説明

W型又は波型の中空構造材及びその製造方法

【課題】長手方向に繰り返す曲げ賦型を簡便かつ効率的に行うことができ、十分な衝撃吸収力を有する衝撃吸収部材を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂シート1a,1bに突設された中空錐台状の凸部13同士を突き合せた状態で熱融着してなる芯材1の両面に、熱可塑性樹脂シートからなる表面材2a,2bを貼り合わせた中空構造板材10を用いてなる中空構造材であって、前記中空構造板材を、長手方向に繰り返すW型又は波型に曲げ賦型した中空構造材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、W型又は波型の中空構造材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体は、外部から車体に衝撃が加わったときの衝撃エネルギが吸収可能な車体構造とすべくさまざまな方策が講じられている。
例えば、車体前部の強度及び剛性を上げるための部品であるフロントサイドメンバーや、左右のドアの真下、車体の両サイドを構成するフレームであるサイドシル、さらには客座席より後方のボディを構成する骨格であるリアサイドメンバーといった筒体からなる強度部材を車体の要所に前後方向へ向けて配置し、車体や機体の外板にも応力を持たせる構造であるモノコック構造(応力外皮構造、または張殻構造ともいう。)とし、衝突事故の際には、衝突により負荷される衝撃エネルギを、これらの強度部材を衝撃吸収部材として利用して吸収することによって、乗員の安全を図っている。
【0003】
近年、自動車の衝撃吸収部材の一つとしてクラッシュボックスが用いられている。クラッシュボックスは、例えば、全長が一般的に80〜300mm程度の閉じた横断面形状を有する筒体からなり、バンパーレインフォースを支持しながら、左右のフロントサイドメンバーの先端部や左右のリアサイドメンバーの後端部に脱着自在に装着される。クラッシュボックスは、通常、一つのバンパーレインフォースに対して左右一個ずつ合計二個、車体の前後方向へ向けて配置される。
【0004】
クラッシュボックスは、衝突の際、バンパーレインフォースに入力される衝撃荷重によって、ボディシェルをなすフロントサイドメンバーやリアサイドメンバーよりも優先して、蛇腹状に塑性座屈変形して圧壊することにより衝撃エネルギを吸収し、これにより、ボディシェルの損傷を防いで軽衝突時の修理費の低減を図るとともに、サイドメンバー等とともに衝撃エネルギを効果的に吸収して乗員を保護する。
【0005】
筒体であるクラッシュボックスは、例えば、薄鋼板をプレスして成形される半割品である二つの構成部材を溶接することや、中空パイプにハイドロフォーム加工を行うこと、さらにはアルミニウム合金材に熱間押し出しや冷間押し出しを行うこと等によって、所定の形状に製造される。
【0006】
特許文献1には、四角形の基本横断面形状を有する金属製の筒体から構成されるクラッシュボックスが提案されている。
また、特許文献2には、自動車の先端側から加わる衝撃的な荷重に対して座屈変形可能な車体構造として、金属製の筒状フレーム部材と、筒状フレーム部材の軸心方向と略平行な方向に配列された第1の強化繊維と、この第1の強化繊維と交差して前記筒状フレーム部材の軸心方向と略直角な方向に配列された第2の強化繊維を有してなる繊維強化樹脂層を取着した車両の車体構造が開示されている。
そして、最も好適な強化繊維樹脂としては、マトリックスがエポキシ樹脂で、強化繊維として炭素繊維(カーボン繊維)が挙げられている。
【0007】
また、特許文献3には、車体構成部材として、繊維強化樹脂からなる中空のエネルギ吸収部材と、エネルギ吸収部材の内径より大きい外径部分を有する圧子を備え、車両衝突時に、前記圧子がエネルギ吸収部材内に入り込んで破壊する自動車のエネルギ吸収構造が提案されている。繊維強化樹脂としてカーボン繊維で強化した樹脂(例えばエポキシ樹脂)が記載されている。
