説明

PBX装置およびその呼制御方法

【課題】ユーザがIP電話端末の呼制御プロトコルを意識することなく、ネットワークに接続するだけで利用できるPBX装置およびその呼制御方法を提供する。
【解決手段】ソケットレイヤ11には呼制御プロトコルの異なる複数のIP電話端末3a,3bが接続される。プロトコル制御部12はSIP制御部12aおよびH.323制御12bを含む。メッセージ変換部13は、SIP規格に準拠した呼制御プロトコルおよびH.323規格に準拠した呼制御プロトコルとQ.931規格に準拠した呼制御プロトコルとの間でメッセージ変換を行う。呼制御部14はQ.931規格に準拠した呼制御プロトコルに従って動作し、各IP電話端末3からのアドレス通知を受けてロケーション・サービスにアドレスを登録し、IP電話端末からの発呼要求に応答してロケーション・サービスで宛先のIPアドレスを検索し、着側のIP電話端末に転送する呼制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPBX装置およびその呼制御方法に係り、特に、LAN等のIPネットワークを介してIP電話端末と音声交換できるIP-PBX(Internet Protocol-Private Branch eXchange)装置に好適なPBX装置およびその呼制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構内交換機としてIP(Internet Protocol)通信に対応したIP-PBXを導入し、パソコンやIP通信機能を備えたIP電話端末とIP-PBX本体との間をLANで結び、IPパケットにより制御情報や音声情報をやり取りするPBXシステムが特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2002−290633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
IP電話端末の呼制御プロトコルには、SIP(Session Initiation Protocol)方式やH.323方式といった代表的なプロトコルからメーカ独自の固有プロトコルまで様々な方式が存在し、PBX装置では、例えばSIP方式用のアプリケーションでH.323方式の呼制御プロトコルを処理できない。したがって、ユーザは自身のIP電話端末が収容されるPBX装置が対応している呼制御プロトコルを認識し、対応している方式のIP電話端末を接続しなければならなかった。
【0004】
本発明の目的は、上記した従来技術の課題を解決し、ユーザがIP電話端末の呼制御プロトコルを意識することなく、IP電話端末をネットワークに接続するだけで、呼制御プロトコルが異なるIP電話端末間で通話ができるPBX装置およびその呼制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した目的を達成するために、本発明のPBX装置は、呼制御プロトコルが異なる複数のIP電話端末が接続されるソケット手段と、各IP電話端末に固有の複数の呼制御プロトコルと所定の一の呼制御プロトコルとの間でメッセージ変換を行うメッセージ変換手段と、前記一の呼制御プロトコルに従って呼制御を行う呼制御手段とを含むことを特徴とする。
【0006】
さらに、本発明のPBX装置の呼制御方法は、発側のIP電話端末から第1の呼制御プロトコルに基づく第1タイプのメッセージを受信する手順と、第1タイプのメッセージを所定の共通メッセージに変換する手順と、共通メッセージに基づいて呼制御を実行する手順と、共通メッセージを第2の呼制御プロトコルに基づく第2タイプのメッセージに変換する手順と、第2タイプのメッセージを着側のIP電話端末へ送信する手順と、着側のIP電話端末から第2タイプのメッセージを受信する手順と、第2タイプのメッセージを所定の共通メッセージに変換する手順と、共通メッセージに基づいて呼制御を実行する手順と、共通メッセージを第1タイプのメッセージに変換する手順と、第1タイプのメッセージを発側のIP電話端末へ送信する手順とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、PBX装置に接続された各IP電話端末から固有の呼制御プロトコルにしたがってメッセージが送信されても、これらの固有メッセージが所定の一の呼制御プロトコルで処理可能な共通メッセージに変換され、当該一の呼制御プロトコルに従って呼制御が実行される。