説明

L−乳酸の製造方法及び新規微生物

【課題】
グリセリン、特にバイオディーゼル廃液から微生物を用いて光学純度の高いL−乳酸を製造する方法を提供する。
【解決手段】
炭素源としてグリセリンを含有する原料を用いてエンテロコッカス フェカリス(Enterococcus faecalis)にL−乳酸を生産させる。このときエンテロコッカス フェカリス(Enterococcus faecalis)W11菌株を用いることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を用いてグリセリンからL−乳酸を製造する方法に関する。また、L−乳酸の製造に適した新規微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸は、食品用、医薬品用などの用途以外に、バイオプラスチックのモノマー原料として工業的用途にも広く適用され、需要が増加している。バイオプラスチックとは、微生物の働きによって分解される生分解性プラスチックと、再生可能な有機性資源を原料にして作られるバイオマスプラスチックの総称である。乳酸から合成されるポリ乳酸は、使用後に堆肥の製造やメタン発酵に用いることができ、自然環境の中でも分解される。さらに、ポリ乳酸は、バイオマスプラスチックとしてカーボンニュートラルの観点からも注目されている。最近では、フィルム、シート及び繊維等にポリ乳酸が使用され、生産量も徐々に増加している。しかし、乳酸にはL体とD体が存在し、ポリ乳酸を製造する際には、光学純度の高い乳酸を得ることが必要である。
【0003】
一方、グリセリンは、廃グリセリンと呼ばれるバイオディーゼル燃料製造時の副生成物の処理が問題になっている。バイオディーゼル燃料とは、生物由来の油から得られる軽油代替燃料の一つであり、エネルギー資源枯渇、地球温暖化及び大気汚染などの環境問題の解決に貢献する燃料として近年注目を集めている。しかし、廃グリセリンは強アリカリ性であり、純度も低いために、有効な用途がない。現在、廃グリセリンの大部分が産業廃棄物として処分されているため、再使用する方法が強く必要とされている。
【0004】
そこで上記問題を解決する方策として、特許文献1には、ノカルディオイデス(Nocardioides)属、およびプロテウス(Proteus)属からなる細菌属群から選ばれる細菌を用い、グリセリンから乳酸を製造する方法が記載されている。
【0005】
特許文献2には、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、アクロモバクタ(Achromobacter)属、デボシア(Devosia)属、フラテウリア(Frateuria)属、パエニバチラス(Paenibacillus)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、ハフニア(Hafnia)属、ラオウルテラ(Raoultella)属、リゾビウム(Rhizobium)属及びセラッティア(Serratia)属からなる細菌属群から選ばれる細菌を用いて、グリセリンからD−乳酸を製造する方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に記載された発明では、光学純度の高いL−乳酸を製造することはできない。また、例示された細菌属にエンテロコッカス属は含まれていない。
【0007】
特許文献3には、乳酸菌を用いて、グルコース等からL−乳酸を生産させる方法が記載されている。また、乳酸を産生する乳酸菌の例として、多数の例示の中にエンテロコッカス(Enterococcus)属が記載されている。しかしながら、実施例ではラクトコッカス(Lactcoccus)属、及びラクトバシラス(Lactbacillus)属の乳酸菌が使用されており、エンテロコッカス(Enterococcus)属は使用されていない。また、培地の炭素源として、多数の例示の中にグリセリンが記載されている。しかしながら、グリセリンは多数の炭素源の例示の中で述べられているに過ぎず、グリセリンを炭素源として、L−乳酸を生産する方法は記載されていない。
【0008】
特許文献4には、細菌にグリセリン取り込みタンパク質遺伝子を導入することにより、細菌にグリセリン資化能を付与する方法、及び該組換え細菌を用いて、グリセリンから乳酸を含む発酵生成物を製造する方法が記載されている。また、細菌に導入するグリセリン取り込みタンパク質遺伝子として、多数の例示の中で、エンテロコッカス フェカリス(Enterococcus faecalis)由来のものが示されている。しかしながら、グリセリンを取り込ませる細菌の例示として、エンテロコッカス フェカリスが示されているわけではない。さらに、特許文献4に記載された方法では収率良く乳酸を生産することができない。また、実施例では、エンテロコッカス フェカリス由来の遺伝子は使用されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−50251号公報
