説明

MMP発現抑制剤

細胞外マトリックス分解酵素(MMP)は、受精卵が細胞分裂を繰り返しながら組織を発生・分化する際に発現する酵素であるが、癌の浸潤、転移にも深く関わっており、癌の浸潤、転移にとって癌細胞周囲と血管基底膜の細胞外マトリックスの分解は必須のプロセスである。MMPの発現を抑制することによって、癌の浸潤、転移を抑制することができるが、MMPの発現を抑制する安全性の高い医薬はあまり開発されていなかった。本発明では、癌細胞によるMMPの発現を抑制する剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、癌細胞による細胞外マトリックス分解酵素(MMP:matrix metalloproteinase)の発現を抑制することを特徴とする医薬に関する。
【背景技術】
細胞外マトリックス(ECM:extracellular matrixと呼ばれることもある)は、多細胞生物体を構成する各細胞を固定、接着させる不溶性成分の総称である。細胞外マトリックスは、細胞との接着を介してその増殖、分化に影響を与えることが知られており、その主なものとしては、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニンなどがある。細胞外マトリックスは、細胞外マトリックス分解酵素(MMP:matrix metalloproteinase、以下「MMP」と称する)という酵素によって分解されることが知られている。MMPは、受精卵が細胞分裂を繰り返しながら組織を発生・分化する際等に発現する酵素であるが、癌の浸潤、転移にも深く関わっており、癌の浸潤、転移にとって癌細胞周囲と血管基底膜の細胞外マトリックスの分解は必須のプロセスである。
【発明の開示】
従って、MMPの発現を抑制することによって、癌の浸潤、転移を抑制することができるが、MMPの発現を抑制する安全性の高い医薬はあまり開発されておらず、かかる医薬が要望されている。
本願の発明者らは、意外にも、メナテトレノン(ビタミンK−II)が、MMPの発現を抑制するという知見を得た。本願発明の目的は、MMPの発現を抑制し、癌細胞の増殖を抑制する効果を有する安全性の高い医薬を提供することにある。
本願発明は、(1)メナテトレノンもしくはその薬理学的に許容な塩またはそれらの水和物を有効成分として含有する、MMP発現抑制剤、(2)前記MMPが、MMP−1、MMP−3、MMP−7またはMMP−14からなる群から選択される、請求項1に記載のMMP発現抑制剤、(3)メナテトレノンもしくはその薬理学的に許容な塩またはそれらの水和物を有効成分として含有する、uPA発現抑制剤、(4)メナテトレノンもしくはその薬理学的に許容な塩またはそれらの水和物を有効成分として含有する、癌の転移、浸潤の抑制剤、(5)前記癌が肝癌である、請求項4に記載の癌の転移、浸潤の抑制剤、(6)メナテトレノンもしくはその薬理学的に許容な塩またはそれらの水和物を有効成分として含有する、AP−1の活性抑制剤、(7)メナテトレノンもしくはその薬理学的に許容な塩またはそれらの水和物を有効成分として含有する、Ets−1の発現抑制剤、(8)メナテトレノンもしくはその薬理学的に許容な塩またはそれらの水和物を有効成分として含有する、癌治療の予後改善剤、(9)MMPの発現を抑制するように、メナテトレノンもしくはその薬理学的に許容な塩またはそれらの水和物の有効量を投与する工程を含む、癌細胞の転移抑制方法、(10)メナテトレノンもしくはその薬理学的に許容な塩またはそれらの水和物を有効成分として含有する、CDKインヒビターp16、p21又はp27の発現促進剤を、提供する。
【図面の簡単な説明】
図1は、(a)はメナテトレノンの添加量と各種肝癌細胞の増殖との関係を表わすグラフである。(b)はメナテトレノンの添加量と各種肝癌細胞におけるCDKインヒビターの発現との関係を示すRT−PCR法による実験結果を表わす図である。(c)はメナテトレノンの添加量と各種肝癌細胞におけるCDKインヒビターの発現との関係を示すWestern blot法による実験結果を表わす図である。
図2は、各種肝癌細胞にメナテトレノンを添加した際の細胞周期を表わす図である。
図3は、肝癌細胞にメナテトレノンを添加した際の肝癌細胞の浸潤の抑制結果を示す図である。
図4は、各種肝癌細胞にメナテトレノンを添加した際の各種浸潤関連因子の発現について、RT−PCR法による実験結果を示す図である。
図5は、各種肝癌細胞にメナテトレノンを添加した際の各種浸潤関連因子の発現について、Western blot法による実験結果を示す図である。
図6は、メナテトレノンを添加した際の転写因子の活性化についてゲルシフトアッセイによる実験結果を示す図である。
