説明

IL−31アンタゴニストを用いて神経組織における疼痛及び炎症を治療する方法

【課題】炎症及び疼痛の治療。さらには神経障害に伴う疼痛、うずき、鋭敏化、くすぐったさの緩和。
【解決手段】IL-31に対するアンタゴニストが、神経組織における刺激を阻害し、予防し、減少し、最小化し、制限し又は最小化することによる。かかるアンタゴニストは、抗体並びにその断片、誘導体又は変異形を含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
炎症過程は神経系を活性化して炎症性疼痛及び運動機能の破壊をもたらす。感覚神経の刺激は血管拡張及び血漿漏出を引き起こし、感覚刺激、過敏症及び疼痛をおこす神経因性炎症及び刺激に導く。
【0002】
神経因性炎症は、組織中の侵害受容性及び温度感受性の末端の活性化によって引き起こされ、そして、アレルギーを含む自己免疫疾患などの生まれつきの状態により、ウイルス感染により、並びに傷害により引き起こされることができる。これらの状態に由来する神経因性炎症は、圧力、接触、温度、疼痛、かゆみ、くすぐったさ、うずき及び無感覚などの感覚に関与する様々な感覚受容体からなる体性感覚系に影響しうる。活性化された神経はサイトカイン分泌の誘導、単球の活性化及び化学走性によって慢性の炎症を永続化させることができる。
【0003】
神経因性炎症において活性のタンパク質は、病気の診断及び治療への治療的アプローチの標的となることができる。
【0004】
疼痛の治療に使用される薬物の例はニューロンチン(Neurontin)(ガバペンチン)であり、これは、ヘルペス後神経痛としての糖尿病性末梢神経障害の治療に使用される。したがって、神経障害性疼痛を治療するためのさらなる医薬が必要である。
【発明の概要】
【0005】
以下の定義は、本明細書に記載の発明の理解を容易にするために提供される。
【0006】
「抗体」又は「抗体ペプチド」という用語は、無傷の抗体又は特定の結合について無傷の抗体と競合するその結合断片をさし、そして、キメラ、ヒト化、完全にヒトの、及び二重特異性抗体を含む。ある実施態様においては、結合断片は組換えDNA技術によって作られる。さらなる実施態様においては、結合断片は無傷の抗体の酵素的又は化学的切断によって作られる。結合断片は、Fab、Fab’、F(ab').sub.2、Fv、及び単鎖抗体を含むが、これらに限定されない。
【0007】
「単離された抗体」という用語は、その自然の環境の成分から同定され、かつ分離及び/又は回収された抗体をさす。その自然の環境の混入成分は、抗体の診断的又は治療的用途を妨害するであろう物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク性又は非タンパク性溶質を含みうる。実施態様においては、抗体は、(1)ローリー法によって測定して、抗体の99重量%超を含む、95重量%超まで精製され、(2)スピニングカップ配列決定装置を用いてN-末端又は内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度まで精製され、又は(3)クマシーブルー又は好ましくは銀染色を用いる、還元条件又は非還元条件下でのSDS-PAGEによって均一となるまで精製される。単離された抗体は、インサイチュの組換え細胞内の抗体を含み、これは、抗体の自然の環境の少なくとも1つの成分が存在しないからである。しかしながら、通常、単離された抗体は少なくとも1つの精製ステップによって調製されるだろう。
【0008】
「変異形」抗−IL-31抗体は、本明細書中で、「親」抗−IL-31抗体アミノ酸配列中での1つ以上のアミノ酸残基の付加、欠失及び/又は置換によって、親抗体配列とはアミノ酸配列において異なる分子をさす。ある実施態様においては、変異形は、親抗体の1つ以上の超可変領域中に1つ以上のアミノ酸置換を含む。例えば、変異形は少なくとも1つ、例えば、約1〜約10、そして約2〜約5の置換を親抗体の1つ以上の超可変領域中に含んでよい。通常、変異形は、親抗体重鎖又は軽鎖可変ドメイン配列と少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、そして最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有する。この配列に関する同一性又は相同性は、配列を整列化し、そして必要に応じてギャップを導入して最大の配列同一性パーセントを達成した後の、親抗体残基と同一の候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして本明細書中で定義される。抗体配列のN-末端、C-末端又は内部での伸長、欠失又は挿入のいずれも、配列同一性又は相同性に影響を与えるものと解してはならない。変異形は、ヒトIL-31に結合する能力を保持し、そして好ましくは親抗体のものよりも優れた性質を有する。例えば、変異形は、より強力な結合親和性、IL-31誘導性の免疫細胞の刺激を阻害するための亢進された能力を有する。かかる性質を分析するためには、例えば、変異形のFab形態を親抗体のFab形態に対して、又は変異形の完全長形態を親抗体の完全長形態に対して比較しなければならない、それは、抗-IL-31抗体のフォーマットが本明細書中に開示された生理活性アッセイにおいてその活性に影響を与えることがわかったからである。本明細書中で特に着目の変異形抗体は、親抗体に比較して、少なくとも約10倍、好ましくは少なくとも約20倍、そして最も好ましくは少なくとも約50倍の生理活性の亢進を示すものである。
【0009】
本明細書中で使用される「親抗体」という用語は、変異形の調製に使用されるアミノ酸配列によってコードされる抗体をさす。好ましくは、親抗体は、ヒトフレームワーク領域を有し、存在する場合にはヒト抗体定常領域を有する。例えば、親抗体はヒト化されているか又はヒト抗体であってよい。
【0010】
「アゴニスト」は、他の分子の活性、活性化又は機能を増加させる、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、抗体、抗体断片、大分子、又は小分子(10kD未満)を含む任意の化合物である。例えば、IL-31アゴニストは、NK細胞、T細胞サブセット、及びB細胞サブセット及び樹状細胞の刺激を引き起こす。
【0011】
「アンタゴニスト」という用語は、他の分子の活性、活性化又は機能を減少させるタンパク質、ポリペプチド、ペプチド、抗体、抗体断片、大分子、又は小分子(10kD未満)を含む任意の化合物をさす。IL-31アンタゴニストは、NK細胞、T細胞サブセット及びB細胞サブセット及び樹状細胞の免疫機能の低下;IL-31タンパク質の相互作用がブロックされ、阻害され、低下させられ、アンタゴナイズされ又は中和されるようなIL-31との結合をもたらす。
【0012】
「多重特異性」又は「多機能性」抗体以外の「二価抗体」は、ある実施態様においては、同一の抗原特異性を有する結合部位を含むと理解される。
【0013】
「二重特異性」又は「二機能性」抗体は、2つの異なる重鎖/軽鎖対及び2つの異なる結合部位を有するハイブリッド抗体である。二重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合又はFab'断片の連結を含むがこれらに限定されない様々な方法によって作られてよい。例えば、Songsivilai & Lachmann, Clin. Exp. Immunol. 79:315-321 (1990);Kostelny et al., J. Immunol. 148:1547-1553 (1992)を参照のこと。
【0014】
「キメラ抗体」(単数及び複数)という用語は、その軽鎖及び重鎖遺伝子が、異なる種に属するイムノグロブリン可変領域及び定常領域遺伝子から、典型的には遺伝子工学によって構築された抗体をさす。例えば、マウスモノクローナル抗体の遺伝子からの様々なセグメントが、ガンマ1及びガンマ3などのヒト定常セグメントに結合されてよい。したがって、典型的な治療用キメラ抗体は、マウス抗体からの可変ドメイン又は抗原結合ドメインとヒト抗体からの定常ドメインからなるが、他の哺乳動物種も使用されてよい。
【0015】
「エピトープ」という用語は、イムノグロブリン又はT細胞受容体に特異的に結合することのできる任意のタンパク質決定基を含む。エピトープ決定基は通常、アミノ酸又は糖側鎖などの分子の化学的に活性を有する表面の基からなり、そして通常は特異的な三次元構造特性並びに特異的な電荷特性を有する。より特別には、本明細書中で使用される「IL-31」という用語は、動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはマウス又はヒトにおいて抗原性又は免疫原性の活性を有するIL-31ポリペプチドの部分をさす。免疫原性の活性を有するエピトープは、動物において抗体反応を誘発するIL-31ポリペプチドの部分である。免疫原性の活性を有するエピトープは、抗体が免疫特異的にそれに結合する、と、イムノアッセイなどの本分野で周知の任意の方法によって決定されたIL-31ポリペプチドの部分である。抗原エピトープは、必ずしも免疫原性である必要はない。
【0016】
本明細書中で使用される場合、「エピトープタグをつけた」という用語は、「エピトープタグ」に融合された抗−IL-31抗体をさす。エピトープタグポリペプチドは、それに対して抗体が作製可能であるエピトープを提供するために十分な残基を有するが、IL-31抗体の活性を妨害しないように十分に短いものである。エピトープタグは、抗体が実質的に他のエピトープと交差反応しないように十分にユニークであることが好ましい。好適なタグポリペプチドは、一般に、少なくとも6アミノ酸残基、そして通常は約8〜50アミノ酸残基(好ましくは約9〜30残基)を有する。例は、flu HAタグポリペプチド及びその抗体12CA5(Field et al. Mol. Cell. Biol. 8:2159-2165 (1988));c-mycタグ及びそれに対する8F9、3C7、6E10、G4、B7及び9E10抗体(Evan et al., Mol. Cell. Biol. 5(12):3610-3616 (1985));及び単純ヘルペスウイルス糖タンパク質D(gD)タグ及びその抗体(Paborsky et al., Protein Engineering 3(6):547-553 (1990))を含む。ある実施態様においては、エピトープタグは、「サルベージ受容体結合エピトープ」である。本明細書中で使用される「サルベージ受容体結合エピトープ」は、IgG分子のインビボでの血清半減期を増加させることに関与する、IgG分子のFc領域のエピトープをさす(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4)。
【0017】
本明細書中で使用される用語「断片」は、IL-31ポリペプチドのアミノ酸配列又はIL-31ポリペプチドに免疫特異的に結合する抗体の少なくとも5つの連続したアミノ酸残基、少なくとも10の連続したアミノ酸残基、少なくとも15の連続したアミノ酸残基、少なくとも20の連続したアミノ酸残基、少なくとも25の連続したアミノ酸残基、少なくとも40の連続したアミノ酸残基、少なくとも50の連続したアミノ酸残基、少なくとも60の連続したアミノ酸残基、少なくとも70の連続したアミノ酸残基、少なくとも80の連続したアミノ酸残基、少なくとも90の連続したアミノ酸残基、少なくとも100の連続したアミノ酸残基、少なくとも125の連続したアミノ酸残基、少なくとも150の連続したアミノ酸残基のアミノ酸配列を含むペプチド又はポリペプチドをさす。
【0018】
本明細書中で使用される用語「イムノグロブリン」は、イムノグロブリン遺伝子によって実質的にコードされた1つ以上のポリペプチドから成るタンパク質をさす。イムノグロブリンの1つの形態は、抗体の基本的構造単位を構成する。この形態はテトラマーであり、それぞれが1つの軽鎖と1つの重鎖を有する、2つの同一のイムノグロブリン鎖の対から成る。各対においては、軽鎖と重鎖の可変領域が一緒になって抗原への結合に関与し、そして定常領域は抗体エフェクター機能に関与する。
【0019】
完全長イムノグロブリン「軽鎖」は、NH2末端における可変領域遺伝子及びCOOH末端におけるカッパ又はラムダ定常領域遺伝子によってコードされる。完全長イムノグロブリン「重鎖」は、可変領域遺伝子及び上記の定常領域遺伝子のうちの他の1つによって同様にコードされる(約330アミノ酸)。重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ又はイプシロンに分類され、そして、抗体アイソタイプを(IgG1、IgG4を含む)IgG、IgM、IgA、IgD及びIgEとそれぞれ定義する。軽鎖及び重鎖内では、可変領域と定常領域は、約12以上のアミノ酸の「J」領域によって結合され、重鎖は約10アミノ酸以上の「D」領域も含む(一般的には、その全体が参考文献として組み込まれるFundamental Immunology (Paul, W., ed., 2nd ed. Raven Press, N.Y. 1989), Ch.7を参照のこと)。
【0020】
イムノグロブリン軽鎖又は重鎖の可変領域は、3つの超可変領域によって中断された「フレームワーク」領域から成る。したがって、「超可変領域」は、抗原との結合に関与する抗体のアミノ酸残基をさす。超可変領域は、「相補性決定領域」又は「CDR」由来のアミノ酸残基を含む(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md, (1991)及びChothia and Lesk, 1987, J. Mol. Biol. 196: 901-917を参照のこと)(どちらも参考文献として本明細書中に援用されている)。「フレームワーク領域」又は「FR」残基は、本明細書中で定義される超可変領域以外の可変ドメイン残基である。異なる軽鎖又は重鎖のフレームワーク領域の配列は、種の中で比較的保存されている。したがって、「ヒトフレームワーク領域」は、天然のヒトイムノグロブリンのフレームワーク領域に実質的に同一(約85%以上、通常は90〜95%以上)であるフレームワーク領域である。構成要素である重鎖および軽鎖フレームワーク領域の組み合わせである、抗体のフレームワーク領域は、CDRを位置決めし、そして整列化させる働きをする。CDRは、主に、抗原のエピトープへの結合に関与する。
