mLを加えた後冷却した。内温65.8℃にて結晶析出を確認後、室温にて終夜攪拌し濾過を行った。得られた結晶をMeCN:水=2:1の混合溶液にて洗浄し、続いて水300mLで洗浄した。得られた結晶を50℃にて1日減圧乾燥を行い、108.54gの化合物Aのフリー体の結晶を得た。
NMR-DMSOd6
4.71-4.73 (2H,m), 6.91-7.26 (5H,m), 7.37 (1H,dd, J=5.2Hz, 4.8Hz), 7.44-7.80 (5H,m), 8.78 (2H,d, J=4.8Hz), 9.01-9.05 (2H,m).
FAB+:389
Elemental Analysis. Calcd for C20H17FN8 : C, 61.85; H, 4,41; N, 28.85; F, 4.89; Cl, 0.00. Found: C, 61.78; H, 4.43; N, 28.81; F, 4.95; Cl, 0.00.
【0037】
実施例1 「化合物Aとフマル酸の比が2:1の塩の無水物」の製造
メチルエチルケトン414L、化合物Aの結晶23.00kgを反応容器1へ加え、内温65.0℃にて溶解させた。濾過を行い、反応容器2へ移送後、再度加熱した。別に、反応容器1にフマル酸6.90kg、EtOH 115Lを加え内温58.3℃にて溶解させ、反応容器2へと移送した。冷却後、内温54.2℃にて結晶析出を確認後、0℃にて終夜攪拌した。濾過を行った後、EtOH 46Lにて結晶を洗浄後、得られた「化合物A とフマル酸の比が1:1の塩の結晶」(III型結晶:wet)30.34kgとEtOH 460Lを反応容器2に加えた。内温52.4〜69.2℃にて懸濁状態で42時間攪拌し、冷却し室温にて終夜攪拌した。濾過を行いEtOH 46Lで結晶を洗浄後、60℃にて4日間減圧乾燥を行い「化合物Aとフマル酸の比が2:1の塩の無水物の結晶」(I型)20.97kgを得た。
化合物Aとフマル酸の比が2:1の塩の無水物の結晶(I型結晶)
NMR-DMSOd6
4.71-4.73 (2H,m), 6.64 (1H,s), 6.91-7.23 (5H,m), 7.37 (1H,dd, J=5.2Hz, 4.8Hz), 7.44-7.80 (5H,m), 8.78 (2H,d, J=4.8Hz), 9.01-9.06 (2H,m),13.06 (1H,br)
FAB+:389
Elemental Analysis. Calcd for C20H17FN8・0.5C4H4O4: C, 59.19; H, 4,29; N, 25.10; F, 4.26; O, 7.17. Found: C, 59.09; H, 4.36; N, 25.19; F, 4.31.
DSCにおける吸熱オンセット温度: 約190℃
実施例1の化合物(I型結晶)の粉末X線回折パターンを図1に示す。
化合物Aとフマル酸の比が1:1の塩(化合物Aと付着溶媒であるメチルエチルケトン、EtOH及び水の比=1:0.1:0.007:0.3)の結晶(III型結晶)
NMR-DMSOd6
4.71 (2H,m), 6.64 (2H,s), 6.90-7.29 (5H,m), 7.38 (1H, dd, J=4.8Hz, 4.8Hz), 7.57-7.81 (5H,m), 8.79 (2H,d, J=4.8Hz), 9.05-9.11 (2H,m), 13.09 (2H,br)
ESI+:389
Elemental Analysis. Calcd for C20H17FN8・C4H4O4・0.1 C4H8O・0.007 C2H6O・0.3 H2O : C, 56.67; H, 4,37; N, 21.66; F, 3.67; O, 13.63. Found: C, 56.56; H, 4.47; N, 21.68; F, 3.63.
DSCにおける吸熱オンセット温度: 約160℃
実施例1の化合物(III型結晶)の粉末X線回折パターンを図3に示す。
【0038】
実施例2 「化合物Aとフマル酸の比が2:1の塩であって、化合物Aと水の比が2:1である水和物」の製造(II型結晶)
200mLフラスコに化合物A 結晶3.0g、エタノール120mL、水30mLを加え、内温を76℃に加熱し溶解させた。続いてフマル酸448mgを加え、内温80℃にて溶解を確認した。冷却し、室温にて終夜攪拌を行った。濾過を行い40℃にて乾燥を行い、「化合物Aとフマル酸の比が2:1の塩であって、化合物Aと水の比が2:1である水和物の結晶」3.2g(II型結晶)を得た。
NMR-DMSOd6
4.72-4.74 (2H,m), 6.65 (1H,s), 6.91-7.27 (5H,m), 7.37 (1H,dd, J=4.8Hz, 4.8Hz), 7.45-7.81 (5H,m), 8.78 (2H,d, J=4.8Hz), 9.02-9.06 (2H,m), 13.06 (1H,br)
FAB+:389
Elemental Analysis. Calcd for C20H17FN8・0.5C4H4O4・0.5H2O : C, 58.02; H, 4,43; N, 24.60; F, 4.17; O, 8.78. Found: C, 58.20; H, 4.46; N, 24.77; F, 4.33.
