説明

APD測定器の検査装置及び検査方法

【課題】APD測定器の動作状態を高精度に検査する。
【解決手段】検査装置40は、APD測定器1の動作状態を検査するべく、被測定信号の中心周波数に合わせた検査信号を発生する検査信号発生部41と、検査信号の振幅レベルをAPD測定器1のダイナミックレンジの範囲内でランダムに可変制御する制御部42とを備える。APD測定器1は、検査装置40から検査信号が入力されると、振幅レベルの可変に伴う検査信号の振幅ピーク値のカウントに基づいて作成されるPDFヒストグラムと、検査信号によるAPDデータと基準APDデータとの差に基づいて算出される時間捕捉率とを、動作状態を示す検査結果として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号の周波数帯域成分を分析し、各周波数帯域成分の大きさが所定時間中に所定の閾値を超える確率(振幅確率分布、或いは、単に時間率と言われる。以下「APD:Amplitude Probability Distribution」と言う。)を測定するAPD測定器が正常に動作しているか否かを検査する検査装置及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
APD測定は、振幅が一定レベルを超える受信信号の時間確率を求める統計データの取得方法の1つであり、統計的に受信信号を観測することにより、瞬時に見て取れない信号特性を観測することができる。
【0003】
従来のAPD測定器としては、受信信号をアナログデジタル変換器(以下、単に「A/D変換器」という)でデジタルデータに変換して、その出力をフィルタバンクで複数の周波数帯域成分に振り分けて、各周波数帯域成分の振幅を個々に所望の量で重み付けをして合成し、その出力を受けて重付APDが合成後の合成振幅の発生頻度に基づく確率を求め、求めた確率を様々な形態で表示部に表示させるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このようなAPD測定器の測定対象とする信号の帯域が広い場合には、時間的な信号の振る舞いをつぶさに観測しようとすると、この帯域のなかで最も高い周波数の2倍以上の速さで信号をサンプリングして観測する必要がある。さらに、帯域のAPD測定を行うには、10倍以上のサンプリングをして観測する必要がある。例えば、測定帯域が10MHzの場合は、その帯域の10倍の10M×10=100M/秒でサンプリングしてデータを観測する必要がある。
【0005】
この膨大なデータのAPDを測定する場合には、データを実時間処理で記憶し累積する必要が生じてくる。この実時間処理を減らすため、従来のAPD測定器は、サンプリングしたデータを実用に差し支えない精度で量子化して、ある一定時間(例えば、1秒間)あたりの出現頻度を蓄えることにより、確率密度関数(PDF、Probability Density function)のデータを作成する。
【0006】
このPDFデータは、一定時間毎(例えば、1秒毎)に発生するので、PDFデータを累積加算して求める分布関数であるAPD統計データを作成する処理は、実時間で実行する必要はなく、一定時間毎に処理することができて、表示処理や信号処理等のより複雑なハードウェアでは対応しがたい処理を容易に処理できるソフトウェア処理により実行することができる。
【0007】
ソフトウェア処理は、処理速度の点ではハードウェアに比べれば遅いが、製造コスト面や将来の技術継承性では非常によい実現方法であり、判断子を含む制御等のような、より複雑な処理ができ、ソフトウェア処理の有用性を含めてハードウェア処理との並存が有効な実現手段となる。
【0008】
このように従来のAPD測定器は、実時間処理と非実時間処理との2つの処理によってAPD測定を実現するようになっている。ここで、実時間処理は、ハードウェアによって処理され、非実時間処理はソフトウェアによって処理される。
【0009】
ハードウェアにおいては、受信信号が、同相(In-Phase、以下、単に「I」という)成分と直交(Quadrature-Phase、以下、単に「Q」という)成分とに分離され、包絡線検波され、対数変換される。
【0010】
ここで、信号レベルを0.1dB毎にカウントする場合には、1000個のカウンタを用意することにより、ダイナミックレンジが100dBで0,1dB毎の信号履歴を累積することができる。同様に、信号レベルを0.05dB毎にカウントする場合には、2000個のカウンタを用意することにより、ダイナミックレンジが100dBで0.05dB毎の信号履歴を蓄積することができる。
【0011】