【0021】
したがって、「ヒト化」イムノグロブリンという用語は、ヒトフレームワーク領域および(通常はマウス又はラットである)非ヒトイムノグロブリン由来の1つ以上のCDRを含むイムノグロブリンをさす。CDRを提供する非ヒトイムノグロブリンは、「ドナー」と呼ばれ、フレームワークを提供するヒトイムノグロブリンは「アクセプター」と呼ばれる。定常領域がある必要はないが、もしそれらがある場合には、それらはヒトイムノグロブリン定常領域と実質的に同一、すなわち、少なくとも約85〜90%、好ましくは約95%以上同一でなければならない。したがって、おそらくCDR以外の全てのヒト化イムノグロブリンの部分が、天然のヒトイムノグロブリン配列の対応する部分と実質的に同一である。「ヒト化抗体」は、ヒト化軽鎖およびヒト化重鎖イムノグロブリンを含む抗体である。例えば、ヒト化抗体は上で定義された典型的なキメラ抗体を包含せず、それは例えば、キメラ抗体の可変領域全体が非ヒトだからである。
【0022】
本明細書中で使用される「ヒト抗体」という用語は、ヒトイムノグロブリンのアミノ酸配列を有する抗体を含み、そしてヒトイムノグロブリンライブラリーから単離された、又はKucherlapatiらによって米国特許第5,939,598号に記載された、1つ以上のヒトイムノグロブリンに関してトランスジェニックであり、内因性のイムノグロブリンを発現しない動物から単離された抗体を含む。
【0023】
「遺伝子組換え抗体」という用語は、アミノ酸配列が未処理の抗体のものから変更されている抗体を意味する。抗体生成における組換えDNA技術の関連性により、自然の抗体中に見出されるアミノ酸配列に限定される必要はなく;抗体は所望の特性を有するように再設計されることができる。可能な変異形は、数多く、そしてわずか1又は数個のアミノ酸の変更から可変領域又は定常領域などの完全な再設計にまでわたる。定常領域中の変更は、一般に、補体結合反応、膜との相互作用および他のエフェクター機能などの特性を改善又は変更するために行われるであろう。可変領域中の変更は、抗原結合特性を改善するために行われるであろう。
【0024】
抗体に加えて、イムノグロブリンは、単鎖又はFv、Fabおよび(Fab')2、並びに二重特異性抗体、線状抗体、(上記のような、そしてLanzavecchia et al., Eur. J. Immunol. 17, 105(1987)に詳細に記載された)多価又は多重特異性のハイブリッド抗体などを含む様々な他の形態、および(本明細書中に参考文献として援用されている、Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 85 5879-5883 (1998)及びBird et al., Science, 242:423-426 (1998)などの)単鎖で存在してよい。(一般には、本明細書中に参考文献として援用されている"Immunology", Benjamin, N.Y. 2nd ed. (1984)及びHunkapiller and Hood, Nature, 323:15-16 (1986)を参照のこと)。
【0025】
本明細書中で使用される「単鎖Fv」、「単鎖抗体」、「Fv」又は「scFv」という用語は、重鎖及び軽鎖の両方に由来する可変領域を含むが、定常領域を含まず、単一のポリペプチド鎖内にある抗体断片をさす。一般に、単鎖抗体は、それを抗原と結合可能にする所望の構造を形成することを可能とする、VH及びVLドメイン間のポリペプチドリンカーを含む。単鎖抗体は、Pluckthunによって、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds. Springer-Verlag, New York, pp.269-315 (1994)中で詳細に検討されており;その開示が参考文献として本明細書中に援用されている、PCT国際特許出願公開第WO88/01649号及び米国特許第4,946,778号及び同第5,260,203号も参照のこと。特定の実施態様においては、単鎖抗体は二重特異性及び/又はヒト化されたものであることもできる。
【0026】
「Fab断片」は、1つの軽鎖並びに1つの重鎖のCH1及び可変領域から成る。Fab分子の重鎖は、他の重鎖分子とジスルフィド結合を形成することができない。
【0027】
「Fab'断片」は、鎖の間のジスルフィド結合が2つの重鎖間に形成されてF(ab')2分子を形成できるように、1つの軽鎖、並びにCH1及びCH2ドメイン間に定常領域以外も含む重鎖を含む。
【0028】
「F(ab')2断片」は、鎖間のジスルフィド結合が2つの重鎖の間に形成されるように、2つの軽鎖並びにCH1及びCH2ドメインの間に定常領域の一部を含む2つの重鎖を含む。
【0029】
「二重特異性抗体」という用語は、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体断片をさし、この断片は、同じポリペプチド鎖(VH−VL)中の軽鎖可変ドメイン(VL)に接続された重鎖可変ドメイン(VH)を含む。同じ鎖上の2つのドメイン間の対形成を可能とするには短すぎるリンカーを用いることによって、ドメインは他の鎖の相補的ドメインと対を形成せざるを得ず、そして2つの抗原結合部位ができる。二重特異性抗体は、EP404,097;PCT国際特許出願公開第WO93/11161号;及びHollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448 (1993)に、より完全に記載されている。
【0030】
「線状抗体」という用語は、Zapata et al. Protein Eng. 8(10): 1057-1062 (1995)に記載された抗体をさす。すなわち、これらの抗体は、繰り返しのFdセグメントの対(VH-CH1-VH-CH1)を含み、これは抗原結合領域の対を形成する。線状抗体は二重特異性又は単一特異性であることができる。
【0031】
本明細書中で使用される「免疫学的に機能性のイムノグロブリン断片」という用語は、少なくともイムノグロブリン重鎖及び軽鎖の可変ドメインを含むポリペプチド断片をさす。本発明の免疫学的に機能性のイムノグロブリン断片は、リガンドに結合可能であり、リガンドのその受容体への結合を阻止することができ、受容体へのリガンドの結合により引き起こされる生物学的応答を妨害することができ、又はそれらの任意の組み合わせを行うことができる。
【0032】
「モノクローナル抗体」という用語は、それが生成された方法にかかわらず、任意の真核生物、原核生物、又はファージのクローンを含む単一のクローンから得られた抗体をさす。
【0033】
本発明は、IL-31Ra及びOSMRbなどのIL-31に結合するヘテロ二量体受容体のサブユニットが、脊髄後根神経節細胞などの神経細胞上で発現されるという発見に一部基づく。したがって、本発明は、疼痛及び炎症並びに炎症性腸疾患、クローン病、そう痒症の症状、並びに神経因性の疼痛及び鋭敏化を阻害することおけるIL-31のアンタゴニストの使用を包含する。本発明はまた、脊髄後根神経節細胞の刺激を介する鋭敏化の改善におけるIL-31アゴニストの使用も包含する。
【0034】
IL-31は、先に米国特許出願公開(米国特許出願公開第20030224487号、2003年1月21日に出願され、米国特許第7,064,186号として特許付与された米国特許出願番号10/352,554;参考文献として本明細書中に援用されているSprecher, Cindy et al., 2003を参照のこと)にZcyto17rligとして記載されたサイトカインのHUGO(ヒト遺伝子解析機構)名である。IL-31のヘテロ二量体受容体は、IL-31RaとOncostatin M受容体ベータ(OSMRb)の間に形成されたヘテロ二量体を含む。IL-31aは、本明細書中に参考文献として援用されている、公開された共有の米国特許出願公開第20030215838号、2003年1月21日に出願された米国特許出願番号10/351,157号中のzcytor17と呼ばれるタンパク質のHUGO名である。ヒトIL-31のポリヌクレオチド及びポリペプチド配列を、配列番号1及び2にそれぞれ示す。マウスIL-31のポリヌクレオチド及びポリペプチド配列を配列番号3及び4にそれぞれ示す。本明細書中で使用される用語IL-31は、上記の米国特許出願公開第20030224487号中で使用されるzcytor17ligを意味する。IL-31Raは、本明細書中に参考文献として援用されている、2001年6月26日に出願された共有の米国特許出願番号09/892,949号に先に記載されている。
【0035】
OSMR及びIL-31RA受容体のアミノ酸配列は、コードされた受容体が、IL-2、IL-4、IL-7、Lif、IL-12、IL-15、EPO、TPO、GM-CSF、及びG-CSFのための受容体を含むがこれらに限定されない、クラスIサイトカイン受容体サブファミリーに属することを示した(総説として、Cytokine 5(2): 95-106 (1993)中のCosman, "The Hematopoietin Receptor Superfamily"を参照のこと)。zcytor17受容体は、共有のPCT特許出願第US01/20484号(本明細書中に参考文献として援用されているWIPO公開番号WO02/00721号)中に完全に記載されている。
【0036】
本発明は、抗−IL-31活性を有する、アンタゴニスト、抗体、結合タンパク質、変異形及び断片を含む、抗−IL-31物質の使用を含む。本発明は、抗−IL-31分子を対象に投与することを含み、ヒトの治療及び獣医学的治療用途の両方を考慮する。例示的な獣医学的対象は、家畜などの哺乳動物対象を含む。
【0037】
「長い」形態のIL-31RAの未処理のポリヌクレオチド及びポリペプチド配列を、配列番号5及び6にそれぞれ示す。「短い」形態のIL-31RAの未処理のポリヌクレオチド及びポリペプチド配列を、配列番号7及び8にそれぞれ示す。IL-31RAポリペプチドのさらなる切断形態は自然に発現されるようである。両形態とも可溶性のIL-31RA受容体をコードする。「長い」可溶性IL-31RAポリヌクレオチド及びポリペプチド配列を、配列番号9及び10にそれぞれ示す。「短い」可溶性IL-31RAポリヌクレオチド及びポリペプチド配列を、配列番号11及び12にそれぞれ示す。マウスIL-31RAの未処理のポリヌクレオチド及びポリペプチド配列を、配列番号13及び14にそれぞれ示す。ヒトOSMRベータの未処理のポリヌクレオチド及びポリペプチド配列を、配列番号15及び16にそれぞれ示す。どちらも参考文献として本明細書中に援用されている、PCT国際特許出願公開第WO02/00721号及び同第WO04/003140号を参照のこと。
【0038】
IL-31アンタゴニストは、その変異形、断片又は誘導体を含む、IL-31に結合する抗体、及びIL-31がその同系の受容体に結合することによって有する効果を阻害し、制限し、減少させ、最小化し、阻止し、又は中和する抗体などの抗−IL-31分子を含む。
【0039】
インサイチュの発現解析は、ヒトにおいては、IL-31RA及びOSMRベータが脊髄及び脊髄後根神経節細胞中で発現されることを明らかにした。実施例1を参照のこと。したがって、IL-31分子、それらのアゴニスト、又はアンタゴニストは、ニューロンの維持及び神経因性の炎症及び刺激において役割を果たす。これは、IL-31アゴニスト、アンタゴニストが、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、末梢神経障害、及び多発性硬化症を含む脱髄疾患などの様々な神経変性疾患を治療するために使用可能であることを示す。IL-31RA及びOSMRbの組織特異性は、IL-31が脊髄及び脳内の成長及び/又は維持因子であることができ、脊髄、脳又は末梢神経系の損傷を治療するために使用可能であることを示唆する。
【0040】
IL-31の疼痛を刺激する能力を測定する方法は当業者に知られている。例えば、脊髄後根神経節細胞は単離され、そして培養されることができる。Voilley, N. et al., J. Neurosci., 27(20): 8026-8033, 2001を参照のこと。例えば、脊髄後根神経節細胞は、Wister雄性成体(5〜7週)及び新生ラットから、0.1%コラゲナーゼによる解離及びコラーゲンコーティングしたP35ディッシュのDMEM+5%ウシ胎児血清に播くことによって調製される。同様に、脊髄後根神経節細胞を単離する方法が、Steinhoff, M. et al.により記載されている(Steinhoff, M. et al, Nature Medicine, 6(2):151-157, 2000を参照のこと)。すなわち、脊髄後根神経節細胞は冷ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で刻まれ、そして0.05mg/mlのトリプシン、1mg/mlのコラゲナーゼ、及び0.01mg/mlのDNAseIを含むDMEM中で、37℃、45〜60分間インキュベートされる。トリプシンを中和するためにSBTIが添加され、そして懸濁液が1,000gで1分間遠心分離される。10%ウシ胎児血清、5ng/mlの神経成長因子、2mMのグルタミン、1mg/mlのペニシリン/ストレプトマイシン及びDNAseIを含むDMEM中にペレット中のニューロンが懸濁され、そしてMatrigelでコーティングしたカバーガラス上に播かれる。使用前にニューロンを3〜5日間培養する。細胞膜におけるIL-31Raの発現は、抗体を用いる免疫蛍光法によって確認される。
【0041】
