説明

TiO2を含有するシリカガラス

【課題】EUVL用露光装置の光学系部材として好適な熱膨張特性を有するTiO2−SiO2ガラスの提供。
【解決手段】TiO2含有量が3〜9質量%であり、熱膨張係数が0ppb/℃となる温度が15〜35℃の範囲にあり、仮想温度が850℃以下であり、熱膨張係数が0±5ppb/℃となる温度幅が7.8℃以上であることを特徴とするTiO2を含有するシリカガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TiO2を含有するシリカガラス(以下、本明細書では、TiO2−SiO2ガラスと記す)に関し、特にEUVリソグラフィ用の露光装置の光学系部材として用いられるTiO2−SiO2ガラスに関する。なお、本発明でいうEUV(Extreme Ultra Violet)光とは、軟X線領域または真空紫外域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2〜100nm程度の光のことである。
【背景技術】
【0002】
従来から、光リソグラフィ技術においては、ウェハ上に微細な回路パターンを転写して集積回路を製造するための露光装置が広く利用されている。集積回路の高集積化および高機能化に伴い、集積回路の微細化が進み、露光装置には深い焦点深度で高解像度の回路パターンをウェハ面上に結像させることが求められ、露光光源の短波長化が進められている。露光光源は、従来のg線(波長436nm)、i線(波長365nm)やKrFエキシマレーザ(波長248nm)から進んでArFエキシマレーザ(波長193nm)が用いられ始めている。また、さらに回路パターンの線幅が70nm以下となる次世代の集積回路に対応するため、ArFエキシマレーザを用いた液浸露光技術や二重露光技術が有力視されているが、これも線幅が45nm世代までしかカバーできないと見られている。
【0003】
このような流れにあって、露光光源としてEUV光(極端紫外光)のうち代表的には波長13nmの光を用いたリソグラフィ技術が、32nm以降の複数世代にわたって適用可能と見られ注目されている。EUVリソグラフィ(以下、「EUVL」と略する)の像形成原理は、投影光学系を用いてマスクパターンを転写する点では、従来のフォトリソグラフィーと同じである。しかし、EUV光のエネルギー領域では光を透過する材料が無いために、屈折光学系は用いることができず、光学系はすべて反射光学系となる。
【0004】
EUVL用露光装置の光学系部材はフォトマスクやミラーなどであるが、(1)基材、(2)基材上に形成された反射多層膜、(3)反射多層膜上に形成された吸収体層、から基本的に構成される。多層膜は、Mo/Siが交互に層を形成することが検討され、吸収体層には、成膜材料として、TaやCrが検討されている。基材としては、EUV光照射の下においても歪みが生じないよう低熱膨張係数を有する材料が必要とされ、低熱膨張係数を有するガラス等が検討されている。
【0005】
TiO2−SiO2ガラスは、石英ガラスよりも小さい熱膨張係数(Coefficient of Thermal Expansion;CTE)を有する超低熱膨張材料として知られ、またガラス中のTiO2含有量によって熱膨張係数を制御できるために、熱膨張係数が0に近いゼロ膨張ガラスが得られる。したがって、TiO2−SiO2ガラスはEUVL用露光装置の光学系部材に用いる材料としての可能性がある。
【0006】
従来のTiO2−SiO2ガラスの作製方法は、まず、シリカ前駆体とチタニア前駆体をそれぞれ蒸気形態に転化させてこれらを混合する。この蒸気形態となった混合物は、バーナーに導入され熱分解することでTiO2−SiO2ガラス粒子となる。このTiO2−SiO2ガラス粒子は耐火性容器中に堆積され、堆積と同時にそこで溶融されてTiO2−SiO2ガラスとなる。
【0007】
また、特許文献1には、TiO2−SiO2多孔質ガラス体を形成し、ガラス体にした後、マスク基板を得る方法が開示されている。
【0008】
EUVL用露光装置の光学系部材は、その製造時において、反射膜などの成膜の際に、100℃程度の温度になる。また、EUVL用露光装置での使用時に、高エネルギーのEUV光が照射されるので、部材の温度が局所的に上昇するおそれがある。
このため、EUVL用露光装置の光学系部材は、熱膨張係数がほぼゼロとなる温度領域が広いことが好ましいが、従来のTiO2−SiO2ガラスでは、熱膨張係数がほぼゼロとなる温度領域が狭く、EUVL用露光装置の光学系部材に用いるには不充分であった。
【0009】
上記した従来技術の問題点を解決するため、本願発明者らは、特許文献2において、仮想温度が1200℃以下であり、F濃度が100ppm以上であり、かつ0〜100℃での熱膨張係数が0±200ppb/℃であることを特徴とするTiO2−SiO2ガラス、およびこのTiO2−SiO2ガラスの製造方法を開示している。
このTiO2−SiO2ガラスは、熱膨張係数の温度変化が小さい、つまり熱膨張係数がほぼゼロとなる温度範囲が広く、またガラス中の熱膨張係数および機械的特性の均質性に優れており、EUVLに使用される光学系を構成する部材の素材としてきわめて好適であると考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/157421号明細書
【特許文献2】特開2005−104820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2の図2から明らかなように、より具体的には、図2の例1および例2の比較から明らかなように、仮想温度が1200℃以下で、F濃度が100ppm以上のTiO2−SiO2ガラスであっても、F濃度が異なる場合、熱膨張係数の温度変化が異なっている。
また、Fを含有するTiO2−SiO2ガラスではないが、図2の例3〜例5の比較から明らかなように、仮想温度が異なる場合、熱膨張係数の温度変化が異なっている。
したがって、特許文献2に記載のTiO2−SiO2ガラスは、熱膨張係数がほぼゼロとなる温度範囲が広くなっているが、F濃度および仮想温度のうち、少なくとも一方が異なる場合、熱膨張係数の温度変化が異なり、熱膨張係数がほぼゼロとなる温度領域が異なってくる。
