説明

TiO2を含有するシリカガラスの成型方法およびそれによって成型されたEUVリソグラフィ用光学部材

【課題】複数のガラス体を融着させることにより大質量ガラス体を作製することを可能とするEUVリソグラフィ用ガラスの成型方法の提供。
【解決手段】2以上のガラス体を10Torr以下の雰囲気で徐冷点〜軟化点のいずれかの温度に昇温し融着した後、100Torrを越える雰囲気で軟化点〜軟化点+250℃にて成型することを特徴とするEUVリソグラフィ用ガラスの成型方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TiOを含有するシリカガラス(以下、本明細書では、TiO−SiOガラスと記す)に関し、特にEUVリソグラフィ用の露光装置の光学系部材として用いられるTiO−SiOガラスに関する。なお、本発明でいうEUV(Extreme Ultra Violet)光とは、軟X線領域または真空紫外域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2〜100nm程度の光のことである。
【背景技術】
【0002】
光リソグラフィ技術においては、ウェハ上に微細な回路パターンを転写して集積回路を製造するための露光装置が広く利用されている。集積回路の高集積化および高機能化に伴い、集積回路の微細化が進み、露光装置には深い焦点深度で高解像度の回路パターンをウェハ面上に結像させることが求められ、露光光源の短波長化が進められている。露光光源は、従来のg線(波長436nm)、i線(波長365nm)やKrFエキシマレーザ(波長248nm)、ArFエキシマレーザ(波長193nm)が用いられている。また、NAをあげるためには露光波長の短波長化だけでなく、屈折率を上げることでも可能であるためにArFエキシマレーザ光源に水を使用する液浸露光技術で32nmの回路パターンが得られている。水よりもさらに高屈折率の液体を用いることで原理上さらなる高集積化が可能であるため、高屈折率液浸露光技術が開発されてきたが、ボトムレンズに対応する高屈折率硝材の開発が遅れており実用化の目処は立っていない。また、ダブルパターニングによる高集積化は、技術的なハードルは高屈折率液浸露光技術よりも低いと考えられているが、露光位置の精密な調整がスループット悪化を引き起こし、少量生産にしか向かない欠点が指摘されている。
【0003】
このような流れにあって、32nm以下の線幅の回路パターンを結像できる次世代光リソグラフィ技術として、露光光源13nmのEUV光(極端紫外光)を用いたEUVリソグラフィ技術(以下、「EUVL」と略する)に期待が集まっている。EUVLの像形成原理は、投影光学系を用いてマスクパターンを転写する点では、従来のフォトリソグラフィーと同じである。しかし、EUV光のエネルギー領域では光を透過する材料がないために、光学系はすべて反射光学系となる。
【0004】
EUVL用露光装置の光学系部材はフォトマスクやミラーなどであるが、(1)基材、(2)基材上に形成された反射多層膜、(3)反射多層膜上に形成された吸収体層、で基本的に構成される。反射多層膜としては、Mo層と、Si層と、を交互に積層させたMo/Si反射多層膜を形成することが検討され、吸収体層には、成膜材料として、TaやCrが検討されている。フォトマスクやミラー表面の反射多層膜に入射されたEUV光は、理論上でも最大約70%しか反射せず、残りは熱エネルギーとして基材に残留する。この際、熱膨張による変形が発生すると結像が歪むために、基材は超低熱膨張係数を有する材料を選定する必要がある。
【0005】
EUVL用露光装置に組み込まれるフォトマスクやミラーの基材として、超低熱膨張係数を有するTiO−SiOガラスが使用されている。このTiO−SiOガラスは、含有するTiO濃度比より、熱膨張係数(Coefficient of Thermal Expansion;CTE)が変化することが知られており、室温付近では6〜8質量%付近において熱膨張係数がほぼゼロとなる。
【0006】
TiO−SiOガラスは、シリカガラスの製造方法として周知であるVAD法にて作製できる。蒸気形態に転化させたシリカ前駆体とチタニア前駆体の混合物を、酸水素バーナーに導入し加水分解反応によりTiO−SiOガラススート微粒子へ転化する。スート微粒子は回転するターゲットに堆積され成長し、多孔質母材を形成する。