脊髄後根神経節刺激に対するIL-31の効果を測定するために、上記のSteinhoffらによって記載されたとおりに培養ニューロン中の細胞内カルシウムイオン濃度が測定される。ニューロンは、5μMのFura-2/AM(Molecular Probes, Eugene, Oregon)を含む20mM HEPES、pH 7.4のHank's液中で1時間、37℃でインキュベートされる。カバーガラスを洗浄し、Zeiss 100TV倒立顕微鏡上のチャンバー(1ml容量)中に入れ、Zeiss x40Fluar対物レンズを用いて観察する。カルシウムの測定を可能とするために340nm及び380nmで蛍光を測定する。他の鋭敏化剤とともに、又は伴わずに細胞をIL-31に曝露し、そしてIL-31アンタゴニストの存在下での阻害が測定される。
【0042】
一般的に、脊髄後根神経節又は神経細胞上の同系のヘテロ二量体受容体へのIL-31の結合の効果に対するIL-31アンタゴニストの能力を測定するために、プロスタグランジン、サブスタンスP、CGRP、ガラニン、ニューロペプチドY、ヒスタミン、ブラジキニン、カンナビノイド及びアラキノイド酸経路のメディエーターなどであるがこれらに限定されない疼痛のいくつかのメディエーターが疼痛に際して測定可能である。
【0043】
IL-31の神経細胞に対する疼痛誘導効果に対するIL-31のアンタゴニストの能力を測定するための上記インビトロの方法に加えて、数種のインビボモデルも有用である。例えば、Honore, P. et al., Neuroscience, 98(3):585-598, 2000を参照のこと。この記事は、炎症性の疼痛、神経障害性の疼痛及び癌の疼痛のためのいくつかのモデルを記載する。例えば、1つのモデルは、アンタゴニスト分子を伴うか又は伴わない、マウスの後肢の脚底表面へのIL-31の皮下注射などの、IL-31へのアンタゴニストの効果を測定する。マウスは、注射の3日後に安楽死させられ、末梢の浮腫が測定される。浮腫を阻害し、制限し、最小化し、減少させ、予防し、又は中和する、IL-31アンタゴニスト分子の効果が測定される。さらなるインビボモデルは、脊髄神経結紮、坐骨神経処理、肉腫により誘発された骨癌、行動分析及びモルヒネの効果である。
【0044】
疼痛の他のマウスモデルは、機械的アロジニアである。例えば、Sweizer, S. M. et al., J. Neuroimm., 125:82-93, 2002を参照のこと。すなわち、ラット又はマウスが2及び/又は12-gフォンフレイフィラメントによる機械的アロジニアに関してテストされる。先ず、動物は手順に順化され、そしてベースラインの測定が行われる。IL-31が様々な量で投与される。アロジニアは、IL-31投与に応答して、通常は非侵害性である刺激に脚を強く引っ込めることに特徴を有する。IL-31アンタゴニスト分子の投与を伴う場合及び伴わない場合で比較を行う。
【0045】
前炎症性神経ペプチドであるサブスタンスP(SP)は、背部神経節で作られ、そして侵害受容神経A及びCによって末梢に運ばれる(15)。SPは、マスト細胞顆粒からヒスタミンを放出することによってかゆみを誘発することができる。皮膚においては、SPは、紅斑、浮腫及び神経因性の炎症を起こし、ヒスタミン、IL-1、プロスタグランジン及びリソソーム酵素を放出するが、真皮中で急速に分解される(16)。抗ヒスタミン剤を先に経口投与すると、SPによって引き起こされるそう痒を阻害する。唐辛子から得られるカプサイシンが局所投与されると、表皮神経からSPを除去し、そしてそう痒を減少させる。IL-31の受容体サブユニットが脊髄後根神経節細胞中で発現されるため、IL-31アンタゴニスト分子の投与はこれらの細胞の刺激を減少させることができ、そしてIl-31投与によって誘導されうるサブスタンスPを減少させることができる。
【0046】
IL-31の脊髄後根神経節細胞上のその受容体、すなわち、IL-31RA及びOSMRベータへの結合は、圧力、接触、温度、疼痛、かゆみ、くすぐったさ、うずき及び無感覚などの感覚に関与する様々な感覚受容体からなる体性感覚系を刺激することができる。IL-31のその同系受容体への結合は、神経因性の炎症及び刺激を引き起こすことができ、これは神経因性の刺激を誘導するさらなる因子の放出に導くことができる。疼痛を仲介する1つの因子群は、プロスタグランジンであり、これは局所的な炎症にも寄与する。したがって、IL-31アンタゴニストは、通常NSAIDで治療される、筋肉痛、頭痛、急性の傷害による関節痛などの急性の炎症性の疼痛又は骨関節炎によって引き起こされるものなどの慢性の疼痛において有益であるかもしれない。かかる神経因性の刺激は、アレルギーなどの自己免疫反応、水痘などのウイルス感染症、火傷又は外傷などの傷害などによって引き起こされる炎症の結果でありうる。したがって、IL-31リガンドのその同系受容体への結合によって誘導されたシグナル伝達を妨害するアンタゴニストは、神経因性の炎症及び体性感覚系の刺激を減少させ、制限し、予防し、又は最小化することにおいて有用であることができる。したがって、脊髄後根神経節細胞におけるIL-31誘導性のシグナル伝達のアンタゴニストは、自己免疫疾患、ウイルス感染および外傷に伴う疼痛、かゆみ、うずきを治療するために使用されることができる。さらに、神経因性の炎症が、最初の発作後の神経の過敏性を生じうるため、IL-31のアンタゴニストは症状の有効な治療剤であることができる。例えば、何人かの帯状疱疹患者は、ウイルス感染が消滅され又は最小化されたずっと後で疼痛及び/又はかゆみの感覚的症状を体験する。急性の帯状疱疹を伴う神経痛及びヘルペス後の神経痛は、ウイルス抗原がT細胞及び他の炎症細胞を誘引する、脊髄後根神経節及び三叉神経節の炎症によると思われる。長期に持続する疼痛は、強固な抗ウイルス反応後のしつこい真皮節の炎症から生じうる。結論として、ウイルス感染のレベル又は段階は、対象の知覚を表すものでないかもしれない。したがって、IL-31誘導性のシグナル伝達をアンタゴナイズすることの有益な効果は、ウイルス感染又は外傷のそのときの状態を超えて広がることができる。
【0047】
神経障害及び知覚欠損は、疼痛及び感受性の喪失を含み、そしてアトピー、糖尿病、多発性硬化症及び高血圧などの病気に関連しうる。IL-31RA及びOSBRベータが、脊髄及び脊髄後根神経節細胞において発現されるタンパク質であるため、IL-31のアンタゴニストは、疼痛及び知覚欠損の治療に有用であるかもしれない。糖尿病性末梢神経障害、ヘルペス後末梢神経障害並びに一般に火傷患者の症状としての疼痛を含む疼痛を治療するために、例えば、IL31アンタゴニストは局所、皮下、中枢、又は全身に送達されることができる。
【0048】
火傷の傷害は、創傷包帯が交換されるときに強められる、激しくそして長期の疼痛を起こす。頻繁な包帯の交換は、感染を防ぎそして治癒を助けるために必要である。創傷ケアの間に患者によって体験される痛みの量は、依然として、火傷の犠牲者並びに多くの他の患者集団にとっての世界的な問題である。患者が静止状態であるとき、火傷に伴う疼痛は、いくつかの望ましくない作用を有するオピオイドで治療可能である。しかしながら、大部分の火傷患者は創傷ケアの間の疼痛は耐え難いものであると述べており、毎日の包帯交換、創傷の洗浄、ステープル除去などの創傷ケアの間、オピオイドでは不十分である。
【0049】
IL-31についてのヘテロ二量体の両メンバー、すなわちIL-31RA及びOSMRベータは、脊髄後根神経節細胞において発現され、中和抗体などのIL-31のアンタゴニストは、火傷又は神経障害に伴う疼痛を含む疼痛を予防し、最小化し、制限し、及び/又は治療するために有用である。火傷を擬態するインビボモデルは当業者に周知である。
【0050】
しつこい疼痛は、もとの刺激よりも少ない刺激が増加した痛みを生じるように、アロジニアとも呼ばれる過形成を誘発することができる。IL-31RA及びOSMRベータサブユニットはどちらも脊髄後根神経節細胞上に発現されるため、これらを担持する神経細胞内におけるIL-31誘導性のシグナル伝達のアンタゴニストは、アロジニアの症状の緩和を助けることができる。
【0051】
IL-31並びにそのアゴニスト、断片、変異形及び/又はキメラなどの本発明のポリペプチドは、哺乳動物における鋭敏性を増加させるために使用されることもできる。例えばアゴニストを含む本発明のIL-31ポリペプチドは、局所的又は局部的、全身的又は中枢に送達された場合、(疼痛、熱又は機械的な)鋭敏性を増加させるために使用されることができ、そして当業者に知られた及び/又は本明細書中に記載されたモデル又は実験において測定されることができる。また、本発明のポリペプチドは投与されて、生き残ったニューロンの神経伝達物質に対する機能を改善するために脊髄及び神経細胞の感受性を亢進することもでき、そしてしたがって、パーキンソン病又はアルツハイマー病並びに麻痺において有効であるかもしれない。
【0052】
同様に、患者が疼痛に対する増加した鋭敏性を有する場合、IL-31のアンタゴニストは、神経障害を有する患者において、疼痛の感覚を減少させるために使用されることができる。例えば、糖尿病性神経障害及びヘルペス後神経障害を有する患者は、慢性の亢進した痛みを有し、IL-31のアンタゴニストは、その疼痛を制限し、予防し又は減少させることに有用であるかもしれない。
【0053】
前炎症性のタンパク質のための受容体として、脊髄および脊髄後根神経節中のIL-31RA及びOSMRベータの存在は、IL-31のアンタゴニストがこれらの組織中の炎症を減少させるために使用可能であることを示唆する。したがって、髄膜炎などの状態は、抗体を含むアンタゴニストの投与の利益を受けることができる。
【0054】
神経因性の炎症及び刺激を含み、そして、脊髄後根神経節細胞を含む神経組織におけるIL-31誘導性の疼痛をアンタゴナイズすることによる利益を受けることのできる病気は、慢性の疼痛、偏頭痛、関節炎、骨関節炎、リューマチ関節炎、多発神経障害、糖尿病性末梢神経障害、(術後痛などの)神経断絶後の疼痛、炎症性腸疾患、腎炎、一定の転移性癌及び血管の炎症などの神経因性の疼痛形成成分を含む炎症状態を含む。これらの病気は、IL-31誘導性のシグナル伝達のアンタゴニストによっても治療されることができる。さらに、照射刺激及び火傷、化学熱傷、多種化学物質過敏症、あせも、鼻炎、熱傷、日焼け、皮膚の発赤、及び化学物質による病変を含む皮膚の状態、並びに急性の喘息発作などの急性のアレルギー反応、並びに化学物質への曝露により引き起こされた肺の炎症、並びに蕁麻疹及び結膜炎及び歯周病は、IL-31アンタゴニストで治療可能である。さらに、肩甲腓骨型症候群(scapuloperoneal syndrome)は、肩甲帯と腓骨筋の分布における脆弱性を特徴とする不均一な神経筋疾患である。神経因性(肩甲腓骨型脊髄性筋萎縮症、SPSMA)及び筋障害性(肩甲腓骨型筋ジストロフィー、SPMD)の両方の肩甲腓骨症候群が記載されている。SPMDについての染色体遺伝子座は、近年、染色体12qであるとされ、これはIL-31についての遺伝子座と同じである。したがって、IL-31アンタゴニストは、これらの病気を治療するために使用されることができる。
【0055】
米国においては、約500,000人が大腸及び小腸のいずれか又は両方に関する炎症性腸疾患に罹っている。潰瘍性大腸炎及びクローン病は、炎症性腸疾患の最も知られた形態であり、どちらも、その病因が未知であるため「特発性」炎症性腸疾患に分類される。
【0056】
クローン病は、胃腸管の任意の部分を含むことができるが、遠位小腸及び結腸を最もしばしば含む。炎症は、リンパ濾胞にわたる小さな潰瘍から貫壁性瘢痕及び慢性の炎症にわたる深い裂溝状潰瘍までのいずれかを生成しうる。病因は未知であるが、感染性の及び免疫学的メカニズムが提案されている。症状は多様であって、下痢、発熱及び疼痛、並びに関節炎、ぶどう膜炎、結膜性紅斑及び強直性脊椎炎という小腸以外の徴候も含むことができる。
【0057】
炎症性腸疾患を治療するための伝統的なアプローチは、アザチオプリンによる免疫抑制である(例えば、Rutgeerts, J. Gastroenterol. Hepatol. 17(Suppl):S176-85 (2002)を参照のこと)。より最近では、抗−腫瘍壊死因子キメラモノクローナル抗体であるインフリキシマブが特定の病原による病気のメカニズムを標的とし、そして病気のプロセスの完全な抑制及び長期の腸の治癒を可能としている。しかしながら、この治療法は免疫原性という問題を伴う。インフリキシマブに対する抗体の形成は、効力を妨げ、そして注入反応を伴う。
【0058】
過敏性腸症候群(IBS)は、慢性の機能性胃腸管障害である。それは、通常、排便習慣の変化に伴う腹痛及び鼓張を含む様々な腸の症状に特徴を有する不均一な状態である(Collins et al, 2001)。米国の人口の12〜20%がこの状態にかかっていると推定される。Manning基準(Manning et al, 1978)、Rome基準(Thompson et al, 1992)及び最も最近のRome II(Thompson et al, 1999)を含む、IBSを定義するための異なる基準が提案された。IBSに関する研究はしばしば、IBS患者を便秘優勢(CON)及び下痢優勢(DIA)の2つのサブタイプに分類し、そして時には交代型(ALT)の第三のサブタイプを含む。
【0059】
抗−IL-31分子、アンタゴニスト、抗体、結合タンパク質、変異形及び断片は、炎症性腸疾患(IBD)及び過敏性腸症候群(IBS)に伴う疼痛を治療し、検出することにおいて有用である。
【0060】
炎症性腸症候群(IBD)は、結腸及び/又は直腸(潰瘍性大腸炎)又は小腸及び大腸(クローン病)を冒しうる。これらの病気の原因は不明であるが、これらは患部組織の慢性の炎症を含む。潜在的な治療剤は、抗−IL-31抗体、他の結合タンパク質、変異形、断片、キメラ及び他のIL-31アンタゴニストを含む抗−IL-31分子を含む。これらの分子は、IBD及び関連する病気において炎症及び病理学的作用を減少させるための貴重な治療剤として役立ちうる。
【0061】
