説明

2種のヘプタマー型スモールガイド核酸を含む組成物

【課題】従来のヘプタマー型スモールガイド核酸の利点と12〜16-nt直鎖型スモールガイド核酸の利点とを併せもったTRUEジーンサイレンシングのための新しい手段を提供する。
【解決手段】標的RNA-1の連続する14塩基の5’側7塩基と相補的な7塩基長からなるヘプタマー型スモールガイド核酸1と、前記14塩基の3’側7塩基相補的な7塩基長からなるヘプタマー型スモールガイド核酸2とを含み、細胞内においてtRNase ZLの作用により標的RNA-1を切断することによってこの標的RNA1を転写する遺伝子の活性を低下または消滅させるための組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、7塩基からなるヘプタマー型スモールガイド核酸の2種類の組合わせからなり、この2種類のヘプタマー型スモールガイド核酸が標的として切断するRNAを転写する遺伝子発現を効果的に抑制または消失させることによって、その遺伝子発現等を原因とする疾患の治療または予防に有効な組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明の発明者らは、TRUEジーンサイレンシング(tRNase ZL-utilizing efficacious gene silencing)と名付けた新しい遺伝子発現抑制技術を開発している(特許文献1、非特許文献1−4)。tRNase ZLは、tRNAの3’をプロセシングするエンドリボヌクレアーゼ(tRNase Zまたは3’tRNase)の分子量の大きい種類の酵素であり、前駆体tRNAの3’末端部を切除する(特許文献1、非特許文献5、6)。このTRUEジーンサイレンシングは、標的RNAと合成スモールガイド核酸とによって形成されるpre-tRNA様またはマイクロpre-tRNA様複合体を認識することによって、いかなるRNAの任意箇所をも切断することができるという哺乳動物tRNase ZLのユニークな酵素的特性に基づいている(非特許文献7−13)。スモールガイド核酸(特にスモールガイドRNA)は、以下の4種:5’-half tRNA(非特許文献8)、〜12-16-nt直鎖RNA(非特許文献13)、ヘプタマー型RNA(非特許文献9)およびフック型RNA(非特許文献12)に分けられる(図1A)。
【0003】
発明者らは、様々なmRNAを標的とするスモールガイド核酸(以下、sg核酸と記載することがある)を、その発現プラスミドまたは2’-O-methyl RNAsを導入することによって、様々な哺乳動物細胞におけるTRUEジーンサイレンシングの有効性を実証している(非特許文献1−4)。例えば、Jurkat細胞におけるHIV-1発現は、5’-half tRNA型sgRNAによって18日間以上抑制され(非特許文献2)、マウス肝臓におけるルシフェラーゼ発現はヘプタマー型sg核酸によって抑制された(非特許文献3)。さらに、TRUEジーンサイレンシングの効果は、RNA干渉(RNA interference: RNAi)と同等であり(非特許文献3、14)、幾つかの場合ではRNAiの効果を凌ぐことも確認されている(非特許文献4)。
【0004】
また最近、発明者らは、tRNase ZLが核内だけでなくサイトゾルにも存在すること、そしてsg核酸として使用していたのと同一の5’-half tRNAが細胞質に存在することを見出している(非特許文献15)。また、発明者らは、ヒトサイトゾルtRNase ZLが、5’-half tRNAの指揮のもとでmRNAを切断することによって遺伝子発現を調節すること、そしてPPM1F mRNAがtRNase ZLの真の標的の一つであることを見出している(非特許文献15)。さらにまた、発明者らは、miR-103を含むマイクロRNAの一部がフック型sg核酸として働き、サイトゾルtRNase ZLによるmRNA切断を介して遺伝子発現を下方調節しえることを証明している(非特許文献16)。以上のことから、TRUEジーンサイレンシングは、細胞内の小さな非コードRNAによって作動されるサイトゾルtRNase ZLの新たに解明された生理学的役割を基礎として機能していることは明らかである。
【0005】
TRUEジーンサイレンシングの最終的な目的の一つは、特定遺伝子の発現を原因とする疾患治療剤または予防剤としてのsg核酸の使用である。例えば、発明者らは既に、ガン治療の分子標的として有望視されているBcl-2およびVEGFをコードする細胞内mRNAレベルが、5’-half tRNA型sg核酸、14-nt直鎖型sg核酸またはヘプタマー型sg核酸によって発現抑制されることを見出している(非特許文献1、4、17)。
【0006】
sg核酸を薬剤成分とする場合、薬理学的な視点からは、ヘプタマー型sg核酸が最も好ましい。何故ならば、ヘプタマー(7塩基核酸)は長鎖のsg核酸よりも遙かに簡便かつ安価に合成することができる。また、ヘプタマー型sg核酸は、刺激剤(トランスフェクション試薬等)を用いることなく容易に細胞内に取込ませることができる(非特許文献18)。
【特許文献1】特許第3660718号公報
【非特許文献1】Tamura,M., Nashimoto,C., Miyake,N., Daikuhara,Y., Ochi,K. and Nashimoto,M.(2003) Intracellular mRNA cleavage by 3′ tRNase under the direction of 2′-O-methylRNA heptamers. Nucleic Acids Res., 31, 4354-4360.
