説明

Ca含有α型サイアロン蛍光体およびその製造方法

【課題】 602〜605nmの蛍光ピーク波長を有する、従来よりも外部量子効率が高いCa含有α型サイアロン蛍光体を提供する。
【解決手段】 本発明のCa含有α型サイアロン蛍光体は、一般式:CaEuSi12−(m+n)Al(m+n)16−n(式中、1.37≦x≦2.60、0.16≦y≦0.20、3.60≦m≦5.50、0≦n≦0.30、m=2x+3y)で表され、窒化ケイ素粉末、ユーロピウム源、及びカルシウム源の混合物を、不活性ガス雰囲気中で焼成して予めCa含有α型サイアロン前駆体を得た上で、該Ca含有α型サイアロン前駆体にアルミニウム源を混合し、不活性ガス雰囲気中で再度焼成してCa含有α型サイアロン焼成物を得て、更に不活性雰囲気中で熱処理することによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外から青色の光源に好適な、希土類金属元素で賦活されたCa含有α型サイアロン蛍光体およびその製造方法に関するものである。具体的には、蛍光ピーク波長が602〜605nmの範囲で、実用的な外部量子効率および蛍光強度を示すCa含有α型サイアロン蛍光体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、青色発光ダイオード(LED)が実用化されたことにより、この青色LEDを利用した白色LEDの開発が精力的に行われている。白色LEDは、既存の白色光源に較べ消費電力が低く、長寿命であるため、液晶パネル用バックライト、室内外の照明機器等への用途展開が進行している。
【0003】
現在、開発されている白色LEDは、青色LEDの表面にCeをドープしたYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)を塗布したものである。しかしながら、CeをドープしたYAGの蛍光ピーク波長は530nm付近にあり、この蛍光の色と青色LEDの光を混合して白色光にすると、やや青みの強い白色光となるため、この種の白色LEDには演色性が悪いという問題がある。
【0004】
これに対して、Ca、Li、Mg等がAlサイトに固溶し、かつ一部の希土類元素により賦活されたα型サイアロン蛍光体は、CeをドープしたYAGの蛍光ピーク波長より長い580nm前後のピーク波長の(黄〜橙色)蛍光を発生することが知られており(特許文献1参照)、前記のα型サイアロン蛍光体を用いて、または、CeをドープしたYAG蛍光体と組み合わせて、白色LEDを構成すると、CeをドープしたYAGのみを用いた白色LEDよりも、色温度の低い電球色の白色LEDを作製することができる。
【0005】
しかしながら、白色LEDの色温度を調整する目的、また、所望の波長の橙色の発光を得る目的で、より長波の蛍光ピーク波長を有するα型サイアロン蛍光体が求められている。
【0006】
一般式:
CaEuSi12−(m+n)Al(m+n)16−n
で表される
ユーロピウムにより賦活された、Ca含有α型サイアロン蛍光体は、nを小さくするとともに、x+yを大きくする、すなわち、酸素の比率を小さくし、カルシウムおよびユーロピウムの比率を大きくすることで、その蛍光ピーク波長が特に高くなることが知られている。
【0007】
しかし、これまで、Ca含有α型サイアロン蛍光体を含めて、595nm以上の波長に蛍光ピークを有する、実用上問題がない高輝度な蛍光体は開発されていなかった。
【0008】
特許文献2には、原料粉末中に予め合成したα型サイアロン粉末を粒成長の種結晶として添加することにより、従来よりも大きく、表面が平滑な粒子が得られ、しかもその合成粉末から粉砕処理することなく、特定粒度の粉末を得ることにより、発光効率の優れる595nm以上の波長に蛍光ピークを有する蛍光体とその製造方法が開示されている。
【0009】
具体的には、組成が(Ca1.67、Eu0.08)(Si、Al)12(O、N)16である(x+y=1.75、O/N=0.03)α型サイアロン蛍光体であって、455nmの青色光によって励起した場合に得られた蛍光スペクトルのピーク波長が599〜601nmの範囲であり、発光効率(=外部量子効率=吸収率×内部量子効率)が61〜63%であるα型サイアロン蛍光体が開示されている。
