説明

W/O/W型複合エマルション

【課題】経時安定性が高く、保湿性および使用感触に優れるW/O/W型複合エマルションを提供する。
【解決手段】外水相に、界面活性剤、脂肪族アルコールおよび水を含有してなるラメラ型液晶を含み、内水相の含有量が、エマルションの全量に対して1質量%以上である、W/O/W型複合エマルションとする。本発明のW/O/W型複合エマルションは、1次乳化により調製したW/O型エマルションを、2次乳化に用いる界面活性剤、脂肪族アルコールおよび水を含有してなるラメラ型液晶中に混合し、外水相成分により分散、乳化することにより、好ましく調製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品製剤や化粧品に有用なW/O/W型複合エマルションに関する。
【背景技術】
【0002】
油中水型乳化組成物(以下、「W/O型エマルション」と称する)をさらに水相中に乳化分散させた水中油中水型乳化組成物は、W/O/W型複合エマルションまたはW/O/W型マルチプルエマルションと呼ばれ、医薬品、化粧品、食品の各種工業的用途において利用されている。
【0003】
W/O/W型複合エマルションの調製方法としては、1段階乳化法と2段階乳化法が知られている。1段階乳化法は、調製工程が簡便であるが、内水相と最外水相の組成が同一にならざるを得ず、また、乳化条件が複合エマルションの生成率に影響を及ぼしやすく、再現性よく複合エマルションを調製することが困難である。これに対し、2段階乳化法によれば、内水相に水溶性成分をより高含量で含有させることが可能である。W/O/W型複合エマルションを2段階乳化法で調製する際、内水相と油溶性薬物を含む油相とを親油性界面活性剤で乳化して、2次乳化で破壊されにくい安定な高含水W/O型エマルションを調製し、このW/O型エマルションを分散質とすることにより、油溶性薬物の経皮吸収性に優れたW/O/W型複合エマルションが高い生成率で得られることが開示されている(特許文献1)。また、イオン性薬物とその薬物と複合体を形成する水溶性高分子を同時に内水相に配合してW/O型エマルションを調製し、得られたW/O型エマルションを、親水性乳化剤を含有する外水相に分散させることにより、W/O/W型複合エマルションを調製する技術が開示されている(特許文献2)。
【0004】
一方、微細な乳化粒子を有するエマルションの調製方法として、界面活性剤が形成する液晶相を経由し、分散相を分散・保持させる液晶乳化法が知られている。液晶構造を有するエマルションは、基剤の保湿性能と経時安定性が高く、使用感触に優れる。かかるエマルションとして、油分に溶解しない固形高級アルコール、油分に溶解しない固形脂肪酸、油分、親油性非イオン性界面活性剤、親水性界面活性剤、油分と混和しない水溶性多価アルコール、アミノ酸および水を含有する液晶乳化型組成物が開示されている(特許文献3)。
【0005】
しかしながら、液晶乳化法によりW/O/W型複合エマルションを調製する場合、W/O型エマルションを2次乳化のための界面活性剤と混合する際に該エマルションが破壊されやすいことから、通常1段階乳化法が採用され(非特許文献1)、2段階乳化法による液晶乳化型のW/O/W型複合エマルションは知られていない。従って、液晶構造を有するW/O/W型複合エマルションにおいて、高含量の水溶性成分を内水相に安定に含有させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−151670号公報
【特許文献2】特開2005−097292号公報
【特許文献3】特開2007−009199号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Seiller, M., Vaution, C., and Grossiord, J. L.; Formes Pharm. Appl. Locale, p.458, (1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、液晶構造を有して安定性が高く、保湿性および使用感触が良好で、さらに高含量の水溶性成分を内水相に安定に含有し得るW/O/W型複合エマルションを得ることを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、1次乳化により調製されたW/O型エマルションを、2次乳化に用いる界面活性剤、脂肪族アルコールおよび水を含有してなるラメラ型液晶中に混合し、外水相成分により分散、乳化することによって、良好な液晶構造を有し、安定性が高く、保湿性および使用感触が良好なW/O/W型複合エマルションを調製することができ、さらに内水相含有量を高くして、高含量の水溶性成分を内水相に安定に含有させ得ることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[10]に関する。
