説明

2位よりも1,3位のDHA含有率が高いトリアシルグリセロールの製造方法

【課題】トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物を簡便に効率よく製造する方法の提供。
【解決手段】リパーゼを用いるエステル化反応により、DHAを含有する脂肪酸混合物とグリセリンとから、DHAが結合したトリアシルグリセロールを含むトリアシルグリセロール混合物を製造する方法であって、該トリアシルグリセロール混合物中のDHAが結合したトリアシルグリセロールにおいて、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DHAを含有する脂肪酸混合物から、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物を簡便に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度不飽和脂肪酸の有する生理活性が注目されている。特に、エイコサペンタエン酸(以下「EPA」と称する)やドコサヘキサエン酸(以下「DHA」と称する)は動脈硬化症、血栓症などの成人病に対する予防効果や制癌作用、学習能の増強作用など多くの生理活性作用を有していることが知られている。そして、その利用法について様々な検討がなされている。
【0003】
EPAやDHAを含有する油としては海産動物油、特にマグロ、カツオ、イワシ、サバ、サンマ、アジ、イカ、タラ、アザラシ等に含まれる油が挙げられる。マグロ油を例にとってトリアシルグリセロール(トリグリセリドと言う場合もある)の分子種分布を調べると、EPAはトリアシルグリセロールの1,2,3位にほぼ均等に存在しているのに対し、DHAは2位に多く存在する。(後述の比較例1参照)
これに対し、アザラシ油はEPA、DHAともに1,3位に局在することが見出されており、アザラシ油の特徴的な分子種に起因する機能性が池田らにより報告されている(非特許文献1並びに特許文献1および2を参照)。即ち、アザラシ油または魚油を摂取した場合、ラットの血清および肝臓中のトリアシルグリセロール濃度はアザラシ油を摂取した場合に、魚油を摂取した場合よりも低く、この効果は肝臓での脂肪酸合成を抑制することで発現するとされる。また、大動脈でのPGI2産生量/血小板TXA2産生量の比はアザラシ油で有意に高いことから、アザラシ油は血小板凝集を抑制し、血栓症や心筋梗塞の予防が期待されている。
【0004】
しかしながら、アザラシ油は供給源が限定的であるという問題点がある。そこで、DHA含有脂肪酸混合物から、2位よりも1,3位のDHA含有率が高いトリアシルグリセロール混合物を簡便に製造する方法の確立が求められている。ここで、2位または1,3位のDHA含有率とは、トリアシルグリセロールの2位に結合している全脂肪酸に対するDHAのモル%、および1,3位に結合している全脂肪酸に対するDHAのモル%のことをいう。即ち、トリアシルグリセロールの2位に結合している全脂肪酸を足して100%としたときのDHAのモル%、1,3位に結合している全脂肪酸を足して100%としたときのDHAのモル%である。
【0005】
トリアシルグリセロールの1,3位には脂肪酸の結合する場所が2カ所存在し、2位にはそれが1カ所存在する。このことから、例えば、2位または1,3位のDHA含有率が同じ場合はトリアシルグリセロールの1,3位に結合しているDHAの個数は2位のそれの2倍となり、1,3位のDHA含有率が2位の2倍の場合はトリアシルグリセロールの1,3位に結合しているDHAの個数は2位のそれの4倍となる。本発明では、後者のようなトリアシルグリセロール混合物の製造を目指している。
【0006】
山根らの方法(非特許文献2を参照)によれば1,3位特異的リパーゼを用いたトリアシルグリセロール(トリカプリリン)とDHAエチルエステルのエステル交換により、トリアシルグリセロールの1,3位にDHAが結合した構造脂質を合成することができる。即ち、DHA非含有油とDHAエチルエステルとからトリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロールを製造することが可能であることを示唆している。しかしながら、このためには高純度のDHAエチルエステルを用意する必要があり、またこの方法ではDHA含有脂肪酸混合物からはトリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物を製造することはできない。
【0007】
また、DHAを含まないトリアシルグリセロール(トリオレインや中鎖脂肪酸トリアシルグリセロールなど)とDHA含有脂肪酸混合物から、1,3位に特異的なリパーゼを用いたエステル交換反応により、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物を製造する方法も報告されている(特許文献1から3を参照)。しかし、これらの方法ではDHA含有脂肪酸混合物のみから目的物の製造はできないこと(DHA非含有トリアシルグリセロールが必要である)、DHA非含有トリアシルグリセロールに対して5〜6倍モルのDHA含有脂肪酸混合物を添加するためにDHAのロスが多いこと、反応混液に含まれている5〜6倍モルの遊離脂肪酸の除去工程が煩雑になるという問題点がある。
【0008】
一方、これまで脂肪酸混液からトリアシルグリセロールを製造する方法は公知であり、DHAにも作用しやすい固定化Candida antarcticaリパーゼ(Novozym435, ノボザイムズ社製)を用いれば、DHA含有脂肪酸混合物をトリアシルグリセロール化できるものと類推できる。この時、脂肪酸に対するエステル化率は95%以上であることからDHAのロスは少なく、反応混液からの未反応遊離脂肪酸の除去も容易となる。しかしながら、その方法ではDHAはトリアシルグリセロールの1,2,3位にランダムに組み込まれてしまう。(後述の比較例2参照)
