説明

Cr含有基材用エッチング剤組成物及び該エッチング剤を用いたエッチング方法

【課題】本発明の目的は、Cr含有基材のエッチングに際して、エッチング速度が早く、サイドエッチングの少ないエッチングが可能であり、それによって生産性並びに歩留まりを向上させることができ、微細な部分のエッチングが可能となるCr含有基材用エッチング剤組成物及び該エッチング剤組成物を用いるCr含有基材のエッチング方法を提供することにある。
【解決手段】本発明のCr含有基材用エッチング剤組成物は、(A)フェリシアン化金属塩成分、(B)無機アルカリ化合物及び有機アルカリ化合物からなる群から選択される少なくとも1種類以上であるアルカリ成分、(C)ノニオン性界面活性剤成分を含む水溶液からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cr含有基材用エッチング剤組成物及び該エッチング剤組成物を用いたCr含有基材のエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Cr含有基材は、水晶振動子、銅配線用のシード層、光学用マスク等に用いられており、これらを加工するためにCr含有基材用エッチング剤組成物が用いられている。
【0003】
Cr含有基材用エッチング剤組成物として、フェリシアン化カリウム及びキレート剤を含有するエッチング剤が特許文献1に開示されている。また、塩酸と、酸化剤、界面活性剤、錯化剤、促進剤、銅の腐食抑制剤、還元剤のうち少なくとも1種以上を含有する酸性エッチング剤組成物や、フェリシアン化カリウム又は過マンガン酸塩と、酸化剤、錯化剤、pH緩衝剤及び促進剤のうち少なくとも1種以上を含有するアルカリ性エッチング剤組成物が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−277854号公報
【特許文献2】特開2005−023340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されているエッチング剤は、エッチングの進行に伴って発生する可能性のある沈殿物を溶解する機能をエッチング剤組成物に持たせる為にキレート剤を添加したものであり、エッチング速度の向上やサイドエッチングの低減を達成できるエッチング剤組成物ではなかった。
また、特許文献2に開示されているエッチング剤組成物のうち、酸性エッチング剤組成物は、エッチング速度が早いがサイドエッチングは大きい傾向があり、アルカリ性エッチング剤組成物は、サイドエッチングが小さいが、エッチング速度は遅いという傾向があり、どちらの性能も満足させ得るエッチング剤組成物ではなかった。
【0006】
即ち、酸性エッチング剤組成物ではエッチング速度が早いが、エッチング速度制御が困難であり、Au/Cr積層膜のようなCr含有基材をエッチングするに際して、サイドエッチングも大きくなってしまうという問題点があり、また、フェリシアン化金属塩を含有するアルカリ性エッチング剤組成物は、Au/Cr積層膜のエッチングに際して、サイドエッチングは小さいが、エッチング速度が遅いという問題点があった。
【0007】
ここで、Au/Cr積層膜を備えた水晶基板のようなCr含有基材におけるエッチングで問題となっているサイドエッチングについて説明するために、水晶振動子の製造方法を説明する:
(1)水晶基板の表裏両面もしくは片面に真空蒸着法などを用いて、クロムの金属膜とクロムの上に金の金属膜を形成し、クロムと金とからなる積層金属膜を形成する。これらの積層金属膜の形成は、真空蒸着法などで行う;
(2)感光性樹脂を全面に回転塗布法により形成し、所定のフォトマスクを用いて、露光、現像処理を行い、感光性樹脂をパターニングする;
(3)パターニングした感光性樹脂をエッチングマスクとして、金の金属膜をエッチングし、クロムの金属膜をエッチングし、水晶基板をエッチングすることでパターニングされた金/クロム/水晶基板の積層膜付基板を得る;
(4)レジスト膜及び金/クロム積層膜を除去することで、パターニングされた水晶振動子が得られる。
【0008】
Au/Cr積層膜を備えた水晶基板のようなCr含有基材のエッチングで問題となっているサイドエッチングとは、前記(3)の工程でクロムの金属膜をエッチングする際に、感光性樹脂によってマスクされていない部分のクロム層のみをエッチングするはずが、感光性樹脂によってマスクされパターニングされた部分のクロム部にまでエッチング剤組成物が影響を及ぼし、該クロム部をエッチングしてしまうことである。この問題により、感光性樹脂によって形成されたパターン通りの加工が困難となってしまう。エッチング速度の遅いエッチング剤組成物を使用することによりこのサイドエッチング問題は解決可能であるが、(3)の工程での処理時間が増大してしまうために生産性が落ちてしまう。
【0009】
従って、本発明の目的は、Cr含有基材のエッチングに際して、エッチング速度が早く、サイドエッチングの少ないエッチングが可能であり、それによって生産性並びに歩留まりを向上させることができ、微細な部分のエッチングが可能となるCr含有基材用エッチング剤組成物及び該エッチング剤組成物を用いるCr含有基材のエッチング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑み、本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、フェリシアン化金属塩及びアルカリ化合物を含有するエッチング剤組成物にノニオン性界面活性剤を添加することで上記課題を解決し得ることを知見し、本発明に到達した。
即ち、本発明は、(A)フェリシアン化金属塩成分、(B)無機アルカリ化合物及び有機アルカリ化合物からなる群から選択される少なくとも1種類以上であるアルカリ成分、及び(C)ノニオン性界面活性剤成分を含む水溶液からなることを特徴とするCr含有基材用エッチング剤組成物を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、上記のエッチング剤組成物を使用することを特徴とするCr含有基材のエッチング方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のCr含有基材用エッチング剤組成物を用いることにより、Cr含有基材のエッチングに際して、エッチング速度が早く、サイドエッチングの少ないエッチングが可能となることから、生産性並びに歩留まりを向上させることができ、微細な部分のエッチングが可能となるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のCr含有基材用エッチング剤組成物を具体的に説明する。