これらのカウンタは、各周波数帯域成分に対して用意する必要があるため、例えば、サンプリング周期を100M/sとし、カウンタの量子化したレベルを1000段階と仮定すると、1秒間に最大100M個×1000個のカウントの内容値がハードウェアからソフトウェア処理側に転送される。100Mまでの整数値は28ビットで表現できるため、この例では、各周波数帯域成分に対するカウント値は、28×1000=28kb/sで転送されることになる。一方、包絡線検波後の時系列データの転送の場合は、毎秒100M/s×16ビット(1サンプルあたり16bitとする。)となる、1.6Gb/sの転送量を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−275401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、APD測定は、信号の時間軸捕捉率を確保した測定手法であるので、時間軸での信号捕捉率99%以上を確保するための[規格:cispr16-1-1 3rd ed."Specification for Radio Disturburnce and Immunity Measuring Apparatus and Methods"(2010)]多チャネルのAPD測定に関する検査手法が重要な課題であった。
【0014】
しかしながら、従来の検査手法は、ある時刻範囲の欠損を調べるために、時間発生頻度が決まった振幅の検査法であり、例えばランプ関数により連続的な変化を与え、その直線的な振幅直線性を検査するなどを行っているが、いずれも単一チャネルを調べる簡便的な手法であるが、動的なAPD回路の線形性や信号捕捉率を調べる手法としては信頼性に欠けており、APD測定器の動作状態を高精度に検査することができなかった。
【0015】
また、APDの挙動は、時間軸のランダムな変動を捉える測定であり、従来の手法では、このランダムな挙動の振る舞いを図るには不十分な手法であった。なぜならば、直流レベルの低周波のON/OFF、もしくは、同じくランプ関数を与える手法にしても、この検査信号の有する低周波数成分のAPD構成回路に対するレスポンスであり、ランダム挙動の動作に対するレスポンスが期待できる検査手法となっていなかった。
【0016】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、APD測定器の動作状態を高精度に検査することができるAPD測定器の検査装置及び検査方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載されたAPD測定器の検査装置は、被測定信号の周波数帯域成分を分析し、分析された各周波数帯域成分の振幅をそれぞれ検出し、検出された各周波数帯域成分の振幅について単位時間当たりの振幅確率を時間経過毎に求めるAPD測定器1の検査装置40であって、
前記APD測定器の動作状態を検査するべく、前記被測定信号の中心周波数に合わせた検査信号を発生する検査信号発生部41と、
前記検査信号の振幅レベルを前記APD測定器のダイナミックレンジの範囲内でランダムに可変制御する制御部42とを備え、
前記APD測定器は、前記振幅レベルの可変に伴う前記検査信号の振幅ピーク値のカウントに基づいて作成されるPDFヒストグラムと、前記検査信号によるAPDデータと基準APDデータとの差に基づいて算出される時間捕捉率とを、前記APD測定器の動作状態を示す検査結果として出力することを特徴とする。
【0018】
請求項2に記載されたAPD測定器の検査装置は、請求項1のAPD測定器の検査装置において、
前記制御部42は、前記APD測定器が測定対象とする前記被測定信号の中心周波数に合わせて前記検査信号の中心周波数を可変制御することを特徴とする。
【0019】
請求項3に記載されたAPD測定器の検査装置は、請求項1のAPD測定器の検査装置において、
前記制御部42は、PN系列のランダム数に対応した発生順序で前記検査信号を一巡させて振幅ピーク値だけのPDFヒストグラムを作成することを特徴とする。
【0020】
請求項4に記載されたAPD測定器の検査装置は、請求項1〜3の何れかのAPD測定器の検査装置において、
前記制御部42は、前記PDFヒストグラムが一様分布を示し、且つ前記時間捕捉率が予め設定される許容値範囲内にあるときに、前記APD測定器1が振幅軸上及び時間軸上の両方で正常に動作していると判定する判定部42aを備えたことを特徴とする。
【0021】
請求項5に記載されたAPD測定器の検査方法は、被測定信号の周波数帯域成分を分析し、分析された各周波数帯域成分の振幅をそれぞれ検出し、検出された各周波数帯域成分の振幅について単位時間当たりの振幅確率を時間経過毎に求めるAPD測定器1の検査方法であって、