図7は、肝癌細胞にメナテトレノンを添加した際における、各種MMPのプロモーター活性に及ぼす影響について、RT−PCR法による実験結果を示す図である。
図8は、TPAにより誘導される癌の浸潤・転移に関連する遺伝子の発現に対するメナテトレノンの影響について、RT−PCR法による実験結果を表わす図である。
図9は、TPAにより誘導される癌の浸潤・転移に関連するタンパクの発現に対するメナテトレノンの影響について、Western blot法による実験結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
次に、本発明の実施の形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施することができる。
メナテトレノンとは、化学名2−メチル−3−テトラプレニル−1,4−ナフトキノン(2−methl−3−tetraprenyl−1,4−naphthoquinone)である。構造式を、以下に示す。

メナテトレノンは黄色の結晶又は油状の物質で、におい及び味はなく、光により分解しやすい。また、水にはほとんど溶けない。メナテトレノンは、ビタミンK−IIとも称され、その薬理作用は、血液凝固因子(プロトロンビン、VII、IX、X)のタンパク合成過程で、グルタミン酸残基が生理活性を有するγ−カルボキシグルタミン酸に変換する際のカルボキシル化反応に関与するものであり、肝における正常プロトロンビン等の合成を促進し、生体の止血機構を賦活して生理的に止血作用を発現するものである。
本発明における「薬理学的に許容できる塩」としては、たとえば、無機酸との塩、有機酸との塩、無機塩基との塩、有機塩基との塩、酸性又は塩基性アミノ酸との塩などが挙げられる。酸、塩基は、当該化合物1分子に対し、0.1〜5分子の適宜な比で塩を形成する。
無機酸との塩の好ましい例としては、たとえば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などとの塩が挙げられ、有機酸との塩の好ましい例としては、たとえば、酢酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ステアリン酸、安息香酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などとの塩が挙げられる。
無機塩基との塩の好ましい例としては、たとえば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。また、有機塩基との塩の好ましい例としては、たとえば、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、メグルミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミンなどとの塩が挙げられる。
酸性アミノ酸との塩の好ましい例としては、たとえば、アスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩が挙げられ、塩基性アミノ酸との塩の好ましい例としては、たとえば、アルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩が挙げられる。
本発明に係る医薬の有効成分であるメナテトレノンは、無水物であってもよいし、水和物を形成していてもよい。また、メナテトレノンには結晶多形が存在することもあるが限定されず、結晶形が単一であってもよいし、複数の混合物であってもよい。さらに、本発明に係るメナテトレノンが生体内で分解されて生じる代謝物も本発明の特許請求の範囲に包含される。
本発明において用いるメナテトレノンは、自体公知の方法で製造することができ、代表的な例として、特開昭49−55650号公報に開示される方法によれば容易に製造することができる他、合成メーカーから容易に入手することもできる。また、メナテトレノンはカプセル剤、注射剤等の製剤としても入手できる。本発明に係る医薬は、メナテトレノンをそのまま用いてもよいし、または、自体公知の薬学的に許容できる担体等(例:賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤等)、一般に医薬品製剤の原料として用いられる成分を配合して慣用される方法により製剤化してもよい。また、必要に応じて、ビタミン類、アミノ酸、等の成分を配合してもよい。製剤化の剤形としては、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、パップ剤等があげられる。
また、本発明においては、メナテトレノンの投与形態は特に限定されないが、経口的に投与することが好ましい。メナテトレノンのカプセル剤は商品名ケイツーカプセル(エーザイ株式会社製)、グラケーカプセル(エーザイ株式会社製)として、またシロップ剤は商品名ケイツーシロップ(エーザイ株式会社製)として、注射剤は商品名ケイツーN注(エーザイ株式会社製)として入手することができる。
