説明

PWMサイクロコンバータとその制御方法

【課題】電源容量や配線距離が不明であっても、運転障害を起こさないPWMサイクロコンバータの制御方法を提供する。
【解決手段】三相交流電源の各相と三相出力の電力変換器の各相とを電流が一方向だけ流せる片方向半導体スイッチを2個組み合わせた構成で、かつ各々が独立にオンオフできる構成とする双方向半導体スイッチ6で直接接続する電力変換器であって、電力変換機は電動機を駆動対象とし、電動機を所定の速度で運転するために速度制御器および電流制御器を有するPWMサイクロコンバータの制御方法において、電動機の実運転前に電源側のインピーダンスを演算する電源側インピーダンス演算器と、前記電源側インピーダンス演算器の出力により電流制御器のゲインを調整するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は交流電源から直接任意の周波数、電圧に変換可能なAC/AC変換装置であるPWMサイクロコンバータ(マトリクスコンバータともいう)の制御に係わり、特に、電源の容量や、配線距離の状況が不明な場合に良好にPWMサイクロコンバータとその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
交流電源側から、直接任意の周波数、電圧に変換可能なPWMサイクロコンバータは、クレーンやエレベータなどの回生エネルギー処理や、電源側高調波抑制の手段として適用されてきており、省エネルギー対策や電源高調波対策として今後も適用が期待されている。しかしながら、接続される電源側の電源容量や、電源まで配線距離などの電源側インピーダンスにより、電動、回生動作によって、電源側電圧の上昇、下降量が変化し、さまざまな弊害が生じる場合があり、対策が考えられてきた。
【0003】
図3は特許文献1に開示された従来技術のPWMコンバータ装置のブロック図である。目的は可変周波数・可変電圧の交流電源電圧を複数のスイッチング素子のオンオフ制御により直流に変換し、バツテリを介して負荷に電力を供給する装置や負荷装置がバツテリであり、バツテリ充電を行う装置の電源から最大限の電力を取り出し、バツテリの適正な充放電を可能にしようとしたものである。
【0004】
図3において、ACSPは内部インピーダンスを持ち、可変周波数・可変電圧の三相交流電圧を発生する電源、CONVは主回路を構成するスイッチング素子のオン・オフ制御により、交流電源電圧を直流に変換する電力変換器である。DCCは直流コンデンサ、DCLは直流リアクトル、DCDは電流の逆流防止ダイオード、BATはバツテリ、LOADは負荷装置である。
【0005】
また、MAVEは電力変換器CONVの直流出力電圧edを所定値に制御する電圧制御回路、EUCLは電源電流iuの振幅指令iu*と位相指令φ*に応じて電力変換器CONVを制御する入力電圧制御回路、DETCは交流電源ACSPの電圧実効値Euoを検出する電圧検出回路、LMIOは電圧検出回路DETCの出力に応じて設定された変換器入力電流の制限値Imを越えないように電圧制御回路MAVRの出力を制限する電流制限回路、LMERは変換器入力電圧の電源電圧との同相成分Eur*を所定値に制限する同相成分制限回路である。
【0006】
BTCLは、バツテリ電流Ibが所定値となるように、直流電圧指令Ed*を作成し、バツテリ電流が常に定格充電電流以下になるように管理するバツテリ制御回路である。このバツテリ制御回路BTCLの働きにより、バツテリの定格充電電流の範囲内で適正充電が可能となり、過大な充電電流によるバツテリの劣化を防止できるというものである。
【0007】
図4は特許文献2に開示された従来技術のPWMコンバータ装置のブロック図である。目的は特許文献1の従来技術と同様である。乗算器137は、座標変換器115によって求められたq軸電流成分116を第1の入力として、これに第2の入力として、電源側インピーダンス相当の係数、例えば電源リアクタンスL相当の係数を入力し、両入力の積を求めて、d軸電流基準120に対する補正量として出力する。加算器はd軸電流制御演算器121のd軸電流基準120の入力端に設けられており、その第1の入力端にはd軸電流基準120が入力され、第2の入力端には乗算器によって得られたd軸電流基準補正量が入力されるもので、負荷電流が増加してq軸電流成分116が増加した場合、乗算器および加算器138を介してd軸電流基準120をq軸電流成分116に応じて増加させ、コンバータ入力電圧132が電源インピーダンスおよび入力電流に応じて生ずる電圧降下により変動するという事態を抑制することができるというものである。