【0009】
【特許文献1】特許第3544246号公報
【特許文献2】特許第3544247号公報
【特許文献3】特公平4-12920号公報
【非特許文献1】Biosci. Biotech. Biochem., 60, 1293-1298[1996]
【非特許文献2】J. Chromatogr. A 905, 111-118[2001]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、従来の方法では、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物を簡便に製造することはできなかった。そこで、DHA含有脂肪酸混合物とグリセリンから、簡便な反応(一段階の反応)で、DHAのロスが少なく、反応混液からの未反応遊離脂肪酸の除去が容易で、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物(総アシルグリセロールの合計に対するトリアシルグリセロールの比率(重量比)が75%以上)を製造する方法の確立が求められていた。
【0011】
本発明は、酵素を用いてDHA含有脂肪酸混合物を原料としたグリセリンとのエステル化反応(一段階の反応)により、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物を簡便に効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、トリアシルグリセロールの1,3位に特異的または優先的に作用し、かつDHAに対する作用性が低いリパーゼを用いることにより、DHA含有脂肪酸混合物から、1段階の反応により、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物(総アシルグリセロールの合計に対するトリアシルグリセロールの比率(重量比)が75%以上)を製造する技術の開発に成功した。
【0013】
つまり、上記リパーゼの存在下、グリセリンとDHA含有脂肪酸混液(グリセリン:脂肪酸=1:3、モル比)を反応させたとき、まずDHA以外の脂肪酸が優先的にグリセリンの1,3位に結合し、1,3位-ジアシルグリセロールが生成する。この時、未反応の遊離脂肪酸画分にはDHAが濃縮されている。次に、先に1または3位にエステル化されているDHA以外の脂肪酸がアシルグリセロールの2位にアシル基転移し、1,2位-ジアシルグリセロールまたは3,2位-ジアシルグリセロールになる。最後に、アシル基転移後のジアシルグリセロールの1または3位に、遊離脂肪酸画分に濃縮されているDHAが結合する。このように、一つの工程のみで、DHA含有脂肪酸混合物から、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロールを簡便に製造することができる。この時、遊離脂肪酸に対するエステル化率は90%以上であることから、DHAのロスが少なく、また反応混液中の未反応遊離脂肪酸の量が少ないことから、未反応遊離脂肪酸の除去も容易となる。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] リパーゼを用いるエステル化反応により、DHAを含有する脂肪酸混合物とグリセリンとから、DHAが結合したトリアシルグリセロールを含むトリアシルグリセロール混合物を製造する方法であって、該トリアシルグリセロール混合物中のDHAが結合したトリアシルグリセロールにおいて、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物を製造する方法。
[2] リパーゼが、トリアシルグリセロールの1,3位に特異的または優先的に作用し、かつ他の脂肪酸よりもDHAに対する作用性が低いことを特徴とする[1]の方法。
[3](i) リパーゼの作用により、DHAを含有する脂肪酸混合物中のDHA以外の脂肪酸を優先的にグリセリンの1,3位に結合させて1,3ジアシルグリセロールを生成させ、脂肪酸混合物中の遊離のDHA含量を高め、
(ii) DHA以外の脂肪酸をアシル基転移により2位に転移させ、そして
(iii) 脂肪酸混合物中の遊離のDHAを1,3位に結合させる、
ことを含む[2]のトリアシルグリセロール混合物を製造する方法。
[4] 2位よりも1,3位のDHA含有率が高いトリアシルグリセロール混合物において、1,3位のDHAが2位のDHAの2倍以上のモル含有率である、[1]〜[3]のいずれかのトリアシルグリセロール混合物を製造する方法。
[5] 総アシルグリセロールに対するトリアシルグリセロールの重量比率が75%以上であり、混合物中の脂肪酸のエステル化率が80%以上である、[1]〜[4]のいずれかのトリアシルグリセロール混合物を製造する方法。
【0015】
[6] リパーゼが、Rhizomucor属微生物、Rhizopus属微生物およびThermomyces属微生物からなる群から選択される微生物が生産するリパーゼのうち少なくとも一つである、[1]〜[5]のいずれかのトリアシルグリセロール混合物を製造する方法。
[7] リパーゼが、Rhizomucor属微生物が生産するリパーゼである、[6]のトリアシルグリセロール混合物を製造する方法。
[8] 脂肪酸混合物が魚油又は微生物由来の脂肪酸混合物である、[1]〜[7]のいずれかのトリアシルグリセロール混合物を製造する方法。
[9] [1]〜[8]のいずれかの方法により製造された、魚油由来のDHAが結合したトリアシルグリセロールを含むトリアシルグリセロール混合物であって、DHAが結合したトリアシルグリセロールにおいて、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの混合物中における含有率が高いトリアシルグリセロール混合物。
