説明

p−ターフェニル化合物混合物及び該化合物混合物を用いた電子写真用感光体

【課題】有機溶剤に対する溶解性を向上することで、感光体特性において問題となるクラッキング現象を改善し、高感度、高耐久性を有する電子写真用感光体を実現し得る電荷輸送剤として有用であるp−ターフェニル化合物混合物、および該化合物混合物を用いた電子写真用感光体を提供する。
【解決手段】下記一般式(1),等で表される2種類の対称型p−ターフェニル化合物と、該化合物の置換基群を併せ持つ非対称型p−ターフェニル化合物からなるp−ターフェニル化合物混合物、及び該化合物混合物を含有する電子写真用感光体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤に対する溶解性を向上することで溶解性不足により生じるクラッキング現象が改善され、電子写真用感光体に用いられる電荷輸送剤として有用であるp−ターフェニル化合物混合物、および該化合物混合物を用いた電子写真用感光体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式とは、一般に光導電性材料を用いた感光体の表面に暗所で、例えばコロナ放電によって帯電させ、これに露光を行い、露光部の電荷を選択的に逸散させて静電潜像を得、これに対しトナーを用いて現像したのち紙等に転写、定着して画像を得る画像形成方法の一種である。従来、電子写真用感光体には、セレン、酸化亜鉛、硫化カドミウム、シリコン等の無機系光導電性物質が広く用いられてきた。これらの無機物質は多くの長所を持っていると同時に、種々の欠点も有していた。例えばセレンは製造する条件が難しく、熱や機械的衝撃で結晶化しやすいという欠点があり、酸化亜鉛や硫化カドミウムは耐湿性や機械的強度に問題があり、また増感剤として添加した色素により帯電や露光の劣化が起こり、耐久性に欠ける等の欠点がある。シリコンも製造する条件が難しい事と刺激性の強いガスを使用するためコストが高く、湿度に敏感であるため取り扱いに注意を要する。さらにセレンや硫化カドミウムには毒性の問題もある。
【0003】
これら無機感光体の有する欠点を改善した種々の有機化合物を用いた有機感光体が、広く使用されている。有機感光体には電荷発生剤と電荷輸送剤を結着樹脂中に分散させた単層型感光体と、電荷発生層と電荷輸送層に機能分離した積層型感光体がある。機能分離型有機感光体は、各々の材料の選択肢が広いこと、組み合わせにより任意の性能を有する感光体を比較的容易に作製できる事から広く使用されている。
【0004】
電荷発生剤としては、例えばアゾ化合物、ビスアゾ化合物、トリスアゾ化合物、テトラキスアゾ化合物、チアピリリウム塩、スクアリリウム塩、アズレニウム塩、シアニン色素、ペリレン化合物、無金属あるいは金属フタロシアニン化合物、多環キノン化合物、チオインジゴ系化合物、またはキナクリドン系化合物等、多くの有機顔料や色素が提案され実用に供されている。
【0005】
電荷輸送剤としては、例えばオキサジアゾール化合物(例えば、特許文献1参照)、オキサゾール化合物(例えば、特許文献2参照)、ピラゾリン化合物(例えば、特許文献3参照)、ヒドラゾン化合物(例えば、特許文献4〜7参照)、ジアミン化合物(例えば、特許文献8参照)、スチルベン化合物(例えば、特許文献9〜11参照)、ブタジエン化合物(例えば、特許文献12参照)等がある。これらの電荷輸送剤を用いた有機感光体は優れた特性を有し、実用化されているものがあるが、電子写真方式の感光体に要求される諸特性を十分に満たすものはまだ得られていないのが現状である。また、感度等の諸特性はよいが、樹脂との相溶性や溶剤に対する溶解性が悪いために実用化されていないものもある。
【0006】
過去に出願された特許文献の中でp−ターフェニル化合物を電子写真用感光体の用途として用いているものがいくつかある(例えば、特許文献13〜14参照)。特許文献13ではp−ターフェニル化合物等の開示化合物が挙げられているが、これは積層型感光体の電荷発生層中に含有させることで耐久性および感度等の電子写真特性の改善を図った方法である。また、特許文献14で開示されているp−ターフェニル化合物の溶解性は優れているが、耐久性等の諸特性が十分ではない。
有機感光体に用いる電荷輸送剤には、感度をはじめとする感光体としての電気特性を満足する上に、光やオゾン、電気的負荷に耐える化学的安定性と繰り返し使用や長期使用によっても感度が低下しない安定性や耐久性が要求される。更に有機感光体を製造する際には、溶剤に対する高く安定した溶解性が必要である。しかし、優れた溶解性を有し、安定性や耐久性に優れ、満足のいくような化合物は見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭34−005466号公報
【特許文献2】特開昭56−123544号公報
【特許文献3】特公昭52−041880号公報
【特許文献4】特公昭55−042380号公報
【特許文献5】特公昭61−040104号公報
【特許文献6】特公昭62−035673号公報
【特許文献7】特公昭63−035976号公報
【特許文献8】特公昭58−032372号公報
【特許文献9】特公昭63−018738号公報
【特許文献10】特公昭63−019867号公報
【特許文献11】特公平3−039306号公報
【特許文献12】特開昭62−030255号公報
【特許文献13】特開昭61−129648号公報
【特許文献14】特公平6−073018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、有機溶剤に対する溶解性を向上することで、感光体特性において問題となるクラッキング現象を改善し、高感度、高耐久性を有する電子写真用感光体を実現し得る電荷輸送剤として有用なp−ターフェニル化合物混合物、および該化合物混合物を用いた電子写真用感光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は下記一般式(1)および一般式(2)で表される2種類の対称型p−ターフェニル化合物と、該化合物の双方の置換基群を併せ持つ下記一般式(3)で表される非対称型p−ターフェニル化合物からなるp−ターフェニル化合物混合物に関する。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
【化3】