【0012】
EUVLを実施する際、EUVL露光装置内の温度は厳密に管理される。EUVL用露光装置の光学系部材は、この厳密に管理された温度下において、熱膨張係数がほぼゼロになっていることが必要となるが、特許文献2に記載のTiO2−SiO2ガラスは、露光装置内の温度において、熱膨張係数がほぼゼロとはならない場合があり、EUVL用露光装置の光学系部材として決して十分ではなかった。
また、特許文献2のTiO2−SiO2ガラスは、熱膨張係数がほぼゼロとなる温度範囲が最も広いもので7.6℃であることが例1に示されているが、特許文献2に記載のTiO2−SiO2ガラスでは、F濃度および仮想温度のうち、少なくとも一方が異なる場合、熱膨張係数がほぼゼロとなる温度領域が異なってくること、および、EUV光の照射により光学系部材の温度が局所的に上昇するおそれがあることを考慮すると、決して十分な温度範囲ではなかった。
【0013】
上記した従来技術の問題点を解決するため、本発明は、EUVL用露光装置の光学系部材として好適な熱膨張特性を有するTiO2−SiO2ガラスを提供することを目的とする。より具体的には、EUVL用露光装置の光学系部材として使用した場合に、EUV光の照射時の熱膨張係数がほぼゼロとなるTiO2−SiO2ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するため、本発明は、TiO2含有量が3〜9質量%であり、熱膨張係数が0ppb/℃となる温度が15〜35℃の範囲にあり、仮想温度が850℃以下であり、熱膨張係数が0±5ppb/℃となる温度幅が7.8℃以上であることを特徴とするTiO2を含有するシリカガラス(以下、「本発明のTiO2−SiO2ガラス」という。)を提供する。
【0015】
本発明のTiO2−SiO2ガラスは、F濃度が1000ppm以上であることが好ましい。
【0016】
また、本発明のTiO2−SiO2ガラスは、仮想温度が800℃以下であり、OH濃度が600ppm以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のTiO2−SiO2ガラスは、熱膨張係数がほぼゼロとなる温度範囲が広く、かつ、熱膨張係数がほぼゼロとなる温度領域が、EUV光照射時の光学系部材の温度を包含するため、EUVL用露光装置の光学系部材としてきわめて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、CTEと温度の関係をプロットしたグラフである。
【図2】図2は、例1〜例6のガラスについて、CTEと温度の関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明のTiO2−SiO2ガラスを説明する。
本発明のTiO2−SiO2ガラスは、熱膨張係数(CTE)が0ppb/℃となる温度(クロスオーバー温度:Cross−over Temperature;COT)が15〜35℃の範囲にあり、熱膨張係数(CTE)が0±5ppb/℃となる温度幅ΔTが7.8℃以上であることを特徴とする。
TiO2−SiO2ガラスのCOTおよびΔTは、TiO2−SiO2ガラスの熱膨張係数(CTE)を公知の方法、例えば、レーザー干渉計により試料の伸びを検出する熱膨張計を用いて−50〜+100℃の範囲あるいはそれより広い範囲で連続昇温、あるいは15〜35℃の範囲をステップ昇温で試料の熱膨張を測定し、CTEと温度の関係を図1に示すようにプロットすることにより求めることができる。
【0020】
EUVLを実施する際、EUVL用露光装置内の温度は、露光装置内のマスク基板やミラー等の光学系部材の温度変化による寸法変化を防ぐ目的から、22±3℃になるよう厳密に管理される。この状態において、EUVL用露光装置内に置かれた光学系部材の温度は22±3℃になる。但し、光学系部材の温度は、高エネルギーのEUV光が照射されるため、局所的に上昇することが示唆されている。
EUV光の照射条件にもよるが、EUVLを実施する際のEUV光の通常の照射条件では、光学系部材の温度は、4〜6℃程度局所的に上昇する場合がある。
【0021】
EUVL用露光装置の光学系部材に用いられるTiO2−SiO2ガラスのCOTが15〜35℃の範囲にあって、ΔTが7.8℃以上であれば、EUV光照射時の光学系部材の温度条件下において、該光学系部材の熱膨張係数がほぼゼロとなる。本明細書において、熱膨張係数がほぼゼロと言った場合、熱膨張係数が0±5ppb/℃であることを指す。
本発明のTiO2−SiO2ガラスにおいて、COTが17〜31℃であることが好ましく、COTが19〜27℃であることがより好ましい。
また、本発明のTiO2−SiO2ガラスにおいて、ΔTが8.5℃以上であることが好ましく、より好ましくは9℃以上である。
【0022】
COTおよびΔTが上記を満たす本発明のTiO2−SiO2ガラスは、ガラス組成、もしくは仮想温度、またはその両方を調節することによって得ることができる。
【0023】
COTおよびΔTが上記を満たす本発明のTiO2−SiO2ガラスの一態様(以下、「TiO2−SiO2ガラス(1)」とする。)は、下記を満たす。
TiO2含有量:3〜9質量%
仮想温度:850℃以下
F濃度:1000ppm以上
したがって、TiO2−SiO2ガラス(1)は、TiO2およびSiO2以外にFを含有する。TiO2−SiO2ガラス(1)において、TiO2およびFを除いた残部はSiO2であるが、TiO2、SiO2およびF以外の成分を含有してもよい。
【0024】
TiO2−SiO2ガラスは、TiO2含有量により、熱膨張係数が変化することが知られている(P.C.Schultz and H.T.Smyth, in: R.W.Douglas and B.Ellis, Amorphous Materials, Willey, New York, p.453(1972).)。
したがって、TiO2−SiO2ガラスのTiO2含有量を調節することによって、該TiO2−SiO2ガラスのCOTを調節することができる。