【非特許文献2】Habu,Y., Miyano-Kurosaki,N., Kitano,M., Endo,Y., Yukita,M., Ohira,S., Takaku,H., Nashimoto,M. and Takaku,H. (2005) Inhibition of HIV-1 gene expression by retroviral vector-mediated small-guide RNAs that direct specific RNA cleavage by tRNase ZL. Nucleic Acids Res., 33, 235-243.
【非特許文献3】Nakashima,A., Takaku,H., Shibata,H.S., Negishi,Y., Takagi,M., Tamura,M. and Nashimoto,M. (2007) Gene-silencing by the tRNA maturase tRNase ZL under the direction of small guide RNA. Gene Therapy, 14, 78-85.
【非特許文献4】Elbarbary,R.A., Takaku,H., Tamura,M. and Nashimoto,M. (2009) Inhibition of vascular endothelial growth factor expression by TRUE gene silencing. Biochem.and Biophys. Res. Commun., 379, 924-927.
【非特許文献5】Nashimoto,M. (1997) Distribution of both lengths and 5′ terminal nucleotides of mammalian pre-tRNA 3′ trailers reflects properties of 3′ processing endoribonuclease. Nucleic Acids Res., 25, 1148-1155.
【非特許文献6】Takaku,H., Minagawa,A., Masamichi,T. and Nashimoto,M. (2003) A candidateprostate cancer susceptibility gene encodes tRNA 3′ processing endoriobonuclease. Nucleic Acids Res., 31, 2272-2278.
【非特許文献7】Nashimoto,M. (1995) Conversion of mammalian tRNA 3′ processing endoribonuclease to four-base-recognizing RNA cutters. Nucleic Acids Res., 23, 3642-3647.
【非特許文献8】Nashimoto,M. (1996) Specific cleavage of target RNAs from HIV-1 with 5′ half tRNA by mammalian tRNA 3′ processing endoribonuclease. RNA, 2, 2523-2524.
【非特許文献9】Nashimoto,M., Geary,S., Tamura,M. and Kasper,R. (1998) RNA heptamers that directs RNA cleavage by mammalian tRNA 3′ processing endoribonuclease. Nucleic Acids Res., 26, 2565-2571.
【非特許文献10】Nashimoto,M. (2000) Anomalous RNA substrates for mammalian tRNA 3′processing endoribonuclease. FEBS Letters, 472, 179-186.
【非特許文献11】Takaku,H., Minagawa,A., Takagi,M. and Nashimoto,M. (2004) The N-terminal half-domain of the long form of tRNase Z is required for the RNase 65 activity. Nucleic Acids Res., 32, 4429-4438.
【非特許文献12】Takaku,H., Minagawa,A., Takagi,M. and Nashimoto,M. (2004) A novel four-base-recognizing RNA cutter that can remove the single 3′ terminal nucleotides from RNA molecules. Nucleic Acids Res., 32, e91.
【非特許文献13】Shibata,H.S., Takaku,H., Takagi,M. and Nashimoto,M. (2005) The T loop structure is dispensable for substrate recognition by tRNase ZL. J. Biol. Chem., 280, 22326-22334.
【非特許文献14】Appasani,K. (2005) RNA interference technology: from basic science to drug development. Cambridge University Press, Cambridge.
【非特許文献15】Elbarbary,R.A., Takaku,H., Uchiumi,N., Tamiya,H., Abe,M., Takahashi,M., Nishida,H. and Nashimoto,M. (2009) Modulation of gene expression by human cytosolic tRNase ZL through 5′-half-tRNA. PLoS ONE, 4, e5908.
【非特許文献16】Elbarbary,R.A., Takaku,H., Uchiumi,N., Tamiya,H., Abe,M., Nishida,H. and Nashimoto,M. (2009) Human cytosolic tRNase ZL can downregulate gene expression through miRNA. FEBS Lett., 583, 3241-3246.