【0013】
(式中、R、R、R、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、ハロゲン原子、二置換アミノ基、置換もしくは無置換のフェニル基を表し、RとR、RとR、RとR、RとRは共同で環を形成してもよい。但し、置換基群R、R、RおよびRと置換基群R、R、RおよびRは置換基または置換位置が少なくとも1つ異なっているものとする。)
【0014】
また、本発明は、上記一般式(1)および一般式(2)で表される2種類の対称型p−ターフェニル化合物と、該化合物の双方の置換基群を併せ持つ上記一般式(3)で表される非対称型p−ターフェニル化合物からなる電子写真用感光体用p−ターフェニル化合物混合物に関する。
【0015】
さらに、本発明は、導電性支持体上に、上記p−ターフェニル化合物混合物を含有する層を有する電子写真用感光体に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のp−ターフェニル化合物混合物によれば、有機溶剤に対する溶解性が向上し、クラッキング現象が改善され、ドリフト移動度に優れ、感光体特性を満足し高感度、高耐久性を有する電子写真用感光体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】機能分離型電子写真用感光体の層構成を示す模式断面図である。
【図2】機能分離型電子写真用感光体の層構成を示す模式断面図である。
【図3】電荷発生層と導電性支持体との間にアンダーコート層を設けた機能分離型電子写真用感光体の層構成を示す模式断面図である。
【図4】電荷輸送層と導電性支持体との間にアンダーコート層を設け、かつ電荷発生層上に保護層を設けた機能分離型電子写真用感光体の層構成を示す模式断面図である。
【図5】電荷発生層と導電性支持体との間にアンダーコート層を設け、かつ電荷輸送層に保護層を設けた機能分離型電子写真用感光体の層構成を示す模式断面図である。
【図6】単層型電子写真用感光体の層構成を示す模式断面図である。
【図7】感光層と導電性支持体との間にアンダーコート層を設けた単層型電子写真用感光体の層構成を示す模式断面図である。
【図8】合成実施例1のIRスペクトルである。
【図9】合成実施例2のIRスペクトルである。
【図10】合成実施例3のIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の前記一般式(1)および前記一般式(2)で表される2種類の対称型p−ターフェニル化合物と前記一般式(3)で表される非対称型p−ターフェニル化合物からなるp−ターフェニル化合物混合物は下記一般式(4)および一般式(5)で表される2種類のジフェニルアミン化合物と4,4”−ジヨード−p−ターフェニルからウルマン反応などの一段階の反応によって合成することができる。
【0019】
【化4】

【0020】
【化5】

【0021】
(式中、R、R、R、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、ハロゲン原子、二置換アミノ基、置換もしくは無置換のフェニル基を表し、RとR、RとR、RとR、RとRは共同で環を形成してもよい。但し、置換基群R、R、RおよびRと置換基群R、R、RおよびRは置換基または置換位置が少なくとも1つ異なっているものとする。)
【0022】
前記一般式(1)または一般式(2)で表される対称型p−ターフェニル化合物の具体的な例として、次のような化合物があげられる。尚、本発明においては、これらの化合物に限定されるものではない。
【0023】
化合物No.1
【0024】
【化6】