【0010】
しかしながら、同文献には、蛍光ピーク波長が601nmより大きな蛍光体は具体的に示されていない。
【0011】
特許文献3には、一般式:(Caα、Euβ)(Si、Al)12(O、N)16(但し、1.5<α+β<2.2、0<β<0.2、O/N≦0.04)で示されるα型サイアロンを主成分とし、比表面積が0.1〜0.35m/gである蛍光体を用いたことを特徴とする発光装置、それを用いた車両用灯具、およびヘッドランプが開示されている。
【0012】
同文献には、455nmの青色光によって励起した場合に得られた蛍光スペクトルのピーク波長が598および600nmであるα型サイアロン蛍光体の発光効率(=外部量子効率)が、各々62.7および63.2%である実施例が開示されている。また、同文献には、同波長の青色光によって励起した場合に得られた蛍光スペクトルのピーク波長が、602および604nmであるα型サイアロン蛍光体も比較例として開示されているが、それらの発光効率(=外部量子効率)は、各々51.8および31.5%に留まっている。同実施例および同比較例は、α型サイアロン蛍光体においては、その蛍光ピーク波長が600nm程度より大きい領域では、1nm程度の長波側への変化でも、著しく外部量子効率および輝度が低くなることを示唆している。
【0013】
特許文献4には、焼成することによりサイアロン蛍光体を構成しうる金属化合物混合物を、特定の圧力のガス中において、特定の温度範囲で焼成した後に、特定の粒径まで粉砕、分級し、さらに熱処理を施すことにより、従来のものに較べて高輝度発光する特有な性質を有するサイアロン蛍光体とその製造方法が開示されている。
【0014】
しかしながら、同文献に具体的に開示されるのは、最強波長(=蛍光ピーク波長)が最も長波のもので、573nmのサイアロン蛍光体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2002−363554号公報
【特許文献2】特開2009−96882号公報
【特許文献3】特開2009−96883号公報
【特許文献4】特開2005−008794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
白色LEDの色温度を調整する目的、また、所望の波長の橙色の発光を得る目的で、より長い蛍光ピーク波長を有するα型サイアロン蛍光体であって、実用に値する高輝度な蛍光体が求められているにもかかわらず、以上のように、蛍光ピーク波長が602nm以上で、実用に値する高効率なα型サイアロン蛍光体は知られていない。
【0017】
本発明は、602〜605nmの蛍光ピーク波長を有する、従来よりも外部量子効率が高いCa含有α型サイアロン蛍光体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、Ca含有α型サイアロン蛍光体の製造および蛍光特性に関する検討を重ねた結果、窒化ケイ素粉末、ユーロピウム源、及びカルシウム源の混合物を、不活性ガス雰囲気中で焼成して予めCa含有α型サイアロン前駆体を得た上で、前記Ca含有α型サイアロン前駆体にアルミニウム源を混合し、不活性ガス雰囲気中で再度焼成して特定組成範囲のCa含有α型サイアロン焼成物を製造し、更に前記Ca含有α型サイアロン焼成物を、不活性ガス雰囲気中、特定温度範囲で熱処理することにより、外部量子効率、また輝度が高い602nm以上の蛍光ピーク波長を有するCa含有α型サイアロン蛍光体が得られることを見出し、本発明を完成するにいたった。
【0019】
すなわち、本発明は、
一般式:
CaEuSi12−(m+n)Al(m+n)16−n
(式中、1.37≦x≦2.60、0.16≦y≦0.20、3.60≦m≦5.50、0≦n≦0.30、m=2x+3y)で表されるCa含有α型サイアロン蛍光体であって、450nmの波長の光により励起されることで、ピーク波長が602nmから605nmの波長域にある蛍光を発し、その際の外部量子効率が54%以上であることを特徴とするCa含有α型サイアロン蛍光体に関する。
【0020】
特に、前記一般式において、前記m及びnが、4.50≦m≦5.05及び0≦n≦0.10であることが好ましい。
