説明

RFQ粒子加速器の周波数可変構造

【目的】 粒子の加速性・集束性などの特性を維持しながら、共振周波数を可変できるRFQ粒子加速器の周波数可変構造を提供する。
【構成】 間隔をおいて配設した複数のサポート12,13に、粒子の通過方向Aを取り囲むように4本のロッド14a〜14dを支持している。互いに隣り合うロッド14a〜14d間にはそれぞれ長手方向に沿って容量可変部材16a〜16dを配置し、これら容量可変部材16a〜16dを駆動機構17によって互いに同期させて前記粒子の通過方向Aと直交する方向に進退させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、高周波粒子加速器の1種であるRFQ (Radio Frequency Quadrupole) に係り、特にその共振周波数を可変するための構造に関する。
【0002】
【従来の技術】RFQ粒子加速器は、従来の静電加速器に比し大電流の粒子をMeVオーダまで容易に加速でき、また、ドリフトチューブ等に比し入射エネルギーが小さくてすみ、構造も比較的簡単である。このため、産業用イオン打込装置、分析装置などのイオン加速器として好都合である。
【0003】図4および図5に、RFQ粒子加速器の構造例を示す。真空容器1内のベースプレート4上には、第1のサポート5aと第2のサポート5bが間隔をおいて立設されている。第1のサポート5aには粒子の通過方向Aを挾んで相対向する一対のロッド6a,6dが、第2のサポート5bにはロッド6a,6dと交差する方向に相対向する一対のロッド6b,6cが支持されている。このRFQに高周波電力を供給すると、第1のサポート5a、ベースプレート4及び第2のサポート5bを通じて共振電流i (図5参照) が流れ、隣接するロッド6a〜6d間に電場が発生する。この状態で、ロッド6a〜6dの中心部に粒子ビーム (方向A) を入射すると、そのビームはロッド6a〜6d間の4重極電場によって集束と加速とを受けて出射される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記RFQにおける共振周波数は、ロッド6a〜6d間の静電容量Cと、電流iの経路長に比例するインダクタンスLとによって決まり、共振周波数を任意に変更することはできない。RFQにおける加速エネルギーは、通常、共振周波数の2乗に比例するため、RFQをイオン打込装置に適用する場合、共振周波数を可変することは不可欠である。
【0005】そこで、本発明の目的は、粒子の加速性や集束性などの特性を維持し、共振周波数を可変できるRFQ粒子加速器の周波数可変構造を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の周波数可変構造は、間隔をおいて配設した複数のサポート上に、粒子の通過方向を取り囲むように4本のロッドを支持してなるRFQ粒子加速器において、互いに隣り合うロッド間に、それぞれ長手方向に沿って容量可変部材を配置し、これら容量可変部材を互いに同期させて前記粒子の通過方向と直交する方向に進退させる駆動機構を設けたものである。
【0007】
【作用】隣接するロッド間に容量可変部材をそれぞれ配置し、これら容量可変部材を互いに同期させて粒子の通過方向と直交する方向に進退させることで、容量可変部材の移動量に応じて、ロッド間の静電容量を可変することができる。このとき、容量可変部材は、隣接するロッドの間に長手方向に沿って配置され、粒子の通過方向と直交する方向に移動されるので、ロッド間の静電容量を長手方向に均一な状態で可変できる。
【0008】
【実施例】以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
【0009】図1に本実施例のRFQの全体構成を示す。図において、10は筒状の真空容器で、その内底部にはベースプレート11が敷設され、このプレート11上には、第1のサポート12と第2のサポート13が紙面垂直方向に間隔をおいて交互に立設されている。第1のサポート12には、その上端両側に略L字状の支持部12a,12bが起立形成され、これら支持部12a,12bにロッド14a,14dがビーム通過方向Aを挾んで相対向して支持されている。同様に、第2のサポート13の支持部13a,13bには、ロッド14b,14cが前記ロッド14a,14dと交差する方向に相対向して支持されている。ロッド14a〜14dは丸断面又は断面略弾丸状とされ、ビーム通過方向Aを放射状に取り囲むように配置されている。
【0010】15は容器10内壁上部に据付けられた架台15で、この架台15には、駆動装置17を介して4本の容量可変部材16a〜16dが支持されている。容量可変部材16a〜16dは、ロッド14a〜14dの長さとほぼ同一長とされ、隣接する2つのロッド14a〜14dの間にそれぞれ配置されている。このとき、左右2つの容量可変部材16c,16dは、図2に示すように、それぞれサポート12,13の支持部12a,13bの内側に配設され、それらの背面には支持部12a,13bとの干渉を避けるため切欠18が形成されている。容量可変部材16a〜16dの材料としては、誘電体材料あるいは金属材料が好ましい。駆動装置17は、容量可変部材16a〜16dを互いに同期させて前記ビーム方向Aと直交する方向に進退させるもので、大別して、上下2つの容量可変部材16a,16bを移動させる第1の駆動機構19と、左右2つの容量可変部材16c,16dを移動させる第2の駆動機構20とからなる。