【0008】
これらはいずれも交流電源側から、直流側にエネルギーを取り出す電動動作と、直流側から、交流電源側にエネルギーを戻す回生動作が可能で、電源側入出力電流をPWM制御により擬似正弦波として流すことが可能なPWMコンバータに関するものであり、PWMサイクロコンバータにはそのまま適用できない。
特許文献3は本出願人によるPWMサイクロコンバータの保護装置に関するものである。
【特許文献1】特許第2633950号公報
【特許文献2】特開2002−369533号公報
【特許文献3】特開2001−86751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、接続される電源側の電源容量や、電源まで配線距離などの電源側インピーダンスにより、電動、回生動作によって、電源側電圧の上昇、下降量が変化し、さまざまな弊害が生じる場合があり、対策が考えられてきた。
従来技術によると、電源側のインピーダンスや電源容量が判らない場合に、電圧のドロップにより、電流を制限したり、電圧の補償をおこなって、電圧変動を抑えている。しかしながら、PWMサイクロコンバータでは、直流側の電圧制御および、電源側の電流制御を行なっており、電源側のインピーダンスが変化した場合、モータを制御する電流ループへの影響が生じる。
【0010】
例えば、電源までの配線距離が短く、電源容量も大きいとき、図1の電圧検出から電力変換器の間にあるリアクトルのインピーダンスに比べ電源側のインピーダンスが極めて小さくなる場合と、電源までの配線距離が長く、電源容量が小さく、電源側のインピーダンスが電圧検出から電力変換器の間にあるリアクトルのインピーダンスに比べ同等となる場合では、出力側に繋がる電動機などの負荷が同じでも、速度制御、電流制御における変化量が大きく異なり、同じ制御ループゲイン、時定数では、制御が追いつかなくなり、不安定になる場合がある。また、通常は電源容量や配線距離など、電源側のインピーダンスが不明という問題があった。
【0011】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、電源容量や配線距離が不明であっても、運転障害を起こさないPWMサイクロコンバータとその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題を解決するため、本発明は次のように構成したのである。
請求項1記載の発明は、三相交流電源の各相と三相出力の電力変換器の各相とを電流が一方向だけ流せる片方向半導体スイッチを2個組み合わせた構成で、かつ各々が独立にオンオフできる構成とする双方向半導体スイッチで直接接続する電力変換器であって、前記電力変換機は電動機を駆動対象とし、電動機を所定の速度で運転するために速度制御器および電流制御器を有するPWMサイクロコンバータの制御方法において、電動機の実運転前に電源側のインピーダンスを演算する電源側インピーダンス演算器と、電源側インピーダンス演算器の出力により電流制御器のゲインを調整するものである。
【0013】
また、請求項2記載の発明は請求項1において電源側インピーダンス演算器は、事前に当該電源のインピーダンスを測定しておきその測定値を記憶し、記憶した電源のインピーダンスの測定値に対応した電流制御器のゲインをモータ特性が悪化しないような範囲内の値に決定して電源側インピーダンスに対する電流制御器のゲインデータを予め記憶し、実運転時に測定した電源側インピーダンスに対する電流制御器のゲインを予め記憶させたデータから電流制御器のゲインを決定し電流制御器のゲインを設定するものである。
【0014】
また、請求項3記載の発明は三相交流電源の各相と三相出力の電力変換器の各相とを電流が一方向だけ流せる片方向半導体スイッチを2個組み合わせた構成で、かつ各々が独立にオンオフできる構成とする双方向半導体スイッチで直接接続する電力変換器であって、電力変換機は電動機を駆動対象とし、電動機を所定の速度で運転するために速度制御器および電流制御器を有するPWMサイクロコンバータにおいて、電動機の実運転前に電源側のインピーダンスを演算する電源側インピーダンス演算器と、電源側インピーダンス演算器の出力により電流制御器のゲインを調整するものである。
