説明

cis−1,4−ポリイソプレンからのディップ成形された医療用デバイス

【課題】硫黄含有成分を使用しない合成ゴムの医療用デバイスを提供すること。
【解決手段】合成ゴムの医療用デバイスが、硫黄含有成分を使用しないディップ成形によるcis−1,4−ポリイソプレンから調製される。本デバイスは、合成cis−1,4−ポリイソプレンについて公知であるにもかかわらず、顕著に優れた引張り特性を有する。さらに、天然ゴム中に存在するタンパク質および先行技術の天然ゴムおよびcis−1,4−ポリイソプレンの両方の加硫で代表的に使用される硫黄成分の両方を含まず、天然ゴムとの接触において代表的に生じるI型またはIV型アレルギー反応を起こすことなく自由に使用し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成ゴム物品の分野に属し、特に、ディップ成形によって形成された物品に属する。特に、本発明は、この種の物品の作製におけるcis−1,4−ポリイソプレンの使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
天然ポリイソプレンゴムは、ゴムの木(Hevea brasiliensis)から得られ、エラストマー性ディップ成形された医療用デバイスおよび医療用デバイス構成要素の構成材料として広く使用されている。これらのデバイスおよび構成要素の例としては、外科用手袋、診断用手袋、指サック(finger
cot)、カテーテルバルーン、子宮用熱的剥離バルーン(uterine thermal ablation balloon)、カテーテルカフス(catheter cuffs)、コンドーム、避妊用ペッサリー、留置尿排出カテーテル(in−dwelling urinary drainage catheter)、そして男性用外部尿排出カテーテル(male external urinary drainage catheter)がある。
【0003】
天然ゴムのディップ成形は、ラテックス(ゴム粒子の水性分散)またはゴムの有機溶液のいずれかを用いて行なわれる。ラテックスまたは有機溶液のいずれかの中での浸漬は、水または溶媒の除去に続き、浸漬および水または溶媒の除去は、特定のフィルム厚を得るために、繰り返しサイクルでしばしば行なわれる。このようにして形成されたフィルムは、次に、加硫処理をしてゴムを完全に硬化した状態にする。ある手順では、予備加硫処理(すなわち、浸漬の前に、浸漬媒体中でのゴムの加硫処理)が行なわれる。予備加硫処理された浸漬媒体からのフィルムは、浸漬後の硬化を必要としないが、水を除去するための乾燥のみは必要とする。さらなる手順では、予備加硫処理および後硬化処理、すなわち、浸漬前の浸漬溶液および浸漬後のフィルムの両方の加硫が使用されている。
【0004】
ラテックス浸漬において、最終の物品の厚さは、予備的凝集剤の浸漬または熱増感性凝集剤の浸漬のいずれかとしての、凝集剤の使用によってしばしば増大する。溶媒浸漬(ラテックスではなく、ゴムの有機溶液を使用)は、ベンゼン、トルエン、ガソリン、脂肪族炭化水素、シクロペンタンおよびシクロヘキサンのような脂環式炭化水素、ならびにヘキサンおよびアセトンのような混合溶媒、のような種々の溶媒のいずれかを用いて行なわれる。
【0005】
ラテックスまたは有機溶液のどちらを使っても、天然ゴムから形成される物品およびデバイスは、種々の健康問題の原因となる。ある使用者は、接触して数分以内または数時間後のいずれかに始まるアレルギー反応を体験する。症状は、皮膚の赤み、じんま疹またはかゆみのような中等度の反応から、鼻水、目の痒み、のどがチクチクする、呼吸困難、咳の発作、およびぜん鳴のようなより深刻な反応まで、多岐にわたっており、そして著しい症例では、生命を脅かすショックもある。強力な反応を体験する場合、反応は蜂の刺創から生じる反応と本質的に同様である。
【0006】
天然ゴムに対する有害反応は概して三種類である。一種類目は、体の免疫反応に関連しない皮膚刺激を含む、刺激性の皮膚炎である。アレルギー反応ではないが、刺激性の皮膚炎は、皮膚中の割れを引き起こし得、この割れは、ゴムの成分(ゴム中に存在するタンパク質を含む)の体の免疫系への接近を増大させ、ラテックスアレルギーへと進行する。二種類目は、遅延型皮膚過敏症であり、これはまたIV型アレルギーとして公知である。IV型アレルギーは、概して、加硫の目的で、ゴムの中に混合されるチウラムのような化学物質によって引き起こされる。この種の反応は、T細胞を介して媒介され、一般的に、ゴム物品との接触の6〜48時間以内に生じ、接触が起こった皮膚部分に局在化する。反応の三種類目は、「即時反応」と呼ばれ、I型アレルギーとしても公知である。I型アレルギーは、IgE抗体によって引き起こされる、天然ゴム中のタンパク質に対する全身性アレルギー反応である。症状は、じんま疹、鼻炎、結膜炎、気管支喘息、およびまれな症例では、過敏症および低血圧を含む。I型反応の症状は、一般的に暴露から30分以内に生じる。
【0007】
従って、天然ゴムによって引き起こされた有害反応は、加硫を促進するためにゴムに添加された化学物質、特に、硫黄を含む化学物質、またはゴムがその天然源から抽出された場合、ゴム中に残存するタンパク質のいずれかに起因する。タンパク質由来の反応に対処するために、そのタンパク質含量を減少させる天然ゴムの処理法が開発されている。これを達成する一つの方法として、天然ゴムラテックスに処理する、二重遠心法があり、一段階目の遠心工程で、水相の一部を除去して、次いで水を添加して、そして二段階目の遠心工程で、加えた水およびタンパク質を除去する。この方法によって、タンパク質の一部は除去できるが、完全ではない。別の方法は、タンパク質を消化するための酵素の使用を含むものであった。この方法もまた、タンパク質の一部しか除去せず、完全ではなく、そしてラテックス中にそれ自体がタンパク質である酵素が残留する。