メナテトレノンの好ましい投与量としては、1〜500mg/日であり、好ましくは10〜200mg/日であり、更に好ましくは30〜135mg/日である。
MMPとは、前述のとおりmatrix metalloproteinaseを指し、例えば、MMP−1、MMP−2、MMP−3、MMP−4、MMP−7、MMP−9、MMP−10、MMP−11、MMP−12、MMP−13、MMP−14等が知られているが、本願明細書中では、特にこれらに限定されることはなく、MMP全般を指す意味で用いる。
また、uPA(urokinase plasminogen activator)とは、プラスミノーゲンアクチベーター(PA)の一種であり、線溶反応に関与するほか、癌の浸潤・転移にも関与する酵素である。
【実施例】
以下に、本発明の有利な効果を示すため、実施例、参考例を示すが、これらは例示的なものであって、本発明はいかなる場合にも、以下の具体例に制限されるものではない。当業者は、以下に示す実施例に記載の条件を適宜変更して本発明を実施することができ、かかる変更は本願特許請求の範囲に包含される。
発明者らは、メナテトレノンが、癌細胞の、(1)増殖及び(2)浸潤・転移にどのような影響を及ぼすのかを研究するべく以下に述べる試験を行った。
(メナテトレノンによる癌細胞の増殖抑制作用の検討)
肝癌細胞株HepG2、Huh7、Hep3B、HLEにメナテトレノンを0M、10−6M、10−5M、10−4Mの濃度で添加した後、48時間経過後にWSTアッセイにより細胞増殖の検討を行った。結果を図1(a)に示す。図1(a)から明らかなように、メナテトレノンを添加した細胞は、いずれの細胞でも添加していない対照肝癌細胞に比べてその増殖が濃度依存的に抑制されることが分かった。
(細胞周期調節遺伝子発現の検討)
細胞増殖抑制機序を検討するために、細胞周期の進行に関与する遺伝子の発現に着目し、細胞周期を進行させるCyclin dependent kinase(CDK)の阻害作用を有するCDK inhibitorであるp21、p27、p16の発現量がメナテトレノンの添加によってどう変化するのかを、RT−PCR法及びWestern blot法によって解析した。
(RT−PCR法)
本試験においては、肝癌細胞株HepG2、Huh7、Hep3B、HLEにメナテトレノンを0M、10−6M、10−5M、10−4Mの濃度で添加した後、48時間経過後にRNAを回収し、totalRNA1μgよりRT−PCRを行い、p21、p27、p16の発現を調べた。コントロールとしてGAPDH(Glyceraldehyde 3−phosphate dehydrogenase)によるRT−PCRを行った。結果を図1(b)に示す。
(Western blot法)
本試験においては、肝癌細胞株HepG2、Huh7、Hep3B、HLEにメナテトレノンを0M、10−6M、10−5M、10−4Mの濃度で添加した後、それぞれの細胞からタンパク質を抽出しSDS−PAGEによる電気泳動後、PVP膜にブロッティングし、抗p21、p27抗体とインキュベーションし、ECL法にてp21、p27のタンパク発現を調べた。結果を図1(c)に示す。
図1(b)、図1(c)から明らかなように、HepG2細胞ではp27及びp21mRNAはメナテトレノンの添加濃度依存的に増加がみられた。Hep3B細胞ではp21及びp16の軽度増加がみられたが、p27の変化は観察されなかった。Huh7細胞ではこれらの発現には変化がみられなかった。
(細胞周期の検討)
メナテトレノンが癌細胞の細胞周期に与える影響について、メナテトレノンを添加した肝癌細胞のDNA量による分布をフローサイトメトリー(FACS)により解析した。本試験においては、肝癌細胞HepG2、Huh7、Hep3B、HLEにメナテトレノンを0M、10−6M、10−5M、10−4Mの濃度で加え、48時間経過後にFACSによる細胞周期の変化を観察した。結果を図2に示す。図2より明らかなように、メナテトレノンの添加によりいずれの細胞においてもG1期の細胞の比率が濃度依存的に増加し、G2期の細胞の減少がみられた。これは、メナテトレノンが肝癌細胞の細胞周期においてG1期からS期への進行を抑制していることを示唆するものであり、メナテトレノンがG1 arrestを誘導することにより肝癌細胞の増殖を抑制しているものと考えられる。
(癌細胞の浸潤・転移についての検討)
