説明

CMP−N−アセチルノイラミン酸の製造法

クロマトグラフィー処理以外では困難であった高純度のCMP−N−アセチルノイラミン酸(HPLC純度95%以上)を、クロマトグラフィー処理を用いることなく、単純な操作で容易に、しかも収率よく取得できる方法を提供する。 高純度のCMP−N−アセチルノイラミン酸(CMP−NeuAc)の製造法であって、以下の工程1〜4の各工程を適宜組み合わせて行うことを特徴とする、CMP−NeuAcの製造法。 工程1:CMP−NeuAc含有液に2価カチオンを添加し、共存するリン酸、ピロリン酸、ヌクレオチドを沈殿させる工程、 工程2:CMP−NeuAc含有液にホスファターゼを添加し、共存するヌクレオチドをヌクレオシドに変換する工程、 工程3:有機溶媒を添加し、CMP−NeuAcを沈殿させる工程 工程4:沈殿したCMP−NeuAcを回収する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖鎖合成の重要な原料であるCMP−N−アセチルノイラミン酸(CMP−NeuAc)の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、糖鎖に関する構造及び機能に関する研究が急速に進み、生理活性を有するオリゴ糖、糖脂質、糖蛋白質等の医薬品又は機能性素材としての用途開発が注目を集めている。中でも、末端にN−アセチルノイラミン酸(NeuAc)を含むシアル酸含有糖鎖は、細胞接着やウィルス感染の際の受容体となる等の重要な機能を有する糖鎖として知られている。
【0003】
シアル酸含有糖鎖は、一般にシアル酸転移酵素の触媒により合成される。なお、シアル酸転移酵素とは、シチジン5’−モノリン酸−N−アセチルノイラミン酸(CMP−NeuAc)を糖供与体とし、受容体となる糖鎖にシアル酸を転移させる酵素である。
【0004】
CMP−NeuAcは、基本的にはシチジン5’−トリリン酸(5’−CTP)とノイラミン酸(NeuAc)を基質として、CMP−NeuAcシンセターゼの触媒反応により合成されている。
【0005】
しかしながら、糖供与体として用いるCMP−NeuAcは、非常に不安定で大量調製が困難であることから極めて高価であり、かつ量的にも試薬レベルでの僅かな量でしか供給されていない。また、供給されている製品の純度も悪く(従来、純度95%以上の高純度品を取得することが容易ではなく、HPLC検定上、通常90%前後の純度を有している)、シアル酸含有糖鎖等の製造原料としては不適切なものとならざるを得ない。
【0006】
従来、CMP−NeuAcの精製法としては、反応工程中あるいは精製工程中に分解されて生成する、あるいは合成反応液中に残存するシチジン5’−モノリン酸(5’−CMP)、シチジン5’−ジリン酸(5’−CDP)及び5’−CTPとCMP−NeuAcとを分離することが非常に困難であるため、仔ウシ由来アルカリホスファターゼ(CIAP)を用いて共存する5’−CMP、5’−CDP及び5’−CTPのリン酸を除去してすべてをシチジンにした後、イオン交換クロマトグラフィーやゲルろ過クロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー処理によりCMP−NeuAcを分離する方法が好ましい方法として報告されている。(特許文献1〜3、非特許文献1)
【特許文献1】特開平5−276973号公報
【特許文献2】特公平5−73391号公報
【特許文献3】特開平8−73480号公報
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,110,7159−7163(1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来法では、手間やコスト高につながる各種クロマトグラフィー処理を必須としており、必ずしも工業的レベルの大量製造時の精製法としては好適なものとは言えなかった。また、ホスファターゼ処理に使用する仔ウシ由来アルカリホスファターゼ(CIAP)は、現在のところ大量調製が困難な酵素であり、本酵素以外のホスファターゼを使用することも要望されていた。
【0008】