【0025】
TiO2−SiO2ガラス(1)は、TiO2含有量が3〜9質量%である。TiO2含有量が3質量%未満、若しくは9質量%超だと、COTが15〜35℃の温度領域に存在しないおそれがある。具体的には、TiO2含有量が3質量%未満だと、COTが15℃未満となる。好ましくは5質量%以上、より好ましくは6質量%以上である。また、TiO2含有量が9質量%超だと、COTが35℃超となるおそれがある。好ましくは8質量%以下である。
【0026】
特許文献2で述べているように、本願発明者らは、仮想温度とゼロ膨張の温度範囲の広さに関連があること、すなわち、仮想温度とΔTに関連があること、より具体的には、仮想温度が高くなるとΔTが狭くなり、仮想温度が低くなるとΔTが広くなることを見出している。
TiO2−SiO2ガラス(1)は、仮想温度が850℃以下であることで、ΔTが7.8℃以上となる。仮想温度が850℃超だと、ΔTが7.8℃未満となり、ガラスのCOTにもよるが、TiO2−SiO2ガラス(1)をEUVL用露光装置の光学系部材として使用した場合に、EUV光照射時の光学系部材の熱膨張係数がほぼゼロとならないおそれがある。仮想温度が低くなるほど、ΔTが広くなることを考慮すると、仮想温度が830℃以下であることが好ましく、800℃以下であることがより好ましい。ΔTをより広げるには、仮想温度を780℃以下にすることが特に好ましい。
【0027】
仮想温度が850℃以下のTiO2−SiO2ガラス(1)を得るためには、所定の形状に成形したTiO2−SiO2ガラス成形体を700〜1200℃の温度にて2時間以上保持した後、5℃/hr以下の平均降温速度で300〜700℃の間のいずれかの温度まで降温する方法が好ましい。
後述する実施例では、上記の方法に従って、本発明のTiO2−SiO2ガラスを1000℃にて10時間保持し、5℃/hrの速度で300℃まで降温し、大気放冷したところ、得られたTiO2−SiO2ガラスの仮想温度が750℃となることが示されている。
より遅い平均降温速度で降温すれば、より低い仮想温度が達成される。具体的には、より仮想温度を下げるためには、3℃/hr以下の平均降温速度で降温することが好ましく、1℃/hr以下の平均降温速度で降温することがより好ましい。例えば、1℃/hr以下の速度で降温すれば、仮想温度は700℃以下に成り得るが、その場合は900〜600℃の温度範囲のみを遅い降温速度、例えば、1℃/hr以下の速度で降温し、それ以外の温度域は5℃/hr以上の降温速度で降温することで時間を短縮することができる。
【0028】
TiO2−SiO2ガラスの仮想温度は公知の手順で測定することができる。後述する実施例では、以下の手順でTiO2−SiO2ガラスの仮想温度を測定した。
鏡面研磨されたTiO2−SiO2ガラスについて、吸収スペクトルを赤外分光計(後述する実施例では、Nikolet社製Magna760を使用)を用いて取得する。この際、データ間隔は約0.5cm-1にし、吸収スペクトルは、64回スキャンさせた平均値を用いる。このようにして得られた赤外吸収スペクトルにおいて、約2260cm-1付近に観察されるピークがTiO2−SiO2ガラスのSi−O−Si結合による伸縮振動の倍音に起因する。このピーク位置を用いて、仮想温度が既知で同組成のガラスにより検量線を作成し、仮想温度を求める。あるいは、表面の反射スペクトルを同様の赤外分光計を用いて、同様に測定する。このようにして得られた赤外反射スペクトルにおいて、約1120cm-1付近に観察されるピークがTiO2−SiO2ガラスのSi−O−Si結合による伸縮振動に起因する。このピーク位置を用いて、仮想温度が既知で同組成のガラスにより検量線を作成し、仮想温度を求める。
【0029】
TiO2−SiO2ガラス(1)をEUVL用露光装置の光学系部材として使用するときに、ガラス中におけるTiO2/SiO2組成比を均一にすることは、ガラス内での熱膨張係数のばらつきを小さくするという点で重要である。
TiO2−SiO2ガラス(1)は、仮想温度のばらつきが50℃以内であることが好ましく、より好ましくは30℃以内である。仮想温度のばらつきが上記範囲を超えると、場所により、熱膨張係数に差を生じるおそれがある。仮想温度のばらつきを50℃以内とするには、F濃度のばらつきを1000ppm以内とし、TiO2−SiO2ガラス成形体を700〜1200℃の温度にて2時間以上保持した後、5℃/hr以下の平均降温速度で700℃以下まで降温すればよい。
本明細書では、「仮想温度のばらつき」を少なくとも1つの面内における30mm×30mm内での仮想温度の最大値と最小値の差と定義する。
仮想温度のばらつきは以下のように測定できる。所定のサイズに成形した透明TiO2−SiO2ガラス体をスライスし、50mm×50mm×6.35mmのTiO2−SiO2ガラスブロックとする。このTiO2−SiO2ガラスブロックの50mm×50mm面について、10mmピッチの間隔で前述の方法に従い仮想温度の測定を行うことで、成形TiO2−SiO2ガラス体の仮想温度のばらつきを求める。
【0030】
TiO2−SiO2ガラス(1)は、仮想温度を850℃以下とするため、F濃度が1000ppm以上であることが好ましい。
SiO2ガラスにおいて、Fの添加がガラスの構造緩和に影響を及ぼすことは以前から知られている(Journal・of・Applied・Physics・91(8)、4886(2002))。これによればFの添加により構造緩和時間が促進され、仮想温度が低いガラス構造が実現しやすくなる(第1の効果)。よってFの添加は、TiO2−SiO2ガラスの仮想温度を低くするのに有効な手段である。
また、Fの添加は、ΔTの範囲を広げる効果(第2の効果)があると考えられる。さらに、今回、本発明者等は、TiO2−SiO2ガラスにおいてFを含有させることは、熱膨張係数そのものを下げる効果(第3の効果)があること、ガラスの仮想温度が低い程、その効果が大きいことを見出した。これに加えてTiO2濃度を調整することで、より広い範囲でゼロ膨張となる、すなわち、従来以上にΔTを広げることができることを見出した。
