説明

GWT1遺伝子産物の酵素活性を阻害する化合物をスクリーニングする方法

GWT1蛋白を発現した膜画分を用いた簡単なGlcN−PIへのアシル基転移反応の測定により、GPIアンカー蛋白質の真菌細胞壁への輸送を阻害する化合物がスクリーニング可能となった。GPIアンカー蛋白質が細胞壁に輸送される過程を阻害することにより、真菌細胞壁の合成を阻害し、同時に宿主細胞への付着も阻害する新規抗真菌剤が創出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
真菌の細胞壁合成に関与するGPI合成酵素阻害活性を有する抗真菌剤をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
本発明者らは、真菌が病原性を発揮するためには宿主細胞に付着することが重要であり、付着に関与する付着因子は一旦細胞膜にGPI(Glycosylphosphatidylinositol)アンカリングした後、細胞壁表層に輸送されることに着目した(非特許文献1/Hamada K et al,Mol.Gen.Genet.,258:53−59,1998)。そしてGPIでアンカリングされた蛋白質(GPIアンカー蛋白質)が細胞壁に輸送される過程を阻害することにより、真菌細胞壁の合成を阻害し、同時に宿主細胞への付着も阻害する新規抗真菌剤が創出できると考えて研究に着手した。
【発明の開示】
本発明の課題は、真菌細胞壁へのGPIアンカー蛋白質の輸送を阻害して真菌細胞壁の合成を阻害するとともに、宿主細胞への付着を阻害して、病原性真菌が病原性を発揮できないようにする抗真菌剤を開発することにある。
本発明者らはWO 02/04626で、Saccharomyces cerevisiaeにおいて配列番号1に記載の塩基配列を有するDNAがコードする蛋白質が、Candida albicansにおいて配列番号3及び5に記載の塩基配列を有するDNAがコードする蛋白質が、Schizosacc haromyces pombeにおいて配列番号7に記載の塩基配列を有するDNAがコードする蛋白質が、Aspergillus fumigatusにおいて配列番号9及び11に記載の塩基配列を有するDNAがコードする蛋白質が、Cryptococcus neoformansにおいて配列番号12及び13に記載の塩基配列を有するDNAがコードする蛋白質が、GPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送過程に関与することを見出しGWT1遺伝子と命名した。更に、該遺伝子を欠失した真菌が細胞壁を合成できないこと、式(Ia)に示す化合物が該蛋白質と結合して、GPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送を阻害し、真菌の細胞壁合成を阻害することを見出した。

そして、GWT1遺伝子産物(以下GWT1蛋白)が、GPIの生合成経路(図1、Kinoshita and Inoue,Curr Opin Chem Biol 2000 Dec;4(6):632−8;Ferguson et al.,Biochim Biophys Acta 1999 Oct 8;1455(2−3):327−40)中のGlcN−PIにアシル基を転移しGlcN−(acyl)PIを合成する活性を有することを見出し、本活性を阻害する化合物をスクリーニングすることにより真菌細胞壁の合成を阻害する化合物を見出すことができると考えて、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、下記1から4を提供するものである。
[1].抗真菌作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)過剰発現させたGWT1遺伝子にコードされる蛋白質と、被検試料とを接触させる工程、
(2)GlcN−(acyl)PIを検出する工程、
(3)GlcN−(acyl)PIを減少させる被検試料を選択する工程、を含む方法。
ここでGWT1とはWO 02/04626に開示された真菌の細胞壁合成遺伝子であり、過剰発現させたとは本来持っていた遺伝子ではなく、外部から導入した遺伝子から発現させることを意味する。
また、GlcN−(acyl)PIとはGPIの生合成経路(図1、Kinoshita and Inoue,Curr Opin Chem Biol 2000 Dec;4(6):632−8;Ferguson et al.,Biochim Biophys Acta 1999 Oct 8;1455(2−3):327−40)中のGlucosaminyl−phosphatidylinositol(GlcN−PI)のInositolにアシル基が結合したGlucosaminyl−acylphosphatidylinositolである。
[2].GWT1遺伝子が下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNA、
(a)配列番号:2、4、6、8、10または14に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA
(b)配列番号:1、3、5、7、9、11、12または13に記載の塩基配列を含むDNA
(c)配列番号:1、3、5、7、9、11、12または13に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