[10] 1,3位のDHAが2位のDHAの2倍以上のモル含有率である、[9]のトリアシルグリセロール混合物。
[11] 総アシルグリセロールに対するトリアシルグリセロールの重量比率が75%以上であり、混合物中の脂肪酸のエステル化率が80%以上である、[9]または[10]のトリアシルグリセロール混合物。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、DHA含有脂肪酸混合物とグリセリンから、リパーゼを用いた簡便な反応(一段階の反応)で、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物を製造する方法を開発した。この時、DHAのロスが少なく、反応混液からの未反応遊離脂肪酸の除去が容易である。本発明の方法により従来得られなかった、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合した魚油又は微生物由来のDHAの含有率が高いトリアシルグリセロールを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明で使用するDHAを含む脂肪酸混合物として、DHAを含む魚由来の油を用いることができる。該魚由来の油はマグロ、カツオ、イワシ、サバ、サンマ、アジ、イカ、タラから得られる魚油がDHAを多く含むため好ましい。魚油の抽出方法としては、マグロ、カツオは頭部、イワシ、サバ、サンマ、アジは全魚体、イカ、タラは肝臓を採取し、これを煮取り抽出、溶剤抽出、圧搾抽出する方法が挙げられる。さらに上記の方法で抽出した魚油を原料とし、これをリパーゼ等を用いて加水分解して脂肪酸混合物として分画したものを本発明のDHAを含む脂肪酸混合物として用いることができる。また、本発明で使用するDHAを含む脂肪酸混合物は、ラビリンチュラ属菌等の海洋性の単細胞藻類等のDHAを産生する微生物から得ることもできる。
【0018】
DHAを含む脂肪酸混合物中には、DHA以外の脂肪酸も含まれ、DHAを含む脂肪酸混合物中の全脂肪酸におけるDHA含量は、限定されないが、10%以上、好ましくは20%以上である。
【0019】
本発明で触媒として使用する酵素は、アシルグリセロール(グリセリドという場合もある)類を基質として認識する酵素であればいずれでもよく、好ましくはトリアシルグリセロールリパーゼ(トリグリセリドリパーゼ)、クチナーゼ、エステラーゼであり、より好ましくはトリアシルグリセロールリパーゼ(以下、リパーゼ)である。
【0020】
リパーゼの位置特異性に関しては、トリアシルグリセロールの1,3位にのみ特異的作用する酵素または2位よりも1,3位に優先的に作用する酵素を用いる。
【0021】
リパーゼの脂肪酸特異性に関しては、DHAに対する作用性が低い酵素を用いる。
酵素の由来は微生物、動物、植物のいずれでもよいが、好ましくはRhizopus属、Rhizomucor属、Mucor属、Aspergillus属、Thermomyces属(以前の名称はHumicola属)、Fusarium属、Penicillium属、Pseudomonas属、Serratia属、Burkholderia属、Alcaligenes属、Staphylococcus属、Bacillus属、Candida属、Geotrichum属、Pseudozyma属等の微生物が生産する酵素や豚膵臓由来の酵素であり、より好ましくはRhizopus属、Rhizomucor属、Mucor属、Aspergillus属、Thermomyces属微生物が生産する酵素であり、さらにより好ましくはRhizomucor mieheiRhizopus oryzae(以前の名称はRhizopus delemar)、Rhizopus niveusThermomyces lanuginosaが生産するリパーゼである。これらの酵素は一般に市販されており、容易に入手可能である。例えば、市販品としてRhizomucor mieheiリパーゼ(Lipozyme RMIM、ノボザイムズ社製)がある。
【0022】
酵素の性状は、粗精製、部分精製、精製のいずれでもよい。また遊離型のまま、あるいはイオン交換樹脂、多孔性樹脂、セラミックス、炭酸カルシウム、セライト等の担体に固定して固定化酵素として使用してもよい。また、遊離型酵素の場合は、グリセリンとの混合を良くするために、シリカゲルやセライトなどの各種添加物を入れて反応させてもよい。
【0023】
反応に使用する酵素の量は、反応温度や時間等により決定されるため特に規定されないが、遊離型の酵素の場合、一般的には反応混液1g当たり1単位(U)〜10,000 U、好ましくは5 U〜1,000 U添加すればよく、適宜設定することができる。ここでの酵素活性の1Uとは、リパーゼの場合はオリーブ油の加水分解において1分間に1μmolの脂肪酸を遊離する酵素量である。固定化酵素を用いる場合は、反応混液の重量に対して固定化した酵素が0.1〜200%、好ましくは1〜20%の重量(担体の重量を含めた重量)になるように添加すればよい。
【0024】
本発明の方法においては、上記のDHAを含有する脂肪酸混合物とグリセリンと混合し、リパーゼを添加してエステル化反応を行わせる。ここで、エステル化反応とは、脂肪酸とグリセリンからアシルグリセロールを生成する反応の他、アシルグリセロール中の脂肪酸を交換するエステル交換反応を含む。
【0025】
反応系に添加するグリセリンと、脂肪酸混合物中の脂肪酸の量の比はいずれでもよいが、通常はグリセリン1モル量に対して添加する脂肪酸の量は、好ましくは0.05〜30モル量、好ましくは1〜9モル量、より好ましくは3倍モル量(トリアシルグリセロールを製造するための理論量)である。