ガラスの仮想温度を低くするためには、F濃度を3000ppm以上とすることが好ましく、5000ppm以上とすることがより好ましい。
F濃度が高すぎる場合、熱膨張係数(CTE)が上昇するので、F濃度は30000ppm以下が好ましく、20000ppm以下がより好ましい。
【0031】
F濃度は公知の方法を用いて測定することができ、例えば、以下の手順で測定することができる。TiO2−SiO2ガラスを無水炭酸ナトリウムにより加熱融解し、得られた融液に蒸留水および塩酸を融液に対する体積比でそれぞれ1ずつ加えて試料液を調整する。
試料液の起電力をFイオン選択性電極および比較電極としてラジオメータトレーディング社製No.945−220およびNo.945−468をそれぞれ用いてラジオメータにより測定し、Fイオン標準溶液を用いてあらかじめ作成した検量線に基づいて、F含有量を求める(日本化学会誌、1972(2),350)。なお本法による検出限界は10ppmである。
【0032】
Fを含有させたTiO2−SiO2ガラスの製造方法としては以下のようないくつかの方法がある。ひとつに、スート法により、ガラス形成原料となるSi前駆体とTi前駆体を火炎加水分解もしくは熱分解させて得られるTiO2−SiO2ガラス微粒子(スート)を堆積、成長させて、多孔質TiO2−SiO2ガラス体を得る。得られた多孔質TiO2−SiO2ガラス体をF含有雰囲気にて処理した後、透明ガラス化温度以上まで加熱して、Fを含有させたTiO2−SiO2ガラスを得る製造方法がある。F含有雰囲気としては、含Fガス(例えばSiF4、SF6、CHF3、CF4、C26、C38、F2)を0.1〜100体積%含有する不活性ガス雰囲気が好ましい。これらの雰囲気下、圧力10000〜200000Paで数十分〜数時間の処理を、後述する緻密化温度以下の高温で行うことが好ましい。また、同じFドープ量を得る場合において処理温度を下げたい時は、処理時間を延ばし5〜数十時間保持するようにすればよい。得られるガラスの透過率を上げるためには、熱処理雰囲気に酸素ガスを混ぜることが好ましい。スート法はその作り方により、MCVD法、OVD法、およびVAD法などがある。
【0033】
本明細書では、緻密化温度とは、光学顕微鏡で空隙が確認できなくなるまで多孔質ガラス体を緻密化できる温度をいう。また、透明ガラス化温度とは、光学顕微鏡で結晶が確認できなくなり、透明なガラスが得られる温度をいう。
【0034】
スート法では、ガラス形成原料となるSi前駆体とTi前駆体にFを含むものを用いたり、Si前駆体とTi前駆体をF含有雰囲気にて火炎加水分解もしくは熱分解させて、Fを含有する多孔質TiO2−SiO2ガラス体を得て、Fを含有するTiO2−SiO2ガラス体を得る製造方法もある。
【0035】
また、直接法により、ガラス形成原料となるSi前駆体とTi前駆体にFを含むものを用いたり、Si前駆体とTi前駆体をF含有雰囲気にて1800〜2000℃の酸水素火炎中で加水分解・酸化させることで、Fを含有するTiO2−SiO2ガラス体を得る製造方法がある。
【0036】
TiO2−SiO2ガラス(1)において、仮想温度のばらつきが50℃以内、F濃度のばらつきが1000ppm以内であれば、熱膨張係数分布を少なくとも1つの面内における30mm×30mm内で30ppb/℃以内となし得、EUVL用露光装置の光学系部材として適している。
TiO2−SiO2ガラスの熱膨張係数分布は公知の方法を用いて測定することができる。例えば、所定のサイズに成形した透明TiO2−SiO2ガラス体を切断し、15mm×15mm×1mmのTiO2−SiO2ガラス小片となるよう分割し、この各小片について、前述の方法に従い、熱膨張係数の測定を行うことで、成形TiO2−SiO2ガラスブロックの熱膨張係数のばらつきを求める。
【0037】
TiO2−SiO2ガラス(1)を製造するためには、下記(a)〜(e)工程を含む製法が採用できる。
(a)工程
ガラス形成原料であるSi前駆体およびTi前駆体を火炎加水分解させて得られるTiO2−SiO2ガラス微粒子を基材に堆積、成長させて多孔質TiO2−SiO2ガラス体を形成させる。ガラス形成原料としては、ガス化可能な原料であれば特に限定されないが、Si前駆体としては、SiCl4、SiHCl3、SiH2Cl2、SiH3Clなどの塩化物、SiF4、SiHF3、SiH22などのフッ化物、SiBr4、SiHBr3などの臭化物、SiI4などのヨウ化物といったハロゲン化ケイ素化合物、またRnSi(OR)4-n(ここにRは炭素数1〜4のアルキル基、nは0〜3の整数)で示されるアルコキシシランが挙げられ、またTi前駆体としては、TiCl4、TiBr4などのハロゲン化チタン化合物、またRnTi(OR)4-n(ここにRは炭素数1〜4のアルキル基、nは0〜3の整数)で示されるアルコキシチタンが挙げられる。また、Si前駆体およびTi前駆体として、シリコンチタンダブルアルコキシドなどのSiとTiの化合物を使用することもできる。
基材としては石英ガラス製の種棒(例えば特公昭63−24973号公報記載の種棒)を使用できる。また棒状に限らず板状の基材を使用してもよい。
【0038】
(b)工程
(a)工程で得られた多孔質TiO2−SiO2ガラス体をF含有雰囲気下にて保持し、Fを含有した多孔質TiO2−SiO2ガラス体を得る。このF含有雰囲気としては、含Fガス(例えばSiF4、SF6、CHF3、CF4、C26、C38、F2)を0.1〜100体積%含有する不活性ガス雰囲気が好ましい。
このような雰囲気下、圧力10000〜100000Pa(1気圧程度)で数十分〜数時間の処理を、室温もしくは後述する透明ガラス化温度以下の高温で行うことが好ましい。また、同じFドープ量を得る場合において処理温度を下げたい時は、処理時間を延ばし5〜数十時間保持するようにすればよい。
【0039】
透明ガラス化温度以上の温度を用いた場合、多孔質TiO2−SiO2ガラス体の緻密化が進行し、多孔質TiO2−SiO2ガラス体内部にまでFを含有させることが困難になるため好ましくない。
例えば、F含有雰囲気としてSiF4を用いる場合、多孔質TiO2−SiO2ガラス体にドープさせたいF量に合わせ、以下のように処理温度、処理時間を設定すればよい。
