説明

3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸アルキル化合物及び4−アシルテトラヒドロピランの製法

本発明は、塩基の存在下、式(2):


式中、R及びRは、同一又は異なっていてもよく、反応に関与しない基を表す、なお、R及びRは、結合して環を形成してもよく、環内にはヘテロ原子を含んでいてもよい、
で示される4−アシルテトラヒドロピランと式(3):


式中、Rは、炭化水素基を表す、なお、二つのRは互いに結合して環を形成していてもよい、
で示される炭酸ジエステルとを反応させることを特徴とする、式(1):


式中、R、R及びRは、前記と同義である、
で示される3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸アルキル化合物の製法及び4−アシルテトラヒドロピランの製法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−アシルテトラヒドロピランから3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸アルキル化合物を製造する方法及び4−アシルテトラヒドロピランの製法に関する。3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸アルキル化合物及び4−アシルテトラヒドロピランは、医薬・農薬等の原料や合成中間体として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来、3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸アルキル化合物に関しては、4−テトラヒドロピラノイル酢酸メチルという名称の記載があったが、その製法や物性値等に関する情報の記載は全くなく、その当時に存在を確認出来たかどうか疑わしいものであった(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、本発明の原料化合物である4−アシルテトラヒドロピランの製法としては、例えば、2,2’−ジクロロエチルエーテルとシアノ酢酸エチルとを反応させて4−シアノテトラヒドロピラン−4−カルボン酸エチルを合成した後、これを加水分解して4−シアノテトラヒドロピラン−4−カルボン酸とし、次いで、これを高温下で加熱して4−シアノテトラヒドロピランを合成、更に、これにグリニャール試薬を反応させて、4−アセチルテトラヒドロピランを製造する方法が開示されている(例えば、非特許文献2参照)。しかしながら、この方法では、多段階の反応が必要であり、又、グリニャール試薬を用いなければならず、反応操作や後処理が繁雑となる等、工業的な製法としては不利であった。
【非特許文献1】Tezisy Doki.−Sov.−Indiiskii Simp.Khim.Prir.Soedin.5th,1978,16.
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.,64,1672(1942)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、即ち、温和な条件下、簡便な方法によって、4−アシルテトラヒドロピランから3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸アルキル化合物を製造出来る、工業的に好適な3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸アルキル化合物の製法を提供するものである。
【0005】
本発明の別の課題は、上記問題点を解決し、温和な条件下、繁雑な操作を必要とすることなく、4−アシルテトラヒドロピランを高収率で製造することが出来る、工業的に好適な4−アシルテトラヒドロピランの製法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の発明は、塩基の存在下、式(2):
【0007】

【0008】
式中、R及びRは、同一又は異なっていてもよく、反応に関与しない基を表す、なお、R及びRは、結合して環を形成してもよく、環内にはヘテロ原子を含んでいてもよい、
で示される4−アシルテトラヒドロピランと式(3):
【0009】

【0010】
式中、Rは、炭化水素基を表す、なお、二つのRは互いに結合して環を形成していてもよい、
で示される炭酸ジエステルとを反応させることを特徴とする、式(1):
【0011】

【0012】
式中、R、R及びRは、前記と同義である、
で示される3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸アルキル化合物の製法に関する。
【0013】
本発明は、又、式(1):
【0014】

【0015】
式中、R、R及びRは、前記と同義である、
で示される3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸アルキル化合物に関する。
【0016】
本発明の第2の発明は、酸の存在下、式(4):
【0017】

【0018】
式中、R及びRは、前記と同義であり、Rは、アルキル基を表す、
で示される4−アシル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピランを脱炭酸反応させることを特徴とする、前記式(2)で示される4−アシルテトラヒドロピランの製法に関する。
【0019】
本発明の第3の発明は、前記式(1)で示される3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸アルキル化合物に関する。
【0020】
本発明の第4の発明は、前記式(4)において、CHRがエチル基である式(5):