【非特許文献17】Hu,W. and Kavanagh,J.J. (2003) Anticancer therapy targeting the apoptotic pathway. Lancet Oncol., 4, 721-729.
【非特許文献18】Loke,S.L., Stein,C.A., Zhang X.H., Mori,K., Nakanishi,M., Subasinghe,C., Cohen,J.S. and Neckers,L.M. (1989) Characterization of oligonucleotide transport into living cells. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86, 3474-3478.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ヘプタマー型sg核酸は、塩基対合を介して標的RNAとtRNAアクセプターステム様二重鎖を形成することによって、tRNase ZLによる標的RNAの特異的切断を可能とする(非特許文献9)。この時、ヘプタマー型sg核酸の標的部位は、tRNA T-armに類似する安定したヘアピン構造領域の直下に限定される(非特許文献13)。従って、ヘプタマー型sg核酸はその7塩基だけでなく、安定したヘアピン構造を形成する約12塩基の特異性によって効果的にRNAを切断する。しかしながら、実際には、生細胞内でのmRNAの折畳み状態を正確に予測することはできないため、適切な標的部位を選択することは容易ではない。
【0008】
一方、例えば12〜16塩基対の直鎖型sg核酸(図1A参照)は、mRNAのヘアピン構造に依存することなく、あらゆる配列を標的部位として選択することができる。しかしながら、前記のとおり12〜16-nt直鎖型sg核酸は製造工程の複雑化や製造コストの増加という点において必ずしも好ましいものではなく、また単独で細胞内に取込ませることが困難であるという問題を有している。
【0009】
本願発明は、ヘプタマー型sg核酸の利点(簡便かつ安価に製造可能であること、細胞内への取込みが容易であること)と、12〜16-nt直鎖型sg核酸の利点(細胞内でのmRNAの折畳み構造に依存することなく、その標的部位を選択すること)とを併せもったTRUEジーンサイレンシングのための(そして、疾患治療または予防のための)新しい手段を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記の課題を解決するものとして、以下の発明を提供する。
(1)標的RNA-1の連続する14塩基の5’側7塩基と相補的な7塩基長からなるヘプタマー型スモールガイド核酸1と、前記14塩基の3’側7塩基相補的な7塩基長からなるヘプタマー型スモールガイド核酸2とを含み、細胞内においてtRNase ZLの作用により標的RNA-1を切断することによってこの標的RNA1を転写する遺伝子の活性を低下または消滅させるための組成物。
(2)ヘプタマー型スモールガイド核酸1が標的RNA-2の連続する7塩基と相補的な7塩基長からなり、標的RNA-1とともに標的RNA-2を切断する前記(1)の組成物。
(3)ヘプタマー型スモールガイド核酸2が標的RNA-3の連続する7塩基と相補的な7塩基長からなり、標的RNA-1とともに標的RNA-3を切断する前記(1)の組成物。
(4)ヘプタマー型スモールガイド核酸1が標的RNA-2の連続する7塩基と相補的な7塩基長からなり、ヘプタマー型スモールガイド核酸2が標的RNA-3の連続する7塩基と相補的な7塩基長からなり、標的RNA-1とともに標的RNA-2および標的RNA-3を切断する前記(1)の組成物。
(5)標的RNA1が疾患Aに関連する遺伝子から転写されたRNAである前記(1)の組成物。
(6)標的RNA2が疾患Bに関連する遺伝子から転写されたRNAである前記(2)の組成物。
(7)標的RNA3が疾患Cに関連する遺伝子から転写されたRNAである前記(3)の組成物。
(8)標的RNA2が疾患Bに関連する遺伝子から転写されたRNAであり、標的RNA3が疾患Cに関連する遺伝子から転写されたRNAである前記(4)の組成物。
(9)それぞれ疾患に関連する遺伝子がガンの発症に関連する遺伝子である前記(5)から(8)のいずれかの組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明(1)の組成物は、標的RNA-1の連続する14塩基の5’側7塩基の少なくとも5塩基と相補的な塩基配列を含む7塩基のヘプタマー型sg核酸1と、前記14塩基の3’側7塩基の少なくとも5塩基と相補的な塩基配列を含むヘプタマー型sg核酸2とを含む。sg核酸1とsg核酸2は、従来の14-nt直鎖RNA型sg核酸と同様に、標的RNA-1の連続する14塩基にそれぞれアニールする結果、細胞内tRNase ZLの作用により標的RNA-1の所定箇所が切断される。sg核酸1とsg核酸2は共にヘプタマー型(7塩基対)であることから、14-nt直鎖RNA型sg核酸と比較して合成は容易かつ安価であり、しかも刺激剤等を用いることなく細胞へ容易に導入することができる。また、ヘプタマー型sg核酸を単独で使用する従来方法のように、その構造が予測困難なRNAのヘアピン構造の直下部位を標的部位として選択する必要はない。