【0007】
石英ガラスの他の作製方法としては、直接法と溶融法が他に知られているが、VAD法は以下の点で有利である。VAD法の合成工程では、火炎の温度が低いために火炎とターゲットの温度差が大きくなり、スート微粒子の熱泳動によるターゲットへの付着が効率的に行われる。従って、原料投入量に対する多孔質母材の重量歩留が高い。また、TiO−SiOガラスはフッ素を添加することによりゼロ膨張を示す温度範囲が広くなることが知られているが、多孔質母材はガラス化前にSiFガスと反応させ、効率的にフッ素ドープを行うことができる。さらには、光ファイバーの作製にVAD法がしばしば用いられるように、ガス条件やバーナーの形態により、ガラス体の半径方向のTiO濃度分布を調整し、均質な熱膨張係数分布を得ることができる。
【0008】
EUVL用露光装置に使用されるミラーは、現在最大で60Kgのものが見込まれておりVAD法でも1バッチで十分作製できるが、将来的な高NA化のためにはさらに100Kgを超える大質量ミラーが必要であると予想される。VAD法ではスート微粒子間の表面融着により多孔質母材の機械的強度が保たれているために、大質量の多孔質母材を安定的に作製することは、機械的強度の観点から難しい。また、そのほかの石英ガラスの合成方法においても、1バッチで100Kg以上のガラス体を作製するためには大型の製造装置導入や長時間の安定合成を必要としていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2005−519349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記した従来技術の問題点を解決するため、本発明は、複数のガラス体を融着させることにより大質量ガラス体を作製することを可能とするEUVリソグラフィ用ガラスの成型方法を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、複数のガラス体を融着させることにより作製された大質量ガラス体からなるEUVリソグラフィ用光学部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明は、2以上のガラス体を10Torr以下の雰囲気で徐冷点〜軟化点のいずれかの温度に昇温し融着した後、100Torrを越える雰囲気で軟化点〜軟化点+250℃にて成型することを特徴とするEUVリソグラフィ用ガラスの成型方法(以下、「本発明の成型方法」という。)を提供する。
【0013】
本発明の成型方法は、融着時に、ガラス体の上部に対して5g/cm以上の荷重を加えることが好ましい。
【0014】
また、本発明の成型方法は、各ガラス体の融着する向かいあった面の算術平均表面粗さRaが0.30nm以下であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の成型方法は、各ガラス体の表面における脈理の方向のなす角度が45°以下であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の成型方法は、成型型がカーボン、石英ガラス、SiC、Si、またはAlのいずれかを主成分とすることが好ましい。
【0017】
また、本発明の成型方法は、ガラスが成型型に直接接しないように、型の上にガラスおよびカーボンとは異なる材料塗布されることが好ましい。
【0018】
また、本発明の成型方法は、ガラス体のTiO含有量が5〜12質量%であることが好ましい。
【0019】
さらに、本発明の成型方法は、22℃における熱膨張係数が0±100ppb/℃の範囲内にあることが好ましい。
【0020】
本発明の成型方法にて成型されたガラスはEUVリソグラフィ用光学部材に用いることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、EUVL用露光装置用部材、特にミラーのように100Kg以上の質量が必要である部材の基材として使用される、TiO−SiOガラスの大質量ガラス体とその作製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は型枠に融着前ガラス体をセッティングした模式図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明のTiO−SiOガラスを説明する。