また、クロマトグラフィー処理を必須としない、溶媒に対する溶解度の差を利用した分別沈殿法も報告されているものの(J.Am.Chem.Soc.,110,7159−7163(1988))、分別沈殿法でのCMP−NeuAcの回収率及び純度とも上記クロマトグラフィー処理法には到底及ばず、実用的な方法とはなっていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、クロマトグラフィー処理を必要とせず、高純度のCMP−NeuAcを収率良く大量に製造するための方法に関し鋭意検討を重ねた結果、(1)CMP−NeuAc合成酵素による触媒反応終了後、速やかにリン酸と不溶性沈殿を形成しうるカルシウム、マンガン等の2価カチオンを添加することで、反応液中に混在する無機リン酸及びピロリン酸をリン酸塩として沈殿させ、また未反応基質である5’−CTPも塩として沈殿させることができること、(2)2価カチオンを添加しても、ホスファターゼ反応は何ら影響されず、5’−CMP、5’−CDP、5’−CTPを特異的にシチジンに分解できること、(3)2価カチオンを添加することで、CMP−NeuAcのアルコール等の有機溶媒に対する沈降性が選択的に高まり、シチジン及びNeuAcとの分別沈殿が極めて容易になること、等を確認し、本発明を完成させた。
【0010】
したがって、本発明は、以下の通りである。
(1)高純度のCMP−NeuAcの製造法であって、以下の工程1〜4の各工程を適宜組み合わせて行うことを特徴とする、CMP−NeuAcの製造法。
工程1:CMP−NeuAc含有液に2価カチオンを添加し、共存するリン酸、ピロリン酸、ヌクレオチドを沈殿させる工程、
工程2:CMP−NeuAc含有液にホスファターゼを添加し、共存するヌクレオチドをヌクレオシドに変換する工程、
工程3:有機溶媒を添加し、CMP−NeuAcを沈殿させる工程
工程4:沈殿したCMP−NeuAcを回収する工程
【0011】
(2)工程1、工程2、工程3、工程4の順に実施する、上記(1)記載の方法。
(3)工程2、工程1、工程3、工程4の順に実施する、上記(1)記載の方法。
(4)工程1と工程2を同時に行う、上記(1)記載の方法。
(5)工程3と工程4を複数回実施する、上記(1)記載の方法。
(6)2価カチオンがカルシウムイオン又はマンガンイオンである、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)ホスファターゼが大腸菌アルカリホスファターゼである、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(8)有機溶媒が、炭素数5以下のアルコールである、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(9)工程4のCMP−NeuAcの回収後、さらに塩交換反応に付し、CMP−NeuAcの塩を置換する、上記(1)記載の製造法。
(10)イオン交換樹脂を用いる塩交換反応である、上記(9)記載の製造法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、クロマトグラフィー処理以外では困難であった高純度のCMP−NeuAc(HPLC純度95%以上)を、クロマトグラフィー処理を用いることなく、単純な操作で容易に、しかも収率よく取得できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のCMP−NeuAc製造工程は、上記の通り、工程1〜工程4を基本としている。以下、各工程毎に詳述する。
(工程1)
工程1は、CMP−NeuAc含有液に2価カチオンを添加し、共存するリン酸、ピロリン酸、ヌクレオチドを沈殿させる工程である。
【0014】
工程1(もしくは工程2)に供するCMP−NeuAc含有液としては、CMP−NeuAcを含有する水溶液であれば特に限定されず、例えば酵素を用いたCMP−NeuAc合成の反応混合液を挙げることができ、具体的には、5’−CTPとNeuAcを基質として、CMP−NeuAcシンセターゼの触媒反応により合成されCMP−NeuAc含有液を例示することができる。
【0015】