前記被測定信号の中心周波数に合わせた検査信号の振幅レベルを前記APD測定器のダイナミックレンジの範囲内でランダムに可変制御するステップと、
前記振幅レベルの可変に伴う前記検査信号の振幅ピーク値のカウントに基づくPDFヒストグラムを作成するステップと、
前記検査信号によるAPDデータと基準APDデータとの差に基づいて時間捕捉率を算出するステップとを含むことを特徴とする。
【0022】
請求項6に記載されたAPD測定器の検査方法は、請求項5のAPD測定器の検査方法において、
さらに、前記被測定信号の中心周波数に応じて前記検査信号の中心周波数を可変制御するステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る検査装置及び検査方法によれば、極めて簡素な構成及び手法により、APD測定器の振幅軸方向及び時間軸方向の両方の動作状態を高精度に検査することができる。
【0024】
被測定信号の中心周波数に応じて前記検査信号の中心周波数を可変制御すれば、従来の検査方法のような単一チャネルのみでなく、多チャネルの周波数にも対応することができる。
【0025】
PN系列のランダム数に対応した発生順序で検査信号を一巡させて振幅ピーク値だけのPDF分布を作成すれば、極めて検査性の良い手法による結果が得られ、APD測定器の振幅軸方向及び時間軸方向の両方の動作状態を正確に検査することができる。
【0026】
PDFヒストグラム(APDデータのレベル)が一様分布を示し、且つ時間捕捉率が予め設定される許容値範囲内にあるときに、APD測定器が振幅軸上及び時間軸上の両方で正常に動作していると判定する手段を備えた構成によれば、APD測定器の動作状態の検査から判定までの一連の処理を自動的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るAPD測定器の検査装置の実施の形態の一例を示すブロック図である。
【図2】図1のAPD測定器のソフトウェア処理部の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る検査装置で用いられるガウスパルス波形を示す図である。
【図4】本発明に係る検査装置によってAPD測定器を検査する際に用いられるガウスパルス波形のフィルタバンクでのガウスフィルタ処理後の時間応答図である。
【図5】本発明に係る検査装置によってAPD測定器を検査した際のAPD及びヒストグラムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。尚、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではなく、この形態に基づいて当業者などによりなされる実施可能な他の形態、実施例及び運用技術などはすべて本発明の範疇に含まれる。
【0029】
図1は本発明に係るAPD測定器の検査装置の実施の形態の一例を示すブロック図、図2は図1のAPD測定器のソフトウェア処理部の構成を示すブロック図、図3は本発明に係る検査装置で用いられるガウスパルス波形を示す図、図4は本発明に係る検査装置によってAPD測定器を検査する際に用いられるガウスパルス波形のフィルタバンクでのガウスフィルタ処理後の時間応答図、図5は本発明に係る検査装置によってAPD測定器を検査した際のAPD及びヒストグラムの一例を示す図である。
【0030】
まず、検査対象となるAPD測定器の構成について図1及び図2を参照しながら説明する。
【0031】
本発明に係る検査装置及び検査方法の対象となるAPD測定器は、例えば屋外等で受信される外来電波(妨害電波)を被測定信号とし、この被測定信号の周波数帯域成分を分析し、分析された各周波数帯域成分の振幅をそれぞれ検出し、検出された各周波数帯域成分の振幅について単位時間当たりの振幅確率を時間経過毎に求め、APDの測定を行うものである。
【0032】
本例のAPD測定器1は、図1に示すように、各種ハードウェアによって構成されるハードウェア部2と、ソフトウェア処理を実行するソフトウェア処理部3と、ハードウェア部2からソフトウェア処理部3へのデータ転送やソフトウェア処理部3から後述する検査装置40へのデータ転送を行うためのインタフェース4と、切替部5とを備えている。
【0033】
ハードウェア部2は、アンテナ10を介してRF(Radio Frequency )信号を受信するRF受信部11と、RF信号をベースバンド信号にダウンコンバートするダウンコンバータ12(以下、単に「D/C」という)と、ベースバンド信号をデジタル信号に変換するA/D変換部13と、デジタル信号に対して測定対象の帯域で帯域制限を行う帯域制限フィルタ14と、帯域制限された信号をI成分とQ成分とに分離するI/Q分離部15と、測定対象として予め定められた各周波数帯域成分を抽出するフィルタバンク16と、周波数帯域成分毎に包絡線検波する包絡線検波部17と、包絡線検波の結果を対数変換する対数変換部18とを備えている。