【0008】
一方、特許文献4には、自動車用のバンパビームにおいて、金属材料で出来た正面側敷板及び後側敷板と、2つの敷板の間に配置された少なくとも1つのコアと、前記コアの各端部に設けられ、正面側敷板又は前記コアに接続された金属材料製の中空体により形成されたエネルギアブソーバを備え、前記コア及びエネルギアブソーバの中空体の金属材料の弾性限界値と破断応力との比が所定の値のバンパビームが提案されている。
さらに、特許文献5には、樹脂成形品のリブに薄肉部を設けることによって、エネルギ吸収量を向上させるように設計された樹脂成形品が提案されている。この特許文献5の樹脂成形品は、通常、樹脂成形品のリブは瞬時に破壊するが、リブが逐次破壊するように、リブ構造を一部薄肉化して、リブの潰れ量を増加させ、リブによるエネルギ吸収量を向上させている。
【0009】
一方、特許文献6には、熱可塑性樹脂シートに突設された中空錐台状の凸部同士を突き合せた状態で熱融着してなる芯材の両面に、熱可塑性樹脂シートからなる表面材を貼り合わせた中空構造板材の端末構造と端末処理方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2011−51581号公報
【特許文献2】特開平7−165109号公報
【特許文献3】特開2005−170299号公報
【特許文献4】特表2003−503272号公報
【特許文献5】特開2005−271483号公報
【特許文献6】特開2010−58482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載のクラッシュボックスは、特殊断面形状の筒体としているため、衝撃荷重に対して連続的に安定した蛇腹状の塑性座屈変形を発生できるとされているが、金属であるため、a)質量が大きい(重い)、b)金属加工または板金加工により製作するため、形状の自由度に制約がある、c)腐食性があるため塗装の必要がある、d)振動減衰が小さいため、振動・騒音が大きいなどの問題がある。
また、特許文献4の自動車のバンパビームは、コア材が、長手方向の軸線に対して、直角に伸びる交互の突部及び凹部の連続体からなる金属材料であり、非特許文献1に記載の市販のクラッシュボックスも本質的に金属からなるので、特許文献1と同様の問題がある。
【0012】
一方、特許文献2に記載の金属製のフレーム部材とカーボン繊維強化樹脂層を取着した車体構造や、カーボン繊維強化樹脂(CFRP)を使用した特許文献3に記載の自動車のエネルギ吸収構造では、a)価格が高い、b)カーボン繊維樹脂含浸成形により製作するため、形状の自由度に制約がある、c)破壊時に粉砕される特性を有するため、粉塵化したカーボン繊維による健康障害がある、d)振動減衰が小さいため、振動・騒音が大きい、e)リサイクルが困難、f)微細な損傷により大きく性能低下するが、損傷を検知する簡便かつ有効な手法が無いといった問題点がある。
【0013】
また、特許文献5に記載のリブを備えた樹脂成形品では、リブの方向が一方向であるので、衝撃時にあらゆる方向に変形してエネルギを吸収する能力が不足している。
一方、特許文献6に記載の熱可塑性樹脂製中空板の端末加工方法は、該中空板の端部から塵埃等が内部に侵入するのを防ぐための端末のシール方法であって、中空板材を湾曲加工や屈曲加工する技術は開示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記問題に鑑みて、十分な衝撃吸収力を有する衝撃吸収部材の構成について鋭意検討した結果、特定の熱可塑性樹脂製中空構造板材を特殊な形状に曲げ賦型して、厚み方向の面を衝撃が加わる面とすると、高い衝撃吸収特性が得られることを見出して本発明を完成した。また、本発明の曲げ賦型された衝撃吸収部材を得るための曲げ加工方法を鋭意検討して曲げ加工方法の発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の(1)〜(3)を提供するものである。