潰瘍性大腸炎(UC)は、一般に結腸と呼ばれる大腸の炎症性疾患であり、結腸の粘膜又は最も内側の裏打ちの炎症及び潰瘍に特徴を有する。この炎症は、結腸をしばしば空にし、下痢を起こす。症状は、便の軟化及び付随する腹部のけいれん、発熱及び体重減少を含む。UCの正確な原因は不明であるが、最近の研究は、体が外来性であるとみなす体内のタンパク質に対して体の自然の防御が働く、と示唆している(「自己免疫反応」)。おそらく、腸内の細菌タンパク質に似ているため、これらのタンパク質は結腸の裏打ちを破壊し始める炎症過程を扇動するか又は刺激しうる。結腸の裏打ちが破壊されると、潰瘍が形成し、粘液、膿汁、及び血液を放出する。この病気は通常、直腸領域から始まり、そしてついには大腸全体に広がることができる。繰り返しおこる炎症は、小腸及び直腸の壁を瘢痕組織によって肥厚させる。重篤な病気では、結腸組織の死滅又は敗血症が起こりうる。潰瘍性大腸炎の症状は、重篤度が多様で、それらの発症は漸進的であるか又は突然である。発作は、呼吸器感染又はストレスを含む多くの因子によって誘発される。したがって、本発明の抗−IL31分子は、UCの治療及び/又は検出に有用である。
【0062】
現在、UCの利用可能な治癒方法はないが、治療は、結腸の裏打ち中の異常な炎症過程を抑制することに焦点をあてている。(アザチオプリン、メルカプトプリン、及びメトトレキセートなどの)コルチコステロイド免疫抑制剤、およびアミノサリシテートがこの病気を治療するために利用可能である。しかしながら、コルチコステロイド及びアザチオプリンなどの免疫抑制剤の長期使用は、骨の菲薄化、白内障、感染及び肝臓と骨髄への作用を含む、重大な副作用を引き起こしうる。現在の治療法が成功しない患者においては、手術が選択肢である。手術は、結腸及び直腸全体の切除を含む。
【0063】
部分的に慢性の潰瘍性大腸炎を擬態するいくつかの動物モデルがある。最も広く使用されるモデルは、2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸/エタノール(TNBS)誘発性大腸炎モデルであり、これは結腸中に慢性の炎症及び潰瘍を誘発する。TNBSが感受性マウスの結腸に、直腸内滴下によって導入されると、T細胞介在性の免疫応答を結腸粘膜内に誘発し、この場合、大腸壁全体におけるT細胞及びマクロファージの密な浸潤を特徴とするひどい粘膜の炎症をもたらす。さらに、この組織病理学的臨床像は、進行性の体重減少(消耗)、出血性の下痢、直腸の逸脱、及び大腸壁の肥厚という臨床像を伴う(Neurath et al. Intern. Rev. Immunol. 19:51-62, 2000)。
【0064】
他の大腸炎モデルは、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を用い、これは出血性の下痢、体重減少、結腸の短縮及び好中球浸潤を伴う粘膜の潰瘍が認められる、急性の大腸炎を誘発する。DSS誘発性の大腸炎は、リンパ様過形成、限局性の陰窩損傷及び上皮の潰瘍を伴う炎症細胞の固有層への浸潤、によって組織学的に特徴付けられる。これらの変化は、上皮へのDSSの毒性効果により、そして固有層細胞の食作用とTNF-アルファ及びIFN-ガンマの産生によって発生すると考えられる。DSSは、SCIDマウスなどのT細胞欠損動物において観察されるため、T細胞依存性のモデルであるとみなされる。
【0065】
これらのTNBS又はDSSモデルへのIL-31アンタゴニスト又は結合パートナーの投与は、症状の寛解を測定し、胃腸疾患の過程を変更するために使用可能である。IL-31は炎症反応及び大腸炎に伴う疼痛において役割を果たし、アンタゴニストの投与によるIL-31活性の中和は、IBDに対する潜在的な治療的アプローチである。
【0066】
過敏性腸症候群は、胃腸クリニックにおいて最も一般的な状態の1つである。しかし、IBSの診断及び治療はいまだ限定されている。IL-31及びIL-31 RA1の発現がクローン病の上方制御と関係付けられてきたため(実施例5を参照のこと)、抗−IL31抗体、他の結合タンパク質、変異形、断片、キメラ及び他のIL-31アンタゴニストを含むIL-31アンタゴニストは、この病気の症状の低下及び治療において有用である。
【0067】
IL-31アンタゴニスト又は結合パートナーのIBD又はIBS患者への投与は、症状を寛解させ、そして胃腸疾患の過程を変更するために使用されることができる。IL-31は、大腸炎における炎症反応に役割を果たし、そしてアンタゴニストの投与によるIL-31活性の中和はIBD及び/又はIBSの潜在的な治療的アプローチである。
【0068】
IBS及びIBDに関連する障害のためには、改善された機能の臨床的徴候は、疼痛、けいれん及び過敏性の減少、下痢の減少及び改善された便の硬さ、腹部膨満感の減少及び小腸輸送能の増加を含むが、これらに限定されない。改善は、クローン病活動指数(Crohn's Disease Activity Index (CDAI))の平均の減少によっても測定可能である。Best W. et al., Gastroenterology 70: 439-44, 1976を参照のこと。さらに、改善された機能は、Irvineらによって記載された生活の質の評価によっても測定可能である(Irvine E. et al., Gastroenterology 106:287-96, 1994)。
【0069】
過敏性腸症候群の動物モデルは、Mayer and Collinsによって記載されている。Gastroenterol. 122:2032-2048 (2002)。これらのモデルは、主にCNS特異的なメカニズムを主に介するもの(「ストレスメモリー」モデル)、及び腸特異的な病因論を主に介するもの(「ペインメモリー」及び「免疫メモリー」モデル)に分けられることができる。1つのモデルにおいては、動物は電極を近位結腸及び横紋筋に移植され、そしてカテーテルを脳の側脳室に移植されることによって外科的に作製される。直腸の膨満は、直腸に挿入されたバルーンの膨張によって行われ、特徴的な内蔵運動反応を誘発する圧力が測定される。IL-31アンタゴニスト及び/又は変異形又はアンタゴニストなどの被験化合物が(p.o.、i.p.、s.c.、i.v.又はi.m.などの)適切な経路及び適切な時間(すなわち、i.p.又はi.c.v.の場合には約20分)で、膨満の前に投与される。被験化合物は、結腸の運動性、腹部の収縮及び内蔵の痛みに影響を及ぼすその能力について評価される。
【0070】
さらに、小腸の炎症に伴う障害は、本明細書に記載されたその断片、アゴニスト及びアンタゴニストなどのIL-31アンタゴニストで治療されることができる。例えば、過敏性腸症候群(IBS)は、症状(疼痛;下痢及び/又は便秘の発作;異常な胃腸の運動)の非常に広いスペクトルに特徴を有する。原因を特定することは難しく、ストレス、遺伝及び/又は炎症に関連する成分を有するであろう。同様に、抗体及び結合パートナーを含む本発明の抗−IL-31分子は、(大腸炎及びクローン病を含む)炎症性腸疾患を治療するために使用可能である。IBDはIBSよりも深刻であり、下痢、疼痛及び栄養失調に特徴を有する。IBD患者は、しばしば胃腸の癌のリスクが増加する。
【0071】
胃腸の運動活性は、以下のイヌのモデルにおいて測定されることができる:イヌは麻酔され、そして腹腔が開けられる。管腔外力変換機(収縮を測定するためのセンサー)が、5つの部位、すなわち、幽門輪に対して3cm近位の胃噴門、幽門輪に対して5cm遠位の十二指腸、幽門輪に対して70cm遠位の空腸、回腸−結腸境界部に対して5cm近位の回腸、及び回腸−結腸境界部に対して5cm遠位の部位に結紮される。これらの力変換機のリードワイヤーが腹腔から引き出され、そして、コネクターが接続されている肩甲骨の間に作られた皮膚の切開部を通って引き出される。手術後、コネクターを保護するために、ジャケットプロテクターがイヌに設置される。胃腸の運動活性の測定は、手術の2週間後に開始される。自由な測定のために、胃腸管の各部位における収縮運動を測定するために、コネクターが遠隔計測器(電波データ送信機)と接続される。データは、分析のための遠隔計測器を介してコンピュータに保存される。IL-31アンタゴニストなどの被験化合物は、(p.o.、i.v.、s.c.、i.m.などの)適切な経路を介して、胃腸運動活性に影響を与える能力を評価するための適切な時点で投与される。これは、正常なイヌ又は胃腸不全麻痺/イレウスが誘発されたイヌにおいて実施可能である。上記の方法は、Yoshida . and Ito. J. Pharmacol. Experiment. Therap. 257, 781-787 (1991)及びFuruta et al., Biol. Pharm. Bull. 25:103-1071 (2002)中の方法の変法である。
【0072】
IL-31は、水痘感染などのウイルス潜伏感染の再活性化のためのトリガーであることができる。水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の一次感染においては、水痘帯状疱疹ウイルスに最も感染しやすいT細胞は、CLA及びCCR4を発現する、CD4陽性メモリーT細胞である。これらは、皮膚ホーミング性T細胞であり、これらは細胞に関連したウイルス血症を促進し、そして皮膚及びDRGへの感染性ウイルスの輸送を促進することができる。これらの細胞は、IL-31の主な製造者である。したがって、VZV一次感染におけるIL-31は、皮膚病変に関与するかゆみ/疼痛に寄与しうる。DRGにおける潜伏ウイルスの再活性化は、VZV-特異的なT細胞応答を誘導し、これは神経因性炎症に寄与する。皮膚ホーミング性のT細胞は、VZVに最も感染しやすく、T細胞からDRGへのウイルスの移動がインビボで観察された。ヘルペス後神経痛は、水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化によって引き起こされる帯状疱疹の主要な合併症の一つであり、激しい痛みを特徴とする。本明細書中に参考文献として援用されている、Sato-Takeda, M. et al., Anesthesiology, 2006 104(5): 1063-9を参照のこと。この参考文献は、ヘルペス後疼痛のマウスモデルも教示し、これはヘルペス後神経痛に対応する。すなわち、BALB/cマウス(MHCハプロタイプ:H-2)、C57BL/6マウス(MHCハプロタイプ:H-2)、及びH-2を有するコンジェニックなBALB/c系統であるBALB/bマウスが、単純ペルペスウイルスI型を後肢に経皮接種される。一側性帯状疱疹の皮膚病変及び疼痛に関連した反応(急性のヘルペス疼痛)が引き起こされ、そしてマウスの何匹かは皮膚病変の治癒後に痛みに関連した反応(ヘルペス後疼痛)を示す。単純ヘルペスウイルスI型抗原及びCD3陽性細胞は、急性相において脊髄後根神経節において免疫染色される。本明細書中に参考文献として援用されている、Argoff, C.E. et al., J Pain Symptom Manage. 2004 Oct; 28(4):396-411も参照のこと。したがって、IL-31に対するアンタゴニストは、水痘ウイルスによるウイルス感染の再活性化を制限するか又は予防するために有用であることができる。
【0073】
実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)のためのマウスモデルは、免疫介在性の疾患のメカニズム及び潜在的な治療的介入方法の両方を研究するためのツールとして使用されてきた。このモデルは、ヒトの多発性硬化症に似ており、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)又はプロテオリピドタンパク質(PLP)などの神経タンパク質へのT細胞活性化の結果として脱髄を引き起こす。抗原の接種は、CD4+、クラスIIMHC拘束T細胞(Th1)の誘導をもたらす。EAEのためのプロトコールの変更は、モデルの急性の、慢性再発性の、又は受身移入の変形を生じることができる(Weinberg et al., J. Immunol. 162:1818-26., 1999;Mijaba et al., Cell. Immunol.l 186:94-102, 1999;及びGlabinski, Meth. Enzym. 288:182-90, 1997)。IL-31アンタゴニストまたは他の可溶性の融合タンパク質の投与は、症状を緩和し、病気の経過を変更するために有用であることができる。
【0074】
脊髄後根神経節細胞におけるIL-31誘発性のシグナル伝達に対するアンタゴニストは、以下のとおり、尿毒症性そう痒症(pruritus uraemicus);肝炎、肝不全又は胆汁うっ帯によるそう痒;疥癬又は足白癬によるそう痒;妊娠に関連するそう痒;透析患者におけるそう痒;および麻酔及び神経学的障害によるそう痒を治療するために有用であることができる。
【0075】
尿毒症性そう痒症又は尿道のかゆみは、慢性の腎不全の約13%のケースに存在する耐え難い症状であり(Blachley JD, Blankenship DM, Menter A et al. Uremic pruritus: skin divalent ion content and response to ultraviolet phtotherapy. Am J Kidney Dis 1985; 5: 237-41);ひっかくことによる、二次的な皮膚の病変が見られうる。それは、腹膜透析又は血液透析を受けている患者にはさらに一般的であり(Murphy M, Carmichael AJ. Renal itch. Clin Exp Dermatol 2000; 25: 103-6);局在化又は全身性化しうる。かゆみは、急性の腎不全においては存在しない。尿道のかゆみの治療は、かゆみの原因である物質を血液から除去するための集中的かつ効率的な透析に基づき、そして、補体を活性化しない膜の使用に基づく。UV治療、保湿軟膏、活性炭、コレスチラミン(4グラムを1日に2回)、リン酸塩結合剤を用いることもできる。時には、副甲状腺摘出術が必要である。
【0076】