【0011】第1の駆動機構19は、図1に示すように、架台15上のモータ21を回転駆動することによりウォームギア22及びピニオンギア23を介してボールネジ24を回転させる。ボールネジ24は、軸受25,26間に回転自在に支持されており、軸受25,26を架台15及びサポート12,13にそれぞれ取付けることで、モータ21の回転軸と平行配設されている。両軸受25,26間には、図3に示すように、ガイドロッド27も掛け渡され、ガイドロッド27及びボールネジ24に2つのアーム28,28が螺合乃至嵌合されている。ボールネジ24のピニオンギア23の両側には、互いに逆螺旋のネジ部24a,24bが形成されており、ボールネジ24の回転によりアーム28,28が互いに逆方向に移動するようになっている。アーム28の先端は、前記ボールネジ22と直交方向に延出する櫛歯状部28aが形成され、それら櫛歯状部28aの先端に容量可変部材16aあるいは16bが取着されている。
【0012】第2の駆動機構20は、第1の駆動機構19と基本的に同様の構成であり、第1の駆動機構19の参照符号に十を加えて示し、説明を省略する。
【0013】なお、図1中、40は前記第1及び第2の駆動機構19,20のモータ21,31への電流導入端子であるフィードスルー、41,42はそれぞれ高周波電力を供給するためのカップラ、共振状態を監視するためのモニタループ、43は冷却水の導入管である。
【0014】次に、上記構成のRFQの動作について説明する。
【0015】高周波電力をカップラ41より供給すると、第1のサポート12、ベースプレート11及び第2のサポート13を通じて共振電流が流れ、ロッド14a〜14d間に4重極電場が発生する。この状態で、ロッド14a〜14dの中心線 (A方向) に沿ってイオンビームを入射すると、このイオンビームはロッド14a〜14d間の電場によって加速されて出射される。
【0016】いまRFQの加速エネルギーを可変する場合、駆動装置17のモータ21,31を互いに同期をとって回転駆動する。すると、第1の駆動機構19のモータ21の回転に追従してウォームギア22,ピニオンギア23を介してボールネジ24が回転する。これにより、2つのアーム28,28が互いに連動して開あるいは閉方向に移動して、上下2つの容量可変部材16a,16bがそれぞれロッド14a及び14c間、ロッド14b及び14d間にて上下方向に逆移動する。同時に、第2の駆動機構20のモータ31の回転に追従してベベルギア32,33を介してボールネジ34が回転し、アーム38,38が互いに開閉移動して、左右2つの容量可変部材16c,16dがそれぞれロッド14a及び14b間、ロッド14c及び14d間にて水平方向に逆移動する。かくして、これら容量可変部材16a〜16dの移動により、隣接する2つのロッド14a〜14dの間の透磁率が変化して、ロッド14a〜14d間の静電容量が変化される。
【0017】ところで、RFQにおける共振周波数fは、f=1/2π(LC)1/2 …(1)
と表される。ここで、Cはロッド14a〜14d間の静電容量、Lはベースプレート11及びサポート12,13により決まるインダクタンスである。このため、上述の如く容量可変部材16a〜16dを互いに同期させて進退させれば、その進退量に応じて静電容量C、ひいては共振周波数fを可変することができ、1種のイオンを様々なエネルギーで加速することができる。このとき、容量可変部材16a〜16dは、隣接するロッド14a〜14d間に長手方向に沿って配置され、粒子の通過方向Aと直交する方向に移動されるので、静電容量Cは常に長手方向に均一に保たれる。従って、加速性・集束性などのRFQの特性を良好に維持しつつ、共振周波数fの可変を行うことができる。
【0018】なお、上記実施例では、隣接するロッド14a〜14d間に単に容量可変部材16a〜16dを設けたが、各ロッド14a〜14dに金属板を取付けて平行平板コンデンサを形成し、これらコンデンサに誘電体若しくは金属よりなる容量可変部材を挿入してもよい。これによれば、静電容量の変化を平行平板コンデンサの容量変化として考慮できるので、静電容量の制御が正確かつ簡単となる。
【0019】
【発明の効果】以上要するに本発明によれば、隣接するロッド間に容量可変部材を配置し、これら容量可変部材を互いに同期させて粒子の通過方向と直交する方向に進退させたので、ロッド間の静電容量を、長手方向に均一に保ちながら共振周波数を変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】RFQ粒子加速器の一実施例を示す概略構成図である。
【図2】一実施例の要部拡大斜視図である。
【図3】RFQ粒子加速器に適用される駆動装置の要部を示す概略構成図である。
【図4】従来のRFQ粒子加速器を示す概略構成図である。
【図5】従来のRFQ粒子加速器の要部拡大斜視図である。
【符号の説明】
10 真空容器
12 第1のサポート
13 第2のサポート
14a〜14d ロッド
16a〜16d 容量可変部材
17 駆動機構
A 粒子の通過方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】 間隔をおいて配設した複数のサポート上に、粒子の通過方向を取り囲むように4本のロッドを支持してなるRFQ粒子加速器において、互いに隣り合うロッド間に、それぞれ長手方向に沿って容量可変部材を配置し、これら容量可変部材を互いに同期させて前記粒子の通過方向と直交する方向に進退させる駆動機構を設けたことを特徴とするRFQ粒子加速器の周波数可変構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開平5−190298
【公開日】平成5年(1993)7月30日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−6464
【出願日】平成4年(1992)1月17日
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)