【0015】
また、請求項4記載の発明は請求項3において電源側インピーダンス演算器は、事前に当該電源のインピーダンスを測定しておきその測定値を記憶し、記憶した電源のインピーダンスの測定値に対応した電流制御器のゲインをモータ特性が悪化しないような範囲内の値に決定して電源側インピーダンスに対する電流制御器のゲインデータを予め記憶し、実運転時に測定した電源側インピーダンスに対する電流制御器のゲインを予め記憶させたデータから電流制御器のゲインを決定し電流制御器のゲインを設定する手段を備えたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、電源容量や配線距離が不明であっても、運転障害を起こさないPWMサイクロコンバータとその制御方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0018】
以下、サイクロコンバータの制御方法について、実施例を用いて詳細に説明する。
図1に本発明が適用されたPWMコンバータ装置のブロック図を示す。図1において、1は商用電源、2は電源側のインピーダンス(リアクタンス分)、3は電源側のインピーダンス(抵抗分)、4は一般にリアクトルとコンデンサから構成されたPWMサイクロコンバータ用の入力フィルタ、6は双方向スイッチであり、入出力をマトリクス状に接続した5の双方向スイッチ群を構成する。7は電動機である。双方向スイッチ6は、双方向に電流を流せる機能を有し、現在実現する為には、自己消弧形素子を用い、例えば図2に示すようにダイオード61とIGBT62を直列接続したものを逆並列に接続しても良いし、逆阻止IGBT63を逆並列したものであっても良い。
【0019】
PWMサイクロコンバータは商用電源1から供給される交流電力を双方向スイッチ群6を用いて任意の周波数と電圧に変換し電動機7を任意の周波数で運転することができる。
PWMサイクロコンバータの制御は、入力電圧の位相(θin)と大きさ(Er,Es,Et)を検出する電圧検出器9と電動機7に流れる電流(Iu,Iw)を検出する電流検出器8を有する。電動機7を所望の回転数で運転する速度指令(Fref)は、速度制御器10に入力され、電流検出器8で検出された電流値(Iu,Iw)と比較され、電流検出器11に入力される。電流検出器11の出力はPWM演算器12に入力され、双方向スイッチ群5の9個の双方向スイッチ6を駆動する。
【0020】
電源側インピーダンス演算器13は商用電源1とPWMサイクロコンバータ間の電流と電圧検出値に基づいて商用電源側のインピーダンスを演算により求める。すなわち電源側インピーダンス演算器13による電源インピーダンスの測定方法としては、例えば試運転調整などの段階で、負荷を変えてPWMサイクロコンバータ装置を駆動させ、PWMサイクロコンバータ装置に流れる電流と電圧を検出し、電源のインピーダンスを測定する。
【0021】
PWMサイクロコンバータの実運転前に事前に当該電源のインピーダンスを測定しておきその測定値を記憶する。記憶した電源のインピーダンスの測定値に対応した電流制御器11のゲインを予め設定しておく。この電流制御器11のゲイン設定はモータ特性が悪化しないような範囲内の値に決定する。こうして電源側インピーダンスに対する電流制御器11のゲインデータを予め記憶しておく。電源側インピーダンスがモータ駆動時に変化した場合であっても、モータの実運転時に電源側インピーダンスを測定し、測定した電源側インピーダンスに対する電流制御器11のゲインを予め記憶させたデータから電流制御器11のゲインを決定し電流制御器11のゲインを設定することでモータ駆動特性を一定に保つことができる。
【0022】