【特許文献2】特開2009−142256号公報
【特許文献3】特開2008−131931号公報
【特許文献4】WO2007/013695
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、グリセリン、特にバイオディーゼル廃液由来のグリセリンから微生物を用いて光学純度の高いL−乳酸を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、炭素源としてグリセリンを含有する原料を用いてエンテロコッカス フェカリス(Enterococcus faecalis)にL−乳酸を生産させることを特徴とする、L−乳酸の製造方法を提供することによって解決される。
【0012】
このとき、エンテロコッカス フェカリスが以下に示す菌学的性質を有することが好適である
グラム染色 +
カタラーゼ −
運動性 −
糖類発酵性
アルギン酸ナトリウム −
セルロース −
デキストリン +
フルクトース +
ガラクトース +
グルコース +
グリセリン +
ラクトース +
マルトース +
ラムノース +
デンプン −
スクロース +
D−キシロース −
【0013】
エンテロコッカス フェカリスがエンテロコッカス フェカリス W11(受託番号FERM P−21943)であることも好適である。炭素源のうち50質量%以上がグリセリンであることも好適である。グリセリンがバイオディーゼル廃液由来であることも好適である。原料のNaCl濃度が0.1質量%〜飽和濃度であることも好適である。原料のpHが7.5以上であることも好適である。
【0014】
また、上記課題は、エンテロコッカス フェカリス W11(受託番号FERM P−21943)菌株を提供することによって解決される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、グリセリン、特にバイオディーゼル廃液由来のグリセリンから微生物を用いて光学純度の高いL−乳酸を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、炭素源としてグリセリンを含有する原料を用いてエンテロコッカス フェカリス(Enterococcus faecalis)にL−乳酸を生産させることを特徴とする、L−乳酸の製造方法である。
【0017】
エンテロコッカス フェカリスは、下記の菌学的性質を有するものであることが好ましい。下記の記載において、+は陽性を、−は陰性を意味する。
グラム染色 +
カタラーゼ −
運動性 −
生育温度及び至適温度 10〜45℃ 至適温度30℃
初発pH及び至適pH pH5〜11 至適pH11
糖類発酵性
アルギン酸ナトリウム −
セルロース −
デキストリン +
フルクトース +
ガラクトース +
グルコース +
グリセリン +
ラクトース +
マルトース +
ラムノース +
デンプン −
スクロース +
D−キシロース −
【0018】
本発明に用いられる、エンテロコッカス フェカリスの耐塩性は、8%以上であることが好適である。10%以上であることがより好適である。
【0019】
本発明の方法に最も好適に用いられる微生物は、エンテロコッカス フェカリス(Enterococcus faecalis)W11菌株(以下「W11菌株」と略称することがある)であり、当該菌株は岩手県産のワカメから分離された。エンテロコッカス フェカリス(Enterococcus faecalis)W11菌株は、平成22年3月19日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受領され、受託番号FERM P−21943が付与された。
【0020】
本発明の方法に用いられる原料に含まれる炭素源としてのグリセリンは、純粋なグリセリンであってもよく、グリセリン含有混合物であってもよい。グリセリン含有混合物中の他の成分及びそれらの量は、本発明で用いるエンテロコッカス フェカリスに対して悪影響を及ぼさないものであることが好ましい。グリセリン含有混合物の由来は特に限定されないが、資源の再使用の観点から、バイオディーゼル廃液を使用することが好ましい。