は、前記と同義である、
で示される4−プロピオニル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピランに関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、温和な条件下、簡便な方法によって、テトラヒドロピラン環を開環させることなく、4−アシルテトラヒドロピランから3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸アルキル化合物を製造出来る、工業的に好適な3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸アルキル化合物の製法を提供することが出来る。
【0022】
また、本発明により、温和な条件下、繁雑な操作を必要とすることなく、4−アシルテトラヒドロピランを高収率で製造することが出来る、工業的に好適な4−アシルテトラヒドロピランの製法を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
第1の発明の反応において使用する4−アシルテトラヒドロピランは、前記の式(2)で示される。その式(2)において、R及びRは、同一又は異なっていても良く、反応に関与しない基を示すが、具体的には、例えば、水素原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等の炭素原子数1〜20の直鎖又は分岐アルキル基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;フェニル基、トリル基等の炭素原子数1〜6の直鎖又は分岐アルキル基が0〜6個のフェニル基、ナフチル基、アントリル基等に置換したアリール基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の炭素原子数1〜6の直鎖又は分岐アルコキシ基;ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基等の炭素原子数1〜6の直鎖又は分岐アルキルオキシ基にフェニル基、ナフチル基、アントリル基等が結合したアラルキルオキシ基;フェノキシ基等の炭素原子数6〜20のアリールオキシ基;ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等の炭素原子数1〜12のアシル基;ホルミルオキシ基、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等の炭素原子数1〜6のアシルオキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。また、R及びRは、互いに結合して環を形成していてもよく、環内にはヘテロ原子を含んでいてもよい。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子が挙げられ、これらから選択される1〜3個のヘテロ原子を含むものが挙げられる。このようにして形成される環としては、例えば、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、テトラヒドロチオフラン、テトラヒドロチオピラン等が挙げられる。
【0024】
第1の発明の反応において使用する炭酸ジエステルは、前記の式(3)で示される。その式(3)において、Rは、炭化水素基であるが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素原子数1〜12の直鎖又は分岐アルキル基;ベンジル基、フェネチル基等の炭素数7〜20のアラルキル基;フェニル基、ナフチル基、アントリル基等の炭素数6〜20のアリール基が挙げられるが、好ましくはメチル基、エチル基である。なお、これらの基は、各種異性体を含む。また、二つのRは、互いに結合していて環を形成していてもよい。このような環としては、例えば、1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキセタン等が挙げられる。
【0025】
第1の発明の反応において使用する炭酸ジエステルの量は、4−アシルテトラヒドロピラン1モルに対して、好ましくは1.0〜50モル、更に好ましくは2.0〜20モルである。
【0026】
第1の発明の反応で使用する塩基としては、例えば、水素化リチウム、水素化ナトリウム等のアルカリ金属水素化物;水素化カルシウム等のアルカリ土類金属水素化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムn−プロポキシド、ナトリウムi−プロポキシド、ナトリウムn−ブトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムn−プロポキシド、カリウムi−プロポキシド、カリウムn−ブトキシド、カリウムt−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド(なお、これらは相当するアルコール溶液として使用しても良い);炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物が挙げられるが、好ましくはアルカリ金属水素化物、アルカリ金属アルコキシドが挙げられ、更に好ましくは水素化ナトリウム及び/又はナトリウムメトキシドが使用される。なお、これらの塩基は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0027】
前記塩基の使用量は、4−アシルテトラヒドロピラン1モルに対して、好ましくは0.1〜10モル、更に好ましくは1〜5モルである。
【0028】
第1の発明の反応は、溶媒の存在下又は非存在下において行われる。使用する溶媒としては、反応を阻害しないものならば特に限定されないが、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、i−ヘプタン、n−オクタン、i−オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類;フルオロベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;N,N’−ジメチルイミダゾリジノン等の尿素類;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド類;ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロピラン、ジオキサン、シクロプロピルメチルエーテル等のエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル等のニトリル類が挙げられる。なお、これらの溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0029】
前記溶媒の使用量は、反応溶液の均一性や攪拌性により適宜調節するが、4−アシルテトラヒドロピラン1gに対して、好ましくは0〜100ml、更に好ましくは0〜50mlである。
【0030】
第1の発明の反応は、例えば、4−アシルテトラヒドロピラン、炭酸ジエステル及び塩基を混合して(必要ならば溶媒も混合する)、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは20〜150℃、更に好ましくは35〜130℃であり、反応圧力は、常圧又は減圧である。なお、反応系内に存在するアルコール類を留去させながら反応を行うのが望ましい。
【0031】
反応終了後、最終生成物である3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸アルキル化合物は、例えば、中和、濾過、濃縮、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって単離・精製される。
【0032】
本発明において使用される原料化合物の式(2)で示される4−アシルテトラヒドロピランは、例えば、酸の存在下、式(4):
【0033】