まず、本明細書に記載する「Cr含有基材」とは、Au/Cr積層膜、Cu/Cr積層膜、Cr−CrからなるCr系積層膜、CrN単層膜、Cr単層膜等を備えた水晶基体、ガラス基体、シリコン基体、ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂等の有機樹脂基体等を総称するものとする。
【0014】
本発明のCr含有基材用エッチング剤組成物に使用する(A)フェリシアン化金属塩成分は、本発明のCr含有基材用エッチング剤組成物の主剤である。フェリシアン化金属塩成分は特に限定されるものではないが、ナトリウム塩、カリウム塩、亜鉛塩などが挙げられ、カリウム塩がエッチング速度の点で好ましい。
【0015】
本発明のCr含有基材用エッチング剤組成物において、フェリシアン化金属塩成分の濃度は、所望とする被エッチング材であるCr含有基材、その厚みや幅によって適宜調節することができる。例えば、水晶振動子の加工工程に本発明のCr含有基材用エッチング剤組成物を使用する場合、被エッチング材であるCrを含有する膜の膜厚は約10〜100nmであり、さらにエッチング工程に許容される工程時間が1〜3分であるとした時には、フェリシアン化金属塩成分の濃度は5〜30質量%が好ましく、10〜20質量%が特に好ましい。この場合、5質量%未満だと、エッチング速度が遅く、許容される工程時間内にエッチングを終えることができなくなることがあり、30質量%を超えると、エッチング速度が早くなるために、エッチング速度の制御が難しく、エッチングしすぎてしまうことがある。なお、上記で想定される膜厚よりも薄い膜を処理する場合には、5質量%以下が好ましいこともあり、上記で想定される膜厚よりも厚い膜を処理する場合は30質量%以上が好ましい場合もある。
【0016】
本発明のCr含有基材用エッチング剤組成物に使用する(B)アルカリ成分は、本発明のCr含有基材用エッチング剤組成物のpHを調整する役目を果たす。アルカリ成分としては、無機アルカリ化合物及び有機アルカリ化合物からなる群から選択される少なくとも1種類以上を使用することができる。
【0017】
(B)アルカリ成分として使用する無機アルカリ化合物は、特に限定されるものではなく、例えば、アンニモア、アンモニウム水酸化物、アンモニウム炭酸塩、アンモニウム炭酸水素塩や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物や炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素化物塩が挙げられる。pH調整の点から、アルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが扱いやすく特に好ましい。
【0018】
また、(B)アルカリ成分として使用する有機アルカリ化合物は、特に限定されるものではなく、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラ(n−プロピル)アンモニウム、水酸化テトラ(i−プロピル)アンモニウム、水酸化テトラ(n−ブチル)アンモニウム、水酸化テトラ(i−ブチル)アンモニウム、水酸化テトラ(n−ペンチル)アンモニウム及び水酸化テトラネオペンチルアンモニウム等が挙げられ、pH調整の点から水酸化テトラメチルアンモニウムが特に好ましい。
【0019】
なお、(B)アルカリ成分は、pH緩衝液と併用することもできる。ここで、pH緩衝液は、特に限定されるものではなく、周知一般のpH緩衝液を用いればよく、例えば、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液等が挙げられる。
【0020】
本発明のCr含有基材用エッチング剤組成物における好ましい(B)アルカリ成分の濃度は、Cr含有基材用エッチング剤組成物のpHが13以上となるように適宜調節すればよく、Cr含有基材用エッチング剤組成物のpHは、14以上であることが特に好ましい。
【0021】
本発明のCr含有基材用エッチング剤組成物に使用する(C)ノニオン性界面活性剤成分は、本発明のCr含有基材用エッチング剤組成物に、エッチング速度の高速化及びCr含有基材のエッチングに際してサイドエッチングの低減化という機能を付与する役目を果たす。
【0022】
(C)ノニオン性界面活性剤成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの付加形態は、ランダム状、ブロック状の何れでもよい。)、ポリエチレングリコールプロピレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、アルキレンジアミンのエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのランダムまたはブロック付加物、グリセリン脂肪酸エステル又はそのエチレンオキサイド付加物、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸モノエタノールアミド又はそのエチレンオキサイド付加物、脂肪酸−N−メチルモノエタノールアミド又はそのエチレンオキサイド付加物、脂肪酸ジエタノールアミド又はそのエチレンオキサイド付加物、ショ糖脂肪酸エステル、アルキル(ポリ)グリセリンエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸メチルエステルエトキシレート、N−長鎖アルキルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。エッチング速度の高速化やサイドエッチングの低減化の点から、下記一般式(1)若しくは下記一般式(2)で表される化合物を用いることが特に好ましい。また、2種類以上のノニオン性界面活性剤を併用することもできる。
【0023】
【化1】