【0021】
また本発明は、窒化ケイ素粉末、ユーロピウム源となる物質、及びカルシウム源となる物質の混合物を、不活性ガス雰囲気中、1400〜1800℃の温度範囲で焼成することによりCa含有α型サイアロン前駆体を得る第1工程と、前記Ca含有α型サイアロン前駆体にアルミニウム源となる物質を混合し、不活性ガス雰囲気中、1500〜2000℃の温度範囲で焼成することにより、
一般式:
CaEuSi12−(m+n)Al(m+n)16−n
(式中、1.37≦x≦2.60、0.16≦y≦0.20、3.60≦m≦5.50、0≦n≦0.30、m=2x+3y)で表される、Ca含有α型サイアロン焼成物を得る第2工程と、前記Ca含有α型サイアロン焼成物を、不活性ガス雰囲気中、1100〜1600℃の温度範囲で熱処理する第3工程と、を有することを特徴とする前記Ca含有α型蛍光体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、前記の特定組成のCa含有α型サイアロン蛍光体を、前記の特定の製造方法を用いて製造することにより、青色光の励起によって、ピーク波長が602nmから605nmの波長域にある蛍光が得られ、かつその際の外部量子効率が54%以上を示す高効率なCa含有α型サイアロン蛍光体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0024】
本発明のCa含有α型サイアロン蛍光体は、
一般式:
CaEuSi12−(m+n)Al(m+n)16−n
(式中、1.37≦x≦2.60、0.16≦y≦0.20、3.60≦m≦5.50、0≦n≦0.30、m=2x+3y)で表されるCa含有α型サイアロン蛍光体であって、
450nmの波長の光により励起されることで、ピーク波長が602nmから605nmの波長域にある蛍光を発し、その際の外部量子効率が54%以上であることを特徴とするCa含有α型サイアロン蛍光体である。
【0025】
Ca含有α型サイアロンとは、α型窒化ケイ素のSi−N結合の一部がAl−N結合およびAl−O結合に置換され、Caイオンが格子内に侵入して電気的中性が保たれた固溶体である。
【0026】
本発明のCa含有α型サイアロン蛍光体は、前記Caイオンに加えてEuイオンが格子内に侵入することで、Ca含有α型サイアロンが賦活されて、青色光によって励起され、前記一般式で表される橙色の蛍光を発する蛍光体となる。
【0027】
前記xおよびyはサイアロンへのCaイオンおよびEuイオンの置換固溶量を示す値で、xが1.37より、またはyが0.17より小さくなると、602nm以上の蛍光ピーク波長が得られなくなり、また、xが2.60より、またはyが0.20より大きくなると、外部量子効率が54%より小さくなる。
【0028】
前記mはサイアロンへ金属元素が固溶する際に電気的中性を保つために決められる値で、前記Ca含有α型サイアロン蛍光体では、m=2x+3yで表される。式中のxの係数2はCa含有α型サイアロン蛍光体に固溶するEuイオンの価数から、式中yの係数3はCa含有α型サイアロン蛍光体に固溶するCaイオンの価数から与えられる数値である。本発明においては、mが3.60より小さくなると602nm以上の蛍光ピーク波長が得られなくなり、5.50より大きくなると外部量子効率が54%より小さくなる。
【0029】
前記nはサイアロンへの酸素の置換固溶量に関する値で、nが0.30より大きくなると外部量子効率が54%より小さくなる。
【0030】
mおよびnの更に好ましい範囲は、4.50≦m≦5.05及び0≦n≦0.10である。mおよびnがこの範囲の組成である場合、蛍光ピーク波長が603〜605nmの範囲の高効率な蛍光体が提供される。
【0031】
本発明のCa含有α型サイアロン蛍光体は、450nmの波長の光の励起によって、ピーク波長が602nmから605nmの波長域にある蛍光を発することができ、その際の外部量子効率は54%以上を示す。これにより、本発明のCa含有α型サイアロン蛍光体では、青色の励起光により長波の橙色蛍光を効率的に得ることができ、また、励起光として用いる青色光との組み合わせで、演色性が良好な白色光を効率的に得ることができる。
【0032】