【0008】
いずれにせよ、除タンパクされた天然ゴムは、除タンパクされていない天然ゴムで達成される性能レベルを提供することはできない。比較試験の結果が、Nakade,S.ら,「Highly Purified Natural Rubber IV. Preparation and Characteristics of Gloves and Condoms」,J.Nat.Rubb.Res.12(1):33−42(1997)で報告されている。これらの結果は、除タンパクされた天然ゴムは、引張り係数値および引裂き強度レベルが天然ゴムよりも低いことを示す。天然ゴムに対するこれらの欠点は、照射によるゴムの加硫の使用によってさえ、補うことはできない。Mohid,N.らによって報告された、「Characterization of NR Latex and Vulcanization」,Nippon Genshiryoku Kenkyusho,1990:JAERI−M−89−228,Proc.Int.Symp.Radiat.Vulcanization Nat.Rubber Latex,Tokyo/Takasaki,July 1989,157−163頁、の研究は、照射された除タンパクされたゴムの引張り特性は、照射された天然ゴムの引張り特性よりも劣っていることを示す。
【0009】
種々の合成エラストマーは、天然ゴムの代替品として使用されている。例えば、ニトリル合成ゴム材料およびクロロプレン合成ゴム材料は、外科用手袋、診察用手袋、および歯科用手袋の製造に使用されている。しかしながら、これらの材料は、天然ゴムの高い弾力性および低い引張セット(tensile set)値に及ばない。シリコーンゴムは、カテーテルバルーンに使用されてきたが、その引張り強度は天然ゴムと比較して低く、厚みを増すことによって補わなければならない。ポリウレタンもまた、天然ゴム代替品として、特にディップ成形されたカテーテルバルーンに使用されている。ポリウレタンは、非常に高い引張り強度を有するが、天然ゴムの弾力性および低い引張セット値は満足していない。結果として、ポリウレタンは、使用中の高度の拡張に耐えること、および減圧下の際に、もとの形状に戻ることを必要とされるデバイスには適していない。また、それらの熱可塑性のために、ポリウレタンは、高温では、軟化して、漏出する傾向があるため、子宮用熱的剥離バルーンのようなデバイスのための有用性は減少する。手袋はまた、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン三成分ブロック共重合体から調製されるが、この材料は、加熱した場合に、引張セット値が低く、寸法安定性に乏しいという欠点を有する。
【0010】
cis−1,4−ポリイソプレンに基づく、またはcis−1,4−ポリイソプレンから誘導される調合物を、ディップ成形製品のために使用することが開示されている。これらの開示のひとつとして、1976年7月27日に発行された、Hiraiらによる米国特許第3,971,746号がある。Hiraiらは、未改変のポリマーから形成された生成物が、型からの取り外しの際に変形して、機械的欠陥を与えるすじおよび溝を含むことを認めた後に、ポリマー構造中にカルボニル基を導入することによって改変を行なったcis−1,4−ポリイソプレンの使用を開示している。Preissらは、米国特許第3,215,649号で、硫黄で加硫したcis−1,4−ポリイソプレンの使用を開示している。
【0011】
先行技術の全体的な教示を要約すると、天然ゴム源から保持されているタンパク質が存在しないcis−1,4−ポリイソプレンは、ディップ成形された医療用デバイスには適切でないと考えられる。なぜならば、除タンパクされた天然ゴムから作られた生成物は、たとえ照射によって架橋した除タンパクされたゴムから作製された製品であっても、これらのデバイスの重要な特色である引張り特性が不足している製品だからである。この予想は、天然ゴム中のイソプレンが、約1,000,000amu〜約2,500,000amu(数平均)の高分子量成分を有するのに対し、合成ポリイソプレンは約250,000amu〜約350,000amuの範囲の数平均を有するかなり低い分子量を有するという、分子量を考慮することによって、強力なものとなる。低分子量のポリマーは、引張セット値を含めて、より低い引張り特性を有すると予想される。合成ポリイソプレンはまた、分岐度が低く、対称性が低く、そして分子間力も低い。これらの特徴の全てが、ポリマーの引張り特性に寄与し、影響を与えている。さらに、先行技術は、含硫黄化合物を使用する以外のいずれかの架橋方法の言及を明確に避けている。従って、合成cis−1,4−ポリイソプレンのディップ成形された製品であって、タンパク質および硫黄の両方を含有せず、医療用デバイスに許容可能な引張り特性を有し、特に、使用中に100%のオーダー(すなわち、その伸張前の2倍の寸法)またはそれ以上の弾性伸張に耐える特性、を満たしている引張り特性を有する先行技術の開示はない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の要旨)
本発明は、例えば、以下を提供する。
(項目1) 合成1,4−ポリイソプレンを含む、生きているヒト組織と接触して使用するための医療用デバイスであって、該デバイスが、タンパク質および硫黄の両方を含まず、該デバイスがディップ成形によって形成される、医療用デバイス。
(項目2) 前記合成cis−1,4−ポリイソプレンが、5%未満の引張セット値を達成するのに十分な程度まで架橋されている、項目1に記載の医療用デバイス。