式中、Rは、主炭素鎖の炭素数が1〜18の炭化水素基であり側鎖や分岐があってもよい。R及びRは、エチレン基又はプロピレン基を表す。Rがエチレン基の場合、Rはプロピレン基であり、この時、lは2〜50の数を表し、mは0〜5の数を表す。Rがプロピレン基の場合、Rがエチレン基であり、この時、lは0〜5の数を表し、mは2〜50の数を表す。RO及びROで示されるエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの付加形態は、ランダム状、ブロック状の何れでもよい。Rは、水素若しくは主炭素鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基であり側鎖や分岐があってもよく、構造中にフッ素原子を含んでもよい。
【0024】
ここで、Rで表される主炭素鎖の炭素数1〜18の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ラウリル基、オレイル基等が挙げられ、これらの基は、いずれの位置で結合していてもよく、分岐していてもよい。Rに分岐鎖がある場合、Rの合計炭素鎖数は40以下であることが溶解性の点で好ましい。Rは、水素若しくは主炭素鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基を表し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基が挙げられ、これらの基は、いずれの位置で結合していてもよく、分岐していてもよく、構造中にフッ素原子を含んでもよい。Rに分岐鎖がある場合、Rの合計炭素鎖数は30以下であることが溶解性の点で好ましい。l及びmは、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドの数を表し、l又はmで表されるエチレンオキサイドの数は、特に限定されるものではないが、好ましくは2〜50、更に好ましくは2〜15が溶解性の点で好ましい。また、l又はmで表されるプロピレンオキサイドの数は特に限定されるものではないが、プロピレンオキサイドの数は0〜5である。ここで、プロピレンオキサイドの数が5以下の場合、Cr含有基材への吸着がスムーズに行われるために好ましく、0の場合が溶解性及びエッチング速度の点で特に好ましい。
【0025】
【化2】