蛍光ピーク波長は、日本分光社製FP6500に積分球を組み合わせた固体量子効率測定装置により測定することができる。蛍光補正は、副標準光源により行うことができるが、蛍光ピーク波長は、用いる測定機器や補正条件によって若干の差を生じることがある。
【0033】
また、外部量子効率は、日本分光社製FP6500に積分球を組み合わせた固体量子効率測定装置により、吸収率および内部量子効率を測定し、それらの積から算出することができる。
【0034】
続いて、本発明のCa含有α型サイアロン蛍光体の製造方法について説明する。
【0035】
本発明のCa含有α型サイアロン蛍光体は、窒化ケイ素粉末、ユーロピウム源となる物質、及びカルシウム源となる物質の混合物を、不活性ガス雰囲気中、1400〜1800℃の温度範囲で焼成することによりCa含有α型サイアロン前駆体を得る第1工程と、前記Ca含有α型サイアロン前駆体にアルミニウム源となる物質を混合し、不活性ガス雰囲気中、1500〜2000℃の温度範囲で焼成することにより、
一般式:
CaEuSi12−(m+n)Al(m+n)16−n
(式中、1.37≦x≦2.60、0.16≦y≦0.20、3.60≦m≦5.50、0≦n≦0.30、m=2x+3y)で表されるCa含有α型サイアロン焼成物を得る第2工程と、前記Ca含有α型サイアロン焼成物を、不活性ガス雰囲気中、1100〜1600℃の温度範囲で熱処理する第3工程と、を有する製造方法によって提供される。
【0036】
本発明の第1工程において用いられる原料の窒化ケイ素粉末としては、結晶質窒化ケイ素粉末、または非晶質窒化ケイ素粉末のいずれを選択することもできる。また、窒化ケイ素粉末に換えて、熱分解等により窒化ケイ素組成に変換できる窒化ケイ素前駆体粉末を用いることもできる。窒化ケイ素前駆体粉末としては、熱分解等により窒化ケイ素組成に変換できる組成物であれば良いが、本発明においては、含窒素シラン化合物粉末を好適に用いることができる。含窒素シラン化合物粉末は、熱分解により非晶質窒化ケイ素粉末となるため、含窒素シラン化合物粉末に非晶質窒化ケイ素粉末が含まれても良い。
【0037】
前記含窒素シラン化合物としては、シリコンジイミド(Si(NH))、シリコンテトラアミド、シリコンニトロゲンイミド、シリコンクロルイミド等が挙げられる。これらは、公知の方法、例えば、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四沃化ケイ素などのハロゲン化ケイ素とアンモニアとを気相で反応させる方法、液状の前記ハロゲン化ケイ素と液体アンモニアとを反応させる方法などによって製造される。また、非晶質窒化ケイ素粉末としては、公知の方法、例えば、前記含窒素シラン化合物粉末を、窒素またはアンモニアガス雰囲気下に600〜1200℃の範囲の温度で加熱分解する方法、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四沃化ケイ素などのハロゲン化ケイ素とアンモニアとを高温で反応させる方法などによって製造されたものが用いられる。
【0038】
また、含窒素シラン化合物および/または非晶質窒化ケイ素粉末を、1300℃〜1550℃で、熱分解および/または焼成することによって得られた結晶質窒化ケイ素粉末は、金属シリコンを窒素雰囲気中で直接窒化することで得られる結晶質窒化ケイ素粉末と異なり、粉砕を必要としないため、高純度粉末が得られやすい。本発明の第1工程において、結晶質窒化ケイ素粉末を原料として用いる場合は、含窒素シラン化合物および/または非晶質窒化ケイ素粉末を熱分解および/または焼成することによって得られた結晶質窒化ケイ素粉末が好適である。
【0039】
本発明のCa含有α型サイアロン蛍光体においては、その構成成分以外の金属不純物量が多いと蛍光強度の低下が生じるため、原料中の金属不純物量は0.01質量%以下となる様にすることが好ましい。全原料中の重量割合が大きい窒化ケイ素粉末および窒化ケイ素前駆体粉末については、金属不純物の含有量が0.01質量%以下であることが好ましく、更には0.005質量%以下であることが好ましく、更には0.001質量%であることが好ましい。
【0040】