【0026】
脂肪酸混合物中の脂肪酸は、遊離型(遊離脂肪酸)、エステル型のいずれの形状でも構わないが、好ましくは遊離型(遊離脂肪酸)がよい。原料として魚油を用いる場合であって、脂肪酸として遊離型を用いる場合、魚油をリパーゼ等の酵素により加水分解し、エステル型の脂肪酸を遊離型の脂肪酸に変換すればよい。
【0027】
反応は、グリセリンと脂肪酸混合物の混液中に酵素を添加すればよいが、この際水を添加してもよい。反応初期に添加する水の量に限定はなく、また添加しなくてもよいが、好ましくは反応混液の重量に対して0〜50%、より好ましくは0〜10%である。また水は、必要に応じて反応途中で添加してもよい。
【0028】
反応は、静置しながら行ってもよいし、各種の攪拌法・振盪法・超音波法・窒素等の吹き込み法・ポンプ等による循環混合法・弁やピストンを用いる混合法などにより行ってもよい。あるいはこれらの方法の組合せにより、反応液をよく混合しながら反応させてもよい。また、酵素を充填したカラム型リアクター等を用いて反応させてもよい。
【0029】
反応温度と圧力(減圧度)はいずれも、反応容器の形状や大きさ、反応液の容量や混合方法によって異なるものであるが、目的とするトリアシルグリセロール混合物を効率よく生成させるために適した条件に設定すればよい。温度は好ましくは0〜100℃、より好ましくは10〜80℃、さらに好ましくは20〜60℃、特に好ましくは20〜50℃である。圧力は、常圧下でも減圧下でもいずれでもよいが、エステル化に伴って生成する水を除去すると反応効率が高くなることから、反応を減圧下で行う方がよく、好ましくは0.01〜100 mmHg、より好ましくは0.1〜70mmHg、さらに好ましくは1〜40 mmHgである。また減圧する代わりに、モレキュラーシーブなどの脱水剤を用いて、生成する水を除去してもよい。
【0030】
後記の実施例および図1に示すように、本発明の反応において、まずDHA以外の脂肪酸が優先的にグリセリンの1,3位に結合し、1,3-ジアシルグリセロールが生成する。この時、未反応の遊離脂肪酸画分にはDHAが濃縮されている。次に、先に1または3位にエステル化されているDHA以外の脂肪酸がアシルグリセロールの2位にアシル基転移し、1(3),2-ジアシルグリセロールになる。最後に、反応後期にアシル基転移後のジアシルグリセロールの1または3位に、遊離脂肪酸画分に濃縮されているDHAが結合する。従って、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物を製造するためには、反応時間をある程度長くすることが望ましい。反応時間は、酵素の添加量、酵素の比活性、反応温度、圧力、反応液の混合法等によって異なるものであって一概に規定できないが、効率よく目的とするトリアシルグリセロールが製造できる時間、例えば総アシルグリセロールの合計に対するトリアシルグリセロールの重量比率が70%以上製造できる時間に設定すればよい。例えば、脂肪酸混合物に対して固定化Rhizomucor mieheiリパーゼを10 重量%添加して50℃で反応させたとき、反応時間は、10時間以上、好ましくは、24時間以上、さらに好ましくは48時間以上、特に好ましくは72時間以上である。
【0031】
上記のように、本発明の方法においては、DHAを含有する脂肪酸混合物とグリセリンとを混合し、リパーゼを添加して反応を1段階で行わせることができる。ここで、1段階の反応とは、グリセリンとDHAとを含有する脂肪酸混合物にリパーゼを添加し、反応を中断することなく、トリアシルグリセロールを産生する反応をいう。
【0032】
また、リパーゼ反応を用いて未反応遊離脂肪酸画分のDHA含量を高めるという前処理を行ってから、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物を製造することもできる。即ち、DHAを含有する脂肪酸混合物とグリセリンとを混合し、DHAに対する選択性が低いリパーゼを添加して反応させ、反応が完結する前、例えば、脂肪酸に対するエステル化率が60%の時に反応を停止し、未反応の遊離脂肪酸画分を回収する。この遊離脂肪酸画分は、例えばヘキサン抽出や分子蒸留などによって回収することができる。回収された遊離脂肪酸画分は、原料よりもDHA含量が増えている。この遊離脂肪酸画分を用いて、前記と同様な方法によりトリアシルグリセロール混合物を合成すれば、原料の脂肪酸混合物よりもDHA含量が高いトリアシルグリセロール混合物が得られ、かつその中のトリアシルグリセロールは、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いものである。
【0033】
反応混液からのトリアシルグリセロール混合物の精製にはどのような方法を採用してもよく、例えば脱酸、水洗、蒸留、溶媒抽出、イオン交換クロマトグラフィー、膜分離、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等により精製すればよく、また、これらの方法の組合せによって精製してもよい。
【0034】