【0012】
本発明(2)の促成物は、ヘプタマー型sg核酸1が別の標的RNA-2ともアニールするように設計されており、ヘプタマー型sg核酸1とsg核酸1との組合せで標的RNA-1を切断するとともに、sg核酸1単独で標的RNA-2を切断することができる。
【0013】
本発明(3)の組成物は、ヘプタマー型sg核酸2がさらに別の標的RNA-3ともアニールするように設計されており、ヘプタマー型sg核酸1とsg核酸2との組合せで標的RNA-1を切断するとともに、sg核酸2単独で標的RNA-3を切断することができる。
【0014】
本発明(4)の組成物は、ヘプタマー型sg核酸1が標的RNA-2ともアニールし、またヘプタマー型sg核酸2が標的RNA-3ともアニールするようにそれぞれ設計されており、ヘプタマー型sg核酸1とsg核酸2との組合せで標的RNA-1を切断し、sg核酸1単独で標的RNA-2を、またsg核酸2単独で標的RNA-3を切断することができる。
【0015】
本発明(5)から(9)の組成物は、例えばガン等の疾患A、Bおよび/またはCに関連する遺伝子転写産物RNAを切断することによって、それぞれの疾患の治療または予防に供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】Aは4種類のスモールガイド核酸(左から2、4、5、6番目)の例。各塩基配列のうち、5’-NNNN-3’の領域がsg核酸。Bは実施例1で用いた標的RNA、TR(Bcl-2)の塩基配列。大文字はヒトBcl-2由来の配列、小文字はベクター由来の配列。
【図2】A-Cは標的TR(Bcl-2)とスモールガイド核酸とのRNA複合体の2次構造。D-Fは標的TR(Bcl-2)およびその切断片の電気泳動像。
【図3】Aは実施例2で例示した方法の模式図。Bは各標的RNAとヘプタマー型スモールガイド核酸とのRNA複合体の2次構造。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明(1)の組成物は、標的RNA-1の連続する14塩基の5’側7塩基と相補的な7塩基長からなる一本鎖RNAであるヘプタマー型sg核酸1と、前記14塩基の3’側7塩基相補的な7塩基長からなる一本鎖RNAであるヘプタマー型sg核酸2とを含む。
【0018】
標的RNA-1は、その発現を抑制または消失させる対象となる遺伝子(標的遺伝子)の転写産物RNA、特にmRNAである。標的遺伝子の発現抑制とは、その遺伝子から転写合成されるタンパク質量が、25%以下、好ましくは50%以下、さらに好ましくは75%以下、特に好ましくは95%以下に低減することである。標的遺伝子は、その発現抑制または発現消失が産業上の利用価値を有する遺伝子であり、とくにその遺伝子の発現亢進が特定の疾患の原因となるような遺伝子(以下、病原遺伝子と記載することがある)。そのような病原遺伝子の例としては、例えば、ras、erbb2、myc、apc;brca1、rb、Bcl-2、BGEF癌遺伝子、レニンなどの高血圧に関与する遺伝子、インスリンなどの糖尿病関連遺伝子、LDLレセプターなどの高脂血症関連遺伝子、レプチンなどの肥満関連遺伝子、アンギオテンシンなどの動脈硬化疾患関連遺伝子、痴呆の原因として知られているアポリポタンパク質およびプレセリニン、老化に関連する遺伝子などが例示される。これらの遺伝子およびそのmRNA配列は公知のデータベース(NCBIヌクレオチドデータベース等)において公知である。
【0019】
ヘプタマー型sg核酸の塩基配列は、これらの遺伝子のmRNA配列情報から決定することができる。すなわち、従来の14塩基対の直鎖状sg核酸と同様に、本発明のヘプタマー型sg核酸の一対は、そのmRNA配列情報からあらゆる配列を標的部位として配列設計することができる。特に、自己アニーリングをせずに連続14塩基の直鎖状として露出する領域を選択し、この14塩基対の5’側7塩基に相補的な核酸配列としてヘプタマー型sg核酸1を決定し、その3’側7塩基に相補的な核酸配列としてヘプタマー型sg核酸2を決定する。ただし、自己アニーリングしない部位である必要は必ずしもない。
【0020】
