説明

2−シアノアクリレート系接着剤組成物

【課題】高いはく離接着強さを発現する2−シアノアクリレート系接着剤組成物を提供する。
【解決手段】(A)一般式(1)により表される2−シアノアクリル酸エステル100質量部と、(B)前記2−シアノアクリル酸エステルに難溶性の重合体となり得る単量体及び可溶性の重合体となり得る単量体を用いてなる共重合体5〜40質量部とを含有する2−シアノアクリレート系接着剤組成物であって、接着剤硬化物の25℃における損失正接(tanδ)が0.15以上であることを特徴とする2−シアノアクリレート系接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−シアノアクリレート系接着剤組成物に関する。更に詳しくは、特定の2−シアノアクリル酸エステルと共重合体を含有し、高いはく離接着強さを有する2−シアノアクリレート系接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
2−シアノアクリル酸エステルを含有する2−シアノアクリレート系接着剤組成物は、主成分である2−シアノアクリル酸エステルが有する特異なアニオン重合性により、被着体表面に付着する僅かな水分等の微弱なアニオンによって重合を開始し、各種材料を短時間で強固に接合することができる。そのため、所謂、瞬間接着剤として、工業用、家庭用、医療用等の広範な分野において用いられている。 しかし、この2−シアノアクリレート系接着剤組成物は、その硬化物が硬く脆いため、優れたせん断接着強さを有する反面、はく離接着強さ及び衝撃接着強さが低く、特に低温下における接着性、シール性に劣るという問題点を有する。従来、このような問題点を改良するため、例えば、特許文献1には特定の可塑剤を含む接着剤組成物が記載されている。また、特許文献2には、2−シアノアクリル酸エステルとしてアルコキシアルキルエステル等を使用した接着剤組成物も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−34678号公報
【特許文献2】特開平10−176142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載された改質方法では、2−シアノアクリル酸エステルの硬化樹脂に柔軟性は付与されるものの、はく離接着強さが不十分であるという問題がある。また、特許文献2には、2−シアノアクリル酸アルコキシアルキルと可塑剤からなる接着剤組成物が記載されているが、はく離接着強さを向上させるための解決手段は記載されていない。
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、特定の2−シアノアクリル酸エステルと共重合体を含有し、高いはく離接着強さを発現する2−シアノアクリレート系接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、一般式(1)により表される2−シアノアクリル酸エステルと、特定の共重合体を含有し、接着剤硬化物の損失正接を規定することにより、高いはく離接着強さを発現することを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.(A)下記一般式(1)により表される2−シアノアクリル酸エステル100質量部と、(B)前記2−シアノアクリル酸エステルに難溶性の重合体となり得る単量体及び可溶性の重合体となり得る単量体を用いてなる共重合体5〜40質量部とを含有する2−シアノアクリレート系接着剤組成物であって、接着剤硬化物の25℃における損失正接(tanδ)が0.15以上であることを特徴とする2−シアノアクリレート系接着剤組成物。
【化1】

[上記式(1)におけるR1は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R2は直鎖又は側鎖を有する炭素数1〜3のアルキル基である。]
2.接着剤硬化物の損失正接(tanδ)が、−20〜25℃において0.15以上である上記1に記載の2−シアノアクリレート系接着剤組成物。
3.2−シアノアクリル酸エステルに難溶性の重合体となり得る上記単量体が、エチレン、プロピレン、イソプレン及びブタジエンのうちの少なくとも1種であり、可溶性の重合体となり得る上記単量体が、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルのうちの少なくとも一方である上記1又は2に記載の2−シアノアクリレート系接着剤組成物。
4.更に、(C)可塑剤を含有し、上記2−シアノアクリル酸エステル100質量部に対し、該可塑剤は1〜40質量部である上記1〜3のいずれかに記載の2−シアノアクリレート系接着剤組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る2−シアノアクリレート系接着剤組成物は、以上のように、一般式(1)により表される2−シアノアクリル酸エステルと、特定の共重合体を含有し、接着剤硬化物の25℃における損失正接(tanδ)が0.15以上である。該接着剤組成物は、被着体がはく離方向に変形する際のエネルギーを吸収することができるため、高いはく離接着強さを発現することができる。また、該接着剤硬化物の損失正接(tanδ)が、−20〜25℃において0.15以上である場合は、低温下(−20〜10℃)においても高いはく離接着強さを発現することができる。更に、該接着剤組成物が可塑剤を含む場合は、より高いはく離接着強さを発現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0008】