本発明の方法により、DHAが結合したトリアシルグリセロールを含むトリアシルグリセロール混合物であって、DHAが結合したトリアシルグリセロールにおいて、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物が得られる。ここで、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物とは、アシルグリセロールの混合物であって、トリアシルグリセロールを主に含み、含有するトリアシルグリセロール中に含まれる脂肪酸中DHAが最も多く、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1位または3位に結合したDHAの含有率が高いアシルグリセロールの混合物をいう。すなわち、トリアシルグリセロールの2位に結合している全脂肪酸を足して100%としたときのトリアシルグリセロールの2位に結合しているDHAのモル%よりも、トリアシルグリセロールの1,3位に結合している全脂肪酸を足して100%としたときのトリアシルグリセロールの1,3位に結合しているDHAのモル%の方が大きい。また、トリアシルグリセロールの1,3位には脂肪酸の結合する場所が2カ所存在し、2位にはそれが1カ所のみ存在することから、例えば、1,3位のDHA含有率が2位の2倍の場合は、トリアシルグリセロールの1,3位に結合しているDHAの個数は2位のそれの4倍である。アシルグリセロールとしては、トリアシルグリセロールの他、ジアシルグリセロールおよびモノアシルグリセロールが含まれるが、総アシルグリセロールの合計に対するトリアシルグリセロールの重量比率は、70%以上、好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上である。
【0035】
本発明の方法により得られるトリアシルグリセロール混合物中において、種々のトリアシルグリセロール中で、2位にDHAが結合したトリアシルグリセロールよりも1位または3位にDHAが結合したトリアシルグリセロールのモル含有率が高い。1位または3位にDHAが結合したトリアシルグリセロールとしては、1位のみにDHAが結合したトリアシルグリセロール、3位のみにDHAが結合したトリアシルグリセロール、1位および3位のみにDHAが結合したトリアシルグリセロール、1位、2位および3位にDHAが結合したトリアシルグリセロールが存在し得る。また、2位にDHAが結合したトリアシルグリセロールとしては、2位のみにDHAが結合したトリアシルグリセロール、1位および2位のみにDHAが結合したトリアシルグリセロール、2位および3位のみにDHAが結合したトリアシルグリセロール、1位、2位および3位にDHAが結合したトリアシルグリセロールが存在し得る。本発明の2位よりも1,3位のDHA含有率が高いトリアシルグリセロール混合物は、前記2位にDHAが結合したトリアシルグリセロールよりも前記1位または3位にDHAが結合したトリアシルグリセロールが多く含まれる。
【0036】
本発明の方法により得られるトリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物のトリアシルグリセロール中の2位の脂肪酸および1,3位の脂肪酸を分析した場合、1,3位に結合しているDHAの含量、すなわち1,3位に結合している全脂肪酸を足して100%としたときのDHAのモル%は、2位に結合しているDHAの含量、即ち、2位に結合している全脂肪酸を足して100%としたときのDHAのモル%の約1.5倍以上、好ましくは2倍以上である。さらに、トリアシルグリセロールに結合している脂肪酸のうち、30%以上、好ましくは40%以上がDHAである。
【0037】
また、本発明の方法により得られるトリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物は遊離の脂肪酸を含んでいてもよい。混合物中における脂肪酸のエステル化率は、80%以上、好ましくは90%以上である。ここで、脂肪酸のエステル化率とは、((エステル化した脂肪酸の量)/(反応前の遊離脂肪酸の量))×100で表わされる値である。すなわち、未反応の遊離の脂肪酸の含量は、モル比で20%未満、好ましくは10%未満である。
【0038】
また、上記トリアシルグリセロール混合物から、トリアシルグリセロールを単離することが可能であり、本発明は、上記トリアシルグリセロール混合物から、トリアシルグリセロールを単離して、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロールを製造する方法、及び単離されたトリアシルグリセロールであって、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロールを包含する。
【0039】
本発明の方法により得られるトリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物は、医薬として、または食品として用いることができ、本発明のトリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物を含む医薬組成物および食品もしくは飲料組成物を得ることができる。これらの組成物は、ヒトにおいて血液の粘度を下げて流動性を高め、血小板が凝集して血栓ができるのを防いだり、血液中の中性脂肪や悪玉コレステロールを減らして善玉コレステロールを防ぐなどの機能を有し、動脈硬化、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、脳卒中、血栓性高脂血症、高血圧、免疫性疾患といった病気の予防、改善効果が期待できる。
【0040】
食品および飲料は健康食品、特定保健用食品、栄養機能食品、栄養補助食品、サプリメント等を含む。ここで、特定保健用食品とは、食生活において特定の保健の目的で摂取をし、その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をする食品をいう。これらの食品および飲料品には、血液の粘度を下げるために用いられるものである旨の表示や血液中の中性脂肪や悪玉コレステロールを減らすために用いられるものである旨の表示が付されていてもよい。
【実施例】
【0041】
[比較例1]
マグロ油およびアザラシ油のトリアシルグリセロールの2位および1,3位の脂肪酸組成を調べた。