(項目3) 前記合成cis−1,4−ポリイソプレンが高エネルギー電子線照射によって架橋されている、項目1に記載の医療用デバイス。
(項目4) 前記合成cis−1,4−ポリイソプレンが、化学増感剤非存在下で、高エネルギー電子線またはガンマ照射によって架橋されている、項目1に記載の医療用デバイス。
(項目5) 前記架橋が、前記ディップ成形の前に前記合成cis−1,4−ポリイソプレンを照射することによって行なわれている、項目4に記載の医療用デバイス。
(項目6) 前記架橋が、前記ディップ成形の後に前記合成cis−1,4−ポリイソプレンの照射によって行なわれている、項目4に記載の医療用デバイス。
(項目7) 前記架橋が、前記ディップ成形の前および後の両方に、前記合成cis−1,4−ポリイソプレンの照射によって行なわれている、項目4に記載の医療用デバイス。
(項目8) 前記架橋が、約20メガラド〜約40メガラドの強度での照射によって行なわれている、項目4に記載の医療用デバイス。
(項目9) 増感量のn−ブチルアクリレートの存在下、前記合成cis−1,4−ポリイソプレンが、約1メガラド〜約5メガラドの強度でのガンマ照射によって架橋されている、項目1に記載の医療用デバイス。
(項目10) 増感量のn−ブチルアクリレートの存在下、前記合成1,4−ポリイソプレンが、約10メガラド〜約20メガラドの強度での高エネルギー電子線照射によって架橋されている、項目1に記載の医療用デバイス。
(項目11) 増感量のペルオキシド化合物の存在下、前記合成cis−1,4−ポリイソプレンが、高エネルギー電子線照射またはガンマ照射によって架橋されている、項目1に記載の医療用デバイス。
(項目12) 前記合成cis−1,4−ポリイソプレンが、ペルオキシド架橋剤によって架橋されている、項目1に記載の医療用デバイス。
(項目13) 前記合成cis−1,4−ポリイソプレンが、ディップ成形後に溶融塩浴中での浸漬によってさらに処理されている、項目12に記載の医療用デバイス。
(項目14) 前記ペルオキシド架橋剤が、ジクミルペルオキシドである、項目12に記載の医療用デバイス。
(項目15) 前記ペルオキシド架橋剤が、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチル−ペルオキシ)ヘキサンである、項目12に記載の医療用デバイス。
(項目16) 前記ディップ成形が、合成cis−1,4−ポリイソプレンのラテックスに、型を浸漬する工程を包含する、項目1に記載の医療用デバイス。
(項目17) 前記合成cis−1,4−ポリイソプレンが、ディップ成形の後、化学増感剤存在下、高エネルギー電子線またはガンマ照射によって架橋され、そして前記ディップ成形が、該化学増感剤を含む該合成cis−1,4−ポリイソプレンのラテックス中に型を浸漬する工程を包含する、項目1に記載の医療用デバイス。
(項目18) 前記ディップ成形が、前記合成cis−1,4−ポリイソプレンが溶解または分散した炭化水素溶媒中に型を浸漬する工程を包含する、項目1に記載の医療用デバイス。
(項目19) 前記医療用デバイスが、外科手術用手袋または診察用手袋である、項目18に記載の医療用デバイス。
(項目20) 医療用デバイスであって、該医療用デバイスは、使用中の膨張による弾性伸張が、該デバイスの寸法を少なくとも約100%まで増加するように、そして、収縮時には該直線寸法を膨張していない長さまで実質的に戻るように設計され、合成1,4−ポリイソプレンを含む該デバイスが、ディップ成形によって形成されている、医療用デバイス。
(項目21) 前記医療用デバイスが、エラストマー系カテーテルバルーンである、項目20に記載の医療用デバイス。
(項目22) 5%未満の引張セット値を達成するのに十分な程度まで架橋された、項目20に記載の医療用デバイス。
(項目23) タンパク質および硫黄の両方を含まず、合成cis−1,4−ポリイソプレンのラテックスからディップ成形されることにより形成され、ペルオキシド硬化剤で硬化された合成cis−1,4−ポリイソプレンを含む、外科手術用または診察用手袋。
(項目24) 外科手術用または診察用手袋であって、該手袋は、タンパク質および硫黄の両方を含まず、合成cis−1,4−ポリイソプレンのラテックスからディップ成形によって形成された合成cis−1,4−ポリイソプロピレンを含み、該ラテックスが、化学架橋照射剤が実質的に存在しない状態で、該ディップ成形の前に照射によって部分的に硬化され、さらにディップ成形の後に照射によって硬化される、外科手術用または診断用手袋。
(項目25) 前記ラテックスが、前記ディップ成形の前に電子線照射により少なくとも部分的に硬化される、項目24に記載の手袋。
(項目26) 前記ラテックスが、前記ディップ成形の前にガンマ照射により部分的に硬化される項目22に記載の、手袋。
(項目27) 外科手術用または診察用手袋であって、該手袋は、タンパク質および硫黄の両方を含まず、合成cis−1,4−ポリイソプレンのラテックスからディップ成形によって形成された合成cis−1,4−ポリイソプレンを含み、該ラテックスが、増感量の化学照射増感剤が存在する状態で、該ディップ成形の前に照射によって部分的に硬化されている、外科手術用または診断用手袋。
(項目28) 前記化学照射増感剤が有機ペルオキシドである、項目27に記載の手袋。
(項目29) 前記有機ペルオキシドが、ジクミルペルオキシドである、項目28に記載の手袋。
(項目30) 前記有機ペルオキシドが、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチル−ペルオキシ)ヘキサンである、項目28に記載の手袋。