本発明に係る2−シアノアクリレート系接着剤組成物は、(A)下記一般式(1)により表される2−シアノアクリル酸エステル100質量部と、(B)前記2−シアノアクリル酸エステルに難溶性の重合体となり得る単量体及び可溶性の重合体となり得る単量体を用いてなる共重合体5〜40質量部とを含有する2−シアノアクリレート系接着剤組成物であって、接着剤硬化物の25℃における損失正接(tanδ)が0.15以上であることを特徴とする。更に、該接着剤組成物は、(C)可塑剤を含有することができる。以下に、本発明に係る2−シアノアクリレート系接着剤組成物の各構成成分について、具体的に説明する。
【0009】
(A)2−シアノアクリル酸エステル
本発明に係る2−シアノアクリレート系接着剤組成物には、下記一般式(1)により表される2−シアノアクリル酸エステルが含有される。
【0010】
【化1】

[上記式(1)におけるR1は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R2は直鎖又は側鎖を有する炭素数1〜3のアルキル基である。]
【0011】
上記2−シアノアクリル酸エステルを用いることにより、2−シアノアクリレート系接着剤組成物の硬化樹脂に柔軟性を付与することができる。また、上記2−シアノアクリル酸エステルに特定の共重合体を含有させることにより、高いはく離接着強さを発現することができる。更に、上記2−シアノアクリル酸エステルは、本来低臭気、低白化性という特長を有しており、この特長を接着剤組成物に付与することができる。ここで、低臭気とは、モノマーの刺激臭が低いことをいい、低白化とは、揮発した2−シアノアクリル酸エステルが大気中の水分で重合し、白い粉となって被着体の接着部周辺に付着する現象が少ないことをいう。
【0012】
上記一般式(1)により表される2−シアノアクリル酸エステルとしては、2−シアノアクリル酸のメトキシエチル、メトキシプロピル、メトキシイソプロピル、エトキシエチル、エトキシプロピル、エトキシイソプロピル、プロポキシメチル、プロポキシエチル、イソプロポキシエチル及びプロポキシプロピル等のエステルが挙げられる。これらの2−シアノアクリル酸エステルは1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
本発明に係る2−シアノアクリレート系接着剤組成物には、接着性能を損なわない範囲で上記一般式(1)以外の2−シアノアクリル酸エステルを含むことができる。一般式(1)以外の2−シアノアクリル酸エステルとしては、2−シアノアクリル酸のメチル、エチル、クロロエチル、n−プロピル、i−プロピル、アリル、プロパギル、n−ブチル、i−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、シクロヘキシル、フェニル、テトラヒドロフルフリル、ヘプチル、2−エチルヘキシル、n−オクチル、2−オクチル、n−ノニル、オキソノニル、n−デシル、n−ドデシル、2,2,2−トリフルオロエチル及びヘキサフルオロイソプロピル等のエステルが挙げられる。これらの2−シアノアクリル酸エステルは1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
上記一般式(1)で表される2−シアノアクリル酸エステルと、それ以外の2−シアノアクリル酸エステルの組み合わせは特に限定されないが、例えば、2−シアノアクリル酸2−エトキシエチルと2−シアノアクリル酸エチル、2−シアノアクリル酸2−エトキシエチルと2−シアノアクリル酸イソブチル、2−シアノアクリル酸2−エトキシエチルと2−シアノアクリル酸2−オクチル等の各々の組み合わせが挙げられる。
【0015】
本発明に用いられる2−シアノアクリル酸エステルは、シアノ酢酸エステルとパラホルムアルデヒドを塩基性触媒存在下で脱水縮合反応を行い、得られた縮合物を解重合して粗製2−シアノアクリル酸エステルを得たのち、蒸留によって精製2−シアノアクリル酸エステルを得ることで製造することができる。また、例えば、特開平7−33726号公報に記載されているように、2−シアノアクリル酸エステルとシクロペンタジエンのディールスアルダー反応を利用した方法によっても製造することができる。更に、例えば、特表平8−505383号公報に記載されているように、2−シアノアクリル酸又はその酸ハロゲン化物をアルコールとエステル化反応させて2−シアノアクリル酸エステルを製造することもできる。
【0016】
(B)上記2−シアノアクリル酸エステルに難溶性の重合体となり得る単量体及び可溶性の重合体となり得る単量体を用いてなる共重合体
本発明に係る2−シアノアクリレート系接着剤組成物には、2−シアノアクリル酸エステルに難溶性の重合体となり得る単量体、及び可溶性の重合体となり得る単量体を用いてなる共重合体を含有させる。この共重合体は、2−シアノアクリル酸エステルに難溶性の重合体となり得る単量体が重合してなる難溶性セグメントと、可溶性の重合体となり得る単量体が重合してなる可溶性セグメントとを備える。
【0017】