前記窒化ケイ素粉末および/または窒化ケイ素前駆体粉末の酸素含有量を、0.1〜2.0質量%の範囲内とすることでピーク波長の長い蛍光体を得ることが出来る。酸素含有量は0.1〜1.0質量%であれば更に好ましい。
【0041】
本発明の第1工程において用いられる原料のユーロピウム源となる物質は、ユーロピウムの窒化物、酸窒化物、酸化物または熱分解により酸化物となる前駆体物質から選択されるが、最も好ましいのは、窒化ユーロピウム(EuN)である。EuNを用いることでnを更に小さくすることが可能でピーク波長の長い蛍光体を得ることが出来る。
【0042】
本発明の第1工程において用いられる原料のカルシウム源となる物質は、カルシウムの窒化物、酸窒化物、酸化物または熱分解により酸化物となる前駆体物質から選択されるが、最も好ましいのは、窒化カルシウム(Ca)である。Caを用いることでnを更に小さくすることが可能でピーク波長の長い蛍光体を得ることが出来る。
【0043】
本発明の第1工程において、窒化ケイ素粉末および窒化ケイ素前駆体粉末から選択される少なくとも1種類の粉末、ユーロピウム源となる物質、及びカルシウム源となる物質を混合する方法については、特に制約は無く、それ自体公知の方法、例えば、乾式混合する方法、原料各成分と実質的に反応しない不活性溶媒中で湿式混合した後に溶媒を除去する方法などを採用することができる。混合装置としては、V型混合機、ロッキングミキサー、ボールミル、振動ミル、媒体攪拌ミルなどが好適に使用される。但し、原料として、含窒素シラン化合物粉末および/または非晶質窒化ケイ素粉末を用いる場合は、これらの粉末は、加水分解しやすく、酸化されやすいので、制御された不活性ガス雰囲気中で、秤量し、混合する方法を採用することが必要である。
【0044】
窒化ケイ素粉末および窒化ケイ素前駆体粉末から選択される少なくとも1種類の粉末、ユーロピウム源となる物質、及びカルシウム源となる物質の混合物は、不活性ガス雰囲気中、1400〜1800℃の範囲で焼成される。前記混合物の焼成が行われる雰囲気は不活性ガス雰囲気であれば特に制約はないが、窒素含有不活性ガス雰囲気が、結晶化を促進するため、特に好ましい。また、焼成温度が、1400℃より低いと結晶化が不十分であり、1800℃より高いと窒化ケイ素が昇華分解し遊離のシリコンが生成するため、外部量子効率が高いCa含有α型サイアロン蛍光体が得られなくなる。不活性ガス雰囲気中、1400〜1800℃の範囲の焼成が可能であれば、焼成に使用される加熱炉については、特に制約は無い。例えば、高周波誘導加熱方式または抵抗加熱方式によるバッチ式電気炉、ロータリーキルン、流動化焼成炉、プッシャ−式電気炉などを使用することができる。混合物を充填するるつぼには、BN製の坩堝、窒化ケイ素製の坩堝、黒鉛製の坩堝、炭化ケイ素製の坩堝を用いることができる。
【0045】
前記混合物を、前記雰囲気中および前記温度範囲で焼成することで、Ca含有α型サイアロン前駆体が得られる。前記Ca含有α型サイアロン前駆体は、本発明のCa含有α型サイアロン蛍光体の組成からアルミニウム源を除いた組成物であり、その主相はβ型窒化ケイ素と同様のX線回折パターンを示す。
【0046】
本発明の第2工程において用いられるアルミニウム源となる物質としては、酸化アルミニウム、金属アルミニウム、窒化アルミニウムが挙げられ、これらの粉末の夫々を単独で使用しても良く、併用しても良い。
【0047】
前記の通り、Ca含有α型サイアロン蛍光体の構成成分以外の金属不純物量が多いと外部量子効率および蛍光強度の低下が生じるため、原料中の金属不純物量は0.01質量%以下となる様にすることが好ましい。全原料中の重量割合が大きいアルミニウム源となる物質については、金属不純物の含有量が0.01質量%以下であることが好ましく、更には0.005質量%以下であることが好ましく、更には0.001質量%以下であることが好ましい。
【0048】
本発明の第2工程において、前記Ca含有α型サイアロン前駆体にアルミニウム源となる物質を混合し、不活性ガス雰囲気中、1500〜2000℃の温度範囲で焼成することにより、
一般式:
CaEuSi12−(m+n)Al(m+n)16−n
(式中、1.37≦x≦2.60、0.16≦y≦0.20、3.60≦m≦5.50、0≦n≦0.30、m=2x+3y)で表されるCa含有α型サイアロン焼成物を得ることができる。