式中、Rは、炭素数2〜6のアルキレン基を表し、X〜Xは、下記一般式(3)で表される基を表し、Xは、水素原子又は下記一般式(3)で表される基を表し、nは1〜5の数を表す。
【0026】
【化3】

式中、R及びRはエチレン基又はプロピレン基を表し、Rがエチレン基の場合、Rがプロピレン基であり、Rがプロピレン基の場合、Rがエチレン基であり、p及びqは、ポリオールの数平均分子量が200〜30,000であり、且つエチレンオキサイド基の含有量が10〜80質量%となる数を表す。エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの付加形態は、ランダム状、ブロック状の何れでもよい。
【0027】
で表される炭素数2〜6のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基等が挙げられ、これらの基は、いずれの位置で結合していてもよく、分岐していてもよい。R又はRで表されるプロピレン基は、−CYH−CYH−(Y及びYは、一方が水素、他方がメチル基である)でも−CH−CH−CH−でもよい。上記一般式(2)で表されるポリオールの中でも、Rがエチレンであり、nが1であり、X〜Xが一般式(3)で表される基であるポリオールは、入手が容易である。上記ポリオールの数平均分子量は、特に限定されるものではないが、200〜30,000が好ましく、エッチング速度の点から200〜7,500である場合が特に好ましい。また、上記ポリオールにおけるエチレンオキサイド基の含有量は、特に限定されるものではないが、10〜80質量%が好ましく、エッチング速度の点から10〜50質量%が特に好ましい。
【0028】
本発明のCr含有基材用エッチング剤組成物において、(C)ノニオン性界面活性剤成分の濃度は、特に限定されるものではないが、0.01〜1.0質量%が好ましく、0.02〜0.5質量%が特に好ましい。また、(C)ノニオン性界面活性剤成分として2種類以上を併用する場合には、(C)ノニオン性界面活性剤成分の50質量%以上が一般式(1)で表される化合物及び/または一般式(2)で表される化合物であることが特に好ましい。
【0029】
また、本発明のCr含有基材用エッチング剤組成物の使用中に、エッチングの進行に伴ってエッチング剤中のCrイオン濃度が上がりすぎるような用途に用いられる場合には、キレート剤を添加することができる。エッチング中に、Cr含有基材用エッチング剤組成物中のCrイオン濃度が上がりすぎた場合に発生する可能性のある沈殿物を、キレート剤を添加することにより溶解させることができる。
【0030】
このようなキレート剤は、特に限定されるものではなく、キレート効果を発揮することが認められる化合物であればどのようなものでも使用することができる。一例として、グルコン酸、エチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ジカルボキシメチルグルタミン酸、ジヒドロキシエチルグリシン、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、ホスホノブタントリカルボン酸等を挙げることができ、これらの塩(例えば、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、アルカノールアミン塩等)も例示することができ、2種類以上のキレート剤を併用することもできる。
【0031】
本発明のCr含有基材用エッチング剤組成物において、キレート剤の濃度は、使用されるエッチング状況に応じて適宜調節すればよいが、0.01〜1%質量%、好ましくは0.05〜0.5%質量%であればよい。
【0032】
次に、本発明のCr含有基材用エッチング剤組成物を用いたCr含有基材のエッチング方法について説明する。Cr含有基材のエッチング方法としては、特に限定されるものではなく、周知一般のエッチング方法を用いればよい。例えば、ディップ式、スプレー式、スピン式によるエッチング方法が挙げられる。
【0033】
例えば、ディップ式のエッチング方法によって、ガラス基板上にAu/Crが成膜された基材のようなCr含有基材をエッチングする場合には、該基材を本発明のCr含有基材用エッチング剤組成物に浸し、適切なエッチング条件にて浸漬した後に引き上げることでガラス基板上のCr膜をエッチングすることができる。
【0034】
エッチング条件は特に限定されるものではなく、エッチング対象の形状や膜厚などに応じて任意に設定することができる。例えば、エッチング温度は、10℃〜50℃が好ましく、20℃〜40℃が特に好ましい。エッチング剤の温度は反応熱により上昇することがあるので、必要なら上記温度範囲内に維持するよう公知の手段によって温度制御してもよい。また、エッチング時間は、エッチング対象が完全にエッチングされるに十分必要な時間とすればよいので特に限定されるものではない。例えば、水晶振動子製造におけるような膜厚250Å程度のエッチング対象であれば、上記温度範囲であれば0.5〜5分程度エッチングを行えばよい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明のCr含有基材用エッチング剤組成物を更に具体的に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。
実施例1
表1に示した界面活性剤を用いて、表2に示した配合でエッチング剤組成物を調合し、本発明品1〜9を得た。なお、含有量の残部は水である。
比較例1
実施例1と同様にして、表1に示した界面活性剤を用いて、表2に示した配合でエッチング剤組成物を調合し、比較品1及び2を得た。なお、含有量の残部は水である。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
実施例2:Au/Cr積層膜へのサイドエッチング評価
上から順にAu500Å、Cr250Åが積層された水晶基板のAuについてパターンエッチングを行い、一部Crが露出した基材(Au/Cr基材)を作成した。このAu/Cr基材を25mm□に切断し、25℃で本発明品1〜15及び比較品1〜2のエッチング剤組成物100mlに浸してCrエッチング処理を行った。エッチング処理は、各々のエッチング剤組成物について、露出したCrが光学顕微鏡による観察で完全に見られなくなるまでの時間だけ行った。この基材についてクロスセクションポリッシャーを用いてAuパターンを含む断面を作成し、走査型電子顕微鏡により断面画像を撮影してサイドエッチング量の確認を行った。結果を表3に示す。
【0039】
【表3】