2−シアノアクリル酸エステルに難溶性の重合体となり得る単量体は特に限定されず、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、クロロプレン、1−ヘキセン及びシクロペンテン等が挙げられる。これらの単量体は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。難溶性の重合体となり得る単量体としては、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン及びクロロプレンが用いられることが多い。
【0018】
また、2−シアノアクリル酸エステルに可溶性の重合体となり得る単量体も特に限定されず、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルエーテル、スチレン及びアクリロニトリル等が挙げられる。アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸n−ヘプチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸メトキシプロピル、アクリル酸エトキシエチル及びアクリル酸エトキシプロピル等が挙げられる。これらの単量体は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
更に、メタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸n−ヘプチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシプロピル、メタクリル酸エトキシエチル及びメタクリル酸エトキシプロピル等が挙げられる。これらの単量体は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとを併用してもよい。
【0020】
難溶性の重合体となり得る単量体が重合してなる難溶性セグメントと、可溶性の重合体となり得る単量体が重合してなる可溶性セグメントとの割合は特に限定されず、これらのセグメントの合計を100モル%とした場合に、難溶性セグメントが5〜90モル%、好ましくは10〜80モル%、可溶性セグメントが10〜95モル%、好ましくは20〜90モル%であればよい。この割合は、難溶性セグメントが30〜80モル%、可溶性セグメントが20〜70モル%、特に難溶性セグメントが40〜80モル%、可溶性セグメントが20〜60モル%、更に難溶性セグメントが50〜75モル%、可溶性セグメントが25〜50モル%であることがより好ましい。難溶性セグメントが5〜90モル%であり、可溶性セグメントが10〜95モル%であれば、特に難溶性セグメントが30〜80モル%であり、可溶性セグメントが20〜70モル%であれば、共重合体を2−シアノアクリル酸エステルに適度に溶解させることができ、高いはく離接着強さ等を有する接着剤組成物とすることができる。
各々のセグメントの割合は、プロトン核磁気共鳴分光法(以下「1H−NMR」と表記する)測定によるプロトンの積分値により算出することができる。
【0021】
該接着剤組成物には、2−シアノアクリル酸エステルに可溶性の重合体となり得る単量体及び難溶性の重合体となり得る単量体と、少量のカルボキシル基含有単量体とを用いてなる共重合体を含有させることもできる。カルボキシル基含有単量体も特に限定されず、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、クロトン酸及び桂皮酸等が挙げられる。これらの単量体は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。カルボキシル基含有単量体としては、アクリル酸及びメタクリル酸が用いられることが多く、これらはいずれか一方を用いてもよく、併用してもよい。このカルボキシル基含有単量体が重合してなるカルボキシル基含有セグメントは、親水性の高い2−シアノアクリル酸エステルに可溶性のセグメントになる。
【0022】
カルボキシル基含有セグメントの割合も特に限定されないが、難溶性セグメント、可溶性セグメント、及びカルボキシル基含有セグメントの合計を100モル%とした場合に、0.1〜5モル%、特に0.3〜4モル%、更に0.4〜3モル%であることが好ましい。また、この含有量は、0.5〜2.5モル%、特に0.5〜2モル%であることがより好ましい。カルボキシル基含有セグメントが0.1〜5モル%、特に0.5〜2.5モル%であれば、被着体に塗布後、速やかに硬化し、かつ、高いはく離接着強さを有することができる。
カルボキシル基含有セグメントの割合は、JIS K0070に準じ、電位差滴定法又は指示薬滴定法により測定することができる。
【0023】