【0034】
式中、R及びRは、前記と同義であり、Rは、アルキル基を表す、
で示される4−アシル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピランを脱炭酸反応させることを特徴とする第2の発明により製造することができる。
【0035】
第2の発明である脱炭酸反応において使用する4−アシル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピランは、前記の式(4)で示される。その式(4)において、R及びRは、前記と同義である。又、Rは、アルキル基であるが、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素原子数1〜6の直鎖又は分岐アルキル基が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0036】
第2の発明である脱炭酸反応において使用する酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸等のカルボン酸類;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸類;塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸類が挙げられるが、好ましくは鉱酸類、更に好ましくは塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、特に好ましくは塩酸、硫酸が使用される。なお、これらの酸は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0037】
前記酸の使用量は、4−アシル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピラン1モルに対して、好ましくは0.1〜20モル、より好ましくは1〜10モルである。
【0038】
第2の発明である脱炭酸反応は溶媒の存在下で行うのが好ましい。使用される溶媒としては、反応を阻害しないものであれば特に限定されず、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール類;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;N,N’−ジメチルイミダゾリジノン等の尿素類;テトラヒドロフラン等のエーテル類;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられる。なお、これらの溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0039】
前記溶媒の使用量は、反応液の均一性や攪拌性により適宜調節するが、4−アシル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピラン1gに対して、好ましくは1〜50ml、より好ましくは1〜10ml、更に好ましくは3〜10mlである。
【0040】
第2の発明である脱炭酸反応は、例えば、4−アシル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピラン、酸及び溶媒を混合して、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは50〜150℃、より好ましくは70〜150℃、更に好ましくは90〜140℃であり、反応圧力は特に制限されない。
【0041】
第2の発明である脱炭酸反応によって4−アシルテトラヒドロピランが得られるが、これは、反応終了後、例えば、中和、抽出、濾過、濃縮、蒸留、再結晶、晶析、カラムクロマトグラフィー等の一般的な製法によって単離・精製される。
【0042】
第3の発明である式(1)で示される3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸アルキル化合物は、新規化合物であり、R、R及びRは前記したとおりである。このような3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸アルキル化合物の具体例としては、例えば、3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸メチル、3−(4−テトラヒドロピラニル)−2−メチル−3−オキソプロパン酸メチル、3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸エチル、3−(4−テトラヒドロピラニル)−2−メチル−3−オキソプロパン酸エチル、3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸n−プロピル、3−(4−テトラヒドロピラニル)−2−メチル−3−オキソプロパン酸n−プロピル、3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸イソプロピル、3−(4−テトラヒドロピラニル)−2−メチル−3−オキソプロパン酸イソプロピル、3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸n−ブチル、3−(4−テトラヒドロピラニル)−2−メチル−3−オキソプロパン酸n−ブチル、3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸イソブチル、3−(4−テトラヒドロピラニル)−2−メチル−3−オキソプロパン酸イソブチル、3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸tert−ブチル、3−(4−テトラヒドロピラニル)−2−メチル−3−オキソプロパン酸tert−ブチル、3−(4−テトラヒドロピラニル)−2,2’−ジメチル−3−オキソプロパン酸メチル、3−(4−テトラヒドロピラニル)−2−エチル−3−オキソプロパン酸メチル、3−(4−テトラヒドロピラニル)−2−エチル−3−オキソプロパン酸エチル、3−(4−テトラヒドロピラニル)−2−エチル−3−オキソプロパン酸n−プロピル、3−(4−テトラヒドロピラニル)−2−エチル−3−オキソプロパン酸イソプロピル、3−(4−テトラヒドロピラニル)−2−エチル−3−オキソプロパン酸n−ブチル、3−(4−テトラヒドロピラニル)−2−エチル−3−オキソプロパン酸イソブチル、3−(4−テトラヒドロピラニル)−2−エチル−3−オキソプロパン酸tert−ブチル等が挙げられる。
【0043】
本発明の第4の発明は、前記式(4)において、CHRがエチル基である式(5)で示される4−プロピオニル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピランは新規化合物であり、式(5)において、Rは前記したとおりである。このような4−プロピオニル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピランの具体例としては、例えば、4−プロピオニル−4−メトキシカルボニルテトラヒドロピラン、4−プロピオニル−4−エトキシカルボニルテトラヒドロピラン、4−プロピオニル−4−n−プロポキシカルボニルテトラヒドロピラン、4−プロピオニル−4−イソプロポキシカルボニルテトラヒドロピラン、4−プロピオニル−4−n−ブトキシカルボニルテトラヒドロピラン、4−プロピオニル−4−イソブトキシカルボニルテトラヒドロピラン、4−プロピオニル−4−tert−ブトキシカルボニルテトラヒドロピラン等が挙げられる。