[1]外水相に、界面活性剤、脂肪族アルコールおよび水を含有してなるラメラ型液晶を含み、内水相の含有量が、エマルションの全量に対して1質量%以上である、W/O/W型複合エマルション。
[2]脂肪族アルコールが室温で固形である、上記[1]に記載のW/O/W型複合エマルション。
[3]脂肪族アルコールが、炭素数16〜22の飽和アルコールである、上記[1]または[2]に記載のW/O/W型複合エマルション。
[4]室温において固形の脂肪族アルコールを溶解しない油性成分を含有する、上記[1]に記載のW/O/W型複合エマルション。
[5]内水相に水溶性成分を含有する、上記[1]に記載のW/O/W型複合エマルション。
[6]水溶性成分が、水溶性ビタミン、アミノ酸、ペプチド、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖、糖アルコール、多価アルコールおよびポリフェノールよりなる群から選択される1種または2種以上である、上記[5]に記載のW/O/W型複合エマルション。
[7]水溶性成分の30質量%以上が内水相に含有される、上記[5]または[6]に記載のW/O/W型複合エマルション。
[8]上記[1]〜[7]のいずれかに記載のW/O/W型複合エマルションを含有する、医薬品組成物。
[9]上記[1]〜[7]のいずれかに記載のW/O/W型複合エマルションを含有する、化粧品組成物。
[10]水相成分、油相成分および界面活性剤を混合し、乳化して調製したW/O型エマルションを、界面活性剤、脂肪族アルコールおよび水を含有してなるラメラ型液晶中に混合した後、外水相成分により分散、乳化する、上記[1]に記載のW/O/W型複合エマルションの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のW/O/W型複合エマルションは、外水相にラメラ型液晶を含み、経時安定性および使用感触に優れる。また、高含有量の内水相を有し、高含量の水溶性成分を内水相に含有し得る。従って、本発明のW/O/W型複合エマルションは、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品等の用途に好適に使用され、たとえば、クリーム、乳液などの製品に利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1(a)は、本発明の実施例1のW/O/W型複合エマルションの顕微鏡写真、(b)は偏光顕微鏡写真を示す図である。
【図2】図2(a)は、本発明の実施例2のW/O/W型複合エマルションの顕微鏡写真、(b)は偏光顕微鏡写真を示す図である。
【図3】図3(a)は、本発明の実施例3のW/O/W型複合エマルションの顕微鏡写真、(b)は偏光顕微鏡写真を示す図である。
【図4】図4(a)は、本発明の実施例4のW/O/W型複合エマルションの顕微鏡写真、(b)は偏光顕微鏡写真を示す図である。
【図5】図5(a)は、比較例1のエマルションの顕微鏡写真、(b)は偏光顕微鏡写真を示す図である。
【図6】図6(a)は、比較例2のエマルションの顕微鏡写真、(b)は偏光顕微鏡写真を示す図である。
【図7】図7(a)は、比較例3のエマルションの顕微鏡写真、(b)は偏光顕微鏡写真を示す図である。
【図8】図8(a)は、比較例4のエマルションの顕微鏡写真、(b)は偏光顕微鏡写真を示す図である。
【図9】図9(a)は、比較例5のエマルションの顕微鏡写真、(b)は偏光顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のW/O/W型複合エマルションは、外水相に、界面活性剤、脂肪族アルコールおよび水を含有してなるラメラ型液晶を含み、エマルションの全量に対して1質量%以上の内水相を含有する。
【0014】
外水相に含まれるラメラ型液晶を形成する界面活性剤としては、一般的に医薬品や化粧品に配合される非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤を用いることができる。
【0015】
ラメラ型液晶の形成に非イオン性界面活性剤を用いる場合、親油性非イオン性界面活性剤および親水性非イオン性界面活性剤を組み合わせて使用する。親油性非イオン性界面活性剤または親水性非イオン性界面活性剤をそれぞれ単独で用いた場合には、液晶構造を維持することは困難である。なお、親油性非イオン性界面活性剤と親水性非イオン性界面活性剤の含有質量比は、その種類や油相成分によって異なるが、通常親油性非イオン性界面活性剤/親水性非イオン性界面活性剤=1/3〜3/1であり、好ましくは1/1〜2/1である。