メナテトレノンの有する癌細胞の浸潤・転移を抑制する作用を検討するために、肝癌細胞(HepG2)にメナテトレノンを0M、10−6M、10−5M、10−4Mの濃度で加えて癌細胞のマトリゲル内の浸潤能を測定した。本試験においては、タブルチャンバーの上室にマトリゲルをコートし、その上に癌細胞を撒き、メナテトレノンを添加した。下室にはフィーダーとしてNIH3T3細胞を撒いた。24時間後にマトリゲルを通過して上室下面に移動した細胞数を顕微鏡下に観察した。結果を図3に示す。図3より明らかなように、メナテトレノンの添加濃度が大きいものほど上室下面に移動した細胞の数が減少していることが分かる。この結果により、メナテトレノンは濃度依存的に癌細胞のマトリゲル内浸潤能を抑制していることが分かる。
メナテトレノンの及ぼすMMPの発現への影響を(1)RT−PCR試験、(2)Western blot試験、(3)ゲルシフトアッセイ、(4)MMP遺伝子プロモーター活性試験、及び(5)TPAによる誘導時の遺伝子の発現の試験により検討した。
(RT−PCR法)
MMPの発現を検討するためにRT−PCR法による試験を行った。本試験においては各種肝癌細胞(HepG2、Hep3B、Huh7)にメナテトレノンを添加した場合の各種MMP(MMP−1、MMP−2、MMP−3、MMP−7、MMP−9、MMP−14(MT1−MMP))、MMPの発現に影響を与える転写因子Ets−1及び細胞外マトリックス受容体であるβ1インテグリンの発現を調査した。結果を図4に示す。図4から明らかなように、肝癌細胞によって発現しているMMPの種類は一部異なっていたが、メナテトレノンの添加によってMMP−1、MMP−3、MMP−7及びMMP−14のmRNAの発現が濃度依存的に抑制されていることが分かる。また、転写因子Ets−1の発現も濃度依存的に抑制し、β1インテグリン及びGAPDHのmRNA発現には変化はみられなかった。
(Western blot法)
MMPの発現を検討するためにWestern blot法による試験を行った。本試験においては各種肝癌細胞(HepG2、Hep3B、Huh7)にメナテトレノンを添加した場合のMMP−1及びMMP−3の蛋白発現を調べた。結果を図5に示す。図5より明らかなように、メナテトレノンの添加によってMMP−1及びMMP−3の蛋白の発現が抑制されていることが分かる。
(ゲルシフトアッセイ)
MMPは、そのプロモーター領域に共通して転写因子AP−1、Ets−1、Tcf/Lefなどとの結合部位を有しており、MMPの発現を調節していることが知られている。MMPの発現を調節する転写因子AP−1、Tcf/Lefの結合活性がメナテトレノンの添加により変化するかどうかをゲルシフトアッセイにより試験を行った。本試験ではメナテトレノンを肝癌細胞HepG2に添加して24時間後に核蛋白を抽出、32PにてラベルしたAP−1、Tcf/Lefの結合部位を持つ二本鎖DNAと反応させた後、ゲルシフトアッセイを行った。結果を図6に示す。図6から明らかなように、メナテトレノンはTcf/Lefの結合活性には変化を与えなかったが、AP−1の結合活性を濃度依存的に抑制していることが分かる。この結合はラベル化されていない過剰のAP−1プローブでバンドが濃度依存的に減弱し(図中「10X」、「100X」)、変異AP−1プローブでは変化がなかった(図中「M」)。また、抗c−fos抗体によりバンドの減弱、シフトが見られた(図中「S」)。以上の結果より、メナテトレノンが特異的にAP−1の結合を抑制することが分かった。
(MMP遺伝子プロモーター活性試験)
次に、MMP−1、MMP−3、MMP−7のプロモーターレポーター遺伝子を肝癌細胞Huh7に導入し、メナテトレノンがこれらのMMPプロモーター活性に与える影響を調べた。MMP−1、MMP−3、MMP−7のプロモーター−ルシフェラーゼポータープラスミッドは下記に示す文献1に報告されたMMPプロモーター−CATレポータープラスミッド(文献1)のレポーター遺伝子部分を置き換えることにより作成したものを用いた。各種MMP−ルシフェラーゼプラスミッドをリポフェクタミンを用いて肝癌細胞Huh7に導入した後、メナテトレノンを各種濃度で添加し48時間後に細胞を回収、ルシフェラーゼ活性を測定しMMP−1、MMP−3、MMP−7遺伝子のプロモーター活性に与えるメナテトレノンの影響を検討した。
文献1:Ozaki I,Mizuta T,Zhao G,Zhang H,Yoshimura T,Kawazoe S,Eguchi Y,Yasutake T,Hisatomi A,Sakai T,Yamamoto K.Induction of multiple matrix metalloproteinase genes in human hepatocellular carcinoma by hepatocyte growth factor via a transcription factor Ets−1.Hepatol Res 2003;27:288−300.