【0025】
化合物No.2
【0026】
【化7】

【0027】
化合物No.3
【0028】
【化8】

【0029】
化合物No.4
【0030】
【化9】

【0031】
化合物No.5
【0032】
【化10】

【0033】
化合物No.6
【0034】
【化11】

【0035】
化合物No.7
【0036】
【化12】

【0037】
化合物No.8
【0038】
【化13】

【0039】
化合物No.9
【0040】
【化14】

【0041】
化合物No.10
【0042】
【化15】

【0043】
化合物No.11
【0044】
【化16】

【0045】
化合物No.12
【0046】
【化17】

【0047】
化合物No.13
【0048】
【化18】

【0049】
化合物No.14
【0050】
【化19】

【0051】
化合物No.15
【0052】
【化20】

【0053】
化合物No.16
【0054】
【化21】

【0055】
前記一般式(3)で表される非対称型p−ターフェニル化合物の具体的な例として、次のような化合物があげられる。尚、本発明においては、これらの化合物に限定されるものではない。
【0056】
化合物No.17
【0057】
【化22】

【0058】
化合物No.18
【0059】
【化23】

【0060】
化合物No.19
【0061】
【化24】

【0062】
化合物No.20
【0063】
【化25】

【0064】
本発明のp−ターフェニル化合物混合物において、一般式(1)で表されるp−ターフェニル化合物の含有率は50〜80質量%であることが望ましい。さらに望ましくは、一般式(1)で表されるp−ターフェニル化合物の含有率が60〜70質量%のp−ターフェニル化合物混合物である。また、本発明のp−ターフェニル化合物混合物において、一般式(3)で表されるp−ターフェニル化合物の含有率は2〜48質量%であることが望ましい。
【0065】
本発明の電子写真用感光体は、前記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)で表されるp−ターフェニル化合物(但し、式中、置換基群R、R、RおよびRと置換基群R、R、RおよびRは置換基または置換位置が少なくとも1つ異なっているものとする。)からなるp−ターフェニル化合物混合物を含有する。さらに、上記一般式(1)で表されるp−ターフェニル化合物の含有率が50〜80質量%であることが望ましく、さらに含有率が60〜70質量%であることが望ましい。
【0066】
感光層の形態としては種々のものが存在し、本発明の電子写真用感光体の感光層としてはそのいずれであってもよい。代表例として図1〜図7にそれらの感光体を示した。
【0067】
図1および図2では、導電性支持体1上に電荷発生物質を主成分として含有する電荷発生層2と電荷輸送物質および結着樹脂を主成分として含有する電荷輸送層3との積層体よりなる感光層4を設ける。このとき、図3、図4および図5に示すように、感光層4は導電性支持体上に設けた電荷を調整するためのアンダーコート層5を介して設けてもよく、最外層として保護層8を設けてもよい。また本発明においては、図6および図7に示すように前記電荷発生物質7を電荷輸送物質と結着樹脂を主成分とする層6中に溶解または分散させて成る感光層4を導電性支持体1上に直接、あるいはアンダーコート層5を介して設けてもよい。
【0068】
以上に例示したような本発明の感光体は常法に従って製造される。例えば、前述した一般式(1)〜(3)で表されるp−ターフェニル化合物からなるp−ターフェニル化合物混合物を結着樹脂とともに溶剤中に溶解し、電荷発生物質、必要に応じて増感色素、電子輸送性化合物、電子吸引性化合物あるいは可塑剤、顔料、その他添加剤を添加して調製される塗布液を導電性支持体上に塗布、乾燥して数μmから数十μmの厚さの感光層を形成させることにより製造することができる。電荷発生層と電荷輸送層の二層よりなる感光層の場合は、電荷発生層の上に本発明のp−ターフェニル化合物混合物を含有する電荷輸送層を積層するか、あるいは、このような電荷輸送層の上に電荷発生層を形成させることにより製造できる。また、このようにして製造される感光体には必要に応じ、アンダーコート層、接着層、中間層、保護層を設けてもよい。
【0069】
塗布液調製用の溶剤としては、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、酢酸エチル等の極性有機溶剤、トルエン、キシレンのような芳香族有機溶剤やジクロロメタン、ジクロロエタンのような塩素系炭化水素溶剤等が挙げられる。前述した一般式(1)〜(3)で表されるp−ターフェニル化合物からなるp−ターフェニル化合物混合物と結着樹脂に対して溶解性の高い溶剤が好適に使用される。
【0070】
増感色素としては、例えばメチルバイオレット、ブリリアントグリーン、クリスタルバイオレット、アシッドバイオレットのようなトリアリールメタン染料、ローダミンB、エオシンS、ローズベンガルのようなキサンテン染料、メチレンブルーのようなチアジン染料、ベンゾピリリウム塩のようなピリリウム染料やチアピリリウム染料、またはシアニン染料等が挙げられる。
【0071】