(項目31) 外科手術用または診察用手袋であって、該手袋は、タンパク質および硫黄の両方を含まず、合成cis−1,4−ポリイソプレンのラテックスからディップ成形によって形成された合成cis−1,4−ポリイソプレンを含み、該ラテックスが、前記ディップ成形の前に、ペルオキシド硬化剤によって少なくとも部分的に硬化されている、外科手術用または診察用手袋。
【0013】
タンパク質および硫黄の両方を含まない合成cis−1,4−ポリイソプレンをディップ成形することによって形成される医療用デバイスは、天然ゴムで作られたデバイスの代替品として適切とされる性質を有し、天然ゴムに関連するいずれのアレルギー反応または他の健康問題を起こさない医療用デバイスが、発見された。このことは、先行技術の教示と反対であり、先行技術の教示は、合成cis−1,4−ポリイソプレンが、Hevea brasiliensisから得られる天然に存在するcis−1,4−ポリイソプレンよりも本質的に劣ることを示唆し、そしてこれらのデバイスの典型的な医療用途で要求されるこの種の性能を達成するために、硫黄をベースとした加硫が必要であることを示唆する。合成cis−1,4−ポリイソプレンは、天然ゴムに存在するタンパク質がないため、それ自身または刺激性皮膚炎反応による悪化のいずれかから生じるI型アレルギー(「即時」)反応は完全に避けることができる。硫黄含有成分を除去することによって、IV型アレルギー反応は同様に避けられるか、または少なくとも低減される。これらの有害要因を除去することに加えて、生じる生成物が、予期せぬ良好な引張りセット値(弾力性)を与える。
【0014】
本発明の範囲内の好ましいディップ成形製品は、製品中に硫黄を含有しないにもかかわらず、引張り強度を向上するために架橋される製品である。架橋は、必要に応じて、最終製品中にいくつかの形態で残存してもしなくてもよい増感剤の存在下、あるいは硫黄を含有しない架橋剤または促進剤の使用によって、高エネルギー照射のような方法によって達成され得る。驚くべきことに、これらの架橋方法(ディップ成形されたcis−1,4−ポリイソプレンと関連して、本明細書でこれまで開示されていない)は、これらの医療用デバイスの引張りおよび弾力性の要件を満たす製品を製造する際に効果的である。
【0015】
本発明は、使用中に、膨張または他の引き伸ばし方法によるような、高度の寸法拡張に耐えるディップ成形された部分へのその適用を特に目的とする。軸方向の長さまたは直径のような直線寸法によって、または外周のような非直線寸法によって測定される場合に、典型的に約100%(すなわち、そのもとの大きさの2倍)以上拡張をする部分は、本発明により特に利益を受ける。なぜならば、架橋により、5%未満の引張セット値で、拡張され得、そして次いで元の構造に戻り得るからである。拡張および解放は、この部分の変形をほとんどまたは全く伴わずに何回も繰り返され得る。種々の用途のための種々の型のカテーテルバルーンは、この種の拡張可能な部分の例である。
【0016】
本発明のこれらおよび他の目的、特色および利点は、以下の説明から明らかにかつ/またはよりよく理解される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(発明の詳細な説明および好ましい実施形態)
合成ポリマーcis−1,4−ポリイソプレンは、米国ではGoodyear
Tire & Rubber Co.(Beamont、Texas、USA)から、西ヨーロッパではShell Nederland Chemie (Royal Dutch/Shell Group)(Bernis、Netherland)から、日本ではJapan Synthetic Rubber
Co.,Ltd.およびNippon Zeon Co.,Ltd.から市販されている。このポリマーは、イソブチルアルミニウムおよび四塩化チタンからなるチーグラー触媒上で、または当該分野で公知の種々の他の任意の触媒上で、イソプレンを重合することによって生成される。他の触媒としては、アルカリ金属触媒、特に微細に分割したリチウム金属または有機リチウム化合物が含まれ、そして他の方法としては、アニオン重合、カチオン重合、およびフリーラジカル重合が含まれる。これらの方法のそれぞれについてのプロセス条件は、当該産業分野において公知である。架橋前の典型的な合成cis−1,4−ポリイソプレンでは、ポリマーの重量平均分子量は、一般的に約750,000amu〜約950,000amuの範囲であり、数平均分子量は、一般的に約250,000amu〜約350,000amuの範囲である。
【0018】
ディップ成形による物品の形成もまた、周知であって、本明細書では、従来の手順は、同様に従い得る。ディップ成形は、マンドレルまたは一般的な用語で、外表面が、形成されるべき物品の形状を有する型を、液化ポリマーを含む液体媒体中で浸漬して、次いでこの液体から型を引き出して、型の表面上の液体の連続的なフィルムを離型することによって達成される。この液体媒体は、ラテックス(ポリマーが分散相であり、水または水溶液が連続相である、ポリマーの水性エマルジョン)またはポリマーの有機溶媒溶液のいずれかであり得る。次いで、このフィルムは、型上の適所で乾燥し(すなわち、溶媒またはキャリア液をエバポレートする)、乾燥の後、ポリマーを硬化させる(加硫する)。次いで、乾燥して硬化したフィルム(ここで、この物品は、その最終形状および最終組成である)を型からはがす。
【0019】