【0034】
フィルタバンク16は、測定対象の各周波数帯域成分のI成分とQ成分とにそれぞれ対応する複数チャネルのバンドパスフィルタによって構成される。複数チャネルのバンドパスフィルタは、隣接するフィルタ間の周波数帯域の一部が重複し、中心周波数が所定周波数ずつずれている。また、包絡線検波部17は、測定対象の各周波数帯域成分にそれぞれ対応する複数の包絡線検波回路によって構成され、各包絡線検波回路は、該当する周波数帯域成分I成分とQ成分とに基づいて自乗検波することにより、各周波数帯域成分の信号レベルを算出する。
【0035】
対数変換部18は、各包絡線検波回路に対応した複数の対数変換回路によって構成され、各周波数帯域成分の信号レベルをdB単位に対数変換するようになっている。すなわち、測定対象の周波数帯域成分と信号レベルを所定レベル毎に量子化するときの解像度とに応じて分割(例えば、ダイナミックレンジが100dBで0.1dB間隔に1000分割)している。
【0036】
なお、本形態におけるA/D変換部13、帯域制限フィルタ14、I/Q分離部15、フィルタバンク16、包絡線検波部17及び対数変換部18は、本発明における信号レベル取得部を構成する。
【0037】
カウンタ部19は、測定対象の周波数帯域成分と、信号レベルを量子化するときの解像度に応じた複数のカウンタによって構成され、対数変換された信号レベルの出現頻度を周波数帯域成分毎に累積する。例えば、カウンタ部19は、測定対象の周波数帯域成分の数をNとし、ダイナミックレンジを100dBとし、0.1dB毎の信号履歴を蓄積する場合には、1000×N個のカウンタによって構成される。
【0038】
データ転送部20は、カウンタ部19を構成する各カウンタの値を一定の時間間隔T(例えば、1秒間隔)でソフトウェア処理部3にインタフェース4を介して転送するバッファで構成される。なお、カウンタ部19を構成する各カウンタは、時間間隔Tでデータ転送部20にカウント値の転送が終わると自動的にカウント値を0にする処理を行う。
【0039】
図2に示すように、ソフトウェア処理部3は、インタフェース4を構成するバスにそれぞれ接続された、制御部としてのCPU30と、第1記憶部としてのRAM31と、第2記憶部としてのROM32と、第3記憶部としてのハードディスク装置33と、キーボード装置やポインティングデバイス等よりなる入力装置34と、液晶ディスプレイ等よりなる表示装置35とを備えている。なお、ハードディスク装置33は、不揮発性メモリの機能をもった記憶装置でもよい。
【0040】
RAM31又はハードディスク装置33には、後述する時間軸上の検査を行う際に参照される基準APDデータ(基準APDカーブ)が記憶されている。この基準APDデータは、フィルタバンク16を構成する複数のバンドパスフィルタの各チャネル毎の中心周波数の周波数信号(正弦波)でガウスパルス波形を変調した検査信号による理想的なAPD値として予め求められるものである。
【0041】
ROM32およびハードディスク装置33には、ソフトウェア処理部3を機能させるためのプログラムが記憶されている。すなわち、CPU30がRAM31を作業領域としてROM32およびハードディスク装置33に記憶されたプログラムを実行することにより、ソフトウェア処理部3が機能する。
【0042】
CPU30は、入力装置34から選択入力されるモード(測定モード、検査モード)に応じて切替部5を切替制御している。すなわち、入力装置34から測定モードが選択入力されると、アンテナ10とRF受信部11との間が接続されるように切替部5を切替制御している。また、入力装置34から検査モードが選択入力されると、検査装置40とRF受信部11との間が接続されるように切替部5を切替制御している。
【0043】
また、CPU30は、データ転送部20から転送されたカウンタ部19の各カウンタのカウント値をハードディスク装置33に格納している。そして、CPU30は、ハードディスク装置33に格納された各カウンタのカウント値に基づいてAPDを算出し、この算出したAPDを表示装置35に表示させている。また、表示装置35は、後述する検査装置40からの検査信号に基づいてAPD測定器1が正常動作しているか否かの検査結果(振幅軸方向の検査結果、時間軸方向の検査結果)を表示している。
【0044】