結果を図7に示す。図7より明らかなように、メナテトレノンの添加によりHuh7細胞におけるMMP−1、MMP−3、MMP−7のプロモーター活性は濃度依存的に抑制された。特に、MMP−1及びMMP−7は50%近くその活性が低下した。これにより、メナテトレノンによるMMPの発現抑制はこれらの遺伝子プロモーター活性の抑制により起こっていることが示された。
(TPAによる誘導時の遺伝子の発現の試験)
メナテトレノンによりその発現が抑制されたMMPやEts−1は、uPA(urokinase plasminogen activator)等と共に12−O−tetradecanoylphorbol−13−acetate(TPA)により誘導される遺伝子であることが知られている。メナテトレノンがTPAによって活性化される遺伝子の発現を制御するかを探るため培養肝癌細胞HepG2にTPAを20nMの濃度で添加し、さらにこれにメナテトレノンを加えてTPAによって発現誘導される上記の遺伝子の発現が影響されるかをRT−PCR法及びWestern blot法にて検討した。結果を図8及び図9に示す。図8より明らかなように、肝癌細胞HepG2にTPAを20nM添加するとMMP−1、MMP−3、MMP−7及びEts−1、さらにはuPAのmRNAの発現の増加がみられた。一方、uPA受容体であるuPARやuPAのインヒビターであるPAIは影響を受けなかった。これらにメナテトレノンを添加するとTPAによって誘導されたMMP−1、MMP−3、MMP−7、Ets−1及びuPAのmRNAの発現は濃度依存的に抑制された。また、図9より明らかなように、メナテトレノンは、MMP−1及びMMP−3のタンパクレベルでの発現も濃度依存的に抑制した。この結果により、メナテトレノンは、肝癌細胞において、TPAによって誘導されたMMP、Ets−1およびuPAなどの浸潤・転移に関与する遺伝子の発現を抑制することが示された。
【産業上の利用可能性】
本願発明によると、メナテトレノンが転写因子Ets−1の発現およびAP−1の結合活性を抑制し、細胞外マトリックスを分解する酵素であるMMP及びMMPとともに癌の浸潤・転移に関与している酵素であるuPAの発現を抑制・防止することにより、癌細胞の浸潤、転移を抑えることができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メナテトレノンもしくはその薬理学的に許容な塩またはそれらの水和物を有効成分として含有する、MMP発現抑制剤。
【請求項2】
前記MMPが、MMP−1、MMP−3、MMP−7またはMMP−14からなる群から選択される、請求項1に記載のMMP発現抑制剤。
【請求項3】
メナテトレノンもしくはその薬理学的に許容な塩またはそれらの水和物を有効成分として含有する、uPA発現抑制剤。
【請求項4】
メナテトレノンもしくはその薬理学的に許容な塩またはそれらの水和物を有効成分として含有する、癌の転移、浸潤の抑制剤。
【請求項5】
前記癌が肝癌である、請求項4に記載の癌の転移、浸潤の抑制剤。
【請求項6】
メナテトレノンもしくはその薬理学的に許容な塩またはそれらの水和物を有効成分として含有する、AP−1の活性抑制剤。
【請求項7】
メナテトレノンもしくはその薬理学的に許容な塩またはそれらの水和物を有効成分として含有する、Ets−1の発現抑制剤。
【請求項8】
メナテトレノンもしくはその薬理学的に許容な塩またはそれらの水和物を有効成分として含有する、癌治療の予後改善剤。
【請求項9】
MMPの発現を抑制するように、メナテトレノンもしくはその薬理学的に許容な塩またはそれらの水和物の有効量を投与する工程を含む、癌細胞の転移抑制方法。
【請求項10】
メナテトレノンもしくはその薬理学的に許容な塩またはそれらの水和物を有効成分として含有する、CDKインヒビターp16、p21又はp27の発現促進剤。

【国際公開番号】WO2004/093858
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505815(P2005−505815)
【国際出願番号】PCT/JP2004/006038
【国際出願日】平成16年4月23日(2004.4.23)
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【Fターム(参考)】