【0040】
Fドープ量を1000ppm以上3000ppm未満としたい場合は、含Fガスを2〜10体積%含むガス雰囲気にて、500〜1000℃で2〜数十時間保持すればよい。Fドープ量を3000〜7000ppmとしたい場合は、含Fガスを5〜数十体積%含む不活性ガス雰囲気にて、800〜1100℃で2〜数十時間保持すればよい。Fドープ量を7000ppm以上としたい場合は、含Fガスを5〜数十体積%含む不活性ガス雰囲気にて、1000℃以上で2〜数十時間保持すればよい。得られるガラスの透過率を上げるためには、熱処理雰囲気に酸素ガスを混ぜることが好ましい。あるいは、酸素を含む雰囲気にて、ガラス体を緻密化しない程度に、300〜1300℃で5〜数十時間保持する。これはその後の熱処理においてガラスの着色を防ぐためである。雰囲気中の酸素は、1〜100%であることが好ましく、より確実にガラスの着色を防ぐためには、20〜100%であることがより好ましい。
なお、本明細書における「Pa」は、ゲージ圧ではなく絶対圧の意である。
【0041】
従来のようにスート法で合成された合成石英ガラスにFをドープする場合は、高温でFをドープすると酸素欠乏欠陥が生じて光透過率低下の原因になることが指摘されている。
しかしながら、反射光学系に用いる光学部材に使用する場合は光透過率の低下は問題にならない。よって、透明ガラス化温度以下の高温で処理することにより、極めて多いFを含有させることが可能になり、Fドープ量は最大で数千ppm以上とすることができる。
【0042】
さらに(b)工程においては、多孔質TiO2−SiO2ガラス体へ均一に短時間でFをドープできることから、TiO2−SiO2ガラス体を減圧下(好ましくは13000Pa以下、特に1300Pa以下)に置いた後、ついで、Fを常圧になるまで導入し、F含有雰囲気とすることが好ましい。
【0043】
(c)工程
(b)工程で得られたFを含有した多孔質TiO2−SiO2ガラス体を透明ガラス化温度まで昇温して、Fを含有した透明TiO2−SiO2ガラス体を得る。透明ガラス化温度は、通常は1250〜1750℃であり、特に1300〜1700℃であることが好ましい。
Fの含有量が多い場合は、ガラスの粘性が低下し、透明ガラス化温度が低下するため、1250〜1650℃が好ましく、特に1300〜1600℃であることが好ましい。
【0044】
雰囲気としては、ヘリウムやアルゴンなどの不活性ガス100%の雰囲気、またはヘリウムなどの不活性ガスを主成分とする雰囲気であることが好ましい。圧力については、減圧または常圧であればよい。特に常圧の場合はヘリウムガスやアルゴンを用いることができる。また、減圧の場合は13000Pa以下が好ましい。より確実にガラスの着色を防ぐためには、酸素を微量含有させた方が好ましい。また、より高濃度のFを導入するためには、含Fガスを含有させた方が好ましい。
【0045】
(d)工程
(c)工程で得られたFを含有した透明TiO2−SiO2ガラス体を、軟化点以上の温度に加熱して所望の形状に成形し、Fを含有した成形TiO2−SiO2ガラス体を得る。成形加工の温度としては、1500〜1800℃が好ましい。1500℃未満では、Fを含有した透明TiO2−SiO2ガラスの粘度が高いため、実質的に自重変形が行われず、またSiO2の結晶相であるクリストバライトの成長またはTiO2の結晶相であるルチルもしくはアナターゼの成長が起こり、いわゆる失透が生じる。1800℃超では、SiO2の昇華が無視できなくなる。
なお、(c)工程と(d)工程を連続的に、あるいは同時に行うこともできる。また、(c)工程で得られるガラス体の形状で良い場合は、(d)工程を省略しても良い。
【0046】
(e)工程
(c)工程または(d)工程で得られたTiO2−SiO2ガラス体を、700〜1200℃の温度にて2時間以上保持した後、5℃/hr以下の平均降温速度で700℃以下まで降温するアニール処理を行い、TiO2−SiO2ガラスの仮想温度を制御する。あるいは、(c)工程または(d)工程において、TiO2−SiO2ガラス体を得た後、700℃以下まで5℃/hr以下の平均降温速度で降温するアニール処理を行い、TiO2−SiO2ガラスの仮想温度を制御する。700℃以下まで降温した後は放冷できる。この場合の雰囲気は、ヘリウム、アルゴン、窒素などの不活性ガス100%の雰囲気下、これらの不活性ガスを主成分とする雰囲気下、または空気雰囲気下で、圧力は減圧または常圧が好ましい。
より低い仮想温度を達成するためには、ガラスの徐冷点や歪点付近の温度域をより遅い降温速度で降温することが有効である。具体的には、(e)工程の降温プロファイルにおいて、最も遅い降温速度が1℃/hr以下であることが好ましく、より好ましくは0.5℃/hr以下、特に好ましくは0.3℃/hr以下である。
【0047】
COTおよびΔTが上記を満たす本発明のTiO2−SiO2ガラスの別の一態様(以下「TiO2−SiO2ガラス(2)」とする。)は、下記を満たす。
TiO2含有量:3〜9質量%
仮想温度:800℃以下
OH濃度:600ppm以上
したがって、TiO2−SiO2ガラス(2)は、TiO2およびSiO2以外にOHを含有する。TiO2−SiO2ガラス(2)において、TiO2およびOHを除いた残部はSiO2であるが、TiO2、SiO2およびOH以外の成分を含有してもよい。
【0048】
TiO2−SiO2ガラス(2)は、TiO2含有量が3〜9質量%である。TiO2含有量が3質量%未満、若しくは9質量%超だと、COTが15〜35℃の温度領域に存在しないおそれがある。具体的には、TiO2含有量が3質量%未満だと、COTが35℃超となり、TiO2含有量が9質量%超だと、COTが15℃未満となるおそれがある。
TiO2含有量は、5〜9質量%であることが好ましく、6〜8質量%であることがより好ましい。
【0049】