この基本的なプロセスのさらなる工程または変形としては、浸漬工程の前に浸漬媒体中で静止した状態で、さらなる予備加硫またはポリマーを部分的硬化させること;ディップ型から物品を取り外す前に、フィルム厚を増大させるために一連の浸漬サイクルおよび乾燥サイクルを行うこと;ならびに浸漬媒体中に、硬化促進剤、増感剤または活性化剤、乳化剤、架橋剤、可塑剤、抗酸化剤、強化剤、およびcis−1,4−ポリイソプレンおよび他の合成ゴムおよび天然ゴムからの物品の成形に、一般的に使用される他の物質のような添加剤を含有させることが含まれる。別の変形は、フィルム厚の増大を促進させるための、別の浸漬として、凝析剤浸漬の使用である。硫黄(ポリイソプレン用の一般的な複合成分である)は、スルフェンアミド、チアゾール、チウラム、チオカルバメートのような硫黄を含む他の一般的なゴムの複合成分と同様に、本発明によると、避けられる。用語「硬化」および「加硫」は、本明細書中では同様の意味で用いられ、用語「加硫」は、天然ゴムの加硫に類似して使用される。しかし、本明細書の文脈では、「加硫」は、硫黄を用いる架橋または硫黄もしくは硫黄含有化合物の任意の使用による架橋を含むことを意図されない。
【0020】
cis−1,4−ポリイソプレンのラテックスは、当業者に公知のゴムの配合または処理の方法によって形成される。これらの方法は、ポリマーの有機溶液を水性媒体中で乳化して、次いで溶媒を除去するか、またはポリマーを液化して、この液化したポリマーと水性媒体を乳化状態で混合することのいずれかを含む。エマルジョンは、種々の乳化剤によって、安定化され得る。典型的な乳化剤は、樹脂酸および高級脂肪酸のカリウム塩およびナトリウム塩(例えば、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、アラキジン酸、およびリシン酸(ricinic acid)のカリウム塩およびナトリウム塩)ならびにこれらの酸のサルフェートおよびスルホネート(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸ナトリウム)がある。他の乳化剤は、長鎖脂肪酸エステルのヒドロキシルアミンのアミン塩、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムクロライドおよびトリデシルベンゼンヒドロキシエチルイミダゾールクロライドのような四級アンモニウム塩、カプリルアルコールおよびオクチルアルコールのような高級アルコールのリン酸エステル、ならびにソルビタンモノオレエートのようなオレイン酸とペンタエリスリトールのモノエステルである。乳化剤の量は、種々あり得るが、一般的に水相の約0.03重量%〜約12.0重量%であって、好ましくは約0.1重量%〜約3.0重量%である。エマルジョン中の水相と有機相の相対量も様々であり得るが、ほとんどの場合、容積比(有機:水)は、約0.5:1〜約2.0:1の範囲であるか、約0.75:1〜約1.25:1の範囲のように、1:1に近い容積比が好ましい。有機溶媒存在下で形成されるラテックスについては、溶媒は容易に除去され、溶媒を含まないラテックスが残る。従来の溶媒除去方法が用いられ得る。
【0021】
ディップ成形の前に、ラテックス中の水分量を減らすことによってラテックスを濃縮したいのであれば、従来の方法によってラテックスから水を除去し得る。好ましい方法は、限外濾過である。限外濾過膜およびラテックスを濃縮する際のそれらの使用については、DelPico,米国特許第4,160,726号(1979年7月10日)およびTanakaら,米国特許第5,569,740号(1996年10月29日)に開示される。
【0022】
ラテックスではなく有機溶液が浸漬媒体として使用される場合、ラテックスの形成中または溶媒としてのいずれかで使用される有機溶媒は、ポリイソプレンに対して不活性で、エバポレーションによって、ディップ成形されたフィルムから容易に除去可能な、任意の溶媒であり得る。この溶媒は、好ましくは脂肪族炭化水素(飽和または不飽和、および直鎖、分岐、または環式)またはエーテル、エステル、アルコール、またはアミンが好ましい。典型的な溶媒は、ペンタン、ペンテン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンおよびシクロペンタン、およびテトラヒドロフランのような5〜8個の炭素原子を含む脂肪族炭化水素である。
【0023】
高エネルギー照射による硬化により、フリーラジカル機構によって、ポリイソプレン鎖間の架橋が達成される。高エネルギー照射を行なう方法としては、電子線照射およびガンマ照射が含まれる。照射は、液体媒体中で、化学増感剤の存在下または非存在下のいずれかで行ない得るが、化学増感剤が存在しない場合、より高エネルギーの照射線量が必要となる。増感剤が使用される場合、この増感剤は、硫黄を含まない増感剤である。この種の増感剤は周知である。重合可能な炭素−炭素二重結合を含む特定の化合物がその中に含まれる。後者の例は、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、および2−エチルヘキシルアクリレートがある。さらにペルオキシド化合物の例をあげる。例は、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、2,2’−ビス(t−ブチルペルオキシ)−ジイソプロピルヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレート、過安息香酸t−ブチル、およびベンゾイルペルオキシドで、ペルオキシド化合物はまた、以下に説明するように、照射とは別に架橋剤としても有用である。
【0024】
適切な照射線量は、所望の程度の架橋を達成し、それによって最終製品の所望の物理的特徴を達成する量であって、さらにこれらの物理的特徴に不利な影響を与える程度の鎖の切断が起こらない量である。これらのことを考慮すると、適切な線量は、試行錯誤によって容易に決定される。ほとんどの場合、増感剤が使用されない場合、照射量が、約20メガラド〜約40メガラドの範囲内にある場合、好ましくは約25メガラドの場合に、最もよい結果が得られる。例えば、n−ブチルアクリレートのような増感剤をガンマ照射で使用する場合、好ましい線量範囲は、約1メガラド〜約5メガラドである。増感剤を電子線照射で使用する場合、好ましい線量範囲は、約10メガラド〜約20メガラドである。