【0040】
表3の結果より、比較品1と比較して、本発明品1、2、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15ではサイドエッチング量が低減していることがわかった。中でも本発明品1、2、4、5、6、9、11、12、14、15を用いた場合に大幅にサイドエッチング量が減っていることがわかった。一方、比較品2は比較品1と比べてサイドエッチング量の変化が無いことがわかった。本発明品のエッチング剤組成物は、Au/Cr積層膜のエッチングにおいて、大幅にサイドエッチング量を抑制することができることから、Au/Cr積層膜の微細な加工を行うことができることがわかった。
【0041】
実施例3:エッチング時間評価
上から順にAu500Å、Cr250Åが積層された水晶基板のAuについてパターンエッチングを行い、一部Crが露出した基材(Au/Cr基材)を作成した。このAu/Cr基材を25mm□に切断し、25℃で本発明品1〜9、12、15及び比較品1〜2のエッチング剤組成物100mlに浸してCrエッチング処理を行った。Crエッチングの進行は光学顕微鏡により観察を行い、露出したCrが完全に見られなくなるまでの時間をエッチング時間と定義した。結果を表4に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
表4の結果より、比較品1と比較して、本発明品1〜9、12、15でエッチング時間が短くなり、エッチング速度が高速化していることがわかった。中でも、本発明品2、3、4、5、6、7、12、15は大幅にエッチング時間が短くなり、エッチング速度が高速化していることがわかった。一方、比較品2は比較品1と比べてエッチング時間の変化が無いことがわかった。本発明品のエッチング剤組成物では、比較品と比較してエッチング速度が高速化していることから、生産性に優れていることがわかった。
【0044】
実施例4:Cr系積層膜基板エッチング評価
上から順にCr200Å、Cr800Åが積層されたガラス基板を25℃で本発明品1、3及び6並びに比較品1のエッチング剤組成物に浸漬した。積層膜の溶解状態を目視により観察し、Cr系材料が完全に消失した時間をエッチング時間とした。結果を表5に示す。
【0045】
【表5】