【0021】
バイオディーゼル燃料の製造方法の1つは、アルカリ触媒を用いたトリグリセリドのアルコリシスにより、脂肪酸メチルエステルを生成させる方法である。この方法では、副生成物としてグリセリンを含有するバイオディーゼル廃液が発生する。この廃液には、通常、メタノール、アルカリ触媒、副生物の脂肪酸などが混入している。本発明において、バイオディーゼル廃液は未処理のまま用いることもできるし、メタノールを除去したものを用いることもできる。
【0022】
本発明の方法に用いられる原料に含まれる炭素源として、バイオディーゼル廃液を添加した場合であっても、純粋なグリセリンを添加した場合と同等又はそれ以上の収量及び変換効率で、L−乳酸を生成することが可能である。
【0023】
本発明の方法に用いられる原料は、細菌類の培養に通常用いられる成分を含有する原料であればよく、特定の原料に限定されない。本発明の方法では、炭素源、窒素源及び無機塩類を含有する、単純な組成の原料からなる培地を用いても、高い光学純度でL−乳酸を得ることが可能である。
【0024】
本発明の方法に用いられる原料は、グリセリン以外の物質を炭素源として含んでもよい。他の炭素源は、グリセリンからのL−乳酸の生成を妨げない範囲で含有されることが好ましい。本発明で用いられる他の炭素源としては、例えば、グルコース、フルクトース、ラクトース、アラビノース、デキストリン、糖蜜、麦芽エキスなどが挙げられるが、それらに限定されない。炭素源のうち50質量%以上がグリセリンであることが好適である。
【0025】
窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機窒素化合物及び尿素等を用いることができる。さらに、グルテン粉、綿実粉、大豆粉、コーンスティープリカー、乾燥酵母、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、及びカザミノ酸などの有機窒素源を用いてもよい。炭素源および窒素源は組み合わせて使用すると有利である。
【0026】
本発明の方法に用いられる原料が、無機塩類として塩化ナトリウムを含有することが好ましい。塩化ナトリウムを含有することにより、D−乳酸の生成を抑制しやすくなり、L−乳酸の光学純度が向上する。塩化ナトリウム以外にも、塩化カリウム、塩化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等を含有することができる。
【0027】
さらに、各種ビタミン類、TWEEN80等の界面活性剤、消泡剤等を培地に添加してもよい。
【0028】
培養条件は、エンテロコッカス フェカリスの培養に適したものであればよい。原料のpHは7.5以上であることが好適である。原料のpHが7.5以下の場合、D−乳酸を副生しやすくなる。エンテロコッカス フェカリスはpHが8以上、9以上、あるいは10以上であってもグリセリンからL−乳酸を生成することができる。したがって触媒残渣の水酸化ナトリウムが含まれるバイオディーゼル廃液を原料として用いることもできる。
【0029】
原料のNaCl濃度は0.1質量%〜飽和濃度であることが好適である。0.1質量%未満の場合、D−乳酸の生成量が増加することがある。原料のNaCl濃度は1質量%以上であることがより好適であり、2.5%以上であることがさらに好適である。
【0030】
培養温度は20℃〜50℃であることが好適である。温度が低い場合、D−乳酸が生成されやすくなる。25℃以上であることがより好適である。
【0031】
培養は、好気的条件下で行ってもよいが、好ましくは嫌気的条件下で行われる。好気的条件下で培養する場合、乳酸の生成量が少なくなることがある。嫌気的条件下で培養する場合は、炭酸ガスや不活性ガス(窒素、アルゴン等)を通気するか、あるいは無通気により培養することができる。
【0032】
培養は、静置培養、振とう培養及び撹拌培養のいずれを用いることもできるが、振とう培養であることが好ましく、撹拌培養であることがより好ましい。
【0033】
培養方法としては、回分培養(batch culture)、流加培養(fed batch culture)、及び連続培養(continuous culture)等の培養方法を用いることができる。
【0034】
エンテロコッカス フェカリスの菌体や該菌体の固定化物を用いてグリセリンからL−乳酸を製造する方法の例としては以下の方法が挙げられる。
【0035】
エンテロコッカス フェカリスの菌体は、菌株を培養した後、遠心分離等を行うことにより得ることができる。菌体の固定化物は、前記方法により得た菌体を、ゲルにより包括固定化したり、イオン交換体を担持させて固定化したりすることより得ることができる。