また、前述した一般式(1)〜(3)で表されるp−ターフェニル化合物からなるp−ターフェニル化合物混合物と電荷移動錯体を形成する電子吸引性化合物としては例えば、クロラニル、2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン、1−ニトロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、フェナントレンキノン等のキノン類、4−ニトロベンズアルデヒド等のアルデヒド類、9−ベンゾイルアントラセン、インダンジオン、3,5−ジニトロベンゾフェノン、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロフルオレノン等のケトン類、無水フタル酸、4−クロロナフタル酸無水物等の酸無水物、テトラシアノエチレン、テレフタラルマレノニトリル、9−アントリルメチリデンマレノニトリル等のシアノ化合物、3−ベンザルフタリド、3−(α−シアノ−p−ニトロベンザル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド等のフタリド類が挙げられる。
【0072】
結着樹脂としては、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ブタジエン等のビニル化合物の重合体および共重合体、ポリビニルアセタール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリフェニレンオキサイド、ポリウレタン、セルロースエステル、フェノキシ樹脂、ケイ素樹脂、エポキシ樹脂等、前述した一般式(1)〜(3)で表されるp−ターフェニル化合物からなるp−ターフェニル化合物混合物と相溶性のある各種樹脂が挙げられる。結着樹脂の使用量は、通常、前述した一般式(1)〜(3)で表されるp−ターフェニル化合物からなるp−ターフェニル化合物混合物に対して0.4〜10質量倍好ましくは0.5〜5質量倍の範囲である。
【0073】
また、本発明の感光層には成膜性、可とう性、機械的強度を向上させる目的で周知の可塑剤を含有してもよい。可塑剤としては、例えばフタル酸エステル、リン酸エステル、塩素化パラフィン、メチルナフタリン、エポキシ化合物、塩素化脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0074】
更に、本発明の感光層が形成される導電性支持体として、周知の電子写真用感光体に使用されている材料が使用できる。アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス、銅、亜鉛、バナジウム、モリブデン、クロム、チタン、ニッケル、インジウム、金や白金などの金属ドラム、シートあるいはこれらの金属のラミネート物、蒸着物、または金属粉末、カーボンブラック、ヨウ化銅、高分子電解質などの導電性物質を適当なバインダーとともに塗布して導電処理したプラスチックフィルム、プラスチックドラム、紙、紙管、あるいは導電性物質を含有させることにより導電性を付与したプラスチックフィルムやプラスチックドラムなどを使用することができる。
【0075】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。実施例中の部は質量部を表わす。
【実施例1】
【0076】
[合成実施例1](化合物No.1、No.18およびNo.9からなるp−ターフェニル化合物混合物の合成)
4−メチルジフェニルアミン16.86g(92mmol)、ジフェニルアミン3.89g(23mmol)、4,4”−ジヨード−p−ターフェニル24.1g(50mmol)、無水炭酸カリウム17.25g(125mmol)、銅粉0.32g(5mmol)、亜硫酸水素ナトリウム0.52g(5mmol)、スルホラン10mlを混合し、窒素ガスを導入しながら220〜225℃まで加熱し6時間撹拌した。反応終了後、キシレン90mlおよびトルエン150mlで反応生成物を抽出し、不溶分をろ別除去した後、ろ液を濃縮乾固した。得られた固形物をカラムクロマトグラフィー(担体;シリカゲル、溶離液;トルエン:ヘキサン=1:4)によって精製し、4,4’−ビス(4−メチルジフェニルアミノ)−p−ターフェニル(化合物No.1)、4−(4−メチルジフェニルアミノ)−4’−ジフェニルアミノ−p−ターフェニル(化合物No.18)および4,4’−ビス(ジフェニルアミノ)−p−ターフェニル(化合物No.9)からなるp−ターフェニル化合物混合物を化合物No.1:化合物No.18:化合物No.9=65.8:30.5:3.4(高速液体クロマトグラフィーによるピーク面積比)の混合比で25.78g(収率;87.8%、融点;157.2〜159.2℃)得た。
【0077】
化合物の同定は、個々の化合物について単一合成を実施し、高速液体クロマトグラフィーによるリテンションタイムの比較によって行った。化合物の同定および混合比を測定するための高速液体クロマトグラフィーの側定条件は以下の通りである。カラム:ODS系カラム、溶離液:テトラヒドロフラン/メタノール=1/10(v/v)、測定波長:254nm。
単一合成したものの同定は元素分析によって行い、それぞれ目的物であることを確認した。元素分析値は以下の通りである。化合物No.1;炭素:89.13%(89.15%)、水素:6.15%(6.12%)、窒素:4.72%(4.73%)、化合物No.18;炭素:89.15%(89.24%)、水素:5.98%(5.92%)、窒素:4.87%(4.84%)、化合物No.9;炭素:89.24%(89.33%)、水素:5.76%(5.71%)、窒素:5.00%(4.96%)(計算値をかっこ内に示す。)。図8に合成実施例1で作製した化合物No.1、No.18およびNo.9からなるp−ターフェニル化合物混合物のIRスペクトルを示す。