したがって、各IP電話端末に実装されている呼制御プロトコルが異なっていても、各IP電話端末をネットワークに接続するだけで通話が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の最良の実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明に係るPBX装置が適用される構内ネットワークの主要部の構成を示した図であり、呼制御プロトコルが異なる複数のIP電話端末3(3a,3b)とPBX装置1とがスイッチングハブ2およびIPネットワーク4を介して接続されている。本実施形態では、IP電話端末3aにはSIP規格に準拠した呼制御プロトコルが実装され、IP電話端末3bにはH.323規格に準拠した呼制御プロトコルが実装されているものとして説明を続ける。
【0009】
図2は、前記PBX装置1の主要部の構成を示したブロック図であり、ここでは、本発明の説明に必要な構成のみが図示されている。
【0010】
ソケットレイヤ11は、TCP/UDPに対応した通信メカニズムを提供し、呼制御プロトコルの異なる複数のIP電話端末3a,3bが接続される。プロトコル制御部12は、各IP電話端末3に実装されている呼制御プロトコルに応じて固有のプロトコル制御を実行する。本実施形態では、プロトコル制御部12がSIP制御部12aおよびH.323制御12bを含んでいる。
【0011】
メッセージ変換部13は、各IP電話端末3a,3bに固有の呼制御プロトコルと所定の一の呼制御プロトコルとの間でメッセージ変換を行う。本実施形態では、Q.931規格に準拠した呼制御プロトコルを共通プロトコルとして採用し、SIP規格に準拠した呼制御プロトコルおよびH.323規格に準拠した呼制御プロトコルと、Q.931規格に準拠した呼制御プロトコル(共通プロトコル)との間でメッセージ変換が行われる。したがって、このメッセージ変換部13は、SIPメッセージをQ.931メッセージに変換する変換部13aと、Q.931メッセージをSIPメッセージに変換する変換部13bと、H.323メッセージをQ.931メッセージに変換する変換部13cと、Q.931メッセージをH.323メッセージに変換する変換部13dとを含んでいる。
【0012】
呼制御部14は、前記Q.931規格に準拠した呼制御プロトコルのメッセージ(以下、Q.931メッセージと表現する場合もある)に従って動作し、各IP電話端末3からのアドレス通知を受けてロケーション・サービスにアドレスを予め登録し、IP電話端末3からの発呼要求に応答してロケーション・サービスで宛先のIPアドレスを検索し、着側のIP電話端末に転送する呼制御を実行する。
【0013】
図3、4は、前記メッセージ変換部13の動作を示したシーケンスフローであり、各IP電話端末3の電話番号およびアドレス情報は予め呼制御部14に登録されている。図3は、SIPプロトコルが実装されたIP電話端末(以下、SIP端末と表現する場合もある)を発側、H.323プロトコルが実装されたIP電話端末(以下、H.323端末と表現する場合もある)を着側とする呼制御シーケンスを示しており、図4は、H.323端末を発側、SIP端末を着側とする呼制御シーケンスを示している。
【0014】
図3において、SIP端末3aからSIPメッセージの「INVITE」が送信されると、メッセージ変換部13(13a)は、この「INVITE」をQ.931メッセージの「SETUP(呼制御要求)」に変換して呼制御部14へ転送する。呼制御部14は、事前に登録されているアドレス情報に基づいて着側端末のアドレスを認識し、この「SETUP」を着側のメッセージ変換部13(13d)へ転送する。メッセージ変換部13(13d)は、呼制御部14から転送されたQ.931メッセージの「SETUP」をH.323メッセージの「SETUP」に変換してH.323端末3bへ送信する。H.323端末3bは、受信した「SETUP」に応答して「CALLPROC(呼制御中)」、「ARQ(参加要求)」および「ACF(許可確認)」を返信する。
【0015】