【0036】
エンテロコッカス フェカリスを用いてグリセリンからL−乳酸を製造する方法としては、得られた菌体を、グリセリンを含有した原料に懸濁し、反応させる方法を例示することができる。このとき、得られた菌体の固定化物を使用してもよい。L−乳酸の生成に伴い、培地のpHが低下する場合があるので、必要に応じて、培養中に培地のpHを調整してもよい。さらに、上記に示したような増殖に必要な栄養素を添加し、増殖が連続的に行われるようにしてもよい。また、得られた菌体の固定化物をカラムに充填し、グリセリンを含む原料を流通させる方法を例示することもできる。
【0037】
本発明のL−乳酸の製造に使用する装置は、撹拌型リアクター、エアリフト型リアクター、気泡塔型リアクター及び充填型リアクター等のバイオリアクターとしての各種装置を使用することができる。
【0038】
こうして得られたL−乳酸の分離および精製は、従来公知の方法に従って実施することができる。例えば、培養物を酸性化した後に直接蒸留する方法、乳酸のラクチドを形成させて蒸留する方法、再結晶により精製する方法、乳酸をエステル化した後に蒸留する方法、有機溶媒で乳酸を抽出する方法、イオン交換樹脂に吸着させた後に溶出させてイオン交換カラムで乳酸を分離する方法、カルシウムイオン等との金属塩をつくり単離する方法、電気透析により乳酸を濃縮分離する方法などの方法により分離、精製される。
【0039】
こうして得られたL−乳酸は、光学純度が高いので、物性の良好なポリL−乳酸を製造するのに好適に用いることができる。
【実施例】
【0040】
[乳酸菌の分離]
岩手県産のワカメを分離源として、エンテロコッカス フェカリス(Enterococcus faecalis)W11菌株(受託番号FERM P−21943)を分離した。
【0041】
[乳酸菌培養培地]
乳酸菌の培養培地として、表1に示される組成のGYP白亜寒天培地を用いた。組成1を調整後、組成2を加え、オートクレーブ滅菌(121℃、15分)を行った。液体培地として用いる場合、組成2を除いたものをGYP液体培地として用いた。
【0042】
【表1】

【0043】
[コロニー形成]
NaCl濃度を7%に調整したGYP白亜寒天培地で、20〜25℃で1週間培養した場合に形成されるコロニーを観察した。エンテロコッカス フェカリス(Enterococcus faecalis)W11菌株を培養した場合に形成されるコロニーは、直径:1〜2mm、色調:白、形:円系、隆起状態:半レンズ状、周縁:全縁、表面の形状等:スムーズ、透明度:不透明、粘稠度:バター様、というものであった。
【0044】
[菌学的性質]
W11菌株のグラム染色、カタラーゼ試験、運動性試験、生育温度試験、初発pH試験、耐塩性・好塩性試験及び糖類発酵性試験を行った。以下の記載において、+は陽性を、−は陰性を意味する。糖類発酵性試験の結果は表2にまとめて示す。
グラム染色 +
カタラーゼ −
運動性 −
生育温度及び至適温度 10〜45℃ 至適温度30℃
初発pH及び至適pH pH5〜11 至適pH11
耐塩性 11%
糖類発酵性
アルギン酸ナトリウム −
セルロース −
デキストリン +
フルクトース +
ガラクトース +
グルコース +
グリセリン +
ラクトース +
マルトース +
ラムノース +
デンプン −
スクロース +
D−キシロース −
【0045】
[同定試験]
W11菌株の16S rRNA遺伝子全長(1444bp)の解析を行い、BLASTプログラムを用いた細菌基準株データベース及び国際塩基配列データベース(GenBank/DDBJ/EMBL)に対する相同性検索を行った。その結果、エンテロコッカス フェカリス(Enterococcus faecalis)と本菌株の相同性は100%であった。さらに、W11菌株の表現形質による分類学的性質も考慮して、本菌株は、エンテロコッカス フェカリス(Enterococcus faecalis)であると判断された。
【0046】
[前培養]
GYP液体培地を用いて、W11菌株の前培養を行った。前培養は、30℃、一晩の条件下で行った。
【0047】
[静置培養及び振とう培養の検討]
実施例1
GYP液体培地のグルコースをグリセリンに変えてグリセリン1%(w/v)としたものをGYP改変液体培地(A)とした。この液体培地(5ml)に、得られた前培養液を1%植菌し、30℃の条件下で3日間、静置培養した。培養液を遠心分離(5000×g、15min、室温)した後、上清を熱失活(80℃、15min)させた。さらに遠心分離(8000×g、15min、室温)を行い、得られた上清をサンプルとし、D−乳酸及びL−乳酸の生成量の測定を行った。測定にはF−キット(Roche社製)を用いた。結果を表2にまとめて示す。
