MANSC1蛋白質に結合し、抗癌活性を有する抗体
【課題】優れた抗癌活性を有する新規抗体および該抗体を有効成分とする癌の治療または診断のための薬剤を提供すること
【解決手段】SST-REX法を利用して、癌細胞株由来のcDNAライブラリーから細胞表面に発現あるいは細胞から分泌される蛋白質をコードするcDNAを選抜し、選抜したcDNAがコードする蛋白質に対するモノクローナル抗体を作製して、in vitroおよびin vivoにおける抗癌活性を検討した結果、MANSC1蛋白質に結合し、優れた抗癌活性を有するモノクローナル抗体を見出した。さらに、MANSC1蛋白質における、この抗体におけるエピトープを含む領域を同定すると共に、この抗体の軽鎖および重鎖の可変領域の構造を決定することに成功した。
【解決手段】SST-REX法を利用して、癌細胞株由来のcDNAライブラリーから細胞表面に発現あるいは細胞から分泌される蛋白質をコードするcDNAを選抜し、選抜したcDNAがコードする蛋白質に対するモノクローナル抗体を作製して、in vitroおよびin vivoにおける抗癌活性を検討した結果、MANSC1蛋白質に結合し、優れた抗癌活性を有するモノクローナル抗体を見出した。さらに、MANSC1蛋白質における、この抗体におけるエピトープを含む領域を同定すると共に、この抗体の軽鎖および重鎖の可変領域の構造を決定することに成功した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌活性を有する抗体およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
癌(腫瘍)は、わが国における死亡原因の第一位を占める疾患である。国立がんセンター内癌情報対策センターの統計によると、2006年に癌で死亡した人数はおよそ32万9千例あり、部位別に見ると、男性では肺(23%)、胃(17%)、肝臓(11%)、結腸(7%、大腸と併せると11%)、膵臓(6%)の順となっており、女性では、胃(13%)、肺(13%)、結腸(10%、大腸と併せると14%)、乳房(9%)、肝臓(8%)の順となっている。癌患者数は年々増加しており、有効性および安全性の高い薬剤や治療法の開発が強く望まれている。
【0003】
胃癌は、日本において罹患率、死亡率ともに非常に高い癌のひとつであるが、診断方法、および手術による外科的切除や化学療法を主とした治療方法の進歩により、現在では比較的治りやすい癌の1つともされている。しかしながら、スキルス胃癌に関しては、非常に悪性度の高い、治療が困難な胃癌の一つとされている。スキルス胃癌は、癌細胞が粘膜表面に現れずに胃壁全体あるいは半分〜1/3以上にびまん性に浸潤し、肉眼的に明らかな腫瘤を形成せずに胃壁の肥厚や硬化をもたらし、病巣と周囲粘膜との境界が不明瞭であるという特徴を有する。スキルス胃癌は、通常の胃癌より発症年齢が低くて進行も早く、診断も困難である。診断がついた時点では、既に腹膜播種・転移を起こして6割が手術できない状態にあり、手術により切除された場合でも、5年生存率は、わずか15〜20%である。
【0004】
近年、抗癌剤としての抗体の使用は、種々の病態(癌型)の治療におけるアプローチとして、その重要性が認められつつある。例えば、腫瘍特異的な抗原を標的とした抗体であれば、投与した抗体は腫瘍に集積することが推定されるため、補体依存性細胞傷害活性(CDC)や抗体依存的細胞性細胞傷害活性(ADCC)による、免疫システムを介した癌細胞への攻撃が期待できる。また、抗体に放射性核種や細胞毒性物質などの薬剤を結合しておくことにより、結合した薬剤を効率よく腫瘍部位に送達することが可能となる。これにより、他組織への薬剤到達量を減少させ、ひいては副作用の軽減を見込むことができる。腫瘍特異的抗原に細胞死を誘導する活性がある場合は、アゴニスティックな活性を持つ抗体を投与することで、また、腫瘍特異的抗原が細胞の増殖および生存に関与する場合は、中和活性を持つ抗体を投与することで、腫瘍特異的な抗体の集積と抗体の活性によって、腫瘍の増殖停止または退縮が期待できる。このような特性から、抗体は、抗癌剤として適用に好適であると考えられている。
【0005】
これまでに上市された抗体医薬としては、白血病・リンパ腫を対象として、CD20を標的としたrituximab(商品名rituxan)やiburitumomab ozogamicin(商品名Zevailn)、CD33を標的としたgemutuzumab ozogamitin(商品名Mylotarg)などが開発されている。また、上皮性固形癌を対象としたものとしては、乳癌では、Her2/neuを標的としたtrastuzumab(商品名Herceptin)やVEGFを標的としたbevacizumab(商品名Avastin)などが開発されている。このほか癌以外を対象疾患とするものとして、関節リウマチやキャッスルマン病に対して、ヒトIL-6受容体抗体であるtocilizumab(商品名Actemula)などが開発されている。
【0006】
しかしながら、2008年までに認可された抗体医薬は、米国でも20種類程度、日本でも10種類程度であり、特に固形癌に関してはまだ有効とされる抗体医薬は少ない。このため、さらなる有効な抗体医薬の開発が望まれている。
【0007】
ところで、細胞膜に存在し、細胞外ドメインのN末端側に、高度に保存された7つのシステイン配列を含むモチーフを有する蛋白質として、「Homo sapiens MANSC domain containing 1」(以下、「MANSC1」と称する)が知られている(MANSCは、motif at N terminus with seven cysteinesの略称)。このモチーフを有するMANSCドメインは、ESTに対するTBLASTNなどを用いた解析により、高等脊椎動物に限らず、軟体動物や脊索動物までの多細胞生物に高度に保存されていることが明らかとなっている。MANSCドメインは、肝細胞成長因子HGFの活性化因子阻害剤であるHAI-1や低密度リポ蛋白質受容体関連因子であるLRP-11などにも存在していることから、これら蛋白質の機能に基づき、組織の発生や再生、アルツハイマーなどの神経関連疾患、腫瘍の分化や転移などに関係している可能性が示唆されている(非特許文献1、非特許文献2、特許文献1)。しかしながら、これら文献においては、MANSC1分子自体の詳細な挙動および機能については開示されていない。
【0008】
一方、MANSC1分子の挙動および機能に関しては、黒色腫において発現上昇している遺伝子の網羅的なリストの中の一つとして報告されている。(特許文献2の表15-21、配列番号947)。また、ヒトMANSC1のオルソログをコードする遺伝子の変異により、雌(-/-)マウスにおいて抑鬱様反応の低下がもたらされることが明らかになっている(特許文献3の明細書の段落892)。しかしながら、これらの文献のいずれにも、癌の発症へのMANSC1の寄与(因果関係)については何ら開示されていない。
【0009】
従って、MANSC1に対する抗体が、抗癌活性を持ちうるかについては、いまだ明らかにされていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開2007/66124号パンフレット
【特許文献2】特開2008-504034号公報
【特許文献3】特開2009-527227号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Trends in Biochemical Sciences 29(4):172-174(2004)
【非特許文献2】Genome Research 13(10):2265-2270(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、優れた抗癌活性を有する新規抗体を提供することにある。さらなる本発明の目的は、このような抗体を有効成分とする抗癌剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決すべく、まず、癌細胞株であるGCIY細胞由来のcDNAライブラリを作製し、SST-REX法により、その中から、細胞表面に発現あるいは細胞から分泌される蛋白質をコードするものを選抜した。次いで、選抜したcDNAがコードする蛋白質に対するモノクローナル抗体を作製して、各種癌細胞株に対する結合性、in vitroおよびin vivoにおける抗癌活性を検討した。その結果、得られたモノクローナル抗体の一つである「ACT35-51_1B4A7D」抗体が、MANSC1蛋白質に結合し、in vitroおよびin vivoにおいて優れた抗癌活性を有することを見出した。さらに、本発明者は、MANSC1蛋白質において、この抗体のエピトープを含む領域を同定すると共に、この抗体の軽鎖および重鎖の可変領域の構造を決定することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、MANSC1蛋白質に結合し、抗癌活性を有するモノクローナル抗体および該抗体を有効成分とする抗癌剤に関し、より詳しくは、
(1) ヒト由来のMANSC1蛋白質に結合し、かつ、抗癌活性を有する抗体、
(2) ヒト由来のMANSC1蛋白質の細胞外領域に結合する、(1)に記載の抗体、
(3) 癌が胃癌またはグリオーマである、(1)に記載の抗体、
(4) 配列番号:3から5に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:6から8に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する、(1)に記載の抗体、
(5) (4)に記載の抗体における配列番号:3から8に記載のアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されており、かつ、(4)に記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(6) 配列番号:10に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:12に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する、(1)に記載の抗体、
(7) (6)に記載の抗体における配列番号:10および12に記載のアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されており、かつ、(6)に記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(8) (6)に記載の抗体における配列番号:10および12に記載のアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいてシグナル配列が除去されており、かつ、(6)に記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(9) ヒト由来のMANSC1蛋白質における、(6)に記載の抗体のエピトープに結合し、かつ、抗癌活性を有する抗体、
(10) 配列番号:3から5に記載のアミノ酸配列を含む、(1)に記載の抗体の軽鎖またはその可変領域からなるペプチド、
(11) 配列番号:10に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列を含む、(10)に記載のペプチド、
(12) 配列番号:6から8に記載のアミノ酸配列を含む、(1)に記載の抗体の重鎖またはその可変領域からなるペプチド、
(13) 配列番号:12に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列を含む、(12)に記載のペプチド、
(14) (1)から(9)のいずれかに記載の抗体または(10)から(13)のいずれかに記載のペプチドをコードするDNA、
(15) (1)から(9)のいずれかに記載の抗体を産生する、または、(14)に記載のDNAを含む、ハイブリドーマ、
(16) (1)から(9)のいずれかに記載の抗体を有効成分とする、抗癌剤、および
(17) 癌が胃癌またはグリオーマである、(16)に記載の抗癌剤、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、ヒト由来のMANSC1蛋白質に結合し、in vitroおよびin vivoにおいて優れた抗癌活性を有する抗体が提供された。本発明の抗体を用いれば、癌の治療や予防が可能となる。本発明の抗体は、特に、胃癌細胞またはグリオーマの増殖抑制に効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ACT35-51_1B4A7D抗体と、MANSC1遺伝子を発現するBa/F3細胞との反応性を示す図である。免疫原細胞であるMANSC1全長遺伝子を発現するトランスフェクタントBa/F3細胞(A)と、MANSC1遺伝子を発現していない対照Ba/F3細胞(B)に対する各抗体の反応をフローサイトメーターで解析した。各フローサイトメーターデータの塗りつぶしヒストグラム部分は、それそれのサンプル抗体との反応を、白のヒストグラム部分は、陰性対照としたマウスIgG2a(ベックマン・コールター、#731589)との反応を示す。陽性対照として、抗MPL抗体を用いた。
【図2】ACT35-51_1B4A7D抗体と、胃癌細胞株(GCIY)との反応性をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。各フローサイトメーターデータの塗りつぶしヒストグラム部分は、それそれのサンプル抗体との反応を、白のヒストグラム部分は陰性対照として用いたマウスIgG2a(ベックマン・コールター、#731589)との反応を示す。
【図3A】ACT35-51_1B4A7D抗体と、各種培養癌細胞表面との反応性を細胞染色で解析した結果を示す顕微鏡写真である。癌細胞株として、膀胱癌細胞株(T24)、胃前立腺癌細胞株(PC3、Du145)、膵臓癌細胞株(BxPC3、AsPC1)、グリオーマ細胞株(U251、U87MG、T98G)、胃癌細胞株(MKN1、GCIY)を用いた。図左は、Hoechst33342を用いた核染色像、図中は、抗体による染色像、図右は、Hoechst33342を用いた核染色像と抗体による染色像とを重ねた像を示す。
【図3B】ACT35-51_1B4A7D抗体と、細胞固定および膜透過処理を行った各種培養癌細胞との反応性を細胞染色で解析した結果を示す顕微鏡写真である。癌細胞株として、膀胱癌細胞株(T24)、胃前立腺癌細胞株(PC3、Du145)、膵臓癌細胞株(BxPC3、AsPC1)、グリオーマ細胞株(U251、U87MG、T98G)、胃癌細胞株(MKN1、GCIY)を用いた。図左は、Hoechst33342を用いた核染色像、図中は、抗体による染色像、図右は、Hoechst33342を用いた核染色像と抗体による染色像とを重ねた像を示す。
【図4】MANSC1遺伝子を発現している293T細胞の培養上清に対して、ACT35-51_1B4A7D抗体を用いて免疫沈降を行った結果を示す電気泳動写真である。陰性対照細胞として、ベクターのみを導入した293T細胞(モック)を用いた。また、陰性対照抗体としてマウスIgG2aを用いた。
【図5A】ACT35-51_1B4A7Dモノクローナル抗体の癌細胞の増殖に与える影響について、MTTアッセイで解析した結果を示す図である。縦軸はWST-1添加3時間後のO.D.(O.D.450nm-O.D.650nm)値を示す。対象癌細胞株として、膀胱癌細胞株(T24)、前立腺癌細胞株(PC3、Du145)を用いた。陰性対照抗体として、マウスIgG2a(MBL、#M076-3)を用いた。
【図5B】ACT35-51_1B4A7Dモノクローナル抗体の癌細胞の増殖に与える影響について、MTTアッセイで解析した結果を示す図である。縦軸はWST-1添加3時間後のO.D.(O.D.450nm-O.D.650nm)値を示す。対象癌細胞株として、膵臓癌細胞株(BxPC3、AsPC1)、胃癌細胞株(GCIY)を用いた。陰性対照抗体として、マウスIgG2a(MBL、#M076-3)を用いた。
【図5C】ACT35-51_1B4A7Dモノクローナル抗体の癌細胞の増殖に与える影響について、MTTアッセイで解析した結果を示す図である。縦軸はWST-1添加3時間後のO.D.(O.D.450nm-O.D.650nm)値を示す。対象癌細胞株として、グリオーマ細胞株(U251、U87MG、T98G)を用いた。陰性対照抗体として、マウスIgG2a(MBL、#M076-3)を用いた。
【図6】ACT35-51_1B4A7D抗体を投与したマウス担癌モデルにおける腫瘍体積推移を示す図である。対照として生理食塩水を、陽性対照としてTaxotereを用いた。
【図7】ACT35-51_1B4A7D抗体の投与3週間後のマウス担癌モデルにおける摘出腫瘍重量を示す図である。対照として生理食塩水を、陽性対照としてTaxotereを用いた。
【図8】ACT35-51_1B4A7D抗体を投与したマウス担癌モデルにおける体重推移を示す図である。対照として生理食塩水を、陽性対照としてTaxotereを用いた。
【図9】ACT35-51_1B4A7D抗体の可変領域のアミノ酸配列とCDR予測を示した図である。CDR予測の結果を破線で、軽鎖および重鎖のシグナル配列を実線で示す。
【図10】ACT35-51_1B4A7D抗体と、様々な長さのMANSC1遺伝子を発現するトランスフェクタントBa/F3細胞との反応性を示す図である。抗原であるMANSC1分子のN末端より60アミノ酸、153アミノ酸、186アミノ酸、219アミノ酸、250アミノ酸、280アミノ酸、385アミノ酸に対応する遺伝子を発現するBa/F3細胞に対する、ACT35-51_1B4A7D抗体および対照としてのMPL抗体の反応性を、フローサイトメーターで解析した。各フローサイトメーターデータの塗りつぶしヒストグラム部分は、各MANSC1分子に対する抗体との反応を、白のヒストグラム部分は対照として用いたマウスIgG2a(ベックマン・コールター、#731589)の反応を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、ヒト由来のMANSC1蛋白質に結合し、抗癌活性を有する抗体を提供する。本発明における「抗体」は、免疫グロブリンのすべてのクラスおよびサブクラスを含む。「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体が含まれ、また、抗体の機能的断片の形態も含む意である。「ポリクローナル抗体」は、異なるエピトープに対する異なる抗体を含む抗体調製物である。また、「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体(抗体断片を含む)を意味する。ポリクローナル抗体とは対照的に、モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を認識するものである。本発明の抗体は、好ましくはモノクローナル抗体である。本発明の抗体は、自然環境の成分から分離され、および/または回収された(即ち、単離された)抗体である。
【0018】
本発明の抗体が結合する「ヒト由来のMANSC1蛋白質(NCBI Reference Sequence:NM_018050.2)」は、細胞膜に存在し、細胞外ドメインのN末端側に、高度に保存された7つのシステイン配列を含むモチーフを有する蛋白質である。ヒト由来のMANSC1蛋白質は、431アミノ酸配列からなる蛋白質であり、そのうち、N末端から26アミノ酸部分をシグナル配列、27番目から385番目までを細胞外領域、386番目から408番目までを膜貫通領域、409番目以降を膜内領域とする膜貫通型蛋白質であると推定される。典型的なヒト由来のMANSC1蛋白質のアミノ酸配列を配列番号:2に、MANSC1遺伝子の塩基配列を配列番号:1に示す。ヒト由来のMANSC1蛋白質は、このような典型的なアミノ酸配列を有するもの以外に、天然においてアミノ酸が変異したものも存在しうる。従って、本発明における「ヒト由来のMANSC1蛋白質」は、好ましくは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質であるが、それ以外に、配列番号:2で表されるアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなるものも含まれる。アミノ酸配列の置換、欠失、挿入もしくは付加は、一般的には、10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内、1アミノ酸)である。
【0019】
本発明において「抗癌活性」とは、in vitroおよび/またはin vivoにおいて、癌細胞の増殖を抑制する活性を意味する。抗癌活性は、例えば、実施例8に記載のMTTアッセイあるいは実施例9に記載の担癌モデルを用いた解析により評価することができる。本発明の抗体の好ましい態様は、実施例8に記載のMTTアッセイを行った場合に、抗体添加72時間後において、胃癌細胞株(例えば、GCIY)の増殖を、対照と比較して、50%以上(例えば、60%以上、70%以上)抑制する抗体である。本発明の抗体の他の好ましい態様は、実施例8に記載のMTTアッセイを行った場合に、抗体添加72時間後において、グリオーマ細胞株(例えば、T98G)の増殖を、対照と比較して、50%以上(例えば、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上)抑制する抗体である。本発明の抗体の他の好ましい態様は、実施例9に記載の担癌モデルを用いた解析により、抗体投与3週間後において、腫瘍体積を、対照と比較して、30%以上(例えば、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上)減少させる抗体である。本発明の抗体の他の好ましい態様は、実施例9に記載の担癌モデルを用いた解析により、抗体投与3週間後において、摘出腫瘍重量を、対照と比較して、20%以上(例えば、25%以上、30%以上、35%以上)減少させる抗体である。抗癌剤として用いる場合、これら抗体は、さらに、投与対象の体重を減少させないという特性を持つことが好ましい。本発明の抗体は、上記の活性を複数併せ持つことが特に好ましい。