(d)配列番号:2、4、6、8、10または14記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が付加、欠失、置換および/または挿入されたアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA、
である[1]に記載の抗真菌作用を有する化合物をスクリーニングする方法。
ここで、「ストリンジェントな条件」とは、例えば65℃ 4xSSCにおけるハイブリダイゼーション、次いで65℃で1時間0.1xSSC中での洗浄である。また別法としてストリンジェントな条件は、50%ホルムアミド中42℃4xSSCである。また、PerfectHybTM(TOYOBO)溶液中65℃2.5時間ハイブリダイゼーション、次いで1).2xSSC,0.05%SDS溶液:25℃5分、2).2xSSC,0.05% SDS溶液:25℃15分、3).0.1xSSC,0.1% SDS溶液50℃20分の洗浄といった条件も許される。
また、「1若しくは複数のアミノ酸が付加、欠失、置換および/または挿入されたアミノ酸配列からなる蛋白質」は、当業者に公知の方法、例えば、部位特異的変異誘発法(Sambruck,J.,Fritsch,E.F.,and Maniatis,T.(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY)などを用いて調製することができる。また、このような変異は自然界において生じることもある。アミノ酸の変異数は、GlcN−PIにアシル基を転移させる活性が保持される限り特に制限はない。典型的には、30アミノ酸以内であり、好ましくは、10アミノ酸以内であり、さらに好ましくは3アミノ酸以内である。アミノ酸の変異部位も、上記活性が保持される限り特に制限はない。
上記ハイブリダイゼーションを利用して調製される蛋白質や変異蛋白質は、通常、配列番号:2、4、6、8、10または14に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質とそのアミノ酸配列において高い相同性(例えば、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、あるいは95%以上の相同性)を有する。アミノ酸配列の相同性は、BLASTx(アミノ酸レベル)のプログラム(Altschul et al.J.Mol.Biol.215:403−410,1990)を利用して決定することができる。該プログラムは、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264−2268,1990、Proc,Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877,1993)に基づいている。BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore=50、wordlength=3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いて、アミノ酸配列を解析する場合は、Altschulら(Nucleic.Acids.Res.25:3389−3402,1997)に記載されているように行うことができる。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
[3].アシル化されたGPIを検出する工程が薄相クロマトグラフィーである、[1]または[2]に記載の方法。
[4].さらに、(4)選択された被検試料が、GPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送過程を阻害するか否か、GPIアンカー蛋白質の真菌表層への発現を阻害するか否か、または、真菌の増殖を抑制するか否かを検定する工程、を含む、[1]から[3]のいずれかに記載の方法。
以下に本発明に記載された、1.GWT1蛋白を調製する方法、2.アシル基転移活性の測定方法について開示する。
1.GWT1蛋白を調製する方法
GWT1蛋白は、真菌、好ましくS.cerevisiae、C.albicans、S.pombe、A.fumigatus、C.neoformans、更に好ましくはS.cerevisiaeの膜画分から調製する。アシル基転移活性の測定は、調製した膜画分をそのまま使用してもよいし、更に精製して用いてもよい。真菌に、配列番号1、3、5、7、9、11、12または13に記載の塩基配列のDNAを導入して、GWT1蛋白を過剰発現させることにより、アシル基転移活性の測定を容易に行うことが可能である。以下にS.cerevisiaeの場合について具体的に説明する。
(1)GWT1遺伝子の導入
GWT1遺伝子は、配列番号1、3、5、7、9、11、12または13に記載の塩基配列を基にプライマーを設計し、真菌のDNAを鋳型としてPCRを行うことにより得ることができる。