【0015】
(1)熱可塑性樹脂シートに突設された中空錐台状の凸部同士を突き合せた状態で熱融着してなる芯材の両面に、熱可塑性樹脂シートからなる表面材を貼り合わせた中空構造板材を用いてなる中空構造材であって、前記中空構造板材を、長手方向に繰り返すW型又は波型に曲げ賦型したことを特徴とする中空構造材。
(2)前記(1)の中空構造材を用いた衝撃吸収部材であり、厚み方向の面を衝撃が加わる面(頂面)とすることを特徴とする衝撃吸収部材。
(3)熱可塑性樹脂シートに突設された中空錐台状の凸部同士を突き合せた状態で熱融着してなる芯材の両面に、熱可塑性樹脂シートからなる表面材を貼り合わせた中空構造板材を曲げ加工する中空構造材の製造方法であって、該製造方法は、中空構造板材の曲げ部位に対応した領域を、該表面材の熱可塑性樹脂の融点未満で熱変形可能な温度に加熱し、しかるのち、これに中空構造板材の厚みに対応した形状を有する冶具を中空構造板材の両面に加圧接触させて曲げ加工を行い、該冶具中で冷却・降温することを特徴とする中空構造材の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の中空構造材は、軽量であり、衝撃吸収部材とする場合は、厚み方向の面を衝撃が加わる面としているので、周期的に並ぶ中空錐台状の凸部(以下、「コーン」と称することがある。)が突合せ状で熱融着した面と、衝撃力を始めに受けた部位から順次局所変形し伝播して行くので、安定した衝撃吸収力が確保される。
本発明の中空構造材は、中空構造板材を長手方向にW型又は波型に曲げ賦型しているので、衝撃吸収部材とする場合は、曲げ賦型されたユニット単位で衝撃力により座屈が生じても、他のユニットが順次衝撃力を吸収するので、中空構造板材の長さ全体で座屈後の衝撃吸収力を担保することができる。
本発明の中空構造材は、生産性にも優れ、リサイクルが容易である。また、接続金物や接着剤が不要であり、かつ接続金物等を使用しないため防食のために塗装をする必要がない。
本発明の中空構造材の製造方法は、本発明の衝撃吸収部材に必要な、長手方向に繰り返す曲げ賦型を簡便かつ効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1によるW型に曲げ賦形された中空構造材を衝撃吸収部材とした斜視図である。
【図2】波型に曲げ賦形された中空構造材を衝撃吸収部材とした斜視図である。
【図3】本発明の中空構造材を構成する中空構造板材の断面図
【図4】中空構造板材の芯材を構成する中空円錐台状凸部を有する中空突起体シートの一例の構造を示す、(a)上面側斜視図、(b)凸部の構造を示す縦断面図、(c)下面側斜視図である。
【図5】中空構造板材のW型曲げ賦形の(A)予備加熱、(B)ヒーター後退、(C)曲げ賦形の模式説明図である。
【図6】曲げ加工装置の一例による中空構造板材の予熱状態の説明図である。
【図7】曲げ加工装置の一例によりヒーターが後退して冶具により中空構造板材がW形に賦形された状態を示す説明図である。
【図8】W型曲げ賦形の衝撃吸収部材の荷重−変位曲線である。
【図9】本発明の衝撃吸収部材の変形モードの解析図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[中空構造材]
本発明の中空構造材は、熱可塑性樹脂シートに突設された中空錐台状の凸部同士を突き合せた状態で熱融着してなる芯材の両面に、熱可塑性樹脂シートからなる表面材を貼り合わせた中空構造板材を用いてなるW型または波型であって、前記中空構造板材を、長手方向に繰り返すW型又は波型に曲げ賦型したことを特徴とする。本発明においてW型に曲げ賦型するとは、平面状の中空構造板材のいずれか一方の表面材に長手方向に直交して曲げ圧縮力が加わるような直線状の曲げ賦型を、曲げ方向を逐次変更して行い、上面から見るとW型(ジグザグ状)に連なった様な形状に賦型することをいい、直線状の内折れ角部に対向する表面材側は引張変形して表面材の薄肉化と芯材の変形を伴った形状を呈する。