配列を決定したヘプタマー型sg核酸は、公知の化学合成を用いる方法、あるいは酵素的転写法等にて製造することができる。公知の化学合成を用いる方法として、ホスホロアミダイト法、ホスフォロチオエート法、ホスホトリエステル法等をあげることができ、例えば、ABI3900ハイスループット核酸合成機(アプライドバイオシステムズ社製)やNTS H-6核酸合成機(日本テクノサービス社製)、Oligoilot10核酸合成機(GEヘルスケア製)により合成することができる。酵素的転写法としては、目的の塩基配列を有するプラスミドまたはDNAを鋳型として、T7、T3、SP6RNAポリメラーゼ等のRNAポリメラーゼを用いた転写をあげることができる。合成法または転写法により製造したヘプタマー型sg核酸は、次いでHPLC等にて精製する。例えばHPLC精製時には、triethylammonium acetate (TEAA)またはhexylammonium acetate(HAA)とacetonitrileの混合溶液を用いて、ヘプタマー型sg核酸をカラムから溶出する。その後、溶出体積の1000倍量の蒸留水で溶出溶液を10時間透析し、透析溶液を凍結乾燥した後、使用時まで冷凍保存する。使用時には蒸留水で最終濃度が100 μM程度になるように溶解する。
【0021】
本発明のヘプタマー型sg核酸に用いられる核酸としては、ヌクレオチドまたはそのヌクレオチドと同等の機能を有する分子が重合した分子であればいかなるものでもよい。ヌクレオチドとしては、例えばリボヌクレオチドの重合体であるRNA、デオキシリボヌクレオチドの重合体であるDNA、RNAおよびDNAが混合した重合体、ヌクレオチド類似体を含むヌクレオチド重合体が、それぞれあげられる。特にRNAが好ましい。
【0022】
ヌクレオチド類似体としては、例えばRNAまたはDNAと比較して、ヌクレアーゼ耐性の向上または安定化させるため、相補鎖核酸とのアフィニティーをあげるため、細胞透過性をあげるため、あるいは可視化させるために、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、RNAまたはDNAに修飾を施した分子を挙げるこことができる。例えば、糖部修飾ヌクレオチド類似体やリン酸ジエステル結合修飾ヌクレオチド類似体等があげられる。
【0023】
糖部修飾ヌクレオチド類似体とは、ヌクレオチドの糖の化学構造の一部あるいは全てに対し、任意の化学構造物質を付加あるいは置換したものであればいかなるものでもよく、例えば、2’−O−メチルリボースで置換されたヌクレオチド類似体、2’−O−プロピルリボースで置換されたヌクレオチド類似体、2’−メトキシエトキシリボースで置換されたヌクレオチド類似体、2’−O−メトキシエチルリボースで置換されたヌクレオチド類似体、2’−O−[2−(グアニジウム)エチル]リボースで置換されたヌクレオチド類似体、2’−O−フルオロリボースで置換されたヌクレオチド類似体、糖部に架橋構造を導入することにより2つの環状構造を有する架橋構造型人工核酸(Bridged Nucleic Acid)(BNA)、より具体的には、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子がメチレンを介して架橋したロックト人工核酸(Locked Nucleic Acid:LNA)、エチレン架橋構造型人工核酸(Ethylene bridged nucleic acid:ENA)[Nucleic Acid Research, 32, e175 (2004)]等があげられ、さらにペプチド核酸(PNA)[Acc. Chem. Res., 32, 624 (1999)]、オキシペプチド核酸(OPNA)[J. Am. Chem. Soc., 123, 4653 (2001)]、およびペプチドリボ核酸(PRNA)[J. Am. Chem. Soc., 122, 6900 (2000)]等をあげることができる。
【0024】
リン酸ジエステル結合修飾ヌクレオチド類似体としては、ヌクレオチドのリン酸ジエステル結合の化学構造の一部あるいは全てに対し、任意の化学物質を付加あるいは置換したものであればいかなるものでもよく、例えば、ホスフォロチオエート結合に置換されたヌクレオチド類似体、N3'-P5'ホスフォアミデート結合に置換されたヌクレオチド類似体等をあげることができる[細胞工学, 16, 1463-1473 (1997)][RNAi法とアンチセンス法、講談社(2005)]。
【0025】
ヌクレオチド類似体としては、その他に、核酸の塩基部分、リボース部分、リン酸ジエステル結合部分等の原子(例えば、水素原子、酸素原子)もしくは官能基(例えば、水酸基、アミノ基)が他の原子(例えば、水素原子、硫黄原子)、官能基(例えば、アミノ基)、もしくは炭素数1〜6のアルキル基で置換されたものまたは保護基(例えばメチル基またはアシル基)で保護されたもの、核酸に、例えば脂質、リン脂質、フェナジン、フォレート、フェナントリジン、アントラキノン、アクリジン、フルオレセイン、ローダミン、クマリン、色素など、別の化学物質を付加した分子等を用いてもよい。
【0026】