上記構成によるAPD測定器1では、被測定信号の測定を行うべく入力装置34から測定モードが選択入力されると、アンテナ10とRF受信部11との間を接続するように切替部5を切替制御する。そして、入力装置34からの入力指示に従ってAPDの測定が開始されると、アンテナ10を介してRF受信部11で被測定信号(RF信号)を受信し、この被測定信号(RF信号)をD/C12、A/D変換部13、帯域制限フィルタ14、I/Q分離部15、フィルタバンク16、包絡線検波部17及び対数変換部18によって被測定信号の周波数帯域成分毎の信号レベルを取得する。
【0045】
このように取得された被測定信号の周波数帯域成分毎の信号レベルの値は、ハードウェア部2からインタフェース4を介してソフトウェア処理部3へ転送され、ハードディスク装置33に周波数帯域成分毎に格納される。
【0046】
ソフトウェア処理部3では、CPU30によってAPDが算出され、表示装置35による表示が更新され、APDの算出結果がハードディスク装置33に周波数帯域成分毎に格納される。
【0047】
次に、上記のように構成されるAPD測定器1を検査する検査装置40について説明する。
【0048】
検査装置40は、検査対象となるAPD測定器1に対し、出力側が切替部5に接続され、入力側がインタフェース4を介してソフトウェア処理部3に接続されており、図1に示すように、検査信号発生部41と制御部42とを備えて概略構成される。
【0049】
なお、切替部5は、入力装置34から検査モードが選択入力されると、ソフトウェア処理部3のCPU30からの切替信号により、RF受信部11と検査信号発生部41との間が接続されるように切替制御される。
【0050】
検査信号発生部41は、APD測定器1が振幅軸上及び時間軸上で正常に動作しているか否かを検査するための検査信号を発生するもので、基準パルス発生部41a、周波数発生部41b、変調部41cを備えている。
【0051】
基準パルス発生部41aは、基準パルスとして、図3に示すようなベースバンド信号のガウスパルス波形を発生している。
【0052】
周波数発生部41bは、APD測定器1が測定対象とする受信信号(被測定信号)の中心周波数(APD測定器1が受信可能な周波数範囲内の検査対象となる周波数)に合わせた周波数信号(正弦波信号)を発生している。また、周波数発生部41bは、多チャネルAPD測定に対応するため、フィルタバンク16から一つのチャネルのバンドパスフィルタを選択すると、制御部42の制御により、そのチャネルの中心周波数に可変して周波数信号(正弦波)を発生している。
【0053】
変調部41cは、基準パルス発生部41aが発生するガウスパルス波形を、周波数発生部41bが発生する周波数信号(正弦波)でパルス変調し、このパルス変調された信号を検査信号として出力している。この検査信号は、APD測定器1が測定対象とする受信信号(被測定信号)の中心周波数に合わせてフィルタバンク16から一つのチャネルのバンドパスフィルタを選択し、この選択したチャネルの中心周波数に可変される。また、サンプル時間軸では、サンプル間の時間間隔の値によりそのフーリエ変換の性質から周波数特性の形が拡大縮小することになる。
【0054】
なお、本例では、ガウスパルス波形を周波数信号(正弦波)でパルス変調した信号を検査信号としているが、検査対象のAPD測定器1のパルス形状に合わせた検査信号を用いてもよい。一般的に、時間形状と周波数形状のパルスにおいて一定であるガウスパルス波形を用いるのが好ましいが、他の波形を検査信号として用いる場合には、周波数形状に注意し、時間信号の形状を考慮する必要がある。その考え方としては、APD測定が信号時間の振る舞いを検出することにあるので、そのフィルタ(帯域制限フィルタ14、フィルタバンク16)の応答を励振できる時間信号を選ぶことになる。
【0055】
ここで、図3は変調部41cからAPD測定器1に入力されるガウスパルス波形の時間応答を示している。また、図5はガウスパルス波形の周波数時間応答をAPD測定器1のカウンタ部19に入力した際のPDFヒストグラムを示しており、同図において、PDFヒストグラムを累積したものがAPDになる。なお、このときの取り込み時間間隔は、フィルタバンク16の周波数帯域の10倍以上のサンプリング時間を利用している。
【0056】
制御部42は、APD測定器1のダイナミックレンジの範囲内において、基準パルス発生部41aが発生する基準パルスの振幅レベル(検査信号の振幅レベルと対応)を所定の分解能のステップ数でレベル振幅軸方向にランダムに可変制御している。
【0057】
また、制御部42は、APD測定器1が測定対象とする受信信号(被測定信号)の中心周波数に合わせてフィルタバンク16から一つのチャネルのバンドパスフィルタを選択して切替制御し、選択されたチャネルの中心周波数に合わせた周波数信号(正弦波)を発生するべく周波数発生部41bを制御している。