図1はW型に曲げ賦型してなる中空構造材を衝撃吸収部材とした例を示す。該中空構造材100は、厚みTmmの中空構造板材10を、単位(ユニット)長さUmmの5個が、所定の角度で長手方向に繰り返すW型(ジグザグ状)に曲げ賦型されている。図1の中空構造材よりなる衝撃吸収部材は、上部(頂部)が衝撃の加わる面であり、ストロークSの方向に座屈力が働く構成としている。厚みTは、7〜32mm、単位長さUが20〜80mm、ストロークSが30〜150mmの範囲が好ましい。厚みTは、9〜20mmがより好ましい。
一方、図2は波型に曲げ賦型してなる中空構造材を衝撃吸収部材とした例を示す。該中空構造材101は、波長L0で繰り返す波型に曲げ賦型されており、図1のW型(ジグザグ状)と比較して直線状の角部はなく、全体が連続した曲線状で、曲げ賦型部は緩やかなR状の波型を呈している。
中空構造材の長さLは、クラッシュボックスやバンパーなど当該中空構造材が収納される部位の長さに対応している。また、衝撃荷重が、中空構造板材の厚みTの面(頂面)に負荷されるように配置される。
図1、2の中空構造材100,101についてSで示している中空構造材の幅は、厚み面Tに負荷された衝撃力をどれだけの長さ(ストローク)で吸収するかで決定される。このストロークSは、バンパービームの場合は概ね50〜150mm、クラッシュボックス用途の場合は概ね40〜150mmの長さである。
【0019】
(中空構造板材)
本発明の中空構造材に用いる中空構造板材は、熱可塑性樹脂シートに突設された中空錐台状の凸部同士を突き合せた状態で熱融着してなる芯材の両面に、熱可塑性樹脂シートからなる表面材を貼り合わせた構造を有し、WO2003/080326号パンフレットに開示された中空構造板材の製造方法によって製造することができ、「ツインコーン」の商品名で宇部日東化成株式会社より市販されている中空構造板を利用することができる。
WO2003/080326号パンフレットに開示された中空構造板材の製造方法は、二枚の熱可塑性樹脂シートを減圧チャンバ内に導入し、該減圧チャンバ内に回転可能に配置された上下一対のエンボスローラの周面にそれぞれの樹脂シートを吸着させて両エンボスローラに突設されたピン形状に応じて各樹脂シートに多数の中空凸部を形成するとともに、両エンボスローラの接線位置で前記中空凸部の端面同士を連続して熱融着して芯材を形成し、該芯材の両面に熱可塑性樹脂シートからなる表面材を熱融着する製造方法であり、エンボスローラに突設されたピンは、円錐台状又は角錐台状を呈している。
本発明において、中空錘台状とは、中空円錐台状又は中空角錐台状をいい、これらのいずれであってもよい。
図3は、熱可塑性樹脂製の中空構造板材の主体部を示す概略断面図である。
図3に部分断面を示す中空構造板材は、熱可塑性樹脂シートからなる2枚の中空突起体シート1a、1bの凸部頂点同士を熱融着により貼り合わせて構成した芯材1の両面に表面材2a、2bを貼り合わせて構成したものである。
【0020】
中空突起体シートや表面材の材料としては、特に限定されるものではない。例えば、ポリエチレン系樹脂や、ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、およびこれらのコモノマー若しくはコモノマーと他のモノマーとの共重合体、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、ABS、AAS、AES、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルホン、ポリエーテルケトン及びこれらのコモノマー若しくはコモノマーと他のモノマーとの共重合体等が挙げられ、これらは単独で使用しても併用してもよい。以上のように各種の熱可塑性樹脂を用いることができるが、コスト面、成形性、物性、耐低温性、耐熱性等の特性とのバランスを考慮すると、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリプロピレン系樹脂が特に好ましい。