本発明では、電流制御器11の演算において、電源側インピーダンス演算器13による補正を行う。例えば、商用電源1の電源容量が小さく電源インピーダンスが大きい場合は、電動機7に流す電流は流れにくくなるため、電源側インピーダンス演算器13により電流制御器11のゲインが大きくなるように調整する。商用電源1の電源容量が大きい場合は、逆の調整を電源側インピーダンス演算器13により行う。この結果、電動機7を運転する際に、商用電源1の容量に関わらず、速度指令(Fref)に追従した制御を行うことが出来る。電源側インピーダンス演算器13には、電源容量に関する情報が必要となるが、商用電源1のトランス名盤値などを用いることが出来る。また商用電源1とPWMサイクロコンバータが長距離配線で接続された場合は、配線インピーダンスを考慮した電源情報を用いることで同様な効果を得ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によると、電源容量や配線距離が不明であっても、運転障害を起こさないPWMサイクロコンバータの制御方法を提供することができるので、電源容量や配線距離が不明な一般的な用途への適用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施例を示すPWMサイクロコンバータのブロック図
【図2】本発明のサイクロコンバータの双方向スイッチの構成図
【図3】従来のPWMコンバータ装置の構成を示すブロック図
【図4】従来のPWMコンバータ装置の構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0025】
1 商用電源
2 電源側のインピーダンス(リアクタンス分)
3 電源側のインピーダンス(抵抗分)
4 入力フィルタ
5 双方向スイッチ群
6 双方向スイッチ
7 電動機
8 電流検出器
9 電圧検出器
10 速度制御器
11 電流制御器
12 PWM演算器
13 電源側インピーダンス演算器
14 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流電源の各相と三相出力の電力変換器の各相とを電流が一方向だけ流せる片方向半導体スイッチを2個組み合わせた構成で、かつ各々が独立にオンオフできる構成とする双方向半導体スイッチで直接接続する電力変換器であって、前記電力変換機は電動機を駆動対象とし、電動機を所定の速度で運転するために速度制御器および電流制御器を有するPWMサイクロコンバータの制御方法において、
電動機の実運転前に電源側のインピーダンスを演算する電源側インピーダンス演算器と、前記電源側インピーダンス演算器の出力により電流制御器のゲインを調整することを特徴とするPWMサイクロコンバータの制御方法。
【請求項2】
前記電源側インピーダンス演算器は、事前に当該電源のインピーダンスを測定しておきその測定値を記憶し、記憶した電源のインピーダンスの測定値に対応した電流制御器のゲインをモータ特性が悪化しないような範囲内の値に決定して電源側インピーダンスに対する電流制御器のゲインデータを予め記憶し、実運転時に測定した電源側インピーダンスに対する電流制御器のゲインを予め記憶させたデータから電流制御器のゲインを決定し電流制御器のゲインを設定することを特徴とする請求項1記載のPWMサイクロコンバータの制御方法。
【請求項3】
三相交流電源の各相と三相出力の電力変換器の各相とを電流が一方向だけ流せる片方向半導体スイッチを2個組み合わせた構成で、かつ各々が独立にオンオフできる構成とする双方向半導体スイッチで直接接続する電力変換器であって、前記電力変換機は電動機を駆動対象とし、電動機を所定の速度で運転するために速度制御器および電流制御器を有するPWMサイクロコンバータにおいて、
電動機の実運転前に電源側のインピーダンスを演算する電源側インピーダンス演算器と、前記電源側インピーダンス演算器の出力により電流制御器のゲインを調整することを特徴とするPWMサイクロコンバータ。
【請求項4】
前記電源側インピーダンス演算器は、事前に当該電源のインピーダンスを測定しておきその測定値を記憶し、記憶した電源のインピーダンスの測定値に対応した電流制御器のゲインをモータ特性が悪化しないような範囲内の値に決定して電源側インピーダンスに対する電流制御器のゲインデータを予め記憶し、実運転時に測定した電源側インピーダンスに対する電流制御器のゲインを予め記憶させたデータから電流制御器のゲインを決定し電流制御器のゲインを設定する手段を備えたことを特徴とする請求項3記載のPWMサイクロコンバータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−153248(P2009−153248A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326771(P2007−326771)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】