【実施例2】
【0078】
[合成実施例2](化合物No.1、No.17およびNo.4からなるp−ターフェニル化合物混合物の合成)
4−メチルジフェニルアミン16.86g(92mmol)、2,4−ジメチルジフェニルアミン4.53g(23mmol)、4,4”−ジヨード−p−ターフェニル24.1g(50mmol)、無水炭酸カリウム17.25g(125mmol)、銅粉0.32g(5mmol)、亜硫酸水素ナトリウム0.52g(5mmol)、スルホラン10mlを混合し、窒素ガスを導入しながら220〜225℃まで加熱し6時間撹拌した。反応終了後、キシレン90mlおよびトルエン150mlで反応生成物を抽出し、不溶分をろ別除去した後、ろ液を濃縮乾固した。得られた固形物をカラムクロマトグラフィー(担体;シリカゲル、溶離液;トルエン:ヘキサン=1:4)によって精製し、4,4’−ビス(4−メチルジフェニルアミノ)−p−ターフェニル(化合物No.1)、4−(4−メチルジフェニルアミノ)−4’−(2,4−ジメチルジフェニルアミノ)−p−ターフェニル(化合物No.17)および4,4’−ビス(2,4−ジメチルジフェニルアミノ)−p−ターフェニル(化合物No.4)からなるp−ターフェニル化合物混合物を化合物No.1:化合物No.17:化合物No.4=69.0:27.2:2.9(高速液体クロマトグラフィーによるピーク面積比)の混合比で26.65g(収率;89.1%、融点;174.1〜177.0℃)得た。
【0079】
化合物の同定は、個々の化合物について単一合成を実施し、高速液体クロマトグラフィーによるリテンションタイムの比較によって行った。合成実施例1記載の高速液体クロマトグラフィー測定条件によって、化合物の同定および混合比を測定した。
単一合成したものの同定は元素分析によって行い、それぞれ目的物であることを確認した。元素分析値は以下の通りである。化合物No.1;炭素:89.13%(89.15%)、水素:6.15%(6.12%)、窒素:4.72%(4.73%)、化合物No.17;炭素:89.13%(89.07%)、水素:6.41%(6.31%)、窒素:4.46%(4.62%)、化合物No.4;炭素:89.04%(88.99%)、水素:6.41%(6.49%)、窒素:4.55%(4.51%)(計算値をかっこ内に示す。)。図9に合成実施例2で作製した化合物No.1、No.17およびNo.4からなるp−ターフェニル化合物混合物のIRスペクトルを示す。
【実施例3】
【0080】
[合成実施例3](化合物No.1、No.19およびNo.6からなるp−ターフェニル化合物混合物の合成)
4−メチルジフェニルアミン16.86g(92mmol)、4,4’−ジメチルジフェニルアミン4.53g(23mmol)、4,4”−ジヨード−p−ターフェニル24.1g(50mmol)、無水炭酸カリウム17.25g(125mmol)、銅粉0.32g(5mmol)、亜硫酸水素ナトリウム0.52g(5mmol)、スルホラン10mlを混合し、窒素ガスを導入しながら220〜225℃まで加熱し6時間撹拌した。反応終了後、キシレン90mlおよびトルエン150mlで反応生成物を抽出し、不溶分をろ別除去した後、ろ液を濃縮乾固した。得られた固形物をカラムクロマトグラフィー(担体;シリカゲル、溶離液;トルエン:ヘキサン=1:4)によって精製し、4,4’−ビス(4−メチルジフェニルアミノ)−p−ターフェニル(化合物No.1)、4−(4−メチルジフェニルアミノ)−4’−(4,4’−ジメチルジフェニルアミノ)−p−ターフェニル(化合物No.19)および4,4’−ビス(4,4’−ジメチルジフェニルアミノ)−p−ターフェニル(化合物No.6)からなるp−ターフェニル化合物混合物を化合物No.1:化合物No.19:化合物No.6=64.5:31.4:3.6(高速液体クロマトグラフィーによるピーク面積比)の混合比で24.68g(収率;82.5%、融点;172.6〜173.8℃)得た。
【0081】
化合物の同定は、個々の化合物について単一合成を実施し、高速液体クロマトグラフィーによるリテンションタイムの比較によって行った。合成実施例1記載の高速液体クロマトグラフィー測定条件によって、化合物の同定および混合比を測定した。
単一合成したものの同定は元素分析によって行い、それぞれ目的物であることを確認した。元素分析値は以下の通りである。化合物No.1;炭素:89.13%(89.15%)、水素:6.15%(6.12%)、窒素:4.72%(4.73%)、化合物No.19;炭素:89.15%(89.07%)、水素:6.42%(6.31%)、窒素:4.43%(4.62%)、化合物No.6;炭素:89.02%(88.99%)、水素:6.51%(6.49%)、窒素:4.47%(4.51%)(計算値をかっこ内に示す。)。図10に合成実施例3で作製した化合物No.1、No.19およびNo.6からなるp−ターフェニル化合物混合物のIRスペクトルを示す。
【実施例4】
【0082】
[有機溶剤に対する溶解度]
合成実施例1〜3のp−ターフェニル化合物混合物および単一合成したp−ターフェニル化合物(化合物No.1、No.4、No.6およびNo.9)の25℃におけるテトラヒドロフランに対する溶解度を測定した。結果を表1に示した。溶解度の単位は%(重量/体積)で表した。
【0083】
【表1】