【0020】
本発明の抗体の他の好ましい態様は、軽鎖CDR1〜CDR3(配列番号:3〜配列番号:5に記載のアミノ酸配列)を含む軽鎖可変領域と、重鎖CDR1〜CDR3(配列番号:6〜配列番号:8に記載のアミノ酸配列)を含む重鎖可変領域を保持する抗体である。例えば、軽鎖可変領域が配列番号:10に記載のアミノ酸配列(または該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列)からなり、重鎖可変領域が配列番号:12に記載のアミノ酸配列(または該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列)からなる抗体が挙げられる。
【0021】
一旦、軽鎖可変領域が配列番号:10に記載のアミノ酸配列からなり、重鎖可変領域が配列番号:12に記載のアミノ酸配列からなる抗体が得られた場合、当業者であれば、その抗体が認識するヒト由来のMANSC1蛋白質上のペプチド領域(エピトープ)を特定して、その領域に結合し、かつ、抗癌活性を示す種々の抗体を作製することができる。抗体のエピトープは、ヒト由来のMANSC1蛋白質のアミノ酸配列から得られたオーバーラップする合成オリゴペプチドへの結合を調べるなどの周知の方法によって決定することができる(例えば、Ed Harlow and D.Lane, Using Antibodies, a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press,、米国特許4708871号)。ファージディスプレイによるペプチドライブラリーをエピトープマッピングに用いることもできる。二つの抗体が同一または立体的に重なり合ったエピトープと結合するかどうかは、競合アッセイ法により決定することができる。本発明の抗体が認識するMANSC1蛋白質上のペプチド領域は、好ましくは、MANSC1蛋白質の細胞外領域である。本発明の抗体が認識するMANSC1蛋白質の細胞外領域は、好ましくは、MANSC1蛋白質のアミノ酸配列の61位から153位の範囲内の領域である。
【0022】
本発明の抗体には、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、および、これら抗体の機能的断片が含まれる。本発明の抗体を医薬としてヒトに投与する場合は、副作用低減の観点から、キメラ抗体、ヒト化抗体、あるいはヒト抗体が望ましい。
【0023】
本発明において「キメラ抗体」とは、ある種の抗体の可変領域とそれとは異種の抗体の定常領域とを連結した抗体である。キメラ抗体は、例えば、抗原をマウスに免役し、そのマウスモノクローナル抗体の遺伝子から抗原と結合する抗体可変部(可変領域)を切り出して、ヒト骨髄由来の抗体定常部(定常領域)遺伝子と結合し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入して産生させることにより取得することができる(例えば、特開平8-280387号公報、米国特許第4816397号公報、米国特許第4816567号公報、米国特許第5807715号公報)。また、本発明において「ヒト化抗体」とは、非ヒト由来の抗体の抗原結合部位(CDR)の遺伝子配列をヒト抗体遺伝子に移植(CDRグラフティング)した抗体であり、その作製方法は、公知である(例えば、EP239400、EP125023、WO90/07861、WO96/02576参照)。本発明において、「ヒト抗体」とは、すべての領域がヒト由来の抗体である。ヒト抗体の作製においては、ヒトB細胞より活性のある抗体の産生をスクリーニングする方法、ファージディスプレイ法、免疫することで、ヒト抗体のレパートリーを生産することが可能なトランスジェニック動物(例えばマウス)を利用すること等が可能である。ヒト抗体の作製手法は、公知である(例えば、Nature, 362:255-258(1993)、Intern. Rev. Immunol, 13:65-93(1995)、J. Mol. Biol, 222:581-597(1991)、Nature Genetics, 15:146-156(1997)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97:722-727(2000)、特開平10-146194号公報、特開平10-155492号公報、特許2938569号公報、特開平11-206387号公報、特表平8-509612号公報、特表平11-505107号公報)。
【0024】
本発明において抗体の「機能的断片」とは、抗体の一部分(部分断片)であって、ヒト由来のMANSC1蛋白質を特異的に認識するものを意味する。具体的には、Fab、Fab’、F(ab’)2、可変領域断片(Fv)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv(scFv)、sc(Fv)2、ダイアボディー、多特異性抗体、およびこれらの重合体などが挙げられる。
【0025】
ここで「Fab」とは、1つの軽鎖および重鎖の一部からなる免疫グロブリンの一価の抗原結合断片を意味する。抗体のパパイン消化によって、また、組換え方法によって得ることができる。「Fab'」は、抗体のヒンジ領域の1つまたはそれより多いシステインを含めて、重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端でのわずかの残基の付加によって、Fabとは異なる。「F(ab’)2」とは、両方の軽鎖と両方の重鎖の部分からなる免疫グロブリンの二価の抗原結合断片を意味する。
【0026】
「可変領域断片(Fv)」は、完全な抗原認識および結合部位を有する最少の抗体断片である。Fvは、重鎖可変領域および軽鎖可変領域が非共有結合により強く連結されたダイマーである。「一本鎖Fv(scFv)」は、抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、これらの領域は、単一のポリペプチド鎖に存在する。「sc(Fv)2」は、2つの重鎖可変領域および2つの軽鎖可変領域をリンカー等で結合して一本鎖にしたものである。「ダイアボディー」とは、二つの抗原結合部位を有する小さな抗体断片であり、この断片は、同一ポリペプチド鎖の中に軽鎖可変領域に結合した重鎖可変領域を含み、各領域は別の鎖の相補的領域とペアを形成している。「多特異性抗体」は、少なくとも2つの異なる抗原に対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。例えば、二つの重鎖が異なる特異性を持つ二つの免疫グロブリン重鎖/軽鎖対の同時発現により調製することができる。
【0027】
本発明においては、本発明において同定されたCDRを含む抗体の軽鎖若しくは重鎖またはそれらの可変領域からなるペプチドを提供する。好ましいペプチドは、配列番号:3から5に記載のアミノ酸配列を含む本発明の抗体の軽鎖またはその可変領域からなるペプチドであり、特に好ましくは、配列番号:10に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列を含むペプチドである。他の好ましいペプチドは、配列番号:6から8に記載のアミノ酸配列を含む本発明の抗体の重鎖またはその可変領域からなるペプチドであり、特に好ましくは、配列番号:12に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列を含むペプチドである。これらペプチドを、例えば、リンカー等により連結することで、機能的な抗体を作製することが可能である。
【0028】
本発明の抗体には、望ましい活性(抗原への結合活性、抗癌活性、および/または他の生物学的特性)を減少させることなく、そのアミノ酸配列が修飾された抗体が含まれる。本発明の抗体のアミノ酸配列変異体は、本発明の抗体鎖をコードするDNAへの変異導入によって、またはペプチド合成によって作製することができる。そのような修飾には、例えば、本発明の抗体のアミノ酸配列内の残基の置換、欠失、付加および/または挿入を含む。抗体のアミノ酸配列が改変される部位は、改変される前の抗体と同等の活性を有する限り、抗体の重鎖または軽鎖の定常領域であってもよく、また、可変領域(フレームワーク領域およびCDR)であってもよい。CDR以外のアミノ酸の改変は、抗原との結合親和性への影響が相対的に少ないと考えられるが、現在では、CDRのアミノ酸を改変して、抗原へのアフィニティーが高められた抗体をスクリーニングする手法が公知である(PNAS, 102:8466-8471(2005)、Protein Engineering, Design & Selection, 21:485-493(2008)、国際公開第2002/051870号、J. Biol. Chem., 280:24880-24887(2005)、Protein Engineering, Design & Selection, 21:345-351(2008))。
【0029】
改変されるアミノ酸数は、好ましくは、10アミノ酸以内、より好ましくは5アミノ酸以内、最も好ましくは3アミノ酸以内(例えば、2アミノ酸以内、1アミノ酸)である。アミノ酸の改変は、好ましくは、保存的な置換である。本発明において「保存的な置換」とは、化学的に同様な側鎖を有する他のアミノ酸残基で置換することを意味する。化学的に同様なアミノ酸側鎖を有するアミノ酸残基のグループは、本発明の属する技術分野でよく知られている。例えば、酸性アミノ酸(アスパラギン酸およびグルタミン酸)、塩基性アミノ酸(リシン・アルギニン・ヒスチジン)、中性アミノ酸においては、炭化水素鎖を持つアミノ酸(グリシン・アラニン・バリン・ロイシン・イソロイシン・プロリン)、ヒドロキシ基を持つアミノ酸(セリン・トレオニン)、硫黄を含むアミノ酸(システイン・メチオニン)、アミド基を持つアミノ酸(アスパラギン・グルタミン)、イミノ基を持つアミノ酸(プロリン)、芳香族基を持つアミノ酸(フェニルアラニン・チロシン・トリプトファン)で分類することができる。また、「同等の活性を有する」とは、抗原への結合活性または抗癌活性が対象抗体(代表的には、ACT35-51_1B4A7D抗体)と同等(例えば、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上)であることを意味する。抗原への結合活性は、例えば、抗原を発現するBa/F3細胞を作製し、抗体サンプルとの反応性をフローサイトメーターで解析することにより評価することができる(実施例4、11)。また、抗癌活性は、上記した通り、例えば、実施例8に記載のMTTアッセイあるいは実施例9に記載の担癌モデルを用いた解析により評価することができる。
【0030】
また、本発明の抗体の改変は、例えば、グリコシル化部位の数または位置を変化させるなどの抗体の翻訳後プロセスの改変であってもよい。これにより、例えば、抗体のADCC活性を向上させることができる。抗体のグリコシル化とは、典型的には、N-結合またはO-結合である。抗体のグリコシル化は、抗体を発現するために用いる宿主細胞に大きく依存する。グリコシル化パターンの改変は、糖生産に関わる特定の酵素の導入または欠失などの公知の方法で行うことができる(特開2008-113663、米国特許第5047335号、米国特許第5510261号、米国特許第5278299号、国際公開第99/54342号)。さらに、本発明においては、抗体の安定性を増加させる等の目的で脱アミド化されるアミノ酸若しくは脱アミド化されるアミノ酸に隣接するアミノ酸を他のアミノ酸に置換することにより脱アミド化を抑制してもよい。また、グルタミン酸を他のアミノ酸へ置換して、抗体の安定性を増加させることもできる。本発明は、こうして安定化された抗体をも提供するものである。
【0031】
本発明の抗体は、ポリクローナル抗体であれば、抗原(ヒト由来のMANSC1蛋白質、その部分ペプチド、またはこれらを発現する細胞など)で免疫動物を免疫し、その抗血清から、従来の手段(例えば、塩析、遠心分離、透析、カラムクロマトグラフィーなど)によって、精製して取得することができる。また、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法や組換えDNA法によって作製することができる。
【0032】
ハイブリドーマ法としては、代表的には、コーラーおよびミルスタインの方法(Kohler & Milstein, Nature, 256:495(1975))が挙げられる。この方法における細胞融合工程に使用される抗体産生細胞は、抗原(ヒト由来のMANSC1蛋白質、その部分ペプチド、またはこれらを発現する細胞など)で免疫された動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、ヤギ)の脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血白血球などである。免疫されていない動物から予め単離された上記の細胞またはリンパ球などに対して、抗原を培地中で作用させることによって得られた抗体産生細胞も使用することが可能である。ミエローマ細胞としては公知の種々の細胞株を使用することが可能である。抗体産生細胞およびミエローマ細胞は、それらが融合可能であれば、異なる動物種起源のものでもよいが、好ましくは、同一の動物種起源のものである。ハイブリドーマは、例えば、抗原で免疫されたマウスから得られた脾臓細胞と、マウスミエローマ細胞との間の細胞融合により産生され、その後のスクリーニングにより、ヒト由来のMANSC1蛋白質に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。ヒト由来のMANSC1蛋白質に対するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマを培養することにより、また、ハイブリドーマを投与した哺乳動物の復水から、取得することができる。
【0033】
組換えDNA法は、上記本発明の抗体またはペプチドをコードするDNAをハイブリドーマやB細胞等からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞(例えば哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞など)に導入し、本発明の抗体を組換え抗体として産生させる手法である(例えば、P.J.Delves, Antibody Production: Essential Techniques, 1997 WILEY、P.Shepherd and C. Dean Monoclonal Antibodies, 2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS、Vandamme A.M. et al., Eur. J. Biochem. 192:767-775(1990))。本発明の抗体をコードするDNAの発現においては、重鎖または軽鎖をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよく、重鎖および軽鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよい(WO94/11523号公報参照)。本発明の抗体は、上記宿主細胞を培養し、宿主細胞内または培養液から分離・精製し、実質的に純粋で均一な形態で取得することができる。抗体の分離・精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている方法を使用することができる。トランスジェニック動物作製技術を用いて、抗体遺伝子が組み込まれたトランスジェニック動物(ウシ、ヤギ、ヒツジまたはブタなど)を作製すれば、そのトランスジェニック動物のミルクから、抗体遺伝子に由来するモノクローナル抗体を大量に取得することも可能である。
【0034】
本発明は、上記本発明の抗体またはペプチドをコードするDNA、該DNAを含むベクター、該DNAを保持する宿主細胞、および該宿主細胞を培養し、抗体を回収することを含む抗体の生産方法をも提供するものである。
【0035】
本発明の抗体は、抗癌活性を有することから、癌の治療または予防に利用することができる。従って、本発明は、本発明の抗体を有効成分とする抗癌剤、および、本発明の抗体の治療上または予防上の有効量を、ヒトを含む哺乳類に投与する工程を含んでなる、癌の治療または予防の方法をも提供するものである。本発明の治療または予防の方法は、ヒト以外にも、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウサギなどを含各種哺乳動物に応用することが可能である。
【0036】
本実施例において、本発明の抗体は、癌の中でも、特に胃癌細胞とグリオーマ細胞の増殖を強く抑制したことから、胃癌(例えば、スキルス胃癌)やグリオーマの治療または予防に特に効果的である。
【0037】
本発明の抗体を有効成分とする抗癌剤は、本発明の抗体と任意の成分、例えば生理食塩水、葡萄糖水溶液またはリン酸塩緩衝液などを含有する組成物の形態で使用することができる。本発明の抗癌剤は、必要に応じて液体または凍結乾燥した形態で製形化しても良く、任意に薬学的に許容される担体もしくは媒体、例えば、安定化剤、防腐剤、等張化剤などを含有させることもできる。
【0038】
薬学的に許容される担体としては、凍結乾燥した製剤の場合、マンニトール、ラクトース、サッカロース、ヒトアルブミンなどを例として挙げることができ、液状製剤の場合には、生理食塩水、注射用水、リン酸塩緩衝液、水酸化アルミニウムなどを例として挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
抗癌剤の投与方法は、投与対象の年齢、体重、性別、健康状態などにより異なるが、経口投与、非経口投与(例えば、静脈投与、動脈投与、局所投与)のいずれかの投与経路で投与することができる。好ましい投与方法は、非経口投与である。抗癌剤の投与量は、患者の年齢、体重、性別、健康状態、癌の進行の程度および投与する抗癌剤の成分により変動しうるが、一般的に静脈内投与の場合、成人には体重1kg当たり1日0.1〜1000mg、好ましくは1〜100mgである。
【0040】
本発明の抗体は、癌の治療や予防のみならず、癌の診断への応用も考えられる。本発明の抗体を癌の診断に用いる場合あるいは癌の治療における腫瘍部位の検出に用いる場合、本発明の抗体は、標識したものであってもよい。標識としては、例えば、放射性物質、蛍光色素、化学発光物質、酵素、補酵素を用いることが可能であり、具体的には、ラジオアイソトープ、フルオレセイン、ローダミン、ダンシルクロリド、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、リゾチーム、ビオチン/アビジンなどが挙げられる。本発明の抗体を診断剤として調剤するには、合目的な任意の手段を採用して任意の剤型でこれを得ることができる。例えば、精製した抗体についてその抗体価を測定し、適当にPBS(Phosphate buffer saline,生理食塩を含むリン酸緩衝液)等で希釈した後、0.1%アジ化ナトリウム等を防腐剤として加えることができる。また、例えば、ラテックス等に本発明の抗体を吸着させたものについて抗体価を求め、適当に希釈し、防腐剤を添加して用いることもできる。
【0041】
また、本発明において、MANSC1蛋白質に対する抗体が抗癌活性を有することが判明したことから、MANSC1蛋白質またはその部分ペプチドを癌ワクチンとして、ヒトを含む哺乳動物に投与することも可能である(例えば、特開2007-277251、特開2006-052216を参照のこと)。本発明は、このような癌ワクチン用途に用いられる、MANSC1蛋白質またはその部分ペプチドを含む癌ワクチン組成物をも提供するものである。製剤化する場合には、上記本発明の抗癌剤と同様に、薬学的に許容される担体もしくは媒体、例えば、安定化剤、防腐剤、等張化剤などを含有させることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0043】
[実施例1] SST-REXの実施
スキルス胃癌株化細胞GCIY細胞細胞表面に発現している膜あるいは分泌遺伝子情報を網羅的に得るためにSST-REXを実施した。
【0044】
(1)cDNAの作製
GCIY細胞2×107個をTrizol(invitrogen、#15596-026)1mlに懸濁して5分放置し、クロロフォルムを200μl添加して15秒間懸濁後、12,000×gで15分間遠心した。この遠心後の上清と500μlのイソプロパノールを混ぜ合わせた後、12,000×gで10分間遠心した。得られたペレットを80%エタノールで洗浄し、全RNA 200μg以上を得て、以後の実験に供した。
【0045】
得られた全RNAすべてを100μlの水に溶かし、FastTrack2.0 mRNA Isolation kit(invitrogen、#K1593-02)を用いて、mRNA 3μgを得た。SuperScriptTM Choice System(invitorgen、#18090-019)を用いて、得られたmRNAから2本鎖cDNAの作製を行った。