【0024】
本発明は、複数のガラス体を成型型枠内にて融着・成型し大質量ガラス体を作製するものである。このTiO−SiOガラスの大質量ガラス体作製方法の工程は、融着成型前のガラス体(以下、「融着前ガラス体」と略する)の準備、融着前ガラス体の成型型枠への設置、熱処理による融着と成型、検査の順に行われる。以下、各工程について説明する。
【0025】
はじめに、融着前ガラス体の準備について説明する。融着前ガラス体に含まれるTiOの濃度は光学系部材の温度変化による寸法形状変化を防ぐ目的から、0±5ppb/℃、すなわち熱膨張係数がほぼゼロとなる範囲になるような組成であることが好ましい。光学系部材の温度は、特に光源に近い部材においては、高エネルギーのEUV光が照射されるため、局所的に上昇することが示唆されている。EUV光の照射条件にもよるが、光学系部材の温度は40〜110℃に上がることが推測されており、さらに局所的に4〜6℃程度の温度差が生じる場合がある。
【0026】
TiO−SiOガラスはTiO濃度を5〜12質量%含有するシリカガラスであることが好ましい。TiO濃度が12質量%以下のTiO−SiOガラスでは、ガラスマトリクス中でTi4+イオンがO2−イオンと4配位となる構造をとっており、この構造が負の膨張係数に寄与していると一般的に考えられている。TiOが5質量%未満であると、正の膨張係数を示すおそれがある。TiO濃度が12質量%を超えるとルチル等の結晶が析出するおそれがある。TiO−SiOガラスはTiO濃度を6〜8質量%含有するシリカガラスであることがより好ましい。
【0027】
融着前ガラス体の状態としては、全く結晶を含まないTiO−SiOガラス、もしくはTiO、SiOのどちらかもしくは両方の一部が結晶化している状態どちらでも良い。
【0028】
融着前ガラス体間にTiO濃度差に由来する熱膨張係数差があると、融着前ガラス体が融着・成型され大質量ガラス体になった後に、熱膨張係数の低い融着前ガラス体側であった融着界面には平行に圧縮応力が、熱膨張係数の高い融着前ガラス体側であった融着界面には平行に引張り応力がかかる。このときに、融着前ガラス体間の熱膨張係数の差が、22℃において100ppb/℃を超えると融着界面に大きな応力が発生してクラックが生じる恐れがある。
【0029】
熱膨張係数の測定は、たとえばレーザー干渉式熱膨張計(ULVAC理工社製レーザー膨張計LIX−1)を用いて測定することができる。また、発明者は、TiO濃度と熱膨張係数に、負の一次関数の関係があることを見出した。したがって、TiO−SiOガラスのTiO濃度を測定し、熱膨張係数を求めることも可能である。TiO−SiOガラスのTiO濃度測定は、たとえば蛍光X線分析装置(Rigaku社製PrimusII)を用いて測定することができる。本明細書において、熱膨張係数とは融着前ガラス体が熱処理後に完全にガラス化してからの熱膨張係数のことを指す。
【0030】
次に、融着前ガラス体の成型型枠への設置に関して説明する。図1に、融着成型済のガラス体(以下、「成型後ガラス体」と略する)を得るために、型枠に融着前ガラス体をセッティングした状態を横から見た模式図を示す。成型型枠は、底枠3、押型4、前後左右4枚の側板5、敷板6からなる。敷板6、融着前ガラス体1・2、押型4の順に置かれたサンプルを側板5が囲むように設置される。図1では、例として融着前ガラス体は1・2の2つの場合を図示しているが、ガラス体は3つ以上であってもかまわない。
【0031】
融着前ガラス体は、異物の付着を抑制するために3vol%のHF希釈溶液にて15分間以上、洗浄することが好ましい。融着界面に多く見られる異物の多くはクリストバライト、TiOのルチル・アナターゼであり、HF希釈溶液を用いることで効果的に異物を抑制することができる。15分間未満の洗浄時間では、表面が十分に洗浄されずに融着時に異物を巻き込み易い。
【0032】
HF洗浄は異物源を絶つためにクリーンルーム内にて実施することが好ましい。クリーンルームのクリーン度はISOクラス5以上であることが好ましい。クリーン度がISOクラス5よりも悪いと、ガラス体の表面に新たに異物が付着しやすく、異物が融着界面に入り歩留が50%未満になるおそれがある。洗浄後は融着前ガラス体の融着界面を重ねて、テープで融着界面の隙間を覆うことが好ましい。その状態で融着成型を実施する炉まで融着前ガラス体を運搬し、成型型枠にセッティングすることで、確実に融着界面に異物を混入させないことが可能となる。