GWT1遺伝子をS.cerevisiaeで働く発現ベクター、例えばYEp352のマルチクローニングサイトに適当なプロモーター・ターミネーター、例えばpKT10(Tanaka et al,Mol.Cell Biol.,10:4303−4313,1990)由来のGAPDHプロモーター及びGAPDHターミネーターを挿入した発現ベクターに挿入してGWT1発現プラスミドを作製する。S.cerevisiae例えばG2−10株を、適当な培地例えばYPD培地(Yeast extract−Polypeptone−Dextrose培地)にて、適当な温度例えば30℃で振とう培養し、対数増殖後期の時点で集菌する。洗浄後、例えば酢酸リチウム法によりGWT1発現プラスミドをS.cerevisiaeに導入する。酢酸リチウム法についてはYEAST MAKERTM Yeast Transformation System(Clonetech社製)User Manualに記載されている。SD(ura−)培地で30℃、2日間培養することによりGWT1過剰発現株および空ベクター導入株を得ることができる。
また、GWT1遺伝子を導入する菌株は、好ましくは自身のGWT1遺伝子を欠失した欠失株であることが望ましい。GWT1遺伝子を欠失したS.cerevisiaeは、以下の方法により得ることができる。
マーカー遺伝子、好ましくはS.pombeのhis5遺伝子を鋳型とし、両端に30bp以上好ましくは40bp以上の欠失したいGWT1遺伝子の配列(例えば配列番号1に記載の配列)を含んだPCR産物が得られるように設計したプライマーを用いPCR増幅を行う。PCR産物を精製し、真菌に導入後、マーカー遺伝子に対応した選択、his5であればhis−の培地で培養して、欠失株を得ることができる。
S.cerevisiae以外の真菌の発現ベクター及び遺伝子導入法は、S.pombeの発現ベクターpcL等及びその導入法についてIgarashi et al,Nature 353:80−83,1991に、C.albicansの発現ベクターpRM10等及びその導入法についてPla J et al,Yeast,12:1677−1702,1996に、A.fumigatusの発現ベクターpAN7−1等及びその導入法についてPunt PJ et al,GENE,56:117−124,1987に、C.neoformansの発現ベクターpPM8等及びその導入法についてMonden P et al,FEMS Microbiol.Lett.,187:41−45,2000に記載されている。
また、C.albicansの欠失株の作製法は、Fonzi WA et al,Genetics 134:717−728,1993に記載されている。
(2)膜画分の調製法
GWT1遺伝子を導入したS.cerevisiaeを、適当な培地例えばSD(ura−)液体培地にて、適当な温度例えば24℃で振とう培養し、対数増殖中期の時点で集菌する。菌体をTM buffer(50mM Tris−HCl,pH7.5,2mM MgCl)で洗浄した後、適量例えば2mlのTM buffer+protease inhibitor(CompleteTM(Roche社製))にて懸濁し、適量例えば1.5mlのガラスビーズを加える。これをボルテックスしては氷上に置く操作を繰り返して(例えば、30秒間ボルテックスして30秒間氷上に置く操作を10回繰り返して)菌体を破砕する。
遠心例えば1,000gで5分間遠心してガラスビーズおよび未破砕の菌体を沈殿させる。上清を別のチューブにとり、遠心例えば13,000gで20分間遠心することによりオルガネラを含む膜画分(Total membrane fraction)を沈殿させる。必要ならば、更に沈殿を1mlの適当なassay用のバッファーに懸濁し、遠心例えば1,000gで1分間遠心することにより懸濁されなかった部分を取り除き、上清を遠心例えば13,000gで20分間遠心して沈殿を適当なassay用のバッファーに再懸濁し膜画分とする。
S.cerevisiae以外の真菌の膜画分調製は、S.pombeについてはYoko−o et al,Eur.J.Biochem.257:630−637(1998)に、C.albicansについてはSentandreu M et al,J.Bacteriol.,180:282−289,1998に、A.fumigatusについてはMouyna I et al,J.Biol.Chem.,275:14882−14889,2000に、C.neoformansについてはThompson JR et al,J.Bacteriol.,181:444−453,1999に記載の方法により行うことができる。
別法としてGWT1蛋白は、真菌以外の細胞、例えば哺乳類細胞、昆虫細胞、大腸菌等で発現させ、調製することができる。
哺乳類細胞では、例えばCMVプロモーターを持つ過剰発現用ベクターにつないだGWT1を哺乳類細胞に導入し、Petaja−Repo et al.,J.Biol.Chem.,276:4416−23,2001に記載の方法により膜画分を調製することができる。
昆虫細胞では、例えばBAC−TO−BAC Baculovirus Expression system(Invitrogen社製)等のバキュロウイルス発現キットを用いてGWT1発現昆虫細胞(Sf9細胞など)を作製し、ここからOkamoto et al.,J.Biol.Chem.,276:742−751,2001に記載の方法により膜画分を調製することができる。
大腸菌では、例えばpGEX(Pfizer社製)の大腸菌発現用ベクターにGWT1をつなぎ、BL21などの大腸菌に導入しGWT1蛋白を調製することができる。
2.アシル基転移活性の測定方法
GPIにアシル基を転移する反応の検出は、Costello and Orlean,J.Biol.Chem.(1992)267:8599−8603;またはFranzot and Doering,Biochem.J.(1999)340:25−32に報告されている方法により可能である。以下に具体的な方法の例を挙げるが、以下の実験条件は使用するGWT1遺伝子産物に合わせて最適化することが好ましい。