疼痛はかゆみに拮抗する。例えば、Ward, L. et al., Pain 64:129-138, 1996を参照のこと。したがって、IL-31アンタゴニストなどの疼痛のメディエーターは、かゆみに伴う疼痛を治療することに使用可能であり、それによって、かゆみまたは引っかき行動だけでなく、付随する疼痛を緩和する。
【0077】
そう痒は、肝臓病及び肝内胆汁うっ滞症又は肝後性胆汁うっ滞症の患者の間でよく認識された徴候である。そう痒をもたらす肝臓病は、原発性胆汁性肝硬変、B型及びC型ウイルス性肝炎、原発性硬化性胆管炎、胆管の癌腫、アルコール性肝硬変、自己免疫性肝炎などを含む。そう痒は、全身性化し、手、足およびきつい衣服周辺でより強いが、顔、首及び生殖器領域はめったに含まれない。
【0078】
全身性化したそう痒は、妊婦の1〜8%に存在する。皮膚そう痒感は、妊婦性類天疱瘡(妊娠ヘルペス)、妊娠中の丘疹性又は掻痒性皮膚炎などの妊娠中の皮膚のかゆみとは識別される。皮膚そう痒感は、妊娠末期において最も顕在化する赤みを伴わないものであるが、それはより早く、先ず腹部に現れ、そして全身性化することもある。この症状は通常、夜に悪化し、そして出産後に消滅する(1〜4週間以内)。おそらく、それは、肝内胆汁うっ滞症に関連しているであろう、なぜなら、ガンマGT及びアルカリホスファターゼが増加し、そして時にはこれら患者において直接的にビリルビンレベルも上昇するからである。そう痒は、多胎妊娠においてより頻繁であり、その後の妊娠において又は経口避妊薬の使用中に再発しうる。さらに、妊娠に伴う最も一般的な皮膚炎である、妊娠時に発症する蕁麻疹様丘疹および斑(PUPP)は、抗ヒスタミン薬には反応せず、しばしば分娩後にも持続する。
【0079】
いくつかの血液学的障害は、そう痒を伴うことが知られている。3つの造血細胞系が全て過剰産生される真性赤血球増加症においては、温水に接触した数分後、患者は典型的に体躯にひどいかゆみを有するが、顔、手及び足にはない。水により誘発されたかゆみ(水性のそう痒又は入浴持のかゆみ)は、70%の患者に存在しうる。このかゆみは、約15分〜1時間持続することができ、そして患者が入浴を拒否するほどかゆい。ここ10年、そう痒は、骨髄移植後の移植片対宿主反応を有する患者について記載されてきた。
【0080】
IL-31の慢性的な送達が、そう痒と脱毛症及びそれに続く皮膚炎に似た皮膚病変をマウスに誘発することは、IL-31がかゆみを誘発しうることを示唆する。Dillon S.R. et al., Nat Immunol:5, 752(2004)を参照のこと。IL-31のかゆみ応答の誘発への関与は、実施例2に示す2つの方法:(i)IL-31処理マウスにおけるカプサイシン処置及び(ii)Tac1ノックアウトマウスのIL-31処理によって試験され、神経ペプチドの発現の欠損によって侵害受容性の疼痛反応を顕著に低下させた。さらに、IL-31処理マウスにおけるIL-31の中和がそう痒及び脱毛症を防ぐことができたかを、実施例2において試験した。
【0081】
NC/Ngaマウスは、約6〜8週齢で非特定病原体除去の(非−SPF)条件で飼育した場合、臨床経過及び徴候、組織病理学及び免疫病理学を含む多くの面でヒトのADに似たAD様の病変を自然に発生させる。対照的に、SPF条件下で飼育したNC/Ngaマウスは皮膚病変を発生しない。しかしながら、自然発生的な皮膚病変及び引っかき行動は、SPF施設中で飼育され、粗製のほこりダニ抗原の皮内注射を毎週うけるNC/Ngaマウスにおいて同時発生しうる。Matsuoka H., et al., Allergy:58, 139 (2003)を参照のこと。したがって、NC/NgaマウスにおけるADの発生は、AD治療のための新規治療剤の評価のための有用なモデルである。
【0082】
自然発生的ADのNC/Ngaモデルに加えて、OVAを用いるマウスの皮膚上への感作も、感作されたマウスの皮膚における単核細胞の浸潤をともなう抗原依存性の上皮及び皮膚の肥厚を誘発するためのモデルとして使用可能である。これは通常、総IgE及び特定のIgEの血清レベルの上昇と表裏一体であるが、このモデルにおいては皮膚障壁の機能不全又はそう痒は発生しない。Spergel J.M., et al., J Clin Invest, 101: 1614, (1998)を参照のこと。このプロトコールは、OVAでDO11.10 OVA TCRトランスジェニックマウスを感作することによって、皮膚障壁の調節不全及びそう痒を誘発するために、改変されることができる。感作抗原を認識することのできる抗原特異的T細胞の数を増加させることは、皮膚の炎症レベルを上昇させて、眼に見える引っかき行動及び皮膚の苔癬化/落屑を誘発する。
【0083】
NC/Nga自然発生的ADモデル及びOVA皮膚上DO11.10モデルはどちらも、ADにおけるIL-31及びIL-31RAの発現、並びに本明細書に記載のアンタゴニストのIL-31の効果を阻害、低下又は中和する能力を測定するために使用可能である。本明細書に記載のアンタゴニストは、皮膚炎及びアトピー性皮膚炎、結節性痒疹および湿疹を含むそう痒性疾患に伴う引っかきを阻害するために有用である。ADにおいては皮膚の激しいかゆみにより引き起こされる引っかき行動は、皮膚の障壁機能を破壊し、そしてケラチノサイトを活性し、ケモカイン産生及び炎症の増大をもたらすことによって、病気を悪化させると考えられる。頻繁にひっかくことにより形成された病変が感染そしてさらに抗原刺激を受けやすいため、多くの医師がADを自己増殖性のサイクルと見ている。全体表面積のほとんどがかかわる患者が、引っかきにくい領域に罹患していない皮膚を有し得ることは、この仮説の信憑性を高めるものである。そう痒を防ぐことによって、IL-31のアンタゴニストまたはその受容体の投与は、IL-31誘発性のケラチノサイト活性化及び神経学的刺激を減少させることそして、炎症とそう痒の間の関連を断つことによって、そう痒性疾患の治療において有効であることができる。そう痒の減少は、神経刺激因子の分泌を減少させ、そして持続的な引っかきに伴う炎症及び擦過傷を減少させ、疾患スコアを改善し及び/又は病気の再発の間隔を延長することももたらすことができる。引っかきの阻害、減少又は防止のみでも、アトピー性皮膚炎、結節性痒疹、及びニキビを含むがこれらに限定されないそう痒性疾患の治療において有効であることができ、それは、引っかきをとめることは、その発生がひっかきに依存する皮膚炎の進行を停止させるであろうからである。
【0084】
本明細書中で使用される用語「抗体」は、ポリクローナル抗体、アフィニティー精製されたポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、並びにF(ab')2及びFabタンパク質分解断片などの抗原結合断片を含む。キメラ抗体、Fv断片、単鎖抗体などの遺伝工学処理による無傷の抗体又は断片、並びに合成抗原結合ペプチド及びポリペプチドも含まれる。非ヒト抗体は、非ヒトCDRをヒトフレームワーク及び定常領域に移植するか、又は非ヒト可変ドメイン全体(場合により、露出された残基の置換によってヒト様表面でそれらを覆ってそれらを「クローキング」し、「ベニヤ張りの」抗体とする)を組み込むことによってヒト化されることができる。いくつかの場合には、ヒト化抗体は、適切な結合特性を促進するために、ヒト可変領域フレームワークドメイン内に非ヒト残基を保持してもよい。抗体をヒト化することによって、生物学的半減期が増加され、そしてヒトへの投与による有害な免疫反応の可能性が低下しうる。さらに、ヒト抗体は、PCT国際特許出願公開第WO98/24893号に開示された、ヒトイムノグロブリン遺伝子を含むように工学処理された、トランスジェニック、非ヒト動物中で産生されることができる。これらの動物における内因性のイムノグロブリン遺伝子が相同的組換えなどによって不活性化又は除去されることが好ましい。
【0085】
抗体は、以下の:1)それらが閾値レベルの結合活性を示し、そして2)それらが関連するポリペプチド分子と顕著に交差反応しない場合に、特異的に結合すると考えられる。結合の閾値レベルは、本明細書に記載の抗IL-31抗体がIL-31ポリペプチド、ペプチド又はエピトープと、対照(非IL-31)ポリペプチドに対する結合親和性よりも少なくとも10倍の親和性で結合するとき、決定される。抗体が、106M-1以上、好ましくは107M-1以上、より好ましくは108M-1以上、そして最も好ましくは109M-1以上の結合親和性(Ka)を示すことが好ましい。抗体の結合親和性は、Scatchrad分析(Scatchard, G., Ann. NY Acad. Sci. 51:660-672, 1949)などにより、当業者によって容易に決定可能である。
【0086】
抗IL-31抗体が関連するポリペプチド分子と顕著に交差反応しないかどうかは、IL-31ポリペプチドを検出するが、既知の関連したポリペプチドを検出しない抗体などにより、標準的なウエスタンブロット分析(Ausubel, et al.,上記)によって示される。知られた関連ポリペプチドは、知られたオルソログ及びパラログ、及びタンパク質ファミリーの類似の知られたメンバーなどの、従来技術において開示されたものである。スクリーニングは、非ヒトIL-31及びIL-31突然変異体ポリペプチドを用いても行われることができる。さらに、抗体は、IL-31ポリペプチドに特異的に結合する集団を単離するために、既知の関連ポリペプチドに対して「スクリーニング」されることができる。例えば、IL-31に対する抗体は、不溶性のマトリックスに付着した関連ポリペプチドに吸着され;IL-31に特異的な抗体が適切なバッファー条件下でマトリックスを通って流れる。スクリーニングは、知られた密接に関連するポリペプチドと交差反応しないポリクローナル及びモノクローナル抗体の単離を可能とする(Antibodies: A Laboratory Manual, Harlow and Lane (eds), Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1988;Current Protocols in Immunology, Cooligan, et al. (eds.) National Institutes of Health, John Wiley and Sons, Inc., 1995)。特異的な抗体のスクリーニング及び単離は、本分野で知られている。Fundamental Immunology, Paul (eds.) Raven Press, 1993;Getzoff et al., Adv. in Immunol. 43: 1-98, 1988;Monoclonal Antibodies:Principles and Practice, Goding, J.W. (eds.), Academic Press Ltd., 1996;Benjamin et al., Ann. Rev. Immunol. 2: 67-101, 1984を参照のこと。特異的に結合する抗-IL-31抗体は、本分野における多くの方法によって検出可能であり、以下に記載される。
【0087】
モノクローナル抗体の調製は、当業者に周知である。発現系により産生された、精製された成熟した組換えヒトIL-31ポリペプチド(配列番号2のアミノ酸残基27(Leu)〜167(Thr))又はマウスオルソログは、モノクローナル抗体を生成するために使用可能である。
【0088】
IL-31介在性シグナル伝達のアンタゴニスト投与の効果は、湿疹面積及び重症度指数(EASI)などの当業者に明らかな他の症状又は複合症状などによる、皮膚の炎症又は皮膚の肥厚、リンパ球の動員及び表皮肥厚の減少、阻害、予防、最小化、中和によってインビボで測定されることができる。さらなる効果は、病変部の皮膚によるサイトカイン又はケモカイン産生の変化又は減少、アトピーパッチテストスコアの低下、及び皮内マイクロ透析又は他の方法により測定された、サイトカイン、ケモカイン又は神経ペプチドなどの可溶性因子の放出の減少を含みうる。かゆみ又は疼痛の程度の評価は、Visual Analogue Scaleなどの臨床的に推奨された機器又はツールを用いて測定可能である。引っかき頻度は、肢移動測定器、指の爪に取付けた圧電振動子装置、あるいは患者における夜間の引っかきの微速度赤外線写真撮影又はビデオ撮影によって測定可能である。疼痛又はかゆみの減少を評価するための他の方法は、当業者に明らかである。
【0089】
組織培養培地から精製されたモノクローナル抗体は、組換え及び自然のヒトIL-31の定量測定のためのELISAにおけるそれらの有用性に特徴を有する。抗体は、選択され、そして定量的アッセイが開発される。
【0090】
組織培養培地から精製されたモノクローナル抗体が、IL-31Ra及びOSMRbを発現する神経細胞への精製された組換えhuIL-31の受容体結合活性をブロック又は低下させるそれらの能力について特徴づけされる(「中和アッセイ」)。このやり方で多数の「中和」モノクローナル抗体が同定される。そして、記載されたヒトIL-31に対する中和モノクローナル抗体を発現するハイブリドーマは、ブダペスト条約にしたがって原寄託としてAmerican Type Tissue Culture Collection (ATCC; Manassas VA)特許寄託センターに寄託されることができる。
【0091】
5つのラット抗−マウスハイブリドーマを類似の方法で作製し、そして以下のクローン名をつけた:クローン271.9.4.2.6.1、クローン271.26.6.6.1、クローン271.33.1.2.2、クローン271.33.3.2.1及びクローン271.39.4.6.5。これらのクローンによって産生されたモノクローナル抗体は、ビニング(すなわち、各抗体が任意の他の結合を阻害することができるかを判定する)、相対的親和性及び中和を含む多くの方法で特徴づけされた。モノクローナル抗体は2つの別々のビンに分類され、クローン271.33.3.2.1は他の4つとは別のエピトープへ結合すると思われる。
【0092】
組織培養培地中のモノクローナル抗体は、精製された組換えタンパク質ヒトIL-31の存在下で培養された場合の、受容体への結合をブロック又は減少させるそれらの能力について特徴づけされる。
【0093】