マグロ油(DHA-22、マルハ(株)製)、およびマグロ油(DHA-22、マルハ(株)製)をリパーゼで選択的加水分解反応した高濃度品(DHA-46、マルハ(株)製;DHA-70、マルハ(株)製)からシリカゲルカラムクロマトグラフィーによりトリアシルグリセロールを精製後、Lipids, 38, 1281-1286 (2003)の方法にしたがってトリアシルグリセロールの2位の脂肪酸組成を測定した。また、この値とトリアシルグリセロールの全脂肪酸組成から1,3位の脂肪酸組成を算出した。トリアシルグリセロールに精製したそれぞれのマグロ油はTAG-DHA22、TAG-DHA46、TAG-DHA70と称し、分析結果を表1に示す。また、Biosci. Biotech. Biochem., 60, 1293-1298 (1996)に記載されているアザラシ油の2位および1,3位の脂肪酸組成も表1に記載した。
【0042】
【表1】

【0043】
表1より、DHAに関し、マグロ油(TAG-DHA22)およびマグロ油の高濃度品(TAG-DHA46とTAG-DHA70)では、2位に結合している含量が1,3位よりも高いことがわかる。アザラシ油はマグロ油とは逆で、1,3位に結合している含量が圧倒的に高いことがわかる。
【0044】
[比較例2]
マグロ油から、DHA-46およびDHA-70の各高濃度品を製造する際に副生するDHAを含む脂肪酸混液2種類(FFA-DHA22およびFFA-DHA46)を得た。脂肪酸組成を以下の表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
FFA-DHA46を原料とし、Candidaant arcticaリパーゼによるトリアシルグリセロール混合物の合成を行った。即ち、27.36 g のFFA-DHA46、2.64 gのグリセリン(脂肪酸:グリセリン=3:1,モル比)、および1.5 gの固定化Candida antarcticaリパーゼ(Novozyme435、ノボザイムズ社) からなる反応混液を40℃、15 mm Hgで攪拌しながら49時間反応させた。反応後、油層を回収した。基準油脂分析法(日本油化学会編)に従い、0.2 M KOHで滴定することにより油層の酸価(遊離脂肪酸含量を表す数値)を測定し、脂肪酸に対するエステル化率、((反応前の酸価―反応後の酸価)/反応前の酸価)X100を求めた。また、油層のアシルグリセロール組成を、TLC-FID法(イアトロスキャンMK-6、三菱化学ヤトロン製)により求めた。その結果、脂肪酸に対するエステル化率は98.6%で、アシルグリセロール画分の組成は、トリアシルグリセロールが93.2 wt%、ジアシルグリセロールが6.8 wt%、モノアシルグリセロールが検出限界(0.5 wt%)以下であった。
【0047】
上記方法によりアシルグリセロールを合成した試料から、比較例1と同様な方法でトリアシルグリセロールの2位および1,3位の脂肪酸組成を測定した。結果を表3に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
以上の結果から、Candida antarcticaリパーゼによるFFA-DHA46のアシルグリセロール化において、DHAはトリアシルグリセロールの1,2,3位にほぼ均等(ランダム)に組み込まれることがわかった。
【0050】
[実施例1]
Rhizomucor mieheiリパーゼを用いたFFA-DHA46からの2位よりも1,3位のDHA含有率が高いトリアシルグリセロール混合物の製造を行った。即ち、18.2 g のFFA-DHA46(比較例2の表2参照)、1.8 gのグリセリン(脂肪酸:グリセリン=3:1, モル比)、および1 gの固定化Rhizomucor mieheiリパーゼ(Lipozyme RMIM、ノボザイムズ社製)からなる反応混液を50℃、20 mm Hgで攪拌しながら72時間反応させた。その結果、脂肪酸に対するエステル化率は95.9%で、アシルグリセロール画分の組成は、トリアシルグリセロールが88.3 wt%、ジアシルグリセロールが11.7 wt%、モノアシルグリセロールが検出限界以下であった。
【0051】
次に、比較例1と同様な方法でトリアシルグリセロールの2位および1,3位の脂肪酸組成を測定した。結果を表4に示す。
【0052】
【表4】

【0053】
表4から、Rhizomucor mieheiリパーゼで合成したトリアシルグリセロールはトリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いことがわかった。即ち、トリアシルグリセロールの2位に結合している全脂肪酸を足して100%としたときのトリアシルグリセロールの2位に結合しているDHAのモル%よりも、トリアシルグリセロールの1,3位に結合している全脂肪酸を足して100%としたときのトリアシルグリセロールの1,3位に結合しているDHAのモル%の方が大きい。これは、2位にDHAを多く含む天然由来のマグロ油(TAG-DHA22)および酵素法でマグロ油を高濃度化させた油(TAG-DHA46とTAG-DHA70)とは異なり、1,3位にDHAを多く含むアザラシ油の事実と似ていた(比較例1の表1参照)。したがって、FFA-DHA46から、酵素法による1回の反応だけでアザラシ油とよく似た、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高い油を合成できることがわかった。
【0054】
次に、本酵素反応における油層の脂質組成、アシルグリセロール画分の脂肪酸組成、および未反応の遊離脂肪酸画分の脂肪酸組成の経時変化を表5、6および7に示す。
【0055】
【表5】

【0056】
【表6】

【0057】
【表7】

【0058】