適当な金属イオン(Mg、Mn)、ATP、Coenzyme A、及び好ましくはUDP−GlcNAcが他の反応に使われるのを阻害する阻害剤、例えばキチンの合成阻害剤としてnikkomycin Z、アスパラギン結合型糖鎖の合成阻害剤としてtunicamycinを含むバッファーに、1で調製したGWT1遺伝子産物、好ましくはGWT1遺伝子産物を含む膜画分を加え、更に被検化合物を加えて適当な温度で適当な時間(例えば24℃で15分間)保温する。
その後、適当に標識した、好ましくは放射性同位元素で標識したGlcN−(acyl)PIの前駆体、例えばUDP−GlcNAc、Acyl−Coenzyme A、好ましくはUDP−[14C]GlcNAcを加えて、更に適当な時間(例えば24℃で1時間)保温する。クロロホルム:メタノール(1:2)を添加し攪拌して反応を止め脂質を抽出する。抽出した反応産物を適当な溶媒、好ましくはブタノールに溶解し、HPLC・薄層クロマトグラフィー(TLC)等の方法、好ましくはTLCにより、反応で生成したGlcN−(acyl)PIを分離する。TLCで展開する場合、展開溶媒は例えばCHCl/CHOH/HO(65:25:4)、CHCl/CHOH/1M NHOH(10:10:3)、CHCl/pyridine/HCOOH(35:30:7)等適宜選択することができるが、好ましくはHCl/CHOH/1M NHOH(10:10:3)により展開する。分離したGlcN−(acyl)PIを、標識に対応した方法、放射性同位元素で標識したのであれば、分離したGlcN−(acyl)PIの放射活性により定量する。
被検化合物が存在する場合に、生成するGlcN−(acyl)PIが減少すれば、被検化合物にGWT1蛋白によるアシル基転移を抑制する活性があると判断される。
このようなアシル基転移を抑制する活性が検出された被検試料は、さらに、GPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送過程を阻害するか否か、GPIアンカー蛋白質の真菌表層への発現を阻害するか否か、または、真菌の増殖を抑制するか否かを検定することが好ましい。この検定の結果、被検試料が、GPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送過程を阻害、GPIアンカー蛋白質の真菌表層への発現を阻害、または、真菌の増殖を阻害した場合には、該試料は抗真菌剤の有力な候補となる。
被検試料が、GPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送過程を阻害するか否か、あるいはGPIアンカー蛋白質の真菌表層への発現を阻害するか否かは、(1).レポータ酵素を用いる方法、(2).真菌細胞壁の表層糖蛋白質と反応する抗体を用いる方法、(3).動物細胞に対する付着能により検定する方法、(4).真菌を光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡で観察する方法により検定できる。
(1)〜(4)の方法はWO 02/04626の発明の開示に示されており、実施例に具体的に開示されている。(1)〜(4)の方法により、好ましくは(1)〜(4)の方法を組み合わせて用いることにより、被検試料がGPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送過程を阻害する、あるいはGPIアンカー蛋白質の真菌表層への発現を阻害すると判断され、しかも本件発明に記載のDNAがコードする蛋白質を、真菌に過剰発現させることにより、その阻害の程度が減弱する、あるいは阻害が見られなくなる場合に、被検試料は、GPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送過程に影響を与えたと判断される。
また被検試料が真菌の増殖を抑制するか否かは、通常の抗真菌活性を測定する方法により検定できる(National Committee for Clinical Laboratory Standards.1992.Reference method for broth dilution antifungal susceptibility testing for yeasts.Proposed standard M27−P.National Committee for Clinical Laboratory Standards,Villanova,Pa.)。
【図面の簡単な説明】
図1は、GPIの生合成経路を示した図である。
図2は、野生株(WT)、GWT1遺伝子を破壊したΔgwt1株(Δ)、Δgwt1株にGWT1遺伝子を導入した株(Δ/G)から調製した膜画分について、GPIアシル化反応を測定した結果を示す写真である。
図3は、GWT1遺伝子を開示しているWO02/04626の表1に記載の、実施例B2の化合物(1−(4−ブチルベンジル)イソキノリン、)及び、実施例B60の化合物(N−(3−(4−(1−イソキノリルメチル)フェニル)−2−プロピニル)アセトアミド)のアシル化GIP検出系におけるGPIアシル化反応の阻害活性を測定した結果を示す写真である。
