説明

4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピラン又はテトラヒドロピラニル−4−カルボン酸の製法

本発明は、式(2):


式中、Rは、炭化水素基を表し、Rは、アルキル基を表す、
で示される4−アシル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピランを塩基と反応させることを特徴とする、式(1):


式中、Rは、水素原子又はアルキル基を表す、
で示される4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピラン又はテトラヒドロピラニル−4−カルボン酸の製法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−アシル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピランから4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピランを製造する方法又はテトラヒドロピラニル−4−カルボン酸を製造する方法に関する。4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピラン及びテトラヒドロピラニル−4−カルボン酸は、医薬・農薬等の原料や合成中間体として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来、4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピランを製造する方法としては、テトラヒドロピラン−4,4−ジカルボン酸エステルを脱炭酸させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、多量の臭化テトラn−ブチルホスホニウムが必要であり、反応温度が高い上に、目的物の収率が低い等の問題を有しており、4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピランの工業的な製法としては不利であった。
【0003】
また、テトラヒドロピラン−4−カルボン酸を製造する方法としては、例えば、テトラヒドロピラン−4,4−ジカルボン酸を185℃に加熱して、単離収率64%でテトラヒドロピラン−4−カルボン酸を得る方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、上記の方法では、高い反応温度が必要である上に、収率が低く、テトラヒドロピラン−4−カルボン酸化合物の工業的な製法としては満足するものではなかった。
【特許文献1】特開2000−281672号公報
【特許文献2】国際公開WO03 106418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、即ち、上記問題点を解決し、温和な条件下、繁雑な操作を必要とすることなく、4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピラン又はテトラヒドロピラニル−4−カルボン酸を高収率で製造することが出来る、工業的に好適な4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピラン又はテトラヒドロピラニル−4−カルボン酸の製法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、式(2):
【0006】

【0007】
式中、Rは、炭化水素基を表し、Rは、アルキル基を表す、
で示される4−アシル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピランを塩基と反応させることを特徴とする、式(1):
【0008】

【0009】
式中、Rは、水素原子又はアルキル基を表す、
で示される4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピラン又はテトラヒドロピラニル−4−カルボン酸の製法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、温和な条件下、繁雑な操作を必要とすることなく、4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピラン又はテトラヒドロピラニル−4−カルボン酸を高収率で製造することが出来る、工業的に好適な4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピラン又はテトラヒドロピラニル−4−カルボン酸の製法を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の反応において使用する4−アシル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピランは、前記の式(2)で示される。その式(2)において、Rは、炭化水素基であるが、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素原子数1〜6の直鎖又は分岐アルキル基;ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等の炭素原子数7〜12のアラルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基等の炭素原子数1〜6の直鎖又は分岐アルキル基が0〜6個、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等に置換したアリール基が挙げられる。又、Rは、アルキル基であるが、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素原子数1〜6の直鎖又は分岐アルキル基が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0012】
本発明の反応において使用する塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;トリエチルアミン、トルブチルアミン等のアミン類;ピリジン、メチルピリジン等のピリジン類が挙げられるが、好ましくはアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属アルコキシドが使用される。なお、これらの塩基は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0013】
前記塩基の使用量は、4−アシル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピラン1モルに対して、好ましくは0.1〜20モル、より好ましくは0.2〜10モル、最も好ましくは0.2〜5モルである。
【0014】
本発明の反応は溶媒の存在下で行うのが望ましい。使用される溶媒としては、反応を阻害しないものならば特に限定されないが、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;N,N’−ジメチルイミダゾリジノン等の尿素類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられるが、好ましくはアルコール類、アミド類、ニトリル類、エーテル類が使用される。なお、これらの有機溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0015】
前記溶媒の使用量は、反応液の均一性や攪拌性により適宜調節するが、4−アシル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピラン1gに対して、好ましくは1〜50ml、更に好ましくは1〜30mlである。
【0016】
本発明の反応は、例えば、4−アシル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピラン、塩基及び溶媒を混合して、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは10〜150℃、更に好ましくは20〜130℃であり、反応圧力は特に制限されない。
【0017】
本発明の反応によって4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピラン又はテトラヒドロピラニル−4−カルボン酸が得られるが、これは、反応終了後、例えば、中和、抽出、濾過、濃縮、蒸留、再結晶、晶析、カラムクロマトグラフィー等の一般的な製法によって単離・精製される。
【0018】
式(1)において、Rは、水素原子又はアルキル基を表すが、アルキル基は、Rと同義である。
【実施例】
【0019】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0020】
参考例1(4−アセチル−4−メトキシカルボニルテトラヒドロピランの合成)
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及び還流冷却器を備えた内容積1000mlのガラス製フラスコに、2,2’−ジクロロエチルエーテル143g(1.0mol)、無水炭酸カリウム276g(2.0mol)、ヨウ化カリウム10g(0.06mol)及びN,N−ジメチルホルムアミド600mlを加え、攪拌しながら80℃まで加熱した。次いで、3−オキソブタン酸メチル139g(1.2mol)をゆるやかに滴下し、同温度で8時間反応させた。反応終了後、得られた反応液に水1000mlを加えた後、酢酸エチル600mlで3回抽出し、抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧蒸留(120℃、666Pa)し、薄黄色液体として、純度98%(ガスクロマトグラフィーによる面積百分率)の4−アセチル−4−メトキシカルボニルテトラヒドロピラン95gを得た(単離収率:50%)。
4−アセチル−4−メトキシカルボニルテトラヒドロピランの物性値は以下の通りであった。
【0021】
CI−MS(m/e);187(M+1)
H−NMR(CDCl,δ(ppm));1.95〜2.01(2H,m)、2.13〜2.18(5H,m)、3.55〜3.61(2H,m)、3.73〜3.79(5H,m)
【0022】
実施例1(4−メトキシカルボニルテトラヒドロピランの合成)
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積10mlのガラス製フラスコに、参考例1と同様な方法で合成した純度99%の4−アセチル−4−メトキシカルボニルテトラヒドロピラン0.38g(2.0mmol)、ナトリウムメトキシド97mg(1.8mmol)及びアセトニトリル5.4mlを加え、攪拌しながら80〜83℃で1.5時間させた。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーで分析(内部標準法)したところ、4−メトキシカルボニルテトラヒドロピランが246mg生成していた(反応収率:85.4%)。
【0023】
実施例2(4−メトキシカルボニルテトラヒドロピランの合成)
実施例1において、溶媒をメタノール5.4ml、反応時間を3時間に変えたこと以外は、実施例1と同様に反応を行った。その結果、4−メトキシカルボニルテトラヒドロピランが179mg生成していた(反応収率:62.2%)。
【0024】
実施例3(4−メトキシカルボニルテトラヒドロピランの合成)
実施例2において、ナトリウムメトキシドの量を16mg(0.30mmol)、メタノール量を14ml、反応時間を96時間に変えたこと以外は、実施例1と同様に反応を行った。その結果、4−メトキシカルボニルテトラヒドロピランが215mg生成していた(反応収率:74.8%)。
【0025】
実施例4(テトラヒドロピラン−4−カルボン酸の合成)
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積50mlのガラス製フラスコに、参考例1と同様な方法で合成した純度98%の4−アセチル−4−メトキシカルボニルテトラヒドロピラン3.80g(20mmol)、4mol/l水酸化ナトリウム水溶液20ml(0.08mol)を加え、攪拌しながら40〜60℃で6時間反応させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、反応液に6mol/l塩酸14ml(0.084mol)を加えた後、酢酸エチル50mlを加えて抽出した。有機層と水層を分液し、水層を酢酸エチル50mlで2回抽出した後、該有機層と抽出液とを混合して減圧下で濃縮した。析出した結晶を濾過し、結晶をシクロヘキサン50mlで洗浄した後に乾燥させて、白色結晶として、純度98%(ガスクロマトグラフィーによる内部標準定量)のテトラヒドロピラン−4−カルボン酸2.0gを得た(単離収率:75.4%)。
テトラヒドロピラン−4−カルボン酸の物性値は以下の通りであった。
【0026】
CI−MS(m/e);131(M+1)
H−NMR(CDCl,δ(ppm));1.74〜1.92(4H,m)、2.54〜2.64(1H,m)、3.41−3.50(2H,m)、3.96〜4.02(2H,m)、10.80(1H,brs)
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、4−アシル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピランから4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピラン又はテトラヒドロピラニル−4−カルボン酸を温和な条件下、繁雑な操作を必要とすることなく、高収率で製造する方法に関する。4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピラン及びテトラヒドロピラニル−4−カルボン酸は、医薬・農薬等の原料や合成中間体として有用な化合物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(2):