【0016】
上記親油性非イオン性界面活性剤としては、Hydrophile Lipophile Balance(HLB)値が2〜7のものが好ましく、具体的にはグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これら親油性非イオン性界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。親油性非イオン性界面活性剤の含有量は本発明のW/O/W型複合エマルション全量に対して0.1質量%〜10質量%、より好ましくは1質量%〜5質量%である。
【0017】
上記親水性非イオン性界面活性剤としては、HLB値が10〜18のものが好ましく、具体的にはポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは1種を単独で用いてもよく、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。親水性非イオン性界面活性剤の含有量は、本発明のW/O/W型複合エマルション全量に対して0.1質量%〜10質量%、より好ましくは1質量%〜5質量%である。
【0018】
陰イオン性界面活性剤としては、N−アシルグルタミン酸塩、N−アシルタウリン塩、脂肪酸塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは1種を単独で用いてもよく、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。陰イオン性界面活性剤の含有量は、本発明のW/O/W型複合エマルション全量に対して0.1質量%〜10質量%、より好ましくは1質量%〜5質量%である。
【0019】
陽イオン性界面活性剤としては、4級アンモニウム塩やアルキルアミン塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは1種を単独で用いてもよく、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。陽イオン性界面活性剤の含有量は本発明のW/O/W型複合エマルション全量に対して、0.1質量%〜10質量%、より好ましくは1質量%〜5質量%である。
【0020】
ラメラ型液晶構造を形成する脂肪族アルコールは、室温(1℃〜30℃、以下同様)において固形である脂肪族アルコールであれば特に限定されないが、炭素数16〜22の直鎖状の飽和アルコールが好ましい。具体的には、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコールおよびベヘニルアルコールが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、または2種以上を組み合わせて用いることもでき、その含有量は、本発明のW/O/W型複合エマルション全量に対し、0.1質量%〜20質量%、好ましくは1質量%〜5質量%である。なお、「固形」とは、固くて一定の形状と体積を有し、外力により容易に形状の変化しないものをいう。
【0021】
上記の界面活性剤と脂肪族アルコールに水を添加することにより、ラメラ型液晶が形成される。安定なラメラ型液晶構造を得るための水の添加量は、使用する界面活性剤および脂肪族アルコールの種類および含有量や、次に述べる他の油性成分の種類および含有量等により異なるが、界面活性剤および脂肪族アルコール含有量(さらに次に述べる油性成分を用いる場合は、該油性成分の含有量を加えた量)に対して、10質量%〜200質量%とするのが好ましく、15質量%〜100質量%とするのがより好ましい。
【0022】
また、本発明においては、ラメラ型液晶形成成分として、上記した界面活性剤、脂肪族アルコール、および水以外に、室温で固形の脂肪酸、室温で固形の油性成分、液晶構造の形成を阻害しない室温で液状または半固形の油性成分および多価アルコールを含有させることができる。ここで、「固形」とは上記と同義であり、「液状」とは、一定の形状を有しない液体の状態をいい、「半固形」とは、一定の形状と体積を有するが、外力により容易に形状の変化するものをいう。
【0023】