【0046】
なお、GCIY細胞は、BorrmanIV型胃癌および、その腹膜播種性転移に罹患した女性の淡血性黄色透明手術時の腹水から樹立された胃癌細胞株であり、多剤耐性遺伝子(mdr-1)の発現、ならびに、CEA、CA19-9、およびαFPの分泌が見られる低分化型腺癌細胞である。
【0047】
(2)pMX-SSTベクターへのcDNA配列の組み込み(キメラ化)
レトロウイルスベクターpMX-SSTに得られたcDNAを組み込むためにpMX-SSTベクター(Nature Biotechnology 17:487-490(1999))5μgを制限酵素BstXIを用いて、100μlの反応系で45℃で4時間切断処理した。反応液すべてを1%アガロースゲルにて電気泳動し、ベクター部位に相当する約5000塩基の長さのDNA断片を切り出した。さらにWizard(R) SV Gel and PCR Clean-Up System(promega、#A9282)を用いて、約5000塩基の長さのDNA断片を精製した。このようにして得られたDNA断片をpMX-SSTベクターをBstXIで制限酵素処理したものとし、これを1μl当たり50ナノグラム含む水溶液となるよう調製した。
【0048】
先に調製した2本鎖cDNAは、平滑末端であり、BstXIで制限酵素処理したpMX-SSTと直接結合させることはできない。そこで、2本鎖cDNAの両端にBstXIの制限酵素切断後のDNA配列を持たせるための作業を行った。BstXI Adapter(invitorgen、#N408-18)9μgを10μlの水に溶かしたBstXI Adapter水溶液に2本鎖cDNAを溶かした。これにLigationHigh(TOYOBO#LGK-201)を5μl添加し、懸濁して、16℃で16時間反応させて、BstXI Adapterと2本鎖cDNAとを結合させた。その後、SuperScriptTM Choice System(invitorgen、#18090-019)に添付のサイズ分画カラムを用いて、鎖長が約400塩基以下のDNA断片を除去した。その後、得られた容量の10分の1量の3M酢酸ナトリウムと2.5倍量のエタノールを添加し、転倒混和した後、20,400×gで30分遠心した。遠心後の上清を除去して得た沈殿を15μlの水に溶かし、1.5%のアガロースゲルにて電気泳動した。その後、約500塩基から約4000塩基の長さを持った2本鎖cDNA断片とBstXI Adapterとの結合体を含んだゲルを切り出し、Wizard(R) SV Gel and PCR Clean-Up System(promega #A9282)を用いて、2本鎖cDNAとBstXI Adapterとの結合体を精製した。
【0049】
BstXIで制限酵素処理したpMX-SSTベクター50ng、取得した2本鎖cDNAとBstXI Adapterとの結合体の全量、およびT4 DNA ligaseを、20μlの反応系にて室温で3時間処理し、pMX-SSTベクターをBstXIで制限酵素処理したものと上記結合体とを結合させた。反応液の組成は能書にしたがって調整した。
【0050】
(3)cDNAライブラリの増幅
pMX-SSTベクターを用いて構築したcDNAライブラリを大腸菌に導入して増幅を行った。cDNAライブラリに、5μgのtRNA、12.5μlの7.5M酢酸ナトリウム、および70μlのエタノールを加え、転倒混和した後、20,400×gで30分遠心し、上清を捨て沈殿を得た。得られた沈殿に500μlの70%エタノールを加え、20,400×gで5分遠心し、上清を捨て得られた沈殿を10μlの水に溶かした。cDNAを大腸菌内で増幅させるために、そのうちの2μlを、コンピテントセル(invitrogen、#18920−015)23μlと混ぜ、1.8kVの条件でエレクトロポレーションを行い、1mlのSOC培地に全量を懸濁した。この作業を2回行い、大腸菌を懸濁したSOC培地を37℃で90分間、振とう培養した。その後、この培養溶液全量を、培地1ml当たりアンピシリン100μgを含むLB培地500mlに投入し、37℃で16時間、振とう培養した。
【0051】
cDNAライブラリの大腸菌への導入数、およびpMX-SSTベクターと結合したcDNAの鎖長を確認するために、培養液5μlを取り出し、50μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地にプレーティングした。
【0052】
その結果、5μlをプレーティングしたLB寒天培地に150個のコロニーの生育が見られた。これにより培養液500ml中に1.5×107個の独立したcDNAライブラリがあると考えられた。また、コロニーのうち任意の16個についてプラスミドを抽出し、制限酵素BstXIで制限酵素処理し、処理物を1%アガロースゲルにて電気泳動を行い、pMX-SSTベクター上のcDNAの長さを計測した。その結果、平均値は約1000塩基であった。
【0053】
残りの培養液から集菌し、10 NucleoBond(R) AX 500 columns(日本ジェネティクス、#740574)を用いてプラスミドを精製し、増幅されたcDNAライブラリ系を確立した。
【0054】
(4)cDNAライブラリのパッケージングおよびSST-REX法の実施
cDNAライブラリ由来遺伝子が組み込まれたpMX-SSTレトロウイルスベクターRNAを含むレトロウイルスを産生させるため、ウイルスパッケイジング細胞Plat-E(Gene Ther. 7(12):1063-6(2000)Jun)2×106個を、4mlのDMEM培地(Wako、#044-29765)を含む6cmディッシュに懸濁し、37℃で5%CO2の条件で24時間培養した。一方、100μlのopti-MEM(GIBCO、#31985070)と9μlのFugene(Roche、#1814443)を混ぜ、5分室温で放置後、3μgのcDNAライブラリを添加し、15分室温で放置した。cDNAライブラリを含む溶液を、培養後のPlat-E細胞に滴下し、24時間後に上清を入れ替えて同一条件で培養を続けた。さらに24時間後の上清を0.45μmのフィルターを通してろ過した。
【0055】
この取得したろ過上清0.5mlを、4×106個のBa/F3細胞を含むRPMI-1640(コージンバイオ)培地9.5mlが入れられた10cm dish中に加えた。
【0056】
さらに10μlのポリブレン(CHEMICON、#TR-1003-G)と10ngのIL-3を添加し、24時間培養した。その後、細胞を3回RPMI-1640培地で洗浄し、新しいRPMI-1640培地200mlに懸濁して96ウェルプレート20枚に均等分量になるようにまき、Ba/F3細胞の自律増殖能に基づくセレクションおよびクローニングを試みた。10日後から20日後までに増殖が見られた細胞をSST-REXに基づいて選抜されたものとし、該細胞が各ウェルいっぱいに増殖するまでさらに培養を続けた。
【0057】
(5)SST-REXで得られた遺伝子産物の解析
各ウェルから得られた細胞の半分量は拡大培養して、細胞ストックとした。さらに、細胞ストックからの細胞を培養して、組み込まれたcDNA由来のペプチド分子を細胞外に発現するトランスフェクタントBa/F3細胞を、抗体作製のための免疫源細胞として、また、スクリーニング対象の細胞として用いた。各ウェルから得られた細胞の残り半分からはゲノムを抽出してシークエンスを行い、導入されたcDNA由来の遺伝子を解析した。シークエンスにおいては、得られたゲノムに対して、LA taq DNA polymerase(Takara、#RR002)またはPrimeSTAR MAX DNA polymerase(TaKaRa、#R045A)を用いて、PCRを行った。PCRプライマーには、以下の配列を用いた。
SST3'側−T7 5'-TAATACGACTCACTATAGGGCGCGCAGCTGTAAACGGTAG-3'(配列番号:13)
SST5'側−T3 5'-ATTAACCCTCACTAAAGGGAGGGGGTGGACCATCCTCTA-3'(配列番号:14)
PCR産物をWizard(R) SV Gel and PCR Clean-Up System(promega、#A9282)などを用いて精製した。その後、精製したPCR産物について、BigDye Terminator v3.1 Cycle sequencing(ABI、#4337456)およびDNAシークエンサーABI3100XLを用いて、シークエンスを行った。シークエンスのプライマーには以下のものを用いた。
SST5'側−T3 5'-ATTAACCCTCACTAAAGGGAGGGGGTGGACCATCCTCTA-3'(配列番号:15)
得られたシークエンスデータは、BLAST検索(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)とSignalP 3.0 Server(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)を利用して解析した。
【0058】
上記の通り、細胞を材料として、SST-REX法を実施した結果、1回目の実施では、87個のトランスフェクタントBa/F3細胞からのcDNA由来の遺伝子のシークエンスを行い、異なる遺伝子40種類を取得できた。2回目の実施では176個のトランスフェクタントBa/F3細胞からのcDNA由来の遺伝子のシークエンスを行い、異なる遺伝子56種類を取得できた。なお、1回目と2回目で重複した遺伝子が15種類あり、2度の実施で合計81種類のcDNA由来の遺伝子を取得することができた。遺伝子解析に供したトランスフェクタントBa/F3細胞系には、cDNA由来の遺伝子1種類のみ含まれていることを確認し、以降の実験に供した(以後このようにして得られたcDNA由来遺伝子を含む細胞を「SSTクローン細胞」と称する)。
【0059】
[実施例2] MANSC1全長遺伝子のクローニングと、それを発現するBa/F3細胞株の樹立
さらに、実施例1で得られたcDNA由来遺伝子リスト中に含まれた、MANSC1遺伝子について、遺伝子全長を含むSSTクローン細胞を得るためにクローニングを行った。
【0060】
GCIY細胞のSST-REXで作製したcDNAのうち30ngをテンプレートとし、NCBIのヌクレオチド検索サイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nucleotide)におけるNM_018050.2の情報に基づく設計プライマーとPrimeSTAR MAX DNA polymerase(TaKaRa、#R045A)を用い、PCR反応を行った。
フォワードプライマー:ccggaattcatccttgacctttgaagacc(配列番号:16)
リバースプライマー:ttttccttttgcggccgcgatgtccacatagatcccat(配列番号:17)
得られたPCR産物を1%アガロースゲルで電気泳動し、目的の長さのDNA断片をゲルから抽出した。抽出したDNA断片をEcoRI(TaKaRa社製 #1040A)とNotI(TaKaRa、#1166A)で制限酵素処理した。同時に、pMX-SSTベクターについても、EcoRIとNotIで制限酵素処理した。制限酵素処理したDNA断片100ngとpMX-SSTベクター40ngとをLigationHigh(TOYOBO、#LGK-201)を用いて、2時間かけて結合させた。
【0061】
結合させたもの全量に、熱ショック用の大腸菌コンピテントセルを100μl加え、氷上に30分放置した後、42℃で90秒インキュベートし、その後1mlのLB培地を加え37℃で1時間インキュベートした。その後、15,000×gで1分の遠心を行い、上清を除去し、残存液で大腸菌ペレットを懸濁した。この全量をアンピシリン50μg/mL含むLB寒天培地に塗りこみ、37℃で1晩インキュベートし、得られたコロニーを用いて、実施例1(4)のシークエンス解析と同様の方法で、PCRおよびシークエンス解析を行った。目的の長さのDNA断片が確認できたクローンについては、PCR産物をシークエンスして、目的の配列が挿入されていることを確認した。なお、シークエンス解析の際のPCR用ポリメラーゼにはPrimeSTAR MAX DNA polymeraseを用いた。
【0062】
その後、目的の配列が挿入されているコロニーをLB液体培地3mlに植菌し、37℃で1晩の培養を行った。培養物全量に対して、3,000×g、15分の遠心を行い、上清を除去し、QuickLyse Miniprep Kit(QIAGEN、#27406)を用いて精製し、MANSC1遺伝子全長を含むプラスミドを得た。
【0063】
その後、得られたプラスミドを用いて、実施例1(4)以降に示すcDNAライブラリのパッケージング以降と同様の操作にて、ベクターを含むレトロウイルスの作製を行った。次いで、全長MANSC1遺伝子を発現するBa/F3細胞株を樹立し、以降の実験に供した。
【0064】
[実施例3] MANSC1モノクローナル抗体の作製
免疫動物はマウスBalb/cを使用し、まず、免疫賦活剤として、TiterMax Gold(Alexis Biochemicals、ALX-510-002-L010)を等量のPBSと混和して乳化したもの50μlを投与した。翌日、MANSC1遺伝子を有するSSTクローン細胞を免疫原細胞として5×106個投与し、さらに免疫原細胞を2日おきに4回注入した。最初の免疫から約2週間後、摘出した二次リンパ組織をすりつぶし、抗体産生細胞を含む細胞集団を得た。それらの細胞と融合パートナー細胞を混合し、ポリエチレングリコール(MERCK、1.09727.0100)を用いた細胞融合によりハイブリドーマ]を作製した。融合パートナー細胞としては、マウスミエローマ細胞P3U1(P3-X63-Ag8.U1)を用いた。
【0065】
ハイブリドーマは、HAT(SIGMA、H0262)、5% BM-condimed(Roche、663573)、15%FBS、1%ペニシリン/ストレプトイマイシン溶液(GIBCO、15140-122、Penicillin-streptomycin liquid、、以降「P/S」と略す)を含むRPMI1640(Wako)選択培地で10〜14日間培養した。次に、実施例4に示すフローサイトメトリーにより免疫原細胞に反応し、免疫源細胞に抗原遺伝子を含まないSSTクローン細胞(陰性対照細胞)に反応しないハイブリドーマを選択した。限界希釈によりモノクローン化し、抗MANSC1抗体ACT35-51_1A4B7Dを産生するハイブリドーマクローンを得た(図1)。
【0066】
得られたハイブリドーマは、必要量HT(SIGMA、HT media supplement(50X)Hybri-Max (Sigma-Aldrich H0137)、15% FBS、1% P/S溶液を含むRPMI-1640培地を用いて、維持した。産生抗体のアイソタイプを、アイソストリップキット(Roche、1493027)を用いて決定した結果、IgG2a/κであった。
【0067】
モノクローン化されたハイブリドーマからの精製されたACT35-51_1B4A7D抗体の取得は、次のように行った。ハイブリドーマを無血清培地(Hybridoma-SFM:GIBCO、12045-076)に馴化して拡大培養後、一定期間培養して培養上清を得た。次いで、この培養上清に含まれるIgG画分をProtein A セファロース(GEヘルスケア、17-1279-03)、MAPS-II結合バッファー(BIO-RAD、153-6161)、MAPS-II溶出バッファー(BIO-RAD、153-6162)を用いて精製した。溶出されたIgGをPBSで透析し、精製抗体画分を得た。
【0068】
[実施例4] フローサイトメトリーを用いた抗体スクリーニング
ACT35-51_1B4A7D抗体と、各種細胞(目的遺伝子を発現するBa/F3細胞、目的遺伝子を発現していないBa/F3細胞、各種癌細胞など)との反応性を、フローサイトメトリーを用いて解析した。
【0069】
本実施例においては、細胞懸濁バッファーおよび以降の洗浄バッファーには、0.5% BSAと2mM EDTAを含有するPBSを用いた。抗体と反応させる各種細胞(対象細胞)を、96穴プレート(BD Falcon、353911)に、細胞懸濁液が1ウェルあたり5×104個の細胞を含み100μlに成るよう調整し、分注した。
【0070】
また、染色対象の細胞が癌細胞株の場合は、80%コンフルエントになった時点でCell Dissociation Buffer(GIBCO、13151-014)を用いて培養プレートから剥がして回収した。
【0071】
細胞懸濁液の各サンプルに、ハイブリドーマ培養上清あるいは2μg/mlの精製抗体(以降、「抗体溶液」と称する)50μlを添加し、抗体と細胞とを反応させた。抗体溶液のアイソタイプ対照抗体としては、mouse IgG1(BioLegend、400412)、mouse IgG2a(BioLegend、400224)、mouse IgG2b(BioLegend、400324)をそれぞれ2μg/mlずつ含む洗浄バッファーを用いた。ハイブリドーマの培養上清と対象細胞を室温で30分反応後、700×gで2分間の遠心を行って培養上清を除去し、さらに洗浄バッファーを100μl加え、再度700×gで2分間の遠心を行って上清を除去し、細胞を洗浄した。
【0072】
次に、洗浄後の細胞ペレットに、検出用2次抗体として、Goat anti-mouse IgG, F(ab')2-PE(Beckman Coulter、IM0855)を洗浄バッファーで200倍に希釈したものを50μl添加し、暗所において室温で30分反応させた。反応後、700×gで2分間の遠心を行って上清を除去し、さらに洗浄バッファーを100μl加え、再度700×gで2分間の遠心を行って上清を除去し、細胞を洗浄した。その後、適当量の洗浄バッファーで細胞を懸濁し、フローサイトメーター(Beckman Coulter、FC500MPL)により、抗体と細胞の反応性について解析した。
【0073】
反応性の測定では、前方散乱と側方散乱の測定値より生細胞を選択するようにゲートをかけた。選択された生細胞に対して抗体との反応性に基づくPEの蛍光強度を測定し、アイソタイプ対照の反応強度を基準として、免疫原細胞に対して有意に反応性が認められるが、陰性対照細胞に対して反応性が認められない培養上清を産生するハイブリドーマ細胞を候補クローンとして選択した(図1)。
【0074】
抗体と各種細胞との反応性解析では、該抗体とアイソタイプ対照抗体との反応強度を基準として、有意に反応性が認められる抗体を選択した。
【0075】
[実施例5] 癌細胞を用いたフローサイトメトリー
染色対象とする癌細胞が80%コンフルエントになった時点でCell Dissociation Buffer(GIBCO、13151-014)を用いて培養プレートから剥がして回収し、回収した細胞1x105個を0.5% BSA、2mM EDTA/PBS(実施例4に示す洗浄バッファー)に100μlずつ懸濁し、96ウェルプレート(BD Falcon、353911)に分注した。以降実施例4と同様の方法で、癌細胞と抗体との反応性をフローサイトメーターを用いて解析した。
【0076】
ACT35-51_1B4A7D抗体との反応性を解析する癌細胞としては、胃癌細胞株であるGCIYを用いた。その結果、ACT36-27_5D1抗体はGCIYに対して有意に反応したが、ACT35-51_1B4A7D抗体においては、GCIYに対する有意な反応性を検出することはできなかった(図2)。
【0077】
[実施例6] 癌細胞の細胞染色
ACT35-51_1B4A7D抗体と各種癌細胞との反応性を、細胞染色により解析した。黒色96ウェルプレート(BD Falcon、353219)に、染色の対象とした癌細胞1x104個を100μlの培地に懸濁して播種し、24時間培養した。癌各種癌細胞の培地には、非働化処理した10%FBS(Equitech)および1%P/S溶液を含むDMEM培地(SIGMA)を用いた。本実施例では、洗浄バッファーとして、25mM HEPES(pH7.4)、120mM NaCl、4.8mM KCl、1.2mM MgSO4、1.3mM CaCl2を含有するバッファーを用いた。
【0078】
細胞表面のみを染色する場合、ハイブリドーマ培養上清もしくは精製抗体を2μg/mlで溶解させた洗浄バッファーを、700×gで2分間の遠心により培養上清を除去して得た細胞に対して、それぞれ50μl添加した。ACT35-51_1B4A7D抗体に対する陰性対照としては、mouse IgG1(BioLegend、400412)、mouse IgG2a(BioLegend、400224)、mouse IgG2b(BioLegend、400324)を2μg/mlの濃度で洗浄バッファーに溶解させ、50μl添加した溶液を用いた。各抗体を室温で30分反応後、700×gで2分間の遠心を行って上清を除去し、さらに洗浄バッファーを100μl加え、再度700×gで2分間の遠心を行って上清を除去して、細胞を洗浄した。
【0079】
洗浄後、Goat anti-mouse IgG,F(ab’)2-PE(Beckman Coulter、IM0855)を洗浄バッファーで200倍希釈し、さらに10mg/mlのHoechst33342(Invitrogen、H1399)を2,000倍希釈したものを「検出用2次抗体・核染色試薬」として、細胞に50μl添加し、室温で30分暗所にて反応させた。その後、上記と同様の洗浄を2回行い、100μlの洗浄バッファーを添加した後、In Cell Analyzer 1000(GEヘルスケア)を用いて細胞染色を観察した。
【0080】