共重合体としては、例えば、エチレン/アクリル酸メチル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/アクリル酸ブチル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、ブタジエン/アクリル酸メチル共重合体、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体、ブタジエン/アクリロニトリル/アクリル酸エステル共重合体、及びブタジエン/スチレン/アクリロニトリル/アクリル酸メチル共重合体等を用いることができる。この共重合体としては、エチレン/アクリル酸メチル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/アクリル酸ブチル共重合体が特に好ましい。また、上記の各々の共重合体に用いられる単量体と、アクリル酸及び/又はメタクリル酸等のカルボキシル基含有単量体とを重合させてなる共重合体を用いることもできる。これらの共重合体は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよく、カルボキシル基含有単量体を用いない共重合体と、カルボキシル基含有単量体を用いた共重合体とを併用してもよい。更に、カルボキシル基含有単量体を用いない共重合体と、カルボキシル基含有単量体を用いた共重合体とは、いずれを使用してもよいが、一般式(1)で表される2−シアノアクリル酸エステルの場合は、カルボキシル基含有単量体を用いた共重合体を使用することが好ましい。
【0024】
共重合体の平均分子量も特に限定されないが、数平均分子量(Mn)が5000〜500000であればよく、10000〜200000、特に15000〜150000、更に20000〜100000であることが好ましい。共重合体の数平均分子量が5000〜500000、特に10000〜200000であれば、共重合体が2−シアノアクリル酸エステルに容易に溶解する。また、共重合体の重量平均分子量(Mw)は、5000〜1000000、特に10000〜1000000であることが好ましく、Mw/Mnは1.00〜10.0、特に1.00〜8.0であることが好ましい。
共重合体の平均分子量は、前記のように、GPCにより測定することができる。
【0025】
接着剤組成物における共重合体の含有量は、2−シアノアクリル酸エステルを100質量部とした場合に、5〜40質量部である。この共重合体の好ましい含有量は、2−シアノアクリル酸エステルの種類、並びに共重合体の製造に用いた単量体の種類及び割合等にもよるが、10〜30質量部、特に15〜25質量部であることが好ましい。共重合体の含有量が5質量部未満では、高いはく離接着強さを得られない場合がある。一方、共重合体の含有量が40質量部を超えると、瞬間接着性が低下するだけでなく、2−シアノアクリレート系接着剤組成物が本来有する優れたせん断接着強さが低下する場合がある。
【0026】
本発明に係る2−シアノアクリレート系接着剤組成物は、上記(A)成分と(B)成分を含み、接着剤硬化物の25℃における損失正接(tanδ)が0.15以上である。損失正接(tanδ)は、貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G’’)の比(G’’/G’)であり、材料が変形する際に材料がどのくらいエネルギーを吸収するか(熱に変わる)を示したものである。本発明の損失正接(tanδ)は、動的粘弾性測定装置で測定した値であり、測定方法は後述する。前記損失正接(tanδ)は、0.20以上であることが好ましく、0.25以上であることがより好ましい。損失正接(tanδ)が、0.15未満であると、高いはく離接着強さが得られない。
また、接着剤硬化物の損失正接(tanδ)は、−20〜25℃において0.15以上であることが好ましい。この温度領域における損失正接(tanδ)が0.15以上であれば、低温下(−20〜10℃)においても、高いはく離接着強さを発現することができる。
接着剤硬化物の25℃における貯蔵弾性率(G’)は、80MPa以下であることが好ましく、60MPa以下(通常1MPa以上)であることがより好ましい。貯蔵弾性率(G’)が80MPa以下であれば、硬化物が柔軟であり、高いはく離接着強さを発現することができる。
【0027】
(C)可塑剤
上記2−シアノアクリレート系接着剤組成物には、上記(A)2−シアノアクリル酸エステルと、(B)特定の共重合体以外に、(C)可塑剤を含有することができる。可塑剤は、硬化樹脂の柔軟性を向上させる成分であり、2−シアノアクリル酸エステルの重合性や保存安定性に悪影響を及ぼさず、相溶するものであればよい。
このような可塑剤としては、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル、グルタル酸ジメチル、グルタル酸ジエチル、グルタル酸ジブチル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソトリデシル、フタル酸ジペンタデシル、テレフタル酸ジオクチル、イソフタル酸ジイソノニル、トルイル酸デシル、ショウノウ酸ビス(2−エチルヘキシル)、2−エチルヘキシルシクロヘキサンカルボキシレート、フマ−ル酸ジイソブチル、マレイン酸ジイソブチル、カプロン酸トリグリセライド、安息香酸2−エチルヘキシル、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリメリット酸トリメチル、トリメリット酸トリオクチル等が挙げられる。これらの中では、2−シアノアクリル酸エステルとの相溶性が良く、かつ可塑化効率が高いという点から、アセチルクエン酸トリブチル、アジピン酸ジメチル、フタル酸ジメチル、安息香酸2−エチルヘキシル、ジプロピレングリコールジベンゾエートが好ましい。これらの可塑剤は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