【0084】
本発明のp−ターフェニル化合物混合物と単一合成したp−ターフェニル化合物の溶解度を比較すると、p−ターフェニル化合物混合物では単一合成したp−ターフェニル化合物の2〜38倍の溶解度を示し溶解性に優れていることが確認できた。
【実施例5】
【0085】
[感光体実施例1]
アルコール可溶性ポリアミド(アミランCM−4000、東レ株式会社製)1部をメタノール13部に溶解した。これに酸化チタン(タイペークCR−EL、石原産業株式会社製)5部を加え、ペイントシェーカーで8時間分散し、アンダーコート層用塗布液を作成した後、アルミ蒸着PETフィルムのアルミ面上にワイヤーバーを用いて塗布し、60℃で1時間乾燥し、厚さ1μmのアンダーコート層を形成した。
【0086】
電荷発生剤としてCu−KαのX線回折スペクトルにおける回折角2θ±0.2°が9.6、24.1、27.2に強いピークを有するチタニルフタロシアニン(電荷発生剤No.1)
【0087】
【化26】

【0088】
1.5部をポリビニルブチラール樹脂(エスレックBL−S、積水化学工業株式会社製)の3%シクロヘキサノン溶液50部に加え、超音波分散機で1時間分散した。得られた分散液を上記アンダーコート層上にワイヤーバーを用いて塗布後、常圧下110℃で1時間乾燥して膜厚0.6μmの電荷発生層を形成した。
【0089】
一方、電荷輸送剤として合成実施例1で合成したp−ターフェニル化合物混合物1.5部をポリカーボネート樹脂(ユーピロンZ、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製)の12.2%テトヒドロフラン溶液15.33部に加え、超音波をかけてp−ターフェニル化合物混合物を完全に溶解させた。この溶液を前記の電荷発生層上にワイヤーバーで塗布し、常圧下110℃で30分間乾燥して膜厚20μmの電荷輸送層を形成し感光体No.1を作製した。
【実施例6】
【0090】
[感光体実施例2〜3]
感光体実施例1で用いた電荷輸送剤を合成実施例2〜3で合成したp−ターフェニル化合物混合物に変えて、それ以外は感光体実施例1と同様にして感光体No.2〜3を作製した。
【0091】
[感光体比較例1]
感光体実施例1で用いた電荷輸送剤を化合物No.1の単一合成したp−ターフェニル化合物に変えて、それ以外は感光体実施例1と同様にして感光体No.4を作製した。
【0092】
[感光体比較例2]
感光体実施例1で用いた電荷輸送剤を化合物No.4の単一合成したp−ターフェニル化合物に変えて、それ以外は感光体実施例1と同様にして感光体No.5を作製した。
【0093】
[感光体比較例3]
感光体実施例1で用いた電荷輸送剤を化合物No.6の単一合成したp−ターフェニル化合物に変えて、それ以外は感光体実施例1と同様にして感光体No.6を作製した。しかし、化合物No.6の単一合成したp−ターフェニル化合物は溶解しなかったため感光体としての評価はできなかった。
【0094】
[感光体比較例4]
感光体実施例1で用いた電荷輸送剤を化合物No.9の単一合成したp−ターフェニル化合物に変えて、それ以外は感光体実施例1と同様にして感光体No.7を作製した。しかし、化合物No.9の単一合成したp−ターフェニル化合物は溶解しなかったため感光体としての評価はできなかった。
【実施例7】
【0095】
感光体実施例1〜3、感光体比較例1〜4の感光体について静電複写紙試験装置(商品名「EPA−8300A」)を用いて電子写真特性評価を行った。まず感光体を暗所で−6.5kVのコロナ放電を行い、このときの帯電電位V0を測定した。次いで1.0μW/cmの780nm単色光で露光し、半減露光量E1/2(μJ/cm)、5秒間露光後の残留電位Vr(−V)を求めた。また、感光層のクラッキング促進試験として、前記のように作製した感光体の表面に指油を付着させ、常温常圧下で24時間放置し、感光層にクラッキングが生じるか否かを観察した。結果を表2に示した。
【0096】
【表2】