添加する2価カチオンとしては、無機リン酸、ピロリン酸もしくはヌクレオチドと不溶性の沈殿を形成するものであれば特に限定されず、例えばカルシウム又はマンガンの各イオンを挙げることができる。具体的には、カルシウムイオンを添加する場合には、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等の水溶性カルシウム塩を使用することができ、マンガンイオンを添加する場合には塩化マンガン、硫酸マンガン等の水溶性マンガン塩を使用することができる。添加濃度としては、0.1〜2000mMの範囲から適宜設定すればよい。
【0016】
このような2価カチオンをCMP−NeuAc含有液に添加し、温度0〜60℃の条件下、必要によりpHを6.0〜13.0に調整し、及び/又は撹拌することで、リン酸カルシウム、リン酸マンガン等の不溶塩が沈降してくるので、沈殿物を通常の固液分離手段(ろ過、遠心分離等)で取り除き、次工程に供する。
【0017】
(工程2)
工程2は、CMP−NeuAc含有液にホスファターゼを添加し、共存するヌクレオチドをヌクレオシドに変換する工程である。
【0018】
反応に使用するホスファターゼとしては、ヌクレオチドのリン酸残基を脱リン酸してヌクレシドに変換できる酵素で、5’−CMP、5’−CDP、5’−CTPを特異的にシチジンまで加水分解できる酵素であれば特に限定されず、特に、反応時におけるCMP−NeuAcの安定性や酵素調製の容易性等を考慮すると、アルカリホスファターゼ、特に大腸菌アルカリホスファターゼが好適である。
【0019】
ホスファターゼ反応は、CMP−NeuAc含有液1ml当たり0.01ユニット以上、好ましくは0.1〜50ユニット添加し、70℃以下、好ましくは20〜60℃で0.1〜50時間程度、必要により撹拌し、pHを調整しながら反応させることにより実施できる。
【0020】
なお、上記工程1と工程2は、順序は特に関係なく、どちらを先に行ってもかまわず、同時に行っても良い。例えば、工程1、工程2の順番で実施した場合、反応後、反応液中に2価イオンが存在するため、ホスファターゼ処理中あるいは処理後、リン酸カルシウム、リン酸マンガン等の不溶塩が沈降してくるので、沈殿物を通常の固液分離手段(ろ過、遠心分離等)で取り除き、次工程に供する。
【0021】
(工程3)
工程3は、有機溶媒を添加し、CMP−NeuAcを沈殿させる工程である。
【0022】
添加する有機溶媒としては、炭素数1〜5のアルコールが好ましく、具体的にはメタノール、エタノール、イソプロパノール等を使用することができる。また、有機溶媒の添加量としては、反応液当たり0.1〜20倍量の範囲から適宜設定することができる。
【0023】
このような有機溶媒を上記工程1又は工程2の処理後の液に添加し、温度−80〜60℃の条件下、必要によりpHを6.0〜13.0に調整し、及び/又は撹拌することで、CMP−NeuAcが沈降してくる。
【0024】
(工程4)
工程4は、沈殿したCMP−NeuAcを回収する工程である。
【0025】
回収の方法は、通常の固液分離手段(ろ過、遠心分離等)によって行うことができ、回収後、必要により乾燥させて製品とする。
【0026】
また、上記工程3と本工程4を複数回(通常、2〜5回程度)実施することで、より高純度のCMP−NeuAcを取得することができる。
【0027】
(付加工程)
上記工程4終了後、CMP−NeuAcはカルシウム塩、マンガン塩等の塩となっているため、必要に応じて、例えばナトリウム塩等に変換することも可能である。
【0028】
塩の交換反応は、回収した沈殿を再溶解し、例えば、目的とする塩に置換したカチオン交換樹脂に接触(当該樹脂カラムへ通液等)させることで実施することができる。
このようにして得られたCMP−NeuAcはHPLCよる純度が95%以上で、5’−CMP等の夾雑物が極めて少ない高純度の製品である。
【実施例1】
【0029】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明がこれに限定されないことは明らかである。なお、反応液中のCMP−NeuAcの定量はHPLC法を用いて行った。具体的には、分離にはYMC社製のODS−HS302カラムを用い、溶離液として0.1Mトリエチルアミン−リン酸(pH6.0)を用いた。
【0030】
実施例1
(1)CMP−NeuAcシンセターゼの調製