細胞表面と細胞内部を染色する場合は、遠心にて細胞培養液上清を除去し、得られた細胞を100μlの洗浄バッファーで1回上記と同様に洗浄した。その後、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液(Wako、161-20141)を50μl添加し、室温で10分反応させて細胞を固定した。その後、100μlの洗浄バッファーで2回洗浄した。次に、0.1% Triton X-100を含有する洗浄バッファーを100μl添加し、室温で10分反応させて、細胞膜の透過性を高め、その後100μlの洗浄バッファーで2回洗浄した。それ以降は、細胞表面のみを染色する方法と同様にして、染色および解析を行った。細胞の観察は、Hoechst33342で染色される核を細胞の位置の基準とし、PEの蛍光を測定することで抗体による染色の有無を検討した。
【0081】
各種癌細胞株をACT35-51_1B4A7D抗体で細胞染色したところ、細胞表面のみの染色条件ではMANSC1を検出できなかった(図3A)。しかし、癌細胞を固定・膜透過処理を行うことで、GCIYとU87MGで反応性が見られた(図3B)。このことから、GCIYとU87MGにおいては、MANSC1が検出限界以上の量で発現しており、ACT35-51_1B4A7D抗体がそれに反応していると考えられた。ACT35-51_1B4A7D抗体は、GCIYとU87MGにおいて、膜透過処理を行わないと反応性が見られなかったことから、本抗体が反応するエピトープは細胞膜表面上には存在せず、切断および分泌されていると推測された。
【0082】
[実施例7] MANSC1トランスフェクタント培養上清を用いた免疫沈降
ACT35-51_1B4A7D抗体のエピトープは細胞外へ切断および分泌されている可能性が示唆されたことから、MANSC1発現細胞の培養上清を用いて免疫沈降を行った。癌細胞は無血清培地での培養が困難であるため、MANSC1遺伝子を293T細胞に一過性に発現させ、培地を無血清培地に置換後、濃縮したサンプルを用いて免疫沈降を行った。
【0083】
293T細胞を10cm培養ディッシュ10枚に播種し、80%コンフルエントになった段階でFugene6(Roche、#1814443)を用いて遺伝子導入を行った。遺伝子導入はディッシュ1枚あたり、Opti-MEM(GIBCO、#31985070)600μlとFugene6を18μl混合し、5分間室温で放置後、6μgのMANSC1のDNAコンストラクトを添加し、15分室温で放置した。その溶液を293Tの培養液に添加し、24時間後に血清を含まない4mlのDMEMで3回洗浄後、FreeStyle 293(GIBCO、#12338-018)を20ml添加して5日間培養を行った。対照として、ベクターのみを同様に遺伝子導入した293T細胞も作製した。
【0084】
5日の培養後、培養上清を回収し、0.22μmのフィルターろ過を行った後、Amicon Ultra(分画分子量3000、ミリポア、#UFC9 003 96)を用いて100倍濃縮した。
【0085】
濃縮した培養上清200μlにPBSを800μl加え、そこにProtein Aセファロース(GEヘルスケア、17-1279-03)を20μl加え、ローテーター(TAITEC、#RT-5)を用い4℃で30分攪拌して反応させることで、Protein Aセファロースに非特異的に結合する蛋白質を除去した。反応後、15000×g、4℃、5分間で遠心し培養上清を回収して、再度Protein Aセファロースを20μl加え、同様の手法で非特異的に反応する蛋白質を除去した。
【0086】
Protein Aセファロースに非特異的に反応する蛋白質を除去した培養上清に、ACT35-51_1B4A7D抗体、もしくはmouse IgG2a抗体を5μg加え、4℃で60分攪拌して反応させた。抗体の反応後、Protein Aセファロースを20μl加え、4℃で30分攪拌して反応させて免疫沈降した。免疫沈降後、15000×g、4℃、5分間で遠心し、上清を除去してProtein Aセファロースを回収した。回収したProtein AセファロースにPBSを500μlくわえ、4℃で5分攪拌して洗浄した。洗浄後、15000×g、4℃、5分間で遠心し、PBSを除去してProtein Aセファロースを回収した。この洗浄操作を3回繰り返した。
【0087】
洗浄後、Protein Aセファロースに20μlのSDS-PAGEサンプルバッファーを添加し、100℃で5分間煮沸した。サンプルバッファーを12.5%のSDS-PAGEに負荷し、30mAの電流をかけて電気泳動を行った。電気泳動後、PVDF膜に160mAの電流をかけて1時間転写した。転写後のPVDF膜を5%スキムミルクを室温で1時間反応させてブロッキングを行った。次に抗MANSC1ポリクローナル抗体(AVIVA systems、#ARP34359_P050)を5%スキムミルクで3000倍希釈したもの2.5mlを、室温で1時間反応させた。反応後PVDF膜を0.05%Tween20を含むPBS(以下、PBS-Tと称する)で3回洗浄後、抗ウサギIgG-POD(MBL、#458)を5%スキムミルクで5000倍希釈したもの2.5mlを、室温で1時間反応させた。反応後PVDF膜をPBS-Tで5回洗浄し、発色基質(ミリポア、Immobilon Western #WBKLS0500)を用いて発色させ、フィルムに15秒間感光させた。
【0088】
MANSC1を導入した293Tの培養上清では、ACT35-51_1B4A7D抗体で免疫沈降したものは10kDa近傍にMANSC1のシグナルが検出されたが、アイソタイプ対照で免疫沈降したものはシグナルが検出されなかった(図4)。また、ベクターのみを導入した293Tの培養上清ではアイソタイプ対照、ACT35-51_1B4A7D抗体で免疫沈降したもの共にシグナルは検出されなかった(図4)。これらの結果からも、MANSC1の一部は切断され、培養上清中に分泌する可能性が示唆された。
【0089】
[実施例8] ACT35-51_1B4A7Dモノクローナル抗体の癌細胞の増殖に対する効果(MTT)
ACT35-51_1B4A7D抗体の癌細胞の増殖に与える影響について、MTTアッセイを用いて解析した。各種癌細胞の培地には、前立腺癌細胞株AsPC1については非働化処理した10%FBS(Equitech、以降同じ)と1%P/Sを含むRPMI1640培地(WAKO)を、それ以外の癌細胞については非働化処理した10%FBSおよび1%P/S溶液を含むDMEM培地(SIGMA)を用いた。対象抗体を産生するハイブリドーマ用培地には、必要量のHT(Sigma-Aldrich、H0137、HT media supplement(50X) Hybri-Max)、15%FBS、1%P/S溶液を含むRPMI培地(Wako)を用いた。
【0090】
また、対照として、Mouse IgG1(BECKMAN COULTER、731581)、IgG2a(MBL、M076-3)、IgG2b(MBL、M077-3)、IgG3(MBL、M078-3)を各1μlずつ、1mlのハイブリドーマ用培地に溶かしたマウスアイソタイプ対照混合液を用いた。
【0091】
各実験は、抗体培養上清1試験あたり3ウェルずつ行った。各種癌細胞を、1ウェルあたり、100μl培地中で2×103個ずつ、96ウェルプレート(IWAKI)に播種し、5%CO2条件にて37℃で24時間インキュベートした。
【0092】
インキュベート後の96ウェルプレートに、ACT35-51_1B4A7D抗体を含む培養上清あるいはマウスアイソタイプ対照を1ウェルあたり100μlずつ添加し、72時間インキュベートした。遠心により培養上清を除去して得たそれぞれの細胞に対して、新鮮な培地に溶かして調整した5% WST-1溶液(vol./vol.、Roche、11 644 807 001)100μlを加え、1〜4時間インキュベートし、1時間おきにマイクロプレートリーダー(BIO-RAD)にて、WST-1の発色を測定した。
【0093】
グラフ化した測定結果を図5に示す。このデータは3時間後のWST-1の発色をO.D.値(O.D450nm-O.D.650nm)で示した。MTTアッセイにおいて、ACT35-51_1B4A7D抗体は、GCIY細胞の増殖を、アイソタイプ対照に比べ、約25%にまで抑制した(図5B)。即ち、約75%の増殖抑制効果があった。さらに、ACT35-51_1B4A7D抗体の細胞増殖抑制効果は、グリオーマ由来のT98G細胞において顕著に現れ、アイソタイプ対照に比べ、その増殖を約7%にまで抑制した(図5C)。即ち、約93%の増殖抑制効果が認められた。
【0094】
[実施例9] マウス担癌モデルに対する尾静脈投与による抗体の効果
ACT35-51_1B4A7D抗体のin vivoにおける抗腫瘍効果についてマウス担癌モデルを用いて検討した。
【0095】
6週齢雄のSCIDマウス(日本クレア株式会社より5週齢で購入)の頚背部皮下に、GCIY細胞が5×106個/0.2ml saline/マウス個体となるように、細胞懸濁液を移植した。移植後3週間目に生着した腫瘍の大きさを計測し、各群の平均腫瘍体積がおよそ55±5mm3となるように、担癌マウスを対照群、陽性対照群、ACT35-51_1B4A7D抗体群の3群に分け、1群を4匹とした。
【0096】
各群それぞれへのサンプル投与は、細胞移植後3週間目から担癌マウスの尾静脈に対して行った。対照群に生理食塩水(大塚生食注)を、陽性対照群にTaxotere(マウス個体あたり600μg、サノフィ・アベンティス)を、抗体投与群にACT35-51_1B4A7D抗体(10mg/kg)を、それぞれ週に1回(3週間連続で合計3回)尾静脈より投与した。また毎回の投与直前には体重計測および腫瘍計測を行った。体重計測は動物天秤を使用し、腫瘍計測はデジマチックキャリパーにて長径および短径を計測し、式「腫瘍体積(mm3)=0.5×長径×短径×短径」により腫瘍体積を求めた。
【0097】
腫瘍体積データを対照群と比較して、経時的な抗腫瘍効果を検討した。その結果、対照群では経時的に腫瘍は増大し、投与開始3週間後の実験終了時では、開始時の約25倍の腫瘍体積であった。これに対して、Taxotereを投与した群では投与開始後2週間目から腫瘍増殖抑制が観察され、実験終了となる3週間目では、実験開始時の約11倍程度に留まり、対照群に対する約59%の腫瘍体積抑制が観察された。また、ACT35-51_1B4A7D抗体を投与した群では投与開始後1週間目より、対照群に対して腫瘍増殖抑制傾向が観察され、実験終了時では、腫瘍体積は投与開始時の約16倍程度に留まり、対照群の腫瘍体積を約44%抑制した(図6)。
【0098】
各サンプルの投与開始から3週間後、剖検を行った。担癌マウスをエーテル麻酔致死後、頚背部皮下より腫瘍を摘出してその重量を計測し、各群の腫瘍重量を比較した。摘出腫瘍重量はそれぞれ、対照群1.33g、陽性対照群0.87g、ACT35-51_1B4A7D抗体群0.83gであった。ACT35-51_1B4A7D抗体を投与した群では、対照群と比較して、摘出腫瘍重量が約38%程度減少しており、陽性対照群と同程度の腫瘍増殖抑制効果が観察された(図7)。
【0099】
体重推移に関しては、陽性対照群では投与開始2週間後から体重減少が顕著に認められたが、ACT35-51_1B4A7D抗体群では体重の減少は認められなかった。剖検時体重から腫瘍重量を差し引いた算出体重においても、陽性対照群の体重減少は明らかであるが、ACT35-51_1B4A7D抗体群では体重の増加が観察された(図8)。
【0100】
なお、統計学的検定は一元配置分散分析(ANOVA)を行い、p<0.05で差のある場合にTukeyの多重比較法による有意差検定を行った。対照群に対して、危険率がp<0.05の場合に有意差ありと評価した。(*:p<0.05,**:p<0.01)
【0101】
[実施例10] 抗体可変領域決定方法
ACT35-51_1A4B7D抗体の可変領域の遺伝子配列を明らかにするため、ACT35-51_1B4A7D抗体産生細胞ハイブリドーマ細胞2×106をTrizol(invitrogen、#15596-026)1mlに懸濁し5分放置し、クロロフォルムを200μl添加して、15秒間懸濁後、12,000×gで15分間遠心し、上清を得た。この上清と500μlのイソプロパノールを混合した後、12,000×gで10分間遠心した。得られたペレットを80%エタノールで洗浄し、全RNA 40μgを得た。その全量を20μlの水で溶かした。そのうち、全RNA 5μg分の溶液を使用して、SuperScriptTM Choice System(invitorgen、#18090-019)を用いて、全RNAから2本鎖cDNAを作製した。得られた2本鎖cDNAをエタノール沈殿後、LigationHigh(TOYOBO#LGK-201)を用いて2本鎖cDNAの5’末端と3’末端を結合させ、そのうち1μlを鋳型としてPCRを行った。プライマーとしては、重鎖と軽鎖の定常領域に対して設計したものを使用した。プライマーの配列は、次の通りである。
重鎖5'側gtccacgaggtgctgcacaat(配列番号:18)
重鎖3'側gtcactggctcagggaaataacc(配列番号:19)
軽鎖5'側aagatggatacagttggtgc(配列番号:20)
軽鎖3'側tgtcaagagcttcaacagga(配列番号:21)
PCR産物を1.5%ゲルにて電気泳動を行った後、切り出して精製を行った。精製したDNAを用いてシークエンスを行った。軽鎖については、精製したDNAをクローニングした後、シークエンスを行った。決定された軽鎖の可変領域の塩基配列を配列番号:9に、アミノ酸配列を配列番号:10に、重鎖の可変領域の塩基配列を配列番号:11に、アミノ酸配列を配列番号:12に示す。
【0102】
また、これら可変領域のアミノ酸配列について、UCLの「Andrew C.R. Martin's Bioinformatics Group」のサイトにおける配列分析(http://www.bioinf.org.uk/abysis/tools/analyze.cgi)を利用してナンバリングし、「Table of CDR Definitions」に記載の基準(http://www.bioinf.org.uk/abs/#kabatnum)に従ってCDR領域を同定した。CDR予測の結果と軽鎖および重鎖のシグナル配列を図9に示す。また、軽鎖のCDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列を配列番号:3〜5に、重鎖のCDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列を配列番号:6〜8に示す。
【0103】
[実施例11] ACT35-51_1B4A7D抗体のエピトープ解析
ACT35-51_1B4A7D抗体のエピトープを特定するために、数種の鎖長のMANSC1ペプチドを発現するBa/F3細胞を作製し、抗体との反応性を評価した。
【0104】
MANSC1、膜外領域60aa(N末端より。以下、同様)、153aa、186aa、219aa、250aa、285aa、385aa(細胞外全長)を解析対象のペプチドとした。実施例1に示すGCIYシグナルシークエンストラップ法を実施したcDNAライブラリを鋳型として、下記配列のDNAをプライマーとして使用し、PrimeSTAR MAX DNA polymerase(TaKaRa、#R045A)をポリメラーゼとして使用して、7種類の遺伝子の単離を行った。
フォワードプライマー(2種類の遺伝子共通):(配列番号:16)
リバースプライマー(Rに付加した数値は、増幅産物がコードするペプチドの鎖長を意味する)
R60:(配列番号:22)ttttccttttgcggccgcttgagttgaagtatatacgg
R153:(配列番号:23)ttttccttttgcggccgctaggggagtgactgcttgtg
R186:(配列番号:24)ttttccttttgcggccgcaaatagtttctccaagtgat
R219:(配列番号:25)ttttccttttgcggccgccagcagatgcgctatttctt
R250:(配列番号:26)ttttccttttgcggccgcggtgggtagaagggtggcgg
R285:(配列番号:27)ttttccttttgcggccgctgtagaaatgagggtcgtgg
R385:(配列番号:28)ttttccttttgcggccgcaagccatttttcaaatggaa
得られた各PCR産物を1%アガロースゲルにて電気泳動を行った後、切り出し精製を行い、EcoRIとNotIで制限酵素処理を行った。pMX-SSTもEcoRIとNotIで制限酵素処理を行い切り出し精製した。さらにそれぞれをLigationHigh(TOYOBO、#LGK-201)にて処理し、その後、実施例2(大腸菌にトランスホーメーション以降)と同様の処理を行い、50μgアンピシリン含有LBアガロースプレートに、トランスホーメーションした大腸菌をプレーティングした。37℃で1晩培養して得られたコロニーからインサート部分を含有するようにPCRを行い、希望する配列を含んだpMX-SSTベクターであるかにつき、シークエンスにて確認した。シークエンス用PCRプライマーとしては、次のオリゴヌクレオチドを用いた。
SST3’側 5'-ggcgcgcagctgtaaacggtag-3'(配列番号:29)
SST5’側 5'-cgggggtggaccatcctcta-3'(配列番号:30)
その後、実施例1(4)(ウイルスパッケイジング以降)と同様の方法で、各種鎖長のMANSC1遺伝子配列を含むBa/F3細胞を作製した。さらに、実施例4と同様の手法で、各種鎖長のMANSC1分子を発現するBa/F3細胞とACT35-51_1B4A7D抗体との反応性をフローサイトメーターにて解析した(図10)。その結果、ACT35-51_1B4A7D抗体は、MANSC1分子の1-60まで発現させたクローンに対しては反応性を示さず、1から153の領域よりも長いものを発現するクローンに対して反応性を示したことから、MANSC1分子のN末端から61位から153位の間に抗体のエピトープが含まれることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のモノクローナル抗体は、優れた抗癌活性を有するため、癌の治療または予防に用いることができる。特に、胃癌やグリオーマに対しては、強い細胞増殖抑制効果を示す。本発明のモノクローナル抗体は、非常に悪性度の高く、これまで治療が困難とされてきたスキルス胃癌に対しても優れた効果を有すると考えられることから、医療上極めて有用である。また、本発明のモノクローナル抗体は、癌の診断や癌細胞の検出・選別などへの応用も可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌活性を有する抗体およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
癌(腫瘍)は、わが国における死亡原因の第一位を占める疾患である。国立がんセンター内癌情報対策センターの統計によると、2006年に癌で死亡した人数はおよそ32万9千例あり、部位別に見ると、男性では肺(23%)、胃(17%)、肝臓(11%)、結腸(7%、大腸と併せると11%)、膵臓(6%)の順となっており、女性では、胃(13%)、肺(13%)、結腸(10%、大腸と併せると14%)、乳房(9%)、肝臓(8%)の順となっている。癌患者数は年々増加しており、有効性および安全性の高い薬剤や治療法の開発が強く望まれている。
【0003】
胃癌は、日本において罹患率、死亡率ともに非常に高い癌のひとつであるが、診断方法、および手術による外科的切除や化学療法を主とした治療方法の進歩により、現在では比較的治りやすい癌の1つともされている。しかしながら、スキルス胃癌に関しては、非常に悪性度の高い、治療が困難な胃癌の一つとされている。スキルス胃癌は、癌細胞が粘膜表面に現れずに胃壁全体あるいは半分〜1/3以上にびまん性に浸潤し、肉眼的に明らかな腫瘤を形成せずに胃壁の肥厚や硬化をもたらし、病巣と周囲粘膜との境界が不明瞭であるという特徴を有する。スキルス胃癌は、通常の胃癌より発症年齢が低くて進行も早く、診断も困難である。診断がついた時点では、既に腹膜播種・転移を起こして6割が手術できない状態にあり、手術により切除された場合でも、5年生存率は、わずか15〜20%である。
【0004】
近年、抗癌剤としての抗体の使用は、種々の病態(癌型)の治療におけるアプローチとして、その重要性が認められつつある。例えば、腫瘍特異的な抗原を標的とした抗体であれば、投与した抗体は腫瘍に集積することが推定されるため、補体依存性細胞傷害活性(CDC)や抗体依存的細胞性細胞傷害活性(ADCC)による、免疫システムを介した癌細胞への攻撃が期待できる。また、抗体に放射性核種や細胞毒性物質などの薬剤を結合しておくことにより、結合した薬剤を効率よく腫瘍部位に送達することが可能となる。これにより、他組織への薬剤到達量を減少させ、ひいては副作用の軽減を見込むことができる。腫瘍特異的抗原に細胞死を誘導する活性がある場合は、アゴニスティックな活性を持つ抗体を投与することで、また、腫瘍特異的抗原が細胞の増殖および生存に関与する場合は、中和活性を持つ抗体を投与することで、腫瘍特異的な抗体の集積と抗体の活性によって、腫瘍の増殖停止または退縮が期待できる。このような特性から、抗体は、抗癌剤として適用に好適であると考えられている。
【0005】