上記の室温で固形の脂肪酸としては、炭素数が16〜22の直鎖状の飽和脂肪酸が好ましく、具体的には、パルミチン酸、ステアリン酸およびベヘン酸が好ましい。室温で固形の油性成分としては、牛脂、豚脂、鯨ロウ、ラノリン等が挙げられる。室温で液状または半固形の油性成分としては、上記した室温で固形の脂肪族アルコールを溶解しないものを用いる。かかる油性成分が脂肪族アルコールを溶解するものである場合、脂肪族アルコールが界面に存在することを妨げ、液晶構造の形成を阻害するおそれがある。本発明においては、流動パラフィン、スクワラン、ワセリン等の炭化水素;オリーブ油、ホホバ油、ゴマ油等の植物油;ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、オクタン酸グリセリン等のエステル;ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシプロピレンジグリセリルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールアルキルエーテル等のポリオキシプロピレン鎖の付加されたエーテル;中鎖脂肪酸トリグリセリド等のトリグリセリド;オクチルドデカノール、ヘキシルデカノール等の室温で液状の脂肪族アルコール;イソステアリン酸等の室温で液状の脂肪酸;ジメチルポリシロキサン等のシリコーン油などを用いることができる。また上記多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン等を用いることができる。これらは本発明のW/O/W型複合エマルションの全量に対し、20質量%程度まで含有させることができる。
【0024】
本発明のW/O/W型複合エマルションは、下記にて詳述するように、界面活性剤、脂肪族アルコールおよび水を含有してなるラメラ型液晶に、あらかじめ調製したW/O型エマルションを分散質として混合し、外水相中にて分散、乳化することにより、好ましく調製される。
【0025】
本発明において、分散質となるW/O型エマルションの調製には、親油性の非イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。かかる親油性非イオン性界面活性剤としては、HLB値が好ましくは10以下、より好ましくは7以下、さらに好ましくは6以下の、一般的に医薬品や化粧品に配合され、W/O型エマルションの調製に用いられる親油性非イオン性界面活性剤を使用することができる。なお、本発明の目的には、HLB値が2以上のものが好ましい。具体的には、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、親油性ポリグリセリン脂肪酸エステル、親油性ポリオキシエチレンヒマシ油、親油性ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、親油性ショ糖脂肪酸エステル、親油性ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのうち、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、親油性ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、親油性ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が好ましい。これらの親油性非イオン性界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく、または2種類以上を組み合わせて用いてもよい。かかる親油性非イオン性界面活性剤は、その種類や油相成分の種類によって異なるが、油相全量に対して好ましくは1質量%〜30質量%、より好ましくは2質量%〜10質量%、本発明のW/O/W型複合エマルション全量に対しては、好ましく0.05質量%〜5質量%、より好ましくは0.1質量%〜2質量%含有させる。
【0026】
本発明において、分散質となるW/O型エマルションの油相成分としては、室温において固形の脂肪族アルコールを溶解しない油性成分を用いる。かかる油性成分としては、極性などについては特に限定されないが、室温で液状または半固形の油性成分が好ましい。具体的には、流動パラフィン、スクワラン、ワセリン等の炭化水素;オリーブ油、ホホバ油、ゴマ油等の植物油;ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、オクタン酸グリセリン等のエステル;中鎖脂肪酸トリグリセリド等のトリグリセリド;オクチルドデカノール、ヘキシルデカノール等の室温で液状の脂肪族アルコール;イソステアリン酸等の液状の脂肪酸;ジメチルポリシロキサン等のシリコーン油などを挙げることができる。室温において固形の脂肪族アルコールを溶解する油性成分を用いると、上記したように、脂肪族アルコールが界面に存在することが妨げられ、液晶構造が形成されにくくなる。前記油性成分は1種を単独で用いてもよく、または2種以上を組み合わせて用いることもでき、本発明のW/O/W型複合エマルション全量に対し、0.1質量%〜20質量%、好ましくは1質量%〜10質量%含有させる。