TiO2−SiO2ガラス(2)は、仮想温度が800℃以下であり、かつOH濃度が600pm以上であることにより、ΔTが7.8℃以上となる。仮想温度が800℃超だと、ΔTが7.8℃未満となり、ガラスのCOTにもよるが、TiO2−SiO2ガラス(2)をEUVL用露光装置の光学系部材として使用した場合に、EUV光照射時の光学系部材の熱膨張係数がほぼゼロとならないおそれがある。仮想温度が低くなるほど、ΔTが広くなることを考慮すると、仮想温度が780℃以下であることが好ましく、750℃以下であることがより好ましい。
【0050】
仮想温度が800℃以下のTiO2−SiO2ガラス(2)を得るためには、所定の形状に成形したTiO2−SiO2ガラス成形体を700〜1200℃の温度にて2時間以上保持した後、3℃/hr以下の平均降温速度で700℃以下まで降温する方法が好ましい。
より仮想温度を下げるには、1℃/hr以下の平均降温速度で700℃以下まで降温する方法がより好ましく、0.5℃/hr以下の平均降温速度で700℃以下まで降温する方法が特に好ましい。
TiO2−SiO2ガラス(2)をEUVL用露光装置の光学系部材として使用するときに、ガラス中におけるTiO2/SiO2組成比を均一にすることは、ガラス内での熱膨張係数のばらつきを小さくするという点で重要である。
【0051】
TiO2−SiO2ガラス(2)は、仮想温度のばらつきが50℃以内であることが好ましく、特に好ましくは30℃以内である。仮想温度のばらつきが上記範囲を超えると、場所により、熱膨張係数に差を生じるおそれがある。仮想温度のばらつきを50℃以内とするには、OH濃度のばらつきを200ppm以内とし、TiO2−SiO2ガラス成形体を700〜1200℃の温度にて2時間以上保持した後、3℃/hr以下の平均降温速度で700℃以下まで降温すればよい。
【0052】
TiO2−SiO2ガラス(2)は、仮想温度を800℃以下とするため、OH濃度を600ppm以上含有する。
OHの添加により、ガラスの構造緩和が促進され、仮想温度が低いガラス構造が実現しやすくなる。よって、OHの含有は、TiO2−SiO2ガラスの仮想温度を低くするのに有効な手段である。TiO2−SiO2ガラス(2)のOH濃度を600ppm以上とし、段落[0051]に記載の手順を実施することにより、仮想温度が800℃以下のTiO2−SiO2ガラス(2)を得ることができる。OH濃度が600ppm未満だと、段落[0051]に記載の手順を実施しても、仮想温度が800℃以下のTiO2−SiO2ガラスを得ることができない。
ガラスの仮想温度を低くするためには、OH濃度を1000ppm以上とすることが好ましく、1300ppm以上とすることがより好ましい。
【0053】
TiO2−SiO2ガラスのOH濃度は公知の方法を用いて測定することができる。例えば、赤外分光光度計による測定を行い、2.7μm波長での吸収ピークからOH濃度を求めることができる(J.P.Wiiliams et.al.,American Ceramic Sciety Bulletin,55(5),524,1976)。本法による検出限界は0.1ppmである。
【0054】
OHを含有するTiO2−SiO2ガラスは、上記したFを含有するTiO2−SiO2ガラスと同様、スート法または直接法を用いて製造することができる。但し、スート法において、ガラス形成原料となるSi前駆体とTi前駆体を火炎加水分解もしくは熱分解させて得られるTiO2−SiO2ガラス微粒子(スート)を堆積、成長させて、多孔質TiO2−SiO2ガラス体を得る。得られた多孔質TiO2−SiO2ガラス体を水蒸気含有雰囲気にて処理した後、水蒸気含有雰囲気中で緻密化温度以上まで加熱し、さらに透明ガラス化温度以上まで加熱してOHを含有させたTiO2−SiO2ガラスを得る製造方法がある。
【0055】
TiO2−SiO2ガラス(2)を製造するためには、下記(a)〜(e)工程を含む製法が採用できる。
(a)工程
ガラス形成原料であるSi前駆体およびTi前駆体を火炎加水分解させて得られるTiO2−SiO2ガラス微粒子を基材に堆積、成長させて多孔質TiO2−SiO2ガラス体を形成させる。ガラス形成原料としては、ガス化可能な原料であれば特に限定されないが、Si前駆体としては、SiCl4、SiHCl3、SiH2Cl2、SiH3Clなどの塩化物、SiF4、SiHF3、SiH22などのフッ化物、SiBr4、SiHBr3などの臭化物、SiI4などのヨウ化物といったハロゲン化ケイ素化合物、またRnSi(OR)4-n(ここにRは炭素数1〜4のアルキル基、nは0〜3の整数)で示されるアルコキシシランが挙げられ、またTi前駆体としては、TiCl4、TiBr4などのハロゲン化チタン化合物、またRnTi(OR)4-n(ここにRは炭素数1〜4のアルキル基、nは0〜3の整数)で示されるアルコキシチタンが挙げられる。また、Si前駆体およびTi前駆体として、シリコンチタンダブルアルコキシドなどのSiとTiの化合物を使用することもできる。
基材としては石英ガラス製の種棒(例えば特公昭63−24973号公報記載の種棒)を使用できる。また棒状に限らず板状の基材を使用してもよい。
【0056】
(b)工程
(a)工程で得られた多孔質TiO2−SiO2ガラス体を水蒸気含有雰囲気にて緻密化温度まで昇温して、OHを含有したTiO2−SiO2緻密体を得る。緻密化温度は、通常は1250〜1550℃であり、特に1300〜1500℃であることが好ましい。OHの含有量が600ppm以上の場合は、ガラスの粘性が低下し、緻密化温度が低下するため、1250〜1450℃が好ましく、特に1300〜1400℃であることが好ましい。この水蒸気含有雰囲気としては、水蒸気分圧(pH2O)が50000〜1000000Paとなる不活性ガス雰囲気が好ましい。不活性ガスとしては、ヘリウムが好ましい。
このような雰囲気下、圧力50000〜1000000Pa程度で処理を行うことが好ましい。
また(b)工程においては、TiO2−SiO2緻密体の均質性が上がることから、多孔質TiO2−SiO2ガラス体を減圧下(好ましくは13000Pa以下、特に1300Pa以下)に置いた後、ついで、不活性ガスおよび水蒸気を含有する不活性ガス、あるいは水蒸気を所定の水蒸気分圧になるまで導入し、水蒸気含有雰囲気とすることが好ましい。