核酸に別の化学物質を付加した分子としては、例えば、5’−ポリアミン付加誘導体、コレステロール付加誘導体、ステロイド付加誘導体、胆汁酸付加誘導体、ビタミン付加誘導体、Cy5付加誘導体、Cy3付加誘導体、6−FAM付加誘導体、およびビオチン付加誘導体等をあげることができる。
【0027】
本発明(2)(3)(4)の促成物は、それぞれヘプタマー型sg核酸1が別の標的RNA-2ともアニールするように設計されており、またヘプタマー型sg核酸2がさらに別の標的RNA-3ともアニールするように設計されている。この場合、ヘプタマー型sg核酸1、2は従来のヘプタマー型sg核酸と同様に、それ単独で標的RNA-2、-3とtRNAアクセプターステム様二重鎖を形成し、tRNase ZLによる切断対象となる。従って、本発明(2)(3)(4)の組成物は、標的RNA-1のみでなく、標的RNA-2および/または標的RNA-3をも同時に切断する。これらの標的RNA-1、-2、-3は、例えば、複数の遺伝子のそれぞれの過剰発現が協調して、またはそれぞれ単独に特定疾患の原因となっているようなものを選択することができる。例えば、実施例で例示した3つの異なる遺伝子(Myc、IRF4、Bcl-2)は共にガンの発症に関連する遺伝子であり、これら3種の遺伝子の発現を同時に抑制または消失させることはガンの優れた予防または治療手段となる。
【0028】
本発明の組成物の一つの形態は治療薬である。治療薬としては、本発明の組成物それ単独で製剤化することもできるが、通常は薬理学的に許容される1つあるいはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により製造した医薬製剤として投与するのが望ましい。
【0029】
投与経路は、治療に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内および静脈内などの非経口投与をあげることができ、望ましくは静脈内投与をあげることができる。
【0030】
経口投与に適当な製剤としては、乳剤、シロップ剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤などがあげられる。乳剤およびシロップ剤のような液体調製物は、水、ショ糖、ソルビトール、果糖などの糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油などの油類、p-ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミントなどのフレーバー類などを添加剤として用いて製造できる。カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤などは、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトールなどの賦形剤、デンプン、アルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤、グリセリンなどの可塑剤などを添加剤として用いて製造できる。
【0031】
非経口投与に適当な製剤としては、注射剤、座剤、噴霧剤などがあげられる。注射剤は、塩溶液、ブドウ糖溶液あるいは両者の混合物からなる担体などを用いて調製される。座剤はカカオ脂、水素化脂肪またはカルボン酸などの担体を用いて調製される。また、噴霧剤は受容者の口腔および気道粘膜を刺激せず、かつ有効成分を微細な粒子として分散させ吸収を容易にさせる担体などを用いて調製される。
【0032】
担体として具体的には乳糖、グリセリンなどが例示される。本発明で用いる核酸、さらには用いる担体の性質により、エアロゾル、ドライパウダーなどの製剤が可能である。また、これらの非経口剤においても経口剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
【0033】
投与量または投与回数は、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、年齢、体重などにより異なるが、通常成人1日当たり10 μg/kg〜20 mg/kgである。
【0034】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
(1)材料と方法
(1-1)組換えヒトtRNase ZLの調製
ヒスチジン標識したヒトΔ30 tRNase ZLを、E. coli株Rosetta (DE3) pLysS(Novagen)において発現プラスミドpQE-80L(Quigen)から過剰発現させ、ニッケル−アガロースビーズを用いて精製した(非特許文献15)。
(1−2)プラスミドの構築