ポリエチレン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンが挙げられ、ポリプロピレン系樹脂としては、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロック状ポリプロピレンが挙げられる。
中空突起体シートや表面材の剛性を高める目的で、フィラーを副材料として配合しても良い。
副材料は、特に限定されるものではないが、コスト面、成形性、取り扱い性等とのバランスを考慮すると、タルク、炭酸カルシウム等が好ましい。フィラーの添加量が増加すると、コスト高、比重の増大につながるので、これらのバランスを考慮すると、添加量は総重量に対してタルクの場合は5〜30質量%、炭酸カルシウムの場合は20質量%程度以下とするのが好ましい。
さらに、前記フィラーの他に、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、抗菌剤、難燃剤、光安定剤、滑剤等を必要に応じて添加もしてもよい。
【0021】
本発明の中空構造材を構成する中空構造板材の芯材を構成する中空突起体シートについて更に詳しく説明する。
図4(a)に示す中空突起体シート1aは、複数の凸部13が中空突起体シートベース面の一方の面に規則的に設けられ、下底側が開口した中空円錐台状をなすものであって、この実施の形態においては、本体部12の長手方向に沿って所定の間隔ごとに凸部13を一列に設けて凸部列14を構成し、このような凸部列14を中空突起体シートベース面12の幅方向に所定の間隔ごとに複数列設けて構成している。凸部列14は隣合う凸部列14'とは幅方向における中空錐台状の凸部の位置をずらしたいわゆる千鳥状とすることが、より等方性の物性の板材とするために望ましい。中空錐台の形状は、中空角錐台状(図示省略)であってもよい。以下、中空円錐台状の凸部のものにより説明する。
【0022】
各凸部13は、内面側に中空突起体シートベース面12の他方の面(下面)すなわち下底側に開口する凹部15を有する中空状をなすものであって、外周面が先端から根元にかけて直径が次第に増大するテーパー面の円錐台状に形成され、かつ、各凸部13は、同一形状、大きさに形成されている。
各凹部15は、内面が先端(最深部)から根元(開口端部)にかけて次第に直径が増大するテーパー面の円錐形状の空間に形成されている。各凹部15は、同一形状、大きさに形成されている。
【0023】
各凸部13のテーパー角度及び各凹部内面15のテーパー角度θ〔図4(b)に示す〕は、芯材としての耐圧性の観点から、40〜80°の範囲内が好ましく、より好ましくは60〜80°の範囲内である。(テーパー角度が60°未満であると、芯材としての耐圧性が不足する可能性があり、テーパー角度を80°以上とすると、凸部壁面の厚みが小さくなり、同様に耐圧性が不足する可能性がある。)
また、各凸部13の下底部直径は3〜16mm、上底部直径1.5〜4mm、隣接する円錐台状凸部の隙間間隔は10mm以下、凸部の高さは3〜13mmとすることができる。
隣接する円錐台状凸部の隙間間隔は、10mm以上となると、耐圧性が不足しやすくなる。凸部の高さが3〜13mmであれば、中空構造材の中空突起体シートとして、衝撃力が負荷された際の耐圧性および凸部同士及び表面材との熱融着部における凝集破壊による衝撃吸収力等の点で好ましい。
【0024】
中空構造板材の芯材の中空突起体シートとしての耐圧性から、本体部12の厚みは、0.1〜1mmが好ましい。本体部12の厚みを0.1mmよりも薄くすると、成形機により成形して複数の凸部13を形成した場合に、各凸部13がフィルム状態で十分な剛性が得られなくなる可能性があり、中空構造板材の芯材の中空突起体シートとしての耐圧性が不足し、凸部が破壊する可能性がある。