【実施例】
【0044】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0045】
参考例1(4−アセチル−4−メトキシカルボニルテトラヒドロピランの合成)
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及び還流冷却器を備えた内容積1000mlのガラス製フラスコに、2,2’−ジクロロエチルエーテル143g(1.0mol)、無水炭酸カリウム276g(2.0mol)、ヨウ化カリウム10g(0.06mol)及びN,N−ジメチルホルムアミド600mlを加え、攪拌させながら80℃まで昇温させた。次いで、3−オキソブタン酸メチル139g(1.2mol)をゆるやかに滴下し、同温度で8時間反応させた。反応終了後、反応液に水1000mlを加え、酢酸エチル600mlで3回抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾過し、濾液を減圧下で蒸留(125〜127℃、1.3kPa)して、薄黄色液体として、純度98%(ガスクロマトグラフィーによる面積百分率)の4−アセチル−4−メトキシカルボニルテトラヒドロピラン95gを得た(単離収率:50%)。
4−アセチル−4−メトキシカルボニルテトラヒドロピランの物性値は以下の通りであった。
【0046】
CI−MS(m/e);187(M+1)
H−NMR(CDCl,δ(ppm));1.95〜2.01(2H,m)、2.13〜2.18(5H,m)、3.55〜3.61(2H,m)、3.73〜3.79(5H,m)
【0047】
実施例1(4−アセチルテトラヒドロピランの合成)
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積10mlのガラス製フラスコに、参考例1と同様な方法で合成した純度99%の4−アセチル−4−メトキシカルボニルテトラヒドロピラン0.38g(2.0mmol)及び9mol/l硫酸1.08ml(10mmol)を加え、攪拌しながら120℃で1.5時間反応させた。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーで分析(内部標準法)したところ、4−アセチルテトラヒドロピランが0.25g生成していた(反応収率:96%)。
【0048】
実施例2(4−アセチルテトラヒドロピランの合成)
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積10mlのガラス製フラスコに、参考例1と同様な方法で合成した純度99%の4−アセチル−4−メトキシカルボニルテトラヒドロピラン0.38g(2.0mmol)及び4mol/l塩酸2.52ml(10mmol)を加え、攪拌しながら120℃で4時間反応させた。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーで分析(内部標準法)したところ、4−アセチルテトラヒドロピランが0.23g生成していた(反応収率:90%)。
【0049】
実施例3(4−アセチルテトラヒドロピランの合成)
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積10mlのガラス製フラスコに、参考例1と同様な方法で合成した純度99%の4−アセチル−4−メトキシカルボニルテトラヒドロピラン0.38g(2.0mmol)及び47%臭化水素酸1.70g(10mmol)を加え、攪拌しながら120℃で1時間反応させた。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーで分析(内部標準法)したところ、4−アセチルテトラヒドロピランが0.17g生成していた(反応収率:65%)。
【0050】
実施例4(4−アセチルテトラヒドロピランの製法)
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及び還流冷却器を備えた内容積10mlのガラス製フラスコに、参考例1と同様な方法で合成した純度95%の4−アセチル−4−メトキシカルボニルテトラヒドロピラン202g(1.0mol)及びメタノール720mlを加え、攪拌させながら35℃まで昇温させた。次いで、35重量%過酸化水素水201g(2.0mol)と8mol/l水酸化ナトリウム水溶液91ml(0.73mol)との混合液をゆるやかに滴下し、攪拌させながら40℃で5時間反応させた。反応終了後、得られた反応液に飽和硫酸ナトリウム水溶液を加えて残存する過酸化水素を分解させた後、減圧下で濃縮し、濃縮液を酢酸エチル500mlで3回抽出した。有機層を減圧下で蒸留(90〜92℃、2.0kPa)して、無色液体として、純度99%(ガスクロマトグラフィーによる面積百分率)の4−アセチルテトラヒドロピラン113gを得た(単離収率:85%)。
4−アセチルテトラヒドロピランの物性値は以下の通りであった。
【0051】
CI−MS(m/e);129(M+1)
H−NMR(CDCl,δ(ppm));1.60〜1.82(4H,m)、2.16(3H,s)、2.50〜2.61(1H,m)、3.39〜3.47(2H,m)、3.96〜4.02(2H,m)
【0052】
実施例5(3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸メチルの合成)
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及び蒸留装置を備えた内容積500mlのガラス製フラスコに、実施例4と同様な方法で合成した4−アセチルテトラヒドロピラン35.0g(273mmol)、炭酸ジメチル280.0g(3.1mol)及びナトリウムメトキシド16.3g(302mmol)を加え、副生するメタノールを留出させながら、80〜85℃で2時間反応させた。反応終了後、反応液を5〜10℃まで冷却した後、反応液にトルエン175ml、6mol/l塩酸55ml(330mmol)、水35mlの順で加えた。有機層を分離した後、水層をトルエン70mlで2回抽出した。有機層を減圧下で濃縮した後、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン/酢酸エチル=1/1(容量比))で精製して、無色液体として、純度93.9%(示差屈折率による分析値)の3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸メチル40.9gを得た(単離収率:76%)。
3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸メチルは、以下の物性値で示される新規な化合物であった。
【0053】
CI−MS(m/e);187(M+1)
H−NMR(CDCl,δ(ppm));1.68〜1.82(4H,m)、2.66〜2.72(1H,m)、3.38〜3.47(2H,m)、3.51(2H,s)、3.75(3H,s)、3.97〜4.04(2H,m)
【0054】
参考例2(4−プロピオニル−4−メトキシカルボニルテトラヒドロピランの合成)