【0058】
さらに、制御部42は、APD測定器1に検査信号を入力したときの検査結果に基づいてAPD測定器1が正常に動作しているか否かを判定する判定部42aを有している。判定部42aは、APD測定器1に検査信号を入力した際に、その結果として、インタフェース4を介してソフトウェア処理部3から入力される検査結果に基づいてAPD測定器1が正常に動作しているか否かを判定している。すなわち、判定部42aは、振幅レベル軸上の検査結果として、検査信号の振幅ピーク値とカウンタ部19のレベル結果値とが全て一致し、且つ時間軸上の検査結果として、各振幅レベルにおける各チャネルの中心周波数毎の時間捕捉率が予め設定される許容値範囲以内に収まっているときに、APD測定器1が正常に動作していると判定している。
【0059】
次に、上記構成による検査装置40を用いたAPD測定器1の検査方法について説明する。検査装置40によりAPD測定器1を検査する場合には、入力装置34から検査モードを選択入力する。これにより、ソフトウェア処理部3のCPU30は、RF受信部11と検査信号発生部41との間が接続されるように切替部5を切替制御する。そして、検査装置40の検査信号発生部41からは、APD測定器1のRF受信部11に対して検査信号が入力される。検査信号は、変調部41cにおいて、基準パルス発生部41aが発生する時間軸のガウスパルス波形を、周波数発生部41bが発生する周波数信号(正弦波)でパルス変調したものである。
【0060】
(振幅軸上の検査)
APD測定器1の振幅軸上の検査は、APDレベルの検査であり、APD測定の要となるフィルタの帯域すべてを励振動させながら、レベル振幅軸方向に振幅をランダムに可変する。すなわち、制御部42の制御により、周波数発生部41bが発生する周波数信号(正弦波)の中心周波数を、フィルタバンク16から選択されたバンドパスフィルタの一つのチャネルの中心周波数に合わせて可変するとともに、基準パルス発生部41aが発生するガウスパルス波形(基準パルス)の振幅レベルをAPD測定器1のダイナミックレンジの範囲内でランダムに可変し、ガウスパルス波形を周波数信号でパルス変調した検査信号をAPD測定器1に入力する。これにより、より実際の場合に等しい応答が得られ、測定動作に近いモードで振幅軸方向の測定結果が得られ、検証できる。
【0061】
具体的には、上述した振幅レベル及び中心周波数(1チャネルの場合は固定)を可変した検査信号をAPD測定器1に入力したときの振幅ピーク値をカウンタ部19でカウントして図5に示すPDFヒストグラムをソフトウェア処理部3で作成する。この作成されたPDFヒストグラムは、検査結果として、インタフェース4を介して検査装置40に送られる。検査装置40における制御部42の判定部42aでは、ソフトウェア処理部3からのPDFヒストグラムによるカウンタ部19のレベル結果値と検査信号の振幅ピーク値とを比較し、両者が全て一致してPDFヒストグラム(APDデータのレベル)が一様に分布していれば、APD測定器1が振幅軸上で正常に動作していると判定する。
【0062】
(時間軸上の検査)
フィルタバンク16の出力は、時間軸上のガウスパルス波形のAPD測定後において、その帯域に応じたガウス形状の時間信号のパルスとなる。図4はそのときのガウス出力波形である。そして、フィルタバンク16の周波数帯域の10倍以上のサンプリング時間で、例えば、図4中のサンプル点を収集計算したAPDカーブの形状は、上述したパルスの時間軸方向に対し、振幅軸上の検査で検査信号の振幅レベルが決まると、一意に決定できる。この性質を利用して、APDカーブの形状により、時間捕捉率の完全な検査が可能となる。
【0063】
具体的には、上述した振幅レベル及び中心周波数(1チャネルの場合は固定)を可変した検査信号をAPD測定器1に入力したときにソフトウェア処理部3で算出されるAPDデータ(APDカーブ)と、予め記憶される基準APDデータ(基準APDカーブ)とを比較し、その差に基づいて時間捕捉率を算出する。
【0064】
ここで、時間捕捉率の算出方法について説明する。測定したAPDデータのレベルLei、基準APDデータのレベルLsiとする。時間捕捉率の確保とは、所定の時間に所定の信号レベルが観測された状態である。サンプリング計測時間はAPD測定器の時間に従うことにする。その時の時刻をiで示している。例えば、図4のサンプル点がLei(基準データのときはLsi)を示し、サンプリング計測時間iのレベルLeiを示しているサンプリング時間のタイミングが測定APDと基準APDと同一のときは、比較した差は、(Lei−Lsi)/Lsi[i=1,….N]から算定できる。算出した時間捕捉率の例は、下記(1),(2)である。