本発明の中空構造材に用いられる中空構造板材の芯材は、上記の中空突起体シート1a、1bを2枚同時に成形し、凸部13を熱融着して製造され、前述の如く芯材1は、例えば、WO2003/080326号パンフレットに記載の製造方法により得ることができる。
なお、その寸法形状は、全体厚みは、基本的には一方の中空突起体シートの2倍のものが用いられる。
2枚の中空突起体シートは、必ずしも同一寸法あるいは、同一材質のものを用いる必要はなく、異なる寸法、異なる材質のものを組合せてもよい。しかし、中空構造材として、平面性を要求される場合は、2枚の中空突起体シートに、同一寸法あるいは、同一材質のものを用いると、厚み方向の中立軸に対して、対称になって、反りが生ずることが少ないので、好ましい。
【0025】
本発明の中空構造材を構成する中空構造板材は、衝撃吸収力の観点から、JIS Z 0403−1に準拠した荷重速度10mm/分での平板圧縮試験による、平面圧縮強度が300〜3000kN/m2であるものを用いることができる。
平面圧縮強度が300〜3000kN/m2の範囲であれば、バンパー等の構造部材の一部としての耐圧性を備え、かつ、衝撃力が負荷されたときには、座屈変形、熱融着部の凝集破壊等により衝撃力を吸収できる。
【0026】
本発明の中空構造材は、前記の熱可塑性樹脂からなる中空構造板材の連続生産時の長手方向(搬送方向=機械方向=MD方向)と直交する方向すなわちTD方向に繰り返すW型又は波型の曲げ賦型を施すことが、変形モードに付随する衝撃力の吸収性能の観点から好ましい。
さらに、曲げ賦型は、W型曲げ賦型がより高い衝撃力の吸収性能の観点から特に好ましい。
【0027】
また、中空構造板材の芯材及び表面材が共にポリオレフィン系樹脂であることが、コスト面、成形性、物性、耐低温性、耐熱性等の特性とのバランス等の観点から好ましく、ポリプロピレン系樹脂が特に好ましい。
中空構造板材の表面材の厚みは、0.5〜3.0mmが好ましく、0.6〜2.0mmがより好ましく、0.7mm〜1.5mmがさらに好ましい。
【0028】
[中空構造材の製造方法]
次に、本発明の中空構造材に用いる中空構造板材の曲げ加工方法について説明する。
図5は、本発明の曲げ加工方法を模式的に示すもので、(A)は中空構造板材の曲げ加工部位をヒーターにより予備加熱している状態を示し、(B)は、ヒーターが後退して予熱された中空構造板材を冶具により曲げ加工する直前の状態を示し、(C)は、冶具により曲げ賦型された状態を模式的に示す説明図である。前記のヒーターによる予備加熱は、中空構造板材の曲げ部位に対応した領域、すなわち曲げによる圧縮変形(内周)側と引張変形(外周)側の少なくとも両表面材の領域を、該表面材の熱可塑性樹脂の融点未満で熱変形可能な温度に加熱するものであり、しかる後、これに曲げ形状に対応した形状を有する冶具を中空構造板材の両面に加圧接触させて曲げ加工を行い、該冶具中で冷却・降温することを特徴とする。
前記の、少なくとも両表面材の領域を表面材の熱可塑性樹脂の融点未満で熱変形可能な温度への加熱は、曲げ変形に際して、引張変形を受ける表面材が、曲げ変形に耐えられず破断することを防止する程度に加熱するもので、曲げ変形を受ける部分全体、すなわち、芯材を含む中空構造板材の厚み全体が容易に塑性変形できる程度に加熱されていることがより好ましい。
【0029】
曲げ変形に用いられる冶具としては、例えばプレス金型等が挙げられ、金型内に冷却水の循環装置を有し、曲げ変形後に、曲げ変形された中空構造材を挟持した状態で降温して、固化する機能を有するものが好ましい。
【0030】
さらに、本発明の曲げ加工方法は、中空構造板材を長手方向に繰り返すW型に賦型する曲げ加工では、該曲げ加工を施す部位及び数に対応して、中空構造板材の長手方向に直交するように配置された直線状(ブレード状)の電気ヒーターと、該電気ヒーターが進退可能に挿通され、曲げ賦型の形状に対応した所定の形状を有する冶具を用い、該中空構造板材に電気ヒーターを接近させ、非接触で加熱した後、電気ヒーターを中空構造板材表面から後退させ、しかる後冶具を中空構造板材の両面に加圧接触させて曲げ加工を行い、該冶具中で冷却・降温する中空構造板材の曲げ加工方法とすることができる。