Rhizomucor mieheiリパーゼはトリアシルグリセロールの1,3位に特異的に作用するリパーゼである。したがって、表5から、Rhizomucor mieheiリパーゼを用いたアシルグリセロール化では、グリセリンの1,3位がエステル化されるため、反応初期では反応系内に1,3ジアシルグリセロールが蓄積する。その後、アシル基転移により1,3位に結合している脂肪酸のうちの一つが2位に転移し、1(3),2ジアシルグリセロールが生成する。最後に、このジアシルグリセロールの1または3位のOH基に脂肪酸が結合し、トリアシルグリセロールへと変換される。この時、アシル基転移の速度は遅く、生成した1(3),2-ジアシルグリセロールはすぐにトリアシルグリセロールに変換されるため、反応系内に1(3),2-ジアシルグリセロールはあまり蓄積していない。
【0059】
一方、Rhizomucor mieheiリパーゼはDHAに対する作用性が低い。したがって、表6,7より、反応初期のアシルグリセロール画分では、DHA以外の脂肪酸(C16:0、C16:1、C18:0、C18:1など)の含量が原料よりも高くなり、DHA含量が原料よりも低くなる。その反面、未反応の遊離脂肪酸画分では、DHA含量が原料よりも高くなる。
【0060】
以上の結果から、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロールの生成機構は次のようになる(図1)。まずDHA以外の脂肪酸が優先的にグリセリンの1,3位に結合し、1,3-ジアシルグリセロールが生成する。この時、未反応の遊離脂肪酸画分にはDHAが濃縮されている。次に、先に1または3位にエステル化されているDHA以外の脂肪酸がアシルグリセロールの2位にアシル基転移し、1(3),2-ジアシルグリセロールになる。最後に、アシル基転移後のジアシルグリセロールの1または3位に、遊離脂肪酸画分に濃縮されているDHAが結合する。この反応ではDHAに作用しにくいリパーゼを用いているが、これはDHAに全く作用しないのではなく、作用する速度が遅いだけであるから、反応後期で1,3位にDHAが入るのである。
【0061】
このように、トリアシルグリセロールの1,3位に特異的または優先的に作用し、かつDHAに対する作用性が低いリパーゼを用いることにより、DHA含有脂肪酸混合物とグリセリンから、簡便な反応(一段階の反応)で、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物(総アシルグリセロールの合計に対するトリアシルグリセロールの比率が88%)を合成することが可能となる。しかも、実施例1の反応では72時間後のエステル化率は95.9%であることから、DHAのロスが少なく、また反応混液中の未反応遊離脂肪酸の量が少ないことから、これの除去が容易となる。
【0062】
[実施例2]
Rhizomucor mieheiリパーゼを用いたFFA-DHA22からのトリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物の製造を行った。即ち、27.2 g のFFA-DHA22、2.8 gのグリセリン(脂肪酸:グリセリン=3:1, モル比)、および1.5 gの固定化Rhizomucor mieheiリパーゼからなる反応混液を50℃、20 mm Hgで攪拌しながら96時間反応させた。その結果、脂肪酸に対するエステル化率は96.4%で、アシルグリセロール画分の脂質組成は、トリアシルグリセロールが91.4 wt%、1,3-ジアシルグリセロールが5.9 wt%、1(3),2-ジアシルグリセロールが検出限界以下、モノアシルグリセロールが2.7 wt%であった。
【0063】
試料の油層からトリアシルグリセロールを精製後、比較例1と同様な方法でトリアシルグリセロールの2位および1,3位の脂肪酸組成を測定した。結果を表8に示す。
【0064】
【表8】

【0065】
本発明より、FFA-DHA22を用いてもトリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物(総アシルグリセロールの合計に対するトリアシルグリセロールの比率が91%)を合成できることがわかった。
【0066】
[実施例3]
FFA-DHA46を原料とし、Rhizomucor mieheiリパーゼを用いて、FFA-DHA46よりもDHA濃度が高く、かつトリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いアシルグリセロールの製造を行った。本実施例では、DHAの濃縮を行う前処理を施すことにより、原料よりもDHA含量の高い脂肪酸混合物を調製してから、実施例1,2と同様な方法で、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物を製造する。
【0067】
即ち、18.2 g のFFA-DHA46、1.8 gのグリセリン(脂肪酸:グリセリン=3:1, モル比)、および1 gの固定化Rhizomucor mieheiリパーゼからなる反応混液を50℃で攪拌しながら減圧下で反応させた。脂肪酸に対するエステル化率が69%に達した7.5時間後に油層を回収後、定法に従いヘキサン抽出により未反応の遊離脂肪酸画分を回収した。この操作を4回繰り返し、これらの遊離脂肪酸画分を混合し、80.8 wt%のDHAを含む画分20.8 gを得た。
【0068】