【0027】
なお、上記において、「室温において固形の脂肪族アルコールを溶解しない」とは、室温において固形の脂肪族アルコールが所定の油性成分に溶解しないこと、または該脂肪族アルコールの含有量が、所定の油性成分に対してその飽和溶解度以上であるため、油性成分に溶解しない脂肪族アルコールが存在する状態にあることをいう。また、「固形」、「液状」および「半固形」については、上記と同義である。
【0028】
分散質となるW/O型エマルションにおける内水相と油相の混合質量比(内水相/油相)は、好ましくは1/9〜9/1、より好ましくは1/6〜4/1、さらに好ましくは1/5〜2/1である。内水相の含有量は、本発明のW/O/W型複合エマルション全量に対して、好ましくは0.5質量%〜20質量%、より好ましくは0.8質量%〜20質量%、さらに好ましくは1質量%〜20質量%である。
【0029】
分散質となるW/O型エマルションとラメラ型液晶の混合質量比(W/O型エマルション/ラメラ型液晶)は、ラメラ型液晶を形成する水の含有量、ならびに界面活性剤および脂肪族アルコールの含有量や種類により異なるが、好ましくは3/1〜1/5、より好ましくは2/1〜1/4、さらに好ましくは1/1〜1/3である。
【0030】
W/O型エマルションおよびラメラ型液晶の混合物と、分散媒である外水相の混合質量比(W/O型エマルションおよびラメラ型液晶の混合物/外水相)は、好ましくは1/1〜1/9、より好ましくは3/4〜1/6、さらに好ましくは2/3〜1/4である。
【0031】
本発明のW/O/W型複合エマルションの内水相には、本発明のW/O/W型複合エマルションの安定性を損なわない限り、種々の水溶性成分を含有させることができる。本発明のW/O/W型複合エマルションにおいては、添加した水溶性成分の30質量%以上を内水相に含有させることができる。従って、本発明のW/O/W型複合エマルションを医薬品組成物や化粧品組成物に配合した場合、水溶性の有効成分を安定に保持させることができる。
【0032】
上記の水溶性成分としては、水溶性薬物成分や、化粧品において有効成分または保湿もしくは美容成分等として機能し得る水溶性成分が挙げられる。具体的には、リン酸ヒドロコルチゾンナトリウム、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム、コハク酸プレドニゾロンナトリウム等の副腎皮質ステロイド;ジクロフェナクナトリウム、スルピリン、ロキソプロフェンナトリウム等の非ステロイド性抗炎症薬;マレイン酸クロルフェニラミン等の抗ヒスタミン薬;クロモグリク酸ナトリウム、塩酸オロパタジン等の抗アレルギー薬;オキシテトラサイクリン塩酸塩、テトラサイクリン塩酸塩、クリンダマイシンリン酸エステル、ミノサイクリン塩酸塩等の抗菌薬;ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB12、ビタミンC、ニコチン酸、パントテン酸、葉酸、ビオチン等の水溶性ビタミン;グリシン、アラニン、セリン等のアミノ酸;グルタチオン等のペプチド;ブドウ糖、果糖等の単糖;ショ糖、乳糖、麦芽糖等の二糖;ラフィノース、フラクトオリゴ糖等のオリゴ糖;ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、フコイダン等の多糖;ソルビトール、マンニトール、マルチトール等の糖アルコール;グリセリン、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール;アントシアニン、クロロゲン酸等のポリフェノールなどが挙げられ、これらより1種または2種以上を選択して用いることができる。
【0033】
また、本発明のW/O/W型複合エマルションの安定性を損なわない範囲で、必要に応じて、上記した水溶性成分、保湿剤、防腐剤、pH調整剤、着色剤、香料などを外水相中に含有させることができる。
【0034】
さらに、本発明のW/O/W型複合エマルションの安定性を損なわない範囲で、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピル等の抗酸化剤;ビタミンA、ビタミンE等の油溶性ビタミン;カロテン、リコピン、カルサミン等の油溶性色素等を油相に含有させることができる。
【0035】
