説明

6000系アルミニウム合金材の成形加工方法および成形加工品

【目的】より複雑形状に成形することができ、人工時効後において250MPa以上の耐力を有する高強度の成形品を得ることを可能とする6000系アルミニウム合金材の成形加工方法を提供する。
【構成】質量%で、Si:0.3%以上4.0%以下、Mg:0.3%以上2.0%以下、Cu:2.0%以下、Mn:1.5%以下、Fe:1.5%以下、Zn:2.0%以下、Cr:0.50%以下、Zr:0.50%以下、Ti:0.50%以下、V:0.50%以下を含有し、残部がアルミニウムおよび不可避的不純物からなる6000系アルミニウム合金材を成形加工する方法であって、該アルミニウム合金材を溶体化処理する工程と、溶体化処理後、金型内で成形加工を行う工程と、成形加工に続いて金型内で250℃以下の温度まで冷却して焼入れ処理する工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えば自動車のボディシートあるいは各種筐体等のように高強度が要求される成形加工品を成形するための6000系アルミニウム合金板材や、バンパーやステハンビームなどの自動車部品、二輪車用フレームのように押出管または押出形材に曲げや拡縮を加えて成形加工品を成形するための6000系アルミニウム合金押出材などの6000系アルミニウム合金材の成形加工方法、および該成形加工方法により成形された成形加工品に関する。なお、ここで、成形加工とは、プレス成形、ハイドロフォーミング(液圧成形)、バルジ成形、超塑性成形(熱間ブロー成形)など、金型によって三次元に加工を行うもの全てを意味する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護のための省エネルギー対策として、例えば自動車ではボディシート、ならびに各種筺体等の部材において、従来の強度を確保して且つ軽量化を達するために、上記部材の素材について、鋼板に替えて、例えば6000系アルミニウム合金板材の使用が進んでいる。
【0003】
しかしながら、上記部材の素材として使用される6000系アルミニウム合金板材は、鋼板に比べ成形加工性が劣るため複雑形状への加工が困難であり、成形加工性の観点から中強度の6000系アルミニウム合金板材が成形加工時において使用される。そのため、溶体化処理、焼入れ処理後の室温時効(自然時効)処理材で成形加工が行われており、高強度を得るためには塗装焼付硬化もしくは、さらに強度が必要な場合は200℃前後の温度を加える熱処理、すなわち人工時効が必要となる。
【0004】
最終の必要強度が高いほど、室温時効処理材を用いる成形加工時にも耐力が高い材料が必要となり、そのため、成形加工時のスプリングバックが大きくなって寸法精度が低下し部品の組み立て工程でのトラブルの原因となるとともに成形加工性も劣化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−96175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の問題を解消するためになされたものであり、その目的は、冷間成形加工性には限界があるが、焼入れ性に優れた高強度の6000系アルミニウム合金材において、より複雑形状に成形することができ、人工時効後(塗装焼付け処理後)において250MPa以上の耐力を有する高強度の成形品を得ることを可能とする6000系アルミニウム合金材の成形加工方法、および該成形加工方法により成形された成形加工品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための請求項1による6000系アルミニウム合金材の成形加工方法は、質量%で、Si:0.3%以上4.0%以下、Mg:0.3%以上2.0%以下、Cu:2.0%以下、Mn:1.5%以下、Fe:1.5%以下、Zn:2.0%以下、Cr:0.50%以下、Zr:0.50%以下、Ti:0.50%以下、V:0.50%以下を含有し、残部がアルミニウムおよび不可避的不純物からなる6000系アルミニウム合金材を成形加工する方法であって、該アルミニウム合金材を溶体化処理する工程と、溶体化処理後、金型内で成形加工を行う工程と、成形加工に続いて金型内で250℃以下の温度まで冷却して焼入れ処理する工程を含むことを特徴とする。以下、合金成分値は質量%で示す。