【0049】
前記Ca含有α型サイアロン前駆体にアルミニウム源となる物質を混合する方法については、特に制約は無く、それ自体公知の方法、例えば、乾式混合する方法、原料各成分と実質的に反応しない不活性溶媒中で湿式混合した後に溶媒を除去する方法などを採用することができる。混合装置としては、V型混合機、ロッキングミキサー、ボールミル、振動ミル、媒体攪拌ミルなどが好適に使用される。
【0050】
前記Ca含有α型サイアロン前駆体にアルミニウム源となる物質を混合し、不活性ガス雰囲気中、1500〜2000℃の温度範囲で焼成することで、前記一般式で表されるCa含有α型サイアロン焼成物を得ることができる。前記Ca含有α型サイアロン前駆体とアルミニウム源となる物質の混合物の焼成が行われる雰囲気は不活性ガス雰囲気であれば特に制約はないが、窒素含有不活性ガス雰囲気が結晶化を促進するため、特に好ましい。また、焼成温度は1500〜2000℃の範囲であれば良い。1500℃より低いとサイアロンの生成に長時間の加熱を要し、実用的ではない。2000℃より高いと窒化ケイ素およびサイアロンが昇華分解し遊離のシリコンが生成するため、外部量子効率が高いCa含有α型サイアロン蛍光体が得られなくなる。不活性ガス雰囲気中、1500〜2000℃の範囲の焼成が可能であれば、前記第1工程の場合と同様に、焼成に使用される加熱炉については、特に制約は無い。例えば、高周波誘導加熱方式または抵抗加熱方式によるバッチ式電気炉、ロータリーキルン、流動化焼成炉、プッシャ−式電気炉などを使用することができる。混合物を充填するるつぼには、BN製の坩堝、窒化ケイ素製の坩堝、黒鉛製の坩堝、炭化ケイ素製の坩堝を用いることができる。
【0051】
前記第2工程で得られたCa含有α型サイアロン焼成物は、粉体状であることが必要な場合は、粉砕され、場合によっては所望の粒径範囲に分級される。この場合の粉砕方法は、湿式粉砕、乾式粉砕のいずれの方法でも良く、また、分級方法についても、篩い分け操作、流体を利用する操作等、粉体の分級に一般的に用いられるいかなる操作方法を用いても良い。
【0052】
本発明の第3工程において、前記第2工程で得られたCa含有α型サイアロン焼成物を、不活性ガス雰囲気中、または還元性ガス雰囲気中、1100〜1600℃の温度範囲で熱処理することで、本発明の450nmの波長の光の励起によって、ピーク波長が602nmから605nmの波長域にある蛍光が得られ、その際の外部量子効率が54%以上であるCa含有α型サイアロン蛍光体を得ることができる。前記第2工程で得られたCa含有α型サイアロン焼成物を熱処理する雰囲気は、不活性ガス雰囲気、または還元性ガス雰囲気であれば特に制限はなく、雰囲気調整用のガスとして、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等に加えて、これらの不活性ガスと水素ガスとを混合した還元性ガスが一般的に用いられる。これに加えて、熱処理温度を1100〜1600℃の範囲とすることで、本発明のCa含有α型サイアロン蛍光体を得ることができる。熱処理温度が1100℃に満たない場合、または1600℃を超える場合は、得られるCa含有α型サイアロン蛍光体の外部量子効率は低下する。より外部量子効率が高いCa含有α型サイアロン蛍光体を得るためには、熱処理温度を1300〜1500℃の範囲とすることが好ましい。熱処理温度を1300〜1500℃の範囲とすることで、外部量子効率が57%以上のCa含有α型サイアロン蛍光体を得ることができる。
【0053】
また、熱処理温度の保持時間は、十分な外部量子効率を得るには、0.5時間以上であることが好ましい。4時間を越えて熱処理を行っても、時間の延長に伴った外部量子効率の向上は僅かに留まるか、殆ど変わらないため、熱処理温度の保持時間としては、0.5〜4時間の範囲であることが好ましい。
【0054】
不活性ガス雰囲気中、または還元性ガス雰囲気中、1100〜1600℃の温度範囲で熱処理することが可能であれば、前記第1工程及び第2工程の焼成の場合と同様に、熱処理に使用される加熱炉については、特に制約は無い。例えば、高周波誘導加熱方式または抵抗加熱方式によるバッチ式電気炉、ロータリーキルン、流動化焼成炉、プッシャ−式電気炉などを使用することができる。混合物を充填するるつぼには、BN製の坩堝、窒化ケイ素製の坩堝、黒鉛製の坩堝、炭化ケイ素製の坩堝を用いることができる。