本発明はまた、液晶乳化型のW/O/W型複合エマルションを、2段階乳化により調製する方法を提供する。すなわち、まず分散質となるW/O型エマルションを調製する(1次乳化)。このW/O型エマルションの調製は、一般にW/O型エマルションの調製に適する乳化方法により行うことができる。通常は、界面活性剤を含有する油相成分を70℃〜80℃程度に加熱し、この油相成分に、あらかじめ70℃〜80℃程度に加熱した水相成分を徐々に添加し、混合分散して乳化する。混合、分散は、ホモミキサー、ホモジナイザー、コロイドミル等を用いて、剪断力を加えて行うことが好ましい。次いで、このW/O型エマルションを、あらかじめ調製したラメラ型液晶に添加して混合し、外水相を加え、分散、乳化する(2次乳化)。ラメラ型液晶の調製は、一般的な手法により行うことができるが、通常、脂肪族アルコールおよび2次乳化に用いる界面活性剤、さらに他の油相成分を含有する場合にはそれら油相成分を混合し、70℃〜80℃に加温して溶解したものに、70℃〜80℃に加温した少量の水を徐々に添加して調製する。ラメラ型液晶に、60℃程度に加温したW/O型エマルションをゆっくりと添加した後、外水相成分を混合溶解し、70℃〜80℃に加熱したものを加え、ホモミキサー、ホモジナイザー等を用いて撹拌、乳化する。なお、外水相が熱に不安定な水溶性成分を含有する場合には、あらかじめ取り分けておいた外水相の一部に該水溶性成分を溶解し、2次乳化を行った後に混合することが好ましい。ラメラ型液晶の形成に必要な水の量は、用いる界面活性剤や脂肪族アルコール、他の油性成分の種類や含有量により異なるが、通常は2次乳化に用いられる水の2.4質量%〜13質量%程度であり、2.5質量%〜8質量%とするのが好ましく、2.6質量%〜6質量%とするのがより好ましい。
【0036】
本発明のW/O/W型複合エマルションは、医薬品担体としても好適に利用することのできるものである。従って、本発明はまた、前記W/O/W型複合エマルションに薬物を含有させ、医薬品組成物を提供する。医薬品組成物の安定性および吸収性等の観点から、薬物は、内水相または油相に含有させることが好ましい。本発明の医薬品組成物には、本発明の特徴を損なわない範囲で、必要に応じてさらに他の担体を添加することができる。他の担体としては、水、エタノール、プロパノール等の液状担体、ゲル状担体などが挙げられる。本発明の医薬品組成物は、乳剤等の液状製剤;クリーム剤等の半固形状製剤などの形態で提供することができる。
【0037】
また、本発明のW/O/W型複合エマルションは、化粧品組成物として好適に利用することができる。本発明の化粧品組成物には、必要に応じて他の化粧品成分を含有させることができる。他の化粧品成分としては、アスコルビルリン酸ナトリウム、アスコルビルリン酸マグネシウム、アルブチン、コウジ酸、ソウハクヒエキス、プラセンタエキス等の美白剤;加水分解シルク、カッコンエキス、シャクヤクエキス、卵殻膜タンパク質、レチノール等の抗シワ・抗老化剤;オタネニンジンエキス、酵母エキス、コエンザイムQ10、デオキシリボ核酸ナトリウム等の細胞賦活剤;アズレン、アラントイン、カミツレエキス、カンゾウエキス、γ−オリザノール、キダチアロエエキス、グリチルリチン酸等の抗炎症・肌荒れ防止剤;グルコシルルチン、コメヌカ油、シソエキス、タンニン酸、d−δ−トコフェロール、dl−α−トコフェロール、ルイボスエキス等の抗酸化剤;シコンエキス、セージエキス、ビサボロール、ヒノキチオール等の抗菌剤;塩化セチルピリジニウム、グルコン酸亜鉛、オウバクエキス等の抗ざ瘡剤;グリセリン、1,3−ブタンジオール、コンドロイチン、スフィンゴ脂質、セラミド、ヒアルロン酸等の保湿剤;塩化カプロニウム、センブリエキス、ハトムギエキス等の血行促進剤;アラビアガム、カラギーナン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の増粘剤などが挙げられる。これらの中で、特に美白剤、抗シワ・抗老化剤、細胞賦活剤、抗炎症・肌荒れ防止剤等、皮膚に対する有効成分については、化粧品組成物中における安定性や、皮膚に対する作用効果の点で、内水相または油相に含有させることが好ましい。
【0038】
本発明の化粧品組成物は、乳濁状または半固形状もしくは固形状の形態で、乳液、エモリエントクリーム、マッサージクリーム等の皮膚化粧料;化粧下クリーム、乳液状ファンデーション、クリーム状ファンデーション等のメイクアップ化粧料;ヘアークリーム、コンディショナー等の頭髪用化粧料;ボディクリーム等の身体用化粧料などとして提供することができる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、以下に示す各処方における各成分の含有量は、質量%で表す。
【0040】
[W/O型エマルションの調製]
まず、表1に示す処方に従い、分散質であるW/O型エマルションを調製した。表1中aおよびb成分を70℃〜80℃に加熱し、混合溶解した。表1中c〜e成分を混合溶解して得られた水相を70℃〜80℃に加熱し、前記油相に撹拌しながら徐々に添加して、液温を70℃〜80℃程度で一定に維持しながら、ホモジナイザーにより撹拌乳化した。その後、撹拌しながら20℃〜40℃となるまで冷却し、W/O型エマルションを得た。