【0065】
(1)所定のレベルからの変動幅を考えて、予め決めた規格幅値をもとに、If|(Lei−Lsi)/Lsi|≧規格幅値:NGi,If not:Giで時間捕捉率を下記数1と計算する。
【0066】
【数1】

【0067】
(2)観測結果としてAPDカーブ(レベル 確率のカーブ)の近似度から見る評価もできる。重要なレベルL0までの確率を計算して、その確率値の差を計算する。
APD(L0)=∫p(L)dL(+∞≦L≦L0)の確率をもって、[1−{APDe(L0)ーAPDs(L0)}/APDs(L0)]*100%による計算値で時間捕捉率とする。
【0068】
そして、上記のようにして算出された時間捕捉率は、検査結果として、インタフェース4を介して検査装置40に送られる。検査装置40における制御部42の判定部42aでは、ソフトウェア処理部3からの時間捕捉率が予め設定される許容値範囲内に収まり、決まった分布の時間捕捉率を示していれば、APD測定器1が時間軸上で正常に動作していると判定する。
【0069】
このように、本発明は、周波数と時間のパルス生成によるランダムな検査方法であり、APD測定器1を構成する回路の機能を構成するハード処理部をフルに動作させ、その結果として、振幅軸方向に関してはPDFヒストグラム(APDデータのレベル)が一様分布を示し、且つ時間軸方向に関しては決まった分布の時間捕捉率を示せば、APD測定器1が振幅軸上及び時間軸上の両方で正常に動作していると自動的に判定している。これにより、極めて簡素な手法によりAPD測定器1の振幅軸方向及び時間軸方向の両方における動作状態を高精度に検査でき、APD測定器1の動作状態を容易に判定することができる。しかも、APD測定器1の振幅軸方向及び時間軸方向の両方の動作状態に関して、検査から判定までの一連の処理を自動的に行うことができる。また、従来の検査方法のような単一チャネルのみでなく、多チャネルの周波数にも対応することができる。
【0070】
なお、上述した検査方法は、多チャネルAPD測定法の構成要素を意識した検査方法であり、APD測定器1の測定内部の線形性を維持しているか否かを汎用的なAPDカーブで検査できる手法である。そして、線形性を維持していなければ、正確な振幅確率分布が得られないので、より厳密なAPD測定器1の検査を実施することができる。
【0071】
また、多チャネルによる検査では、制御部42の制御により、フィルタバンク16を構成するバンドパスフィルタを選択的に切り替え、APD測定器1に入力される検査信号の中心周波数をずらし、各チャネルの指定を行っている。さらに、APD測定器1に入力される検査信号としては、基準パルス発生部41aから発生するガウスパルス波形を、周波数発生部41bから発生する複数チャネルの周波数信号(正弦波)でパルス変調しても良い。この場合、APD測定器1に対し、多チャネル同時に合成した検査信号を入力することができ、多チャネル同時検査が可能になる。
【0072】
ところで、上述した実施の形態において、ソフトウェア処理部3が得る振幅軸上の検査及び時間軸上の検査による検査結果は、ソフトウェア処理部3からインタフェース4を介して検査装置40に出力される構成としているが、これに限定されるものではなく、検査結果を表示装置35に表示させても良い。この場合、測定者は、表示装置35に表示される検査結果を見て、APD測定器1が正常に動作しているか否かを判定することができる。また、上記検査結果と合わせて判定結果を表示装置35に表示するようにしても良い。この場合、測定者は、表示装置35の表示内容からAPD測定器1が正常に動作しているか否かを即座に知ることができる。また、動作異常の場合には、検査結果からその原因を推測することができる。
【0073】
また、検査対象となるAPD測定器1に入力される検査信号としては、最初の時間波形が持つ振幅値の分解能のステップ数に対応したレベルをランダムに発生できればよく、ガウスパルス波形を周波数信号(正弦波)でパルス変調した信号に限定されるものではない。例えば、周知のパルスパターン発生器により発生可能な擬似ランダムパターンであるPNパターンを用いることもできる。
【0074】
この場合、一回測定のAPD図(図5)の振幅ピーク値と同様に、最初の時間波形が持つ振幅値の分解能のステップ数による検査信号の発生順序と、PN系列のランダム数とを対応させ、この発生順序で検査信号を一巡させ、振幅ピーク値だけのPDFヒストグラムを作成する。そして、作成されたPDFヒストグラムが正常であれば直線になる。この構成によれば、極めて検査性の良い手法による結果が得られ、APD測定器1の振幅軸方向及び時間軸方向の動作状態を正確に検査することができる。