これまでに上市された抗体医薬としては、白血病・リンパ腫を対象として、CD20を標的としたrituximab(商品名rituxan)やiburitumomab ozogamicin(商品名Zevailn)、CD33を標的としたgemutuzumab ozogamitin(商品名Mylotarg)などが開発されている。また、上皮性固形癌を対象としたものとしては、乳癌では、Her2/neuを標的としたtrastuzumab(商品名Herceptin)やVEGFを標的としたbevacizumab(商品名Avastin)などが開発されている。このほか癌以外を対象疾患とするものとして、関節リウマチやキャッスルマン病に対して、ヒトIL-6受容体抗体であるtocilizumab(商品名Actemula)などが開発されている。
【0006】
しかしながら、2008年までに認可された抗体医薬は、米国でも20種類程度、日本でも10種類程度であり、特に固形癌に関してはまだ有効とされる抗体医薬は少ない。このため、さらなる有効な抗体医薬の開発が望まれている。
【0007】
ところで、細胞膜に存在し、細胞外ドメインのN末端側に、高度に保存された7つのシステイン配列を含むモチーフを有する蛋白質として、「Homo sapiens MANSC domain containing 1」(以下、「MANSC1」と称する)が知られている(MANSCは、motif at N terminus with seven cysteinesの略称)。このモチーフを有するMANSCドメインは、ESTに対するTBLASTNなどを用いた解析により、高等脊椎動物に限らず、軟体動物や脊索動物までの多細胞生物に高度に保存されていることが明らかとなっている。MANSCドメインは、肝細胞成長因子HGFの活性化因子阻害剤であるHAI-1や低密度リポ蛋白質受容体関連因子であるLRP-11などにも存在していることから、これら蛋白質の機能に基づき、組織の発生や再生、アルツハイマーなどの神経関連疾患、腫瘍の分化や転移などに関係している可能性が示唆されている(非特許文献1、非特許文献2、特許文献1)。しかしながら、これら文献においては、MANSC1分子自体の詳細な挙動および機能については開示されていない。
【0008】
一方、MANSC1分子の挙動および機能に関しては、黒色腫において発現上昇している遺伝子の網羅的なリストの中の一つとして報告されている。(特許文献2の表15-21、配列番号947)。また、ヒトMANSC1のオルソログをコードする遺伝子の変異により、雌(-/-)マウスにおいて抑鬱様反応の低下がもたらされることが明らかになっている(特許文献3の明細書の段落892)。しかしながら、これらの文献のいずれにも、癌の発症へのMANSC1の寄与(因果関係)については何ら開示されていない。
【0009】
従って、MANSC1に対する抗体が、抗癌活性を持ちうるかについては、いまだ明らかにされていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開2007/66124号パンフレット
【特許文献2】特開2008-504034号公報
【特許文献3】特開2009-527227号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Trends in Biochemical Sciences 29(4):172-174(2004)
【非特許文献2】Genome Research 13(10):2265-2270(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、優れた抗癌活性を有する新規抗体を提供することにある。さらなる本発明の目的は、このような抗体を有効成分とする抗癌剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決すべく、まず、癌細胞株であるGCIY細胞由来のcDNAライブラリを作製し、SST-REX法により、その中から、細胞表面に発現あるいは細胞から分泌される蛋白質をコードするものを選抜した。次いで、選抜したcDNAがコードする蛋白質に対するモノクローナル抗体を作製して、各種癌細胞株に対する結合性、in vitroおよびin vivoにおける抗癌活性を検討した。その結果、得られたモノクローナル抗体の一つである「ACT35-51_1B4A7D」抗体が、MANSC1蛋白質に結合し、in vitroおよびin vivoにおいて優れた抗癌活性を有することを見出した。さらに、本発明者は、MANSC1蛋白質において、この抗体のエピトープを含む領域を同定すると共に、この抗体の軽鎖および重鎖の可変領域の構造を決定することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、MANSC1蛋白質に結合し、抗癌活性を有するモノクローナル抗体および該抗体を有効成分とする抗癌剤に関し、より詳しくは、
(1) ヒト由来のMANSC1蛋白質に結合し、かつ、抗癌活性を有する抗体、
(2) ヒト由来のMANSC1蛋白質の細胞外領域に結合する、(1)に記載の抗体、
(3) 癌が胃癌またはグリオーマである、(1)に記載の抗体、
(4) 配列番号:3から5に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:6から8に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する、(1)に記載の抗体、
(5) (4)に記載の抗体における配列番号:3から8に記載のアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されており、かつ、(4)に記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(6) 配列番号:10に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:12に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する、(1)に記載の抗体、
(7) (6)に記載の抗体における配列番号:10および12に記載のアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されており、かつ、(6)に記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(8) (6)に記載の抗体における配列番号:10および12に記載のアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいてシグナル配列が除去されており、かつ、(6)に記載の抗体と同等の活性を有する抗体、
(9) ヒト由来のMANSC1蛋白質における、(6)に記載の抗体のエピトープに結合し、かつ、抗癌活性を有する抗体、
(10) 配列番号:3から5に記載のアミノ酸配列を含む、(1)に記載の抗体の軽鎖またはその可変領域からなるペプチド、
(11) 配列番号:10に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列を含む、(10)に記載のペプチド、
(12) 配列番号:6から8に記載のアミノ酸配列を含む、(1)に記載の抗体の重鎖またはその可変領域からなるペプチド、
(13) 配列番号:12に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列を含む、(12)に記載のペプチド、
(14) (1)から(9)のいずれかに記載の抗体または(10)から(13)のいずれかに記載のペプチドをコードするDNA、
(15) (1)から(9)のいずれかに記載の抗体を産生する、または、(14)に記載のDNAを含む、ハイブリドーマ、
(16) (1)から(9)のいずれかに記載の抗体を有効成分とする、抗癌剤、および
(17) 癌が胃癌またはグリオーマである、(16)に記載の抗癌剤、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、ヒト由来のMANSC1蛋白質に結合し、in vitroおよびin vivoにおいて優れた抗癌活性を有する抗体が提供された。本発明の抗体を用いれば、癌の治療や予防が可能となる。本発明の抗体は、特に、胃癌細胞またはグリオーマの増殖抑制に効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ACT35-51_1B4A7D抗体と、MANSC1遺伝子を発現するBa/F3細胞との反応性を示す図である。免疫原細胞であるMANSC1全長遺伝子を発現するトランスフェクタントBa/F3細胞(A)と、MANSC1遺伝子を発現していない対照Ba/F3細胞(B)に対する各抗体の反応をフローサイトメーターで解析した。各フローサイトメーターデータの塗りつぶしヒストグラム部分は、それそれのサンプル抗体との反応を、白のヒストグラム部分は、陰性対照としたマウスIgG2a(ベックマン・コールター、#731589)との反応を示す。陽性対照として、抗MPL抗体を用いた。
【図2】ACT35-51_1B4A7D抗体と、胃癌細胞株(GCIY)との反応性をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。各フローサイトメーターデータの塗りつぶしヒストグラム部分は、それそれのサンプル抗体との反応を、白のヒストグラム部分は陰性対照として用いたマウスIgG2a(ベックマン・コールター、#731589)との反応を示す。
【図3A】ACT35-51_1B4A7D抗体と、各種培養癌細胞表面との反応性を細胞染色で解析した結果を示す顕微鏡写真である。癌細胞株として、膀胱癌細胞株(T24)、胃前立腺癌細胞株(PC3、Du145)、膵臓癌細胞株(BxPC3、AsPC1)、グリオーマ細胞株(U251、U87MG、T98G)、胃癌細胞株(MKN1、GCIY)を用いた。図左は、Hoechst33342を用いた核染色像、図中は、抗体による染色像、図右は、Hoechst33342を用いた核染色像と抗体による染色像とを重ねた像を示す。
【図3B】ACT35-51_1B4A7D抗体と、細胞固定および膜透過処理を行った各種培養癌細胞との反応性を細胞染色で解析した結果を示す顕微鏡写真である。癌細胞株として、膀胱癌細胞株(T24)、胃前立腺癌細胞株(PC3、Du145)、膵臓癌細胞株(BxPC3、AsPC1)、グリオーマ細胞株(U251、U87MG、T98G)、胃癌細胞株(MKN1、GCIY)を用いた。図左は、Hoechst33342を用いた核染色像、図中は、抗体による染色像、図右は、Hoechst33342を用いた核染色像と抗体による染色像とを重ねた像を示す。
【図4】MANSC1遺伝子を発現している293T細胞の培養上清に対して、ACT35-51_1B4A7D抗体を用いて免疫沈降を行った結果を示す電気泳動写真である。陰性対照細胞として、ベクターのみを導入した293T細胞(モック)を用いた。また、陰性対照抗体としてマウスIgG2aを用いた。
【図5A】ACT35-51_1B4A7Dモノクローナル抗体の癌細胞の増殖に与える影響について、MTTアッセイで解析した結果を示す図である。縦軸はWST-1添加3時間後のO.D.(O.D.450nm-O.D.650nm)値を示す。対象癌細胞株として、膀胱癌細胞株(T24)、前立腺癌細胞株(PC3、Du145)を用いた。陰性対照抗体として、マウスIgG2a(MBL、#M076-3)を用いた。
【図5B】ACT35-51_1B4A7Dモノクローナル抗体の癌細胞の増殖に与える影響について、MTTアッセイで解析した結果を示す図である。縦軸はWST-1添加3時間後のO.D.(O.D.450nm-O.D.650nm)値を示す。対象癌細胞株として、膵臓癌細胞株(BxPC3、AsPC1)、胃癌細胞株(GCIY)を用いた。陰性対照抗体として、マウスIgG2a(MBL、#M076-3)を用いた。
【図5C】ACT35-51_1B4A7Dモノクローナル抗体の癌細胞の増殖に与える影響について、MTTアッセイで解析した結果を示す図である。縦軸はWST-1添加3時間後のO.D.(O.D.450nm-O.D.650nm)値を示す。対象癌細胞株として、グリオーマ細胞株(U251、U87MG、T98G)を用いた。陰性対照抗体として、マウスIgG2a(MBL、#M076-3)を用いた。
【図6】ACT35-51_1B4A7D抗体を投与したマウス担癌モデルにおける腫瘍体積推移を示す図である。対照として生理食塩水を、陽性対照としてTaxotereを用いた。
【図7】ACT35-51_1B4A7D抗体の投与3週間後のマウス担癌モデルにおける摘出腫瘍重量を示す図である。対照として生理食塩水を、陽性対照としてTaxotereを用いた。
【図8】ACT35-51_1B4A7D抗体を投与したマウス担癌モデルにおける体重推移を示す図である。対照として生理食塩水を、陽性対照としてTaxotereを用いた。
【図9】ACT35-51_1B4A7D抗体の可変領域のアミノ酸配列とCDR予測を示した図である。CDR予測の結果を破線で、軽鎖および重鎖のシグナル配列を実線で示す。
【図10】ACT35-51_1B4A7D抗体と、様々な長さのMANSC1遺伝子を発現するトランスフェクタントBa/F3細胞との反応性を示す図である。抗原であるMANSC1分子のN末端より60アミノ酸、153アミノ酸、186アミノ酸、219アミノ酸、250アミノ酸、280アミノ酸、385アミノ酸に対応する遺伝子を発現するBa/F3細胞に対する、ACT35-51_1B4A7D抗体および対照としてのMPL抗体の反応性を、フローサイトメーターで解析した。各フローサイトメーターデータの塗りつぶしヒストグラム部分は、各MANSC1分子に対する抗体との反応を、白のヒストグラム部分は対照として用いたマウスIgG2a(ベックマン・コールター、#731589)の反応を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、ヒト由来のMANSC1蛋白質に結合し、抗癌活性を有する抗体を提供する。本発明における「抗体」は、免疫グロブリンのすべてのクラスおよびサブクラスを含む。「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体が含まれ、また、抗体の機能的断片の形態も含む意である。「ポリクローナル抗体」は、異なるエピトープに対する異なる抗体を含む抗体調製物である。また、「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体(抗体断片を含む)を意味する。ポリクローナル抗体とは対照的に、モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を認識するものである。本発明の抗体は、好ましくはモノクローナル抗体である。本発明の抗体は、自然環境の成分から分離され、および/または回収された(即ち、単離された)抗体である。
【0018】
本発明の抗体が結合する「ヒト由来のMANSC1蛋白質(NCBI Reference Sequence:NM_018050.2)」は、細胞膜に存在し、細胞外ドメインのN末端側に、高度に保存された7つのシステイン配列を含むモチーフを有する蛋白質である。ヒト由来のMANSC1蛋白質は、431アミノ酸配列からなる蛋白質であり、そのうち、N末端から26アミノ酸部分をシグナル配列、27番目から385番目までを細胞外領域、386番目から408番目までを膜貫通領域、409番目以降を膜内領域とする膜貫通型蛋白質であると推定される。典型的なヒト由来のMANSC1蛋白質のアミノ酸配列を配列番号:2に、MANSC1遺伝子の塩基配列を配列番号:1に示す。ヒト由来のMANSC1蛋白質は、このような典型的なアミノ酸配列を有するもの以外に、天然においてアミノ酸が変異したものも存在しうる。従って、本発明における「ヒト由来のMANSC1蛋白質」は、好ましくは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質であるが、それ以外に、配列番号:2で表されるアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなるものも含まれる。アミノ酸配列の置換、欠失、挿入もしくは付加は、一般的には、10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内、1アミノ酸)である。
【0019】
本発明において「抗癌活性」とは、in vitroおよび/またはin vivoにおいて、癌細胞の増殖を抑制する活性を意味する。抗癌活性は、例えば、実施例8に記載のMTTアッセイあるいは実施例9に記載の担癌モデルを用いた解析により評価することができる。本発明の抗体の好ましい態様は、実施例8に記載のMTTアッセイを行った場合に、抗体添加72時間後において、胃癌細胞株(例えば、GCIY)の増殖を、対照と比較して、50%以上(例えば、60%以上、70%以上)抑制する抗体である。本発明の抗体の他の好ましい態様は、実施例8に記載のMTTアッセイを行った場合に、抗体添加72時間後において、グリオーマ細胞株(例えば、T98G)の増殖を、対照と比較して、50%以上(例えば、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上)抑制する抗体である。本発明の抗体の他の好ましい態様は、実施例9に記載の担癌モデルを用いた解析により、抗体投与3週間後において、腫瘍体積を、対照と比較して、30%以上(例えば、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上)減少させる抗体である。本発明の抗体の他の好ましい態様は、実施例9に記載の担癌モデルを用いた解析により、抗体投与3週間後において、摘出腫瘍重量を、対照と比較して、20%以上(例えば、25%以上、30%以上、35%以上)減少させる抗体である。抗癌剤として用いる場合、これら抗体は、さらに、投与対象の体重を減少させないという特性を持つことが好ましい。本発明の抗体は、上記の活性を複数併せ持つことが特に好ましい。
【0020】
本発明の抗体の他の好ましい態様は、軽鎖CDR1〜CDR3(配列番号:3〜配列番号:5に記載のアミノ酸配列)を含む軽鎖可変領域と、重鎖CDR1〜CDR3(配列番号:6〜配列番号:8に記載のアミノ酸配列)を含む重鎖可変領域を保持する抗体である。例えば、軽鎖可変領域が配列番号:10に記載のアミノ酸配列(または該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列)からなり、重鎖可変領域が配列番号:12に記載のアミノ酸配列(または該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列)からなる抗体が挙げられる。
【0021】
一旦、軽鎖可変領域が配列番号:10に記載のアミノ酸配列からなり、重鎖可変領域が配列番号:12に記載のアミノ酸配列からなる抗体が得られた場合、当業者であれば、その抗体が認識するヒト由来のMANSC1蛋白質上のペプチド領域(エピトープ)を特定して、その領域に結合し、かつ、抗癌活性を示す種々の抗体を作製することができる。抗体のエピトープは、ヒト由来のMANSC1蛋白質のアミノ酸配列から得られたオーバーラップする合成オリゴペプチドへの結合を調べるなどの周知の方法によって決定することができる(例えば、Ed Harlow and D.Lane, Using Antibodies, a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press,、米国特許4708871号)。ファージディスプレイによるペプチドライブラリーをエピトープマッピングに用いることもできる。二つの抗体が同一または立体的に重なり合ったエピトープと結合するかどうかは、競合アッセイ法により決定することができる。本発明の抗体が認識するMANSC1蛋白質上のペプチド領域は、好ましくは、MANSC1蛋白質の細胞外領域である。本発明の抗体が認識するMANSC1蛋白質の細胞外領域は、好ましくは、MANSC1蛋白質のアミノ酸配列の61位から153位の範囲内の領域である。
【0022】
本発明の抗体には、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、および、これら抗体の機能的断片が含まれる。本発明の抗体を医薬としてヒトに投与する場合は、副作用低減の観点から、キメラ抗体、ヒト化抗体、あるいはヒト抗体が望ましい。
【0023】
本発明において「キメラ抗体」とは、ある種の抗体の可変領域とそれとは異種の抗体の定常領域とを連結した抗体である。キメラ抗体は、例えば、抗原をマウスに免役し、そのマウスモノクローナル抗体の遺伝子から抗原と結合する抗体可変部(可変領域)を切り出して、ヒト骨髄由来の抗体定常部(定常領域)遺伝子と結合し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入して産生させることにより取得することができる(例えば、特開平8-280387号公報、米国特許第4816397号公報、米国特許第4816567号公報、米国特許第5807715号公報)。また、本発明において「ヒト化抗体」とは、非ヒト由来の抗体の抗原結合部位(CDR)の遺伝子配列をヒト抗体遺伝子に移植(CDRグラフティング)した抗体であり、その作製方法は、公知である(例えば、EP239400、EP125023、WO90/07861、WO96/02576参照)。本発明において、「ヒト抗体」とは、すべての領域がヒト由来の抗体である。ヒト抗体の作製においては、ヒトB細胞より活性のある抗体の産生をスクリーニングする方法、ファージディスプレイ法、免疫することで、ヒト抗体のレパートリーを生産することが可能なトランスジェニック動物(例えばマウス)を利用すること等が可能である。ヒト抗体の作製手法は、公知である(例えば、Nature, 362:255-258(1993)、Intern. Rev. Immunol, 13:65-93(1995)、J. Mol. Biol, 222:581-597(1991)、Nature Genetics, 15:146-156(1997)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97:722-727(2000)、特開平10-146194号公報、特開平10-155492号公報、特許2938569号公報、特開平11-206387号公報、特表平8-509612号公報、特表平11-505107号公報)。