【0025】
電子線照射は、公知の方法によって適用される。電子線の発生に使用される加速器は、典型的には200KeV(200,000エレクトロンボルト)〜3MeV(3百万エレクトロンボルト)の範囲内の出力および25〜200mAの電流で作動する。ガンマ照射は同様に公知の方法で適用され、210Poおよび226Raもまた、ガンマ放射線源であるが、60Coおよび137Csのような放射性核種からが特に顕著である。
【0026】
硫黄もまたは照射も用いない架橋は、種々の硫黄を含まない化学架橋剤、特にペルオキシド化合物、ヒドロキシ化合物、ジアミノ化合物および他の二官能性架橋剤の使用によって達成され得る。ペルオキシド化合物の例は上に列挙される。ヒドロキシ化合物の例は、p−キノンジオキシム、メチロールフェノール−ホルムアルデヒド樹脂、臭素化されたアルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂である。ジアミノ化合物の例は、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサンジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)カルバメート、4,4’−メチレンジアニリンである。他の試薬の例としては、1,3−ビス(ジトラコンイミドメチル)ベンゼン(1,3−bis(ditraconimidomethyl)benzene)およびN,N’−m−フェニレンビスマレイミドである。ペルオキシド化合物が好ましく、特にジクミルペルオキシドおよび2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンが好ましい。典型的には、有機過酸化物は、トルエンのような有機溶媒中に溶解し、そして得られた溶液をディップ成形の前にポリイソプロピレンに添加する。過酸化物が使用される場合、硬化中は、系から酸素ガスを排除しておくべきである。なぜならば、典型的にポリイソプレンに添加される抗酸化剤は、その過酸化物によって無効にされ得るからである。
【0027】
ペルオキシド化合物による硬化は、一般的に、溶融塩浴中でのポリマーの浸漬に伴って起こる。この目的のための塩の組み合わせは、市販されている。一例は、Hubbard Hall Inc.,(Inman,South Carolina,USA)の製品であるQUICK CURE 275(主成分は硝酸カリウム(約50重量%)、亜硝酸ナトリウム(約30重量%)、および硝酸ナトリウム(10重量%未満)である)である。他の塩の組み合わせおよび市販製品は、ペルオキシド硬化系の使用に精通している者には容易に明らかである。
【0028】
使用される架橋剤の量は、これらの試薬の使用に精通しているものには容易に明らかであって、系中の他の成分および実施条件の選択によって、任意の特定の系のための最適量は変化し得る。ほとんどの場合、ポリイソプレン100重量部に対して、約0.1〜約10重量部、好ましくは約0.3〜約3重量部の範囲の量で最もよい結果が得られる。
【0029】
本発明による典型的な最終医療デバイスまたは部分の所望の特徴は、低い引張セット値である。この引張セット値は、一般的に、架橋の程度に依存し、膨張または外部から加えられた力のいずれかによって伸長された後、収縮または加えられた力の解放でそのもとの寸法に戻るという、デバイスまたは部分の能力の尺度である。特定の材料のための引張セット値は、例えば、材料の小片上に2個の基準マークを配置し、小片に沿って2個のマークの間の距離を記し、予め選択された程度まで小片を伸張し(例えば、その予想された究極の伸張の90%まで伸張を増大させることによって)、予め選択された期間(例えば、1分間)、その伸張を保持し、次いで小片を解放してその弛緩した長さまで戻し、2個の基準マーク間の距離を再測定することによって、決定され得る。次に、伸張前と後の測定値を比較し、一方からもう一方を引き算し、その差を伸張前にされた測定値で割ることによって、引張セット値を決定する。本発明では、その予想された究極の伸張の90%の伸張および1分間の保持による好ましい引張セット値は、5%未満である。
【0030】
本発明は、広範囲の医療用デバイスおよび部分に適用し得る。これらとしては、外科用手袋、診察用手袋、指サック、カテーテルバルーン、子宮用熱的剥離バルーン、カテーテルカフス、コンドーム、避妊用ペッサリー、留置尿排出カテーテル、および男性用外部尿排出カテーテルなどが挙げられるが、これに限定されない。他の例は、医療分野の者には、容易に明らかである。特定の実施形態において、本発明は、長さまたは外周のような寸法が、少なくとも100%まで増加する(すなわち、少なくとも2倍になる)程度までの加圧による拡張を典型的に含む用途のデバイスに、特によく適する。この記載の大部分は、バルーンである。バルーンの例は、心拍出量温熱希釈カテーテル(cardiac output thermal dilution catheter)のような、右心モニタリングバルーンカテーテル(right heart monitoring baloon catheter)中のバルーン、血管内の血餅(blot
cots)の検索に使用する塞栓切除カテーテル中のバルーン、および尿排出カテーテル中のバルーンである。
【0031】
以下に示す実施例は、説明の目的のために与えられ、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0032】
(実施例1)