次に、このFFA-DHA46よりもDHA含量が高い脂肪酸混合物を用いて、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物を合成した。18 g の上記遊離脂肪酸画分、1.56 gのグリセリン(脂肪酸:グリセリン=3:1, モル比)、および2 gの固定化Rhizomucor mieheiリパーゼからなる反応混液を50℃で攪拌しながら減圧下で96時間反応させた。その結果、脂肪酸に対するエステル化率は96.4%で、油層中のアシルグリセロール画分の脂質組成は、トリアシルグリセロールが83.8 wt%、1,3-ジアシルグリセロールが13.4 wt%、1(3),2-ジアシルグリセロールが検出限界以下、モノアシルグリセロールが2.8 wt%であった。このアシルグリセロール画分の脂肪酸組成を測定したところ、C16:0, 2.9 wt%; C16:1, 0.8 wt%; C18:0, 0.8 wt%; C18:1, 3.7 wt%; C20:1, 0.7 wt%; C20:4, 1.9 wt%; C20:5, 3.1 wt%; C22:5, 0.9 wt%; DHA, 76.4 wt%であった。
【0069】
最後に、比較例1と同様な方法でトリアシルグリセロールの2位および1,3位の脂肪酸組成を測定した。結果を表9に示す。
【0070】
【表9】

【0071】
このように、FFA-DHA46から、固定化Rhizomucor mieheiリパーゼを用いた反応により、DHA含量が非常に高く(76.4 wt%)、かつトリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシグリセロール混合物を合成できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の方法における、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロールの生成機構を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リパーゼを用いるエステル化反応により、DHAを含有する脂肪酸混合物とグリセリンとから、DHAが結合したトリアシルグリセロールを含むトリアシルグリセロール混合物を製造する方法であって、該トリアシルグリセロール混合物中のDHAが結合したトリアシルグリセロールにおいて、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの含有率が高いトリアシルグリセロール混合物を製造する方法。
【請求項2】
リパーゼが、トリアシルグリセロールの1,3位に特異的または優先的に作用し、かつ他の脂肪酸よりもDHAに対する作用性が低いことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(i) リパーゼの作用により、DHAを含有する脂肪酸混合物中のDHA以外の脂肪酸を優先的にグリセリンの1,3位に結合させて1,3ジアシルグリセロールを生成させ、脂肪酸混合物中の遊離のDHA含量を高め、
(ii) DHA以外の脂肪酸をアシル基転移により2位に転移させ、そして
(iii) 脂肪酸混合物中の遊離のDHAを1,3位に結合させる、
ことを含む、請求項2に記載のトリアシルグリセロール混合物を製造する方法。
【請求項4】
2位よりも1,3位のDHA含有率が高いトリアシルグリセロール混合物において、1,3位のDHAが2位のDHAの2倍以上のモル含有率である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のトリアシルグリセロール混合物を製造する方法。
【請求項5】
総アシルグリセロールに対するトリアシルグリセロールの重量比率が75%以上であり、混合物中の脂肪酸のエステル化率が80%以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のトリアシルグリセロール混合物を製造する方法。
【請求項6】
リパーゼが、Rhizomucor属微生物、Rhizopus属微生物およびThermomyces属微生物からなる群から選択される微生物が生産するリパーゼのうち少なくとも一つである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のトリアシルグリセロール混合物を製造する方法。
【請求項7】
リパーゼが、Rhizomucor属微生物が生産するリパーゼである、請求項6記載のトリアシルグリセロール混合物を製造する方法。
【請求項8】
脂肪酸混合物が魚油又は微生物由来の脂肪酸混合物である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のトリアシルグリセロール混合物を製造する方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法により製造された、魚油又は微生物由来のDHAが結合したトリアシルグリセロールを含むトリアシルグリセロール混合物であって、DHAが結合したトリアシルグリセロールにおいて、トリアシルグリセロールの2位に結合したDHAよりもトリアシルグリセロールの1,3位に結合したDHAの混合物中における含有率が高いトリアシルグリセロール混合物。
【請求項10】
1,3位のDHAが2位のDHAの2倍以上のモル含有率である、請求項9記載のトリアシルグリセロール混合物。
【請求項11】
総アシルグリセロールに対するトリアシルグリセロールの重量比率が75%以上であり、混合物中の脂肪酸のエステル化率が80%以上である、請求項9または10に記載のトリアシルグリセロール混合物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−278781(P2008−278781A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124789(P2007−124789)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(591030499)大阪市 (64)
【出願人】(000003274)株式会社マルハニチロ水産 (13)
【Fターム(参考)】