【0048】
実施例2
培養条件を振とう培養(約115rpm)にした以外は実施例1と同様に培養し、D−乳酸及びL−乳酸の生成量の測定を行った。結果を表2にまとめて示す。
【0049】
【表2】

【0050】
[耐塩性・好塩性試験]
実施例3
GYP改変液体培地(A)5mlに、得られた前培養液を1%植菌し、30℃の条件下で3日間、静置培養した。培養液を遠心分離(5000×g、15min、室温)した後、上清を熱失活(80℃、15min)させた。さらに遠心分離(8000×g、15min、室温)を行い、得られた上清をサンプルとし、D−乳酸及びL−乳酸の生成量の測定を行った。測定にはF−キット(Roche社製)を用いた。結果を表3にまとめて示す。
【0051】
実施例4
GYP改変液体培地(A)のNaCl濃度を3%に調整した以外は実施例3と同様に培養し、D−乳酸及びL−乳酸の生成量の測定を行った。結果を表3にまとめて示す。
【0052】
実施例5
GYP改変液体培地(A)のNaCl濃度を6%に調整した以外は実施例3と同様に培養し、D−乳酸及びL−乳酸の生成量の測定を行った。結果を表3にまとめて示す。
【0053】
【表3】

【0054】
実施例6
GYP改変液体培地(A)5mlに、得られた前培養液を1%植菌し、25℃で3日間、静置培養した。培養液を遠心分離(5000×g、15min、室温)した後、上清を熱失活(80℃、15min)させた。さらに遠心分離(8000×g、15min、室温)を行い、得られた上清をサンプルとし、D−乳酸およびL−乳酸の生成量の測定を行った。測定にはF−キット(Roche社製)を用いた。結果を表4にまとめて示す。
【0055】
実施例7
培養温度を30℃にした以外は実施例6と同様に培養し、D−乳酸およびL−乳酸の生成量の測定を行った。結果を表4にまとめて示す。
【0056】
実施例8
培養温度を37℃にした以外は実施例6と同様に培養し、D−乳酸およびL−乳酸の生成量の測定を行った。結果を表4にまとめて示す。
【0057】
実施例9
培養温度を45℃にした以外は実施例6と同様に培養し、D−乳酸およびL−乳酸の生成量の測定を行った。結果を表4にまとめて示す。
【0058】
【表4】

【0059】
[培地の初発pHの検討]
実施例10
GYP液体培地から無機塩類を除き、さらにグルコースをグリセリンに変えてグリセリン1%(w/v)としたものをGYP改変液体培地(B)とした。このGYP改変液体培地(B)に塩酸を用いて、pH6に調整し、フィルターろ過によって滅菌した。それぞれの液体培地(5ml)に前培養液を1%植菌し、30℃の条件下で3日間静置培養した。培養液を遠心分離(5000×g、15min、室温)した後、上清を熱失活(80℃、15min)させた。さらに遠心分離(8000×g、15min、室温)を行い、得られた上清をサンプルとし、D−乳酸およびL−乳酸の生成量の測定を行った。測定にはF−キット(Roche社製)を用いた。結果を表5にまとめて示す。
【0060】
実施例11
GYP改変液体培地(B)にNaOHを用いて、pH7に調整した以外は実施例10と同様に培養し、D−乳酸およびL−乳酸の生成量の測定を行った。結果を表5にまとめて示す。
【0061】
実施例12
GYP改変液体培地(B)にNaOHを用いて、pH8に調整した以外は実施例10と同様に培養し、D−乳酸およびL−乳酸の生成量の測定を行った。結果を表5にまとめて示す。
【0062】
実施例13
GYP改変液体培地(B)にNaOHを用いて、pH9に調整した以外は実施例10と同様に培養し、D−乳酸およびL−乳酸の生成量の測定を行った。結果を表5にまとめて示す。
【0063】
実施例14
GYP改変液体培地(B)にNaOHを用いて、pH10に調整した以外は実施例10と同様に培養し、D−乳酸およびL−乳酸の生成量の測定を行った。結果を表5にまとめて示す。
【0064】
実施例15
GYP改変液体培地(B)にNaOHを用いて、pH11に調整した以外は実施例10と同様に培養し、D−乳酸およびL−乳酸の生成量の測定を行った。結果を表5にまとめて示す。
【0065】
実施例16
培養条件を振とう培養(約115rpm)にした以外は実施例15と同様に培養し、D−乳酸およびL−乳酸の生成量の測定を行った。結果を表5にまとめて示す。
【0066】
【表5】

【0067】
[アルカリ条件下での培養検討]
実施例17