【0041】
【表1】

【0042】
[W/O/W型複合エマルションの調製]
次いで、表2に示す処方に従い、2段階乳化法によりW/O/W型複合エマルションを調製した。表2中f〜j成分を70℃〜80℃に加熱し、混合溶解した。k成分の一部を70℃〜80℃に加熱し、撹拌しながら前記油相に加え、ラメラ型液晶を調製した。続いて、60℃程度に加温したl成分を、前記ラメラ型液晶に撹拌しながらゆっくりと添加した。次に、k成分の残部を70℃〜80℃に加温して加え、ホモジナイザーにより撹拌乳化した。その後、撹拌しながら20℃〜40℃となるまで冷却し、W/O/W型複合エマルションを得た。
【0043】
【表2】

【0044】
[実施例1〜4、比較例1〜5]
上記に示すW/O/W型複合エマルションの調製に際し、ラメラ型液晶の調製に用いる精製水(k)の添加量を0mL〜15mLの間で変化させた。後述するように、前記精製水の添加量を2mL、3mL、3.5mLおよび4mLとした場合に、W/O/W型複合エマルションが認められた(実施例1〜4)。一方、前記精製水を添加しない場合にはW/O/W型複合エマルションはほとんど形成されず(比較例1)、前記精製水の添加量を5mL、6mL、15mLとした場合には、最終生成物の粘度低下が見られ、W/O型エマルションが分離しているものと考えられた(比較例2〜4)。なお、液晶乳化型のW/O/W型複合エマルションを1段階乳化法により調製したものを、比較例5とした。
【0045】
上記実施例および比較例の各エマルションについて、次の通り、粘度測定、乳化状態の観察およびウラニン(フルオレセインナトリウム)の内水相における含有率の測定を行った。
【0046】
[粘度測定]
実施例および比較例の各エマルションについて、ブルックフィールド型粘度計(ロータ;No.4、回転数;12rpm)を用いて、25℃における粘度を測定した。
【0047】
[乳化状態の観察]
実施例および比較例の各エマルションをそれぞれ少量スライドガラスにとり、カバーガラスを被せた後、顕微鏡観察(対物レンズ:100倍、接眼レンズ:10倍)を実施した。また、簡易偏光フィルターを用いて、光学異方性の有無についても観察した(対物レンズ:40倍、接眼レンズ:10倍)。乳化状態の観察結果については、下記の評価基準に従って評価した。
【0048】
<評価基準>
(1)顕微鏡観察
A:複合エマルションが観察される
B:単層エマルションの中に複合エマルションがわずかに観察される
C:単層エマルションが観察される
D:エマルションは観察されない
(2)偏光顕微鏡観察
A:光学異方性による屈折光が認められる
B:光学異方性による屈折光は認められない
【0049】
[内水相におけるウラニン含有率の測定]
内水相におけるウラニンの含有率は、以下の方法により測定した。実施例および比較例の各エマルション約0.5gをビーカーに量り取り、10mMリン酸緩衝液(pH7.5)50mL中にエマルションを壊さないように均一に分散した。エマルション分散液の一部を、粒子保持能11μmのろ紙を用いてろ過し、エマルションを取り除いた。さらにろ液を粒子保持能0.45μmのフィルターを用いてろ過し、ろ液を得た。
残ったエマルション分散液は超音波処理(約15分〜20分)を行い、エマルションを完全に破壊した。
ろ液および超音波処理後のエマルション分散液に含まれるウラニンを、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。分析結果より、次の式(1)を用いて、W/O/W型複合エマルションの内水相におけるウラニン含有率(%)を算出した。
【0050】
【数1】

【0051】
上記の測定および観察結果を表3にまとめて示した。また、実施例および比較例の各エマルションについて、顕微鏡写真および偏光顕微鏡写真を図1〜9に示した。
【0052】
【表3】

【0053】
表3および図1〜4より明らかなように、本発明の実施例1〜4のエマルションについては、顕微鏡下に複合エマルションの生成が認められ(図1(a)〜4(a))、また、偏光顕微鏡下に光学異方性による屈折光が観察され、ラメラ型液晶の形成が認められた(図(1)(b)〜4(b))。さらに、液晶形成を経ずに2段階乳化を行って調製した比較例1のエマルション、および1段階乳化法により調製した比較例5のエマルションに比べて、内水相におけるウラニンの含有率が高く、特に、実施例2〜4のエマルションにおいては、内水相におけるウラニン含有率は30%以上となっていた。これは、実施例2〜4において、添加したW/O型エマルションが破壊されにくく、効率的にW/O/W型複合エマルションが形成されていることを意味する。
【0054】