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及び還流冷却器を備えた内容積200mlのガラス製フラスコに、2,2’−ジクロロエチルエーテル13.0g(0.09mol)、無水炭酸カリウム35.9g(0.26mol)、ヨウ化カリウム1.3g(7.8mmol)及びN,N−ジメチルホルムアミド80mlを加え、攪拌させながら80℃まで昇温させた。次いで、3−オキソペンタン酸メチル20.0g(0.15mol)をゆるやかに滴下し、同温度で7時間反応させた。反応終了後、反応液に水200ml及び濃塩酸32.3g(0.31mol)を加えてpHを4.5に調整した。該反応液を酢酸エチル200mlで3回抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾過し、濾液を減圧下で濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン/酢酸エチル=3/1(容量比))で精製し、薄黄色液体として、4−プロピオニル−4−メトキシカルボニルテトラヒドロピラン10.1gを得た(単離収率:55%)。
4−プロピオニル−4−メトキシカルボニルテトラヒドロピランの物性値は以下の通りであった。
【0055】
CI−MS(m/e);201(M+1)
H−NMR(CDCl,δ(ppm));1.03〜1.07(3H,t)、1.95〜2.19(4H,m)、2.44〜2.51(2H,q)、3.48〜3.80(4H,m)、3.76(3H,s)
【0056】
実施例6(4−プロピオニルテトラヒドロピランの製法)
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及び還流冷却器を備えた内容積10mlのガラス製フラスコに、実施例2で合成した4−プロピオニル−4−メトキシカルボニルテトラヒドロピラン4.8g(24mmol)、水30ml及び濃硫酸9.0gを加え、攪拌させながら100℃で10時間反応させた。反応終了後、得られた反応液に50質量%水酸化ナトリウム水溶液16.5gを加えてpHを4.0に調整した。該反応液を酢酸エチル50mlで3回抽出した後、有機層を分離し、減圧下で濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン/酢酸エチル=3/1(容量比))で精製し、薄黄色液体として、4−プロピオニルテトラヒドロピラン2.58gを得た(単離収率:76%)。
4−プロピオニルテトラヒドロピランの物性値は以下の通りであった。
【0057】
CI−MS(m/e);143(M+1)
H−NMR(CDCl,δ(ppm));1.03〜1.08(3H,t)、1.68〜1.76(4H,m)、2.45〜2.52(2H,q)、2.53〜2.62(1H,m)、3.39〜3.43(2H,m)、3.96〜4.02(2H,m)
【0058】
実施例7(3−(4−テトラヒドロピラニル)−2−メチル−3−オキソプロパン酸メチルの合成)
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及び蒸留装置を備えた内容積100mlのガラス製フラスコに、実施例6と同様な方法で合成した4−プロピオニルテトラヒドロピラン1.28g(9mmol)、炭酸ジメチル16.0g(180mmol)及びナトリウムメトキシド1.2g(22mmol)を加え、副生するメタノールを留出させながら、80〜85℃で2時間反応させた。反応終了後、反応液を5〜10℃まで冷却した後、反応液に酢酸エチル50ml、6mol/l塩酸3.4g(24mmol)、水15mlの順で加えた。有機層を分離した後、水層を酢酸エチル50mlで2回抽出した。有機層を減圧下で濃縮した後、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン/酢酸エチル=3/1(容量比))で精製して、無色液体として、3−(4−テトラヒドロピラニル)−2−メチル−3−オキソプロパン酸メチル0.60gを得た(単離収率:33%)。
3−(4−テトラヒドロピラニル)−2−メチル−3−オキソプロパン酸メチルの物性値は以下の物性値で示される新規な化合物であった。
【0059】
CI−MS(m/e);201(M+1)
H−NMR(CDCl,δ(ppm));1.32〜1.36(3H,d)、1.68〜1.81(4H,m)、2.74〜2.84(1H,m)、3.38〜3.48(2H,m)、3.66〜3.72(1H,q)、3.73(3H,s)、3.97〜4.03(2H,m)
【0060】
実施例8(3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸エチルの合成)
攪拌装置、温度計、還流冷却器及び滴下漏斗を備えた内容量100mlのガラス製容器に、炭酸ジエチル4.56g(31mmol)、ナトリウムエトキシド3.98g(58mmol)を加え、液温を85℃まで加熱した。次いで、4−アセチルテトラヒドロピラン5.0g(39mmol)をゆるやかに滴下した。更に、炭酸ジエチルを4.56g(31mmol)を加えた後、80〜90℃で1時間反応させた。反応終了後、同温度で2−ブタノールを5ml加え、室温まで冷却した後、エタノール5mlを加えた(これを反応液Aと称する)。
攪拌装置、温度計、還流冷却器及び滴下漏斗を備えた内容量100mlのガラス製容器に、酢酸4.22g(70mmol)及び飽和食塩水10mlを混合した液を0〜10℃に保ちながら、反応液Aをゆるやかに滴下した。次いで、室温まで昇温した後、酢酸エチル10ml及び水10mlを加えて分液した。得られた有機層を減圧下で濃縮し、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=10:1→10:2)で精製して、無色液体として3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸エチル1.0gを得た(単離収率:13%)。
3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸エチルは、以下の物性値で示される新規な化合物である。
CI−MS(m/e);201(M+1)
H−NMR(CDCl,δ(ppm));1.28(3H,t,J=7.1Hz)、1.68〜1.83(4H,m)、2.66〜2.77(1H,m)、3.39〜3.47(2H,m)、3.50(2H,s)、3.97〜4.04(2H,m)、4.20(2H,q,J=7.1Hz)
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、4−アシルテトラヒドロピランから3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸アルキル化合物を製造する方法に関する。3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸アルキル化合物は、医薬・農薬等の原料や合成中間体として有用な化合物である。
【0062】
本発明は、また、4−アシル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピランから4−アシルテトラヒドロピランを製造する方法に関する。4−アシルテトラヒドロピランは、医薬・農薬等の原料や合成中間体として有用な化合物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基の存在下、式(2):