Haemophilus.influenzae Rd株の染色体DNA(ATCC51907D)をテンペレートとして、以下に示す2種類のプライマーDNAを常法に従って合成した。得られたプライマーを用いて、PCR法によりH.influenzaeのCMP−NeuAcシンセターゼ(neuA)遺伝子を増幅した。
プライマー(A):5’−TGCCATGGTGAAAATAATAATGACAAGAA−3’(配列番号1)
プライマー(B):5’−AACTGCAGTGCAGATCAAAAGTGCGGCC−3’(配列番号2)
PCR法によるneuA遺伝子の増幅は、100μL中に、50mM 塩化カリウム、10mMトリス塩酸(pH8.3)、1.5mM塩化マグネシウム、0.001%ゼラチン、テンペレートDNA0.1μg、プライマーDNA(A)及び(B)各々0.2μM、及びAmpliTaq DNAポリメラーゼ2.5ユニットを含む反応液を用い、Perkin−Elmer Cetus Instrument社製 DNA Thermal Cyclerで、熱変性(94℃、1分)、アニーリング(55℃、1.5分)、伸長反応(72℃、3分)のステップを25回繰り返すことにより行った。
遺伝子増幅後、反応液をフェノール/クロロホルム(1:1)混合液で処理し、水溶性画分を得た。得られた水溶性画分に2倍容のエタノールを添加しDNAを沈殿させた。沈殿回収したDNAを文献(「Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition」(Sambrookら編、Cold spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York(1989))の方法に従ってアガロースゲル電気泳動により分離し、720b相当のDNA断片を精製した。該DNAを制限酵素NcoI及びPstIで切断しDNA断片を得た。得られたDNA断片と、同じく制限酵素NcoII及びPstIで消化したプラスミドpTrc99AとをT4DNAリガーゼを用いて連結した。連結したDNAを含有する反応液を用いて大腸菌JM109株を形質転換し、得られたアンピシリン耐性形質転換体よりプラスミドpTrcsiaBNPを単離した。pTrcsiaBNPは、pTrc99Aのtrcプロモーター下流のNcoI−PstI切断部位にneuA遺伝子の構造遺伝子を含有するDNA断片が挿入されたものである。
プラスミドpTrcsiaBNPを保持する大腸菌JM109菌を、100μg/mLのアンピシリンを含有する2×YT培地100mLに植菌し、37℃で振とう培養した。菌数が4×10個/mLに達した時点で、培養液に最終濃度0.25mMになるようにIPTGを添加し、さらに37℃で6時間振とう培養を続けた。培養終了後、遠心分離(9,000×g,10分)により菌体を回収し、5mLの緩衝液(100mM トリス塩酸(pH7.8)、10mMMgCl)に懸濁した。超音波処理を行って菌体を破砕し、さらに遠心分離(20,000×g、10分)により菌体残渣を除去した。
このように得られた上清画分を酵素液とし、この酵素液におけるCMP−NeuAcシンセターゼ活性を測定した。その結果を対照菌(pTrc99Aを保持する大腸菌K−12株JM109)と共に下記表1に示す。なお、本発明におけるCMP−NeuAcシンセターゼ活性の単位(ユニット)は、以下に示す方法で5’−CTPとN−アセチルノイラミン酸からのCMP−NeuAcの合成活性を測定、算出したものである。
【0031】
(CMP−NeuAcシンセターゼ活性の測定と単位の算出法)
50mM トリス塩酸緩衝液(pH8.0)、20mM 塩化マグネシウム、5mM CTPおよび10mM N−アセチルノイラミン酸に、CMP−NeuAcシンセターゼを添加して37℃で5分反応させる。また、CMP−NeuAcシンセターゼの代わりにpTrc99Aを保持する大腸菌JM109株の菌体破砕液を用い同様の反応を行い、これをコントロールとした。
反応液に2倍量の70%エタノールを添加して反応を停止し、これを希釈した後、HPLCによる分析を行った。分離にはYMC社製HS−302カラムを用い、溶出液として50mM酢酸マグネシウム水溶液と1mMテトラブチルアンモニウム水溶液の混合液を用いた。HPLC分析結果から反応液中のCMP−NeuAcの量を算出し、37℃で1分間に1μmoleのCMP−NeuAcを合成する活性を1単位(ユニット)としてCMP−NeuAcシンセターゼ活性を算出した。