【実施例8】
【0097】
[感光体実施例4]
電荷発生剤としてCu−KαのX線回折スペクトルにおける回折角2θ±0.2°が7.5、10.3、12.6、22.5、24.3,25.4、28.6に強いピークを有するチタニルフタロシアニン(電荷発生剤No.2)、1.5部をポリビニルブチラール樹脂(エスレックBL−S、積水化学工業株式会社製)の3%シクロヘキサノン溶液50部に加え、超音波分散機で1時間分散した。得られた分散液を導電性支持体であるアルミ蒸着PETフィルムのアルミ面上にワイヤーバーを用いて塗布後、常圧下110℃で1時間乾燥して膜厚0.2μmの電荷発生層を形成した。
【0098】
一方、電荷輸送剤として合成実施例1で合成したp−ターフェニル化合物混合物1.0部をポリカーボネート樹脂(ユーピロンZ、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製)の12.2%テトラヒドロフラン溶液10.22部に加え、超音波をかけてp−ターフェニル化合物混合物を完全に溶解させた。この溶液を前記の電荷発生層上にワイヤーバーで塗布し、常圧下110℃で30分間乾燥して膜厚10μmの電荷輸送層を形成し、さらに電荷輸送層上に半透明金電極を蒸着して感光体No.8を作製した。
【実施例9】
【0099】
[感光体実施例5〜6]
感光体実施例4で用いた電荷輸送剤を合成実施例2〜3で合成したp−ターフェニル化合物混合物に変えて、それ以外は感光体実施例4と同様にして感光体No.9〜10を作製した。
【0100】
[感光体比較例5〜6]
感光体実施例4で用いた電荷輸送剤を化合物No.1またはNo.4の単一合成したp−ターフェニル化合物に変えて、それ以外は感光体実施例4と同様にして感光体No.11〜12を作製した。
【0101】
[感光体比較例7〜8]
感光体実施例4で用いた電荷輸送剤を化合物No.6またはNo.9の単一合成したp−ターフェニル化合物に変えて、それ以外は感光体実施例4と同様にして感光体No.13〜14を作製した。しかし、化合物No.6またはNo.9の単一合成したp−ターフェニル化合物は溶解しなかったため感光体としての評価はできなかった。
【実施例10】
【0102】
[ドリフト移動度の測定]
感光体実施例4〜6および感光体比較例5〜8で作製した感光体についてドリフト移動度を測定した。測定はTime−of−flight法で行い、2×105(V/cm)で測定した。結果を表3に示した。
【0103】
【表3】