式中、R及びRは、同一又は異なっていてもよく、反応に関与しない基を表す、なお、R及びRは、結合して環を形成してもよく、環内にはヘテロ原子を含んでいてもよい、
で示される4−アシルテトラヒドロピランと式(3):

式中、Rは、炭化水素基を表す、なお、二つのRは互いに結合して環を形成していてもよい、
で示される炭酸ジエステルとを反応させることを特徴とする、式(1):

式中、R、R及びRは、前記と同義である、
で示される3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸アルキル化合物の製法。
【請求項2】
及びRが、同一又は異なっていても良く、水素原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基;ベンジル基、フェネチル基;フェニル基、トリル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基;ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基;フェノキシ基;ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基;ホルミルオキシ基、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子からなる群より選択された少なくとも1種であり、Rが、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ベンジル基、フェネチル基、フェニル基、ナフチル基及びアントリル基からなる群より選択された少なくとも1種である請求の範囲第1項記載の製法。
【請求項3】
炭酸ジエステルの使用量が、4−アシルテトラヒドロピラン1モルに対して、1.0〜50モルである請求の範囲第1項記載の製法。
【請求項4】
塩基が、水素化ナトリウム;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムn−プロポキシド、ナトリウムi−プロポキシド、ナトリウムn−ブトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムn−プロポキシド、カリウムi−プロポキシド、カリウムn−ブトキシド、カリウムt−ブトキシド;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムからなる群より選択された少なくとも1種である請求の範囲第1項記載の製法。
【請求項5】
塩基の使用量が、4−アシルテトラヒドロピラン1モルに対して、0.1〜10モルである請求の範囲第1項記載の製法。
【請求項6】
4−アシルテトラヒドロピラン、炭酸ジエステル及び塩基を混合して、攪拌しながら、20〜150℃で反応を行うものである請求の範囲第1項記載の製法。
【請求項7】
式(2)で示される4−アシルテトラヒドロピランが、酸の存在下、式(4):