【0008】
請求項2による6000系アルミニウム合金材の成形加工方法は、請求項1記載の6000系アルミニウム合金材を溶体化処理する工程と、溶体化処理後、250℃以下の温度まで冷却して焼入れ処理する工程と、焼入れ処理後、120時間以内に金型内で成形加工を行う工程を含むことを特徴とする。
【0009】
請求項3による6000系アルミニウム合金材の成形加工方法は、請求項1記載の6000系アルミニウム合金材を溶体化処理する工程と、溶体化処理後、加熱をした金型内で成形加工を行う工程と、成形加工後、金型から離型して250℃以下の温度まで冷却して焼入れ処理する工程を含むことを特徴とする。
【0010】
請求項4による6000系アルミニウム合金材の成形加工方法は、請求項1または2において、400℃以上融点未満の温度で溶体化処理することを特徴とする。
【0011】
請求項5による6000系アルミニウム合金材の成形加工方法は、請求項3において、400℃以上融点未満の温度で溶体化処理し、350℃以上融点未満の温度に加熱した金型内で成形加工を行うことを特徴とする。
【0012】
請求項6による6000系アルミニウム合金材の成形加工方法は、請求項1〜5のいずれかにおいて、前記焼入れ処理において、400℃から250℃までの冷却速度を2℃/秒以上とすることを特徴とする。
【0013】
請求項7による6000系アルミニウム合金材の成形加工方法は、請求項1〜6のいずれかにおいて、前記溶体化処理を金型内で行うことを特徴とする。
【0014】
請求項8による6000系アルミニウム合金材の成形加工方法は、請求項1〜7のいずれかにおいて、前記6000系アルミニウム合金材が圧延材であり、該圧延材の熱間圧延は開始温度を350℃以上として行われたものであることを特徴とする。
【0015】
請求項9による6000系アルミニウム合金材の成形加工方法は、請求項1〜7のいずれかにおいて、前記6000系アルミニウム合金材が押出材であり、該押出材の熱間押出は開始温度を350℃以上として行われたものであることを特徴とする。
【0016】
本発明による成形加工品は、請求項1〜9のいずれかに記載の6000系アルミニウム合金材の成形加工方法により成形されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、より複雑形状に成形することができ、人工時効後(塗装焼付け処理後)において250MPa以上の耐力を有する高強度の成形品を得ることを可能とする6000系アルミニウム合金材の成形加工方法、および該成形加工方法により成形された成形加工品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明における合金成分の意義および限定理由について説明する。
Si:
Siは強度を向上させるよう機能する。好ましい含有量は0.3%以上4.0%以下の範囲であり、0.3%未満では強度が十分でなく、4.0%を超えると成形加工性が著しく劣化する。より好ましい含有範囲は0.6%以上2.0%以下であり、さらに好ましい含有範囲は0.7%以上1.4%以下である。
【0019】
Mg:
MgはSiと共存して強度を向上させるよう機能する。好ましい含有量は0.3%以上2.0%以下の範囲であり、0.3%未満では強度が十分でなく、2.0%を超えると成形加工性が著しく劣化するとともに焼入れ性が劣化する。より好ましい含有範囲は0.4%以上1.2%以下であり、さらに好ましい含有範囲は0.6%以上1.0%以下である。
【0020】
Cu:
CuはSi、Mgとともに強度の向上に寄与する。好ましい含有量は2.0%以下の範囲であり、含有量が多いほど高強度が得られるが、2.0%を超えて含有すると、成形加工性が著しく劣化するとともに耐食性が劣化する。Cuのより好ましい含有範囲は1.5%以下であり、成形加工性を考慮すると0.6%以上1.2%以下の範囲が好ましい。
【0021】
Mn:
Mnは結晶粒を微細化して強度を向上させる。好ましい含有量は1.5%以下の範囲であり、1.5%を超えると鋳塊割れが発生し易くなる。より好ましい含有範囲は0.2%以上1.0%以下である。
【0022】