【0033】
融着前ガラス体の融着界面の平滑度は、算術平均表面粗さRaは0.30nm以下であることが好ましく、より好ましくは0.20nm以下、さらに好ましくは0.10nm以下である。算術平均表面粗さRaが0.30nmを超えると、真空中で加熱をしても融着界面間の凹凸による細孔が消失せず、融着界面に気泡もしくは真空泡として残る場合がある。
【0034】
Raは粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、次式によって求められる値をナノメートル(nm)で表したものをいう。
【0035】
【数1】

【0036】
算術平均表面粗さRaは、たとえば非接触表面形状測定機(Zygo社製NewView5032)を用いて測定することができる。
【0037】
融着前ガラス体の製造方法は、溶融法・直接法・スート法などによらないが、直接法やスート法では、融着前ガラス体は通常回転体として作製される。回転に起因する堆積面の温度変動、火炎揺らぎに起因する温度変動、Si原料とTi原料濃度比の変動が、回転体作製時のSi原料・Ti原料反応量比の変動を引き起こし、堆積方向に対して垂直の向きに層状の脈理を形成する。これらの脈理は、10μm〜200μm間隔のTiO−SiO濃度変動であり、熱膨張係差に由来する応力変動を引き起こす。従って、脈理の層に対して平行に圧縮・引っ張り応力が加わる。
【0038】
融着前の複数のガラス体の脈理の方向が融着後に平行になるようにしておくと、融着界面に加わる応力は1方向となりガラス体冷却時にクラックが入りにくい。一方の融着前ガラス体の融着界面付近での脈理に対して、他方の融着前ガラス体の融着界面付近の脈理の角度が平行である場合を0°、垂直になっている場合を90°と定義する。このとき、融着前ガラス体間の融着界面付近における脈理のなす角度が45°以下であることが好ましく、30°以下であることがより好ましい。45°を超えると、融着界面におけるクラックが発生しやすい。
【0039】
融着界面に入射している脈理の角度は、光学顕微鏡による画像から求めることができる。サンプルの半径方向に対して、均等に10箇所ずつ融着前ガラス体の融着界面の箇所を測定する。
【0040】
成型型枠はカーボン、石英ガラス、SiC、Si4、アルミナのいずれかを主成分とすることが好ましい。これらの材料以外では、成型工程の1500〜1800℃に成型型枠が耐えられない恐れがある。
【0041】
型枠表面には離型剤を塗布することが好ましい。離型剤を塗布しないと、型枠成分とTiO−SiOガラスが直接反応を起こす場合が見られる。たとえば、カーボン製の成型型枠ではTiO−SiOガラス中のTi4+がTi3+へ還元され、反応によって生成したCOまたはCOがガラス体表面において泡となる。
【0042】
離型剤の種類としては、平均粒径が0.01〜150μmであるSiC、ジルコニア、アルミナ、イットリアなどの粉を有機溶媒や水に懸濁させ、刷毛などで0.005〜0.2g/cmの量を塗布し、溶媒を蒸発させたものが好ましい。これらを塗布することで、型枠とTiO−SiOガラスが直接接触することを防げ、泡の発生や型枠との融着を抑制できる。
【0043】
熱処理工程に関して説明する。熱処理工程は、融着工程と成型工程の2つのパターンに大別できる。融着工程は、TiO−SiOガラスの徐冷点〜軟化点の温度領域で実施される。徐冷点未満に温度を設定すると、ガラス体表面の粘度が下がらずに融着前ガラス体が融着しない。徐冷点+50℃以上の温度で融着することが好ましい。一方、粘度を下げる目的で融着時に軟化点を超えた温度に上昇させると、融着前ガラス体の表面から粘度が下がり、外周に近い融着界面から融着が進行していくために、中央部付近の融着界面に存在する微小な気体が脱気する前に閉じ込められる恐れがある。徐冷点+50℃〜軟化点−50℃の温度で融着することが好ましく、徐冷点+50℃〜軟化点−100℃の温度で融着することがより好ましく、徐冷点+50℃〜軟化点−150℃の温度で融着することが特に好ましい。
【0044】
融着工程は、上記の温度で真空度を上げて実施される。真空度は10Torr以下に上げることで、融着界面に存在する気泡を効率的に脱気することができる。真空度は10Torrを超えると、気泡が融着界面に残る可能性がある。