【0055】
前記の不活性ガス雰囲気中、または還元性ガス雰囲気中、1100〜1600℃の温度範囲での熱処理によって、本発明のCa含有α型サイアロン蛍光体の蛍光ピーク波長は、熱処理前のCa含有α型サイアロン焼成物と比較して、0.5〜2.5nm程度長波長側にシフトし、同時に外部量子効率及び蛍光ピーク波長における発光強度が向上する。
【0056】
本発明のCa含有α型サイアロン蛍光体は、公知の方法で発光ダイオード等の発光源と組み合わせられて、発光素子として各種照明器具に用いることができる。
【0057】
特に、励起光のピーク波長が330〜500nmの範囲にある発光源は、本発明のCa含有α型サイアロン蛍光体に好適である。本発明のCa含有α型サイアロン蛍光体は、紫外〜青色領域の光を発する発光源と組み合わせられて、また、場合によっては、他の蛍光体と混合された上で該発光源と組み合わせられて、橙色または白色の光を発する高効率な発光素子を構成することができる。
【実施例】
【0058】
以下では、具体的例を挙げ、本発明を更に詳しく説明する。
【0059】
(実施例1)
四塩化珪素とアンモニアを反応させて作製した非晶質窒化ケイ素と窒化ユーロピウム、窒化カルシウムを、表1の設計組成から窒化アルミニウム分を差し引いた組成となるように、窒素パージされたグローブボックス内で秤量し、乾式の振動ミルを用いて混合して、混合粉末を得た。得られた粉末を、黒鉛製のるつぼに入れて黒鉛抵抗加熱式の電気炉に仕込み、電気炉内に窒素を流通させながら、常圧を保った状態で、1650℃まで昇温した後、1650℃で1時間保持して、Ca含有α型サイアロン前駆体を得た。
【0060】
得られたCa含有α型サイアロン前駆体のCu−Kα線を用いたX線回折パターンからは、β型窒化ケイ素を主相とする結晶相が確認された。
【0061】
次に、得られたCa含有α型サイアロン前駆体を粉砕して粒子径が600μm以下の粉末とし、表1の設計組成となるように窒化アルミニウム粉末と混合した後、乾式の振動ミルを用いて混合粉末を得た。得られた混合粉末を窒化ケイ素製のるつぼに入れて、黒鉛抵抗加熱式の電気炉に仕込み、電気炉内に窒素を流通させながら、常圧を保った状態で、1725℃まで昇温した後、1725℃で12時間保持して、Ca含有α型サイアロン焼成物を得た。
【0062】
得られたCa含有α型サイアロン焼成物を粉砕して粒子径が600μm以下の粉末とし、更に、粒子径が5〜20μmの粉末を分級によって得た後、得られた粉末をアルミナ坩堝に入れて、黒鉛抵抗加熱式の電気炉に仕込み、電気炉内に窒素を流通させながら、常圧を保った状態で、1400℃まで昇温した後、1400℃で1時間保持して、本発明のCa含有α型サイアロン蛍光体粉末を得た。
【0063】
得られたCa含有α型サイアロン蛍光体粉末の蛍光特性を評価するために、日本分光社製FP−6500に積分球を組み合わせた固体量子効率測定装置を用いて、検出波長602〜605nmにおける励起スペクトルと励起波長450nmにおける蛍光スペクトルを測定し、同時に吸収率と内部量子効率を測定した。得られた蛍光スペクトルから蛍光ピーク波長とその波長における発光強度を導出し、吸収率と内部量子効率から外部量子効率を算出した。また、輝度の指標になる相対蛍光強度は、市販品のYAG:Ce系蛍光体(化成オプトニクス社製P46Y3)の同励起波長による発光スペクトルの最高強度の値を100%とした場合の蛍光ピーク波長における発光強度の相対値とした。蛍光特性の評価結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
(実施例2〜4)
Ca含有α型サイアロン焼成物の熱処理条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法でCa含有α型サイアロン蛍光体粉末を得た。得られたCa含有α型サイアロン蛍光体粉末の蛍光特性を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0066】