GYP改変液体培地(A)にNaOHを加えて、pH11に調整した。この液体培地(50ml)に、前培養液を1%植菌した。坂口フラスコを用いて、30℃の条件下で3日間、振とう培養(約115rpm)を行った。培養液を遠心分離(5000×g、15min、室温)した後、上清を熱失活(80℃、15min)させた。さらに遠心分離(8000×g、15min、室温)を行い、得られた上清をサンプルとし、D−乳酸及びL−乳酸の生成量の測定を行った。測定にはF−キット(Roche社製)を用いた。結果を表6にまとめて示す。
【0068】
実施例18
培養条件を、500mlのバッフル付き三角フラスコを用い、無通気の条件下で、液体培地(100ml)が撹拌される程度の緩やかな振とう培養(約70rpm)を行った以外は実施例17と同様に培養し、D−乳酸及びL−乳酸の生成量の測定を行った。結果を表6にまとめて示す。
【0069】
実施例19
培養条件を、200mlのバッフル付き三角フラスコ及び撹拌子を用い、無通気の条件下で、液体培地(100ml)を撹拌培養(約120rpm)した以外は実施例17と同様に培養し、D−乳酸及びL−乳酸の生成量の測定を行った。結果を表6にまとめて示す。
【0070】
【表6】

【0071】
[バイオディーゼル廃液を用いた乳酸発酵の検討]
実施例20
GYP液体培地から無機塩類及び炭素源(グルコース)を除き、炭素源としてバイオディーゼル廃液(株式会社 総社技術コンサルタント提供)を1%(w/v)加え、オートクレーブ滅菌した。用いたバイオディーゼル廃液の組成は、グリセリンが約39質量%、メタノールが約30質量%であった。培地のpHは7.8であった。このGYP改変液体培地に(100ml)に、前培養液を1%植菌した。30℃の条件下で3日間、スターラーを用いた撹拌培養を行った。培養液を遠心分離(5000×g、15min、室温)した後、上清を熱失活(80℃、15min)させた。さらに遠心分離(8000×g、15min、室温)を行い、得られた上清をサンプルとし、D−乳酸及びL−乳酸の生成量の測定を行った。測定にはF−キット(Roche社製)を用いた。結果を表7にまとめて示す。
【0072】
実施例21
バイオディーゼル廃液を2%(w/v)加え、培地のpHが8.3であった以外は実施例20と同様に培養し、D−乳酸及びL−乳酸の生成量の測定を行った。結果を表7にまとめて示す。
【0073】
実施例22
バイオディーゼル廃液を3%(w/v)加え、培地のpHが8.6であった以外は実施例20と同様に培養し、D−乳酸及びL−乳酸の生成量の測定を行った。結果を表7にまとめて示す。
【0074】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素源としてグリセリンを含有する原料を用いてエンテロコッカス フェカリス(Enterococcus faecalis)にL−乳酸を生産させることを特徴とする、L−乳酸の製造方法。
【請求項2】
エンテロコッカス フェカリスが以下に示す菌学的性質を有することを特徴とする請求項1記載のL−乳酸の製造方法。
グラム染色 +
カタラーゼ −
運動性 −
糖類発酵性
アルギン酸ナトリウム −
セルロース −
デキストリン +
フルクトース +
ガラクトース +
グルコース +
グリセリン +
ラクトース +
マルトース +
ラムノース +
デンプン −
スクロース +
D−キシロース −
【請求項3】
エンテロコッカス フェカリスがエンテロコッカス フェカリス W11(受託番号FERM P−21943)である請求項1又は2記載のL−乳酸の製造方法。
【請求項4】
炭素源のうち50質量%以上がグリセリンである請求項1〜3いずれか記載のL−乳酸の製造方法。
【請求項5】
グリセリンがバイオディーゼル廃液由来である、請求項1〜4のいずれか記載のL−乳酸の製造方法。
【請求項6】
原料のNaCl濃度が0.1質量%〜飽和濃度である請求項1〜5のいずれか記載のL−乳酸の製造方法。
【請求項7】
原料のpHが7.5以上である請求項1〜6いずれか記載のL−乳酸の製造方法。
【請求項8】
エンテロコッカス フェカリス W11(受託番号FERM P−21943)菌株。

【公開番号】特開2011−229476(P2011−229476A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104030(P2010−104030)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(599035627)学校法人加計学園 (43)
【Fターム(参考)】