【0045】
融着工程後、成型工程に入る。融着済で成型前の状態のガラス体(以下、「成型前ガラス体」と略する)は軟化点〜軟化点+250℃にて保持される。成型工程での炉内圧力は100Torr以上であることが好ましい。炉内圧力が100Torr未満であると、TiO−SiOガラスが昇華して炉を傷める原因となる。成型工程で使用できるガスの種類には制限がある。Ar・Heといった希ガス類が好ましい。TiOは高温で酸化反応を示すため、還元性ガスはガラス表面で発泡する原因となり好ましくない。また、高温ではTiO−SiOガラスは窒化反応も示すため、Nや大気も好ましくない。軟化点未満の温度領域は、作業点よりも温度が低く効率的に成型が行われない。好ましくは軟化点以上の温度、より好ましくは軟化点+50℃〜軟化点+200℃の温度で成型することが好ましい。軟化点+250℃を超えると、ガラスが蒸発して発泡するおそれがある。
【0046】
荷重は単位面積あたり5g/cm以上であると効率的に融着と成型を行うことができる。荷重により、融着時の面間の浮きを最小限に食い止め気泡の発生を抑制することができる。また、真空泡を融着することができる。5g/cm未満であると融着界面に泡が残存する恐れがある。また、目的とする形に成型されない可能性がある。
【0047】
冷却工程では、成型後ガラス体の融着界面にかかる応力が緩和されることが重要である。冷却速度が極端に早い場合には成型後ガラス体のクラックが発生しやすくなる。リードタイムが長くなる欠点を除けば、TiO−SiOガラスの歪点である900〜800℃までは、好ましくは20℃/hr、より好ましくは10℃/hr、さらに好ましくは5℃/hrで温度を下げ、その後自然冷却するという方法でクラックの発生を防ぐことができる。
【0048】
上記に示した成型方法により、成型後に外形研削され、研削後に融着界面が光学使用面に出ないように成型することを特徴とするEUVリソグラフィ用光学部材用の成型後ガラス体を作製できる。研削後の光学面に融着界面が露出すると、研磨後に融着界面起因の表面形状の悪化が発生する恐れがある。EUVL用露光装置に使用されるミラーは、1Å角の領域における2乗平均平方根(RMS)粗さがきわめて低いことが要求されている。
【0049】
本発明の成型方法を行った後、最後に検査を実施することが好ましい。成型後ガラス体中の内部異物・気泡についての検査は、下記の手順で実施することができる。先ず、成型後ガラス体の表面を研削する。ついで研削したガラス体の表面にトリエチルアルコールを塗布する。トリエチルアルコールを塗布した状態で、高輝度光源から光をガラス体に入射し、肉眼によりガラス体中の内部異物・気泡を確認する。
【0050】
以上の工程を実施することで、30μm以上の気泡およびインクルージョンの存在しない、任意の質量の成型後ガラス体を作製することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、例1〜4は実施例であり、その他は比較例である。以下の実施例のガラス組成はすべて、TiO=6.7質量%、SiO=93.3質量%のものを使用した。徐冷点は1110℃、軟化点は1550℃である。
【0052】
[例1]
2つのTiO−SiOガラス体の1面を算術平均粗さRaが0.08nmになるように研削する。算術平均粗さRaが0.08nmの面が向かい合うように、2つのTiO−SiOガラス体をカーボンの成型型枠の中に重ねて設置する。融着時に真空度を5Torr、温度を1200℃として5時間保持する。その後、Arガスを炉内に導入して760Torrまで真空度を下げ、1650℃まで昇温し5時間保持する。その後炉を自然冷却する。
ついで、冷却後の成型後ガラス体を検査する。検査は、上述のように、高輝度光源の光をガラスに入射し、肉眼により実施する。融着界面で2つのガラス体は完全に融着し、内部異物・気泡は存在していない。
【0053】
[例2]
2つのTiO−SiOガラス体の1面を算術平均粗さRaが0.13nmになるように研削する。算術平均粗さRaを0.13nmにした面が向かい合うように、TiO−SiOガラス体をカーボンの成型型枠の中に重ねて設置する。融着時に真空度を5Torr、温度を1200℃として5時間保持する。その後、Arガスを炉内に導入して760Torrまで真空度を下げ、1650℃まで昇温し5時間保持する。その後炉を自然冷却する。