【0024】
本発明において抗体の「機能的断片」とは、抗体の一部分(部分断片)であって、ヒト由来のMANSC1蛋白質を特異的に認識するものを意味する。具体的には、Fab、Fab’、F(ab’)2、可変領域断片(Fv)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv(scFv)、sc(Fv)2、ダイアボディー、多特異性抗体、およびこれらの重合体などが挙げられる。
【0025】
ここで「Fab」とは、1つの軽鎖および重鎖の一部からなる免疫グロブリンの一価の抗原結合断片を意味する。抗体のパパイン消化によって、また、組換え方法によって得ることができる。「Fab'」は、抗体のヒンジ領域の1つまたはそれより多いシステインを含めて、重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端でのわずかの残基の付加によって、Fabとは異なる。「F(ab’)2」とは、両方の軽鎖と両方の重鎖の部分からなる免疫グロブリンの二価の抗原結合断片を意味する。
【0026】
「可変領域断片(Fv)」は、完全な抗原認識および結合部位を有する最少の抗体断片である。Fvは、重鎖可変領域および軽鎖可変領域が非共有結合により強く連結されたダイマーである。「一本鎖Fv(scFv)」は、抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、これらの領域は、単一のポリペプチド鎖に存在する。「sc(Fv)2」は、2つの重鎖可変領域および2つの軽鎖可変領域をリンカー等で結合して一本鎖にしたものである。「ダイアボディー」とは、二つの抗原結合部位を有する小さな抗体断片であり、この断片は、同一ポリペプチド鎖の中に軽鎖可変領域に結合した重鎖可変領域を含み、各領域は別の鎖の相補的領域とペアを形成している。「多特異性抗体」は、少なくとも2つの異なる抗原に対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。例えば、二つの重鎖が異なる特異性を持つ二つの免疫グロブリン重鎖/軽鎖対の同時発現により調製することができる。
【0027】
本発明においては、本発明において同定されたCDRを含む抗体の軽鎖若しくは重鎖またはそれらの可変領域からなるペプチドを提供する。好ましいペプチドは、配列番号:3から5に記載のアミノ酸配列を含む本発明の抗体の軽鎖またはその可変領域からなるペプチドであり、特に好ましくは、配列番号:10に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列を含むペプチドである。他の好ましいペプチドは、配列番号:6から8に記載のアミノ酸配列を含む本発明の抗体の重鎖またはその可変領域からなるペプチドであり、特に好ましくは、配列番号:12に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列を含むペプチドである。これらペプチドを、例えば、リンカー等により連結することで、機能的な抗体を作製することが可能である。
【0028】
本発明の抗体には、望ましい活性(抗原への結合活性、抗癌活性、および/または他の生物学的特性)を減少させることなく、そのアミノ酸配列が修飾された抗体が含まれる。本発明の抗体のアミノ酸配列変異体は、本発明の抗体鎖をコードするDNAへの変異導入によって、またはペプチド合成によって作製することができる。そのような修飾には、例えば、本発明の抗体のアミノ酸配列内の残基の置換、欠失、付加および/または挿入を含む。抗体のアミノ酸配列が改変される部位は、改変される前の抗体と同等の活性を有する限り、抗体の重鎖または軽鎖の定常領域であってもよく、また、可変領域(フレームワーク領域およびCDR)であってもよい。CDR以外のアミノ酸の改変は、抗原との結合親和性への影響が相対的に少ないと考えられるが、現在では、CDRのアミノ酸を改変して、抗原へのアフィニティーが高められた抗体をスクリーニングする手法が公知である(PNAS, 102:8466-8471(2005)、Protein Engineering, Design & Selection, 21:485-493(2008)、国際公開第2002/051870号、J. Biol. Chem., 280:24880-24887(2005)、Protein Engineering, Design & Selection, 21:345-351(2008))。
【0029】
改変されるアミノ酸数は、好ましくは、10アミノ酸以内、より好ましくは5アミノ酸以内、最も好ましくは3アミノ酸以内(例えば、2アミノ酸以内、1アミノ酸)である。アミノ酸の改変は、好ましくは、保存的な置換である。本発明において「保存的な置換」とは、化学的に同様な側鎖を有する他のアミノ酸残基で置換することを意味する。化学的に同様なアミノ酸側鎖を有するアミノ酸残基のグループは、本発明の属する技術分野でよく知られている。例えば、酸性アミノ酸(アスパラギン酸およびグルタミン酸)、塩基性アミノ酸(リシン・アルギニン・ヒスチジン)、中性アミノ酸においては、炭化水素鎖を持つアミノ酸(グリシン・アラニン・バリン・ロイシン・イソロイシン・プロリン)、ヒドロキシ基を持つアミノ酸(セリン・トレオニン)、硫黄を含むアミノ酸(システイン・メチオニン)、アミド基を持つアミノ酸(アスパラギン・グルタミン)、イミノ基を持つアミノ酸(プロリン)、芳香族基を持つアミノ酸(フェニルアラニン・チロシン・トリプトファン)で分類することができる。また、「同等の活性を有する」とは、抗原への結合活性または抗癌活性が対象抗体(代表的には、ACT35-51_1B4A7D抗体)と同等(例えば、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上)であることを意味する。抗原への結合活性は、例えば、抗原を発現するBa/F3細胞を作製し、抗体サンプルとの反応性をフローサイトメーターで解析することにより評価することができる(実施例4、11)。また、抗癌活性は、上記した通り、例えば、実施例8に記載のMTTアッセイあるいは実施例9に記載の担癌モデルを用いた解析により評価することができる。
【0030】
また、本発明の抗体の改変は、例えば、グリコシル化部位の数または位置を変化させるなどの抗体の翻訳後プロセスの改変であってもよい。これにより、例えば、抗体のADCC活性を向上させることができる。抗体のグリコシル化とは、典型的には、N-結合またはO-結合である。抗体のグリコシル化は、抗体を発現するために用いる宿主細胞に大きく依存する。グリコシル化パターンの改変は、糖生産に関わる特定の酵素の導入または欠失などの公知の方法で行うことができる(特開2008-113663、米国特許第5047335号、米国特許第5510261号、米国特許第5278299号、国際公開第99/54342号)。さらに、本発明においては、抗体の安定性を増加させる等の目的で脱アミド化されるアミノ酸若しくは脱アミド化されるアミノ酸に隣接するアミノ酸を他のアミノ酸に置換することにより脱アミド化を抑制してもよい。また、グルタミン酸を他のアミノ酸へ置換して、抗体の安定性を増加させることもできる。本発明は、こうして安定化された抗体をも提供するものである。
【0031】
本発明の抗体は、ポリクローナル抗体であれば、抗原(ヒト由来のMANSC1蛋白質、その部分ペプチド、またはこれらを発現する細胞など)で免疫動物を免疫し、その抗血清から、従来の手段(例えば、塩析、遠心分離、透析、カラムクロマトグラフィーなど)によって、精製して取得することができる。また、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法や組換えDNA法によって作製することができる。
【0032】
ハイブリドーマ法としては、代表的には、コーラーおよびミルスタインの方法(Kohler & Milstein, Nature, 256:495(1975))が挙げられる。この方法における細胞融合工程に使用される抗体産生細胞は、抗原(ヒト由来のMANSC1蛋白質、その部分ペプチド、またはこれらを発現する細胞など)で免疫された動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、ヤギ)の脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血白血球などである。免疫されていない動物から予め単離された上記の細胞またはリンパ球などに対して、抗原を培地中で作用させることによって得られた抗体産生細胞も使用することが可能である。ミエローマ細胞としては公知の種々の細胞株を使用することが可能である。抗体産生細胞およびミエローマ細胞は、それらが融合可能であれば、異なる動物種起源のものでもよいが、好ましくは、同一の動物種起源のものである。ハイブリドーマは、例えば、抗原で免疫されたマウスから得られた脾臓細胞と、マウスミエローマ細胞との間の細胞融合により産生され、その後のスクリーニングにより、ヒト由来のMANSC1蛋白質に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。ヒト由来のMANSC1蛋白質に対するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマを培養することにより、また、ハイブリドーマを投与した哺乳動物の復水から、取得することができる。
【0033】
組換えDNA法は、上記本発明の抗体またはペプチドをコードするDNAをハイブリドーマやB細胞等からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞(例えば哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞など)に導入し、本発明の抗体を組換え抗体として産生させる手法である(例えば、P.J.Delves, Antibody Production: Essential Techniques, 1997 WILEY、P.Shepherd and C. Dean Monoclonal Antibodies, 2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS、Vandamme A.M. et al., Eur. J. Biochem. 192:767-775(1990))。本発明の抗体をコードするDNAの発現においては、重鎖または軽鎖をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよく、重鎖および軽鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよい(WO94/11523号公報参照)。本発明の抗体は、上記宿主細胞を培養し、宿主細胞内または培養液から分離・精製し、実質的に純粋で均一な形態で取得することができる。抗体の分離・精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている方法を使用することができる。トランスジェニック動物作製技術を用いて、抗体遺伝子が組み込まれたトランスジェニック動物(ウシ、ヤギ、ヒツジまたはブタなど)を作製すれば、そのトランスジェニック動物のミルクから、抗体遺伝子に由来するモノクローナル抗体を大量に取得することも可能である。
【0034】
本発明は、上記本発明の抗体またはペプチドをコードするDNA、該DNAを含むベクター、該DNAを保持する宿主細胞、および該宿主細胞を培養し、抗体を回収することを含む抗体の生産方法をも提供するものである。
【0035】
本発明の抗体は、抗癌活性を有することから、癌の治療または予防に利用することができる。従って、本発明は、本発明の抗体を有効成分とする抗癌剤、および、本発明の抗体の治療上または予防上の有効量を、ヒトを含む哺乳類に投与する工程を含んでなる、癌の治療または予防の方法をも提供するものである。本発明の治療または予防の方法は、ヒト以外にも、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウサギなどを含各種哺乳動物に応用することが可能である。
【0036】
本実施例において、本発明の抗体は、癌の中でも、特に胃癌細胞とグリオーマ細胞の増殖を強く抑制したことから、胃癌(例えば、スキルス胃癌)やグリオーマの治療または予防に特に効果的である。
【0037】
本発明の抗体を有効成分とする抗癌剤は、本発明の抗体と任意の成分、例えば生理食塩水、葡萄糖水溶液またはリン酸塩緩衝液などを含有する組成物の形態で使用することができる。本発明の抗癌剤は、必要に応じて液体または凍結乾燥した形態で製形化しても良く、任意に薬学的に許容される担体もしくは媒体、例えば、安定化剤、防腐剤、等張化剤などを含有させることもできる。
【0038】
薬学的に許容される担体としては、凍結乾燥した製剤の場合、マンニトール、ラクトース、サッカロース、ヒトアルブミンなどを例として挙げることができ、液状製剤の場合には、生理食塩水、注射用水、リン酸塩緩衝液、水酸化アルミニウムなどを例として挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
抗癌剤の投与方法は、投与対象の年齢、体重、性別、健康状態などにより異なるが、経口投与、非経口投与(例えば、静脈投与、動脈投与、局所投与)のいずれかの投与経路で投与することができる。好ましい投与方法は、非経口投与である。抗癌剤の投与量は、患者の年齢、体重、性別、健康状態、癌の進行の程度および投与する抗癌剤の成分により変動しうるが、一般的に静脈内投与の場合、成人には体重1kg当たり1日0.1〜1000mg、好ましくは1〜100mgである。
【0040】
本発明の抗体は、癌の治療や予防のみならず、癌の診断への応用も考えられる。本発明の抗体を癌の診断に用いる場合あるいは癌の治療における腫瘍部位の検出に用いる場合、本発明の抗体は、標識したものであってもよい。標識としては、例えば、放射性物質、蛍光色素、化学発光物質、酵素、補酵素を用いることが可能であり、具体的には、ラジオアイソトープ、フルオレセイン、ローダミン、ダンシルクロリド、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、リゾチーム、ビオチン/アビジンなどが挙げられる。本発明の抗体を診断剤として調剤するには、合目的な任意の手段を採用して任意の剤型でこれを得ることができる。例えば、精製した抗体についてその抗体価を測定し、適当にPBS(Phosphate buffer saline,生理食塩を含むリン酸緩衝液)等で希釈した後、0.1%アジ化ナトリウム等を防腐剤として加えることができる。また、例えば、ラテックス等に本発明の抗体を吸着させたものについて抗体価を求め、適当に希釈し、防腐剤を添加して用いることもできる。
【0041】
また、本発明において、MANSC1蛋白質に対する抗体が抗癌活性を有することが判明したことから、MANSC1蛋白質またはその部分ペプチドを癌ワクチンとして、ヒトを含む哺乳動物に投与することも可能である(例えば、特開2007-277251、特開2006-052216を参照のこと)。本発明は、このような癌ワクチン用途に用いられる、MANSC1蛋白質またはその部分ペプチドを含む癌ワクチン組成物をも提供するものである。製剤化する場合には、上記本発明の抗癌剤と同様に、薬学的に許容される担体もしくは媒体、例えば、安定化剤、防腐剤、等張化剤などを含有させることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0043】
[実施例1] SST-REXの実施
スキルス胃癌株化細胞GCIY細胞細胞表面に発現している膜あるいは分泌遺伝子情報を網羅的に得るためにSST-REXを実施した。
【0044】
(1)cDNAの作製
GCIY細胞2×107個をTrizol(invitrogen、#15596-026)1mlに懸濁して5分放置し、クロロフォルムを200μl添加して15秒間懸濁後、12,000×gで15分間遠心した。この遠心後の上清と500μlのイソプロパノールを混ぜ合わせた後、12,000×gで10分間遠心した。得られたペレットを80%エタノールで洗浄し、全RNA 200μg以上を得て、以後の実験に供した。
【0045】
得られた全RNAすべてを100μlの水に溶かし、FastTrack2.0 mRNA Isolation kit(invitrogen、#K1593-02)を用いて、mRNA 3μgを得た。SuperScriptTM Choice System(invitorgen、#18090-019)を用いて、得られたmRNAから2本鎖cDNAの作製を行った。
【0046】
なお、GCIY細胞は、BorrmanIV型胃癌および、その腹膜播種性転移に罹患した女性の淡血性黄色透明手術時の腹水から樹立された胃癌細胞株であり、多剤耐性遺伝子(mdr-1)の発現、ならびに、CEA、CA19-9、およびαFPの分泌が見られる低分化型腺癌細胞である。
【0047】
(2)pMX-SSTベクターへのcDNA配列の組み込み(キメラ化)
レトロウイルスベクターpMX-SSTに得られたcDNAを組み込むためにpMX-SSTベクター(Nature Biotechnology 17:487-490(1999))5μgを制限酵素BstXIを用いて、100μlの反応系で45℃で4時間切断処理した。反応液すべてを1%アガロースゲルにて電気泳動し、ベクター部位に相当する約5000塩基の長さのDNA断片を切り出した。さらにWizard(R) SV Gel and PCR Clean-Up System(promega、#A9282)を用いて、約5000塩基の長さのDNA断片を精製した。このようにして得られたDNA断片をpMX-SSTベクターをBstXIで制限酵素処理したものとし、これを1μl当たり50ナノグラム含む水溶液となるよう調製した。
【0048】
先に調製した2本鎖cDNAは、平滑末端であり、BstXIで制限酵素処理したpMX-SSTと直接結合させることはできない。そこで、2本鎖cDNAの両端にBstXIの制限酵素切断後のDNA配列を持たせるための作業を行った。BstXI Adapter(invitorgen、#N408-18)9μgを10μlの水に溶かしたBstXI Adapter水溶液に2本鎖cDNAを溶かした。これにLigationHigh(TOYOBO#LGK-201)を5μl添加し、懸濁して、16℃で16時間反応させて、BstXI Adapterと2本鎖cDNAとを結合させた。その後、SuperScriptTM Choice System(invitorgen、#18090-019)に添付のサイズ分画カラムを用いて、鎖長が約400塩基以下のDNA断片を除去した。その後、得られた容量の10分の1量の3M酢酸ナトリウムと2.5倍量のエタノールを添加し、転倒混和した後、20,400×gで30分遠心した。遠心後の上清を除去して得た沈殿を15μlの水に溶かし、1.5%のアガロースゲルにて電気泳動した。その後、約500塩基から約4000塩基の長さを持った2本鎖cDNA断片とBstXI Adapterとの結合体を含んだゲルを切り出し、Wizard(R) SV Gel and PCR Clean-Up System(promega #A9282)を用いて、2本鎖cDNAとBstXI Adapterとの結合体を精製した。
【0049】
BstXIで制限酵素処理したpMX-SSTベクター50ng、取得した2本鎖cDNAとBstXI Adapterとの結合体の全量、およびT4 DNA ligaseを、20μlの反応系にて室温で3時間処理し、pMX-SSTベクターをBstXIで制限酵素処理したものと上記結合体とを結合させた。反応液の組成は能書にしたがって調整した。
【0050】
(3)cDNAライブラリの増幅
pMX-SSTベクターを用いて構築したcDNAライブラリを大腸菌に導入して増幅を行った。cDNAライブラリに、5μgのtRNA、12.5μlの7.5M酢酸ナトリウム、および70μlのエタノールを加え、転倒混和した後、20,400×gで30分遠心し、上清を捨て沈殿を得た。得られた沈殿に500μlの70%エタノールを加え、20,400×gで5分遠心し、上清を捨て得られた沈殿を10μlの水に溶かした。cDNAを大腸菌内で増幅させるために、そのうちの2μlを、コンピテントセル(invitrogen、#18920−015)23μlと混ぜ、1.8kVの条件でエレクトロポレーションを行い、1mlのSOC培地に全量を懸濁した。この作業を2回行い、大腸菌を懸濁したSOC培地を37℃で90分間、振とう培養した。その後、この培養溶液全量を、培地1ml当たりアンピシリン100μgを含むLB培地500mlに投入し、37℃で16時間、振とう培養した。
【0051】
cDNAライブラリの大腸菌への導入数、およびpMX-SSTベクターと結合したcDNAの鎖長を確認するために、培養液5μlを取り出し、50μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地にプレーティングした。
【0052】