メッセージ変換部13(13c)は、H.323端末3bからH.323メッセージの「CALLPROC」を受信すると、これをQ.931メッセージの「CALLPROC」に変換して呼制御部14へ転送する。呼制御部14は、この「CALLPROC」を発側端末へ転送する。メッセージ変換部13(13b)は、呼制御部14から転送されたQ.931メッセージの「CALLPROC」をSIPメッセージの「100 Trying」に変換してSIP端末3aへ送信する。
【0016】
同様に、H.323端末3bから送信された「PROGRESS (経過表示)」,「ALERT (呼出し中)」および「CONNECT (応答)」も、それぞれSIPメッセージの「183 Progress」,「180 Ringing」および「200 OK」に変換されてSIP端末3aで受信される。SIP端末3aが前記「200 OK」に対して「ACK」で応答すると、発側のSIP端末3aと着側のH.323端末3bとの間が通話状態となる。
【0017】
通話が終了してSIP端末3aからSIPメッセージの「BYE」が送信されると、前記メッセージ変換部13(13a)は、この「BYE」をQ.931メッセージの「RELCOMP」に変換して呼制御部14へ転送する。前記メッセージ変換部13はさらに、前記「BYE」に応答してSIP端末3aに「200 OKレスポンス」を返信する。
【0018】
前記呼制御部14は、メッセージ変換部13(13a)から転送された「RELCOMP」を着側端末のメッセージ変換部13(13d)へ転送する。メッセージ変換部13(13d)は、受信したQ.931メッセージの「RELCOMP」をH.323メッセージの「RELCOMP」に変換してH.323端末3bへ送信する。H.323端末3bは前記「RELCOMP」に応答して「DRQ(離脱要求)」を返信する。メッセージ変換部13は、この「DRQ」に応答して「DCF(離脱確認)」を返信する。
【0019】
図4において、H.323端末3bからH.323メッセージの「ARQ」が送信されると、メッセージ変換部13は、これに応答して「ACF」を返信する。次いで、H.323端末3bから「SETUP」が送信されると、メッセージ変換部13(13c)は、この「SETUP」をQ.931メッセージの「SETUP」に変換して呼制御部14へ転送する。呼制御部14は、事前に登録されているアドレス情報に基づいて着側端末のアドレスを認識し、この「SETUP」を着側のメッセージ変換部13へ転送する。メッセージ変換部13(13b)は、呼制御部14から転送されたQ.931メッセージの「SETUP」をSIPメッセージの「INVITE」に変換してSIP端末3aへ送信する。SIP端末3aは、受信した「INVITE」に応答して「100 Trying」,「183 Progress」,「180 Ringingレスポンス」および「200 OK」レスポンスを返信すると共に呼出ベルを鳴らす。
【0020】
前記メッセージ変換部13(13a)は、SIP端末2aからSIPメッセージの「100 Trying」を受信すると、これをQ.931メッセージの「CALLPROC」に変換して呼制御部14へ転送する。呼制御部14は、メッセージ変換部13から受信した「CALLPROC」を発側へ転送する。メッセージ変換部13(13d)は、呼制御部14から転送されたQ.931メッセージの「CALLPROC」をH.323メッセージの「CALLPROC」に変換してH.323端末3bへ送信する。
【0021】
同様に、SIP端末3aから送信された他のSIPメッセージの「183 Progress」,「180 Ringingレスポンス」および「200 OK」も、それぞれH.323メッセージの「PROGRESS」,「ALERT」および「CONNECT」に変換されてH.323端末3bで受信される。SIP端末3aが前記「200 OK」に応答してメッセージ変換部13から返信される「ACK」を受信すると、発側のH.323端末3bと着側のSIP端末3aとの間が通話状態となる。
【0022】
通話が終了してH.323端末3bから「REL COMP」が送信されると、前記メッセージ変換部13(13c)は、この「REL COMP」をQ.931メッセージの「REL COMP」に変換して呼制御部14へ転送する。前記メッセージ変換部13はさらに、H.323端末3bから送信される「DRQ(離脱要求)」に応答して「DCF(離脱確認)」を返信する。
【0023】