Fe:
Feは不純物として含有され易く、許容量が高いほどリサイクル性に優れるが、その含有率は1.5%を超えると成形加工性が劣化し、また製造時に割れ生じ易くなる。そのため、Feの含有量は1.5%以下の範囲が好ましく、より好ましい含有範囲は0.5%以下である。また、Feの含有量が0.03%未満では、高価な高純度アルミニウム地金を使用する必要があり、コストアップを招くため、0.03%以上とするのが望ましい。
【0023】
Zn:
Znは材料特性に大きな影響を与えないが、許容量が多いほどリサイクル性に優れる。その含有量が2.0%を超えると耐食性が劣化するため、2.0%以下とするのが好ましい。さらに好ましい含有範囲は0.5%以下である。
【0024】
Cr、Zr、Ti、V:
Cr、Zr、TiおよびVは結晶粒を微細化して強度の向上に寄与する。好ましい含有量は、それぞれ0.50%以下の範囲であり、それぞれ0.50%を超えると、鋳塊割れや熱間割れが発生し易くなるとともに粗大な金属間化合物が生成し易くなり成形加工性が劣化する。Cr、Zr、TiおよびVのより好ましい含有範囲は、それぞれ0.30%以下であり、さらに好ましい含有範囲は、それぞれ0.20%以下である。
【0025】
本発明の第1の特徴とする工程は、上記組成の6000系アルミニウム合金材を成形加工する方法であり、該アルミニウム合金材を溶体化処理する工程と、溶体化処理後、金型内で成形加工を行う工程と、成形加工に続いて金型内で250℃以下の温度まで冷却して焼入れ処理する工程を含むものである。
【0026】
250℃を超える温度で焼入れ処理を完了すると、焼入れが不十分となり、成形加工性が劣化するとともにその後の人工時効で十分な強度を得ることが困難となる。
【0027】
本発明の第2の特徴とする工程は、前記6000系アルミニウム合金材を溶体化処理し、250℃以下の温度まで冷却して焼入れ処理し、焼入れ処理後、120時間以内に金型内で成形加工を行うものである。焼入れ後、成形加工までの時間が120時間を超えると、自然時効により強度が高くなり過ぎ、成形加工が困難となる。2時間以内に成形加工を行うのがより好ましい。
【0028】
本発明の第3の特徴とする工程は、前記6000系アルミニウム合金材を溶体化処理し、加熱をした金型内で成形加工を行った後、金型から離型して250℃以下の温度まで冷却して焼入れ処理するものである。この場合の焼入れは、成形加工で用いる金型とは異なる金型内で行ってもよいし、金型から離型してエアブローなどの強制空冷やミスト冷却を行ってもよく、焼入れ効果が得られるあらゆる手段が好適に採用される。
【0029】
溶体化処理条件は、450℃以上融点未満の温度で行うことが望ましい。溶体化処理温度が450℃未満では、強度を十分得ることができない。さらに好ましい溶体化処理温度は500℃以上である。また、溶体化処理時間は、溶体化の効果が得られれば、溶体化処理温度に応じて適宜設定できる。例えば融点近くであれば1秒であっても溶体化の効果は得られるが、敢えて溶体化処理温度範囲全てを満足する時間を設定するとすれば、5秒以上、600秒以下が採用される。5秒未満では十分な強度を得難く、600秒を超えると製造コストが上昇する。
【0030】
また、溶体化処理を複数回行った後に成形加工することもできる。例えば、1回目の溶体化処理を行った材料を室温まで冷却した後に2回目の溶体化処理を行うことにより、2回目の保持時間を短時間としても必要強度、成形加工性が得られ易くなる。この場合、溶体化処理後の冷却については、前記本発明の第1の特徴とする工程においては、成形加工中の冷却速度のみ規定し、第2の特徴とする工程においては、成形加工直前の冷却速度のみを規定し、第3の特徴とする工程においては、成型加工後の冷却速度のみを規定すれば必要性能を得ることができる。
【0031】
本発明の第3の特徴とする工程における金型の加熱温度は、400℃以上、該6000系アルミニウム合金材の融点未満の温度で行うのが好ましい。400℃未満の場合には、成形加工中に固溶元素の析出が起こり、成形加工性が劣化するとともに成形加工後の強度が低下する。
【0032】
焼入れにおいては、450℃から250℃までの冷却速度を5℃/秒以上の急速冷却とすることが望ましい。この温度範囲での冷却速度が5℃/秒未満では強度が低下するおそれがある。さらに望ましい冷却速度は20℃/秒以上である。