モノクローナル抗体の結合親和性が生成可能である。ヤギ抗−ラットIgG-Fcガンマ特異的抗体(Jackson)が、CM5 Biacoreチップ上に固定化される。各mAbを抗-ラット捕捉表面上に結合させ、そして、一連の濃度のIL-31がmAb全体に注入されて、結合定数(Ka)と解離定数(Kd)を求めるために、アッセイが最適化される。各試行の後、20mMのHClを2回注入することによって、表面は抗-ラット抗体に再生される。それぞれについてデータを生成し、そして、IL-31タンパク質への抗−IL-31抗体の結合を評価するために評価ソフトウエア(BIAevaluation software version 3.2., Pharmacia BIAcore, Uppsala, Sweden)が使用される。
【0094】
想定される抗−IL-31 mAbsによって認識される標的分子、IL-31が本当にIL-31であることについての生化学的確認は、標準的な免疫沈降法、その後の、どちらもIL-31によりトランスフェクトされないBaf3細胞とトランスフェクトされたBaf3細胞から調製された可溶性の膜を使用する、SDS-PAGE分析又はウエスタンブロッティング法によって実施される。mAbsは、それらの特異的な免疫沈降能力又は可溶性IL-31-muFcタンパク質のウエスタンブロットについて試験される。
【0095】
IL-31に対するモノクローナル抗体は、共有にかかる、2006年5月8日出願の米国特許出願第11/430,066号、米国特許出願公開第2006-0275296号に記載されている。組織培養培地から精製されたこれらのモノクローナル抗体は、IL-31がその受容体に結合する能力をブロック又は阻害するそれらの能力について中和アッセイにおいて特徴づけされた。この方法で20の「中和」モノクローナル抗体が同定された。これらのクローンによって産生されたモノクローナル抗体は、ビニング(すなわち、各抗体が任意の他の結合を阻害することができるかを判定する)、相対的親和性及び中和を含む多くの方法で特徴づけされた。10個の良好な中和抗体が同じビンに属し、他のモノクローナル抗体は3つの別々のビンに群分けされるようである。さらに、良好な中和抗体のうちの8つは、IgG1アイソタイプであり、他の2つはIgG2aアイソタイプである。かかるモノクローナル抗体は、補体結合及びADCC活性を最小化するように、IgG1又はIgG4でありうる。
【0096】
上記のヒトIL-31に対する中和モノクローナル抗体を発現するハイブリドーマは、ブダペスト条約により、American Type Tissue Culture Collection (ATCC; Manassas VA)特許寄託センターへ原寄託として寄託され、以下のATCC寄託番号:2005年6月29日に寄託されたATCC 特許寄託番号PTA-6815;2005年6月29日に寄託されたATCC特許寄託番号PTA-6816;2005年7月6日に寄託されたATCC特許寄託番号PTA-6829;2005年7月6日に寄託されたATCC特許寄託番号PTA-6830;2005年7月6日に寄託されたATCC特許寄託番号PTA-6831、2005年7月19日に寄託されたATCC特許寄託番号PTA-6871;2005年7月19日に寄託されたATCC特許寄託番号PTA-6872、2005年7月19日に寄託されたATCC特許寄託番号PTA-6875;及び2005年7月19日に寄託されたATCC特許寄託番号PTA-6873を与えられた。
【0097】
本明細書に記載のマウスIL-31に対する中和モノクローナル抗体を発現するハイブリドーマは、ブダペスト条約により、American Type Tissue Culture Collection (ATCC; Manassas VA)特許寄託センターへ原寄託として寄託され、以下のATCC寄託番号:2005年7月19日に寄託されたATCC特許寄託番号PTA-6874を与えられた。これらのハイブリドーマクローンにより産生されたモノクローナル抗体は、2mMのL-グルタミン、100μg/mlのペニシリン及び100μg/mlのストレプトマイシン硫酸塩、および10%の胎児クローンI血清を含む90%Iscove's改変ダルベッコ培地(Hyclone Laboratories)中で培養されることができる。クローンは、2×105細胞/mlで培養を開始し、そして1×105〜5×105細胞/mlで、37℃及び5〜6%COで維持されることができる。その後のトランスファーによって細胞は無血清条件に適合されることができる。凍結された細胞は、90%血清、10%DMSO中で凍結され、そし液体窒素フリーザーの蒸気相中に保存される。
【0098】
本明細書に記載の方法によって生成されたIL-31アンタゴニストは、様々な方法によって中和、阻害、低下、拮抗について試験されることができる。さらに、中和は、リガンド及びモノクローナル抗体の存在下でのケラチノサイト培養からのTARC及びMDCなどの前炎症性ケモカイン産生の減少を測定することによっても試験されることができる。MCP-1、MIP1a、TARC、MCP-1、MDC、IL-6、IL-8、1-309、SCYA19、MPIF-1、TECK、MIP-1b、SCYB13、GROa/MGSA、CTACK、SCCA1/Serpin B3、TSLP、及びNT-4も使用されてよい。中和は、本明細書に記載のインビボモデルによって測定されることもできる。
【0099】
本明細書に記載の生理活性を有するアンタゴニスト又は抗体コンジュゲートは、静脈内、動脈内、又は管内、皮下、局所に送達されることができ、或いは目的の作用部位において局部的に導入されてもよい。
【0100】
本発明のアンタゴニストは、NcNgaモデル、Ova皮膚上モデル、慢性過敏性モデル、慢性ハプテンモデル、カルシウムフラックスモデル、アロジニアモデルを含むがこれらに限定されないインビボモデルのいずれかによって、IL-31リガンドへのそれらの結合能について測定されることができる。
【0101】
抗-IL-31抗体の阻害効果を測定するためのさらなるモデルは、本分野の当業者に知られ、かつ本明細書に記載されており、Umeuchi, H. et al., European Journal of Pharmacology, 518: 133-139, 2005;及びYoo, J. et al., J. Experimental Medicine, 202: 541-549, 2005に記載されている。
【0102】
神経因性炎症を測定するためのマウスモデルは本分野で知られている。例えば、Sweitzer, S. M. et al., J. Neuroimmunology 125: 82-93; 2002及びHonore, P., et al., Neuroscience, (98): 585-598, 2000を参照のこと。Yonehara N. and Yoshimura M., Pain, 2001 (92/1-2): pp.259-265を参照のこと。
【0103】
本発明の側面のうちでは、本発明は、哺乳動物の神経組織における炎症の治療方法;哺乳動物における疼痛の治療方法;脊髄後根神経節細胞におけるIL-31誘導性シグナル伝達をアンタゴナイズする方法;火傷に伴う症状を治療するための方法;ウイルス感染に伴う症状を治療しそしてウイルス感染の再活性化を予防するための方法;並びに炎症性腸疾患に伴う疼痛を治療するための方法を提供する。実施態様のうちでは、炎症性腸疾患はクローン病である。
【0104】
これらの側面の実施態様のうちでは、本発明は、神経組織にIL-31アンタゴニストを加えることを含み、ここで、炎症、疼痛、脊髄後根神経節におけるシグナル伝達、ウイルスの感染又は再活性化、或いは火傷の組織、或いは炎症性腸疾患に伴う疼痛が減少され、制限され、予防され、最小化され、又は中和される。
【0105】
他の実施態様のうちでは、IL-31アンタゴニストは、配列番号2の残基27〜残基164に示すアミノ酸配列を含むポリペプチドに結合する。他の実施態様のうちでは、アンタゴニストは、以下の:抗−イディオタイプ抗体;抗体断片;キメラ抗体;及びヒト化抗体から選ばれる。他の実施態様のうちでは、アンタゴニストは抗体である。他の実施態様のうちでは、抗体はモノクローナル抗体である。他の実施態様のうちでは、抗体は、配列番号2のアミノ酸配列を含むポリペプチドに特異的に結合し、ここで、該ポリペプチドは、以下の:a)ATCC特許寄託番号PTA-6815;b)ATCC特許寄託番号PTA-6816;c)ATCC特許寄託番号PTA-6829;d)ATCC特許寄託番号PTA-6830;e)ATCC特許寄託番号PTA-6831;f)ATCC特許寄託番号PTA-6871;g)ATCC特許寄託番号PTA-6872;h)ATCC特許寄託番号PTA-6875;及びi)ATCC特許寄託番号PTA-6873からなる群から選ばれるハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体に結合することができる。他の実施態様のうちでは、モノクローナル抗体は、抗体のビンから選ばれ、ここで、該抗体を産生するハイブリドーマは、以下の:a)ATCC特許寄託番号PTA-6815;b)ATCC特許寄託番号PTA-6829;c)ATCC特許寄託番号PTA-6816;d)ATCC特許寄託番号PTA-6871;及びe)ATCC特許寄託番号PTA-6830から選ばれる。他の実施態様のうちでは、モノクローナル抗体は、抗体のビンから選ばれ、ここで、該抗体を産生するハイブリドーマは、以下の:a)ATCC特許寄託番号PTA-6872;b)ATCC特許寄託番号PTA-6873;c)ATCC特許寄託番号PTA-6875;及びd)ATCC特許寄託番号PTA-6831から選ばれる。
【0106】
他の実施態様のうちでは、神経組織は脊髄後根神経節又は脊髄組織を含む。
【実施例】
【0107】
実施例1:神経組織中のIL-31RA、IL-31及びpOSMRbのためのインサイチュハイブリダイゼーション
すべて同じ個体に由来する5つのヒト脳組織サンプル及び脊髄サンプル、そして異なる患者由来の脊髄後根神経節(DRG)をこの試験においてアッセイした。
【0108】
使用したプローブは、IL-31RA、IL-31及びOSMRベータに対するプローブであった。
【0109】
結果を表1に示す:
【0110】
【表1】

脳の切片:3つのプローブ全てについて、脳のすべての領域において検出可能な量のシグナルはなかった。視床下部中のニューロンの小部分におけるpOSMRbの染色には一貫性が欠如していた。この一貫性の欠如は、検出レベル前後の非常に低いpOSMRbレベルによって生じたかもしれない。
【0111】
脊髄:脊髄の1つの領域が陽性に染色された。脊髄切片の考えうる位置又は方向についての情報はない。シグナルは、脊髄の前部(腹部)内にあるようである。(これも前部の)反対の側/領域は陰性であった。陽性シグナルは、より大きなニューロンの小部分に限られるようである。IL-31RA及びpOSMRbはどちらも、この領域において類似の発現パターンを示した。IL-31は陰性であった。
【0112】
脊髄後根神経節(DRG):DRG中の単極性ニューロンは、IL-31RA及びpOSMRbの両方について陽性であった。小さなサテライト細胞は陰性であった。IL-31は、ニューロンを含むすべての細胞において陰性であった。
【0113】
したがって、IL-31アンタゴニストは、神経因性の刺激に伴う症状及び神経因性の刺激を緩和するために有用であることができる。したがって、IL-31アンタゴニストは、脊髄後根神経節刺激などの神経細胞の刺激に伴う炎症及び疼痛の治療に使用されることができ、そして疼痛及び炎症の減少、制限、最小化、予防又は中和として測定されることができる。
【0114】
実施例2:かゆみ応答の誘導におけるIL-31の関与
A.方法I(IL−31処理マウスのカプサイシン処置)
【0115】
10週齢のBALB/c動物(CRL)を麻酔し、そして、食塩水中、10%エタノール+10%Tween-80中の4mg/mlのカプサイシン溶液を首筋の皮下に0.25ml注射する前に、持続性の鎮痛剤、塩酸ブプレノルフィンを0.1mg/kgで皮下注射した。神経毒処理のあと、少なくとも30分間動物を麻酔しておいた。48時間後、20μg/日のIL-31の14日間の持続的送達のために、14日間の浸透圧ポンプを皮下に移植した。マウスは、6日間毎日、脱毛症及びそう痒について、以下の基準:0=ひっかきなし、動物は正常に見える、1=小部分における被毛の菲薄化、引っかきが認められる、2=わずかな脱毛(小さなまだら)、引っかき、3=中度の脱毛、引っかき、および4=重度の脱毛、過度の引っかき、を用いてモニターした。
【0116】
結果は、非カプサイシン処理マウスが、3日間のIL-31送達後に2.625の平均引っかき/脱毛スコアを示した一方、カプサイシン処置マウスは1という顕著に低いスコアを示したことを実証した。したがって、IL-31の送達前にカプサイシン処置したマウスは、引っかき及び脱毛の発生の遅れ並びに引っかき及び脱毛の強度の低いスコアを、実験の6日間にわたって示した。これらのデータは、IL-31が、IL-31によって誘導される脱毛症及びそう痒に関与する何らかの神経成分を誘導することを示唆する。したがって、IL-31の中和は、かゆみの発生率及び強度を低下させ、そしてしたがって、かゆみを含む皮膚の障害に罹った患者において皮膚炎を減少させうる。
【0117】
B.方法II
TacI遺伝子を欠損するホモ接合性のマウスは、検出可能なサブスタンスP又はニューロキニンAを発現しない。これらのマウスは、中度〜強度の刺激に対する侵害受容性の疼痛反応が顕著に減少し、そしてしたがって疼痛/かゆみの進行と炎症性疾患状態に対するタキキニンペプチドの寄与を研究するための有用なツールである。12週齢のTac1ノックアウトマウスに、1μg/日のIL-31タンパク質を送達するための14日間浸透圧ポンプを移植し、毎日、脱毛症及びそう痒について、以下の基準:0=ひっかきなし、動物は正常に見える、1=小部分における被毛の菲薄化、引っかきが認められる、2=わずかな脱毛(小さなまだら)、引っかき、3=中度の脱毛、引っかき、および4=重度の脱毛、過度の引っかき、を用いて観察した。