その結果、5μlをプレーティングしたLB寒天培地に150個のコロニーの生育が見られた。これにより培養液500ml中に1.5×107個の独立したcDNAライブラリがあると考えられた。また、コロニーのうち任意の16個についてプラスミドを抽出し、制限酵素BstXIで制限酵素処理し、処理物を1%アガロースゲルにて電気泳動を行い、pMX-SSTベクター上のcDNAの長さを計測した。その結果、平均値は約1000塩基であった。
【0053】
残りの培養液から集菌し、10 NucleoBond(R) AX 500 columns(日本ジェネティクス、#740574)を用いてプラスミドを精製し、増幅されたcDNAライブラリ系を確立した。
【0054】
(4)cDNAライブラリのパッケージングおよびSST-REX法の実施
cDNAライブラリ由来遺伝子が組み込まれたpMX-SSTレトロウイルスベクターRNAを含むレトロウイルスを産生させるため、ウイルスパッケイジング細胞Plat-E(Gene Ther. 7(12):1063-6(2000)Jun)2×106個を、4mlのDMEM培地(Wako、#044-29765)を含む6cmディッシュに懸濁し、37℃で5%CO2の条件で24時間培養した。一方、100μlのopti-MEM(GIBCO、#31985070)と9μlのFugene(Roche、#1814443)を混ぜ、5分室温で放置後、3μgのcDNAライブラリを添加し、15分室温で放置した。cDNAライブラリを含む溶液を、培養後のPlat-E細胞に滴下し、24時間後に上清を入れ替えて同一条件で培養を続けた。さらに24時間後の上清を0.45μmのフィルターを通してろ過した。
【0055】
この取得したろ過上清0.5mlを、4×106個のBa/F3細胞を含むRPMI-1640(コージンバイオ)培地9.5mlが入れられた10cm dish中に加えた。
【0056】
さらに10μlのポリブレン(CHEMICON、#TR-1003-G)と10ngのIL-3を添加し、24時間培養した。その後、細胞を3回RPMI-1640培地で洗浄し、新しいRPMI-1640培地200mlに懸濁して96ウェルプレート20枚に均等分量になるようにまき、Ba/F3細胞の自律増殖能に基づくセレクションおよびクローニングを試みた。10日後から20日後までに増殖が見られた細胞をSST-REXに基づいて選抜されたものとし、該細胞が各ウェルいっぱいに増殖するまでさらに培養を続けた。
【0057】
(5)SST-REXで得られた遺伝子産物の解析
各ウェルから得られた細胞の半分量は拡大培養して、細胞ストックとした。さらに、細胞ストックからの細胞を培養して、組み込まれたcDNA由来のペプチド分子を細胞外に発現するトランスフェクタントBa/F3細胞を、抗体作製のための免疫源細胞として、また、スクリーニング対象の細胞として用いた。各ウェルから得られた細胞の残り半分からはゲノムを抽出してシークエンスを行い、導入されたcDNA由来の遺伝子を解析した。シークエンスにおいては、得られたゲノムに対して、LA taq DNA polymerase(Takara、#RR002)またはPrimeSTAR MAX DNA polymerase(TaKaRa、#R045A)を用いて、PCRを行った。PCRプライマーには、以下の配列を用いた。
SST3'側−T7 5'-TAATACGACTCACTATAGGGCGCGCAGCTGTAAACGGTAG-3'(配列番号:13)
SST5'側−T3 5'-ATTAACCCTCACTAAAGGGAGGGGGTGGACCATCCTCTA-3'(配列番号:14)
PCR産物をWizard(R) SV Gel and PCR Clean-Up System(promega、#A9282)などを用いて精製した。その後、精製したPCR産物について、BigDye Terminator v3.1 Cycle sequencing(ABI、#4337456)およびDNAシークエンサーABI3100XLを用いて、シークエンスを行った。シークエンスのプライマーには以下のものを用いた。
SST5'側−T3 5'-ATTAACCCTCACTAAAGGGAGGGGGTGGACCATCCTCTA-3'(配列番号:15)
得られたシークエンスデータは、BLAST検索(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)とSignalP 3.0 Server(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)を利用して解析した。
【0058】
上記の通り、細胞を材料として、SST-REX法を実施した結果、1回目の実施では、87個のトランスフェクタントBa/F3細胞からのcDNA由来の遺伝子のシークエンスを行い、異なる遺伝子40種類を取得できた。2回目の実施では176個のトランスフェクタントBa/F3細胞からのcDNA由来の遺伝子のシークエンスを行い、異なる遺伝子56種類を取得できた。なお、1回目と2回目で重複した遺伝子が15種類あり、2度の実施で合計81種類のcDNA由来の遺伝子を取得することができた。遺伝子解析に供したトランスフェクタントBa/F3細胞系には、cDNA由来の遺伝子1種類のみ含まれていることを確認し、以降の実験に供した(以後このようにして得られたcDNA由来遺伝子を含む細胞を「SSTクローン細胞」と称する)。
【0059】
[実施例2] MANSC1全長遺伝子のクローニングと、それを発現するBa/F3細胞株の樹立
さらに、実施例1で得られたcDNA由来遺伝子リスト中に含まれた、MANSC1遺伝子について、遺伝子全長を含むSSTクローン細胞を得るためにクローニングを行った。
【0060】
GCIY細胞のSST-REXで作製したcDNAのうち30ngをテンプレートとし、NCBIのヌクレオチド検索サイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nucleotide)におけるNM_018050.2の情報に基づく設計プライマーとPrimeSTAR MAX DNA polymerase(TaKaRa、#R045A)を用い、PCR反応を行った。
フォワードプライマー:ccggaattcatccttgacctttgaagacc(配列番号:16)
リバースプライマー:ttttccttttgcggccgcgatgtccacatagatcccat(配列番号:17)
得られたPCR産物を1%アガロースゲルで電気泳動し、目的の長さのDNA断片をゲルから抽出した。抽出したDNA断片をEcoRI(TaKaRa社製 #1040A)とNotI(TaKaRa、#1166A)で制限酵素処理した。同時に、pMX-SSTベクターについても、EcoRIとNotIで制限酵素処理した。制限酵素処理したDNA断片100ngとpMX-SSTベクター40ngとをLigationHigh(TOYOBO、#LGK-201)を用いて、2時間かけて結合させた。
【0061】
結合させたもの全量に、熱ショック用の大腸菌コンピテントセルを100μl加え、氷上に30分放置した後、42℃で90秒インキュベートし、その後1mlのLB培地を加え37℃で1時間インキュベートした。その後、15,000×gで1分の遠心を行い、上清を除去し、残存液で大腸菌ペレットを懸濁した。この全量をアンピシリン50μg/mL含むLB寒天培地に塗りこみ、37℃で1晩インキュベートし、得られたコロニーを用いて、実施例1(4)のシークエンス解析と同様の方法で、PCRおよびシークエンス解析を行った。目的の長さのDNA断片が確認できたクローンについては、PCR産物をシークエンスして、目的の配列が挿入されていることを確認した。なお、シークエンス解析の際のPCR用ポリメラーゼにはPrimeSTAR MAX DNA polymeraseを用いた。
【0062】
その後、目的の配列が挿入されているコロニーをLB液体培地3mlに植菌し、37℃で1晩の培養を行った。培養物全量に対して、3,000×g、15分の遠心を行い、上清を除去し、QuickLyse Miniprep Kit(QIAGEN、#27406)を用いて精製し、MANSC1遺伝子全長を含むプラスミドを得た。
【0063】
その後、得られたプラスミドを用いて、実施例1(4)以降に示すcDNAライブラリのパッケージング以降と同様の操作にて、ベクターを含むレトロウイルスの作製を行った。次いで、全長MANSC1遺伝子を発現するBa/F3細胞株を樹立し、以降の実験に供した。
【0064】
[実施例3] MANSC1モノクローナル抗体の作製
免疫動物はマウスBalb/cを使用し、まず、免疫賦活剤として、TiterMax Gold(Alexis Biochemicals、ALX-510-002-L010)を等量のPBSと混和して乳化したもの50μlを投与した。翌日、MANSC1遺伝子を有するSSTクローン細胞を免疫原細胞として5×106個投与し、さらに免疫原細胞を2日おきに4回注入した。最初の免疫から約2週間後、摘出した二次リンパ組織をすりつぶし、抗体産生細胞を含む細胞集団を得た。それらの細胞と融合パートナー細胞を混合し、ポリエチレングリコール(MERCK、1.09727.0100)を用いた細胞融合によりハイブリドーマ]を作製した。融合パートナー細胞としては、マウスミエローマ細胞P3U1(P3-X63-Ag8.U1)を用いた。
【0065】
ハイブリドーマは、HAT(SIGMA、H0262)、5% BM-condimed(Roche、663573)、15%FBS、1%ペニシリン/ストレプトイマイシン溶液(GIBCO、15140-122、Penicillin-streptomycin liquid、、以降「P/S」と略す)を含むRPMI1640(Wako)選択培地で10〜14日間培養した。次に、実施例4に示すフローサイトメトリーにより免疫原細胞に反応し、免疫源細胞に抗原遺伝子を含まないSSTクローン細胞(陰性対照細胞)に反応しないハイブリドーマを選択した。限界希釈によりモノクローン化し、抗MANSC1抗体ACT35-51_1A4B7Dを産生するハイブリドーマクローンを得た(図1)。
【0066】
得られたハイブリドーマは、必要量HT(SIGMA、HT media supplement(50X)Hybri-Max (Sigma-Aldrich H0137)、15% FBS、1% P/S溶液を含むRPMI-1640培地を用いて、維持した。産生抗体のアイソタイプを、アイソストリップキット(Roche、1493027)を用いて決定した結果、IgG2a/κであった。
【0067】
モノクローン化されたハイブリドーマからの精製されたACT35-51_1B4A7D抗体の取得は、次のように行った。ハイブリドーマを無血清培地(Hybridoma-SFM:GIBCO、12045-076)に馴化して拡大培養後、一定期間培養して培養上清を得た。次いで、この培養上清に含まれるIgG画分をProtein A セファロース(GEヘルスケア、17-1279-03)、MAPS-II結合バッファー(BIO-RAD、153-6161)、MAPS-II溶出バッファー(BIO-RAD、153-6162)を用いて精製した。溶出されたIgGをPBSで透析し、精製抗体画分を得た。
【0068】
[実施例4] フローサイトメトリーを用いた抗体スクリーニング
ACT35-51_1B4A7D抗体と、各種細胞(目的遺伝子を発現するBa/F3細胞、目的遺伝子を発現していないBa/F3細胞、各種癌細胞など)との反応性を、フローサイトメトリーを用いて解析した。
【0069】
本実施例においては、細胞懸濁バッファーおよび以降の洗浄バッファーには、0.5% BSAと2mM EDTAを含有するPBSを用いた。抗体と反応させる各種細胞(対象細胞)を、96穴プレート(BD Falcon、353911)に、細胞懸濁液が1ウェルあたり5×104個の細胞を含み100μlに成るよう調整し、分注した。
【0070】
また、染色対象の細胞が癌細胞株の場合は、80%コンフルエントになった時点でCell Dissociation Buffer(GIBCO、13151-014)を用いて培養プレートから剥がして回収した。
【0071】
細胞懸濁液の各サンプルに、ハイブリドーマ培養上清あるいは2μg/mlの精製抗体(以降、「抗体溶液」と称する)50μlを添加し、抗体と細胞とを反応させた。抗体溶液のアイソタイプ対照抗体としては、mouse IgG1(BioLegend、400412)、mouse IgG2a(BioLegend、400224)、mouse IgG2b(BioLegend、400324)をそれぞれ2μg/mlずつ含む洗浄バッファーを用いた。ハイブリドーマの培養上清と対象細胞を室温で30分反応後、700×gで2分間の遠心を行って培養上清を除去し、さらに洗浄バッファーを100μl加え、再度700×gで2分間の遠心を行って上清を除去し、細胞を洗浄した。
【0072】
次に、洗浄後の細胞ペレットに、検出用2次抗体として、Goat anti-mouse IgG, F(ab')2-PE(Beckman Coulter、IM0855)を洗浄バッファーで200倍に希釈したものを50μl添加し、暗所において室温で30分反応させた。反応後、700×gで2分間の遠心を行って上清を除去し、さらに洗浄バッファーを100μl加え、再度700×gで2分間の遠心を行って上清を除去し、細胞を洗浄した。その後、適当量の洗浄バッファーで細胞を懸濁し、フローサイトメーター(Beckman Coulter、FC500MPL)により、抗体と細胞の反応性について解析した。
【0073】
反応性の測定では、前方散乱と側方散乱の測定値より生細胞を選択するようにゲートをかけた。選択された生細胞に対して抗体との反応性に基づくPEの蛍光強度を測定し、アイソタイプ対照の反応強度を基準として、免疫原細胞に対して有意に反応性が認められるが、陰性対照細胞に対して反応性が認められない培養上清を産生するハイブリドーマ細胞を候補クローンとして選択した(図1)。
【0074】
抗体と各種細胞との反応性解析では、該抗体とアイソタイプ対照抗体との反応強度を基準として、有意に反応性が認められる抗体を選択した。
【0075】
[実施例5] 癌細胞を用いたフローサイトメトリー
染色対象とする癌細胞が80%コンフルエントになった時点でCell Dissociation Buffer(GIBCO、13151-014)を用いて培養プレートから剥がして回収し、回収した細胞1x105個を0.5% BSA、2mM EDTA/PBS(実施例4に示す洗浄バッファー)に100μlずつ懸濁し、96ウェルプレート(BD Falcon、353911)に分注した。以降実施例4と同様の方法で、癌細胞と抗体との反応性をフローサイトメーターを用いて解析した。
【0076】
ACT35-51_1B4A7D抗体との反応性を解析する癌細胞としては、胃癌細胞株であるGCIYを用いた。その結果、ACT36-27_5D1抗体はGCIYに対して有意に反応したが、ACT35-51_1B4A7D抗体においては、GCIYに対する有意な反応性を検出することはできなかった(図2)。
【0077】
[実施例6] 癌細胞の細胞染色
ACT35-51_1B4A7D抗体と各種癌細胞との反応性を、細胞染色により解析した。黒色96ウェルプレート(BD Falcon、353219)に、染色の対象とした癌細胞1x104個を100μlの培地に懸濁して播種し、24時間培養した。癌各種癌細胞の培地には、非働化処理した10%FBS(Equitech)および1%P/S溶液を含むDMEM培地(SIGMA)を用いた。本実施例では、洗浄バッファーとして、25mM HEPES(pH7.4)、120mM NaCl、4.8mM KCl、1.2mM MgSO4、1.3mM CaCl2を含有するバッファーを用いた。
【0078】
細胞表面のみを染色する場合、ハイブリドーマ培養上清もしくは精製抗体を2μg/mlで溶解させた洗浄バッファーを、700×gで2分間の遠心により培養上清を除去して得た細胞に対して、それぞれ50μl添加した。ACT35-51_1B4A7D抗体に対する陰性対照としては、mouse IgG1(BioLegend、400412)、mouse IgG2a(BioLegend、400224)、mouse IgG2b(BioLegend、400324)を2μg/mlの濃度で洗浄バッファーに溶解させ、50μl添加した溶液を用いた。各抗体を室温で30分反応後、700×gで2分間の遠心を行って上清を除去し、さらに洗浄バッファーを100μl加え、再度700×gで2分間の遠心を行って上清を除去して、細胞を洗浄した。
【0079】
洗浄後、Goat anti-mouse IgG,F(ab’)2-PE(Beckman Coulter、IM0855)を洗浄バッファーで200倍希釈し、さらに10mg/mlのHoechst33342(Invitrogen、H1399)を2,000倍希釈したものを「検出用2次抗体・核染色試薬」として、細胞に50μl添加し、室温で30分暗所にて反応させた。その後、上記と同様の洗浄を2回行い、100μlの洗浄バッファーを添加した後、In Cell Analyzer 1000(GEヘルスケア)を用いて細胞染色を観察した。
【0080】
細胞表面と細胞内部を染色する場合は、遠心にて細胞培養液上清を除去し、得られた細胞を100μlの洗浄バッファーで1回上記と同様に洗浄した。その後、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液(Wako、161-20141)を50μl添加し、室温で10分反応させて細胞を固定した。その後、100μlの洗浄バッファーで2回洗浄した。次に、0.1% Triton X-100を含有する洗浄バッファーを100μl添加し、室温で10分反応させて、細胞膜の透過性を高め、その後100μlの洗浄バッファーで2回洗浄した。それ以降は、細胞表面のみを染色する方法と同様にして、染色および解析を行った。細胞の観察は、Hoechst33342で染色される核を細胞の位置の基準とし、PEの蛍光を測定することで抗体による染色の有無を検討した。
【0081】
各種癌細胞株をACT35-51_1B4A7D抗体で細胞染色したところ、細胞表面のみの染色条件ではMANSC1を検出できなかった(図3A)。しかし、癌細胞を固定・膜透過処理を行うことで、GCIYとU87MGで反応性が見られた(図3B)。このことから、GCIYとU87MGにおいては、MANSC1が検出限界以上の量で発現しており、ACT35-51_1B4A7D抗体がそれに反応していると考えられた。ACT35-51_1B4A7D抗体は、GCIYとU87MGにおいて、膜透過処理を行わないと反応性が見られなかったことから、本抗体が反応するエピトープは細胞膜表面上には存在せず、切断および分泌されていると推測された。
【0082】
[実施例7] MANSC1トランスフェクタント培養上清を用いた免疫沈降
ACT35-51_1B4A7D抗体のエピトープは細胞外へ切断および分泌されている可能性が示唆されたことから、MANSC1発現細胞の培養上清を用いて免疫沈降を行った。癌細胞は無血清培地での培養が困難であるため、MANSC1遺伝子を293T細胞に一過性に発現させ、培地を無血清培地に置換後、濃縮したサンプルを用いて免疫沈降を行った。
【0083】
293T細胞を10cm培養ディッシュ10枚に播種し、80%コンフルエントになった段階でFugene6(Roche、#1814443)を用いて遺伝子導入を行った。遺伝子導入はディッシュ1枚あたり、Opti-MEM(GIBCO、#31985070)600μlとFugene6を18μl混合し、5分間室温で放置後、6μgのMANSC1のDNAコンストラクトを添加し、15分室温で放置した。その溶液を293Tの培養液に添加し、24時間後に血清を含まない4mlのDMEMで3回洗浄後、FreeStyle 293(GIBCO、#12338-018)を20ml添加して5日間培養を行った。対照として、ベクターのみを同様に遺伝子導入した293T細胞も作製した。
【0084】
5日の培養後、培養上清を回収し、0.22μmのフィルターろ過を行った後、Amicon Ultra(分画分子量3000、ミリポア、#UFC9 003 96)を用いて100倍濃縮した。
【0085】
濃縮した培養上清200μlにPBSを800μl加え、そこにProtein Aセファロース(GEヘルスケア、17-1279-03)を20μl加え、ローテーター(TAITEC、#RT-5)を用い4℃で30分攪拌して反応させることで、Protein Aセファロースに非特異的に結合する蛋白質を除去した。反応後、15000×g、4℃、5分間で遠心し培養上清を回収して、再度Protein Aセファロースを20μl加え、同様の手法で非特異的に反応する蛋白質を除去した。
【0086】
Protein Aセファロースに非特異的に反応する蛋白質を除去した培養上清に、ACT35-51_1B4A7D抗体、もしくはmouse IgG2a抗体を5μg加え、4℃で60分攪拌して反応させた。抗体の反応後、Protein Aセファロースを20μl加え、4℃で30分攪拌して反応させて免疫沈降した。免疫沈降後、15000×g、4℃、5分間で遠心し、上清を除去してProtein Aセファロースを回収した。回収したProtein AセファロースにPBSを500μlくわえ、4℃で5分攪拌して洗浄した。洗浄後、15000×g、4℃、5分間で遠心し、PBSを除去してProtein Aセファロースを回収した。この洗浄操作を3回繰り返した。
【0087】