さらに(b)工程においては、TiO2−SiO2緻密体の均質性が上がることから、多孔質TiO2−SiO2ガラス体を水蒸気含有雰囲気下、室温あるいは緻密化温度以下の温度にて保持した後に、緻密化温度まで昇温することが好ましい。
【0057】
(c)工程
(b)工程で得られたOHを含有したTiO2−SiO2緻密体を、透明ガラス化温度まで昇温して、OHを含有した透明TiO2−SiO2ガラス体を得る。透明ガラス化温度は、通常は1350〜1800℃であり、特に1400〜1750℃であることが好ましい。OHの含有量が600ppm以上の場合は、ガラスの粘性が低下し、透明ガラス化温度が低下するため、1350〜1750℃が好ましく、特に1400〜1700℃であることが好ましい。
雰囲気としては、ヘリウムやアルゴンなどの不活性ガス100%の雰囲気、またはヘリウムやアルゴンなどの不活性ガスを主成分とする雰囲気であることが好ましい。圧力については、減圧または常圧であればよい。減圧の場合は13000Pa以下が好ましい。
【0058】
(d)工程
(c)工程で得られたOHを含有した透明TiO2−SiO2ガラス体を、軟化点以上の温度に加熱して所望の形状に成形し、OHを含有した成形TiO2−SiO2ガラス体を得る。成形加工の温度としては、1500〜1800℃が好ましい。1500℃未満では、OHを含有した透明TiO2−SiO2ガラスの粘度が高いため、実質的に自重変形が行われず、またSiO2の結晶相であるクリストバライトの成長またはTiO2の結晶相であるルチルもしくはアナターゼの成長が起こり、いわゆる失透が生じる。1800℃超では、SiO2の昇華が無視できなくなる。
なお、(c)工程と(d)工程を連続的に、あるいは同時に行うこともできる。また、(c)工程で得られるガラス体の形状で良い場合は、(d)工程を省略しても良い。
【0059】
(e)工程
(c)工程または(d)工程で得られたTiO2−SiO2ガラス体を、700〜1200℃の温度にて5時間以上保持した後、3℃/hr以下の平均降温速度で700℃以下まで降温するアニール処理を行い、TiO2−SiO2ガラスの仮想温度を制御する。あるいは、(c)工程または(d)工程において、TiO2−SiO2ガラス体を得た後、700℃まで3℃/hr以下の平均降温速度で降温するアニール処理を行い、TiO2−SiO2ガラスの仮想温度を制御する。700℃以下まで降温した後は放冷できる。この場合の雰囲気は、ヘリウム、アルゴン、窒素などの不活性ガス100%の雰囲気下、これらの不活性ガスを主成分とする雰囲気下、または空気雰囲気下で、圧力は減圧または常圧が好ましい。
より低い仮想温度を達成するためには、ガラスの徐冷点や歪点付近の温度域をより遅い降温速度で降温することが有効である。具体的には、(e)工程の降温プロファイルにおいて、最も遅い降温速度が1℃/hr以下であることが好ましく、より好ましくは0.5℃/hr以下、特に好ましくは0.3℃/hr以下である。
【0060】
本発明のTiO2−SiO2ガラスにおいては、15〜35℃の平均熱膨張係数の絶対値は30ppb/℃以下であることが好ましい。これにより、光学部材の温度が変化しても寸法や形状の変化を小さくすることができる。より好ましくは15ppb/℃以下、さらに好ましくは10ppb/℃以下、特に好ましくは5ppb/℃以下である。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
[例1]
TiO2−SiO2ガラスのガラス形成原料であるTiCl4とSiCl4を、それぞれガス化させた後に混合させ、酸水素火炎中で加熱加水分解(火炎加水分解)させることで得られるTiO2−SiO2ガラス微粒子を基材に堆積・成長させて、多孔質TiO2−SiO2ガラス体を形成した((a)工程)。
得られた多孔質TiO2−SiO2ガラス体はそのままではハンドリングしにくいので、基材に堆積させたままの状態で、大気中1200℃にて4時間保持したのち、基材から外した。
その後、多孔質TiO2−SiO2ガラス体を雰囲気制御可能な電気炉に設置し、室温にて約1000Paまで減圧した後、He/SiF4=90/10(体積比)の混合ガスを導入しながら、この雰囲気にて1100℃、常圧下4時間保持し、Fドープを行った。
その後、O2100%雰囲気下にて1050℃、常圧下4時間保持した後、He100%雰囲気下で1450℃まで昇温した後、この温度で4時間保持しFを含有したTiO2−SiO2緻密体を得た((b)工程)。
得られたFを含有したTiO2−SiO2緻密体を、カーボン炉を用いてアルゴン雰囲気下で1650℃に加熱して、Fを含有した透明TiO2−SiO2ガラス体を得た((c)工程)。
得られたガラスを1000℃にて10時間保持し、5℃/hrの速度で300℃まで降温し、大気放冷した((e)工程)。
【0062】
[例2]
TiO2−SiO2ガラスのガラス形成原料であるTiCl4とSiCl4を、それぞれガス化させた後に混合させ、酸水素火炎中で加熱加水分解(火炎加水分解)させることで得られるTiO2−SiO2ガラス微粒子を基材に堆積・成長させて、多孔質TiO2−SiO2ガラス体を形成した((a)工程)。
得られた多孔質TiO2−SiO2ガラス体はそのままではハンドリングしにくいので、基材に堆積させたままの状態で、大気中1200℃にて6時間保持したのち、基材から外した。
その後、多孔質TiO2−SiO2ガラス体を雰囲気制御可能な電気炉に設置し、室温にて約1000Paまで減圧した後、水をガラス製のバブラー内に入れ、大気圧100℃でHeガスでバブリングを行い、Heガスと共に水蒸気を炉内に導入しながら、この雰囲気にて1000℃、常圧下4時間保持し、OHドープを行った。
その後、同じ雰囲気下で1450℃まで昇温した後、この温度で4時間保持しOHを含有したTiO2−SiO2緻密体を得た((b)工程)。
得られたOHを含有したTiO2−SiO2緻密体を、カーボン炉を用いてアルゴン雰囲気下で1700℃に加熱して、OHを含有した透明TiO2−SiO2ガラス体を得た((c)工程)。
得られたガラスを1100℃にて10時間保持し、10℃/hrの速度で900℃まで降温後、1℃/hrの速度で700℃まで降温、さらに10℃/hrの速度で500℃まで降温し、大気放冷した((e)工程)。