【0118】
この試験の結果は、Tac1欠損マウスがIL-31誘導性のひっかき/脱毛に対して、野生型対照マウスよりも感受性が低かったことを示す。野生型マウスの100%(10/10)が、6日間のIL-31処理による引っかき及び脱毛の証拠を示した一方、Tac1欠損マウスのわずか33.3%(2/6)が同じ時点で引っかき及び脱毛の徴候を示した。これらのデータは、IL-31が、IL-31処理マウスにおける引っかき/脱毛表現型に寄与する神経成分を誘導し、そして、IL-31の中和は、皮膚炎の状況において引っかきの発生率及び強度を低下させうるということを示している。
【0119】
C.方法III(IL-31中和抗体の投与)
およそ8〜12週齢の正常な雌性BALB/cマウス(CRL)に、1μg/日のmIL-31を送達する14日間浸透圧ポンプ(Alzet、#2002)を皮下に移植した。各群のマウスは、IL-31送達の1週間前から開始して週に2日、10mg/kg(200μg/マウス)のラット抗−マウスIL-31モノクローナル抗体の腹腔内(i.p.)注射を受けた。対照群のマウスは、同一の投薬スケジュールで、ビヒクル(PBS/0.1%BSA)のi.p.注射を受けた。毎日、脱毛症及びそう痒について、以下の基準:0=ひっかきなし、動物は正常に見える、1=小部分における被毛の菲薄化、引っかきが認められる、2=わずかな脱毛(小さなまだら)、引っかき、3=中度の脱毛、引っかき、および4=重度の脱毛、過度の引っかき、を用いてマウスを評点した。
【0120】
すべての実験においては、ラット抗−mIL-31 mAbで処置したマウスは、約5〜7日症状の発生が遅れ、脱毛症及びそう痒の総スコアが低かった。(投薬頻度又は濃度にかかわらず)すべてのmAb処置マウスの群が、試験13日目までに対照マウスに類似の脱毛症及びそう痒を発生した。これらのデータは、IL-31の中和が、IL-31によって誘導された引っかき/脱毛反応の発症を遅らせうることを示唆する。
【0121】
実施例3
IL-31RA/OSMRベータ受容体ルシフェラーゼアッセイ
修飾されたc-fos Sis誘導性要素(m67SIE又はhSIE)(Sadowski, H. et al., Science 261:1739-1744, 1993)、p21 WAF1遺伝子からのp21 SIE1(Chin, Y. et al., Science 272:719-722, 1996)、β−カゼイン遺伝子の乳腺応答要素(Schmitt-Ney, M. et al., Mol. Cell. Biol. 11:3745-3755, 1991)、及びFeg RI遺伝子のSTAT誘導性要素(Seidel, H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 92:3041-3045, 1995)を含む、4つの遺伝子からのSTAT転写制御因子結合要素を含む相補的オリゴヌクレオチドを用いて、KZ134プラスミドを構築した。これらのオリゴヌクレオチドは、Asp718-XhoI適合性末端を含み、同じ酵素で消化され、そしてネオマイシン選択マーカーを含む、c-fosプロモーターを有するレシピエントであるホタルルシフェラーゼレポーターベクター中に標準的な方法を用いてライゲーションした(Poulsen, L.K. et al., J. Biol. Chem. 273:6229-6232, 1998)。KZ134プラスミドは、標準的なトランスフェクション及び選択方法を用いて安定にBaF3細胞をトランスフェクトしてBaF3/KZ134細胞株を作製するために使用した。
【0122】
完全長IL-31RA又はIL-31RA/OSMRベータ受容体を発現する、安定なBaF3/KZ134指示細胞株を構築した。標準的な技術を用いてクローンを希釈し、培養し、そして選択した。ヒトIL-31培養上清又は精製IL-31タンパク質を誘導物質として用いるルシフェラーゼアッセイによってクローンをスクリーニングした(以下のBを参照のこと)。(STATルシフェラーゼを介する)最もルシフェラーゼ反応が高く、そして最もバックグラウンドの低いクローンを選択した。安定なトランスフェクタント細胞株を選択した。細胞株中にトランスフェクトされた受容体によって、細胞株をBaF3/KZ134/IL-31RA又はBaF3/KZ134/IL-31RA/OSMRベータと呼んだ。
【0123】
同様に、BHK細胞株も本明細書に記載の方法を用いて構築し、そして、本明細書に記載のルシフェラーゼアッセイにおいて使用した。この細胞株を、細胞株中にトランスフェクトされた受容体によって、細胞株BHK/KZ134/IL-31RA又はBHK/KZ134/IL-31RA/OSMRベータと呼んだ。
【0124】
BaF3/KZ134/IL-31RA及びBaF3/KZ134/IL-31RA/OSMRベータ細胞を遠心分離して沈降させ、そしてmIL-3を含まない培地で洗浄した。細胞を遠心分離した沈降させ、そして3回洗浄して、mIL-3の除去を確実にした。細胞を血球計で計数した。細胞を約30,000細胞/ウエルで、mIL-3を含まない培地を用いて100μl/ウエルの体積で96ウエルフォーマット中で培養した。次のアッセイにおける対照として使用するためのトランスフェクトされないBaF3/KZ134細胞に同じ手順を使用した。BHK/KZ134/IL-31RA又はBHK/KZ134/IL-31RA/OSMRベータ細胞を、100μlの培地中15,000細胞/ウエルで、96ウエルフォーマット中で培養した。親BHK/KZ134細胞を対照として使用した。
【0125】
BaF3/KZ134/IL-31RA、BaF3/KZ134/IL-31RA/OSMRベータ、BHK/KZ134/IL-31RA又はBHK/KZ134/IL-31RA/OSMRベータ細胞のSTAT活性化を、培養上清又は精製タンパク質を用いて評価した。希釈された培養上清又はタンパク質の100マイクロリッターを、BaF3/KZ134/IL-31RA、BaF3/KZ134/IL-31RA/OSMRベータ、BHK/KZ134/IL-31RA又はBHK/KZ134/IL-31RA/OSMRベータ細胞に添加する。培養上清を用いるアッセイを、対照としてのトランスフェクトされないBaF3/KZ134又はBHK/KZ134細胞についても平行して行う。全アッセイ体積は200μlである。アッセイプレートを、37℃、5%CO2で24時間インキュベートし、そしてBaF3細胞を2000rpm、10分間の遠心分離によってペレットとし、そして培地を吸引し、25μlの溶解バッファー(Promega)を加えた。BHK細胞については、細胞が接着性であるために遠心分離ステップは必要ない。室温で10分後、40μlのルシフェラーゼアッセイ基質(Promega)を加え、5秒の積分時間でルミノメーター(Labsystems Luminoskan, model RS)で読み取ることによって、STATレポーターコンストラクトの活性化についてプレートを測定した。
【0126】
実施例4
アデノウイルスSTAT/SREレポーター遺伝子による一過性の感染によって形質導入されたヒト上皮細胞株におけるルシフェラーゼアッセイ
IL-31活性の阻害、減少、及び/又は中和は、ルシフェラーゼアッセイによって測定可能である。例えば、形質導入されたヒト細胞株を96ウエル平底プレートに、各細胞タイプについて指定された通常の増殖培地中、10,000細胞/ウエルで蒔くことができる。翌日、アデノウイルスレポーターコンストラクト、KZ136で、5000の感染多重度で、細胞を感染させた。KZ136レポーターは、血清応答要素に加えてSTAT要素を含む。全体積は、2mMのL-グルタミン(GibcoBRL)、1mMのピルビン酸ナトリウム(GibcoBRL)および1×インシュリン−トランスフェリン−セレニウムサプリメント(GibcoBRL)を補充したDMEM(以下、「無血清培地」という)をもちいて100μl/ウエルである。細胞を一夜培養する。
【0127】
翌日、培地を除去し、そして100μlの誘導培地に交換する。誘導培地は、無血清培地中で100ng/ml、50ng/ml、25ng/ml、12.5ng/ml、6.25ng/ml、3.125ng/ml及び1.56ng/mlに希釈したヒトIL-31である。アッセイを較正し、そしてアデノウイルスによる感染が成功したことを確認するために20%FBSの陽性対照を使用する。細胞を5時間誘導し、その時点で培地を吸引する。そして、細胞を50μl/ウエルのPBSで洗浄し、次に1×細胞溶解バッファー(Promega)の30μl/ウエル中で溶解した。室温で10分間インキュベーション後、25μl/ウエルのライセートを不透明の白色96ウエルプレートに移す。40μl/ウエルのルシフェラーゼ基質(Promega)を注入し、5秒の積分時間を用いてルミノメーター上でプレートを読み取った。
【0128】
実施例5
炎症性腸疾患由来の結腸組織におけるIL-31分析
A)IL−31免疫組織化学:
ABC-eliteベースの検出システムによって、炎症性腸疾患患者由来の胃腸組織においてヒトIL-31を検出するために、ポリクローナル抗体(1.0mg/mlにアフィニティー精製した、ウサギ抗−ヒトIL-31 CEE)を使用した。同じプロトコール及び抗体濃度を用いて、1.66mg/mlに精製された正常なウサギ血清、プロテインAを陰性対照として使用した。
【0129】
プロトコールは以下のとおりである:ABC-HRP Elite(Vector Laboratories, PK-6100);標的の回収(ph9)、20分スチーム、室温まで20分冷却;30分間タンパク質でブロック;一次抗体(1:1,000〜2,500)60分;二次抗体(Bi:抗−ウサギ)45分間;ABC-HRP複合体、45分間;そして、推奨されるDAB基質。
【0130】
この試験においては、ウサギ抗−ヒトIL-31ポリクローナル抗体を用いて全部で19の個別のGI組織を分析した。この群においては、IBD又は癌組織に隣接する正常組織からの5つの結腸サンプルが存在した。9つのサンプルをクローン病、そして5つを潰瘍性大腸炎と診断した。全体として、IBD又は癌組織或いは潰瘍性大腸炎組織に隣接する正常組織中よりも、クローン病のサンプル中のほうがより陽性細胞が多いようである。クローン病のサンプル中のシグナルを発する細胞は、平滑筋束間のシグナルを示す浸潤細胞とともに、主に固有層及び粘膜下層中に位置する。肉芽腫においては、小結節中心内の多くのより大きな細胞が陽性であるが、これらの小結節の皮層及びバイエル板は陰性であるように見える。腸腺の上皮はときどき陽性である。潰瘍性大腸炎サンプルにおいては、粘膜下層中に少数の点在する細胞があり、そして平滑筋束間の浸潤細胞は陽性である。潰瘍性大腸炎サンプル中の陽性細胞のパーセンテージはクローン病サンプルよりも低いが、「正常」サンプルと同様又はそれよりもわずかに高い。潰瘍性大腸炎の固有層中の細胞はほとんどが陰性である。要約すると、この試験は、IL-31がクローン病のGIサンプルにおいて上方制御されることを実証する。この試験においては、IL-31は潰瘍性大腸炎サンプル及び「正常」対照において類似の発現プロフィールを示すようである。
【0131】
B)IL-31インサイチュハイブリダイゼーション
組織の小部分を、インサイチュハイブリダイゼーション(ISH)を用いても分析した。ISHでは、粘膜下層及び脂肪組織中のわずかな浸潤細胞においてIL-31 mRNAを観察した。IHCを用いて、我々は、先に述べた細胞集団並びに固有層及び肉芽腫中心中の細胞において陽性に染色されたIL31タンパク質を観察した。これら2つのアッセイの間の相違は、アッセイ感度により説明されうる。
【0132】
実施例6 炎症性腸疾患由来の結腸組織におけるIL-31Raの分析
A) IL-31Ra免疫組織学:
炎症性腸疾患患者由来の胃腸組織中のヒトIL-31RAを、ABC-eliteに基づく検出系によって検出するために、ポリクローナル抗体(1.33mg/mlまでアフィニティー精製された、ウサギ抗−ヒトIL-31RA(バージョン4)CEE抗体)を使用した。同じプロトコールと抗体濃度を用いて、1.66mg/mlまで精製された正常ウサギ血清、プロテインAを陰性対照として使用した。ウサギ抗−ヒトIL-31RA(バージョン4)抗体を1:2000(665ng/ml)で使用した。
【0133】
プロトコールは以下のとおりである:ABC-HRP Elite(Vector Laboratories, PK-6100);20分間、蒸気中で標的回収(ph9);20分間、室温まで冷却;30分間、タンパク質ブロッキング;60分間、一次抗体(1:2000);45分間、二次抗体;45分間、ABC-HRP複合体;及び10分間、DAB+Dako Cytomation。
【0134】
この試験においては、ウサギ抗−ヒトIL-31RA(バージョン4)CEE抗体を用いて、全部で19の個別のGI組織を分析した。この群中には、IBD又は癌組織に隣接する正常組織由来の約5個の結腸サンプルがある。9つのサンプルは、クローン病と診断され、そして5つは潰瘍性大腸炎と診断された。全体として、IBD又は癌組織又は潰瘍性腸炎組織に隣接する正常組織よりも多くの陽性細胞がクローン病サンプル中にあるようである。クローン病サンプル中の陽性細胞は主に粘膜下層の結合組織中に位置する。肉芽腫小結節は陰性である。時には、クローンサンプル中に弱い上皮のシグナルがある。潰瘍性大腸炎(UC)サンプル中に検出可能なシグナルはなかった。粘膜下層中のわずかな細胞が、IHCによって、IL-31RAタンパク質に関して陽性に染色された。
【0135】
B)IL-31RAインサイチュハイブリダイゼーション:
先の試験において、ISHを用いて5つの組織を試験し、そのうちの3つはクローン病の結腸であった。これらのクローン病組織においては、それらの正常な対応物に比べて顕著にIL-31RA mRNAが上方制御され、シグナルは肉芽腫小結節並びに粘膜下層の結合組織及び脂肪組織領域中の多くの浸潤細胞に局在した。IHC及びインサイチュ分析の間の矛盾についての可能性のある理由は、一過性のmRNA発現、タンパク質プロセシング時間、IL-31RAタンパク質の安定性、及び/又は2つのアッセイの間の感度の相違を含む。