DSCにおける吸熱オンセット温度: 約150℃
実施例2の化合物(II型結晶)の粉末X線回折パターンを図2に示す。
【0039】
実施例3 化合物Bと塩酸の比が1:2の塩の製造
6-クロロ-N,N'-ビス(4-フルオロフェニル)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン 10.0g のMeCN 100mL 懸濁液に、1-ピリミジン-2-イルメチルアミン酢酸塩6.0g 及び N,N-ジイソプロピルエチルアミン 11.5mL を加えて、85℃で12時間攪拌した。反応液を室温まで冷却した後、溶媒を留去して得られた残渣に酢酸エチルを加えて、有機層を5%クエン酸水溶液及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:MeOH=100:0〜95:5)で精製して 10.8g の微黄色アモルファスを得た。このものをEtOH 200mL に溶解し、活性炭2gを加えて10分間加熱還流した後、活性炭をセライトを用いた濾過により除去し、溶媒を留去して得られた残渣を80%含水EtOH 400mL を用いて固体化させて固体を濾取し、7.5g の無色固体を得た。このものを70%含水MeCN 150mlに加熱して溶解し、室温まで放冷しながら攪拌した後、析出している固体を濾取し、化合物B 7.08g を得た。
得られた化合物B 7.05g をMeOH 200mL、THF 200mL に溶解し、4M 塩化水素/ジオキサン溶液 10mL を加えた後、溶媒を留去して、得られた残渣にEtOHを加えて30分間撹拌して固体を析出させた。固体を濾取して減圧乾燥させた後、MeCNに懸濁させて10分間加熱還流させ、反応液を室温に戻して固体を濾取し、減圧乾燥を行なって、「化合物Bと塩酸の比が1:2の塩」7.25g を無色結晶(I型結晶)として得た。
化合物Bと塩酸の比が1:2の塩の結晶
NMR-DMSOd6
4.78 (2H, m), 7.10 (2H, brs), 7.25 (2H, t, J=8.7Hz), 7.3-7.8 (6H, m), 8.85 (2H, d, J=4.9Hz), 8.9-9.4 (1H, m), 10.45 (1H, brs), 10.88 (1H, brs)
Elemental Analysis. Calcd for C20H16F2N8・2HCl: C, 50.12; H, 3,79; N, 23.38; F, 7.93; Cl, 14.79. Found: C, 50.03; H, 3.92; N, 23.33; F, 7.94; Cl, 14.84.
DSCにおける吸熱オンセット温度: 約160及び約190℃
実施例3の化合物((I型結晶))の粉末X線回折パターンを図6に示す。
化合物B(フリー体)
NMR-DMSOd6
4.70 (2H, d, J=5.8Hz), 7.00 (2H, m), 7.10 (2H, t, J=8.7Hz), 7.38 (1H, t, J=4.9Hz), 7.57 (3H, brs), 7.80 (2H, brs), 8.79 (2H, d, J=4.9Hz), 9.0-9.2 (2H, m).
FAB+: 407
【0040】
実施例4 化合物Bとフマル酸の比が1:1の塩の製造
化合物B 1.0g のエタノール50mL溶液に、フマル酸 285.6mgのエタノール5mL 溶液を加えた。直ぐに固体の析出が始まった。この反応液を加熱還流して固体を完全に溶解させた後、放冷しながら攪拌した。内温が60℃まで下がったところで、化合物Bとフマル酸の比が1:1の塩の結晶を極少量添加し、室温まで放冷しながら12時間攪拌した。析出している結晶を濾取し、エタノールで洗浄した後、60℃で2日間減圧乾燥を行なって、「化合物Bとフマル酸の比が1:1の塩」970mg を無色結晶(I型結晶)として得た。
NMR-DMSOd6
4.70 (2H, d, J=5.7Hz), 6.64 (2H, s), 7.00 (2H, m), 7.10 (2H, t, J=8.7Hz), 7.38 (1H, t, J=4.9Hz), 7.57 (3H, brs), 7.80 (2H, brs), 8.80 (2H, d, J=4.9Hz), 9.0-9.2 (2H, m), 13.13 (2H, brs).
Elemental Analysis. Calcd for C20H16F2N8・C4H4O4: C, 55.17; H, 3.86; N, 21.45; F, 7.27. Found: C, 55.29; H, 4.05; N, 21.64; F, 7.32.