ついで、冷却後の成型後ガラス体を例1と同じ方法で検査したところ、融着界面で2つのガラス体は完全に融着して一体化している。
【0054】
[例3]
2つのTiO−SiOガラス体の1面を算術平均粗さRaが0.08nmになるように研削する。算術平均粗さRaが0.08nmの面が向かい合うように、TiO−SiOガラス体をカーボンの成型型枠の中に重ねて設置する。融着時に真空度を5Torr、温度を1490℃として5時間保持する。その後、Arガスを炉内に導入して760Torrまで真空度を下げ、1580℃まで昇温し5時間保持する。その後炉を自然冷却する。
ついで、冷却後の成型後ガラス体を例1と同じ方法で検査したところ、融着界面で2つのガラス体は完全に融着して一体化している。
【0055】
[例4]
2つのTiO−SiOガラス体の1面を算術平均粗さRaが0.13nmになるように研削する。算術平均粗さRaを0.13nmにした面が向かい合うように、TiO−SiOガラス体をカーボンの成型型枠の中に重ねて設置する。融着時に真空度を5Torr、温度を1490℃として5時間保持する。その後、Arガスを炉内に導入して760Torrまで真空度を下げ、1580℃まで昇温し5時間保持する。その後炉を自然冷却する。
ついで、冷却後の成型後ガラス体を例1と同じ方法で検査したところ、融着界面で2つのガラス体は完全に融着して一体化している。
【0056】
[例5]
2つのTiO−SiOガラス体の1面を算術平均粗さRaが0.08nmになるように研削する。算術平均粗さRaを0.08nmにした面が向かい合うように、TiO−SiOガラス体をカーボンの成型型枠の中に重ねて設置する。融着時に真空度を5Torr、温度を1050℃として5時間保持する。その後、Arガスを炉内に導入して760Torrまで真空度を下げ、1650℃まで昇温し5時間保持する。その後炉を自然冷却する。
ついで、冷却後の成型後ガラス体を例1と同じ方法で検査したところ、融着時のガラス温度が低すぎて十分な融着が行われず、融着界面に気泡が見られる。
【0057】
[例6]
2つのTiO−SiOガラス体の1面を算術平均粗さRaが0.08nmになるように研削する。算術平均粗さRaを0.08nmにした面が向かい合うように、TiO−SiOガラス体をカーボンの成型型枠の中に重ねて設置する。融着時に真空度を5Torr、温度を1580℃として5時間保持する。その後、Arガスを炉内に導入して760Torrまで真空度を下げ、1650℃まで昇温し5時間保持する。その後炉を自然冷却する。
ついで、冷却後の成型後ガラス体を例1と同じ方法で検査したところ、融着時にガラス温度が高すぎて十分な脱泡の前にガラスが融着してしまい、融着界面に気泡が見られる。
【0058】
[例7]
算術平均粗さRaを0.08nmにした面が向かい合うように、TiO−SiOガラスをカーボンの成型型枠の中に重ねて投入した。室温の段階からArを760Torrになるように炉内に投入して、温度を1200℃まで上昇して5時間保持した後、そのまま1650℃まで昇温してさらに5時間保持した。その後炉を自然冷却し、取り出した成型後ガラス体を例1と同じ方法で検査したところ、融着時に脱泡が行われなかったために、融着界面に気泡が見られた。
【0059】
[例8]
2つのTiO−SiOガラス体の1面を算術平均粗さRaが0.08nmになるように研削する。算術平均粗さRaを0.08nmにした面が向かい合うように、TiO−SiOガラス体をカーボンの成型型枠の中に重ねて設置する。融着時に真空度を5Torr、温度を1200℃として5時間保持する。その後、Arガスを炉内に導入して50Torrまで真空度を下げ、1650℃まで昇温し5時間保持する。その後炉を自然冷却する。成型時の圧力が低かったためにガラスが昇華し、成型後ガラス体は得られない。
【0060】
[例9]
2つのTiO−SiOガラス体の1面を算術平均粗さRaが0.08nmになるように研削する。算術平均粗さRaを0.08nmにした面が向かい合うように、TiO−SiOガラス体をカーボンの成型型枠の中に重ねて設置する。融着時に真空度を5Torr、温度を1200℃として5時間保持する。その後、Arガスを炉内に導入して760Torrまで真空度を下げ、1810℃まで昇温し5時間保持する。その後炉を自然冷却する。