【0104】
以上のように本発明によるp−ターフェニル化合物混合物は有機溶剤に対する溶解性が改善され、該化合物混合物を用いることにより、クラッキング現象を防止することができる。また、ドリフト移動度に優れ、感光体特性を満足し高感度、高耐久性を有する電子写真用感光体を提供することができる。
【0105】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2006年1月25日出願の日本特許出願(特願2006−016623)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によるp−ターフェニル化合物混合物は、有機溶剤に対する溶解性が改善され、クラッキング現象を防止し、感光体特性を満足し高感度、高耐久性を有する電子写真用感光体を実現し得る電荷輸送剤として有用である。
【符号の説明】
【0107】
1 導電性支持体
2 電荷発生層
3 電荷輸送層
4 感光層
5 アンダーコート層
6 電荷輸送物質含有層
7 電荷発生物質
8 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)および一般式(2)で表される2種類の対称型p−ターフェニル化合物と、該化合物の双方の置換基群を併せ持つ下記一般式(3)で表される非対称型p−ターフェニル化合物からなるp−ターフェニル化合物混合物。
【化1】


【化2】


【化3】


(式中、R、R、R、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、ハロゲン原子、二置換アミノ基、置換もしくは無置換のフェニル基を表し、RとR、RとR、RとR、RとRは共同で環を形成してもよい。但し、置換基群R、R、RおよびRと置換基群R、R、RおよびRは置換基または置換位置が少なくとも1つ異なっているものとする。)
【請求項2】
一般式(1)で表されるp−ターフェニル化合物の含有率が50〜80質量%である請求項1記載のp−ターフェニル化合物混合物。
【請求項3】
下記一般式(1)および一般式(2)で表される2種類の対称型p−ターフェニル化合物と、該化合物の双方の置換基群を併せ持つ下記一般式(3)で表される非対称型p−ターフェニル化合物からなる電子写真用感光体用p−ターフェニル化合物混合物。
【化4】


【化5】


【化6】


(式中、R、R、R、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、ハロゲン原子、二置換アミノ基、置換もしくは無置換のフェニル基を表し、RとR、RとR、RとR、RとRは共同で環を形成してもよい。但し、置換基群R、R、RおよびRと置換基群R、R、RおよびRは置換基または置換位置が少なくとも1つ異なっているものとする。)
【請求項4】
一般式(1)で表されるp−ターフェニル化合物の含有率が50〜80質量%である請求項3記載の電子写真用感光体用p−ターフェニル化合物混合物。
【請求項5】
請求項1記載のp−ターフェニル化合物混合物を含有する層を有する電子写真用感光体。
【請求項6】
p−ターフェニル化合物混合物における一般式(1)で表されるp−ターフェニル化合物の含有率が50〜80質量%である請求項5記載の電子写真用感光体。
【請求項7】
下記一般式(4)および一般式(5)で表される2種類のジフェニルアミン化合物と4,4”−ジヨード−p−ターフェニルから一段階の反応によって請求項1記載のp−ターフェニル化合物混合物を得る製造方法。
【化7】


【化8】


(式中、R、R、R、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、ハロゲン原子、二置換アミノ基、置換もしくは無置換のフェニル基を表し、RとR、RとR、RとR、RとRは共同で環を形成してもよい。但し、置換基群R、R、RおよびRと置換基群R、R、RおよびRは置換基または置換位置が少なくとも1つ異なっているものとする。)
【請求項8】
請求項1記載のp−ターフェニル化合物混合物を使用して電子写真用感光体のクラッキングを防止する方法。
【請求項9】
p−ターフェニル化合物混合物における一般式(1)で表されるp−ターフェニル化合物の含有率が50〜80質量%である請求項8記載の電子写真用感光体のクラッキングを防止する方法。
【請求項10】
請求項1記載のp−ターフェニル化合物混合物を使用し、有機溶剤に対する溶解性を向上させることによって電子写真用感光体のクラッキングを防止する方法。
【請求項11】
p−ターフェニル化合物混合物における一般式(1)で表されるp−ターフェニル化合物の含有率が50〜80質量%である、請求項10記載の、有機溶剤に対する溶解性を向上させることによって電子写真用感光体のクラッキングを防止する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−67624(P2013−67624A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−241888(P2012−241888)
【出願日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【分割の表示】特願2007−555983(P2007−555983)の分割
【原出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(000005315)保土谷化学工業株式会社 (107)
【Fターム(参考)】