【0136】
実施例7 EμLck IL-31トランスジェニックマウスにおける、DSS-誘導性大腸炎の試験
病気の易罹患性及び重篤度の潜在的相違を調べるために、EμLck IL-31トランスジェニックマウス及び非トランスジェニック同腹仔対照マウスを、粘膜炎症のデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発モデルにおいて試験した。飲料水中の2〜3%DSSを与えた正常マウスは、ヒト炎症性腸疾患に似た症状と病理を発生させた(Strober, Fuss and Blumberg, Annu. Rev. Immunol. 2002を参照のこと)。機械的に、DSSは大腸の粘膜上皮バリアを破壊し、これはその後に炎症を引き起こす。この炎症の結果、DSS処理マウスは体重減少し、そして下痢を発生する。疾患活動指数(DAI)を用いてマウスを大腸炎の重篤度に関してモニターし、この指数は、体重、便の一貫性及び便中の血液に基づく累積スコアである。DSSは、急性又は慢性の大腸炎を誘発するために使用可能である。急性大腸炎は、第0日から第7日までの飲料水中のDSS(われわれの試験においては2%又は3%)の送達によって誘発される一方、慢性大腸炎は、5日間の飲料水中のDSSの送達によって誘発され、その後、DSS処理を繰り返す前に7〜12日間の回復相がある。
【0137】
EμLck IL-31トランスジェニックマウスにおける4つの試験を実施した。DSSの急性又は慢性のモデルが使用されるかに関わらず、EμLck IL-31トランスジェニックマウスは同腹対照マウスに比べてよりおおくの体重がより早く減少した。実際、3又は4の試験において、IL-31トランスジェニックマウスは、対照に比べて有意に大きな体重減少を示した(p<0.001、p=0.011)。さらに、トランスジェニックマウスは、野生型対照に比べて有意に短い結腸を有した(p<0.05)。慢性大腸炎試験においては、DAIスコアは、IL-31トランスジェニックマウスにおいて非トランスジェニック対照に比べて有意に高かった(p<0.001)。
【0138】
IL-31の全身送達が、正常非トランスジェニックマウスにおけるDSS-誘発性大腸炎の発生に影響しうるかを判定するために、我々は、DSS処理前にIL-31の日用量又はビヒクル(PBS、0.1% BSA)を送達する浸透圧ポンプを動物に移植した。1つの試験においては、N3ジェネレーションの非トランスジェニックマウス(B6C3F2×C57BL/6)に、20μg/日のIL-31又はビヒクルのいずれかを、DSS投与の経過中に送達するポンプを皮下移植した。体重減少、DAIスコア又は結腸の長さは、IL-31処理マウスとビヒクル処理マウスの間で相違がなかった。同様のポンプ送達試験を、正常C57BL/6マウスにおいても実施し;10μg/日のIL-31又はビヒクルを送達するポンプをマウスに移植し、急性の計画において2%DSSを与えた。ここでも、DSS-大腸炎パラメータのいずれにおいても、IL-31又はビヒクルを送達するポンプを移植することの相違はなかった。最後に、2%DSS-急性大腸炎試験を、IL-31RA欠損(IL-31RA-/-)マウスにおいて実施した。ここでも、IL-31RA欠損マウス及び野生型対照の間で体重減少、DAIスコア又は結腸の長さにおける相違はなかった。
【0139】
要約すると、急性大腸炎試験において正常マウスへのIL-31の全身送達が病気の予後に何の効果も有さないため、IL-31は、DSSによって誘発された粘膜の炎症に対して直接的な効果を有さないようである。IL-31トランスジェニック動物は、トランスジェニック表現型により引き起こされたストレスの結果として、DSS-誘発性大腸炎に対してより易罹患性であるかもしれない。しかしながら、EμLck IL-31トランスジェニックマウスは、末梢リンパ節において活性化CD4+及びCD8+T細胞の数が増加しており(Dillon et al., 2004)、EμLck IL-31トランスジェニックマウスにおいて観察された、DSS-誘発性大腸炎に対する易罹患性の増加は、これらの活性化リンパ球が存在する結果であるかもしれない。
【0140】
実施例8: ミクロ透析によって皮膚の間質液をサンプリングすることによる、抗−IL-31抗体処置の効果
皮膚中の抗体のバイオアベイラビリティー及び分布を直接的に分析するために、本発明の分子とともにミクロ透析が使用可能である。ミクロ透析は、細胞内液を収集し、分析するために使用する。間質液中の抗体は、ルミネックスビーズに架橋された、種特異的抗−IgG抗体を用いて測定可能である。さらに、遊離〜IgG結合したIL-31の評価は、抗−IgGでなく抗−IL31抗体を二次抗体として使用して行う。IL-31によるケラチノサイト及び/又は脊髄後根神経節の活性化により産生された、前炎症性サイトカイン及びケモカインをアッセイする。British J. Dermatology 142(6); 1114-1120,(2000);J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry 73; 299-302, (2002);Am J. Physiol Heart Circ. Physiol 286; 108-112, (2004);Neuroscience Letters 230; 117-120, (1997);及びAAPS J. 7(3); E686-E692, (2005)を参照のこと。Steinhoff, M., et al., J. Neuroscience, 23(15): 6176-6180, 2003も参照のこと。
【0141】
ミクロ透析プローブは、TSE Systems(Midland, Michigan)によって供給される。該プローブは、T字型であり、15mmのステムに取り付けた外径0.3mm×長さ4mmの3000kDaの膜からなる。入り口と出口は、内径0.12mmのピークチューブ(peek tubing)に連結される。エキソビボでの分析は、インビボ分析に使用するチューブ長と同じものを用いて実施する。HMWCOプローブを、(小腸への)外への流れを最小化するために、注入/吸引ポンプ系によって流す。しかしながら、注入のみのポンプ(Harvard PHD 2000)も使用する。Δp及びΔПによる体液の損失を様々な流速で測定した。膜の効率(Ed)を、膜によらない(外部への)拡散を排除するために、知られた量のIgGを混合チャンバー中で用いて、様々な流速で測定した。マウスIgG及びマウスヘモグロビンのEdを測定し、インビボ対照としての役割を果たした。Luminexビーズに結合したヤギ抗−ラットIgG抗体によって定量を行い、そして、捕捉は、非特異的反応性を減少させるためにウサギ又はロバビオチン−抗−ラットIgG抗体を用いて報告する。マウスIgG及びヘモグロビンについてのアッセイは、インビボ試験における対照のために作成する。ビーズとの結合は、標準的なキット及びプロトコールを用いて実施される。
【0142】
浸透圧ポンプ、ID又はミクロ透析ファイバーを用いてサイトカインによるマウス及びラットの処置を行う。抗体をIVによって注射する。プローブはUV滅菌する。ミクロ透析プローブを挿入し、そして血液分析物をサンプリングする。循環から皮膚中へのIgG輸送の定量は、エキソビボで測定した膜パラメータを用いて測定し、抗体の透過性及びかん流速度を推定する。
【0143】
動物の対あたり1つの時間点、そして経時的に循環中の抗体レベル及び真皮/上皮中への拡散を推定するための十分な数の時間点を用いて、以下のステップを実施する:1)ミクロ透析膜を皮膚中に挿入し、エキソビボ分析によって決定した速度で予備的サンプルを取り出す。この対照サンプルは、透過液のベースラインの反応性を決定する;2)尾静脈注射によってラット抗−IL31抗体を導入し、そして循環中抗体レベルを測定するために、所定の時点で眼窩内血液サンプルを採取する;3)分析のための十分な体積のミクロ透析サンプルをプロトコールのポンピング速度で採取する;4)分析物サンプリングの最後に、さらなる眼窩内サンプルを採取して抗−IL31抗体の循環レベルを決定する。
【0144】
分析物及び血漿の多重分析を、Luminexにより実施し、1)抗−IL31抗体、2)枯渇/拡散の対照としての抗−マウス−IgG抗体、及び3)ミクロ透析挿入による外傷及び血管損傷についての対照としての抗−マウスヘモグロビン抗体について定量した。エキソビボで測定した膜のパラメータ及び所定の循環抗体濃度において測定した分析物中への抗−IL31抗体の流入速度を用いて、皮膚拡散速度の推定値を決定する。分析物中のマウスIgG濃度を、プローブ近傍のタンパク質の局所的枯渇を評価するために使用する。拡散分析における局所的枯渇を補うための方法を工夫する必要があるかもしれない。
【0145】
以上により、本発明の特定の実施態様が例示の目的で本明細書中に記載されたが、本発明の精神及び範囲を離れることなく様々な改変がなされうることは理解されるであろう。したがって、本発明は、添付の請求項による以外は制限されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の神経組織における炎症を治療するための方法であって、神経組織とIL-31アンタゴニストを混合することを含み、ここで、前記炎症が減少され、制限され、予防され、最小化され、又は中和される、前記方法。
【請求項2】
前記IL-31アンタゴニストが、配列番号2の残基27〜残基164に示すアミノ酸配列を含むポリペプチドに結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アンタゴニストが抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記神経組織が脊髄後根神経節又は脊髄組織を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
哺乳動物における疼痛を治療するための方法であって、前記哺乳動物由来の神経組織をIL-31アンタゴニストと混合することを含み、ここで、前記炎症が減少され、制限され、予防され、最小化され、又は中和される、前記方法。
【請求項7】
前記IL-31アンタゴニストが、配列番号2の残基27〜残基164に示すアミノ酸配列を含むポリペプチドに結合する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記アゴニストが抗体である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記神経組織が脊髄後根神経節又は脊髄組織を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
脊髄後根神経節細胞中における、IL-31誘発性のシグナル伝達をアンタゴナイズする方法であって、IL-31アンタゴニストと脊髄後根神経節細胞を混合することを含み、それによって前記シグナル伝達が阻害される、前記方法。
【請求項12】
前記IL-31アンタゴニストが、配列番号2の残基27〜残基164に示すアミノ酸配列を含むポリペプチドに結合する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記アンタゴニストが抗体である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
火傷に伴う症状を治療するための方法であって、火傷組織とIL-31アンタゴニストを混合することを含む、前記方法。
【請求項16】
前記IL-31アンタゴニストが、配列番号2の残基27〜残基164に示すアミノ酸配列を含むポリペプチドに結合する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記アンタゴニストが抗体である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記症状が疼痛又はかゆみである、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
哺乳動物におけるウイルス感染に伴う症状を治療するための方法であって、IL-31アンタゴニストを前記哺乳動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項21】
前記IL-31アンタゴニストが、配列番号2の残基27〜残基164に示すアミノ酸配列を含むポリペプチドに結合する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記アンタゴニストが抗体である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
炎症性腸疾患に伴う疼痛を治療するための方法であって、神経組織とIL-31アンタゴニストを混合することを含み、ここで、前記疼痛が減少され、制限され、予防され、又は中和される、前記方法。
【請求項25】
前記IL-31アンタゴニストが、配列番号2の残基27〜残基164に示すアミノ酸配列を含むポリペプチドに結合する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記アンタゴニストが抗体である、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項24に記載の方法。

【公開番号】特開2013−47259(P2013−47259A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−240592(P2012−240592)
【出願日】平成24年10月31日(2012.10.31)
【分割の表示】特願2008−550488(P2008−550488)の分割
【原出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(505222646)ザイモジェネティクス, インコーポレイテッド (72)
【Fターム(参考)】