呼制御部14は、メッセージ変換部13(13c)から「REL COMP」を受信すると、これをメッセージ変換部13(13b)へ転送する。メッセージ変換部13(13b)は、Q.931メッセージの「REL COMP」をSIPメッセージの「BYE」に変換してSIP端末3aへ送信する。SIP端末3aは、この「BYE」の受信に応答して「200 OK」メッセージを返信する。
【0024】
なお、上記した本実施形態では、SIP規格に準拠した呼制御プロトコルが実装されたIP電話端末3aと、H.323規格に準拠した呼制御プロトコルが実装されたIP電話端末3bとの通話を例にして説明し、各IP電話端末のメッセージがQ.931規格に準拠した呼制御プロトコルのメッセージに変換されるものとして説明したが、本発明はこれのみに限定されるものではなく、他のどのような呼制御プロトコルの組み合わせであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るPBX装置が適用される構内ネットワークの構成を示した図である。
【図2】本発明に係るPBX装置の主要部の構成を示したブロック図である。
【図3】SIP端末を発側、H.323端末を着側とする呼制御シーケンスを示している。
【図4】H.323端末を発側、SIP端末を着側とする呼制御シーケンスを示している。
【符号の説明】
【0026】
1…PBX装置,2…スイッチングハブ,3(3a,3b)…IP電話端末,4…IPネットワーク,11…ソケットレイヤ,12…プロトコル制御部,12a…SIP制御部,12b…H.323制御部,13…メッセージ変換部,14…呼制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターネットプロトコルにより音声パケットを交換する機能を備えたPBX装置において、
呼制御プロトコルが異なる複数のIP電話端末が接続されるソケットレイヤと、
各IP電話端末に実装された呼制御プロトコルと所定の一の呼制御プロトコルとの間でメッセージ変換を行うメッセージ変換手段と、
前記一の呼制御プロトコルに従って呼制御を行う呼制御手段とを含むことを特徴とするPBX装置。
【請求項2】
前記各IP電話端末に固有の呼制御プロトコルがSIP規格に準拠した呼制御プロトコルおよびH.323規格に準拠した呼制御プロトコルを含むことを特徴とする請求項1に記載のPBX装置。
【請求項3】
前記所定の一の呼制御プロトコルがQ.931規格に準拠した呼制御プロトコルであることを特徴とする請求項1に記載のPBX装置。
【請求項4】
インターネットプロトコルにより音声パケットを交換する機能を備えたPBX装置の呼制御方法において、
発側のIP電話端末から第1の呼制御プロトコルに基づく第1タイプのメッセージを受信する手順と、
前記第1タイプのメッセージを所定の共通メッセージに変換する手順と、
前記共通メッセージに基づいて呼制御を実行する手順と、
前記共通メッセージを第2の呼制御プロトコルに基づく第2タイプのメッセージに変換する手順と、
前記第2タイプのメッセージを着側のIP電話端末へ送信する手順と、
着側のIP電話端末から第2タイプのメッセージを受信する手順と、
前記第2タイプのメッセージを所定の共通メッセージに変換する手順と、
前記共通メッセージに基づいて呼制御を実行する手順と、
前記共通メッセージを第1タイプのメッセージに変換する手順と、
前記第1タイプのメッセージを発側のIP電話端末へ送信する手順とを含むことを特徴とするPBX装置の呼制御方法。
【請求項5】
前記第1および第2の呼制御プロトコルが、それぞれSIP規格に準拠した呼制御プロトコルおよびH.323規格に準拠した呼制御プロトコルの一方および他方であることを特徴とする請求項4に記載のPBX装置の呼制御方法。
【請求項6】
前記共通メッセージが、Q.931規格に準拠した呼制御プロトコルに基づくメッセージであることを特徴とする請求項4に記載のPBX装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−148019(P2008−148019A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333157(P2006−333157)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000000181)岩崎通信機株式会社 (133)
【Fターム(参考)】