【0031】
W型に賦型する曲げ加工方法について、図6及び図7を参照して説明する。図6は、曲げ加工装置20により中空構造板材10を予熱している状態を模式的に示している。上冶具22a、下冶具22bのそれぞれの頂部及び谷部には、直線状(ブレード状)の電気ヒーター21が、セットされた中空構造板材10から進退可能に挿通されている。中空構造板材10は、その曲げ変形を受ける部位(屈曲部位)を非接触状態でヒーター21群により加熱される。
次いで、電気ヒーターが中空構造板材の屈曲部位から後退し、上下の冶具が中空構造板材の両面を挟持するように動いて、加圧接触して、冶具22に対応した所定形状であるW型(ジグザグ型)に賦型され、冶具により冷却されて、W型に冷却固化される。
図7は、熱賦型、冷却固化が終了して、上下の冶具が後退して、W型中空構造材の成形が完了し、脱型可能な状態を示している。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0033】
実施例1
〔中空構造材〕
中空構造板材として標準厚みが13.3mmの「ツインコーン」〔宇部日東化成株式会社製(品番:TC12−3010N9)〕を、TD方向に100mm、MD方向に300mmの大きさに切断した。これを、MD方向に50mmピッチで屈曲を5回繰り返す、図1に示すW型の中空構造材を作製した。
曲げ加工装置は、図6,7に原理を示したものを用い、直線状の電気ヒーター21として3mm幅で表面温度が170〜175℃に制御されたヒーターを、中空構造板材の曲げ加工を施すべき位置の表面材から2mmの空隙を設けた非接触状態で対峙させ、1分間加熱した後、該電気ヒーター21を後退させつつ、冶具22a、bを中空構造板材側に移動させて加圧接触させて中空構造板材を挟持し、しかる後、冶具中に40℃の冷却媒体を通して、冶具22a、22bを冷却して、W型に曲げ賦型された中空構造板材を冷却・固化して中空構造材100を得た。得られたW型の中空構造材について、図1に示すように厚み方向の面を上面として、この面に衝撃力を加える次のような衝撃テストを行った。
【0034】
(衝撃テスト)
試験装置としてミネベア社製TCM−5000Cを使用し圧縮試験により行った。圧子による圧縮面を図1に示すように厚み方向の上面とし、測定条件は、温度23℃、湿度50%RH、圧縮速度10mm/minとし、圧子ストローク・荷重・製品正面の変形動画を記録した。なお、変形動画は図1の左端側面で記録した。この記録による変形モードの解析結果を図9に示す。
中空構造板材(芯材、表面材を含む)の構成、中空構造材の物性についてまとめて表1に示す。
【0035】
実施例2
実施例1の中空構造板材(ツインコーン:TC12−3010N)に代えて、コーン高さを4.5mmとして全体厚みを10.4mmとした中空構造板材((ツインコーン:TCB9−3010N)を用いた他は実施例1と同様にして、W型に曲げ賦型して中空構造材を得た。
中空構造板材(芯材、表面材を含む)の構成、中空構造材の物性についてまとめて表1に示す。
また、実施例1、2の衝撃テストにおける荷重−変位曲線を図8に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1の実施例の結果より、実施例2においては、芯材のコーンの高さを4.5mmとして中空構造板材の全体厚みを薄くしたことにより、コーン部の厚みが厚くなって、中空構造材全体としての曲げ剛性が増加したため、吸収エネルギが実施例1と比較して13%向上した。これらのことから、中空構造板材のコーンの最適設計、原料樹脂の選択等でより高い質量当たりの吸収エネルギの中空構造材を得ることができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の中空構造材は、安定した衝撃吸収力が確保されるので、自動車のバンパビームのコア材やクラッシュボックス、内装材(ピラー・トリム)からコンテナ等の産業用梱包材の中空構造材として幅広く利用できる。