(比較例1)
Ca含有α型サイアロン焼成物の熱処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法でCa含有α型サイアロン蛍光体粉末を得た。得られたCa含有α型サイアロン蛍光体粉末の蛍光特性を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0067】
(比較例2、3)
Ca含有α型サイアロン焼成物の熱処理条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法でCa含有α型サイアロン蛍光体粉末を得た。得られたCa含有α型サイアロン蛍光体粉末の蛍光特性を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0068】
(実施例5〜8)
Ca含有α型サイアロン蛍光体粉末が表1の設計組成になるように、原料粉末を秤量し、混合した以外は、実施例1と同様の方法でCa含有α型サイアロン蛍光体粉末を得た。得られたCa含有α型サイアロン蛍光体粉末の蛍光特性を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0069】
(比較例4、5、8、13、16)
Ca含有α型サイアロン蛍光体粉末が表1の設計組成になるように、原料粉末を秤量し、混合した以外は、実施例1と同様の方法でCa含有α型サイアロン蛍光体粉末を得た。得られたCa含有α型サイアロン蛍光体粉末の蛍光特性を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0070】
(比較例7、10、12、15)
Ca含有α型サイアロン蛍光体粉末が表1の設計組成になるように、原料粉末を秤量し、混合し、また、Ca含有α型サイアロン焼成物の熱処理条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法でCa含有α型サイアロン蛍光体粉末を得た。得られたCa含有α型サイアロン蛍光体粉末の蛍光特性を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0071】
(比較例6、9、11、14)
Ca含有α型サイアロン蛍光体粉末が表1の設計組成になるように、原料粉末を秤量し、混合し、また、Ca含有α型サイアロン焼成物の熱処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法でCa含有α型サイアロン蛍光体粉末を得た。得られたCa含有α型サイアロン蛍光体粉末の蛍光特性を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表1に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:
CaEuSi12−(m+n)Al(m+n)16−n
(式中、1.37≦x≦2.60、0.16≦y≦0.20、3.60≦m≦5.50、0≦n≦0.30、m=2x+3y)で表されるCa含有α型サイアロン蛍光体であって、
450nmの波長の光により励起されることで、ピーク波長が602nmから605nmの波長域にある蛍光を発し、その際の外部量子効率が54%以上であることを特徴とするCa含有α型サイアロン蛍光体。
【請求項2】
前記m及びnが、4.50≦m≦5.05及び0≦n≦0.10であることを特徴とする請求項1記載のCa含有α型サイアロン蛍光体。
【請求項3】
窒化ケイ素粉末、ユーロピウム源となる物質、及びカルシウム源となる物質の混合物を、不活性ガス雰囲気中、1400〜1800℃の温度範囲で焼成することによりCa含有α型サイアロン前駆体を得る第1工程と、
前記Ca含有α型サイアロン前駆体にアルミニウム源となる物質を混合し、不活性ガス雰囲気中、1500〜2000℃の温度範囲で焼成することにより、前記一般式で表されるCa含有α型サイアロン焼成物を得る第2工程と、
前記Ca含有α型サイアロン焼成物を、不活性ガス雰囲気中、1100〜1600℃の温度範囲で熱処理する第3工程と、
を有することを特徴とする請求項1または2記載のCa含有α型サイアロン蛍光体の製造方法。