【0033】
次に、本発明のアルミニウム合金材の、溶体化処理に至るまでの望ましい製造方法について説明する。製造方法としては、主として、鋳造、均質化処理、熱間加工、冷間加工の工程が採用される。板材の場合には、熱間加工は熱間圧延、冷間加工は冷間圧延が一般に適用されるが、冷間圧延は必ずしも必要ではない。押出材の場合には、熱間加工は押出、冷間加工は抽伸が一般に適用される。抽伸を省き、押出のままで溶体化処理されることもできる。なお、上記の製造方法は一実施態様であり、これに限定されない。
【0034】
具体的に説明すると、DC鋳造法により造塊を行い、均質化熱処理は400℃以上融点未満の温度で2時間以上100時間以下の条件で行うのが好ましい。均質化熱処理の温度は400℃未満もしくは2時間未満では成形加工性が劣化する。また均質化熱処理の時間が100時間を超えると製造コストが著しく上昇するおそれがある。
【0035】
熱間加工は、開始温度を350℃以上融点未満とするのが好ましい。熱間加工の開始温度が350℃未満では変形荷重の増大により加工時間を多大に要することとなり製造コストが上昇するおそれがある。
【0036】
熱間加工後、冷間加工前、あるいは、冷間加工の途中で中間焼鈍を行ってもよい。中間焼鈍を行う場合には、中間焼鈍以降の冷間加工率は30〜80%とするのが好ましい、中間焼鈍を行わない場合には、熱間加工以降の冷間加工率を30〜80%とするのが好ましい。冷間加工率は高くなるほど結晶粒微細化の効果により強度が上昇するが、冷間加工による製造コストの上昇を招くおそれがある。
【0037】
前記本発明の第1、第2および第3の特徴とする工程により製造された成形品は、人工時効後の耐力が250MPa以上の高強度をそなえたものとなる。
【0038】
本発明による6000系アルミニウム合金材の成形加工方法によれば、例えば自動車のボディシート、あるいは各種筐体等の部材、ならびにバンパーやステハンビーム等の自動車部品、二輪車用フレーム等の製造において、6000系アルミニウム合金材を簡易且つ確実に成形し、適用することができ、必要となる強度を確保し、軽量化を達成することができる。従って、環境保護に対して省エネルギーの観点から大きく貢献することができる。
【実施例】
【0039】
以下、本願発明の実施例を比較例と対比して説明し、その効果を実証する。なお、これらの実施例は、本願発明の一実施態様を示すためのものであり、本発明はこれらに限定されない。
【0040】
実施例1、比較例1
表1に示す組成を有するアルミニウム合金(E1〜E12)およびアルミニウム合金(C1〜C10)をDC鋳造により造塊し、520℃で10時間均質化熱処理を行った。次に、500℃で熱間圧延を開始し板厚4mmまで熱間圧延を行った後、350℃で2時間の中間焼鈍を施して室温まで炉内冷却を行い、その後、冷間圧延を行い、板厚1.5mmとした。得られた冷間圧延材を板幅200mm、長さ250mm(板厚1.5mm)に切断して成形加工に供するためのアルミニウム合金板材(試験材)とした。なお、表1において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
【0041】
得られた試験材(アルミニウム合金板材)について、以下の成形加工を行い、成形加工性、機械的性質を評価した。
予めアルミニウム合金板材に離型剤を塗布した上で、アルミニウム合金板材を上型と下型からなるアイロン加熱装置に装着して、540℃の温度に急速加熱して60秒間保持する溶体化処理を行った後、50℃とした金型を構成する上型と下型との間に挟持固定してプレス成形と同時に、同じ金型内で急速に冷却して焼入れ処理し、底面を有する断面コ字形状のプレス成形品を作製した。
【0042】
得られたプレス成形品について、割れ発生の有無を観察すると共に、プレス成形品の底面よりJIS Z2241、JIS5号試験片を採取して機械的性質(塗装焼付け処理前)を測定し、該試験片を、プレス成形後、1週間室温時効した後、170℃の温度で8時間の人工時効処理を行い、機械的性質(塗装焼付け処理後)を測定した。結果を表2に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