可塑剤の含有量は、2−シアノアクリル酸エステルの合計を100質量部とした場合に、1〜40質量部であることが好ましく、3〜30質量部であることがより好ましい。可塑剤の含有量が、1質量部未満では柔軟性を向上させるためには不十分な場合があり、一方、40質量部を超えると、硬化樹脂の凝集力が低下し、2−シアノアクリレート系接着剤組成物が本来有する高いせん断接着強さが低下する場合がある。
【0029】
本発明の2−シアノアクリレート系接着剤組成物には、上記の必須成分の他に、従来、2−シアノアクリル酸エステルを含有する接着剤組成物に配合して用いられているアニオン重合促進剤、安定剤、増粘剤、着色剤、香料、溶剤、強度向上剤等を、目的に応じて、接着剤組成物の硬化性及び接着性を損なわない範囲で適量配合することができる。
【0030】
アニオン重合促進剤としては、ポリアルキレンオキサイド類、クラウンエーテル類、シラクラウンエーテル類、カリックスアレン類、シクロデキストリン類及びピロガロール系環状化合物類等が挙げられる。ポリアルキレンオキサイド類とは、ポリアルキレンオキサイド及びその誘導体であって、例えば、特公昭60−37836号、特公平1−43790号、特開昭63−128088号、特開平3−167279号、米国特許第4386193号、米国特許第4424327号等で開示されているものが挙げられる。具体的には、(1)ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレンオキサイド、(2)ポリエチレングリコールモノアルキルエステル、ポリエチレングリコールジアルキルエステル、ポリプロピレングリコールジアルキルエステル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル等のポリアルキレンオキサイドの誘導体などが挙げられる。クラウンエーテル類としては、例えば、特公昭55−2236号、特開平3−167279号等で開示されているものが挙げられる。具体的には、12−クラウン−4、15−クラウン−5、18−クラウン−6、ベンゾ−12−クラウン−4、ベンゾ−15−クラウン−5、ベンゾ−18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6、ジベンゾ−24−クラウン−8、ジベンゾ−30−クラウン−10、トリベンゾ−18−クラウン−6、asym−ジベンゾ−22−クラウン−6、ジベンゾ−14−クラウン−4、ジシクロヘキシル−24−クラウン−8、シクロヘキシル−12−クラウン−4、1,2−デカリル−15−クラウン−5、1,2−ナフト−15−クラウン−5、3,4,5−ナフチル−16−クラウン−5、1,2−メチルベンゾ−18−クラウン−6、1,2−tert−ブチル−18−クラウン−6、1,2−ビニルベンゾ−15−クラウン−5等が挙げられる。シラクラウンエーテル類としては、例えば、特開昭60−168775号等で開示されているものが挙げられる。具体的には、ジメチルシラ−11−クラウン−4、ジメチルシラ−14−クラウン−5、ジメチルシラ−17−クラウン−6等が挙げられる。カリックスアレン類としては、例えば、特開昭60−179482号、特開昭62−235379号、特開昭63−88152号等で開示されているものが挙げられる。具体的には、5,11,17,23,29,35−ヘキサ−tert−butyl−37,38,39,40,41,42−ヘキサヒドロオキシカリックス〔6〕アレン、37,38,39,40,41,42−ヘキサヒドロオキシカリックス〔6〕アレン、37,38,39,40,41,42−ヘキサ−(2−オキソ−2−エトキシ)−エトキシカリックス〔6〕アレン、25,26,27,28−テトラ−(2−オキソ−2−エトキシ)−エトキシカリックス〔4〕アレン等が挙げられる。シクロデキストリン類としては、例えば、公表平5−505835号等で開示されているものが挙げられる。具体的には、α−、β−又はγ−シクロデキストリン等が挙げられる。ピロガロール系環状化合物類としては、特開2000−191600号等で開示されている化合物が挙げられる。具体的には、3,4,5,10,11,12,17,18,19,24,25,26−ドデカエトキシカルボメトキシ−C−1、C−8、C−15、C−22−テトラメチル[14]−メタシクロファン等が挙げられる。これらのアニオン重合促進剤は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
また、安定剤としては、(1)二酸化イオウ、メタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸、三弗化ホウ素ジエチルエーテル、三弗化ホウ素メタノール等の三弗化ホウ素錯体、HBF4及びトリアルキルボレート等のアニオン重合禁止剤、(2)ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、t−ブチルカテコール、カテコール及びピロガロール等のラジカル重合禁止剤などが挙げられる。これらの安定剤は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