式中、Rは、炭化水素基を表し、Rは、アルキル基を表す、
で示される4−アシル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピランを塩基と反応させることを特徴とする、式(1):

式中、Rは、水素原子又はアルキル基を表す、
で示される4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピラン又はテトラヒドロピラニル−4−カルボン酸の製法。
【請求項2】
反応を溶媒中で行う請求の範囲第1項記載の製法。
【請求項3】
塩基が、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩及びアルカリ金属アルコキシドからなる群より選ばれる少なくとも一種である請求の範囲第1項記載の製法。
【請求項4】
塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、ナトリウムメトキシド及びカリウムメトキシドからなる群より選ばれる少なくとも一種である請求の範囲第1項記載の製法。
【請求項5】
塩基が4−アシル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピラン1モルに対して、0.1〜10モル使用される請求の範囲第1項記載の製法。
【請求項6】
塩基が4−アシル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピラン1モルに対して、0.2〜5モル使用される請求の範囲第1項記載の製法。
【請求項7】
が、炭素原子数1〜6の直鎖又は分岐アルキル基、炭素原子数7〜12のアラルキル基又は炭素原子数1〜6の直鎖又は分岐アルキル基が0〜6個置換したアリール基である請求の範囲第1項記載の製法。
【請求項8】
が、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニル基、トリル基、キシリル基又はエチルフェニル基である請求の範囲第1項記載の製法。
【請求項9】
が、炭素原子数1〜6の直鎖又は分岐アルキル基である請求の範囲第1項記載の製法。
【請求項10】
が、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基又はヘキシル基である請求の範囲第1項記載の製法。
【請求項11】
が、水素原子、炭素原子数1〜6の直鎖又は分岐アルキル基である請求の範囲第1項記載の製法。
【請求項12】
が、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基又はヘキシル基である請求の範囲第1項記載の製法。
【請求項13】
反応が、4−アシル−4−アルコキシカルボニルテトラヒドロピラン、塩基及び溶媒を混合して、攪拌しながら10〜150℃で行われる請求の範囲第1項記載の製法。
【請求項14】
反応が、20〜100℃で行われる請求の範囲第11項記載の製法。

【国際公開番号】WO2005/061478
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516504(P2005−516504)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019189
【国際出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】