洗浄後、Protein Aセファロースに20μlのSDS-PAGEサンプルバッファーを添加し、100℃で5分間煮沸した。サンプルバッファーを12.5%のSDS-PAGEに負荷し、30mAの電流をかけて電気泳動を行った。電気泳動後、PVDF膜に160mAの電流をかけて1時間転写した。転写後のPVDF膜を5%スキムミルクを室温で1時間反応させてブロッキングを行った。次に抗MANSC1ポリクローナル抗体(AVIVA systems、#ARP34359_P050)を5%スキムミルクで3000倍希釈したもの2.5mlを、室温で1時間反応させた。反応後PVDF膜を0.05%Tween20を含むPBS(以下、PBS-Tと称する)で3回洗浄後、抗ウサギIgG-POD(MBL、#458)を5%スキムミルクで5000倍希釈したもの2.5mlを、室温で1時間反応させた。反応後PVDF膜をPBS-Tで5回洗浄し、発色基質(ミリポア、Immobilon Western #WBKLS0500)を用いて発色させ、フィルムに15秒間感光させた。
【0088】
MANSC1を導入した293Tの培養上清では、ACT35-51_1B4A7D抗体で免疫沈降したものは10kDa近傍にMANSC1のシグナルが検出されたが、アイソタイプ対照で免疫沈降したものはシグナルが検出されなかった(図4)。また、ベクターのみを導入した293Tの培養上清ではアイソタイプ対照、ACT35-51_1B4A7D抗体で免疫沈降したもの共にシグナルは検出されなかった(図4)。これらの結果からも、MANSC1の一部は切断され、培養上清中に分泌する可能性が示唆された。
【0089】
[実施例8] ACT35-51_1B4A7Dモノクローナル抗体の癌細胞の増殖に対する効果(MTT)
ACT35-51_1B4A7D抗体の癌細胞の増殖に与える影響について、MTTアッセイを用いて解析した。各種癌細胞の培地には、前立腺癌細胞株AsPC1については非働化処理した10%FBS(Equitech、以降同じ)と1%P/Sを含むRPMI1640培地(WAKO)を、それ以外の癌細胞については非働化処理した10%FBSおよび1%P/S溶液を含むDMEM培地(SIGMA)を用いた。対象抗体を産生するハイブリドーマ用培地には、必要量のHT(Sigma-Aldrich、H0137、HT media supplement(50X) Hybri-Max)、15%FBS、1%P/S溶液を含むRPMI培地(Wako)を用いた。
【0090】
また、対照として、Mouse IgG1(BECKMAN COULTER、731581)、IgG2a(MBL、M076-3)、IgG2b(MBL、M077-3)、IgG3(MBL、M078-3)を各1μlずつ、1mlのハイブリドーマ用培地に溶かしたマウスアイソタイプ対照混合液を用いた。
【0091】
各実験は、抗体培養上清1試験あたり3ウェルずつ行った。各種癌細胞を、1ウェルあたり、100μl培地中で2×103個ずつ、96ウェルプレート(IWAKI)に播種し、5%CO2条件にて37℃で24時間インキュベートした。
【0092】
インキュベート後の96ウェルプレートに、ACT35-51_1B4A7D抗体を含む培養上清あるいはマウスアイソタイプ対照を1ウェルあたり100μlずつ添加し、72時間インキュベートした。遠心により培養上清を除去して得たそれぞれの細胞に対して、新鮮な培地に溶かして調整した5% WST-1溶液(vol./vol.、Roche、11 644 807 001)100μlを加え、1〜4時間インキュベートし、1時間おきにマイクロプレートリーダー(BIO-RAD)にて、WST-1の発色を測定した。
【0093】
グラフ化した測定結果を図5に示す。このデータは3時間後のWST-1の発色をO.D.値(O.D450nm-O.D.650nm)で示した。MTTアッセイにおいて、ACT35-51_1B4A7D抗体は、GCIY細胞の増殖を、アイソタイプ対照に比べ、約25%にまで抑制した(図5B)。即ち、約75%の増殖抑制効果があった。さらに、ACT35-51_1B4A7D抗体の細胞増殖抑制効果は、グリオーマ由来のT98G細胞において顕著に現れ、アイソタイプ対照に比べ、その増殖を約7%にまで抑制した(図5C)。即ち、約93%の増殖抑制効果が認められた。
【0094】
[実施例9] マウス担癌モデルに対する尾静脈投与による抗体の効果
ACT35-51_1B4A7D抗体のin vivoにおける抗腫瘍効果についてマウス担癌モデルを用いて検討した。
【0095】
6週齢雄のSCIDマウス(日本クレア株式会社より5週齢で購入)の頚背部皮下に、GCIY細胞が5×106個/0.2ml saline/マウス個体となるように、細胞懸濁液を移植した。移植後3週間目に生着した腫瘍の大きさを計測し、各群の平均腫瘍体積がおよそ55±5mm3となるように、担癌マウスを対照群、陽性対照群、ACT35-51_1B4A7D抗体群の3群に分け、1群を4匹とした。
【0096】
各群それぞれへのサンプル投与は、細胞移植後3週間目から担癌マウスの尾静脈に対して行った。対照群に生理食塩水(大塚生食注)を、陽性対照群にTaxotere(マウス個体あたり600μg、サノフィ・アベンティス)を、抗体投与群にACT35-51_1B4A7D抗体(10mg/kg)を、それぞれ週に1回(3週間連続で合計3回)尾静脈より投与した。また毎回の投与直前には体重計測および腫瘍計測を行った。体重計測は動物天秤を使用し、腫瘍計測はデジマチックキャリパーにて長径および短径を計測し、式「腫瘍体積(mm3)=0.5×長径×短径×短径」により腫瘍体積を求めた。
【0097】
腫瘍体積データを対照群と比較して、経時的な抗腫瘍効果を検討した。その結果、対照群では経時的に腫瘍は増大し、投与開始3週間後の実験終了時では、開始時の約25倍の腫瘍体積であった。これに対して、Taxotereを投与した群では投与開始後2週間目から腫瘍増殖抑制が観察され、実験終了となる3週間目では、実験開始時の約11倍程度に留まり、対照群に対する約59%の腫瘍体積抑制が観察された。また、ACT35-51_1B4A7D抗体を投与した群では投与開始後1週間目より、対照群に対して腫瘍増殖抑制傾向が観察され、実験終了時では、腫瘍体積は投与開始時の約16倍程度に留まり、対照群の腫瘍体積を約44%抑制した(図6)。
【0098】
各サンプルの投与開始から3週間後、剖検を行った。担癌マウスをエーテル麻酔致死後、頚背部皮下より腫瘍を摘出してその重量を計測し、各群の腫瘍重量を比較した。摘出腫瘍重量はそれぞれ、対照群1.33g、陽性対照群0.87g、ACT35-51_1B4A7D抗体群0.83gであった。ACT35-51_1B4A7D抗体を投与した群では、対照群と比較して、摘出腫瘍重量が約38%程度減少しており、陽性対照群と同程度の腫瘍増殖抑制効果が観察された(図7)。
【0099】
体重推移に関しては、陽性対照群では投与開始2週間後から体重減少が顕著に認められたが、ACT35-51_1B4A7D抗体群では体重の減少は認められなかった。剖検時体重から腫瘍重量を差し引いた算出体重においても、陽性対照群の体重減少は明らかであるが、ACT35-51_1B4A7D抗体群では体重の増加が観察された(図8)。
【0100】
なお、統計学的検定は一元配置分散分析(ANOVA)を行い、p<0.05で差のある場合にTukeyの多重比較法による有意差検定を行った。対照群に対して、危険率がp<0.05の場合に有意差ありと評価した。(*:p<0.05,**:p<0.01)
【0101】
[実施例10] 抗体可変領域決定方法
ACT35-51_1A4B7D抗体の可変領域の遺伝子配列を明らかにするため、ACT35-51_1B4A7D抗体産生細胞ハイブリドーマ細胞2×106をTrizol(invitrogen、#15596-026)1mlに懸濁し5分放置し、クロロフォルムを200μl添加して、15秒間懸濁後、12,000×gで15分間遠心し、上清を得た。この上清と500μlのイソプロパノールを混合した後、12,000×gで10分間遠心した。得られたペレットを80%エタノールで洗浄し、全RNA 40μgを得た。その全量を20μlの水で溶かした。そのうち、全RNA 5μg分の溶液を使用して、SuperScriptTM Choice System(invitorgen、#18090-019)を用いて、全RNAから2本鎖cDNAを作製した。得られた2本鎖cDNAをエタノール沈殿後、LigationHigh(TOYOBO#LGK-201)を用いて2本鎖cDNAの5’末端と3’末端を結合させ、そのうち1μlを鋳型としてPCRを行った。プライマーとしては、重鎖と軽鎖の定常領域に対して設計したものを使用した。プライマーの配列は、次の通りである。
重鎖5'側gtccacgaggtgctgcacaat(配列番号:18)
重鎖3'側gtcactggctcagggaaataacc(配列番号:19)
軽鎖5'側aagatggatacagttggtgc(配列番号:20)
軽鎖3'側tgtcaagagcttcaacagga(配列番号:21)
PCR産物を1.5%ゲルにて電気泳動を行った後、切り出して精製を行った。精製したDNAを用いてシークエンスを行った。軽鎖については、精製したDNAをクローニングした後、シークエンスを行った。決定された軽鎖の可変領域の塩基配列を配列番号:9に、アミノ酸配列を配列番号:10に、重鎖の可変領域の塩基配列を配列番号:11に、アミノ酸配列を配列番号:12に示す。
【0102】
また、これら可変領域のアミノ酸配列について、UCLの「Andrew C.R. Martin's Bioinformatics Group」のサイトにおける配列分析(http://www.bioinf.org.uk/abysis/tools/analyze.cgi)を利用してナンバリングし、「Table of CDR Definitions」に記載の基準(http://www.bioinf.org.uk/abs/#kabatnum)に従ってCDR領域を同定した。CDR予測の結果と軽鎖および重鎖のシグナル配列を図9に示す。また、軽鎖のCDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列を配列番号:3〜5に、重鎖のCDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列を配列番号:6〜8に示す。
【0103】
[実施例11] ACT35-51_1B4A7D抗体のエピトープ解析
ACT35-51_1B4A7D抗体のエピトープを特定するために、数種の鎖長のMANSC1ペプチドを発現するBa/F3細胞を作製し、抗体との反応性を評価した。
【0104】
MANSC1、膜外領域60aa(N末端より。以下、同様)、153aa、186aa、219aa、250aa、285aa、385aa(細胞外全長)を解析対象のペプチドとした。実施例1に示すGCIYシグナルシークエンストラップ法を実施したcDNAライブラリを鋳型として、下記配列のDNAをプライマーとして使用し、PrimeSTAR MAX DNA polymerase(TaKaRa、#R045A)をポリメラーゼとして使用して、7種類の遺伝子の単離を行った。
フォワードプライマー(2種類の遺伝子共通):(配列番号:16)
リバースプライマー(Rに付加した数値は、増幅産物がコードするペプチドの鎖長を意味する)
R60:(配列番号:22)ttttccttttgcggccgcttgagttgaagtatatacgg
R153:(配列番号:23)ttttccttttgcggccgctaggggagtgactgcttgtg
R186:(配列番号:24)ttttccttttgcggccgcaaatagtttctccaagtgat
R219:(配列番号:25)ttttccttttgcggccgccagcagatgcgctatttctt
R250:(配列番号:26)ttttccttttgcggccgcggtgggtagaagggtggcgg
R285:(配列番号:27)ttttccttttgcggccgctgtagaaatgagggtcgtgg
R385:(配列番号:28)ttttccttttgcggccgcaagccatttttcaaatggaa
得られた各PCR産物を1%アガロースゲルにて電気泳動を行った後、切り出し精製を行い、EcoRIとNotIで制限酵素処理を行った。pMX-SSTもEcoRIとNotIで制限酵素処理を行い切り出し精製した。さらにそれぞれをLigationHigh(TOYOBO、#LGK-201)にて処理し、その後、実施例2(大腸菌にトランスホーメーション以降)と同様の処理を行い、50μgアンピシリン含有LBアガロースプレートに、トランスホーメーションした大腸菌をプレーティングした。37℃で1晩培養して得られたコロニーからインサート部分を含有するようにPCRを行い、希望する配列を含んだpMX-SSTベクターであるかにつき、シークエンスにて確認した。シークエンス用PCRプライマーとしては、次のオリゴヌクレオチドを用いた。
SST3’側 5'-ggcgcgcagctgtaaacggtag-3'(配列番号:29)
SST5’側 5'-cgggggtggaccatcctcta-3'(配列番号:30)
その後、実施例1(4)(ウイルスパッケイジング以降)と同様の方法で、各種鎖長のMANSC1遺伝子配列を含むBa/F3細胞を作製した。さらに、実施例4と同様の手法で、各種鎖長のMANSC1分子を発現するBa/F3細胞とACT35-51_1B4A7D抗体との反応性をフローサイトメーターにて解析した(図10)。その結果、ACT35-51_1B4A7D抗体は、MANSC1分子の1-60まで発現させたクローンに対しては反応性を示さず、1から153の領域よりも長いものを発現するクローンに対して反応性を示したことから、MANSC1分子のN末端から61位から153位の間に抗体のエピトープが含まれることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のモノクローナル抗体は、優れた抗癌活性を有するため、癌の治療または予防に用いることができる。特に、胃癌やグリオーマに対しては、強い細胞増殖抑制効果を示す。本発明のモノクローナル抗体は、非常に悪性度の高く、これまで治療が困難とされてきたスキルス胃癌に対しても優れた効果を有すると考えられることから、医療上極めて有用である。また、本発明のモノクローナル抗体は、癌の診断や癌細胞の検出・選別などへの応用も可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト由来のMANSC1蛋白質に結合し、かつ、抗癌活性を有する抗体
【請求項2】
ヒト由来のMANSC1蛋白質の細胞外領域に結合する、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
癌が胃癌またはグリオーマである、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
配列番号:3から5に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:6から8に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する、請求項1に記載の抗体。
【請求項5】
請求項4に記載の抗体における配列番号:3から8に記載のアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されており、かつ、請求項4に記載の抗体と同等の活性を有する抗体。
【請求項6】
配列番号:10に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:12に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する、請求項1に記載の抗体。
【請求項7】
請求項6に記載の抗体における配列番号:10および12に記載のアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されており、かつ、請求項6に記載の抗体と同等の活性を有する抗体。
【請求項8】
請求項6に記載の抗体における配列番号:10および12に記載のアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいてシグナル配列が除去されており、かつ、請求項6に記載の抗体と同等の活性を有する抗体。
【請求項9】
ヒト由来のMANSC1蛋白質における、請求項6に記載の抗体のエピトープに結合し、かつ、抗癌活性を有する抗体。
【請求項10】
配列番号:3から5に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体の軽鎖またはその可変領域からなるペプチド。
【請求項11】
配列番号:10に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列を含む、請求項10に記載のペプチド。
【請求項12】
配列番号:6から8に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体の重鎖またはその可変領域からなるペプチド。
【請求項13】
配列番号:12に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列を含む、請求項12に記載のペプチド。
【請求項14】
請求項1から9のいずれかに記載の抗体または請求項10から13のいずれかに記載のペプチドをコードするDNA。
【請求項15】
請求項1から9のいずれかに記載の抗体を産生する、または、請求項14に記載のDNAを含む、ハイブリドーマ。
【請求項16】
請求項1から9のいずれかに記載の抗体を有効成分とする、抗癌剤。
【請求項17】
癌が胃癌またはグリオーマである、請求項16に記載の抗癌剤。
【請求項1】
ヒト由来のMANSC1蛋白質に結合し、かつ、抗癌活性を有する抗体
【請求項2】
ヒト由来のMANSC1蛋白質の細胞外領域に結合する、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
癌が胃癌またはグリオーマである、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
配列番号:3から5に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:6から8に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する、請求項1に記載の抗体。
【請求項5】
請求項4に記載の抗体における配列番号:3から8に記載のアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されており、かつ、請求項4に記載の抗体と同等の活性を有する抗体。
【請求項6】
配列番号:10に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:12に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を保持する、請求項1に記載の抗体。
【請求項7】
請求項6に記載の抗体における配列番号:10および12に記載のアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されており、かつ、請求項6に記載の抗体と同等の活性を有する抗体。
【請求項8】
請求項6に記載の抗体における配列番号:10および12に記載のアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいてシグナル配列が除去されており、かつ、請求項6に記載の抗体と同等の活性を有する抗体。
【請求項9】
ヒト由来のMANSC1蛋白質における、請求項6に記載の抗体のエピトープに結合し、かつ、抗癌活性を有する抗体。
【請求項10】
配列番号:3から5に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体の軽鎖またはその可変領域からなるペプチド。
【請求項11】
配列番号:10に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列を含む、請求項10に記載のペプチド。
【請求項12】
配列番号:6から8に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体の重鎖またはその可変領域からなるペプチド。
【請求項13】
配列番号:12に記載のアミノ酸配列または該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列を含む、請求項12に記載のペプチド。
【請求項14】
請求項1から9のいずれかに記載の抗体または請求項10から13のいずれかに記載のペプチドをコードするDNA。
【請求項15】
請求項1から9のいずれかに記載の抗体を産生する、または、請求項14に記載のDNAを含む、ハイブリドーマ。
【請求項16】
請求項1から9のいずれかに記載の抗体を有効成分とする、抗癌剤。
【請求項17】
癌が胃癌またはグリオーマである、請求項16に記載の抗癌剤。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2013−13327(P2013−13327A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249439(P2009−249439)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(306037034)株式会社ACTGen (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(306037034)株式会社ACTGen (3)
【Fターム(参考)】
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