更に、増粘剤としては、ポリメタクリル酸メチル、アクリルゴム、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、セルロースエステル、ポリアルキル−α−シアノアクリル酸エステル及びエチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。これらの増粘剤は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明に係る2−シアノアクリレート系接着剤組成物は、以上のような成分を含有するが、その製造方法は特に限定されるものではない。具体的には、上記の各成分を従来公知の方法を適宜選択して用いて、混合することにより製造することができる。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。尚、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0035】
1.評価方法
1−1.粘弾性測定方法
Reologica Inst.A.B.製VAR-100 Viscoanalyserを使用して、下記のように測定した。
上下パラレルプレートの両面に硬化促進剤溶液(5% N,N’−ジメチルパラトルイジンのエタノール溶液)を塗布して乾燥させた後、下部プレートに適量の接着剤組成物を塗布して、直ちに上部プレートを降下させた。その後、25℃で2時間放置し、歪み0.1%、周波数1Hz、昇温速度2 ℃/分、初期ギャップ 300mmの条件で粘弾性を測定した。
1−2.はく離接着強さ
JIS K6854「接着剤のはく離接着強さ試験方法」に準じて、2−シアノアクリレート系接着剤組成物のはく離接着強さを下記のようにして測定した。
シート状のアルミニウム(材質;A1N30P、幅25mm×長さ100mm×厚み0.1mm)をアルコールで脱脂し、アルミニウム同士を各接着剤組成物で接着した。室温下で1週間養生し、引張速度100mm/分ではく離接着強さを測定した。
【0036】
2.2−シアノアクリレート系接着剤組成物の製造
○実施例1
2−シアノアクリル酸2−エトキシエチルに、二酸化硫黄を40ppm、ハイドロキノンを1000ppm(2−シアノアクリル酸2−エトキシエチルを100質量部とする)配合し、エチレン/アクリル酸メチル/アクリル酸共重合体(デュポンエラストマー社製、商品名「Vamac MR」)を25質量部溶解させて接着剤組成物を製造した。
【0037】
○実施例2〜5及び比較例1〜2
上記「Vamac MR」と、可塑剤(アセチルクエン酸トリブチル)の含有量を表1の記載となるように配合した他は、実施例1と同様にして2−シアノアクリレート系接着剤組成物を製造した。
【0038】
【表1】

【0039】
表1の結果によれば、本発明に係る2−シアノアクリレート系接着剤組成物は、高いはく離接着強さを発現することがわかる。特に、−20℃におけるtanδが0.15以上である実施例1及び5は、−20℃においても高いはく離接着強さを発現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の2−シアノアクリレート系接着剤組成物は、特定の2−シアノアクリル酸エステルと共重合体を含有し、所謂、瞬間接着剤として利用することができる。この接着剤組成物は、高いはく離接着強さを発現するため、従来の瞬間接着剤の用途に加えて、一般用、工業用及び医療用など広範囲の分野において利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)により表される2−シアノアクリル酸エステル100質量部と、(B)前記2−シアノアクリル酸エステルに難溶性の重合体となり得る単量体及び可溶性の重合体となり得る単量体を用いてなる共重合体5〜40質量部とを含有する2−シアノアクリレート系接着剤組成物であって、接着剤硬化物の25℃における損失正接(tanδ)が0.15以上であることを特徴とする2−シアノアクリレート系接着剤組成物。
【化1】

[上記式(1)におけるR1は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R2は直鎖又は側鎖を有する炭素数1〜3のアルキル基である。]
【請求項2】
接着剤硬化物の損失正接(tanδ)が、−20〜25℃において0.15以上である請求項1に記載の2−シアノアクリレート系接着剤組成物。
【請求項3】
2−シアノアクリル酸エステルに難溶性の重合体となり得る上記単量体が、エチレン、プロピレン、イソプレン及びブタジエンのうちの少なくとも1種であり、可溶性の重合体となり得る上記単量体が、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルのうちの少なくとも一方である請求項1又は2に記載の2−シアノアクリレート系接着剤組成物。
【請求項4】
更に、(C)可塑剤を含有し、上記2−シアノアクリル酸エステル100質量部に対し、該可塑剤は1〜40質量部である請求項1〜3のいずれか1項に記載の2−シアノアクリレート系接着剤組成物。

【公開番号】特開2013−112766(P2013−112766A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261677(P2011−261677)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】