DSCにおける吸熱オンセット温度: 約215℃
実施例4の化合物(I型結晶)の粉末X線回折パターンを図5に示す。
【0041】
本発明の化合物Aの酸付加塩の効果は、以下の試験例によって確認された。
【0042】
試験例1 安定性の評価
保存中の分解物の評価:試料およそ5 mgを10 mLのガラス製メスフラスコに量り取り、以下の保存条件で試験を行った。
条件1:70 ℃−相対湿度75%−開放−2週間
条件2:70 ℃−遮光−密栓−2週間
条件3:25 ℃−D65(3600 lux)−密栓−2週間
保存後の試料の入ったメスフラスコの標線まで溶解溶媒で満たし、溶解したものを試料溶液とし、試料溶液中の化合物Aを定量した。なお、化合物Aと化合物Bの検出は266nmと254nmのUVでそれぞれ行い、データ処理を含む装置の取り扱いは、各装置で指示された方法及び手順に従った。(装置:Agilent 製LC-1100シリーズ)
これらの試験結果を表1に示す。なお定量値とは,試験前の化合物Aに対する試験後の化合物Aの残存率を示している。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すとおり、化合物Aのフマル酸塩及び/または化合物Bのフマル酸塩は、高温高湿度条件、高温遮光条件、及び光に対する安定性が高いことが明らかとなった(条件1乃至3)。
【0045】
試験例3 化合物A及び/又はBの統合失調症に対する治療効果
統合失調症に対する治療効果の検証は、メタンフェタミン誘発運動亢進モデルを用いて行った。メタンフェタミンは覚せい剤であり、ドパミン神経系の伝達を亢進することで、統合失調症に類似した症状を引き起こすことが知られており、メタンフェタミンを動物に投与した際に生じる異常行動は、統合失調症治療薬のスクリーニンング方法として汎用されている(Oka et al., 1993, J. Pharmacol. Exp. Ther., 264:158-165)。すなわち、雄性ddyマウスを運動量測定装置に入れ、30分後にメタンフェタミンを投与した。メタンフェタミン投与後直ちに測定装置に戻し、直後から1時間の運動量を測定した。運動量の測定には、室町機械株式会社のスーパーメックスセンサーを使用した。溶媒、又は、試験化合物をそれぞれ溶媒で複数の濃度に希釈した希釈液を、各群のマウスに経口投与した。溶媒は、0.5%メチルセルロース水溶液を用いた。有意差検定は、Dunnett検定を用い、溶媒投与群と薬物投与群との間で行った。
【0046】
試験化合物
化合物(1):化合物Aとフマル酸の比が2:1の塩の無水物の結晶
化合物(2):化合物Bと塩酸の比が1:2の塩の結晶
【0047】
(結果)
メタンフェタミン誘発運動亢進抑制作用の結果を表2に示す。表中の数値は、各化合物投与群の最小有効用量(溶媒投与群の運動量に対して、運動量が有意に少なかった最も小さい用量)を表す.化合物A及びBははいずれもメタンフェタミン誘発運動亢進を抑制した。すなわち、これら2化合物は統合失調症の症状を改善する作用があることが示された。
【0048】
【表2】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明してきたが、当業者にとってその発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更および修正を行うことができることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0049】
N-(4-フルオロフェニル)- N'-フェニル-N''- (ピリミジン-2-イルメチル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン(化合物A)のフマル酸塩及び/又はN, N'-ビス(4-フルオロフェニル)-N''- (ピリミジン-2-イルメチル)- 1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン(化合物B)のフマル酸塩及びそれらの新規結晶は、優れた安定性を有する医薬品又は原料として提供されるものとして有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化3】
(R1:H又はF)
の化合物とフマル酸から成る塩。
【請求項2】
R1がHである請求項1に記載の塩。
【請求項3】
式(I)の化合物とフマル酸の比が2:1である請求項2に記載の塩。
【請求項4】
R1がFである請求項1に記載の塩。
【請求項5】
式(I)の化合物とフマル酸の比が1:1である請求項4に記載の塩。
【請求項6】
請求項1乃至5に記載の化合物の結晶。
【請求項7】
請求項1乃至4に記載の化合物の有効量を含有し、更に製薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項8】
請求項6に記載の結晶の有効量を含有し、更に製薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項1】
式(I)
【化3】
(R1:H又はF)
の化合物とフマル酸から成る塩。
【請求項2】
R1がHである請求項1に記載の塩。
【請求項3】
式(I)の化合物とフマル酸の比が2:1である請求項2に記載の塩。
【請求項4】
R1がFである請求項1に記載の塩。
【請求項5】
式(I)の化合物とフマル酸の比が1:1である請求項4に記載の塩。
【請求項6】
請求項1乃至5に記載の化合物の結晶。
【請求項7】
請求項1乃至4に記載の化合物の有効量を含有し、更に製薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項8】
請求項6に記載の結晶の有効量を含有し、更に製薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2012−521964(P2012−521964A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541013(P2011−541013)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【国際出願番号】PCT/JP2010/056143
【国際公開番号】WO2010/114162
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【国際出願番号】PCT/JP2010/056143
【国際公開番号】WO2010/114162
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】
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