【0075】
さらに、上述した実施の形態では、検査装置40をAPD測定器1とは別体に構成した例について説明したが、この構成に限定されるものではない。例えば検査装置40の制御部42における判定部42aの機能をAPD測定器1のCPU30に持たせても良い。また、検査装置40をユニット化してAPD測定器1に組み込む構成とすることもできる。この場合、APD測定器1のCPU30が検査装置40の制御部42の機能を兼ねることができる。
【符号の説明】
【0076】
1 APD測定器(検査対象)
2 ハードウェア部
3 ソフトウェア処理部
4 インタフェース
5 切替部
10 アンテナ
11 RF受信部
12 D/C(ダウンコンバータ)
13 A/D変換部
14 帯域制限フィルタ
15 I/Q分離部
16 フィルタバンク
17 包絡線検波部
18 対数変換部
19 カウンタ部
20 データ転送部
30 CPU(制御部)
31 RAM(第1記憶部)
32 ROM(第2記憶部)
33 ハードディスク装置(第3記憶部)
34 入力装置
35 表示装置
40 検査装置
41 検査信号発生部
41a 基準パルス発生部
41b 周波数発生部
41c 変調部
42 制御部
42a 判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定信号の周波数帯域成分を分析し、分析された各周波数帯域成分の振幅をそれぞれ検出し、検出された各周波数帯域成分の振幅について単位時間当たりの振幅確率を時間経過毎に求めるAPD測定器(1)の検査装置(40)であって、
前記APD測定器の動作状態を検査するべく、前記被測定信号の中心周波数に合わせた検査信号を発生する検査信号発生部(41)と、
前記検査信号の振幅レベルを前記APD測定器のダイナミックレンジの範囲内でランダムに可変制御する制御部(42)とを備え、
前記APD測定器は、前記振幅レベルの可変に伴う前記検査信号の振幅ピーク値のカウントに基づいて作成されるPDFヒストグラムと、前記検査信号によるAPDデータと基準APDデータとの差に基づいて算出される時間捕捉率とを、前記APD測定器の動作状態を示す検査結果として出力することを特徴とするAPD測定器の検査装置。
【請求項2】
前記制御部(42)は、前記APD測定器が測定対象とする前記被測定信号の中心周波数に合わせて前記検査信号の中心周波数を可変制御することを特徴とする請求項1記載のAPD測定器の検査装置。
【請求項3】
前記制御部(42)は、PN系列のランダム数に対応した発生順序で前記検査信号を一巡させて振幅ピーク値だけのPDFヒストグラムを作成することを特徴とする請求項1記載のAPD測定器の検査装置。
【請求項4】
前記制御部(42)は、前記PDFヒストグラムが一様分布を示し、且つ前記時間捕捉率が予め設定される許容値範囲内にあるときに、前記APD測定器(1)が振幅軸上及び時間軸上の両方で正常に動作していると判定する判定部(42a)を備えたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のAPD測定器の検査装置。
【請求項5】
被測定信号の周波数帯域成分を分析し、分析された各周波数帯域成分の振幅をそれぞれ検出し、検出された各周波数帯域成分の振幅について単位時間当たりの振幅確率を時間経過毎に求めるAPD測定器(1)の検査方法であって、
前記被測定信号の中心周波数に合わせた検査信号の振幅レベルを前記APD測定器のダイナミックレンジの範囲内でランダムに可変制御するステップと、
前記振幅レベルの可変に伴う前記検査信号の振幅ピーク値のカウントに基づくPDFヒストグラムを作成するステップと、
前記検査信号によるAPDデータと基準APDデータとの差に基づいて時間捕捉率を算出するステップとを含むことを特徴とするAPD測定器の検査方法。
【請求項6】
さらに、前記被測定信号の中心周波数に応じて前記検査信号の中心周波数を可変制御するステップを含むことを特徴とする請求項5記載のAPD測定器の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−207970(P2012−207970A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72675(P2011−72675)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、総務省、電波資源拡大のための委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)