表2に示すように、本発明に従う試験材1〜12はいずれも、プレス成形品に割れが発生することのない良好な成形加工性を示し、塗装焼付け処理前においても200MPaに近い耐力、塗装焼付け処理後においては300MPaを超える耐力を示す高強度をそなえていることが確認された
【0046】
これに対して、試験材13はSiの含有量が多いため、成形加工性が劣っている。試験材14はMgの含有量が多いため焼入れ性がわるく、機械的性質が劣っている。試験材15はCuの含有量が多いため、成形加工性が劣っている。試験材16はMnの含有量が多いため鋳塊割れが発生し、試験材17はFeの含有量が多いため製造工程で割れが生じ、いずれも試験材(アルミニウム合金板材)を製造することができなかった。
【0047】
試験材18はZnの含有量が多く、耐食性が劣るものであり、成形加工で割れも生じた。試験材19、20および21はそれぞれCr、ZrおよびTiの含有量が多いため、いずれも成形加工性が劣っている。試験材22はMgの含有量が少ないため、強度が低くなった。
【0048】
実施例2、比較例2
実施例1で造塊したアルミニウム合金E1の鋳塊を用い、この鋳塊を520℃で10時間均質化熱処理した後、表3に示す熱間圧延開始温度で熱間圧延を開始し板厚4mmまで熱間圧延を行い、370℃で1時間の中間焼鈍を施して室温まで炉内冷却を行い、その後、冷間圧延を行い、板厚1.5mmとした。得られた冷間圧延材を板幅200mm、長さ250mm(板厚1.5mm)に切断して成形加工に供するためのアルミニウム合金板材(試験材)とした。なお、表3において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
【0049】
【表3】

【0050】
得られた試験材(アルミニウム合金板材)について、以下の成形加工を行い、成形加工性、機械的性質を評価した。
アルミニウム合金板材(試験材)について、540℃の温度に急速加熱して60秒間保持する溶体化処理、溶体化処理後、冷却速度50℃/sで室温まで冷却する焼入れ処理を行い、焼入れ処理後10分経過した後、室温の金型を構成する上型と下型との間に挟持固定し、低粘度潤滑油を用いてプレス成形して、長方形形状の底面を有する断面コ字形状のプレス成形品を作製した。
【0051】
得られたプレス成形品について、割れ発生の有無を観察すると共に、プレス成形品の底面よりJIS Z2241、JIS5号試験片を採取して機械的性質(塗装焼付け処理前)を測定し、該試験片を、プレス成形後、1週間室温時効した後、170℃の温度で8時間の人工時効処理を行い、機械的性質(塗装焼付け処理後)を測定した。結果を表4に示す。
【0052】
【表4】

【0053】
表4に示すように、本発明に従う試験材23〜25はいずれも、プレス成形品に割れが発生することのない良好な成形加工性を示し、塗装焼付け処理前においても200MPaに近い耐力、塗装焼付け処理後においては300MPaを超える耐力を示す高強度をそなえていることが確認された
【0054】
これに対して、試験材26は熱間圧延開始温度が高過ぎるため、熱間圧延で割れが発生し試験材の製造ができなかった。試験材27は熱間圧延開始温度が低いため、熱間圧延のコストが著しく高くなるものであり、強度も低下した。
【0055】
実施例3、比較例3
実施例1で造塊したアルミニウム合金E4の鋳塊を用い、この鋳塊を530℃で8時間均質化熱処理した後、480℃で熱間圧延を開始し板厚4mmまで熱間圧延を行い、370℃で1時間の中間焼鈍を施して室温まで炉内冷却を行い、その後、冷間圧延を行い、板厚1.5mmとした。得られた冷間圧延材を板幅200mm、長さ250mm(板厚1.5mm)に切断して成形加工に供するためのアルミニウム合金板材(試験材)とした。
【0056】
得られたアルミニウム合金板材(試験材)に予め二硫化モリブデン系の離型剤を塗布した上で、表5に示す溶体化処理条件で溶体化処理を行い、溶体化処理後の試験材を500℃とした金型を構成する上型と下型との間に挟持固定してプレス成形した後、得られたプレス成形品を一旦金型から取り出し、上型と下型からなる室温の金型内に収め、50℃/秒の冷却速度で急速に冷却して焼入れ処理し、底面を有する断面コ字形状のプレス成形品を作製した。なお、表5において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