【0032】
【表1】

【0033】
(2)大腸菌アルカリホスファターゼの調製
大腸菌JM105株(タカラバイオ(株))の染色体DNAを斉藤と三浦の方法(Biochemica et Biophysica Acta.,72,619(1963))に従って調製した。このDNAを鋳型として、以下に示す2種類のプライマーDNAを常法に従って合成した。得られたプライマーを用いて、PCR法により大腸菌phoA遺伝子(EMBL/GENEBANK/DDBJ DATA BANKS、Accession No.AE000145.1)を増幅した。
プライマー(C):5’−AAGGATCCAGCTGTCATAAAGTTGTCACGGCC−3’(配列番号3)
プライマー(D):5’−TTCTGCAGCCCGTGATCTGCCATTAAGTCTGGTT−3’(配列番号4)
PCR法によるphoA遺伝子の増幅は、100μL中に、50mM塩化カリウム、10mMトリス塩酸(pH8.3)、1.5mM塩化マグネシウム、0.001%ゼラチン、0.2mM dATP、0.2mM dGTP、0.2mM dCTP、0.2mM dTTP、鋳型DNA0.1μg、プライマーDNA(C)及び(D)各々0.2mM、及びAmpliTaqDNAポリメラーゼ2.5ユニットを含む反応液を用いてPerkin−Elmer Cetus Instrument社製DNAThermal Cyclerで、熱変性(94℃、1分)、アニーリング(55℃、1分)、伸長反応(72℃、3分)のステップを25回繰り返すことにより行った。
遺伝子増幅後、反応液をフェノール/クロロホルム(1:1)混合液で処理し水溶性画分を得た。得られた水溶性画分に2倍容のエタノールを添加しDNAを沈殿させた。沈殿回収したDNAを文献(Molecular cloning)の方法に従ってアガロースゲル電気泳動により分離し、1.5kb相当のDNA断片を精製した。当該DNAを制限酵素BamHI及びPstIで切断しDNA断片を得た。得られたDNA断片と同じく制限酵素BamHI及びPstIで消化したプラスミドpTrc99A(Pharmacia Biotech.社)とをT4DNAリガーゼを用いて連結した。連結したDNAを含有する反応液を用いて大腸菌JM109株(タカラバイオ(株))を形質転換し、得られたアンピシリン耐性形質転換体よりプラスミドpTrc−phoAを単離した。
pTrc−phoAは、pTrc99Aのtrcプロモーター下流の切断部位に大腸菌phoA構造遺伝子およびリボソーム結合部位を含有するBamHI−PstIDNA断片が挿入されたものである。
プラスミドpTrc−phoAを保持する大腸菌JM109株を、100μg/mLのアンピシリンを含有する2xYT培地500mLに植菌し、37℃で振とう培養した。菌数が4×10個/mLに達した時点で、培養液に最終濃度0.2mMになるようにIPTGを添加し、さらに37℃で22時間振とう培養を続けた。培養終了後、遠心分離(9,000×g,10分)により菌体を回収し、25mLの緩衝液(20mMトリス塩酸(pH8.0)、5mM塩化マグネシウム)に懸濁した。超音波処理を行って菌体を破砕し、さらに遠心分離(20,000xg、10分)により菌体残渣を除去した。
続いて得られた上清画分を80℃、15分間の熱処理を行った後に遠心分離(20,000xg、10分)により菌体残渣を除去し、これを合計2Lの緩衝液(20mMトリス塩酸塩(pH8.0)、1mM塩化マグネシウム)を用いて4℃、一晩の透析を行い、さらに遠心分離(20,000xg、10分)により菌体残渣を除去した。
このようにして得られた上清画分を酵素液とし、酵素液におけるアルカリホスファターゼ活性を測定した。その結果を対照菌(pTrc99Aを保持する大腸菌JM109株)と共に下記表2に示す。なお、本発明におけるアルカリホスファターゼ活性の単位(ユニット)は、以下に示す方法で測定、算出したものである。
【0034】
(アルカリホスファターゼ活性の測定と単位の算出法)
400mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)及び20mMウリジン5’−モノリン酸を含む溶液に酵素液を添加して,40℃で5〜15分反応させる。また、アルカリホスファターゼの代わりにpTrc99Aを保持する大腸菌JM109株の菌体破砕液を用い同様の反応を行い、これをコントロールとした。反応液に等量の0.5Mリン酸2水素カリウム溶液を添加することで反応を停止させた後、HPLCによる分析を行い、反応液中のウリジン量を定量した。37℃で1分間に1μmoleのウリジンを生成する活性を1単位(ユニット)としてアルカリホスファターゼ活性を算出した。
【0035】
【表2】

【0036】
(3)2価イオンの添加効果
0.2M NeuAc溶液を5mL、0.25M CTP・3Na溶液を4mL、及び1M塩化マグネシウム溶液を混合後、2M水酸化ナトリウム溶液でpHを10に調整し、蒸留水で50mLにフィルアップした。40℃に加温した後、70ユニットのCMP−NeuAcシンセターゼを添加し、攪拌しながら反応を開始した。反応中、反応液のpHを8.5付近を維持するために1M水酸化ナトリウム溶液を適時滴下した。
【0037】
反応開始1時間後、1M塩化カルシウム溶液3mLを添加後、続けて5ユニットの大腸菌アルカリホスファターゼを添加し、さらに40℃で攪拌しながら反応を行った。反応中、反応液のpHを9.0付近に維持するために1M水酸化ナトリウム溶液を適時滴下した。30分後、一部をサンプリングしてHPLCにより反応液組成を分析したところ、下記表3に示すような結果が得られた。
【0038】
また、上記と同様にCMP−NeuAc合成を1時間行った後、1M塩化マンガン溶液3mLもしくは蒸留水3mL添加後、同様に大腸菌アルカリホスファターゼ反応を行い、30分後にサンプリングした時の反応液組成も併記した。
【0039】
表3より、2価カチオンを添加することで大腸菌アルカリホスファターゼ反応を効率良く行え、特にCMP−NeuAcとの分離が困難であるCMPを効率的に除去できることが明らかになった。
【0040】
【表3】

【実施例2】
【0041】
エタノール沈殿への2価イオン添加効果
CMP−NeuAc・2ナトリウム塩粉末70mg(シグマ社製)を蒸留水で溶解し、500μLに調製した(約0.2M溶液)。これを100μLずつ分取した後、それぞれA.1M塩化カルシウム溶液、B.1M塩化マンガン溶液、C.蒸留水を50μL添加した。続いてそれぞれに300μLのエタノールを添加し、4℃で一晩静置した後、121,000xg、4℃、10分間の遠心分離を行い、得られた上清の270nmにおける吸光度を測定した。得られた測定値から沈殿画分としての回収率を算出したところ、表4に示す結果が得られた。
【0042】
表4から明らかなように、リン酸と不溶性の沈殿を形成しうる2価カチオンを添加することでエタノール沈殿処理におけるCMP−NeuAcの回収率が飛躍的に向上することが明らかとなった。
【0043】
【表4】

【実施例3】
【0044】
NeuAcを12.4g(マルキン忠勇社製)、5’−CTP・2Na塩を24.2g(ヤマサ醤油社製)、1M塩化マグネシウム溶液を100mL添加、溶解した後、1M 水酸化ナトリウムでpHを9.5に調整し、蒸留水で2Lにフィルアップした。40℃に加温した後、2,810ユニットのCMP−NeuAcシンセターゼを添加し、攪拌しながら反応を開始した。反応中にpHを8.5付近に維持するために1M水酸化ナトリウム溶液を適時滴下した。
【0045】
反応開始1時間後、2.5M塩化カルシウム50mLを添加後、続けて200ユニットの大腸菌アルカリホスファターゼを添加し、さらに40℃で攪拌しながら反応を行った。反応中にpHを9.0付近に維持するために1M水酸化ナトリウム溶液を適時滴下した。
【0046】
ホスファターゼ反応1時間後、反応液を4℃まで冷却した。一晩放置後、遠心分離(15,000xg、15分)により沈殿物を除去した。得られた上清を1M塩化水素溶液でpH7.0に調整後、カーボン粉末2g添加し、氷中で1時間攪拌した。0.45μmフィルターを用いてカーボン粉末を除去した後、得られたろ液2.03Lをエバポレーターで約100mLまで濃縮した。
【0047】