TR(Bcl-2:図1B)のin vitro転写用の鋳型プラスミドpBluescript (Bcl-2)を以下のように構築した。ヒトBcl-2 cDNAの一部(GenBank/NM_000633;370th-717th:配列番号1)を、HEKトータルRNAからRT-PCRによって増幅した。以下のプライマーを使用し、製造者(Takara)のプロトコールに従って行なった。
プライマー1:5′-CAAGAATGCAAAGCACATCCAATAA-3′(配列番号2)
プライマー2:5′-GGGGTCTGCAGCGGCGAGGTCCTGG-3′(配列番号3)
得られたDNA断片をpGEN-T East Vector (Promega)にクローニングし、次いでpBluescript II KS (Agilent Technologies Inc.)のSacII-SpeI部位にサブクローニングしてpBluescript (Bcl-2)を構築した。
(1-3)RNA合成
TR(Bcl-2)はT7 RNAポリメラーゼ(Promega)を用い、pBluescript(Bcl-2)のSpeI断片から合成した(非特許文献8)。転写反応は製造者(Promega)が推奨する条件の下で行ない、RNAは変性ゲル電気泳動で精製した。次いで、TR(Bcl-2)のRNA転写産物は製造者(Amersham Pharmacia Biotech)のプロトコールに従い蛍光色素で標識した(非特許文献13)。すなわち、バクテリアアルカリホスファターゼ(Takara Shuzo)でRNA転写産物の5’リン酸を除去したのち、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(Takara Shuzo)およびATPγSを用いてRNAをリン酸化した。次いで、単一の蛍光色素部分を5’リン酸化部位に付加し、この蛍光色素標識したRNAをゲル精製した使用した。
【0036】
以下の、5’およい3’をリン酸化し、2’-Oメチル化したsgRNAを化学的に合成した。
hep1(Bcl-2):5′-pCCUCUCGp-3′(配列番号4)
hep2(Bcl-2):5′-pCCCCAGCp-3′(配列番号5)
hep3(Bcl-2):5′-pUACCCUGp-3′(配列番号6)
hep4(Bcl-2):5′-pUUCUCCCp-3′(配列番号7)
lin1(Bcl2):5′-pCCUCUCGCCCCAGCp-3′(配列番号8)
lin2(Bcl-2):5′-pUACCCUGUUCUCCCp-3′(配列番号9)
(1-4)In vitro RNA切断アッセイ
10 mM Tris-HCl(pH 7.5)および15 mM MgCl2を含有する溶液(6 μl)に非標識RNAと組換えヒトΔ30 tRNase ZLを混合し、蛍光色素で標識した標的RNAのin vitro切断アッセイを行なった(非特許文献15、16)。5%または10%のポリアクリルアミド-8 M尿素ゲル上で反応産物を分解した後、Typhoon 9210 (Amersham Pharmacia Biotech)でゲルを分析した。
(2)結果
連続配置した2つのヘプタマー型sgRNAが14-nt直鎖型sgRNAと同様に機能するかを確かめるため、ヒトBcl-2 mRNAの上流に由来する392塩基対RNA[TR(Bcl-2)]を標的RNAとして使用した。
【0037】
TR(Bcl-2)の異なる部位をそれぞれ標的とする2つの直鎖型sgRNAと、各直鎖状sgRNAに対応する2組のヘプタマー型sgRNAを設計し、2’-Oメチル化形態に合成した。標識TR(Bcl-2)T7ポリメラーゼでin vitro転写により合成し、蛍光色素で5’末端を標識した。
【0038】
14-nt直鎖型sgRNAであるlin1(Bcl-2)と、2つのヘプタマー型sgRNAの組合せ[hep1(Bcl-2)とhep2(Bcl-2)]は、tRNase ZLによってTR(Bcl-2)がその124番目Uの後で切断されるように設計されている(図1B、2A)。TR(Bcl-2)切断アッセイは、組換えヒトtRNase ZLを用いて、「hep1(Bcl-2)有りまたは無し」、「hep2(Bcl-2)有りまたは無し」、および「lin1(Bcl-2)有りまたは無し」の条件で行なった。
【0039】
その結果、2つのヘプタマー型sgRNAの組合せ[hep1(Bcl-2)とhep2(Bcl-2)]はlin1(Bcl-2)と同程度の効率でTR(Bcl-2)を切断した(図2B)。hep1(Bcl-2)単独では切断効率は僅かであり、hep2(Bcl-2)単独は全く無効であった。
【0040】