式中、R及びRは、前記と同義であり、Rは、アルキル基を表す、
で示される4−アシル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピランを脱炭酸反応させることにより得られるものである請求の範囲第1項記載の3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸アルキル化合物の製法。
【請求項8】
酸が塩酸又は硫酸である請求の範囲第7項記載の製法。
【請求項9】
脱炭酸反応が90〜140℃の温度で行われる請求の範囲第7項記載の製法。
【請求項10】
酸の存在下、式(4):

式中、R及びRは、同一又は異なっていてもよく、反応に関与しない基を表し、R及びRは、結合して環を形成してもよく、環内にはヘテロ原子を含んでいてもよい、Rは、アルキル基を表す、
で示される4−アシル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピランを脱炭酸反応させることを特徴とする、式(2):

式中、R及びRは、前記と同義である、
で示される4−アシルテトラヒドロピランの製法。
【請求項11】
酸が塩酸又は硫酸である請求の範囲第10項記載の製法。
【請求項12】
脱炭酸反応が90〜140℃の温度で行われる請求の範囲第10項記載の製法。
【請求項13】
式(1):

式中、R及びRは、同一又は異なっていてもよく、反応に関与しない基を表し、Rは、炭化水素基を表す、
で示される3−(4−テトラヒドロピラニル)−3−オキソプロパン酸アルキル化合物。
【請求項14】
式(5):

は、前記と同義である、
で示される4−プロピオニル−4−アルコキシテトラヒドロピラン。
【請求項15】
がメチル基である請求の範囲第14項記載の4−プロピオニル−4−アルコキシテトラヒドロピラン。

【国際公開番号】WO2005/058859
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516369(P2005−516369)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018938
【国際出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】