濃縮中に生成した沈殿をG3ガラスフィルターを用いて除去した後、得られたろ液140mLに対してエタノールを660mL添加し、室温で攪拌した後、さらに4℃で攪拌、一晩放置した。
【0048】
G3ガラスフィルターで沈殿を回収した後、減圧乾燥を行い、これを蒸留水で150mLに溶解し、エタノールを450mL添加、室温で攪拌後、さらに4℃で攪拌、一晩放置した。
【0049】
G3ガラスフィルターで沈殿を回収後、減圧乾燥を行い、これを蒸留水で250mLに溶解し、ナトリウムイオンで置換させたPK216(Na)樹脂(三菱化学社製)カラム100mLに400〜450mL/hの流速で通液させた。
【0050】
CMP−NeuAcを含む画分370mLを回収し、エバポレーターで50mL位まで濃縮した後、1M 塩化水素溶液でpHを7.0に調整した。
【0051】
これにカーボン粉末0.5g添加、水中で約1時間攪拌した後、0.45μmフィルターを用いてカーボン粉末を除去した。得られたろ液70mLに対してエタノールを400mL添加し、室温で攪拌した後、さらに4℃で一晩攪拌した。沈殿をG3ガラスフィルターを用いて回収し、これを減圧乾燥することでHPLC純度98.8%のCMP−NeuAc・2ナトリウム塩粉末(18.4g)を取得した。
このCMP−NeuAcのHPLCの分析結果は以下の通りである。
<分析条件>
カラム:ODS−HS302(YMC社製)
溶離液:0.1Mトリエチルアミン−リン酸(pH6.0)
<分析結果>
CMP−NeuAc 98.8%
5’−CMP 1.2%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高純度のCMP−N−アセチルノイラミン酸(CMP−NeuAc)の製造法であって、以下の工程(1)〜(4)の各工程を適宜組み合わせて行うことを特徴とする、CMP−NeuAcの製造法。
工程(1):CMP−NeuAc含有液に2価カチオンを添加し、共存するリン酸、ピロリン酸、ヌクレオチドを沈殿させる工程、
工程(2):CMP−NeuAc含有液にホスファターゼを添加し、共存するヌクレオチドをヌクレオシドに変換する工程、
工程(3):有機溶媒を添加し、CMP−NeuAcを沈殿させる工程、及び
工程(4):沈殿したCMP−NeuAcを回収する工程
【請求項2】
工程(1)、工程(2)、工程(3)、工程(4)の順に実施する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(2)、工程(1)、工程(3)、工程(4)の順に実施する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
工程(1)と工程(2)を同時に行う、請求項1記載の方法。
【請求項5】
工程(3)と工程(4)を複数回実施する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
2価カチオンがカルシウムイオン又はマンガンイオンである、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
ホスファターゼが大腸菌アルカリホスファターゼである、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
有機溶媒が、炭素数5以下のアルコールである、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
工程(4)のCMP−NeuAcの回収後、さらに塩交換反応に付し、CMP−NeuAcの塩を置換する、請求項1記載の製造法。
【請求項10】
イオン交換樹脂を用いる塩交換反応である、請求項9記載の製造法。

【国際公開番号】WO2005/030974
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514186(P2005−514186)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013760
【国際出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000006770)ヤマサ醤油株式会社 (56)
【Fターム(参考)】