図4は、GWT1遺伝子を開示しているWO02/04626の表1に記載の、実施例B73の化合物(N−(3−(4−(1−イソキノリルメチル)フェニル)プロピル)−N−メチルアセトアミド、)及び、実施例B85の化合物(5−ブチル−2−(1−イソキノリルメチル)フェノール)のアシル化GIP検出系におけるGPIアシル化反応の阻害活性を測定した結果を示す写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に、具体的な例をもって本発明を示すが、本発明はこれに限られるものではない。
[実施例1]GWT1蛋白を発現した膜画分の調製
(1).GWT1発現プラスミドの作製
S.cerevisiaeで働く発現ベクターを作製するため、YEp352のマルチクローニングサイトにpKT10(Tanaka et al,Mol.Cell Biol.,10:4303−4313,1990)由来のGAPDHプロモーターおよびGAPDHターミネーターを挿入し、更にマルチクローニングサイトをpUC18マルチクローニングサイトに置き換えてYEp352GAPIIを作製した。またGWT1遺伝子の挿入を容易にするため、マルチクローニングサイトに存在するSalIサイトをClaIサイトに変換したYEp352GAPIIClaIΔSalを作製した。
配列番号1に記載の塩基配列を含むS.cerevisiae GWT1遺伝子を配列番号15に記載のプライマーおよび配列番号16に記載のプライマーを用いて増幅し、YEp352GAPIIClaIΔSalベクターのマルチクローニングサイトに挿入してGWT1過剰発現プラスミドを作製した。
(2).GWT1遺伝子を欠失したS.cerevisiae Δgwt1株の作製
S.pombeのhis5遺伝子(Longtine MS et al,Yeast,14:953−961,1998)を鋳型とし、配列番号17及び配列番号18をプライマーとして、両端にGWT1配列を含むhis5カセットをPCRで増幅した。
S.cerevisiaeを培養・集菌し、上述のPCR産物で形質転換した。SD(His−)培地で30℃、5〜7日間培養することによりGWT1遺伝子を欠失したΔgwt1株を得た。
(3)GWT1発現細胞の作製
Δgwt1株を、YPD培地(Yeast extract−Polypeptone−Dextrose培地)にて、30℃で振とう培養し、対数増殖後期の時点で集菌した。洗浄後、酢酸リチウム法(YEAST MAKERTM Yeast Transformation System(Clonetech社製))によりGWT1発現プラスミドをΔgwt1株に導入した。SD(ura−)培地で30℃、2日間培養することによりGWT1遺伝子を過剰発現させたΔgwt1株を得た。
(4)膜画分の調製
S.cerevisiae野生株、GWT1遺伝子を欠失したΔgwt1株、あるいはΔgwt1株にGWT1過剰発現プラスミドを導入した株を、100mlのYPD培地にて24℃で振とう培養し、対数増殖中期(OD600=1〜3)の時点で集菌した。菌体をTM buffer(50mM Tris−HCl,pH7.5,2mM MgCl)で洗浄した後、2mlのTM buffer+protease inhibitor(CompleteTM(Roche社製)1tablet/25ml)にて懸濁し、1.5mlのガラスビーズを加えた。これを30秒間ボルテックスして30秒間氷上に置く操作を10回繰り返すことにより菌体を破砕した。菌体破砕液を新しいチューブに移し、4℃で1000g、5分間遠心してガラスビーズおよび未破砕の菌体を沈殿させた。上清を別のチューブにとり、4℃で13,000g,20分間遠心することによりオルガネラを含む膜画分(Total membrane fraction)を沈殿させ、膜画分とした。
(5)アシル化されたGPIの検出
GPI生合成反応は、N−acetyl−glucosaminyl−phosphatidylinositol(GlcNAc−PI)が脱アセチル化されることによりGlucosaminyl−phosphatidylinositol(GlcN−PI)を生じ、これにアシル基が付加することによりGlucosaminyl−acylphosphatidylinositol(GlcN−(aeyl)PI)へと進むことが知られている(図1)。そこで、Gwt1タンパク質がこのアシル基転移反応に関わっているかを以下の方法によって調べた。
調製した膜画分(300μg protein)を50mM Tris−HCl,pH7.5,2mM MgCl,2mM MnCl,1mM ATP,1mM Coenzyme A,21μg/ml tunicamycin,10μM nikkomycin Z,0.5mM Dithiothreitolに対して希釈し全量を140μlに合わせ、反応液とした。これを24℃で15分保温した後、15μCiのUDP−[14C]GlcNAcをチューブに添加した。24℃にて1時間保温した後、1mlのクロロホルム:メタノール(1:2)を添加し攪拌することにより反応を止めて、脂質を抽出した。乾燥させた脂質をブタノール抽出により脱塩し、薄層クロマトグラフィー(HCl/CHOH/1M NHOH(10:10:3))により、アシル化されたGPI(GlcN−(acyl)PI)、アシル化されていないGPI(GlcN−PI)、アシル化も脱アセチル化もされていないGPI(GlcNAc−PI)を分離し、オートラジオグラフィーにより各スポットを検出した。