ついで、冷却後の成型時の温度が高かったためにガラスが昇華し、成型後ガラス体は得られない。
【0061】
[例10]
2つのTiO−SiOガラス体の1面を算術平均粗さRaが0.08nmになるように研削する。算術平均粗さRaを0.40nmにした面が向かい合うように、TiO−SiOガラス体をカーボンの成型型枠の中に重ねて設置する。融着時に真空度を5Torr、温度を1200℃として5時間保持する。その後、Arガスを炉内に導入して760Torrまで真空度を下げ、650℃まで昇温し5時間保持する。その後炉を自然冷却する。
ついで、冷却後の成型後ガラス体を例1と同じ方法で検査したところ、融着界面が粗く融着が十分に行われず、融着界面に気泡が見られる。
【0062】
上記例1〜10で作製したガラスの結果を表1にまとめる。
【0063】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の成型方法および光学部材はEUVリソグラフィ用露光装置に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上のガラス体を10Torr以下の雰囲気で徐冷点〜軟化点のいずれかの温度に昇温し融着した後、100Torrを越える雰囲気で軟化点〜軟化点+250℃にて成型することを特徴とするEUVリソグラフィ用ガラスの成型方法。
【請求項2】
融着時に、ガラス体の上部に対して5g/cm以上の荷重を加えることを特徴とする請求項1に記載のEUVリソグラフィ用ガラスの成型方法。
【請求項3】
各ガラス体の融着する向かいあった面の算術平均表面粗さRaが0.30nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のEUVリソグラフィ用ガラスの成型方法。
【請求項4】
各ガラス体の表面における脈理の方向のなす角度が45°以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用ガラスの成型方法。
【請求項5】
成型型がカーボン、石英ガラス、SiC、Si、またはAlのいずれかを主成分とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用ガラスの成型方法。
【請求項6】
ガラスが成型型に直接接しないように、型の上にガラスおよびカーボンとは異なる材料塗布されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用ガラスの成型方法。
【請求項7】
ガラス体がTiO含有量が5〜12質量%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用ガラスの成型方法。
【請求項8】
ガラス体の22℃における熱膨張係数が0±100ppb/℃の範囲内にあることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用ガラスの成型方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の成型方法にて成型されたガラスを用いたEUVリソグラフィ用光学部材。
【請求項10】
光学面に融着界面が存在しない請求項または請求項9のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用光学部材。
【請求項11】
30μm以上の空隙、およびインクルージョンがないことを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用光学部材。
【請求項12】
実質的に不純物を含まないことを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用光学部材。

【図1】
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【公開番号】特開2010−163289(P2010−163289A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4506(P2009−4506)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】