次に、2番目のsgRNAsについても同様にRNA切断アッセイを行なった。すなわち、lin2(Bcl-2)と2つのヘプタマー型sgRNAの組合せ[hep3(Bcl-2)とhep4(Bcl-2)]であり、これらはTR(Bcl-2)の185th Cを切断するようデザインされている(図1B、2B)。この場合においても、hep3(Bcl-2)はhep4(Bcl-2)との組合せによってtRNase ZLによる正確な切断を可能としたが、hep3(Bcl-2)単独では切断効率は僅かであった(図2D)。一方、14-nt直鎖型のlin2(Bcl-2)は予想された位置よりも、さらに100塩基上流を効率良く切断した。この食い違いは、lin2(Bcl-2)がTR(Bcl-2)の93-106番目塩基と2塩基ミスマッチで結合したためである(図2C)。さらに、lin2(Bcl-2)がミスマッチのない予想部位よりも、2塩基ミスマッチ部位でのtRNase ZL切断を導いたことは、100塩基上流付近でのRNA折畳みが緩いことが原因かもしれない。これに対して、2つのヘプタマーhep3(Bcl-2)とhep4(Bcl-2)は、100塩基上流部位を全く切断しなかった。このことは、hep4(Bcl-2)がTR(Bcl-2)の93−98番目配列とは、2塩基ミスマッチのために結合することができなかったためである(図2C)。このことは、誤標的を回避できるという点において、2つのヘプタマー型sgRNAの組合せが14-nt直鎖型sgRNAよりも優れていることを示すものである。
【実施例2】
【0041】
2つのヘプタマー型sgRNAを用い、3つの異なる遺伝子(IRF4、Myc、Bcl-2)の各mRNA(各々、GenBank/NM_002460、NM_002467、NM_000633)を標的としてTRUEジーンサイレンシングを行なった。ヘプタマー型sgRNAは以下の2種である(図3A)。
hepA(IRF4):5′-pCAUCACUp-3′(配列番号10)
hepB(Myc):5′-pAUCUCCCp-3′(配列番号11)
図3Bに示したとおり、hepAはIRF4 mRNAのヘアピン構造直下に結合し、mRNAの1930番目Gの後を切断する。またhepBはMyc mRNAのヘアピン構造直下に結合し、mRNAの273番目Cの後を切断する。さらにhepAとhepBの組合せは、Bcl-2 mRNAの14塩基にそれぞれ連続して結合し、mRNAの542番目Aの後を切断する。
【0042】
これら3つの遺伝子産物に依存している、あるいは3つの遺伝子産物によって不死化しているガン細胞は、2つのヘプタマー型sgRNAの組合せ[hepAおよびhepB]によって効果的に細胞死が誘導された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によって、例えば、特定遺伝子の過剰発現を原因とする疾患の有効な治療法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的RNA-1の連続する14塩基の5’側7塩基と相補的な7塩基長からなるヘプタマー型スモールガイド核酸1と、前記14塩基の3’側7塩基相補的な7塩基長からなるヘプタマー型スモールガイド核酸2とを含み、細胞内においてtRNase ZLの作用により標的RNA-1を切断することによってこの標的RNA1を転写する遺伝子の活性を低下または消滅させるための組成物。
【請求項2】
ヘプタマー型スモールガイド核酸1が標的RNA-2の連続する7塩基と相補的な7塩基長からなり、標的RNA-1とともに標的RNA-2を切断する請求項1の組成物。
【請求項3】
ヘプタマー型スモールガイド核酸2が標的RNA-3の連続する7塩基と相補的な7塩基長からなり、標的RNA-1とともに標的RNA-3を切断する請求項1の組成物。
【請求項4】
ヘプタマー型スモールガイド核酸1が標的RNA-2の連続する7塩基と相補的な7塩基長からなり、ヘプタマー型スモールガイド核酸2が標的RNA-3の連続する7塩基と相補的な7塩基長からなり、標的RNA-1とともに標的RNA-2および標的RNA-3を切断する請求項1の組成物。
【請求項5】
標的RNA1が疾患Aに関連する遺伝子から転写されたRNAである請求項1の組成物。
【請求項6】
標的RNA2が疾患Bに関連する遺伝子から転写されたRNAである請求項2の組成物。
【請求項7】
標的RNA3が疾患Cに関連する遺伝子から転写されたRNAである請求項3の組成物。
【請求項8】
標的RNA2が疾患Bに関連する遺伝子から転写されたRNAであり、標的RNA3が疾患Cに関連する遺伝子から転写されたRNAである請求項4の組成物。
【請求項9】
それぞれ疾患に関連する遺伝子がガンの発症に関連する遺伝子である請求項5から8のいずれかの組成物。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−217420(P2012−217420A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88478(P2011−88478)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(505111982)学校法人 新潟科学技術学園 新潟薬科大学 (7)
【Fターム(参考)】