その結果、図2に示すように、野生株ではアシル化されたGPIのスポットが検出されたのに対し、GWT1遺伝子を破壊した株(Δgwt1)ではアシル化GPIのスポットは全く検出されなかった。また、Δgwt1株にGWT1遺伝子を導入した株では、アシル化GPIのスポットが検出され、アシル化能が回復していた。以上のことより、Gwt1タンパク質がGPIへのアシル基転移反応を触媒する酵素であることが示された。
以上の結果より、本GPI合成酵素活性測定系にGWT1遺伝子産物の活性を阻害活性を有する化合物が含まれていれば、アシル化したGlcN−(acyl)PIのスポットの強度が減弱あるいは消失すると考えられ、GlcN−(aeyl)PIのスポットの強度を指標としてGWT1遺伝子産物の酵素活性を阻害する化合物、更には真菌の細胞壁合成を阻害する化合物をスクリーニングすることが可能であると考えられた。
(6)アシル化反応を阻害する化合物のスクリーニング
GWT1遺伝子を開示しているWO02/04626において、GWT1遺伝子産物の活性を反映したレポータ系での化合物の抑制活性を示した表1に記載の、実施例B2、実施例B60、実施例B73、実施例B85に記載の化合物について、これらの化合物を(5)に記載のアシル化GIP検出系に添加して、GPIアシル化反応を阻害する活性を測定した。これら化合物の構造は以下に記載する通りである。
実施例B2に記載の化合物:1−(4−ブチルベンジル)イソキノリン

実施例B60に記載の化合物:N−(3−(4−(1−イソキノリルメチル)フェニル)−2−プロピニル)アセトアミド

実施例B73に記載の化合物:N−(3−(4−(1−イソキノリルメチル)フェニル)プロピル)−N−メチルアセトアミド

実施例B85に記載の化合物:5−ブチル−2−(1−イソキノリルメチル)フェノール

結果を図3及び図4に示した。WO02/04626表1の中で、1μg/ml以下のIC50で阻害活性を表している実施例B2及び実施例B85に記載の化合物では、用量依存的なアシル化GPIのスポット強度の減少が見られるのに対し、IC50が50μg/mlの実施例B73の化合物では、スポット強度の減少が見られなかった。
この結果から、本GPIアシル化反応の測定系を用いることにより、GWT1遺伝子産物の酵素活性阻害する化合物をスクリーニングすることが可能であることが明らかとなった。
【産業上の利用の可能性】
GPIアンカー蛋白質の真菌細胞壁への輸送を阻害する化合物が、簡単なアシル基転移活性測定によりスクリーニング可能となった。
【配列表】








































































【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗真菌作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)過剰発現させたGWT1遺伝子にコードされる蛋白質と、被検試料とを接触させる工程、
(2)GlcN−(acyl)PIを検出する工程、
(3)GlcN−(acyl)PIを減少させる被検試料を選択する工程、を含む方法。
【請求項2】
GWT1遺伝子が下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNA、
(a)配列番号:2、4、6、8、10または14に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA
(b)配列番号:1、3、5、7、9、11、12または13に記載の塩基配列を含むDNA
(c)配列番号:1、3、5、7、9、11、12または13に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
(d)配列番号:2、4、6、8、10または14記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が付加、欠失、置換および/または挿入されたアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA、
である請求項1に記載の抗真菌作用を有する化合物をスクリーニングする方法。
【請求項3】
アシル化されたGPIを検出する工程が薄相クロマトグラフィーである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
さらに、(4)選択された被検試料が、GPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送過程を阻害するか否か、GPIアンカー蛋白質の真菌表層への発現を阻害するか否か、または、真菌の増殖を抑制するか否かを検定する工程、を含む、請求項1から3のいずれかに記載の方法。

【国際公開番号】WO2004/048604
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【発行日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555006(P2004−555006)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014909
【国際出願日】平成15年11月21日(2003.11.21)
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】