本発明の中空構造材の製造方法は、本発明の中空構造材に必要な、長手方向に繰り返す曲げ賦型を簡易かつ効率的に行うことができる曲げ加工方法として利用できる。
【符号の説明】
【0039】
1 芯材
1a、1b 中空突起体シート
2、2a、2b 表面材
10 中空構造板材
12 中空突起体シートベース面
13 下底側が開口した中空円錐台状凸部(凸部)
14、14’ 凸部列
15 開口部
20 曲げ加工装置
21 電気ヒーター
22a (上)冶具
22b (下)冶具
100 W型中空構造材
101 波型中空構造材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂シートに突設された中空錐台状の凸部同士を突き合せた状態で熱融着してなる芯材の両面に、熱可塑性樹脂シートからなる表面材を貼り合わせた中空構造板材を用いてなる中空構造材であって、
前記中空構造板材を、長手方向に繰り返すW型又は波型に曲げ賦型したことを特徴とする中空構造材。
【請求項2】
請求項1記載の中空構造材を用いた衝撃吸収部材であり、
厚み方向の面を衝撃が加わる面(頂面)とすることを特徴とする衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記中空構造板材の芯材の中空錐台状凸部が中空円錐台状凸部であって、下底部直径3〜16mm、上底部直径1.5〜4mm、高さ3〜13mm、隣接する円錐台状凸部の隙間間隔が10mm以下、シート厚さ0.1〜1mm、円錐台状凸部のテーパー角度が60〜80度で、全体厚みTが7〜32mmである請求項2に記載の衝撃吸収部材。
【請求項4】
前記曲げ賦型が中空構造板材の長手方向に繰り返すW型又は波型の曲げ賦型である請求項2又は3に記載の衝撃吸収部材。
【請求項5】
前記曲げ賦型がW型の曲げ賦型である請求項3に記載の衝撃吸収部材。
【請求項6】
芯材及び表面材の熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である請求項2〜4のいずれかに記載の衝撃吸収部材。
【請求項7】
熱可塑性樹脂シートに突設された中空錐台状の凸部同士を突き合せた状態で熱融着してなる芯材の両面に、熱可塑性樹脂シートからなる表面材を貼り合わせた中空構造板材曲げ加工する中空構造材の製造方法であって、該製造方法は、中空構造板材の曲げ部位に対応した領域を、該表面材の熱可塑性樹脂の融点未満で熱変形可能な温度に加熱し、しかるのち、これに中空構造板材の厚みに対応し形状を有する冶具を中空構造板材の両面に加圧接触させて曲げ加工を行い、該冶具中で冷却・降温することを特徴とする中空構造材の製造方法。
【請求項8】
前記曲げ加工が、中空構造板材を長手方向に繰り返すW型に賦型する曲げ加工であって、該曲げ加工を施す部位及び数に対応して、中空板材の長手方向に直交するように配置された直線状の電気ヒーターと、該電気ヒーターが進退可能に挿通され、曲げ賦型の形状に対応した所定の形状を有する冶具を用い、該中空構造板材に電気ヒーターを接近させ、非接触で加熱した後、電気ヒーターを中空構造板材表面から後退させ、しかる後該冶具を中空構造板材の両面に加圧接触させて曲げ加工を行い、該冶具中で冷却・降温する請求項7に記載の中空構造材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−43439(P2013−43439A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185057(P2011−185057)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】