本実施例は、照射によって予備加硫処理されたラテックスを用いたディップ成形工程による合成ポリイソプレンフィルムの形成を示す。
【0033】
本調製に使用したポリイソプレンは、The Goodyear Tire & Rubber Company,Chemical Division,(Akron,Ohio,USA)の製品である、NATSYN 2200 cis−1,4−ポリイソプレンであった。ポリイソプレンのn−ヘキサン溶液を調製するために、ステンレスのシャフトおよび粉砕ミキシングヘッドを伴う実験用攪拌機を取り付けた35Lのステンレス鋼製混合容器を使用した。n−ヘキサン(20L)を容器に添加し、ミキサーを1700rpmで作動させた。ポリイソプレン(1983g)をそれぞれ約10gの小片に切断して、混合容器にゆっくりと添加した。混合を4時間続けると、ポリイソプレンのほとんどは、この時間内に溶解した。次いで、n−ヘキサンをさらに5L添加し、溶液の粘度を低下させ、混合をさらに4時間続けると、この時間内にポリイソプレンは完全に溶解した。
【0034】
溶液のエマルジョンは、高速剪断混合機(high−shear rotor)/ステータ混合機(stator mixer)/乳化機(Model 100LC,Charles Ross & Son Company,(Hauppage,New York,USA))中で、容器に純水(600g)およびDRESINATE 214 アニオン性界面活性剤(7g、改質ロジンのカリウム塩、Hercules Inc.,(Wilmington,Delaware,USA)から得られる)を入れることによって調製する。界面活性剤が全て溶解するまで、容器の内容物を混合した。次いで、ポリイソプレン/n−ヘキサン溶液(600g)を容器に添加し、10,000rpmで5分間混合を続けた。得られたエマルジョンを約1時間静置しておき、その後、少量の乳化されていない材料を除去した。この手順を、エマルジョンの量が数Lになるまで数回繰り返した。
【0035】
エマルジョンをラテックスに変換するために、エマルジョン1Lを制御温度浴中に置いて、ヘキサンが沸騰するまでゆっくりと加熱した。加熱速度は、沸騰したヘキサンによって発生する泡のオーバーフローを防ぐために、十分に制御し、2時間以内に、すべてのヘキサンは除去され(最終温度は87℃)、希釈ラテックスが残った。希釈ラテックスが数リットルの量になるまで、この手順を数回繰り返した。希釈ラテックスを、A/G Technology Corporation,Needham,Massachusetts,USA製の限外濾過カートリッジModel UFP−500−C−4Aを用いた限外濾過によって、約46%の固体にまで濃縮した。
【0036】
一旦濃縮すると、ラテックスを電子線照射を用いて予備硬化した。これは、3cmの深さで、密封プラスチック容器中に、ラテックスのサンプルを置くことによって達成された。照射は、Nicolet Electron Services,(San Diego,California,USA)で行なった。サンプルを、最初に2.5、5.0、7.5、および10メガラドの線量で照射し、次いで25、37.5、および50メガラドの全線量となるまで再照射した。
【0037】
エチルアルコール120g、硝酸カルシウム80g、およびラウリル硫酸ナトリウム0.2gを併用することで、凝集溶液を調製した。ガラス管を、この凝集液に浸漬して、次いでこのガラス管表面上で形成されたフィルムをヘアドライヤで乾燥した。次いで、予備硬化させたラテックスにこのガラス管を浸漬して、数秒後取り出した。これによって、ガラス管表面上に、湿潤したフィルムを生成し、次いでこれを70℃で15分間、強制空気で乾燥させた。このフィルムを室温まで冷却しておき、次いでガラス管から取り外した。次いでフィルムを70℃で2時間、純水中で浸出し、70℃で15分再乾燥した。
【0038】
フィルムの張力試験は、Akron Rubber Development
Laboratory,Inc.,(Akron,Ohio,USA)によって、Die C ダンベルを用いて、1分間に20インチの引っ張り速度で行なった。試験結果を表Iに記載する。
表I
【0039】
【表1】

表Iに示した試験結果から、全てのフィルムが、好ましい引張り特性を有していることが示された。
【0040】
引張セット値の決定は、25メガラドの線量を照射したラテックスおよび37.5メガラドの線量を受けたラテックスの、1:1の容積の混合物であるラテックス材料から調製したフィルム上で行なった。上記の方法で、この混合物から5枚のフィルムを成形した。各フィルムをもとの長さの9倍の長さまで伸長し、1分間保持し、次いで解放し長さを再測定した。いずれの場合も、すべて2%未満の引張セットを示した(すなわち、伸張に起因する、解放された状態における長さの伸びが2%未満である)。
【0041】
(実施例2)
本実施例は、ジクミルペルオキシドを混合したラテックスを用いたディップ成形による合成ポリイソプレンフィルムの形成を示す。
【0042】
ジクミルペルオキシドの分散体は、高速剪断下、次のように共に混合することで調製した:ジクミルペルオキシド100重量部、トルエン35重量部、オクタン酸5.6重量部、水101重量部、および30%KOH水溶液2.6重量部。得られた分散体(40g)を、実施例1で調製した合成ポリイソプレンラテックス1,000gに混合した。材料を一定時間静置しておき、ペルオキシドをラテックス粒子に浸透させた。
【0043】
実施例1に記載した方法で、ガラス管を凝集剤のフィルムで最初にコーティングし、次いでペルオキシド含有ラテックス中に浸漬し、空気で乾燥して硬化させた。硬化工程は、180℃塩浴(QUICK CURE 275、上記参照のこと)に2分間浸漬することによって達成した。次いで、この管を冷水でリンスし、この硬化フィルムをガラス管から取り外した。