【0046】
表5より、比較品1と比較して、本発明品1、3及び6はいずれもエッチング時間が短くなり、エッチング速度が高速化していることがわかった。このことから、本発明品のエッチング剤組成物は、Cr層が薄膜である場合だけではなく、Cr層が厚膜である場合にも効果を発揮することができることがわかり、本発明のCr含有基材用エッチング剤組成物は、Cr層の膜厚によらず生産性向上に寄与することができ、Cr含有基材用エッチングに用いられるエッチング剤組成物として有用であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のCr含有基材用エッチング剤組成物は、水晶振動子、銅配線用のシード層、光学用マスク等に用いられているCr含有基材を加工するために好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)フェリシアン化金属塩成分;
(B)無機アルカリ化合物及び有機アルカリ化合物からなる群から選択される少なくとも1種類以上であるアルカリ成分;
(C)ノニオン性界面活性剤成分
を含む水溶液からなることを特徴とするCr含有基材用エッチング剤組成物。
【請求項2】
前記(A)フェリシアン化金属塩成分が、フェリシアン化カリウムである、請求項1に記載のCr含有基材用エッチング剤組成物。
【請求項3】
前記(B)アルカリ成分が、無機水酸化物及び有機水酸化物からなる群から選択される少なくとも1種類以上である、請求項1又は2に記載のCr含有基材用エッチング剤組成物。
【請求項4】
前記(B)アルカリ成分が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化テトラメチルアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種類以上である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のCr含有基材用エッチング剤。
【請求項5】
前記(C)ノニオン性界面活性剤成分が、下記の一般式(1)及び(2)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種類以上の化合物である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のエッチング剤組成物。
【化1】

(式中、Rは、主炭素鎖の炭素数が1〜18の炭化水素基であり、側鎖や分岐があってもよい。R及びRは、エチレン基又はプロピレン基を表す。Rがエチレン基の場合、Rはプロピレン基であり、lは、2〜50の数を表し、mは、0〜5の数を表す。Rがプロピレン基の場合、Rはエチレン基であり、lは、0〜5の数を表し、mは2〜50の数を表す。エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの付加形態は、ランダム状、ブロック状の何れでもよい。Rは、水素若しくは主炭素鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基であり、側鎖や分岐があってもよく、構造中にフッ素原子を含んでもよい。)
【化2】

(式中、Rは、炭素数2〜6のアルキレン基を表し、X〜Xは、下記一般式(3)で表される基を表し、Xは、水素原子又は下記一般式(3)で表される基を表し、nは、1〜5の数を表す)
【化3】

(式中、R及びRは、エチレン基又はプロピレン基を表し、Rがエチレン基の場合、Rはプロピレン基であり、Rがプロピレン基の場合、Rはエチレン基であり、p及びqは、ポリオールの数平均分子量が200〜30,000であり且つエチレンオキサイド基の含有量が10〜80質量%となる数を表す。エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの付加形態は、ランダム状、ブロック状の何れでもよい。)
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のCr含有基材用エッチング剤を使用することを特徴とするCr含有基材のエッチング方法。

【公開番号】特開2013−40375(P2013−40375A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177719(P2011−177719)
【出願日】平成23年8月15日(2011.8.15)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】