【0057】
得られたプレス成形品について、割れ発生の有無を観察すると共に、プレス成形品の底面よりJIS Z2241、JIS5号試験片を採取して機械的性質(塗装焼付け処理前)を測定し、該試験片を、焼入れ処理後後、1週間室温時効した後、170℃の温度で8時間の人工時効処理を行い、機械的性質(塗装焼付け処理後)を測定した。結果を表6に示す。
【0058】
【表5】

【0059】
【表6】

【0060】
表6に示すように、本発明に従う試験材28〜31はいずれも、プレス成形品に割れが発生することのない良好な成形加工性を示し、塗装焼付け処理前においても200MPaに近い耐力、塗装焼付け処理後においては300MPaを超える耐力を示す高強度をそなえていることが確認された
【0061】
これに対して、試験材32、33は溶体化処理時間が短いため、また、試験材34は溶体化処理温度が低いため、いずれも強度が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%(以下、合金成分値は質量%で示す)で、Si:0.3%以上4.0%以下、Mg:0.3%以上2.0%以下、Cu:2.0%以下、Mn:1.5%以下、Fe:1.5%以下、Zn:2.0%以下、Cr:0.50%以下、Zr:0.50%以下、Ti:0.50%以下、V:0.50%以下を含有し、残部がアルミニウムおよび不可避的不純物からなる6000系アルミニウム合金材を成形加工する方法であって、該アルミニウム合金材を溶体化処理する工程と、溶体化処理後、金型内で成形加工を行う工程と、成形加工に続いて金型内で250℃以下の温度まで冷却して焼入れ処理する工程を含むことを特徴とする6000系アルミニウム合金材の成形加工方法。
【請求項2】
請求項1記載の6000系アルミニウム合金材を溶体化処理する工程と、溶体化処理後、250℃以下の温度まで冷却して焼入れ処理する工程と、焼入れ処理後、120時間以内に金型内で成形加工を行う工程を含むことを特徴とする6000系アルミニウム合金材の成形加工方法。
【請求項3】
請求項1記載の6000系アルミニウム合金材を溶体化処理する工程と、溶体化処理後、加熱をした金型内で成形加工を行う工程と、成形加工後、金型から離型して250℃以下の温度まで冷却して焼入れ処理する工程を含むことを特徴とする6000系アルミニウム合金材の成形加工方法。
【請求項4】
400℃以上融点未満の温度で溶体化処理することを特徴とする請求項1または2記載の6000系アルミニウム合金材の成形加工方法。
【請求項5】
400℃以上融点未満の温度で溶体化処理し、350℃以上融点未満の温度に加熱した金型内で成形加工を行うことを特徴とする請求項3記載の6000系アルミニウム合金材の成形加工方法。
【請求項6】
前記焼入れ処理において、400℃から250℃までの冷却速度を2℃/秒以上とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の6000系アルミニウム合金材の成形加工方法。
【請求項7】
前記溶体化処理を金型内で行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の6000系アルミニウム合金材の成形加工方法。
【請求項8】
前記6000系アルミニウム合金材が圧延材であり、該圧延材の熱間圧延は開始温度を350℃以上として行われたものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の6000系アルミニウム合金材の成形加工方法。
【請求項9】
前記6000系アルミニウム合金材が押出材であり、該押出材の熱間押出は開始温度を350℃以上として行われたものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の6000系アルミニウム合金材の成形加工方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の6000系アルミニウム合金材の成形加工方法により成形されたことを特徴とする成形加工品。