【0044】
引張り係数の測定を行なった。100%予備硬化は93psiであり、300%予備硬化は140psiであり、500%予備硬化は316psiであった。引張セット値の決定は、フィルムをそのもとの長さの8倍まで伸長し、次いで1分間伸長を保持し、伸張しない状態まで解放して、解放後のフィルムの長さを測定することによって行なった。測定値より、引張セット値は、1%未満であることが明らかとなった。
【0045】
(実施例3)
本実施例は、ジクミルペルオキシドを混合したラテックスを用いたディップ成形工程による、合成ポリイソプレンフィルムの形成のさらなる実例である。
【0046】
プロペラブレードを備える中速剪断混合機を用いて、テトラヒドロフラン700gにNATSYN 2200 cis−1,4−ポリイソプレン21gを溶解することによって溶液を調製した。次いで、ジクミルペルオキシド(0.63g)をこの溶液に混合し、速やかに溶解させた。溶液の泡を分散させ、そしてマンドレル型を溶液中に浸漬し、次いでゆっくり引き出し、得られたフィルムを15分風乾させた。浸漬と乾燥を8回繰り返し、最終の空気乾燥は1.5時間であった。次に、このフィルムを、QUICK CURE 275の溶融塩浴中で、180℃3分間で硬化させ、リンスして、室温まで冷却した。一旦冷却すると、フィルムを粉末化し、そして浸漬用マンドレルから取り外した。0.8インチ×2インチの試験片をフィルムから切断した。
【0047】
引張試験の結果、100%伸張で129psi、300%伸張で319psi、500%伸張で831psiの予備硬化を示した。引張セット値は、試験片をもとの寸法の6倍まで伸張し、試験片を1分間伸張し続けた後、解放することによって決定された。結果は、2%未満の引張セット値であった。
【0048】
(実施例4)
本実施例は、ラテックスではなく、ポリイソプレンの有機溶液からのディップ成形工程による、合成ポリイソプレンカテーテルバルーンの形成を示す。ペルオキシド硬化系を使用した。
【0049】
プロペラブレードを備える中速剪断混合機を用いて、テトラヒドロフラン1000gに、NATSYN 2200 cis−1,4−ポリイソプレン40gを溶解することによって、溶液を調製した。この溶液に、1.2gのジクミルペルオキシドを添加し、速やかに溶解させた。溶液中の泡を分散させ、カテーテルバルーン型のマンドレルを溶液中に浸漬し、次いでゆっくりと引き出し、風乾させた。次いでマンドレルを再度浸漬させ、引き出して乾燥を全部で9回繰り返し、マンドレル表面上に形成したフィルム厚を増加させた。最終の浸漬後、マンドレルを強制空気乾燥器中で2時間乾燥し、残った溶媒を、本質的にすべてエバポレートした。次いで、マンドレルをQUICK CURE 275溶融塩中に180℃で4分間浸漬した。次いで、マンドレルを冷却し、さらに冷水でリンスした。
【0050】
このようにして形成されたバルーンを、マンドレルから除去し、切断して寸法を調節し、そしてカテーテル上にはめこんで、膨張と収縮を繰り返した(150サイクル)。引張セットに起因して、多数の膨張および収縮サイクルの後でさえ、バルーンのたるみがほとんど観測されなかった。
【0051】
(実施例5)
本実施例は、ペルオキシド硬化系を使用したポリイソプレンの有機溶液からのディップ成形による合成ポリイソプレンの外科用手袋の形成を示す。
【0052】
プロペラブレードを備える中速剪断混合機を用いて、テトラヒドロフラン4,000g中にNATSYN 2200 cis−1,4−ポリイソプレン160gを溶解することによって溶液を調製した。この溶液に、ジクミルペルオキシド3.2gを添加し、速やかに溶解した。溶液中の泡を分散させ、そして手袋の型を溶液中に浸漬し、次いでゆっくりと引き出し、風乾した。乾燥の間、手袋の型は、両軸に沿って回転させ、浸漬溶液が一様に配分されるようにした。浸漬および乾燥を連続して計6回行なった。6回目の浸漬の後、コーティングされた手袋の型は、強制空気乾燥器内で2時間乾燥させ、残りの溶媒を本質的にすべてエバポレートした。次いで、手袋の型およびそのコーティングをQUICK CURE 275 溶融塩浴中に180℃で10分浸漬した。次いで、手袋の型およびコーティングを冷却し、次いで冷水でリンスし、風乾した。次いで、今硬化した手袋に、スタッキングを防ぐために、ダスチング粉末を適用し、そして手袋を手袋の型から取り外す。
【0053】
このようにして形成された手袋は、良好な弾力性を示し、本質的に透明であった。この手袋を、40℃の強制空気乾燥器中に置いて、ジクミルペルオキシドの分解で生じた揮発性の生成物を除去した。
【0054】
前述は、主として説明の目的のために記載される。物質およびそれらの性質ならびに操作条件、手順の工程および本明細書中に記載される本発明の他のパラメーターが、本発明の精神および範囲を逸脱することなしに種々の方法でさらに改変および置換され得る当業者には容易に明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。

【公開番号】特開2011−67636(P2011−67636A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238059(P2010−238059)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【分割の表示】特願2001−570127(P2001−570127)の分割
【原出願日】平成12年3月27日(2000.3.27)
【出願人】(507154099)エイペックス メディカル テクノロジーズ, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】