一方、比較例2〜4のエマルションにおいては粘度の低下が見られた。比較例2および3においては、単層エマルションの中に複合エマルションがわずかに観察された(図6(a)、図7(a))が、比較例4においては複合エマルションは観察されず(図8(a))、W/O型エマルションがうまく内包されずに分離しているものと考えられた。また、比較例2および3のエマルションでは液晶の形成が観察されたが(図6(b)、7(b))、比較例4のエマルションでは液晶の形成は観察されなかった(図8(b))。さらに、比較例1および5のエマルションにおいては、複合エマルションの形成はわずかに認められるにとどまり(図5(a)、9(a))、内水相におけるウラニンの含有率は低く、6%未満であった。
【0055】
[保存安定性]
液晶乳化型のW/O/W型複合エマルションの形成が確認された実施例3および4のエマルションについて、蓋付広口瓶に充填し、25℃で1ヶ月保存した後の状態を、以下の評価基準に従って評価した。また、内水相におけるウラニン含有率を、上記と同様にHPLC定量により求めた。これらの結果を表4に示した。
【0056】
<評価基準>
A:顕微鏡観察により、乳化粒子に変化は見られない
B:顕微鏡観察では、やや乳化粒子の変化は見られるが、肉眼では変化は見られない
C:肉眼でわずかな水浮きが確認できる(水相の分離が見られる)
D:肉眼で分離や析出が確認できる
【0057】
【表4】

【0058】
表4より明らかなように、本発明の実施例3および4のエマルションは、25℃で1ヶ月間保存した後においても、粘度の大幅な変化および乳化粒子の変化、さらに内水相におけるウラニン含有率の変化は認められず、保存安定性に優れることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上詳述したように、本発明により、液晶構造を有し、安定性が高く、保湿性および使用感触が良好なW/O/W型複合エマルションを提供することができる。また、本発明によれば、W/O/W型複合エマルションの内水相含有量を高くして、高含量の水溶性成分を内水相に安定に含有させることができる。
さらに、本発明のW/O/W型複合エマルションは、医薬品組成物および化粧品組成物に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外水相に、界面活性剤、脂肪族アルコールおよび水を含有してなるラメラ型液晶を含み、内水相の含有量が、エマルションの全量に対して1質量%以上である、W/O/W型複合エマルション。
【請求項2】
脂肪族アルコールが室温で固形である、請求項1に記載のW/O/W型複合エマルション。
【請求項3】
脂肪族アルコールが、炭素数16〜22の飽和アルコールである、請求項1または2に記載のW/O/W型複合エマルション。
【請求項4】
室温において固形の脂肪族アルコールを溶解しない油性成分を含有する、請求項1に記載のW/O/W型複合エマルション。
【請求項5】
内水相に水溶性成分を含有する、請求項1に記載のW/O/W型複合エマルション。
【請求項6】
水溶性成分が、水溶性ビタミン、アミノ酸、ペプチド、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖、糖アルコール、多価アルコールおよびポリフェノールよりなる群から選択される1種または2種以上である、請求項5に記載のW/O/W型複合エマルション。
【請求項7】
水溶性成分の30質量%以上が内水相に含有される、請求項5または6に記載のW/O/W型複合エマルション。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のW/O/W型複合エマルションを含有する、医薬品組成物。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のW/O/W型複合エマルションを含有する、化粧品組成物。
【請求項10】
水相成分、油相成分および界面活性剤を混合し、乳化して調製したW/O型エマルションを、界面活性剤、脂肪族アルコールおよび水を含有してなるラメラ型液晶中に混合した後、外水相成分により分散、乳化する、請求項1に記載のW/O/W型複合エマルションの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−214409(P2012−214409A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80718(P2011−80718)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(397036365)株式会社アイビー化粧品 (10)
【Fターム(参考)】