【0063】
[例3]
TiO2−SiO2ガラスのガラス形成原料であるTiCl4とSiCl2を、それぞれガス化させた後に混合させ、酸水素火炎中で加熱加水分解(火炎加水分解)させることで得られるTiO2−SiO2ガラス微粒子を基材に堆積・成長させて、多孔質TiO2−SiO2ガラス体を形成した((a)工程)。
得られた多孔質TiO2−SiO2ガラス体はそのままではハンドリングしにくいので、基材に堆積させたままの状態で、大気中1200℃にて4時間保持したのち、基材から外した。
その後、多孔質TiO2−SiO2ガラス体を雰囲気制御可能な電気炉に設置し、室温にて約1000Paまで減圧した後、He/SiF4=90/10(体積比)の混合ガスを導入しながら、この雰囲気にて900℃、常圧下1時間保持し、Fドープを行った。
その後、O2100%雰囲気下にて1050℃、常圧下4時間保持した後、He100%雰囲気下で1450℃まで昇温した後、この温度で4時間保持しFを含有したTiO2−SiO2緻密体を得た((b)工程)。
得られたFを含有したTiO2−SiO2緻密体を、カーボン炉を用いてアルゴン雰囲気下で1700℃に加熱して、Fを含有した透明TiO2−SiO2ガラス体を得た((c)工程)。
ついで、カーボン炉において、得られた透明TiO2−SiO2ガラス体を1700℃から炉内放冷した。700℃までの平均降温速度は5℃/hrを超えていた((e)工程)。
【0064】
[例4]
TiO2−SiO2ガラスのガラス形成原料であるTiCl4とSiCl4を、それぞれガス化させた後に混合させ、酸水素火炎中で加熱加水分解(火炎加水分解)させることで得られるTiO2−SiO2ガラス微粒子を基材に堆積・成長させて、多孔質TiO2−SiO2ガラス体を形成した((a)工程)。
得られた多孔質TiO2−SiO2ガラス体はそのままではハンドリングしにくいので、基材に堆積させたままの状態で、大気中1200℃にて4時間保持したのち、基材から外した。
その後、多孔質TiO2−SiO2ガラス体を雰囲気制御可能な電気炉に設置し、室温にて約1000Paまで減圧した後、He100%の雰囲気にて1450℃まで昇温した後、この温度で4時間保持しFを含有したTiO2−SiO2緻密体を得た((b)工程)。
得られたTiO2−SiO2緻密体を、カーボン炉を用いてアルゴン雰囲気下で1750℃に加熱して、透明TiO2−SiO2ガラス体を得た((c)工程)。
ついで、カーボン炉において、得られた透明TiO2−SiO2ガラス体を1750℃から炉内放冷した。700℃までの平均降温速度は5℃/hrを超えていた((e)工程)。
【0065】
[例5]
ゼロ膨張TiO2−SiO2ガラスとして知られるCorning社ULE#7972である。
【0066】
[例6]
TiO2−SiO2ガラスのガラス形成原料であるTiCl4とSiCl4を、それぞれガス化させた後に混合させ、酸水素火炎中で加熱加水分解(火炎加水分解)させることで得られるTiO2−SiO2ガラス微粒子を基材に堆積・成長させて、多孔質TiO2−SiO2ガラス体を形成する((a)工程)。
得られた多孔質TiO2−SiO2ガラス体はそのままではハンドリングしにくいので、基材に堆積させたままの状態で、大気中1200℃にて4時間保持したのち、基材から外す。
その後、多孔質TiO2−SiO2ガラス体を雰囲気制御可能な電気炉に設置し、室温にて約1000Paまで減圧した後、He/O2/SiF4=88/2/10(体積比)の混合ガスを導入しながら、この雰囲気にて1000℃、常圧下4時間保持し、Fドープを行う。
その後、He100%雰囲気下で1450℃まで昇温した後、この温度で4時間保持しFを含有したTiO2−SiO2緻密体を得る((b)工程)。
得られたFを含有したTiO2−SiO2緻密体を、カーボン炉を用いてアルゴン雰囲気下で1650℃に加熱して、Fを含有した透明TiO2−SiO2ガラス体を得る((c)工程)。
得られたガラスを1000℃にて10時間保持し、5℃/hrの速度で300℃まで降温し、大気放冷する((e)工程)。
【0067】
上記例1〜例6で作製されるガラスの各物性の測定結果を表1にまとめる。なお、評価方法については、それぞれ前述の測定方法に従って行う。また、表1のCOTは、図2の曲線から線熱膨張係数が0ppb/℃となる温度を求め、導出する。表1のΔTは、図2の曲線から線熱膨張係数が−5〜5ppb/℃となる温度の範囲を求め、導出する。なお、図2は、上記例1〜例6で作成されるガラスについて、CTEと温度の関係を示したグラフであり、CTEは、レーザー干渉計により試料の伸びを検出する熱膨張計を用いて−50〜+100℃の範囲で連続昇温して測定する。
【表1】

表1から明らかなように、COTが15〜35℃の範囲にあり、ΔTが7.8℃以上である例1、例2および例6は、EUVL実施時の露光装置内の温度条件下(EUV光照射時の光学系部材の温度条件下)において、熱膨張係数がほぼゼロ(0±5ppb/℃)となるため、EUVL用露光装置の光学系部材に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiO2含有量が3〜9質量%であり、熱膨張係数が0ppb/℃となる温度が15〜35℃の範囲にあり、仮想温度が850℃以下であり、熱膨張係数が0±5ppb/℃となる温度幅が7.8℃以上であることを特徴とするTiO2を含有するシリカガラス。
【請求項2】
F濃度が1000ppm以上であることを特徴とする請求項1に記載のTiO2を含有するシリカガラス。
【請求項3】
仮想温度が800℃以下であり、OH濃度が600ppm以上であることを特徴とする請求項1に記載のTiO2を含有するシリカガラス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−163347(P2010−163347A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62448(P2009−62448)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】